変数分離形の微分方程式の解法

常微分方程式のうち、変数分離形と呼ばれるタイプの解法について説明します。

変数分離形の常微分方程式は、一般的な微分方程式論の中では最も初歩的な形の微分方程式として扱われるものです。

ただし、このサイトではより高校数学の延長線上にあって入りやすく、かつ物理学での基礎理論で使われるため学ぶ意味も分かりやすいという意味で、最も簡単な部類の微分方程式を別途に挙げてまとめています。一般的な変数分離形の微分方程式よりも、それらのほうがはるかに解くのは簡単でしょう。(形式的にはそれらの中に変数分離形として扱えるものもありますが、専用の公式を使うメリットがありません。)

「変数分離形」の常微分方程式とは?

定義 ■ 具体例 ■ 名前の由来 

定義

まず、どういうものが変数分離形と呼ばれるのかについてです。

一応これは微分方程式論の中で決められています。

y=y(x) すなわちyがxの関数の時に、次の形を持つ常微分方程式を変数分離形と呼びます。

変数分離形の常微分方程式 $$\frac{dy}{dx}=F(x)G(y)$$ の形をしている常微分方程式を「変数分離形」であると呼びます。
ここで、FやGはy=y(x)とは別の関数です。

このように定義はあるわけですが、これだけではちょっと分かりにくいと思います。そこで、具体的にどういうものが該当するのか挙げてみましょう。

変数分離形の常微分方程式①

具体例

F(x)G(y)という積の形ですが、具体的な形としては「割り算」になっていてもよい事に注意しましょう。これは、G(y)=1/{g(y)}のような関数を考えてもよいためです。

具体例:変数分離形の常微分方程式

$$\frac{dy}{dx}=x^2y$$ $$\frac{dy}{dx}=\frac{x}{y}$$ $$\frac{dy}{dx}=\frac{y^2-1}{x}$$ $$\frac{dy}{dx}=\frac{y^3}{x^2+1}$$ $$\frac{dy}{dx}=\frac{x}{\sin y}$$

右辺が実質的にxだけ、yだけで表される場合も該当します。 $$\frac{dy}{dx}=x+1$$ しかしこのような簡単な微分方程式の場合は変数分離形とみなさずに直接解を出してしまったほうが早い場合も多いと思います。

これらのように、確かに右辺がF(x)G(y)の形になるものが該当します。

また、これらの他に、一見するとその形になっていなくても、変数変換をする事で変数分離形にする事ができるパターンのものが存在します。(「変数分離形に『帰着』できる」とよく言います。)

変数変換で変数分離形に帰着できるパターン

例えば次のようなものです。 $$\frac{dy}{dx}=x+y-1\hspace{4pt}\cdots\hspace{4pt}u=x+y-1とおくと\frac{du}{dx}=1+u$$ $$\frac{dy}{dx}=\frac{x^2-y^2}{2xy}\hspace{4pt}\cdots\hspace{4pt}u=\frac{y}{x}とおくと\frac{du}{dx}=x\left(\frac{1-3u^2}{2u}\right)$$ このように変数変換でうまくいくパターンには特徴がある場合も多くて、例えば次の2つの形のタイプは変数変換で変数分離形に変形できます。 $$\frac{dy}{dx}=F\left(\frac{y}{x}\right)の形のもの$$ $$\frac{dy}{dx}=F(ax+by+c)の形のもの$$

名前の由来

解法に関わる事ですが、dy/dxを「形式的」に割り算と見なした時に
G(y)dy=F(x)dxの形に変形ができる事が変数分離形の常微分方程式の特徴です。

数学の微積分学・解析学ではdy/dxは極限値を表す1つの記号と約束するのですが、dyとdxを「分離する」考え方は数学の微分方程式論でも扱われる場合があります。

形式的な変数分離形の常微分方程式の捉え方

変数分離形の常微分方程式は、次のように形式的に書かれる場合もあります。 $$G(y)dy=F(x)dx$$

一般的解法の手順

①xとyの関数を両辺に分離する ■ ②両辺を積分変数xで積分する ■ 変数変換を含む場合の解法 

①xとyの関数を両辺に分離する

まず、両辺をG(y)(≠0)で割ります。(実質的には乗じる事になる場合もあります。)

$$G(y)\neq 0のもとで\frac{dy}{dx}=F(x)G(y)\Leftrightarrow \frac{1}{G(y)}\frac{dy}{dx}=F(x)$$

このとき、同時に両辺に「dyをかける」と説明がなされる事もあります。それでも微分方程式を解く事はできますが、ここではそれはやらないで話を進めましょう。

②両辺を積分変数xで積分する

次に、両辺を積分変数xで積分します。微分方程式の一般解法では、普通は不定積分を考えます。この時、積分定数も書いてもいいのですが、ここでは積分定数は不定積分に含まれていると考えて、全ての積分記号がなくなった時に積分定数を書く方法を採用します。

$$\int \frac{1}{G(y)}\frac{dy}{dx}dx=\int F(x)dx$$

この左辺は置換積分の形になっていますから、積分変数をyに変える事ができます。もし定積分である場合は、もちろん積分区間についてもきちんと対応させて変えなければなりません。

$$\int \frac{1}{G(y)}\frac{dy}{dx}dx=\int\frac{1}{G(y)}dyにより、$$

$$\int\frac{1}{G(y)}dy=\int F(x)dx$$

この形にする事で、具体的に積分を計算して解とするのです。

★この時の置換積分の操作を省略して「両辺を積分すると」などと言う事もあります。ただし、微積分学的には置換積分によって結果的にそういう事ができる、という事です。

ただし、ここで具体的な積分計算がしやすいとは限らず、ものによっては手計算では手に負えない場合もあります。一般論としての解法は、あくまで上記の形には確実に変形できるという事を言っています。

そこから先は、同じ変数分離形であっても、個々の微分方程式の形によって簡単に解けるか手計算ではてこずる内容であるかは大きく変わってくるのです。

変数変換を含む場合の解法

次の形のものは、変数変換によって変数分離形に変形できることを簡単に前述しました。

$$\frac{dy}{dx}=F\left(\frac{y}{x}\right),\hspace{5pt}\frac{dy}{dx}=F(ax+by+c)の形のもの$$

まず前者については次のようにします。u=y/xと変数変換します。

$$u=\frac{y}{x}\Leftrightarrow y=ux\Rightarrow\frac{d}{dx}y=\frac{d}{dx}(ux)$$

$$\Rightarrow\frac{dy}{dx}=\frac{du}{dx}x+u$$

y=uxの両辺を「xで」微分しています。右辺については、積の微分公式を使っています。(yはxの関数なのでuもxの関数と考える事ができる事に注意。)

さてここで、dy/dxについてはもとの微分方程式をそのまま代入できます。

$$\frac{dy}{dx}=F\left(\frac{y}{x}\right)=F(u)であったから、F(u)=\frac{du}{dx}x+u$$

$$∴\frac{du}{dx}=\frac{F(u)-u}{x}$$

このようになるので、F(u)-uという新たなuに関する関数と、1/xという関数で構成される変数分離形になるわけです。これによってuをxで表し、uをxとyの形に直せばxとyの関係式が得られます。

★微分方程式一般について言える事ですが、積分の計算ができたとしても必ずしもy=f(x)の形にならずにf(x,y)=0の形になる場合もあります。これを微分方程式の解の「陰関数表現」と言います。

変数変換できるパターンの2つ目のタイプも見てみましょう。

これはもっと簡単で、u=ax+by+cとおいて、両辺をxで微分します。

$$\frac{du}{dx}=a+b\frac{dy}{dx}$$

これに、もとの微分方程式dy/dx=F(ax+by+c)=F(u)を代入するのです。

$$\frac{du}{dx}=a+bF(u)$$

この場合、a+bF(u)という関数を新たなuの関数と考えますこの時xのほうの関数は定数関数1です(もちろん最終的にはuをxで表せます)。

a+bF(u)≠0のもとでこの関数で両辺を割り、積分操作をします。
ここでは置換積分の箇所は省略して記しましょう。

$$\int \frac{1}{a+bF(u)}du=\int dx=x+C$$

この場合については定数関数1をxで積分してxという関数が必ず出てきます。

具体例

普通の変数分離形の場合 ■ 面倒くさい例 ■ 変数変換を使う例 

普通の変数分離形の場合

では、具体例として次の微分方程式を解いてみましょう。まず簡単な例です。

$$\frac{dy}{dx}=\frac{3x^2}{y}$$

両辺にyをかけて、変数を両辺に「分離」します。

$$y\frac{dy}{dx}=3x^2$$

積分操作をします。(置換積分部分を省略します。)

$$\int ydy=\int 3x^2dx$$

$$\frac{1}{2}y^2=x^3+C$$

y=y(x)の形に直すなら次の形になります。

$$y=\pm\sqrt{2x^3+C}$$

少々汚い形ですが、これが正しいかどうかはxで微分をしてみる事でチェックできます。

$$\frac{dy}{dx}=\pm\frac{1}{2}\frac{3\cdot 2x^2}{\sqrt{2x^3+C}}=\frac{3x^2}{\pm\sqrt{2x^3+C}}=\frac{3x^2}{y}$$

面倒くさい例

さて次の例は、考え方は同じですが積分計算が面倒な例です。
ただし手計算で計算できます。

$$\frac{dy}{dx}=\frac{y^2-1}{2x}$$

両辺をyの関数(右辺の分子の関数)で割ります。

$$\frac{2}{y^2-1}\frac{dy}{dx}=\frac{1}{x}$$

この時の定数係数の「2」は右辺に持っていっても左辺に持っていってもどちらでも解けます。ただ、これについては左辺に置いた方がじつは計算が楽です。

積分操作を試みます。

$$\int \frac{2}{y^2-1}dy=\int\frac{1}{x}dx$$

さて、右辺は対数関数で表せますが左辺はどうでしょう。
これは結局、普通の積分の練習問題になります。

結論を言うと、この場合は「部分分数分解」で手計算により処理可能です。

$$\int \frac{2}{y^2-1}dy=\int \frac{1}{y-1}dy-\int \frac{1}{y+1}dy$$

$$=\ln |y-1|-\ln |y+1|+C_0=\ln \left|\frac{y-1}{y+1}\right|+C_0$$

変数分離形の常微分方程式②
具体的な積分の項の計算の段階になると、微分方程式というよりは初等関数の積分の計算の練習問題になります。

よって、微分方程式は次のように解けます。積分定数はCひとつにまとめます。

$$\ln \left|\frac{y-1}{y+1}\right|=\ln |x|+C$$

この場合はさらに式を簡単にできてy=y(x)の形にもできます。(定数部分を指数関数の形で表せば右辺を1つの対数関数としてまとめられます。最後の定数は新たに設定します。)

$$\frac{y-1}{y+1}=x+C_1\hspace{5pt}∴y=\frac{1+C_1x}{1-C_1x}$$

変数変換を使う例

参考までに、変数変換を使う具体例の解法も1つ記しておきます。

$$\frac{dy}{dx}=\frac{x^2-y^2}{2xy}\hspace{4pt}\cdots\hspace{4pt}u=\frac{y}{x}とおくと\frac{du}{dx}=x\left(\frac{1-3u^2}{2u}\right)$$

この変換の過程について補足しておくと次のようになります。

$$\frac{x^2-y^2}{2xy}=\frac{1}{2}\left(\frac{x}{y}-\frac{y}{x}\right)=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{u}-u\right)$$

$$F(u)=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{u}-u\right)$$

$$F(u)-u=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{u}-3u\right)=\frac{1-3u^2}{2u}$$

xとuに関する微分方程式になった時点で、xとuを分離します。ここでは積分までまとめて記しましょう。分母が零にならない条件で次のようになります。

$$\int\frac{2u}{1-3u^2}du=\int \frac{1}{x}$$

この積分の右辺は対数関数で表せますが、じつは左辺も対数関数で表せるのです。

$$-\frac{1}{3}\ln |3u^2-1|=\ln |x| +C$$

のようになり、これも対数を取り払ってuとx、yとxの関係式で表す事もできます。

この変数分離形の微分方程式は、物理学や工学の理論で使う場合もありますが、一般の解法についてはむしろ数学の微分方程式論の中の1つの位置付けとして見ておいたほうがよいのではないかと思います。

円・扇形に関連する面積の計算

円と扇形の面積に関連する計算の数学・算数の問題について説明します。

円と扇形

まず、円の面積は半径の2乗と円周率(≒3.14)の積です。

円の面積

円の面積=半径×半径×3.14

例えば、半径が2メートルの円の面積はおおよそ2×2×3.14=12.56平方メートルという事です。

★尚、「円周率」は「円の周の長さ」と直径の比の事です。なぜ円周率が3.14なのかは別途に詳しくまとめています。

他方、「扇形」とはピザやアップルパイのように、中心からまっすぐ円周に向かって円を切り取った部分のような形の図形の事です。

この扇形の面積を計算するには、角度を使います。要するに角度が全体の何割かという事で、面積が円全体の何割かという事で計算するわけです。

扇形の面積

$$扇形の面積=円の面積×\frac{扇形の角度}{360°}=半径×半径×3.14×\frac{扇形の角度}{360°}$$ 扇形の角度とは、もちろん中心部分の角度の事です。
角度を「弧度法」で表す場合には、弧度法で表した扇形の角度を \(2\pi\) で割ります。

例えば、簡単な例では半円は円の半分の面積、1/4円の面積は円の1/4の面積です。60°の角度の扇形の面積は円の1/6の面積になります。

円と扇形の面積の計算問題①
弧度法とは角度と対応する円周部分の長さを角度その物として扱う方法です。主に高校数学以上で扱います。面積の記号にはS(surface)やA(area)をよく使います。

円・扇形に関する面積の応用問題

さて、算数や中学数学での図形の問題で、円や扇形に関連する「変な形」の図形の面積を計算させる問題があります。例えば、四角形から円を切り取った部分の面積や、1/4の円を組み合わせて作ったラグビーボールのような図形の面積です。

基本的には、ある図形の面積から別の図形の面積を差し引き、それをうまく組み合わせて変な形の図形の面積を上手に計算するのです。

円と扇形の面積の計算問題②

例えば、1辺の長さが2Rである正方形を考えましょう。これに円が内接する場合、円の半径はRになります。そこで、正方形から円の部分を切り取った図形(4つ分)の面積は次のようになります。

$$S=(2R)^2-R^2×3.14=(4-3.14)R^2=0.86R^2$$

R=1で正方形の1辺が2で正方形の面積が4である場合、約0.86が切り取られた部分の面積の合計というわけです。1部分の1つだけの面積を問う問題であればそれをさらに4で割ります。

ラグビーボール型の面積については、2段階を踏みます。
今度は円の半径が正方形の1辺に等しいのでこれをRとしましょう。

まず、正方形から4分円(円の4分の1)を引きます。

そして、その部分の2倍を、正方形から引きます。
これがラグビーボール型の図形の面積になります。

$$S=2×(R^2-R^2×3.14÷4)=2×0.215×R^2=0.43R^2$$

R=1であればラグビーボール型の図形の面積は約0.43という事になります。

この手の問題は図形の組み合わせによっていくらでも複雑にできるところがありますが、基本的にはこのように公式で面積が分かる図形から切り取った図形を組み合わせて計算します。

中学数学の場合は、三角形との組み合わせの問題もあり得ます。例えば、三平方の定理や図形の相似の関係と組み合わせるパターンです。

次図はその1つの例で、隠れてる扇形を見つける必要がある事、三平方の定理か三角比を使って1つの辺の長さを出す必要がある事から、一手間かかるタイプの問いです。

円と扇形の面積の計算問題③
この問題は小学校の知識だけで解答を出すのは多少難しいパターンです。三角形の辺の長さから扇形の角度を出して、未知の1つの辺の長さも計算する事になります。半円が交わる点がちょうど長方形の中の中間にある事を使います。

高校数学の場合はこのような問いが出題される頻度は少なくなりますが、積分の問題として、似たような図形の面積を計算させる問いは出題されます。

複素数の積分

複素数の微分に続いて、このページでは複素数の積分について述べます。
これは学校での授業としては大学数学の範囲になります。

定義と考え方

積分をどのように定義する?
複素関数の定積分には「積分経路」が必要
複素数の積分・・何に使う? 

積分をどのように定義する?

複素関数の微分は比較的分かりやすいかと思いますが、
では複素関数のの積分は一体どのように定義するのかという話になります。

考え方は、実数関数の積分と同じく、「和」を考えます。

z=x+ i yのときに、dz=dx+ i dyを考えるのです。

そして、複素関数f(z)に対してf(z)dz=f(z)dx+i f(z)dyを考え、加え合わせます。
これが複素関数の積分です。

複素関数の積分(定積分)

$$\int_Cf(z)dz=\int_Cf(z)(dx+idy)=\int_C(u+iv)(dx+idy)=\int_C(udx-vdy)+i\int_C(vdx+udy)$$

f(z)=u(x,y)+iv(x,y)です。
積分記号に添えられているCとは、後述する「積分経路」です。

微小な領域の幅に相当するものを関数に乗じて加え合わせて極限を取るという考えが得方は実関数の積分の場合と同じなのです

xとyが媒介変数t(実数)で結ばれる時は、このtによって複素変数zが定まるので、tによる積分と考える事もできます。

これら2つの複素関数の積分の定義は同等なものとなります。

媒介変数を使った複素関数の積分(定積分)

$$\int_Cf(z)dz=\int_a^bf(z(t))\frac{dz}{dt}$$

この場合、媒介変数tは実数です。
tの積分区間 [a, b] において、あたかも通常の実関数であるかのように定積分を行う事になります。
積分経路が円の時は、媒介変数として弧度法の角度θを使う事が多いです。

複素関数の定積分には「積分経路」が必要

さて、実数関数の場合の定積分には「積分区間」がありました。複素関数の場合にもそれに相当するものがありますが、じつは積分の区間ではなく「経路」が必要になります。

単純にxを動かして次にyを動かした場合、それは多くある積分経路の1つです。

積分経路は、直線であったり、曲線であったり、円のような閉曲線でもあり得ます。

このような積分経路が定められた時、z=x+ i yのxとyには従属関係があります。

$$例えば直線であればy=2x,円であればx^2+y^2=1といった関係です。$$

このような時には媒介変数tでxとyを結ぶ事ができます。円の場合には、媒介変数は角度で考える事が普通です。

積分経路上の1つ1つの点に対して、複素関数f(z)の値が存在する形になります。

積分経路が閉曲線の場合、基本的には「反時計回り」が正の方向です。もう少し詳しく言うと「経路を進む方向に対して領域が常に左側に来るように」正の向きをとります。

この向きの取り方は閉曲線の中に別の閉曲線による「穴が」あるような場合の正の向きの考察に役立ちます。(そのような場合も一番外側の閉曲線を「反時計回り」で考える事で正しく向きを処理する事も可能です。)

どの向きをプラスにとるのかについて、反時計回りに考える方法と「左手側に領域が来るように」という方法は本質的に同じものです。領域内に穴があるような場合には、定積分が打ち消してゼロになる補助線を引いて考えます。

複素数の積分・・何に使う?

複素数の積分は間接的に物理等の理論に関わり、数学上も時折使う事のあるツールの1つとしてところどころで顔を出します。

まず1つは、特定の実数関数の定積分(多くの場合積分区間を無限大にする「広義積分」ですが)の値を出すのに、複素積分を使う事があります。あるいは、そのような手順を踏まないと手計算では値を出せないと言ったほうがよいでしょう。そういった種類の定積分があるわけです。

もう1つは、分母に変数があり、その変数が0になってしまう場合(「極」と言います)の処理のために複素積分の考え方をうまく使える場合があります。これについては「コーシーの積分公式」との関連が深いです。

数学の理論の中では「代数学の基本定理」について、複素数の積分の理論の一部を適用する事によって証明が可能です。(他の方法でも証明はできます。証明の方法は多いです。)

台形の面積公式【算数と図形】

小学校や中学校で教わる台形の面積を出すための公式というものがありますね。

台形の面積公式

台形の面積={(上底)+(下底)}×(高さ)÷2

これくらいなら覚えれるという人も多い一方で、なんでこんな変な公式になるのか疑問に思いながら覚えた人も中にはいるかもしれません。この公式がなぜ成立するのかをこのページでは述べます。理由は全く難しくありません。

台形の面積公式①
まず台形の図を描いてみましょう。四角形のうち、1組の対辺同士が平行であるものを「台形」と呼びます。2組とも平行であればそれは「平行四辺形」です。

台形の面積公式の導出方法はじつにシンプルで、

台形をコピーして上下左右ひっくり返してぴったり貼り付けると平行四辺形になる

なんとこれだけです。

まず、もとの台形を上下・左右逆さまにひっくり返したものを用意します。まず上下に反転し、左右にも反転させる事が1つポイントです。

これを、もとの台形の横にくっつけます。

尚、「ぴったり」きれいに必ずくっつくという事は平行線の錯角の関係によって保障されるのです。

すると、平行四辺形の面積は(底辺)×(高さ)であるわけですが、この大きな平行四辺形の「底辺」は、台形の(上底)+(下底)なのです。下底に、上底だった部分がくっついていますので。

ただ、その平行四辺形の面積は台形2個分の面積です。

そのため、もとの台形の面積はその半分であって、「2で割る」わけです。

台形の面積公式②
台形を2つ分合わせた平行四辺形の面積を出し、それから半分個にする事でもとの台形の面積であるとする計算が台形の面積公式です。

これで、公式「台形の面積={(上底)+(下底)}×(高さ)÷2」が出ます。【証明終り】

尚、三角形の面積公式も三角形2つで平行四辺形を必ず作れる事に由来します。

「2で割る」というのは、じつは台形の場合と同じ理由であるわけです。

また、平行四辺形の面積が(底辺)×(高さ)となる理由は、出っ張っている部分を切り取って反対側につけると「長方形」になるためです。

三角形の面積公式の出し方は、ある意味台形の面積公式の出し方に似ています。いずれにしても、三角形も平行四辺形も長方形に直せるという事が面積公式の根拠であるわけです。三角形の場合、もとの三角形の2個分が平行四辺形なので、最後に2で割るのです。

さらに言うと、長方形の面積は正方形の面積の和に最終的には還元されます。

面積の単位は「平方メートル」m2(あるいは平方センチメートルcm2)と書きますね。つまり面積というものは1m2の正方形が何個分あるかという事なのです。もちろん、それを数えるのは大変ですから、面積の公式というものを使うわけです。

台形の面積公式の場合は、言われれば覚えれる人も多いと思います。ただ、たまには、どういう理由でそうなってるのかを考えてみると楽しい事もあるかもしれません。

尚、こういった初歩的な面積計算は、高校や大学での積分の理論の基礎になっています。

仕事と運動エネルギーとの関係

このページでは古典力学での「仕事」と、運動エネルギーとの関係について述べます。
数学的には、ベクトルの微積分の応用であり、ベクトルの内積の応用でもあります。

内積と「仕事」

平面や空間での物体の運動を考える時、力のベクトルの向きと、現に運動している物体の運動の方向・・・つまり速度ベクトルの方向は、互いに異なるという事も普通にあります。

例えば、床に置かれた重い物に紐を付けて斜めに引っ張ったところ床に対して引きずるように水平に動いたとすれば、力ベクトルは斜め上方向、速度ベクトルは水平方向という事になります。

このような時に力ベクトルと速度ベクトルとの「内積」を考えます。
そしてそこから、「仕事」という量を積分を使って定義します。

☆詳しくは、ここで使う積分は接線線積分と呼ばれるものです。

\(\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{dx}(または \overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{\Delta x})\) を、物理学では「仕事」と呼びます。
これを経路に沿って合計した量(積分値)を「仕事量」と呼ぶ事があります。

◆仕事はベクトルの内積ですので、
\(\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{dx}=|\overrightarrow{F}|\hspace{2pt} |\overrightarrow{dx}|\cos\theta\) のようにも書く事ができます。
マイナスの値になる事もあり、その場合にも物理的な意味を持ち、角度とその余弦も力と物体の運動に対応したものになります。

この「仕事」を考える事により、じつは「『力』と『物体の運動』と『エネルギー』」を数式的に関連付ける事ができるのです。

運動方程式が成立しているとすれば、その事は数学的に導出できます。結論の関係式は次のようになります。

仕事とエネルギーの関係

関係式は次のようなものです。 $$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow{F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt=\frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$ 左辺の積分は仕事量、右辺は時間の区間の始まりと終わりでの運動エネルギーの差です。
左辺と右辺とで物理学的な単位は等しく、ともに[J](ジュール)です。

意味としては、なされた「仕事」の量と運動エネルギーの増減の量は等しいという事です。

この関係式の数学的な導出には、微分の基本公式とベクトルの微積分が直接的に関係しています。

仕事と運動エネルギー
運動エネルギーの増減は仕事の合計(積分値であり、「仕事量」と言います)で計算されます。そして仕事とは、内積によって表せる量です。物体の移動方向に対して働いている力ベクトルの向きがななめ方向である場合には、物体が移動する向きに対する力ベクトルの成分だけが運動エネルギーの増減に寄与するという事を言っています。

仕事と運動エネルギーの関係式の導出

まず運動方程式をベクトルの形で書いて、両辺に対して速度ベクトルとの内積を考えます。

$$【運動方程式】 \overrightarrow {F}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2} $$ $$【速度ベクトルとの内積】 \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}$$

運動方程式の加速度を含む側について、加速度は位置座標を表すベクトルの時間による2階微分である事に注意します。この部分と、速度ベクトルの内積を考えると、「2階微分と1階微分の積」という、一見わけの分からないものが出てきます。これは一体何でしょう?

それについての数式的な解釈は次のように行います。
合成関数に対する微分公式を用いると、「関数の2乗」を微分すると1階微分が積の形でくっついてくる事が分かります。
すると、「1階微分の2乗」を(1回)微分すると、 「2階微分と1階微分の積」 が出てくるのです。この時、2という係数も出てきますから1/2を乗じて係数調整を行います。

計算を進めると、じつは次のように変形できます。

$$ \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$

計算

具体的な数式を見てみましょう。
まず、ベクトルではなくてtを変数とする1変数関数x=x(t) について考えてみます。 $$\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2} などは、異なる導関数同士の「積」です。$$ $$\frac{d}{dt}\left\{\frac{m}{2}\left(\frac{dx}{dt}\right)^2\right\}=2\cdot\frac{m}{2}\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}$$ 2乗の部分の微分については、合成関数の微分公式を使っています。
質量mは定数扱いです。
これがベクトルの各成分\(x_1, x_2, x_3\) (それぞれ時間tの関数)について言えます。
そこで、次のように内積を考えるのです。 $$m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_1}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_2}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_3}{dt^2}$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left\{ \left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2 \right\} $$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$ 最後のところは、$$\frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\left(\frac{dx_1}{dt},\frac{dx_2}{dt},\frac{dx_3}{dt} \right) というベクトルの「大きさの2乗」$$を考えているのです。物理的な意味としては、これは物体の速度ベクトルの大きさの2乗、つまり「速さ」の2乗を意味します。内積の計算によって各成分を含む項の和が出てきて、うまい具合に「速さ」になっている事に注意してみてください。

「速度ベクトルのx成分の2乗」を時間tで微分すると、
「速度ベクトルのx成分の2乗」の2倍と、「加速度ベクトルのx成分」との積になります。
数学の合成関数の微分公式を使用しています。

変形して得られた式の両辺をてきとうな時間 \(t_1,t_2\) で定積分したものを考える事で、仕事量と運動エネルギーの関係式が得られます。

$$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt= \int_{t_1}^{t_2}\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2dt= \frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$

運動エネルギー」は次式で定義します。記号は、Tを使う事が多いです。

$$T=\frac{1}{2}mv^2\left(=\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2\right)$$

この量は正の仕事がなされれば増加し、負の仕事がなされれば減少します。また、仕事がなされなければ運動エネルギーは変化しない、という事も意味します。
(※数学的な定義においても内積は正の値だけでなくゼロや負の値も取り得るものであり、図形的な意味も持つわけです。)

この運動エネルギーに加えて、さらに「位置エネルギー」というものを考え、両者の和を「力学的エネルギー」と呼びます。重力等の「保存力」のみが働いている場合、力学的エネルギーの保存則が成立します。

また、実験・観測から定量的(※)な意味でのエネルギーの等価性が確認されています。運動エネルギーは量としては熱エネルギーや電気エネルギーに変換されると見なす事ができて、物理学だけでなく種々の工学等での理論計算に用いられています。

(※)「定量的に」と言うのは、例えば「力学的エネルギーの『入力』が電気エネルギーと熱エネルギーの『出力』に等しい」といった計算ができるという意味になります。発生する熱エネルギーに関しては、望んでいるものでなければ「損失」と呼ぶ事も多いです。

熱なども含めて考えると、一般的にエネルギー全体についての保存則が成立します。
例えば摩擦によって物体が停止すれば当然ですが運動エネルギーはゼロになりますが、この時にエネルギーの量自体はどこかに消えたというよりは、同じ量の熱エネルギーに変換されたと考えて考察が行われます。

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絶対値記号に関する問題

実数に関する絶対値の意味と、高校数学の範囲で想定される問題について説明します。

絶対値とは?

実数の「絶対値」の意味
文字式に対する絶対値
絶対値記号がついた関数のグラフ 

実数の「絶対値」の意味

絶対値とは、意味としては向きに関わらず正の値として特徴づけられる「大きさ」のようなものです。

実数の場合、正の数の絶対値はその値そのもの負の数の絶対値は符号を取り除いて正の数に直したものを指します。記号は、数を2本の縦棒||で挟んだようなものを使います。例えば次の通りです。

$$実数+3の絶対値\hspace{10pt}|3|=3$$

$$実数-3の絶対値\hspace{10pt}|-3|=3$$

後述もしますが、負の数の「絶対値」は、-1を掛ける事で正の数にしたものでもあります。文字式や関数の絶対値を考える場合は、こちらの考え方のほうが重要になります。

尚、複素数に関しても絶対値というものもあり、ベクトルの場合は絶対値ではなく「大きさ」とか「距離」とか言いますが、記号は実数に関する絶対値と同じ記号を使います。

$$参考:複素数の絶対値\hspace{5pt}|1+2i|\hspace{15pt}ベクトルの「大きさ」|\overrightarrow{AB}|$$

実数に関する絶対値
高校数学での絶対値記号は、意味としては簡単ですが問題を解く時には注意すべき点もあります。

文字式に対する絶対値

さて、という事は実数に関する絶対値というのは要するに正の数だろうが負の数であろうがとにかく符号はプラスにするというものですので、「大した意味を持つものではなく簡単ではないか」という話にもなります。実際、意味自体は簡単である事は事実です。

ただ、高校数学の場合、くせものなのは文字式や関数に絶対値記号をつける場合なのです。

例えば、実数変数xに絶対値記号をつけた |x| については次のように処理せねばなりません。

$$①x≧0 の時、 |x|=x,\hspace{10pt}②x<0 の時、 |x|=-x$$

注意が必要なのは、変数xが「負の数」の範囲にある場合で、絶対値記号を「外す」時にはマイナス記号を添えねばなりません。これは、xが負の数であるのだから、反転して正の数にするためには数学的な操作としてはマイナスを掛ける必要があるという事です。

$$x<0 の時,|x|=-x\hspace{10pt}例えばx=-2なら、|x|=-x=-(-2)=2$$

人間が自分の感覚でやる時には「マイナス記号を取り払う」事で負の数を正の数にできますが、数学的な演算としては負の数を正の数にするには「-1を掛ける」操作が必要であるという事なのです。

より複雑な文字式に絶対値記号をつける場合も考え方は同じで、不等式に関する問題も絡んできます。

$$|A-2B|=A-2B【A≧2B】\hspace{10pt}|A-2B|=-(A-2B)=-A+2B【A<2B】$$

関数に絶対値記号をつける場合は、その関数がどの変数の領域(「定義域」)で正の数になるのか、負の数になるのかという問題が直接的に絡みます。

$$|x^2-3x-4|=|(x-4)(x+1)|から、x^2-3x-4の正負の状況が分かる。$$

$$x≦-1またはx≧4の時、|x^2-3x-4|=x^2-3x-4$$

$$-1<x<4の時、|x^2-3x-4|=-x^2+3x+4$$

このように、絶対値記号とは意味自体は簡単なのですが、出題する問題として話を複雑にしようと思えばいくらでもできるような性質のものでもあるので、いくらか慣れておく必要もあると思います。

絶対値記号がついた関数のグラフ

上記のように関数に絶対値記号をつける事もできるわけですが、この時にグラフを描くと、関数が0の値をとる点を境にx軸に反射するように折れ曲がるグラフになります。

例えば、次の3つの絶対値記号がついた関数のグラフは図のようになります。

$$y=|x|, \hspace{10pt}y=|x-1|, \hspace{10pt}y=|x^2-1|$$

絶対値記号がついた関数のグラフ①
絶対値記号がついた関数をグラフに描くと、このように本来は関数の値がマイナスになる部分がx軸で折り返され反転したような形のグラフになるのです。

2次関数に絶対値符号をつけた関数に関しては、因数分解する(本質的には解を計算する)事でグラフの形が分かります。

$$x^2-1=(x+1)(x-1)から、もとの2次関数の正負の範囲が分かります。$$

高校数学で問われる事は少ないと思いますが、三角関数に絶対値記号をつけた形の波形のグラフというものも想定できます。通常は負の数の部分が反転して周期的に山がいくつも連なるようなグラフになります。

参考までに、この類の波形は、電圧や電流として正弦関数等を考える時には実際に作れるもので、交流を直流に変換するための古典的な技術の1つです。半導体素子を上手に回路に組み合わせると実現可能となります。

応用:どういった出題があるのでしょう?

直線との交点の問題など ■ 微積分との複合問題

直線との交点の問題など

上述の通り、関数に絶対値記号をつけると、グラフ上では形が変わってしまう場合があります。

そうすると、例えば同じ「2次関数と直線の交点の状況を調べる」という問題であっても、関数部分に絶対値記号をつける事で計算の手間が1つ増えてランクが少しだけ上がるわけです。

$$■問い:直線y=x+Cと図形y=|x^2-5x+4|が3点で交わるCの値は何ですか。$$

こういった問いの場合、少し引っかけどころがあって、x軸に対して反転した部分に「接する」ことで3点で交わるパターンと、ちょうどx軸で反転する1点と、突き破るように関数と交わる他の2点と合わせて3点という場合があります。仮にこういう問題が出題された時には、どちらの場合も述べないと完全な正答にならないところがくせものです。

この問いに関しては、図に描いてみると状況を把握しやすいと思います。

絶対値記号がついた関数のグラフ②
直線との交点は0~4個の範囲があり得ます。図に描くと分かりやすいです。

A.まず、2点および接点によって3点で交わるパターンです。

この場合には、接する部分は2次関数の部分が反転していますから、

$$y=x+Cと、y=-(x^2-5x+4)=-x^2+5x-4が接する状況を考えます。$$

$$x+C=-x^2+5x-4\Leftrightarrow -x^2+4x-4-C=0$$

$$\Leftrightarrow -(x-2)^2-C=0$$

よって、ちょうどC=0であればそのような状況になります。これがまず1つです。

B.もう1つの場合。この場合、絶対値記号の中の2次関数が0になる部分の片側(値が小さいほう)を直線が通る事になります。

$$x^2-5x+4=(x-1)(x-4)なのでx^2-5x+4=0\Leftrightarrow x=1またはx=4$$

直線のほうのy=x+Cが、点(1,0)を通ればよいわけです。この場合、y切片であるCを知るのは簡単で、C=-1です。(分かりにくければ図を見てください。)

よって、題意を満たすCの値はC=0,-1です。【解答】

この問いの場合は直線のほうの傾きが固定されているので比較的状況を把握しやすく、逆に傾きのほうが変化する場合には状況はやや複雑になります。さらに、直線の式のほうに絶対値記号がつく場合も同様に複雑になります。いずれにしても、グラフの図形的状況を丁寧・正確に把握する事がポイントとなります。

この問いと同じ部類で、より平易なパターンはx軸に平行なy=Cのような直線と、2次関数が一部反転した関数との交点を調べさせる問題です。その場合、反転した頂点部分より上とx軸で2交点、頂点の座標では3点、x軸から頂点までの間では4点、y座標が負の部分では0点で交わるという事になります。

微積分との複合問題

微積分の問題で、絶対値記号がついた関数の微分や積分を問うという出題も一応あり得るものではあります。いずれの場合も、絶対値記号がついたままでは微分も積分もできません。

まず絶対値の中身の正負の状況を正確に把握して、絶対値記号を外すという操作が必要になります。それから、微積分の操作をします。

上記の2次関数に絶対値記号をつけた関数に直線が接する条件を微分で出す場合には、x軸に対して反転した部分で接するため、マイナスをつけて絶対値記号をはずした2次関数を微分する事になります。微分の場合は、関数の正負が反転する部分は導関数の正負も反転するだけという性質をうまく使える場合もあります。

定積分であれば積分区間を分割する事になります。本来マイナスになる部分の定積分がプラスに転じるので全体の値も当然変わってきます。

いずれにしても、通常の形の関数を微積分するよりも一手間かかる問題になりやすいのです。

参考までに、絶対値記号がついた関数がx軸で反射するように折れ曲がる点は、微積分学では関数が「連続であるけれども微分不可能である」点の例の1つとしてよく取り上げられます。これは、その点に変数xを近づける時に、大きい側から近づける場合と、小さい側から近づける場合とで微分係数に相当する極限値が異なる値になってしまうためです。

2次関数を表す式と放物線【図形と式】

高校数学での、直交座標上での図形的な性質と関連させた2次関数の式、および問題を解くコツについて説明します。

およそ、センター試験の出題範囲レベルに対応できる程度の問題について解説します。

2次関数と放物線の関係

2次関数を表す図形と高校数学での考察点
2次関数の「頂点」
参考:頂点を調べる別の方法・・2次方程式の解、微分 

2次関数を表す図形と高校数学での考察点

2次関数自体は中学校でも教わるかと思いますが、高校数学だとより自由自在に平面の中での図形的な考察を、式によって(手計算で)進める事が行われます。

2次関数が直交座標上で表す形は「放物線」です。最大値と最小値のどちらか1つを必ず持ち、x軸の無限遠方では必ず+側に無限大になるか-無限大になるのかのどちらかになります。

$$2次関数\hspace{5pt}Ax^2+Bx+C\hspace{5pt}が表す図形:「放物線」$$

この式で、Aの値がプラスであれば「下に凸【とつ】」の形、逆にAがマイナスであれば逆さまの「上に凸」の形になります。

尚、A=0であれば1次関数になってしまうので、その場合に限っては図形は放物線にならず直線になります。

このように、式の中での性質や特徴が、図形的にはどのような意味を持つのかを理解しておく事が問題を解くうえでのポイントになります。

2次関数と放物線①

2次関数の「頂点」

2次関数が、直交座標上でどのような場所にあるかを見るには、「頂点」の位置を調べます。

そのために、2次の項と1次の項を2乗の形に変形します。

★尚これは2次関数であるから必ず、しかも簡単にできる操作で、3次式以上だと一般的にはそううまくはいきません。3次式の場合は高校数学の手計算では多くの場合、微分を用いて調べます。簡単に後述しますように、2次関数でも微分の手法を使う事は可能です。

例えば次のような具体的な2次関数については次のようになります。

$$x^2+4x-6=(x+2)^2-4-6=(x+2)^2-10$$

この時関数はx=-2を代入すると最小値-10を持ちます。これは最後の式にそれを代入して直ちに最小値を得るのですが、間違いのないようにもとの式に代入してみるのもよいでしょう。
(-2)・(-2)+4・(-2)-6=4-8-6=-10ですから確かに合っています。

この時、2次関数が最小値をとる座標である(-2,-10)をこの2次関数の「頂点」と呼ぶのです。

2次の項がマイナスでも同じ操作をします。

$$-x^2+4x-5=-(x-2)^2+4-5=-(x-2)^2-1$$

この時は、2次関数はx=2で最大値-1を取ります。この最大値をとる座標(2,-1)がこの2次関数の「頂点」です。

関数の中の係数が未知数である場合も同様です。

$$x^2+(A-2)x+1=\left(x+\frac{A-2}{2}\right)^2-\frac{(A-2)^2}{4}+1=\left(x+\frac{A-2}{2}\right)^2-\frac{A^2-4A+4}{4}+1$$

$$=\left(x+\frac{A-2}{2}\right)^2-\frac{A^2}{4}+A$$

この例の場合、最小値の値もAに関する「2次式」ですから、問題の形式によってはさらに計算が続きます。高校数学だと、この手のタイプの問題のほうが問われやすいかもしれません。応用問題についても後述しているので必要に応じて参照してください。

参考:頂点を調べる別の方法・・2次方程式の解、微分

2次関数で、x軸との交点が2つある場合に限って言えば、x軸との2交点の中点のx座標が頂点のx座標に等しくなります。そのため、ものによっては、2交点を先に出してしまって中点を考えて頂点を出す事もできます。例えば次のような感じです。

$$x^2+2x=x(x+2)より、x=0,-2でx軸(y=0直線)と交わる。よって、頂点のx座標は-1$$

解けるなら何の手法を使ってもよいのですが、複数の手法を知っているとチェックとして使えるでしょう。

参考までに、2次関数の頂点の位置を調べるには、微分を使う事もできます。センター試験では微分を使わなくても問題を解けるように必ず作ってあるので微分を使う必要はないですが、解答が合っているかどうかのチェックなどに使う事ができます。

上記の例だと例えば次のようになります。 $$(x^2+4x-6)^{\prime}=2x+4$$ $$(-x^2+4x-5)^{\prime}=-2x+4$$ $$\{x^2+(A-2)x+1\}^{\prime}=2x+A-2$$ $$(x^2+2x)^{\prime}=2x+2$$ これらの「導関数」が0になる値が、2次関数の場合では最大値あるいは最小値をとるxの値、すなわち放物線の頂点のx座標になります。(他の関数の場合には直ちに最大または最小となる値とは言えないので注意。)
本質的には、2次関数の頂点は手計算では平方完成によっても微分によっても、本来はどちらの方法でも調べる事ができるのです。

2次関数と放物線に関する応用問題

2次関数の最大値・最小値に関連させた問題
定義域が限定された場合の最大・最小
直線と放物線の交点問題
2つの放物線同士の交点 

2次関数の最大値・最小値に関連させた問題

$$■問い:2次関数y= x^2-4x+5はx軸と何個の交点を持ちますか。$$

こういった問題の場合には、式変形して図形の様子を見て調べます。

$$x^2-4x+5=(x-2)^2+1$$

であり、最小値は1です。という事は、x軸(直線y=0)との交点は存在しません。交点の数は0個です。【解答】

こんな具合です。

ただし、大学入試等での問題では、こういったシンプルな問題はあまり出してくれません。もう少し計算の手順が必要な形で出題されると考えるべきでしょう。

例えば、2次関数の係数も未知数である場合には計算はさらに続き得ます。上記でも例に挙げた2次関数を使って見てみましょう。

$$■問い:2次関数y=x^2+(A-2)x+1はx軸と何個の交点を持ちますか。(Aは実数とします。)$$

$$x^2+(A-2)x+1=\left(x+\frac{A-2}{2}\right)^2-\frac{A^2}{4}+A$$

このように最小値自体がAの値によって変化し、しかもAに関する2次式ですので今度は2次方程式を解く作業になります。

$$-\frac{A^2}{4}+A=-A\left(\frac{A}{4}-1\right)$$

この場合はあっさり因数分解できるので、0と置いた時の解が分かります。A=0または4の場合に、「もとの2次関数の最小値」が0になるわけです。その時、もとの2次関数とx軸との交点は1つだけです。頂点がx軸に接する形になります。

また、0<A<4の時には「もとの2次関数の最小値」がプラスの値になってしまいますから、もとの2次関数とx軸の交点は存在しません。

A<0またはA>4の時には「もとの2次関数の最小値」はマイナスで、xの値を増やすあるいは減らす事で関数の値は大きくなっていきますからx軸と確実にぶつかります。ですからもとの2次関数とx軸との交点は2個です。

ですので、A<0またはA>4のとき交点は2個、A=0またはA=4のとき交点は1個、0<A<4のとき交点は0個という、場合分けを含んだ答えになります。【解答】

2次関数と放物線②
A<0またはA>0の時、最小値がマイナスの値になり、もとの2次関数は下に凸の形の放物線ですから必ずyの値が0になる点が2つ存在する、すなわちx軸と2点で交わるという事です。

この例での2次関数の場合、最小値がAに関する上に凸の2関数なので、「最小値が取り得る値の中にも最大値がある」という性質のものになります。具体的にはA=2の時に「最小値の」最大値が1になり、Aが全実数の中のどの値であってももとの2次関数の頂点に相当する最小値は1を超えない事を意味します。これは1次の項の係数が0の時です。

定義域が限定された場合の最大・最小

もう1つ重要な出題として、定義域(xの範囲)を限定した範囲での最大値や最小値を問うタイプのものがあります。

これはどういうものかというと、例えば下に凸である2次関数の最小値は通常は頂点のy座標ですが、そのx座標が定義域に含まれていない時には定義域の端点で最小値をとります。

■問い:0≦x≦2の範囲で、y=x-2px+4について
①:x=2で最小値をとるためのpの範囲はどのようになりますか。
②:x=2で最大値をとるためのpの範囲はどのようになりますか。

この手の問題における2次関数の性質自体は正直、大学以降の数学であまり重要とは言えないと思いますが、2次関数のグラフの性質の理解度を問う出題という事でしょう。

まず、1次の項に未知の係数pがありますから頂点のx座標もy座標も変化するパターンです。

y=x-2px+4=(x-p)+4-p

①:ここで、通常であればx=pで最小値をとるという事になりますが、「x=2で最小値をとる」という条件があり、さらに0≦x≦2というxの範囲の指定もあるのでp≧2であれば、常に対象の2次関数は定義域の端点であるx=2で最小値をとります。なのでp≧2です。【①の解答】

これは、式だけでは分かりにくいのでグラフを見ながら様子を把握したほうがよいでしょう。

②:次に所定の場所で最大値をとる場合です。通常であれば下に凸の2次関数は無限に大きくなるので最大値はそもそもありませんが、ここでは閉区間としてxの範囲が指定されているので最大値を持つという事です。

頂点の座標x=pが動き、定義域が閉区間[0,2]、x=2で最大値をとるという条件です。

この場合には、逆にp≦2であれば済む話かというとそうでない事が「ひっかけ」です。
頂点が閉区間[0,2]の中点よりも右半分側に来ると、今度は区間の反対側の端点であるx=0でyが最大値になってしまいます。頂点の座標がp=1の時にx=0,2の両方で最大値になります。つまり、x=2で最大値になるにはp≦1という事です。【②の解答】

このように、高校数学だと多少ひねりを入れた計算をさせる場合があります。やっている事自体は難しくないのですが、慣れていないと突然問われた時にとまどってしまうでしょう。

直線と放物線の交点問題

1次関数である直線と、2次関数である放物線の交点を計算させるような問題は、センター試験レベルだと問われる事があります。

考え方は難しくありません。

1次関数と2次関数を等号で結んで方程式を作り、2次方程式の解を出せばよいのです。

解が重解の場合には交点は1つだけで、直線は放物線の接線になります。また、解が複素数解になる場合には交点はないという事に対応します。

$$■問い:直線y=x+2と放物線y=x^2-x-3の交点はいくつありますか。$$

まず、等式で結びます。それから、解の様子が分かるように変形します。

$$x+2=x^2-x-3\Leftrightarrow x^2-2x-5=0$$

$$\Leftrightarrow (x-1)^2-1-5=0\Leftrightarrow (x-1)^2=6$$

のようになるので、これは異なる実数解を2つ持ちますね。したがって、交点は2つ存在します。【解答】

「2乗=正の数」となる事で異なる2つの実数解が存在する事が分かります。「2乗=0」であるなら重解を持ち、「2乗=負の数」であるなら2つの異なる複素数解です。

尚、本当に単に交点の数だけを問う問題であれば2つの図形のグラフを描いてみる事でも答えが分かる場合もあります。上記の例だと2点で交わるので、グラフを描く方法でも分かるでしょう。
ただし、その方法だと交点が1個だけで直線が放物線に「接する」時や、交点を持つのか持たないのか微妙な時の判定が難しい事に注意が必要です。

この手の問題も、式の中の係数に未知数を入れて、「2つの交点を持つ条件は何か」とか「直線が放物線に接するための条件を述べなさい」とか、そういった形でひねった出題がなされる事も多いと思います。やる事は基本的に同じです。

例えば、直線のy切片が変化し得る条件で、直線が放物線に接する条件を考えてみましょうか。

$$■問い:直線y=x+Cが放物線y=x^2-x-3に接するためのCの値は何ですか。$$

ここでもやる事は同じです。2式を等号で結びます。

$$x+C=x^2-x-3\Leftrightarrow x^2-2x-3-C=0$$

$$\Leftrightarrow (x-1)^2-4-C=0$$

ここで、4+C=0になれば重解を持ちますのでC=-4の時に直線は放物線に接します。【解答】

■参考:この問題に関しても、微分を使う事もできます。 $$(x^2-x-3)^{\prime}=2x-1$$ であり、この導関数の値が接線の傾きですから、
2x-1=1⇔x=1
これが、もとの2次関数に対して「傾きが1である接線」が接する点のx座標です。これを2次関数の式に代入するとy座標も得られます。
その点の座標は(1,-3)です。 y=x+Cがこの点を通るとすると、
-3=1+C⇔C=-4【解答】
さらに、x-2x-3-C=0が重解を持つための条件を出す場合にも微分を使えます。左辺を関数とした時にx軸に接する、つまり極小値をとるy座標の値が0であるので、導関数2x-2=0としてx=1、その値を方程式に代入して1-2-3-C=0 ⇔ C=4ともできます。
これらの方法はセンター試験等では不要ですが(出題範囲外なので)、知っていると計算のチェック用に使える事もあります。

2つの放物線同士の交点

出題頻度は低いですが、あり得るパターンとして放物線同士の交点を考える問題もあります。

$$■問い:y=2x^2+2x+1とy=x^2-2x+Cが1点だけで交わるためのCの値は何ですか。$$

等号で2式を結びましょう。

$$2x^2+2x+1=x^2-2x+C\Leftrightarrow x^2+4x+1-C=0$$

$$\Leftrightarrow -(x+2)^2-3-C=0$$

これが重解を持つためにはC=-3です。【解答】

この場合には、1点だけで交わるには接するしかない事が、式からも分かります。仮に、1点で「突き破るように」交点を持った時、別のもう1点で必ず交わってしまうためです。

しかし、放物線同士の場合には、1点だけで「突き破るように」交点を持つ場合もあり得ます。それは、2次の項が等しい場合です。

$$y=x^2+2x+1, y=x^2+x$$

を等号で結んでみましょう。

$$x^2+2x+1=x^2+x\Leftrightarrow x+1=0$$

この場合にx=-1という解が得られますが、2次方程式の重解ではなくて1次方程式の解になっています。これが「突き破って」1点だけで交わっている交点であり、xの値をどれだけ増やしても減らしても、その先の別の点で交わる事はないという事です。

2次関数と放物線③

参考:放物線と円の交点の問題は?

また参考までに、放物線と円の交点を問う問題も高校数学の範囲で、一応あり得るものではあります。

$$放物線y=Ax^2+Bx+Cと円(x-S)^2+(y-T)^2=R^2$$

を考えるわけですが、放物線のyを円のほうの式に代入すると、一般的には4次方程式になってしまいます。

実際、円と放物線を考えると、4点や3点で交わる可能性がある事に対応しています。そのため手計算だと非常に複雑な計算になりがちで、出題する側も調整が面倒と思われるのであまり出ないと思います。

サイト内関連記事【高校数学で扱う関数】

★尚、大学入試では3次関数については、基本的に微積分(特に微分)での出題になります。

直交座標上の直線

直線と1次関数の関係・用語・公式を説明します。

これは中学校でも扱われますが、ここでは高校数学の範囲の事も説明します。

直線は1次関数になり、放物線は2次関数になります。3次関数や4次関数は、微分を使って形を考察するのが普通です(従って微分を使わない範囲では原則として問われません)。

■高校数学としての難易度:この分野の理屈はそれほど難しくはないので、センター試験程度の問題であれば誰でも満点を狙える分野です。ただし、公式を暗記しようと思うと苦しくなるところでもあります。
式と図形がどのように対応するのか、意味を理解して素早く式を組み立てる事が得意になるためのポイントの1つかと思います。一度式を作れば、あとは式変形を繰り返して図形と対応させていくだけです。

直線を表す式

直線を表す式は1次関数 ■ 2点を通る直線の式 ■ 1点を通る直線の式 

直線を表す式は1次関数

直線は、1次関数で表されます。つまり、y = 2x や y=3x+1のような形の式です。

y =2xの「2」のように、xにくっついている比例定数の部分を「傾き」と呼びます。図形上で見た時、その部分が実際に傾いている度合いを表すためです。y=3x+1の「1」のように完全に定数になっている部分を「切片」または「y切片」などとも言います。これは、その値がy軸(x=0を表す直線)でのyの値を表すためです。

「傾き」は、プラスである場合も、マイナスである場合もあります。直交座標上のグラフだと「右上がり」の形の直線です。直交座標上のグラフで言うと「右下がり」の形の直線になります。

尚、傾きが0の直線はx軸に平行な直線で、y=3のような式です。y=0は、x軸に他なりません。
逆にx=3のような式はy軸に平行な直線になります。この場合には傾きが「無限大」という事でもありますが、傾きとしては「表せない」と考える事が普通です。x=0を表す直線はy軸そのものです。

また、高校数学の場合には図形上の角度を使って「傾き」をタンジェント(正接)で表す事もできます。図形と式の問題と見せかけてじつは三角比や三角関数の問題という事もあり得るので、一応知っておくべきでしょう。

一次関数
高校数学の場合、一次関数が図形上の直線の性質とどう対応するのかを数式で表現する事が重要です。座標、図形上の角度、他の図形との組み合わせ、三角関数やベクトルと組み合わせた色々な出題が考えられます。

2点を通る直線の式

高校数学の場合、座標上のてきとうな2点があって、それを通る直線の式はどのようになるかという事を計算させる問題があります。

その式の表し方は、一応「公式」があって教科書にも書いてあると思うのですが、
これは「意味は理解すべきであるが暗記はすべきでない」公式の1つです。

公式?(正しい式ではある)

$$2点(x_1,y_1)(x_2,y_2)を通る直線の式は次式で表せる:$$ $$y-y_1=\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1}(x-x_1)$$ $$あるいはy-y_2=\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1}(x-x_2)でも同じです。$$

☆POINT:まず最初にこの式を暗記しない
この式は結果としてはそうなるという式であって、最初から丸暗記する事で問題を解くものではないのです。逆に意味を理解しててきとうにいくらか練習をすれば、この式を自然に書く事もできるようになるのです。

2点を通る直線の式
図形的な意味を把握してから、覚えられるのであれば公式のような形で覚えるとよいと思います。上記の「公式」では、少なくとも傾きの部分は式を覚えるのではなく図形的に把握したほうが早いと思われます。それ以外の部分は、分かりやすいほうで理解したほうがよいと思います。

まず、てきとうな2点があったとして(1,3)と(2,5)だったとしましょう。図に書くと分かりやすいのですが、まず「傾き」を計算します。これは単純な話で、「xの増分で、yの増分で割ったもの」(それが図形上は正接であるわけですが)を計算すればよいのです。ここでの場合、2になります。

公式に当てはめているのではないのです。
yの増分:5-3=2 xの増分:2-1=1
という計算を(頭の中で)しているだけなのです。

$$この時点で、y=2x+C\hspace{5pt}の形の式になる事が分かります。$$

「では、y切片の情報はどうやって知るのですか。」

これも図に書くと分かりやすいのですが、y切片(0,C)から点(1,3)までのxの増分は、もちろん1です。点(1,3)から見ると、y切片(0,C)に至るまでにxは1減少します。

yの増分は、傾きが分かっているので、点(1,3)から見てxが1減少するのであれば、yは1×2=2減少します。・・という事は、点(1,3)のy座標から逆算すれば、y軸上の点は3-2=1ということになり、これがy切片であるCの値なのです。

上記の「公式」は、じつはこの操作をしているのと同等の式なのです。y軸から1つの点のx軸までの距離に傾きをかけ、その値を点のy座標から差し引く事でy切片を出すのと同等の式であるという事です。。

$$結果:y=2x+1$$

図形的に意味が把握できているのであれば、機械的に手早く計算するために上記の「公式」を1点(A,B)を使って「y-B=(傾き)・(x-A)」として覚えてしまってもよいでしょう。覚え方としては「x=A、y=B を代入すると確かに成立する」のような感じでもいいと思います。

ただし最初からそのように丸暗記するのではなく、まずは図形的な意味を理解する事がおすすめです。

正答率を上げるには、間違いがないかチェックする事も大事です。2点(1,3)と(2,5)を通るわけですから、値を代入してみて等式が成立するかを見ます。

$$2\cdot1 +1=3,\hspace{10pt}2\cdot 2+1=5$$

このようになるので、確かに合っている事が分かります。

全て頭の中で計算できるなら一番それが速いのですが、この手の問題は図形的な意味との関連が問われる事も多い都合上、ごく簡単なものでよいので図を描いて解いたほうが無難かもしれません。

1点を通る直線の式

直線がある1点だけを通る事が分かっている場合、もちろんそのような直線は無数にあり、それだけでは直線を表す式も決定しません。

この場合は、ある1点の座標を(A,B)傾きをT、y切片をCとすると式を次のように書けます。

$$y-B=T(x-A)\Leftrightarrow y=Tx+B-AT$$

$$C=B-AT$$

この式も、ある点から点(A,B)までのy座標の増分とx座標の増分の関係を表しているだけなのです。決して、暗記すべきような公式ではありません。

(x-A)がx座標の増分、それに傾きTを掛けるとy座標の増分(y-B)です。y切片については、(0,C)と(A,B)の間の増分の関係を見ればよいのです。yの増分:B-C xの増分:A-0=A ですから、AT=B-Cであり、変形すると上記のようにy切片であるCを表す事ができるのです。

図に描くと分かりやすいでしょう。

1点を通り傾きが分かっている直線の式
1点を通る事と傾きの値だけが情報として分かっている場合の計算です。

この場合もやはり式を暗記するのではなくて、図形と対応させて意味を理解したうえで、式自体もすぐに書けるように練習しておく事が得意になるポイントの1つです。

応用問題①:平面上での「平行」と「直角」の式での表し方

平行の表し方 ■ 直角の表し方

平行の表し方

2つの直線が平面上で平行になる場合、直角になる場合など、より図形的な直線の状況を表すために式を計算させる問題も存在します。

まず平行の場合ですが、これは簡単で、「傾きが等しい」直線同士は直交座標上で平行になります。もちろん、それでy切片も同じであれば全く等しい直線ですから、異なる平行2直線であれば「傾きは等しくy切片は異なる」という条件になります。

平行という事は、もちろんそれら2直線は交わらないという事です。式で見た時には、連立方程式にしてみるとy切片が異なる値の時は2式を同時に満たす(x,y)の組は存在しないという事でもあります。一応、その事も念頭に置いておくとよいかもしれません。

直線の平行条件と直交条件
平行・直角に交わるという平面上の2直線に関する様子を、傾きが満たす条件で表す事ができます。

直角の表し方

次に直角の場合です。2直線が交わり、なす角が直角であるという場合です。この場合は、「傾き同士の積が-1」になります。こういうものに関しては、1つの「公式」として結果を把握しておいたほうがよいと思います。

公式:直交する2直線の傾き

直交する2直線の「傾き」同士の積は、必ず-1になる。

この「直線同士が直交」する事に関して、高校数学での出題としては図形に対する接線と法線の関係は問われやすく、特に円に対する接線と法線の関係にも注意しましょう。図形問題としてだけでなく、それを式で表現させるという出題が高校数学ではなされる場合があります。

証明:直交する2直線の「傾き」同士の積は-1である

もちろん、傾きの積がー1になれば直角であるという事は、自明ではありませんね。そもそも、個々で言う「直交する」事が図形的な意味で使われているので、これを式ではどう考えるのかを解釈する必要があります。

証明の方法はいくつかありますが、ここでは三角関数を使う方法とベクトルを使う方法を紹介します。

三角関数を使う場合、傾きはタンジェントで表せる事を上記で軽くふれましたが、これを利用します。

【証明①:三角関数を使う方法】

$$\tan \alpha \tan \beta=\frac{\sin \alpha}{\cos \alpha} \cdot\frac{\sin \beta}{\cos \beta}=\frac{\sin \alpha \sin \beta}{\cos \alpha \cos \beta}$$

$$\alpha -\beta=90° ならば\cos (\alpha -\beta)=0より、\cos \alpha \cos \beta+\sin \alpha \sin \beta=0\Leftrightarrow\cos \alpha \cos \beta=-\sin \alpha \sin \beta$$

$$したがって、\tan \alpha \tan \beta=\frac{\sin \alpha \sin \beta}{-\sin \alpha \sin \beta}=-1【証明終り】$$

べクトルを使う場合は、2直線の交点から直線上の(任意の)点までのベクトルを考えて、内積が0であるして計算します。

【証明②:ベクトルを使う方法】

2つの傾きをS,Tとします。(A,B)からのx座標の(任意の)増分Xを考えて(A+X,B+SX)と(A+X,B+ST)を考えます。これらは直線上の座標点でもありますが、ベクトルとしても考える事ができるのです。

ベクトルとして考えた時、直交するという条件は「内積が0」という条件になります。

この時、内積をとるベクトルは(A+X,B+SX)-(A,B)=(X,SX)と(A+X,B+TX)-(A,B)=(X,TX)です。(ベクトルの考え方で言うと、原点に平行移動させて考えてもよいという事です。)

内積を計算すると、直交する条件のもとでは

$$(X,SX)\cdot(X,TX)=0\Leftrightarrow X^2+STX^2=0\Leftrightarrow X^2(1+ST)=0$$

この式が任意のXについて成立するには1+ST=0⇔ST=-1
すなわち、直交する2直線の傾きの積はー1になるという事です。【証明終り】

参考までに、平行や直角ではなく、特定の30°とか45°で直線同士が交わるという条件が仮に問われた場合は、傾きをタンジェントで表して、三角関数の加法定理で対応するという手法を使えます。これについてもベクトルを使う方法、あるいは複素数を使う方法等、手法はいくつか考えられます。

応用問題②:他の図形と組み合わせる問題

高校数学の範囲ですと、放物線であるとか円であるとかいった他の図形と直線の関係を問う問題があります。これは、何点で交わるかとか、直線が他の図形の接線になる条件は何か等を問う類のものです。

放物線や円の場合、直線の式とそれらを連立させて、二次方程式を作らせる問題が典型的です。その二次方程式が重解を持つ場合は1点のみで交わる接線という事になり、異なる2つの実数解であれば2点で交わり、異なる2つの複素数解の場合には直交座標上で「交わらない」という事になるのです。

「ある1点を通って、かつ円に接する2直線の式は何か」といった類の問いの場合は、前述の1点を通る直線の式と円を表す式を連立させて条件を調べるといった具合の解法になります。

接線について問う問題の場合、微分が使える場合もあります。センター試験の場合は微分の知識がなくても解ける問題しか出題されませんが、問題によっては通常のやり方と微分によるやり方の2通りで解く事で、解答が正しいかのチェックなどに使える場合もあります。

サイト内関連記事【高校数学で扱う関数】

因数分解を学ぶ意味と計算のコツ

因数分解と言えば中学数学で悪名高いものの1つかと思います。

これをめぐる話は色々あるのですが、まず数学の教員すらもよく言ってしまう「まとめる」という言葉で因数分解を表現する事に、じつはひとつの問題があります。その事についても見ていきましょう。

因数分解は積の形に「分解」する事

日常で使う因数分解 ■ 中学校等での式の因数分解

日常で使う因数分解

因数分解は、「分解」です。

1つの数を、2つ以上の「積」の形に分解する事を言います。

その意味で、50=10×5のような形で表す事はやっている事としては因数分解です。

合計50円の物を買うために10円玉を5枚取り出すという時には、
じつは因数分解の思考をしているのです。

因数分解の本質的な意味 $$因数分解とは:50=10×5のように、A=B×Cなどの積の形に分解する事$$

50=5×5×2と表せるように、A=B×C×Dのような3つ以上の積で表す事も指します。

後述するように、中学校等で教わる「式に関する因数分解」も本質的に同じ意味です。

因数分解を「何に使うのか」という事は頻繁に言われる事ですが、じつのところ日常の生活でも使われる、数に関する操作と思考の1つが因数分解なのです。

掛け算は普段から使う計算だと思いますが、2×3=6に対して、これを逆に見て6=2×3という見方をする事が因数分解の考え方と言ってもよいかと思います。

中学校等での式の因数分解

さてしかし、そうは言っても、多くの人が問題としているのは次のような「式の」因数分解の事でしょう。

$$x^2+2xy+y^2=(x+y)^2,\hspace{10pt}x^2+3x+2=(x+1)(x+2)\hspace{10pt}等$$

で、こういう問が出題される時に、教員もよく言ってしまうのが、「まとめる」という表現です。そう言いたくなる気持ちは分かりますし、実際上、便利な表現だとも思います。

しかし、このように式に関する因数分解も、操作としてはまとめているのではなく「分解」しているのです。上記の因数分解を、もう1度書いてみましょう:

$$(x^2+2xy+y^2)=(x+y)^2=(x+y)(x+y),\hspace{10pt}(x^2+3x+2)=(x+1)(x+2)\hspace{10pt}等$$

どうでしょうか?

これだと、1つの数を2つ以上の数の積に「分解」している事が分かりやすいのではないでしょうか。50=10×5として表すのと全く同じなのです。

通常は、左辺のかっこはなくても同じ意味になるので省略してしまいますが、式の場合であっても複数の積の形に「分解」して表す事も可能であるというのが中学や高校で教わる因数分解の意味なのです。

式の因数分解も積の形への「分解」 $$因数分解とは:(x^2+3x+2)=(x+1)(x+2)のように、1つのまとまりを積の形に分解する事。$$

因数分解を行う事が有用であるのは、何と言っても方程式の解が得られる事にあります。これは、実数や複素数についての 「A×B=0 ⇔ A=0またはB=0」 という性質を利用しているのです。(※高校以上で学ぶ「行列」などについてはこの関係式が成立しないので注意。)

$$(x+1)(x+2)=0\Leftrightarrow x=-1\hspace{5pt}または\hspace{5pt}x=-2$$

$$したがって、x^2+3x+2=0の\hspace{5pt}解は、x=-1\hspace{5pt}または\hspace{5pt}x=-2$$

こういった具合に計算ができるので、数学、自然科学、工学の理論で使われるというわけです。

因数分解のコツ

学ぶ「意味」は分かったとしても、それでも計算問題として苦手であるという人もいるかと思います。

ではうまく計算して得意になるコツはあるのかというと、人によってやり方は多少違うので一概には言えませんが、その1つをここで挙げてみたいと思います。

$$■問い:x^2+15x+56\hspace{5pt}の因数分解はどのようになりますか。$$

こういった問題があった時には「定数項」に着目するとよい場合が多いです。
すなわち、上式では56の部分です。

因数分解とは逆に式を展開する時の事を考えると分かりやすいのですが、

$$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$$

ですから、上記のような2次式の因数分解を考える場合、定数項を何らかの「2つの数の掛け算」として表す事がヒントになります。この2つの数とは任意の実数であったり複素数でもいいわけですが、中学校で問われる問題の場合、大抵は整数だと思います。

56の場合、1×56、2×28、4×14、8×7などの表現方法があります。(できれば頭の中で思い浮かべられると、試験の時は楽です。)

次に1次の項\(15x\)に着目し、1×56、2×28、4×14、8×7の数の組み合わせのうち、加えたら15になる数はあるかというと、8と7の組み合わせが該当しますね。従って、因数分解は次のようになるのです:

$$x^2+15x+56=(x+8)(x+7)【解答】$$

因数分解2
実際問題として試験等でこの手の問題を解く時には、頭の中で2つの数の掛け算と足し算を組み合わせて、あてはまるものを選んで因数分解するとよいかもしれません。もちろん、分かりにくい場合は紙に書きましょう。

このように「綺麗な形ですんなりと」因数分解を見つけられないケースも当然ありますが、学校で出題される問題は解けるように作ってあるので、大抵は綺麗な数の組み合わせである事が多いと思います。

式にマイナスが入っている場合の考え方も同じで、

$$x^2-7x-18$$

の因数分解は、掛けて -18になって、今度は(マイナスも含めて)加えると -7 になる組み合わせを考えます。この場合は、-9 と 2 が該当しますので、次のように因数分解できます。

$$x^2-7x-18=(x-9)(x+2)$$

因数分解に関する応用問題

中学~高校の問題 ■ 大学数学での問題

中学~高校の問題

さて、学校で出題される問いは上記のようにある程度分かりやすいものである事が普通ですが、次のような「汚い式」の因数分解はどうすればよいでしょう。

$$■問い:x^2+\sqrt{2}x-6\hspace{5pt}の因数分解はどのようになりますか。$$

これを見て、因数分解は「できない」のではないか?と思う人もいるかもしれませんが、因数分解はできます。綺麗な形には到底ならないという前提付きですが・・。

こういった問題は普通はあまり出ないとは思いますが、高校入試や、考え方自体は大学入試のセンター試験程度では出題される可能性はあるかもしれません。

因数分解3
係数は理論上、実数だけでなく複素数でも可です。手計算で解けるかは別問題にして、因数分解が可能であるのは一般の3次式でも4次式でも5次式でも、何次式でも同じ事が適用できます。(ただし、無限級数の場合には少し話が変わってきます。)

理屈としては、二次方程式は異なる2つの解か、重解1つを必ず持ちます。しかも、これは手計算で解を出す事ができます。

$$x^2+\sqrt{2}x-6=0を満たす\hspace{5pt}x=\alpha\hspace{5pt}または\hspace{5pt}\beta\hspace{5pt}は存在し、(x-\alpha)(x-\beta)=0となる$$

という事を利用して「因数分解」が可能であるという事です。ですから、因数分解しなさいと言ってますが、実質的には2次方程式を解くという問題なのです。

$$\left(x+\frac{\sqrt{2}}{2}\right)^2-\frac{1}{2}-6=0$$

$$\Leftrightarrow \left(x+\frac{\sqrt{2}}{2}\right)^2=\frac{13}{2}$$

$$\Leftrightarrow x+\frac{\sqrt{2}}{2}=\pm\frac{\sqrt{26}}{2}$$

$$\Leftrightarrow x=\frac{-\sqrt{2}\pm\sqrt{26}}{2}$$

方程式にした場合の2つの解が分かりましたので、これで「因数分解」できます。

$$x^2+\sqrt{2}x-6=\left(x-\frac{-\sqrt{2}+\sqrt{26}}{2}\right)\left(x-\frac{-\sqrt{2}-\sqrt{26}}{2}\right)$$

$$=\left(x+\frac{\sqrt{2}-\sqrt{26}}{2}\right)\left(x+\frac{\sqrt{2}+\sqrt{26}}{2}\right)【解答】$$

尚、仮にこういう問いが出題されて答えの形が汚くて合ってるかどうか不安になる時はチェックをするとよいでしょう。因数分解したものを、逆に展開してみてもとの式に一致するかを見ればよいのです。

二次方程式の「解と係数の関係」として考えても同じです。

$$(x – \alpha)(x – \beta)=x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta$$

解と係数の関係を使う場合、プラスマイナスの符号に多少の注意が必要です。

ここでは、因数分解された最後の結果を展開する事でチェックしてみましょう。

$$\left(x+\frac{\sqrt{2}-\sqrt{26}}{2}\right)\left(x+\frac{\sqrt{2}+\sqrt{26}}{2}\right)\hspace{5pt}を展開計算します。$$

$$\frac{\sqrt{2}-\sqrt{26}}{2}+\frac{\sqrt{2}+\sqrt{26}}{2}=\sqrt{2},\hspace{10pt}\frac{\sqrt{2}-\sqrt{26}}{2}×\frac{\sqrt{2}+\sqrt{26}}{2}=\frac{2-26}{4}=\frac{-24}{4}=-6$$

このようになるので、正しく因数分解できている事を確認できます。

■参考:3次式の因数分解

一般の3次式を因数分解する方法も基本は2次式と同じですが、一般の3次方程式の解を手計算だけで出すのは結構面倒なので、てきとうな「簡単な1つの解」を見つけさせて、「1次式と2次式の積」の形の因数分解をさせる問いのほうが、出題されるとすれば多いのではないかと思います。

例えば、 $$x^3-x^2-x-2$$ という3次式の因数分解では、じつはこの式に \(x=2\) を代入すると 0 になるので、
まず \((x-2)\) が1つの因数(掛け算を構成する項の1つ)であると分かるのです。

つまり、もとの3次式の因数分解は $$x^3-x^2-x-2=(x-2)(x^2+Ax+B)$$ の形になります。ここで、定数項に着目すれば $$-2=-2B\Leftrightarrow B=1$$ であり、1次の項は $$-1=B-2A=1-2A\Leftrightarrow -2=-2A\Leftrightarrow A=1$$ という事になりますから、これで解答を出せるわけで $$x^3-x^2-x-2=(x-2)(x^2+x+1)$$ と、因数分解できます。2次式の部分をさらに因数分解する事も可能です。

大学数学での問題

大学数学の範囲だと、全体の中の位置付けとしてはそれほど重要ではないのですが、一応存在するテーマとして「無限級数の因数分解」というものがあります。例えば次のようなものです:

$$1-\frac{x^2}{6}+\frac{x^4}{120}-\frac{x^6}{5040}+\cdots=\left(1-\frac{x^2}{\pi^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{4\pi^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{9\pi^2}\right)\cdots$$

左辺は和が無限に続く「無限級数」で、右辺はそれが因数分解され無限個の積の形になった「無限積」です。
\(\pi\) は円周率で 3.14・・を表します。

もちろん、魔法のように唐突にこの関係式が得られるのではなく、1つ1つの数学的事実を組み合わせると、結果としてはこのような関係式も成立する事が分かる、というものです。

この関係式を得るには少々面倒な手続きがあって、まず左辺の無限級数は、じつは微積分の知識を使って出てくるものなのです。【正弦関数のマクローリン展開を x で割ったものです。】

そして、それを「因数分解」する時に、そもそも無限級数を無限積の形に「因数分解してよいのか?」という問題もじつはあります。これについても、極限や微積分に関する分野での考察が必要になります。これは、厳密に考えると結構面倒です。

いずれにしても中学でも高校でも大学でも、因数分解において重要な考え方は「積の形にする」という事なのです。

グリーンの公式【複素関数論】

ここでは複素関数論におけるグリーンの公式と呼ばれる式について説明します。
同じ名前の公式はいくつもあって大変紛らわしいのですが、ここでは複素関数論の、複素数の積分に関して成立する関係式について述べます。

この公式は、複素関数論で重要なコーシーの積分定理を証明するのに必要です。

複素数の定義と基本事項については別途に詳しくまとめています。

グリーンの公式とは?

公式の内容 ■ 公式の別の表記法 ■ 複素関数論の中での位置付け 

公式の内容

複素関数論におけるグリーンの公式とは、次の複素数の積分に関する関係式を言います。

グリーンの公式 $$\int_C f(z)dz=\int\int_D\left(i\frac{\partial}{\partial x}-\frac{\partial}{\partial y}\right)f(x,y)dxdy$$ $$z=x+iy,\hspace{5pt}C:閉曲線,\hspace{5pt}D:閉曲線Cで囲まれる領域$$

$$ここで、\left(i\frac{\partial}{\partial x}-\frac{\partial}{\partial y}\right)f(x,y)=\left(i\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}-\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\right)\hspace{5pt}の事です。$$

また、ここでのxやyでの偏微分は、
これらの変数を「独立変数であるように見なした時の」偏微分の計算を指します。

そのように言うのは、ここでは積分の経路として閉曲線を指定しますから、xとyは独立変数ではなく従属関係にあるからです。(例えばy=2xなど。これについてはこのページの後半でも再度触れます。 )

ただし、ここでの偏微分で表される計算は、通常の独立多変数に対する偏微分の時と同じく、「yを固定してxだけで微分操作をする」という意味である・・という事です。

グリーンの公式【複素関数論】1
グリーンの公式とコーシーの積分定理は、複素関数論の積分の理論の中でも重要な箇所の1つですが、いかんせん、少々分かりにくいところでもあるかと思います。
この結果自体が得られると、その後の理論はしばらくの間は割と難しい理屈が少なく進んでいくところがあります。

公式の別の表記法

全く同じ公式を、別の表記で表す事もあります。

これは、形式的には「複素変数zで偏微分する」形で表されますが、じつはこれは普通の意味での偏微分ではなく、複素関数論において特別に定義される記号です。

定義

z=x+iyの時、記号を次のように定義します:

$$\frac{\partial}{\partial \bar{z}}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x}+i\frac{\partial}{\partial y}\right)$$ $$\frac{\partial}{\partial z}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x}-i\frac{\partial}{\partial y}\right)$$

この記号を使うと、上記のグリーンの公式は次のように書けます。

グリーンの公式の別の表記法 $$\int_C f(z)dz=2i\int\int_D\frac{\partial}{\partial \bar{z}}f(x,y)dxdy$$ $$z=x+iy,\hspace{5pt}C:閉曲線,\hspace{5pt}D:閉曲線Cで囲まれる領域$$

どちらの表記法でも問題ないですが、記号の定義を知らないと、「共役複素数で偏微分って何の事・・??」と、思ってしまうかもしれませんね。その記号は、あくまで定義によって特別に意味が約束されているものです。

複素関数論の中での位置付け

冒頭で少し触れていますが複素関数論の複素数の積分論の中で、「コーシーの積分定理」というものがあります。これは、正則関数を閉曲線に沿って定積分すると必ず0になるというもので、これをもとに種々の複素数の積分の理論は組み立てられています。

それで、その積分定理は自明な事かというと、そうではありません。その定理の証明のためにグリーンの公式が使用されます。

ですから複素関数論におけるグリーンの公式とは、言ってみれば理論上重要な定理の「補題」的な位置付けにあると言えると思います。

もちろん、必要があれば他の用途に使う事もできます。また、考え方自体は多変数関数の線積分や、ベクトル解析に共通するところがあるのでそれらの分野にも考え方を適用できます。

グリーンの公式の証明

証明のポイント ■ 積分経路と媒介変数 ■ 証明の計算 

証明のポイント

積分の経路として「閉曲線」考えている事と、定積分を行う場合には複素数の実部と虚部に分けて考えてよい事がポイントです。

公式の内容を見ると、曲線上の積分を領域内の重積分で表せるという事であるわけですが、ある関数はその導関数の定積分として上手く表せる事を利用します。この考え方はベクトル解析での定理の一部を示す時にも使用されます。

導関数をうまく使う $$\int_a^b\frac{df}{dx}dx=f(b)-f(a)$$

考え方はシンプルで、微積分学の基本定理をうまく使います。

定積分を考える時には項が2つ出てきてしまいますが、閉曲線を考えている事がポイントで、上手い具合に閉曲線の「上部分」「下部分」等の2つの部分に分けて必要な項を作れるのです。この時、後述しますがxとyによる積分それぞれについてそれらを考えるので、少なくとも4つの経路を考え、最後に合算します。

証明の後半では重積分の結果は積分変数の順序によらない事も使用します。

積分経路と媒介変数

dz=dx+idy において、閉曲線Cを指定する場合はxとyに従属関係があって、
1つの媒介変数tで表す事ができます。

$$x=x(t),\hspace{5pt}y=y(t)$$

複素数の積分と積分経路
積分経路が指定されているという事は、例えばy=3x などの何らかの関係があるという事です。
(より一般的には閉曲線ならg(x,y)=0が成立。例えば円や楕円。)
積分する時にはxとyを別々に考える事ができるのであまり気にしなくてもよいのですが、 補足的に、述べておきます。

そこで、微分についても z=z(x,y) に対して次の関係があるわけです:

$$dz=\frac{\partial z}{\partial x}\frac{dx}{dt}dt+ \frac{\partial z}{\partial y}\frac{dy}{dt}dt $$

ここで、x、yによる偏微分は
「あたかも独立変数であるように、1つの変数のみで微分する」操作の意味です。

tによる微分の部分は、媒介変数が1つだけですので、
偏微分として書かなくてもよく通常の微分になります。

さて、となると、z=x+iy ですから、

$$ \frac{\partial z}{\partial x} =1,\hspace{10pt} \frac{\partial z}{\partial y} =i $$

となるので結局、

$$dz=\frac{dx}{dt}dt+ i\frac{dy}{dt}dt $$

という事になり、tで定積分を行う場合には1変数の合成関数の積分公式がそのまま使えて、結局xとyのそれぞれで積分して加えればよいという事です。

合成関数の積分公式を使える。 $$\int_U^Wf(z)dz=\int_{T1}^{T2}f(z)\frac{dz}{dt}dt=\int_{T1}^{T2}f(x,y)\frac{dx}{dt}dt+ \int_{T1}^{T2}if(x,y)\frac{dy}{dt}dt $$ $$=\int_{X1}^{X2}f(x,y)dx+\int_{Y1}^{Y2}f(x,y)dy$$

定積分においては、積分変数以外の変数は定数扱いで計算するとします。

もともとdz=dx+idyなので最初から積分する時には定積分を2つの部分の和にできると考えてもよいのですが、ここでは積分経路上でyとxには従属関係がある点に注意して説明をしておきました。

証明の計算

【グリーンの公式の証明】

さて、閉曲線上を経路として定積分する時にxとyに分けて定積分すればよいわけですが、ここでさらに、積分経路もxとyの各々について2つ以上に分けます。少なくとも4つの定積分を考える事がポイントです。

まずxについて。
閉曲線を切断するような、yが一定の直線分と、平面図上で閉曲線の上側の部分と下側の部分を考えます。この時、直線分に対して必ず上下に閉曲線の一部が対になって存在するようにします。このような閉曲線の分割を最低でも1つ行い、ものによっては2つ以上行います。

グリーンの公式【複素関数論】2
直線状の補助線(図の Cx 等)は、なくても証明できます。
ただし、ここでは分かりやすくするために入れています。

ここで、f(z)=f(x,y)=f(x+iy) である事に注意します。まず「直線状の線分と閉曲線の下側の経路」(必ずしもつながってなくてもいい)で構成されるxによる定積分を、ぐるりと反時計周りに1周するように考えます。

$$\int_{C1}f(z)dx-\int_{CX}f(z)dx=\int_{X1}^{X2}f(x+iy)dx- \int_{X1}^{X2}f(x+iY_1)dx $$

$$=\int_{X1}^{X2} \left( – \int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx = -\int_{X1}^{X2} \left(\int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

分割に使う直線分が2つ以上の場合も同様に定積分を考えておきます。

関数f(x,y)=f(x+iy) を、積分変数のみに着目した意味での(偏)導関数を定積分したものと考えるわけです。(プライスマイナスの符号に注意。)この考え方はベクトル解析などでも使います。

次に、 「直線分と閉曲線の上側の経路」で構成されるxによる定積分を、反時計周りに1周するように考えます。この時、直線部分は上記と同じものを共有してますが、積分の方向が逆です。曲線部分も積分の方向が逆なので符号が変わる点がポイントです。

$$-\int_{C2}f(z)dx+\int_{CX}f(z)dx=-\int_{X1}^{X2}f(x+iy)dx+\int_{X1}^{X2}f(x+iY_1)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \left( \int_{Y1}^{Y(x)}\frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

さきほどとは曲線が別のものになるので、y = y(x) ではなく y = Y(x) という形に書いて区別しています。

ここで、上記の2つのxについての「反時計回り」の定積分を加え合わせると、

$$\left( \int_{C1}f(z)dx-\int_{CX}f(z)dx \right)+ \left( -\int_{C2}f(z)dx+\int_{CX}f(z)dx \right) = \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \left( \int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx -\int_{X1}^{X2} \left( \int_{Y1}^{Y(x)}\frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \int_{y(x)}^{Y1} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy- \int_{X1}^{X2} \int_{Y1}^{Y(x)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy $$

$$ =-\int_{X1}^{X2} \int_{y(x)}^{Y(x)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy=-\int\int_D \frac{\partial f(x,y) }{ \partial y}dxdy $$

このように、もとの関数を(1つの変数以外は固定する意味で)偏微分したものの領域内に渡って重積分したものになるわけです。結果的にマイナス符号がついたのは「反時計回り」を考えた事に由来し、仮に「時計回り」を考えるならこの符号は逆になりプラスになります。xが変数の場合、右から左と、左から右に積分する場合では符号は逆になります。

上記のように重積分の形になると、それを「領域全体にわたって行う積分」とみなせます。

重積分についての補足
【重積分】通常の2変数の重積分は「体積」を計算する事に使ったりします。 複素関数の場合には体積を計算しているわけではありませんが、行っている計算と考え方は同じです。

分割が2つ以上の場合でも、定積分を全て加え合わせて閉曲線が全てつながるようにします。(補助的に考えている直線状の線分の部分は、分割がいくつであっても全てプラスマイナスが打ち消し合って定積分の合計は0になります。)

今度は、yについての定積分についても同じ事をやります。途中の計算は全く同じなので少々省きますが、次のようになるのです。

$$\left( \int_{C3}f(z)dy-\int_{CY}f(z)dy \right)+ \left( -\int_{C4}f(z)dy+\int_{CY}f(z)dy \right) = \int_{C3}f(z)dy -\int_{C4}f(z)dy $$

$$ =\int_{Ya}^{Yb} \int_{x(y)}^{X(y)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial x}dxdy=\int\int_D \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial x}dxdy $$

yのほうには i を添えたうえで、得られた結果を合わせると次のようになります。

$$ \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx + i\int_{C3}f(z)dy -i\int_{C4}f(z)dy $$

$$= \int\int_D \left( – \frac{\partial }{ \partial y} +i\frac{\partial }{ \partial x} \right) f(x+iy) dxdy= \int\int_D \left( i\frac{\partial }{ \partial x} – \frac{\partial }{ \partial y} \right) f(x,y) dxdy $$

分割した部分がxとyについて合わせて4つを超える場合でも同じで、全て加え合わせます。

再びdz=dx+ i dyに戻ると、閉曲線C上で反時計周りに定積分を行う場合は次のようになります。

$$\int_Cf(z)dz=\int_Cf(x,y)dx+i\int_Cf(x,y)dy$$

$$= \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx + i\int_{C3}f(z)dy -i\int_{C4}f(z)dy $$

分割の部分が多い場合も同様です。もとの閉曲線の曲線部分が全て入るようにします。

xについては、左→右:+符号 右→左:逆で-符号
yについては下→上:+符号 上→下:-符号 として部分ごとに定積分を対応させます。

これによって、結局公式の通りの関係式が成立する事になります。

$$ \int_Cf(z)dz=\int_Cf(x,y)dx+i\int_Cf(x,y)dy = \int\int_D \left( i\frac{\partial }{ \partial x} – \frac{\partial }{ \partial y} \right) f(x,y) dxdy 【証明終り】$$

参考:長方形による近似を使う証明の方法

参考までに、積分経路として小さな「長方形」を考えて、これの合計として任意の閉曲線を経路とする時も成立するという証明の仕方もあります。

こちらの考え方だと、長方形ですので最初からxのみ、yのみという考え方が使えて、積分の計算がらくです。積分の方向を反時計回りという事で決めておけば、ぴったり隣り合う長方形同士の接する辺同士は積分が打ち消し合って周囲だけの分が経路として残るというわけです。

ただしこの方法の場合、じつは経路自体の形が「長方形 → 任意の(滑らかな)閉曲線」に移行する段階の時の話が少し面倒です。実際、円のような曲線を多角形で近似するような事は珍しくありませんが、「長方形」で近似するという事は、他の数学の分野ではあまり多くやらない事かと思います。一般の多くの複素関数論の教科書では、この詳細をあまり書きたがらない傾向があるように思います。

本質的には上記で述べた証明方法と比べて、やる事はそんなに変わりません。

グリーンの公式【複素関数論】3
長方形の経路を組み合わせて証明する方法もあります。

前述の通り、複素関数論におけるグリーンの公式は、コーシーの積分定理に結びつく事で、さらなる積分の理論を組み立てる事に使われていきます。