グリーンの公式【複素関数論】

ここでは複素関数論におけるグリーンの公式と呼ばれる式について説明します。
同じ名前の公式はいくつもあって大変紛らわしいのですが、ここでは複素関数論の、複素数の積分に関して成立する関係式について述べます。

この公式は、複素関数論で重要なコーシーの積分定理を証明するのに必要です。

複素数の定義と基本事項については別途に詳しくまとめています。

グリーンの公式とは?

公式の内容 ■ 公式の別の表記法 ■ 複素関数論の中での位置付け 

公式の内容

複素関数論におけるグリーンの公式とは、次の複素数の積分に関する関係式を言います。

グリーンの公式 $$\int_C f(z)dz=\int\int_D\left(i\frac{\partial}{\partial x}-\frac{\partial}{\partial y}\right)f(x,y)dxdy$$ $$z=x+iy,\hspace{5pt}C:閉曲線,\hspace{5pt}D:閉曲線Cで囲まれる領域$$

$$ここで、\left(i\frac{\partial}{\partial x}-\frac{\partial}{\partial y}\right)f(x,y)=\left(i\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}-\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\right)\hspace{5pt}の事です。$$

また、ここでのxやyでの偏微分は、
これらの変数を「独立変数であるように見なした時の」偏微分の計算を指します。

そのように言うのは、ここでは積分の経路として閉曲線を指定しますから、xとyは独立変数ではなく従属関係にあるからです。(例えばy=2xなど。これについてはこのページの後半でも再度触れます。 )

ただし、ここでの偏微分で表される計算は、通常の独立多変数に対する偏微分の時と同じく、「yを固定してxだけで微分操作をする」という意味である・・という事です。

グリーンの公式【複素関数論】1
グリーンの公式とコーシーの積分定理は、複素関数論の積分の理論の中でも重要な箇所の1つですが、いかんせん、少々分かりにくいところでもあるかと思います。
この結果自体が得られると、その後の理論はしばらくの間は割と難しい理屈が少なく進んでいくところがあります。

公式の別の表記法

全く同じ公式を、別の表記で表す事もあります。

これは、形式的には「複素変数zで偏微分する」形で表されますが、じつはこれは普通の意味での偏微分ではなく、複素関数論において特別に定義される記号です。

定義

z=x+iyの時、記号を次のように定義します:

$$\frac{\partial}{\partial \bar{z}}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x}+i\frac{\partial}{\partial y}\right)$$ $$\frac{\partial}{\partial z}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x}-i\frac{\partial}{\partial y}\right)$$

この記号を使うと、上記のグリーンの公式は次のように書けます。

グリーンの公式の別の表記法 $$\int_C f(z)dz=2i\int\int_D\frac{\partial}{\partial \bar{z}}f(x,y)dxdy$$ $$z=x+iy,\hspace{5pt}C:閉曲線,\hspace{5pt}D:閉曲線Cで囲まれる領域$$

どちらの表記法でも問題ないですが、記号の定義を知らないと、「共役複素数で偏微分って何の事・・??」と、思ってしまうかもしれませんね。その記号は、あくまで定義によって特別に意味が約束されているものです。

複素関数論の中での位置付け

冒頭で少し触れていますが複素関数論の複素数の積分論の中で、「コーシーの積分定理」というものがあります。これは、正則関数を閉曲線に沿って定積分すると必ず0になるというもので、これをもとに種々の複素数の積分の理論は組み立てられています。

それで、その積分定理は自明な事かというと、そうではありません。その定理の証明のためにグリーンの公式が使用されます。

ですから複素関数論におけるグリーンの公式とは、言ってみれば理論上重要な定理の「補題」的な位置付けにあると言えると思います。

もちろん、必要があれば他の用途に使う事もできます。また、考え方自体は多変数関数の線積分や、ベクトル解析に共通するところがあるのでそれらの分野にも考え方を適用できます。

グリーンの公式の証明

証明のポイント ■ 積分経路と媒介変数 ■ 証明の計算 

証明のポイント

積分の経路として「閉曲線」考えている事と、定積分を行う場合には複素数の実部と虚部に分けて考えてよい事がポイントです。

公式の内容を見ると、曲線上の積分を領域内の重積分で表せるという事であるわけですが、ある関数はその導関数の定積分として上手く表せる事を利用します。この考え方はベクトル解析での定理の一部を示す時にも使用されます。

導関数をうまく使う $$\int_a^b\frac{df}{dx}dx=f(b)-f(a)$$

考え方はシンプルで、微積分学の基本定理をうまく使います。

定積分を考える時には項が2つ出てきてしまいますが、閉曲線を考えている事がポイントで、上手い具合に閉曲線の「上部分」「下部分」等の2つの部分に分けて必要な項を作れるのです。この時、後述しますがxとyによる積分それぞれについてそれらを考えるので、少なくとも4つの経路を考え、最後に合算します。

証明の後半では重積分の結果は積分変数の順序によらない事も使用します。

積分経路と媒介変数

dz=dx+idy において、閉曲線Cを指定する場合はxとyに従属関係があって、
1つの媒介変数tで表す事ができます。

$$x=x(t),\hspace{5pt}y=y(t)$$

複素数の積分と積分経路
積分経路が指定されているという事は、例えばy=3x などの何らかの関係があるという事です。
(より一般的には閉曲線ならg(x,y)=0が成立。例えば円や楕円。)
積分する時にはxとyを別々に考える事ができるのであまり気にしなくてもよいのですが、 補足的に、述べておきます。

そこで、微分についても z=z(x,y) に対して次の関係があるわけです:

$$dz=\frac{\partial z}{\partial x}\frac{dx}{dt}dt+ \frac{\partial z}{\partial y}\frac{dy}{dt}dt $$

ここで、x、yによる偏微分は
「あたかも独立変数であるように、1つの変数のみで微分する」操作の意味です。

tによる微分の部分は、媒介変数が1つだけですので、
偏微分として書かなくてもよく通常の微分になります。

さて、となると、z=x+iy ですから、

$$ \frac{\partial z}{\partial x} =1,\hspace{10pt} \frac{\partial z}{\partial y} =i $$

となるので結局、

$$dz=\frac{dx}{dt}dt+ i\frac{dy}{dt}dt $$

という事になり、tで定積分を行う場合には1変数の合成関数の積分公式がそのまま使えて、結局xとyのそれぞれで積分して加えればよいという事です。

合成関数の積分公式を使える。 $$\int_U^Wf(z)dz=\int_{T1}^{T2}f(z)\frac{dz}{dt}dt=\int_{T1}^{T2}f(x,y)\frac{dx}{dt}dt+ \int_{T1}^{T2}if(x,y)\frac{dy}{dt}dt $$ $$=\int_{X1}^{X2}f(x,y)dx+\int_{Y1}^{Y2}f(x,y)dy$$

定積分においては、積分変数以外の変数は定数扱いで計算するとします。

もともとdz=dx+idyなので最初から積分する時には定積分を2つの部分の和にできると考えてもよいのですが、ここでは積分経路上でyとxには従属関係がある点に注意して説明をしておきました。

証明の計算

【グリーンの公式の証明】

さて、閉曲線上を経路として定積分する時にxとyに分けて定積分すればよいわけですが、ここでさらに、積分経路もxとyの各々について2つ以上に分けます。少なくとも4つの定積分を考える事がポイントです。

まずxについて。
閉曲線を切断するような、yが一定の直線分と、平面図上で閉曲線の上側の部分と下側の部分を考えます。この時、直線分に対して必ず上下に閉曲線の一部が対になって存在するようにします。このような閉曲線の分割を最低でも1つ行い、ものによっては2つ以上行います。

グリーンの公式【複素関数論】2
直線状の補助線(図の Cx 等)は、なくても証明できます。
ただし、ここでは分かりやすくするために入れています。

ここで、f(z)=f(x,y)=f(x+iy) である事に注意します。まず「直線状の線分と閉曲線の下側の経路」(必ずしもつながってなくてもいい)で構成されるxによる定積分を、ぐるりと反時計周りに1周するように考えます。

$$\int_{C1}f(z)dx-\int_{CX}f(z)dx=\int_{X1}^{X2}f(x+iy)dx- \int_{X1}^{X2}f(x+iY_1)dx $$

$$=\int_{X1}^{X2} \left( – \int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx = -\int_{X1}^{X2} \left(\int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

分割に使う直線分が2つ以上の場合も同様に定積分を考えておきます。

関数f(x,y)=f(x+iy) を、積分変数のみに着目した意味での(偏)導関数を定積分したものと考えるわけです。(プライスマイナスの符号に注意。)この考え方はベクトル解析などでも使います。

次に、 「直線分と閉曲線の上側の経路」で構成されるxによる定積分を、反時計周りに1周するように考えます。この時、直線部分は上記と同じものを共有してますが、積分の方向が逆です。曲線部分も積分の方向が逆なので符号が変わる点がポイントです。

$$-\int_{C2}f(z)dx+\int_{CX}f(z)dx=-\int_{X1}^{X2}f(x+iy)dx+\int_{X1}^{X2}f(x+iY_1)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \left( \int_{Y1}^{Y(x)}\frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

さきほどとは曲線が別のものになるので、y = y(x) ではなく y = Y(x) という形に書いて区別しています。

ここで、上記の2つのxについての「反時計回り」の定積分を加え合わせると、

$$\left( \int_{C1}f(z)dx-\int_{CX}f(z)dx \right)+ \left( -\int_{C2}f(z)dx+\int_{CX}f(z)dx \right) = \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \left( \int_ {y(x)}^{Y1} \frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx -\int_{X1}^{X2} \left( \int_{Y1}^{Y(x)}\frac{\partial}{ \partial y}f(x+iy)dy\right)dx $$

$$= -\int_{X1}^{X2} \int_{y(x)}^{Y1} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy- \int_{X1}^{X2} \int_{Y1}^{Y(x)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy $$

$$ =-\int_{X1}^{X2} \int_{y(x)}^{Y(x)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial y}dxdy=-\int\int_D \frac{\partial f(x,y) }{ \partial y}dxdy $$

このように、もとの関数を(1つの変数以外は固定する意味で)偏微分したものの領域内に渡って重積分したものになるわけです。結果的にマイナス符号がついたのは「反時計回り」を考えた事に由来し、仮に「時計回り」を考えるならこの符号は逆になりプラスになります。xが変数の場合、右から左と、左から右に積分する場合では符号は逆になります。

上記のように重積分の形になると、それを「領域全体にわたって行う積分」とみなせます。

重積分についての補足
【重積分】通常の2変数の重積分は「体積」を計算する事に使ったりします。 複素関数の場合には体積を計算しているわけではありませんが、行っている計算と考え方は同じです。

分割が2つ以上の場合でも、定積分を全て加え合わせて閉曲線が全てつながるようにします。(補助的に考えている直線状の線分の部分は、分割がいくつであっても全てプラスマイナスが打ち消し合って定積分の合計は0になります。)

今度は、yについての定積分についても同じ事をやります。途中の計算は全く同じなので少々省きますが、次のようになるのです。

$$\left( \int_{C3}f(z)dy-\int_{CY}f(z)dy \right)+ \left( -\int_{C4}f(z)dy+\int_{CY}f(z)dy \right) = \int_{C3}f(z)dy -\int_{C4}f(z)dy $$

$$ =\int_{Ya}^{Yb} \int_{x(y)}^{X(y)} \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial x}dxdy=\int\int_D \frac{\partial f(x+iy) }{ \partial x}dxdy $$

yのほうには i を添えたうえで、得られた結果を合わせると次のようになります。

$$ \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx + i\int_{C3}f(z)dy -i\int_{C4}f(z)dy $$

$$= \int\int_D \left( – \frac{\partial }{ \partial y} +i\frac{\partial }{ \partial x} \right) f(x+iy) dxdy= \int\int_D \left( i\frac{\partial }{ \partial x} – \frac{\partial }{ \partial y} \right) f(x,y) dxdy $$

分割した部分がxとyについて合わせて4つを超える場合でも同じで、全て加え合わせます。

再びdz=dx+ i dyに戻ると、閉曲線C上で反時計周りに定積分を行う場合は次のようになります。

$$\int_Cf(z)dz=\int_Cf(x,y)dx+i\int_Cf(x,y)dy$$

$$= \int_{C1}f(z)dx -\int_{C2}f(z)dx + i\int_{C3}f(z)dy -i\int_{C4}f(z)dy $$

分割の部分が多い場合も同様です。もとの閉曲線の曲線部分が全て入るようにします。

xについては、左→右:+符号 右→左:逆で-符号
yについては下→上:+符号 上→下:-符号 として部分ごとに定積分を対応させます。

これによって、結局公式の通りの関係式が成立する事になります。

$$ \int_Cf(z)dz=\int_Cf(x,y)dx+i\int_Cf(x,y)dy = \int\int_D \left( i\frac{\partial }{ \partial x} – \frac{\partial }{ \partial y} \right) f(x,y) dxdy 【証明終り】$$

参考:長方形による近似を使う証明の方法

参考までに、積分経路として小さな「長方形」を考えて、これの合計として任意の閉曲線を経路とする時も成立するという証明の仕方もあります。

こちらの考え方だと、長方形ですので最初からxのみ、yのみという考え方が使えて、積分の計算がらくです。積分の方向を反時計回りという事で決めておけば、ぴったり隣り合う長方形同士の接する辺同士は積分が打ち消し合って周囲だけの分が経路として残るというわけです。

ただしこの方法の場合、じつは経路自体の形が「長方形 → 任意の(滑らかな)閉曲線」に移行する段階の時の話が少し面倒です。実際、円のような曲線を多角形で近似するような事は珍しくありませんが、「長方形」で近似するという事は、他の数学の分野ではあまり多くやらない事かと思います。一般の多くの複素関数論の教科書では、この詳細をあまり書きたがらない傾向があるように思います。

本質的には上記で述べた証明方法と比べて、やる事はそんなに変わりません。

グリーンの公式【複素関数論】3
長方形の経路を組み合わせて証明する方法もあります。

前述の通り、複素関数論におけるグリーンの公式は、コーシーの積分定理に結びつく事で、さらなる積分の理論を組み立てる事に使われていきます。

複素数の微分【複素関数論】

このページでは複素数微分について述べます。
大学数学では複素関数論(あるいは単に「関数論」)と呼ばれる領域です。

数学上の理論でも応用でも重要なのはむしろ複素数の「積分」のほうですが、面倒なのも積分のほうです。

まず基本的な考え方として微分のほうをここでは説明します。

複素数の微分・・実数の時と何が違う?

まず、具体的な初等関数を微分するレベルにおいては実数の時とほとんど同じです。

定義域が複素数の初等関数の微分・・実数の時とほぼ同じ
テイラー展開・マクローリン展開も同様に可能
複素関数論に特有の議論はあるの? 

複素関数の微分
複素関数論(複素数の微積分)・・実数の時と同じように考えてよいところと、
別の数学的考察が必要になる部分のポイントをこのページでは説明します。

定義域が複素数の初等関数の微分・・実数の時とほぼ同じ

複素数を定義域 (変数の範囲)および値域(関数の値の範囲) に持つ関数を複素関数といます。複素関数の微積分を扱う数学の領域を複素関数論(あるいは略して「関数論」)とも言います。複素関数に対して、通常の実数の範囲の関数を「実関数」と呼ぶ事もあります。慣習で、複素関数の変数は x ではなく z で表す事が多いです。ただし、定義域が複素数範囲である事を明示すれば本質的に何の文字を使おうが間違いではありません。

結論を先に言うと、初等関数の定義域を複素数に拡張したものを微分してできる導関数は、定義域が実数の時と同じです。

複素関数の微分公式【実関数と同じ】

初等関数に関しては、実関数の時と同じ形の次の公式が成立します。 $$\frac{d}{dz}z^r=rz^{r-1}$$ $$\frac{d}{dz}e^z=e^z$$ $$\frac{d}{dz}\cos z =-\sin z$$ $$\frac{d}{dz}\sin z = \cos z$$ $$f(z)g(z)=\frac{df}{dz}g(z)+\frac{dg}{dz}f(z)$$ その他、実関数に関する公式は大体そのまま成立します。
また、微分の記号も全く同じものを使用します。

★じつのところ、理論として高校数学から直ちに飛びつけない部分は、例えば指数関数や三角関数の場合に「複素数が変数の時にはどういう値をとるのか・・?」という事です。
例えば、cos(2i) などは、ちょっと何の値になるのか(何の値にすべきなのか)分かりませんね。
これについては「複素数の指数関数表示」が大いに関わります。このページでは、個々の関数の定義域の拡張方法についてはとりあえず置いておき、複素関数の微分の全体像について解説します。

テイラー展開・マクローリン展開も同様に可能

初等関数に対して微分が実関数の時と同じ演算で可能という事は、高階微分も同じ計算になるはずで、実際そうなります。そして、初等関数の定義域を複素数に拡張した時も、実関数の時と同様にテイラー展開やマクローリン展開が可能なのです。

例えば、定義域が複素数であっても、三角関数や自然対数の底の指数関数は次のようにマクローリン展開ができます。

$$\sin z=z-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}-\cdots$$

$$e^z=1+z+\frac{z^2}{2}+\frac{z^3}{3!}+\cdots$$

※解析学的に、極限の事を厳密に考えていくと実関数との違いは考察として必要になります。その基礎の1つについては後述します。

複素関数論に特有の議論はあるの?

さてこれらの「結論」を見ると、結局複素数の微分というのは定義域を複素数にまで伸ばせばいいだけの話で、数学的にあまり考察する意味はないのでは・・?と、思われるかもしれません。

とりわけ、数学の応用を考える場合はそう思うかもしれませんね。

そこで次に、複素関数の微分において、実関数と違う考察が必要な点を次に述べましょう。これは、複素数の積分のほうを考える時に必要な知識の1つにもなります。

具体的には偏微分を使った考察を行う事になります。実数関数の場合には2変数以上を扱う時に限り偏微分についての考察も必要だったわけですが、複素数を扱う時にはx+yiという形で常に2変数扱うとみなす事もできるので、偏微分も(および全微分も)初歩的な段階から考察対象になるのです。

ただし前述のように、常に2変数と偏微分等を考えないといけないという事ではありません。複素数zを1かたまりとみて1つの変数扱いにできる場合も確かにあるわけです。そこの使い分けが、確かに実数関数の場合と比べて少しトリッキーです。

複素関数の微分の数学的な考え方の詳細

まず微分以前の話として、複素関数というものは実部と虚部という2つの実数部分から、別の複素数の実部と虚部ができるという多変数の関数の一種として考える必要が本来はあります。その考え方をもとに、複素数の微分を改めて捉えてみましょう。

複素関数の実部と虚部はともに2変数関数
複素関数で成立する偏微分の公式(コーシー・リーマンの式)
「正則」という考え方 

複素関数の実部と虚部はともに2変数関数

ある複素数 z = a + bi を2乗するという関数を考えてみると、

$$z^2=(a+bi)^2=a^2-b^2+2abi$$

ここで、結果の式の実部を u、虚部の実数部分を v とすると、u は a と b の関数、v も a と b の関数になります。まず、この考え方が重要です。

つまり、一般の複素関数については次のように考えます。

$$z=x+yi\hspace{3pt}に対して \hspace{3pt}F(z)=u(x,y)+iv(x,y)$$

もとの複素数が変数の時、それが2つの実変数から構成されていて、それらから2つの別の2変数関数が構成されて新しい複素数を作るというわけです。

複素関数
この図で、x と y は変数、u と v は関数(実関数)です。
u, v ともに、x と y による2変数関数 u(x,y) , v(x,y) になります。
z は複素数(変数)、F(z) は「複素関数」です。

多変数関数(ここでは必ず2変数ですが)が出てくるところが、
次に述べる複素関数論での偏微分の使用との大きな関わりがあります。

複素関数で成立する偏微分の公式(コーシー・リーマンの式)

実関数の場合の微分のもともとの考え方は、dy = (dy/dx)dx という、近似の「一次式」を新たに設定する事でした。では、これが複素関数の時はどうなるでしょう?

次のように考えます。

まず、導関数および微分係数も複素数で表されると考える事が重要です。

$$\frac{dF}{dz} =\alpha +i\beta \hspace{10pt}【\alpha と\beta は実数(関数)】$$

$$z = x + iy ,\hspace{5pt} dz = dx + idy, \hspace{5pt} F(z) = u + iv $$

$$dF=\frac{dF}{dz}dz=( \alpha +i\beta ) ( dx + idy) =(\alpha dx -\beta dy)+i(\beta dx + \alpha dy)$$

計算は、複素数の四則演算をしているだけです。実部と虚部に分けます。

次に、

$$F = u +i v = u(x,y) + i v(x,y) に対して dF = du + i dv$$

であるとすると、du と dv は次のようになるわけです:

$$du = \alpha dx -\beta dy,\hspace{10pt} dv =\beta dx + \alpha dy $$

さてここで、dF に対する du と dv は「全微分」でも表せるものとして定義します。(そういうものとして「複素関数の微分」を考えようという事です。)すると、

$$du=\frac{\partial u}{\partial x}dx+\frac {\partial u}{\partial y}dy,\hspace{10pt} dv=\frac{\partial v}{\partial x}dx+\frac {\partial v}{\partial y}dy $$

とも表せるわけです。これを見ると、\(\alpha\) と \(\beta\) は、2通りの方法で表せるはずであり、

$$ \alpha= \frac{\partial u}{\partial x} =\frac {\partial v}{\partial y} ,\hspace{10pt} \beta=-\frac {\partial u}{\partial y} = \frac{\partial v}{\partial x} $$

この偏微分に関する関係が、複素関数の微分における特徴的な性質になります。

複素関数の微分で特徴的な公式

$$ \frac{\partial u}{\partial x} = \frac {\partial v}{\partial y} ,\hspace{10pt} -\frac {\partial u}{\partial y} = \frac{\partial v}{\partial x} $$ この関係式を「コーシー・リーマンの式」と言う事もあります。
名前よりも数学上重要な事は、複素関数が「微分可能」であるとは、
これら2つの偏微分に関する等式がともに成立するという事なのです。(必要十分条件です。)

コーシー・リーマンの関係式の導出
最終的には、図の dx , dy ごとの係数(関数ですが)を比較してコーシー・リーマンの関係式を導出しています。

尚、特に積分のほうで考え方として重要なのですが、どういった「経路」に沿って微積分をするのかという事も複素関数論では考えます。
その経路とは、例えば直線であるとか円であるとかいったもので、z = x + iy において、x と y の関数で表す事ができます。(例えば直線なら y = 2x など。)
そのような場合には、x と y は完全な独立関係にある変数ではなく、従属関係になります
従ってその場合には、媒介変数tを使って x = x(t) , y = y(t) を考える事ができます。そうなると、x と y を変数とする2変数関数 u(x,y) と v(x,y) はもとの変数を tとした合成関数と考える事ができます。
そのように考えると、上記のように複素関数の微分において全微分の考え方を使って定義をする事の意味も多少分かりやすくなるかと思います。

この偏微分に関する「コーシー・リーマンの関係式」は複素関数の積分のほうでむしろ重要になる事があり、例えば複素関数についてのコーシーの積分定理を導出する際に必要になります。

「正則」という考え方

上記の偏微分に関して成立する公式の他に、複素関数の微積分では「正則」という考え方も重要になります。これは、微積分をする対象の関数に1つの条件を課す事であり、基本的に複素関数論はその条件をつけた範囲内で理論を組み立てる事が多いです。

dz = dx + idy を考える時に、じつはある点を基準に考えた時に x と y をどのように動かすのかという問題があります。じつのところ、複素関数論では「どの方向に動かしたとしても」極限が一致する事を「微分可能」であると呼びます。(初等関数の微分ではその要件を満たします。)

$$\lim_{h\to 0}\frac{F(z+h)-F(z)}{h}\left(= \lim_{dz\to 0}\frac{F(z+dz)-F(z)}{dz} \right)$$

によって微分による導関数を定義するのは実関数の時と同じですが、「hの部分も複素数」であるところがじつはポイントであるわけです。

これらの事を踏まえたうえで、「1つの点を含む領域の任意の点」で微分可能な(小さな)領域が存在する時、その複素関数はその点で「正則」であると呼びます。また、複素関数が正則である領域においてはその関数は「正則関数」であると呼ばれます。数学の複素関数論の中では、多くの場合に微積分の対象をこの正則関数に限定する事で理論を組み立てているので、用語としては重要です。

文章の表現としては定義の仕方はいくつかあるのですが、ここではその1つを記します:

複素関数論での「正則関数」の定義
  • ある複素関数 F(z) と、ある点 z = z0 について、z0 を含むある領域で、「その領域内の任意の点で微分可能であるような」ものが存在する時、F(z) は点 z0 において正則であると呼ぶ。
  • ある領域の任意の点で F(z) が正則である時、その領域内で F(z) は「正則である」あるいは「正則関数である」などと言う。

参考文献・参考資料


基礎系 数学 複素関数論I (東京大学工学教程)

変分の計算

物理の理論では、微分とは少し意味合いが異なる変分という計算が行われる事があります。

変分とは?例①:光の屈折

汎関数という考え方 ■ 2点間を進むための最小時間と光の屈折 ■ 変分の記号と計算 

汎関数という考え方

ある関数 y = F(x) があった時、それをグラフに描いたとして、グラフの「弧長」sを決定する事ができます。この弧長sは、もちろん関数によって異なります。2端点が決まっている場合、 y = F(x) が どのような関数であるかに依存してsが決まるわけで、s=s(y) という関数であると考える事もできるわけです。このようなタイプの関数を汎関数と言います。

関数は通常F(x) などのように書きますが、汎関数である事を強調する場合には F[y] のように書かれる場合もあります。

2点間を進むための最小時間と光の屈折

通常の空間(ユークリッド空間)で2点を結ぶ最短距離は、2点間を結ぶ直線の距離です。同じ速さの物体を考える時にも、2点間を進むときの最短の時間となるのは直線軌道を通る時です。

しかし、領域によって速さが変わってしまう場合などは、じつは最短の時間となるのは直線軌道ではなく、折れ曲がったような経路になってしまいます。

どのような折れ線になるのかという問題自体は、普通の微分法で解く事ができます。ただし直交座標の平面を設定して軌道を関数と捉えた場合は関数形が変化して最短距離が決定すると見なせる事が重要で、それが変分の基本的な考え方であるというわけです。

光の屈折は、この問題の結果として表されると考えられています。
【※相対性理論で光線の軌道が曲がるという考え方は、これとはまた少し違った理論なので注意。】

変分の記号と計算

変分を表す時には、δ(デルタ)という記号を使います。これは、微分を表すためにdという記号を使うのと区別する意味があります。

ある汎関数I[y] があった時、 その変分 δ I[y] は、
δ I[y] = I[y+δy]-I[y] で表されます。
(この定義の仕方で考えられた変分を、特に「第1変分」とも言います。)
δy は様々な形の任意の(微小な)関数です。

変分の定義(「第1変分」)

汎関数 \(I[y]\) に対して $$δ I[y] = I[y+δy]-I[y]$$ \(\delta y\) は様々な形の任意の(微小な)関数。

変分の定義から、例えば2つの汎関数の和ついては
δ( I[y]+J[y] ) = ( I[y+δy]+J[y+δy] ) - ( I[y]+J[y] )= I[y+δy]-I[y] + ( J[y+δy]-J[y] )=δI+δJ
が成立します。差についても同様です。

これらの定義や考え方は、もともとの意味での「微分」がdF(x)=F(x+dx)-F(x) で表される事と似ています。

ただし、微分の場合のdxが(小さい)実数であるのに対して、変分の場合の δy は様々な形の任意の(微小な)関数であり、yと全然違う形の関数も含めて考えているという点が異なります。その意味で、変分と微分は違うものである事は強調されるのです。

一度計算を始めて変化させる関数yを通常の実変数として動かすとみなしてよい状態に持ち込んだ時には微分計算と同じ事ができるという特徴があります。ただし、通常の1変数の微分ではなく、基本的には多変数関数の偏微分を含んだ全微分の計算になる点に注意する必要があります。

例②:解析力学 定積分に対する変分計算

問題の設定 ■ 計算の詳細 ■ オイラー・ラグランジュ方程式 

問題の設定

汎関数 I[y] が、次の形

$$I[y]=\int_a^bF(x,y,y^{\prime})dx$$

$$条件:端点 x=a, x=b でyについての変分\delta y=0$$

で表される場合を考えます。y は x の関数であるとします。

積分などがあるといかにも話が複雑になりそうですが、じつは「部分積分」を使って式を簡単にするなど、計算上の利点も一部存在します。

このとき、I[y]の変分 δI[y] は次のように計算します。

計算の詳細

まず定義に従って、 \( δ I[y] = I[y+δy]-I[y]\) ですが、この先がまず第一のポイントで、積分の中身の \(F( x,y,y^{\prime}) )\) については、xは動かさずに、yだけ変化すると考えます。さらに、この時にyの導関数は 「δy に対する導関数」の分だけ増減、つまり (δy)’ だけ増減します。

$$ δ I[y] = I[y+δy]-I[y] = \int_a^b F(x,y+\delta y,y^{\prime}+\delta y^{\prime} ) -F(x,y,y^{\prime})dx $$

続いて、yを通常の実数変数同様に扱えると考えて、積分の中身を全微分と同様に扱えるとみなします。この場合、xは動かしていませんのでdxに相当する項は0になります。

$$ F(x,y+\delta y,y^{\prime}+(\delta y)^{\prime} ) -F(x,y,y^{\prime}) =\delta y \frac{\partial F}{\partial y}+ (\delta y)^{\prime} \frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } $$

$$ δ I[y] = \int_a^b \delta y\frac{\partial F}{\partial y}+ (\delta y)^{\prime} \frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx= \int_a^b \delta y \frac{\partial F}{\partial y}dx + \int_a^b (\delta y)^{\prime} \frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx $$

次に、yの導関数に対する変分の項について、xに関して部分積分を行います。

$$(\delta y)’ =\frac{d}{dx}(\delta y)$$ 

の箇所に対して部分積分を適用するという事です。
【このような事ができるのはδyが「関数」であるからという事には一応注意。】

$$2番目の項について: \int_a^b (\delta y)^{\prime} \frac{\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx =\left[ \delta y \frac{\partial F}{\partial y ^{\prime} } \right]_a^b- \int_a^b \delta y \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx =\hspace{5pt} – \int_a^b \delta y \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx $$

$$ 【∵\hspace{5pt}x=a,x=b で\delta y=0 という前提条件】$$

端点でδyが0になるという条件をつけているので部分積分した後の第1項は0になって消えます。この条件は、要するに端点は固定して関数形を変化させるという意味です。

これにより、δIを改めて書くと次のようになります。

$$\delta I = \int_a^b \delta y \frac{\partial F}{\partial y}dx – \int_a^b \delta y \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} } dx $$

$$= \int_a^b \delta y\left(\frac{\partial F}{\partial y} – \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime} }\right) dx $$

さて、物理で使う場合は「ここまで変形できればじゅうぶん」という考え方をします。

オイラー・ラグランジュ方程式

上記の条件での汎関数 I[y] に対する変分 δI[y] が0になる条件を考えると、積分の中身の

$$ \frac{\partial F}{\partial y} – \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime}} $$

という部分が0であればよい事が分かります。(δyは「任意の」(微小な)関数である事に少し注意。)

そこで、

$$ \frac{\partial F}{\partial y} – \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime}} =0$$

という形の微分方程式が成立すればよいという事ですが、これは解析力学では座標系によらずこの形で使用できる運動方程式の形として知られていて、少し長ったらしい名称ですが「オイラー・ラグランジュ方程式」あるいは「オイラーの微分方程式」などとも呼ばれます。

通常のF=ma の形の運動方程式はシンプルな形ではありますが、じつは直線直交座標を特別扱いしていて、座標系を例えば極座標に変換しただけで結構面倒で汚い形にと変わってしまいます。

これに対して上記の形の運動方程式は任意の座標系に対してこの形のまま話を進められるという事で、理論的な扱いとしては便利である場合があります。

例③:相対性理論、リーマン幾何学

一般相対性理論、リーマン幾何学で変分を使う例もあります。

1つの例は「測地線」という、曲面上の2点を「曲面に沿って最短経路で」結ぶ曲線に対して成立する式の導出です。この場合、弧長に相当する次の形の汎関数を考えます。

$$ \int_a^b \sqrt{\sum_{i,j=0}^3g_{ij}\frac{dx_i}{dr}\frac{dx_j}{dr}}dr $$

これを直接変分して計算を進めたものを0とおくか、
あるいは積分の中身の関数を上記で得られた微分方程式

$$ \frac{\partial F}{\partial y} – \frac{d}{dx}\frac {\partial F}{\partial y ^{\prime}} =0$$

に代入して計算を進めるかで、結論の式を得ます。どちらの場合も、最初一般の媒介変数rで計算しておいて、途中でrがsに比例するかr=sとおいて式を簡単にする工夫が行われます。

偏微分の応用の例:位置エネルギーと保存力の関係

合成関数に関する偏微分の公式の物理での使用例を、ここでは1つ述べます。

★ このページではベクトル解析で使用する「勾配」という考え方を使用します。
これは、多変数関数(多変数のスカラー関数)に対する偏微分によって表されるものです。

参考(サイト内リンク):接線線積分の定義と考え方

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

先に結論の式を書きますと、力が「保存力」である場合に、位置エネルギーのxでの偏微分をx成分、yでの偏微分をy成分、zでの偏微分をz成分に持つベクトルは、保存力の力ベクトルに等しいという関係式があります。【※保存力で無い場合は成立しませんので注意。】

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

まず、「位置エネルギー」(あるいはポテンシャルエネルギー)U(x,y,z) を次のように定義します。これはベクトルでは無く、スカラー関数です。 $$\large U(x,y,z)=-\int_{\overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}}\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot d\overrightarrow{r}$$ $$\large \mathrm{grad} U(x,y,z)=\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y},\frac{\partial U}{\partial z}\right)$$ 力ベクトル F(x,y,z) が保存力である場合、次式が成立します:$$\large -\mathrm{grad} U(x,y,z)=\overrightarrow{F}(x,y,z) $$

★ プラスマイナスの符号の関係が、ちょっとごちゃごちゃするので注意。

「勾配」grad (または∇「ナブラ」)については、詳しくはベクトル解析という分野で説明されます。

この関係式は、古典力学の理論としては仕事とエネルギーの関係の話の延長線上にあります。

これは要するに数学的には、
接線線積分の形の多変数関数の勾配ベクトルは、もとのベクトル関数と同じ形になる」
という事を言っています。通常の不定積分(あるいは積分区間に変数が入った定積分)は、通常の微分を考える事で元の関数に戻るという「微積分学の基本定理」がありました。それと似た形の式という事になります。

この関係式の証明のポイントは、合成関数の偏微分公式です。
ベクトルの内積の計算も直接的に関わります。

\(-\mathrm{gradU(x,y,z)}= \overrightarrow{F}(x,y,z)\) の証明

まず通常の微積分学の基本定理を用いたうえで、ベクトルの内積と合成関数の偏微分の公式をうまくかみ合わせます。

位置座標は全て「物体の位置」であるとして、位置座標に対応する時間成分tを考えます。
力ベクトルの成分についても同様に tの関数であると考えます。

$$\large \overrightarrow{F}(t)=(F_X(t),F_Y(t),F_Z(t))$$

$$\large 点\overrightarrow{R} での時刻をt、点\overrightarrow{R_O} での時刻を t_O とします。$$

最初のステップ $$\large -U(x,y,z)=\int_{ \overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot d\overrightarrow{r}=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$ $$\large =\int_{t_O}^{t}F_X(\tau) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y(\tau) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z(\tau) \frac{dz}{d \tau } d \tau $$ $$★ 時間についての積分変数の表記はt → \tau (タウ)に変えています。$$

Uの定義(力学での定義です)にマイナス符号があるので、
ここでは最初から「-U」を考えて、積分での表記をプラス符号で考えています。

★ 後述しますが、力が「保存力」であるという条件がないと、じつはまずこの式変形ができません。なぜかというと一般の接線線積分は、2つの端点だけでなく、その2点を結ぶ経路によって値が変わってしまうからです。力が保存力であるという条件は、この値が経路によらず一定の値であるとしてよいという条件です。

★ 古典力学の理論の中では、もともとは一般の力に対して時間で表したほうの式が先にあって、次に「保存力」という位置座標のみで決定するものを考えます。

★ 積分区間にベクトルが入っている部分は、次の意味になります。 $$\large \int_{ \overrightarrow{R_O} }^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot{d\overrightarrow{r}} $$ $$\large =\int_{x_O}^{x}F_X(x,y,z)dx+ \int_{y_O}^{y}F_Y(x,y,z)dy+ \int_{z_O}^{z}F_Z(x,y,z)dz $$ $$\large \overrightarrow {F}=(F_X,F_Y,F_Z),\hspace{10pt}\overrightarrow{R_O}=(x_O,y_O,z_O),\hspace{10pt}\overrightarrow{R}=(x,y,z)$$ dx の部分は x に関してだけ積分し、yやzは定数同様に扱います。つまり、偏微分と同じような考え方をするわけです。この場合の微積分学の基本定理は、積分と「偏微分」との関係になります。

次に、時間成分tで U(x,y,z) = U(x(t), y(t), z(t)) を微分します。
内積計算で3つの項の和にした部分は共通の積分変数tでの積分になっているので、通常の微積分学の基本定理がそのまま使えます。

この時、積分する対象として $$\large F_X(t) \frac{dx}{dt}$$ を1つの関数と捉える事がポイントです。
積分中の表記では$$\large {F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau}}$$ にしています。

成立する式:その①

$$\large\frac{dU}{dt}= \frac{d}{dt}\left(\int_{t_O}^{t}F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y( \tau ) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z( \tau ) \frac{dz}{d \tau } d \tau \right)$$

$$\large = F_X(t) \frac{dx}{dt} + F_Y(t) \frac{dy}{dt} + F_Z(t) \frac{dz}{dt}=\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

他方で、合成関数の偏微分公式を使うと U の時間微分の計算を別途に表現できるのです。
この場合、多変数 x、y、z が1つだけの変数tの合成関数になっているという事なので、表記としては$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}です。$$

ただし、もとの関数が U(x,y,z) という多変数関数なので、偏微分のほうの合成関数の微分公式を使う点に注意しましょう。

成立する式:その②

$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}= \frac{\partial U}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial t}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial t} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{\partial z}{\partial t} $$ $$\large = \frac{\partial U}{\partial x} \frac{dx}{dt}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{dy}{dt} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{dz}{dt} =(\mathrm{gradU})\cdot \left( \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt}\right) $$

最後の結果は「Uの勾配ベクトル」と「速度ベクトル」との内積です。
内積はスカラーであり、勾配はスカラー関数をベクトルの関数変換する演算である事を意識すると分かりやすいと思います。

同じものを2通りの数式で表せる事になるので、等号で結ぶ事ができます。
これによって、次の関係式が成立する事になります。

$$\large – \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

$$これは、\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} という関係になっています。 $$

これが証明の根拠になるわけですが、数学的には
\(\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} \) から直ちに\(\overrightarrow{A}= \overrightarrow{B}\) とは言えない事には注意しましょう。
そうならない場合もあるのです。
しかし、この場合は \(\overrightarrow {R}\) が特定の座標点では無くて「任意の座標点」です
特定の点だけではなく、どんな座標の点を考えたとしてもこの関係式は成り立つ、という意味です。
ですから、\(\overrightarrow {R}\) に対して内積をとると等しい値になる2つのベクトル\(– \overrightarrow{F}(x,y,z)と\mathrm{gradU(x,y,z)}\) は、全く同じ関数でなければならないのです。

$$ つまり 、- \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} かつ 「\overrightarrow {R} は任意の(実)ベクトル」なので、$$

$$-\overrightarrow{F}(x,y,z)=\mathrm{gradU}(x,y,z)\Leftrightarrow -\mathrm{gradU}(x,y,z)= \overrightarrow{F}(x,y,z) という事です。【証明終り】$$

「保存力」の物理的な意味

保存力とは力がなす仕事が経路に依存せず、始点と終点の位置だけに依存する力を言います。これは結構強い条件が課されている事になりますが、万有引力、重力(地表面での万有引力を近似したもの)、ばねの力、クーロン力などは保存力になるので、物理の理論の中では結構使い物になります。

逆に、保存力でない力の簡単な例は摩擦力などです。

一般の力ベクトルに対しては、少しだけ上述でも触れましたが、
次の形の時間変数による積分が先にあります。

$$\large T(t)-T(t_O)=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$

ここで、1変数の通常の積分であれば積分変数をtからxに変換できます。

しかし、この場合は「接線線積分」なので、経路は1通りでは無く様々なものがあるのです。

経路によって値が異なりますから、同じ値の定積分になるという意味での積分変数の変換は無条件にはできない・・という事です。

ベクトルに対する一般の接線線積分の場合、値が始点と終点だけでは決定しないので次のように表記します:

$$一般の接線線積分の表記:\int_C \overrightarrow {F} \cdot d \overrightarrow {r}\hspace{10pt}Cは特定の関数で表される経路 $$

ここで、経路によらず「経路の始点と終点だけをしていれば値が定まる」という条件をつけると、もちろん数学的な扱いは簡単になります。
そのような条件がつけられた種類の力が保存力であり、上記のように具体的に当てはまる力も存在するというわけです。

保存力がなす仕事の値(仕事量)は始点と終点の位置だけで決まります。これを「位置エネルギー」あるいは「ポテンシャルエネルギー」などと呼びます。
これは運動エネルギーに対する用語です。位置エネルギーと運動エネルギーの合計を、力学的エネルギーと呼びます。
尚、保存力ではない摩擦力などの力に対しては、位置エネルギーは考えないのです。

これを数学的に取り扱った場合、上述いたしましたように、合成関数に対する偏微分の公式などが重要な役割を担っているというわけです。

微積分学の基本定理の理論

このページでは、高校で教わる範囲の積分公式についての、
やや理論的な一般的性質と式表現の一部について詳しく説明します。
(英:微積分学の基本定理 fundamental theorem of calculus)

積分は微分の逆演算という関係

■ ここでは、合わせて原始関数についての説明も続けてしています。

微積分学の基本定理

微積分学の基本定理の数式表現

「微分操作の逆演算は積分操作」というのが微積分学の基本定理の内容です。表現の方法はいくつかありますが、てきとうな定数を c として$$\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)$$という表現をするのが、1つの形です。(※変数の表記方法に注意してください。関数としての変数は、あくまで x です。)「ある関数の積分を微分すると元の関数」という事実の表現という事です。$$\int_c^xf(t)dt$$ という表現は、「定積分で積分区間の片方の端の値を変数と考えた場合」の事を言っているのですが、
分かりにくい場合、$$S(x)=\int_c^xf(t)d$$ とおくと、少し見やすくなるかもしれません。
積分区間の片方の端の値 a は固定して、右側の値をずずずっと変化させると「面積」の値も変わります。変化させる「右側の端の値」を変数 x として、面積である定積分を関数 S(x) として考えているわけです。

後述する「不定積分」の形で微積分学の基本定理を表す事もできます。
その場合の表記は、$$\frac{d}{dx}\int f(x)dx=f(x)$$ です。
微積分学の基本定理の証明(このページ内リンク)・・考え方としては、かなり平易です。

原始関数

「原始関数」とは?

\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\) とおく時、微積分学の基本定理は\(\frac{d}{dx}S(x)=f(x)\)とも書けて、
S(x) は「微分すると f(x) になる関数」と見る事もできます。

このように\(\frac{d}{dx}G(x)=f(x)\)を満たす G(x) を f(x) の「原始関数」と言い、
\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\)は、f(x)の「原始関数の『1つ』」です。
この時、任意の定数 C を用いて S(x) + C もf(x)の原始関数なのです。(※定数を微分しても0なので。)
この任意の定数 C は「任意定数」「積分定数」などと呼ばれます。

定積分は原始関数で表せる

さて、この\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\)に具体的な値 x = a, b を代入する事を考えます。
\(S(a)=\int_c^af(x)dx,\hspace{10pt}S(b)=\int_c^bf(x)dx\) であるわけですが、
(※積分区間に変数 x を含んでいないので dt ではなくdx 表記にしています。また、積分区間の端点が定数であれば、定積分は x の関数ではなく、あくまで何らかの「定数」になる事にも注意が必要です。)

積分する方向と符号との関係、および積分区間の合算の事を考えますと、$${\small S(b)-S(a)=\int_c^bf(x)dx-\int_c^af(x)dx=\int_c^bf(x)dx+\int_a^cf(x)dx=\int_a^cf(x)dx+\int_c^bf(x)dx}=\int_a^bf(x)dx$$
となり、[a, b] 上で関数を積分する定積分が 「S(b)-S(a)」で表される事を意味するのです。(c というてきとうな定数は、中間点にあるものと考えて、定積分の値には影響しないというわけです。)

そして微積分学の基本定理によれば、S(x) は「f(x) の原始関数(の1つ)」
です。
原始関数同士の引き算を考える場合、(S(b) + C) – (S(a) + C) = S(b)-S(a) となり任意定数は必ず消える事に注意すると、

[a, b] 上で f(x) を積分して得られる定積分は、
原始関数(=微分するとf(x)になる関数) S(x) を用いて次のように表せます:
$$\int_a^bf(x)dx=S(b)-S(a)$$
そして、このS(b)-S(a)の事を通常、次のように書くのです。
$$S(b)-S(a)=\left[S(x)\right]_a^b $$

この記号を用いると、
$$定積分は\int_a^bf(x)dx=\left[S(x)\right]_a^b と表されます。$$
この表現方法が、数学の理論でも物理でも、通常用いられる定積分の計算になります。この意味で、面積としての積分の考え方も重要なのですが、同じく重要なのが「微分と関連付けされた積分演算」というわけです。

積分の変数を dx ではなく dt などに変えるのはどんな場合?

上記の微積分学の基本定理の形では、積分区間(積分する閉区間)に x という変数が入っていて、その x を微分をしています。このような時、f(x)dx については数学では一般的に、f(t)dt などのように、文字を変える決まりになっています。

物理の本などでは「\(\int_a^x f(x)dx\)」のような表記がしてある事もありますが、一応数学的にはあまり良くないので、このサイトでは一般的な数学の決まりに従って積分区間に変数がある時は\(\int_a^x f(t)dt\)のように記します。(記号として t を用いると「時間」と紛らわしい場合は、適宜ギリシャ文字の τ で代用するなどして対応します。)

導関数(関数の微分)を積分すると?・・もとの関数に戻る!

微積分学の基本定理を、ある関数の導関数(ある関数の微分)に適用すると、
「微分したものを積分すると元の関数になる」事が言えるので、微分と積分の関係がより明確になるかと思います。この関係は、微分方程式論で重要です。

$$\frac{d}{dx}\int_c^xf^{\prime}(t)dt=f^{\prime}(x)\hspace{10pt}しかしf^{\prime}(x) の原始関数は f(x) + C に他ならないので $$
$$\int_c^xf^{\prime}(t)dt=f(x) + C$$

微分方程式論においては、任意定数 C というオマケを、任意ではなく「特定の」値に決定するための処理をします。
これは、例えば具体的な f(0) = 0 などと言った値が(1つでも)決まれば C の値も決まるので、積分操作によって関数が1つにきちんと定まるというものです。


原始関数の例

例えば、sin x の原始関数は – cos x + C です。定数を微分するとゼロになるので、原始関数としては任意の定数として積分定数がオマケとしてくっついてくるわけです。cos x の微分は -sin x なので、「マイナス符号を消す」ために -cos x を考えている事に注意してください。

また、\(x^2\) の原始関数は、\(\frac{1}{3}x^3+C\) です。
3次の単項式を微分すると2次の単項式にはなりますが、3 という係数もくっついてくるので、それを「消す」ために 1/3 が原始関数としては必要になるわけです。
このへんが、微分と比べて積分の計算が面倒な点ですが、微分の公式さえあればパズル感覚でも行けるのではないかとも、思います。

微積分学の基本定理から、原始関数を使って定積分を計算する手順
  1. f(x)の原始関数を、任意定数に関しては何でもいいから探す。普通は、任意定数がゼロのものを考えます。(それが一番簡単なため。)
    例:\(e^x の原始関数で加える定数を0としたものは e^x\)
  2. 積分する閉区間の端点を代入し、大きい値を代入したものから小さい値を代入したものを引きます。
    例えば e の指数関数を x = 0 から 1 まで積分すると、次のようになるのです。
    \(\int_0^1e^xdx=\left[e^x\right]_0^1=e^1-e^0=e-1 (=1.718・・)\)

「不定積分」とは?・・任意定数が含まれる形の積分

定積分に対して、「不定積分」という言葉も微積分学ではよく使われますので、少し説明いたします。
「不定」という表現には、ある関数の原始関数は
「制限をかけなければ任意定数がおまけとして必ずくっついてくるので『1つには定まらない』」
・・という事と、大いに関係があります。

不定積分

この「不定積分」という用語の数式としての定義は人によって少し違う事もあるので、2つ述べておきます。意味するものは、どちらも大体同じです。

「不定積分」の表し方①・・原始関数全体

まず1つの表し方は、ある関数の原始関数全体を「不定積分」と呼ぶものです。
つまり、何か適当な原始関数 F(x) と、それに任意定数 C を加えたものを不定積分と呼び、次の記号で表します。
$$関数 f(x) の「不定積分」\hspace{10pt}\int f(x)dx=F(x)+C$$
記号としては、定積分の「区間を表す部分」を取り去った記号を使います。
(確かに、原始関数という観点からは、具体的な積分区間については形式的なものであり、明記する意味がそれほどないのも事実かもしれません。)
このサイトでは、特に理由が無い場合は不定積分と言ったらこちらの意味で使わせていただきます。

この不定積分の表記を用いて微積分学の基本定理を表現する事もできます。
F(x)+C を微分すれば f(x) ですから、同じ意味の数式を表せます。
$$不定積分を用いた「微積分学の基本定理」\hspace{10pt}\frac{d}{dx}\int f(x)dx=f(x)$$

「不定積分」の表し方②・・積分で表された原始関数の1つ

他方で、微積分学の基本定理\(\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)\)で用いられている、
\(\int_c^xf(t)dt\)の事を「不定積分」と呼ぶ場合もあります。
この場合は、不定積分とはあくまで、f(x)の「原始関数の1つ」という位置付けになります。また、積分区間に変数を含まない定積分が何らかの「定数」であるのに対して、不定積分は「x の関数」である事が、この後者の表現では明確になるという指摘もできます。
どちらを「不定積分」と呼んでも、他の理論にはそれほど影響はないと思われます。
※この後者のほうの表現は、これを不定積分と呼ぶか呼ばないかに関わらず微積分の理論でよく使用します。

定積分の公式・・置換積分と部分積分

定積分に関しての公式で、大学数学や物理でも知っておくと便利なのは3つほどに厳選できるかと思います。その他、符号や積分区間に関する定積分の基本的な規則などについても合わせてこの表でまとめておきます。

知っておくと便利な公式の1つは、前述の微積分学の基本定理です(不定積分の公式としても表せます)。
2つ目は置換積分の公式で、これは合成関数の微分に関係する積分公式です。
3つ目は部分積分という公式で、こちらは積の微分公式に関係します(これも、不定積分版の公式があります)。
つまり、これらの公式はいずれも微分とつながっています。

定積分の公式 公式の内容 証明・導出法の概略
置換積分 \(x=x(u), a=x(p), b=x(q)の時、\)
\({\large\int_a^b f(x) dx=\int_p^q f(u) \frac{dx}{du}du}\)
合成関数の微分をもとに示します。詳細
部分積分 \({\large\int_a^b f^{\prime}g dx=[fg]_a^b-\int_a^b fg^{\prime}dx}\)
※不定積分として、次のようにも書けます:
\({\large\int f^{\prime}g dx=fg-\int fg^{\prime}dx}\)
積の微分公式を変形して示します。詳細
積分区間の合成 \({\large\int_a^bf(x)dx+\int_b^cf(x)dx=\int_a^cf(x)dx}\) これらは、定積分の定義から分かります。
定積分と面積の関係から、図で理解してもよいと思います。
積分する方向と
定積分の符号
\({\large\int_a^bf(x)dx=-\int_b^af(x)dx}\)
1点だけの区間
の定積分は0
\({\large\int_a^af(x)dx=0}\)
定積分の線形性
(定数倍など)
\(c を定数とすると {\large\int_a^b(cf(x))dx=c\int_a^bf(x) dx}\)

\({\large\int_a^b(f(x)+g(x))dx=\int_a^bf(x) dx + \int_a^bg(x) dx}\)
微積分学の基本定理 \({\large\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)}\)
※不定積分として、次のようにも書けます:
\({\large\frac{d}{dx}\int f(t)dt=f(x)}\)
積分の定義から、
S(x+h) = S(x) + S(h) となる事を使い、微分の定義式に当てはめます。詳細

置換積分は、例えば直交座標上で表された関数を「極座標」で表して積分したい時に使います。 例えば、x = cosθ と変換して積分も行う場合です。この時、次の2点を忘れないようにしないと、積分の結果が変になるので注意が必要です。

  • 変換した変数での微分:\(\frac{dx}{d\theta}=\frac{d}{d\theta}\cos \theta =-\sin \theta\)
  • 積分区間の端点の変換:例えば x について [0, 1] で積分するなら、θ については\(\left[\frac{\pi}{2}, 0\right]\)で積分
    ※一見積分する区間が変になるようですが、この区間での積分で正しい結果が出るのです。

部分積分は、原始関数が分かりにくい関数について適用します。
例えば、ln x の原始関数は、微分の公式集を見ると見当たりません。(※このページの前半の「積の微分公式」のところに記載があります。)
そこで、ln x に「『1次の単項式 x の微分(=1)』が隠された形で掛けられている」・・と見て、部分積分を適用すると、うまく積分ができるのです。
$$\int \ln x dx= \int (x)^{\prime}\ln x dx=x\ln x – \int x(\ln x)^{\prime}dx=x\ln x – \int x\frac{1}{x}^{\prime}dx=x\ln x – \int 1 dx=x\ln x – x + C$$
また物理では、無限遠(じゅうぶん遠くと見なせる範囲)で関数がゼロになるときに、部分積分を利用した式変形を行う時があります。その場合は、原始関数を知りたいわけではなくて利用しやすいように式の形を変える事に利用しているわけです。

不定積分と原始関数の一覧表

次に、主要な初等関数の不定積分、原始関数の一覧の表を記します。もちろん、積分区間の端点の値を代入する事で、これらは全て定積分に使う事もできます。
基本的には「微分の逆演算」をやるだけですので、微分と別途に「積分の公式」を覚える必要は、それほどない・・とは、思います。一応、頻繁に使うものに関しては色をつけてあります。

微分の公式と比べると、一見簡単な関数の原始関数がやたらと複雑になる場合がある事にも、注意してみてください。

対象の関数 原始関数(不定積分の計算) 証明・導出法の概略
①定数(定数関数) \(\int c dx=cx+C\) 単項式の1次関数の微分より
②-1 単項式\(x^a\)【a≠-1】 \(\int x^a dx=\frac{x^{a+1}}{a+1}+C\) 微分公式と係数を消すために分母調整
次に記すように1/xの時だけは注意
②-2 \(\frac{1}{x}=x^{-1}\) \(\int\frac{1}{x}dx=\int x^{-1}dx=\ln |x|+C\) 自然対数関数の微分公式より。
絶対値がつくのは、x<0 の時でもln|x|の微分が1/x になるため
③ e の指数関数\(e^x\) \(\int e^xdx=e^x+C\) \(\frac{d}{dx}e^x=e^x\)によります。
④-1 自然対数関数 \(\int \ln x dx=x\ln x -x+C\) 積の微分公式から逆算するか、部分積分により。
④-2 対数関数系\(\frac{\ln x}{x}\)
\(a^x\ln a\)など
\(\int \frac{\ln x}{x}dx=\frac{1}{2}(\ln x)^2+C\)
\(\int a^x\ln a=a^x + C\)
合成関数の微分公式により、\(\frac{d}{dx}\frac{1}{2}(\ln x)^2=\frac{1}{2}(2\ln x)\frac{1}{x}=\frac{\ln x}{x}\)
後者は指数関数の微分公式より。
⑤-1 三角関数
(正弦、余弦、正接)
\(\int \sin xdx=-\cos x+C\)
\(\int \cos xdx=\sin x+C\)
\(\int \tan xdx=-\ln|\cos x|+C\)
正弦と余弦の微分公式より。
正接は、合成関数の微分公式より、
\(\frac{d}{dx}(-\ln |\cos x|)=-\frac{(\cos x)^{\prime}}{\cos x}=\frac{\sin x}{\cos x}\)
⑤-2 三角関数
(その他系)
\(\int \cot xdx=\ln|\sin x|+C\)
\(\int \mathrm{cosec}^2 xdx=
-\ln|\cot x|+C\)
\(\int \sec^2 xdx=\ln|\tan x|+C\)
\(\int \sec xdx
=\ln|\sec x +\tan x|+C\)
\(\cot x=\frac{\cos x}{\sin x}\hspace{10pt}\sec x=\frac{1}{\cos x}\)
\(\mathrm{cosec}x=\frac{1}{\sin x}\)
微分により「分母」を作るために、対数関数を利用しています。
⑤-3 三角関数
(合成関数)
\(\sin (nx),\hspace{10pt}\sin^2x\)等
\(\int \sin (nx)dx=-\frac{1}{n}\cos (nx)+C\)
\(\int \sin^2 xdx=\frac{2x-\sin (2x)}{4}+C\)
\(\int \sin x\cos xdx=\frac{-\cos(2x)}{4}+C\)
sin(nx)は合成関数の微分、
\(\sin^2x\)は加法定理でcos(2x)の形に直して考えます。
⑥ \(\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}系\)
(結果に逆三角関数が現れる事があるタイプ)
\(\int \frac{1}{1+x^2}dx=\arctan x+C\)
|x|<1の時、
\(\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=\arcsin x+C\)
|x|>1の時、
\(\int \frac{1}{\sqrt{x^2-1}}dx=\ln |x+\sqrt{x^2-1}| +C\)
\(\int \frac{1}{\sqrt{1+x^2}}dx=\ln |x+\sqrt{x^2+1}| +C\)
逆正接と逆正弦関数については、微分公式から。
残りのものは、合成関数の微分を丁寧に適用すると確かに原始関数となります。
⑦ \(\sqrt{1-x^2}系\) \(\int \sqrt{1+x^2}dx\)
\(
=\frac{x\sqrt{1+x^2}+\ln |x+\sqrt{1+x^2}|}{2}+C\)
|x|<1の時、
\(\int \sqrt{1-x^2}dx\)
\(=\frac{x\sqrt{1-x^2}+\arcsin x}{2}+C\)

|x|>1の時、
\(\int \sqrt{x^2-1}dx\)
\(=\frac{x\sqrt{x^2-1}-
\ln |x+\sqrt{x^2-1}|}{2}+C\)

とても面倒くさい(でも一応表せる)・・という事だけ分かればいいと思います。
もちろん、関数を微分する事で確かに原始関数である事を確かめる事ができます。
部分積分 \({\large\int f^{\prime}g dx=fg-\int fg^{\prime}dx}\) 定積分の公式としても上記に記してあります。
証明は、積の微分公式から。詳細

定積分に関する公式の証明

微積分学の基本定理、置換積分の公式、部分積分の公式についての証明をここでは述べます。

(証明)定積分の公式

(証明)微積分学の基本定理

閉区間 [a,x] 上の変数を含んだ形の定積分\(\int_a^xf(t) dt\) を x の関数 S(x) として考え、和の形の定義で表したものについて、微分の定義を当てはめます。
[x,x+h]の閉区間の長さは h で、これをゼロに近づける時は[x,x+h]の分割はこの区間自体だけでじゅうぶんである事に注意すると、
$$\lim_{h \to 0}\frac{S(x+h)-S(x)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{S(x)+S(h)-S(x)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{S(h)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{hf(k)}{h}=\lim_{h \to 0} f(k)=f(x)$$
【最後の所は、x < k < x+h なので、\(\lim_{h \to 0}k=x\)】(証明終)

(証明)置換積分の公式

x=x(u),f(x)=f(x(u)) だとします。【例えば x = sin u, f(u)=\(\sin^2u=x^2\)】
x についての積分区間 [a,b] に対応する u についての積分区間は [p,q] であるとし,
a = x(p), b = x(q)であるとします。
$$F(x)=\int_a^x f(t)dt=\int_{x(p)}^{x(u)} f(g(s))ds$$
$$合成関数の微分により、\frac{d}{du}F(x(u))=\frac{F(x)}{dx}\frac{dx(u)}{du}=f(x)\frac{dx(u)}{du}【∵F(x) は f(x) の原始関数】$$
・・ということは、変数 u に関して F(x) は\(f(x)\frac{dx(u)}{du}=f(x(u))\frac{dx(u)}{du}\)の原始関数のひとつなので、
(※ F(x(u)) を u で微分したら \(f(x(u))\frac{dx(u)}{du}\) になったわけですから。)
$$\int_p^q f(x(u))\frac{dx(u)}{du}du=\left[F(x(u))\right]_p^q=F(x(q))-F(x(p))=F(b)-F(a)=F(b)=\int_a^b f(x)dx $$
(証明終)
【※\(F(b)=\int_a^b f(t)dt,\hspace{10pt}F(a)=\int_a^a f(t)dt=0\)に注意】

(証明)部分積分の公式

積の形の関数に対する微分公式より、
$$(fg)^{\prime}=f^{\prime}g+fg^{\prime} \Leftrightarrow f^{\prime}g=(fg)^{\prime}-fg^{\prime}$$
ということは、f'(x)g(x) の形の関数の不定積分と定積分は
$$不定積分:\int f^{\prime}g dx=\int (fg)^{\prime} dx-\int fg^{\prime}dx=fg-\int fg^{\prime}dx$$
$$定積分:\int_a^b f^{\prime}g dx=\int_a^b (fg)^{\prime}dx-\int_a^b fg^{\prime}dx=[fg]_a^b – \int_a^b fg^{\prime}dx (証明終)$$

※部分積分の証明に関する注:

  • 不定積分のほうについては、右辺に不定積分が残る形なので、任意定数 C は残った不定積分に含めると考えて書いていないわけです。
  • 上記の微積分学の基本定理と原始関数の箇所でも触れていますが、
    \(\int F^{\prime}(x)dx=F(x) + C\) が成立します。

参考:特殊な定積分について

「微分と積分は逆演算」という観点からは計算しにくい定積分の例をいくつか参考として、ここでも挙げておきます。原始関数が初等関数の形で簡単に計算できないものは、じつは多いのです。

そのような場合、定積分を主に面積的に捉えてコンピューターによる「数値計算」を行う事は有用な手段の一つですが、積分区間を「無限大」にする時(そのような種類の積分を「広義積分」と言います)には、敢えて重積分や複素積分を考える事により定積分(の極限値)が簡単な値として導出できる場合があります。そのような例の中には、物理の理論で用いられるものもあります。

  • \({\large\int_{-\infty}^{+\infty} e^{-a^2x^2} dx=\frac{\sqrt{\pi}}{a}} \)
    証明には敢えて「重積分を使用」します。量子力学などでたまに使う積分です。
  • \({\large\int_{-\infty}^{+\infty} e^{-a^2x^2+bx} dx=\frac{\sqrt{\pi}}{a}e^{\frac{b^2}{4a^2}} }\)
    同じく、量子力学で使う事がある系の積分です。
  • \({\large\int_0^{+\infty}\frac{\sin x}{x} dx=\frac{\pi}{2}}\)
    こちらは、敢えて「複素積分」を考える事で、実数範囲の積分(の極限値)が計算できるという例です。この手のものは、結構多くあります。
  • \({\large\int_0^{+\infty} \frac{1}{1+x^4} dx=\frac{\pi}{2\sqrt{2}}}\)
    これも、敢えて複素関数の範囲で考えるとうまく行く例です。

このページでは述べていない公式や、まだしていない考察も大学数学の微積分学には多く含まれます。このページで述べている基本事項をもとにして、ぜひそれらについても探求してみましょう。必要があれば、このページにも戻ってきてみてください。

参考文献 ・学習に役立つサイトなど

微積分の基本的な公式につきましては高校の教科書などにももちろん載っていますし、大学の微積分の教科書にも載っています。また、多くの外部サイトでも微積分の基本を述べているものは多いので、必要に応じて参照していただければよいと思います。

参考サイト(外部リンク)

ベクトル解析と勾配・回転・発散・・grad, rot, div

このページでは、電磁気学などで使われる「ベクトル解析」という数学の分野について説明します。
その中でも特に、勾配・発散・回転と呼ばれるものについての説明を行います。

これは「ベクトルの微積分・力学での応用」の延長線上にある理論です。純粋数学よりも、応用数学の色彩の濃い微積分学の分野になります。(もちろん、純粋数学的・解析学的に考察する事も可能です。)

スカラー関数の変数が特に位置座標である事を強調する場合には「スカラー場」と言う事もあります。このページではスカラー場という名称を使います。

はじめに:「場」という考え方とベクトル解析

勾配(grad)、発散(div)、回転(rot)は「スカラー場」や「ベクトル場」というものに対して考えます。それらはいずれもスカラーやベクトルの仲間なのですが、特にどのようなスカラーやベクトルをそのように呼ぶのかを最初に述べておきます。

ベクトル場
スカラー場
電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例 

ベクトル場

てきとうな電荷があって、まわりに別の電荷を持ってくると、電荷同士に力が働きます。この時に、後から持ってきたほうの電荷を置く場所によって働く力が変わってきます。これは数式で表すと、電荷が受ける力が座標上の点ごとに異なると考える事もできて、力を座標変数の関数で表されたベクトルで表せます。このように表されるベクトルを、「ベクトル場」と呼びます。ベクトル場の各成分は、座標成分による多変数関数になっています。(必要に応じて時間変化もするとして時間成分も加えます。)

このようなベクトル場の微積分を扱う数学の分野をベクトル解析と呼んだりします。後述するスカラー場の微積分も合わせて考えます(スカラーをベクトルに変換する操作などが含まれます) 。

★ ベクトル場の事を「ベクトル界」と言う事もあります。ベクトル界という呼び方は工学系で使われる事が多いとも言われます。
どちらが正しいかの基準はありませんが、このサイトでは、「ベクトル場」の呼び方を使用します。
「場(field)」という語は、「遠隔力」という考え方に対する概念として物理学で単独でも使う事があります。他方、『界』という語は単独では普通は使わない事が多いので、用語としては「場」という語でこのサイトでは統一します。

「ベクトル場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように各成分が x, y, z の関数として表される空間ベクトルを「ベクトル場」と呼びます: $$\overrightarrow {F}(x,y,z)=(\hspace{3pt}F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z)\hspace{3pt})$$ $$ベクトルの各成分\hspace{3pt}F_1(x,y,z)などは、x,y,z の多変数関数(スカラー関数)$$ 平面ベクトルで考えたとしても、成分が1つ減るだけで同様にベクトル場を考える事ができます。4成分以上の場合も理論的には考える事は可能ですが、普通はあまり考えません。ここでは基本的に3成分の空間ベクトルのベクトル場を考えます。

ベクトル場自体は多変数関数を成分とする「ベクトル」とも言えるので、上記の形が「ベクトル場の『定義』」であるというよりは、ベクトルのうち「このような形で表されるものを特にベクトル場と呼ぶ」という感じだと言えます。

物体の軌道をベクトルで表す時に、物体の位置座標を「時間の関数」として表す方法があったわけですが、それとの違いは、成分となる関数の変数に「座標成分が含まれている」という事です。

$$\overrightarrow {X}(t)=(x(t),y(t),z(t)) といったベクトルとは少し区別されるのです。$$

2つの電荷プラス同士であれば反発し、プラスとマイナスであれば引き合います。
向きは2つの電荷を結ぶ直線に沿い、遠くに離れるほど力の大きさは弱くなります。
「電荷に働く力を「場」として見る場合は「電場」と呼びます。

スカラー場

もう1つ、ベクトル解析では「スカラー場」というものも考えて、ベクトル場との使い分けを上手に行う事が理解のポイントになっていきます。

スカラー場とは、数式的には座標成分 x, y, z を変数とする多変数関数の事です。意味としては何ら難しくないのですが、電磁気学等の理論ではベクトル場と入り乱れる形で使われるので、物理の理論の中では慣れないと少し難しく感じると思います。

「スカラー場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように x, y, z の関数として表される多変数関数を「スカラー場」と呼びます: $$\phi= \phi (x,y,z)$$ 記号はここでは「\(\phi\)ファイ」を用いていますが、別に何でも構いません。 これは数学的に見れば通常の多変数関数であって、これをスカラー場と呼ぶのは基本的には x, y, z が空間上の直交座標の成分である事が明確であって物理等で用いられる場合、特にベクトル場と区別する場合です。

電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例

+1[C] の電荷をある場所に置いたときに、その電荷が受ける力ベクトルを位置座標の関数で表したものはベクトル場であり、特に電場と呼びます。電気だけでなく磁気についても同じ考え方ができます。磁気の場合は単独の「磁荷」は存在しないと言われていますが、仮想的に単独の「磁荷」を考えて、磁荷が受ける力のベクトル場の事を磁場と呼びます。

電磁気学では、これを総称して電磁場と呼んだりもします。磁場は電流によって作られ、電流を生じさせる電圧(起電力)は磁場の変化によって作られるという関係が知られています。電磁気学は、観測によって得られたそれらの関係を定量的に表せるように数式で整理する物理学の分野です。

ベクトル場の具体例として、+1[C] の電荷のまわりの電場は次のように表せます(その付近に、別の+1[C] の電荷を持ってくると考えます。k は比例定数です。 ):

$$\overrightarrow {E}(x,y,z)=\left(\frac{kx}{r^3}, \frac{ky}{r^3}, \frac{kz}{r^3} \right)= \left (\frac{kx}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{ky}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{kz}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}} \right )$$

$$r= \sqrt{x^2+y^2+z^2} = (x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2}}の関係で処理しています。 \frac{kx}{r^3} =\frac{k}{r^2}\cdot \frac{x}{r}という事です。 $$

$$詳細は別途に記しますが、ここでの電場の「大きさ」は| \overrightarrow {E} |=\frac{k}{r^2}になります。$$

ただし、このように具体的な座標成分で記すと計算が面倒なので、大枠となる理論ではベクトル場という事だけ踏まえて数式的な処理を加えていく事が行われます。個々の具体的な事例の考察では具体的な関数にして考えたりします。

このようなベクトル場である電場に対して、ある位置での+1[C]の電荷が持つ事になる位置エネルギー(または「ポテンシャル」)を電位と言います。これは日常でもよく耳にすると思われる電圧と本質的には同じものです。電位は、ベクトルでは無く、スカラー場になります。つまり、x, y, z という3つの変数によって決まる1つの値が決まるという3変数関数になります。

$$「電位」V(x,y,z) はべクトル場ではなく、スカラー場です。$$

これらのベクトル場やスカラー場の微積分を考えられる時に使われるのが、次に記す「勾配」「発散」「回転」というものです。

ベクトル場の発散(div)と回転(rot)、スカラー場の勾配(grad)

ではここで、ベクトル解析で重要な 勾配、発散、回転 と呼ばれるものの説明をします。

div, rot, grad ・・定義と考え方
図形的にはどのような意味を持つ?

※ここでの「発散」は、「無限大に発散」という意味ではなく、また別のものです。少々分かりにくいかもしれませんが、同じ用語を使う習慣があります。
※「回転」は「循環」と呼ばれる場合もあります。

勾配、発散、回転の定義には偏微分を用います。
ベクトル場、スカラー場ともに多変数関数である事が直接的に関わっています。

div, rot, grad ・・定義と考え方

あるベクトル場 \(\overrightarrow {F}\) があったとき、それに対する発散、回転を考える事になります。(成分が x, y, z の関数になっていない通常の「ベクトル」に対しては基本的に考えないので注意。)

他方、勾配についてはスカラー場に対して定義します。

$$ベクトル場\overrightarrow {F}(x,y,z)に対して、発散:\mathrm{div} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} 回転:\mathrm{rot} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} を定義します。$$

$$また、スカラー場\phi (x,y,z)に対して、 勾配:\mathrm{grad} \phi ,\hspace{10pt} を定義します。$$

定義
勾配(gradient)【グレディエント】
  • スカラー場 \(\phi (x,y,z)\)に対して次のベクトル(関数)を勾配(勾配ベクトル)と呼びます。
    $$\mathrm{grad} \phi=\left(\frac{\partial \phi}{\partial x},\frac{\partial \phi}{\partial y},\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)$$
  • \(\mathrm{grad}\phiの代わりに\nabla \phi とも書きます。\)
発散(divergence)【ダイヴァージェンス】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のスカラー(関数)を発散と呼びます。
    $$\mathrm{div} \overrightarrow {F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}$$
  • \(\mathrm{div}\overrightarrow {A}の代わりに\nabla \cdot \overrightarrow {A} とも書きます。\)
    \((F_1,F_2,F_3)=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))\) です。
回転(rotation,curl)【ローテイション、カール】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のベクトル(関数)を回転と呼びます。$$\mathrm{rot} \overrightarrow {A}=\left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z}, \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x}, \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$
  • \(\mathrm{rot}\overrightarrow {A}の代わりに\mathrm{curl}\overrightarrow {A}、あるいは\nabla × \overrightarrow {A} とも書きます。\)

★ 見ての通り、いずれも偏微分を用いて定義されます。
偏微分とは、1つの変数だけに着目し、他の変数は定数扱いにして微分操作を行う演算です。
★ \(\nabla \cdot \overrightarrow {A},\nabla × \overrightarrow {A}\) という表記について:これらの定義による式の形が、ベクトルの内積や外積の計算規則と似ている事からそのようにも書く習慣があります。この逆三角形の記号∇は「ナブラ」と呼ばれます。
★ 勾配・発散・回転自体も x, y, z を変数とするベクトルや実関数ですからベクトル場とスカラー場という事になりますが、勾配・発散・回転自体に対してはあまり「場」とは言わない事が多いです。

このように定義した時、
勾配と回転はベクトルであり、発散はスカラーである事に、少し注意してみてください。

同時に、勾配を考える対象はスカラー場であり、
発散と回転を考える対象はベクトル場であるわけです。少し整理しましょう。

対象の関数 勾配・発散・回転 ベクトル・スカラーの区別
スカラー場\(\phi (x,y,z)\) \(\mathrm{grad}\phi \) 勾配:ベクトル(成分は関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{div}\overrightarrow {F}\) 発散:スカラー(関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{rot}\overrightarrow {F}\) 回転:ベクトル(成分は関数)

★ 尚、発散と回転については、上記で定義した数式を「積分した形」を発散および回転と呼ぶ場合もありますが、このサイトでは一貫して上記の形の定義を用いる事にします。

図形的にはどのような意味を持つ?

こういった色々見慣れない記号をなぜ考えるのか?という話にもなるかと思いますが、これらに関しては基本的に「3次元の空間」の中のベクトルの理論ですので、図形的を持っている事が理解の1つのポイントです。

まず勾配については、偏微分を考えている事に注目すると、あるスカラー場が x方向、y方向、z方向に対して、その向きだけの変化率をベクトルで表したものになります。

次に、ベクトル場の発散についてです。これは位置が微小変化した時に、特定の量が全体として「周りからどれだけ出入りするか」の変化率を表します。単位体積から出入りする流量(※1)を表すとも言えます。
ベクトル場の発散に体積要素(dv = dxdydz)を掛け算すると、微小な領域に出入りする流量を表します。発散を面積分と重積分(※2) を結びつける公式(発散定理、ガウスの定理)もあり、それも物理で重要です。

(※1)もう少し詳しく言いますと、電磁気学の理論の一部は、流体力学の理論とのアナロジー(類似性)から類推して組み立てられています。「流量」とは流体力学で使われる用語であり、ある断面を1秒間あたりに通過する流体の体積を表します。
(※2)この場合、dv = dxdydz を考えるので体積積分とも言います)

回転については、定義式からは少し分かり辛いと思いますが、じつはこれを積分(「法線面積分」という種類の積分)をした時に文字通りの意味を表します。公式(「ストークスの定理」)を用いる事で、あるベクトル場の回転の面積分は、そのベクトル場に対して閉曲線を1周するように接線線積分したものに等しくなるのです。ベクトル場の回転は流体力学では「渦」を表現するのに使い、電磁気学などの領域でも使用します。

これらの図形的な意味を捉える時は、積分を考える必要がある場合もあります。

勾配・発散・回転に関するいくつかの公式

最後に、いくつかの公式について紹介をしておきましょう。

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式
勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式 

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式

ベクトル場の勾配・発散・回転を使ってどういう理論が展開されるのかを軽く見るために、いくつかの公式を挙げてみます。これらは、一般的には暗記するほど重要ではないと思いますが、簡単なものや特徴的なものは知っておくと物理学全般を学ぶ時に便利です。

勾配・発散・回転のいくつかの公式

\(\phi\) などはスカラー場、\(\overrightarrow {F}\) などはベクトル場であるとします。

  1. \(\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)\)
  2. \(\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\mathrm{div}(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi)+\phi\mathrm{div}\overrightarrow {F}\)
  3. \(\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)=0\)
  4. \(\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=0\)
  5. \(\mathrm{rot}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=\mathrm{grad}(\mathrm{div}\overrightarrow {F})-\left(\frac{\partial ^2F_1}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 F_2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 F_3}{\partial z^2}\right)\)

\(\phi_1\phi_2\) は2つのスカラー場の積(普通の掛け算)であり、\(\phi\overrightarrow {F}\) はベクトル場の各成分に(同一の)スカラー場を掛け算したものです。\(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi\) は、内積です。
電磁気学の理論では、3番目と4番目の関係は特に重要です。
5番目の形の式は、回転はベクトル場から別のベクトル(場)を作る操作であるために考える事ができる点に注意。(勾配や発散では同じような事はできません。)

これらの公式の証明は、基本的には定義に直接当てはめて、積の微分公式などの基本公式を使って丁寧に計算する事で得られます。例えば、1番目の公式は各成分ごとに積の微分公式を使うだけです。
(偏微分の場合も通常の微分の場合と同じ形の積の微分公式が成立します。)

$$\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\left(\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial x},\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial y},\frac{\partial \ (\phi_1\phi_2) }{\partial z}\right)$$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}\right) + \left(\phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y}, \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)【1番目の公式の証明終り】$$

2番目の公式も、積の微分公式を用いるだけです。

$$\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\frac{\partial (\phi F_1)}{\partial x}+\frac{\partial (\phi F_2)}{\partial y}+\frac{\partial (\phi F_3)}{\partial z} $$

$$ = \left( \phi \frac{\partial F_1}{\partial x}+ F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_2}{\partial y}+ F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_3}{\partial z} +F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} \right) $$

$$ = \phi \left( \frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+ \frac{\partial F_3}{\partial z}\right) + F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} + F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} + F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} $$

$$= \phi \mathrm{div} \overrightarrow {F}+ \overrightarrow {F} \cdot \mathrm{grad}\phi 【2番目の公式の証明終り】 $$

3番目と4番目の式は、2つの変数で続けて偏微分を行う時には偏微分の順番は関係なく同じ結果になる(※)という事を使って示します。【※解析学的に厳密に言うと条件がありますが、通常の連続関数であれば基本的に問題ありません。】

3成分のそれぞれについて0になる事を示す必要がありますが、変数が入れ替わるだけで同じ形・同じ計算ですので、第1成分(x成分)についてのみ記します。

$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)の第1成分=\frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)- \frac{\partial}{\partial z} \left (\frac{\partial \phi}{\partial y} \right) = \frac{\partial^2 \phi}{\partial z \partial y }- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y \partial z }=0 $$

$$【3番目の公式(第1成分)証明終り】 $$

$$\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})の第1成分= \mathrm{div} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z},
\frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x},
\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$

$$= \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial z} \left( \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right) $$

$$= \left( \frac{\partial^2 F_3 }{\partial x \partial y }- \frac{\partial^2 F_3 }{\partial y \partial x } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_1 }{\partial y \partial z }- \frac{\partial^2 F_1 }{\partial z \partial y } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_2 }{\partial z \partial x }- \frac{\partial^2 F_2 }{\partial x \partial z } \right) =0 $$

$$【4番目の公式(第1成分)証明終り】(最後の式では消える項ごとにまとめました。) $$

5番目の公式に関しては少々計算が面倒ですが、定義に当てはめて丁寧に計算する事で結果が得られます。特別な定理や計算技巧は必要ありません。

この他にも、勾配・発散・回転の組み合わせによる色々な公式が存在します。

勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式

勾配・発散・回転のいずれも微分(偏微分)を使って定義されるものであるわけですが、発散と回転に関してはそれらに対する積分を考える事で独特な形の公式が成立します。しかも、それらは物理の理論の中でも重要です。

2つの公式を、ごく簡単にですが挙げておきます。上記でも少し触れた「発散定理(ガウスの定理)」と「ストークスの定理」です。これらは積分を含む公式であり、通常の積分ではなく「法線面積分」「接線線積分」「体積積分」という種類の積分が含まれます。

$$発散定理:\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$ストークスの定理:\int_S \mathrm{rot}\overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{s} = \int_C \overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{r}$$

ここでは、C:閉曲線、S:閉曲面の表面、V:閉曲面内の領域 を表しています。

接線線積分については力学でも使う考え方ですが、法線面積分については初歩的な運動の解析にはあまり使わないかもしれません。基本的な考え方は共通していて、微小な領域において内積の計算をしてから積分をする(合計する)というものです。

体積積分は重積分で表す事もでき、法線面積分も内積の処理をした後に重積分として表す事もできます。(しかも、その事が証明で重要です。)

閉曲線上の接線線積分の積分方向は、xy平面などの平面上で考える場合には反時計回り(曲線の内部が左側に来る向きであり、閉曲線の「正方向」とも言います)として考えます。
空間上に閉曲線がある場合には、閉曲線を外周とする曲面の表側を決めたうえで、接線線積分の積分方向を定めます。

このベクトル解析の領域は、物理の電磁気学や流体力学と合わせて学んでみる事がおすすめです。数学的に詳しい考察が必要な部分と、応用で重要になる部分との関連がよく分かるようになると思います。

特性方程式による微分方程式の解法

今回は「特性方程式」という多項方程式を解く事で、
特定の種類の微分方程式の解を得る手法について述べます。

この方法で解けるのは「定数係数」で「線型」の「常微分」の微分方程式です。
「1階微分=ゼロ」「2階微分」=ゼロ」といった簡単に解ける微分方程式はその仲間です。それらの解法の延長線上・発展事項として今回の内容があります。n階の定数係数の線型常微分方程式の数学的な一般的解法を、この記事では詳しく見ていく事になります。

式が少し込み入る計算も含みますが、今回の内容で必要な公式は微積分の基本公式だけです。一部、複素関数論や代数学の話も含まれますが、そこは参考までに眺めるだけでも差し支えない箇所です。

「定数係数の線型常微分方程式」・・というのは名称が長いので、今回の記事の内容に限っては「常微分」であることや「線型」である事は前提として、単に「微分方程式」と記す事もあります。

今回扱うのは、一般のn階の「定数係数」の「線型」常微分方程式です。 (その中でもさらに「斉次」 のものです。ただし、非斉次のものも変形して斉次として扱える場合があります。)

「特性方程式」とは?

n階の定数係数の線型常微分方程式について、それぞれの階数の微分の部分に定数係数がくっついているわけですが、この時に次の対応を考えます:

$$n階微分の項に対する定数係数c_n \hspace{10pt} → \hspace{10pt} c_nx^n【定数項はそのまま定数項に対応】$$

この対応で作る多項方程式を、 定数係数の線型常微分方程式の特性方程式と言います。

具体的な3次の例で見てみますと、次のようになります。

$$微分方程式:y^{\prime \prime \prime }+3y^{ \prime \prime }-2y^{\prime }+1=0$$

$$対応する特性方程式:x^3+3x^2-2x+1=0$$

一般のn次の特性方程式は次のようになります。

n次の特性方程式

次のような
$$\frac{d^n}{dx^n}f(x)+c_{n-1}\frac{d^{n-1}}{dx^{n-1}}f(x)+\cdots+c_2\frac{d^2}{dx^2}f(x)+c_1\frac{d}{dx}f(x)+c_0f(x)=0$$
というn階の定数係数の線形常微分方程式に対して、
微分方程式で使われている定数係数\(c_1,c_2,\cdots\)を用いたn次方程式

$$x^n+c_{n-1}x^{n-1}+c_{n-2}x^{n-2}+\cdots+c_3x^3+c_2x^2+c_1x+c_0=0$$
の事を、その微分方程式に対する特性方程式(characteristic equation)と言います。
特性方程式の解の事を「特性根」と言う事もあります。

このように具体例で見たほうが分かりやすいかもしれませんね。

このように、作り方自体は簡単です。じつは特性方程式の「解」が、微分方程式のほうの解に直接関係します。根底にあるのは、自然対数の底 e の指数関数の微分演算です。微分して得る導関数が元の関数と同じであり、合成関数の微分を利用すると「元の関数×定数倍」という形を作れます。このパーツを上手に利用する事で、一般的には特性方程式とその解を計算すればよい、という理論になるのです。

用いる微積分の基本公式は、自然対数の底 e の指数関数と合成関数の微分公式です。それと積の微分公式も使用します。

対象の関数微分公式微分方程式の解法での役割
自然対数の底 e の指数関数\({\large \frac{d}{dx}e^x=e^x}\)微分すると元の関数に戻る
合成関数の微分\({\large \frac{df(y)}{dx}=\frac{df(y)}{dy}\frac{dy(x)}{dx}}\)微分方程式内の定数倍などを調整
積の形の微分\({\large \frac{d}{dx}(fg)=\frac{df}{dx}g+\frac{dg}{dx}f\frac{dy(x)}{dx}}\)このページで解説する証明で使ったりします。
  • 微分してない、もとの関数:\(e^{\alpha x}\)
  • 微分1回目:\(\frac{d}{dx}e^{\alpha x}=\alpha e^{\alpha x}\)
  • 微分2回目:\(\frac{d^2}{dx^2}e^{\alpha x}=\alpha^2 e^{\alpha x}\)

2階の場合の定数係数の微分方程式と、2次の特性方程式の関係が一般のn次の場合の解法の基本になりますので次に詳しく解法を見ます。

これは2次の特性方程式(多項方程式としては2次方程式)が異なる2つの実数解を持つ場合ですね。ただし、特性方程式が重解や複素数解を持つ場合でも、e の指数関数が重要である点には変わりありません。

2次の特性方程式が複素数解を持つ場合

2次の特性方程式が「異なる2つの実解」を持つ場合は、自然対数の底 e の指数関数を用いればよい事を、
以前の記事で詳しく述べてあります。

「じゃあ、そうでない場合はどうするのですか。」

まず、解が複素数解(虚数単位 i を含む解)である場合を述べます。この場合のほうがじつは比較的簡単です。解の表現としては虚数単位 i を含む形と、含まない形の両方で表現可能です。任意定数として複素数も許容されるとする事によって、定数をてきとうに調整すれば両者は同等になります。2つの形を両方記しておきましょう。

2次の特性方程式が複素数解である場合の微分方程式の解 2次の特性方程式の解が \(x=A+Bi\) である時、
対応する微分方程式の解 y は次のように表されます: $$①虚数単位iを含む形で表す場合:y=C_1e^{\alpha x}+C_2e^{\beta x}$$ $$②実数でのみで表す場合:y=C_1e^{Ax}\cos (Bx)+C_2e^{Ax}\sin (Bx)$$ $$C_1とC_2は任意定数【特に①の場合、複素数も含めた任意定数です。】$$

①の形は、特性方程式の解が異なる2つの実数解である場合と同じ形です。①と②の2つの形が同等である事の詳細は後述しますが、複素数も含めた任意定数を上手に調整する事で示します。実数のみで表す事も可能である事から、物理の古典力学の範囲でも普通に意味を持つ事が見えるかと思います。

複素数を r(cosθ+i sinθ) という「極形式」で表したうえで、 r(cos(θx)+i sin(θx)) という関数を考えてみます 。【このように複素数を含んだ関数を、数学上は複素関数とも言います。】

この形の関数は、じつは微分した時に、e の指数関数と同じ性質を持っています。
r と θ は定数としたうえで、試しにxで微分してみると:

$$\frac{d}{dx} r(\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) = r\theta (-\sin ( \theta x) +i\hspace{5pt}\cos ( \theta x) )=i \theta r (\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) $$

$$微分した後の式変形では、i^2=-1という関係を使っています。$$

【r等も変数ならxで偏微分という事になりますが、ここではr等は定数としてxでの「常微分」です。】

この結果を注意して見ていただくと、 xについてのもとの関数を「iθ 倍」したものと同じです。これは e の指数関数と同じ性質であり、指数関数の変数として複素数も考えるとするとじつは次のように書けます:

ポイントとなる1つの関係式

$$re^{i\theta x}= r(\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) $$ $$(おおもとの形:e^{i\theta}=\cos \theta +i\sin \theta)$$

この関係式は、ある条件(※)をつける事によって、変数が複素数範囲の場合は本質的にこの形として表してよいというものです。【(※):複素関数が「正則関数」であるという条件です。】

形式的には、e の指数関数のマクローリン展開(x=0でのテイラー展開)に、xの代わりに「 ix を代入してみて」、そこに正弦と余弦のマクローリン展開を「代入」する事で複素数の「指数関数表示」を得ます。ただし、より正確には複素数変数の指数関数を新たに定義するか、正則関数としての指数関数の複素数領域への拡張はただ1通りしかないという論法で指数関数表示を考察します。

この事を踏まえて、微分方程式 y”+ay’+by = 0 の解を考察します。
ここで、特性方程式の複素数解について、極形式ではなくて A + Bi の形のほうを考える事がポイントです。その形を、指数関数に適用してみましょう。

$$e^{\alpha x}=e^{(A+Bi)x}=e^{Ax}e^{Bi}x$$

これを、xで微分してみましょう。

$$\frac{d}{dx} e^{\alpha x}= \frac{d}{dx} ( e^{Ax}e^{iBx})=Ae^{Ax} e^{iBx} +iB e^{Ax} e^{iBx} =(A+Bi) e^{Ax} e^{iBx} = (A+Bi) e^{\alpha x}=\alpha e^{\alpha x} $$

このように、積の微分公式を使って丁寧に計算すると、微分の演算は実数係数の場合と全く同じ形になる事が分かります。 これは結局のところ、指数関数の部分が係数が乗じられる以外には形が変化しない事に起因しています。

と、なると解が異なる2つの実数ではなくて複素数であったとしても、

$$解は y=C_1e^{\alpha x}+C_2 e^{\beta x}の形で表せるという事です。 $$

微分方程式のほうの解を実数だけで表す方法

さて、前述のようにじつはこれを実数だけで表す事も可能です。

$$さきほどのe^{\alpha x}=e^{(A+Bi)x}=e^{Ax}e^{Bi}xという関係を使いましょう。ここで\beta=A-Biである事は重要です。$$

$$y= C_1 e^{Ax}e^{Bi}x +C_2 e^{Ax}e^{-Bi}x = C_1 e^{Ax} (\cos (Bx)+i\sin (Bx))+ C_2 e^{Ax} (\cos (Bx)-i\sin (Bx)) $$

$$= (C_1+C_2) e^{Ax} \cos (Bx) +i e^{Ax}\sin(Bx)(C_1-C_2)$$

$$C_1+C_2=C_3, C_1-C_2=iC_4 とすると、【そのようにおいてもよい事に注意】$$

$$y= C_3 e^{Ax} \cos (Bx) +C_4e^{Ax}\sin(Bx) $$

このように、任意定数も複素数であってよい事から「i を消せる」のです。特性方程式の2つの解が(必ず)共役複素数である事により、このように計算できます。
ここで、新しく作った2つの任意定数も複素数範囲で成立しますが、その中で実数に限定すれば実数範囲の任意定数による一般解として表せるわけです。

特性方程式の解(特性根)が異なる実数解の場合と複素数解の場合とでは、同じ形として微分方程式のほうの解を表す事が可能です。

2次の特性方程式が重解を持つ場合

次に、2次の特性方程式が重解(必ず実数)を持つ場合です。
証明に関してはこの場合がじつは一番面倒で、一般解は次のようになります。

2次の特性方程式が重根を持つ場合

特性方程式の解(重解)を \(\alpha\) とすると
微分方程式 \(y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0\) の解は次のようになります:

$$y=C_1e^{\alpha x}+C_2xe^{\alpha x}=e^{\alpha x}(C_1+C_2x)$$ 「x が指数関数に乗じられる」という形の項が、オマケでくっついてくるわけです。
\(e^{\alpha x} \) にxの1次関数が乗じられていると考える事もできます。

この解は、実際に微分してみると確かに微分方程式を満たす事は割と簡単に分かりますが、パっと見では2番目の項も含まれる事は、なかなか気づかないと思います。そこで、この解の詳しい導出について見ておきましょう。

$$演算子として\hat{D}=\left(\frac{d}{dx}-\alpha\right) を定義しておきます。 \hat{D} y= \frac{dy}{dx}-\alpha yです。$$

$$ \hat{D}^2=\hat{D} (\hat{D}) と定義すると \hat{D}^2= \left(\frac{d^2}{dx^2}-2\alpha \frac{d}{dx} +\alpha ^2\right) です。$$

$$\hat{D}^2y= \frac{d^2y}{dx^2}-2\alpha \frac{dy}{dx} +\alpha ^2y $$

この記号は別に定義しなくても証明はできますが、計算が結構煩雑なので過程を詳しく見るのに役立ちます。これはあくまで、ここでの計算だけに適用する便宜上の記号です。
(「演算子」という言葉と考え方自体は、物理でも良く使います。特に量子力学などにおいてです。)

特性方程式が重解を持つという設定ですから

$$x^2+Ax+B=(x-\alpha)^2= x^2-2\alpha x +\alpha^2より、 A=-2\alpha,B=\alpha^2$$

$$よって、y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By= y^{\prime\prime} -2\alpha y^{\prime}+ \alpha^2 y= \hat{D}^2y$$

$$特性方程式が重解を持つならば、 y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0 \Leftrightarrow \hat{D}^2y =0 という事です。$$

$$ここで、\hspace{5pt}e^{-\alpha x}y \hspace{5pt} という関数を考えると話がうまく進みます。$$

これの1階微分は、単純に積の微分公式を用いて計算を進められます。

$$\frac{d}{dx}(e^{-\alpha x}y)=-\alpha e^{-\alpha x}y+e^{-\alpha x}(y^{\prime})=e^{-\alpha x} \left (\frac{d}{dx}-\alpha \right)y$$

2階微分も積の微分公式を用いて計算を進められます。

$$\frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=\frac{d}{dx}\left\{e^{-\alpha x}\left(\frac{d}{dx}-\alpha \right )y\right\}=-\alpha e^{-\alpha x} \left (\frac{d}{dx}-\alpha \right )y+e^{-\alpha x}\frac{d}{dx}{\left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)y}$$

$$= e^{-\alpha x} \left \{ -\alpha (\hat{D}y) + \frac{d}{dx}(\hat{D}y)\right \}= e^{-\alpha x} \left\{\left(\frac{d}{dx}-\alpha \right ) (\hat{D}y)\right\} = e^{-\alpha x} \hat{D}^2y $$

$$※ \left(\frac{d}{dx}-\alpha \frac{d}{dx} \right )y=\hat{D}y が1つの塊であり、 e^{-\alpha x} とのつながりは「通常の掛け算」である事に注意。$$

$$すると、 \hat{D}^2y =0 ならば e^{-\alpha x} \hat{D}^2y つまり \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0です。$$

$$ \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0 という形は、「2階微分=0」という形の微分方程式です。$$

「2階微分=0」という形の微分方程式の解は1次関数です。
つまり、次の事が言えるわけです:

$$「特性方程式が重解を持つ」 \Rightarrow y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0 \Leftrightarrow \hat{D}^2y =0 \Rightarrow \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0 $$

$$ \Rightarrow e^{-\alpha x}y =C_1x+C_2 \Leftrightarrow y= e^{\alpha x}(C_1x+C_2)[証明終り]$$

最後の式変形は、両辺に\(e^{\alpha x}\)を掛けただけです。
2次の特性方程式が重解を持つという条件があると、必然的に指数関数に「1次式」を乗じた形の関数が解になってしまうという事です。

n階の定数係数の線型常微分方程式の解法

さて、以上で2階の場合の考察を見てみましたが、3階以上の場合も基本的な考え方は同じです。ただし、3次以上の場合の特性方程式は実数解と複素数解が両方含まれている事もあり、実数解の場合は重解かそうでないかにも分かれます。

特性方程式が「解けた」という前提のもとで話を進めるとすると、その解を用いて微分方程式のほうの係数を表せます。表記を簡単にするため、4階のものを例に考えます。上記で、特性方程式の解が重解の場合に用いたような演算をここでも行います。

$$\frac{d^4y}{dx^4}+A_3 \frac{d^3y}{dx^3} +A_2 \frac{d^2y}{dx^2} +A_1 \frac{dy}{dx} + A_0y=\left(\frac{d}{dx}-\alpha_1\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_2\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_3\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_4\right)y $$

$$A_3=\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3+\alpha_4, A_0=\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3 \alpha_4 等が成り立っています。 $$

1つ1つの解が「異なる実数解」や複素数解であれば2階の時と考え方は全く同じで、それらの解と e の指数関数を組み合わせ、任意定数とも合わせて加え合わせる(これを「線型結合」と呼びます)事を考えればよいのです。

$$つまり、C_1e^{\alpha_1 x}+ C_2e^{\alpha_2 x} + C_3e^{\alpha_3 x} + C_4e^{\alpha_4 x} などが解になります。$$

複素数解の部分は、2階の時と同じく実数だけで表す事もできます。共役になってる2解を用いて、指数関数と三角関数の積で表せます。(n次方程式の場合も、複素数解がある場合は必ず共役なもの同士が2つ1組になっています。)

$$例えば\alpha_1 と\alpha_2が共役な複素数解なら、\alpha_1=A+Bi, \alpha_2=A-Bi として$$

$$C_1e^{\alpha_1 x}+ C_2e^{\alpha_2 x}の部分をe^{Ax}(C_a\cos (Bx)+C_b\sin (Bx) )に変えても同じです。$$

「では、重解が含まれていたらどうなるのですか?」

n階の場合も、面倒なのは重解を持つ場合です。この場合、3重解4重解・・などを持つ事もあり得るので、考え方は2階の時と似ていますが別の補題を証明する必要があります。

補題 $$任意の自然数nに対して、 \frac{d^n}{dx^n}(e^{\alpha x}y)=e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}$$ $$ここで、\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^nは\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^2=\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)=\left(\frac{d^2}{dx^2}+2\frac{d}{dx}\alpha+\alpha^2\right) 等の事。$$

これは、数学的帰納法を用いて丁寧に計算すると証明できます。

まず、n=1の場合は積の微分公式を用いてるだけで、これは成立します。

あるnで成立するとして、n+1の場合を考えます。

$$\frac{d^{n+1}}{dx^{n+1}}(e^{\alpha x}y)=\frac{d}{dx}\left\{\frac{d^n}{dx^n}(e^{\alpha x}y)\right\}= \frac{d}{dx}\left[ e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}\right]$$

$$=\alpha e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\} + e^{\alpha x} \frac{d}{dx}\left[ \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}\right] $$

$$= e^{\alpha x} \left( \frac{d}{dx} +\alpha\right) \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\} = e^{\alpha x} \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^{n+1}y\right\} $$

よって、n+1の時も成立しますので任意の自然数nで成立します。【補題の証明終り】
式が少々ごちゃごちゃしますが、使っているのは積の微分公式だけです。

さて、この補題を使ってどのように微分方程式のほうの解を考えるかと言いますと、次のようになります:

$$例えば N 重解になる部分について微分方程式を \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 と表せますから、 $$

$$ \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 \Rightarrow e^{-\alpha x} \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 \Rightarrow \frac{d^n}{dx^n}( e^{-\alpha x}y)=0$$

【※プラスマイナスの符号が上記補題と入れ替わるので注意してください。\(\alpha\) を \(-\alpha\) に置き換えます。】

$$つまり「e^{-\alpha x}yという関数をn回微分すると0になる」という式になります。$$

1回微分して0になる関数は定数関数、2回微分して0になる関数は1次関数であるわけですが、n回微分して0になる関数は(n-1)次関数です。

$$よって、 e^{-\alpha x}y =x^{n-1}+C_{n-2}x^{n-2}+\cdots+C_2x^2+C_1x+C_0$$

$$\Leftrightarrow y= e^{\alpha x}( x^{n-1}+C_{n-2}x^{n-2}+\cdots+C_2x^2+C_1x+C_0 )という事になります。$$

指数関数に(n-1)次関数を乗じた形の解になります。2次の特性方程式が重解を持つ時には指数関数に1次式を乗じた形の解であったわけですが、それもこのn次の場合の解の形に含まれるわけです。

$$特性方程式の解が3重根であれば、微分方程式のほうの解はy= e^{\alpha x}( C_2x^2+C_1x+C_0 ) になります。$$

この特性方程式の重解の部分に対する微分方程式のほうの解を、異なる実数解や複素数解に対応する微分方程式の解に加え合わせて、全体の一般解になるわけです。

参考:n次方程式について

複素数係数のn次方程式は、m重解の部分をm個の解と数えると約束するうえで、n個の複素数解(実数解を含めて)を必ず持ちます。これは代数学の基本定理と呼ばれます。(代数学の「基本」となる定理なのかは別問題ですが・・。)
また、2次方程式には「解の公式」がありますが、多項方程式の係数の加減乗除とベキ根(2乗根、3乗根など)の組み合わせで解を一般的に表せるのは4次方程式までで、5次方程式以降は一般的にはその手法では解けない事が知られています。つまり、5次方程式以降は、解は確かに存在するけれど、2次方程式同様の「解の公式」によって手計算で一般的に解く事はできないという事です。(係数のベキ根によって解けるものもありますが、解けないものもあるという事です。)
しかしそうなると、定数係数の線型常微分方程式についても、n次方程式が解ければ微分方程式の解も分かるわけですが、肝心のn次方程式の解のほうが、高次の場合には手計算では一般的には解けない事になるのです。・・そのため、この微分方程式の理論は、ちょっと肝心なところが抜けているという感もあるかもしれません。あくまで、理論的にはこのように言えるという事を踏まえる必要があるかと思います。
代数学の基本定理は代数学の手法で証明する事もできますが、解析学的に証明する方法もあります。ベキ根による「解の公式」の存在(可解性などと言います)については、より代数学的な話なります。

特性方程式による、常微分方程式の解法についての考察

以前考察した簡単な微分方程式の解法について、特性方程式の観点からまとめと考察をしてみます。

解法のまとめと一覧表 ■ 解法の考察(特性方程式の観点から)

解法のまとめ・・一覧表

1階と2階の定数係数の線型常微分方程式を例にして、5つのタイプの微分方程式をまとめてみます。

微分方程式 使用する微分公式
① \(y^{\prime}=0\)  \(f(x)=C\) 定数関数の微分
② \(y^{\prime\prime}=0\) \(f(x)=bx+C\) 単項式の微分
③ \(y^{\prime\prime}-b=0\) \(f(x)=\frac{b}{2}x^2+Ax+C\) 単項式の微分
④ \(y^{\prime\prime}+b^2y=0\) \(f(x)=A\cos (bx+C)\) 三角関数と合成関数の微分
⑤ \(y^{\prime\prime}+by^{\prime}+cy=0\) 1.特性根\(\alpha,\beta\)が重解でない:
\(f(x)=Ae^{\alpha x}+Be^{\beta x}\)
2.特性根\(\alpha\)が重解である:
\(f(x)=e^{\alpha x}(Ax+B)\)
これがこのページで特に扱った内容です。特性根が重解で無い場合は、実数解と複素数解の場合をまとめています。

特性根」とは、「特性方程式の解」の事です。

解法の考察・・特性方程式の観点から見ると?

上記の5つの種類の解は、5番目のタイプで「特性方程式の解」が重解である場合と複素数解である場合を含めると、③タイプを除いて「数学的にまとめる」事も可能なのです。

どういう事かと言いますと、まず④の三角関数タイプは、じつは特性方程式の観点から言うと「特性根として複素数解」を持つ場合なのです。その場合、e の指数関数は複素数と三角関数の関係により表され、任意定数(複素数も可)を上手に選ぶと「実数範囲の三角関数」を解として得る事ができます。特性方程式が複素数解を持つ場合には、解を複素数でも実数でも表せる事を上記で述べましたが、その事です。

①②の、定数関数と1次関数が解のパターンは、ちょっと意外かもしれませんが、特性方程式の観点からは、じつは「特性根が重解」パターンの仲間なのです。(上記では最も面倒だったパターンですね。)ただ、「2階微分=0」のような場合には特性方程式の重解は 0 ですので、指数関数部分は1となって見えなくなるので、定数の場合も含めて1次関数の部分だけが残ります。そのような見方も数学的には可能という事です。

上の表の中でじつは仲間外れなのは③の2次関数タイプで、定数係数の常微分方程式の中で、これだけが「非斉次」タイプで、残り①②④⑤は「斉次」タイプなのです。このページで扱った内容(表の中では⑤)は、全て「斉次」のものです。そのために、③の解だけは⑤の枠組みとは少し違ったものになっている、という見方もできるわけです。(※ただし、非斉次であっても一工夫して斉次の形に変形をしたうえで解く事は可能です。)

重積分の理論と計算

重積分の定義と計算法、累次積分、変数変換と関数行列式について説明します。
微積分の中では、微分方程式無限級数偏微分の理論と並んで、応用数学でも重要です。

高校数学での1変数の積分の定義と公式は別途に詳しく説明しています。

重積分の物理学での応用としては、例えば電磁気学等で使うガウスの発散定理があります。

重積分とは「多変数関数に対する積分」

重積分とは、多変数関数に対する積分です。定積分・不定積分の両方があります。2変数の時を2重積分、3変数の時を3重積分、n変数の時をn重積分(あるいは「多重積分」)・・と、言う事もあります。

重積分の定義と表記方法
積分領域が長方形ではない場合の考え方と処理
重積分の簡単な計算:累次積分による例
重積分と面積・体積との関係 

重積分の定義と表記方法

多変数関数F(x,y,z,・・)をx、y、z、・・のそれぞれで積分する計算を重積分と言います。
単純化のため、ここでは2変数関数F(x,y) を例にします。

計算の仕方の結論を先に言ってしまいますと、まずxだけで積分の計算を行い、その後でyについて積分の計算を行います。yの積分を先に行ってからxで積分しても同じ結果になります。

  1. まず最初は、yなどの変数は定数とみなしてxで積分計算。
  2. xに関して定積分の値を代入したら、今度はyで積分計算。
重積分の表記と計算 $$\int_{y1}^{y2} \int_{x1}^{x2}F(x,y)dxdy=\int_{y1}^{y2}\left(\int_{x1}^{x2}F(x,y)dx\right) dy$$

このような計算の仕方を「累次積分」とも言います。
xの次にyと、続けて逐次的に計算するという意味合いです。
1つの積分変数に着目して積分計算する時は、他の変数は定数扱いにします。
不定積分として表記するなら次のような形になります。

$$\int\int F(x,y)dxdy$$ この時に、後述するように積分領域が長方形ではない場合には、積分区間として定数ではなく関数を代入する場合があります。

変数を増やした場合でも表記方法は2変数の場合に準じます。
例えば3変数なら次のようになります。

$$ 定積分:\int_{z1}^{z2} \int_{y1}^{y2}\int_{x1}^{x2}F(x,y,z)dxdydz \hspace{10pt}不定積分\int \int\int F(x,y,z)dxdydz$$

積分領域が長方形ではない場合の考え方と処理

◆積分区間について、積分を行うxy平面の領域が「長方形」であれば積分区間は
定数を端とする閉区間になります。(例えば [0,1])
他方、領域が座標軸に対して斜めになっていたり、曲がっていたりする場合には次のようにします。

まず、いずれかの変数をもう1つの変数の関数として表して、それを区間とします。
つまり、xとyの2変数で重積分をする時に、まずxで積分をするとすれば領域の端を構成する曲線をyの関数x=x(y)、x=x(y)として区間としておきます。

次に、yを定数とみなして原始関数を式で表せたとします。
その式のxの部分に、通常の定積分計算のようにx=x(y)とx=x(y)を代入をして引き算します。
【例えばx=2yであるとかx=yであるといった形を直接代入します。】
その計算の結果、変数xは全て消えてyだけの関数になります。

最後に残った変数については、定数の区間の定積分を実行します。

3変数以上の場合でも考え方は同じで、変数をx、y、zとして積分する場合には、最初に積分をする変数の区間は2変数関数として表され、2番目に積分する変数は区間が1変数関数で表され、最後に残った変数は区間が定数という形になります。

長方形でない領域の重積分の例
yから先に積分する場合には、yをxの関数で表して先に計算します。

例えば、x=yとx=2yで囲まれる領域を積分範囲を考えたとしましょう。この時に、yに関しては閉区間 [0,2]を考えるとします。その領域上でてきとうな2変数関数F(x,y)があったとして、まずxで積分をする前提であるなら重積分は次のように計算します。

$$\int_{y1}^{y2}\int_{x1}^{x2}F(x,y)dxdy=\int_0^2\int_{\large{y^2}}^{\large{2y}}F(x,y)dxdy$$

一度そのように具体的な関数を区間に代入して表した場合には、積分の順番はx→yのようにきちんと決めて計算を行います。

$$つまり、\int_0^2\left(\int_{\large{y^2}}^{\large{2y}}F(x,y)dx\right)dyのような形で計算を行います。$$

重積分の簡単な計算:累次積分による例

もう少し簡単な例として、てきとうな2変数関数としてF(x, y) = xy というものを考えて、重積分してみましょう。

この時、定積分の場合は x の範囲と y の範囲の両方が指定される必要があります。ここでは、例として x の積分区間は [0, 1]、y の積分区間は [4, 5] という範囲であるとします。【つまり積分する領域が長方形である場合です。】
【★数学では、この2つの範囲を表記する為に [0, 1] × [4, 5] と書く場合があります。この場合の「×」記号は、掛け算ではなくて「直積集合」を表すための記号です。】

では、その設定で重積分してみます。

$$ \int_{4}^{5}\int_{0}^{1} F(x, y) dxdy= \int_{4}^{5}\int_{1}^{2} xy dxdy = \int_{4}^{5} \left[\frac{yx^2}{2}\right]_0^1dy= \int_{4}^{5} \frac{y}{2}dy=\left[\frac{y^2}{4}\right]_4^5=\frac{9}{4} $$

まずyを定数とみなして計算を進める事がポイントです。
1変数の積分の計算さえできれば、計算の考え方としては難しくないはずです。

重積分と面積・体積との関係

1変数の関数の積分には、グラフで表した関数の「面積」という意味がありました。

では多変数の重積分には何の意味があるかというと、2変数関数の重積分には「体積」としての意味があります。この時、積分変数の側のdxdyを面積要素と呼ぶ事があり、物理などで用いる場合はdSと書く場合もあります。(S は surface の頭文字です。)
◆参考:ベクトル解析における法線面積分の考え方

xとyが直交座標の変数であるとき、dxdyは(微小な)長方形の面積というわけです。累次積分によって重積分を計算する場合は、1回目にxで積分することで、各dyに対する非常に薄い板のような立体ができあがり、それをyで積分して全体の体積になるというイメージです。

他方、3変数関数の重積分の場合は、空間上に分布する何らかの値を、特定の領域全体に渡って合計したものという意味があります。この場合、dxdydzを体積要素と呼ぶ事があり、物理などではdvで表記する事もあります。(vは volume の頭文字。)

1変数の積分にも言える事ですが、多変数の重積分においても、不定積分がうまく導出できない場合があります。しかし、積分は「和」の極限値であり、近似できるという考え方によって、コンピュータ(プログラミング)による「数値計算」で積分値を計算する事が可能です。

変数が増えても、物理的な意味付けができる場合には dX1dX2dX3dX4・・・といった積分変数の積を考えて重積分を行う場合もあります。

重積分の変数変換論

重積分の積分変数の変換は、偏微分の理論と深い関係があります。

変数変換の公式と、基本的な考え方:曲線に沿った積分
変数変換の理論と関数行列式:2変数の場合
3変数以上の場合の重積分の変数変換 

変数変換の公式と、基本的な考え方:曲線に沿った積分

通常の重積分を累次積分で計算する時には、まずx軸に沿って関数の積分値を、各yの値に対して計算し、次にy軸に沿って積分をするわけです。

そこで、x=2u+v, y= u+3v のような変数変換をするとします。この時、xとyではなくてuとvで積分する事を考えてみます。

この場合、 じつはxy平面上の「u曲線」と「v曲線」に沿って積分を行う事になります。上記のように変数変換がuとvの1次式である場合は曲線ではなく直線になりますから斜交座標のようなります。

物理などで使われる変換の代表的なものは、極座標変換です。この場合、x=rcosθ, y=rsinθ という変換を行いますが、rとθで積分をする場合には θ 曲線(rが一定:つまり同心円)とr曲線(θが一定:つまり原点から伸びる放射状の直線)に沿って重積分を行うというわけです。

ただし、変換の式を直接代入するだけではじつは不十分で、次に述べますように「関数行列式」と呼ばれるものを掛け算しないと、計算がうまく行かないのです。

変数変換の理論と関数行列式:2変数の場合

1変数の積分での x=x(t) という変数変換では、積分時に(dx/dt)というオマケが必ずついてきました。では、多変数の重積分の場合は、このオマケの部分はどうなるのでしょうか?

この場合は、x=x(u、v), y=y(u, v)である時の長方形の面積 dudvと、それに対応するxy平面での領域の面積比が、積分計算の時に必ず乗じられるのです。この計算を行うには、偏微分を用います。

平面の領域にてきとうにたくさんの点を打って結び合わせる事で、領域を小さな三角形の集まりに近似できます。(もちろん数学的には、正確な領域の面積との差を無限に小さくできるという事です。)

今、それらの点がxy平面上のu曲線、v曲線上に打たれていると考えます。 u曲線とv曲線を、非常に細かい「折れ線」であると考えます。
ここでのポイントは、1つ1つの微小な線分を「偏微分係数」であると考える事です。duに対してx方向には (∂x/∂u)du 、y方向には(∂y/∂u)duの変化があるベクトルが伸びるわけです。【具体的な点では偏導関数の変数に値を代入。】これは図で考えたほうが分かりやすいと思います。

重積分の変数変換と関数行列式
三角形(あるいは平行四辺形)の面積については次のように考えます:
底辺×高さの計算で、高さは「1つのベクトルの長さ×正弦(sinθ)」で表せます。
これについて 成分計算を行うと、ベクトルの成分を用いて簡単に表せるのです。

すると、各点から始まる微小三角形の面積は、平面ベクトルの公式(ベクトルによる平行四辺形の面積公式)により、次のように表せる事が分かります:

微小三角形の面積比 $$dS=\frac{1}{2}\left(du\frac{\partial x}{\partial u}dv\frac{\partial y}{\partial v}-dv\frac{\partial x}{\partial v}du\frac{\partial y}{\partial u}\right)=\frac{1}{2}dudv\left(\frac{\partial x}{\partial u}\frac{\partial y}{\partial v}-\frac{\partial x}{\partial v}\frac{\partial y}{\partial u}\right)$$ これはuv平面の三角形領域(1/2)dudvの面積と、それに1対1に対応するxy平面上の(三角形)面積の関係を表しています。
うしろにくっついてくる偏微分で表される部分が面積比であり、
この形は行列に対する「行列式」の形になっているので「関数行列式」とも言います。
「関数行列式」の定義(2変数関数の場合)

x=x(u、v), y=y(u, v)である時、 $$\frac{\partial x}{\partial u}\frac{\partial y}{\partial v}-\frac{\partial x}{\partial v}\frac{\partial y}{\partial u}\hspace{5pt}を「関数行列式」と呼び、$$ $$\left|\frac{\partial (x,y)}{\partial (u,v)} \right|\hspace{5pt}と表記します。$$

この関数行列式は、某学者のイニシャルをとってJで表記する事もあります。

行列式の定義については、2変数は簡単ですが3変数以上は多少込み入った考え方をします。ただし、そのように定義する事によって、いくつかの行列式の公式が成立したりします。

十分小さな微小三角形の面積と、その領域上のある関数の値を掛け合わせて全て加え合わせたものが定積分の値であり、その値は積分を微分の逆演算と考えて計算した値と等しくなるという事は、1変数の積分と全く同じです。まとめると、2変数の場合の重積分の変数変換の公式は次のようになります:

2変数の場合の重積分の変数変換の公式

x=x(u、v), y=y(u, v)である時、 $$\int_{y1}^{y2}\int_{x1}^{x2} F(x,y)dxdy= \int_{v1}^{v2}\int_{u1}^{u2} \left|\frac{\partial (x,y)}{\partial (u,v)} \right|F(x,y)dxdy$$ 具体的な定積分を行う時には、関数行列式の計算を忘れない事と、
xy平面の領域と、uv平面の領域を1対1にきちんと対応させる事が重要になります。

尚、証明はやや複雑になりますが、三角形ではなく「平行四辺形」で考える事も可能です。

3変数以上の場合の重積分の変数変換

さて、では3変数の時に x=x(u, v, w), y=y (u, v, w) , z= (u, v, w ) という変換をする場合や、4変数、5変数になった場合はどうなるのでしょうか。

この場合、式自体は変数が増えるごとにどんどん複雑になっていって手計算では手に負えなくなりますが、じつは一応規則性はあるのです。結論を言いますと、「n変数→別のn変数」の変換に対しては、n次の関数行列式を乗じればいいのです。2変数の場合は2次の関数行列式というわけです。

n変数の場合の重積分の変数変換の公式

n変数に対して別のn変数に変換する時、つまり $$X_1=X_1(u_1,u_2,u_3,\cdots,u_n),X_2=X_2(u_1,u_2,u_3,\cdots,u_n),\cdots,X_n=X_n(u_1,u_2,u_3,\cdots,u_n)の時$$ $$\int_{x11}^{x12}\int_{x21}^{x22}\cdots\int_{xn1}^{xn2} F(X_1,X_2,\cdots,X_n)dX_1dX_2dX_3\cdots dX_n$$ $$= \int_{u11}^{u12}\int_{u21}^{u22}\cdots\int_{un1}^{un2} \left|\frac{\partial (X_1,X_2,\cdots,X_n)}{\partial (u_1,u_2,u_3,\cdots,u_n)} \right|F(X_1,X_2,\cdots,X_n)du_1du_2du_3\cdots du_n$$ が成立します。
一般のn変数の場合だと式が少々込み入りますが、要するに変換の式を代入して関数行列式を掛けてから積分の計算を行えばいい、という意味です。

この場合の関数行列式の作り方は、行列の行の部分にx、y、z、・・を対応させ、列の部分に対して偏微分する変数u、v、w、・・を対応させ、行列式を作るという形になります。
3変数の場合は、次の形の行列式を考える事になります:

$$\left|\frac{\partial (x,y,z)}{\partial (u,v,w)} \right|=\Large{\left| \begin{array}{ccc} \frac{\partial x}{\partial u}&\frac{\partial x}{\partial v}&\frac{\partial x}{\partial w}\\ \frac{\partial y}{\partial u}&\frac{\partial y}{\partial v}&\frac{\partial y}{\partial w}\\ \frac{\partial z}{\partial u}&\frac{\partial z}{\partial v}&\frac{\partial z}{\partial w}\end{array}\right| }$$

3変数の場合には空間上の4点を結ぶ事で4面体の集まりとして近似する事が(必ず)できますが、じつは3次元空間での「平行6面体の体積」が行列式の形でうまく表現できるという命題があります。
そこで、dudvdwという「立方体」の体積と、対応するxyz空間上の領域の体積比がうまい具合に関数行列式で表せるというわけです。4変数以上の場合は図にはうまく描けなくなりますが、考え方としては同じで、dudvdwdtといった量と、対応する領域の量の比を考えるわけです。

ただし、これは数学的な理論としてはそうなるという事であり、実際問題として4次以上の重積分の変数変換を「手計算」でひたすらやるという作業は、応用上も純粋数学上もほとんどないと言ってよいかと思います。他方で、関数行列式を展開せずにそのままの形で数学的な議論を進める場合や、数値計算を行う場合にはn変数の重積分の変数変換が使われる事もあります。

物理では重積分はどう使われる?

物理で重積分を累次積分で計算する時は、変数変換してから計算する事が比較的多いかもしれません。ただし、変換の仕方は、基本的には極座標や円柱座標などの分かりやすいものが多いです。
(※理論を複雑にしてしまうと応用上の変数変換のメリットがないので、基本的に、式と計算を簡単にするために変数変換を行います。)

また、具体的な定積分の数値の計算はせずに種々の公式や命題を用いて延々と式変形を進めて、最終的には積分の計算が必要なくなる式を理論的に得てから、計算をするという事もよくあります。

例えば、電磁気学では重積分の形の式が非常に多く用いられますが、直接的に重積分を計算するというよりは、モデルの作り方を工夫 する (例えば領域を球面に選ぶなど)事によって、場面に応じて使える公式を得る目的で用いられます。
コンデンサーやソレノイドに対して成立する式などは平易なものですが、おおもとの形には多変数の微分や積分が含まれており、特別な場合をうまく考える事によって式を簡単にしているのです。

全微分の考え方とその応用

今回は、全微分という、少し聞きなれないかもしれない考え方について説明します。これは、前回の偏微分の理論と直接的に関係するものです。全微分の考え方を述べた後に、物理の熱力学での応用について述べます。

英名では、全微分は exact differential あるいは total differential と言います。

★ このページでは、「関数」と言ったら全て(偏)微分可能な関数の事を指す事にします。そのため、「連続な」「偏微分可能な」といった表現は基本的に省略いたします。解析学的に見る場合は、それらの考察も重要になります。

「全微分」とは何か?定義と考え方・偏微分との関係

初めに、数学的な定義と考え方です。本質的に、偏微分と深い関わりがあります。

全微分の定義 単独で表れるdF、dx、・・
全微分と「合成関数に対する偏微分の公式」との関係
1変数の場合の dF や dx の元々の数学的意味は? 

このように、dF/dxといった通常の微分演算(により得られる導関数)ではなく、dF といった単独の表記で表されるものが全微分と呼ばれるものです。

全微分の定義 単独で表れるdF、dx、・・

全微分とは多変数関数について定義されます。多変数関数に関しては偏微分を考える事ができますが、この偏微分による偏導関数を用いて全微分は定義されます。

定義:(多変数関数の)「全微分」

多変数関数 F(x,y,z,・・) の全微分とは、次のように定義します。 $$dF=\frac{\partial F}{\partial x}dx+\frac{\partial F}{\partial y}dy+\frac{\partial F}{\partial z}dz+\cdots$$ このように、単独でdFというものを定義し、別の単独のdxやdyを偏微分(偏導関数)と組み合わせて定義するものが全微分です。(※単に「微分」と呼ぶ事もありますが、当サイトでは避けます。)
物理では、良く使われます。意味については後述していきましょう。

この「dF」が単独で表現される事に違和感を覚えるかもしれません。実際、このままでは具体的な関数の微分計算はできません。例えば、具体的な関数 \(F(x) =e^x\) に対して dF というものを考えたとしても、それは \(dF=d(e^x)\) とだけしか表現のしようのない物でそれ以上計算はできません。導関数として計算できるのは、あくまでdF/dxです。

では、上記定義で表される「全微分」とは何の意味があるのでしょう?この定義の計算としての意味は、じつは合成関数に対する偏微分の公式です。

全微分と「合成関数に対する偏微分の公式」との関係

全微分の定義には偏微分が含まれていますが、本質的に、偏微分について成立する公式と直接的な対応を持っています。合成関数に対する偏微分の公式は、x、y、z・・の各変数が、別の1つだけの変数の関数である場合は次のようになります。

合成関数に対する偏微分の公式

多変数関数 F(x,y,z,・・) の各変数が別の変数t(のみ)の関数である時: $$\frac{dF}{dt}=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{dx}{dt}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{dy}{dt}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{dz}{dt}+\cdots$$ x、y、z、・・が、t、u、v、・・などの多変数関数になる場合は、
ここでのdF/dt、dx/dtなどは偏微分∂F/∂t、∂x/∂tなどになります。

さて、これを全微分の定義の式と見比べてみましょう。
すると、形式的には「全微分の定義」の式について「両辺をdtで割った」形を考えてみるとぴったりと偏微分の公式に一致する事が分かるでしょうか?
じつは全微分の定義にはこのような「意味」があるわけなのです。

!ちょっとだけ注意

★ これは形式的に対応するという事であり、数学的に厳密にはdxをdtで「割って(除算して)」dx/dtにするという演算は行わない事に注意してください。後述もしますが、dx/dtと書いた場合はあくまで「導関数」を指し、極限値として得られる関数です。
ですから、全微分の定義式は偏微分のほうの公式から「導出・証明されるもの」ではなく、あくまで定義になります。

多変数関数が常に合成関数として扱えるという保証はないわけですが、具体的な計算を考える時に意味を持つのは合成関数に対する偏微分の公式のほうです。

それを踏まえたうえで、多変数関数に対する全微分を考える事は割と多くあり、特に物理では使用する事が多いです。

1変数の場合の dF や dx の元々の数学的意味は?

物理などの応用で使う場合は、dF や dx という表記を単独で用いる場合は「微小量」を表す事が多いです。ただし、じつは数学の解析学的にもきちんと意味があります。

上記のように 多変数関数F(x,y,・・)に対する「全微分」dFが定義されるわけですが、じつは1変数関数F(x)に対しても同様にdFという単独の表記にも解析学での定義があります。

解析学的には、dFやdxというのは、
じつは本来は、ある点を新しい原点として設定した時の座標軸の変数です。

その新しい原点での、関数F(x)に対する接線の傾きをAとして、
dF=A(dx)
という1次式を考えます。この1次式は、近似1次式とも呼ばれます。
解析学的に厳密には、この時のdFの事を1変数関数におけるF(x)の微分と言うのです。
この意味では、接線の傾きは「割り算」によって「A=(dF)/(dx)」という事になります。

ただし、導関数として dF/dxと書く時は、あくまで極限値としての導関数として、
dF/dx という表記全体で1つの意味を持つ事にしています。
(導関数に具体的な値を代入したものを微分係数と呼ばれます。)
こういった事が、決め事として少々分かりにくいところかもしれません。

★ 数学において、特に解析学・微分積分学においてdF/dxの事を「導関数」と呼ぶ事にこだわって、慣習的な俗称である「微分」という言葉で呼ぶ事を極力避けようとする傾向があるのはこういう理由があると言えます。本来、数学の用語として区別する事に決めているものであるためです。
ただし応用ではその区別があまり重要でないため(近似的にほぼ同じものとみなせるという解釈を前提におくため)、慣習的に導関数と言わずに「微分」と言ってしまう事が多いわけです。

じつは全微分の定義とは、この意味で用いられているものなのです。すなわち、多変数関数に対しても同様に、dF=A(dx)+B(dy)+C(dz)+・・を考えるという意味です。2変数関数の場合は、3次元座標での「接平面」を考えている事になります。
★ 上記でも触れましたが、多変数の場合でも「微分」と言ってしまう場合もあります。しかしこのサイトでは、基本的に多変数の場合は「全微分」と呼ぶ事にします。

平面と3次元空間の場合の接線と接平面の考え方は、変数の数が増えても同様に使えます。

この時に、1変数関数の場合には接線の傾きと考えていたものについて、多変数関数の場合は各変数に沿った傾きとするわけです。座標上の具体的な点においては、偏導関数に特定の値を代入した偏微分係数が各傾きになります。
すなわち上の式で、A=∂F/∂x、B=∂F/∂y、C=∂F/∂z、・・という事です。
意味としては、こういう事なのです。

重要公式:積の形の関数に対する全微分

2つの多変数関数F(x,y,z,・・)と G(x,y,z,・・)の積【掛け算】FGに対する全微分d(FG)を考えてみます。結論を先に言うと、1変数の微分の時の積の微分の時と同じ形の式が成立します。これも、物理での応用で使われます。

積の形の関数に対する全微分の公式
証明に必要な事: 積の形の関数に対する偏微分
積の形の全微分の式の証明 

これに関する理屈はごく簡単ですが、物理などでの応用では重要になります。

積の形の関数に対する全微分の公式

積の形の関数に対する全微分については、通常の1変数関数の場合の、積に関する微分公式同様の式が成立します。
これは数学の解析学ではそれほど重要な式ではありませんが、物理では使う事があるので述べておきましょう。

積の形の関数に対する全微分 2つの多変数関数 F(x,y,z,・・)と G(x,y,z,・・)の積 FG に対する全微分です
次のように、2つの項の和の形で表されます。 $$d(FG)=(dF)G+(dG)F$$ $$=\left(\frac{\partial F}{\partial x}dx+\frac{\partial F}{\partial y}dy+ \frac{\partial F}{\partial z}dz+\cdots\right)G+\left(\frac{\partial G}{\partial x}dx+\frac{\partial G}{\partial y}dy+\frac{\partial G}{\partial z}dz+\cdots \right)F$$ これは全微分の定義から導出もできますし、積の形の合成関数の偏微分公式に対応させても可です。

この公式が成立する事を示すには、「積の形の関数に対する偏微分」がどのように表されるかという事が問題になります。ただ、この問題はじつは難しくなくて、1変数の時と同じように考える事が出来ます。

証明に必要な事: 積の形の関数に対する偏微分

偏微分に関して、積の形に対する計算は通常の微分の場合と同じく次式が成立します。

$$\frac{\partial }{\partial x}(FG)= \frac{\partial F }{\partial x} G+ \frac{\partial G } {\partial x} F$$

これに対する証明は、(合成関数の場合とは違って)1変数の場合の積に対する微分公式と全く同じです。プラスマイナスでゼロになる2つの項を加える事で証明できます。式の形を見ると、本質的に1変数の時と同じである事が分かります。
2変数の場合を記しますが、何変数でも同じです。

$$ \frac{\partial }{\partial x}(F(x,y)G(x,y))= \lim_{h\to 0}\frac{F(x+h,y,)G(x+h,y)-F(x,y)G(x,y)}{h}$$

$$= \lim_{h\to 0} \frac{F(x+h,y)G(x+h,y)-F(x,y)G(x+h,y)+\{ F(x,y)G(x+h,y)- F(x,y)G(x,y)\}}{h} $$

$$= \lim_{h\to 0} G(x+h,y) \frac {F(x+h,y) – F(x,y)}{h}+ \lim_{h\to 0} F(x,y) \frac {G(x+h,y) – G(x,y)}{h}$$

$$= \frac{\partial F }{\partial x} G(x,y)+ \frac{\partial G }{\partial x} F(x,y)【証明終り】 $$

このように、1変数の時と同じです。

★ 合成関数の時に通常の微分と偏微分とで追う式の形が変わるのは、1つの変数tなどに対してx、y、z、・・の全ての変数に関して x+h, y+h, z+h,・・を考える必要があり、プラスマイナスゼロになる項を複数加える必要があるからです。

積の形の全微分の式の証明

では、関数が積の形の場合の全微分の式の「証明」について見てみましょう。
こういう場合、上記の定義のFの部分に(FG)という積の形をそのまま入れて、計算が可能であれば進めていって公式を得るという方法をとります。すると、よく見ると積の部分は偏微分の計算さえできればよい事が分かります。

積の形になっている部分の偏微分を、1変数の時と同じ要領で計算していきましょう。すると・・・・。

$$d(FG)=\frac {\partial (FG) }{\partial x}dx+ \frac {\partial (FG) }{\partial y}dy$$

$$= \left(\frac{\partial F }{\partial x} G+ \frac{\partial G }{\partial x} F\right) dx+ \left(\frac{\partial F }{\partial y} G+ \frac{\partial G }{\partial y} F\right) dy$$

$$ = \left(\frac{\partial F }{\partial x}dx + \frac{\partial F }{\partial y}dy \right)G+ \left(\frac{\partial G }{\partial x}dx + \frac{\partial G }{\partial y}dy \right)F=(dF)G+(dG)F 【証明終り】$$

このように、偏微分に関して積の計算をした後、上手にFとGに関してまとめると、dFとdGの定義の形が出てくるので d(FG)=(dF)G+(dG)F という形にまとまるわけです。

つまり、結果として、多変数関数に対する全微分も、積の形の関数に対しては
1変数関数や偏微分の場合と同じ形になる、という事です。

じつは、合成関数の偏微分に対して積の形の場合を計算して対応させると考えても同じ結果を得ます。
その場合の計算も記しておきましょう。
(上記と同じく、x,y はtだけの関数とします。つまり∂x/∂t=dx/dtです。)

$$\frac{d(FG)}{dt}=\frac {\partial (FG) }{\partial x}\frac{dx}{dt}+ \frac {\partial (FG) }{\partial y}dy$$

$$= \left(\frac{\partial F }{\partial x} G+ \frac{\partial G }{\partial x} F\right) \frac{dx}{dt} + \left(\frac{\partial F }{\partial y} G+ \frac{\partial G }{\partial y} F\right) \frac{dy}{dt} $$

$$= \left(\frac{\partial F }{\partial x} \frac{dx}{dt} + \frac{\partial F }{\partial y} \frac{dy}{dt} \right)G+ \left(\frac{\partial G }{\partial x} \frac{dx}{dt} + \frac{\partial G }{\partial y} \frac{dy}{dt} \right)F= \frac{dF}{dt} G+ \frac{dG}{dt} F $$

得られた式から形式的にdtの部分を除くと、積の形に対する全微分の式にちょうど対応します。

物理での使い方:熱力学での例

全微分の形で議論を進める分野の1つの例として、初歩的な熱力学の理論について述べます。

熱力学での色々な変数
内部エネルギー変化dUの計算 全微分と偏微分の関係の利用
エンタルピーHの変化量dH と積に対する全微分の式 

熱力学の理論における、全微分の使用例を見てみましょう。
この理論はさらに、化学反応に対する物理化学的な考察に使われたりします。

熱力学での色々な変数

熱力学とは、通常の力学や電磁気学とは少し性質が異なり、どちらかというと物理化学などの分野と相性がよい領域です。熱力学では、ある「系」(例えば容器に入った気体)について、まず次の量を考えます。

  • 体積V
  • 圧力P
  • 温度T【これは、いわゆる絶対温度で、0[℃]を298[K]とします。】
  • 内部エネルギーU

また、これらを組み合わせた量や、系に出入りする「熱」(温度とは別)も考えます。

  • 熱 q
  • 仕事 w【本質的には力学での仕事と同じものです。】
  • エンタルピー H=U+PV【主に発熱・吸熱として観測できる量です。】
  • エントロピーS ・・dS = Δq /T なるSとして定義

これらの変化量を dV 、dP などの全微分の形で表記して議論を進めます。物理でこれらを考える場合には時間という変数で微分・積分が可能と考えられますからdv/dtなどを考えても同じ事ですが、導関数ではなくて全微分の形で話を進めてしまう事が普通です。

上記の量のうち、「エントロピー」(記号S)というものだけが妙な定義のされ方をされているように見えるかと思いますが、これで計算を行うという理論になります。意味としては、系の「乱雑さ」の度合いを表す量です。

$$積分によりS=\int_{T1}^{T2 } \frac{Δq}{T} dTとも表せます。【このページでは、あまり関係ありません。】$$

「エンタルピー」という量(記号H)も少し分かりにくいかもしれませんが、定圧条件(dP=0)で dH=Δq となり、発熱・吸熱として比較的観測しやすい量なので敢えて定義されるものになります。

参考:系の「状態量」であるものは体積・圧力・温度・内部エネルギー・エントロピーであり、熱や仕事は「非状態量」です。「非状態量」という語には、系にされる仕事と形に出入りする熱の比は条件によっていくらでも変えれるので系自体の状態の量を表さない・・という意味合いが含まれています。熱力学では重要な考え方です。微小量を考える時、状態量については全微分としてdVなどで表し、非状態量についてはΔqなどと書いて区別する事が多いです。

内部エネルギー変化dUの計算 全微分と偏微分の関係の利用

まず、内部エネルギーの「変化」を考えます。つまり、Uに対してdUを考えるわけです。このdUは、全微分です。しかし最初は、上記の全微分の定義は直接的には使わずに少しだけ計算を進めます。いくらか変形した後で適用する箇所があります。

物理的な考察から、dU=Δq + Δw  と書いておきます。※dw、dqと書いてもよいのですが、非状態量である事を強調して区別する事が多いです。

意味としては、外部からの圧力で仕事がされた、外部から熱が入ってきたという状況です。(あるいは膨張などで外部に仕事をした・熱が外に出て行ったなど。)

ここで、まずΔw=- (dV)P の関係があります。
これは、等圧(dp=0)の条件下で、次の仮定でのモデルを考える事によります:

  • 系が外部に仕事をした時は体積が増える。
  • その分、内部エネルギーは減る。(温度は下がる。)

逆に、逆に外部から仕事をされた場合は体積は減りますが内部エネルギーは増えます。

また、熱の変化Δqに関しては、
dS=Δq/T ⇔ Δq=(dS)T
の関係からエントロピーでの表記に直します。

組み合わせて、dU=(dS)T -(dV)P という関係式を作っておきます。

数学的な全微分の定義の式を直接使って考察をするのはここからです。

ここで、Uが多変数関数U(S,V,・・)であるとして、
さらに「等圧条件」dP=0と「等温条件」dT=0という場合を考えます。
(このように所定の条件を加えて考察する事が多いです。)
すると、全微分としては次のようにります。

$$dU=\frac{\partial U}{\partial S}dS+\frac{\partial U}{\partial V}dV+\frac{\partial U}{\partial T}dT+\cdots= \frac{\partial U}{\partial S}dS+\frac{\partial U}{\partial V}dV $$

普通に全微分を考える際にはdP、dTを含めた項も含まれますが、dP=0、dT=0【圧力、温度の変化は無し】という条件を設けるので式が簡単になるわけです。

成立する2式を並べて書くと次のようになります。

得られる2式 $$ dU=T(dS) -P(dV)  かつ$$ $$ dU = \frac{\partial U}{\partial S}dS+\frac{\partial U}{\partial V}dV $$

この事から何が言えるでしょう?
結論を言いますと、Uに対するS,Vの偏導関数がそれぞれT、Pであると解釈がなされるのです。

得られる解釈$$すなわち、等温・等圧条件のもとでは\hspace{10pt}\frac{\partial U}{\partial S} =T,\hspace{10pt} \frac{\partial U}{\partial V}=-P\hspace{10pt}という解釈がなされます。 $$

ここから先も計算による考察が続くのですが、このページではここで止めておきます。

エンタルピーHの変化量dH と積に対する全微分の式

次の例として、エンタルピーHの変化量dHを考えてみましょう。
これに対しては、積に対する全微分の式を用いるのです。

「エンタルピー」Hの定義は、H=U+PV です。も考えておきます。

次に、Hの変化量(全微分)を考えます。
これは dH=dU+d(PV) になります。

ここで上記の「積の形に対する全微分」の公式を適用しましょう。
PVという、圧力と体積の積になっている部分に対して適用します。すると、
dH=dU+d(PV) = dU+(dP)V+(dV)P
という形になるわけです。

参考:等圧条件dP=0の時、dH= dU+(dP)V+(dV)P = dU+(dV)Pになります。
他方、dU=Δq+Δw=Δq-(dV)Pなので、dU+ (dV)P=Δq
つまり、dP=0 ⇒ dH=Δq という事であり、
等圧条件下ではエンタルピーの変化は熱の変化(系への出入り)として表される
・・という解釈が、理論的に成立するというわけです。

前述でも触れましたように、この部分の計算は1変数関数の積に対する微分公式と同じ形になるので「通常の微分(変数は時間)」と捉えて計算しても結果的に差し支えない箇所です。
ただし、本質的にこれらのP、V、U、Sなどは多変数関数である事に注意も必要です。そのため、一応多変数関数の全微分と捉えたほうがよいとは思います。

この他に、A=U-TS、G=H-TSといった量を考えます。(いずれもエネルギーとして考えられます。)dAやdGも、dHと同じく積に関する全微分の式を考えて変形を行う事ができます。

熱力学というのは決して分かりやすい分野ではなく、この他にも色々な面倒な計算の理論があったりします。しかし、数学の偏微分や全微分の理論を踏まえておくと、初歩的な部分に関しては大分分かりやすくなるのではないかと思います。

参考文献・参考資料

■ 参考文献のリンクは、外部リンクになります。

偏微分とは?【定義・計算・公式】

この記事では、偏微分について説明します。

★ 英名は、「偏微分」の演算の事を partial differentiation、
偏微分によって得る「偏導関数」を partial derivative と言います。

この偏微分の考え方は、解析学・微分積分学的にも重要ですが、特に物理での応用で重要です。大学の物理学では割と初歩的な理論の中でも偏微分を普通に使いますので、ぜひ知っておきましょう。まずは記号に慣れていただく事が大事かと思います。
合成関数に対して成立する偏微分の公式も、
物理学の種々の分野の要所で用いられる重要公式です。

偏微分の定義と使い方

では、まず偏微分の定義と簡単な計算方法、物理等での基本的な使い方を見てみましょう。「偏『微分』」という名の通り、微分の仲間です。

偏微分の定義 ■ 偏微分の簡単な計算例 ■ 物理での偏微分の使われ方の例 

2つ以上の変数を含む関数について、「1つの変数だけで微分の計算」を行うのが「偏微分」です。
偏微分に対して、通常の微分を「常微分」とも言います。

偏微分の定義

偏微分の定義自体は非常に簡単で、要するに、多変数の関数において、「1つの変数だけに着目し、他の変数は定数とみなして微分の計算をする事」です。

偏微分の定義

多変数関数F(x,y,z,・・)【てきとうな例:F(x,y,z)= xy + z】に対して、
を1つの変数に着目して、
演算「xでの偏微分」を次のように定義し、偏微分によって新しくできた関数を偏導関数と呼びます。
変数yやzに対しても同じように定義します。 $$ \large \frac{\partial}{\partial x}F(x,y,z,\cdots)=\lim_{h\to 0}\frac{F(x+h,y,z,\cdots)-F(x,y,z,\cdots)}{h}$$ $$記号「\partial」は、「ラウンド・ディー」という名で呼ばれます。$$ 通常の微分の時と同じく、偏微分によりできた偏導関数の事を単に「偏微分」と 呼んでしまう事も多くあります。また、∂/∂xなど、基本的には通常の微分と同じく種々の表記方法が認められています。

偏導関数に特定の値を代入した「偏微分係数」は
$$\large \frac{\partial F}{\partial x}(a,b,c)\hspace{5pt}や\hspace{5pt}\partial xF(a,b,c)$$のように書きます。

偏微分の簡単な計算例

例として、てきとうな関数 F(x,y,z)= xy + z をxで偏微分してみましょう。この時、yとzは定数扱いにしてxだけで「微分」すればよいのです。

$$\frac{\partial}{\partial x}F(x,y,z)=\frac{\partial}{\partial x} (xy + z) =y $$

この場合、xy の部分はxでの偏微分ではxの部分だけ微分してyは定数係数扱いです。
z項の部分はxに関しては定数と考えて、
zをxで偏微分すると0になるわけです。(∂/∂x)z=0 という事です。
基本的な考え方は簡単ではないでしょうか?

★ zがxに対する「独立した」変数である場合にこのような計算になります。もし、zがxの関数であったら、後述する合成関数の偏微分公式を使う必要があります。いくつかの変数が互いに「独立」であるか「従属」であるかは、場合によっては結構重要になります。

もう1つ例として、極座標の形で表した関数の偏微分を考えてみます。F(r,θ)=rcos θ とします。これに対するrの偏微分と、θの偏微分を考えてみましょう。

$$ \frac{\partial}{\partial r}F(r,\theta)= \frac{\partial}{\partial r} (r\cos \theta)= \cos \theta $$

$$ \frac{\partial}{\partial \theta}F(r,\theta)= \frac{\partial}{\partial \theta} (r\cos \theta)= -r\sin \theta $$

偏微分のラウンドディーの記号に慣れてないと難しく見えるかもしれませんが、やってる事は通常の微分と計算と同じなので、じつは単純なのです。

物理での偏微分の使われ方の例

物理では、関数が座標成分と時間の両方の関数である場合に、「時間だけの変化率」を考えたい時に時間による偏微分を行います。

例えば電磁誘導は磁場の変化(時間微分)によって起電力が発生するというものですが、
電場は時間以外に位置座標 x, y , z の関数でもあるので「時間変化」という事を明確にするために時間による偏微分で表現します。

$$電磁誘導の式:\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}\hspace{10pt} \overrightarrow{E} :電場  \overrightarrow{B}:磁場【あるいは磁束密度】 $$

時間ではなくて位置座標による変化という事を明確にするのであれば、位置座標による偏微分を考えます。
例えば、磁場に関しては次の式が必ず成立します。 「単独で存在する磁荷」は無い事を表現します。

$$ \large \frac{ \partial B_X}{\partial x}+ \frac{ \partial B_Y}{\partial y} + \frac{ \partial B_Z}{\partial z} =0 \hspace{10pt} \overrightarrow{B}=(B_X,B_Y,B_Z) $$

このように、意味としては「どの変数に着目してるのか?」それを明示しているのが偏微分というものです。使われ方としては、基本的には単純なのです。
(※微分方程式の解き方も含めて、計算は面倒になる場合も確かにありますが、偏微分そのものが複雑な演算というわけではないという事です。)

工学の場合は、分野によってはそれほど偏微分の理論を使わずに通常の微分で大体足りるものも中にはありますが、物理では力学などの基礎的な部分も含めて、偏微分の考え方は非常に多く用います。

重要公式:合成関数に対する偏微分

合成関数を考える場合、じつは合成関数に対する偏微分の公式は、通常の1変数の時の合成関数の微分公式と形が異なります。この点を誤解すると物理などの理論で混乱を招くので、公式の形が変わるという点は偏微分の基礎理論の重要ポイントの1つです。

多変数関数の合成関数の考え方 ■ 合成関数に対する偏微分の公式 ■ 公式の証明 

1変数の時とは形が異なるので注意しましょう。
偏微分の時の形の特別な場合が常微分の場合の合成関数に対する微分公式であるとも言えます。

多変数関数の合成関数の考え方

1変数の場合、例えば F(x) に対して x = G(t) であれば F(G(t)) という合成関数になります。

これに対して、多変数の場合は、例えば F(x,y) について、xとyのそれぞれについて、別の多変数 u, v を用いて x = X(u, v) , y = Y(u, v) で表し、
F(x,y) = F( X(u, v) , Y(u, v) ) となるという考え方をします。これは、慣れないと少し分かりにくいかもしれません。

考え方としては、3変数を2変数による合成関数として考えたり、2変数を3変数による合成関数と考える事もできます。

これは、例えば位置座標 x, y, z で表される関数を3次元の極座標で表すために r, θ, φ という別の3つの変数を用いた合成関数として表す事が可能です。(計算は、一般的に結構面倒くさくなります。)

合成関数に対する偏微分の公式

公式は、次の通りです。変数を1つだけと考えると、通常の合成関数の微分公式になります。

公式:合成関数に対する偏微分

多変数関数F(x,y,z,・・)に対して、x, y, z, ・・・のそれぞれが u, v, w, ・・の多変数関数である時、
つまり x = X(u,v,w,・・), y = Y(u,v,w,・・), z = Z(u,v,w,・・),・・の時、
F(x,y,z,・・) に対して u, v, w, ・・のそれぞれで偏微分して得る偏導関数は次のようになります: $$\frac{\partial}{\partial u}F(x,y,z,\cdots)=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial u}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial u}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{\partial z}{\partial u}+\cdots$$ $$\frac{\partial}{\partial v}F(x,y,z,\cdots)=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial v}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial v}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{\partial z}{\partial v}+\cdots$$ $$\frac{\partial}{\partial w}F(x,y,z,\cdots)=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial w}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial w}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{\partial z}{\partial w}+\cdots$$ $$\cdots$$ $$★これらの式において、\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial u}は、2つの偏導関数の掛け算です。$$ u, v, w, ・・のそれぞれでの偏微分について、このような和の形になります。

何変数でも同じ事ですが、例えば2変数に対して2変数による合成関数を考える時、つまり F(x,y) に対して x = X(u,v), y = Y(u,v) の時に、F に対して u, v で偏微分する時は次のようになります。

$$\frac{\partial}{\partial u}F(x,y)=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial u}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial u}$$

$$\frac{\partial}{\partial v}F(x,y)=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial v}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial v}$$

1変数に対して別の1変数の合成関数であれば、次のように、通常の1変数の合成関数の公式と一致します。

$$1変数の場合は \frac{\partial}{\partial t}F(x)= \frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial t}=\frac{dF}{dx} \frac{dx}{dt} $$

公式の証明

合成関数に対して偏微分を考える場合、なぜ和が出てくるのか?という話ですね。基本的の証明の方法は、1変数の場合の、積や商の微分公式の証明と似ています。プラスとマイナスがゼロになって「隠れている」項があるわけです。

証明は、偏微分の定義の式に戻って計算を進めます。1つの変数 u で偏微分する時は、v, w,・・等は計算に影響しないので、ここでの証明では v, w 等の記載を省かせていただきます。本質的には、それらの変数もあると思ってください。

$$F(X(u+h),Y(u+h),Z(u+h))-F(X(u),Y(u),Z(u))に対して、$$

$$F(X(u),Y(u+h),Z(u+h))- F(X(u),Y(u+h),Z(u+h)) および$$

$$F(X(u),Y(u),Z(u+h))- F(X(u),Y(u),Z(u+h)) を加えます。 $$

すると、Fに対する u の偏導関数は次の和の形になります。
途中で平均値の定理を用いていて、xに対して特定の値を代入している部分があります。

$$ \large \frac{\partial}{\partial u}F(x,y,z) $$

$$= \large \lim_{h\to 0}\frac{F(X(u+h),Y(u+h),Z(u+h))-F(X(u,v),Y(u,v),Z(u,v))}{h} $$

$$ \large =\lim_{h\to 0} \frac{F(X(u+h),Y(u+h),Z(u+h))- F(X(u),Y(u+h),Z(u+h))}{h} $$

$$ \large + \lim_{h\to 0} \frac {F(X(u),Y(u+h),Z(u+h))- F(X(u),Y(u),Z(u+h))}{h} $$

$$ \large + \lim_{h\to 0} \frac{F(X(u),Y(u),Z(u+h))- F(X(u),Y(u),Z(u))}{h} $$

$$ \large =\lim_{h\to 0} \frac {\{X(u+h)-X(u)\} \partial x F(\phi_X,Y(u+h),Z(u+h))}{h} 【平均値の定理】$$

$$ \large +\lim_{h\to 0} \frac {\{Y(u+h)-Y(u)\}\partial y F(X(u),\phi_Y,Z(u+h))}{h}$$

$$ \large +\lim_{h\to 0} \frac {\{Z(u+h)-Z(u)\} \partial z F(X(u),Y(u), \phi_Z) }{h}$$

$$ \large =\lim_{h\to 0} \left\{\frac {X(u+h)-X(u)}{h} \partial x F(\phi_X,Y(u+h),Z(u+h))\right\} $$

$$ \large +\lim_{h\to 0} \left\{\frac {Y(u+h)-Y(u)}{h} \partial x F(X(u),\phi_Y,Z(u+h))\right\} $$

$$ \large +\lim_{h\to 0} \left\{\frac {Z(u+h)-Z(u)}{h} \partial x F(X(u),Y(u),\phi_Z)\right\} $$

$$ \large = \frac{\partial x}{\partial u} \frac{\partial F}{\partial x} + \frac{\partial y}{\partial u} \frac{\partial F}{\partial y} + \frac{\partial z}{\partial u} \frac{\partial F}{\partial z}= \frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial u}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial u} + \frac{\partial F}{\partial z}\frac{\partial z}{\partial u} 【証明終り】$$

一番最後のところは掛け算の順番を入れ替えて書き直しただけです。

$$ \large \partial x F(\phi_x,Y(u+h),Z(u+h))などは、y=Y(u+h),z=Z(u+h)に値を固定して$$ $$ \large xで偏微分し、x=\phi_x を代入したものです。\phi_x \in [X(u),X(u+h)]$$ $$ \large また、\lim_{h\to 0}\phi_X =X(u) であり、\phi_Y,\phi_Zについても同様です。$$ ここではX(u,v,w,・・)を略記してX(u)と書いているので、 $$ \large \lim_{h\to 0}\frac {X(u+h)-X(u)}{h} の部分は偏微分 \frac{\partial X(u,v,w,,\cdots)}{\partial u} =\frac{\partial x}{\partial u} です。$$ 平均値の定理は使用しなくても別にいいのですが、hの処理を見やすくするために使用しました。

1変数の場合は上記のようにプラスマイナス0を利用した項の付け加えが必要なかったので、和の形ではなく1項だけになります。

★ x,y,z,・・の側の変数がn個の場合も、同様の形のn個の和として表せます。
例として、4変数の場合を考えてみましょう。つまり、F(x,y,z,t) に対して、x,y,z,s が u, v,・・・の関数である場合です。
この場合、次のものを加えて定義の極限を考えればいいのです。 $$F(X(u),Y(u+h),Z(u+h),T(u+h))- F(X(u),Y(u+h),Z(u+h),T(u+h)) $$ $$+F(X(u),Y(u),Z(u+h),T(u+h))- F(X(u),Y(u),Z(u+h),T(u+h))$$ $$+F(X(u),Y(u),Z(u),T(u+h))- F(X(u),Y(u),Z(u),T(u+h))$$ このような感じで、u と u+h の組について、1つずつずらしていく形で組み合わせれば、何変数であっても上記の証明と同じ手順で合成関数に対する偏微分の公式を証明できます。

n変数に関して同様に証明可能です。

合成関数の偏微分は物理の中では様々な箇所で用いられますが、例えば全微分というものとの関連で熱力学や流体力学の理論で用いたり、リーマン幾何学との関連で相対論で計算を考える時もあります。また、基本分野の古典力学の理論でも使用する事があります。得られた結果は電磁気学等でも使用します。

★ 関連記事:偏微分の応用の例:位置エネルギーと保存力の関係