余弦定理

余弦定理とは、三角形の3辺と1つの角の余弦について成立する関係式です。
(英:cosine rule)

特別な場合として余弦定理を直角に対して適用すると三平方の定理の形になります。
(ただし、余弦定理一般を証明するには普通は三平方の定理を使います。)

三角比の余弦(コサイン)と三角関数の余弦関数については別途に述べています。

定理の内容

余弦定理の内容は次のようなものです。

余弦定理

三角形ABCの辺の長さをBC=a、AC=b、AB=cとして、
∠BAC=θ(長さaの辺BCの対角)とする時、次の関係式が成立します。 $$a^2=b^2+c^2-2bc\cos \theta$$ θは鋭角でも鈍角でも成立し、
θ が直角の時には三平方の定理a=b+cになります。
また、θ=0、\(\pi\)の場合は3点が1直線上に並んでいる場合であり、
座標上などで角度に向きをつけている場合には負の角度を代入しても正しい関係式を表します。

三角形のある1辺の具体的な値を知りたい時には「2辺の長さと1つの角度の『余弦』の値が分かれば計算は可能である」という事が、余弦定理の意味と使い方です。

定理の内容

余弦定理を証明する一番シンプルな方法は三平方の定理を使う方法です。(三平方の定理は相似条件・合同条件といった条件だけで証明できます。)

ここでは、対象の角の大きさが鋭角か鈍角で場合分けをして証明します。
式変形も含めてやや詳しく説明していますが、要するに三平方の定理を適切に適用すると関係式を導出できるというのが証明の流れになります。

証明①:鋭角の場合

まず対象の角度の大きさが鋭角の場合です。

この場合、もう1つの角についても鋭角か鈍角かで場合分けしますが、得られる結果は同じになります。どちらの場合でも、三角比の関係を使って上手に直角三角形の辺の関係を作ります。

下図で、∠BAC=θが鋭角のもとで、∠ABCが鋭角か鈍角かを見ます。

∠ABCが鋭角の場合(図の上側)、直角三角形を作るように線分ABを延長して点Hをとります。この時、直角三角形である△ACHの底辺部分AHの長さは余弦を使ってbcosθで表せます。

鋭角の場合の証明

他方、高さ部分もCH=hは正弦を使ってh=bsinθと表せますが、単純にこれに三平方の定理を適用してもじつはうまくいきません。そこで、△ACHだけでなく、△BHCも直角三角形である事に注目します。すると、BH=bcosθ-cになる事に注するとうまくいきます。

BH+h=a ⇔ (bcosθ-c)+h=a

他方、△ACHについてAH=bcosθ 、CH=hのもとで三平方の定理を適用します。

(bcosθ)+h=b ⇔ h=b-bcosθ

つまり、未知数のhは代入して消す事ができます。

(bcosθ-c)+h=a に h=b-bcosθを代入すると、bcosθ-2bccosθ+c+b-bcosθ=a
⇔ a=b+c-2bccosθ 【bcosθの項が消えてあとは順番だけ整理しただけです。】

つまりこの場合では余弦定理が確かに成立する事になります。

次に∠BAC=θと∠ABCが両方とも鋭角の場合(図の下側)には、点Cから辺ABに垂線を下ろせます。その垂線の足をHとおきます。この場合も先ほどとやり方自体は同じで、△AHCと△CHBの2つが直角三角形になり、CH=hとして余弦と組み合わせて三平方の定理で関係式を作ります。

AH=bcosθ、CH=h、BH=c-AH=c-bcosθ のもとで、

(bcosθ)+h=b かつ (c-bcosθ)+h=a 

前者のほうの式を後者のほうの式にhを代入して消します。
(c-bcosθ)+b-(bcosθ)=a ⇔ a=b+c-2bccosθ

よって、この場合でも余弦定理が確かに成立する事になります。

証明②:鈍角の場合

では、∠BACが鈍角の場合はどうするかというと、この場合には余弦に鈍角を入れる必要があるので三角関数として余弦を考える必要があります。結論を先に言うとcos(x+\(\pi\)/2)=-sinxの公式を使います。この関係を認めるうえで、余弦定理の形で辺の長さの関係を表せるという事です。

この時、鋭角である角度 φ を使って、θ = φ+90°と表すとこの時の証明はしやすいです。ただ、三角関数を使うので、ここで角度は弧度法で表してθ = φ+\(\pi\)/2と書く事にします。

この時、図のように△ABPが直角三角形になるように便宜上の点PをBC上において、∠ABPが直角、∠PBC=φ(鋭角)であると捉えます。(図の位置関係はθが鋭角の場合と少し変えて描いています。)

鈍角の場合の証明

ここで、θ=∠PBC+∠ABP=φ+\(\pi\)/2です。この時、ABを延長しCからその延長線に垂線を下ろして垂線の足をHとします。

平行線の錯角の関係により∠BHC=∠PBC=φである事に注意し、△BHCは直角三角形なのでBH=bsinφ、CH=bcosφと表せます。ここで△AHCも直角三角形なので三平方の定理で関係式を作ると次のようになります。

(c+bsinφ)+(bcosφ)=a ⇔ c+2bcsinφ+bsinφ+bcosφ=a

ここでまず、sinφ+cosφ=1の公式により
sinφ+bcosφ=b(sinφ+cosφ)=b

すると、c+2bcsinφ+b=a

「余弦」定理の証明なのに正弦が出てきてしまったという話ですが、cosθ = cos(φ+\(\pi\)/2)=-sinφ つまりsinφ=-cosθとなるので、a=b+c-2bccosθ となり、この場合も余弦定理が成立します。

これは三角関数の定義に従って余弦の値を決める時に成り立つもので、具体的な鈍角の値を余弦関数に入れると必ず負の値ですから、符号は必ず反転してプラスになる事に注意する必要もあります。

例えば120°(2\(\pi\)/3 [rad]) を角度として代入するなら、
=b+c-2bc・(-1/2)=b+c+bc のようになります。

理解の仕方としては、θが鋭角であろうと鈍角であろうと、三角関数の定義に従って余弦の値を考える限りは気にせずに余弦定理を使って計算をしてよい、という事になります。

角度の範囲が実数全体の場合

三角関数の定義域(実数全体)を当てはめるのであれば、上記以外の場合にはどうなるでしょう?

まず鋭角でも鈍角でもない角度として「直角」がありますが、これは冒頭でも触れた通り三平方の定理そのものになりますので、別途に証明できて成立します。

次に、0と180°(\(\pi\))の場合ですが、仮に成立するとすると次のような式になります。

θ=0とき、a=b+c-2bc=(b-c) より、a=b-cまたはc-b

θ=\(\pi\)のとき、a=b+c+2bc=(b+c) より、a=b+c

(もちろん、a≧0、b≧0、c≧0という条件のもとでこうなります。)

問題はこれに図形的な意味があるかという事ですが、じつは確かにあります。これらはいずれも、3点A、B,Cが一直線上に並んだ時にあり得る関係式です。そのため、これらの角度においては「三角形はできない」という図形的な意味付けをするのであれば、各点間の距離を表す式として余弦定理は確かに成立すると言えます。

一般の角度の場合
余弦定理を使う時には、通常の平面幾何的な意味では0°<θ<180°の範囲だけを考えればよいのですが、図形的な意味を拡張してそれ以外の値を代入する事も可能です。

では、180°(\(\pi\))を超える場合はどのように考えられるでしょう。この場合、三角関数の考え方では負の角度が0~-\(\pi\)の場合と同じなので負の角度の場合を考えると、余弦関数の値はマイナス符号をつけない正の値の時と同じ値です。cos(-θ)=cosθと、三角関数では定義されます。

このような場合に図形上での意味としては、座標やベクトルの関係において角度に反時計回り・時計回りの区別をつける時の事が想定できます。しかしその場合でも「2点間の距離」自体は正の値として考えます。例えば座標上でx軸に平行な直線に関して図形を反転させた場合に、座標の符号が変わる事はあっても各点を結ぶ辺の「長さ」自体は変わりません。

この事が、負の値を角度として適用した場合の図形的な意味になります。0≦θ≦\(\pi\) の場合には余弦定理は適用可能ですから、-θを考えた時には cos(-θ)=cosθ により角度が正の値の時と全く同じ辺の長さの関係式になります。これが、「底辺を軸として三角形を反転させた時にも辺の『長さ』自体については変わらない」事に対応するのです。この意味において、座標上などで角度に向きをつける場合でも、辺の長さの関係だけを問題にする時には余弦定理に負の角度を入れても正しく関係式を作れるという事です。

★言い換えると、余弦定理だけからは「正負の符号も含めた」意味での座標の位置関係を確定させる事はできず、基本的には長さについてのみ計算可能な関係式であるとも言えます。これは三平方の定理と同様の性質です。

\(\pi\)を超える角度の図形的な意味は負の角度の場合と同じとすると、これも余弦定理の角度部分に代入しても三角形の辺の長さの関係は正しく表されている事になります。

三角関数の周期性により、360°(2\(\pi\))を超える角度では1周して全く同じ点に戻るという図形的な解釈のもとでは、それらの角度を代入したとしても同じく三角形の辺の長さの関係は同じく正しく表されます。

以上から、余弦定理は一般的な鋭角、鈍角、直角の三角形を考える場合にも、図形上の適切な意味付けを与える限りにおいては実数全体を余弦の角度として代入しても成立する関係式である、という事になります。

正弦定理

正弦定理は、三角形の辺の長さおよび外接円の半径(あるいは直径)と、三角比の正弦の間に成立する関係式です。(英:sine rule)

三角比を使うという事で高校で教えられる事が多いですが、内容としてはどちらかというと平面の図形問題の色彩が濃く、中学校で教わる平面幾何の内容に近いかもしれません。

定理の内容

定理の内容は次の通りです。

正弦定理

三角形ABCでBC=a、AC=b、AB=cとして、
それらの対角の大きさについて∠BAC=A、∠ABC=C、∠ACB=Cとします。
また、△ABCの外接円の半径をRとすると、次の関係式が成立します: $$\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R$$

このように1つの式で表されていますが、2つのグループに分かれていると考える事もできます。1つは辺の長さと正弦の関係、もう1つは辺の長さと正弦と外接円の半径の関係です。(後者については証明を見ると分かるように図形上の意味として肝心なのは「直径」との関係です。)

ここでは2つの部分に分けますが、2つ目のほうを使って最初から全て証明する事も可能です。

証明①:三角形の辺と正弦に関する部分

まず、1つ目の辺の長さと正弦の関係です。
定理の中で言うと、とりあえず外接円の部分は無視した次の部分になります。

$$まずこれを証明します:\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}$$

2つの等号に関して一度に示す事はできないので、1つずつ証明して最後に全部を結ぶという形になります。

これは、一言で言うと、三角形ABCの「面積」を3通りの方法で表してみると成立する事が分かる関係式です。本来の「面積」の形の等号関係は次のようになります。

$$\frac{bc\sin A}{2}=\frac{ac\sin B}{2}=\frac{ab\sin C}{2}$$

発想はじつに単純で、三角形の面積「底辺×高さ÷2」において、底辺を辺AB、BC、ACのそれぞれとした場合に面積の計算をしてみようという、それだけのものです。

★細かい事を言いますと、厳密にはその場合に「どの辺を底辺にとったとしても1つの三角形の『面積』は1つの値しかとらない」という事も自明ではなく要証明です。
しかしその事は平面幾何で証明済のものとして、ここでは話を進めます。
(三角形の相似関係を使えばよく、証明するとしてもそれほど難しくはありません。)
また、証明の順番は逆になってしまいますが、正弦定理の後半部分を先に証明すればこの面積に関する事項も証明する事はできます。どの方法でも間違いではありません。

面積による証明

まず。底辺をAC=aとした時です。面積を出すには高さが必要ですが、これを三角比の関係を使って表します。AB=cの斜辺と∠ABC=Bの正弦によって、高さはcsinBになります。これで、面積の1つが表されるわけです。

$$S=\frac{ac\sin B}{2}$$

この時、∠ABC=Bとは逆側の角度を使って、高さの部分をbsinCと表す事もできます。
これは、あとで使います。
最初からそちらのほうだけで面積を表すとどうなってしまうのかというと、じつはa(bsinC)÷2=b(asinC)÷2の関係により、「bを底辺とした場合に表わした三角形の面積」に等しい事になります。そのため、最初からこちらの式を使って進めても結局証明はできます。

底辺をAC=bの部分とみなす場合には、高さがcsinAになります。これで面積の2つ目の表し方です。

$$S=\frac{bc\sin A}{2}$$

ここで、いったん2つの式を等号で結びます。
もちろん、同じ面積Sを表すので等号で結べます。

$$\frac{ac\sin B}{2}=\frac{bc\sin A}{2}$$

この式で、両辺でcと1/2は共通しているので掛け算割り算で「消せる」事になり、さらに正弦の部分を両辺で割ると正弦定理の関係式の1つになります。

$$\frac{ac\sin B}{2}=\frac{bc\sin A}{2}\Leftrightarrow a\sin B=b\sin A$$

$$\Leftrightarrow\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}$$

ここでもう1つ関係式がほしいわけですが、∠ACB=Cに関する正弦が足りないので、再びBC=aを底辺とする場合に戻って、高さを今度はbsinCと考えます。

$$するとS=\frac{ab\sin C}{2}とも表せる事により、\frac{ab\sin C}{2}=\frac{bc\sin A}{2}$$

$$\Leftrightarrow\frac{a}{\sin A}=\frac{c}{\sin C}$$

これで2つの等号関係を結べます。

$$\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}【証明終り】$$

理解の仕方としては、図を見てもっと単純に直観的にという事でもよいと思います。

証明②:外接円に関わる部分

次に、正弦定理の内容のうち、外接円の半径を含むほうの部分です。

一体どこから円が関係するのかと思われるかもしれませんが、じつはこの後半部分のほうが、図形的な特徴に気付くと直ちに証明されるので簡単なのです。

この場合には面積を考える必要はなく、三角比の関係だけを使います。

まず外接円を考えるのですが、この時に三角形の1つの頂点から「円の中心を通るように」直線を引きます。それが円周の向かい側とぶつかる点に注目します。

図では、点Cから中心に向かって直線を引き、円周との交点をA’ としています。

円周角の定理による証明
△ABCの外接円の半径をRとしています。補助線を引いて点A’ を円周上にとります。

すると、まず円周角の定理により、新しくできた図の∠CA’Bの大きさは∠CAB=Aと同じ大きさです。(弧CBの円周角なので。)よって∠CA’B=Aです。

また、図のCA’ は円の直径ですから、その円周角について∠A’BC=90° となります。(これも本質的には円周角の定理によるものです。)

という事は、Aという大きさの角を含む直角三角形を考える事ができます。斜辺は円の直径(2R)で、辺BCの長さがaですから両者を三角比の関係で結べます。じつは、これで1つの関係の証明が終りです。

$$三角比の関係により、2R\sin A=a\Leftrightarrow \frac{a}{\sin A}=2R$$

同様にして、頂点Aや頂点Bからも補助線を中心に向かって引く事で残り2つの関係式も得られますが、a/(sinA)=b/(sinB)=C/(sinC)を既に証明しているので、これで正弦定理の証明完了としても可です。

$$\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}と合わせて、\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R【証明終り】$$

★こちらのほうの定理の後半の内容について最初に証明する事で前半部分も一度に証明する事もできます。
その場合には頂点と中心を通る補助線を3パターン全て作って、
a/(sinA)=2Rかつb/(sinB)=2RかつC/(sinC)=2Rよりa/(sinA)=b/(sinB)=C/(sinC)であるとして、定理の前半部分もまとめて証明できます。
手間としては、どちらの方法でもあまり変わらないと思います。

この記事では証明を詳しく記しましたが、理解としてはもっと直感的でよいと思います。

さてこの「正弦定理」、別途に「余弦定理」というものがあるので対として教科書の中で教えられる事も多いのですが、大学入試での出題の可能性を除くと重要度はやや低いものがあるかもしれません。

証明の方法から見ても分かる通り、正弦定理とは本質的には三角形の面積に関する平面幾何の基本事項や、円周角の定理から直結する関係式です。そのためこの定理は直接的というよりは、三角形に関わる多くの事項と間接的に関わっているものと言えるかもしれません。

三角形の合同

2つの三角形が合同であるとは、形も大きさも全く同じである事を言います。
形も大きさも同じという事は、面積も等しくなります。

合同な三角形であっても、向きなどが別々の方向を向いていて「見た目」が異なってる場合もあります。2つの三角形が合同であるかを調べるには次の3つの条件を満たしているかを調べます:

三角形の合同条件

次のいずれか1つを満たせば2つの三角形は合同です。

  1. 3辺の長さがそれぞれ等しい
  2. 2辺の長さとそのはさむ角の大きさが等しい
  3. 1辺の長さと両端の角の大きさがそれぞれ等しい

2つの三角形が合同である事は「3本線」の記号を使って△ABC≡△DEFのように書きます。この時、角度が等しい頂点が対応するようにします。例えば△ABC≡△DEFと書いている場合には∠BCA=∠EFDである事も表しています。

合同である三角形は、この3つの条件全てを満たします。つまり、1つの条件を満たせば他の2つの条件も同時に満たされるという事です。合同である事を証明するには1つの条件が満たされている事を示せば十分という事になります。

三角形の合同条件
2つの三角形が合同である事の証明においては例えば「2辺とそのはさむ角」の条件を使う場合には、①AC=A’C’ ②BC=B’C’ ③∠ACB=∠A’C’B’ の3つを明らかにする事で△ABCと△A’B’C’ は合同である事を証明できます。

図を見ると分かりやすいと思うのですが、ある三角形に対して合同な別の三角形とは、1つの三角形を回転や反転させたものであると言う事もできます。イメージとしてそのように捉えるとよいでしょう。
回転や反転は角度や辺の長さを「不変」に保つ操作であるとも言えます。

合同の関係と似ているものとして、相似の関係があります。相似とは「形だけが同じで大きさは違う」というものです。

形も大きさも同じである場合が合同の関係であり、2つの三角形が合同である場合は相似である条件も満たしています。つまり、合同と相似は無関係なものではなくて、形も大きさも等しくなるためのやや厳しい条件が課されるのが合同で、形だけが等しい緩い条件だけが課されているのが相似というわけです。

一見すると合同にはみえないけれどよく見ると合同であるという例は、例えば三平方の定理の証明の1つで見られます。この例では形も大きさも全く同じ三角形が存在するのですが、向いている方向が全く異なるうえに他の様々な線が入り乱れているので気付きにくいのです。

合同な三角形の例
右側の図には互いに合同な三角形が2つあります。

しかし、丁寧に辺の長さや角度を調べると確かに合同である事を示せます。この場合では「2辺とその挟む角が等しい」という条件を使っています。

図の3つの四角形は「正方形」であるという条件があるので、
AC=AC’ AB=AB’ という長さの関係がまずあります。
次に、∠BAC=∠CAB+∠CAC’=∠CAB+90°ですが、
他方で∠B’AC’=∠CAB+∠B’AB=∠CAB+90°なので
∠BAC=∠B’AC’になります。
ゆえに、△ABC≡△AB’C’ である、と証明されます。

こういう具合に、合同である事を示すわけです。
尚、この例の場合では、「合同ゆえに面積も等しい」と話が続いていきます。

このように「見ただけでは分かりにくい」場合であっても、辺の長さや角度を調べて合同である事を確かに示せる場合があるわけです。数学的に論証するという事を学ぶ1つの意味がここにあります。単に論理的な思考をするというだけでなくて、事実関係の検証をする1つのツールとしての意味があるという事です。

3辺が全て等しいという条件を使う場合も、たまにあります。例えば、円に外接する三角形の頂点と円の中心で構成される2つの三角形です。

合同な三角形の例②
右側の図の小さな三角形2つは互いに合同です。

上図において、△AOCと△BOCに注目します。
まず、同じ円の半径なのでOA=OBです。
また、辺OCは共有されているのでもちろん長さは2つの三角形で等しいのです。
さらにここで、∠OAC=∠OBC=90°なので、三平方の定理によりAC=BCになります。
よって2つの三角形の3つの辺の長さはそれぞれ等しく、確かに△AOC≡△BOCというわけです。

☆この場合について細かい事を言うと、∠OAC=∠OBCであっても、90°でなければ、この部分の角の大きさが等しいというだけで合同とは言えないのです。
これは、式で示すのであれば余弦定理を使います。すると、90°以外でこの部分の角の大きさが等しい場合には、ACの長さとして「2つ」の解が得られる事があります。つまり、合同である場合とそうでない場合が生じ得るのです。
そのため、2辺の長さと「どれでもいいから1つの角」が等しいというだけでは、それだけで必ず合同であるとは断定できないのです。他方、その角度が90°であれば余弦定理において解は1つだけなので合同であると言えます。もちろん、直角三角形において余弦定理は三平方の定理そのものです。
詳しく言うと、「2つの三角形が合同である」⇒『2辺の長さとどれか1つの角が互いに等しい』
という関係式は正しいのですが、その逆は言えないという事です。『2辺の長さとどれか1つの角が互いに等しい』という事は、2つの三角形が合同である事の必要条件ではあるけれども十分条件ではない、という事です。(この考え方は中学校では必要ありません。)

合同条件に関する注意点
2辺とその「はさむ角」がそれぞれ等しい場合に2つの三角形は合同になりますが、2辺が「はさんでいるわけではない」角度が等しい場合はどうなるのかを図で説明しています。

逆に、見た感じ同じ形・大きさに見えるけれどもきちんと調べるとじつは合同ではないというパターンもあり得ます。描かれた図ではいかにもそれらしく見えるけれども、条件を整理すると合同の3条件のいずれにも当てはまらず「じつは形も大きさも違う」という事が判明する場合もあります。

ここでは、あくまで図形問題に限定してという話ではありますが、「見た目」で判断するのではなく論拠を備えて検証するという事が三角形の合同条件や相似条件の学習において重要なポイントの1つです。これは試験問題を解くという話の中でも重要なので、おさえておきたいところです。

三角形の相似

三角形の相似条件は高校入試を始めとして中学数学では重要事項の1つです。

図形問題を解くために必要という事でもありますが、三平方の定理などの重要な定理が成立するための根拠の1つになっている事なども重要と言えるでしょう。

平面において2つの三角形が「相似【そうじ】」であるとは、
ごく簡単に言うと「大きさは違うが形は同じ」であるという事です。

★これに対して、「大きさも形も同じ」なのが三角形の合同です。
意味する事と、成立する条件の違いに注意しましょう。
合同と相似は一見似ていますが扱い方が違うものなので、気を付けましょう。
「2つの三角形が互いに合同」ならば「2つの三角形は互いに相似でもある」と、確かに言えます。 しかしこの逆は成り立ちません。「相似であるから合同でもある」と言ったら、それは間違いです。
【※中学数学の範囲外になりますが詳しくは必要条件と十分条件の関係から把握する事になります。合同である事は相似である事を含んでいるという包含関係になります。】
そのため、合同と相似をごっちゃにしてはならず、関係を意識しながらも丁寧に別々に整理する事が必要であり、重要でもあるのです。

2つの三角形が合同であるならば、相似でもあるとは言えます。相似であっても合同ではない場合があります。

もっとも、単に見た目が似ているというだけでは相似であるとは言わず、きちんと数学的な条件があります。

相似条件と証明での使い方

次の3つの条件の「いずれか」を満たす2つの三角形は互いに相似であると言います。「いずれか」という事は、「1つでも当てはまればよい」という事です。

2つの三角形が相似であるための条件

次のいずれか1つが成立するならば2つの三角形は互いに相似です。

  1. 2組の角の大きさがそれぞれ等しい
  2. 2組の辺の長さの比と、その挟む角の大きさがそれぞれ等しい
  3. 3組の辺の長さの比がそれぞれ等しい

この時「△ABCと△DEFは(互いに)相似である」などと言い、△ABC∽△DEFとも書きます。(無限大の記号に似てますが別物です。)この時、「同じ形」として対応する角が順番通りになるように書きます。
相似な2つの三角形の互いの「辺の長さの比」を相似比と言います。例えば1:2とか1:3という関係が成立します。場合によっては整数比とは限らず、1:\(\sqrt{2}\) とか2:\(\sqrt{3}\) などの相似比もあり得ます。

三角形同士が相似である事がひとたび判明すれば、これら3つの条件は全て成立します。つまり、例えば2組の角度が等しいという条件が成立すれば、3組の辺の長さの比もそれぞれ等しいという事です。

ただし、相似である事を証明するためにはどれか1つだけ判明していればよいという事です。

★比較する2つの三角形が直角三角形であれば、その時点で「対応する1つの角がそれぞれ等しい(90°で等しい)」事は言えているので、もう1つだけ等しい角度を見つければよいといった作業になります。

繰り返しますが合同条件と似ていますが違うもの(相似条件のほうが制約が緩い)なので注意しましょう。
例えば、辺の長さが分からないけれど角度だけで比較できるのは相似条件のほうであって、合同条件にはそのような条件はないのです。(暗記するのではなく意味を考えてみると分かりやすいと思います。角度だけが分かっている場合、形は同じであっても辺の長さは伸び縮み可能なのです。)

合同である場合は「相似比」が1:1であると言う事もできます。それが「大きさも同じ」という意味であって、大きさが異なる場合には相似比が1:2とか2:3とかになるわけでそのような場合も含めた「形は同じだが大きさは異なる」関係を相似と呼ぶわけです。

2つの三角形が相似である事を正確に見るには、「証明」が必要です。これは、見た感じ「同じ形」に見えるけれど実際は違う(辺の比が一定にならない、角度が異なる)という事があるからです。

高校入試の出題として多いのは「2組の角の大きさがそれぞれ等しい」事を使うパターンです。これは、同じ大きさの角度である部分が2つ見つかればよいという事です。
より具体的には、対頂角の関係、平行線の同位角・錯角の関係、円周角の定理などを使って「角度の大きさが等しい」事を示します。また、共有する角がある場合にはもちろんその角度は2つの三角形で等しいのです。

証明のパターン
中学数学・高校入試で問われるパターンはこういったものが多いです。あらかじめ直角三角形という条件が与えられる事で残り1つの角の大きさだけを調べればよい場合もあります。

残りの2条件は証明の時に使う事もありますが、むしろ相似である事が証明された後に辺の比や面積比を計算させる問いで使われる事が多いように思います。

相似な三角形の面積比

三角形の相似比(辺の長さの比)が1:nの場合、面積比は1:nになります。
これは、例えば1つの三角についての底辺がn倍、高さについてもn倍になるためです。

高校入試ではよく問われる事項です。

相似な2つの三角形の面積比

辺の長さの比が1:nの相似な三角形の面積比は1:nになります。
(辺の長さの比がa:bなら、面積比はa:b

例えば底辺が2、高さが3の三角形の面積は2×3÷2=3ですが、
各辺の長さが2倍になったとすると、高さも2倍になる事に注意して
面積は(2×2)×(3×2)÷2=12
つまり2×2=4倍になるという事です。

これは公式として関係式を暗記するのではなく、図に描いてイメージしながら練習してみたほうがよいと思います。

この図の場合、相似な三角形の辺の長さの比は1:3です。相似比が整数のようにきれいな値の場合は図に描いてみて何倍になるのかというイメージをつかむのもよいと思います。平行線の補助線を引く事で図の大きな三角形を9分割できます。三角形の高さも確かに相似比倍になる事については、垂線を補助線として描けば直角三角形についても相似関係が成立する事から分かります。

辺の長さの比が1:3ではなく2:3のような場合は面積比は2:3=4:9です。

$$辺の長さの比が2:3であれば大きい三角形の面積は小さい三角形の\left(\frac{3}{2}\right)^2=\frac{9}{4}倍$$

辺の比に関する補足説明

相似な三角形の辺の比に関して、補足的な説明をします。

三角形同士が相似である場合に「対応する辺同士の比」は等しくこれを相似比と言うのは前述の通りです。

他方で「同じ三角形の中の辺同士の比」も、相似な2つの三角形で等しくなるのです。これは1つの三角形の中で3通りの比がありますからもちろん一定ではなく、一般的に相似比とも異なる値になります。

しかし、例えば△ABCでAB:BC=1:3であったとすると、それに相似な三角形△DEFがあったときにDE:EF=1:3という事も同じく言えるという意味です。
この時、AC:AB=2:5であれば同様にDF:DE=2:5という事です。
(※この場合、この条件だけから具体的な相似比は分からない事には注意。互いの対応する辺の長さの比に関して、相似比という一定の比がある事だけ分かります。)

式で書くと、△ABC∽△DEFであれば、
AB/DE=AC/DFという比の関係(この一定の比が相似比)に加えて
AB/AC=DE/DF という関係も成り立つという事です。

これは、じつは結構単純な話です。
AB/DE=AC/DF の両辺をACで割り、両辺にDEをかける事で得られます。
式変形をしなくても相似関係にあるという事は同じ形で大きさだけが異なると意味を考えれば分かりやすいかと思います。

「形は同じでサイズだけが違う」というイメージをつかむと難しさが消えるでしょう。
辺の長さの関係を丁寧に整理する必要がある場合もある事にだけ注意。

証明問題も含めて、図形問題が得意になるコツはあまり難しく考えない事です。
意味を考えながら図を描いてみましょう。

他に図形問題として関連が深いのは角の二等分線と三角形の辺の比の関係などで、これは三角形の相似を根拠として成立します。三角形の相似についてじゅうぶん理解していれば、関係式を暗記せずにその場で導出する事も可能なのです。

「形」さえ同じであれば、三角形の中の2辺の「比」が一定であるという事は、三角比の考え方の基礎となっています。これは、直角三角形に限定して、特定の角度に対しては2つの辺の長さは一定になる事を利用して決められるものです。高校数学で教えられるものですが、考え方としては三角形の相似の考え方が分かっていれば理解できる内容になります。

円の接線と内接・外接

図形問題としての円に対する接線の考え方と、それとセットになる内接・外接の考え方を説明します。

学校で教わる内容としては中学数学・高校入試の範囲ですが、一部はそれ以降の話にもつながる重要事項も含んでいます。なぜかというと微積分での微分係数は関数をグラフ上で図形的に見た場合の「接線」の傾きだからです。また、高校数学では直線を一次関数とみなして種々の考察をして問題を解かせる場合も多いので、円と関わりを持たせた接線の話は中学校以降でも出てくるのです。

円に対する接線の性質

まず「接線」とは何かと言いますと、
「ぴったりくっつくように1点のみで交点を持つ直線」の事を言います。

また、そのよう形で図形同士が交わる時に「接する」という言葉を使います。「直線 L は円Oに接する、接している」といった具合です。(「接線」は必ず直線を指しますが、「接する」という言葉は曲線同士に対しても使います。例えば円と円が「接する」場合というのもあり得ます。)

図形同士が接する点を、「接点」と言います。

接線と法線

同じ1点で交わる場合でも、突き抜けるように交わる直線は接線とは言わないのです。その場合は単純に、1点で交わる交点です。

「接する」という事は数学的に厳密にはどのような条件を要請する事なのか?という事についてはここで触れないで置きますが、図で見れば分かると思います。中学校の範囲では、見て分かるという程度でじゅうぶんです。それで図形問題は解けるからです。

円に対する接線の重要な性質の1つとして、「接点と中心を通る直線は接線と垂直になる」というものがあります。接点を通り接線に垂直な線を法線と言うので「円に対する法線は中心を必ず通る」とも言えます。

法線

接点を通り、かつ接線に対して垂直である直線の事。
円の場合、法線は必ず円の中心を通ります。

★この事実を使って図形問題を解けと言われるのは中学校と一部高校においてだけでですが、この円に対する接線と法線の性質自体は物理学への応用などでも使ったりします。そのため、内容的には結構重要です。

どういう理由で1つの接点を通る法線は中心を通るのかというと、図形的には次の通りです。

証明の説明図

まず、円周上の2点A、Bと円の中心Oからなる三角形は二等辺三角形なので∠AOBが直角になる事はあり得ても、残りの2角は直角にはなり得ません。(三角形の内角の和は180°、つまり2直角であるため。)

すると、点Aに直線が接するには、その直線と線分AOは直角でなければなりません。もし直角でなかったら、その直線上で点A以外にOまでの距離が等しい点、つまり円周上の点が存在する事になり接線ではなくなってしまいます。

という事は、接線に垂直で接点を通る法線は、接点と中心の両方を通る事になるので題意は示されます。

簡単に言うと、円周上のある点を通る直線は、その点と中心を通る線分に対して垂直である場合に限りその1点のみで交わり、垂直以外の角度の場合には別の円周上の点と必ず交わってしまう(そのような円周上の点が必ず存在する)という事です。

☆この事は、高校数学での図形を式で表す方法でも証明できます。考え方自体は二次方程式の解が重解になる条件を出すだけなので難しくはありません。

内接と外接

また、図形問題でよく取り上げられますが、円に内接する図形、外接する図形というものがあります。ここで、「外接」の場合は特定の図形が必ず円に「接している」事が要求されますが、「内接」の場合は必ずしも接していなくてもよくて頂点などが全て円を突き抜けない形で触れていれば要請を満たします。

図で見ると分かりやすいでしょう。例えば内接三角形と外接三角形の違いを見てみましょう。

内接と外接

円以外の図形側から見た時、言葉の使い方として内接と外接は逆になります。

つまり、円に内接する三角形側から見れば「円は外接」しています。

三角形に対して円が内接していると言う場合は、円に対しては三角形は外接しているのです。

これらの内接・外接の関係は、図形問題として出題される場合には別の事項と組み合わされる事がほとんどです。例えば、円に内接する三角形・四角形は円周角の定理と組み合わせて問われる事が多いです。円に外接する三角形を考える場合には、中心から接点に向けての線分が接線と直角になる事実を使わせる事が多いです。

ひねったパターンだと、角の二等分線の事項も絡めて三角形の面積比などを問う出題もあります。

複雑にしようと思えばいくらでも問題をひねれるのが内接・外接に関する図形問題の厄介なところですが、必要な定理や数学的事実は限られているという事を押さえる事が重要です。前述した事の中で言えば、「円に対する接線がある時、法線は中心を必ず通る」といった事項です。

そういった、限られた数の基礎事項を確実に押さえたうえで、いろいろなパターンの問題を解いてみる事が中学校でのこの分野を攻略する鍵と言えるでしょう。複雑な定理や人があまり知らないような定理を暗記する必要はないのです。

円周率の値はなぜ3.14なの?

円周率はなぜ3.14なのか、なぜ「3」ではいけないかの易しい説明です。円や球に対しては「円周率」が常につきまといますが、それについての話をしましょう。

そもそも円周率の定義は? ■ 正確な証明の話 

そもそも「円周率」の定義は?


円周率とは、「円の直径円周の長さの比」の事であり、値は約3.14です。
直径が1メートルの車輪の円周の長さは、円周率を用いて
1×3.14=約3.14メートルと計算できます。
円周率の正確な値は3.14159265・・・という、循環しない無限小数であり、「無理数」です。
【無理数である事は、背理法で示します。円周率に限らず、特定の数が無理数である事を示す方法は基本的には背理法です。】

円周率の特徴
  1. 「円周の長さ」÷「直径」の値の事を円周率と呼ぶ
  2. 任意の円において値は一定であり、3.141592・・・・
  3. 循環しない無限小数であり、無理数である

円周率を使って円の面積も計算できますが、元々は「円周」と直径の比です。
記号は、ギリシャ文字の「パイ」\(\pi\) を使います。

説明図①
正六角形は6つの「正三角形」で構成される事に気付くと、「直径×3」が円周ではなくて正六角形の周の長さである事が簡単に分かります。


この「約3.14」という半端な数はどこから出てくるのでしょう?
円に内接する正6角形を考えてみてください
じつは、簡単な計算により、「円の直径×3」は、ちょうど「円に内接する正6角形の周の長さ」なのです。
この事実が、円周率を「約3」と教える事が、数学的に見て決して良いと言えない理由の一つです。

【多角形の円に対する内接・外接の考え方は別途にまとめています。】

★本当に大雑把な計算(例えば100くらいになるのか、1000くらいになるのかといった)であれば円周の長さを「大体3」の計算でやってもよいと思いますが、正確な計算にはならない事は踏まえておく必要があるという事です。実際の値よりも小さくなってしまうからです。


次に、円に内接する正12角形の周の長さを計算してみると、おおよそ、円の直径×3.1058になります。
この「円周率に相当するような定数」は、円に内接する正24角形の場合は約3.1326、
正48角形の場合は約3.1393です。正96角形まで考えると、3.14が出てきます。
じつは、角をもっと増やしていくと、その値は正確な「円周率」の値に限りなく近づくのです。

正確な証明の話

☆ここから先の内容は高校数学、さらに詳しくは大学数学の範囲です。

極限値として円周率が確かに存在する事の証明は少し面倒ですが、平面幾何と極限の基礎知識さえ知っていれば証明は可能です。
円に内接する正n角形と、円に外接する正n角形を考えます。
その中で、2つの頂点と円の中心で作られる三角形に注目します。
ここでじつは少し工夫が必要で、nに対してn+1ではなく、2nを考えます。

説明図②
通常の数学的帰納法だとnに対してn+1を考えますが、ここでは2nを考えます。
それによって、考察はかなり簡単になるのです。


すると、内接する正2n角形の周の長さは
「内接する正n角形の周の長さより必ず大きい事」と、
「外接する正n角形の周の長さよりは必ず小さい事」が、比較的容易に示せるのです。


これは、内接する正n角形の周の長さを数列として見た時、「単調増加で上に有界」である数列になっている事を示しています。
そして、そのような数列は必ず極限値を持つという定理があるので、
円に内接する正n角形の周の長さは「nを無限大にした時に極限値を持つ」事が示されます。


同様に、円に外接する正n角形の周の長さも極限値を持つ事が示せます。
ここで、証明の中で導出している関係式の一つを用いると、2つの極限値は
一致する事を示せます。その値が、円周率と呼ばれる定数です。

円周の長さが直径と円周率の積で表されるという事実は、三角関数の微分公式が成立する根拠でもあるので、理論上、かなり重要な位置にあると言えます。

三角関数の微分公式の導出には sin x < x < tan x という不等式を用います。
これは実質的には、「内接正n角形の周の長さ<円周の長さ【極限値】<外接正n角形の周の長さ」という関係式と同等です。
円周や円弧の長さは極限値なので、解析学(微積分学)的には本来は多少詳しい考察や証明が必要になるというわけです。

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円周角の定理

円周角の定理とは、円の1つの弧に対する円周角の大きさは必ず等しく、しかも中心角の半分の大きさであるというものです。言葉よりも図で見ると分かりやすいでしょう。

この定理は、高校入試(特に公立)では非常に出題頻度が高いものです。しかし逆に高校数学では重要度が減り、大学数学や物理学では基本的には使わないと言ってもよいほどその重要度が下がります。

これは、高校数学以降の話では「円に内接する三角形」よりも「円その物」のほうが対象とする図形として重要である事が大きく関わっていると思います。そのため、円周角の定理とは中学数学というか「円に内接する三角形」という話に限定する範囲においては重要な定理である、という位置付けで理解するとよいかもしれません。

定理の内容と意味

まず、「円周角」とは、円に内接する三角形の1つの角の事で、「その対辺を弦とする円弧のうち長い方(優弧)」に着目して呼ばれるものです。例えば「円弧ABに対する円周角」のように使われます。図で見ましょう。一目で分かると思います。

また、「中心角」とは、ある円弧の弦の両端の点のそれぞれと円の中心を結ぶ線分によって構成される角の事です。これも、図を見ましょう。

定理の内容

円周角の定理の内容は、1つの円弧が固定されている時、その円弧に対する任意の円周角の大きさは等しく、しかもその円弧に対する中心角の大きさの半分であるというものです。

円周角の定理

円周上に異なる2点ABがあり、円の中心をOとすると次の2つの事が成立します:

  1. 優弧AB上のA、Bとは異なる任意の点Cに対し、
    円周角∠ACBの大きさは互いに等しい。
  2. 2∠ACB=∠AOBが成立する。

尚、円弧のうち短い方(劣弧)側の弦と結んでできる角も、大きさは互いに必ず等しくなります。ただし中心角との大きさの関係は2:1にはなりません。(中心角の半分を180°から引いた大きさになります。)

高校入試を含めて中学数学では、円周角に関する問いは三角形の相似・合同・面積比に関する事項と組み合わされる事が圧倒的に多いです。

また、円周角が直角になる場合とその条件に関しても好まれて出題がなされる傾向があるようです。

「円周角の大きさは必ず中心角の大きさの半分である」という事が定理の主張の1つですが、これを円弧が半円の場合・弦が直径の場合に適用すると円周角は必ず直角であるという事です。

これは、半円の弧の両端を直線で結ぶと必ず円の中心を通るので中心角=180°とみなせる事によります。すると、その円周角はその半分の大きさで90°つまり直角になるというわけです。後述するように証明する時にはこの事項自体を場合分けで示す必要がありますが、理屈はじつに簡単です。)

証明

円に内接する三角形が内部に中心を含むかそうでないかで場合分けします。

①内接三角形が内部に円の中心を含む場合

円に対する内接三角形が内部に円の中心を含む時、まず最初に分かるのがじつは「円周角は中心角の半分」というほうの事実です。

これは、内接三角形の1つの辺の両端と円の中心で構成される三角形が、必ず二等辺三角形になる事によるのです。

そして、1つの円弧を固定する時、もう1つの円周上の点を動かしても中心角は同じである事に注意します。これは、この条件のもとで1つの円弧に対する任意の円周角は必ず等しい事を意味し、円周角の定理の主張そのものです。

下図で言うと、次のようになります:

$$(180°-2\alpha)+(180°-2\beta)+(180°-2\gamma)=360°\Leftrightarrow 180°-2\alpha=2\beta+2\gamma$$

$$\Leftrightarrow 180°-2\alpha=2(\beta+\gamma)$$

最後の式は「中心角=円周角の2倍」を表しています。これはこの条件下で点AとBを固定しておけば、点Cが移動しても \(\alpha\) の値は変わらないので円周角の定理の内容が成立するのです。

証明の説明図
いずれの場合でも、半径を2辺とする二等辺三角形を3つ考える事が証明のポイントです。

②内接三角形が内部に円の中心を含む場合

次に、内接三角形が内部に円の中心を含まない場合です。この時も、中心角を構成する二等辺三角形をもとにして証明をします。この場合においても二等辺三角形を3つ作ります。

じつは相似関係などを使う必要は特になく、
「三角形の内角の和は180°」「四角形の内角の和は360°」という、より初歩的な事実関係だけでじゅうぶんなのです。

図で言うと、中心角は \(180°-2\alpha\) で、そこと隣り合う二等辺三角形の中心角に相当する角は \(180°-2\beta\) です。これらを合わせると、\(360°-2\alpha-2\beta\) となります。

しかし、その角度はよく見ると \(180°-2\gamma\) に等しいのです。よって、次の関係が成立しています。

$$180°-2\gamma=360°-2\alpha-2\beta\Leftrightarrow 2(\beta -\gamma)=180°-2\alpha$$

ここで、式に出てくる \(\beta -\gamma\) は何かというと、これはじつは図の円弧ABの円周角です。つまり、この場合でも「中心角=円周角の2倍」が成立します。

そして、上記2つの場合において点AとBは固定したままでよいという事に注意しましょう。移動するのは、円周角をなす点Cだけなのです。中心角は変化しません。という事は、上記2つの場合の円周角は、いずれも中心角の大きさの半分であり、ともに一致するのです。

ゆえに、内接三角形が円の中心を内部に含むかどうかは気にしなくてよい(その事が示された)という事です。

③内接三角形の1辺上に円の中心がある場合

さて、このように場合分けすると、「だったら三角形の1つの辺が『中心を通る場合』も考えなければだめではないか?」という話になります。実際その通りです。

ただし、この第3の場合が、じつは最も簡単なのです。

直径に対する円周角

円周角をつくる頂点から中心に向かって線分を引きます。すると、二等辺三角形が2つできます。ここで、円周角をなす頂点と直径からなる三角形は、2つの二等辺三角形の角だけから構成されるのです。

すると、三角形の内角の和が180°である事から、この場合の円周角の大きさは90°である事が分かるという計算です。

それゆえ、このような場合でも定理の内容は成立しているので、上記2つの場合と合わせてまとめてよいという事になります。

関連事項:円に内接する四角形

同じく中学数学と高校入試で問われる内容として、
「円に内接する四角形の対角線上で向かい合う角の和は180°である」というものがあります。

この理由については、円周角の定理を使うとすぐに分かります。

図のように、補助線として対角線を引きます。この時、内接四角形の1つの角が2つの部分から構成されていると考えます。図で言うと xとyで表しています。

$$\alpha=x+yとおきます。$$

円に内接する四角形

それらxとyについて、それぞれ異なる円周角であるとみなす事ができるので、それぞれについて定理を適用します。すると、対角線上で向かい合う内接四角形の角の大きさは、180°-(x+y)という事になります。(「三角形の内角の和は180°」を使用。)

しかし \(\alpha=x+y\) でしたから、\(\alpha+180°-(x+y)=\alpha+180°-\alpha =180°\) です。これで題意は示された事になります。

円周角の定理は、高校数学での正弦定理を証明するために使われたりもします。