立体角の定義と使われ方

立体角(solid angle)は、平面上の角度を空間的な広がりに拡張したものであり、球の表面積を利用して表されます。通常の平面の角度の事は、この記事では主に「平面角」と表記します。

立体角の単位は無単位とする事もありますが【sr】(steradian) という単位も一応あります。この記事では平面角のラジアン【rad】と区別する目的で、立体角に対して単位を付けて表記している事があります。

平面角はθで表される事が多いのに対して立体角はΩあるいはω(いずれも「オメガ」)で表記される事が多く、この記事でもその文字を使用します。Ωという文字は、電気抵抗の単位でも使われてその時は「オーム」と読みますが、ここではその意味ではなく文字の1つである「オメガ」として使用します。

立体角の定義と「錐面」

あまり聞き慣れない語かもしれませんが立体角の定義には錐面(「すいめん」)という言葉を使うと表現的に便利です。(使わなくても定義はできますがここでは使用する事にします。)

立体角は1つの点を基準として球面(範囲は任意)に対して錐面が囲む領域の表面積でとして定義されます。「錐面」とは円錐や三角錐などをより一般的に表した立体的な図形の側面の部分を表します。

錐面(「すいめん」)とは

錐面とは空間内の「1点」から伸びて1つの閉曲線を通過する直線の集まりによって形成される曲面を指します。(三角錐の側面のように平面状である物も含みます。)
1点を通過する直線の集まりとしても考えられますが、立体角を考える」場合には普通は半直線の集まりとしての錐面を考えます。
錐面を形成する閉曲線が円であればそれが「底面」を成して全体を構成する立体(錐体) は円錐であり、三角形であれば三角錐、四角形であれば四角錐となるといった具合になります。
立体角を考える時には模式的に円錐状の広がりを考える事も多いですが(分かりやすいので)、考える錐面は理論上は色々なものがあってよい事になります。

平面では三角形の一部に対して通常の角度(平面角)を考えますが、空間では円錐などの錐体を一般化したものの側面である錐面によって空間的な広がり(立体角)を考える事ができます。この図では円錐などの「底面」を敢えて上側に持ってきて描いています。
立体角の定義

立体角Ω【sr】はある1点Oからの3次元空間的な広がりを定量的に表します。
Oを中心とする半径rの球面において
「Oを頂点とした錐面で囲まれる領域」の面積をSωとした時に、次式で表されます。 $$\Omega=\frac{S_{\omega}}{r^2}$$ ところで球の表面積は \(4\pi r^2\) で表されるので、実はこの式は
考えている球の半径の具体的な値に関わらず立体角は同じ値になる定義となっています。
そこで、錐面で囲まれる球面上の領域の面積を「球面全体の面積のK倍」とすると次式で考える事もできます。 $$S_{\omega}=4\pi r^2Kと置く時、$$ $$\Omega=\frac{S_{\omega}}{r^2}=4\pi K$$ つまり立体角は4πの倍数(任意の実数倍ですが普通は1以下の有理数)で表され、
半球全体の広がり(空間全体の2分割)を表す立体角は2π【sr】です。(K=1/2)

次に見て行くように立体角は考えている球面(あるいは任意の曲面)がプラスとマイナスの符号の違いがあり、さらに任意の実数の値を考える事ができます。

球の表面積を表す記号としてはSでもAでも他の文字でも何でもよいのですが、ここでは一般の閉曲面の表面積も考えていくので球面上の領域の面積には添え字を付して区別しています。

平面で通常の角度である平面角θを考える時も実は同じような考え方がなされています。
原点から伸びる2直線と、原点を中心とするてきとうな半径rの円との交点を考えて、その円弧の長さLを半径rで割った値が弧度法での角度θであると言えます。つまりθ=L/r【rad】と考えていて、L=2πrkとおくならθ=2πk【rad】であり、すなわち
「2πの何倍か」によって平面上の1点から伸びる2直線の広がりを角度θで表している
というわけです。
ただし平面角の場合、その倍率であるkは任意の実数値ですが普通は敢えて無理数では考えずに有理数を使う事が多いわけです。
90°であれば2π/4=π/2【rad】
60°であれば2π/6=π/3【rad】
45°であれば2π/8=π/4【rad】のようにしている事の
拡張が立体角の考え方であると言えます。
ただし立体角の場合は、同じ立体角の値となる広がりの錐面の形状は一般的に1つとは限らず様々な形状があり得ます。

立体角の大きさの範囲

立体角を0【sr】から2π【sr】に増加させると、広がりとしては半球の大きさ分になります。
図形的に見るとそこから先も半球分に立体角を加えていく事は可能に見えるわけで、実際そこからさらに立体角を増やす事は可能です。

立体角が2π【sr】を超える時には図形的には錐面は球面の反対側の領域を切りとっていく事になるはずです。この時に錐面と球面の交わりで作られる閉曲線の「内側」と「外側」の関係を統一的に考えて、0【sr】から始めて「閉曲線の内側」と考えていた向きを2π【sr】から先も保つとします。

すると、錐面が切り取る球面上の領域の表面積は2π【sr】にさらに値が追加されていく事になります。それを続けると立体角は「球の内側から見た球面全体に対する広がり」(すなわち「空間全体」に対する広がりと同じ)を表す4π【sr】まで増加します。

つまり通常の3次元空間での立体的な広がりを表すには、立体角の「大きさ」は0≦Ω≦4πの範囲で考えれば十分という事になります。球全体の表面積に対する倍率では0≦K≦1を考えています。
ただし後述するように、曲面に対する表裏の関係で立体角を符号も含めて考える時は
マイナスの値も含まれるようになって範囲が-4π≦Ω≦4πとなります。(さらにその範囲外の場合も立体角は定義されますが、ここでは原則として除いて考える事にします。)

後述するように、あるいは図形的に考えて閉曲面内に立体角を考える点を設置して閉曲面全域に対して立体角を考える場合にはその立体角のは符号も含めて4π【sr】です。逆に閉曲面の外側から閉曲面全域についての立体角を考えると、その立体角は0【sr】になります。(閉曲面の外側から閉曲面全域の立体角を考える場合、閉曲面を2に分割して同じ大きさのプラスマイナスの符号だけ異なる立体角を合計する事で0になります。)

動く点から1つの曲面に対して立体角を考える場合には
点が曲面の外を通って1周した後に曲面を通過してもとの位置に戻る時に、
曲面通過時に立体角が4π【sr】または-4π【sr】変化するという事が起こります。
ただし通常の図形的な考察ではその場合を考えなくてもよいので、
以下ではその場合を除いて考えていきます。

立体角が負の数である時の定義

立体角Ωが0≦Ω≦4πの範囲の時、
立体角を考える基準の点は球面(半径に関わらず)の内側にあります。

そこで、空間内のてきとうな位置から何かの曲面に対して立体角を考える時には
曲面に表と裏がある時には次のように立体角の符号を決める定義をします。

立体角のプラスとマイナスの符号の定義
  • 基準点が曲面の裏側にある時:立体角の値の符号はプラス+
  • 基準点が曲面の表側にある時:立体角の値の符号はマイナス-

ここでの曲面の表裏の関係は、法線面積分等を考える時の意味での曲面の表裏と同じです。
符号の関係をここでの場合とは逆にしても定義は可能ですが、ここでは混乱を避けるためにこの定義のもとで話を進めます。

ここでの「表側」「裏側」という事をより具体的に言えば、
曲面の外縁となっている閉曲線の各点から基準点に向けての錐面を構成する線分が曲面の表面側から出る方向を向いているか、裏面側から出る方向を向いてるかの違いになります。

この定義とは逆の方法で、立体角の符号を逆に考える定義もあります、ただし以下ではこの図の位置関係での定義として立体角の符号を考えます。

法線面積分およびガウスの積分との関係式

立体角は前述の符号も含めた関係の定義のもとで、
てきとうな曲面Sがあった時にその曲面上の法線面積分で表す事ができます。

さらに立体角を法線面積分で表す時、被積分関数はガウスの積分【位置ベクトル(x,y,z)を距離の3乗で割ったものに対する「閉曲面」上の法線面積分】での被積分関数になります。
そのため、特にSが閉曲面の時には立体角は-4π≦Ω≦4πの範囲においてガウスの積分として値が3通りに決まります。

法線面積分による立体角を表す式

原点をOとして\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\) として、その大きさはrで書きます。
ある曲面Sの外縁となっている閉曲線の各点から原点に直線を引いて錐面を作った時、 原点Oから見た立体角は次のように符号も含めて法線面積分で表されます。 $$\Omega=\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ■右辺を勾配で表した時 $$\Omega=-\int_S\left\{\mathrm{grad}\left(\frac{1}{r}\right)\right\}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ■特に曲面Sが閉曲面である時
上記の積分はガウスの積分であり、
値は原点OとSの位置関係によって次の値になります。

原点Oの位置立体角Ωの値(およびガウスの積分の値)
閉曲面Sの内部\(\Omega =4\pi\)
閉曲面Sの外部\(\Omega =0\)
閉曲面S上\(\Omega =2\pi\)

閉曲面を考える場合には閉曲面に対して立体角を考える点が
「内部にあれば裏側」「外部にあれば表側」という事が確定するので、
-4π≦Ω≦4πの範囲で立体角が符号も含めてこれらの3通りに決まります。
ある点から曲面あるいは閉曲線に向けての立体角を考える時、その立体角を曲面等から点に向けて「張る」立体角であると表現される事もあります。

立体角を法線面積分で表す関係式を導出する方法としては、
曲面を細かい平面に分割して角度(平面角)の関係から微小面積に対する関係式を考えるか、もしくは最初から積分で考えてみてガウスの発散定理を適用する方法があります。

曲面が閉曲面の時にはガウスの積分そのままの計算であり、値の導出の計算にはガウスの発散定理を使うと導出する事ができます。

立体角の定義から考えると、外縁となる閉曲線を共有する複数の開曲面に対して錐面の延長をはみ出さない限りは「立体角は1つだけの値として決まるはず」です。
その事は、立体角を考える点から見て「曲面の表裏の関係が同じであれば」成立します。

【積分の表記の場合でもガウスの発散定理を使う事でそれが成立する事を確認できます。下記の2番目の方法でも触れるように、\(\overrightarrow{r}\)/(r)の発散は0である事を使用します。】

この場合、錐面から曲面がはみでている場合でもはみ出た部分によって閉曲面を考えると、その部分の符号も含めた立体角はガウスの積分で表せることから0となって消えるので立体角の大きさに影響しない事になります。

他方で、立体角を考えている点Oに向けて閉曲線から曲面を引っ張ってきたような場合には話が変わってきます。例えばそれで1つの曲面が点Oに重なる場合には積分の表記で考えると実は2つの曲面に対する立体角には2πの差ができます。さらに、閉曲線を共有する1つの曲面ともう1つの曲面が1つの閉曲面として点Oを内部に含むようになると、2つの曲面に対する立体角には4πの差が生じます。【その時に2つの立体角についてΩ=Ω+4πという関係になります。立体角は4πを超える事もありますが、ここでの場合に限定して言うと片方の曲面の表裏の関係を保ったまま動かしているのでΩ2はマイナスの値の立体角となり、Ω<4πとなります。】

微小面積で考える場合の導出

立体角を考える基準点の原点Оは開曲面Sの裏側のほうに位置しているとします。

まず球面の領域の表面積から立体角を考える定義のもとで1つの立体角は球面の領域を分割して考える事ができて、さらに考える球面の半径は任意でよい事から分割した微小領域ごとに立体角を考えるための球の半径を自由に設定できます。

ここで球面を微小な平面領域で近似する場合には一般的に半径が大きい球のほうが細かい分割が必要なので、大きい半径を考える時ほどさらに細かく分割を行うものとします。

分割は球面上および曲面上の3点をつないで三角形領域で行うとして、
曲面Sの分割領域の頂点から原点Оに向けて直線を引き、球面に対しても微小領域の頂点がその直線上にあるように分割を行います。必要に応じて分割はより細かくします。

\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\)を考えて、球面の微小領域がその点を含むように位置で球の半径を調整します。(積分をする時にはS上の微小領域上にベクトルを平行移動させるとして考えます。)
\(\overrightarrow{r}\)は原点から(x,y,z)に向かうベクトルであり、原点を中心とする球の球面に対して垂直です。

次に微小領域同士がなす角度θ(平面角の意味)は、
図の位置関係から\(\overrightarrow{r}\)と曲面S上の面積要素ベクトル\(d\overrightarrow{s}\)のなす角に等しくなります。
(面積要素ベクトルは曲面上の微小領域に垂直です。)

曲面S上の微小領域の面積を\(|d\overrightarrow{s}|\) =dsとして
球面上の微小領域の面積をdAとおくと、dA=dscosθです。

他方で\(\overrightarrow{r}\)と\(d\overrightarrow{s}\)の内積を計算すると\(\overrightarrow{r}\cdot d\overrightarrow{s}\)=r ds cosθ=r(ds cosθ)=rdAです。
そのため、今考えている微小領域に対する立体角の微小量をdΩの定義式から計算すると次のようになります。【途中で分子に対してr(ds cosθ)の形を作る変形をしています。】

$$d\Omega =\frac{dA}{r^2}=\frac{rdA}{r^3}=\frac{rds\cos\theta}{r^3}=\frac{\overrightarrow{r}\cdot d\overrightarrow{s}}{r^3}$$

そこで、曲面Sの領域全体に対して微小領域を合計して分割の極限をとる事で法線面積分の形になります。(dΩを同じ領域で積分すると、曲面S上の分割と球面上の分割は1つ1つ対応させているので全体の立体角Ωとなります。)

$$\Omega=\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

\(\overrightarrow{r}\)/(r)は、-1/rに対する勾配ベクトルを使って-grad(1/r)とも書けます。

閉曲面の場合には開曲面を2つ考えてつなぎ合わせる事により、
表と裏の関係による符号にだけ注意すれば同じように関係式が成立します。

微小面積に対する立体角の式

同時に、ここでの導出での途中式で得られている関係式も
物理的な考察に使える事があります。 $$d\Omega =\frac{dA}{r^2}=\frac{ds\cos\theta}{r^2}$$ 導出ではこれを内積として考えて法線面積分ができる形にしていますが、
これをそのまま使える場合というのもあります。

発散定理から考える方法

曲面Sの外縁の閉曲線の各点から原点Оに向かって直線を引いて錐面を作り、原点は曲面Sの裏側のほうに位置しているとします。球面は原点を中心とします。原点と曲面の間のてきとうなところで球面を考えて、「開曲面Sと錐面と球面上領域S」で構成される閉曲面Sを考えます。

すると原点から向かう位置ベクトル\(\overrightarrow{r}\)は、その閉曲面上では曲面S上で表側を向き、球面上では裏側を向きます。つまり同じ被積分関数\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する法線面積分は符号が互いに逆になります。

原点を中心とする球面上では球面に対して\(\overrightarrow{r}\)は垂直なので各微小領域で\(\overrightarrow{r}\)/(r)と面積要素ベクトルとの内積は1/(r)とdsの積です。球面上で1/(r)は一定値である事に注意すると、法線面積分は定数をS=0から「表面積の値」まで積分したものになります。
そこで球面上領域Sの面積を4πrkとおくと、S上の法線面積分は、閉曲面Sでは裏側で行う事にも注意して-4πk(=-Ω)となります。

$$\int_{Sc}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{Sc}\left|\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right|ds=\int_{Sc}\frac{1}{r^2}ds=\frac{1}{r^2}\int_{Sc}ds【S_c 上でrは一定値なので】$$

$$=-4\pi r^2k\cdot\frac{1}{r^2}=-4\pi k$$

また錐面は\(\overrightarrow{r}\)の定数倍の線分で構成される微小平面の集まりなので、各微小領域で面積要素ベクトルは\(\overrightarrow{r}\)に垂直です。よって、錐面での\(\overrightarrow{r}\)/(r)の法線面積分は0になります。

ここで、ガウスの発散定理を使うために
\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する発散(無限大の発散ではなく div のほう)を考えると次の公式がつかえます。

使用している公式

ベクトル場に対する発散 div の直接計算により次式が成立します。 $$\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)=0$$ ベクトル場の発散 div\(\overrightarrow{F}\) はスカラー量です。

そこで、ガウスの発散定理を使うと次式が成立します。

$$\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0【発散定理より】$$

$$他方で、\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-4\pi k$$

$$よって、\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-4\pi k=0\Leftrightarrow\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi k=\Omega$$

Sを閉曲面として考える場合には原点ОからSに向かって引いた直線でSに接するものを考えます。接点で構成される閉曲線によりSを2分割して錐面と球面上の領域を含めた全体の領域を考えれば、その内部にある開曲面上の法線面積分は表と裏で合計するとプラスマイナスが打ち消して0になるので上記と同じく開曲面Sに対しての考察で関係式を導出できます。

\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する発散の計算は上図のようになります。当サイト他記事より内容を引用。

円錐の半頂角と立体角の関係式

円錐があった時に、円錐の頂点から見た時の円錐の広がりを表す立体角はどれほどになるでしょうか。これは「底面の中心を含む円錐の断面に等しい三角形を考えた時に、斜辺を半径として円錐の頂点を原点とする球が円錐の底面の周によって切り取られる領域の表面積はいくらですか」という問題です。

円錐の場合には立体角以外にも半頂角(これは平面角)を使う事でも広がりを表現できます。
半頂角とは、
「円錐の頂点と底面の中心を含む断面の三角形における円錐の頂点を含む角度の半分」です。
半頂角の大きさを弧度法で表してφ【rad】であるとして、立体角との関係式を作る事ができます。

円錐の半頂角と円錐の頂点から見た立体角の関係

底面の中心を含む円錐の断面に等しい三角形を考えた時に、
斜辺の長さをrとして、半頂角の大きさをφ【rad】とすると
円錐の頂点から見た立体角は次のように表されます。 $$\Omega=2\pi (1-\cos\varphi)【sr】$$ rは円錐の底面の円周上の点から頂点までの距離でもあり、また円錐の頂点から見た立体角を考える時の球の半径としても特に扱います。(立体角を考える球の半径は任意ですが、一番計算しやすい半径としてここでのrを使います。)
この式でφ=π/2(これは半頂角の値で、2倍するとπです)とおくと
半球分の表面積をrで割った値となり、半球分の立体角を表します。

この式は図形的な考察と積分(1変数の)によって導出します。

底面の中心から球面上に直線を引き、円錐の高さとなっている線分とのなす平面角をθとします。底面の中心から球面上までの長さを保ったまま直線を回転させると球面上に円ができます。この時に円錐の頂点と底面の中心を含む断面ではθの値は同じです。円錐の頂点からその円までの範囲の面積をSとするとそれはθの1変数関数S(θ)です。円錐が作る立体角はΩ=S(φ)/(r)です。

ΔS=S(θ+Δθ)-S(θ)とすると、
図形的な考察によりΔS≒(rΔθ)・(2πrsinθ)であり、
ΔS/ΔθはΔθ→0の極限でr・(2πrsinθ)=2πrsinθと表せます。
そこで、逆に2πrsinθを積分すればS(θ)が得られるはずで、
定積分すればS(φ)が得られるはずであるという流れです。
【より詳しくは (rΔθ)・2πrsinθ ≦ ΔS(θ) ≦ (rΔθ)・2πrsin(θ+Δθ) となり、
変形すると2πrsinθ ≦ ΔS(θ)/Δθ ≦2πrsin(θ+Δθ) となるのでΔθ→0として、
sin(θ+Δθ)→sinθとなる事に注意して導関数(微分)がdS/dθ=2πrsinθのように表せると考えます。すなわち、1変数の定積分および微積分学の基本定理の考え方です。】
rΔθは円弧の長さ(直線状の線分の長さに近似)を計算していて、
ΔSの面積の部分の「幅」でもあります。
2πrsinθはS(θ)の表面積の領域の外周である円周の長さです。

この時にはθを積分変数として区間を[0,φ]のもとで積分をすると表面積に等しくなります。(この場合はこの計算で球の表面積の一部分を表せるという事であり、一般の曲面の表面積はより複雑です。)この積分でθの関数になっているのはsinθの部分だけになります。

$$S(\varphi)=\int_0^{\varphi}2\pi r^2\sin\theta d\theta=-2\pi r^2\large{[\cos\theta]_0^{\varphi}}=2\pi r^2(1-\cos\varphi)$$

立体角はS(φ)/(r)なので式からはrが消えて次式になります。
(Ωはrに依存しないはずなので、その事とも合っています。)

$$\Omega=\frac{S(\varphi)}{r^2}=\frac{2\pi r^2(1-\cos\varphi)}{r^2}=2\pi (1-\cos\varphi)$$

例1:立体角による電場に関するガウスの法則の理解

電場に関するガウスの法則(ガウスの発散定理とは関係はあるけれども別物)は、電荷が作る電場の大きさが距離の2乗に反比例する事に由来して数式的にはガウスの積分の形をしています。さらに法線面積分を考える対象が閉曲面であり、電荷が閉曲面の内部に含まれる考え方としては「立体角は4πになるので」という事で直ちに法則の結果を得るというわけです。

電場に関するガウスの法則の立体角による説明

Q【C】の電荷を囲む閉曲面Sに対して、電荷が作る電場に関して次の法則が成立します。
(εは真空の誘電率) $$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{\epsilon_0}$$ この式は「法則」なので(定理ではなく)そのまま受け取ればいいのですが、
この法則の場合は数式的に左辺が右辺に等しい事を見るために考察ができます。
電場ベクトルは大きさがQ/(4πε)【1/(4πε)はクーロン力の比例定数】であり、
向きは電荷の位置を原点とした時の単位位置ベクトル\(\overrightarrow{r}/r\)です。
【\(\overrightarrow{r}/r\)は、ベクトル(x.y,z)をrで割って大きさを1としたもの】
それをもとに書き直すと、法則の左辺は立体角に対する定数倍の形で表せます。

具体的に法則の左辺をQやrの形にすると次のようになります。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

つまりガウスの積分の定数倍という事になりますが、前述の考察によりそれは閉曲面に対する立体角と同一視する事もできるわけです。

そしてここでは電荷の位置(原点)は閉曲面の内部にあるので「積分の値は4π」であると考えれば、定数であるQ/(4πε)に乗じる事で法則の右辺の形Q/εを直ちに得れるという見方もできます。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon}\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\cdot4\pi=\frac{Q}{\epsilon_0}$$

これは計算としてはガウスの積分を使った場合と同じになります。

例2:電気二重層が作る電位

薄い導体板の片側に一様プラスの静電荷が一様な大きさで分布していて、その裏側ではマイナスの静電荷が一様な大きさで分布している電気二重層が作る電位は立体角を使って表現できます。

電気二重層が作る電位

導体板の厚さがb【m】で、板の表側の表面電荷密度がσ【C/m】(>0)であり
裏側の表面電荷密度が-σ【C/m】であるとして、
導体板内には電荷は存在せず、真空の誘電率はεとします。
この時に板から離れた点(板の厚さに比べて十分離れた位置)Pから板に向けて考えた立体角をΩとすると、点Pでの電位は次のように表されます。 $$V=\frac{b\hspace{1pt}\sigma\hspace{1pt}\Omega }{4\pi\epsilon_0}【V】$$ この式で、より具体的にはΩは別途に計算される必要があります。
考え方としては板磁石や、環状電流が作る磁場で電流が作る磁場の渦が十分弱いとみなせる位置において便宜的な量である「磁位」の計算する事にも使えます。

この関係式は板の表と裏に電気双極子(互いにわずかに離れた位置にある同じ大きさの電気量で存在するプラスとマイナスの電荷)が分布していると考えて、板の微小な部分が作る電位を計算すると点Pから見た微小面積に対する立体角の定数倍となる事から導出されます。

電気双極子が作る電位

互いにb【m】離れている+Q【C】と-Q【C】があり、 電荷の中点からr【m】離れていて2つの電荷を通る直線とのなす平面角がθの 位置Pでの電位を考えると、bに比べてrが大きければ次の近似式が成立します。 $$V=\frac{b\hspace{1pt}Q\hspace{1pt}\cos\theta}{4\pi\epsilon_0r^2}【V】$$ 単独の点電荷が作る電位はrに反比例するという結果なので、電気双極子の場合にはrの2乗に反比例するという結果が得られる所が異なります。
この式は単独の電荷が作る電位を合計して(差の形になりますが)、rがbに比べて十分大きいという近似のもとで平方根を一般二項定理により展開する事で得られます。

板の微小面積がdsの部分による点Pに作る電位dVを、電気双極子が作る電位とみなして計算します。プラスとマイナスの電荷の大きさはσdsで、電荷の距離は板の幅でdです。

$$dV=\frac{b\hspace{1pt}\sigma \hspace{1pt}ds\cos\theta}{4\pi\epsilon_0r^2}=\frac{b\hspace{1pt}\sigma}{4\pi\epsilon_0}\cdot\frac{ds\cos\theta}{r^2}=\frac{b\hspace{1pt}\sigma}{4\pi\epsilon_0}d\Omega$$

ここで行ったのは定数となる部分と立体角の微小部分dscosθ/(r)を見やすくするために分けた事と、前述の考察による微小面積部分におけるdΩ=dscosθ/(r)を代入した事になります。

ところで分割を十分細かくとったうえでdΩの合計をとると立体角Ωとなるわけですが、ここで考えている電位はスカラー量であり単純に加える事で合計の電位となるのでdV=kdΩの形の量を十分細かい分割のもとで合計すればVが得られます。すると板全体では、ここでは実はV=kΩを意味します。

$$分割を十分細かくした極限で合計してV=\frac{b\hspace{1pt}\sigma\hspace{1pt}\Omega}{4\pi\epsilon_0}$$

ただし先ほど触れた通り、より具体的に計算をするには板の形状などを指定したうえでΩの具体的な値の計算が必要です。

電磁場の波動方程式と真空中の電磁波の式

4つのマクスウェル方程式からは電磁波の式を得るための波動方程式およびそのもとになっている一般形の方程式の導出されます。

■関連サイト内記事

個々のマクスウェル方程式の性質や数式的な解析は他記事で詳しく説明しています。

電場と磁場の波動方程式

結論を先に述べると、マクスウェル方程式からは
次のような電場と磁場のそれぞれについての波動方程式を導出できます。

真空中での電場と磁場の波動方程式

真空中でρ=0および\(\overrightarrow{j}\)=0である条件では
電場と磁場のそれぞれについて成立する式は、
微分方程式としては次のように3次元の場合の波動方程式になります。

真空中における
電場の波動方程式
\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{E}=0\hspace{5pt}\)
真空中における
磁場の波動方程式
\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{B}=0\hspace{5pt}\)

εは真空の誘電率、μは真空の透磁率です。
係数については光の速さc=1/\(\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\)を使って書いても同じです。
また、方程式を左辺と右辺に分けて書いても同じ微分方程式を表します。

別の書き方左辺と右辺を分けた式光の速さを使った時
電場\(\nabla^2\overrightarrow{E} =\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2} {\Large\partial t^2}\overrightarrow{E}\) \(\left(\nabla^2-\frac{\Large 1}{\Large c^2} \frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{E}=0\)
磁場 \(\nabla^2\overrightarrow{B}=\epsilon_0\mu_0 \frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2} \overrightarrow{B}\) \(\left(\nabla^2-\frac{\Large 1}{\Large c^2}\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{B}=0\hspace{5pt}\)

このように電場と磁場のそれぞれについて全く同じ形の式がマクスウェル方程式から導出されるわけですが、「真空中」という条件がついています。

これらの波動方程式には、もとになっている形があります。

マクスウェル方程式から法則と数学的な変形だけで直接的に導出される式は、
真空中に限らず一般の場合に成立する式です。

もとの形の式(真空中とは限らず一般の場合)

マクスウェル方程式から導出されるもとの形の式は次の通りです。 $$\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\overrightarrow{E}=\frac{1}{\epsilon_0}\mathrm{grad}\rho+\mu_0\frac{\partial\overrightarrow{j}}{\partial t}$$ $$\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\overrightarrow{B}=-\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}$$ 一般の場合では電場と磁場の両方の式に電流密度が関係してくる事になります。

また、電場に対するスカラーポテンシャル(時間変動も含めた一般的な形)と磁場に対するベクトルポテンシャルを使った形の波動方程式と、そのもとになっている関係式もあります。

ポテンシャルを使った場合の波動方程式(一般形)
一般形εμを使って書いた時光の速さを使った時
電場の式\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\phi=-\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)\(\left(\nabla^2-\frac{\Large 1}{\Large c^2}\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\phi=-\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
磁場の式\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{A}=-\mu_0\overrightarrow{j}\)\(\left(\nabla^2-\frac{\Large 1}{\Large c^2}\frac{\Large\partial}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{A}=-\mu_0\overrightarrow{j}\)

右辺を0とみなせる状況下では普通の波動方程式の形になります。
ただし、後述するこの式の解は右辺の電荷密度と電流密度が0でない場合も含んだ形の解です。

電磁波と光の関係

真空中の光の速さをcとすると実は数値的にεμ=1/(c2) が成立しています。

ε=8.8542×10-12
μ=1.2566×10-6
c=2.9979×10です。

1/(εμ)≒1/(11.126187×10-18)≒8.9878×1016で、この平方根を考えると確かに真空中の光の速さとほぼ同じになります。
(物質中では光の速さは変わります。また、同じく誘電率と透磁率の値も物質中では変わります。)

さらに、波動方程式の解から分かる波(電磁波)が進行する速さは1/\(\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\) です。

これは電磁現象に限らず一般の波動について言える事で、
例えば速さvで「波形」が進行するsin(kx-ωt)のような形の関数はω/k=vのもとで
\(\left(\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial x^2}-\frac{\Large k^2}{\Large \omega^2}\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\sin(kx-\omega t)=0\) を満たします。
この時に時間で偏微分する項の係数の逆数の平方根(プラスの値)はω/kで、
ωは角速度または角周波数で周期Tとω=2π/Tの関係があります。
またkは波数で波長λとk=2π/λの関係があるのでω/k=(2π/T){λ/(2π)}=λ/Tです。
ここで波の進行の速さvはv=λ/Tで表されるので、ω/k=vとなっています。
正弦波に限らず波動に対しては速さを考える事ができ、また正弦波でない波動を正弦波の重ね合わせとして考える方法もあります。

εμ=1/(c2) からc=1/\(\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\) なので、
電磁波が真空中を伝わる速さは光の速さに等しいという結果が得られます。

ところで光はマクロで見ると波なので、
物理学的には電磁波と光は波動として同じものであると捉えられています。
上記の関係式は、偶然にもほぼ一致するという事では無くて
「理論的にも実験的にも必ず成立する式である」
というのが物理学における解釈であるわけです。

いわゆる「目に見える光」は可視光とも呼ばれ、光の波長によって見える範囲が限定されている事が分かっています。(人と動物ではその範囲が違っていたりします。)

電磁波が光であるというのは基本的には「波動としては」という事であり、光は粒子(光子)でもあります。より詳しく言うと光は1つ1つは粒子として振る舞うけれども、それが多数集まると波として振る舞うようになります(干渉などの現象を起こすようになる)。ただし、電磁波と光を同一視できる関係は通常のマクロなスケールにおいてだけでなく、ミクロのスケールにおいても電場と磁場(のポテンシャル)から考えて光を量子力学的に考察する事がなされます。

導出に必要な式および法則・記号・公式等

まず、マクスウェル方程式のうち時間微分を含む2式であるアンペールの法則と電磁誘導の法則の式に着目します。それらは、発散と回転の分類から言うと膜ウェル方程式の中で電場と磁場の回転に関する2式でもあります。

マクスウェル方程式の微分形
マクスウェル方程式
(微分形)
時間微分を含まない式
(電磁場の発散)
時間微分を含む式
(電磁場の回転)
電場の式電場に関するガウスの法則
\(\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
アンペールの法則
\(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
磁場の式磁場に関するガウスの法則
\(\mathrm{div}\overrightarrow{B}=0\)
電磁誘導の法則
\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\)

「ベクトル場の回転に対する回転」はベクトル解析での公式によりラプラス演算子(x,y,zでの2階偏微分を内積的な計算で作用させる演算子)を含む形になり、さらに途中計算で出てくる発散の項をガウスの法則(電場と磁場両方を使用)によって変形する事で波動方程式の形の微分方程式が得られる、というのが基本的な理論の流れです。

さらに「真空中」という条件を付ける事で電流密度の項を無視できるとすると比較的見やすい形の微分方程式となります。また、電場に対するスカラーポテンシャル(=電位)と磁場に対するベクトルポテンシャルからも同じく波動方程式を作る事ができて、特定の解を導出するにはそちらを使う方が簡単である場合もあります。

ナブラを使って書いた場合は次のようになります。

ナブラで書いた時
マクスウェル方程式
(微分形・ナブラ表示)
時間微分を含まない式
(電磁場の発散)
時間微分を含む式
(電磁場の回転)
電場の式電場に関するガウスの法則
\(\nabla\cdot\overrightarrow{E}=\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
電磁誘導の法則
\(\nabla\times\overrightarrow{E}=-\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\)
磁場の式磁場に関するガウスの法則
\(\nabla\cdot\overrightarrow{B}=0\)
アンペールの法則
\(\nabla\times\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)

電磁波の式の導出の時には2階の時間微分を使うのでラプラス演算子を使うと表記が便利です。
これはナブラによって表記できますがベクトルに対してはdiv, rot, grad の簡単な組み合わせでは書けません。
ただしスカラー場に対しては∇φ = div(gradφ) の関係は成立します。

使う公式

■「ベクトル場の回転」に回転をさらに作用させた時の式

通常表示$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)=\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{F}\right)-\nabla^2\overrightarrow{F}$$
ナブラ使用時$$\nabla\times\left(\nabla\times\overrightarrow{F}\right)=\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{F}\right)-\nabla^2\overrightarrow{F}$$

■ラプラス演算子(∇または△)
【これは記号として定義するものです。スカラーに対してもベクトルに対しても使えます。】 $$\nabla^2\overrightarrow{F}=△\overrightarrow{F}= \left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)\overrightarrow{F}$$ $$=\frac{\partial^2\overrightarrow{F}}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\overrightarrow{F}}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\overrightarrow{F}}{\partial z^2}$$ ■勾配ベクトルや発散に対する時間による偏微分
勾配や発散で使われる偏微分は座標変数によるものであり、
微分可能(ここでは2階まで)な関数であれば偏微分の順序は入れ換える事ができるので $$\frac{\partial}{\partial t}(\mathrm{grad}\phi)=\mathrm{grad}\left(\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)$$ $$\frac{\partial}{\partial t}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{F}\right)=\mathrm{div}\left(\frac{\partial\overrightarrow{F}}{\partial t}\right)$$ のように式を変形できます。
■その他のベクトル解析の公式

  • スカラー場φに対して、∇φ=div (gradφ)
  • \(r=\sqrt{(x-a_1)^2+(y-a_2)^2+(z-a_3)^2}\)に対して、
    r≠0の時 ∇(1/r)=div {grad(1/r)}=0
  • \(\overrightarrow{r}=(x-a_1,\hspace{2pt}y-a_2,\hspace{2pt}z-a_3)\)
    \(\overrightarrow{R}=\frac{\Large 1}{\Large r}(x-a_1,\hspace{2pt}y-a_2,\hspace{2pt}z-a_3)\) の時、
    grad(φ/r)=φgrad(1/r)+(1/r)gradφ
    =\(-\frac{\Large\varphi}{\Large r^2}\overrightarrow{R}+\frac{\Large 1}{\Large r}\mathrm{grad}\varphi\)
  • grad(1/r)=-{1/(r)} \overrightarrow{r}
  • \(\mathrm{div}(r^n\overrightarrow{r})=(n+3)r^3\)
    特にn=-1の時、\(\mathrm{div}\overrightarrow{R}=\mathrm{div}\left(\frac{\Large 1}{\Large r}\overrightarrow{r}\right)=2r^{-1}=\frac{\Large 2}{\Large r}\)
  • (∂/∂x)r= (x―a)/r
  • φ)=∇φ+2(gradφ)・(gradφ)+∇φ
    (積の微分公式を2回使う事に由来。第2項は内積です。)
  • div(φ\(\overrightarrow{F}\))=(gradφ)・\(\overrightarrow{F}\)+φdiv\(\overrightarrow{F}\)

以下ではラプラス演算子のみナブラ記号による∇を使用し、
その他は div, grad 等の表記を使います。それらは全てナブラ記号で表現する事は可能です。

電場についての波動方程式の導出

電場と磁場の両方についてかなり似た操作でそれぞれについての波動方程式を導出できます。電磁誘導の法則とアンペールの法則をそれぞれ使いますが、実は計算の過程において電場と磁場の場合の両方でマクスウェル方程式のうち3つを使う事になります。

電場についての波動方程式を導出する時には、まず電磁誘導の法則の式から始めます。

電磁誘導の法則の微分形\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\)
両辺に回転を作用させる

右辺は磁場の回転に対する
時間微分として書ける
\(\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\right)=-\mathrm{rot}\left(\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\right)\)

\(\Leftrightarrow\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\right)=-\frac{\Large\partial}{\Large\partial t}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\)
アンペールの法則
右辺に代入して
電場だけの式にする
◆時間による2階微分は
ここで生じます。
\(\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\right)=-\frac{\Large\partial}{\Large\partial t}\left\{\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\right\}\)
\(=-\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{E}}{\Large\partial t^2}\)
左辺に公式を適用して変形\(\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{E}\right)-\nabla^2\overrightarrow{E}=-\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{E}}{\Large\partial t^2}\)
電場に関する
ガウスの法則
を左辺に代入
\(\mathrm{grad}\left(\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\right)-\nabla^2\overrightarrow{E}=-\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{E}}{\Large\partial t^2}\)
\(\Leftrightarrow\frac{\Large 1}{\Large\epsilon_0}\mathrm{grad}\rho-\nabla^2\overrightarrow{E}=-\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{E}}{\Large\partial t^2}\)
電場の項とその他を
左辺と右辺に分けて整理
\(\Leftrightarrow\frac{\Large 1}{\Large\epsilon_0}\mathrm{grad}\rho+\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}=\nabla^2\overrightarrow{E}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{E}}{\Large\partial t^2}\)
\(\Leftrightarrow\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{E}=\frac{\Large 1}{\Large\epsilon_0}\mathrm{grad}\rho+\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{j}}{\Large\partial t}\)
真空中で電荷密度と
電流密度が0であると
すると、
3次元の波動方程式
の形になる
真空中を想定してρ=0および\(\overrightarrow{j}\)=0であるとすると

\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{E}=0\)
\(\left(\Leftrightarrow\nabla^2\overrightarrow{E}=\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\overrightarrow{E}としても可\right)\)

以上の式では、εμの項が出てきた時点で
光の速さcを使った形である1/(c)に直して計算を進める事もできます。結果は同じです。

磁場についての波動方程式の導出

磁場についてもアンペールの法則から始めて。同様の手順でやれば波動方程式を導出できます。

アンペール法則の微分形\(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
両辺に回転を作用させる

右辺は電場の回転に対する
時間微分として書ける
\(\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=\mathrm{rot}\left\{\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\right\}\)

\(\Leftrightarrow\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial}{\Large\partial t}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\right)\)
電磁誘導の法則
右辺に代入して
磁場だけの式にする
◆時間による2階微分は
先ほどと同じく
ここで生じます。
\(\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial}{\Large\partial t}\left(-\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\right)\)
\(=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}\)
左辺に公式を適用して変形\(\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{B}\right)-\nabla^2\overrightarrow{B}=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}\)
磁場に関する
ガウスの法則
を左辺に代入
(勾配の項は0になる。)
\(\mathrm{grad}0-\nabla^2\overrightarrow{B}=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}\)
\(\Leftrightarrow-\nabla^2\overrightarrow{B}=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}\)
磁場だけの項と
それ以外を分けて
式を整理
\(\Leftrightarrow-\nabla^2\overrightarrow{B}+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}\)
\(\Leftrightarrow\nabla^2\overrightarrow{B}-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{B}}{\Large\partial t^2}=-\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}\)
真空中で電荷密度と
電流密度が0であると
すると、
3次元の波動方程式
の形になる
真空中を想定して\(\overrightarrow{j}\)=0であるとすると

\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{B}=0\)
\(\left(\Leftrightarrow\nabla^2\overrightarrow{B}=\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\overrightarrow{B}としても可\right)\)

ポテンシャルによる電磁場の波動方程式の導出

電場のスカラーポテンシャルと磁場のベクトルポテンシャルから波動方程式(および一般の形の方程式)を作る事もできます。

この場合、まず電磁誘導の法則の微分形をベクトルポテンシャルを使った形にします。

ベクトルポテンシャルで
表した磁場
電磁誘導の法則の微分形ベクトルポテンシャルで
表した電磁誘導の法則
\(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}\)\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\Large\partial\overrightarrow{B}}{\Large\partial t}\)\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}= -\frac{\Large\partial}{\Large\partial t}\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\)
\(\Leftrightarrow\hspace{2pt} \mathrm{rot} \left(\overrightarrow{E}+\ \frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\right)=0\)

ここで、静電場に対する渦無しの法則を考えた時と同様に
「回転が0であるベクトル場」は何かのスカラー場の勾配として書けます。

そのスカラー場を考えて磁場の時間変化が無い時は電位に等しくなるように-Φとします。そのようにおいた式の両辺の発散を考えると式をラプラス演算子で表せます。

スカラー場Φを考えます。
(一般の場合の電場に対する
スカラーポテンシャル)
\(-\mathrm{grad}\phi=\overrightarrow{E}+ \frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\)となるΦが存在する。
両辺の発散を考えます。
すると、左辺は
ラプラス演算子∇
表す事ができます。
\(-\mathrm{div}\left(\mathrm{grad}\phi\right)=\mathrm{div}\left(\overrightarrow{E}+\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\right)\)
\(\Leftrightarrow -\nabla^2\phi=\mathrm{div}\left(\overrightarrow{E}+\ \frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\right)\)
(※スカラー場に対しては∇Φ=div(gradΦ)が成立。
ベクトルに対しては同様の簡単な関係式は作れません。)

ところでベクトルポテンシャルのゲージ条件はまだ何も決めていないので、少し唐突で無理やり感もあるように見えるかもしれませんが次のゲージ条件を課します。

ここで使うゲージ条件

このゲージ条件を特に「ローレンツ条件」と呼ぶ事があります。 $$\mathrm{div}\overrightarrow{A}+\epsilon_0\mu_0\frac{\partial\phi}{\partial t}=0$$ $$\left(あるいは光の速さcを使って\mathrm{div}\overrightarrow{A}+\frac{1}{c^2}\frac{\partial\phi}{\partial t}=0\right)$$ 下記では、この式の時間微分を考えたものと、勾配を考えたものも使用します。
■時間微分をしたもの $$\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{div}\overrightarrow{A}+\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\phi}{\partial t^2}=0$$ $$\Leftrightarrow\mathrm{div}\frac{\partial\overrightarrow{A}}{\partial t}+\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\phi}{\partial t^2}=0$$ $$\Leftrightarrow\mathrm{div}\frac{\partial\overrightarrow{A}}{\partial t}=-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\phi}{\partial t^2}$$ ■勾配を考えたもの $$\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\right)+\mathrm{grad}\left(\epsilon_0\mu_0\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)=0$$ $$\Leftrightarrow\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\right)=-\left(\epsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{grad\phi}\right)$$ $$電磁誘導の法則に由来する-\mathrm{grad}\phi=\overrightarrow{E}+\frac{\partial\overrightarrow{A}}{\partial t}を使って、$$ $$\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\right)= \epsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t}\left(\overrightarrow{E}+\frac{\partial}{\partial t}\overrightarrow{A}\right) = \epsilon_0\mu_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}+\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\overrightarrow{A}}{\partial t^2}$$

磁場に関するガウスの法則はベクトルポテンシャルを考える事自体に使っている事に注意すると、先ほどの電磁誘導の法則をポテンシャルで考えた式を考えた時点でまだ使っていないマクスウェル方程式は電場に関するガウスの法則とアンペールの法則です。

そこで電磁誘導の法則から得られたベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルの関係式を、同じくポテンシャルで表した電場に関するガウスの法則とアンペールの法則に代入して上記のゲージ条件を適用すると波動方程式が得られます。

電場のスカラーポテンシャルの場合

電場に関するガウスの法則(微分形)\(\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
一般形のスカラーポテンシャルで表した
電場に関するガウスの法則
\(-\mathrm{div}\left(\mathrm{grad}\phi+\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\right)=\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
【ゲージ条件から】
\(\mathrm{div}\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}=-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\phi}{\Large\partial t^2}\)
【スカラー場で成立する式】
Φ=div(gradΦ)
\(-\nabla^2\phi+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\phi}{\Large\partial t^2}=\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
\(\Leftrightarrow\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\phi=-\frac{\Large\rho}{\Large\epsilon_0}\)
電荷密度を0とみなせる
場合には波動方程式の形
\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)\phi=0\)

この結果は、ベクトルではなくスカラー場の波動方程式になっています。

また、ポテンシャルで考える場合には電磁場を考える地点での電荷密度を0と考えずに一般形のまま計算をする事がよくあります。さらに、後述するこの微分方程式の解となる式においては電磁場およびポテンシャルを考えている地点とは別の領域に存在する電荷密度の分布を考えます。
それは電位やベクトルポテンシャルを考える時にも使う考え方ではありますが、紛らわしい事もあり注意が必要な点とも言えます。

磁場のベクトルポテンシャルの場合

磁場の場合はアンペールの法則の微分形から始めて、計算式が一見少し複雑になりますが波動方程式の形に変形できます。

アンペールの法則の微分形\(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
\(\overrightarrow{B}=\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\)を代入
回転に関する公式により変形
\(\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\right)=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
\(\Leftrightarrow\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\right)-\nabla^2\overrightarrow{A}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
【ゲージ条件から】
\(\mathrm{grad}\left(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\right)\)
\(=\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{A}}{\Large\partial t^2}\)
代入すると電場の項
(変位電流の部分)
が消えます。
\(\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}+\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{A}}{\Large\partial t^2}-\nabla^2\overrightarrow{A}\)
\(=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\Large\partial\overrightarrow{E}}{\Large\partial t}\right)\)
両辺に同じ係数の変位電流の項があり、消える。
\(\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2\overrightarrow{A}}{\Large\partial t^2}-\nabla^2\overrightarrow{A}=\mu_0\overrightarrow{j}\)
整理するとこの形\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{A}=-\mu_0\overrightarrow{j}\)
電流密度を0とみなせる
場合には波動方程式の形
\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial}{\Large\partial t^2}\right)\overrightarrow{A}=0\)

ここでは静電場に限定せず一般の電場を考えているので、
電場のスカラーポテンシャルは\(\overrightarrow{E}=-\mathrm{grad}\phi\)(静電場の場合)ではなく、
上記の
\(-\mathrm{grad}\phi=\overrightarrow{E}+\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\)
\( \Leftrightarrow\overrightarrow{E}=-\mathrm{grad}\phi-\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\)を使用しています。

平面波解として得られる電磁波の式

ベクトルに対する偏微分方程式も、
成分ごとに見ればスカラー関数に対する偏微分方程式になります。例えば、
\(\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\Large\partial^2}{\Large\partial t^2}\right)E_x=0\)などです。

これの解の1つとして比較的簡単で代表的なものは次のような平面波です。
(以下、c=1/\(\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\)であるとします。)

平面電磁波の式【電場のx成分についての波動方程式の解の1つ】

2階まで微分可能である任意の2つの関数U(u)とW(w)を使って、
変数をz-ctとz+ctとして電場のx成分について
=U(z-ct)+W(z+ct)
のような関数形を考えます。(xとyに関しては変数ではない関数。)
すると、実はこれは真空中の電場に関する波動方程式の解になっており、
平面電磁波あるいは単に平面波を表すものになります。

これは一体何を言っているのかという話ですが、U(z-ct)は進行波でW(z+ct)が反射波を表します。さらにxとyは変数ではないという関数形である事は「z軸方向に進行していく」事を表します。

※この段階では「波」と言っても周期関数に限らず、何らかの「波形」の関数が時間ごとに進行していくものです。また、zだけが特別扱いというわけではなく、U(y-ct)+W(y+ct)のような関数を考えればこれはy方向に進行していく「波」を表します。
いずれにしても、定数cはそれが進行していく速さを表すわけで、εμ=1/(c2)の関係式によって「電磁波が進行する速さは光の速さに等しい」という事を表しています。
最初のほうで少し触れたように、具体的な正弦波などの関数を想定する場合には波としての速さと関数に対する変数の部分(位相)との間に関係式を作る必要な事があります。
例えばここでの場合で進行波としての正弦関数を考える時には、
振幅E0と波数 k に対してE0sin(ku)の形の式にu=zーctを代入して
E0sin(kz-kct)=E0sin(kz-ωt)のようにします。

上記の式が確かに波動方程式の解になっているかどうかについては直接計算すればよいのですが、意外と少し面倒くさくて変数と微分の関係などに注意する必要があります。(微分をしていくだけの計算問題になるので、記述は後回しにします。)

電場のx成分とy成分が平面電磁波を表す形であるとして、
磁場に関してもx瀬尾文とy成分が同様の形であるとします。
∂E/∂x=0と∂E/∂y=0および∂E/∂x=0と∂E/∂y=0などの関係をマクスウェル方程式に戻って当てはめていくと、他の成分についても決定するものが複数あります。
それらを整理すると次のようになります。

平面電磁波における電場と磁場の成分の関係式
=U(z-ct)+W(z+ct)および
=U(z-ct)+W(z+ct)から
∂E/∂x=∂E/∂y=0
∂E/∂x=∂E/∂y=0
磁場に関しても波動方程式は
同じ形なのでBとB
zとtのみの関数だとして
∂B/∂x=∂B/∂y=0
∂B/∂x=∂B/∂y=0
電場に関するガウスの法則で
電荷密度ρが0のもとで
∂E/∂x+∂E/∂y+E/∂z=0
により∂E/∂z=0
磁場に関するガウスの法則より∂B/∂x+∂B/∂y+B/∂z=0
により∂B/∂z=0
/∂z=0を波動方程式に当てはめて∂E/∂t=0
電磁誘導の法則の微分形の
z成分を考えると
∂E/∂x-∂E/∂y=-∂B/∂tより
∂B/∂t=0

∂E/∂z=0である事を踏まえて、
さらにEがxとyに関しても定数だとしても波動方程式を満たすのでそのようなものを考えます。
つまりその場合は∂E/∂x=∂E/∂y=0です。

その条件下では、電磁誘導の法則のx成分とy成分から
∂E/∂z=∂B/∂t
∂E/∂z=-∂B/∂t
という関係が得られます。

その事から、その条件下で電場と磁場のx成分とy成分の関係は次のようになります。


=U(z-ct)+W(z+ct)
B
=(1/c){-U(z-ct)+W(z+ct)}
∂E/∂z
=∂B/∂t

=U(z-ct)+W(z+ct)
B
=(1/c){U(z-ct)-W(z+ct)}
∂E/∂z
=-∂B/∂t

もし進行波と反射波が別々のベクトルであるとするなら、電磁波の進行方向に対して垂直な平面内で進行波における電場と磁場は直交し、反射波における電場と磁場も直交する事になります。

進行波と反射波が
別々のベクトル
という仮定
電場磁場進行方向に垂直な
平面内での電場と磁場の内積
入射波Ex1=U
Ey1=U
Bx1=-U/c
By1=U/c
(1/c)(-UU+UU)=0
反射波Ex2=W
Ey2=W
Bx2=W/c
By2=-W/c
(1/c)(WW-WW)=0

電磁波における電場と磁場の成分が正弦波あるいはその重ね合わせであると考えると、平面電磁波の電場と磁場の成分が進行方向に垂直である事は「波数ベクトル」との内積が0になる事でも示せます。

=U(z-ct)+W(z+ct)が波動方程式の解である事を見るには次にようにします。
Z=z-ct,Z=z+ctとするとE=U(Z)+W(Z)であり,
(∂/∂t)E=(dU/dZ) (∂Z/∂t)+(dW/dZ) (∂Z/∂t)
=-c(dU/dZ)+(dW/dZ)

【※もしU(P(z,t),Q(z,t))のような関数なら
∂U/∂t=(∂U/∂P)(∂P/∂t)+(∂U/∂Q)(∂Q/∂t)のような計算になります。
ここでは∂z/∂t=0なので見かけ上はその項が無い形になっています。 】
さらに計算すると、
(∂/∂t)E=-c(dU/dZ) (∂Z/∂t)+c(dU/dZ) (∂Z/∂t)
=-c(dU/dZ)+c(dU/dZ)

同様にして、
(∂/∂z)E=(∂/∂z){(dU/dZ) (∂Z/∂z)+(dW/dZ) (∂Z/∂z)}
=(∂/∂z){(dU/dZ)+(dW/dZ)}
=(dU/dZ) (∂Z/∂z)+(dU/dZ) (∂Z/∂t)
=(dU/dZ)+(dU/dZ)

よって、{∂/∂z-(1/c) (∂/∂t)}E=0であり、
=U(Z)+W(Z)はzとtだけの関数という設定なので
xとyによる偏微分は0である事に注意すると
{∇-(1/c) (∂/∂t)}E=0
を満たす事が分かります。
y成分についても同じ変数の形Z,Zと、異なる関数形U,Wを考えて
=U(Z)+W(Z)
というzとtだけの関数として計算すれば波動方程式を満たします。

ポテンシャルによる計算から得られる電磁波の式

ポテンシャルを使ったほうの波動方程式を解くと、少し別の形の数式での電磁波の式を得ます。

スカラーポテンシャルにしてもベクトルポテンシャルにしても、静電場と静磁場の場合には積分の形はとるけれども一応微分方程式の解としてポテンシャルを数式で表す事は可能です。

そして前述のポテンシャルの波動方程式および一般の形の式(ρ≠0等の場合)でも、実はかなり似た形の式が解になります。

静電場や静磁場に限定した時と異なる点は、電荷密度と電流密度に変数として加わる「時間」の部分です。そしてその時間変数は、空間中で電磁波による電磁場を考えている地点と、電磁場を作っている電荷や電流がある領域との時間変化における「時刻」のずれが反映された形にする必要がある事が知られています。

具体的には、まず平面波を表す解で得られた電磁波の速さc=\(\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\)が一般に適用できるものだと仮定して、電荷や電流の各位置から電磁場を考える位置までの距離をrとします(これは関数)。

そして、電荷や電流の時間変数をtとした時に、その変数をt-r/cに置き換えたものを考えます。
これはrという位置座標の関数を含むのでx,y,z,tの関数です。
そこでT(x,y,z,t)=t-r/cとおいておきます。

前述のポテンシャルで表した場合の真空中の波動方程式、および電荷密度あるいは電流密度が0でない場合の式における解の1つは次式で表されます。

ポテンシャルによる波動方程式(ρ≠0の場合等の一般形含む)の解

ポテンシャルであるΦと\(\overrightarrow{A}\),および積分していないρや\(\overrightarrow{j}\)は
x,y,zおよびtの関数であるとします。
電荷あるいは電流密度が分布する領域をVとして、
dv=dXdYdXのもとで
(x,y,z)と(X,Y.Z)の距離をrとおき、 T=t-r/c のもとで
積分中の電荷密度ρと電流密度\(\overrightarrow{j}\)はX,Y,Z,T(=t-r/c)の関数であるとします。

式と解もとの式(波動方程式を含む一般形)解となるポテンシャル
電場$$\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}\hspace{20pt}$$$$\phi=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\frac{\rho}{r}dv$$
磁場 $$\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t^2}\right)\overrightarrow{A}=-\mu_0\overrightarrow{j}$$$$\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{r}dv$$

これらの解は遅延ポテンシャル(retarded potential)とも呼ばれます。
積分の中身とそれ以外の部分で関数が何の変数であるかを整理すると次のようになります。

◆x,y,z,tの関数
電場や磁場を考える位置と時間
◆X,Y,Z,Tの関数【積分の中身】
電荷密度や電流密度の分布内の位置
\(\phi=\phi(x,y,z,t)\)
\(\overrightarrow{A}=\overrightarrow{A}(x,y,z,t)\)
\(\rho=\rho(X,Y,Z,T)\)
\(\overrightarrow{j}=\overrightarrow{j}(X,Y,Z,T)\)

時間変数に関しては T=T(x,y,z,X,Y,Z,t)であり、x,y,z,X,Y,Z,t は互いに独立な変数です。
また、\(r=r(x,y,z,X,Y,Z)\) であり、積分に関してはx,y,zは定数扱いです。

また、ポテンシャルから計算できる電場と磁場は次のようになります。

遅延ポテンシャルから計算される電場と磁場

■電場
\(-\mathrm{grad}\phi=\overrightarrow{E}+ \frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\Leftrightarrow\overrightarrow{E}=-\mathrm{grad}\phi-\frac{\Large\partial\overrightarrow{A}}{\Large\partial t}\)である事と、
電荷密度の分布は領域内で微分可能(従って連続)である関数形である事
(X,Y,Zが積分変数の被積分関数をx,y,zやtで偏微分してから積分可能)、
ベクトルポテンシャルの項は静磁場の時の式を使ってεμ=1/(c )の関係に注意します。
積分内で電荷密度と電流密度は先ほどと同じくX,Y,Z,Tの関数とします。
電場と磁場はx,y,z,tの関数です。また、\(\overrightarrow{R}=\frac{\Large 1}{\Large r}(x-X,\hspace{2pt}y-Y,\hspace{2pt}z-Z)\)とします。 $$\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{r}dv=\frac{1}{4\pi\epsilon_0c^2}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{r}dvに注意して、$$ $$\overrightarrow{E}=-\mathrm{grad}\left(\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V \frac{\rho}{r}dv\right)-\frac{\partial\overrightarrow{A}}{\partial t}$$ $$=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\left(\frac{\rho}{r^2}\overrightarrow{R}+\frac{\rho}{cr}\overrightarrow{R}-\frac{\partial }{\partial t}\frac{\overrightarrow{j}}{c^2r}\right)dv$$ ■磁場
回転と外積ベクトルの関係に注意して計算すると\(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}\)により、次式になります。
積分中のクロス「×」記号は外積の意味です。 $$\overrightarrow{B}=\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\left(\frac{\overrightarrow{j}}{r^2}\times\overrightarrow{R}+\frac{\overrightarrow{j}}{cr}\times\overrightarrow{R}\right)dv$$ これらの式は、時間変化する電荷密度や電流密度(具体的には周波数の高い交流電流など)によって電磁波を形成する電場と磁場の関数形を具体的に表せる事を意味しています。
また、電磁波が正弦波のような周期関数になるかどうかも、領域Vに分布する電荷密度や電流密度の形で決まる事になります。
式に積分が含まれている事を見ると分かる通り、実際に詳しく考察する時には工夫が必要です。
これらの式においてrが十分大きい時には1、/rに比例する項に比べて他の項をほぼ0とみなして近似する事ができます。

遅延ポテンシャルが解となっている事の確認計算

先ほどの「遅延ポテンシャル」が波動方程式を作るポテンシャルの式を満たすのかどうかは、少々長ったらしい計算が必要ですが確認する事ができます。

まず、スカラーポテンシャルのほうを見ます。ベクトルポテンシャルについても、成分ごとに見ればスカラーポテンシャルの時と同様に計算ができます。

と発散、勾配はいずれもx,y,zの変数での偏微分を行うものとします。

必要な計算
何を計算していくのか?電場のスカラーポテンシャルについて
電磁場に関する
波動方程式の一般形となるこの式に対して
$$\left(\nabla^2-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}$$
このように表されるΦを代入して
式が満たされるのかを検証。
$$\phi=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\frac{\rho}{ r}dv$$

積分の中身ρ/rについてラプラス演算子を作用させると、公式を使って
(ρ/r)=∇ρ+2{grad(1/r)}・(gradρ)+ρ∇(1/r)

ここでρ∇(1/r)の項に関してはr≠0であれば∇(1/r)=0になります。【ただし、電磁波の電場を考える点(x,y,z)が領域V内にあるような状況(r=0という事)があっても、極限値として考えれば実はこの項は積分をした時に有限の値になります。】
そこで、計算が必要なのは残りの2項になります。

  • ρ
  • 2{grad(1/r)}・(gradρ)

ρとrは積分の中にあり、
ρ=ρ(X,Y,Z,T) と r=r(x,y,z,X,Y,Z) の変数に注意して計算します。

勾配ベクトルの内積部分の計算

勾配ベクトルの内積部分の計算を先に見ます。

積分内のρの変数であるX,Y,Z,Tのうち
x,y,zの関数であるのはTだけです。
∂ρ/∂x=(∂ρ/∂T) (∂T/∂x)
【本来、数学的な計算としては∂ρ/∂x=(∂ρ/∂T) (∂T/∂x)+(∂ρ/∂X) (∂X/∂x)+・・・で、
∂X/∂x=0,∂Y/∂x=0,∂Z/∂x=0なので(∂ρ/∂X)(∂X/∂x)等の項は0】

ここでT=t-r/cなので、
∂T/∂x=-(∂/∂x) (r/c)=-(x-X)/(rc) であり、
∂ρ/∂x=(∂ρ/∂T) (∂T/∂x)=-{(x-X)/(rc)}(∂ρ/∂T)

他方でT=t-r/cをtで偏微分すると∂T/∂t=1であり、
∂x/∂tや∂X/∂t等は0なので
∂ρ/∂t=(∂ρ/∂T) (∂T/∂t)+(∂ρ/∂x) (∂x/∂t)+(∂ρ/∂y) (∂y/∂t)+・・・
=(∂ρ/∂T) (∂T/∂t)
=∂ρ/∂T

独立変数の関係にあるのはx,y,z,X,Y,Z,tであるので
【考えている位置自体は運動していないのでx=x(t)等の関係は無く、xとtは定数の関係。】
x,y,z,X,Y,Zに対するtの偏微分は0(例えば∂x/∂t=0など)

つまり∂ρ/∂t=∂ρ/∂Tの関係があるので
先ほどの式は
∂ρ/∂x=-{(x-X)/(rc)}(∂ρ/∂t)と書けます。
【Tによる偏微分ではなくtによる偏微分でも同じ結果になるという事。】

これらの事はyやzについても同様の計算で、時間変数による偏微分はtで書けます。
∂ρ/∂y=-(y-Y)(∂ρ/∂t)/(rc)
∂ρ/∂z=-(z-Z)(∂ρ/∂t)/(rc)となるので
\(\overrightarrow{R}=\frac{\Large 1}{\Large r}(x-X,y-Y,z-Z)\) とすると、
gradρ=-(1/c) (∂ρ/∂t)\(\overrightarrow{R}\)

ここで、grad(1/r)=-\(\overrightarrow{R}\)/(r)であり、
\(\overrightarrow{R}\)の大きさは1である事に注意すると∇(Φ/r)の式中の内積計算は
2{grad(1/r) }・(gradρ)={-2/(r) } {-(1/c) (∂ρ/∂t) }
={2/(cr) } (∂ρ/∂t)

【この項は、あとで消えます。】

電荷密度に対する∇ρの部分の計算

また、スカラー関数についてはρ=div(gradρ)なので、div(gradρ)を計算します。
grad(∂ρ/∂t)については先ほどのgradρ=-(1/c) (∂ρ/∂t)\(\overrightarrow{R}\)と同じ形の計算が可能で、
grad(∂ρ/∂t)gradρ=-(1/c) (∂ρ/∂t)\(\overrightarrow{R}\)

\(\overrightarrow{R}\) の大きさはr/r=1である事に注意して、
公式div(φ\(\overrightarrow{F}\))=(gradφ)・\(\overrightarrow{F}\)+Φdiv\(\overrightarrow{F}\) および
div\(\overrightarrow{R}\)=2/rも使用すると次のようになります。

$$\nabla^2\left(\mathrm{grad}\rho\right)=\mathrm{div}\left(\mathrm{grad}\rho\right)$$

$$=\mathrm{div}\left\{-\frac{1}{c}\frac{\partial \rho}{\partial t}\overrightarrow{R}\right\}=-\frac{1}{c}\left\{\left(\mathrm{grad}\frac{\partial \rho}{\partial t}\right)\cdot\overrightarrow{R}+\frac{\partial \rho}{\partial t}\mathrm{div}\overrightarrow{R}\right\}$$

$$=-\frac{1}{c}\left\{-\frac{1}{c}\left(\frac{\partial^2 \rho}{\partial t^2}\overrightarrow{R}\right)\cdot\overrightarrow{R}+\frac{2}{r}\frac{\partial \rho}{\partial t}\right\}$$

$$=\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \rho}{\partial t^2}-\frac{2}{cr}\frac{\partial \rho}{\partial t}$$

これを見ると、式の最後の形の2項目の-{2/(cr)} (∂ρ/∂t)に1/rを乗じると
先ほどの2{grad(1/r)}・(gradρ)={2/(cr)} (∂ρ/∂t)に加えれば0になる事が分かります。

よって、ここで式を一度整理すると次式になります。

$$\nabla^2\left(\frac{\rho}{r}\right)=\frac{1}{r}\nabla^2\left(\mathrm{grad}\rho\right)+2\left\{\mathrm{grad}\left(\frac{1}{r}\right)\right\}\cdot(\mathrm{grad}\rho)+\rho\nabla^2\left(\frac{1}{r}\right)$$

$$=\frac{1}{c^2r}\frac{\partial^2 \rho}{\partial t^2}+\rho\nabla^2\left(\frac{1}{r}\right)$$

この式に1/(4πε)を乗じて領域Vで体積積分します。
【ベクトルポテンシャルの成分の時には、ここでμ/(4π)を乗じます。】

$$\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\nabla^2\left(\frac{\rho}{r}\right)dv=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\left\{\frac{1}{c^2r}\frac{\partial^2 \rho}{\partial t^2}+\rho\nabla^2\left(\frac{1}{r}\right)\right\}dv$$

$$整理すると、\left(\nabla^2-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\left(\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\frac{\rho}{r}dv\right)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\rho\nabla^2\left(\frac{1}{r}\right)dv$$

r≠0の時はρ∇(1/r)=0なので波動方程式の形を満たす事が分かります。

$$r\neq 0であるなら、\left(\nabla^2-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\left(\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\frac{\rho}{r}dv\right)=0$$

ではr=0になるような点を含む場合ではどうかというと、その場合でも遅延ポテンシャルの形の式は積分をした時に極限を考える形でρ≠0の場合の方程式を満たします。(デルタ関数で考える事も多い。)また、遅延ポテンシャルによる解は実はかなり一般性を持った形の解でもあります。

直交曲線座標系の成分にベクトルを変換する方法

物理学などでは、微分方程式を座標変換して考える時があります。
例えば極座標における運動方程式や波動方程式を考えてみるといった事です。

そのような場合で特にベクトルを含む微分方程式を考える時には、
x=rcosθ等の関係の代入だけでなくベクトルの基本ベクトルを変更する事まで行う事があります。
普通はベクトルを成分で表す時には(x座標,y座標,z座標)で考えるわけですが、
それを(r座標,θ座標,φ座標)で表す事を意味します。
例えば運動方程式であれば加速度ベクトルや力ベクトルをそのように扱うという事です。

以下、微分も使いながら具体的な変換の方法などを詳しく説明します。

■この記事に特に関連が深い数学的な事項は方向余弦に関する内容と、極座標および球面座標に関する内容です。その他、記事の後半では微分に関する基本公式のいくつかを使用しています。ベクトルと三角関数に関する基本的な事項も使います。

基本ベクトルの変更をする必要がある場合と無い場合

極座標変換等をする場合の微分方程式については、
基本ベクトルを変更する必要がある場合と無い場合があります。

まず、変更の必要が無い場合を見てみましょう。

例えば「等速円運動をしている物体には常に中心力が働いている」という事を
運動方程式を使って示そうとするような場合です。
この時には物体の座標に対して極座標変換を行ってから時間微分を2回行って、
普通に運動方程式に当てはめて力ベクトルを計算する事には何の問題もありません。
このような場合は、極座標変換を使っていても基本ベクトルの変更が必要ない場合です。

少しややこしいようですがそのような場合には、
x=rcos(ωt) のような極座標変換は確かに行ってはいるけれども、
ベクトルの座標成分としては直交座標によるものを考えている
」のです。
ですので極座標による値によって計算をするとしても、
その結果は「xyz直交座標系のx軸で測った値」を出しているわけです。

もう少し詳しく見ると、そのような場合には極座標変換を使用していますがベクトルとして考えている加速度ベクトルや力ベクトルは成分を「x成分」「y成分」「z成分」として考えています。図的にはx軸、y軸、z軸に平行なベクトルの合計として1つの加速度ベクトルや力ベクトルを構成します。

では、加速度や力のベクトルを直交座標ではない成分表示で「r成分」「θ成分」「φ成分」のように表して、図的にも「ある点での曲線の接線方向」を向いたベクトルの合計として1つの加速度ベクトルや力ベクトルを構成できるのか?
という事を考えると、結論を言うと「それは可能である」という事になるのです。

そのような場合の運動方程式は「力が質量と加速度に比例する」という関係は直交座標の時と同じですが、成分ごとに見るとある曲線の接線方向の加速度成分と力の成分を考える事になるわけです。

そのように考える時の具体的なベクトルの成分の変換方法を以下述べていきますが、
一般の曲線座標系への変換は話が複雑過ぎるので、物理学等で使われる事があって数学的にも比較的話が穏やかで済む直交曲線座標系への変換に限定して話を進めていきます。
(と言っても、それでも多少複雑になります。)

直交曲線座標とは、聞き慣れない事も多いかと思いますが
具体的には極座標や球面座標、円柱座標のようなものを指します。
これらの座標系では、座標軸に相当する「座標曲線」が任意の点で直交します。
通常のxyzの直交座標系も、直交曲線座標系の特別な場合であるという見方もできます。

他方で、物理の法則を数式で表す時に座標系ごとに形を変換しないといけないというのでは一般論として議論する時に不便であるという考え方があります。
その考え方のもとで、変分原理による計算で導出する「座標系に依存しない運動方程式等の形」というものも存在します。(ラグランジュ型の運動方程式などとも呼ばれます。)
力学の分野である「解析力学」では、そのような考察を計算によって行います。

基本ベクトルと成分の直交曲線座標系への変換方法

ベクトルを含む微分方程式を座標系ごとの形に変換する時に、まず第一に重要となるのがベクトルを構成する基本ベクトルに対する成分の変換方法です。ここではその具体的な方法について説明します。

直交座標上のベクトルは、
(1,0,0)と(0,1,0)と(0,0,1)という
3つの基本ベクトルの線形結合で表す事ができます。
それらをそれぞれ\(\overrightarrow{e_x}\),\(\overrightarrow{e_y}\),\(\overrightarrow{e_z}\) と表す事にすると
任意のベクトルは実数a,b,cを使って\(\overrightarrow{A}=a\overrightarrow{e_x}+b\overrightarrow{e_y}+c\overrightarrow{e_z}\)と書けます。
そして、ここで使った実数a,b,cはそれぞれベクトルの成分であるわけです。
(数学の理論上はこれらの成分は複素数を使っても可です。)

曲線座標でも実は同じような考え方ができて、直交座標からの変換を考える時は基本ベクトルは「向きが座標曲線の勾配ベクトルである単位ベクトル」であり、ここで言う勾配ベクトルはx,y,zで考えたものを指しています。
【■参考:ベクトル解析の概論の記事(勾配ベクトルの微分による定義など)】

より具体的には1つの座標曲線をxyz直交座標でu=F(x,y,z)で表せるとして grad u により表されますが、実際に直交曲線座標で考える時には「r方向」「θ方向」「φ方向」といった形で図形的に把握していればよい事も多いと言えます。そこで、曲線座標における基本ベクトル \(\overrightarrow{e_r}\),\(\overrightarrow{e_\theta}\),\(\overrightarrow{e_{φ}}\) は分かっているものとして次に成分のほうを考えます。

直交座標系曲線座標系
$$\large{\overrightarrow{A}=A_x\overrightarrow{e_x}+A_y\overrightarrow{e_y}+A_z\overrightarrow{e_z}}$$$$\large{\overrightarrow{A}=A_r\overrightarrow{e_r}+A_{\theta}\overrightarrow{e_\theta}+A_{φ}\overrightarrow{e_φ}}$$

ここで、曲線座標系が直交曲線座標であるならば
ベクトルの成分の変換は局所的には方向余弦を使った線形結合の形で表す事ができます。

方向余弦とはその名の通り三角関数の cosθの形で表される量ですが、ここでは角度の値はあまり重要でないのでCの文字と添え字を使って表す事にします。
直交曲線座標系の3つの各基本ベクトルからの、直交座標系のx軸、y軸、z軸への9つの方向余弦を次のようにここでは表記します。

ここでの方向余弦の
記号の表
x軸に対してy軸に対してz軸に対する
r曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_r}\)から
CrxCryCrz
θ曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_\theta}\)から
CθxCθyCθz
φ曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_{φ}}\)から
CφxCφyCφz

これらの方向余弦を使う事で、各点における基本ベクトルと個々のベクトルの成分を直交曲線座標系のものに変換できます。

方向余弦を使ったベクトル成分の変換公式

上記の9つの方向余弦と、xyz直交座標系での成分を使う事で
直交曲線座標系でのベクトルの3つの成分は次のように表されます。 $$\large{A_r=C_{rx}A_x+C_{ry}A_y+C_{rz}A_z}$$ $$\large{A_{\theta} =C_{\theta x}A_x+C_{\theta y}A_y+C_{\theta z}A_z}$$ $$\large{A_φ=C_{φx}A_x+C_{φy}A_y+C_{φz}A_z}$$ この式は、元々は「原点を共有する2つの直交座標におけるベクトルの成分の変換公式」です。
ただし直交曲線座標では基本ベクトルとなる3つのベクトルが互いに直交するので、
各点での方向余弦を関数として表すという前提のもと、同じ変換公式を適用できます。

そこで次は、これらの方向余弦は具体的にどのような数式で表されるのかが問題になります。
それが分れば一般の変換公式を作れるわけです。

変換で使う「方向余弦」を微分により表す公式

方向余弦とは基本的には「余弦」なので「底辺/斜辺」の関係を使います。ただし基本ベクトルは座標曲線の接線ベクトルとして考えていますから方向余弦も微分偏微分で考える必要があります。また、直交曲線座標系の基本ベクトルからxyz直交座標系の軸への方向余弦の表し方は実は2つあって、どちらを使っても同じ結果を得ます。

直交曲線座標系におけるxyz軸への方向余弦の2つの表現方法

座標曲線をu,v,wとして、u=u(x,y,z)に対する
j軸(x,y,z軸のいずれか)の方向余弦は、 u の弧長をl(u)とした時に
次の2通りの表し方があります。
■勾配ベクトル(xyz直交座標系で表したもの)を使う方法
勾配ベクトルは grad u=(∂u/∂x,∂u/∂y,∂u/∂z)で表されるベクトルであり
(ナブラ記号を使うと grad u=∇u)、gradj uは勾配ベクトルのj成分で∂u/∂jの事です。
直交曲線座標系で成立する|gradu|=du/dlの関係式も使っています(証明と説明は後述)。lはu曲線の弧長で、「u増加する向き」にlが増える方向で考えます。(その時du/dl≧0) $$ C_{uj}=\frac{\mathrm{grad}_ju}{|\mathrm{grad}u|}=\frac{dl}{du}\frac{\partial u }{\partial j} $$ ■弧長を斜辺とする方法
(u曲線上では、他の座標曲線の変数は一定でdv/dl=0およびdw/dl=0) $$ C_{uj}=\frac{dj}{dl}=\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}+\frac{\partial j}{\partial v}\frac{dv}{dl}+\frac{\partial j}{\partial w}\frac{dw}{dl}$$ $$ =\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}$$ 弧長に対するuによる微分での導関数dl/duは次のように表されます。 $$\frac{dl}{du}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}$$ また、dl/duは1変数の導関数なのでdu/dlを次のように表せます。
逆関数の微分公式によります。) $$\frac{du}{dl}=\frac{1}{\Large{\frac{dl}{du}}}=\frac{1}{\large{\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}}}$$

極座標や球面座標への基本ベクトルおよび成分の変換を行う時には
具体的にはx=rcosθなどと表す事から∂x/∂θなどが計算しやすい場合が多くあります。その時には上記の「弧長を斜辺とする方法」を使ったほうが比較的分かりやすくなります。(この記事の後半でもそちらの形の公式を使用。)

dl/dθ や dθ/dlを表す事になる弧長の式については、次に見て行くように球面座標であればr,θ,φの3つ分計算しておく必要があります。平面の極座標であればrとθの2つ分です。

勾配を使った表す方は、直交曲線座標系で成立する |grad θ|=dθ/dlの関係を使ってさらに変形できます。ただし、
曲線の弧長を表す式の元の形

曲線の弧長については元々は定積分で次のように書く事ができて、
上記ではそれを微分した導関数を使用しています。$$l(u)=\int_0^u\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}dt$$ 微分は、ここでの変数で言うとuで行います。 この式は曲線を折れ線に近似して図的に見る事でも理解可能ですが、解析学的に証明もできる式です。

同じ方向余弦の表し方が2つ存在する事と、
|grad u|=du/dlの関係式についての証明と説明

勾配ベクトルについて一般的に成立するのは、スカラー場の値が一定値となっている「等位面」に対して必ず垂直であるというものです。(以下、等位面に含まれる曲線を「等位線」と呼んでおきます。)
極座標のθ曲線である「原点を中心とする同心円」の円周上では
半径が一定であり同心円は「rが一定値である等位線」を構成しています。
球面座標ではrが一定値の球面が等位面として存在します。
スカラー関数F(x,y,z)と弧長がlで表される曲線があるとして、曲線上の座標を成分とするベクトルを\(\overrightarrow{r}=(x(l),y(l),z(l))\)とします。
曲線上でdF/dlを計算すると次式になります。(合成関数に対する偏微分の公式を使用。)$$\frac{dF}{dl}=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{dx}{dl}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{dy}{dl}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{dz}{dl}=(\mathrm{grad}F)\cdot\frac{d\overrightarrow{r}}{dl}$$ $$ここでもし\frac{dF}{dl}=0であるなら、(\mathrm{grad}F)\cdot\frac{d\overrightarrow{r}}{dl}=0$$ つまり「Fの値が変化しない曲線」=「Fの等位線」においては
「Fの勾配ベクトルは曲線の接線ベクトルに常に垂直」という事になります。
ところで、直交曲線座標においては1つの座標曲線上では他の変数の値が一定であり、r曲線とφ曲線上でθは一定値です。
また、θ曲線上の任意の点ではr曲線およびφ曲線との交点が存在します。
【より詳しく言えばこれらの曲線は「曲面」を構成しています。】
ところで直交曲線座標系であればr曲線およびφ曲線はθ曲線との交点で直交します。
これは具体的には任意の点での「曲線の接線ベクトル」同士が直交するという意味です。
先ほどの考察から、勾配ベクトル gradθ は
「θが一定値であるφ曲線およびθ曲線上の任意の点」での接線ベクトルに直交します。
よって、gradθ はu曲線上の任意の点において、その点でu曲線と交わるφ曲線およびθ曲線に直交しています。
そして、u曲線自体もφ曲線およびθ曲線に直交しているのでした。 という事はその点においてu曲線の接線ベクトルとgradθは平行なベクトルである事になり、それはすなわちgradθがその点におけるθ曲線の接するベクトルの1つである事を示しています。
先ほどのdF/dlの式においてFの代わりにθを考えると $$\frac{d\theta}{dl}=\frac{\partial \theta}{\partial x}\frac{dx}{dl}+\frac{\partial \theta}{\partial y}\frac{dy}{dl}+\frac{\partial \theta}{\partial z}\frac{dz}{dl}=(\mathrm{grad}\theta)\cdot\left(\frac{dx}{dl},\hspace{2pt}\frac{dy}{dl},\hspace{2pt}\frac{dz}{dl}\right)$$ と表せるわけですが
dx/dl等は、大きさがΔlであるベクトル(Δx,Δy,Δz)における
方向余弦 であるΔx/ΔlのΔl→0の極限値でもあります。
すると、方向余弦についての関係式により、
θ曲線の接線ベクトル(dx/dl,dy/dl.dz/dl)方向の
gradθの成分はdθ/dlである事になります。
よって、何らかの余弦cosω()を使って|gradθ|cosω=dθ/dlと表せる事になりますが、
θ曲線の接線ベクトルと gradθは同じ点でθ曲線に接するのでcosωの値は1か-1です。
上式でF=u(x,y,z)で表す場合【より正確にはこれは曲面を表します】には、弧長であるlは「u増加する向きにlが増えて行く方向」で考えます。
そのためdu/dl ≧0であるので、
cosω=1であり(-1ではなく、という意味)|gradθ|=dθ/dl
するとgradθとθ曲線の接線ベクトルは同じ向きのベクトルであるのでx軸,y軸,z軸への方向余弦は「直角三角形の底辺/斜辺」=「直交座標系でのベクトルの成分/ベクトルの大きさ」として同じ値を持ちます。
(向きは同じでも、ベクトルの大きさは異なります。|gradθ|=dθ/dlですがこれは接線ベクトルの大きさとは一般的に異なります。)
以上の事は直交曲線座標系の任意のu曲線で成立します。

補足として、ベクトルの「方向余弦」自体は余弦 cosθ であるので、軸に対する向きが同じであれば大きさはどのようなベクトルであっても底辺/斜辺の関係で方向余弦を表す事ができます。
つまり数学的には1つの方向余弦の表し方は無限にあるわけですが、ここでの一般的な変換に使えるような微分による方向余弦の表し方の方法としては上記の2通りがあるという事になります。

変換の具体例1(平面の極座標変換の場合)

ベクトルの基本ベクトルと成分に対して具体的に平面での極座標変換をしてみます。平面なので必要な方向余弦は4つで、それを表すために偏微分が4つと弧長の式が2つ必要になります。

まず、xとyに対するrとθの偏微分です。

極座標変換の時∂/∂r∂/∂θ
x=rcosθcosθ-rsinθ
y=rsinθsinθ rcosθ

次に弧長の計算です。∂x/∂rなどを計算してあるので、公式に代入します。
dr/dlなどを使う事になりますが、まずはdl/drの形で記しておきます。

$$\frac{dl}{dr}=\sqrt{(\cos\theta)^2+(\sin\theta)^2}=1$$

$$\frac{dl}{d\theta}=\sqrt{(-r\sin\theta)^2+(-\cos\theta)^2}=\sqrt{r^2}=r$$

このように意外と簡単な式になります。
さらに、θのほうの弧長の式で出てきたrは∂x/∂θの式にあるrと打ち消して方向余弦の値には含まれなくなります。(そのように計算が簡単になる事は一般的に保証されるわけではありませんが、球面座標の場合でも同じ事が起こります。)

方向余弦はCrx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ のように計算します。
θについては例えばCθx=(∂x/∂θ)・(dr/dl)=(-rsinθ)・(1/r)=-sinθです。
先ほど述べたようにrは打ち消して式から無くなるわけです。

4つの方向余弦は具体的には次のような形になります。

  • Crx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ
  • Cry=(∂x/∂r)・(dr/dl)=sinθ
  • Cθx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=-sinθ
  • Cθy=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ

よってrθ極座標系での基本ベクトルでの\(\overrightarrow{A}\)の成分は
=CrxA+Cry=Acosθ-Asinθ
θ=CθxA+Cθy=Asinθ+Acosθ であり、

\(\overrightarrow{A}\)=(Acosθ-AsinθAθ ,Asinθ+Acosθ)となります。

ところでこれらについて運動方程式等に適用するために微分を考える場合などはどうなるのか?という事については後述します。時間微分に関しては得られた変換の結果の式をそのままtで微分すればよいのですが、元の座標系の値であるAに関する処理が必要となります。

極座標による基本ベクトルと成分の変換公式

xy直交座標系からrθ極座標系に基本ベクトルと成分を変換する式は次のようになります。 $$A_r=\hspace{7pt}A_x\cos\theta+A_y\sin\theta$$ $$A_{\theta}=-A_x\sin\theta+A_y\cos\theta$$ 平面極座標への変換の場合には、直交座標を原点回りに回転させる形で
各点での局所的な変換を行うものとして図から導出する事もできます。

変換の具体例2(球面座標変換の場合)

次に球面座標の場合を見てみます。角度のとりかたはθとφの2箇所がありますが、ここでは平面極座標との関連を見やすくするためにθをxy平面での角度にとり、Φをr曲線(と言っても直線ですが)とz軸のなす角にとって考えます。

9つの偏微分と3つの弧長をまとめると次の通りです。

球面座標変換の時∂/∂r∂/∂θ∂/∂φ
x=rsinφcosθsinφcosθ-rsinφsinθrcosφcosθ
y=rsinφsinθsinφsinθrsinφcosθrcosφsinθ
z=rcosφcosφ-rsinφ
弧長逆数(dr/dlなど)
dl/dr
dl/dθrsinφ1/(rsinφ)
dl/dΦ1/r

弧長の式に関する具体的な計算は次のようになります。 $$\frac{dl}{dr}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial r}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial r}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial r}\right)^2}=\sqrt{(\sin φ\cos\theta)^2+(\sinφ\sin\theta)^2+(\cos φ)^2}$$ $$=\sqrt{\sin^2φ(\cos^2\theta+\sin^2\theta)+\cos^2φ}=\sqrt{\sin^2φ+\cos^2φ}=1\hspace{60pt}$$ $$\frac{dl}{d\theta}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial \theta}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial \theta}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial \theta}\right)^2} =\sqrt{(r\sin φ\sin\theta)^2+(r\sinφ\cos\theta)^2+0^2}\hspace{15pt}$$ $$=\sqrt{r^2\sin^2φ(\sin^2\theta+\cos^2\theta)}=\sqrt{r^2\sin^2φ}=r\sin φ\hspace{105pt}$$ $$\frac{dl}{dφ}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial φ}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial φ}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial φ}\right)^2}\hspace{200pt}$$ $$ =\sqrt{(r\cos φ\cos\theta)^2+(r\cosφ\sin\theta)^2+(r\sin φ)^2}\hspace{115pt}$$ $$=\sqrt{r^2\cos^2φ(\cos^2\theta+\sin^2\theta)+r^2\sin^2 φ}=\sqrt{r^2(\cos^2φ+\sin^2φ)}=\sqrt{r^2}=r\hspace{0pt}$$ dl/dθの計算では、角度φは正弦sinφが0以上の値をとる範囲で考えるとします。それは0≦φ≦πの範囲になりますが、図的に見てもその範囲だけで考えても十分である事になります。それは球面座標においてはθの変化もあるからです。

以下、上記の結果と公式を適用して計算をしていく事で
基本ベクトルを直交座標から球面座標に変換した時のベクトルの変換の公式を得ます。

$$
方向余弦の式\hspace{5pt}C_{uj}=\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}\hspace{5pt}【u=r,\theta,φ\hspace{3pt}j=x,y,z】$$ $$(具体例)C_{\theta y}=\frac{\partial y}{\partial \theta}\frac{d\theta}{dl}=(r\sinφ\cos\theta)\cdot\frac{1}{r\sinφ}=r\cos\theta$$

方向余弦x軸y軸z軸
r 曲線Crx=sinφcosθCry=sinφsinθCrz=cosφ
θ 曲線Cθx=-sinθCθy=cosθCθz=0
φ 曲線Cφx=cosφcosθCφy=cosφsinθCφz=-sinφ
球面座標による基本ベクトルと成分の変換公式
r 成分 ACrxAx+CryAy+CrzAz= Axsinφcosθ+Aysinφsinθ+Azcosφ
θ 成分 AθCθxAx+CθyAy+CθzAz=-Axsinθ+Aycosθ
φ 成分 AφCφxAx+CφyAy+CφzAz= Axcosφcosθ+Aycosφsinθ-Azsinφ
θはxy平面での角度、φはz軸とr曲線のなす角です。

φ=π/2の時、すなわちr曲線が常にxy平面にある時には
sinφ=1および cosφ=0を代入し、
さらにもとの直交座標でz成分A=0とすれば平面極座標の時の変換公式になります。
(θ成分への変換式はφもAも含んでおらず、実は極座標の時と同じ式です。)

これらの式は
「xy平面での角度をΦとしてz軸とr曲線のなす角をθとした場合」には、
θとφを入れ換える事になります。

「xy平面での角度をΦ、z軸とr曲線のなす角をθとした場合」の変換公式
r 成分 A CrxAx+CryAy+CrzAz = Axsinθcosφ +Aysinθsinφ +Azcosθ
φ 成分 Aφ CφxAx+CφyAy+CφzAz =-Axsinφ+Aycosφ
θ 成分  AθCθxAx+CθyAy+CθzAz = Axcosθcosφ+Aycosθsinφ-Azsinθ

これらの式は単なるθとφの文字の置き換えをしただけであり、
何か新しい変換を行ったという事ではありません。

球面座標の特別な場合として平面の極座標を考える時に、運動方程式におけるような場合では
図のφ=π/2と合わせて「ベクトルのφ成分の時間微分が0である」という条件も考えると一般論としての球面座標から移行を考える事ができます。

運動方程式の球面座標系での成分表示の導出

各成分に対する時間微分を考える時には、直交座標での「ベクトルの時間微分」を1つのベクトルと考えて上記の変換公式を適用します。考え方は、1階の微分でも2階の微分でも同じになります。

  1. 直交座標の成分に対する時間微分dA/dtなどを計算します。
    (2階微分をする時はd/dtを計算します。)
    ただし、計算結果は変換後の変数であるrやθで表す必要があります。
  2. ベクトルの時間微分(d/dt)\(\overrightarrow{A}\) は1つのベクトルであるので、変換の公式を適用して基本ベクトルの変換を行います。
  3. 変換の式に含まれる「直交座標で考えた時の成分」に、直交座標で考えた時間微分dA/dtなどを代入します。

一番簡単な例(と言っても多少複雑ですが)で、
尚且つ重要なベクトルは物体の位置を表す\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)です。
何の断り書きもなければ直交座標の成分で表されています。

次に、\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)に対する
1階の時間微分を表す速度ベクトル\({\overrightarrow{v}=\Large\frac{d\overrightarrow{r}}{dt}}\)=(v,v,v)と、
2階の時間微分である加速度ベクトル\(\overrightarrow{a}=\Large{\frac{d^2\overrightarrow{r}}{dt^2}}\)=(a,a,a)について
基本ベクトルを球面座標系に変化した場合の成分はどうなるかを見てみます。
(その特別な場合として平面極座標への変換も分かります。)

=dx/dt,v=dy/dt,v=dz/dtおよび
a=dx/dt,a=dy/dt,a=dz/dt
r,θ,φの時間微分については2階微分のほうの式が少し複雑なので「ドット」で表すのがここでは便利です。ドットが2つ付いていたら2階での時間微分を意味します。
dr/dt=\(\dot{r}\)dθ/dt=\(\dot{\theta}\)dφ/dt=\(\dot{\varphi}\)
r/dt=\(\ddot{r}\)θ/dt=\(\ddot{\theta}\)φ/dt=\(\ddot{\varphi}\)
の表記で式を整理します。

xとyについては積の微分公式を2回使う形で計算をします。
また、θやφをtの関数として考えているので
合成関数の微分公式も同時に使っていく事になります。
例えば sinθやcosφなどの項の時間微分は
(d/dt)sinθ=(dθ/dt)cosθ=\(\dot{\theta}\cos\theta\)
(d/dt)cosφ=-(dφ/dt)sinφ=\(-\dot{\varphi}\sin\varphi\) のようになります。

等速円運動の時のようにx=Rcos(ωt)などとする例ではr=Rは定数であり、θ=ωtの時間微分だけを考えれば良い事になります。(また、平面運動なのでφは式に含まれません。)
しかしここではr,θ,φがいずれもtの関数であるとして一般的な式の形を書きます。

\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)d/dt
x=rsinφcosθ\(\dot{r}\sin\varphi\cos\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\cos\theta-\dot{\theta}r\sin\varphi\sin\theta\)
y=rsinφsinθ\(\dot{r}\sin\varphi\sin\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\sin\theta+\dot{\theta}r\sin\varphi\cos\theta\)
z=rcosφ\(\dot{r}\cos\varphi-\dot{\varphi}r\sin\varphi\)

次に、理論的には1階微分をさらに時間微分する形で2階微分を計算して変換の公式に当てはめれば良い事になりますが、その直接計算は実はかなり面倒です。

具体的な計算式は補足・参考用の資料として記事の最後に載せるとして、計算結果の式は次のようになります。

基本ベクトルを球面座標系に変更した時の加速度ベクトル

2階の時間微分を計算後、
加速度ベクトルに変更の公式を適用するとr,θ,φ成分は次のようになります。 $$a_r=\ddot{r}-\dot{\varphi}^2r-\dot{\theta}^2r\sin^2\varphi$$ $$a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2r\dot{\varphi}\dot{\theta}\cos\varphi+r\ddot{\theta}\sin\varphi$$ $$a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+r\ddot{\varphi}-r\dot{\theta}^2\sin\varphi\cos\varphi$$ また、θ成分に関しては次のようにも書けます。 $$a_{\theta}=\frac{1}{r\sin\varphi}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\sin^2\varphi\right)$$ ここではxy平面の角度をθとしているので、
もしその角度をφとおくなら上式はθとφの文字を入れ替えた形になります。

上式でφ=π/2とおき、時間によるφの変化はないなら平面の極座標での変換を表します。
φ成分がなくなり、r成分とθ成分の式中でsinφ=1となるので式は比較的簡単になります。

平面の極座標の場合

球面座標系への加速度ベクトルの変換の式においてφ=π/2かつdφ/dt=0であれば
平面における極座標での加速度ベクトルの変換の式になります。 $$a_r=\ddot{r}-\dot{\theta}^2r$$ $$a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}+r\ddot{\theta}=\frac{1}{r}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\right)$$ ここではxy平面の角度をθとしているので、
もしその角度をφとおくなら上式はθとφの文字を入れ替えた形になります。

これらの結果から、球面座標系での運動方程式を作る事ができます。

運動方程式は「力ベクトル=加速度ベクトルと質量の積」という形です。そこで、成分に分けた時に加速度ベクトルの成分として上記の式を使えばよいわけです。それらの成分とはx成分やy成分ではなく、r成分やθ成分であるわけです。

球面座標系における運動方程式の成分表示

球面座標系で運動方程式はr成分、θ成分、φ成分ごとに次のように表されます。 加速度ベクトルに変更の公式を適用するとr,θ,φ成分は次のようになります。 $$F_r=m\left(\ddot{r}-\dot{\varphi}^2r-\dot{\theta}^2r\sin^2\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_r)$$ $$F_{\theta}=m\left(2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2r\dot{\varphi}\dot{\theta}\cos\varphi+r\ddot{\theta}\sin\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_\theta)$$ $$F_{\varphi}=m\left(a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+r\ddot{\varphi}-r\dot{\theta}^2\sin\varphi\cos\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_\theta)$$ 平面の極座標においては次のようになります。 $$F_r=m\left(\ddot{r}-\dot{\theta}^2r\right)$$ $$F_{\theta}=m\left(2\dot{r}\dot{\theta}+r\ddot{\theta}\right)=\frac{m}{r}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\right)$$ このように運動方程式を書く時には、
力ベクトルの成分も加速度ベクトル同様にr成分、θ成分、φ成分として表されます。
「力」は任意の方向にベクトルと同じ規則で分解できるので(実験で示されます)、
自由な方向での成分を考える事ができます。

これを見ると、一応そのように表せるといっても結構複雑です。直交曲線座標の中では比較的構造が単純で分かりやすい球面座標系であっても、加速度ベクトルや運動方程式をその座標系で考えるとなると直交座標系からの基本ベクトルと成分の変換はそれほど容易でない事が分かります。

平面上の極座標で見れば比較的形は簡単にはなりますが、直交座標での形と比べるとやはり複雑さは増しています。運動方程式の極座標系での成分表示は、回転を伴う運動の一部の解析では有効に機能します(例えば万有引力だけが働く物体の軌道を調べる時など)。

参考:球面座標に変換後の加速度ベクトルの成分計算

参考資料として、非常に地味ですが
速度ベクトルの加速度ベクトルの各成分を直接計算した場合の式を記します。

ここでの計算では、積の微分の規則から式全体は \(\ddot{r}\)の項や\(\dot{r}\dot{\theta}\)の項に分けて、変換の公式を適用までした値を1つずつ計算して最後に合計値を出します。それら自体は単なる微分と三角関数の計算問題なので、「確かに結果の式が直接計算でも得られる」という事を見るための参考用資料です。

(再掲)球面座標における基本ベクトルと成分の変換
r 成分 ACrxAx+CryAy+CrzAz= Axsinφcosθ+Aysinφsinθ+Azcosφ
θ 成分 AθCθxAx+CθyAy+CθzAz=-Axsinθ+Aycosθ
φ 成分 AφCφxAx+CφyAy+CφzAz= Axcosφcosθ+Aycosφsinθ-Azsinφ
θはxy平面での角度、φはz軸とr曲線のなす角
\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)d/dt(1階微分)
x=rsinφcosθ\(\dot{r}\sin\varphi\cos\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\cos\theta-\dot{\theta}r\sin\varphi\sin\theta\)
y=rsinφsinθ\(\dot{r}\sin\varphi\sin\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\sin\theta+\dot{\theta}r\sin\varphi\cos\theta\)
z=rcosφ\(\dot{r}\cos\varphi-\dot{\varphi}r\sin\varphi\)

具体的なr,θ,φ成分の計算

tによる2階導関数(2階微分)はr,θ,φ成分のいずれにも共通して使えます。
異なるのは変換公式における方向余弦になります。
この表は、例えば式中の\(\ddot{r}\)の項の係数は
2階微分を行った時点の変換前でxにおいては\(\ddot{r}\)sinφcosθであり、
r成分への変換用の方向余弦sinφcosθを乗じるとsinφcosθとなっている事を記しています。
yとzについても同様に計算し、例として\(\ddot{r}\)の項については合計すると係数の値は1になります。

sinθ+cosθ=1の関係などで三角関数の大部分は式から消えて、
プラスマイナスで打ち消して無くなる項も多くあるために
最終的な結果で残る項は比較的少なくなります。

\(\ddot{r}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来sinφcosθsinφcosθ-sinφsinθcosθsinφcosφcosθ
y由来sinφsinθsinφsinθsinφsinθcosθsinφcosφsinθ
z由来cosφcosφ-sinφcosφ
合計・・・
\(\dot{r}\dot{\theta}\)係数r成分θ成分φ成分
x由来-2sinφsinθ-2sinφsinθcosθ-2sinφsinθ-2sinφcosφ
sinθcosθ
y由来2sinφcosθ2sinφsinθcosθ2sinφcosθ2sinφcosφ
sinθcosθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・2sinφ
\(\dot{r}\dot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来2cosφcosθ2cosφsinφcosθ-2cosφcosθsinθ2cosφcosθ
y由来2cosφsinθ2cosφsinφsinθ2cosφcosθsinθ2cosφsinθ
z由来-2sinφ-2cosφsinφ2sinφ
合計・・・
\(\ddot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来rcosφcosθrsinφcosφcosθ-rcosφcosθsinθrcosφcosθ
y由来rcosφsinθrsinφcosφsinθrcosφcosθsinθrcosφsinθ
z由来-rsinφ-rsinφcosφrsinφ
合計・・・
\(\dot{\varphi}^2\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφcosθ-rsinφcosθrsinφcosθsinθ-rcosφsinφcosθ
y由来-rsinφsinθ-sinφsinθ-rsinφcosθsinθ-rcosφsinφsinθ
z由来rcosφ-rcosφrcosφsinφ
合計・・・-r
\(\ddot{\theta}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφsinθ-rsinφcosθsinφrsinφsinθ-rcosφsinφ
cosθsinθ
y由来rsinφcosθrsinφcosθsinφrsinφcosθrcosφsinφ
cosθsinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・rsinφ
\(\dot{\theta}^2\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφcosθ-rsinφcosθrsinφcosθsinθ-rcosφsinφ
cosθ
y由来-rsinφsinθ-rsinφsinθ-rsinφcosθsinθ-rcosφsinφ
sinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・-rsinφ-rcosφsinφ
\(\dot{\theta}\dot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-2rcosφsinθ-2cosφsinφcosθsinθ2rcosφsinθ-2rcosφ
cosθsinθ
y由来2rcosφcosθ2cosφsinφosθsinθ2rcosφcosθ2rcosφ
cosθsinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・2rcosφ

成分ごとに合計すると、加速度ベクトルの変換後の各成分は
\(a_r=\dot{r}-\dot{\varphi}^2r-\ddot{\theta}^2r\sin^2\varphi\)
\(a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2\dot{\theta}\dot{\varphi}r\cos\varphi+\ddot{\theta}r\sin\varphi\)
\(a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+\ddot{\varphi}r-\dot{\theta}^2r\cos\varphi\)
になります。

他の計算の仕方としては、変換の公式を先に使って例えばv=vxsinφcosθ+vysinφsinθ+vzcosφの形で表して、その式の時間微分をするという方法もあります。その場合でも計算式は多少長くなります。

電磁誘導の法則

電磁誘導(「でんじゆうどう」)は「磁場が変化する事で起電力が生じる」事を表す現象で、発電機や変圧器の原理です。電磁誘導の法則はマクスウェル方程式の1つで、数式的には磁場の時間変化と電場の回転を含む式になっています。

電磁誘導の法則は、アンペールの法則と組み合わせて電磁波を表す式を導出するための法則でもあります。また、電磁誘導の法則はマクスウェル方程式の中では電気回路論との直接的な関係が強い法則であるとも言えます。そのため、この記事では電磁誘導に関連した回路論の事項もいくつか含まれます。

電磁誘導を考えるにあたって重要となる「誘導起電力」について、記号はVでもEでもεでも何でもよいのですが、この記事では統一してVeという記号で書いておきます、(それほど深い意味はなく、電場等との記号と混同しないようにという意味合いです。)

この法則はいくつか呼ばれ方があって、
「ファラデーの(電磁誘導)法則」「ノイマンの(電磁誘導)法則」「ファラデー・ノイマンの(電磁誘導)法則」あるいは単に「誘導法則」・・・などとも言います。
このサイトでは「電磁誘導の法則」の名称で統一します。
科学史的には、電磁誘導に関する詳しい実験と基本的なアイデアの提唱を行ったのはファラデーであり、その結果を整理して定式化したのはノイマンだとされています。

電磁誘導という現象

直流電源(起電力の向きが一定)をつないだ回路と電源が無い回路を用意して、電源を入れると電源が無いほうの回路にも一瞬だけ電流が発生します。この現象が電磁誘導です。

この現象は、電源をつないでいない回路に磁石を近づけたり遠ざけたりする時にも起こります。つまり磁場が関係している事が分かります。1つの回路が別の回路に電流を発生させているのは、片方の回路の電流によって発生した磁場であると言えます。

ただし磁場さえあれば同じ現象が起きるかというと実はそうではなく、
磁場の変化」(つまり増加か減少)があるとそのような事が起きます。また、電源をつないでいない回路に発生する電流の大きさは回路の導線の長さ・断面積・材質で変化します。つまり回路の抵抗に依存します。そのため、磁場の変化によって誘起されるのは電流を生じさせる「起電力」(電源としての電位差)であると考えられるわけです。

  • 電磁誘導が起きるのは「磁場の変化」が起きる時
  • 磁場の変化によって誘導されるのは回路全体に電位差を作る「起電力」(回路全体の電圧)

電磁誘導は1つの回路の電流による磁場が、電気的には絶縁されている他の回路に対して誘電起電力および結果としての電流を生じさせています。これについては、切り離された2つの電気回路が磁気回路によって接続されているという見方もできます。確かに直流電流が発生させる誘導起電力は「電源を入れた時と切った時だけ」の一瞬ですが、交流電流であれば継続的な交流の誘導起電力を発生し続ける事ができます。

しかも、次に見て行くように発生する誘導起電力は「磁場の変化」の大小で決定し、直接的には電流の大きさには依存しません。すると、何らかの方法で局所的に磁場の変化量を増やせば回路の電圧の調整が可能になります。(具体的には導線をコイル状にして、さらに中に鉄心を入れます。)それを実用化しているのが変電所等に設置されている変圧器です。電磁誘導は発電機の原理でもありますが、変圧器の原理でもあるわけです。

電流が作る磁場を表すアンペールの法則やビオ・サバールの法則は電磁石の原理です。また、磁場中の電荷や電流が生じている導線が受ける電磁力あるいはローレンツの力は電動機(モーター)の原理です。電動機と発電機は実は構造的には基本的にほぼ同じか非常に似た機械であり、電動と発電という用途の違いで区別がされています。

電磁誘導の法則は数式的には複数の表現方法があり、用途によって使い分けられます。

法則の積分形(固定回路で磁場の時間変動がある時)

電磁誘導の法則は、磁束誘導起電力との関係を表した式です。磁束とは磁場の法線面積分で表される量を言います。(\(\overrightarrow{B}\) を「磁束密度」として考える事があるのは磁束の定義に由来します。ただし当サイトではそれを磁場として扱う方式で記述をしています。)

そして誘電起電力を「電気回路一周分で電荷が受ける事になる仕事」として捉えると、電磁誘導の法則は「電場の回転」と「磁場の時間変化」の関係を表す式であるとみなす事ができます。

他の3つのマクスウェル方程式同様に、電磁誘導の法則にも積分形微分形が存在します。法則の直接的な意味が分かりやすいのは積分形であり、次のようになります。

電磁誘導の法則(積分形・誘電起電力で表す式)

曲面Sに発生する誘電起電力は、磁束の時間変化で表されます。
誘電起電力や磁束はベクトルではなく、スカラー量です。 $$V_e=-\frac{d\Phi}{dt}=-\frac{d}{dt}\int_S \overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$\left(V_e=-\frac{\partial\Phi}{\partial t}=-\frac{d\Phi}{dt}と考えても同じです。\right)$$ 特に回路が固定されている時は、
回路が固定されている時には特に磁場の時間変化で表す事ができます。 $$V_e=-\int_S \frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}\cdot d\overrightarrow{s}$$ 曲面としては基本的には開曲面を考えます。
磁場の関数形は領域で不連続点が無いものとします。
(数学的に\(\large{\frac{d}{dt}\int_S \overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S \frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}\cdot d\overrightarrow{s}}\) となるための条件。)

また1変数の微分なのか偏微分なのかの問題については、磁束は曲面に対して想定される量なので「時間だけの関数」であり、1変数の微分で扱えます。積分のほうで見ても、積分した結果を考えれば座標成分の変数は残っていない事になるので時間だけの関数です。
面積分は変数としては座標成分だけが関係するので、被積分関数が領域内で連続であれば時間微分(これは偏微分になります)を積分しても同じ結果を得ます。
また、時間微分というのは基本的に偏微分を考えるものであり、
1変数に関しては∂/∂tもd/dtも同じ事なので∂/∂tで統一しても同じ事になります。

磁束に関しては「閉曲面」に関して任意のものを考えてもよいのですが、それは
「時間変動する磁場の任意の時刻においては静磁場同様に磁場に関するガウスの法則が成立する」のであれば、確かにそう言える事が分かります。
閉曲線Cを外縁として共有する任意の2つの開曲面を考えて、
それらで囲まれる閉曲面内ではどの位置でも磁場の発散が0です。
式で書くと\(\mathrm{div}\overrightarrow{B}=0\) であり、物理的には「湧き出しを持たない」事を意味します。
すると、ガウスの発散定理によって2つの閉曲面上の磁場の法線面積分は等しい値になる事が言えます。すなわち1つの閉曲線Cを外縁として共有している限り、開曲面Sは任意のものを考えても「磁束」\(\large{\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{S}}\) は同じ値になる事が数式的にも保証される事になります。
磁束を考える開曲面の任意性については、てきとうな閉曲面を考える事もできますが磁力線が通過する回路の任意の形状を表すという捉え方もできます。(どちらの捉え方にも意味があります。)

電磁誘導の法則について、発生する誘電起電力の「向き」に着目したものを特にレンツの法則と呼ぶ事もあります。

電磁誘導で発生する誘導起電力の「向き」の規則(レンツの法則)

電磁誘導における誘導起電力は、
「回路を通過する磁束の変化を妨げるような電流を発生させる向き」に生じます。
つまり磁束が増えるなら減らすような磁場を作る電流を発生させる向きに誘電起電力が発生し、磁束が減るなら増やす方向に誘導起電力が発生します。
(ただし、それで実際に電流がどれだけ多く発生するかはまた別問題となります。)

起電力の発生とは回路全体に電位差が生じる事です。その結果として回路には電流が発生します。この時に回路の導線に沿って電場が発生していると考えて、それを特に誘導電場と呼ぶ事があります。

この時に、+1 [C]の電荷を置いてみた時に誘導電場から受ける仕事が「回路全体に生じている電位差」(=起電力)であるので、それは回路1周分の電場(=+1 [C]の電荷が受ける電気力)の接線線積分で表す事ができます。

電磁誘導の法則(積分形・電場で表す形の式)

$$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=-\frac{\partial\Phi}{\partial t}\left(=-\frac{d\Phi}{dt}\right)$$ 特に回路が固定されている時は次式です。
マクスウェル方程式の1つとして見る場合は基本的にこの形のものを指します。 $$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=-\int_S \frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}\cdot d\overrightarrow{s}$$

閉曲線Cは導線でできた回路を考えてもいいし、空間内のてきとうな任意の閉曲線を考えても良い事になります。導線の回路とは無関係に閉曲線を考えた場合でも、磁場の時間変動(および磁束の時間変動)があるなら起電力に相当する電位差は発生していると見るわけです。

回路として導体でできたものを指定しなくても閉曲線として形状さえ指定すればよいという意味では、確かに物理的には「より一般的な式」であるという事は言えそうです。

空間中に導線の回路ではなくてきとうな閉曲線を考える時には、
その空間というのが空気などの電気的に絶縁性の高い物質中であるか、あるいは真空中という事を想定するなら「電位差(=電圧)は発生していても電流は生じない」事になります。(電位が0でない場所には「電場」は発生しています。)
その事は回路論においての電圧と電流の違いという意味でも重要ですし、電磁波が絶縁物中や真空中であっても伝わって進行していくという点でも大事であると思われます。
ただし絶縁物中や真空中で電流は基本的に発生しないという事は、敢えて「誘導起電力」を考える必然性も無い事も意味すると言えます。そのため、そのような場合には電場と磁場の関係で表したほうが良いという捉え方もできそうです。

法則の微分形

電場と磁場の関係で表した電磁誘導の法則の積分形にストークスの定理を適用すると、法則の微分形を得る事ができます。

ストークスの定理を適用するのは、電場のほうの項です。それが循環(周回の接線線積分)の形になっているので、「電場の回転」の法線面積分として書けます。

$$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_{S_0}\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}$$

開曲面をSとしていますがこれは磁場のほうに対する開曲面と同じである必然性がないので予めそう書いただけであり、本質的にはあまり関係ありません。

$$電磁誘導の法則により\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=-\int_S \frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}\cdot d\overrightarrow{s}であるから$$

$$\int_{S_0}\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=-\int_S \frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}\cdot d\overrightarrow{s}$$

開曲面SとSは任意にとれるので、式が成立するには被積分関数が同一でなければなりません。
よって、電磁誘導の法則の微分形が成立する事になります。

これは他のマクスウェル方程式の積分形から微分形への変形の時と同じやり方です。

電磁誘導の法則(微分形)

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}$$ ナブラで書くと次のようになります。 $$\nabla\times\overrightarrow{E}=-\frac{\partial\overrightarrow{B}}{\partial t}$$ この式の形は、マクスウェル方程式の中で言うとアンペールの法則と対になっています。

電磁誘導の法則の微分形は、
磁場の直接的な時間変化と「電場の回転」を関連付ける式です。
少し妙な結果にも思えるかもしれませんが、この微分形の式は物理的には「局所的には磁場の時間変化により電場の渦ができ、回路全体では誘導起電力の発生を意味する」という解釈ができます。
「渦」のイメージは微小な領域に対して積分形を考えてみると比較的分かりやすいかもしれません。それを1点で考えて数式で表すとこのような微分形の式になるわけです。

電磁波の式を導出する時にマクスウェル方程式を組み合わせる時には、基本的に微分形のほうの式を使います。電磁誘導の法則と組み合わせるのはアンペールの法則の微分形です。

時間変動しない磁場中で回路が動く時の法則の形

ところで各位置における磁場が時間的に一定である時に、回路自体を動かしても「回路を通過する磁束」は変化する事になります。(磁場の分布と運動の仕方によっては変化しない事もありますが、一般的に言えば変化をします。)

実際、そのような場合でも電磁誘導は起きます。ただし、その時に電磁誘導の積分形の見た目が違った形で書かれる事があります。

それは接線線積分で書かれる事になりますが、上述の電磁誘導の法則の積分形をストークスの定理等を使って変換したものとは異なります。

電磁誘導の法則(積分形・時間変動の無い磁場中で回路が動く場合)

時間変動しない磁場中で閉曲線Cを作る回路が運動する時に、
回路の各位置の速度ベクトル(位置の時間変化)を\(\overrightarrow{v}\)とすると $$V_e=\oint_C \left(\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{l}$$ $$=-\oint_C \overrightarrow{B}\cdot\left(\overrightarrow{v}\times d\overrightarrow{l}\right)$$ ここで言う回路の運動とは直線運動でも曲線運動でも良くて(瞬間の位置の変化=速度を考えているので)、回転運動も含みます。また、理論的には閉曲線の形状自体が微小変化する場合も含めて成立する式になっています。
式の1段目から2段目の変形は外積ベクトルの公式によります。
2段目の式は法線面積分としても捉える事ができます。ただし実質的にはそれを閉曲線の周に沿ってだけ考えれば十分であるという意味です。

この法則の形は回路が動く場合に必ず適用しないといけないかというと実はそうではなく、磁束の変化を直接計算できるならそっちで考えたほうが早い場合もあります。
例えば交流の起電力を発生させるために回路を回転させる場合などは上記の式で考える事もできますが、最初から磁束を計算したほうが早いです。
(実際の発電機では、回路を回転させるタイプと磁場を発生させる電磁石部分等を回転させるタイプの両方が存在して使い分けられています。)

電磁誘導の法則の積分形の元の形に即して言えば考え方自体は固定された回路において磁場が時間変動する時と同じで、回路を周・外縁とする開曲面の磁束の変化を計算していると見る事ができます。

回路を閉曲線Cとして、それを外縁とする開曲面Sを考えます。

回路が移動あるいは変形すると、そもそもの閉曲線が変わるので開曲面に対する磁束も変化します。(平行移動や回転で開曲面の形状を変えていなくても。)

1つの閉曲線Cに対しては開曲面Sは任意に選べるので、なるべく大きくならないものを選びます。例えば閉曲線の各点を直線で結ぶ事で形成される曲面などです。

最初に存在する閉曲面Sと、移動後の閉曲面Sを考えて、
それと移動の軌跡で作られる側面の閉曲面Sも考えます。
次に、速度ベクトルがSの表面とのなす角が180°以下の時を見てみます。これは速度ベクトルがSの表面側を向いている状況です。

任意の時刻で静磁場に関するガウスの法則が成立しているとすれば、
閉曲面全体での磁場の法線面積分(=磁束)の合計は0です。
(この事は、電磁誘導の積分形のところで触れた「磁束は1つの閉曲線を外縁として共有している条件のもと任意の開曲面で考えても同じ値になる」という話と同じです。)

その内訳を見ると、最初のS1の表面が「閉曲面の裏面」になる事に由来してSに対する磁束Φ1とSに対する磁束Φが互いに異符号で存在します。それと軌跡で作られた側面Sにおける速度ベクトルと接線ベクトルの外積が閉曲線の内側を向いています。

するとΦ-Φ-Φ=0 ⇔ Φ-Φ=Φ です。

非常に短い時間では、Φは「速度ベクトル(どの位置でも同じ)と接線ベクトルが作る平行四辺形」を面積に持つ面積要素ベクトルと、磁場との内積を考えた法線面積分です。

しかしこの時の面積要素ベクトルは「速度ベクトルと接線ベクトルの外積ベクトル」に等しく、それを閉曲線C(最初の位置での閉曲線)において周回ですればよい事になります。上記の式で言う2段目の形です。その式をさらにベクトルの外積の公式で変形すると上記の1段目の形が得られます。

$$移動の軌跡で作られる面の磁束\Phi_d=\int_{S2} \overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=-\oint_C \overrightarrow{B}\cdot\left(\overrightarrow{v}\times d\overrightarrow{l}\right)$$

$$=\oint_C \left(\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{l}$$

曲線の一部だけが移動すると考えれば、
回路の形状が微小に変化する場合にも同様に考える事ができます。

次に、Sの表面と速度ベクトルのなす角が180°を超える時、つまり速度ベクトルがSの裏面側に伸びている状況を考えます。この時は、閉曲面を考える事で表が裏に転じるのはSのほうになります。さらに、速度ベクトルと接線ベクトルの外積は今度は閉曲面の外側(=表側)を向くようになります。

従ってその場合はΦ-Φ+Φ=0となり、
Φ-Φ=-Φ ⇔ Φ-Φ=Φ となって
先ほどと同じ関係式になったので同様に考える事ができます。

この式は物理的には単位電荷が受ける仕事の変化という観点からも見れます
すなわち、導線中に電荷を持った自由電子があるとしてそれを動かす事になるので生じる電磁力(ローレンツの力)が1[C]あたりの電気量で見ると\(\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\) となりますが、この力自体は電荷の速度に垂直に生じるので「生じた電磁力がする仕事はゼロ」です。
しかし実際は、何らかの外力で導線の回路を動かした事による仕事はゼロではありません。(導線の質量を考えた通常の力学的な仕事を抜きにして。)
ここで、電磁誘導によって起電力と電流が回路に生じるとすると、その誘導起電力に由来する電流に働く電磁力\(Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{B}\) が生じます。
(これは電流を電荷の電気量とその速度に分けて、大きさはQv=Idl で回路の接線ベクトルと電荷の速度ベクトルが等しいと考える事によります。)
この電磁誘導に由来する電磁力は、回路の移動を妨げる方向に働きます。
言い換えると、現に回路を動かせたとすれば電磁力に逆らって外力が仕事をした事になり、その仕事が電気エネルギーに変換されたと見る事ができます。
しかし外力と電磁誘導による電磁力は方向は一般的に一致しないので
外力が「単位時間あたりに電磁力に逆らってした仕事」(つまり仕事率)は内積で考えると
\(-\left(Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot\overrightarrow{v}=I\left(\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{l}\)
右辺は左辺を変形したもので、誘電起電力を外積で表した式の微小量にに電流を乗じたものです。
また電流と電圧を乗した量は実は「電力」であって、電気的な「仕事率」の事です。
積分を行うと両辺共に回路全体での「仕事率」です。(左辺は外力、右辺は電荷によるもの。) $$-\oint_C\left(Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot\overrightarrow{v}=I\oint_C\left(\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{l}$$ つまり電流も含めて考えると
「外力が電磁力に逆らって行う仕事率」=「誘電起電力が消費できる電力」
という関係式ができます。
磁場の時間変動がある時と時間変動がない磁場中を回路が動く時とでは、結果は同じでも物理的に誘電起電力の発生の機構が違うという見方と、回路の速度は相対的なものである事も含めて本質的にも同じものであるという見方の両方が存在しているようです。

自己インダクタンスと逆起電力

「1つの回路による電流による磁場の変化が、もう1つの回路に誘導起電力を発生させる」という理論をよく考えてみると、磁場を生じている元の回路を通過する磁場も変化しているはずではないのか?と思えるかもしれません。

そして実はそれは正しくて、一般的に電気回路は
「それ自身に発生している電流による磁場の変化があった時」
にはそれに由来する誘導起電力が発生するのです。
そしてその部類の誘電起電力は特に逆起電力と呼ばれます。
それは直流回路で電源を入れた時などは無視できる大きさですが、交流電気回路では考慮に入れる必要があります。特にコイルがある場合には基本的に無視する事はできない事が多いです。

電磁誘導の法則を思い返してみると、磁束の変化を妨げるような向きに誘導起電力が発生するのでした。
つまり、回路の電流がその回路自体に対して及ぼす誘導起電力はまさに「磁場の発生源である電流を減らそうとする向き」に発生します。それは一般的に電源の起電力によってかかる電圧と逆向きであるので「逆起電力」と呼ぶわけです。

直流回路なら逆起電力は大きさも小さくすぐに消えるので無視できますが、交流回路では逆起電力が継続し続けて大きさも無視できない場合があります。

実験によって(あるいはアンペールの法則やビオ・サバールの法則から)直線電流によって生じる磁場は電流の大きさに比例します。これは交流電流のように電流が時間変化する場合でも、各時刻で考えると同じ事が言えます。

※アンペールの法則で考える変位電流の影響については、コンデンサーにおける場合などは考える意味がありますがここでの考察のようにコイルなどでは無視できる大きさであるとします。

そこで主に逆起電力を考える場合に特に多く使う考え方として、
比例定数Lを使って磁束をΦ=L I と表現する事が多くあります。
この比例定数Lを、考えている回路の自己インダクタンスと呼びます。
この形の磁束の式を使って逆起電力を表す場合の電磁誘導の法則の式を書くと、
Ve=-(dΦ/dt)=-L (dI/dt)となります。

その形の式は、電気回路に限定した議論のように空間的な電場や磁場のベクトルを考えなくてもよい場合によく使われます。回路で考えている場合の電流は時間に依存する事はあっても、空間的な位置座標には依存しません。

逆起電力を表す場合の電磁誘導の法則の式

電気回路中において、誘電起電力として逆起電力を表す場合には
比例定数である自己インダクタンスLを使って次のように書く事ができます。 $$\Phi=LI\hspace{5pt}と電磁誘導の法則を組み合わせる事で、$$ $$V_e=-\frac{d\Phi}{dt}=-L\frac{dI}{dt}$$ ここでのマイナス符号は、回路における電流や電圧の「2方向の向き」を表すものです。
電流の方向と逆向きに逆起電力が発生する事を表します。
この電流や電圧の向きはベクトル的な空間的な電流等の向きにも対応していますが、回路だけを考えるならベクトルとして考えなくても同じ形の式が使えます。
微分については「電位回路中の電流」という条件のもとでは電流は空間的な位置座標の関数ではなく、交流回路において時間のみの関数と考える事がでます。そのため、微分は1変数の微分として考えれば十分です。

他回路に対しても同様に考える時には「相互インダクタンス」を考える時もあります。
ただし、考えているのが1つの回路である事が明確な時には
自己インダクタンスを単に「インダクタンス」と言う事も多くあります。
(「自己」と「相互」をまとめて指す意味でインダクタンスとも言います。)
また、無視できない大きさの自己インダクタンスを持つコイルのような部分を回路素子とみなす時には、それをインダクタと呼ぶことがあります。

自己インダクタンスを使った考え方は回路論以外で使ってはいけないわけでは無いですが、
基本的に「電流が作っている磁場が、その電流が生じている回路に及ぼす誘電起電力(=逆起電力)」
を考えているので必然的に電気回路で使う事が多くなるわけです。

ここで、回路にV sin(ωt)で表される交流電源があって、回路素子としては無視できないインダクタンスを持つコイルだけがある状況を考えてみます。
(全ての導線にもコイルにも抵抗成分は必ずありますが、ここでは簡単のためにそれらは無視できる大きさとして考えます。)

すると、キルヒホッフの法則(回路の電圧降下の合計は起電力に等しいというもの)を考えると
「電源の起電力=逆起電力の大きさ」という事になってV sin(ωt)=L (dI/dt)です。
(向きまで含めて考えれば電源の起電力とここでの逆起電力は符号が異なります。)
このtに関する微分方程式は比較的簡単に解く事ができます。
任意定数が0になるように初期条件を考えると、I=-{1/(Lω)}cos(ωt) となります。
合成関数の微分を考えて(d/dt){cos(ωt)}=-ωsin(ωt)となる事に注意。】

-cos(ωt)=-sin(π/2-ωt)=sin(ωt-π/2)でもあるので、
コイルの端子間電圧(ここでは電源電圧に等しい)V sin(ωt)に対して
コイルに生じている電流は「位相がπ/2遅れている」という表現もされます。これは交流回路論においては割と重要です。

その条件のもとでは電源の起電力と回路の電流の最大値の絶対値だけで関係を見ると
|V|=|I|/(Lω)となっています。
(交流回路では電圧や電流の最大値を2の平方根で割った「実効値」が使われますが、実効値で考えても同じ関係が成立します。)これは交流回路を分析する時に実は便利な関係です。
そこで、角速度(回路論や通信工学などでは角周波数とも言います)も含めたLωという値を改めて誘導リアクタンスと呼ぶ事もあります。
この誘導リアクタンスを使用する場合には、位相の変化も含めて考える必要がある事も多いです。
実はコンデンサーについても同様の考察ができます。一般的に、コイルに対するLωという量と、コンデンサの容量を使って表される1/(Cω)という量を共にまとめて「リアクタンス」と呼び、さらに抵抗成分と合わせたものをインピーダンスと呼びます。

使われ方:1発電機における電磁誘導

電磁誘導を利用して発電を行う発電機にはいくつか種類がありますが、
実はいずれも電動機(モーター)と対になった分類になっています。発電所で従来から使われてきた発電機で多いものは同期発電機(synchronous generator)と呼ばれます。以下、積分などの計算はありませんがいわゆる電気機器・電気機械の理論独特の多少込み入ったな話も一部含まれます。

  • 同期発電機:発電所で多く使われてきた発電機。火力発電などでは一般的に巨大。
  • 直流発電機:交流ではなく直流の電源として使える発電機。
  • 誘導発電機:誘導電動機という種類の電動機を発電機として使ったもの。やや稀なタイプ。

原理的には交流の電源を作るには磁場を回転させてもよいし,

磁場を固定して回路の一部であるコイルのほうを回してもよいのですが、火力発電に使われるような大型の同期発電機では磁場を発生させる電磁石(以下、「磁極」と呼びます)のほうをタービンの軸に接続して回転させます。

発電所の発電機で誘起する電圧は多くの場合には高圧以上の電圧です。
(規格では3300[V], 6600[V]や、それを超えるものなど)
しかも発電所の発電機では、送電の都合上の理由等から位相(正弦波の角度)が異なる3つの交流起電力を発生させる事が多いです。その方式の電線路は三相三線式と呼ばれます。
そしてそのようなものを高速で回すような事はできればしたくないといった事情や、電磁石側のほうが機械的に丈夫に作りやすいといった理由により、容量の大きい同期発電機では多くの場合に電磁石のほうを回転させます。電磁石を作るほうの電源は一般的に低圧です。
電磁誘導の法則を使って発電機という「機械」を作って運用するとなると、電気と磁気に関する事が特に重要ではありますがその他の力学的・機械的な事も多く関わってきます。例えば電磁石を回転させるタイプのものでは、遠心力を抑えるために直径はなるべく小さく抑えて長い円筒形の形状にするといった事です。
また、発電を行っていると「損失としての熱」も多く発生するので冷却という事も考慮に入れる必要が出てきます。

この場合、誘電起電力を発生させるコイルは回転する磁極を囲むようにして固定されます。
磁極は通常の磁石のようにNとSに相当する部分が対になりますが、この対を複数設置して同時回転させる事もできます。火力発電では2極(つまりNとSの1対だけ)の事が多く、小規模の水力発電などでは多くの極(例えば多いものでは48極)などが使われる傾向があります。

発生する起電力の計算に使うのは、
電磁誘導の法則において「磁束の時間変化」を直接使うパターンです。

磁極を回転させる時にはコイル面に対する磁場の垂直成分が理想的には時間を変数として正弦関数と嬉しいのですが、実はコイルの配置などを工夫しないと歪んだ台形のような波形になってしまいます。(周期関数を正弦波の和で表す考え方だと「高調波」成分が多くなる事を意味します。)
ここではそのような工夫が既にされているとして、誘導起電力を発生させるコイルにおける磁場の波形が正弦波に近似できるものとします。また、磁束を考える面は長方形状のコイルの平らな面であるとして、その面積をSとします。

さてそのような時には考察は比較的簡単で、
コイルの面の面積要素ベクトルと磁場のなす角度が回転磁極の角速度ωと時間tの積ωtで表せる事になります。

今、磁場ベクトルの大きさが一定でBであるとします。
コイル面に対する垂直成分Bが正弦波で表されるとすると
=Bsin(ωt)で、ωt=π/2の時に最大値です。
(磁場とコイル面の面積要素ベクトルとのなす角θを使えばB=Bcosθであり、
位置関係としてはθ+ωt=π/2です。)

よってこの時のコイル1巻き分の磁束はΦ=SBsin(ωt)で、1巻きのコイルに対する誘電起電力は
Ve=-(dΦ/dt)=-ωSBcos(ωt)=ωSBsin(π/2-ωt)です。
自己インダクタンスを使った計算時のように合成関数の微分になります。

$$合成関数の微分である事に注意して、V_e=-\frac{d\Phi}{dt}=-\frac{d}{dt}\left\{SB\sin (\omega t)\right\}=-\omega SB\cos (\omega t)$$

速度ではなく周波数f[Hz] で考えるならω=2πfなのでVe=-2πfSBcos(ωt)です。
実効値で考えるのであれば最大値(つまり正弦または余弦が1の時)の絶対値を\(\sqrt{2}\)で割って
V =\(\sqrt{2}\pi\)fSB です。
(SもBも定数であるのでまとめて\(\phi\)=SBとおいてしまう事もあります。)

以上の結果はコイル1巻きに対してなので、n回巻かれていればn倍になります。
その他、導線の結線方法やコイルの巻き方に由来して所定の値や係数が乗じられます。
ただし発電機の誘電起電力は高ければ高いほど良いというものでも無いので、用途に応じて所定の電圧の電源になるように構造が決定されています。

  • 磁場の大きさの波形を正弦波に近付けるために1箇所にコイルの巻きを集中させない方式(分布巻、短節巻等)を使った場合は誘電起電力が理論値より少し減るので巻線係数kを乗じます。
    kは基本的におおよそ0.87~1未満の値です。
    さらに細かく見るとこの巻線係数は別の2つの係数の積です。
  • 3つの正弦波の位相が互いに120°ずれた「三相三線」の線路として出力する場合は、
    2本の導線の「線間電圧」は1相で考えた場合の\(\sqrt{3}\)倍になります。
2極の同期発電機の誘導起電力(実効値)

2極の同期発電機において周波数がf、1つのコイルの巻き数がn、巻き線係数がkであり
コイル面を通過する磁束の最大値\(\phi\)=BSが一定値である時には、
1相ごとの誘導起電力の実効値は次のように表されます。 $$V_e=\sqrt{2}\pi knf\phi\hspace{3pt}≒\hspace{3pt}4.44knf\phi$$ 比例定数の一部を「4.44」という数字でも書いたのはちょっとしたオマケで、
「たまたまそのように特徴的で覚えやすい値である」という意味です。
この式の導出方法は他にもありますが、
ここでは電磁誘導の法則に即して一番簡単と思われる方法での導出を説明しました。

同期発電機にもいくつかタイプがあり、また製造元によっても作りが変わってきたりもします。この図は一例の簡単な説明図です。

使われ方2:変圧器における電磁誘導

変圧器は変電所に設置されている装置であり、電柱の上にも設置されています。
2つの電気回路を接続し、それぞれの接続部分にコイルがあります。電柱に張り巡らされた電線の2線間の電圧は高圧の6600[V] であり、それを家庭で使う100Vに下げます(降圧)。逆に、発電所から鉄塔の送電線に向けては特別高圧の範囲の1万~50万[V] にまで電圧を上げます(昇圧)。

変圧器の原理は発電機と同じく電磁誘導であり、交流回路においてのみ機能します。理論的には前述の逆起電力の考え方が重要な部分の1つでもありますが、変圧に関する結果の式は非常に簡単で2つのコイルの電圧の比は「コイルの巻き数の比に等しい」というものです。

変圧器による変圧について成立する式

変圧器で接続された2つの電気回路のうち電源側のほうの量である事を指して「1次」と言い、もう片方の回路の量である事を指して「2次」と呼ぶ事があります。
今、変圧器の1次側のコイルの巻き数がNで2次側のコイルの巻き数がMである時、1次側のコイルの端子間電圧と2次側の端子間電圧の実効値は次式で表されます。 $$\frac{E_2}{E_1}=\frac{M}{N}$$ これはつまり、例えば電圧を2倍にしたいなら2次側のコイルの巻き数を1次側の巻き数の2倍にすればよいし、逆に降圧を行うのであれば2次側よりも1次側の巻き数を多くすれば良い事になります。

コイルに巻かれた隣り合う導線や導線と鉄心の間は絶縁物による電気的な絶縁を行います。

結果の式は簡単ですが、導出する時には実は少し注意が必要な点もいくつかあります。
以下、導出の概略について説明します。

1次側のコイルによる電誘誘導によって2次側の回路に誘導起電力が生じるわけですが、この時に実は2次側のコイルによる磁束の変化が1次側に逆に影響を及ぼします。
ただし1次側に変化があるのは実は電圧ではなく電流のほうで、2次側からの電磁誘導に由来する電流が逆起電力を発生させて結果的に1次側の電圧の変化を打ち消す仕組みになっています。

そのため、変圧器で2つの回路を接続した時には1次側には2種類の電流があると考えます。「励磁電流」はであり、「1次負荷電流」は2次側のコイルからの電磁誘導に由来する電流です。しかし大きさ的には一般的に後者のほうが大きくなります。

  • 「励磁電流」:2次側の回路に誘導起電力を発生させる電流。大きさ的には小さい。
  • 「1次負荷電流」:2次側のコイルからの電磁誘導に由来する電流。
    ただし逆起電力によって、結果的に1次側のコイルの端子間電圧に基本的に影響を与えない。

1次側の励磁電流によって、1次側のコイルには巻き数Nに比例する磁場が発生します。
そこで、この励磁電流による磁束は励磁電流の大きさと1次コイルの巻き数に比例するとして
Φ=kNI とおけます。

ビオ・サバールの法則を使ってコイルで発生する磁場が「巻き数と電流に比例する事」を比較的簡単に(と言っても割と面倒ですが)導出できるのは、円筒に導線を均一に巻いた模式的なソレノイドにおいてです。
他方で、実際の変圧器の多くは断面が四角形です。
しかし近似的にはソレノイドのように考える事ができます。

ここで、自己インダクタンスLの定義は
「電流が発生させた磁束について」Φ=LIとなるような定数の事でしたが、
電流がコイルの1つ1つの輪に作用して逆起電力を発生させている事を考えると
実はこの場合の磁束は「ΦのN個分の合計」として考える必要があります。
そのために1次コイルのに対して励磁電流が発生させた磁束の合計は Φ=kNI であり、
自己インダクタンスはL=kNとなるのです。

この時に回路の抵抗成分は小さいとすると、逆起電力Vの大きさは電源電圧とほぼ同じになります。(向きは互いに逆です。)
電源の起電力をVsin(ωt)とすると、
Vsin(ωt)=-L(dI/dt)により(あるいはリアクタンスLωを使って)
励磁電流は I=-{Vcos(ωt)}/(Lω)=-V{cos(ωt)}/(kNω)です。
つまり、少し妙な感じもするかもしれませんが
「励磁電流の大きさは1次コイルの巻き数の2乗に反比例する」というわけです。
【逆起電力は、ここでは大きさが電源の起電力に等しく向きが逆でV=-Vsin(ωt)です。】

変圧器回路の一次側の励磁電流の特徴

励磁電流の大きさは変圧器回路の1次コイルの巻き数の2乗に反比例します。

  • 1次コイルの自己インダクタンスを計算するとN(巻き数の2乗)に比例する。
  • 抵抗分が少ないとしてキルヒホッフの法則(ここではオームの法則でも同じ)から励磁電流を計算すると、励磁電流の大きさは1次コイルの自己インダクタンスに反比例する
  • よって、励磁電流の大きさはNに反比例する事になります。

ここで改めて1次コイルが近似的にソレノイド同様の磁場を作ると考えると、先ほどと同じように考えてΦ=kNI=-V{cos(ωt)}/(Nω)の磁束が発生しますが今度はこれは1次コイルではなく2次コイルのほうに作用している状況を考えます。

2次コイルでの誘電起電力Vは電磁誘導の法則により -(dΦ/dt)を計算する式で考えます。
1巻きではNに反比例し、2次コイルでM巻きの導線の輪があるのでM倍します。

つまり、Φ=-V{cos(ωt)}/(Nω)をtで微分して符号を変えてからM倍する事によって、
V=-M(dΦ/dt)=-VM{sin(ωt)}/Nです。
(結果的にωは式から無くなります。)

よって、V≒-VのもとでV/V={-VM{sin(ωt)}/N}/{-V{sin(ωt)}=M/Nとなります。
(実効値をEおよびEとして、E/Eで考えたとしても同じようにE/E=M/Nとなります。)
以上の事は、交流回路における複素数法(交流の電流と電圧は複素数として直流回路同様に計算しても正しい結果を得る)を使うと少しだけ計算は見やすくなります。

ところで磁気的に接続されていても、電気的には接続されていない2つの回路間の電流や電圧についてプラスマイナスの符号での「向き」を比べる意味があるのかという話にもなりますが、これは正弦波の位相で考えると比較的分かりやすいかもしれません。
マイナス符号が付いているという事は正弦波では
「位相が180°(弧度法でπ)ずれている波形」としても表せます。
そのため、交流回路においては電気的には直接接続されていない2つの回路間でも位相の観点からはプラスマイナスの符号の関係も意味を持ち得る事になります。ある時刻で1次側の何らかの量の位相がθの時に、2次側のある量の位相はθ-πで表されるといった事が分かるからです。
1次側・2次側単独で見た場合はプラスマイナスの符号は通常通りの「向き」として見れます。

アンペールの法則

アンペールの法則は電流と磁場の関係を表す式であり、マクスウェル方程式の1つです。マクスウェル方程式の他の3式のように積分形と微分形の両方があり、数式的には微分形は磁場の回転(rot)で含む形をしています。また、時間変動(時間による偏微分)の観点からは電場の時間変動を含む式です。

この記事では、他の電磁場の法則や数学の定理との関係を中心にアンペールの法則の内容と性質について整理してまとめています。

アンペールの法則は、いくつかの条件のもとでビオ・サバールの法則と等価である事が知られています。アンペールの法則は磁場の循環(周回の接線線積分)および磁場の回転と、電流・電流密度・変位電流との関係を表す式ですが、ビオ・サバールの法則は電流または電流密度からベクトル場としての磁場を直接表す形をした法則です。

法則の内容

アンペールの法則の積分形は基本的には磁場の接線線積分(ここでは周回積分であり、循環とも言う)で書かれて、それはストークスの定理によって磁場の回転の法線面積分でも書ける事になります。それに関連して、アンペールの法則の微分形は数式的には磁場の回転を表す式です。

アンペールの法則における閉曲線Cと開曲面S(閉曲面では無く)の関係は、ある閉曲線Cがあった時にそれを外縁(外周)に持つ「任意の開曲線S」になります。つまり閉曲線Cのところで切れて開曲面になっている事を条件に、曲面Sは形状を問わないという事です。ですから1つのCに対してS1とかS2とかのたくさんの開曲面があり得ます。ただしここでは、左辺と右辺の両方に法線面積分の項がある時は積分領域の曲面Sは両辺で同じものを指しています。

以下、\(\overrightarrow{B}\)は磁場、\(\overrightarrow{E}\)は電場、\(\overrightarrow{j}\)は電流密度、\(I\)は電流の大きさ\(\left(=\left|\overrightarrow{j}\right|\right)\)です。

アンペールの法則(積分形)

■一般の形 $$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$ ■特に電場の時間変化が無い時
(これは電流の時間変化が無い時でもあります。) $$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0I$$ これらの式はいずれもストークスの定理を使って、
左辺(周回積分の項)を変形して次のようにも書けます。 $$一般の形\hspace{3pt}\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}=0の時、\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s} =\mu_0\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0I$$ 電場\(\overrightarrow{E}\)の時間微分の項\(\Large\epsilon_0{\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}}\)は変位電流と呼ばれますが、
それは導線に生じている電荷の流れとしての「電流」とは別物なので注意も必要です。
電流に相当するのは、電流を向き付きで単位面積あたりで表した電流密度\(\overrightarrow{j}\)のほうです。
ただし後述するように変位電流とは電荷保存則に由来する量でもあり、具体例によっては電流との関係も確かに深い事が伺えます。

ストークスの定理によって法線面積分で表した形の式を見ると、左辺と右辺がともに法線面積分となっています。先ほど触れたように積分領域の曲面Sは閉曲線Cを外縁とする条件のもとで任意の形状なので、式が成立するには積分の中身が一致していないといけません。そしてそれがアンペールの法則の微分形になります。

アンペールの法則(微分形)

◆一般の形 $$\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)$$ ◆電場の時間変化が無い時または電流の時 $$\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$

これらをナブラを使って書くなら次のようになります。

ナブラを使った場合のアンペールの法則の記述

アンペールの法則には、多くの式にベクトル場の 「回転」が含まれている事が分かります。そこで回転を「∇×」の記号で書いた場合は次のようになります。 $$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\left(\nabla\times\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0I$$ ◆電場の時間変化が無い時または電流の時 $$\nabla\times\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$

定電流の時のアンペールの法則の修正版として一般形を考える場合

アンペールの法則は、基本的に電流が作る磁場の回転についての関係式です。実際、実験から元々分かっていた事は電流がその周囲に環状の磁場を作るという事でした。

上記の一般形の式を見てもらえば分かるように、定常電流(=時間変化が無い電流)の時のほうがもちろん式が簡単で使いやすいものになります。
そのため、電流が作る静磁場を考える時には普通は定常電流の時の形を指してアンペールの法則と呼んでいるわけです。

しかし定常電流である時の式を、時間変動がある場合にそのまま当てはめると理論的に見ておかしいという事が発生します。

そのため、時間変動がある場合も含めたアンペールの法則は定常電流の場合の法則の式を「修正」したものであるとよく表現されます。

定電流の時のアンペールの法則

❖定電流の時の積分形(循環と法線戦面積分の2つの形式) $$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0I$$ $$\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s} =\mu_0I$$ ❖定電流の時の微分形(一般の場合と同じ導出方法) $$\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$

ストークスの定理

ベクトル場(磁場に限らず)に対しては次の関係式が数学的に成立します。 $$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

電流と電流密度の関係式

$$I=\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}$$ この関係式は電流密度ベクトルと電流の定義に深くかかわっています。

この時、微分形のほうの発散を考えると

$$\mathrm{div}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=0\hspace{5pt}なので\hspace{5pt}\mathrm{div}\overrightarrow{j}=0$$

他方、電荷保存則の微分形に対する発散を考えて、さらに電場に関するガウスの法則の微分形を適用すると次式です。

$$\mathrm{div}\overrightarrow{j}=-\frac{\partial \rho}{\partial t}=\frac{\partial}{\partial t}\left(\epsilon_0\mathrm{div}\overrightarrow{E}\right)=\mathrm{div}\left(-\epsilon_0\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{div}\overrightarrow{E}\right)$$

$$\Leftrightarrow\mathrm{div}\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)=0$$

この発散を全体で考えた時の第2項の\(\Large\epsilon_0{\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}}\)を「変位電流」と呼ぶわけですが、話を整理するとこれは電荷保存則から出てきた量です。そのため、この時点ではアンペールの法則に無関係に考える事ができる量であると言えます。

変位電流とは何か?

変位電流とは次の式で表される量です。 $$\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}$$

  • 電荷保存則という基本前提が成立する限りにおいて、
    変位電流は「電荷密度の時間変化」に由来する量として必ず考える事ができる。
  • 変位電流に対して成立する関係式は、発散に対して成立する次式。

$$\mathrm{div}\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)=0$$

電荷保存則

微分形 $$\mathrm{div}\overrightarrow{j}=-\frac{\partial \rho}{\partial t}$$ 電荷密度の時間変化率が0の時(=電流の時間変化率が0) $$\mathrm{div}\overrightarrow{j}=0$$ 電流を電荷の流れと考えた時に基本前提として積分形が存在すると考えて、
ガウスの発散定理を適用すると微分形を導出できます。積分形は次の通りです。 $$ \int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}=-\int_V\frac{\partial \rho}{\partial t}dv\left(=-\frac{\partial }{\partial t}\int_V\rho dv\right) $$ (ここでのSとVは「閉曲面」およびその内部の領域です。)

電場に関するガウスの法則(微分形)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\frac{\rho}{\epsilon_0}\hspace{5pt}\Leftrightarrow\hspace{5pt}\rho=\epsilon_0\mathrm{div}\overrightarrow{E}$$ ρは電荷密度です。

他方で「磁場の回転」の発散は0(これは数学的にベクトル場であれば何でも瀬成立)なので、定常電流におけるアンペールの法則によればそれは電流密度の定数倍です。

ところで電流が定常電流では無い時でも、磁場の回転自体は発散をとると数学的に0になるわけですから、\(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\)を電流に関係する何かで表すとすると、とりあえず「アンペールの法則とは無関係に成立している」\(\mathrm{div}\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)=0\) の関係式は、いかにも関係がありそうであるというわけです。

そこで、定常電流の場合のアンペールの法則の電流側の項に変位電流も加わるとすれば、定常電流の時は「電荷密度の時間変化が無い⇒変位電流は0」なので元々の形の式はそのまま使えて、電流の時間変化がある時は発散を考えた時にも整合性がとれる式ができます。しかもてきとうな項を付け加えたというのではなく、電荷保存則に由来する関係式を使っています。

それで、その形を定常電流の時のアンペールの法則を「修正」したものとして、変位電流の項を加えたものが一般の場合のアンペールの法則の式の形であると考えられているわけです。

話の整理
  • \(\mathrm{div}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=0\) は電流の時間変化のある無しに関わらず数学的に成立
  • \(\mathrm{div}\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)=0\) も電流の時間変化のある無しに関わらず成立(電荷保存則より)
  • 電流の時間変化が無い場合、
    電荷保存則由来の式では変位電流の項が0で
    \(\mathrm{div}\overrightarrow{j}=0\)
  • 電流の時間変化が無い場合、定常電流に対するアンペールの法則により
    \(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}\)であるので
    \(\mathrm{div}\overrightarrow{j}=0\)(これは電流の時間変動がある場合には電荷保存則により成立しない。)
  • そこでもし、
    \(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\)だとしても
    電流の時間変化があるか無いかに関わらず
    左辺の発散は数学的に0、
    右辺の発散は電荷保存則により0なので、 「矛盾が生じない」式になります。

そのため、アンペールの法則の微分形の一般形を変位電流を加えた形で考える事にすると、定常電流の時の法則の積分形から微分形を導出した時の逆算で磁場の法線面積分を書くと積分形のほうの一般形になります。

$$\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

$$ストークスの定理により\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}なので$$

$$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

ストークスの定理を使っていますので、この時にSは開曲面であるとして閉曲線Cを外縁に持つものとします。アンペールの法則の一般形がまずあると考えてそこから微分形を導出する時と同じです。

コンデンサーにおける変位電流

前述の通り、定常電流におけるアンペールの法則に付け加わる「変位電流」自体は、電荷保存則の成立を前提とする限りはアンペールの法則とは無関係に量として想定できる性質のものです。

そこで、ここでは変位電流とは電荷の流れとしての電流そのものではないけれども「確かに物理的な意味を持つ量である」という事をより明確にするために、交流回路におけるコンデンサーの極板間の電場の時間変化(その1/ε倍が変位電流)を例に考えてみます。

電気回路におけるコンデンサーに電圧をかけると、
極板には電圧(=電位差)に比例する量で電荷がたまり、極板間には電場が生じます。直流電気回路では導線に短時間だけ充電電流・放電電流が発生し、交流電気回路ではそれが短い周期で繰り返されて導線中に常に交流電流が発生します。

1つの極板上の極板間の電圧をV、電荷をQとすると、Q=CVの比例関係があります。
交流回路で V=CVsin(ωt)とするとQ=CVsin(ωt)
【Cは比例定数で、電気容量とかキャパシタンスなどと呼ばれます。】

また、極板間距離が十分距離が小さくて電場の方向がほぼ一定とみなせるとすると、
電場に関するガウスの法則を使って
「電場の大きさEは極板間におけるどの位置でも同じである」と考える事ができます。
(コンデンサーにおいて電場は極板間で「一様である」とも表現されます。)

さらに同じく電場に関するガウスの法則によれば、
その電場の大きさは極板の表面にする分布する電荷の1/ε倍の電気量に等しい事になります。
すると、E=Q/ε=(CV/ε)sin(ωt)です。
【ガウスの法則は時間変化がある場合でも1つ1つの任意の時刻で考える限り成立します。】

「コンデンサーの極板間において電場は一様である」という事

2枚の極板同士の間隔が十分小さいコンデンサーについて、
「無限に広い導体平板」に近似できると考える事で「表面上に一様に分布した電荷が表面から近い位置に作る電場」を計算します。
電荷は表面に1mあたりσ [C]で分布するとします。一般的に導体の内部では電場が0であると考えられ、表面から近い場所で電場の方向は合成されて表面に垂直である事に注意します。閉曲面として平板に垂直な底面積Sの柱体を考えた時に(円柱でも直方体でも何でも可)電場に関するガウスの法則において法線面積分が0にならないのは平板に平行で導体外部にある1つの面だけです。
電場はそれに垂直なのでE S=σS/ε ⇔ E=σ/εつまり、少し妙に思えるかもしれませんが電場の大きさは「平板からの距離に依存しない」という事になります。コンデンサーにおいても極板間の距離が十分小さければ同じ状況に近似できるとする事が「極板間で電場は一様である」と考える理論的な根拠の1つです。
【尚、これがもし平板ではなく直線状の棒であったら、それが無限に長いとみなせても軸の周りに同じ大きさの電場が同心円に垂直な形でできるので、無限に広い平板の時と同じような結果にはなりません。クーロン力から積分で直接計算してもガウスの法則を使っても、電場の大きさは棒からの距離に反比例するという結果を得ます。】

無限に広い平板に電荷が一様に分布している場合は対称性から電場のベクトルの向きが面に垂直になります。コンデンサーの極版も、同じような状況として近似します。

ところでこの場合での「変位電流」については、まず向きが一定である事から大きさだけを考えます。
そして変数は時間tだけである事も考慮すると、変位電流の大きさは次のようになります。
ε(dE/dt)=ε(CV/ε)sin(ωt)=CVcos(ωt)

他方で、電気回路における電流は実測できるものでもありますが、コンデンサーの極板に出入りする電流を理論的にはどのように考えるかというと、実は「電荷の流れ」を電荷の時間変化と考えて、
dQ/dtとして表すのです。すると、Q=CVsin(ωt)でしたので極板に出入りする電流は、
I=dQ/dt=CVcos(ωt)

という事は、ε(dE/dt)=I=CVcos(ωt)となり(※)、
コンデンサーを含む部分については「導線中の電流」と「極板間(絶縁部分)の変位電流」が全く同じ値で計算できる事を意味します。つまり、交流電気回路の平板コンデンサーという特別な場合である事を強調しておく必要はありますが「通常の電流と変位電流とで実質的に1つの閉回路が作られ、各時刻で同じ値として表せる」という物理的な意味を変位電流が持つ例となっています。

(※)ここでの計算は、変位電流とε(dE/dt)と交流電流Iが結果としては「この条件下では同じ値で表せる」という事であって、一般的には同じものではないので注意も必要です。物理的に見ても、極板間には電流は生じておらず表面を除いて電荷も存在しない(つまりQ=0)から電場の時間変化を代わりに考えたわけであって、ε(dE/dt)とI=dQ/dtを一般的に同じ量であるとはみなせません。電荷保存則を考えてみても、電流密度と変位電流の間に所定の関係式は常に成り立つけれども「同じ物理量ではない」わけです。

ここでは極版のプラスの電荷が減少していくので、電場の時間変化としての変位電流をベクトルとして見た時には極板間の電場とは逆向きで、これは極板から電気回路側への放電電流と同じ向きになります。

変位電流と磁場の関係(マクスウェル方程式での意味)

ところで、変位電流をアンペールの法則に組み込む事に関しては確かに数式的な強い関連性は伺えるものの、他の法則と比較すると少々無理やり感もあると言えるかもしれません。

疑問が残るとすれば、やはり「変位電流が、通常の電流と同じように磁場を発生させるのか」という点ではないでしょうか。前述のコンデンサーの例においても、確かに変位電流と通常の電流の数式上の強い関連性について示すものではありますが発生する磁場については何も分かるものではありません。

実の所、単独の変位電流を実験で扱う事はなかなか難しいようで少々うやむやにされている面もあると言えます。「通常の電流を完全に抜きにして、変位電流だけでアンペールの法則が記述する磁場は本当に発生するのか」という問いの解答をはっきりと実測結果で示す研究はあまり多くないようです。

ただし、間接的には変位電流を含んだアンペールの法則の一般的な形が法則として正しい事を示す実験結果は既に存在します。それが電磁波の存在と、その応用および実用です。

マクスウェル方程式から電磁波の定量的な関係式を導出する時には、実はアンペールの法則において変位電流の項がないと上手くいきません。

ここでは簡単にだけ述べますが、アンペールの法則の微分形に対してさらに回転を考えて、電磁誘導の式の微分形を代入する事で電場を含まない形に変形できます。

$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=\mathrm{rot}\left\{\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\right\}$$

$$電磁誘導の式の微分形\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}を代入して整理すると、$$

$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)=\mu_0\mathrm{rot}\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\overrightarrow{B}}{\partial t^2}$$

ナブラを使って書いた場合

ここでの式をナブラ記号を使って書いた場合は次の通りです。
どっちの方法が見やすいかは人によって違うと思います。 $$\nabla\times\left(\nabla\times\overrightarrow{B}\right)=\nabla\times\left\{\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\right\}$$ $$\nabla\times\overrightarrow{E}=\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}により、$$ $$\nabla\times\left(\nabla\times\overrightarrow{B}\right)=\mu_0\nabla\times\overrightarrow{j}-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\overrightarrow{B}}{\partial t^2} $$

計算の続きとしては、今度は左辺のほうを回転に対して成立する式で置き換えて磁場に演算子が作用する形の微分方程式を作ります。

これに相当する式をベクトルポテンシャルで表す方法もありますが、その場合もやはりアンペールの法則の一般形の式は必要です。

アンペールの法則の微分形における「磁場の回転」に対してさらにもう1回「回転」を作用させる式は、実は定常電流が作る静磁場においてベクトルポテンシャルを考える時にも使う式です。
ただし、その場合は変位電流の項が0であると考えますから右辺は電流密度ベクトルだけを考えます。
また、電磁波を導出するためにベクトルポテンシャルを考える時には静磁場の時に使う放射ゲージ条件ではなく、別の条件を使います。

電磁波の式を導出するための式は実は別の式も必要で、それは電磁誘導のほうの微分形の式の回転を考えてから、そこにアンペールの法則の微分形を代入するというものです。参考までに初めの形だけ記しておくと次のようになります。

$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\right)=-\mathrm{rot}\left(\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}\right)=-\frac{\partial }{\partial t}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)$$

$$ナブラを使って書くなら、\nabla\times\left(\nabla\times\overrightarrow{E}\right)=-\nabla\times\left(\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}\right)=-\frac{\partial }{\partial t}\left(\nabla\times\overrightarrow{B}\right)$$

アンペールの法則の微分形は最右辺の磁場の回転の部分に代入します。
すると、左辺も右辺も磁場を含まない形の式になるわけです。ここでも、変位電流の項がもし無かったらこの先の計算は上手く行きません。

このような理論のもとで得られる電磁波の定量的な性質と電磁波の実測における性質がよく合っているので、アンペールの法則を変位電流も加えた形で記述した一般形の式も正しいはずであると考えられているわけです。

アンペールの法則による磁場の計算例

アンペールの法則によって磁場を計算できる簡単な例をいくつか挙げます。
(電流が定常電流であるか、変位電流を無視できる状況だけを考えます。)

アンペールの法則を使って磁場を計算する例に多く見られる特徴は、大体が次のようなものです。

  • 経路を単純なものに選ぶことで接線線積分を簡単にする事が多い
  • 話を単純にする仮定や前提が必要な事が多い(長さを無限とする事や、対称性など)
  • より詳細を調べるにはビオ・サバールの法則のほうが適している事がある

直線定常電流が作る磁場

まず、一番簡単な例として直線状の定常電流が作る磁場です。
導線の長さは十分に長い(無限とみなせる)とします。

電流が環状の磁場(導線に対する同心円上で同じ大きさ)を作る事は実験によって知られていたわけですが、その事実も使って計算します。あるいは、磁場の大きさに関しては対称性から同心円上で等しいと仮定します。

磁場が導線を中心とする半径rの円に常に接する方向を向いているとします。
接線線積分において内積はBdlとなり、lを0から2πrまで変化するパラメータとして捉えるか、dl/dθ=r【半径×弧度法の角度=円弧の長さより】と考えると計算ができます。

$$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_0^{2\pi}Brd\theta=[Br\theta]_0^{2\pi}=2\pi Br$$

$$アンペールの法則により\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0 Iなので2\pi Br=\mu_0 I\Leftrightarrow B=\frac{\mu_0I}{2\pi r}$$

同じ結果はビオ・サバールの法則による計算によっても得る事ができますが、いくつかの条件が分かっていればアンペールの法則を使ったほうが計算が簡単になります。いずれにしても十分に長いとみなせる直線電流が作る磁場の大きさは「導線からの距離に反比例する」という事になります。

断面積を持つ導線の場合の定常電流による磁場

同じ事は、導線が無視できない断面積Sを持っていても形状が円柱状で、定常電流である限りは導線の外側においては中心からの半径で測ると同じ結果になります。

他方で、その場合は「導体内部」の磁場を考える事もできます。

今、導体断面における電流密度ベクトルが一様であるとします。
アンペールの法則においては閉曲線の内部を通過する電流だけを考えればよい事になります。
導線の半径をR、考えている半径をr<Rとすると半径rの円内の電流は全体のr/R倍なので導線の断面積全体の電流をIとすれば
2πBr=μI(r/R) ⇔ B=μrI/(2πR) 

つまり、rを増やしていくと導体内では磁場は大きくなっていく計算です。
また、r=Rになった時点でB=μI/(2πr)という導線外部の時の式と同じになり、
そこからは磁場の大きさは距離ごとに減っていく事になります。

この結果は導線外部の磁場の大きさB=μI/(2πr)を考えた時に、
rを減らしていっても実際の所は磁場はそこまで大きくならない事も示しています。反比例の関係という事はrが0に近ければ値はやたらと大きくなり得るわけですが、実際は導線の表面にぶつかる時点からはrを減らすと磁場も小さくなっていくと考えられるわけです。

断面積を持つ場合の、直線定常電流が作る磁場の大きさ

導線の内側(導線の半径:R r≦Rの範囲) $$B=\frac{\mu_0rI}{2\pi R^2}$$ 導体の外側(断面積が無視できる導線の場合と同じ。 r≧Rの範囲) $$B=\frac{\mu_0I}{2\pi r}$$

トロイダルコイル(環状ソレノイド)

トロイダルコイルとは、食べ物のドーナツのような立体的な形(トーラス)をしたコイルです。
環状ソレノイド」と呼ぶこともあります。一見複雑そうにも思えますが、アンペールの法則を適用すると意外に考察がしやすい例の1つとなっています。

トロイダルコイル(環状ソレノイド)が作る磁場

てきとうな半径の円が断面であるトーラスに導線が一様かつ密に巻かれており、 巻数の合計がNで、トーラス全体の中心から断面の中心までの距離がRである隙間が無いトロイダルコイルになっているとします。
巻線に定常電流Iが生じている時、断面の中心における磁場の大きさは次のようになります。 $$B=\frac{\mu_0NI}{2\pi R}$$ また、断面中心を原点とした極座標(r,θ)で、トーラスの外側に向けて基線(角度を0に考える線)を考えると、
断面内における断面中心以外の場所での磁場の大きさは次のように表せます。 $$B=\frac{\mu_0NI}{2\pi (R +r\cos\theta)}$$ また、理想的なトロイダルコイルでは外部の磁場は0である事を示せます。

断面の半径の値は、ここでの計算では使用しない事になります。

トロイダルコイルの断面の中心を結んだ円を考えて、これをアンペールの法則で周回の接線線積分を考える閉曲線Cとします。

すると、閉曲線C内を通過する電流は巻数の合計Nと1本の導線ごとの電流の大きさの積という簡単な式で表せます。つまり電流の合計をISとすると、 IS=NIです。

形状の対称性と、円状の電流は面に垂直な磁場を作る事(これはビオ・サバールの法則で導出するのが普通です)により、磁場の向きは考えている円(閉曲線C)に接する方向であり大きさはその円周上でどの位置でも同じと考えられます。

コイルの1巻き分以外の部分からの影響にも注意する必要がありますが、両隣の電流の向きに注意すると断面に平行な成分はプラスマイナスで打ち消し合って、断面に垂直な成分だけが残る事になります。つまり、閉曲線として考えている円に磁場の向きが接する事は保たれるわけです。

そこで、直線定常電流が作る磁場と同じく、lが0から2πdまでの通常の積分として磁場の大きさが計算ができます。(変数変換して角度で考えても同じです。)

$$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_0^{2\pi R}Bdl=2\pi BR$$

$$定常電流の時のアンペールの法則により2\pi BR=\mu_0NI\Leftrightarrow B=\frac{\mu_0NI}{2\pi R}$$

断面内の任意の位置の場合は、角度のとり方に注意すると閉曲線として半径R+rcosθの円を考えればよい事になります。(断面の中心よりも少し外側であればθが-90°から+90°の範囲、断面の中心よりも少し内側であればθが90°から270°の範囲で、Rに対してrcosθの分だけ少し大きいか小さいかの値になります。)

この場合に磁場ベクトルが常に円に接するかどうかには気を付ける必要がありますが、ビオ・サバールの法則を考えると円電流が作る磁場は円の中心の位置では無くても円の面に垂直になる事が分かります。(磁場を考える点が円と同じ平面にあれば、円の接線ベクトルと円周上から磁場を考える点までのベクトルとの外積ベクトルは円の平面に対して垂直。)

そこでトロイダルコイル全体が持つ対称性も合わせて考えると、接線線積分も断面中心を通る円で考えた時と同様に行う事ができます。

$$2\pi B(R+r\cos \theta)=\mu_0NI\Leftrightarrow B=\frac{\mu_0NI}{2\pi R}(R+r\cos \theta)$$

トロイダルコイルの外部についても接線線積分は同じように考える事ができます。電流に関しては全巻き数について逆向きの電流が加わるので、円として考える閉曲線の半径をRとすると
2πBR=μ(NI-NI)=0より、B=0
この結果は、トーラスの内側の空間に対して適用しても同じ事が言えます。

電流密度ベクトル

電流は向きを持っていますが、電磁気学において3次元の空間の中での向きを持つベクトルとして扱う時にはむしろ電流密度ベクトルが扱われる場合が多いと言えます。「電流密度ベクトル」あるいは単に「電流密度」とも言われますが、いずれにしてもベクトルで表される量です。

電流は \(I\) の記号で書く事が多いですが、電流密度ベクトルは一般的に\(\overrightarrow{j}\) で表され、空間内の位置ごとに各成分がx,y,zの関数で表されるベクトル場です。(従って電流密度ベクトルに対する発散や回転も考える事ができ、成立する諸式が存在します。)

※電流の記号との紛らわしさを避ける目的で複素数の虚数単位 i をjで書く場合もありますが、ここで扱う\(\overrightarrow{j}\)は電流密度を表すので別物です。電流密度ベクトルの「大きさ」を表す時にはこのサイトでは\(|\overrightarrow{j}|\)として表記するか、もしくは\(J\)の文字を使う事にします。

電磁気学の中での位置付け

普通、電気回路における電流の向きは導線に沿って「片方向とその逆」だけを考えてプラスとマイナスで表します。これは、電圧との関係や電気エネルギーの消費に関して「導線の空間的な向き」というものが一般的にはほとんど影響しないためです。そのため、電気回路を考えるうえでは普通は電流を空間的な意味でのベクトルとしては扱わず、スカラー量として扱うのが基本です。

例外はあります。例えばコイルのように非常に狭い範囲でぐるぐる巻きになった形状の導線は交流の電気回路においてインダクタンスを持ち逆起電力を発生させる「素子」として扱われます。
しかし通常の導線部分に関しては、電線を地面に対して水平に設置しても垂直に設置しても斜めにしても、電流や電圧の量に基本的に影響しないのです。(これが水などが流れる流体回路であれば重力の影響がありますから話が変わってきます。)
また、あくまで数式的な問題ですが電気回路においても交流電流で位相(正弦関数の角度)と実効値の関係を模式的に表す方法として「ベクトル」を使用する事はあります。しかしそれは空間的な方向を表すベクトルではないのです。

他方で、より電磁気学的に見た時には電流も「空間的な意味での向き」を持つものとして扱う事は可能であるし、理論的な整合性のために必要な事でもあります。電場や磁場などと同じく、電流もベクトル場として扱う事は可能という事です。

ただし電磁気学では普通は「電流のベクトル」は敢えて考えずに、
代わりに「大きさが単位面積当たりの電流」であり、
向きは空間的な意味での電流の向きに等しい「電流密度ベクトル」を考えます。
(電流「密度」と言いますが大きさは「単位面積あたり」で考えます。)
この「電流密度ベクトル」は、電磁気学においては特に電荷保存則の式とアンペールの法則の微分形において重要です。それら2つについてはこの記事内でも解説をします。

電流密度ベクトルは、どちらかというと電気だけの考察ではなく、磁気のほうも合わせて考える事項に対して使われる事が比較的多いと言ってもよいかもしれません。

「電流をベクトルとして扱う方法」としては電流密度ベクトルを使う以外に、空間内の導線の接線ベクトルと電流の大きさを合わせた「電流要素」または「電流素片」をベクトルとして扱う事もあります。電流が作る磁場をベクトルとして直接表すビオ・サバールの法則では電流素片と電流密度ベクトルの両方での形が存在します。

電流密度ベクトルの定義と意味

電流密度ベクトルには一見すると2つの捉え方がありますが、それらは互いに無関係では無く、電磁気学では両方の考え方を組み合わせて考察がされます。

「単位面積あたりの電流」としての電流密度ベクトル

まず向きが空間的な意味で電流と同じで、
大きさが単位面積あたりの電流になるものを「電流密度ベクトル」と呼ぶ考え方から見てみます。

電流密度ベクトルの意味

ある位置における電流密度ベクトル(あるいは単に「電流密度」)\(\overrightarrow{j}\)は
次のようなベクトル場です。

  • 向き :電流の空間的な向き
  • 大きさ:電流の空間的な向きに対して垂直な平面 での単位面積あたりの電流の大きさ

ただし、その面積を考える平面についてなのですが
電流の空間的な向きに対して「垂直な平面」で考えるというのは、要するに電流の向きに対して断面積を考えるという事です。電気回路での考察でもそうですが普通は導線の「断面積」と言ったら導線の向きに対して真っすぐ切れ目を入れて面積を考えるわけで、斜めに切って考えてはいけないわけです。ですからここでは、電流の向き空間的に対して斜めの平面ではなく「垂直な平面」である事を強調しています。この事は、のちの考察でも重要となります。
(※考えている面が電流密度ベクトルの向きに対して「斜め」になっている場合の考察も重要で、計算の考え方は後述します。)

後述しますように、電流密度ベクトルは「法線面積分」を考えたいので使っているというところもあり、さらにそれによって「電流」に対して電流密度ベクトルの形で発散や回転を考えていく事も可能になるという計算上の利点が生じます。

電流を電荷の流れとして考えた時の電流密度ベクトル

電流密度ベクトルには上記の意味はあるのですが
他方で電流が「電荷の流れ」であると考えると、
電流密度ベクトルは次のように表す事もできます。

電流密度ベクトルの別の表し方:電荷密度と速度を使う方法

電荷密度がρ[C/m3]で、分布する電荷全体の速度ベクトル\(\overrightarrow{v}\)がである場合には
電流密度ベクトルは次のようにも表せます。 $$\overrightarrow{j}=\rho\overrightarrow{v}$$ この捉え方での電流密度ベクトルは、実は次のようなベクトルです。

  • 大きさ: ある面を単位面積あたり、単位時間あたりに通過する電荷の電気量
  • 向き :空間的な意味での電流の向き(前述の定義と同じ)
この電流密度ベクトルの捉え方は、
電流の大きさとは「ある面を単位時間に通過する電荷の電気量」であるという考え方がもとになっています。
その観点から考察すると、実は上記の式で表した電流密度ベクトルの大きさに「ベクトルに垂直な面の面積」を乗じると「電流」になるという関係が成立します。これは、最初に考えた「単位面積あたりの電流」として電流密度ベクトルの大きさを考えた事と同じになっています。

このように電荷密度と速度で考えた場合には電流密度の単位に時間(秒[s])が含まれるはずですが、単位の決め方としてはむしろ電流のほうにそれが含まれると考えます。
すなわち、電流の単位について [A]=[C/s]と考えて、
電流密度の大きさの単位は [A/m2]で表します。[A/m2]=[C/(m2・s)]と変換はできます。
ところで、そもそも「電流」と呼んでいる量が何かの「流れ」である根拠は何か?という事については、後述にて簡単に触れます。

この考え方はある電荷密度の分布に存在する電荷の塊が動くという感じなのですが、一定の質量や体積を持った物体の運動と違って少しイメージが沸きにくいかもしれません。
そこで、次に見るように1つの位置の面(電流密度ベクトルに垂直とします)を基準にして
「1秒間で電荷の塊が、電気量の合計に換算してどれほどがそこを通過したか」という捉え方をすると少しは分かりやすくなります。

今、速度ベクトルの大きさ(=速さ)をvとします。
考えたい「面」はこの速度ベクトルに対しても垂直なものとしています。

そして面積Sの面のすぐ後ろに接した形で控えている電荷の分布が、
塊として面に対し垂直に「面を貫通する方向」に動くとします。
すると、1秒当たりに面を境に反対側に移動する電荷の電気量(これがすなわち電流です)は
「電荷密度ρ × 体積(vS)」としてρvSとなるわけです。
(単位は「1秒当たり」まで単位に含めれば [C/s]です。)

1秒間だけ電荷の塊を動かして、
止めた後に塊の先端がどこまで移動したかを計る事で「電荷密度×体積」の計算によって
面を通過した電気量の合計」を電流は表していると捉える事ができます。

話を整理しますと、まず電流密度ベクトルを改めて次のように考えたわけです。

$$\overrightarrow{j}=\rho\overrightarrow{v}$$

この式のもとで、電流密度ベクトルの大きさは次のようになります。

$$\left|\overrightarrow{j}\right|=\rho v$$

そしてこの式の右辺ρvは先ほどの考察により、速度ベクトル面積を乗じる事により「電流」を表すと考える事ができるのでした。そこで上式の両辺に面積Sを乗じると次のようになります。

$$\left|\overrightarrow{j}\right|S=\rho vS$$

つまり「電流密度ベクトルの大きさ」×「ベクトルに垂直な平面における面積」=「電流
の関係であり、最初に考えた電流密度ベクトルの定義の場合と同じ関係式が成立しているわけです。

面が速度ベクトルに対して斜めの時

ところで、そのように考えた時には
実は面に対して斜め方向に速度ベクトルが向いている時も同様に考える事ができます。

ややこしいようですが、
「電流密度ベクトルの大きさ」×「面積」=「電流」と考える時の面積は
電流密度ベクトルに対して垂直な面のものを考えますが、
電流の定義として「面を通過する電気量」と言う時は必ずしも垂直でなくてもよいと考えます。

その場合には、面に分布している電荷が一斉に次々にそこから斜め方向に移動していくと考えます。
すると、その場合は移動した電荷の電気量は「電荷密度×面積S×斜めの立体の高さ」です。
電荷密度ρと速度ベクトルの大きさ(=速さ)vの情報は電流密度ベクトルに含まれている事に注意すると、1秒間に面を通過した電荷の電気量は実は面積要素ベクトルと電流密度ベクトルとの内積で表す事ができます。「面積要素ベクトル」とは「微小領域の面に垂直で、大きさは微小面積dSである」というベクトルです。

これは、内積で使う余弦 cosθを速さvに乗じる事により1秒後に電荷の塊が通過してできる体積の「高さ」が計算できて、さらに底面積のdSに乗じれば体積が計算されるためです。
そして、体積が分かれば電荷密度ρを乗じて「1秒当たりに面を通過した電気量」すなわち電流が分かる事になります。

面を単位時間あたりに「通過」する電荷の電気量(=電流)

電荷密度ρで分布する電荷が一斉に速度\(\overrightarrow{v}\)で運動しているとします。
この時に面積がdSの微小面を1秒あたりに通過する電荷の電気量(つまり電流)は、
面の向きに関わらず電流密度ベクトルと面積要素ベクトルの内積を使って次式で表せます。 $$Q=\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{S}=\left|\overrightarrow{j}\right|\hspace{2pt}\left|d\overrightarrow{S}\right|\cos\theta$$ $$=\rho (v\cos\theta)dS$$ 面積要素ベクトルは微小面に対して「垂直」なベクトルなので、角度θの位置関係には注意。
この式は電流密度ベクトル(および速度ベクトル)が面に垂直な場合も含めて使えるので、
一般に微小面を単位時間当たりに通過する電荷の電気量(=電流)を表す式になります。

ここで、内積計算では余弦を電流密度の大きさと面積要素のどちらに乗じても結果は同じです。

すると上式は数式上、
「電流密度ベクトルの、面に対する垂直成分とdSの積をとる(面に垂直な体積として計算)」
「面を電流密度ベクトルに対して垂直な平面に射影して、その射影面積とvρの積をとる」
といった解釈をしてもよい事になります。

$$Q=\left|\overrightarrow{j}\right|\hspace{2pt}\left|d\overrightarrow{S}\right|\cos\theta=
\left(\left|\overrightarrow{j}\right|\cos\theta\right)
\left|d\overrightarrow{S}\right|
$$

$$=\left|\overrightarrow{j}\right|
\left(\left|d\overrightarrow{S}\right|\cos\theta\right)
$$

電流とはそもそも何なのか?「電荷の流れ」とみなせる根拠は

ここで、そもそも電流とは「電荷の流れ」なのか?という疑問も生じるかもしれません。その話はまた長くなりますが興味深い議論でもあります。ここではそのように見なせる事を支持する実験事実や理論的根拠をいくつか列挙しておくに留めます。

  • 陰極線の実験:真空中でつながっていない電極間に高電圧をかけると、光の筋が見える。この光の筋は電場をかけると曲がり、磁場によっても曲がる(ローレンツの力を受ける)ので「電荷を持った運動する」であると解釈できる。正確にはこれは電極から飛び出した電子線の流れだが「電荷を持つ粒子の流れ」の実例となっている。
  • コンデンサーの放電電流:静電気を帯びた物体は、短い時間だけだが電流が生じさせる事ができ、電流発生後では物体が帯びていたはずの静電気が無くなっている。
    これは蓄えられていた電荷が「流れ出た」のではないかと見れる。コンデンサーとは2枚の電極で薄い絶縁物を挟んだ電気回路の素子で、電荷を蓄えたり放出したりする。
  • 導線中の電流は導線の空間的向き以外の「導線に沿った一方向とその逆向き」の2方向の「向き」を持つ。電流の向きが異なれば発生する磁場の向きも逆転する、また、電流を発生させる電源につなぐ2つの端子を入れ換える事で、電流の向きが逆になる事が確認できる。
    水などの流体も管の中での流れは一方向とその逆向きの2方向ある。
  • 電気回路においてはキルヒホッフの法則として、導線の分岐があった場合には電流も「分岐前の電流=分岐後の電流の総和」となる事が確認できる。これは水などの「流体の流れ」で見られる性質。(電流の量は発生する磁場の大きさから確認可能。一般的な電流計もそのようにして電流を測定しています。)
  • 化学電池では化学反応が必ず起きていて、電荷の流れが「電子の流れ」に由来するものであると捉えると、化学反応における理論との整合性もとれる。

電流密度の法線面積分と、電流の総和との関係の式

特定の曲面を通過する電流の総和を考える時、
電流密度ベクトルによる法線面積分を使う方法があります。

これは、曲面上のある微小領域を通過する電流は、電流密度ベクトルと面積要素ベクトル(微小領域に垂直な向き)との内積で表せるという事を根拠にしています。ここでの微小領域は電流密度ベクトルに対して一般的には垂直ではなく「斜め」になっている事に注意が必要となります。

電流及び電流密度ベクトルが曲面上で連続的に分布しているとして、曲面全体で法線面積分を考える事によって曲面を通過する電流の総和を表す事ができます。

曲面を通過する電流の総和と電流密度ベクトルの関係

ある曲面Sを「通過する」(=貫通する)電流が連続的に分布している時、
その電流の総和は電流密度ベクトルの法線面積分によって表す事ができます。 $$I_S=\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}$$ この式を考える曲面は開曲面でも閉曲面でも可です。
「電流が連続的に分布している」と書きましたが、
「電荷の流れが生じている」と考えても同じです。
(ここでは渦電流のように表面上をまわるような電流ではなく、「面を貫通する向き」の電流の分布を想定しています。曲面に接する向きの電流も考える事はできますが、その分の量に関してはここでは内積計算により0として扱われます。)
法線面積分では、面積要素ベクトルは大きさは微小領域の面積であり、向きは微小領域に対して垂直な向きのベクトルとして考えます。

この式は、内積の見方によって2つの見方ができます。

すなわち余弦を微小面積に乗じて射影面積を考えていると見るか、電流密度ベクトルの大きさに乗じると見るかの違いですがどちらで考えても結果は同じというのが本質です。

どちらにしても、\(\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}\) という量は微小領域における電流を表します。

まず、積分を行う曲面を多数の微小平面に分割します。(例えば曲面上の3点を結ぶと確実に三角形状の微小な平面領域ができるので多数の点を考えて分割します。)

微小領域の射影を考える場合

微小領域において一般的には面が電流密度ベクトルに対して垂直ではないので、単純に微小面積を乗じても正しい電流の値が出ません。しかし、前述の考察で見たように内積を考える事で、
位置関係的に微小面積dscosθは電流密度ベクトルに垂直な平面への射影面積になります。

よって、\(\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{S}==\left|\overrightarrow{j}\right|
\left(\left|d\overrightarrow{S}\right|\cos\theta\right)\)は曲面上の微小領域あたりの電流を表します。

ただし、曲面の領域の分割を十分多くしないと微小領域を平面に近似する事はできませんから、極限をとって積分として考える必要があります。それによって曲面上に分布する(ベクトルの向きを考えれば「通過する」)電流の総和を得るわけです。

面を通過する電気量として考える場合

次に、電流密度ベクトルに対して垂直ではなく斜めになっている面に対して
「単位時間あたりに通過する電荷の電気量」を考えても同じ結果を得ます。

前述の「電流を電荷の流れと考える」時の考察により、
電流密度ベクトルと面積要素ベクトルの内積は「微小面(角度を問わず)を単位時間あたりに通過する電荷の電気量」です。すなわちそれはその微小領域における電流の大きさだと考えられるわけです。

$$\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{S}=\left|\overrightarrow{j}\right|\hspace{2pt}\left|d\overrightarrow{S}\right|\cos\theta$$

$$=
\left(\left|\overrightarrow{j}\right|\cos\theta\right)
\left|d\overrightarrow{S}\right|=\rho (v\cos\theta)dS$$

法線面積分の内積の部分については「余弦が電流密度ベクトルの大きさに乗じられている」と見ます。
さらに、余弦が速度ベクトルの大きさ(速さ)に乗じられていると見れば、\(v\cos\theta\) が1秒あたりの電荷が通過した体積の「高さ」になっています。さらに電荷密度と面積を乗じれば電流になるわけです。

曲面全体で微小領域における電流の合計を考えて、分割を十分多くとった極限として積分を考える必要があるのは先ほどと同じです。

このようにして、\(I_S=\large{\int_S}\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}\)が成立します。

電荷保存則の式

電流を電流密度ベクトルの法線面積分で表す方法において、閉曲面を考えます。
そこで、電流を電荷の流れの量として見る時には曲面の外に出ていく電気量もあるけれども内側に入って行く電気量もあり得るわけです。

いずれにしても、単位時間あたりに曲面の内側の領域全体の電荷の量には変化が生じます。
(その変化が「合計すると0」という事もあり得ますが、それも含めて「変化」としておきます。)

そこで、曲面の内側の全電荷を電荷密度で表します。
(これは電場に関するガウスの法則で行うやり方と同じです。)

$$閉曲面S内部の全領域Vの電荷の合計値は、Q_S=\int_V\rho dv$$

その量の単位時間当たりの変化量を微分によって考えます。
これは偏微分になりますが、積分変数(dv=dxdydz)とは異なる変数なので、「積分全体」を微分したものと「微分したものを積分」したものは同じ結果になります。(※積分領域に関数の不連続点が無ければ、これは数学的にやってよい計算です。領域の形や電荷密度の分布と関数形については不連続点が生じるような変なものを考えない必要はあります。)

$$\frac{\partial }{\partial t}Q_S=\frac{\partial }{\partial t}\int_V\rho dv=\int_V\frac{\partial \rho}{\partial t}dv$$

この式は「曲面の内部で電荷が増えたらプラス」としています。他方、電流密度の法線面積分で電流を表す方法では「曲面の外部で電荷が増えたらプラス」としています。
そのため、両者は「符合を入れ換えて」から等号で結ぶ事ができます。

$$\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}=-\int_V\frac{\partial \rho}{\partial t}dv$$

これは電荷の保存を表す式であり、「電荷保存則」のように呼ぶ事もあります。
要するに、内部で減ったものは外部では増えており、逆に内部で増えたものは外部では減っており、
「内部と外部の合計では一定値が保たれる」事を意味します。

もっとも、この「電荷の保存」自体(つまり2式を等号で結んだ事)に関しては何かから導出したというよりは、基本法則として考えて式で表したという性質のものと言えます。

次に、ガウスの発散定理を使って電荷保存則の式を書き替えます。(これは「ガウスの法則」ではなく、法線面積分と体積分の関係を表す「ガウスの発散定理」です。単に「ガウスの定理」「発散定理」とも言います。)ここでの曲面は「閉曲面」としているので定理が適用できる事に注意。

$$ガウスの発散定理により、\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{j}dv$$

よって電荷保存則は次のようにも書けます。

$$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{j}dv=-\int_V\frac{\partial \rho}{\partial t}dv=\int_V\left(-\frac{\partial \rho}{\partial t}\right)dv$$

ここで、領域Vは条件を満たす範囲で(先ほどの連続に関する事など)任意の形状であり得るので、積分の中身も一致する事になります。よって、電荷保存則の微分形の形が得られます。

$$\mathrm{div}\overrightarrow{j}=-\frac{\partial \rho}{\partial t}$$

この形の式は流体力学でも使われ、一般的に「連続の方程式」とも言います。

閉曲面内部の電荷の時間変化が無い場合、すなわち∂ρ/∂t=0の時(外部への電流の出入りについても大きさに時間変化が無いので定常電流の時)には電流密度ベクトルの発散も0です。
つまり電流が定常電流である時には、電流密度ベクトルはベクトル場としては「湧き出しが無い」事が式で表現されます。

アンペールの法則で使う電流密度ベクトル

アンペールの法則は、マクスウェル方程式の中でも電流密度ベクトルとの関係が深い式です。それは元々、電流と磁場の関係を表す法則である事に由来するのですが、ベクトルとしては「電流」をそのまま扱うのではなく、「電流密度ベクトル」で考えたほうが都合が良い事が式を表しやすいのです。

アンペールの法則の微分形の導出の概要

アンペールの法則の周回積分の形を変形して、
法則の微分形を導出する過程で電流密度ベクトルを考える方法があります。まず、時間変化しない定常電流の範囲でアンペールの法則の周回積分側の式をストークスの定理で書き換えます。

$$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}(=\mu_0 I)$$

Sは開曲面で、閉曲線Cを外縁に持つ条件のもと「任意の開曲面」になります。このような形になるので、法則の微分形を得るために電流を「何かの法線面積分で書けないか」と考えるわけですが、ここで電流を電流密度ベクトルの法線面積分で表す式が使えます。

$$I=\int_S\overrightarrow{j}\cdot d\overrightarrow{s}であるので、$$

$$\int_S\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{B}\right)\cdot d\overrightarrow{s}=\mu_0 I=\int_S\left(\mu_0\overrightarrow{j}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

$$Sは任意の開曲面なので\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$

このように、静磁場の回転が電流密度ベクトル定数倍に等しいという結果が得られました。
これが「定常電流における」アンペールの法則の微分形です。

この場合に発生する静磁場は直線電流に垂直な平面にだけ成分を持ちますが、
実際に具体的な計算をすると\(\overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow{j}=0\) となる事や、電流の向きをz軸にとった時には磁場の回転がz成分以外の成分が0になる事などが確かめられます。

電荷保存則にしてもアンペールの法則の微分形にしても、電流をベクトルとして直接的に扱うよりも「電流密度ベクトル」で考えたほうが計算がしやすいという事情が見えてくるのではないでしょうか。

電流の時間変化がある時のアンペールの法則の概要

ところで電流の時間変化がある時のアンペールの法則はどうなるのかというと、電場の時間変化を含む項(変位電流)が加わります。アンペールの法則の「修正」ともよく言われます。

この変位電流とは電場の変化であって「電荷の流れ」ではないので普通の電流とは区別されるものではありますが、例えば電気回路でコンデンサーによって電流としては絶縁部分になっているところの電場の変化などを指します。

簡単にだけ述べると、まず先ほどの電荷保存則の微分形において、電荷密度の部分をガウスの法則の微分形によって電場に書き換えます。(これは「ガウスの発散定理」ではなく「ガウスの法則」です。)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{j}=-\frac{\partial \rho}{\partial t}=–\frac{\partial}{\partial t}\left(\epsilon_0\mathrm{div}\overrightarrow{E}\right)$$

最右辺を左辺に移行して、発散を2つの項に作用させると考えると次式です。

$$\mathrm{div}\overrightarrow{j}+\frac{\partial}{\partial t}\left(\epsilon_0\mathrm{div}\overrightarrow{E}\right)=0\Leftrightarrow \mathrm{div}\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)=0$$

「磁場の回転」に対する発散は必ず0である事に注意して、定常電流におけるアンペールの法則の微分形にこの式を使い、さらに積分形のほうもこの式で書き直したものが電流の時間変化がある時のアンペールの法則の式です。

電流の時間変化がある時のアンペールの法則の微分形と積分形を書くと次のようになります。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)$$

$$\oint_C\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{l}=\mu_0\int_S\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

積分形のほうに関しては、電流密度ベクトルの部分を積分すると電流の大きさになるのでその項が定常電流の場合のアンペールの法則の電流の部分になります。

補足事項

説明した式の一部のナブラ表記

以上で説明した電流密度ベクトルを含む式で、
div, rot の記号の代わりにナブラ記号で書いたものを補足としてまとめておきます。

電荷保存則の式(微分形)

電荷保存則の微分形 $$\nabla\cdot\overrightarrow{j}=-\frac{\partial \rho}{\partial t}$$ 特に、領域内の電荷の変化が無い場合(電荷の流れ=電流は一定値)には
電流密度ベクトルは発散が0で、湧き出しがありません。 $$\nabla\cdot\overrightarrow{j}=0$$ 定常電流の場合において\(\nabla\cdot\overrightarrow{j}=0\)である事は、アンペールの法則からも導出可能です。

アンペールの法則の微分形

電流の時間変化が無い時 $$\nabla\times\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$ 電流の時間変化がある時 $$\nabla\times\overrightarrow{B}=\mu_0\left(\overrightarrow{j}+\epsilon_0\frac{\partial\overrightarrow{E}}{\partial t}\right)$$

マクスウェル方程式から電磁波の式を導出する過程などでは、電流密度ベクトルの回転を考える事もあります。それは回転を含む式であるアンペールの法則と電磁誘導の式に対して改めて回転を考える計算に由来します。

補足2:その他の電流密度ベクトルの使用例

この記事では扱っていませんが、
静磁場のベクトルポテンシャルは電流密度ベクトルを使って表されます。

また同じく、磁場に関する法則のビオ・サバールの法則は電流を使った形と
電流密度ベクトルを使った2つの形があります。

(参考)その他の電流密度ベクトルの使用例

静磁場のベクトルポテンシャル(発散が0の条件のもとでの式) $$\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{R}dv$$ ビオ・サバールの法則の形の1つ
(積分の中の「×」記号は「回転」ではなく外積ベクトルを表す記号) $$d\overrightarrow{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{\overrightarrow{j}\times \overrightarrow{r}dv}{r^3}$$

これら2つの関係式・法則はいずれもアンペールの法則との関わりがあります。

ビオ・サバールの法則【電流素片が作る磁場の式】

ビオ・サバールの法則とは電流が作る磁場の大きさと向きを表す法則です。
電流が作る磁場を表現する法則としてはアンペールの法則もありますが、特定の条件下でビオ・サバールの法則とアンペールの法則は等価である法則となります。

数式的には外積ベクトル(ベクトル積)を使って表現されるものであり、向きも含めて電流の向きと発生する磁場の関係が表現されます。(電流・磁場・力の関係を表す「ローレンツの力」も同様に外積ベクトルを使って表現されます。そしてその事は、ビオ・サバールの法則と無関係では無いという物理学的な見方があります。)

※ビオ・サバールの法則で表されるBという量は、電磁気学では
「磁束密度」と考える方式と、「磁場」と考える方式の2つが混在しています。
当サイトでは、後者の「磁場」と捉える方式で説明しています。
これは電場や磁場等の「場」を力として定義する考え方に由来しています。
前者のBを磁束密度とする方式では、真空中の「磁場」をH=B/μと定義します。(ベクトルの場合も同じです。)

電磁気学での位置付け

ビオ・サバールの法則は磁場に関する法則ですが、電場で言えばクーロンの法則に対応する法則です。

磁場についてもクーロンの法則というのは実はあるのですが(後述します)、磁場に関する法則としてはビオ・サバールの法則が基本的な法則であると考えられる事が多いです。

しかしビオ・サバールの法則は、クーロンの法則(電場、磁場に関して共に)と比較すると式の形が複雑でなかなか計算もしづらいともよく言われます。実際、数式としての表され方も外積ベクトルを含む形になっており、他の電磁気学の諸法則と比べると直接的には少し扱いにくい面はあると言えます。
しかしビオ・サバールの法則には、直線電流に限らず「任意の形状」の電流が作る回路による磁場を向きも含めて表現するという意味合いががあります。

それに対して、アンペールの法則も磁場に関する法則ですが「磁場の回転(および閉曲線上での接線線積分)と電流の関係」を表す式になります。ビオ・サバールの法則そのものには回転の情報は入っておらず。むしろ「ベクトルとしての磁場を電流を使って直接計算する形」をしています。また、磁場に関するガウスの法則もやはり磁場についての法則ですが、そちらは磁場の「発散(div)」に関する法則です。

磁気と磁場に関する諸法則の中での位置付け
  • 磁場に関するクーロンの法則:磁気を帯びた物体同士に働く力を記述
  • アンペールの法則:磁場の回転および閉曲線の接線線積分と、電流との関係を表す
  • 磁場に関するガウスの法則:磁場(静磁場)の発散を表現(ゼロになる)
  • ビオ・サバールの法則:任意の形状の電流が作る回路による磁場を、向きも含めてベクトルとして表現する

これらの他に磁場に関係する重要な法則の例としては磁場中で動く電荷に働くローレンツ力や、磁場の変化により起電力が生じる電磁誘導などがあります。
ビオ・サバールの法則に特に関連が深いのはアンペールの法則です。
ただし他の法則に対しては全く無関係かというとそうではなく、つながりは持っています。
例えば磁場に関するクーロンの法則とビオ・サバールの法則の間接的な関係は、数式的に考察する事が可能です。

ビオ・サバールの法則は物理学での「法則」ですので、本質的にはそれを1つの「事実」と考えて必要に応じて使えばよいという性質のものです。
ただし、この法則は単独で実験データのみから得られる式であるというよりは、別の実験事実や理論を数式的に整理して改めて1つの法則と考える見方もできます。

そこで、この記事の後半ではビオ・サバールの法則を「導出」する2つの考え方も紹介します。そこではローレンツ力、磁場に関するクーロンの法則、ベクトルポテンシャル(間接的にアンペールの法則とガウスの法則)とビオ・サバールの法則との関係を物理学的な見方も含めて数式で説明します。

ビオ・サバールの法則の式

ビオ・サバールの法則とは数式としては次のように電流とそれによって作られる磁場(基本的には静磁場)の定量的な関係を、外積ベクトルを使って表現したものです。

ビオ・サバールの法則(基本の形)

大きさ\(I\)[A]の定常電流と、
向きも含めた導線の微小部分の長さ\(d\overrightarrow{l}\)による「電流素片」\(Id\overrightarrow{l}\)を考えます。
電流素片から磁場を考える位置(x,y,z)までの距離と大きさを表す\(\overrightarrow{r}\)、
および(x,y,z)に作られる磁場\(d\overrightarrow{B}\)の関係は次のように表される事が分かっています。 $$d\overrightarrow{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{Id\overrightarrow{l}\times \overrightarrow{r}}{r^3}$$ 電流密度ベクトル\(\overrightarrow{j}\)(大きさの単位は[A/m2])および
体積要素dvを使っても書けて、次のようになります。 $$\overrightarrow{j}dv=Id\overrightarrow{l}\hspace{5pt}により、$$ $$d\overrightarrow{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{\overrightarrow{j}\times \overrightarrow{r}dv}{r^3}$$ $$\left(いずれの場合も\left|\overrightarrow{r}\right| =r\hspace{5pt}と表記しています。\right)$$

電流素片\(Id\overrightarrow{l}\)の事は「電流要素」と呼ぶ事もあります。

ビオ・サバールの法則には見かけ上分母に距離の3乗が入っていますが、1つは位置ベクトルを「方向だけを表す単位ベクトル」として表すために付けているだけなので本質はrの「2乗」です。もしベクトルの大きさ(「強度」とも言う)だけに着目するなら、電流素片のベクトルと位置ベクトルのなす角をΘとして次の形になります。

$$\left| \frac{\overrightarrow{r}}{r}\right|=1\hspace{5pt}に注意して、\hspace{5pt}\left|d\overrightarrow{l}\times \frac{\overrightarrow{r}}{r}\right|=dl\sin\theta\hspace{5pt}であるから$$

$$dB=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{Idl\sin\theta}{r^2}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{j\sin\theta dv}{r^2}$$

参考1:外積ベクトル(「ベクトル積」「クロス積」)の図での位置関係
参考2:平行四辺形の面積をベクトルで表したときの式

また、後述する事にも関係しますがビオ・サバールの法則の係数μ/(4π)は磁場に関するクーロンの法則の比例定数や、静磁場のベクトルポテンシャルを積分で表した式における係数と同じものになっています。

実際にこの法則を使って具体的な計算をする時には基本的に積分の形にします。
電流素片を集めて積分にする場合には
「曲線状の積分路に対して外積を微小量とした積分(内積ではなく)」を考えて、
電流密度を使った式の場合には体積積分を考えます。

いずれの場合も、ビオ・サバールの法則の基本の形に積分を付けて考えればよいのですが積分変数が何であるかには注意する必要もあります。磁場を考える座標は基本的には「積分の中では定数扱い」です。積分変数として考えるのは、積分の経路となる導線等における接線ベクトル(あるいはその始点の座標)を区別する必要があります。

混乱しやすい点をあらかじめ整理しておくと次のようになります。

  • 磁場に関しては「磁場を表すベクトル場」と、
    その始点となっている位置座標の2つを考えている。
  • 電流が生じている導線等においても「電流素片のベクトル」(向きは導線の接線ベクトル)と、
    その始点となっている位置座標の2つを考えている。電流密度ベクトルを考えている場合も同じです。
ビオ・サバールの法則(積分にした形)

考える磁場\(\overrightarrow{B}\)の始点となる位置を\(\overrightarrow{R_B}=(x,y,z)\)とおき、
\(d\overrightarrow{l}\)および\(\overrightarrow{j}\)の始点となる位置を\(\overrightarrow{R_L}=(X,Y,Z)\)として
積分変数を\(X,Y,Z\)とする時、\(\overrightarrow{r}=\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_L}\) であるもとで
ビオサバールの法則に対する積分は次式で書けます。 $$\overrightarrow{B}(x,y,z)= \frac{\mu_0I}{4\pi}\int_C \frac{d\overrightarrow{l}\times \overrightarrow{r}} {r^3}$$ 電流密度ベクトルを使った場合の式も、\(dv=dXdYdZ\) のもとで次のように積分を書けます。 $$\overrightarrow{B}(x,y,z)= \frac{\mu_0}{4\pi}\int_V \frac{\overrightarrow{j}\times \overrightarrow{r}} {r^3}dv$$ $$\left(\left|\overrightarrow{r}\right| =\left|\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_L}\right|=r\hspace{5pt}と表記しています。\right)$$ 電流は大きさがI[A]で一定の定常電流であるとしています。
電流密度ベクトルは各位置で異なるベクトルになります。
前者の電流素片から作ったほうの積分(積分の経路をCとしているほう)は、
「接線線積分ではない」のでストークスの定理による直接変形はできないので注意。

変数の表記については\(\overrightarrow{B}(x,y,z)=\overrightarrow{B}\left(\overrightarrow{R_B}\right)\)のようにも書けます。

多少煩雑になりますが変数などをより明確にして書くなら次のようになります。

$$\overrightarrow{B}\left(\overrightarrow{R_B}\right)=\overrightarrow{B}(x,y,z)=
\frac{\mu_0I}{4\pi }\int_C
\frac{d\overrightarrow{l}\left(\overrightarrow{R_L}\right)\times \left(\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_B}\right)}
{\left|\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_L}\right|^3}$$

$$=\frac{\mu_0I}{4\pi }\int_C
\frac{d\overrightarrow{l}(X,Y,Z)\times \left(x-X,y-Y,z-Z\right)}
{\left(\sqrt{(x-X)^2+(y-Y)^2+(z-Z)^2}\right)^3}$$

(※ただし、もしこの形の積分を普通の定積分として具体的に計算するなら基本的に3変数としてではなく曲線Cの各位置に対応するパラメーターとしての1つの実変数が必要になります。)

電流密度を使った場合も、「敢えて書くと」次式です。
(積分の区間の端点についてはてきとうな文字で置いています。)

$$\overrightarrow{B}(x,y,z)=
\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V
\frac{\overrightarrow{j}\left(\overrightarrow{R_L}\right)\times \left(\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_B}\right)dv}
{\left|\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_L}\right|^3}$$

$$=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_a^b\int_c^d\int_u^w
\frac{\overrightarrow{j}(X,Y,Z)\times \left(x-X,y-Y,z-Z\right)}
{\left(\sqrt{(x-X)^2+(y-Y)^2+(z-Z)^2}\right)^3}dXdYdZ$$

しかし次に具体例で説明するように、なるべく簡単なモデルを考えて変数の撮り方も工夫する事によって積分は3変数ではなく1変数で計算できる事もあります。

具体的にビオ・サバールの法則で計算をする例

実際問題としてビオ・サバールの法則から積分で直接的に磁場のベクトルを計算する場合には、できるだけ分かりやすい図のモデルを用意して「方向」と「大きさ」も分けて考えて、角度を変数として考えれるように変数変換する事で(1変数の積分で)計算をするといった工夫をしたりします。

比較的簡単な例として、直線状の導線上における定常電流が導線の周囲に作る磁場をビオ・サバールの法則を使って計算してみます。積分する範囲も「曲線」ではなくて直線で考えて、さらに電流も当然それに沿った向きなので、積分に関してはベクトルではなくて1変数の積分区間として考えてしまうわけです。(図での位置関係に関してはベクトル的な関係も考慮する必要があります。)

積分をする前に、法則の基本となる形のほうで状況を整理します。電流の向きを画面上の左から右に向かう方向にとると、ビオ・サバールの法則が言うには磁場の方向は「電流素片のベクトル×導線から磁場の位置までのベクトル」という外積ベクトルの方向であるから、「画面奥から画面手前」の向きです。そこで、向きは確定したので次は大きさだけを見るという流れになるのです。

  1. まず磁場の「向き」を確定させます。(ビオ・サバールの法則により外積ベクトルの向き。)
  2. 次に、磁場の大きさだけを積分で計算します。

磁場を考える位置から導線に向かって垂線をおろして、その足(交点)を原点とします。そして、そこから磁場を考える位置までの距離をRとします。このRは定数です。

大きさだけに着目すると、平面幾何的な角度の関係に注意すると次の式が成立します。これは前述の、ベクトルの大きさだけに着目した場合のビオ・サバールの法則の式です。法則の外積ベクトルに由来する角度をΘとして、計算をしやすくするために補足的に考えた「原点・磁場を考える位置・電流素片(の始点)の位置」で作られる角度ωとしています。

$$dB=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{Idl\sin\theta}{r^2}=\frac{\mu_0I}{4\pi r^2}\sin\left(\omega+\frac{\pi}{2}\right) dl=\frac{\mu_0I}{4\pi r^2}\cos\omega\hspace{3pt} dl$$

途中計算には三角関数の公式を使用しています。

この電流の向きと磁場を考える位置(画面において直線電流の上側)を決めると、磁場の向きがまず「画面に対して垂直に、画面奥から画面手前」に確定します。
残りの積分計算は磁場ベクトルの「大きさ」に関してだけ考察する事になります。

ここで、積分する時の変数は導線の長さを表す位置ですが、これは1変数として扱えます。しかし図の位置関係から、ωやrは変数\(l\)に対して独立ではないので定数扱いはできない事になります。
この場合では、ωやrを\(l\)に変換するよりも、統一してωの関数に変換して積分をするほうが簡単です。ただし、この変換をする時は最初から微小量で考えるのではなく、普通の関数として考えてから微分をする必要がありますので注意。

定積分を\(l\)=aからbまで行うとして、対応するωをω1 とω2とします。

\(\left|\overrightarrow{B}\right|=B\) とすると、計算は次のようになります。

$$\cos\omega=\frac{R_0}{r}\Leftrightarrow \frac{1}{r}=\frac{\cos\omega}{R_0}\hspace{15pt}l=R_0\tan\omega\hspace{15pt}\frac{dl}{d\omega}=\frac{R_0}{\cos^2\omega}\hspace{3pt}であるので、$$

$$B=\int_a^bdB=\int_a^b\frac{\mu_0I}{4\pi r^2}\cos\omega dl=\frac{\mu_0I}{4\pi }\int_{\omega 1}^{\omega 2}\frac{\cos^2\omega}{R_0\hspace{1pt}^2}\cos\omega\frac{dl}{d\omega}d\omega$$

$$=\frac{\mu_0I}{4\pi }\int_{\omega 1}^{\omega 2}\frac{\cos^3\omega}{R_0\hspace{1pt}^2}\frac{R_0}{\cos^2\omega}d\omega=\frac{\mu_0I}{4\pi R_0}\int_{\omega 1}^{\omega 2}\cos\omega d\omega$$

$$=\frac{\mu_0I}{4\pi R_0}(\sin\omega_2 -\sin\omega_1)$$

使用した微分に関する公式等は次の2つです。

式が一見込み入るようですが丁寧に計算すると単独の余弦関数を積分すればよいだけになり、このように結果を出せるわけです。この結果でω→-π/2とω→π/2の極限を考えると、
「導線が無限に(十分に)長いとみなせる場合」の結果となり、またアンペールの法則から計算した結果にも一致するようになります。

このように、想定するモデルを工夫すると一見複雑であるビオ・サバールの法則の式の計算を、通常の1変数の定積分にまで簡略化できたりするわけです。こういった手法は電磁気学で(あるいは物理学全般で)使用され、物理現象の考察に活用されます。

法則の由来①:ローレンツ力や磁場に関するクーロンの法則等の組み合わせによる帰結と解釈する方法

電流と磁場の関係については次のような事実が実験によって知られています。

  • 直線電流の周りには環状の磁場が作られる。(エールステッドによる実験)
  • 電流が生じている2本の平行導線には互いに力が働く。
    2つの導線の電流が同じ向きなら引力であり、
    向きが互いに逆なら力は斥力(反発する力)。(アンペールなどによる実験)
  • 磁場の中で運動している電荷は力を受ける。(「ローレンツの力」)
  • 磁気を帯びた物体同士には電気を帯びた物体同士同様の力が働く。
    (磁場に関するクーロンの法則)

直線電流が作る環状の磁場は、アンペールの法則から得られる結果の1つと捉える事が可能です。

これらの実験事実やその理論の組み合わせの帰結としてビオ・サバールの法則の式が得られるという物理学的な解釈の方法があります。ここではその導出過程を詳しく見ます。

電流が生じている平行な導線(以下、簡単のために「平行電流」と書きます)の相互に働く力は、2つの電流の大きさのそれぞれに比例し、導線の長さにも比例し、さらに平行電流間の距離dに反比例するというデータが得られていました。

平行電流に働く力は、電流による環状磁場とローレンツの力の組み合わせで生じるという見方ができます。さらに、そこに磁場に関するクーロンの法則を組み合わせて少し考察するとビオ・サバールの法則を積分したものと同じ形の式ができます。そしてそれがビオ・サバールの法則の電流素片による表記の由来となっていて、法則が成立する理論的な裏付けの1つであるという見方も可能であるわけです。

平行電流に互いに働く力(実験事実)

大きさ\(I_1\)[A]の\(I_2\)[A]の定常電流が2本の平行導線にそれぞれ生じている。
(片方の向きの電流をプラス、その逆方向の電流をマイナスとします。)
これらの平行電流の間隔をR[m] とする時、それぞれの導線のdl[m] 部分に働く力 dF[N] は次のようになります。 $$dF=\frac{\mu_0}{2\pi}\frac{I_1I_2dl}{R}\left(=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{2I_1I_2dl}{R}\right)$$ 2つの電流の符号が同じなら力はプラス(引力)、異符号なら力はマイナス(斥力)です。
これは電荷に働く電気力(クーロン力)と同じ考えです。
比例定数については他の法則等との整合性等の理由でこのような形になっていますが、もちろん実験値がもとになっています。

ローレンツの力

磁場中の電気量\(q\)[C]の電荷が速度\(v\)[m/s]で動いている時には電荷は力を受け、次式で表されます。 $$\overrightarrow{F}=q\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}$$ 電荷は電場からも力を受けるので、より一般的には次式で書けます。 $$より一般的な形:\overrightarrow{F}=q\left(\overrightarrow{E}+\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}\right)$$ 電場と磁場を「力」によって定義するやり方は、このローレンツの力を基本に場を定義していく方法です。

磁場に関するクーロンの法則

磁気量\(q_1\)[Wb]および\(q_2\)[Wb]の磁気を帯びた2つの物体に働く力の大きさfは互いの距離r[m]の2乗に反比例し、次のように書けます。 $$大きさ:f=\frac{kq_1q_2}{r^2}=\frac{\mu_0q_1q_2}{4\pi r^2}$$ 1[Wb]の仮想的な「磁荷」がq[wb]の磁気量の磁気から受ける力(=磁場)は、ベクトルで書くと次のようになります。 $$\overrightarrow{F}=\frac{kq\overrightarrow{r}}{r^3}=\frac{\mu_0q\overrightarrow{r}}{4\pi r^3}$$ 磁気量の単位は、ここでのビオ・サバールの法則に関する考察ではそれほど重要ではありませんが「ウェーバー」[Wb]になります。

まず電荷密度ρがある速度で動いている時に、これを電流密度として解釈します。ローレンツの力は磁場中で導線自体が動いている時に働く力でもありますが、導線に沿って電荷が動いて流れになっている(すなわち電流が発生している)時にも同様に成立すると見るわけです。

$$\overrightarrow{j}=\rho\overrightarrow{v}$$

これを、単位体積(1m)当たりで考えたローレンツの力の磁場だけの式に代入します。

$$\overrightarrow{F}=\rho\overrightarrow{v}\times\overrightarrow{B}=\overrightarrow{j}\times\overrightarrow{B}$$

これは1mの式なので、S [m]×dl[m]=Sdl[m](これは外積ではなく普通の掛け算)の場合を書きます。ここではSdlという量はスカラー扱いになりますから、特に順番も気にせずに単に乗じれば良い事になります。その場合の力を\(d\overrightarrow{F}\)とします。

$$d\overrightarrow{F}=\overrightarrow{j}\times\overrightarrow{B}Sdl=\left(S\overrightarrow{j}\right)\times\overrightarrow{B}dl$$

ここでの電流密度は「電荷密度×速度」で最初考えましたが、これを「電流ベクトル×面積」で表します。普通、電流はベクトルでは考えませんがここでは敢えて電流密度ベクトルに合わせたものを考えるという事です。

$$\overrightarrow{j}=\frac{\overrightarrow{I}}{S}\Leftrightarrow \overrightarrow{I}=S\overrightarrow{j}により、$$

$$d\overrightarrow{F}=\left(S\overrightarrow{j}\right)\times\overrightarrow{B}dl=\overrightarrow{I}\times\overrightarrow{B}dl$$

ここでdlはスカラーとしてきたわけですが「大きさはdlで方向は電流ベクトルに等しいベクトル」を改めて\(d\overrightarrow{l}\)とします。これを使うと「電流ベクトル」の向きはそのベクトルに含めてしまって、電流をスカラーとして扱えます。

$$d\overrightarrow{F}=\overrightarrow{I}\times\overrightarrow{B}dl=\left(dl\overrightarrow{I}\right)\times\overrightarrow{B}ですが、$$

$$dl\overrightarrow{I}=Id\overrightarrow{l}となるd\overrightarrow{l}を考える事ができるので$$

$$d\overrightarrow{F}=\left(dl\overrightarrow{I}\right)\times\overrightarrow{B}=Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{B}$$

この式は、途中で考えていた「断面積S」が小さい値であるとすると一般的な導線における状況と解釈する事ができて、「電流素片が磁場から受ける力」と捉える事ができます。

次に、これを磁場に関するクーロンの法則と組み合わせます。

電流が生じている導線があって、曲線Cの形をしているとします。そこから離れた位置に磁気量q[Wb] の磁気を帯びた小さな物体があるとして、近似的に点とみなせるとします。この物体は周囲に磁場を作り、大きさ等は磁場に関するクーロンの法則を使うとします。そこで物体から曲線C上のある電流素片の位置までのベクトルを\(\overrightarrow{R}\)とすると、電流素片が受ける力は次のように書けます。

$$d\overrightarrow{F}=Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{B}=Id\overrightarrow{l}\times\frac{kq\overrightarrow{r}}{R^3}=kqI\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{R}}{R^3}$$

$$曲線C全体では、積分して\overrightarrow{F}=kqI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{R}}{R^3}$$

形としてはかなりビオ・サバールの法則に近くなったように見えます。しかし、ここで考えている磁場は磁気を帯びた物体が作る磁場であって、電流が作る磁場ではないので注意。また、得られている式が表す量も「磁場によって電流素片が受ける力」です。磁場は、1[Wb] の磁気量を持つ試験磁荷(仮想的ですが)が他の物体由来の磁気から受けるです。

では次にどのように考えるのかというと、電流が磁場を発生させる事はエールステッドの実験や平行電流に関する考察から事実と受け取れるので、曲線C上の電流素片もまた周囲に磁場を作ると考えられます。さらにその磁場は、磁気を帯びた物体に力を及ぼすはずです。

ここで、数学ではなく物理的な見方になりますが力学の作用反作用の法則が、ここでも成立するはずだと見ると「電流素片がq[wb]の磁気量の物体に及ぼす力」は「q[wb]の磁気量の物体が電流素片に及ぼす力」と大きさは同じで向きが逆の力ベクトル(数式ではマイナス符号が付く)になっていると予想できます。電流素片が作る磁場を\(\overrightarrow{B_I}\)とすると、磁気を帯びた物体が受ける力は\(q\overrightarrow{B_I}\)となります。そこで、これがさきほどの「q[wb]の磁気量の物体が電流素片に及ぼす力」にマイナス符号を付けたものだとして式を作ると次式です。

$$q\overrightarrow{B_I}=-kqI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{R}}{R^3}$$

$$\Leftrightarrow \overrightarrow{B_I}=-kI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{R}}{R^3}$$

さらに、\(\overrightarrow{R}\)は「物体から電流素片」へのベクトルでしたから、「電流素片から物体」に向けてのベクトルとして\(\overrightarrow{r}=-\overrightarrow{R}\)に置き換えます。

$$ \overrightarrow{B_I}=-kI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{R}}{R^3}=-kI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\left(-\overrightarrow{r}\right)}{r^3}=kI\int_C\frac{d\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{r}}{r^3}$$

$$=k\int_C\frac{Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{r}}{r^3}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_C\frac{Id\overrightarrow{l}\times\overrightarrow{r}}{r^3}$$

つまり、電流素片に関するビオ・サバールの法則を曲線Cに関して積分した式と全く同じものが得られました。この事から、もとのビオ・サバールの法則の式が成立する事の「理論的根拠」も得られたと捉える事もできるわけです。

この捉え方のもとでは、ビオ・サバールの法則の「距離の2乗に反比例」(ベクトル表記の時に書かれる3乗というのは形式上なので本質は2乗)という部分は磁場におけるクーロンの法則と同じ由来のものであり、外積の形になっている事はローレンツの力に由来すると考える事ができます。

ところで、この考察のもとで得られた「ビオ・サバールの法則の式」に含まれる比例定数は磁場に関するクーロンの法則における比例定数由来のものです。他方で、ビオ・サバールの法則を使うと直線電流が作る磁場の理論値を計算できて、実験によって得られた定量的な数値を再現できます。
そしてこの事から、磁場に関するクーロンの法則の比例定数と直線電流が作る磁場の比例定数は偶然にも値が等しくなるというよりは、そのようになる理論的な根拠もあるという解釈もできるようになります。

法則の由来②:ベクトルポテンシャルから導出する方法

他方で、アンペールの法則のほうがまず成立していると考えて、静磁場のベクトルポテンシャルからビオ・サバールの法則の式を導出するという事もできます。電流密度を使ったほうのビオ・サバールの法則を積分で書いた式は、ベクトルポテンシャルを表す式に何となく形が似ています。そしてそれは偶然ではなくきちんと関係があると解釈できるという事です。

まず(静磁場の)ベクトルポテンシャルの式は次のような形です。

$$\overrightarrow{A}(x,y,z)=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}
{r}dv$$

$$\left(\overrightarrow{R_B}=(x,y,z),\hspace{5pt}\overrightarrow{j}の各始点\overrightarrow{R_L}=(X,Y,Z)\hspace{3pt}のもとで\hspace{3pt}r=\left|\overrightarrow{r}\right| =\left|\overrightarrow{R_B}-\overrightarrow{R_L}\right|\right)$$

次に「ベクトルポテンシャルの回転が静磁場になる」ので、回転 rot を考えます。ただし、偏微分を行う対象はベクトルポテンシャルのほうですからここでの変数で言うと(x,y,z)のほうです。積分変数として考えている(X,Y,Z)ではありません。
そこで、ここではその事を強調して回転の記号を rotA と書いておきます。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}であり、x,y,zでの偏微分を行う事を強調し回転を\mathrm{rot_A}と書くと$$

$$\overrightarrow{B}=\mathrm{rot_A}\overrightarrow{A}=\mathrm{rot_A}\left(\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j} }{r}dv\right)$$

$$\mathrm{rot_A}=\left( \frac{\partial A_3}{\partial y}-\frac{\partial A_2}{\partial z},\hspace{3pt}\frac{\partial A_1}{\partial z}-\frac{\partial A_3}{\partial x},\hspace{3pt}\frac{\partial A_2}{\partial x}-\frac{\partial A_1}{\partial y}\right)\hspace{10pt}dv=dXdYdZ$$

前述のように、回転における偏微分を行う変数は積分変数ではなく「ベクトルポテンシャルを考えている位置を表す3変数」です。
そこで、積分を考える範囲で電流密度の分布と関数形が連続的なものであれば、積分変数でない変数で「積分の中身」を微分しても結果に影響を与えません。(※数学の解析学的な補足説明は後述。)

$$\overrightarrow{B}=\mathrm{rot_A}\left(\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j} }{r}dv\right)=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\mathrm{rot_A}\frac{\overrightarrow{j} }{r}dv$$

さてそこで、ベクトル解析における簡単な公式を2つほど使用して変形を行います。

使う公式2つ

スカラー場φ(x,y,z)と定ベクトル\(\overrightarrow{c}\)の積に対する回転に対して次式が成立します。 $$\mathrm{rot}\left(\phi\overrightarrow{c}\right)=\mathrm{grad}\phi\times\overrightarrow{c}=-\overrightarrow{c}\times\mathrm{grad}\phi$$ $$ナブラを使うなら\nabla\times\left(\phi\overrightarrow{c}\right)=\nabla\phi\times\overrightarrow{c}=-\overrightarrow{c}\times\left(\nabla\phi\right)$$ この公式における右辺側のクロス「×」は外積(ベクトル積)であり、
ナブラ記号を使った場合には左辺のクロスはあくまで「回転の意味」の記号の一部です。
また、外積の計算では順序を入れ換えると符号が反転する事に注意。

そしてもう1つの公式として、\(\overrightarrow{R}=(x,y,z)\)で\(r=\left|\overrightarrow{r}\right|\)とする時、次式が成立します。 $$\mathrm{grad}\frac{1}{R}=-\frac{\overrightarrow{R}}{R^3}$$ $$あるいは\nabla\frac{1}{R}=-\frac{\overrightarrow{R}}{R^3}$$ この公式は、各変数に定数を加えた形の\(\overrightarrow{r}=(x+c_1,y+c_2,z+c_3)\)に対しても成立します。
証明に関しては、いずれも丁寧に直接計算をすれば結果の式を得ます。
またこれら2つの公式はいずれも、もう少し一般的な別の特別な場合とみなす事もできます。

公式の証明では、外積ベクトルを成分で書く時の順番に注意。

さきほどの計算に戻ると、まず電流密度ベクトルは定ベクトルとみなせます(変数はX,Y,Zであり、これらはx,y,zから見ると定数とみなせるので。)そして分母のrについては計算上x,y,zに関するスカラー場と見なせますので1つ目の公式を適用できます。この時の外積の順序は電流密度ベクトルを先にしておきます。つまり公式で言うとマイナス符号が付いたほうを使います。

$$\mathrm{rot_A}\frac{\overrightarrow{j} }{r}dv=-\overrightarrow{j}\times\mathrm{grad}\frac{1}{r}$$

つまり、式の演算としては回転がなくなって外積に変わっているわけです。

ビオ・サバールの法則の式の形に近づいていますが、代わりに勾配 grad が入ってしまっています。
そこで\(\overrightarrow{r}=(x-X,y-Y,z-Z)\)において同じくX,Y,Zを定数とみなせば、公式を適用できて次式が成立します。

$$\mathrm{grad}\frac{1}{r}=-\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}$$

これによって数式上、勾配もなくなります。
整理すると、磁場が電流密度を用いたビオ・サバールの法則を積分で書いた形で表せる事になります。

$$\overrightarrow{B}=\mathrm{rot_A}\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\mathrm{rot_A}\frac{\overrightarrow{j} }{r}dv$$

$$=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V- \overrightarrow{j}\times \mathrm{grad}\frac{1}{r}dv= \frac{\mu_0}{4\pi}\int_V- \overrightarrow{j}\times \left(-\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv$$

$$=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V \overrightarrow{j}\times \frac{\overrightarrow{r}}{r^3}dv= \frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}\times\overrightarrow{r}}{r^3}dv$$

この式で表される磁場はベクトルポテンシャルと同じくx,y,zによるベクトル場です。
つまり\(\overrightarrow{B}=\overrightarrow{B}(x,y,z)\)です。

以上の事は、アンペールの法則(変位電流を含まない形)が成立する→静磁場のベクトルポテンシャルを放射ゲージ条件のもとで式で表せる→ビオ・サバールの法則を積分した形の式が成立するという流れです。そのため、ビオ・サバールの法則をアンペールの法則から導出するという見方とも言えます。
また、ベクトルポテンシャルを考えるうえでは磁場に関するガウスの法則も前提条件でしたから、上記の導出方法によれば磁場に関するガウスの法則も間接的に関わっていると言えます。

【※数学の解析学的な事項に関する補足】
「積分変数でない変数に関する微分は、積分全体で行っても積分の中身でも行っても結果に影響しない」という命題は数学では積分記号下の微分とかパラメータを含む積分に関する微分とか呼び名がいくつかありますが、数学的には自明な事ではなく本来はちょっとした考察が必要です。
これは基本的には2変数の場合の次の命題がもとになっています。
■命題:
xの定義域が閉区間[a,b]であり、yの定義域が[u,w]であるとする。
その領域内の任意の点(x,y)で関数f(x,y)が多変数における意味で連続であるならば
(その時関数は領域内で一様連続でもあって)次式が成立する。 $$\frac{\partial }{\partial y}\int_a^bf(x,y)dx=\int_a^b\frac{\partial }{\partial y}f(x,y)dx$$ より本質的にはこの命題は、
「有界な(=有限の範囲にある)閉集合内で連続な関数 は、その閉集合内で一様連続でもある」
という別の定理から得られる帰結になっています。
この定理は1変数でも多変数でも成立し、より一般的な線形変換の写像に対しても成立します。
同じ数学的議論は変数が増えた場合でも同様です。全ての変数に関して数学的な領域が有界閉集合であり、その任意の点において関数が連続であればよい事になります。(ただし、積分する範囲の端点に無限大などの不連続点がある広義積分の場合はさらに考察が必要になります。)
ところでベクトルポテンシャルの関数の形を見ると、分母に関してはベクトルポテンシャルの位置(x,y,z)と電流密度の分布(X,Y,Z)は重ならないように考えるのが普通ですから、
そのようにすればまず分母由来の不連続点はありません。そして電流密度の分布と関数形についても、領域内で連続であるものを想定する限りにおいては問題が発生しないという事になります。

静磁場のベクトルポテンシャル

静磁場では電場の場合のようにスカラーポテンシャルに相当する量を考えても統一的な物理的意味を与える事が難しくなります。(特に静磁場が電流により作られる場合。)

しかしその代わりに静磁場は発散が0になります(磁場に関するガウスの法則)。
そのため、任意の「ベクトル場の回転」の発散は0になるという公式と合わせて「回転が静磁場になるようなベクトル場」を考える事ができます。一般にそれをベクトルポテンシャルと呼びます。これはスカラーポテンシャルに対する用語というわけです。

■サイト内関連記事:

磁場に関するベクトルポテンシャルは計算を便利にするという意味合いもありますが、量子論などのように物理量としてポテンシャルのほうが重要になる場合などには本質的な重要性も持つようになったりします。

ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルの関係

静磁場に対するベクトルポテンシャルを作れる数式的根拠

静電場の場合は、電位という「スカラーポテンシャル」を考えて「+1[C]の電気量の試験電荷の位置エネルギー」として物理的な意味付けもする事ができます。

それに対して静磁場の場合はポテンシャルを考える場合には普通、次のように考えます。

磁場に関するガウスの法則の微分形と、「任意のベクトル場の回転に対する発散は0になる」という公式をそれぞれ書きますと次のようになります。

$$(磁場に関するガウスの法則)\mathrm{div}\overrightarrow{B}=0$$

$$(公式)\mathrm{div}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\right)=0$$

これらの式を見比べて、「回転が静磁場に等しくなるようなベクトル場」を考えます。それをベクトルポテンシャルと呼びます。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}となるような「ベクトルポテンシャル」\overrightarrow{A}を考えます。$$

「回転の発散はゼロになる」公式の証明

上記で使った公式の証明はベクトル場\(\overrightarrow{F}=(F_1,F_2,F_3)\) の回転と発散を直接計算すると得られます。ただし、F1, F2, F3 は対象の領域でそれぞれ2階まで偏微分可能であるとします(偏微分の順序を入れ換えてよい条件。通常の関数であればあまり気にしなくて問題無し)。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=\left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z},\frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x},\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right) なので$$

$$\mathrm{div}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)=\frac{\partial^2 F_3}{\partial x\partial y}-\frac{\partial^2 F_2}{\partial x\partial z}+\frac{\partial^2 F_1}{\partial y \partial z}-\frac{\partial^2 F_3}{\partial y\partial x}+\frac{\partial^2 F_2}{\partial z\partial x}-\frac{\partial^2 F_1}{\partial z\partial y}=0$$

静磁場に対するベクトルポテンシャルを考える場合は、偏微分を行う対象はベクトルポテンシャルのほうなので多価関数などの通常と異なる関数などを考えない限りは問題なくこの公式も成立します。

ベクトルポテンシャルの任意性(ゲージ不変性)

ところで、上記のように想定したベクトルポテンシャルは1つだけに定まるとは限らず、むしろ何の制限もなければ非常に多くのものが存在できるのです。

例えば次のようなものです。
あるベクトル \(\overrightarrow{A}\)が静磁場のベクトルポテンシャルになる事が分かったとしましょう。次に、そのベクトル場に渦無しの条件を満たす(つまり回転が0となる)別のベクトル場\(\overrightarrow{P}\)を加えます。すると、両者の合計\(\overrightarrow{A}+\overrightarrow{P}\)もまた「回転が静磁場を表す」ベクトル場となります。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}かつ\mathrm{rot}\overrightarrow{P}=0である時$$

$$\mathrm{rot}(\overrightarrow{A}+\overrightarrow{P})=\mathrm{rot}\overrightarrow{A}+\mathrm{rot}\overrightarrow{P}=\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}$$

すなわち、\(\overrightarrow{A}\) はベクトルポテンシャルであるけれども
\(\overrightarrow{A}+\overrightarrow{P}\)もまたベクトルポテンシャルであると言えるわけです。

「回転が0になる」ベクトル場の具体例は意外と簡単に見つける事ができます。普通の3変数関数を使う限りスカラー場に対しては公式 rot(gradφ)=0が成立するためです。(証明は成分ごとの直接計算により可能で、偏微分の順序入れ換えを使用。)「渦無し」の条件を満たすベクトル場としてはスカラー場の勾配と考えたほうが見通しがよくなる場合があります。

このようにベクトルポテンシャルを考えた時には複数の多くのベクトル場がそれに該当し得るわけで、言い換えると無条件では1つに限定できないという事も意味します。

上記の例のようにベクトルポテンシャルに対し1つのベクトル場を付け加える「自由度」がある時(回転=0となるものを加える場合は実質的に1つのスカラー場)、その事を指して「ゲージ不変性」と呼ぶ事があります。また、一定の条件のもとでゲージ不変性を利用してベクトルポテンシャルの変換を行う事をゲージ変換と呼びます。

$$「ゲージ変換」の1つ:\mathrm{rot}\overrightarrow{A}→\overrightarrow{A}+\mathrm{grad}\phi$$

$$(変換前と変換後とで、どちらも回転をとる操作で同じ静磁場を表します。)$$

関連して、ベクトルポテンシャルそのものに対して\(\overrightarrow{B}=\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\) 以外に課す具体的な条件をゲージ条件と呼ぶ事があります(後述の「放射ゲージ条件」のように名前を付けて使う事が多い)。普通は、ゲージ条件を課す事によってゲージ変換の自由度が制限され、ベクトルポテンシャルも特定の形に制限されるようになります。

放射ゲージ条件(発散が0の条件)

様々なベクトル場がポテンシャルとしてあり得てしまうと理論的にかえって扱いにくくなる事もあるので、静磁場の理論においては「発散が0である」というゲージ条件を課します。
この条件を放射ゲージ条件、あるいはクーロンゲージ条件などと言います。
(「クーロンゲージの条件」のように言う事も。)

放射ゲージ条件(クーロンゲージ条件)

ベクトルポテンシャルに対して課す「発散が0である」という条件を
「放射ゲージ条件」または「クーロンゲージ条件」と言います。$$放射ゲージ条件:\mathrm{div}\overrightarrow{A}=0$$普通、静磁場のベクトルポテンシャルを考える場合にはこの放射ゲージ条件を付けて考えます。

放射ゲージ条件を考える場合もそうですが、基本的にはそれ以外の場合でもベクトルポテンシャルに対しては「回転が0」という条件は付けません。「ベクトルポテンシャルの回転が静磁場に等しい」という条件をまず大前提として考えていますから、ベクトルポテンシャルの回転が0であったらそれは「磁場が無い(ゼロベクトルである)」事を表すものでしかないためです。

$$静磁場においては\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}の条件も、そもそも存在します。$$

静磁場に対しては発散が常に0(静磁場に関するガウスの法則)であるわけですが、放射ゲージ条件は静磁場と同じ条件をベクトルポテンシャルに対しても考えていると見る事もできます。尚、大元の静磁場の発散が0になるという条件(物理的には「湧き出しを持たない事」)は数学上は実は重要で、ベクトルポテンシャルがベクトルとして存在できる事を保証する条件になっています。

放射ゲージ条件のもとでのベクトルポテンシャルの式

放射ゲージ条件を課した状態でベクトルポテンシャルに関する式を作ると、各法則による条件等から解を出せる微分方程式を作る事ができ、その解としてベクトルポテンシャルを具体的な式で表せます。(ただしそれでも式に積分が入ってしまいます。)

電流の周囲に同心円ごとに一定の静磁場ができる事を表すアンペールの法則を考えます。これは微分形で書くと磁場の回転が電流密度ベクトルに等しいという式になります。マクスウェル方程式全体を考える時には変位電場を考える必要がありますがそれは0であるものを考えます。

$$アンペールの法則(微分形):\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}$$

電流密度ベクトルとは、定量的には「単位面積当たり」の電流を
向きも含めて考えたベクトルです。【大きさで言うとj=I/S[A/m]】
普通、電気回路などでは電流の向きは電線に沿った1方向とその逆だけをプラスマイナスで表現すればよいのですが、電磁場も含めて電流を扱う場合にはまずは一般の3次元ベクトルとします。

アンペールの法則の式に、静磁場をベクトルポテンシャルで表した式を代入します。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{B}=\mu_0\overrightarrow{j}に\mathrm{rot}\overrightarrow{A}=\overrightarrow{B}を代入すると$$

$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\right)=\mu_0\overrightarrow{j}$$

ところで、この場合においてはナブラを使って式を書いたほうが左辺を展開するうえで見通しがよくなります。「『ベクトル場の回転』の回転」に対する公式は存在するのですが、実は外積ベクトルの計算「『ベクトル同士の外積』との別のベクトルとの外積」に対する公式と形が一致するのです。
(ただし計算の順番に注意。\(\overrightarrow{P}\times\left(\overrightarrow{Q}\times\overrightarrow{R}\right)\) の順番での場合の公式に対応します。)

外積ベクトル(ベクトル積、クロス積)とベクトル場の回転の対応

ベクトル場の回転に対して、次の公式が成立します。 $$\nabla\times(\nabla\times\overrightarrow{A})=\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\right)-\nabla^2\overrightarrow{A}$$ $$\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\right)=\mathrm{grad}(\mathrm{div}\overrightarrow{A})\hspace{20pt}\nabla^2\overrightarrow{A}= \frac{\partial^2\overrightarrow{A}}{\partial x^2}+ \frac{\partial^2\overrightarrow{A}}{\partial y^2}+ \frac{\partial^2\overrightarrow{A}}{\partial z^2} $$ 対応する外積ベクトルの公式は次のようになります。 $$\overrightarrow{P}\times\left(\overrightarrow{Q}\times\overrightarrow{R}\right)=\overrightarrow{Q}\left(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{R}\right)-\left(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{Q}\right)\overrightarrow{R}$$ $$\overrightarrow{P}=\overrightarrow{Q}の時には\overrightarrow{P}\times\left(\overrightarrow{P}\times\overrightarrow{R}\right)=\overrightarrow{P}\left(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{R}\right)-\left|\overrightarrow{P}\right|^2\overrightarrow{R}$$

※「ベクトルであるという状態を保ちながら」各成分に対して
「2階の偏微分を3変数で行い和をとる」操作を表す記号は慣例としては∇しかなく、無理に grad, div 等で表す事も不可能ではないですがかえって式が複雑になります。
ただし、もし計算対象がスカラー場であれば∇φ= div(gradφ) として書けます。ベクトル場についても、成分ごとに見るなら例えば∇A= div(grad A1)のように書けるのです。

そこでナブラ記号を使って計算を進めると次のようになります。

$$\mathrm{rot}\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\right)=\nabla\times(\nabla\times\overrightarrow{A})=\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\right)-\nabla^2\overrightarrow{A}=-\nabla^2\overrightarrow{A}$$

$$\left( 放射ゲージ条件\nabla\cdot\overrightarrow{A}=0により\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\right)=0\right)$$

$$よって、-\nabla^2\overrightarrow{A}=\mu_0\overrightarrow{j}\Leftrightarrow\nabla^2\overrightarrow{A}=-\mu_0\overrightarrow{j}$$

この式は成分ごとに見れば3つの偏微分方程式です。
これを数学的に解析する手段はありますが、物理学的に考える時はむしろ次のように解釈します。

今は静磁場について考えていますが、静電場のスカラーポテンシャル(電位)についても実は同じ形の式が成立するのです。具体的には、電場が電位の勾配を使って表される式をガウスの法則の微分形に代入します。

$$\overrightarrow{E}=-\mathrm{grad}\phi\hspace{5pt}かつ\hspace{5pt}\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\frac{\rho}{\epsilon_0}\hspace{5pt}により、$$

$$-\mathrm{div}(\mathrm{grad}\phi)=\frac{\rho}{\epsilon_0}\Leftrightarrow\nabla^2\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}$$

$$\left(\mathrm{div}(\mathrm{grad}\phi)=\mathrm{div}\left(\frac{\partial\phi}{\partial x},\frac{\partial\phi}{\partial y},\frac{\partial\phi}{\partial z}\right)=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+
\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+
\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}=\nabla^2\phi\right)$$

ところで無限遠(電荷から十分離れた位置)を基準にすれば電位φは点電荷に対して普通に計算ができて次のようになります。

$$\phi=\int_0^{\infty}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{r}=\int_0^{\infty}\left|\overrightarrow{E}\right|dr=\frac{kQ}{r}$$

接線線積分の段階で見れば、点電荷が複数あってそれらが作る電場の合計\(\overrightarrow{E_1}+\overrightarrow{E_2}+\overrightarrow{E_3}+\cdots\) を考えたとしても項別の積分を行って加えれば良い事が分かります。つまり複数の点電荷による電位は個々の点電荷による電位の「重ね合わせ」(スカラーの和)で計算して良い事になります。そこで、電荷が連続的に分布しているとみなせて電荷密度ρで表せるとすると次のように積分を使って書けます。

$$\phi=k\int_V\frac{\rho}{R}dv$$

この積分において R は「電位を考える点(x,y,z)」と個々の微小領域dv(=dXdYdZ)の座標との距離です。

さて、そのように電位が表せるわけですが、
この直接計算によるφは同時に先ほどの微分方程式∇φ=-ρ/εを満たすわけです。
言い換えると「微分方程式の解になっている」という事になります。そして静磁場のベクトルポテンシャルに関しても成分ごとに見れば∇A=-jμという形であるわけですから、定数の違いを除くと「同じ形の微分方程式」であり、解も「電位を電荷密度で表す式と同じ形になる」と見るのです。
(これらのような∇u(x,y,z)=-v(x,y,z) の型の微分方程式を総称して「ポアソン型の微分方程式」とか「ポアソン方程式」などと呼ぶ事もあります。)

$$ベクトルポテンシャルの成分ごとにA_1=K\int_V\frac{j_1}{R}dvの形になるはずであり、$$

$$ベクトルでは\overrightarrow{A}=K\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{R}dv$$

これが放射ゲージ条件のもとでの静磁場のベクトルポテンシャルを表す式になります。より具体的な関数形は、電流密度の関数形と分布領域によって変わってきます。
(数式だけでポアソン型の微分方程式を解く場合には、ガウスの発散定理から証明できる「(実関数についての)グリーンの定理」を使用します。)

上式では比例定数はkおよびKなどと書きましたが、真空の誘電率と透磁率を使って改めて書いて整理すると次のようになります。

静磁場のベクトルポテンシャルと静電場のスカラーポテンシャル

静電場がスカラーポテンシャル(電位)を持つのに対して、
静磁場はベクトルポテンシャルを持ち、それぞれの式は次のように書けます。 $$静電場のスカラーポテンシャル:\phi=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_V\frac{\rho}{R}dv$$ $$静磁場のベクトルポテンシャル:\overrightarrow{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int_V\frac{\overrightarrow{j}}{R}dv$$ εは真空の誘電率、μは真空の誘磁率です。 ρは電荷密度、\(\overrightarrow{j}\)は電流密度ベクトルでいずれも「分布」の意味での位置の関数(x,y,zの3変数関数)です。
Rはポテンシャル(スカラー・ベクトルともに)を考える位置と
微小領域dv(dxdydzと考えても同じ)を代表する位置との距離で、より数式的にそれを明示するならそれぞれの位置を\(\overrightarrow{r}\)および\(\overrightarrow{R}\) として\(R=\left|\overrightarrow{r}-\overrightarrow{R}\right|\) のように書きます。それぞれの位置を表す座標は、式に積分が含まれている事に由来して上式では互いに独立した3変数の組として扱うので注意。例えば(x,y,z)と(X,Y,Z)のように何らかの表記で区別します。(その場合 dv =dXdYdZ として計算し、積分の結果は x, y, z の関数になります。)

静電場の渦無しの法則

静止した電荷あるいは電荷の分布が作る静電場(時間による値の変動がない電場)についてはクーロンの法則と、その一般的な形であるガウスの法則が成立します。そしてもう一つ、「渦無しの法則」というものも成立します。

渦無しの法則とは

ここで言う電場の「渦」というのは数式としては流体力学等で想定されるものと同じ形の式です。すなわち、数式的にはベクトル場の「回転」(「カール」「ローテーション」とも)によって表す量です。

静電場を構成するものが静電荷あるいはその分布であるときには、電場が定義される任意の位置において電場の回転\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\)はゼロベクトルになる事が数式的に証明できます。それが静電場の渦無しの法則と呼ばれるものです。

また、それと同時に循環と呼ばれる量も0になる事が示されて、それを静電場の渦無しの法則と呼ぶ事もあります。この循環という量は、数式的にはベクトル場の閉曲線に対する接線線積分です。2つの事実関係はストークスの定理によって結び付けられるので、どちらの事を渦無しの法則と呼んでも同じ事になります。

静電場の渦無しの法則

静止した電荷(またはその分布)がある時、
それによる電場が定義できる任意の位置で次式が成立します。 $$\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=0$$ ナブラ記号を使って書けば次のようになります。 $$\nabla×\overrightarrow{E}=0$$

また、同じく静止した電荷が作る電場の循環(circulation)について
電場が定義される範囲で任意の閉曲線Cに対して次式が成立します。$$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=0$$

実は電場の循環は、閉曲線Cに沿って単位電荷が1周分する時の「電場が行った仕事」です。渦無しの法則は、静電荷が作る静電場においてはそれが任意の閉曲線で0になる事を言っています。その事は電磁誘導によって回路等に起電力と誘導電場が生じる時には渦無しの法則が成立しない事との関係が大いにあります。

また、後述する事に関係しますが定電流によって作られる静磁場の場合には回転も循環も0にはなりません。つまり点電荷による静電場では渦無しの法則が成立し、逆に定電流による静磁場では渦無しの法則は成立せず「渦」がある状態になります。

渦無しの法則における回転と循環の関係

渦無しの法則における回転と循環の関係について先に示しておきましょう。
ストークスの定理により次式が成立します。

$$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}$$

ここで、まず回転に関して渦無しの法則が成立するならストークスの定理の右辺(法線面積分の項)は0ですから、左辺の循環もそのまま0になるわけです。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=0であるとき\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$

次に循環に関して渦無しの法則が成立する時にはストークスの定理の右辺が0という事になりますが、これは法線面積分が0という事であって積分対象の\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\)が0という事を直ちには示しません。しかし、渦無しの法則が意味するところは閉曲線Cが特定のものではなく「任意」であるという事なので、積分対象の関数が高等的に0である事を意味します。

$$\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=0の時には\oint_C\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$

$$この式は「任意の」閉曲線Cで成立するので\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=0$$

(ストークスの定理における曲面Sは、閉曲線Cを外縁に持つ任意の開曲線。)

この論法はガウスの発散定理を使って静磁場の発散について積分形から微分形を導出する時のやり方に似ています。

これにより、点電荷が作る静電場の回転が0である事と、循環が0である事のどちらを指して渦無しの法則と呼んでも数式的には同じであると言えるわけです。

静電場の回転の直接計算による導出

静止した点電荷が作る電場について渦無しの法則が成立すれば電荷が複数あってもベクトル場は重ね合わせ(ベクトルの和)で計算されるので同じく渦無しの法則が成立する事になります。

考え方や導出・証明方法はたくさんあるのですが、実は電場の回転を定義に従って普通に計算しても意外に簡単に結果が出ます。そこで、まず偏微分の直接計算によって回転が0になる事を示し、次にそれが「偶然なのか必然だったのか」について考察してみましょう。

点電荷の電気量をQ【C】、比例定数はまとめてkとして、座標を使った電場ベクトルを成分で書きます。見やすくするようにkで割ったものを考えると次のようになります。

$$\frac{1}{k}\overrightarrow{E}=\left(\frac{x}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}},\frac{y}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}},\frac{z}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}\right)$$

他方、電場の回転\(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}\)は次のようなベクトルです。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=\left( \frac{\partial E_3}{\partial y}-\frac{\partial E_2}{\partial z} ,\hspace{5pt} \frac{\partial E_1}{\partial z}-\frac{\partial E_3}{\partial x} ,\hspace{5pt} \frac{\partial E_2}{\partial x}-\frac{\partial E_1}{\partial y} \right)$$

一見計算するにならないかもしれませんが、商の微分公式と合成関数の微分公式を使って回転の第3成分を計算してみると次のようになります。上記と同じく比例定数kで割った状態で計算します。

$$\frac{1}{k}\mathrm{rot}\overrightarrow{E}の第3成分\frac{\partial E_2}{\partial x}-\frac{\partial E_1}{\partial y}$$

$$=\frac{-2x\cdot\frac{3}{2}\cdot(x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2} } y}{(x^2+y^2+z^2)^3}+\frac{2y\cdot\frac{3}{2}\cdot(x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2} } x}{(x^2+y^2+z^2)^3}$$

$$=\frac{-3xy}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{5}{2}}}+\frac{3xy}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{5}{2}}}=0$$

このように、意外にそこまで複雑というわけでもなく第3成分は0になると言う結果を得ます。
全く同じように計算すると第1成分と第2成分も0になるので、渦無しの法則の式 \(\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=0\) が導出されます。

勾配と回転の関係からの導出

さて「計算したら上手い具合に0になった」というのは偶然でしょうか?

実の所、「ある程度は必然の結果であった」と言えるのです。これは、スカラー場の勾配ベクトルに対する回転は必ず0(ゼロベクトル)になるという公式が存在するためです。

公式:条件を満たした「スカラー場の勾配」の回転は0になる

勾配が定義できるスカラー場について、
3変数のそれぞれで2階までの連続な偏導関数が存在する時には次式が成立します。$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)=0$$

この公式の証明は直接計算でできます。これも、意外と複雑ではないのです。

$$\mathrm{grad}\phi=\left(\frac{\partial \phi}{\partial x},\frac{\partial \phi}{\partial y},\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)なので$$

$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)= \left( \frac{\partial^2 \phi}{\partial y\partial z}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial z\partial y} , \frac{\partial^2 \phi}{\partial z\partial x}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial x\partial z} , \frac{\partial^2 \phi}{\partial x\partial y}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y\partial x} \right)$$

$$= \left( \frac{\partial^2 \phi}{\partial y\partial z}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y\partial z} , \frac{\partial^2 \phi}{\partial z\partial x}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial z\partial x} , \frac{\partial^2 \phi}{\partial x\partial y}- \frac{\partial^2 \phi}{\partial x\partial y} \right)=(0,0,0)$$

つまり、回転ベクトルの成分の構成が規則的である事と、偏微分を複数回行う時には順序によらず同じ結果となるという条件のもとで公式が成立するわけです。

偏微分の順序については「なめらかな関数」に対しては普通はあまり気にしないでよいのですが、特定の点や領域で微分可能性が怪しくなる場合には注意が必要な事があります。
複数の変数での偏微分において順序によらず同じ偏導関数が得られる保証があるのは
「偏微分を行う階数Nに対していずれの変数でもN階以下の連続な偏導関数が全て存在する事」になります。
このNは、例えばxとyで1回ずつ偏微分する場合には「2回」と数えます。

さて、公式 rot(gradφ)=0の意味を考えてみると、
あるベクトル場が「何らかのスカラー場の勾配ベクトルになっていて偏微分に関する条件も満たす」のであれば回転ベクトルは0になるという事になります。さらに言い換えると、そのようなスカラー場が存在するならば\(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=0\) が成立すると言えるのです。

静電場の渦無しの法則に戻ると、点電荷が作る電場に対してはそのようなスカラー場が存在する事ができて、それがいわゆる「電位」です。静電場においては電位は「単位電気量(1[C])の電荷の位置エネルギー」であるという意味付けができます。(2地点の電位の差である「電位差」がいわゆる「電圧」です。)

静電場から電位を計算する時には接線線積分を考えますが、無限遠を基準にとれば点電荷からの距離を変数とする変数の定積分として計算ができます。その結果として得られるスカラー場の勾配ベクトルを考えると、それはもとの静電場に戻るのです。ですので、実は成分の直接計算をしなくても、点電荷が作る静電場には電位が存在する事から渦無しの法則も成立すると言う事もできるのです。

$$\mathrm{grad}V=\overrightarrow{E}となる電位Vが存在し、これは所定の条件を満たすので\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=0$$

また、静止した点電荷に対する電位を具体的に計算すると点電荷からの距離r【m】に反比例する形になりますので、その関数は点電荷自身の位置を除けば任意の点で何回でも偏微分可能ですから先ほど少し触れた「偏微分の順序」についても気にしなくてよい事になります。

電磁場で「渦」がある場合

逆に渦無しの法則が成立しない状況は電磁場においてどのようなものがあるかというと、ここでは簡単にだけまとめておくと代表的なものとして次のようなものがあります。

  • 磁場の時間変動がある場合のおける電場(電磁誘導の法則により起電力が発生します。)
  • 定常電流および変位電流が作る静磁場(アンペールの法則によります。特に電流が生じている導線を囲む閉曲線に対して。)

まず磁場の時間変動がある場合には電場にの回転はゼロではなくなります。これが電磁誘導の法則の内容であり、起電力が生じる事を意味しています。

次に、定電流が作る静磁場についても電流が生じている導線まわりの閉曲線においてはアンペールの法則により接線線積分の値はゼロにならず、渦ができていると考えられます。(ただし、この時の回転ベクトルと接線線積分に関する数学的な扱いには少し注意する必要もあります。)この場合には、アンペールの法則の意味としては電流もそうですが電場の時間変化(変位電流)にも起因して磁場の回転が発生する事を意味します。その事を指して起磁力と言う言葉が使われる事もあります。(起電力に対応する語)。

つまりごく簡単に言うと電場の時間変動(あるいは電流)によって磁場が作られて、磁場の時間変動によって電場(あるいは電流)が作られる関係があります。そしてその時に、循環の形の接線線積分で表される「渦」が生じるという体系になっていると言えます。

また電流の種類で「渦電流」というものも存在しますが、それはまた別の扱いが必要になってきます。

ストークスの定理【内容と証明】

電磁気学や流体力学、数学のベクトル解析の分野で、ガウスの発散定理と並んで重要な定理とも言えるストークスの定理について、その内容・使い方・証明を詳しく説明します。

ストークスの定理はベクトル場に対する数学上の定理です。
スートクスの公式と呼ばれる事もあります。

ストークスの定理とは?内容とイメージ

ストークスの定理は、ベクトル場の接線線積分と、ベクトル場の回転に対する法線面積分を等式で結びつける事ができるという数学上の定理です。その内容と証明について詳しく説明します。

定理の内容と表記

ベクトル場の変数x、y、zは独立変数で、ベクトル場の回転の計算(偏微分含む)もまずその条件下で行われます。次に、対象となる関数を積分する時点で曲面上あるいは曲線上という制約がつく…すなわちz=z(x,y)といった形の式が一部の変数に代入されて互いに独立ではなくなるとします。

$$ベクトル場は\overrightarrow{F}=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))であるとします。$$

$$曲面S上でz=z(x,y)という制約がつく時は$$

$$F_1(x,y,z)=F_1(x,y,z(x,y))のように記す事にします。$$

ストークスの定理

空間内の閉曲線 C に対して、
そのCを外周として共有する任意の開曲面 S に対して
ベクトル場の接線線積分と法線面積分についての次の式が成立します。 $$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ただし右辺のベクトル場の回転の計算はx、y、zが独立変数であるという条件下で行われ、
法線面積分を考えた時点で「\(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\)」という関数全体に対して曲面S上という制約がつきます。
接線線積分を考える C は閉曲線ですが、曲面 S は閉曲面ではなく開曲面を考えます。 開曲面Sの表裏は、接線線積分の積分方向に合わせて決まります。

\(d\overrightarrow{s}\) =(ds,ds,ds)のもとで、
曲面Sのyz平面、xz平面、xy平面への射影をそれぞれSyz, Sxz, Sxy とします。
上式の左辺のベクトル場に対する接線線積分をスカラー場(ここではベクトル場の成分)に対する線積分に分解した場合には、次の3式が成立します。
【左辺はそれぞれxのみの関数、yのみの関数、zのみの関数とします。】 $$\int_C F_1(x)dx=\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z $$ $$\int_C F_2(y)dy=\int_{Sxy}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial x}ds_z-\int_{Syz}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial z}ds_x $$ $$\int_C F_3(z)dz=\int_{Syz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial x}ds_x-\int_{Sxz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial z}ds_y $$ これらスカラー関数の線積分に関する3式の右辺は、
ベクトル場の回転のx成分そのものではなくて、「ベクトル場の回転の各成分に含まれる項を組み合わせた式」です。
例えばxに関する偏微分はベクトル場の回転の第2成分と第3成分に含まれていて、そこから取ってきて組み合わせています。
また、これら3式の両辺を加え合わせると、もとのベクトル場の接線線積分に対するストークスの定理の形になります。

ベクトル場の回転 rot (あるいは curl)とは?

「ベクトル場の回転」はベクトルです。次のように偏微分を使って表されます。
「ベクトル場の発散」はスカラーである事との違いに少し注意。$$\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=\left( \frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y} \right)$$ ストークスの定理を適用する事で、ベクトル場の回転は「閉曲線の接線線積分」という文字通りの「回転」するイメージの図形的な意味を持つと解釈する事が可能になります。

のちの証明での計算のための注意点を挙げますと、ベクトル場の「回転」における偏微分は3変数x,y,zを独立変数として扱って計算をするものです。つまり、xで偏微分するならyとzは単純に定数扱いするという意味です。

それに対して、「曲面上のベクトル場」「曲線上のベクトル場」という条件が付くと3変数は独立では無く、曲面上であれば2変数だけが独立、曲線上であれば3変数とも従属関係という事になります。これが証明の1つにおける計算では重要になります。

積分の表記方法についての注記

ストークスの定理は、ガウスの発散定理と比較すると数学的な内容は少し込み入っています。

積分の表記方法は書籍などによって異なる事がありますが、この記事では数式の表現を明確にするために1つの表記方法に統一をします。

この記事では、紛らわしさを避けるために「プライスマイナスの符号がついた面積要素」を考える面積分(法線面積分およびその成分によるスカラー関数の積分)を表すときには積分記号は1つだけつけて、二重積分として累次積分(1変数の場合の定積分計算の繰り返し)によって計算してよい事を表すときには積分記号を2つ付けています。積分する領域全体を表すSなどの記号はどちらの場合でも適宜使用しています。$$面積分(面積要素に符号がある):\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$ $$二重積分(累次積分が可能):\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ この例ではSは曲面上の領域で、Sxzはxz平面上の領域です。
面積要素を積分変数とする場合には、曲面の場所によってプラスマイナスの符号が入れ替わる事があります。そのため、法線ベクトルの成分を積分変数とする時でも領域は曲面であると記すようにしています。
二重積分を累次積分で計算できる形で書いた時には、平面上の点に対応するスカラー関数の積分を行えばよいという事で領域を平面と考えて問題ない事になります。

書籍によっては面積分に対しても積分記号を2つ付けている事もあり、表記方法は一定していませんがこの記事では混同を避けるために表記方法を統一するという事です。

面積分の積分変数のプラスマイナスの符号の扱いについても表記方法をここで明確にしておきます。面積分の場合は表面と裏面とで面積要素ベクトルの向きが逆であり、つまり「プラスマイナスの符号が異なる」事になります。

累次積分(1変数の定積分計算を続けて行う)として二重積分を計算する場合には、
最終的な積分の結果が領域の分割の方法には依存しない事から
|ds|=|dydz|
|ds|=|dxdz|
|ds|=|dxdy|
と考えて、積分の中で置き換える事ができます。
ここで絶対値記号をつけているのは、状況によって符号の違いがある事を表しています。
曲面の表側と裏側の設定等により、例えばds=dxdyで計算できる場合と、
ds=-dxdyとする必要がある場合があります。$$ds_y=dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ $$ds_y=-dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=-\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$

図形的なイメージ

ストークスの定理の図形的なイメージは次のような感じです。


まずループ状に閉じた閉曲線 C があります。
その内側に膜が張ってあって、「閉曲面にはしない」という条件で任意の曲面の形に変形させる事ができるとします。
その時に「どんな形の曲面 S についてもストークスの定理の形の式が成立する」・・という事です。

では、開曲面Sには穴のような破れがあった場合はどうでしょうか。

実はその場合でもストークスの定理は成立します。穴を作る閉曲線と元の閉曲線を1本の線で結ぶと大きな1つの閉曲線が作られるためです。付け足してしまった線については、その線を向きだけが異なる2つの線が重なっていると考えるとその線上での接線線積分の合計は「プラスマイナスが打ち消して」ゼロになって積分の値に影響しません。

ただし、そのような場合には「穴」を構成する部分について接線線積分の向きを全体の接線線積分の向きに合わせる必要があります。例えば「穴」が1つだけある場合には元々の外側の接線線積分の向きが1つの方向から見て反時計回りであれば、内側の「穴」を作る閉曲線では逆向きの時計回りで考えないとストークスの定理は成立しません。

また「穴」がある場合の考察から、ストークスの定理は1つの閉曲線に対して任意の「分割」を行える事も理解できます。

曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなる?

ストークスの定理において曲面は「開曲面」を考えます。

では、曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなるのでしょうか?閉曲面とは球面のような閉じた曲面です。(トーラスのような図形も含めます。)

閉曲線Cを境にして2つの開曲面に分割すると、その両方に対してストークスの定理が成立します。簡単な図形的考察と計算によって、もし曲面の表側を閉曲面に対して一貫して「内側から外側に向かう向き」と決めるなら、「閉曲面全体を積分領域とした時の、ベクトル場の回転の法線面積分の値は必ず0になる」という別の公式が得られます。

証明その1:積分と偏微分の計算を直接進める方法

ストークスの定理を数学の解析学的に「厳密に」証明する方法もありますが、考え方が非常に複雑で物理学等への応用とのつながりも見えにくいものです。そこで、ここでは比較的シンプルに考える2つの証明方法を説明します。

証明時の偏微分の計算の扱い方

ストークスの定理の証明を考える時には偏微分の扱いに特に注意する必要があります。
例えば、「偏微分をしてできた偏導関数」を積分する場合には、x、y、zが独立変数であるという条件下で計算した偏導関数がまずあります。
ベクトル場の各成分であるスカラー関数についての偏微分です。
もしyで偏微分するなら、xとzは定数扱いになります。 $$F_1(x,y,z)に対して\frac{\partial F_1}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F_1(x,y,z)=\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}$$ そのような偏導関数があるなかで、
特定の曲面S上での法線面積分を考える時に初めてz=z(x,y)という従属関係ができます。
つまり、計算としては「偏微分を行った後の関数に対して、積分をする時点でz=z(x,y)を代入する」といった形になります。

変数をどのように考えるのかを敢えて強調して書くなら、積分時には次のようになります。 $$偏導関数\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z)に対してz=z(x,y)を代入して\hspace{5pt}\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z(x,y))$$

他方、F(x,y,z)に対して
「曲面S上にあるという条件」を初めから課すとします。
具体的には1つの変数がz=z(x,y)という関数の形になり、
スカラー関数全体は F(x,y,z(x,y))のように書けます。
そこで例えばyによる偏微分を行うとどうなるでしょうか?
この場合には、先ほどの場合とは計算結果が変わるのです。
偏導関数は異なる形になるのです。
その場合には、yの変化によるFの第3成分(z成分)の変化も生じ、
それによるF全体の変化も変わってしまうという事です。
しかし、実はその事がまさにストークスの定理の数式的な意味の1つになっています。

分かりやすくするために、具体的なスカラー関数をてきとうに考えてみます。

例えばF(x,y,z) =x+y+zであったとしましょう。3変数が互いに独立なら、これを例えばyで偏微分すれば偏導関数は2yになります。xとzは定数扱いです。

それに対して、同じ関数に対してz=3yという条件がついたとしましょう。この時にはF(x,y,z) =F(x,y,z(y))=x+y+(3y)=x+10yですから、yで偏微分すれば偏導関数は20yになりますから全く異なる結果です。その違いが生じるのは、z=3yという条件によりyを変化させるとzも変化するためです。その違いが計算結果に現れます。

合成関数の偏微分公式で考えても同じになります。
z=3yという条件下ではF(x,y,z)を偏微分すると次のようになります。

$$\frac{\partial F}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F(x,y,z(y))$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(y)}{\partial y}$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial }{\partial y}(3y)$$

$$=2y+2z\cdot 3=2y+2\cdot 3y\cdot 3y=2y+18y=20y$$

この式で、F(x, y, z) と書いた部分は3変数が互いに独立である場合の関数という意味です。その部分においては、yで偏微分するならxとzは定数扱いになるという事です。

スカラー関数の線積分の計算

ベクトル場の第1成分(x成分)であるF(x,y,z)を考えます。これはスカラー関数で、スカラー場とみなせます。まず、接線線積分において内積をとってスカラー場の線積分の形にした積分についてまず考えます。

閉曲線Cは凹凸のない形状を考え、閉曲面Sはxy平面上の1点に対してz座標が1つ決まるような形状で、表側の面からの法線ベクトルはz軸のプラス方向の向きに対して鋭角になるものとします。

次に曲面の「xy平面への射影」を考えます。これは積分領域の射影を考えるのであって、ベクトル場の射影(つまりz成分を無視する)では無い事に注意。

ベクトル場に関しては、zに対して「積分領域の曲面の式」であるz=z(x,y)を代入する事で見かけ上zを消去します。のちに偏微分の計算をする時にはこのzの式は重要になってきます。

具体的な定積分(1変数の定積分)を考えようとする時、全体の射影された積分の経路に対してxについての異なる形の2つの関数が必ず存在します。これは、元々の曲線として必ず「閉曲線」を考えるためです。

xy平面で考えると、「上半分」と「下半分」に分かれる事になります。

ここでは経路を表す曲線を表す関数に対して、
xy平面上で見た閉曲線の上半分を表す場合には添え字のU、
下半分を表す場合には添え字のLをつける事にします。
また、射影されたxy平面上の閉曲線をCxy(ベクトル場の第1成分 F1 を F1xy(x,y,z(xy)) とします。)
その上半分の経路をCxU(そこではF1 を F1xyU(x,y,z(xy)) とします)
下半分の経路をCxL(そこではF1 を F1xyL(x,y,z(xy)) とします)
という名前にしておきます。
積分変数xの積分区間は [a, b] (=CxP)であるとして、線積分を行う時には反時計回りに回るようにして「行き」と「帰り」があるので往復を考えた便宜的な長方形状の経路をCxPRとしてます。

  • Cxy:閉曲線 C をxy平面上に射影してできた閉曲線上 F1 =F1xy
  • CxU:閉曲線Cxyの「上半分」(積分の方向は b→a)F1 =F1xyU
  • CxL:閉曲線Cxyの「下半分」(積分の方向は a→b)F1 =F1xyL
  • CxP:xに関する積分区間 [a, b] (閉曲線Cxyのx軸への射影)

ストークスの定理においては「閉曲線内」も計算上考えますが、その場合も平面(例えばxとy)の位置における「閉曲面上」のベクトル場だけを考えます。そのため、元々のベクトル場F1(x,y,z)において互いに独立になり得る変数は1つだけです。最初に想定した曲面の形では例えばxy平面上の点を指定すればzの値も定まるので、曲面上の値を考える時にはF1=F1(x,y,z(z,y))の形になっています。
偏微分の計算上、3変数を独立したものとして扱う場合にはF1=F1(x,y,z)と書く事にします。

現在考えている条件下では、xy平面を上から見て反時計回りに回る方向が接線線積分の向きです。
そのため、閉曲線Cをxy平面に射影した曲線の下側が「xが増加する向きで積分する部分」であり、
上半分側が「xが減少する向きで積分する部分」になります。

まずはxy平面で考えるわけですが、1変数による線積分を行う場合に限っていえば積分変数がxであればxz平面への射影でも同じ事になります。つまり3次元空間内に閉曲線がある時、積分経路としては元の閉曲線が指定されていれば1変数の線積分の積分区間は確定します。そのため、1変数の線積分の積分経路に関しては統一的に元の閉曲線Cで表記する事にします。

$$\int_{Cxy} F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx=\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

次に、開曲面Sに対して、xy平面上でz=(x,y)と考えます。
さらにx軸上の区間では曲線の「上半分」と「下半分」に分ければそれぞれに対してy=y(x)の関係を考える事はできますからベクトル場の第1成分Fはxだけの式で表現できる事になります。

「上半分」と「下半分」でy=y(x)の式の形も違いますから
それを強調してここでは上半分に関してはy=yU(x)などと書き、
下半分に関してはy=yL(x)のように書く事にします。

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx+\int_b^aF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx-\int_a^bF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))\right)dx$$

積分区間をa→bの向きに統一して1つの積分記号に収めて、次の計算のために「上半分」のほうが前に来るように順序を変えています。

閉曲線としてまとめて積分経路を考えている時(ここで言えばCxyなど)には積分の方向が変わる時点でxの関数としての形も変わるものとして考えています。

「偏導関数の定積分」を考える

次に積分の中身で差の形になっている部分を、引き算の形である事に注目して
yに関する偏微分を使った「偏導関数の定積分」で表す事を考えます。
(※「偏微分の定積分」と言っても同じ意味になりますが、ここでは関数である事を強調して「偏導関数の…」と表現しています。)

発想的にはガウスの発散定理での証明と同じになります。

数式の意味が分かっていれば省略可能ですが「xだけの関数」と「互いに独立であるxとyが変数の関数」である事を区別するために、ここでは前者の場合のアルファベットをキャピタルで、後者を小文字で書く事にします。
つまりF1xyU(x,y(x),z(x))=f1xyU(x,y,z(x,y))であり、F1xyL(x,y(x),z(x))=f1xyL(x,y,z(x,y)) であるとします。

さきほど計算を進めた積分の中身だけで考えると次のようになります。積分区間はそれぞれのxによって定まる2つのyなので、便宜的にY1(x)からY2(x)までであるとします。yが閉曲線の内部を動く事になり、そこではF=F1xyS(x,y,z(x,y))と書く事にします。

$$【前述の式の積分の中身】F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}\left\{f_{1xyU}(x,y,z_U(x,y))-f_{1xyL}(x,y,z_L(x,y))\right\}dy$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z_(x,y))dy$$

※ここでのyによる積分の計算は、閉曲線上ではなく「閉曲線の内側」を横断する形です。
(ただしベクトル場は曲面上にあります。)
yの値によって変化するFを積分するので。xとyは従属では無く独立の関係です。xによって定まるのは「yによる積分区間の端点」だけになります。積分変数はあくまでyですから、定積分の値を直接計算するならxとzを定数扱いにしてyで偏微分したのちzにz=z(x,y)を代入して計算し、定積分の値の結果は「xだけの関数」という事になります。

これを、既に導出している線積分の計算式に当てはめます。最初の式から考えて書き直し計算を進めると、次のようになります。偏微分の計算および面積要素の変換公式を使用します。
【偏微分については、ここではF1(x,y,z)のように書かれていたら3変数を独立変数的に扱うものと考えます。つまりyで偏微分するなら残りの変数は定数扱いという意味での計算式になります。】

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z(x,y))dy)\right)dx$$

$$=-\int_a^b\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)dxdy$$

$$=-\int_{Sxy}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z -\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y【∵面積要素の変換公式】$$

ここで使った面積要素の変換公式はあまり使う機会のない公式ですが次のような形のものです。【※重積分の変数変換の公式とは別物なので注意。】

$$面積要素の変換公式:ds_y=-\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

xy平面とxz平面の面積要素がこの式に従って1対1に対応するので積分領域もxy平面からxz平面に移る事になります。

まとめると次のようになります。

$$\int_C F_1(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$

これは、接線線積分の側から見た時の内積の項の1つを表す式になっています。同様の手順でyとzによる線積分からも同様の結果が得られ、全て加え合わせる事でここでの閉曲面の設定におけるストークスの定理が導出されます。

(示すべき式の再掲)

証明の計算の流れのまとめを図示すると次のようになります。

zに関して変数を省略している部分はz=z(x,y)の関係があるものです。

この証明では積分の領域は開曲面Sに依存するのではなく、閉曲線Cに依存するものとなっています。しかも、より正確には閉曲線Cのxy平面等への「射影」の領域に依存しています。つまり定理において開曲面Sの形状は任意でよい事も示せています。

曲面が変化すればその曲面上のベクトル場の具体的な関数形は当然一般的には変化しますが、式の形自体は閉曲線Cの形状に縛られず自由であるという事になります。(最初は変数に従属関係があったのが、最後はあたかも独立変数として扱う計算となったのはこの事に関係があります。)

もちろんここではまだ特定のタイプの曲面に限っての話です。次に、開曲面がここで考察したもの以外の別の形状でも成立する事を見ます。

曲面の形状が変わった時

では、閉曲面Sが最初に設定したもの以外の場合はどうでしょうか。

まず、「開曲面Sの表裏が入れ替わった場合」です。

その場合、まず接線線積分の積分方向が逆回りになるので、内積で分解した時の線積分も計算結果の符号が入れ替わったものになります。

他方でその場合には例えばxy平面への射影を考える時に、元々は曲面Sの1つの方向から出る法線ベクトルが逆向きになります。つまり、元々がds=+dxdyであれば、曲面の裏表を入れ替えた時にはds=-dxdyという変換になります。

すると前述の証明と比較した場合、証明の過程で符号の反転が2回起こるので、「結果は同じになる」という事になります。

また、先に「穴がある場合」でも定理が成立する事は既に見ましたが、そこで考察した分割の方法によって、曲面が任意の形状であっても既に証明済みのタイプに細かく分割して積分値を合計する事で定理が成立する事を示せます。

じゅうたんを折り畳んだような複雑な曲面によって、面積要素ベクトルが他の場所と符号が変わる場合も定理は成立します。この場合には面積要素ベクトルは依然として「表」から出ている事にはなりますが、分割をすると裏表を変えた時のように接線線積分の向きが逆になる事が分かります。従って、裏表を変えた時と同様に定理は成立します。

折れ曲がるような複雑な形状であっても裏表が逆転する場合と同様に符号の入れ替えが2階起こり、ストークスの定理の式の形は保たれます。

証明その2:微小長方形領域で回転を計算する方法

別の証明方法として、ベクトル場の「回転」をより図形的な回転のイメージに合わせたやり方があります。

この方法では閉曲線のxy平面等への射影領域を、軸に平行な線でメッシュのように「細かい長方形に分割する事」で証明を行います。ただし、それは斜めの線を長方形に強引に近似できるという意味ではありません。そうではなくて、接線線積分や法線面積分の内積を利用した計算によって「結果的に長方形領域の組み合わせで計算ができる」という事です。

まず最初に、少し奇妙に思えるかもしれませんが閉曲線のxy平面を最初にメッシュ状に細かく分割してしまって、それから1つの微小な長方形領域ΔCに対してベクトル場との「接線線積分を行うかのような和」を考えます。つまり、積分の方向を決めたうえで各辺をベクトルと考えた時のベクトル場との内積をとり、合計するという事です。ただし、微小領域なので1つの辺につきベクトル場の値は1つだけで代表できると考えます。

この時に、ベクトル場は3成分ともx,y,zのプラスの方向を向いている条件であるとします。すると、長方形領域ΔCはxy平面上の図形であるわけですからz成分は0です。さらには軸に平行な線で作られた長方形ですから辺をベクトルとみなせば成分はx成分のみかy成分のみという事になります。

長方形領域ΔC辺の長さをdxとdyとすると、
4つの「接線ベクトル」はz成分を省略してそれぞれ
(dx,0),(0,dy),(-dx,0),(0,-dy)です。
長方形の左端にベクトル場があって、微小の長さを進んで偏微分を使った一次近似の量だけ増えるものとします。少し奇妙なようですが、ベクトル場との内積をとって合計すると次のようになります。

$$\oint_{\Delta C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=F_1dx+\left(F_2+\frac{\partial F_2}{\partial x}dx\right)dy-\left(F_1+\frac{\partial F_1}{\partial x}dy\right)-F_2dy$$

$$=\left(\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial x}\right)dxdy=\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3dxdy$$

$$\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3はベクトル場の回転の第3成分$$

つまり、回転するように「接線線積分もどき」のようなものを考えると、「ベクトル場の回転」の成分(ここでは第3成分)に面積要素を乗じた量になったわけです。このように最初から「回転のイメージ」が現れるところが先ほどの証明方法と異なる点です。

xとyについて積分すれば、ベクトル場の回転の法線面積分の第3成分を得ます。同様の方法で残りの成分も得る事ができます。それで、ストークスの定理の法線面積分側の式ができあがるわけです。

$$3成分について積分して合計すると\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}を得る。$$

さてそれでは接線線積分側はどうでしょうか。

メッシュ状に細かく分割した長方形に対してさきほどの式を合計すると、隣り合う辺においては値が打ち消し合って消えます。領域の分割の逆のパターンで、積分する領域の合成が行われるわけです。

すると、長方形を全部合成すると外部の周に相当する部分だけが残ります。これで接線線積分を内積計算した時の1変数の線積分が出てきます。

しかし、じつは単純に計算するとxy平面に対してxの線積分とyの線積分が生じて、xz平面でもxの線積分とzの線積分の両方が生じてしまい謎の「過剰な量」が出てきてしまいます。

ですが注意深く見てみると、xの線積分を行う場所は合計で4箇所できますがそのうちの2つは「同じ線分上で向きだけが異なる線積分」となるので合計すると0になります。そして残り2つで、xに関する線積分の「行き」と「帰り」を表現できているのです。

つまり、一見すると線積分の項が6つできて往復を考えると12項ができてしまいますが半分は打ち消して0になるので1変数の線積分の項が3つでそれぞれに積分区間の往復がある形になります。これで接線線積分側の式も得られてストークスの定理を導出できる事になります。

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$=\int_CF_1dx+\int_CF_2dy+\int_CF_3dz=\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}により$$

$$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$

xy平面への射影とxz平面への射影は共通辺を持ち、積分が打ち消し合う。xに関する線積分ではベクトル場の第1成分だけを積分するので、積分する辺のz座標の位置は影響しません。

設定した形状のタイプ以外の開曲面に対しても成立する事を調べるのは最初の証明と同じです。この2番目の証明では、閉曲線Cの射影となる領域だけで考えて定理を導出しています。言い換えると必要な射影を与える開曲面であれば形状は任意でも定理が成立するので1つの閉曲線を外縁とする開曲面は任意で良いという事になります。