行列式の定義

「行列式」(英:determinant)の定義を述べます。

これはそもそも一体何かというと、じつは「特定の規則を持った、数の掛け算と足し算の組み合わせ」を「行列式」と呼ぶ事にする、としか言いようがない面があります。しかもその定義の方法自体が結構分かりにくいという大変クセの悪いものですが、理論上重要なので見ておきましょう。

行列自体の定義や計算については別途に詳しくまとめています。

定義の式

行列がAだとすると、行列式は |A| あるいは det Aなどと記します。

まず、結論の式を最初に書きましょう。

式で書いた場合の行列式の定義

n次の正方行列A=(\(a_{ij}\))に対して行列式 det Aは次のように定義されます。 $$\mathrm{det}A = \sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{i=1}^na_{\sigma(i)i}\right) $$ ここで \(\sigma\) は1~nの番号の並びに対する「置換」の1つで、
和は置換全体【n!個ある】に対してとるとする。
\(\sigma\)(\(i\)) は番号\(i\) が置換 \(\sigma\) によって変わった後の番号。【例えば番号1が3に変わるなら sgn(1)=3】
\(a_{\sigma(i)i}\) は具体的には \(a_{11}\) や \(a_{23}\) などを指す。【「行」の番号のところに置換された数字を入れる。】
sgn(\(\sigma\)) は置換の「符号」と言い、+1か-1の値だけをとり、次式で定義される: $$\mathrm{sgn}(\sigma)=\prod_{i<j}\frac{\sigma (j)-\sigma (i)}{j-i}$$

はい、これが一般の行列式の定義なのですけれど、これでは何が何だか分かりませんね。そこで、この行列式の定義は一体何を言ってるのかという事を、1つ1つの特徴や具体例を見ながら確認していきましょう。

定義の説明図
行列の要素を選び出して積の形にして、プラスかマイナスの符号を定めて、n!個加え上げる(マイナス符号の部分は引き算)というのが「行列式」の定義の内容です。置換は順列とも言います。

特徴と具体例

行列式の定義式について、どのような特徴があるのかを見てみましょう。
まず、①正方行列について定義され、②実数や複素数などの「値」であり、③何次の行列式かによって構成の仕方が異なる という特徴があるのです。

行列式の特徴①
  • 正方行列にのみ定義される
  • 0、-1、1+i といった実数や複素数などの「値」である
    (適用する理論によっては関数を考えますが、とにかく「行列」ではないという事です。)
  • 正方行列によって2次、3次、4次・・の行列式の構成は異なる
    (統一的な規則は一応あり)
3次の行列式
3次の行列式には6つの項があり、それぞれの項は行列の3つの要素の積です。

行列式は、行列の要素を組み合わせて掛け算を作り、それを1つの項として複数足したり引いたりする事で定義します。この時、対象の行列が何次であるかによって項の数が変わります。

結論を言うとn次の行列式は「n!(nの階乗)個」の数の項の足し算・引き算で構成されます。
これは、n個の数の並び替え方(順列・置換)の総数という事です。
そして行列式の中のそれぞれの項は、行列の中のn個の要素の掛け算で構成されます。

行列式の特徴②
  • n次の正方行列の行列式の項数はn!個である。【n個の数の並べ方の総数】
  • 行列式の各項は、行列の要素によるn個の数の掛け算で構成されている。例えばa211233
  • 基本的にはa211233のように「列」の番号は(1,2,3)の順番で並べて、「行」の部分に置換によって入れ替えた番号を入れる。【この場合は(2,1,3)】

項数がn!個という事は5次の正方行列の場合には5!=120個の項があるという事で、
もちろんこれは一般的には手計算で扱うものではありません。

とりあえず、まずここまで性質を見たところで、具体的な行列式を見てみましょう。ただし、行列の要素はa12のように、まだ具体的な値ではなく一般的な表記としておきます。

$$A_2=\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} \\ a _{21} & a_{22}\end{array}\right) \hspace{10pt}A_3=\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a _{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) \hspace{10pt}A_4=\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}& a_{14}\\ a _{21} & a_{22} & a_{23}& a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}& a_{34}\\a _{41} & a_{42} & a_{43}& a_{44} \end{array}\right)$$

の時、行列式は次のようになります。

2次の行列式

$$\mathrm{det}A_2=a_{11}a_{22}-a_{21}a_{12}$$

3次の行列式

$$\mathrm{det}A_3=a_{11}a_{22}a_{33}-a_{11}a_{32}a_{23}+a_{21}a_{32}a_{13}-a_{21}a_{12}a_{33}+a_{31}a_{12}a_{23}-a_{31}a_{22}a_{13}$$

4次の行列式

$$\mathrm{det}A_4=a_{11}a_{22}a_{33}a_{44}-a_{11}a_{22}a_{43}a_{34}+a_{11}a_{32}a_{43}a_{24}-a_{11}a_{42}a_{33}a_{24}+a_{11}a_{42}a_{23}a_{34}-a_{11}a_{32}a_{23}a_{44}$$ $$+a_{21}a_{32}a_{13}a_{44}-a_{21}a_{12}a_{33}a_{44}+a_{21}a_{12}a_{43}a_{34}-a_{21}a_{32}a_{43}a_{14}+a_{21}a_{42}a_{33}a_{14}-a_{21}a_{42}a_{13}a_{34}$$ $$+a_{31}a_{42}a_{13}a_{24}-a_{31}a_{42}a_{23}a_{14}+a_{31}a_{22}a_{43}a_{14}-a_{31}a_{22}a_{13}a_{44}+a_{31}a_{12}a_{23}a_{44}-a_{31}a_{12}a_{43}a_{24}$$ $$+a_{41}a_{12}a_{33}a_{24}-a_{41}a_{12}a_{33}a_{24}+a_{41}a_{32}a_{13}a_{24}-a_{41}a_{32}a_{23}a_{14}+a_{41}a_{22}a_{33}a_{44}-a_{41}a_{22}a_{43}a_{34}$$

これを見ると、手計算で具体的に式を書いて扱ってもよいのはせいぜい3次までという事はおおよそ分かるかと思います。4次の行列式の項数は4!=24個で、見ての通り書き下すと結構長い式になってしまいます。

5次の場合は120項あるので、ここに書くのはやめます。

いずれにしても、行列式とはどういうものなのかは、これで大体の雰囲気はつかめるかと思います。このように、一定の規則に基づいて行列の要素の積を足し算引き算で連結したものなのです。

置換の符号に対するプラスマイナスの決め方

具体的な書き下された行列式を見ると、各項のプラスマイナスの符号が入れ替わっている事が目につくと思います。これはどういう基準で決めているのでしょうか?

その決め方は、次のようになります。

行列式を構成する項のプライスマイナスの符号の決定
  • 112233のように行列の要素を掛け算の形で並べておく。
  • 行列の要素の「列」の番号は固定して「行」(つまり添え字の1番目)だけの並び替えを考える
  • 順番通りに並んだ(1,2,3,・・・,n)の並びの場合、符号はプラス(+)とする。
    112233 の符号はプラスになる。
  • (1,2,3,・・・,n)の2つの数を入れ替える【「互換」を行う】と
    符号が反転し、マイナス(-)になるとする。
    例えばa112233の符号はプラスなので、
    行部分の添え字の2と3を入れ替えた a113223 の符号はマイナスです。
    行列式の中ではa112233-a113223+・・・のように続ける事になります。
  • 以降、「行」の数の入れ替えを行う(互換を行う)ごとに符号は反転する。

この規則を、より一般的に書くと次のようになります。
冒頭の「定義」に段々と近づく表記になります。

行列式の各項の符号の決め方(置換による表現)

一般に、(1,2,3,・・・,n)の配列に対して、
奇数回の互換を行った並び替えの配列(「奇置換」)の符号はマイナスであり、
偶数回の互換を行った並び替えの配列(「偶置換」)の符号はプラスになる。
(恒等置換は0回の互換であるとして偶置換であると考えます。)

冒頭の定義では「置換の『符号』」sgn(σ) というものが書かれ計算式が定義されていましたが、これは上記のプラスマイナスの符号の決め方を式だけで書くとあのようになるという事です。いまいちど sgn(σ) の定義式を見てみましょうか。

置換の「符号」の定義式の意味

ある置換σに対する「符号」sgn(σ) の定義式を改めて記すと次のようになります: $$\mathrm{sgn}(\sigma)=\prod_{i<j}\frac{\sigma (j)-\sigma (i)}{j-i}$$ n=3の場合に(1,2,3)→(2,3,1)なるσについて具体的に計算してみると、 $$\prod_{i<j}\frac{\sigma (j)-\sigma (i)}{j-i}=\frac{1-2}{3-1}\cdot \frac{1-3}{3-2}\cdot\frac{3-2}{2-1}=+1$$

sgn(σ) の定義式において分母の値には次の特徴があります。

  • i<j という条件があるのでj-i>0 ・・分母は必ずプラスの値になる。
    つまり全体の積の符号に対して分母は影響を与えない。
  • 絶対値としては分子に必ず同じ大きさのものが積の中に1つ含まれており、
    分母分子で打ち消し合って積全体の絶対値は必ず1にする。

置換の符号に対しては、さらに次の2つの公式が成立します。

置換の符号 sgn(σ) に対して成立する公式
  1. 任意の互換τに対して sgn(τ)=-1
  2. 任意の2つの置換 σ と σ に対して、sgn(σσ)=sgn(σ)sgn(σ)

σσ は、σを行った後にσを行う置換です。
sgn(σ)sgn(σ)は、2つの符号の積です。

恒等置換に対する符号は+になるので、1回互換をすると-になり、上記の2つ目の公式によりもう1度別の互換をすると+に転じます。

要するに結果は「偶置換の時プラス符号、奇置換の時マイナス符号」という事で、その事を式で表現したいがために上記 sgn(σ) の定義式を考えていたというわけです。

偶置換と奇置換の符号

置換の符号 sgn(σ) について、次の事が成立します。

  1. σ が偶置換の時、sgn(σ)=+1 【恒等置換も含める】
  2. σ が奇置換の時、sgn(σ)=-1

このように行列式は「定義」されるわけですが、それにしても決して分かりやすいものではないという事は重々承知されているようで、手計算で行列式を考えるうえでの計算の工夫や、特定の行列式をいくらか簡単にできる公式もいくつかあります。

この行列式を「何に使う」のかという疑問も必ず出てくるかと思いますが、線型代数の理論の中だと一般の連立1次方程式の解を構成するクラメルの公式で使用されます(解法としてあまり実用的でない場合がありますが)。他に、重積分の変数変換の理論における関数行列式、連立の常微分方程式の解法に一部使える行列式などが存在します。

いずれの応用や適用においても、具体的な行列式の値を知りたい場合にはnが大きい値の場合には手計算では手に負えないという事実は何ら覆りません。そのため、コンピュータに計算させる、行列式の計算が楽になる特別な場合を考える、行列式を使わずに済む理論を別途に考える、手計算の理論ではnが大きい場合を具体例としては極力考えない・・といった事が現実的な対処としては多いようです。