ライプニッツ級数の導出【四分円を使う方法】

ライプニッツ級数とは「分子が1で分母を奇数とする分数を、プラスマイナスの符号を交互に変えて加えて行くと円周率の1/4に収束する」という無限級数を指します。

この無限級数の導出方法はいくつか存在し、ここでは図形的な考察をもとにした式変形と定積分の計算、それと幾何級数展開を使った導出方法を説明します。

ライプニッツ級数の導出方法はここで説明するものだけではなく、いくつか方法があります。例えば、逆正接関数のマクローリン展開から導出する方法や、連分数展開によって得る方法などがあります。

数学史的には、π/4=1ー1/3+1/5-1/7+・・・という式自体はライプニッツ以外の学者によっても独立に得られていた事が知られています。
また、この記事内でも後述しますが
「ライプニッツ級数1ー1/3+1/5-1/7+・・・がπ/4という値に収束する事」と
「ライプニッツ級数が収束するか否かの判定」は、実は別々に考察できます。
ライプニッツ級数は交代級数(交項級数)という種類の無限級数の1つです。 備考として、一般の交代級数が収束する十分条件を提示する命題は「ライプニッツの定理」と呼ばれる事があります。

ライプニッツ級数とは

まず、ライプニッツ級数の具体的な表式は次のようになります。

ライプニッツ級数

次の式で表される無限級数がライプニッツ級数です。\(\pi\) は円周率です。 $$\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\cdots$$ $$\left(≒0.785398\cdots\right)$$ この値は無理数になります。

無理数を「有理数で表せる」?

ライプニッツ級数の左辺は無理数ですが右辺は「各項が有理数である無限級数」となっています。

これについては、右辺が表す無限級数は「π/4という無理数に収束するという事」すなわち 「項数を増やせばπ/4という無理数との差をいくらでも小さくできる事」を意味しています。

ですので、ライプニッツ級数の式において「無理数≠有理数」という当然の関係式は崩れてはいません。どこか有限の項数で計算をやめたら、 その値はπ/4には一致しない事になります。しかし項数を増やせばπ/4との差はいくらでも縮まります。それが、ライプニッツ級数が数式的に表すものです。

ライプニッツ級数は特徴的な式の形をしているため、「奇数だけを用いて円周率を表せる」というキャッチ―な表現が使われる事があります。 その表現自体は誤っているわけではありませんが、「無限級数が収束する値として円周率を表せる」という事を踏まえておく必要があります。

ライプニッツ級数が「無限級数」でありπ/4が「極限値」である事を、より明確に表すのであれば次のようになります。 $$\frac{\pi}{4}=\lim_{n \to \infty}\sum_{k=0}^n\frac{(-1)^k}{2k+1}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}$$ 但し、多くの場合はライプニッツ級数は「円周率と奇数」の関係を強調して
1-1/3+1/5-・・・の形で書かれます。

3.141592・・・をライプニッツ級数で出せる?

円周率の 3.141592・・・の値を計算する式としては、実はライプニッツ級数はあまり優れた式ではありません。無限級数の収束の速さが遅く、 項数を非常に多く増やさないと3.14・・・の値に近付いて行かないためです。(円周率の数値計算用として優れた式としては、 複数のマチン型の公式が知られています。逆三角関数の記事で解説。) 変更なし:

円周率の 3.141592・・・の値を計算する式としては、 実はライプニッツ級数はあまり優れた式ではありません。無限級数の収束の速さが遅く、項数を非常に多く増やさないと3.14・・・の値に近付いて行かないためです。 (円周率の数値計算用として優れた式としては、複数のマチン型の公式が知られています。逆三角関数の記事で解説。)

もし整数だけを準備して円周率計算が手計算で簡単にできるなら何とも便利そうですが、 式として興味深い形をしている事と色々な意味での実用性や有用性は残念な事に必ずしも重ならないという例になっています。

「奇数」が得られる根拠

ライプニッツ級数において、「奇数」以前に「整数」が得られるのはなぜでしょう。それは具体的には、単項式の微分法を根拠にしています。

の微分(「導関数」)は3xになります。積分を行う場合は逆の演算です。
の原始関数はx/3です。 この関係によって1/3,1/5,1/7といった「分母が整数である分数」が式中に発生します。

ライプニッツ級数に限らず、計算式中の「整数」の出所が微分法や積分法であるという場合は少なからずあります。

次に、ライプニッツ級数の各項において「偶数が欠けている」理由は幾何級数展開(等比級数展開)を使う時の公比の形に由来しています。

具体的には、-zという公比による幾何級数展開を考えて1ーz+z-z+・・・という式を得て、 さらにそれにzを乗じてzーz+z-z+・・・の形を作ります。 そして、その各項を積分(項別積分)する事でz/3ーz/5+z/7-z/9+・・・の形の式を得ます。 これがライプニッツ級数の形を作っているわけです。無限級数の項別積分を実行可能であるには条件がありますが、ここではそれを満たします。

具体的には、-zという公比による幾何級数展開を考えて1ーz+z-z+・・・という式を得て、 さらにそれにzを乗じてzーz+z-z+・・・の形を作ります。 そして、その各項を積分(項別積分)する事でz/3ーz/5+z/7-z/9+・・・の形の式を得ます。 これがライプニッツ級数の形を作っているわけです。無限級数の項別積分を実行可能であるには条件がありますが、ここではそれを満たします。

ライプニッツ級数において幾何級数展開が使われる部分は正確には「1/3」以降の項からであり、最初の「1」は出所が異なる事になります。

幾何級数展開の式を使用する事は「無限級数が得られる事」と「プラスとマイナスが交互に出てくる事」の根拠でもあります。 そのため、次に述べて行くライプニッツ級数の導出方法では微積分の基本計算と並んで幾何級数展開が非常に重要な要素となっています。但し、 この幾何級数展開を使用するには「公比の絶対値が1未満である」という条件があるので注意が必要です。

導出に使う式や考え方
  • 円とその接線の式、面積の関係などから得る式変形と変数変換(円周率は円の面積から)
  • 単項式(xなど)の積分計算(「奇数」が分母にある根拠)
  • 幾何級数展開(無限級数の形となる根拠)
ライプニッツ級数の「奇数」の出所
この図の式の積分区間は開区間(0,1)内の2つの値εとδを使った [ε,δ] として、 最後にε→0,δ→1の極限を考えるものとしています。その理由は、円の式の導関数の不連続点を除くためと、 幾何級数展開が可能な範囲内で式を考えるためです。厳密性にこだわらないなら、最初から積分区間を[0,1] として計算してもライプニッツ級数の導出は可能です。 (積分する関数は円の式なので、端点を含めたからといって面積としての定積分の値が発散する事はありません。)

証明と導出【四分円の面積を利用する方法】

全体の流れ

大きく分けて記すと次のようになります。

$$四分円y=\sqrt{2x-x^2}に対してy=\frac{dy}{dx}x+zという式変形を考えるとx=\frac{2z^2}{1+z^2}$$

$$|z|<1のもとで幾何級数展開により\frac{1}{1+z^2}=1-z^2+z^4-z^6+\cdots$$

$$部分積分と置換積分により\int \left(\frac{dy}{dx}x+z\right) dx=\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)と変形できる。$$

その後、幾何級数展開した箇所について項別積分を行い積分区間の端点の極限を考慮したうえで計算を進め、 得られる無限級数の収束値が半径1の四分円の面積π/4に等しいという形でライプニッツ級数を導出できます。

$$\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}\int_\epsilon^\delta y dx=1-\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1} \left[\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right]_\epsilon^\delta$$

$$=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

$$これが半径1の四分円の面積\int _0^1y dx=\frac{\pi}{4}に等しい。$$

以下、各過程を詳しく見て行きます。

  1. 円の式と導関数
  2. 円の接線の式を利用して関係式を作る
  3. 積分においてyの形を変形する(面積変換定理)
  4. 幾何級数展開を適用
  5. 定積分の計算と極限の考察
  6. 参考:(アーベルの)連続性定理

①円の式と導関数

具体的な計算としては半径が1の四分円(半円のさらに半分)の面積を定積分で計算します。
しかし円を表す式を使って普通に定積分の計算をする (置換積分か逆三角関数を使用)と、π/4という値は出ますが1-1/3+1/5-・・・という無限級数の式は出てきません。

使う式:四分円(半円のさらに半分)

閉区間 [0, 1] およびy≧0の範囲における、中心座標(1,0)半径1の円の式を使います。 $$y^2 +(x-1)^2=1\hspace{3pt}$$ $$\Leftrightarrow y^2 +x^2 -2x=0$$ $$y≧0においては、y=\sqrt{2x-x^2}$$ $$y>0の時、\frac{dy}{dx}=\frac{1-x}{\sqrt{2x-x^2}}\left(=\frac{1-x}{y}\right)$$ 微分により得られる導関数dy/dxはこの後で積分計算に使用しますが、x=0の時に無限大になってしまう (図形的に接線はx軸に垂直でy軸に平行となる)ので、厳密にはx=0は積分区間に含める事ができず極限値を考える必要があります。導関数を考えないなら普通に原点を積分区間に含める事ができます。

微分の計算は次のようにしています。合成関数の微分法を使います。(ここでの場合は、後述する図形的考察でもこの導関数は導出可能です。)

$$\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}\sqrt{2x-x^2}=\frac{d}{dx}\left(2x-x^2\right)^{\frac{1}{2}}=\frac{1}{2}\left(2x-x^2\right)^{-\frac{1}{2}}\cdot (2-2x)=\frac{1-x}{\sqrt{2x-x^2}}$$

半径1の円の面積は1×1×π=πです。その1/4である四分円の面積はπ/4です。この値が無限級数1ー1/3+1/5-1/7+・・・の収束値である事を積分を使って証明して行きます。

しかしy≧0における円の式をそのままxで定積分するとπ/4の値は得られますが無限級数の式は得られません。何か別の方法で円の面積を計算する必要があります。

四分円の式と導関数
ライプニッツ級数の導出に使う積分計算で「厳密には」積分区間からx=0を除いて考えるのは、計算に使う導関数の式がx=0 (この時にy=0)において無限大に発散してしまう事によります。

②円の接線の式を利用して関係式を作る

そこで、実は「円の接線の式」を利用すると通常とは異なる形で面積の積分計算ができます。

但し積分を行う対象の関数は円の式なので、接線上の点を考えるわけではなく「円周上の点(x,y)に対して成立する関係式」を接線の式を利用して作ります。

円周上の点(x,y)における接線の傾きはdy/dxで表される導関数です。そして、接線のy切片(接線とy軸の交点)をzとします。この時にy=(dy/dx)x+zが成立します。

この時にzはxの関数です。そのようなz=z(x)という関数がxの開区間(1,0)の範囲内において円周上の点(x,y)に対して必ず存在できます。 このzの値が存在できる事は図形的に見ても確認できますが、式でも確かに示せます。

$$y>0においてy=\frac{dy}{dx}x+zとすると、\frac{dy}{dx}=\frac{1-x}{y}であるので$$

$$y=\frac{x-x^2}{y}+z\Leftrightarrow zy=y^2-(x-x^2)=y^2-x+x^2$$

$$円の式y^2 +x^2 -2x=0より、zy=x$$

$$y>0であればz=\frac{x}{y}=\frac{x}{\sqrt{2x-x^2}}$$

ここで考えているy=(dy/dx)x+zという式は、 あくまで円周上の点(x,y)に対して成立する式です。接線自体の式として考える場合はxとyを接線上の点の座標として考えるわけですから、円周上の点を別の文字で例えば(a,b)として表し、 その点における微分係数f’(a)を使う必要があります。その時に接線の式はy=f’(a)x+z(a)であり、これは接線上の点(x,y)に対して成立する関係式です。

接線の式を利用した変換
y>0の範囲で円の接線のy切片をzとすると、円周上の点(x,y)に対してy=(dy/dx)x+zを満たすz=z(x)が存在します。

この時にxをzで表す事もでき、後の計算で重要です。

$$z=\frac{x}{\sqrt{2x-x^2}}=\sqrt{\frac{x}{2-x}}から、z^2(2-x)=x$$

$$\Leftrightarrow x=\frac{2z^2}{1+z^2}$$

この後の計算では、このzを変数として四分円の面積を積分計算する事を考えて行きます。xをzで表した式を見ると分母が1+z2となっており、これが幾何級数展開可能な式の形になっています。

後の計算で重要な関係式

0<z<1の範囲においてはzで表したxの式は、公比を-z2とした幾何級数展開が可能です。 $$x=\frac{2z^2}{1+z^2}=2z^2(1-z^2+z^4-z^6+\cdots)$$

(補足)図形的にy切片と導関数を計算する場合

上記の計算でzの具体的な形としてz=x/yが得られましたが、この関係は平面幾何的にも導出できます。ここで考えている円はy軸が原点における接線となっているので、「接線のy切片と接点と円の中心」で作られる三角形を考えて合同関係に着目すれば三平方の定理によってzとxおよびyとの関係式を作る事ができます。

接線のy切片(0,z)から接点(x,y)までの距離は三角形の合同関係からzです。また、接線のy切片からx軸方向にx進み、y軸方向にy-z進めば接点(x,y)にたどり着きます。

同じく図形的考察からy>0において接線の傾きは(yーz)/x=(yーx)/(xy)です。そしてyをxで表すと、微分により得る導関数と同じ式を得ます。

$$y>0の時、接線の傾きは\frac{y-z}{x}=\frac{y-\frac{x}{y}}{x}=\frac{y^2-x}{xy}$$

$$=\frac{2x-x^2-x}{x\sqrt{2x-x^2}}=\frac{x-x^2}{x\sqrt{2x-x^2}}=\frac{1-x}{\sqrt{2x-x^2}}\left(=\frac{dy}{dx}\right)$$

③積分においてyの形を変形する(面積変換定理)

次に四分円の面積を積分によって考えます。この時に、積分変数xでyを積分する計算において
y=(dy/dx)x+zの式変形をしてzを積分計算に持ち込みます。以下、まず積分区間に依存せずに不定積分で可能なところまで式変形の計算を進めて行きます。

$$\int ydx=\int\left(\frac{dy}{dx}x+z\right)dx$$

この段階では積分変数の変換を行ったわけではありません。
(dy/dx)x+z={(1-x)/y}・x+x/y
=(2x-x)/y
=y/y=y
という関係を使ってyを表しているだけとなります。

次に2つの項のそれぞれについて積分変数の変換を考えます。

まず(dy/dx)xの項については部分積分の公式を適用して変形をします。

$$\int\frac{dy}{dx}xdx=xy-\int y\left(\frac{d}{dx}x\right)dx=xy-\int ydx$$

この部分積分による式変形は、定積分で計算した時には長方形領域の面積を曲線で分割した時の関係を表す意味を持ちます。

置換積分を行ってから(d/dy)y=1が乗じられていると見て部分積分を行い、積分の項に対して再度置換積分を行って積分変数をxに戻す事でも同じ式を得ます。$$最初に置換積分を行うと、\int\frac{dy}{dx}xdx=\int xdy$$ $$次に積分変数yで部分積分を行うと\int x dy=\int x \left(\frac{d}{dy}y\right)dy=xy-\int\frac{dx}{dy}ydy$$ $$置換積分を再度適用してxy-\int\frac{dx}{dy}ydy=xy-\int y dx$$ 但し、定積分を行う時にはxでの積分であったかyでの積分であったか注意も必要です。(ここでの四分円に対する計算ではx=0の時y=0でx=1の時y=1なので結果的にそれほど問題は起こらない。)

積分の変形と面積の関係
置換積分を最初に行った場合、ここでの変数変換は相似な三角形の辺の比に対応しています。この図では原点を通る曲線に対して原点からの定積分を考えていますが、任意の積分区間で考えた場合も同様に面積を分割する図形的意味を持ちます。

同様の部分積分の適用の仕方でzの項についても式変形し、
さらに置換積分によって「積分変数zでxを積分する」形に変形します。

$$\int z dx=\int z \left(\frac{d}{dx}x\right)dx=zx-\int\frac{dz}{dx}xdx=zx-\int x dz$$

置換積分と部分積分の順序を入れ換えて、置換積分を先に実行して積分変数をxからzに変える 事もできます。定積分する時には積分変数に注意。 $$単純に置換積分を行った場合は、\int zdx=\int z\frac{dx}{dz}dz$$ $$=zx-\int\left(\frac{d}{dz}z\right)xdz=zx-\int xdz$$

式を整理すると、積分変数xによるyの積分の項が2つあるのでまとめる事ができます。

$$\int y dx=xy-\int y dx+zx-\int x dz$$

$$\Leftrightarrow 2\int y dx=xy+zx-\int x dz$$

$$\Leftrightarrow \int y dx=\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)$$

ここで式中のxyととzxは積分変数をxとして考えた時の原始関数です。但し上記の補足説明のように積分変数をyやzで計算した場合はyやzの原始関数として端点の値を代入する必要があります。

$$\int y dx=\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)$$この関係式を定積分で考えたもの(あるいはzに関する計算をする前の段階のもの)はライプニッツの面積変換定理と呼ばれる事があり、円の式に限らず積分可能な一般の1変数関数に対して成立します。図形的な意味としては積分における面積計算の領域を2つに分けて、そのうちの1つを接線のy切片であるzによって積分計算しているものになります。
尚、この式の右辺をxで微分するとyに等しくなる「はず」ですが、
具体的にチェックをしてみると次のようになります。 $$zはxだけの関数で表せる事と、\int x dz=\int x\frac{dz}{dx}dxに注意して、$$ $$\frac{d}{dx}\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)=\frac{1}{2}\left(y+x\frac{dy}{dx}+z+x\frac{dz}{dx}-x\frac{dz}{dx}\right)$$ $$=\frac{1}{2}\left(y+x\frac{dy}{dx}+z\right)=\frac{1}{2}\left(y+y\right)=y$$

④幾何級数展開を適用

「xを積分変数zで積分する」項について、0<x<1の時に0<z<1であるので1/(1+z)の部分に対して幾何級数展開を適用できます。公比は-zです。

$$\int y dx=\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)において、$$

$$\int x dz=\int \frac{2z^2}{1+z^2}dz=2\int z^2\cdot\frac{1}{1+z^2}dz$$

$$=2\int z^2(1-z^2+z^4-z^6+\cdots)dz=2\int(z^2-z^4+z^6-z^8+\cdots)dz$$

$$=2\left(\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right)$$

これを項別積分するには関数列が一様収束するという条件が必要ですが、ここではその条件は満たされています。(収束する整級数が一様収束する事の証明は、連続性定理の証明の一部として後述。級数変化法による計算と、コーシー列に関する考察を含みます。)

よって、次式が成立します。

$$\int y dx=\frac{1}{2}\left(xy+zx-\int x dz\right)=\frac{1}{2}\left(xy+zx\right)-\left(\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right)+C$$

(この段階ではまだ不定積分で考えているので、積分定数Cを加えた形にしています。)

ここで行われた式変形を細かく表現すると
「0<x<1の範囲内で0<z<1であり、
その範囲の任意のzに対して公比を-zとして1/(1+z)を幾何級数展開できる」
という事になります。
幾何級数(等比級数)は公比の絶対値が1未満である時は公式を適用できます。 $$|r|<1の時、1+r+r^2+r^3+\cdots=\frac{1}{1-r}$$ (導出:第n項までの和をSとして、S-rS=(1-r)Sを計算して(1-r)で割り、n→∞)
逆に、|r|<1の時に1/(1ーr)の形の項は幾何級数の形に展開できます。1/(1+r)の形の場合は公比が-rになります。ここでは展開後の結果にzを乗じていますが、初項がzであるとしてz/(1+z)に対して幾何級数展開を適用しても最終的な計算結果は同じになります。

⑤定積分の計算と極限の考察

ライプニッツ級数は「四分円の面積π/4が無限級数1ー1/3+1/5-・・・に等しい」という式であり、四分円の面積は円の上半分の式\(y=\sqrt{2x-x^2}\)をx=0からx=1まで定積分すれば得られます。そのため本来は、上記で得られた積分の変形式でも積分変数xに対して積分区間を [0,1] としたいところです。簡易的な方法としてはそれでライプニッツ級数を導出可能です。

すなわち、x=0の時にy=z=0,x=1の時にy=z=1の関係から、得られている不定積分を定積分に変える事でライプニッツ級数を得ます。(積分中のxy,zxは共に積分変数をxとしている原始関数であり、例えばx=1を代入してyについてもその時にy=1なのでxy=1という計算。)

$$\frac{1}{2}\left([xy]_0^1+[zx]_0^1\right)-\left[\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right]_0^1=\frac{1}{2}\left(1+1\right)-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

$$=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

$$これが\int_0^1 y dx=\frac{\pi}{4}に等しいとすると\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

しかしここでは一応、積分区間にx=0とx=1を含める事はできないとした場合の計算も記します。

  • x=0を含めないのは、式変形で使用したdy/dxがx=0で無限大となるため
  • x=1を含めないのは、幾何級数展開時に|z|<1の条件が必要なため

0<ε<δ<1であるεとδを考え、積分区間を[ε,δ]と置きます。そして計算結果においてε→0,δ→1の極限を考えます。ε→0の時y→0およびz→0であり、δ→1の時y→1およびz→1です。

ライプニッツ級数自体がπ/4に収束する「無限級数」なので、積分区間の極限を考えた時にも等式は問題なく成立します。四分円を普通に定積分した時に積分区間[ε,δ]に対してε→0,δ→1とすればπ/4に収束するので、「2つの式の極限値が同じ値に収束する」という事でライプニッツ級数の等式が成立します。

$$\int_\epsilon^\delta y dx=\frac{1}{2}\left([xy]_\epsilon^\delta+[zx]_\epsilon^\delta\right)-\left[\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right]_\epsilon^\delta$$

$$\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}[xy]_\epsilon^\delta=1\cdot1-0\cdot0=1,\hspace{7pt}\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}[xy]_\epsilon^\delta=1\cdot1-0\cdot0=1$$

幾何級数展開した部分についての極限については、何が問題なのかを整理しておきます。

  • 幾何級数が収束する事が保証されるのは|z|<1の範囲(0<x<1)であり、級数が収束しないなら項別積分もできない。
  • z=0(x=0)の時には幾何級数展開自体は可能で、1/(1+z)に対して初項1だけが残り、z=0を乗じて全体が0になる。従って、ε→0の時の全体の極限値も0。

つまり、考察が複雑になるのは積分区間の端点を1に近付けて行く場合です。より具体的には
/3ーz/5+z/7+・・・に「z=1を代入してみた場合の式」が収束するかどうかの判定が曖昧になっています。

この時にz/3ーz/5+z/7ー・・・の形の無限級数が収束するかどうかは、実は独立に確かめる方法があります。z=1を代入してみた時の形1/3ー1/5+1/7ー・・・は収束する事を確認できます。(但し、その方法では1ー1/3+1/5ー・・・がπ/4に収束するかどうかは判定できません。)

(交代級数に関する)ライプニッツの定理

数列{a}について
・数列{|a|}が単調減少 かつ
・n→∞でa→0ならば
交代級数aーa+aーa+・・・は収束する。
(但しこの逆は真ではなく、交代級数が収束しても上記2条件が満たされるとは限らない。)
※微分に関する同名の「ライプニッツの定理」も存在し、状況によっては使用を避けたほうが良い名称です。

この判定方法によれば、1/3ー1/5+1/7ー・・・は「収束する」事が分かります。

■参考:交代級数の収束性の検証(1/3ー1/5+1/7ー・・・の場合。逆三角関数によるライプニッツ級数の導出過程にて。)

このような時にz/3ーz/5+z/ー・・・はz→1の時に収束し、
その極限値は1/3ー1/5+1/7ー・・・の極限値に等しくなる事を保証する定理(連続性定理)がまた別に存在します。そのため、幾何級数展開した部分の極限は次のようになります。

$$\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}\left[\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right]_\epsilon^\delta=\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{5}+\frac{1}{7}-\frac{1}{9}+\cdots\right)-0$$

$$=\frac{1}{3}-\frac{1}{5}+\frac{1}{7}-\frac{1}{9}+\cdots$$

$$よって、\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}\int_\epsilon^\delta y dx=\frac{1}{2}\left([xy]_\epsilon^\delta+[zx]_\epsilon^\delta\right)-\left[\frac{z^3}{3}-\frac{z^5}{5}+\frac{z^7}{7}-\frac{z^9}{9}+\cdots\right]_\epsilon^\delta$$

$$=\frac{1}{2}(1+1)-\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{5}+\frac{1}{7}-\frac{1}{9}+\cdots\right)=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

$$同時に、\lim_{\epsilon \to 0, \delta \to 1}\int_\epsilon^\delta y dx=\int_0^1 y dx=\frac{\pi}{4}であるから$$

$$\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

ライプニッツ級数の導出で使う式や計算をまとめるとこのようになります。置換積分と部分積分を行う箇所については順序を入れ換える事もできます。端点の極限を厳密に考える時には交代級数の収束性と連続性定理を考える必要があります。

■参考:(アーベルの)連続性定理

積分区間の端点の極限の考察で使用した連続性定理は次のようなものです。

連続性定理

x=0を中心とする整級数において収束半径がρ(>0)の時、 $$x=\rhoにおいて\sum_{n=0}^\infty a_nx^nが収束する\Rightarrow \lim_{x\to\rho -0}\sum_{n=0}^\infty a_nx^n=a_n\rho^n$$ $$\left(x=\rhoにおいて\sum_{n=0}^\infty a_nx^nが収束する\Rightarrow f(x)はx=\rho において左側連続\right)$$ xはρよりも小さい側からの極限を考えるものとしています。(「x→ρー0」の意味)
x=0を中心とする整級数(以下、単に「整級数」と呼びます)において収束円が(-ρ, ρ)であるという事は、|x|>|ρ|で収束しない事を意味します。
この時にもしx=ρにおいては整級数が収束する時に、その条件下で整級数が収束する範囲内でxを動かしてx→ρの極限を考えるとx=ρでの整級数(のnに関するxの極限関数)の連続性が保証されるというのが連続性定理の内容です。
この定理の表現方法はいくつか存在します。
例えば$$\sum_{n=0}^\infty a_nx^nが収束円の1つの端で収束する\Rightarrow\sum_{n=0}^\infty a_nx^nはその端において連続である$$と言っても同じ事です。
また、連続である事を表す極限については、例えば0以上1未満のtを使って\(\sum_{n=0}^\infty a_n(\rho t)^n\)に対してt→1の極限を考えても同じ事になります。
整級数の中には収束円の端点の片側だけで収束して、もう片方の端点では発散するというものが存在します。連続性定理もx=ρで整級数が収束する時にx=ρ側だけで連続性を保証し、
x=ーρの連続性は分からないものになります。

■連続性定理の証明

まず、各xでの整級数の極限関数がL(x)であるとします。
x=ρで収束するので $$\sum_{k=0}^{\infty}a_k\rho^k =L(\rho)として、$$ $$任意の\epsilon>0に対して、n>Nであれば\left|\sum_{k=0}^na_k\rho^k -L(\rho)\right|<\epsilonとなる自然数Nが存在$$ $$b_0=a_0-L(\rho),\hspace{5pt}n\neq0の時はb_n=a_nとするとn>Nであれば\left|\sum_{k=0}^nb_k\rho^k\right|<\epsilon$$ 次に|x|<|ρ|の任意のxに対しても、n>Nであれば一律に任意の同一のプラスの実数値以下(あるいは未満)にできるかを調べます。【εごとにxに依存しないで1つの値Nを決定できるかどうかを調べたい。】 $$n>M>Nに対して|S_n|=\left|\sum_{k=M+1}^nb_k\rho^k\right|=\left|\sum_{k=0}^nb_k\rho^k-\sum_{k=0}^Mb_k\rho^k\right|<2\epsilon\hspace{5pt}\cdots(*)$$ $$n> M+1の時S_n-S_{n-1}=b_n\rho^n\hspace{10pt}n=M+1の時、S_{M+1}=b_{M+1}\rho^{M+1}$$ $$x=\rho tとすると、\sum_{k=M+1}^nb_kx^k=\sum_{k=M+1}^nb_k\rho^kt^k=S_{M+1}t^{M+1}+\sum_{k=M+2}^n(S_k-S_{k-1})t^k$$ $$=S_{M+1}t^{M+1}+(S_{M+2}-S_{M+1})t^{M+2}+\cdots+(S_{n-1}-S_{n-2})t^{n-1}+(S_{n}-S_{n-1})t^n$$ $$=S_{M+1}(t^{M+1}-t^{M+2})+S_{M+2}(t^{M+2}-t^{M+3})+\cdots+S_{n-1}(t^{n-1}-t^n)+S_nt^n$$ |t|<1(すなわち|x|<|ρ|)の時はtk+1-tk>0であり、
削除: かつn>M>NであればSに関して上記(*)式が成立するので次の不等式が成立します。 $$\small{\left|\sum_{k=M+1}^nb_kx^k\right|≦|S_{M+1}|(t^{M+1}-t^{M+2})+|S_{M+2}|(t^{M+2}-t^{M+3})+\cdots+|S_{n-1}|(t^{n-1}-t^n)+|S_n|t^n}$$ $$<2\epsilon(t^{M+1}-t^{M+2})+2\epsilon(t^{M+2}-t^{M+3})+2\epsilon(t^{M+3}-t^{M+4})+\cdots$$ $$+2\epsilon(t^{n-2}-t^{n-1})+2\epsilon(t^{n-1}-t^n)+2\epsilon t^n$$ $$=2\epsilon t^{M+1}<2\epsilon$$ 【以上の不等式の組み立て方は級数変化法と呼ばれ、より一般的な形の命題が存在します。】
$$|x|<|\rho|である任意のxに対して、任意の2\epsilon>0を考えた時に$$ $$n>M(>N)であれば\left|\sum_{k=M+1}^nb_kx^k\right|=\left|\sum_{k=0}^nb_kx^k-\sum_{k=0}^Mb_kx^k\right|<2\epsilon$$ $$\left|\sum_{k=M+1}^nb_kx^k\right|=\left|\sum_{k=M+1}^na_kx^k\right|であるから【初項a_0,b_0がないので】、$$ $$n>M>Nであれば\left|\sum_{k=M+1}^na_kx^k\right|=\left|\sum_{k=0}^na_kx^k-\sum_{k=0}^Ma_kx^k\right|<2\epsilonでもある。\cdots(**)$$ 今、整級数を関数列{f}として見た時に、集合Fを{fn, fn+1, fn+2, ・・・}として考えて、
Fに対する上限と下限B=supFおよびA=infFを考えます。
各xに対してn>Nの時、
任意のδ>0に対してB-δ<fとなる自然数p>Nがあり【上限の定義から】、
2ε=ε>0に対して別の自然数q>Nを考えて上記(**)式でn=p,M=qとすると
|f-f|<εであり、-ε<f-f<ε
もしp<qならn=q,M=pとして考えて、成立する不等式は結果的に同じになります。
すると、B-δ<f<ε+fとなり、B-f<ε+δ
1つのqとεに対してδは0より大きい範囲で任意であるので、
B-f<εは成立し、B-f=εもあり得るけれども
B-f>εは成立しないので
B-f≦ε・・・(***)
下限については任意のδA>0に対してA+δA>fとなる自然数j>Nがあり【定義から】、
先ほどの(***)式はq=jの時でも成立し、B-f≦ε⇔f≧B-εとなるので
+δA>f≧B-εであり、
+δA>B-ε⇔B-A<δA+ε
δAは0より大きい範囲で任意なのでB-A≦ε
これはn→∞とした時にB→Aを意味して、閉区間 [B,A] は1つの点{c}に収束します。
さらに、n>Nの範囲でB≧c≧Aであるから、この時に任意のn>Nに対して|f-c|≦ε
(この範囲内でB=Aでなければ|f-c|<ε
よってcは整級数fの極限値でもあり、各xに対してc=L(x)であり、
n>Nであれば|x|<|ρ|の範囲内の任意のxについて一律に|f-L(x)|≦ε=2εとなります。
またx=ρの時はn>Nでε未満になるので、2ε以下という不等式も満たします。
【この事は整級数が|x|<|ρ|およびx=ρにおいて一様収束する事を表しています。
また、(**)式を示した後の証明はコーシー列に関する考察の一部です。整級数に限らず一般の数列に対して成立する事も含んでいます。】
次にx=ρでの連続性を見るためにx→ρの極限を連続性の定義の式から考えると、
三角不等式の考え方を利用して $$\small{\left|\sum_{k=0}^\infty a_kx^k-\sum_{k=0}^\infty a_k\rho^k \right|≦\left|\sum_{k=0}^\infty a_kx^k-\sum_{k=0}^na_kx^k \right|+\left|\sum_{k=0}^n a_kx^k-\sum_{k=0}^na_k\rho^k \right|+\left|\sum_{k=0}^n a_k\rho^k-\sum_{k=0}^\infty a_k\rho^k \right|}$$ 右辺の絶対値記号内の3項はnの値やxの範囲により、それぞれがε未満か2ε以下になります。
【特にnについて考える時に、上記で示したようにxの値に関わらずn>Nであれば一律に不等式が成立する事が重要です。】
①右辺第1項について、整級数の一様収束性よりn>Nの時。(Nの値はxに依存しない。)
②右辺第2項について、有限の次数の多項式はx=ρで連続なので、x=ρを含む十分小さな開区間U内の任意のxに対して。【この項はx→ρの極限で、nの値は任意で成立。】
③右辺第3項について、x=ρにおいても整級数は収束するのでn>Nの時。
そこで、nが①と③を満たすように十分大きく、
xが②を満たす開区間U内の範囲にあり、かつ|x|<|ρ|であれば $$\left|\sum_{k=0}^\infty a_kx^k-\sum_{k=0}^\infty a_k\rho^k \right|<2\epsilon+\epsilon+\epsilon=4\epsilon$$ $$\epsilonおよび4\epsilonは任意の小さな実数であるので、xの関数\sum_{k=0}^\infty a_kx^kはx=\rhoで左側連続。$$ ここでは(-ρ,ρ)の区間内でx=ρにおいて左側連続である事が示されています。もしマイナス側のx=-ρでも整級数が収束するなら、同様にx=-ρで右側連続である事を示せます。
【以上の証明は、いくつかの命題や補題に分けて説明される事もあります。】

極限値としての自然対数の底 e の定義

「自然対数の底」eの定義の詳しい説明を述べます。(この定数はネイピア定数ネピア定数とも言い、数式中では単に「イー」と読む事が多いようです。)これは、ある数列のn→∞での極限値として定義されます。もちろん、発散してしまうのであれば定数として定義する意味はないのでその数列は収束します。その証明をします。(※高校数学の範囲だけだと証明できません。ただし、証明で肝心になる1つの事項を除くと、使う計算や定理は高校数学のもので足ります。)

$$e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}$$

nを無限大にする極限と、1/nを0にする極限の2つの表し方がありますが、どちらも同じ値 e に収束します。
具体的な値としては約2.718・・・という無理数に収束します。
(※具体的な値を知る方法も、無理数である事の証明にも、 マクローリン展開を使用します。exという指数関数に対する微分公式の性質もそこで本質的に重要です。)

これらの極限が発散せずに収束する事を示すには「nを無限大にする」極限を考えたほうが簡単です。

証明

2項定理を使って直接展開し、全体を数列として見た時に単調増加で上に有界である事を示します。
「上に有界である」とは「数列の全ての1つ1つの項が、例外なくある値以下になる」という意味です。

  1. 2項定理でn乗を直接的に展開して形を調べる。
  2. 数列として「単調増加で上に有界」である事を示す。
    証明過程で等比数列の和の極限(幾何級数)の公式の考え方を使用します。

※「単調増加で上に有界な数列は収束列である」事の証明は、一般には大学数学の初めに教えられます。自明な事とは言えないので証明が必要です。高校では教えない事が多いです。

極限の式が収束する事を示すには、この場合においては単純に2項定理を使って1つ1つの項に展開します。次に、式全体を数列と見なした時に、単調増加数列である事を証明するのです。

単調増加である事の証明

まず、極限の中身のn乗の形の式に対して2項定理を使います。次のように展開できます。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=1+_nC_1\frac{1}{n}+_nC_2\left(\frac{1}{n}\right)^2+\cdots+_nC_n\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

$$=1+\frac{1}{n}+\frac{n(n-1)}{2}\left(\frac{1}{n}\right)^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{3!}\left(\frac{1}{n}\right)^3+\cdots+\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

第k項だけを取り出すと次のような形になっています。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+2)(n-k+1)}{k!}\left(\frac{1}{n}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k+1}{n}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n}\right)$$

1≦k≦nなので、これはプラスの値です。
(元々、プラスの値をn乗しているものなので予想はつくものですが。)

少し分かりにくければ、具体的な番号の項に着目し、書き出してみるとよいでしょう。
例えば第4項は次のようになります。

$$_nC_4\left(\frac{1}{n}\right)^4=\frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{4!n^4}$$

$$=\frac{1}{4!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdot\frac{n-3}{n}\right)=\frac{1}{4!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)$$

単調増加であるかを調べるには、nをn+1に置き換えた時の状況を調べます。
つまり次の形の数列を同様に2項展開するわけです。

$$\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

その場合の第k項は次のような形になります。【n+1個からk個を選ぶ組み合わせを使う事に注意】

$$_{n+1}C_k\left(\frac{1}{n+1}\right)^k=\frac{(n+1)n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+3)(n-k+2)}{k!}\left(\frac{1}{n+1}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n+1}{n+1}\cdot\frac{n}{n+1}\cdot\frac{n-1}{n+1}\cdot\frac{n-2}{n+1}\cdots\frac{n-k+3}{n+1}\cdot\frac{n-k+2}{n+1}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n+1}{n+1}\left(1-\frac{1}{n+1}\right)\left(1-\frac{2}{n+1}\right)\left(1-\frac{3}{n+1}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n+1}\right)$$

ここで、「4/5は5/6よりも小さい」…といった具体的な関係からも分かる通り、
一般に有理数に関して、 m/n ≦ (m+1)/(n+1) という不等式が成立します。

nの場合とn+1の場合とで第k項のk個の因数(上記で分母の階乗の項以外のk個)をそれぞれを比較すると、例えば次のような大小関係があります。

$$\left(1-\frac{1}{n}\right)<\left(1-\frac{1}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{2}{n}\right)<\left(1-\frac{2}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{3}{n}\right)<\left(1-\frac{3}{n+1}\right)$$

この大小関係は、上記式中のk+1個の因数のうち3つ目以降のそれぞれについて成立します。初めの2つは1/(k!)と1なので等しいですから、1~nのそれぞれの項についてn+1の場合のほうが大きい事になります。
そして、全体の項数としてはn+1の場合に1つ項が多くてプラスの値の項が加わるので、結局n+1の場合の方が、nの場合よりも大きい事が示されます。

$$任意の自然数nについて\hspace{5pt}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

組み合わせの取り方について混乱しやすいので注意。k個を選ぶ各項で比較し、その中で共通の階乗部分以外のk個の因数同士をさらに比較します。n+1の場合のほうが、1~nまでのそれぞれの項についてnの場合よりも大きくなり、さらに、n+1番目のプラスの項があるので単調増加である事を示せます。この時の各項の比較では、分母のnのべき乗の1つnを分子のそれぞれの因数に割り振ると大小関係の比較が分かりやすくなります。

上に有界である事の証明

次に、上に有界である事を示します。これは、等比数列の和の性質を上手に使うとうまく不等式によって示す事ができます。2項定理で展開した時の第k項について再度考察すると、k≧1のとき1/(2)という値以下に必ずなる事が分かります。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k-1}{n}\right)≦\frac{1}{k!}≦\large{\frac{1}{2^{k-1}}}$$

【分母の階乗以外のカッコ内の部分が1以下という意味で不等式で抑えています。また、例えば4!=4・3・2・1=24と「2の4乗」2=2・2・2・2=16とでは階乗のほうが大きい値となり、k!≧2という関係があります。これらが分母に来るので、大小関係は逆になっています。
尚この「2」という数自体に特別な意味はなく、あくまでこの数を使うと証明がしやすいという意味でここでは使用しています。

これが各kについて成立するという事は、全体では次の不等式が成立します。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n≦1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}$$

これの右辺は等比数列の和に1を加えたものですから直接値を計算できるのです。ここでnを無限大にする必要はありませんが、nをどれだけ大きくしてもある値以下になる事の確認は必要です。公比が1未満で、公比がプラスの値の等比数列は単調増加ですから確かに大丈夫という事になります。

$$1+\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}\right)=1+\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{n+1}}{1-\frac{1}{2}}=3-\left(\frac{1}{2}\right)^n<3$$

よって上に有界であり、単調増加である事と合わせて問題の極限値は存在するという事になります。尚、この「3より必ず小さい」という事実は、e = 2.718・・・という値になる事ともちろん調和しているのです。

$$\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}は、収束し、特にeと書きます。$$

意味と使われ方

この自然対数の底 e は、何と言っても微分および積分の性質が、数学の理論上でも物理学や工学での応用でも重要になります。「微分して得た導関数が元の関数に等しいものは存在するか?」という問いの答えは「あります」で、それが e の指数関数 ex です。(もちろんその事は自明ではなく証明が必要。)

$$微分公式:\hspace{10pt}\frac{d}{dx}e^x=e^x$$

その微分の性質は、微分方程式の解法でも直接的に関わります。例えば、線型で定数係数の常微分方程式の解法では「微分すると元の関数に戻る」性質が上手に使われていて解を構成します。

複素数の指数関数表示 eix = cos x + i sin xなども理論・応用上ともに重要です。

幾何級数(等比級数)

等比数列の和を無限個で考えたものを、「等比級数」または「幾何級数」と言います。
【有限の項数の和のものを同じ名称で呼ぶ事もありますが、ここでは無限級数の場合を扱います。】

収束・発散の条件と計算の仕方

等比数列の和を考え、項数を無限大にしたものはどのようになるかをまとめると次のようになります。

幾何級数あるいは等比級数とは?

次の形の無限級数を「幾何級数」あるいは「等比級数」と言います。 $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=a\lim_{n\to \infty}(1+x+x^2+x^3+x^4+x^5+\cdots+x^n)$$ $$=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}\hspace{20pt}(r\neq 1)$$ これの収束・発散は次のようになります。

  1. 公比の絶対値が1未満【|x|<1】のとき収束する $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}=\frac{a}{1-x}$$
  2. 公比の絶対値が1以上【|x|≧1】のとき無限大に発散する
    (r=1のとき、nまでの和はna → ∞) $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}=\infty$$

この「等比数列の和のn→無限大の極限をとったもの」を「等比級数」と言い、
幾何級数(geometric series)」という呼び方をする時もあります。
【高校ではこの幾何級数という呼び名はあまり使わないのですが、物理などでは使用する場合もあります。】

具体的に、a=(1/2)n-1で表されるような等比数列の和はn→∞の時に収束し、
=3で表される等比数列の和はn→∞の時に無限大に発散します。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}=\frac{1}{1-\large{\frac{1}{2}}}=2$$

$$\sum_{n=1}^{\infty}3^n=+\infty$$

この時に指数の部分がn-1ではなくnで表されている場合には注意が必要で、例えばc=(1/3)などと表されている時には計算にn=1の時の「初項」が必要ですので、c=(1/3)・(1/3)n-1のように考える必要があります。(あるいは、初項c=1/3である事をきちんと把握して計算します。)

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{3}\right)^{n}=\frac{\large{\frac{1}{3}}}{1-\large{\frac{1}{3}}}=\frac{1}{3-1}=\frac{1}{2}$$

シグマ記号を使って表す場合には、n=1ではなくてn=0から始めて表記する事も可能なので、
その場合にはn=0を代入したものが初項になります。式の形そのものだけを暗記するというよりは、「初項」と「公比」は何なのかを把握する事が大事になります。$$\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{3}\right)^{n}=\frac{1}{1-\large{\frac{1}{3}}}=\frac{3}{3-1}=\frac{3}{2}$$n=0から始まっているので初項は1であり、c’=(1/3)n-1に対する幾何級数の場合と同じ値に収束します。

公比が負の数である場合にも、公比の絶対値が1未満であれば同じ公式を使えます。
例えば公比が-1/2などの場合にも和を無限大にとったものは収束します。各項はプラスとマイナスが次々と入れ替わりますが、全体の和は一定値に近づいていくという事です。この場合、上記公式の公比の部分にマイナス符号の公比をそのまま代入します。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(-\frac{1}{2}\right)^{n-1}=\frac{1}{1+\large{\frac{1}{2}}}=\frac{1}{\large{\frac{3}{2}}}=\frac{2}{3}$$

ところで、これらの無限級数を「幾何級数」とも呼ぶと上述しましたが、「幾何」に何か関係あるのかという話になります。一応、式に平面幾何的な意味を持たせる事は可能です。

適当な図形・・例えば長方形を考えた時に、図形の面積の1/2倍、そのさらに1/2倍、
そしてそのさらに1/2倍、・・の図形を加えていくと、全体の面積は無限には大きくならずに一定の範囲内で収まる事を確認できます。

=(1/2)n-1の各項はa=1,a=1/2,a=1/4,a=1/8,a=1/16,・・
のようになりますが、これらの項の和は平面図形で言うと、1つの長方形などの面積に対しておおもとの面積の1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍、・・を加え合わせていく事に対応します。
この時、項数を増やしても全体の面積は必ず「2未満」におさまり、無限個に増やした場合は収束値である「2」に限りなく近づく事になります。

他方、a’=(1/2)に対する幾何級数を考えた時は収束値は1になる事は上述しましたが、これは平面図形ではa=(1/2)n-1に対する幾何級数の収束値2から1を引いた場合に等しく、平面図形では図形の面積の1倍を除いた部分に相当します。

無限小数の級数としての扱い

循環小数を和で表すと?

1÷9=0.111111111・・・や、1÷3=0.33333333・・・などの
無限循環小数は、幾何級数により表す事ができます。

0.1とは1/10の事であり、0.01とは1/100の事、
そして0.11とは0.1+0.01である事を考えると分かりやすいと思います。

循環小数は幾何級数で表せる

小数0.99999999・・・・などは、0.9+0.09+0.009+0.0009+・・・のように考える事で、$$a+ar+ar^2+ar^3+ar^4+ar^5+\cdots$$ の形、つまり幾何級数の形をしています。
等比数列で言うと、初項が0.9、公比が0.1であるものの幾何級数になっているという事です。
公比の絶対値が1未満なので、これは無限級数として収束します。

無限循環小数には、0.123123123123・・・のように、「123」のような複数の番号の組み合わせが繰り返されるものも含まれるわけですが、このようなものも同様に考える事ができます。

0.123123123=0.123+0.123×0.001+0.123×(0.001)
のようになるので、この場合は公比を0.001と考えればよいわけです。このようにして、小数が循環する限りは、無限小数は幾何級数とみなす事が可能です。

無理数のように循環しない無限小数は、小数点ごとに項を分けて無限級数で表す事は可能ですが幾何級数として表す事はできません。

0.999999・・・は、「1に等しい」?

「無限級数展開」が意外と身近にある例として、ちょっとしたクイズを考えてみます。

クイズ:「無限小数0.99999999・・・・は『1に等しい』ですか?」

もしかすると、意見が割れるかも・・しれませんね。結論を先に言いますと、答えは「1に等しい」、です。

・・すると、「いや、1ではないやろ!???」と、怒られるかもしれません。
では、同じ質問を、表現だけ変えてみます:

$$「無限級数 0.9+0.09+0.009+0.0009+・・・=\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.9)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}は『1に等しい』ですか」 $$

これだと、幾何級数ですね。
これは、明確に答えは「1」なのです。

どういう事かというと、「1に『収束する』」「『極限値と』して1に等しい」という意味において等しくなるという事です。0.99999999・・・は、1に限りなく近づくという意味です。

0.99999999・・・が1に等しいか・等しくないかで意見が割れてしまうのは、小学校でも教わる無限小数が数学的にはどのような意味を持つかが曖昧な形で教えられている事によります。
前述のように無限小数は正確には無限級数であり、無限循環小数であれば公比の絶対値が1未満の幾何級数になるので1つの値に収束する事になります。

ところで、では例えば1/3=1÷3=0.333333・・・・について、この左辺の分数・割り算の形は本当に幾何級数の公式を使って出てくるでしょうか?試してみると次のようになります。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.3)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}=\frac{0.3}{1-\large{\frac{1}{10}}}=\frac{3}{10-1}=\frac{3}{9}=\frac{1}{3}$$

このように、無事に1/3(=1÷3)に収束する結果となります。

1÷9=0.1111111・・・についてもやってみると次のようになります。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.1)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}=\frac{0.1}{1-\large{\frac{1}{10}}}=\frac{1}{10-1}=\frac{1}{9}$$

無限級数展開としての位置付け

幾何級数は、数学的には1/(x-1)という関数のマクローリン展開と、本質的に同じ無限級数です。
(|x|<1の範囲でのみ収束するという点まで、本質的に同じです。)

|x|<1の公比、初項が1の幾何級数を考えると、

$$\lim_{n\to\infty}(1+x+x^2+x^3+\cdots+x^n)=\frac{1}{1-x}$$

これを逆手にとるというか、逆に1/(1-x)という関数を|x|<1の範囲に限定するという条件付きで無限級数として表すのが、「幾何級数展開」です。本質的には幾何級数の計算と全く同じもので、使い方による名称の違いです。

$$\frac{1}{1-x}=\lim_{n\to\infty}(1+x+x^2+x^3+\cdots+x^n)$$

$$無限大まで和をとる事を前提に、\frac{1}{1-x}=1+x+x^2+x^3+\cdotsと書く事も多いです。$$

これは無限級数展開の中では非常に簡単に理解できるものの1つです。にもかかわらず、大学範囲の数学や物理でも要所で使用します。知っておくと、学習がスムーズになり便利です。

幾何級数展開は、数学の複素関数論で用いられたり、物理では黒体放射の理論で「エネルギーが離散的な値をとること」(つまり量子的である事)の根拠のひとつとして用いられたりもします。他にも、使われ方は色々あります。割と重要なところで突然出てくるのが特徴かもしれません。

ただしそれらは教科書等の中では「幾何級数」「等比級数」である事の説明なしに、唐突に「1/(1-x)=1+x+x+x+x+・・・と『展開』すると・・」などと書かれる事が結構多くあるので、その点だけ注意しましょう。

幾何級数は、|x|<1のもとで1/(1-x)という特定の関数のマクローリン展開に一致し、本質的に同じ無限級数です。

解析学での極限値の定義

今回は、極限について、より数学的に考えた場合にはどのような定義になるのかといった事を紹介します。じつはこのページで語られる内容が、大学の学部での一般的な解析学・微積分学で最初に教えられるものです。そのため、今回の内容は数学科で教わるような「解析学の初歩」をかなり分かりやすく説明した内容にもなっています。その内容を見てみましょう。

解析学的な極限の厳密な定義は?

数列の極限の定義とε-N論法  ■ 実数の性質 有理数にない性質は? ■ 有界性と上界 下界 上限 下限 

数列の極限の定義とε-N論法

解析学での極限の理論は、数列の極限が初歩的で基本的内容となるので、まずそれを述べましょう。
\(\frac{1}{n},\frac{1}{n^2}\)といった数列は、限りなく0に近づきます。
この事について、極限値である0を基準にして考えた時、0を含む任意の区間(普通、開区間を考えます)内にある番号以降の数列がおさまる事を意味するのです。

「任意の区間」とは、「任意の『小さな』区間」を想定しています。
例えば、( -0.001 , 0.001 ) のような開区間です。数列1/nであれば、n=1001以上であれば、全てこの小さな区間内に入るわけです。
数列の、ある番号以上の「全ての」要素を考える理由は、「振動」の可能性を除くためです。振動してしまう場合は、収束では無く発散の部類に区分します。

この時、別の ( -0.0001 , 0.0001 ) のような、さらに小さい開区間を考えると、n=10001 以上でなければ要件を満たしません。そのため、数学的には次のように考えます。

  • まず、値cを含む開区間 U を考え、ある番号以上では全てそこに含まれるとする
  • どんな小さな開区間 U を考えても、対応する番号 N が存在するとする(これを、「任意の開区間Uに対し、ある自然数Nが存在する」などと表現します)
  • そのような条件を満たす時、数列はn→∞で「極限値cを持つ」と呼ぶ事にする(定義する)
数学的な極限値の定義≪数列≫①

$$\lim_{n\to \infty}A_n=c $$ $$\Leftrightarrow c を含む任意の開区間 U に対してn ≧ N_0 ならば A_n\in U となる自然数 N_0 が存在する$$

★ この小さな開区間の事を、「近傍」(英:neighborhood)とも言います。

極限の定義
「どんなに小さい」という表現を、「任意の」という言葉で数学では表現します。極限の定義としては「小さい」という事が意味としては重要ですが、大きい区間であっても当てはまる事から、「小さい」という言葉を添えるのは補助的な説明のためです。「任意」と言う時点で、大きいものも小さいものも全て含まれます。
参考

日本語の場合、「どんな実数でも」という事を「任意の実数に対して」という、少々難しい言い回しで表現する習慣があります。これに対して、じつは英語の場合では、日常で使う言葉をそのまま使う習慣があります。
「任意の実数 R に対して」を英語で言うと、for all real numbers R となります。
every や each を使っても表現されます。for each real number R 等。意味するものは大体同じです。

多くの微積分学・解析学の教科書では、同じ内容を不等式で書く事も多いです。その場合、「任意の正の(小さい)実数」をギリシャ文字の「イプシロン」ε で表すのが通例です。

数学的な極限値の定義≪数列≫②

$$\lim_{n\to \infty}A_n=c $$ $$\Leftrightarrow 任意の正の実数\epsilon に対してn ≧ N_0 ならば |A_n – c| < \epsilon となる自然数 N_0 が存在する$$

★ これは、極限値と数列の差が「限りなく小さくなる」=「どんな小さい正の実数cよりも小さくできる」・・と、捉えているわけです。
この方法による定義を、慣習的に 「イプシロン・エヌ論法」と呼んだり、後述しますように関数の場合には別の正の実数デルタ δ を考える事から「イプシロン・デルタ論法」と呼んだりします。

これらの定義は、分かりにくい事で悪名高いものでもあります。(意味としては難しくないのですが。)
実際、物理などで関数等の極限を考える時は、これらの定義はあまり重要でない事も多いです。
例えば、1/n や 1/x などの数列や関数は、直感的に捉えても上記の定義を使っても結局「極限値は0」という結果は同じなのです。そのため、同じ結果を得るのであればよりシンプルな考え方をすべきだ・・とも、言えるわけです。

数学的に厳密に考える利点があるのは、収束するのか発散するのかすごく微妙で、直感的には判定しがたいという場合です。そのような場合は、物理や工学などでの応用よりも、純粋数学的な議論において多いと思われます。

実数の性質 有理数にない性質は?

次に、極限に関する基礎的な理論を下支えするものとして、実数が持つ性質が重要です。実数とは有理数に無理数を合わせたものですが、無理数とは「実数のうち有理数でないもの」・・などと説明されますから、これでは実数とは何なのか?という事の説明としては不足するものがあります。

結論を言うと、次の有理数の性質は、実数も共有するものです。

有理数が持つ性質
  • +-÷× の四則演算などが定義できる(より正確には「体」(field) であるという事)
  • 「順序構造」がある・・異なる2つの要素を選んだ時、p < q または p > q が必ず成立する。

★ これは、実数も備えている性質であるわけです。実数とは全ての有理数を含んだ集合ですから、有理数が持つ性質は実数も全て備えていなければならない、とも言えます。

では実数にしかない性質は何だろう?と考えると、次の「切断」(Schnitt これはドイツ語由来です)と呼ばれる、部分集合の分け方において成立する事が、じつは有理数と異なるのです。
「切断」とは、ごく簡単に言うと1箇所だけ境を決めて、1つの集合を2つの部分集合に分けるという操作です。例えば実数全体を「0以上」と「0未満」に分ける事は「切断」に該当します。(必ずしもその集合に属する「1点」で分けない場合も含みます。)

「切断」の定義

順序構造を持つ集合Mと、M のある要素 c について、次の条件を満たす部分集合AとBに分割する事を「Mのcにおける『切断』」と呼ぶ: $$①A\cup B=M\hspace{10pt}②A\cap B=\phi\hspace{10pt}③任意のa\in A,b\in Bに対してa<b $$

部分集合AとBの役割は入れ替えても同じです。
要するに、このような2つの部分集合を考えるという事を意味しています。

実数の「切断」に関する性質:(「完備性」)

\(\mathbb{R}\)のcにおける切断によってできる部分集合AとBにおいては次の事が必ず成立する: $$「Aの最大値」と「Bの最小値」のどちらかだけが存在し$$ $$「Aの最大値 と B の最小値も両方存在しない」という事は起こらない$$

★ 尚、どんな集合の切断でも「A の最大値と B の最小値も両方する」という事は起こりません。
これを仮定すると、矛盾が生じるためです。

有理数の場合、じつは有理数全体における「切断」を考えた時には、切断で作った部分集合AとBについて「A の最大値 と B の最小値も両方しない」という事が起こります。

これを見るには、例えば \(q^2<2\) と \(q^2>2\) を満たす2つの部分集合に有理数を分けます。これはじつはきちんと「切断」に該当するのです。ところが \(q^2=2\) を満たす有理数は存在しませんから、これらの部分集合に最大値も最小値も存在しないという事です。
それに対して、これが実数の切断であれば \(r^2=2\) を満たす \(r=\sqrt{2}\) が存在しますからどちらかの部分集合に最大値か最小値が存在できるわけです。

有界性と上界、下界、上限、下限

さて、次に実数の中の部分集合(具体的には数列や関数)に対する、極限に関連する用語で重要なものを見ていきます。
これらも、意味としては簡単です。
ただし、記号などでごちゃごちゃ書かれると分かりにくいですから、意味を理解する事が重要です。

定義:「有界」である事

実数の部分集合Aとその要素 a について、 Aが「上に有界である」事と「下に有界である」事を次のように定義します。

  • 上に有界である:
    \(任意のa\in A について a < c となる実数 c が存在する\)
  • 下に有界である:
    \(任意のa\in A について a > c となる実数 c が存在する\)

「上」「下」「有界」という語が入っていれば、多少の文章での使い方は変えてもよい習慣になっています。例えば「上に有界なので・・」のように使えます。
意味としては全く難しくなくて、例えば数列1/nは必ず0より大きいので「下に有界」です。また、nが自然数であれば最大値は1ですから「上にも有界」です。これが関数1/xでxが正の実数であれば、「下には有界」であるけれどx→0で無限大に発散するので「上には有界でない」事になります。

次に、上界と下界です。これらはそれぞれ、上に有界である集合、下に有界である集合について考えられます。要するに、数列や関数よりも「必ず大きくなる集合」と「必ず小さくなる」集合です。

定義:上界と下界

実数の部分集合が上または下に有界である時、
集合「上界」と「下界」を次のように定義します。

  • 上界:\(U={c|任意のa\in A について a ≦ c}\)
  • 下界:\(V={c|任意のa\in A について a ≧ c}\)

【{x|・・・}は、「・・・を満たすxから成る集合」の意味】
上界は「じょうかい」、下界は「かかい」と読みます。UとかVの記号は、何でも構いません。
数列1/nは0より大きい事によって下に有界であると言えるわけですが、-1よりも必ず大きいので下に有界であると言ってもよいのです。
そのような、必ず1/nより小さくなる実数の集合が1/nの下界であり、「0以下の全ての実数」という集合を指すわけです。

定義の説明としては最後に、上限と下限を見てみましょう。これらも意味としては簡単で、それぞれ「上界の最小値」「下界の最大値」という意味で使います。

定義:上限と下限

有界である実数の部分集合 A の上界 U と下界 V に対して、
上限(supremum)下限(infimum)を次のように定義します。

  • 上限:\(\sup A=\mathrm{min} U\)(Aの上界 U の最小値)
  • 下限:\(\inf A=\mathrm{Max} V\)(Aの上界 V の最小値)

上界または下界の要素は無限個ありますが、特にそれぞれの最小値と最大値に注目するわけです。対象となる集合が数列であれば、$$\sup A_n,\inf A_n といった表記もなされます。$$

さてここで、上界が存在するなら上限は必ず存在し、下界が存在するなら下限は必ず存在するという事実があります。特に名前はついていない定理ですが、重要なので述べておきましょう。

定理:上限と下限の存在

有界である実数の部分集合 A に対して、 上界 U と下界 V に対して、

  • A の上界Uが存在するならばAの上限:\(\sup A=\mathrm{min} U\)も存在する。
  • A の下界Vが存在するならばAの下限:\(\sup A=\mathrm{Max} V\)も存在する。

上界または下界の要素は無限個ありますが、特にそれぞれの最小値と最大値に注目するわけです。

上界と上限
下界と下限の関係なども同様です。
円周率や、自然対数の底 e はこの理屈によって、上限として「存在する」事が証明されます。
他方で、円周率が3.141・・である事や e = 2.718・・である事は、直接的に数列の値を計算したり、無限級数展開を利用したりして示す必要があります。

これは自明な事ではないので証明が一応必要です。実数の完備性を用いる事で確かに成立する事を示せます。参考までに、記しておきます。

証明:上界には最小値が存在し、下界には最大値が存在する

Aの上界Uと、実数のうちAの上界でない集合\(\bar{U}\)は実数全体の「切断」になっている事に注目します。
実数全体に対する切断なので、Uと\(\bar{U}\)のどちらか片方「だけ」に必ず最小値あるいは最大値が存在します。
しかし、上界の定義から、\(\bar{U}\) の任意の要素 c に対して、必ず c < a となるAの要素 a が存在します。【上界の定義の否定を考えるわけです。】
となると、そのような c と a の間には必ず別の実数が存在し、(例えば\(\frac{c+a}{2}\))、その実数は\(\bar{U}\) の要素です。これは、\(\bar{U}\) の任意の要素 \(c_1\) に対して、\(c_1<c_2\)となる別の要素 \(c_2\) が存在するという事なので、\(\bar{U}\) には最大値は存在しません。
よって、もうひとつのほうの「Uに最小値が存在する」事が真という事になるので、上界には必ず最小値・すなわち上限が存在します。【証明終り】
下界に対して下限が存在する事の証明も、全く同じ論法によります。

解析学の基本的な定理:有界な単調数列は収束列である

数列や関数が特定の極限において収束するのか発散するのかを調べて理論を形成する事が、解析学では行われます。その1つとして、「有界である単調数列は収束列である」という事実(「定理」)は重要ですので見ておきましょう。単調数列とは単調増加あるいは単調減少数列という事です。収束列とは、単純に「収束する数列」という意味です。この時、もちろん上に有界である数列が収束する条件(の1つ)は単調増加である事、という意味です。

円周率や自然対数の底といった重要な定数が極限値として存在する事の根拠は、この定理です。

証明の流れと概要 
定理の証明:上限あるいは下限が極限値となる事を示す 
具体的な「有界な単調数列」にはどんなものがある? 

証明の流れと概要

まず、証明の流れを見ておきましょう。有界には上に有界と下に有界である場合(あるいは両方)がありますから、それぞれの場合に分けます。

  • 上に有界である単調増加数列
  • 下に有界である単調減少数列

証明の方法は全く同じなので、片方だけ示せばもう片方も全く同じように証明できます。ここでは、上に有界な単調増加数列の場合を考えます。

  1. 数列が上に有界であるから、上限(最小の上界)が存在する事実を確認
  2. 上限を含む任意の(小さな)開区間\(U_{\epsilon}\)を考える
  3. 少なくとも1つ、数列の要素がその開区間内に含まれる事を示す
  4. 単調増加関数である条件を適用すると、数列の上限が極限値の定義を満たす事が分かるので、これが極限値であると判定。→ 証明完了

要するに、上に有界である場合は「上限」が必ず存在するわけですが、その上限が数列の極限値に(必ず)なる、という事です。その詳しい証明を次に見ましょう。これはそれほど難しい証明ではなく、事実関係や極限の定義を丁寧に整理すれば「確かにそうである」事が言えるというものです。

★ 尚、数列とは、厳密にはそれ自体は集合よりもむしろ関数として考えるべきもので、集合として考える時は「そのような関数の値からなる集合」を考える必要が本来はあります。そのような厳密な区分が重要である場合もあります。
しかし、それは表記として少々煩雑でもあるので、数列{\(A_n\)} における具体的な \(A_1, A_2 \) などをここでは「数列の要素」と記す事にします。

定理の証明:上限あるいは下限が極限値となる事を示す

まず、単調増加数列が上に有界である時、それがどんな数列であろうともn→∞で収束する事を証明しましょう。上に有界という条件ですから、まず無限大に発散はしない事は明らかですが、明確に「極限値」が存在するかどうかが曖昧なので明確にしようというわけです。

前述のように、上に有界であれば上限すなわち「上界の最小値」が必ず存在します。結論は、この上限が数列の極限値という事になります。

$$\sup A_n=c とおくと任意の自然数nに対してA_n<c$$

ここで、このページの最初のほうでも述べた、極限値の定義を考えましょう。この場合は、不等式も使ったほうが簡単です。任意の小さい正の実数εを考え、区間 \(U_\epsilon =( c -\epsilon ,\hspace{5pt}c ] \)を考えます。
【※c -ε 側は開区間、c側は閉区間という事です。(c -ε ,c + ε) を考えても別に構いません。ここでの場合は単純に、cより大きい範囲は考える必要はないというだけです。】

この時、区間 \(U_\epsilon =( c -\epsilon ,c ] \) 内に数列の要素が含まれないという事はあり得ないのです。なぜなら、もしそのような事が起こるなら任意の自然数nに対して \(A_n ≦ c -\epsilon\) という事になり\(c -\epsilon\)も上界の1つという事になりますが、cが「最小の」上界なのですからそれはあり得ない、という事です。
【ここの部分に関しては、そのように仮定すると矛盾するから、という背理法の論法でも同じです。】

すると、少なくともある1つのn=Nについて、 \(A_N\in U_\epsilon( c -\epsilon ,c ] \) という事は言えるわけです。
ここで、\(A_n\) は単調増加数列という条件であれば、
任意のn≧Nを満たす自然数について、 \(A_n\in U_\epsilon( c -\epsilon ,c ] \) という事になります。
【c は上界の1つですから、nをどれだけ大きくしてもcを超える事はありません。】

さて、これで一体何が言えたのかと言うと、
「cは\(A_n\) 極限値の定義の条件としてぴったり当てはまる」事が言えたのです。
つまり \(A_n\) はn→∞で極限値cを持つ事が証明された、という事になるのです。
【証明終り】

このように、定義や事実関係を丁寧に当てはめていく事でこの定理は証明されます。下に有界である単調減少数列も、全く同様に下限を極限値として持つ事を証明できます。

具体的な「有界な単調数列」にはどんなものがある?

では、有界な単調数列とは具体的にはどんなものがあるでしょう。抽象的には表せるけれども具体例が全く見つからない・・というのでは、純粋数学的にもあまり有意義とは言えません。具体的には、1/nなどのごく簡単な数列は下に有界で単調減少である数列の1つです。この他にも、有界な単調数列というのは少し考えれば具体的にたくさん見つかるのです。

問題はむしろ、特定の数列が「有界な単調数列」かどうかの判定が分かりにくい場合でしょう。

$$例えば、\left(1+\frac{1}{n}\right)^n \hspace{5pt}や \hspace{5pt} \sum_{j=1}^n\frac{1}{n}-\ln n \hspace{5pt} などの数列です。$$

これらは、見た目では有界なのかも単調数列なのかも、ちょっと分かりにくいですね。結論を言うとこれらはどちらも有界な単調数列であり、それぞれ極限値を持ち e(自然対数の底、ネピア定数), γ(ガンマ、オイラー定数) で表される事が普通です。

円周率も、特定の数列の極限値です。この場合、円に内接および外接する正n角形の周の長さを数列として表した時に有界な単調数列になります。半径が1の円の円周の長さが円周率の2倍になります。【極限値が存在する事が分かれば定数倍に関しては調整できるので、円周率に関してはそのように定義しておくという事です。】

実関数の場合の極限と連続の定義

最後に、変数が実数である一般の関数(実関数)の場合の極限の定義なども整理しておきます。数列の場合は、言わば「変数が自然数」であるわけです。変数が実数になる事で、極限の定義なども1つ2つ文言が増えますが、基本的な考え方は同じです。

関数の場合の極限の定義: ε-δ論法 ■ 関数が連続であることの定義 ■ 微分と関数の連続性の関係 

関数の場合の極限の定義: ε-δ論法

まず、極限値となる値を含む任意の開区間を考える点は、数列の時と全く同じです。異なるところは、数列の場合において「n≧Nとなる任意のnについて」の箇所で、これを関数の場合にはどうするかという事が、問題になります。これに対しては、変数を無限大にする時と、特定の値に近づける時とで2つ定義を設けます。(本質的な意味は同じです。)

  • 変数を無限大にする時の関数の極限:\(\lim_{x\to \infty}f(x)\)
  • 変数を有限の値に近づける時の関数の極限:\(\lim_{x\to a}f(x)\)

数列の場合はn=1が変数の最小値ですが、関数の場合は x → 0 の時の極限なども考える事ができる、という事です。

関数の極限の定義①:変数を無限大にする時

この場合は数列の極限と大体同じ考え方です。ある値を含む任意の(小さな)開区間に、ある値以上の任意の変数に対する関数の値が全て含まれる事を定義にします。 $$\lim_{x\to \infty}f(x)=c$$ $$\Leftrightarrow c を含む任意の開区間 U に対して、x ≧\delta ならばf(x)\in U となる実数\delta が存在する$$ この場合、無限大∞は正の方向の無限大であり、それを明確にする場合は +∞ とも書きます。実関数の場合、変数をマイナスのほうの無限大にした時の極限も考えます。考え方は同じです。 $$\lim_{x\to -\infty}f(x)=c$$ $$\Leftrightarrow c を含む任意の開区間 U に対して、x ≦\delta ならばf(x)\in U となる実数\delta が存在する$$ 数列の時と同様、「任意の開区間」の部分を(小さな)正の実数\(\epsilon\) を用いた不等式を使っても同じ事です。 $$\lim_{x\to a}f(x)=c$$ $$\Leftrightarrow 任意の正の実数\epsilon に対しx ≧\delta ならば|f(x)-c|<\epsilon となる実数\delta が存在する$$

関数の極限の定義②:変数を有限の値に近づける時 この場合、極限値cと、変数を近づける対象の値 a の両方に対して小さな開区間を考えます。 $$\lim_{x\to a}f(x)=c$$ $$\Leftrightarrow c を含む任意の開区間 U に対して、x \in V_{\delta} ならば f(x)\in U となる a を含む開区間V_{\delta} が存在する$$ 不等式で記す場合は、関数側と変数側で2つの正の実数\(\epsilonと\delta\) を用意します。 $$\lim_{x\to a}f(x)=c$$ $$\Leftrightarrow 任意の正の実数\epsilon に対し、「|x-a|<\delta ならば|f(x)-c|<\epsilon となる」正の実数\delta が存在する$$

特定の有限の値に変数を近づける場合、対象が変な関数だと変数を「a より大きい側から近づけた時」と「 a より小さい側から近づけた時」に、極限値が異なる場合があります。そのような事があるので、解析学で厳密な考察をする場合は両者の極限を区別し、両者が一致する場合にその極限での「極限値」が存在すると呼ぶ事にしています。

尚、もし「右極限」と「左極限」の値が異なる場合には上記の という条件は満たされないのです。

$$「c を含む任意の開区間 U に対して、x \in V_{\delta} ならば f(x)\in U となる a を含む開区間V_{\delta} が『存在できない』」$$

それは、a を含む開区間の中で a よりも「大きい側」と「小さい側」とで、関数が別々の \(c_1 と c_2\) という値を含む開区間に含まれる事になってしまうからです。
参考までに、右極限と左極限が存在するけれども異なる値になる場合は上記の関数の極限の定義に当てはまらず、「極限値が存在しない」判定になる事を、一応式でも記しておきましょう。

関数の「右極限」と「左極限」 $$①右極限:\lim_{x\to +a}f(x)=c_1$$ $$\Leftrightarrow c_1 を含む任意の開区間 U_1 に対して、x\in [a, a+\delta_1)ならばf(x)\in U_1となる正の実数\delta_1が存在する $$ $$②左極限:\lim_{x\to -a}f(x)=c_2$$ $$\Leftrightarrow c_2 を含む任意の開区間 U_2 に対して、x\in (a-\delta_2,a]ならばf(x)\in U_2となる正の実数\delta_2が存在する $$ $$\lim_{x\to +a}f(x)=\lim_{x\to -a}f(x)=cならば、cを含む任意の開区間Uに対して$$ $$x\in (a-\delta_2,a+\delta_1)ならばf(x)\in U となるので\lim_{x\to a}f(x)は存在する。$$ 逆に右極限と左極限が異なる値であれば、上記のような定義の意味での極限値は存在できないのです。
2つの開区間\(U_1とU_2\)が共通部分を持たないように区間の幅を小さく取った時、a を含む開区間をどのようにとっても\(x\in U_1\) になる部分と\(x\notin U_1\) となる部分に分かれてしまいます。

  • \(x\in U_1 になる部分:[a, a+\delta_1)\)
  • \(x\notin U_1 となる部分:(a-\delta_1,a]\)
$$よって、\lim_{x\to +a}f(x)≠\lim_{x\to -a}f(x)であれば、「\lim_{x\to a}f(x)が存在する要件を満たさない。」$$

関数が連続であることの定義

関数が連続である事の定義も、極限の定義の延長線上にあります。三角関数や指数関数などの初等関数は連続関数です。
連続性の厳密な数学的定義は、物理などへの数学の応用ではそれほど重要ではないと思います。ただし、数学の解析学・微積分学の中では重要な基礎理論になりますので、考え方だけは見ておきましょう。

関数が「連続」である事の定義

関数の定義域内の実数(の点) a において関数が連続であるとは、次の条件を満たす事を言います: $$f(a)=\lim_{x\to a}f(x)$$ これは、1次関数、2次関数、三角関数、指数関数・・などの初等関数を単独で考える場合は「当然」の事なので、それほど重要とは言えないかもしれません。
数学の理論上、多くの場合に問題となるのは、次のような変な関数です:

  • 例①:「\(x=0 のときf(x)=0,x≠0 の時 f(x)=\sqrt{|x|}\sin \frac{1}{x}\)」という f(x)
  • 例②:「\(x=0 のときf(x)=0,x≠0 の時 f(x)=\sin \frac{1}{x}\)」という f(x)
これらに関して、x=0 の連続性を考える時、じつは①は連続で、②は不連続(連続でない)なのです。
このように、初等関数での感覚で言う「つながっている」事が必ずしも不明確でない関数を考える場合には数学的な定義を決めておく事は重要にもなるのです。(こういった関数が物理などへの応用で使えるかどうかは、また別の問題になります。)

関数が連続であるかどうかという事は、関数自体の性質を探求する事以外に、微分の理論においても重要な位置付けにあります。ある点で微分可能であるかどうかと関数の連続性が深く関わるからです。

参考:定義域の完備性、関数の連続性と一様連続性

普通は、関数の定義域(変数が取り得る値の範囲)を、実数全体であるとか、特定の閉区間や開区間を想定します。このような定義域は、実数全体の性質と同じく、「完備性」を持っていると呼びます。上記の説明においても、それを前提にしています。
他方で、あくまで理論上の話ですが、定義域として「無理数全体」などという無茶苦茶なものを考える事も数学上は可能なのです。これは、数直線上で言うとボコボコの「穴だらけ」の定義域です。
しかし、そのような滅茶苦茶な定義域上の関数でも、適当な関数を用意すれば上記の連続性の定義に当てはめて「『定義域上の』任意の点で連続である」という判定になってしまう事が知られています。
例えば、次のような簡単な関数を考えればじつはじゅうぶんです。

  • x>0の時 f(x)=1
  • x<0の時 f(x)=0
  • 定義域は、無理数全体

事の本質は、じつのところ「本来は不連続点と言うべき点を、定義域から除外さえしてしまえば不連続な点はない事になる」・・というところにあります。
より簡単な例では、1/xという関数でx=0で不連続「のはず」ですが、そもそもx=0を定義域から除外しておけば「不連続点はない」という、おかしな事になるといったものです。
これを解消するためには、「一様連続」というものを定義します。一様連続性の定義は次のようなものです。 $$任意の正の実数\epsilon に対し、定義域内で|x-y|<\delta を満たす『任意の2点』x,y に対して$$ $$|f(x)-f(y)|<\epsilon となるような、正の実数\delta が存在する。$$ この一様連続性の考え方は、微積分の理論でも使用する事があります。

微分と関数の連続性の関係

さて、微分や積分も極限の一種です。ここでは、微分について考察してみましょう。初等関数の微分を考える時は、前述の厳密な極限の定義を考える事よりも、上手な式変形をして明らかに極限値が分かるようにする事のほうが重要である場合が多いです。

他方で、変な関数も含めた一般の関数を数学的に考える場合は、どのような場合に微分が可能で、どのような場合に微分が不可能なのか?といった事を明確にしておくことも、理論的な位置付けとして重要なのです。

結論を言うと、定義域内での特定の点での微分可能性と連続性については、次の関係があります:

  • ある点で微分可能ならば、連続でもある
  • ある点で連続であっても、微分不可能な場合がある

「連続であっても、微分不可能な場合」とはどういう事かと言いますと、一番簡単な例は f(x) = |x| という関数です。これは、グラフで見るとx=0の点で「尖っている」関数です。このように、ある点で必ずしも「なめらかでない」場合でも、つながっていれば「連続である」という判定になります。(もちろん厳密には上記の定義に当てはまるか、式を使って判定します。)

しかし、 f(x) = |x| のx=0における状況を見ると、微分係数とは「傾き」であったはずですが、x=0では傾き+1と-1のどちらを採用するのかという話になります。このような場合、その点では「微分不可能」という判定をするのです。そのため、「関数 f(x) = |x| はx=0 で連続であるが微分不可能である」という事です。尚、「x≠0の任意の点で、 関数 f(x) = |x| は『連続であり微分も可能』 」です。

連続である事と微分可能である事は密接に関係していますが、
全く同じ事ではないので注意が必要な事もあります。

前述の極限と連続性の定義から考えると、 f(x) = |x| の微分係数はx=0 において、

$$右極限\lim_{h\to +0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}と左極限 \lim_{h\to -0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h} は共に存在するが値は異なる$$

というパターンに該当します。
\(右極限\lim_{h\to +0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=+1, 左極限 \lim_{h\to -0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h} =-1\) で、異なる値というわけです。
そのため、極限値として厳密に定義に当てはめた場合、極限値としての微分係数も存在しない、という判定になります。

$$ f(x) = |x| の時、極限値としてのx=0での微分係数\lim_{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}は存在しない。 $$

つまり、直感的に考えて「傾きが一意的に定まらない」という事と、数学的に考えて極限値が存在しないという判定になる事は、一応調和しているわけです。

このような場合以外に、関数自体が無限大に発散する点においても、微分係数も無限大に発散し、微分不可能という判定にします。そのような点では、関数は「不連続かつ微分も不可能」という事になります。
尚、一応これは「微分可能ならば連続である」という事実の対偶命題を考える事により「不連続ならば微分不可能」と言う事もできます。不連続点では、どのような場合でも微分不可能というわけです。

今回お話した内容は、上記でも少し触れましたように、物理等への応用よりも、純粋数学的な内容の基礎事項という側面が強いです。ただし、有界な単調数列は収束列であるといった事は、円周率や自然対数の底といった重要な定数の極限値としての存在の根拠でもあり、これらの定数は物理や工学でも使用しますから、大まかな事は知っておいてよいのではないかと思います。

参考文献・参考資料


微分積分学〈1〉1変数の微分積分

極限値としての円周率の存在証明

円周率が極限値として存在する事は、同一円に対する内接正n角形と外接正n角形の周の長さのn→∞の時の極限値が存在する(両者は一致する)事によって証明します。

結論を言うと、証明の流れと発想自体は難しくないのですが、結構の計算などが一部結構面倒です。しかし省略せずに書いてるので適宜参照してください。

証明のステップ  ■ \(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) がともに存在する ■ \(\lim_{n_\to \infty}L_n=\lim_{n_\to \infty}R_n\) を示す 
3以上のどの自然数から始めても\(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) は同じ値に収束する 

より初歩的な流れと考え方は「円周率はなぜ3.14なの?」に動画付きで書いています。

動画声優担当ステ♪様 http://sute.tabigeinin.com/

★この動画では円周率の値が3.14……である事のおおまかな流れを初歩的な部分から解説しています。

証明のステップ

これは少々手間がかかりますが、詳しく述べておきます。まず、次のように設定をします。

  • 内接正n角形の周の長さ:\(L_n\)
  • 外接正n角形の周の長さ:\(R_n\) 
  • 円の半径:1とする(一般のrでやっても同じ結果になります。)

$$L_nの2n等分: \frac{L_n}{2n}=a_n \hspace{15pt} R_nの2n等分: \frac{R_n}{2n}=A_n $$

そのうえで、次の手順により証明を行います。

  1. 任意の3以上の自然数に対して \(L_n<L_{2n}<R_{2n}<R_n\) を示す。
    これは\(L_nとR_n\)が有界な単調数列である事、
    つまり\(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) がともに存在する事を示す事になります。
    式で示してもよいし、図形的にも示せます。
  2. \(\lim_{n_\to \infty}L_n=\lim_{n_\to \infty}R_n\) を示す。
    これは、図形的考察から\(L_nとR_n\)に関する次の2公式(アルキメデスの公式とも)により示します。 $$R_{2n}=\large{\frac{2L_nR_n}{L_n+R_n}}$$ $$L_{2n}=\sqrt{L_nR_{2n}}$$
  3. 3以上のどの自然数から始めても\(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) は同じ値に収束する事を示す。
    これは、n、2n、4n・・という形の数列であるために補足的に示すもので、通常のn=1,2,3,・・の形の数列であれば必要のない考察です。
    図形的考察から、2以上の任意の自然数mに対して \(L_n<L_{mn}およびR_{mn}<R_n\) である事を示し、それにより証明します。

① \(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) がともに存在する

これは、次のステップで見るアルキメデスの公式を用いてもよいのですが、
図形的に三角不等式でも示せますから、まず図を見てみましょう。
上記でも触れましたようにnに対して2nを考える事で作図と計算が容易になります。
これに対して、nの次にn+1を考えると作図が非常に難しく、関係も複雑になってしまい非常に計算しにくくなってしまうのです。

この方法で作図した時、内接のほうに関しては、正n角形と正2n角形とで共有する点はありますが共有する辺はありません。
他方、外接のほうは、 正n角形と正2n角形とで 共有する点はありませんが部分的に共有する辺があります。

図を見ると(正6角形と正12角形の例ですが)、内接のほうは、正2n角形の2辺と正n角形の1辺からなる三角形に着目します。すると三角不等式によって\(L_n<L_{2n}\) が直ちに示されます。

外接のほうは、少し込み入るのですが、まず、図では次のように作図しています。

  1. 内接正n角形と内接正2n角形を、図の左側のように作図しておく
  2. 内接正n角形(正2n角形でもOK)の頂点での円の接線を引く。
  3. 接線同士をつなぎあわせてると、外接正n角形になる。
  4. 外接正n角形の各頂点から円の中心に向かって直線を引き、円との交点での接線を引く。
  5. 手順2と手順4で引いた接線を全て結び合わせると、 外接正2n角形になる。

この時、外接正n角形と外接正2n角形は共有する辺を持ちますが、共有しない部分もあります。その共有しない部分について三角不等式を適用すると、外接正2n角形の周の長さは、必ず外接正n角形の周の長さより小さい事になります。
よって、\(R_{2n}<R_n\) が示されます。

さらに、外接のほうの作図方法をよく見ると、内接正n角形の周の長さは外接正2n角形の周の長さよりも必ず短い事が分かります。(図形的に正確に言うと、相似な三角形の対応する辺同士になるので。)
よって、\(L_{n}<R_n\) です。
これは、任意の3以上の自然数で成立しますから、\(L_{2n}<R_{2n}\) でもあります。
すると、\(L_n<L_{2n}\) かつ \(L_{2n}<R_ {2n} \) より、\(L_n<L_{2n}<R_{2n}\) であり、
さらに \(R_{2n}<R_n\) でもあるのですから \(L_n<L_{2n}<R_{2n}<R_n\) が示されます。

よって、(解析学の基礎的な定理の証明は必要ですが、)次の事が示された事になります:

  • \(L_n\) は 単調増加数列で上に有界であり\(\lim_{n_\to \infty}L_n\) は収束し、従って存在する。
  • \(R_n\) は 単調減少数列で上に有界であり\(\lim_{n_\to \infty}R_n\) は収束し、従って存在する。

② \(\lim_{n_\to \infty}L_n=\lim_{n_\to \infty}R_n\) を示す。

さて、このようにして \(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) が収束する事が示されましたが、これだけだとじつは「同じ値に収束する」かは、分かりません。
別々の値に収束する可能性も否定できないのです。もしも、別々の値に収束するとすれば、一体どちらを正式な円周として採用すべきか、理論がぐちゃぐちゃになってしまいますね。
しかし実際は、両者は同じ値です。それを示します。

これを示すには、多少の手間はかかりますが \(L_nとR_n\)の関係を、図形的考察から強引に導出する方法が確実です。証明の中ではここが一番面倒くさいかもしれませんが、必要なのは平面幾何の基本知識だけです。

周の長さの2n等分\(\frac{L_n}{2n}=a_n と \frac{R_n}{2n}=A_n\) は、ここで使います。
また、導出のポイントとして重要なのが、
「内接正n角形の隣り合う2点の中点と円の中心との距離」で、これを\(p_n\) とします。
図で言うと\(OP=p_n,\hspace{5pt}OH_1=p_{2n}\) です。

まず最初のステップとして、次の2式が得られます。三平方の定理から

  • 内接正多角形で作られる三角形の相似から\(\frac{A_n}{a_n}=\frac{1}{p_n}\Leftrightarrow A_n=\frac{a_n}{p_n}\)
    また、これにより(または同様の考察により) \(A_{2n}=\frac{a_{2n}}{p_{2n}}\)
  • 単純に三平方の定理により、\(a_n^2+p_n^2=1^2 \Leftrightarrow p_n^2=1-a_n^2\)

次のステップとして、図の三角形OABに着目した2式を得る事を考えます。片方は、同一面積を2つの辺と高さで表して得る式です。もう片方は、少々トリッキーですが図の\(OH_2\)の長さを2通りの方法で表す事によって得ます。

  • 同一三角形の面積を2通りの方法で表す事により、\(a_{2n}p_{2n}=a_n\)
  • \(H_1 が AB の中点、H_3がBH_2 の中点\) である事により\(OH_3=p_n+\frac{1-p_n}{2}=\frac{1+p_n}{2}\)、
    三角形の相似により \(OH_3=p_n^2\) となるので\(p_n^2=\frac{1+p_n}{2}\)\(\)

以上の式をまとめると、

  • \(A_n=\frac{a_n}{p_n}\hspace{10pt}A_{2n}=\frac{a_{2n}}{p_{2n}}\hspace{10pt}p_n^2=1-a_n^2\)
  • \(a_{2n}p_{2n}=a_n\hspace{10pt}p_n^2=\frac{1+p_n}{2}\)

これらを組み合わせると次の関係式が得られます。ちょっとだけ、計算の工夫は必要です。

$$A_{2n}=\frac{a_{2n}}{p_{2n}}=\frac{ a_{2n} p_{2n} }{ p_{2n} ^2}= =\frac{ 2a_{2n} p_{2n} }{ 1+p_{n} }=\frac{a_n}{ 1+p_{n} } = \frac{A_np_n}{ 1+p_{n} } =\frac{a_n}{A_n}\frac{A_n}{1+\frac{a_n}{A_n}}=\frac{a_nA_n}{a_n+A_n} $$

$$また、4a_{2n}^2=4\frac{a_n^2}{4p_{2n}^2}=\frac{2a_n^2}{1+p_n}=2a_n\frac{A_np_n}{1+p_n}=2a_nA_{2n} ∴ 2a_{2n}=\sqrt{2 a_nA_{2n} }$$

まとめると、次の2式になります。

$$ A_{2n}= \frac{a_nA_n}{a_n+A_n} \hspace{10pt} 2a_{2n}=\sqrt{2 a_nA_{2n} } $$

ここで、\(L_n=2na_n,R_n=2nA_n\) でしたから、整理すると次のように、目的の公式が得られます。

$$ L_{2n}= \frac{2L_nR_n}{L_n+R_n} \hspace{10pt} L_{2n}=\sqrt{ L_nR_{2n} } $$

これらのうちどちらを用いてもよいのですが、平方根のほうを使ってみましょう。
\(\lim_{n_\to \infty}L_n=\alpha,\hspace{5pt}\lim_{n_\to \infty}R_n=\beta\) とします。(収束する事は示しているので、このようにおいてよいわけです。)

$$すると、\alpha=\sqrt{\alpha \beta} ですから、\alpha^2= \alpha \beta \Leftrightarrow \alpha(\alpha – \beta)=0 $$

$$\alpha>0 ですから、\alpha=\beta ∴\lim_{n_\to \infty}L_n=\lim_{n_\to \infty}R_n$$

④ 3以上のどの自然数から始めても\(\lim_{n_\to \infty}L_nと\lim_{n_\to \infty}R_n\) は同じ値に収束する

さて、これでもう「証明終り。円周率は2つの数列の同じ極限値として確かに存在する」・・でも構わないのですが(一般にはそうしてます)、もう少し考察をしてみましょう。上記で示したのは、例えば正6角形から始めて、12,24,48,96・・とした場合に極限値が確かに存在し、正5角形から始めた場合は10,20,40,80,・・とした場合に、やはり確かに極限値が存在するという事です。

では、それらは確かに一致するでしょうか?

上記の証明ではnに対して2nを考えましたが、
じつはこれはnに対して3nでも4nを考えてもよいのです。

外接のほうは、2倍の角数を考えた時と同じく、内接正多角形を基準にして作図を考えると多少分かり易いです。

実際は任意の自然数mを使ってnに対する内接・外接正(mn)角形を用いる事で、上記同様の極限値の存在の証明ができます。(内接・外接ごとの極限値の存在まででじゅうぶんです。)

図形的に考えてみて、三角不等式の組み合わせか、適切に区切って傾きによる線分の長さを比較します。
それによって、\(L_n<L_{mn}<R_{mn}<R_n \) となる事が分かります。
つまり、上記では\(L_n<L_{2n}<R_{2n}<R_n \) を証明したわけですが、
同様に \(L_n<L_{3n}<R_{3n}<R_n \), \(L_n<L_{4n}<R_{4n}<R_n \),・・も成立するという事です。

さて、すると、例えば5と7で始めた場合で、5からの場合は7倍の角数、7の場合は5倍の角数を考えてみましょう。
それぞれ\(L_5,L_{35},L_{245},\cdots\) \(L_7,L_{35},L_{165},\cdots\) のような数列になります。
ここで、\(L_{35}\) から始めた場合も同様に収束するわけで、c に収束するとします。

ここで、\(\lim_{n\to \infty}L_{35n}=c\) とは、cを中心としたどんな小さい開区間にも、あるn以上の値の\(L_{35n}\) は全て含まれる事を意味します。【極限値は、解析学的にはそのように定義します。】
ここでそのようなあるn以上の、35 の倍数の中には、\(L_{5}やL_{7}\) から始まったものも含まれています。これらの数列が全て単調増加数列である事に注意すると、結局、そのあるn以上の値では、\(L_{5n},L_{7n},L_{35n}\) は全てcを中心とした同じ開区間内に含まれる事になります。これは、これらが同じ極限値 c を持つ事を意味します。

つまり、どんな(3以上の)自然数 n,m から始まろうとも、極限値は nm で始めた時と同じであるわけです。さらに別の自然数 N から始まるものを考えても nmN から始めた時と同じ値に収束するわけですから、結局どの番号から始めても、内接、外接の場合ともそれぞれ同じ値に収束する事を意味します。

また、同じ自然数から始まって倍にする数を変えたとしても、同じ考え方によって同じ値に収束する事になります。今、2倍にしていく場合は、内接と外接とで極限値が一致する事は証明済です。

これによって、内接正多角形と外接正多角形は n→∞ にした時に、確かに1つの極限値に収束すると言えます。これは、半径1の円に対して言えたわけですが、半径がrの場合は、三角形の相似により、周の長さはr倍になりますから極限値は半径が1の時の円周のr倍になります。 ですので、半径1の円の円周の長さを何かの定数の記号でおくのです。
結論を言うとこの定数を\(2\pi\) とおき、半径1つまり直径が2の円の円周の長さは\(2\pi\)であるとします。半径がrの場合は\(2\pi r\) となり、これは直径と円周率の積と言う事もできるわけです。

★ 3.14という値は?

上記の極限値としての円周率の存在証明では、円周率の値が具体的にいくらかという話が全く出てきていません。

しかし、このページの最初の概要で触れましたように、具体的な内接正n角形の周の長さについて、n=6の場合はぴったり「直径×3」、n=12の場合は「直径×約3.1058」となり、内接の場合はn=96(外接の場合はn=48)で3.14までの値は確定します。 【手計算でやる場合は、具体的な三角関数の値を半角の公式・マクローリン展開等で出すか表を見るなどして計算します。値が細かいので、結構面倒です。】

3.14以降の円周率の小数点の計算は、具体的に周の長さを計算する方法だとかなり大変なので、果てしなく小数点を出すような場合は何らかの「円周率を直接記述する公式」(基本的に無限級数)を用いて、しかもコンピューターに計算をやらせる事になります。

それらの「公式」は、円の面積を使う場合や、三角関数や逆三角関数(の微積分)をもとに作られている事が多いです。公式の種類によって、小数点計算が速い・遅いなどの特徴があります。マチン型の公式と呼ばれるものは計算が速く、逆にライプニッツ級数は収束が遅くて小数点計算には不向きです。