逆三角関数

逆三角関数とは「三角関数の逆関数」で、正弦、余弦、正接のそれぞれに対して存在し、
それぞれ「逆正弦関数」「逆余弦関数」「逆正接関数」と呼んで Arcsinx,Arccosx,Arctanx
もしくは sin-1x,cos-1x,tan-1x のように書きます。
あるいは arcsinx,arccosxのように書く事もできますが、
それらは記述法によっては Arcsinx等と区別して意味を持たせる事もあります。

逆三角関数が使われる事が比較的多いのは微積分においてです。そのため、この記事の後半では微積分的な内容がやや多くなります。また、どちらかというと数学的な内容が中心になりますが逆三角関数のいくつかの使用例についても説明します。

※三角関数のベキ乗は、習慣的に(sinx)2=sin2xのように書かれます。
しかし、一般的にはsin-1xは逆正弦関数(=正弦関数の逆関数)であって、
1/(sinx)を意味しない事が多いです。
一般的に、三角関数の逆数に関しては1/(sinx)=(sinx)-1(=cosecx) と書き、
負のベキ乗(あるいは逆数のベキ乗)に関しては
{1/(sinx)}2=1/(sin2x)=(sinx)-2(=cosec2x)などのように書きます。
一般的に、f(x)の逆関数はf-1(x)と記します。
表記体系としては一応 sin-1xを1/sinxと勘違いしないようにはなっていますが、
当サイトでは基本的に逆三角関数は Arcsinxや Arccosxの表記を使用しています。

また、「余接(cot)」「正割(sec)」「余割(cosec)」などは三角関数の「逆数」です。
例えばsecθ=1/(cosθ)であって、それらは「逆三角関数」とは別物になります。
余接関数等にも逆関数を考える事はできますが、正弦・余弦・正接の逆三角関数と比べると使用頻度は低いと言えます。

種類と基本的性質

通常の正弦関数y=sinxに対してはxの値を決めればyが定まるわけですが、理論的にはyに対してxの値も計算できるというふうにも見れます。つまりx=f(y) のように考えるわけです。これが一般的な逆関数の考え方ですが、それを三角関数について考えたものが逆三角関数です。

逆三角関数(三角関数の逆関数)
  • y=sin xの時、x=Arcsiny(もしくはsin -1y)と書き、逆正弦関数と呼びます。
  • y=cosxの時、x=Arccosy(もしくはcos-1y)と書き、逆余弦関数と呼びます。
  • y=tanxの時、x=Arctany(もしくはtan-1y)と書き、逆正接関数と呼びます。

Arcsinxと書く場合は、「アークサインエックス」のようにも読む事があります。
同様にArccos, Arctan は「アークコーサイン」「アークタンジェント」と読みます。

例えばy=sinxに対して
x=π/2の時にはy=sin(π/2)=1であるので、π/2=Arcsin1のようになります。
同様に、例えばx=π/4の時にtanx=1なので π/4=Arctan1のようになります。
つまり「三角関数あるいは三角比のある値を与える角度は何か?」
という事を表したのが逆三角関数です。

逆三角関数は通常の三角関数と違って、微積分に関して以外の関係式は多くありません。
例えば加法定理のような関係式は基本的に考えないわけです。(ただし通常の三角関数の加法定理と組み合わせて計算をする事はあります。)
積分の時に一応覚えていると良いかもしれない関係式としては
Arcsinx+Arccosx=π/2があります。
ただしこれは後述するように
逆三角関数の値として「主値」を採用する場合において成立するものです。
すなわち、Arcsinxの値域を [-π/2,π/2]として
Arccosxの値域を [0,π]とした場合に成立する関係式です。

ですので具体的な意味としては実は難しくないのですが、
数学的には注意点は2つほどあります。

逆三角関数についての数学上の重要な注意点
  • 逆三角関数を単独の関数として扱う時は、他の関数と同じく「xを変数として
    y=Arcsinxのように書くのが普通です。(その時、siny=xです。)
    通常の三角関数y=sinxに対して逆正弦関数を考えるならx=Arcsinyとも書きます。
    ただし文字自体は変数をxとしてもyとしても、本質的にはどちらでも変わりません。
  • 三角関数は周期関数なので
    y=sinxなどにおいてyの値に対して複数の(無限個の)xの値があり得ます。
    例えばx=π/4の時にtanx=1となるのは「x=π/4もそうだがx=9π/4もそうである」といった話にもなるという事です。
    そのために逆三角関数を考える時には通常、1周期分だけを考えて
    特に0を含む値域(三角関数で言えば定義域)を単調関数になるように選んで使うのが普通です。逆三角関数がその範囲の値である事を指して主値と呼びます。

yとxの文字の使い分けの関係は混乱を生じやすいかもしれませんが、
何の文字を使っているかに関わらずに Arcsin 等の逆三角関数を使う時には
変数とその定義域は「通常の三角関数の値」であり、
逆三角関数の値とその値域は「角度」を考えています。

多くの場合、三角関数y=sinxなどを使っている中で逆三角関数を考える場合には
変数と関数を表す文字を区別するためにx=Arcsinyのように書いて、
微積分などで単独で逆三角関数を最初から使う時にはy=Arcsinxのように書いたりします。
(後述で少し触れますが同じく逆関数の関係にある指数関数と対数関数の関係と同じように捉えると分かりやすいかもしれません。)

文字としてはxでなくてもθなどを使っても同じです。

逆三角関数の「主値」について

逆三角関数の変数の定義域および値域としての「三角関数の1周期分」については無限個の区間からどこを切り取っても同じですが、普通は逆三角関数が単調増加または単調減少となるように考えます。
例えば sinx に対しては [-π/2,π/2]で考えれば十分とするわけです。(これは三角関数の定義域で、逆三角関数から見れば値域になります。)

また、普通は三角関数の1周期分を0を含む範囲で考えて、先ほども触れましたが逆三角関数の値がそこに含まれる事を指して主値と呼ぶ事があります。例えば sinx=0となるxは0,π、2π、・・・のように無限にあり得るわけですが、主値を使うなら Arcsin0=0です。
何のことわり書きも無ければ、普通は逆三角関数は主値で考えられています。

逆三角関数として「主値以外の一般の値」も含めている場合は 「arcsinx」のように書くと決めている表記法もあります。
ただし逆三角関数と言えば普通は主値を考えるので、どの表記法が正しい間違っているの問題ではありませんが、当サイトでは「断り書きがなければ逆三角関数は主値を考える」ものとして、表記方法は特別な意味をこめずArcsinxのように書くという事にします。

逆三角関数の値域の制限(主値で考えた時)
  • 逆正弦関数 Arcsinx の値域:[-π/2,π/2]
  • 逆正弦関数 Arccosxの値域:[0,π]
  • 逆正接関数 Arctanxの値域:[-π/2,π/2]

他方で、定義域では Arcsinx と Arccosx については [-1,1]であり。

Arctanxの定義域は (-∞,+∞)です。

3つの逆三角関数で共通して主値で値を考える場合には、
同じ三角関数の値x(これは変数ではなく関数値)に対するArcsinxとArccosxについて
sin(Arcsinx)=cos(Arccosx)=sin(π/2-Arccosx)であり、
Arcsinx=π/2-Arccosx ⇔ Arcsinx+Arccosx=π/2の関係式が成立します。
ここで主値におけるArccosxの値域は [0,π]、でArcsinxの値域が [-π/2,π/2]なので
範囲の整合性はとれているわけです。

主値で値域を考える時に成立する式

主値で考える時には次式が成立します。$$\mathrm{Arcsin}x+\mathrm{Arccos}x=\frac{\pi}{2}$$

初等関数としての逆三角関数の位置付け

逆三角関数は、分類としては実は初等関数に含まれます。
少し妙に思えるかもしれませんが、一応それには理由があります。

初等関数とは、程度の低い関数という意味では無くて数学において基礎となっていて非常に多く使う種類の関数をまとめて呼ぶ総称です。そこに実は逆三角関数も含まれるわけです。(初等関数に対する語は「特殊関数」です。多くは積分や級数で表され、ベータ関数、ガンマ関数、ゼータ関数など多数あります。)

具体的には、次の関数およびその四則演算(平方根なども含む)と逆関数、合成関数を指します。

  • 単項式xa(aは実数)
  • 三角関数 sinxなど
  • 指数関数 eなど

さてここで「対数関数」lnx=logexを敢えて入れませんでしたが、対数関数も初等関数の1つです。ただし、対数関数は指数関数の逆関数です。(指数関数が対数関数の逆関数であると言っても正しい。)そのため、同じ初等関数の中でそれら2つは対になっているわけです。
【双曲線関数 sinhxなども初等関数の1つですが、指数関数によって定義されます。】

また、単項式についてもxaとx1/aが互いに逆関数の関係になっています。
例えばx≧0におけるy=xの逆関数はy=x1/2=\(\sqrt{x}\) です。

「逆数」と「逆関数」の違いに注意すると、逆三角関数での話との関連が見えるでしょうか。
y=xの逆数はy=1/x=x-1ですが、逆関数は全く同じ形のy=xです。y=xの逆関数はx≧0の範囲でy=x1/2になりますが、それに対してy=x-2=1/(x)です。
また逆三角関数の値域の話と同様に、
何の条件もなくy=xに対してxについて解くとx=\(\pm\sqrt{y}\) であり、解が2つがあり得るわけですがx≧0のような制限があるとプラスの値だけに決まります。

そこで「じゃあ三角関数の逆関数ってどういうものか?」というところにつながるわけです。

指数関数にも単項式にも逆関数を考える事ができて、それではつまり、初等関数という枠組みで見ると三角関数だけ逆関数を敢えて考えない数学的な理由は無くて、むしろ考えておいたほうが整合性が色々ととれる事になります。

ただし、指数関数と対数関数の関係のように逆三角関数にも単独で積極的に活用できる性質があるのかというと、他の初等関数と比べるとそういう面は「やや弱い」と言えそうです。

確かに逆三角関数の性質として「角度が値として分かる」というのはあるのですが、そもそも角度というものが特別ないくつかの値以外は把握も測定もしづらいところがあるから三角比や三角関数を考えているのでもあります。

しかし次に見るように、微分と積分について考えると少なくとも数学上の活用方法は出てきます。

逆三角関数の微分の公式

値域を主値で考えた時の逆三角関数の微分公式を挙げておきます。(ただし、微分そのものが積極的に使われるというよりは、むしろその逆演算である積分のほうでの使い道がやや多いです。)

Arcsinxの微分などと聞くといかにも面倒くさそうですが、実は三角関数の微分に対して逆関数の微分公式を適用するとすぐに導出できるのです。xやyの変数の扱いにだけ注意すれば意外と難しくないのではないかと思います。

通常の三角関数の微分によって得られる導関数はそれぞれ次のようになります。

  • (d/dx)sinx =cosx
  • (d/dx)cosx=-sinx
  • (d/dx)tanx =1+tanx=1/(cosx)

これらに対して逆関数の微分公式を使うと、変数の表記方法に注意して3つの逆三角関数の微分公式を導出する事ができます。

逆三角関数の微分公式

逆三角関数の値を主値で考えた時、微分による導関数は次のようになります。
■逆正弦関数 Arcsinx の導関数
$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arcsin}x=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$ ■逆余弦関数 Arccosx の導関数
$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arccos}x=-\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$ ■逆正接関数 Arctanx の導関数
$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arctan}x=\frac{1}{1+x^2}$$ ArcsinxとArccosxに関してはx≠-1かつx≠1のもとで考えます。

Arcsinx と Arccosx については定義域は [-1,1]ですが
微分を考える時はx=±1を除いて (-1,1)の範囲だけで考えます。
その範囲内では平方根の中身は必ずプラスの値になります。
また、よく見ると導関数が定義できる範囲でArcsinx と Arctanx の導関数は常にプラスの値で
Arccosx の導関数は逆に常にマイナスの値です。
実際 Arcsinx と Arctanxは主値を考える時の値域[-π/2,π/2]で単調増加関数であり、
逆に Arccosx は主値を考える時の値域[0,π]において単調減少関数です。

これらの公式は比較的簡単な計算により導出できます。
Arcsinx と Arccosxの導関数が符号だけの違いである理由も導出の過程を見ると分かるでしょう。
計算の注意点としては例えば逆正弦関数ではy=Arcsinxとした時、siny=xであるので逆関数の微分公式にもそれを当てはめる必要があるといった事です。

$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arcsin}x=\frac{1}{\frac{d}{dy}\sin y}=\frac{1}{\cos y}=\frac{1}{\sqrt{1-\sin ^2y}}=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$

$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arccos}x=\frac{1}{\frac{d}{dy}\cos y}=-\frac{1}{\sin y}=\frac{1}{\sqrt{1-\cos ^2y}}=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$

$$\frac{d}{dx}\mathrm{Arctan}x=\frac{1}{\frac{d}{dy}\tan y}=\frac{1}{1+\tan^2y}=\frac{1}{1+x^2}$$

ArcsinxとArccosxの微分の途中の計算では sinx+cosx=1の関係を使っています。
Arctanxの微分においては、途中計算では微分の公式以外には特に何も使わずに
y=Arctanx から tany=xであるという関係だけを使っています。

この導出の過程でArcsinxの導関数については cosy=\(+\sqrt{1-\sin^2y}\)のように考えています。(マイナスではなくプラスの値としています。)これはArcsinxを主値で考えており、
値域(三角関数から見れば定義域)を [-π/2,π/2]として考えているためです。
その範囲ではcosy≧0となります。(ただしここではxosy=0となる端点を除いています。)
他方でArccosxについては値域を [0,π]として考えているのでその範囲ではsiny≧0です。
(先ほどと同じく実質はsiny>0で考えます。)
ゆえにsiny=\(+\sqrt{1-\cos^2y}\)としています。

逆関数の微分公式

逆三角関数に限らず、逆関数一般について次の関係式が成立します。 $$\frac{dy}{dx}=\frac{1}{\Large{\frac{dx}{dy}}}$$ この式を実際の計算で使う時にはyとxの関係について注意が必要です。
y=Arcsinxの時にはx=sinyですから、yをxで微分した時に逆関数の微分公式での分母は「x=sinyをyで微分した導関数」つまり cosyが入ります。

逆三角関数の積分の公式

さて、微分が分かれば積分のほうも分かる事になりますが、逆三角関数の導関数は意外にも「式としては三角関数が全然関係ない」という形になっています。ですので図形問題や三角関数を考えているわけではなくても積分に使える場合があるのです。

原始関数が逆三角関数で表される不定積分

平方根の中身が0より大きくなる定義域において、次の積分公式が成立します。 $$\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=\mathrm{Arcsin}x+C$$ $$\int -\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=\mathrm{Arccos}x+C$$ $$\int \frac{1}{1+x^2}dx=\mathrm{Arctan}x+C$$ $$\int \sqrt{a^2-x^2}dx=\frac{1}{2}\left(x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}\right)+C$$ Cは任意の実数定数です。
4番目の式については部分積分の公式を使って導出するもので、実用性は別問題として
「逆三角関数を使って原始関数を表せる」という例です。(置換積分でも計算は可能。)

このような形の関数の積分を考える時には置換積分や部分積分を考える必要はなくて、そのまま逆三角関数を当てはめる事ができます。

これらの積分の式について原始関数が Arcsinxと Arccosxになる2式を特に見比べると、
被積分関数が符号だけの違いとなっています。
ここで「符号が違うだけで積分の結果が変わるものか?」と妙に思えるかもしれませんが、
Arcsinx=-Arccosx+π/2の関係があるので、Arcsinxと Arccosxは互いに変換が可能です。
不定積分においてはπ/2は任意定数に含める事ができるので、Arcsinxのほうの不定積分の式の両辺に-1を乗じた場合には式としてはArccosxのほうの不定積分の式に変える事はできます。

例1:逆正接関数のマクローリン展開と角度計算

逆三角関数はある三角関数の値から角度を逆算できる関数ではありますが、関数としての実態が分からないと結局特別な値以外は簡単には計算できない事になってしまいます。

「それでも別に支障ない」と言ってしまえばそれまでですが一応、マクローリン展開(x=0におけるテイラー展開)を使えば逆三角関数の近似値をxから直接計算する事は可能です。

ただし、計算しやすい形になっているのは逆正接関数Arctanxのマクローリン展開ですので、
それについて説明をします。

展開式(無限級数展開)の内容

Arctanxのマクローリン展開は、意外かもしれませんが正弦関数や余弦関数のマクローリン展開に形は似ていて、式自体はそれほど複雑ではありません。

逆正接関数Arctanxのマクローリン展開

逆正接関数Arctanxはマクローリン展開可能(x=0でテイラー展開可能)であり、
|x|<1において次式で表す事ができます。 $$\mathrm{Arctan}x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\frac{x^9}{9}-\frac{x^{11}}{11}+\cdots$$ (x=1においても一応この式は収束します。)

この式で、てきとうにx=1/5などどしてみると、
Arctanx=1/5-1/(5・3)+1/(5・5)-・・・
4項目以降はほぼ0であると考えると、
Arctanx=1/5-1/375+1/15625-・・・≒0.1974≒0.0628π
これは度数法で言うとおおよそですが180×0.06358≒11.3°です。

このような数値の計算は、計算ソフトや関数電卓で直接的に計算できるならそれを使えばよいという話でもあるのですが、一応このように計算もできるという事です。(また、ソフト等を使うにしても逆三角関数によって「角度」を計算できる事は理系の人であれば一応知っておいてもよいのではないかと思います。)参考までにおおよその値の例をいくつか挙げておきます。

tanxArctanx(=弧度法での角度)\(a\pi\)の形で表す時度数法での角度 [ °]
0.990.7800.248\(\pi\)44.71
0.90.7330.233\(\pi\)41.99
0.80.6740.215\(\pi\)38.66
0.70.6110.194\(\pi\)34.99
0.50.4640.148\(\pi\)26.57
0.30.2910.093\(\pi\)16.70
0.10.09970.032\(\pi\)5.711

尚、tan(π/4)=1ですので Arctan1=π/4≒0.786[rad]で、度数法では45°です。

また、0に近い角度であればArctanx≒xとも言えます。
ただし同じくマクローリン展開からsinx≒xも同様に分かるので、0に近い角度であれば通常の正弦関数で考えたほうがむしろ早い事にはなります。

参考までに、Arcsinxのマクローリン展開は |x|<1の範囲で次式のようになります。
これはArcsinxの導関数を2項定理によって展開する事で得られますが、Arctanxと比較して結構面倒な形だと言えそうです。$$\mathrm{Arcsin}x=x+\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1\cdot3\cdot5\cdots(2n-1)}{2\cdot4\cdot8\cdots(2n)}\frac{\large{x^{2n+1}}}{2n+1}\right)$$

Arctanxのマクローリン展開の導出

この式は、前述の微分公式を使って普通にマクローリン展開を考えて導出しようとすると、実は結構大変です。というのも、1階と2階の微分はよいとしても、3階、4階・・・と高階微分を計算していくと形が複雑になるためです。

しかし実は、1階の微分後に幾何級数展開(等比級数による展開)する事でArctanxのマクローリン展開は導出できるのです。また、それによって各高階導関数のx=0における微分係数も判明する事になります。(これは、そのように考えてよいという定理があります。)

まず(d/dx)Arctanx=1/(1+x)であるわけですが、
|x|<1であればこれは幾何級数が収束する値として考える事ができて、
具体的には次のようになります。
1-x+x-x+・・・=1+(-x)+(-x)+(-x)+(-x)+・・・
これは、「公比が-xである等比級数」「公比が-xである等比数列の項数を無限大にした極限」と言っても同じです。

よって、|x|<1の範囲では(d/dx)Arctanx=1-x+x-x+・・・

そこで、この関数については項別積分が可能なので(※無限級数に対して項別積分が可能であるのは「収束円の内部においてだけ」という条件が必要なので注意)、|x|<1のもとで各項を積分すると次のようになります。積分変数をtとして、0からxまでの定積分という形にします。

$$\int_0^x\left(\frac{d}{dt}\mathrm{Arctan}t\right)dt=\int_0^x\left(1-t^2+t^4-t^6+\cdots\right)dt$$

$$\mathrm{Arctan}0=0に注意すると\int_0^x\left(\frac{d}{dt}\mathrm{Arctan}t\right)dt=\mathrm{Arctan}xであるので$$

$$\mathrm{Arctan}x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots$$

このようにして得られた級数は、実はマクローリン展開に等しくなります。
(無条件にではなく、ここでの場合はそうなります。)

無限級数に対して項別積分が可能であるかの数学的な問題を避けたい場合には、有限の和に対して積分をする方法もここでは適用できます。
S=1+(-x)+(-x)+(-x)+(-x)+・・・+(-x) 
両辺に-xを乗じると次式です。
-xS=(-x)+(-x)+(-x)+(-x)+(-x)5+・・・+(-x)+(-x)n+1
両辺について1式目から2式目を引くと次式です。
(1+x)S=1-(-x)n+1
⇔S=1/(1+x)-(-x)n+1/(1+x)
【そのため、|x|<1であればn→∞でS→1/(1+x)】
ここで、敢えて極限を考えずに式を整理すると有限のnに対して
S+(-x)n+1/(1+x)=1/(1+x)です。
そしてSに対して元の式を代入すると、
1/(1+x)=1+(-x)+(-x)+(-x)+・・・+(-x)+(-x)n+1/(1+x)
これは有限の項の和ですので、項別積分は可能です。
そこで項別積分を実施すると、有限の範囲でのマクローリン公式(x=0におけるテイラー公式)を作れます。その後で、積分型の剰余項の収束について考える必要があります。(結果は剰余項はn→∞で0に収束します。)

例2:ライプニッツ級数の導出

ライプニッツ級数とは、数学的に成立するという事以上の意味はそれほど無いとも言われますが円周率を無限級数で表す式です。さらに、各項は簡単な有理数で表されているという「不思議な式」です。

ライプニッツ級数を導出する方法は複数ありますが、実は逆正接関数を使う方法がその1つです。

ライプニッツ級数

次の無限級数は収束し、値は円周率の1/4倍になります。
$$1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\cdots=\frac{\pi}{4}$$ これは「近似値」とは少し違うもので、「π/4を極限値として持つ」という意味において成立する「等式」になります。

ところで、この式に非常に似た形の式をこの記事内で先ほど考察していて、
それが逆正接関数 Arctanxのマクローリン展開です。実の所、Arctanxのマクローリン展開で
「x=1と置いたもの」はライプニッツ級数に他なりません。

それは偶然ではなく、きちんと証明できます。ただし Arctanxのマクローリン展開を幾何級数から導出する時には |x|<1の条件をつけていましたから、単純に「x=1を代入」するのは少し危ない操作であると言えます。もしかしたら、x=1では無限級数は無限大に発散するかもしれないからです。

しかし実際は、x→1とした時にもx-x/3+x/5-x/7+・・・は収束します。

ライプニッツ級数が収束する事自体は実は比較的簡単な考察により分かる事で、n項目までの和Sについて奇数番目と偶数番目を分けて考える事で証明できます。

S2n-1に対してS2nはマイナスの項が加わって少し減りますが、S2n+1でまた少し増えます。しかし項の絶対値自体は減り続けるため、S2n-1の値までは戻りません。
よってS2n-1>S2n+1です。
すなわち奇数番目までの和だけに着目すると{S2n-1}は単調減少数列となっています。
逆に遇数番目までの和S2nに着目すると{S2n}は単調増加数列となります。
さらに、プラスとマイナスが交互に現れるので必ずS2n-1>S2nでもある事から
任意の自然数nに対してS2n<S2n-1<S=1により{S2n}は上に有界であり、
S2n-1>S2n>S=2/3であり、{S2n-1}は下に有界です。
つまり両者ともに有界な単調数列なので{S2n-1}と{S2n}はそれぞれ収束し、
さらにS2n-S2n-1を考えてみると各項の絶対値は0に近づいて行くので
n→∞でS2n-S2n-1→0です。
つまりn→∞で{S2n-1}と{S2n}は同じ値に収束します。
すなわち、級数全体も収束する事になります。(ただし、極限値はまだ不明です。)
この事は実はライプニッツ級数に限らず、プラスマイナスが交互に現れる交代級数について「項の絶対値が単調減少でn→∞で0に収束する」という条件があれば級数も収束するという定理があります。(ライプニッツの定理と呼ばれる事があります。)

Arctanx自体はx=1以上でも全実数において値を持ちます。Arctan1=π/4です。
(π/4は度数法で言えば45°の角度です。)

そこで|a| <1に対してπ/4-(a-a/3+a/5-a/7+・・・)を考えます。
Arctan1=π/4であり、
|a| <1に対してはマクローリン展開により、
Arctan a=a-a/3+a/5-a/7+・・・です。
よって、π/4-(a-a/3+a/5-a/7+・・・)=Arctan1-Arctan a となります。

ここでa→1の極限を考えますが、
Arctanxは連続関数なのでa→1の極限ではArctan a→Arctan1です。
それは当然と言えば当然の関係ではあるのですが、
それによってマクローリン展開の式もArctan1に収束する事が分かります。
つまりはa→1で a-a/3+a/5-a/7+・・・→π/4となるわけです。

「Arctanxが連続関数である事」の部分を少し詳しく見ると次のようになります。
まずtanxが連続関数であり、「狭義単調増加(x<wに対してf(x)<f(w)となる)または狭義単調減少であればその逆関数もまた連続であり、x=1においても連続」となります。
今、f(x)=Arctanxとするとx=1で連続であるから
「1を含むある開区間Uがあって、任意の実数ε>0に対してUの区間の長さを十分小さくすれば、Uに含まれる任意の実数xに対して |f(1)-f(x)|<εとなるようにできる」
という事になります。
つまり先ほどの|a| <1であるaについて任意の実数ε>0に対して
|f(1)-f(x)|<εとなる「1を含む開区間U」に含まれているものを選べば、
任意の実数ε>0に対して|f(1)-f(a)|
=|Arctan1-Arctan a|= |π/4-(a-a/3+a/5-a/7+・・・)|< ε
よって、a→1の極限では
a-a/3+a/5-a/7+・・・→ π/4という事になります。

さてここで、「aを1に置き換えて1-1/3+1/5-1/7+・・・=π/4」としても大体合っているのですが、より正確にやるのであればここでは概略だけに留めますが次の定理を使います。おそらく聞き慣れないかもしれませんが、連続性定理とかアーベルの連続性定理などと呼ばれます。

連続性定理

$$(-\rho,\rho)で収束する\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^nがある時$$ $$\sum_{n=0}^{\infty}a_n\rho^nも収束する\Rightarrow\lim_{x\to{\rho -0}}\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n=\sum_{n=0}^{\infty}a_n\rho^n$$ ρ( >0)は「収束半径」、開区間(-ρ,ρ)は「収束円」とも言います。
極限「x→ρ-0」は「左極限」(もしくは「左側極限」)を表し、
「ρよりも小さい値として近づく」という意味を持ちます。

この定理は一体何を言っているのかというと、ここでの話で具体的に言うと
まず|x|<1でマクローリン展開により
Arctanx=x-x/3+x/5-x/7+・・・となるのでこの級数は収束しています。
次にx=1の時に相当する式である1-1/3+1/5-1/7+・・・は
収束する事が個別の考察で分かっている状況です。しかし極限値は不明です。
そこで連続性定理によれば
1-1/3+1/5-1/7+・・・の極限値は
x-x/3+x/5-x/7+・・・
の左側極限x→1-0の極限値に等しいという事になります。
そして、x-x/3+x/5-x/7+・・・のx→1-0の時の極限値は
Arctanxの連続性によりArctan1=π/4という事が分かっているので、
1-1/3+1/5-1/7+・・・=π/4という結果を得るという流れです。 $$|x|<1 で\mathrm{Arctan}x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdotsであり、収束する。$$ $$x=1に相当する1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\cdotsは収束する事が示されている。$$ $$今、\mathrm{Arctan}xの連続性により\lim_{x\to{1-0}}\left(x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots\right)=\mathrm{Arctan}1=\frac{\pi}{4}$$ $$連続性定理により1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots=\lim_{x\to{1-0}}\left(x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots\right)$$ $$=\mathrm{Arctan}1=\frac{\pi}{4}$$

ライプニッツ級数を導出する他の方法としては、4分円(円の1/4)の面積を積分で計算する方法があります。ただし通常のx軸方向の積分ではなく、y軸を利用した少し工夫が凝らされた計算になります。実はその場合でもArctanxのマクローリン展開を考えた時と同様に幾何級数展開による計算を行います。

例3:マチンの公式による円周率の表現

再び数学的な話ではありますが、円周率を表す式は実は1つではなくたくさんあります。ライプニッツ級数は「その1つ」であり、不思議な式ではありますが「収束の速さが遅い」事でも実は知られています。収束の速さが遅いという事は、直接計算してもなかなか「3.14・・・」が出てこない事を意味します。

他方で収束が速い円周率の公式も知られていて、その1つがマチンの公式という逆三角関数で表されるものです。ここでは通常の三角関数における正接の加法定理を使った証明方法を簡単に説明します。

マチンの公式

次の式で円周率を表せるという事が知られています。 $$4\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{5}\right)-\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{239}\right)=\frac{\pi}{4}$$ これもライプニッツ級数同様に「等式」として成立する関係式であり、
さらにこの式に関しては極限の計算などは特に必要としません。

ここではこの奇怪な式が「確かにπ/4に一致する」事の確認を優先する形で証明を述べます。

最初に結論を言うと、マチンの公式の左辺は正接関数に対する「角度」であり、その角度を持つ正接の値が1になる事で「角度=π/4」という事が言えます。

$$示すべき式:\tan\left(4\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{5}\right)-\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{239}\right)\right)=1$$

普通の角度で考えるなら tan(4θ+θ)=1となる事を証明する事になります。

加法定理を使うと、tan(4θ+θ)={tan(4θ)-tanθ}/[1+{tan(4θ)}(tanθ)}ここで、少し面倒ですが4θに対して倍角の公式(加法定理でも同じ)を2回使います。
tanθ=1/5とすると上手く行くのでその値を代入します。

$$\tan(2\theta_1)=\frac{2\tan\theta_1}{1-\tan^2\theta_1}=\frac{2}{5}\cdot\frac{25}{24}=\frac{5}{12}$$

再度、倍角の公式を使います。具体的な数値を入れます。

$$\tan(4\theta_1)=\frac{2\cdot\frac{5}{12}}{1-\left(\frac{5}{12}\right)}=\frac{5}{6}\cdot\frac{144}{119}=\frac{120}{119}$$

これを、最初のtan(4θ+θ)={tan(4θ)-tanθ}/[1+{tan(4θ)}(tanθ)}に代入します。
θの値は結論から言えば1/239ですが、ちょっとここでは「確かにその値にすればよい」という事を式を解く形で見てみる事にしましょう。
tanθ=Xとおきます。

$$\frac{\frac{120}{119}-X}{1+X\frac{120}{119}}=1\Leftrightarrow\frac{120}{119}-X=1+X\frac{120}{119}$$

$$\Leftrightarrow X\frac{239}{119}=\frac{1}{119}\Leftrightarrow X=\frac{1}{239}$$

これを見ると、「239」という謎の半端な数字が120+119である事が分かります。以上から、結論が完全に分かっている前提での証明でしたが確かにマチンの公式が成立している事が分かります。

$$\frac{\frac{120}{119}-\frac{1}{239}}{1+\frac{1}{239}\frac{120}{119}}=\frac{28680-119}{28441+120}=\frac{28561}{28561}=1$$

$$よって、\tan\left(4\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{5}\right)-\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{239}\right)\right)=1なので$$

$$4\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{5}\right)-\mathrm{Arctan}\left(\frac{1}{239}\right)=\frac{\pi}{4}$$

Arctanxのマクローリン展開からマチンの公式の左辺を計算すると、
おおよそ4×0.1974-1/239≒0.785≒π/4となり、確かに公式の内容が成立している事を見れます。【Arctan(1/239)≒1/239としました。】
しかし上式を見れば分かるようにマチンの公式自体は近似式ではなく「等式」であり、しかも極限を含んでいない事が特徴です。

実は円周率を表す式としては「マチン型」というタイプのものが複数あって、比較的有名なものだとオイラーによるものとガウスによるものがあります。いずれもπ/4を逆正接関数の具体的な値の和や差で表す公式です。

例4:有理関数の積分に関する定理

これもまた数学の理論的な話ではありますが、間接的には応用にも関わる問題として
有理関数(多項式の分数で表される関数)の一般的な積分は原始関数としてどのように表せるか」
というものがあります。

実はそれは初等関数のみで表す事ができ、しかも有理関数、対数関数、逆正接関数とそれらの合成関数さえあれば(理論上は)足りる」という結果を述べる定理があります。
意外かもしれませんが「逆正接関数Arctanx」が必要な関数として入っているわけです。

有理関数の積分

2つの多項式P(x)とQ(x)がある時、P(x)/Q(x)で表される有理関数の不定積分は理論上、次の関数によって表す事ができます。

  • (別の)有理関数V(x)/W(x)
  • 対数関数(底は e)
  • 逆正接関数 Arctanx
  • これら3つの合成関数
また、置換積分を行う事で三角関数で構成される有理関数も。S(t)/T(t)の形の積分にできるので有限回の操作で原始関数を見つける事が理論上は可能です。

ここで「理論上」という語を付したのは「数学的に可能であるという事」と「それが便利であるか・使いやすいか」という事は別の問題である事も多いからです。

しかし理論上の話ではあっても、「原始関数を探す形で積分はどこまで計算できるのか?」という疑問に対して「三角関数の使用も含めて有理関数の範囲では、原始関数は初等関数の組み合わせで必ず導出する事が一応可能である」という一定の答えを述べている定理でもあります。

有理関数とは

有理関数とは例えば次のようなものです。 $$\frac{P(x)}{Q(x)}=\frac{p_0+p_1x+p_2x^2+p_3x^3}{q_0+q_1x+q_2x^2+q_3x^3+q_4x^4}$$ $$具体例:\hspace{5pt}\frac{P(x)}{Q(x)}=\frac{2-x+3x^2+x^3}{1+x+2x^3-x^4}$$ 三角関数の有理関数の例 $$\frac{1-\tan^2x}{1+\tan^2 x}$$

定理の証明の概略を記すと、まず分子の次数のほうが分母よりも大きい場合には多項式の割り算をして、分母の次数のほうが大きい状態にします。

次に分母の多項式を因数分解して、そこから部分分数展開をする事を考えます。

「因数分解と言うができないような多項式だったらどうするのか」と思われるかもしれませんが、実は任意の多項式は何かしらの複素数(実数を含めて)を用いて理論上は因数分解できる事が知られています。それはいわゆる代数学の基本定理による帰結です。

計算をすると、任意の多項式は次の3つの項に分類して分ける事ができます。

  • 分母が定数である(1を含めて)多項式
  • 分母が1次式のベキ乗で分子は定数である項
  • 分母が2次式のベキ乗で分子は1次式である項

因数分解をした時に実数以外の複素数が含まれている場合には共役を上手く使って虚数単位が式に現れないように工夫します。分母が2次式のベキ乗の項にはその意味があります。

さてその段階に至ると原始関数を探す形で積分ができます。この時に、使用する初等関数の種類は理論上3つであるという事が言えるのです。

  • 単項式と多項式および有理関数:
    分母に分母に定数以外が含まれない多項式および1/{(x-a)}【n≧2】、
    分母が2次の項に由来するx/{(x+1)}【n≧2】
  • 対数関数:1/(x-a)および分母が2次の項に由来するx/(1+x)の項
  • 逆正接関数:2次の項に由来する1/(1+x)の項

こうして見ると積分をする時に問題が生じるのが「分母の式」であって、1/(1+x)の項を処理する時にどうしても必要なのが逆正接関数という事になります。
その項の不定積分は前述のように Arctanx+Cです。

部分積分の公式

部分積分の公式は「部分積分法」もしくは単に「部分積分」とも言い、置換積分と同じく積分において関数の原始関数(=微分するとその関数が得られる)を探すのに使われる基本公式の1つです。
英語名:integration by parts

公式の内容

関数が次の形をしている時には部分積分の公式を適用して積分の計算ができます。
この公式は不定積分でも定積分でもどちらでも使えて、
具体的な例に適用して計算していく場合はどちらの場合の形も使用します。

部分積分の公式(部分積分法)

不定積分の場合は次式です。 $$\int \left(\frac{d}{dx}f(x)\right)g(x)dx=f(x)g(x)-\int f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$ 定積分の場合は次式になります。 $$\int_a^b \left(\frac{d}{dx}f(x)\right)g(x)dx=\large{[f(x)g(x)]}_a^b-\int_a^b f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$ $$=f(b)g(b)-f(a)g(a)-\int_a^b f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$ 定積分のほうの形は、1つ前の段階として(d/dx){f(x)g(x)} に対する
積分区間 [a, b] での定積分を考えているのでこのような形の式になっています。

部分積分の公式を適用する事を指して「部分積分する」というふうにもよく言います。
文章の表現としては例えば「左辺を部分積分すると次のようになる」などといった具合に使います。

証明については次に述べますが、積の微分公式を変形したものを積分して公式が得られます。

また具体例についても後述しますが、部分積分の公式を実際の計算で適用する時には
まずてきとうなh(x)g(x)の形の関数に対する積分があって、
何か別の関数f(x)を考えると「h(x)=(d/dx)f(x)となるようだ」と気付く事で部分積分の公式を適用してみるといった流れになる事が多いと言えます。

$$計算で使う時は主に、\int h(x)g(x)dxの形の式に対して、$$

$$h(x)=\frac{d}{dx}f(x)となるようなf(x)を見つけて公式を適用します。$$

導出・証明

実は、部分積分の公式を導出する方法は微分の公式を知っていれば非常に簡単です。

置換積分法が合成関数の微分公式を根拠に成立しているのに対して、
部分積分法は積の微分公式を根拠に成立しています。

積の微分公式を書くと次のようになります。

$$\frac{d}{dx}(f(x)g(x))=\left(\frac{d}{dx}f(x)\right)g(x)+f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)$$

微分の書き方が複数ある事などに由来して、例えば次のように書いても同じです。 $$\frac{d}{dx}(f(x)g(x))=\frac{df}{dx}g(x)+f(x)\frac{dg}{dx}$$ $$(f(x)g(x))^{\prime}=f^{\prime}(x)g(x)+f(x)g^{\prime}(x)$$ f(x)=f、g(x)=gと略記するなら次のようにも書けます。 $$(fg)^{\prime}=f^{\prime}g+fg^{\prime}$$

積の微分公式において、
右辺の片方の項(ここでは第2項)を左辺に移行します。

$$\left(\frac{d}{dx}f(x)g(x)\right)-f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)=\frac{d}{dx}(f(x)g(x))$$

これを右辺=左辺の形に入れ換えます。

$$\frac{d}{dx}(f(x)g(x))=\left(\frac{d}{dx}f(x)g(x)\right)-f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)$$

次に両辺をxに関して積分し、(d/dx){f(x)g(x)}のところは積分するとf(x)g(x)になります。

$$\int \left(\frac{d}{dx}f(x)\right)g(x)dx=\int\frac{d}{dx}(f(x)g(x))dx-\int f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$

$$=f(x)g(x)-\int f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$

すると、全体を見ると部分積分の公式になっています。(不定積分の項が残っているので任意定数はここではつけていません。)
ですので、積の微分公式を知っていれば非常に簡単な成り立ちの積分公式であると言えます。

定積分の場合も同じように部分積分の公式の内容を得られます。
不定積分の場合の最後から1つ前の式から考えると比較的分かりやすいかと思います。

$$\int_a^b \left(\frac{d}{dx}f(x)\right)g(x)dx=\int_a^b\frac{d}{dx}(f(x)g(x))dx-\int_a^b f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$

$$=\large{[f(x)g(x)]}_a^b-\int_a^b f(x)\left(\frac{d}{dx}g(x)\right)dx$$

部分積分によって計算できる積分の例

初等関数の簡単な組み合わせであっても、
原始関数を直接探す事で積分を計算する事は一般的に非常に難しい事が知られています。

ですが、一部の関数については部分積分や置換積分によって原始関数が分かる場合があります。ここでは、部分積分の公式が使える代表的な例をいくつか挙げて説明します。

指数関数や三角関数との積になった関数

以下、指数関数と言ったら自然対数の底 e に対する eを考えるとします。
これは単独では(d/dx)e=eなので積分も直接計算できますが、別の関数がくっついていると話が変わってきます。三角関数についても似た事が言えます。

例えば次のような関数です。

  • xe
  • e
  • xsinx
  • esinx

こういった形の関数の積分は、部分積分の公式を使う事によって原始関数が分かるようになり、それで積分を計算する事ができます。

1つ1つ具体的に見て行きますが、基本的な考え方は「積を構成している個々の関数に着目し、微分を上手く使って原始関数が明らかに分かるような形に変形していく」事になります。

まずxeという関数について見てみましょう。これは部分積分の公式を適用して計算ができます。まず(d/dx)e=eである事から部分積分の公式を使える形である事に着目します。具体的に不定積分を計算すると次の通りです。(最後の結果に加えてあるCは任意定数です。)

$$\int xe^xdx=\int x\left(\frac{d}{dx}e^x\right)dx=xe^x-\int \left(\frac{d}{dx}x\right)e^xdx$$

$$=xe^x-\int e^xdx=xe^x -e^x +C$$

得られた結果が本当にxeの原始関数なのかを確かめると、
(d/dx)(xe-e)=e+xe-e=xe となっていますので大丈夫という事になります。

部分積分の公式自体が積の微分に由来にする関係式であるわけですが、
結果の式も「積の形」の項をを含むものになっています。
部分積分を使って府定積分を計算すると必ずそうなるというわけではありませんが、
元々の積分対象が積の形である時に部分積分法によって原始関数を導出すると、結果の式も積の形を含む場合も少なからずあるという事です。また、公式の形に由来して結果が2項以上の和や差になる事も多いのが特徴です。

定積分の場合は、例えば積分区間が [0, 1] であれば次のようにします。

$$\int_0^1 xe^xdx=\int_0^1 x\left(\frac{d}{dx}e^x\right)dx=\left[xe^x\right]_0^1-\int_0^1 \left(\frac{d}{dx}x\right)e^xdx$$

$$=e–\int_0^1 e^xdx=e-\left[e^x\right]_0^1=e-(e-1)=1$$

不定積分で最後の結果の原始関数を出してから、積分区間の端点を代入して計算しても同じ結果です。
(任意定数の部分は定積分では必ずC-C=0になって無くなります。)

次にxeの不定積分は、部分積分の公式を2回使って計算をします。
あるいは、xeの不定積分が分かっている前提なら、それも途中で直接的に計算に出てくるので結果を利用できます。ここではそれで計算します。もしxeの不定積分の結果が不明な状態であればそこで2度目の部分積分を行うわけです。

$$\int x^2e^2dx=\int x^2\left(\frac{d}{dx}e^x\right)dx=x^2e^x-\int \left(\frac{d}{dx}x^2\right)e^xdx$$

$$x^2e^x-2\int xe^xdx=x^2e^x-2(xe^x -e^x)+C$$

$$=(x^2-2x+2)e^x+C$$

このように見ると、xsinxなども同様に部分積分の公式で計算できる事が分かります。
その場合は、sinx=(d/dx)(-cosx)のように考えます。

$$\int x\sin xdx=\int x\left(-\frac{d}{dx}\cos x\right)dx=x(-\cos x)-\int \left(\frac{d}{dx}x\right)(-\cos x)dx$$

$$=-x\cos x+\int \cos x dx=–x\cos x+\sin x +C$$

結果が合っているか確かめると、
(d/dx)(-xcosx+ sinx)=-cosx+xsinx+cosx=xsinx となります。
よって、大丈夫という事になります。

では、esinxのような場合はどうでしょうか。これに関しては、実は部分積分を複数回行っても原始関数が直接的に分かる形には変形ができません。しかし、sinxとcosxに対して微分を行うとsinx→cosx→-sinx→-cosx→sinxのように周期的に同じ形になるので、部分積分で計算を進めた後に簡単な方程式を解く形で原始関数を導出できます。

$$\int e^x\sin x dx=\int \left(-\frac{d}{dx}\cos x\right)e^xdx=-e^x\cos x-\int (-\cos x)\left(\frac{d}{dx}e^x\right)dx$$

$$=-e^x\cos x+\int e^x\cos xdx=-e^x\cos x+\int e^x\left(\frac{d}{dx}\sin x\right)dx$$

$$=-e^x\cos x+e^x\sin x-\int \sin x\left(\frac{d}{dx}e^x\right)dx$$

$$=-e^x\cos x+e^x\sin x-\int e^x\sin xdx$$

この段階でまだ残っている不定積分の項は「最初の不定積分の符号だけ変えたもの」なので、
「方程式を解く形」で原始関数が分かる形になるパターンなのです。

これを不定積分の項に関して解いて、任意定数(CおよびC)も加えると次のようになります。

$$\int e^x\sin x dx=-e^x\cos x+e^x\sin x-\int e^x\sin xdx\hspace{2pt}となっているので$$

$$2\int e^x\sin x dx=-e^x\cos x+e^x\sin x +C_0$$

$$よって、\int e^x\sin x dx=\frac{e^x}{2}\left(-\cos x+\sin x\right)+C$$

ここでの任意定数の扱い方についてはそんなに気にしなくていい程度の事項ではありますが、
一応詳しく見るのであれば考えている関数の原始関数の1つをF(x)として、
2つの任意定数 CとC(別々の値を取り得る)を考えます。すると、
F(x)+C=-ecosx+esinx+F(x)+Cで、
―Cとおけばそれ自体が任意の実数を表し得る、つまり任意定数となるので
2F(x)=e(-cosx+ sinx)+C というようになります。
また、同じくそれ程気にする事項ではありませんが、最後にC=C/2と考えて
F(x)=(e/2)(-cosx+ sinx)+Cとしています。

結果が合っているか確かめると、
(d/dx){(e/2)(-cosx+ sinx)}=(e/2)(-cosx+ sinx)+(e/2)(sinx+cosx )=esinxとなっていて大丈夫である事が分かります。

「xの微分」が1として隠れている例

同じように部分積分の公式を使って原始関数を探す形で積分を計算する例として、ある関数に「xの微分」つまり(d/dx)x=1が乗じられていると見て部分積分の公式を適用する事があります。

これは一見すると数学上だけの技巧的な手段に思えるかもしれませんが、対数関数などの基本的な初等関数の原始関数を見つけるにあたっても重要な計算ですので知っておくと便利です。

比較的重要な次の2つの例で計算をしてみます。
2つのうち後者のほうの例は、置換積分によっても積分を計算できます。

  • ln x(=logex)
  • \(\sqrt{a^2-x^2}\) (定義域は|a| ≧ |x|の範囲)

ここで扱う対数関数は自然対数として考える対数であり、自然対数関数とも呼びます。
「ログナチュラル」と読む事もある lnxと書く表記方法をここでは使います。

まずln xについて、これをln x={(d/dx)x} lnxと考えるなら。対数関数の微分のほうについては(d/dx)ln x=1/xですので積分は部分積分法により上手く行きそうだと予想するわけです。

$$\int \mathrm{ln}x \hspace{1pt}dx=\int\left(\frac{d}{dx}x\right)\mathrm{ln}x \hspace{1pt}dx$$

$$=x\mathrm{ln}x-\int x\left(\frac{d}{dx}\mathrm{ln}x\right)dx=x\mathrm{ln}x-\int x\cdot\frac{1}{x}dx$$

$$=x\mathrm{ln}x-\int dx=x\mathrm{ln}x-x+C$$

$$\left(\int dx\hspace{2pt}は\hspace{2pt}\int 1 dx\hspace{2pt}の事です。\right)$$

結果が正しいか微分して確認すると、
(d/dx)(xlnx-x)=lnx+x・(1/x)-1=lnx+1-1=lnxとなり、
合っている事が分かります。

次に、比較的計算は込み入りますが後者のほうの例\(\sqrt{a^2-x^2}\) の積分についてです。置換積分でも積分を計算できますが、部分積分を使うと実は一般的な原始関数の形が分かります。結論を先に言うと、この関数の積分は逆正弦関数 Arcsinxを含んだ形で表されます。(逆三角関数の1つです。)
|x| <1のもとで
(d/dx)Arcsinx=1/\(\sqrt{1-x^2}\)であり、
(d/dx)Arcsin(x/a)=1/\(\sqrt{a^2-x^2}\)(a≠0の時)なので、
その形を作れないかどうかを考えると計算が理解しやすくなります。

自然対数関数に対する積分の時と同じく、xの微分としての「1」が隠れていると見ます。

$$\int \sqrt{a^2-x^2}dx=\int \left(\frac{d}{dx}x\right)\sqrt{a^2-x^2}dx=x\sqrt{a^2-x^2}-\int x\left(\frac{d}{dx}\sqrt{a^2-x^2}\right)dx$$

$$=x\sqrt{a^2-x^2}-\int x\left(-2x\cdot\frac{1}{2}\frac{1}{\sqrt{a^2-x^2}}\right)dx$$

$$=x\sqrt{a^2-x^2}+\int \frac{x^2}{\sqrt{a^2-x^2}}dx=x\sqrt{a^2-x^2}+\int \frac{x^2-a^2+a^2}{\sqrt{a^2-x^2}}dx$$

$$=x\sqrt{a^2-x^2}+\int \left(\frac{a^2}{\sqrt{a^2-x^2}}-\sqrt{a^2-x^2}\right)dx$$

a≠0の時は、積分の中の第1項をx/a を変数とする Arcsin(x/a)で表せます。
また、その段階で式を整理すると実は「積分の項に関して移項して解く」タイプの形になっている事が分かるので積分の結果が分かります。

$$a\neq 0 の時、\int \sqrt{a^2-x^2}dx=x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}-\int \sqrt{a^2-x^2}dxであるので$$

$$2\int \sqrt{a^2-x^2}dx=x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}+C_0$$

$$よって、\int \sqrt{a^2-x^2}dx=\frac{1}{2}\left(x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}\right)+C$$

細かい事ですがもしa=0であれば定義域は|a| ≧ |x|でしたから、定義域はx=0となり関数の値も0です。従って、もしそれをxで積分をするとしてもその値も0となります。ですので積分を考える場合には最初から|a|>0として考える、という事もできます。

以上の2例については一応結果をまとめておきましょう。
(結果を覚える必要があるというよりは、「部分積分法を使えばこのように結果を出せる」という事のほうが重要と思われます。)

自然対数関数と\(\sqrt{a^2-x^2}\) の不定積分

自然対数関数の不定積分は次のようになります。 $$\int \mathrm{ln}x \hspace{1pt}dx=x\mathrm{ln}x -x +C$$ \(\sqrt{a^2-x^2}\) の不定積分は a≠0 の時は次のようになります。
(a=0 の時はxも関数値も0となるので、不定積分も0) $$\int \sqrt{a^2-x^2}dx=\frac{1}{2}\left(x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}\right)+C$$ $$\left(例えばa=1の場合は\int \sqrt{1-x^2}dx=\frac{1}{2}\left(x\sqrt{1-x^2}+\mathrm{Arcsin}x\right)+C\right)$$ これらはいずれも「隠れた1」が関数に乗じられていると見て、
部分積分の公式を適用して計算すると結果が得られるタイプの不定積分です。

\(\sqrt{a^2-x^2}\) の不定積分の結果について、
計算が合っているかの検証用に結果の式を微分するのは少し面倒ですが
最初の項が積の微分で2項に分離し、全体の合計が元の関数になる事を確認できます。 $$\frac{d}{dx}\left\{\frac{1}{2}\left(x\sqrt{a^2-x^2}+a^2\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}\right)\right\}$$ $$=\frac{1}{2}\left(\sqrt{a^2-x^2}+x\cdot(-2x)\cdot\frac{1}{2} \frac{1}{\sqrt{a^2-x^2}}+\frac{a^2}{\sqrt{a^2-\frac{x^2}{a^2}}}\right)$$ $$=\frac{1}{2}\left(\sqrt{a^2-x^2}-\frac{x^2}{\sqrt{a^2-x^2}}+\frac{a^2}{\sqrt{a^2-x^2}}\right)$$ $$=\frac{1}{2}\left(\sqrt{a^2-x^2}+\frac{a^2-x^2}{\sqrt{a^2-x^2}}\right)$$ $$=\frac{1}{2}\left(\sqrt{a^2-x^2}+\sqrt{a^2-x^2}\right)=\frac{1}{2}\cdot 2\sqrt{a^2-x^2}=\sqrt{a^2-x^2}$$

応用例1:テイラー展開を部分積分から導出する方法

関数のテイラー展開と、その特別な場合であるマクローリン展開は微分係数を使った多項式の形により関数を近似する関係式で、数学上も物理等での応用においても非常に有用でよく使われる式です。

例えば自然対数の底による指数関数exのマクローリン展開(「x=0における」テイラー展開)は次のような無限級数になります。(この無限級数は収束します。)

$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}+\cdots$$

この式の出し方は色々あるのですが、実は部分積分の公式を使って導出可能です。exの式を見ると3!とか4!とかの階乗の部分が一体なぜ出て来るのか疑問に思われるかもしれませんが、部分積分の観点から言うとその部分の根拠は関数xの微分です。正確に言えばその積分をする事で出てくるので自然数の係数は全て分母についています。

少し工夫は必要ですが、ex =「x=0の値」+「x=0での微分係数」x+「x=0での2階導関数の微分係数」x+「x=0での3階導関数の微分係数」x+・・・のような形にする事を考えます。
つまり、積分の計算をするために部分積分の公式を使う時と違って、式の項をどんどん増やしていきます。以下、少し詳しく丁寧に見ていきます。

まず、e0=1である事を踏まえて次のようにします。

$$e^x=1+\int_0^xe^td=\hspace{5pt}\left(=1+\large{\left[e^t \right]_0^x}=1+e^x-1\right)$$

ここで、積分の項は「xの関数」として扱いたいので変数xと「積分変数t」を敢えて分けて考えています。(この考え方は元々の定積分や不定積分を定義dする段階で実は存在します。)

次に定積分の項に関して部分積分の結果を考えながら、「t=xを代入すると0になり、t=0を代入すると-xになる関数」を考えます。ちょっと妙な気もするかもしれませんが、これはt-xという関数が該当します。これにeが乗じられた(t-x)eが部分積分の結果として出てくる事を予想します。

そこで、積分変数tに関して1=(d/dt)(t-x)が乗じられていると見ます。
ここで、xをtに関する定数とするので(d/dt)x=0です。対数関数の積分を部分積分によって計算する時と同じ考え方です。

「積分に関してはxを定数と考える」というのは少し分かりにくいかもしれませんが、
まずxが「定数」だと考えて積分の結果を出してから
「そのxの値がどの実数値でも成立するので変数としてみなせる」と考える事もできます。
例えばx=3とか7とかいったてきとうな定数を考えてみて、
「0から7までの定積分」などを計算してみるとよいかもしれません。
その場合、定数に対する微分の結果は0ですから、
(d/dt)(t-7)=(d/dt)t=1というふうに確実に計算の過程を見れます。

「隠れた1がある」として考えた時、計算は次のようになります。

$$e^x=1+\int_0^xe^td=1+\int_0^x\left\{\frac{d}{dt}(t-x)\right\}e^tdt$$

$$=1+\large{\left[(t-x)e^t\right]_0^x}-\int_0^x(t-x)\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt$$

$$\large{=1+\{0-(-x)e^0\}-\int_0^x(t-x)e^tdt}$$

$$\large{=1+x+\int_0^x(x-t)e^tdt}$$

さらに、この後も同じような部分積分を続けて項を増やします。
ただし、ここから先は次のように考えます。

  • 部分積分の2項目で必ずマイナス符号が出てくる事をあらかじめ予測する
  • 操作を続けて行くにあたり、「最後の項が0に収束する」事を期待する

そこで、部分積分の操作を続けて行くと「分母の値が大きくなる」事を期待してtではなくtの微分が乗じられている形の項を考えます。そのような項の条件を整理しておきます。

  • xを定数としてtで微分すると-(t-x)=x-tになる
  • t=xで0になる
  • t=0でxの関数になる

すると、具体的には-(x-t)/2の形を考えると、
xを定数扱いとしてtで微分すると
-{-2(x-t)}/2=x-tとなるので、まず微分に関する条件は満たします。
また t=xでは-(x-t)/2=0であり、
t=0としてマイナス符号を付けると-{-(x-0)/2}=x/2です。
そこで、上記の積分の項において
-(x-t)/2のtによる微分とeが乗じられていると見て部分積分を続けます。

$$\large{e^x=1+x-\int_0^x(x-t)e^tdt=1+xe^x+\int_0^x\left\{\frac{d}{dt}\frac{-(x-t)^2}{2}\right\}e^tdt}$$

$$=1+x+\large{\left[-\frac{(x-t)^2}{2}e^t\right]_0^x}-\int_0^x\frac{-(x-t)^2}{2}\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt$$

$$\large{=1+x-\left\{\frac{-(x-0)^2}{2}e^0\right\}-\int_0^x\frac{-(x-t)^2}{2}e^tdt}$$

$$\large{=1+x+\frac{x^2}{2}+\int_0^x\frac{(x-t)^2}{2}e^tdt}$$

定積分の項に対してさらに部分積分を続けます。
微分して(x-t)/2になる関数を考えると-(x-t)/(2・3)が該当するので、
eに対して(d/dt){-(x-t)/(2・3)}=(d/dt){-(x-t)/(3!)}
が乗じられていると見ます。
そしてその次は、eに対して
(x-t)/(3!)=(d/dt){-(x-t)/(4!)}が乗じられていると見ると、
部分積分によりx/(4!)の項が付け加わります。

$$\large{e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\int_0^x\frac{(x-t)^2}{2}e^tdt}$$

$$\large{=1+x+\frac{x^2}{2}+\int_0^x\left\{\frac{d}{dt}\frac{-(x-t)^3}{3!}\right\}e^tdt}$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\left[\frac{-(x-t)^3}{3!}e^t\right]_0^x-\int_0^x\frac{-(x-t)^3}{3!}\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt }$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}-\left\{\frac{-(x-0)^3}{3!}e^0\right\}-\int_0^x\frac{-(x-t)^3}{3!}e^tdt }$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\int_0^x\frac{(x-t)^3}{3!}e^tdt }$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\int_0^x\left\{\frac{d}{dt}\frac{-(x-t)^4}{4!}\right\}e^tdt }$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\left[\frac{-(x-t)^4}{4!}e^t\right]_0^x-\int_0^x\frac{-(x-t)^4}{4!}\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt }$$

$$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\int_0^x\frac{(x-t)^4}{4!}e^tdt }$$

ここでは計算を少し詳しく書いていますが、要所以外は省略してももちろん可です。

これの次は eに (x-t)/(4!)=(d/dt){-(x-t)/(5!)}が乗じられていると見て
これまで同様にしてx/(5!)の項が付け加わります。
その後も部分積分の計算をずっと繰り返していきます。

このようにして
e=1+x+x/2+x/(3!)+x/(4!)+x/(5!)+・・・+「最後の項」
が出てくるわけです。結果だけ見ると不思議な事ですが指数関数を多項式の形に変形できています。
この、有限の値の「最後の項」を含む段階の関係式をテイラー公式と言います。

部分積分法により導出した e の指数関数のテイラー公式

e の x= 0における eのテイラー公式は次式です。$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}+\int_0^x\frac{(x-t)^n}{n!}e^tdt $$(他の方法でもテイラー公式を導出した時は最後の項の形だけ異なる形になります。)
部分積分を行う積分範囲をt=aからt=xとした場合は、eの微分は何階の導関数でも形が変わらずeであり、部分積分をした時にt=aを代入した(xーa)ea/k!の形の項が残る事に注意すると、次式です。$$e^x=e^a+e^a(x-a)+e^a\frac{x^2}{2}+e^a\frac{(x-a)^3}{3!}+\cdots+e^a\frac{(x-a)^n}{n!}+\int_0^x\frac{(x-t)^n}{n!}e^tdt $$ $$=e^a\left\{1+(x-a)+\frac{x^2}{2}+\frac{(x-a)^3}{3!}+\cdots+\frac{(x-a)^n}{n!} \right\}+\int_0^x\frac{(x-t)^n}{n!}e^tdt $$ 指数関数以外でも同様の式を作れます。
関数f(x)のx=aにおけるテイラー公式を部分積分で計算すると次式です。 $$f(x)=f(a)+f^{\prime}(a)(x-a)+\frac{f^{\prime\prime}(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\int_a^x\frac{(x-t)^n}{n!}\frac{d^nf(t)}{dt^n}dt$$ $$\left(\frac{df}{dx}= f^{\prime}(x) \hspace{10pt} \frac{d^2f}{dx^2}=f^{\prime\prime}(x) \hspace{2pt}と表記されます。\right)$$ 最後の項(剰余項)がn→∞で0に収束する時には式全体は収束する無限級数となって、それが関数のテイラー展開と呼ばれ、「x=0におけるテイラー展開」はマクローリン展開とも呼ばれます。指数関数や三角関数は、どの実数の値においても剰余項がn→∞で0に収束するので全実数の範囲でテイラー展開が可能である事を証明できます。

ここでの導出方法における定積分の項の扱いについては、
より正確に 数学的帰納法として証明を書くなら次のようになります。
示すべき命題は任意の自然数nに対して次式が成立する事です。 $$e^x=\left(\sum_{k=0}^n\frac{x^k}{k!}\right)+\int_0^x\frac{(x-t)^n}{n!}e^tdt$$ $$ \left(=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}+\int_0^x\frac{(x-t)^n}{n!}e^tdt\right)$$ シグマ記号で書いた部分について、階乗の定義により0!=1です。
n=1の時には次のようになるので成立しています。(n=0の時から考えても可です。) $$e^x=1+e^x-1=1+\int_0^xe^tdt=1+\int_0^x\left\{\frac{d}{dt}(t-x)\right\}e^tdt$$ $$=1+\large{\left[(t-x)e^t\right]_0^x}-\int_0^x(t-x)\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt$$ $$=1+\frac{x}{1!}+\int_0^x\frac{(x-t)}{1!}e^tdt$$ (n=0から始める場合は\(\large{e^x=1+\int_0^xe^tdt=\frac{x^0}{0!}+\int_0^x\frac{(x-t)^0}{0!}e^tdt}\) であり、証明すべき式は成立しています。 ですが、分かりやすさのためにここではn=1から始めています。)
n=kの時に証明すべき式が成立すると仮定し、
定積分の項に対して部分積分の公式を適用すると次のようになります。 $$\large{ e^k=1+x+\frac{x^2}{2}+\cdots+\frac{x^k}{k!}+\int_0^x\frac{(x-t)^k}{k!}e^tdt }$$ $$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\cdots+\frac{x^k}{k!}+\int_0^x\left[\frac{d}{dt}\left\{\frac{-(x-t)^{k+1}}{(k+1)!}\right\}\right]e^tdt }$$ $$\large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\cdots+\frac{x^k}{k!}+\left[\frac{-(x-t)^{k+1}}{(k+1)!}e^t\right]_0^x}$$ $$\large{-\int_0^x\frac{-(x-t)^{k+1}}{(k+1)!}\left(\frac{d}{dt}e^t\right)dt }$$ $$ \large{ =1+x+\frac{x^2}{2}+\cdots+\frac{x^k}{k!}+\frac{x^{k+1}}{(k+1)!}+\int_0^x\frac{(x-t)^{k+1}}{(k+1)!}e^tdt }$$ よってn=k+1の時も確かに成立するので、
任意の自然数nに対して証明すべき式(x=0におけるeのテイラー公式)が成立します。

指数関数に限らず、n階までの微分が可能な関数は同じ計算でテイラー公式を導出可能です。
また、部分積分法を使う計算以外にもテイラー公式を導出する方法は存在します。その場合は最後の剰余項が異なる形になりますが、指数関数や三角関数においてはその時の剰余項もn→∞で0に収束し、部分積分で計算した時と同じく全実数の範囲でテイラー展開が可能です。

応用例2:近似式の導出(スターリングの公式での例)

スターリングの公式は、十分大きい自然数に対する階乗N!についての
自然対数 ln(N!)に対する近似式です。

この近似式の導出過程には主に2つあって1つはガンマ関数を使う方法ですが、
もう1つは階乗に対する対数を近似的な「面積」と見て、自然対数関数の積分で近似する方法です。

ところで前述のように、e を底とする単独の自然対数関数の積分は部分積分によって計算するやり方が見やすいのでした。ここでの使用例は、割と普通に定積分の計算を普通にするために部分積分の公式を使うというものになります。

そこで、積分を考えたところから部分積分を使って具体的に導出過程を見てみます。積分区間は、十分大きい自然数Nと、何か小さい実数 a( >0)を使って [a, N +a]で考えます。

$$\mathrm{ln}(N!)≒\int_a^{N+a}\mathrm{ln}x\hspace{2pt}dx=\int_a^{N+a}\left(\frac{d}{dx}x\right)\mathrm{ln}x\hspace{2pt}dx$$

$$=\large{[x\mathrm{ln}x]_a^{N+a}}-\int_a^{N+a}x\cdot\frac{1}{x}\hspace{2pt}dx$$

$$=\large{[x\mathrm{ln}x]_a^{N+a}}-\int_a^{N+a}dx=\large{[x\mathrm{ln}x+x]_a^{N+a}}$$

$$=(N+a)\mathrm{ln}(N+a)+(N+a)-a\mathrm{ln}a-a=(N+a)\mathrm{ln}(N+a)+N-a\mathrm{ln}a$$

ここで、a が小さくてNは十分大きいとするとN+a ≒N と考えて、
また a ln a の項も他項に比べて小さく無視できるとします。

実際の近似ではNをそれほどを大きくとらなくても十分である時もあるのですが、
例えば分かりやすくNが1万で、aが0.1としましょう。
すると、 10000と10000.1の比較になりますが、
このような時には両者の差は十分小さいと見れるわけです。

すると、残った項により式を次のように近似できます。

$$\mathrm{ln}(N!)≒(N+a)\mathrm{ln}(N+a)-a\mathrm{ln}a+N≒N\mathrm{ln}N +N$$

これがスターリングの公式あるいはスターリングの近似式と呼ばれる近似式です。
主に統計力学などで使用されます。

応用例3:変分問題での例
(オイラー・ラグランジュ方程式)

理論物理学で非常に重要となる変分に関する基本的な問題(と言っても決して易しくありませんが)であるオイラー・ラグランジュ方程式(あるいは「オイラー方程式」)の導出過程では、実は計算としては部分積分を使います。しかも、使うと計算が便利というだけでなく関係式を導出するにあたって肝心となる式の変形を担っています。これは数学の問題でもありますが、むしろ物理学等のほうに関連が深い話となります。

部分積分を使う箇所に絞って取り上げると、次のような計算問題です。

積分の計算問題(オイラー・ラグランジュ方程式の導出過程)

xについての閉区間 [a, b]があり、η(a)=η(b)=0を満たす任意の関数η(x)がある。
また、xについての関数F(x) と F2(x)があり、 次の式が成立しているという。 $$\int_a^b\left\{\eta(x)F_1(x)+\frac{d\eta(x)}{dx}F_2(x)\right\}dx=0$$ この時、実はη(x)を含まない形でF(x) と F2(x)に関する微分方程式が成立しますが、
それは具体的にどのような関係式となりますか。

具体的な関数の形が一部の条件以外は何もありませんから、普通に定積分をこのまま計算するという事はできません。しかし、定積分の中身にη(x)という関数の導関数dη(x)/dxと、別の関数F(x)の積の形が含まれている事に注意すると、部分積分の公式を使う事ができるのです。

そこで、(dη(x)/dx)F(x) の項について部分積分の公式に当てはめて計算を進めてみます。

$$\int_a^b\frac{d\eta(x)}{dx}F_2(x)dx=\large{[\eta(x)F_2(x)]_a^b}-\int_a^b\eta(x)\frac{dF_2(x)}{dx}dx$$

$$=\eta(b)F_2(b)-\eta(a)F_2(a)–\int_a^b\eta(x)\frac{dF_2(x)}{dx}dx$$

$$\eta(a)=\eta(b)=0の条件により、\int_a^b\frac{d\eta(x)}{dx}F_2(x)dx=-\int_a^b\eta(x)\frac{dF_2(x)}{dx}dx$$

つまり、積分区間の端点における条件η(a)=η(b)=0がありましたから、
部分積分の行った後の第1項(値を代入する部分)は0となって「消える」わけです。
すると、実質的には元の定積分の中身に対して符号を入れ換えたうえで「微分する対象を入れ換える」
という変形ができた事も意味します。

物理等での部分積分法の活用方法

このようにできたりする事が、物理等で部分積分が要所の計算で意外に活用される大きな理由の1つです。つまり、0になってしまう項や0に近似できる項を分離して「消してしまう」事で、関数の全体の形を変形する手段として部分積分法が使われる事があります。
ここでの例は閉区間内の定積分ですが、無限大で関数が0に収束する条件を使う事で部分積分法を適用した時の1つの項を「消す」という場合もあります。後述の量子力学での波動関数などはその例です。

部分積分を行っていない項と合わせると、次のようになります。

$$\int_a^b\left\{\eta(x)F_1(x)+\frac{d\eta(x)}{dx}F_2(x)\right\}dx=\int_a^b\left\{\eta(x)F_1(x)-\eta(x)\frac{dF_2(x)}{dx}\right\}dx$$

$$=\int_a^b\eta(x)\left(F_1(x)-\frac{dF_2(x)}{dx}\right)dx$$

$$今、\int_a^b\left\{\eta(x)F_1(x)+\frac{d\eta(x)}{dx}F_2(x)\right\}dx=0という条件であり、$$

$$\eta(x)は端点での条件を満たす「任意」の関数形なのでF_1(x)-\frac{dF_2(x)}{dx}=0$$

つまり、F(x)-(d/dx)F(x)=0が、η(x)を含まない形でのF(x)とF(x)が満たす微分方程式である、という事になります。(※η(x)が「任意」でなかったら、積分全体が0であるからといって被積分関数またはその一部が0だとは言えませんので注意も必要です。)

変分問題とオイラー・ラグランジュ方程式

上記の問題の元の形を一応記しておくと次のようになります。
比較関数η(x)を使わないで内容としては同じ問題を考える場合もあります。
■問題:
閉区間 [a, b] において関数y=y(x)があって、sを実数としてy(x)にsη(x)という関数を付け加えたものを考える。(関数形自体を自由に変形するという事。)
y(a) および y(b) は定数で、η(a)=η(b)=0の条件のもと、 x,y,y’(=dy/dx)を変数として表される別の関数F(x,y,y’)があるという。
その条件下で [a, b] におけるF(x,y,y’)に対するxでの定積分I[y]を最小にするyの関数形が存在する時、F(x,y,y’)についてη(x)を含まない形で成立する式は何ですか。
【答え:微分方程式 ∂F/∂y-d/dx(∂F/∂y’)=0】 $$y(a)およびy(b)が定数であり、\eta (a)=\eta (b)=0の条件のもと、$$ $$I[y]=\int_a^bF(x,y,y^{\prime})dxを最小にするy(x)の関数形に対して次式が成立します。$$ $$\frac{\partial F}{\partial y}- \frac{d}{dx}\left(\frac{\partial F}{\partial y^{\prime}}\right)=0$$ この「オイラー・ラグランジュ方程式」は式に偏微分を含みますが、微分方程式としてはxに関する「常微分方程式」になります。yもdy/dxも、最終的にはxの関数として表せるためです。ただし実際問題としてはyなどをそのままの形で残して扱う場合も多いです。

応用例4:遠方で0になる関数の積分(量子力学など)

変分問題と同部類の部分積分の応用例としては、他にも
無限遠で0に収束する関数の積に対する(-∞,+∞)の範囲で行う積分などがあります。
量子力学で扱う波動関数(あるいは「状態」を表す関数)に対する積分計算はその例です。

波動関数の場合で言うと、無限遠と言っても正確には「ミクロのスケールから見て十分遠方の位置」を指しており、つまりメートル単位の遠方はそのような「十分な遠方」に該当します。ただし数式的にはとりあえず、それを無限大として扱うわけです。

そのような時、2つの波動関数ΨとΨがあるとします。(あるいは波動関数でなくても、遠方での条件が類似するような関数。)そのうちの片方の位置による微分(偏微分)による導関数と、もう片方の積(∂Ψ/∂x)Ψを考えて積分を(-∞,+∞)で行うとしましょう。部分積分に関しては積の微分を根拠にした公式ですので、偏微分で行っても1変数の微分でも同じ形になります。また、量子力学では波動関数は一般的には複素数関数ですが、やはり部分積分は適用可能です。

(∂Ψ/∂x)Ψに対する積分を、部分積分によって変形すると次のようになります。

$$\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\partial \psi_1}{\partial x}\psi_2 dx=\large{[\psi_1\psi_2]_{-\infty}^{\infty}}-\int_{-\infty}^{\infty}\psi_1\frac{\partial \psi_2}{\partial x} dx$$

$$=-\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\partial \psi_2}{\partial x} \psi_1dx$$

無限遠方でΨとΨは0と考えているので、部分積分を行った後の第1項は0になって「消える」わけです。すると、符号の入れ替えはありますが「微分する対象が入れ替わった積分」として式を変形できるという結果を得ます。

これを利用して近似式を考えたり、微分を含む演算子の作用の関係を考察できたりします。
量子力学における波動関数でなくても、類似の条件の関数に対する積分を計算する時は部分積分による近似計算は全く同じように可能となります。ただしそういった条件の関数に対して上記のような積分を行う典型例としては、量子力学の波動関数を挙げる事ができるという事です。

ここでは簡単のために上記のような例で考えましたが、先ほど触れたように波動関数は一般に複素数関数ですので多くの場合では波動関数Ψに対する「共役」\(\overline{\psi}\)(概略としてはいわゆる複素共役)も考えて理論を展開します。

応用例5:ガンマ関数の関係式の導出

より数学的な話ですが、ガンマ関数(特殊関数の1つ)に対して成立する関係式
Γ(x+1)=xΓ(x)は、実は部分積分の公式を使った比較的簡単な直接計算によって導出されます。

ガンマ関数は次のようにそもそもが積分で表される関数です。定義域はx>0として必ず考えます。
そのため、積分区間の端点の「0」のほうも「0への極限を考える」という意味になります。

$$\Gamma(x)=\int_{0}^{\infty}t^{x-1}e^{-t}dt$$

ガンマ関数に対して成立する関係式

定義域であるx>0における任意の実数xに対して、次の関係式が必ず成立します。$$\Gamma(x+1)=x\Gamma(x)$$ この関係式においてxが自然数である場合を敢えて考えて少し計算をすると、自然数に対するガンマ関数の値は階乗の形で表される事が分かります。

変数をx+1に置き換えたΓ(x+1)について、積分中の指数関数のほうに対して部分積分を考える事で変形ができます。(前述のxeのような関数の積分に対して部分積分を行う時と同じ考え方です。)

$$\Gamma(x+1)=\int_{0}^{\infty}t^xe^{-t}dt=\int_{0}^{\infty}t^x\left(\frac{d}{dt}-e^{-t}\right)dt$$

$$=\large{\left[-e^{-t}t^x\right]_0^{\infty}}-\int_{0}^{\infty}\left(\frac{d}{dt}t^x\right)\left(-e^{-t}\right)dt$$

$$=-\lim_{t\to\infty}\frac{t^x}{e^t}+\lim_{t\to 0}\frac{t^x}{e^t}+\int_{0}^{\infty}xt^{x-1}e^{-t}dt$$

$$\lim_{t\to\infty}\frac{t^x}{e^t}=0\hspace{2pt}であり、\hspace{2pt}\lim_{t\to 0}\frac{t^x}{e^t}=0\hspace{2pt}なので$$

$$\Gamma(x+1)=\int_{0}^{\infty}xt^{x-1}e^{-t}dt=x\int_{0}^{\infty}t^{x-1}e^{-t}dt=x\Gamma(x)$$

最後の箇所では、xはここでの積分においては定数扱いとなるので積分全体に乗じられる定数としています。(テイラー公式を部分積分で導出した計算と同じ考え方です。)

このような計算によって導出がされるわけで、Γ(x+1)=xΓ(x)の関係において
「1」という自然数がどこから出てくるのかというと、xを定数扱いする時に
「tによる微分計算でtの指数が1減る事」つまり(d/dt)t=tx-1という、微分の計算方法を知っていれば非常に単純な式に由来する事が分かります。

ここでも「xは定数扱い」としている事が重要で、
(d/dt)t は (d/dx)tとは異なるのです。
(d/dx)t をもし計算するなら、それは指数関数の微分になるので異なる結果となります。 $$\frac{d}{dt}t^a=t^{a-1}の計算をしていて、これは\frac{d}{dx}a^x=\mathrm{log}_ea^xとは異なります。$$

また、この計算では部分積分の公式を適用した時の第1項が0になる事(ここでは極限値として0)を利用しているとも言えるので、広い意味では前述の変分問題や波動関数に対する積分での部分積分法の使い方と同部類のものであるとも言えるでしょう。

上記の計算で少し分かりにくい所は、途中の極限の項が0に収束するという箇所でしょうか。
t→∞(無限大)だけでなくt→0の極限も考えている(定義域がx>0でt>0でもあるので)わけですが、いずれの場合も、t/e(=te-t)という関数についての
「任意の実数x>0に対する」t→0とt→∞の極限を考えています。
ただし、t→0の極限のほうは実質的に「tに0を代入」で済む話となり、xがいかなる値であっても極限値は0であるとすぐに分かります。
他方でt→∞の極限のほうも結論から言うと極限値は0となりますが、
数式的にはt/e(=te-t)という関数において
任意の実数x>0に対してt→∞の時 t/e →0かどうか?を少し考える必要があります。
これは例えばx=2でもx=100でも、
t→∞の時に t/e →0でありt100/e →0であるかという問題です。
この極限は、直感的にはtに対する指数がいかに大きくても、分母の指数関数のほうが最終的には圧倒的に大きくなるので「t→∞で0に収束する」と理解できます。
数式でそれを明確にする方法はいくつかありますが、例えばロピタルの定理という微積分での計算法を使うと、比較的簡単な計算によって任意のx>0についてt/e のt→∞での極限が0になる事を示せます。

置換積分の公式

置換積分は「ちかんせきぶん」と読みます。
「置換積分の公式」「置換積分法」とも言い、1変数の積分における公式の1つです。定積分にも不定積分にも、どちらにも使えます。微積分学の基本定理および部分積分と並んで、置換積分は定積分の計算法としてよく使われる公式です。

積分の理論全般について言える事ですが、積分の逆演算である微分のほうについて計算をある程度知っておくと分かりやすくて便利です。また、この記事の説明では三角関数や対数関数の公式なども比較的多く使用します。

置換積分は「1変数での定積分」に対して適用できる公式です。すなわち「2変数以上で積分を行う重積分においては適用できない」ので、その点は注意が必要です。
ただし、物理等での応用では一般論としては2変数・3変数の関数を扱っても具体的な事例を考察する時にはモデルを工夫して「計算は1変数で実行できる」ようにする事も少なくないのです。ですから1変数の定積分に関する公式も、初歩的だからといって役に立たないという事では無く、むしろ可能であれば積極的に使用される性質のものではあります。

公式の内容と意味

置換積分の「置換(ちかん)」とは「置き換える」という意味で、
被積分関数(積分の対象となっている関数)の「積分変数を別の変数に変換する」という事を意味します。つまり置換積分とは、積分における積分変数に対する変数変換を行う時に成立する公式です。

置換積分の公式は不定積分に対しても定積分に対しても成立します。

置換積分の公式(不定積分)

連続関数f(x)に対してx=g(w)がwで微分可能である時、
その積分区間でのf(x)のxを積分変数とする定積分はxをwで変数変換し、
積分変数をwとして次式で計算できます。 $$\int f(x)dx=\int f(g(w))\frac{dx}{dw}dw$$ この時、普通はあまり気にする必要はないですが\(\Large{\frac{dx}{dw}}\)は連続関数になっている必要があります。

この式で\(\Large{\frac{dx}{dw}}\)はx=g(w)をwで微分して得られる導関数を表します。

ここでは変数変換を行う対象をwとしてますが、文字としてはtでもsでも、変数だと分かるもので何かの誤解を生じないものであれば何でも構いません。後述する具体例では、xを角度θに変数変換して置換積分を行う場合の計算例を説明しています。

「覚え方」としては見かけ上「dx=(dx/dw)・dw」としたようになっており、微分の元々の意味から言うと必ずしも間違った捉え方でもありませんから、そのように理解してもよいと思います。ただし、1変数の時以外ではその考え方は一般的には使えませんので注意も必要です。
(特別な場合では、多変数でも同様の考え方を適用できます。)
数学上の定義では(dx/dw)はひとまとまりで微分により得られる導関数を表し、
「積分と一緒に使うdxやdwという記号」はあくまで積分変数を表す記号になります。

代入操作以外に「微分」がかならずくっついてきます。

次に、定積分の場合です。
この場合には変数変換をする時に、積分区間も変換される事に注意が必要となります。
その時に普通は2つの端点だけを変換すれば十分で、
例えばx=w+2のような変換の場合には、xに関する [0,1] の閉区間はwに関する [2.3] の閉区間となって積分区間が変更されるのです。(そうしないと計算の結果は合いません。)

置換積分の公式(定積分)

連続関数f(x)に対してx=g(w)がwで微分可能であり、
xに関する積分区間 [α,β] をwによって [a,b] = [g(p),g(q)] で表せるとします。
(つまりwでの積分区間は [p, q] となる。)
その積分区間でのf(x)に対するxを積分変数とする定積分は、
xをwで変数変換し、積分変数をwとして次式で計算できます。 $$\int_a^bf(x)dx=\int_{g(p)}^{g(q)}f(x)dx=\int_p^qf(g(w))\frac{dx}{dw}dw$$ 不定積分の時同様に、普通はそんなに気にする必要はないですが
\(\Large{\frac{dx}{dw}}\)は考えている区間において連続関数になっている必要があります。
例えばxに関する閉区間 [-1,1]が積分区間の時に、x=1/wのような変換をしたいと思ったら(あまりそういう変換はしないのですが)x=0となるwの値は存在せず、不連続点が発生するわけです。そういった変換をしてしまうと計算が変になります。
(x=1/wのような場合、w→∞での極限ではx→0に収束するので、強いて言えば積分区間を分けて端点での極限を考える「広義積分」として捉える事自体は可能です。しかしそういった場合にはまた別の数学的な考察も必要になります。)

置換積分の公式を適用する時に行う操作を整理し、列挙すると次の事です。

  1. y=f(x)に対してx=g(w)である時、
    wで表される式をf(x)に代入してy=f(g(w))の形にする。
  2. x=g(w)について、xをwで微分する。
    (なので、微分可能な関数による変換でないと公式は使えません。)
  3. 積分の中のy=f(g(w))に対してxに対するwによる微分(導関数)を掛け算し、積分変数をxからwに変える(dxからdwに変える)。それからwで積分をする。
  4. 特に定積分の場合にはxでの積分区間が [a, b] であったら、
    a =g(p),b=g(q) となるようなw=pとw=qを見つけて、積分区間を [p, q]に変更する。
    一応、不連続点が発生するような変換をしていないかどうかに少し注意。
  5. 不定積分の場合は、wで出された結果をxに戻す事も多い。
    (定積分であれば結果は基本的には数値の事が多いです。)

ただしこの手順の2番目でx=g(w)と考える事については、後述する具体例で見るようにw=h(x)の形で置き換えをしてから、その逆関数としてx=g(w)を考えるような場合もあります。(微分については、公式dw/dx=1/(dx/dw)を使えます。)ただしそのような変数変換のパターンでも、逆関数を考えずに積分を計算できるといった場合もあります。それらの事については、具体例を見たほうが多分分かりやすいでしょう。

「置換」という言葉は数学で単独の意味で使われる事もあって、それは順序を持つ集合の要素を「並べ替える」事を指します。1つの順列を、別の順列に変換する事であると言っても大体同じです。もう少し詳しく言うとそのような「写像」を指して「置換」と呼ぶことがあります。
他方で、1変数の定積分での「置換積分」はあくまで「変数変換」という意味での「置き換え」を行う時に成立する公式を指しています。ですので「置換積分」という呼び名は基本的にはその言葉全体でひとまとまりの意味を持っています。

公式の証明

置換積分の公式は、覚え方や理解の仕方としては「dx=(dx/dw)dw」と考える事に差し支えはないけれども、それを数学的な証明とする事はできません。ですのであのような公式が成立する事は自明な事であるとは言えず、証明が必要となります。

証明は、微積分学の基本定理および合成関数の微分法などの微分の演算を組み合わせる事で行えます。(これは数学の解析学的に見た場合も同じで、極限や積分の大元の定義に戻って考える必要はありません。微分の演算等を利用して「解析学的に見ても厳密な証明」になっています。)

最初に不定積分のほうの置換積分の公式を証明します。

まず、「微分すればf(x)になる」という意味でのf(x)の「原始関数」を考えます。この原始関数自体は、任意定数(微分すると0)を加える事で一意的に定まらず無数に存在しますが、そのうちの特定の1つをF(x)とおきます。原始関数全体が不定積分に該当します。(不定積分は、1つの原始関数があった時にはそれに定数を加えたF(x)+Cの形しかとり得ないという定理があります。)

$$Cを任意の実数定数として\int f(x)dx=F(x)+C$$

$$この時、\frac{d}{dx}\int f(x)dx=\frac{d}{dx}\left(C+F(x)\right)=f(x)が成立$$

今、x=g(w) がwで微分可能とすると f(x) の原始関数F(x) はwでも微分可能で、合成関数の微分公式により F(x) をwで微分して得られる導関数は次のように書けます。

$$\frac{d}{dw}F(x)=\frac{dF(x)}{dx}\frac{dx}{dw}=f(x)\frac{dx}{dw}=f(g(w))\frac{dx}{dw}$$

という事は、最右辺の形の関数に対するwに関する原始関数の1つはF(x)である事になります。あるいは、微分方程式を解くと捉えてwで積分すると考えても同じです。

$$Cを任意定数として、\int f(g(w))\frac{dx}{dw}dw=F(x)+C$$

$$\int f(x)dx=F(x)+Cであったから、\int f(g(w))\frac{dx}{dw}dw=\int f(x)dx$$

定積分の場合は、「不定積分の場合とほぼ同じ」としてもそんなに問題はないのですが、積分区間に関して「端点の部分だけ対応させればよい」事を明確にするために次のような形で証明を行います。

x=g(w)のもとで、g(p)= a でありg(q)= bであるとして、F(x)を先ほどと同じくf(x)の原始関数の1つであるとします。F(x)をwの関数として見る(wだけの式で書く)事を強調するならF(x)=F(g(w))です。不定積分の時の結果は得られているというもとでwに関してf(g(w))(dx/dw)の定積分を計算すると次式になります。

$$\int_p^qf(g(w))\frac{dx}{dw}dw=\large{[F(g(w)) ]}_p^q=F(g(q))-F(g(p))$$

$$=F(b)-F(a)=\int_a^bf(x)dx=\int_{g(p)}^{g(q)}f(x)dx$$

つまり、定積分を行う時には不定積分の時の結果と合わせて、積分区間の端点についてだけxとwとで対応させれば確かに同じ計算結果を得るという事が言えるわけです。

計算例1:円と楕円の面積計算

おそらく、置換積分が「計算に有効な事もある」という事が非常に分かりやすい例の1つは
円や楕円の面積を定積分で計算する場合ではないかと思われます。

円の面積に関しては平面幾何的な考察で「半径×円周率」という事が分かるほかに、積分を使うにしても実は円周の長さを表す「半径×2×円周率」の式で半径rに関して積分すればよいという方法もあるのですが、ここでは直交座標上でxに関して積分する場合を見てみます。

原点を中心とする円を考えて、半径はrであるとします。(r>0)
そして、xとyがともにプラスの範囲における4分円(円の1/4の部分だけ考えたもの)の面積についてだけ考えてみます。円全体の面積はその4倍です。

円を表す式はx+y=rです。yについて解くとy≧0のほうの解は\(y=\sqrt{r^2-x^2}\)となります。これをxに関して0からrまで積分すれば「πr/4になるはず」ですが、実際のところは一体どうなのだろうという話です。

そのタイプの関数の不定積分は実は直接的に逆三角関数を使っても表せるのですが、置換積分を使うと計算がより簡単であり、「角度」を使って積分できるようになるので図形的なイメージがしやすくなる利点があります。
(参考:逆三角関数を使う方法は、部分積分による計算です。)

そこで、x=rcosθという変数変換をします。rは定数(円の半径)でθは変数です。この変数変換は「極座標変換」でもありますが、置換積分を行うという積分の計算だけに着目する場合には、変数変換は図形的な意味を持つ必要は必ずしもありません。
例えば、ここでの計算ではx=rsinθとする事も可能で、同じ積分の結果を得ます。(ただし、図形上の考察であれば図と対応させたほうが分かりやすい場合というのはあります。)

この変換のもとで置換積分を考えると、三角関数の公式 sinθ+cosθ =1により平方根を除いて計算できるようになるので積分の見通しが良くなるのです。積分区間はxについて の[0,r]をθについての [π/2,0]に変えます。数の大小について一見妙に見えるかもしれませんが、余弦が0から1に増える時は角度は小さくなっていきます。それをそのまま公式に当てはめて計算します。

$$x=r\cos\theta および\frac{dx}{d\theta}=-r\sin\theta を置換積分の公式に当てはめると、$$

$$\int_0^r\sqrt{r^2-x^2}dx=\int_{\large{\frac{\pi}{2}}}^0\sqrt{r^2-r^2\cos^2\theta}\frac{dx}{d\theta}d\theta$$

$$=\int_{\large{\frac{\pi}{2}}}^0r\sin\theta(-r\sin\theta)d\theta =-r^2\int_{\large{\frac{\pi}{2}}}^0\sin^2\theta d\theta=r^2\int_0^{\large{\frac{\pi}{2}}}\sin^2\theta d\theta$$

$$=r^2\int_0^{\large{\frac{\pi}{2}}}\frac{1-\cos 2\theta}{2}d\theta(加法定理か倍角の公式より)$$

$$=\frac{r^2}{2}\large{\left[\theta -\frac{1}{2}\sin 2\theta\right]_0^{\large{\frac{\pi}{2}}}}=\frac{r^2}{2}\cdot\large{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi r^2}{4}$$

つまり、確かに円の4分の1の面積を表す結果となりました。(最後の部分で原始関数に値を代入する箇所では、1次式の θ にπ/2を代入した項以外は全て0となります。)
途中計算での sinθの積分を行う時には余弦関数の加法定理を変形して(もしくは倍角の公式を適用)計算を行っています。

楕円の場合も同様に原点を中心としてx≧0,y≧0の範囲で全体の1/4を考えて計算できます。
楕円を表す式はx/a+y/b=1です。aもbもプラスの数であるとします。この式をyについて解くとy≧0のほうの解は次のようになります。

$$y=\sqrt{b^2-\frac{b^2x^2}{a^2}}=\frac{b}{a}\sqrt{a^2-x^2}$$

この式の形を見ると、円の時の式でr=aとして全体をb/a倍にしたものになっています。
ですので円の場合と同様に置換積分で計算する事ができますが、
楕円(の4分の1)において積分する区間もxについて[0, a]なので
「半径aの円の、積分によって導出した面積のb/a倍」を考えても同じ結果になります。

$$楕円全体で計算すると、4\cdot\frac{\pi a^2}{4}\cdot\frac{b}{a}=\pi ab$$

これが楕円の面積を表す式になります。図形的には、2aおよび2bはどちらが長いか短いかで「長径」と「短径」を表します。また、a=bであれば円になりますが、面積の式もきちんとそれに対応している事が分かります。さらに円を「縦や横の一方向にだけ拡大縮小した場合」にはその倍率の分だけ面積も増加または減少する事が、数式的に見れるわけです。(a=bの状態から例えばa=2bとすれば面積もa=bの時の2倍になります。)

計算例2:物理・電磁気学での使用例

物理での計算で、考察の対象によっては置換積分が計算に使える事があります。

例えば電磁気における特定の場合などです。ここでは電気のほうで例を見てみましょう。
静電気力と電場に関する1つの計算例です。
長さが2L[m]の直線状の棒が、線密度λ[C/m]で一様に帯電している(1mあたりの電荷がλ[C])とします。この棒の中心から棒に対して垂直にr[m]の位置において、電場の大きさ(1[C]の電気量の電荷が受ける力)はいくらになるでしょうか。

棒の中心を原点にとり、そこからの距離を向きを含めてx[m]とします。それぞれの微小な区間における電気量はλdx[C]で、電場を考える位置までの距離は三平方の定理を使って(x+r)1/2[m]です。クーロン力が働くと考えるとそれの逆2乗に比例するので(x+r)-1が式に乗じられます。

棒に帯電している電荷が対称的な分布である事を考えると、棒の中心を通る垂線上では電場のベクトルの「合計」の向きは棒に対して垂直です。(棒の平行な向きの成分はプラスマイナスで打ち消して0です。1つ1つの電場ベクトルの向きは基本的に斜め方向。)そこで、成分の比率を考えると棒に対する垂直方向成分の割合は図形的な関係からr/(x+r)1/2になります。比例定数をkとすると、電場は微小区間による帯電が作る電場(ベクトル)の合計なので、棒に対する垂直成分の合計は積分で考える事ができて次のようになります。(ここで変数はxのみです。)

$$E=\int_{-L}^{L}\frac{k\lambda}{(x^2+r^2)}\frac{r}{\sqrt{x^2+r^2}}dx=k\lambda r\int_{-L}^{L}\frac{1}{\large{(x^2+r^2)^{\frac{3}{2}}}}dx$$

それで、この積分は原始関数を探す事で計算できるのかという話なのですが、
これは実は置換積分を行う事で計算できる部類の式です。

図で、x=rtanθとなるように角度θをとります。棒の端点ではθ=θLおよび-θLであるとします。これはx=Lとx=-Lに対応するわけです。すると、dx/dθ=r/cosθである事を使って置換積分を行うと次のようになります。

$$\frac{dx}{d\theta}=\frac{d}{d\theta}(r\tan\theta)=\frac{r}{\cos^2\theta}であり、$$

$$x^2+r^2=r^2(\tan^2\theta +1)=r^2\frac{1}{\cos^2\theta}にも注意して$$

$$E=k\lambda r\int_{-\theta_L}^{\theta_L}\frac{1}{\large{(r^2\tan^2\theta+r^2)^{\frac{3}{2}}}}\frac{dx}{d\theta}d\theta=k\lambda r\int_{-\theta_L}^{\theta_L}\left(r^2\frac{1}{\cos^2\theta}\right)^{\large{-\frac{3}{2}}}\frac{r}{\cos^2\theta}d\theta$$

$$=k\lambda r\int_{-\theta_L}^{\theta_L}r^{-3}\cos^3\theta\frac{r}{\cos^2\theta}d\theta=\frac{k\lambda}{r}\int_{-\theta_L}^{\theta_L}\cos\theta d\theta=\frac{k\lambda}{r}\{\sin\theta_L-\sin(-\theta_L)\}$$

$$=\frac{2k\lambda}{r}\sin\theta_L=\frac{2kL\lambda}{r\sqrt{r^2+L^2}}$$

電場の大きさの単位は [N/C] になります。最後の変形は図形的に見て正弦を辺の比で表しています。物理的な考察としては、単独の点電荷の場合とは距離の影響が異なってくる事や、L→∞とした場合はどうなるかといった事を見れます。

少し長ったらしい計算ではありますが、このように結果を出せるわけです。一見複雑な積分でも置換積分を行うと、角度θでの積分だと意外と単純な定積分計算に変わった事が分かります。この例では、置換積分で使う変数変換を図の関係にも合わせる事によって、図で平面幾何的に成立する関係も使えるようになっています。(例えば三角関数を辺の比で表す事など。)このように上手く行く事ばかりではないのですが、置換積分の公式を応用計算に使える事もあるという例の1つです。

力のベクトルを2方向に分解して考える事はこの例の状況に限らず、どんな時でもできます。ここでの例の状況下では、棒の中央に引いた垂線上では静電気力の「帯電した棒に対して平行な成分」は常に0であり、棒に対する垂直方向の成分のみを考えればいいという事です。

似た計算は磁場に関しても可能で、ソレノイドが作る磁場や、直線電流が作るビオ・サバールの磁場を具体的に計算する時なども似た感じの積分計算を行います。

計算例3:数学上の色々な不定積分の計算

微分に関しては多少複雑な形の関数であっても、公式を組み合わせて丁寧に計算すれば導関数を計算できるのが普通です。しかし、積分のほうに関してはそれほど複雑でない形の関数に対してでも原始関数の具体的な形を直接見つける事は難しい場合のほうが多いのです。そこで、部分積分や置換積分を使うと原始関数が分かる場合があります。

以下の例はどちらかというと数学上の理論的な計算が中心になりますが、一部は応用にも使えます、

具体的な積分に対して置換積分を使える場合というのは、実際のところは2パターンあります。

  • x=g(w) の形で置き換えをすると式が簡単になる場合
  • xで表される式についてh(x)=wとおいてから逆関数としてx=g(w)を計算して公式を適用するか、もしくはdw/dxを計算した式を使うという場合

前者の場合は公式通りの使い方です。前述の円の面積を積分で計算する方法や、電場の大きさを計算する過程での置換積分の使用においてはこちらのパターンです。すなわち例えばx=rcosθ やx=rtanθのように変数変換をしたのでした。

他方で後者のほうは、一般的には面倒な形になっているxの式を別の1つの変数としてしまってから、何らかの方法で置換積分ができるところまで持って行くというものです。
これは例えば、w=xであるとかw=tanxとする事を指しており、それでもあくまでxの代わりにwによる変数変換で置換積分を行うという例です。多少分かりにくいと思うので後ほどw=tan(x/2)とする例などで具体的に説明していきます。

原始関数がいくつかの和や差の項に分離するパターン

まず、「微妙に定数分だけ値がずれた項を含む」関数の原始関数を計算する場合です。
例えば\(x\sqrt{x+2}\) などの積分です。

もしこれが\(x\sqrt{x}\)であれば、平方根の部分はx1/2ですので
全体をx3/2として考えて原始関数は(2/5)x5/2+Cとなるわけです。

この考え方のみでも一応計算はできて、
それは\(x\sqrt{x+2}=(x+2)\sqrt{x+2}-2\sqrt{x+2}\) とする事で可能になるのです。

$$\int x\sqrt{x+2}dx=\int\{(x+2)\sqrt{x+2}-2\sqrt{x+2}\}dx$$

$$=\int(x+2)^{\frac{3}{2}}dx-\int2(x+2)^{\frac{1}{2}}dx$$

$$=\frac{2}{5}(x+2)^{\frac{5}{2}}-\frac{4}{3}(x+2)^{\frac{3}{2}}+C$$

この積分は実は置換積分で考えてもよくて、x=w-2と置く事で、置換積分の公式を使えます。
\(x\sqrt{x+2}=(w-2)\sqrt{w}=w\sqrt{w}-2\sqrt{w}\) となります。つまり、若干の違いではありますが「差で表される2つの項に分離する」事が少しばかり自然な形で計算されます。置換積分を行う時にはさらに微分の計算も必要なわけですが、この場合はdx/dw=1ですので簡単に済みます。

$$\frac{dx}{dw}=\frac{d}{dw}(w-2)=1に注意して、$$

$$\int x\sqrt{x+2}dx=\int(w-2)\sqrt{w}\frac{dx}{dw}dw=\int(w\sqrt{w}-2\sqrt{w})dw$$

$$=\frac{2}{5}w^{\frac{5}{2}}-\frac{4}{3}w^{\frac{3}{2}}+C=\frac{2}{5}(x+2)^{\frac{5}{2}}-\frac{4}{3}(x+2)^{\frac{3}{2}}+C$$

最後にwをxに戻す操作ではx=w-2 ⇔ w=x+2を使っています。

置換積分を行う時に、まずw=x+2とおいてから計算を進めても結果は同じです。
この場合は、どちらの方法で最初に考えてもそんなに手間は変わらないと思います。
他方で、平方根の部分を丸ごとwに置き換えて\(\sqrt{x+2}=w(\Rightarrow x+2=w^2)\)と考えてもこの場合は計算は可能で、同じ結果を得ます。

いずれにしても、このようなちょっとした初等関数を組み合わせた関数に対してでも、原始関数は結構面倒な形である事が分かります。計算はやりやすい方法でやればよいのですが、2通り以上のやり方を知っておくと片方を検算用に使えるというちょっとした利点はあります。

三角関数に変換すると上手く計算できるパターン

「見事に上手く行く」例は限られていますが、
xを三角関数に変数変換すると原始関数が分かり、積分を計算できる場合があります。

例えば、1+xという項が含まれる関数では、
x= tanwと変数変換すると上手く計算できる場合があります。
というのも、(d/dw)tanw=1+tanw=1/(cosx)といった計算ができるためです。
前述の電磁気学での電場の計算例で使用した変数変換は、このパターンに属する置換積分です。
被積分関数の分母に含まれる式が1+xではなくr+xでしたから、変数変換はx= rtanθとする事によって、代入するとr(1+tanw)のようにできる工夫をしていたわけです。

また、同じく前述の円の面積計算のところで考察した (1-x)1/2などの式の場合は
x=coswとすれば(1-cosw)1/2=(sinw)1/2=|sinw|などとできます。
【wの範囲によっては(sinw)1/2=sinwで、前述の例では定積分の積分区間がその範囲です。】

x= tanwと変数変換して上手く行く他の例は、例えば次のようなものです。不連続点が発生しないようにするために-π/2<w<π/2の範囲で考えるものとします。(その範囲では cosw>0です。)
(1+x)1/2=(1+tanw)1/2={1/(cosw)}1/2=1/cosw
1+tanw=1/(cosw) ⇔ cosw=1/(1+tanw)
およびdx/dw=1/coswの計算を使います。

$$\int\frac{x}{(1+x^2)\sqrt{1+x^2}}dx=\int\frac{\sin w\cos^3w}{\cos w}\frac{dx}{dw}dw=\int\frac{\sin w\cos^3w}{\cos w}\frac{1}{\cos^2w}dw$$

$$=\int\sin wdw=-\cos w+C=-\frac{1}{\sqrt{1+\tan^2 w}}+C=-\frac{1}{\sqrt{1+x^2}}+C$$

この積分に関しては、計算に慣れていると置換積分を行わなくても直接計算で最後の式を最初から出せるかもしれません。

三角関数による有理関数の積分

xをwによる変数変換で置換積分する時に変数変換として「wをxで表すパターン」には、例えばw=tan(x/2)という形の変数変換があります。
その変換のもとでは
dw/dx=1/{2cos(x/2)}={1+tan(x/2)}/2=(1+w)/2により
dx/dw=2/(1+w)
【※普通、逆関数の微分公式を使うと計算後に変数の入れ替えが必要ですが、ここではdw/dxの結果をxではなく「wで表せる」のでそのまま逆数としたものがdx/dwを表す式になります。】
さらに、加法定理や倍角の公式にも注意すると正弦、余弦、正接のいずれをも、
wの有理関数(分子と分母が多項式の形の分数で表される関数)で表す事ができます。

三角関数を置換積分で有理関数として計算する方法

三角関数の有理関数となっている関数の積分を考える時には、
w=tan(x/2)による変数変換を行って置換積分を行うと有理関数の積分の形に必ずできます。 $$w=\tan \frac{x}{2}とする事により、$$ $$\sin x=\frac{2w}{1+w^2}\hspace{15pt} \cos x =\frac{1-w^2}{1+w^2}\hspace{15pt}\tan x =\frac{2w}{1-w^2}$$ $$\frac{dw}{dx}=\frac{1+w^2}{2}\hspace{15pt}\frac{dx}{dw}=\frac{2}{1+w^2}$$ 変数変換を行った後でも、tanθ=(sinθ)/(cosθ)の基本的な三角関数の関係は成立し続けます。

そして有理関数は部分分数展開などをする事により、「(別の)有理関数」「lnx」「Arctanx(逆正接関数)」およびそれらの合成関数のみで表せるという定理が実は存在します。そのため、三角関数の有理関数(つまり三角関数のベキ乗と係数で作られる多項式)は理論上は有限回の操作で原始関数を導出できるという事になるのです。

w=tan(x/2)の変数変換のもとで、正接・正弦・余弦のうち2つを計算すると、もう1つは三角関数の基本的な関係から変数変換後の形を得る事もできます。これを使った置換積分によって、一応理論上は「三角関数による有理関数」の積分は、全て通常の有理関数の積分に置き換える事が可能です。

ただし有限回の操作で計算の実行が可能という事と、
その具体的な計算の効率が良いかどうかは別問題ですので一応注意は必要です。
しかし、比較的単純な三角関数の有理関数の積分であれば、
w=tan(x/2)の形の変数変換による置換積分は積分の計算に活用できます。
例えば1/cosx=(1+w)/(1-w)のようになるので、
これはdx/dw=2/(1+w)と掛け合わせると
(1/cosx)(dx/dw)=2/(1-w)=2/{(1+w)(1-w)}となります。
この形の式は実は部分分数展開で2項の和に分ける事ができるパターンなので、
原始関数を対数関数と三角関数(最後にwをxに戻す)の組み合わせで表す事ができます。

$$\int\frac{1}{\cos x}dx=\int\frac{1+w^2}{1-w^2}\frac{dx}{dw}dw=\int\frac{1+w^2}{1-w^2}\frac{2}{1+w^2}dw$$

$$=\int\frac{2}{(1+w)(1-w)}dw=\int\frac{1}{1+w}dw+\int \frac{1}{1-w}dw$$

$$=\mathrm{ln}\left|1+\tan\frac{x}{2}\right|-\mathrm{ln}\left|1-\tan\frac{x}{2}\right|+C=\mathrm{ln}\large{\left|\frac{1+\tan\frac{x}{2}}{1-\tan\frac{x}{2}}\right|}+C$$

このように、三角関数の逆数を積分すると原始関数には対数関数が含まれて来る事が分かります。
置換積分なしでこの結果を予想するのは少し難しいと言えそうです。

ここで使っている対数は自然対数です。
lnx=logexで、\(\large{\frac{d}{dx}\mathrm{ln}x=\frac{1}{x}}\)であり、
x<0のとき\(\large{\frac{d}{dx}\mathrm{ln}(-x)=\frac{1}{x}}\)なのでまとめて\(\large{\frac{d}{dx}\mathrm{ln}|x|=\frac{1}{x}}\)とも書きます。

1/sinxの不定積分も同じように計算できて、計算はより簡単です。

$$\int\frac{1}{\sin x}dx=\int\frac{1+w^2}{2w}\frac{dx}{dw}dw=\int\frac{1+w^2}{2w}\frac{2}{1+w^2}dw$$

$$=\int\frac{1}{w}dw=\mathrm{ln}|w|+C=\mathrm{ln}\left|\tan\frac{x}{2}\right|+C$$

合成関数の利用によっても原始関数が分かるパターン

ある形をしている関数の積分は、原始関数を直接見つける事は可能だけれども、
もし分かりにくければ置換積分を使うとよいという部類のものです。

具体的には、\(\large{xe^{x^2}}\)や、\(\Large{\frac{1}{x\mathrm{ln}x}}\) などの関数です。
あるいは、正接関数 tanxの原始関数も実は同じ部類のものです。
これらは置換積分で計算する事もできますが、もし合成関数の微分に慣れていると原始関数は直接計算でも導出可能と言える部類の関数です。

1.合成関数の微分を考慮して直接計算で積分する場合

上記の関数の積分を直接計算する時には、例えば次のようにします。

$$\frac{d}{dx}\large{e^{x^2}}=2x\large{e^{x^2}}なので\int\large{xe^{x^2}}dx=\frac{1}{2}\large{e^{x^2}}+C$$

$$\frac{d}{dx}\mathrm{ln}(|\mathrm{ln}x|)= \frac{1}{x}\frac{1}{\mathrm{ln}x}=\frac{1}{x\mathrm{ln}x}なので\int\frac{1}{x\mathrm{ln}x}dx=\mathrm{ln}(|\mathrm{ln}x|)+C$$

正接関数 tanxについても、実は対数関数を使って原始関数を導出できます。

$$\frac{d}{dx}\mathrm{ln}|\cos x|=-\frac{\sin x}{\cos x}=-\tan xであるから\int\tan x dx=-\mathrm{ln}|\cos x|+C$$

つまり、(dg/dx)f(g(x))の形になっている関数は、
合成関数の微分を考える事で原始関数を見つけて積分を直接計算できるわけです。

ところで(dg/dx)f(g(x))という関数の形は、変数を取り換えると(dg/dw)f(g(w))となり、x=g(w)とすれば(dg/dw)f(g(w))=(dx/dw)f(g(w))です。
つまり、置換積分の公式の「積分の中身」の形になっています。
その事が、置換積分によっても計算が可能である事と関係しています。

2.置換積分を使う場合

直接計算が少し分かりにくければ置換積分を使う事もできます。
ただし、ここでの例のような場合はいずれもw=h(x)の形をまず考えるタイプの計算になります。

例えば、上記の指数関数の例ではw=x,対数関数の例ではw=lnx、
正接関数の場合はw=cosxと置きます。

ここでx=g(w)の形の逆関数を考えると、例えばlnx=wに対してはx=eですが、逆三角関数などを考えるのは微分の計算もある事を考えるとちょっと面倒そうです。

このような場合、微分に関してはxに関して行ったほうが最初の計算は簡単です。

$$\frac{d}{dx}x^2=2x\hspace{15pt}\frac{d}{dx}\mathrm{ln}x=\frac{1}{x}\hspace{15pt}\frac{d}{dx}\cos x=-\sin x$$

すると、ここでの例は「特別な場合」である事は強調される必要はありますが、
xでの微分の結果(つまりdw/dx)が原始関数を導出したい関数の一部に実は含まれています。
例えば\(\large{xe^{x^2}}\)において、xはxの微分を定数係数を乗じた形です。
(※そこまで分かると前述の直接計算も可能になます。)
さらに、逆関数の微分公式によりdw/dx=1/(dx/dw)ですから、
置換積分を行う時に「掛け算で1にする」事ができます。

上記の指数関数が含まれる例では次のようになります。

$$\large{w=x^2 とおくとxe^{x^2}}=\frac{1}{2}\frac{dw}{dx}e^wなので、$$

$$\int\large{xe^{x^2}}dx=\frac{1}{2}\int\frac{dw}{dx}e^w\frac{dx}{dw}dw=\frac{1}{2}\int e^wdw=\frac{1}{2}e^w+C=\frac{1}{2}\large{e^{x^2}}+C$$

式の途中計算で分かるように、置換積分の公式で使用するdx/dwがdw/dxに乗じられる事で1になって積分計算が簡単になっているわけです。もちろん、この関数はそのようになる「特別な形」をしているのでそのようにできます。

対数関数の逆数が含まれる例では次の通りです。

$$\large{w=\mathrm{ln}x とおくと\frac{1}{x\mathrm{ln}x}}=\frac{dw}{dx}\frac{1}{w}なので、$$

$$\int\frac{1}{x\mathrm{ln}x}dx=\int\frac{dw}{dx}\frac{1}{w}\frac{dx}{dw}dw=\int\frac{1}{w}dw=\mathrm{ln}|w|+C=\mathrm{ln}(|\mathrm{ln}x|)+C$$

正接関数では次のようになります。

$$w=\cos x とおくと\tan x=\frac{\sin x}{\cos x}=-\frac{dw}{dx}\frac{1}{w}なので、$$

$$\int\tan x dx=-\int\frac{dw}{dx}\frac{1}{w}\frac{dx}{dw}dw=-\mathrm{ln}|w|+C=-\mathrm{ln}|\cos x|+C$$

これらの場合においては、置換積分を使ったほうが分かりやすいかどうかは人によって感じ方が違うでしょう。分かりやすいほうで理解したほうがよいと思われます。