極限値としての自然対数の底 e の定義

「自然対数の底」eの定義の詳しい説明を述べます。(この定数はネイピア定数ネピア定数とも言い、数式中では単に「イー」と読む事が多いようです。)これは、ある数列のn→∞での極限値として定義されます。もちろん、発散してしまうのであれば定数として定義する意味はないのでその数列は収束します。その証明をします。(※高校数学の範囲だけだと証明できません。ただし、証明で肝心になる1つの事項を除くと、使う計算や定理は高校数学のもので足ります。)

$$e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}$$

nを無限大にする極限と、1/nを0にする極限の2つの表し方がありますが、どちらも同じ値 e に収束します。
具体的な値としては約2.718・・・という無理数に収束します。
(※具体的な値を知る方法も、無理数である事の証明にも、 マクローリン展開を使用します。exという指数関数に対する微分公式の性質もそこで本質的に重要です。)

これらの極限が発散せずに収束する事を示すには「nを無限大にする」極限を考えたほうが簡単です。

証明

2項定理を使って直接展開し、全体を数列として見た時に単調増加で上に有界である事を示します。
「上に有界である」とは「数列の全ての1つ1つの項が、例外なくある値以下になる」という意味です。

  1. 2項定理でn乗を直接的に展開して形を調べる。
  2. 数列として「単調増加で上に有界」である事を示す。
    証明過程で等比数列の和の極限(幾何級数)の公式の考え方を使用します。

※「単調増加で上に有界な数列は収束列である」事の証明は、一般には大学数学の初めに教えられます。自明な事とは言えないので証明が必要です。高校では教えない事が多いです。

極限の式が収束する事を示すには、この場合においては単純に2項定理を使って1つ1つの項に展開します。次に、式全体を数列と見なした時に、単調増加数列である事を証明するのです。

単調増加である事の証明

まず、極限の中身のn乗の形の式に対して2項定理を使います。次のように展開できます。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=1+_nC_1\frac{1}{n}+_nC_2\left(\frac{1}{n}\right)^2+\cdots+_nC_n\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

$$=1+\frac{1}{n}+\frac{n(n-1)}{2}\left(\frac{1}{n}\right)^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{3!}\left(\frac{1}{n}\right)^3+\cdots+\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

第k項だけを取り出すと次のような形になっています。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+2)(n-k+1)}{k!}\left(\frac{1}{n}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k+1}{n}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n}\right)$$

1≦k≦nなので、これはプラスの値です。
(元々、プラスの値をn乗しているものなので予想はつくものですが。)

少し分かりにくければ、具体的な番号の項に着目し、書き出してみるとよいでしょう。
例えば第4項は次のようになります。

$$_nC_4\left(\frac{1}{n}\right)^4=\frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{4!n^4}$$

$$=\frac{1}{4!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdot\frac{n-3}{n}\right)=\frac{1}{4!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)$$

単調増加であるかを調べるには、nをn+1に置き換えた時の状況を調べます。
つまり次の形の数列を同様に2項展開するわけです。

$$\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

その場合の第k項は次のような形になります。【n+1個からk個を選ぶ組み合わせを使う事に注意】

$$_{n+1}C_k\left(\frac{1}{n+1}\right)^k=\frac{(n+1)n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+3)(n-k+2)}{k!}\left(\frac{1}{n+1}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n+1}{n+1}\cdot\frac{n}{n+1}\cdot\frac{n-1}{n+1}\cdot\frac{n-2}{n+1}\cdots\frac{n-k+3}{n+1}\cdot\frac{n-k+2}{n+1}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n+1}{n+1}\left(1-\frac{1}{n+1}\right)\left(1-\frac{2}{n+1}\right)\left(1-\frac{3}{n+1}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n+1}\right)$$

ここで、「4/5は5/6よりも小さい」…といった具体的な関係からも分かる通り、
一般に有理数に関して、 m/n ≦ (m+1)/(n+1) という不等式が成立します。

nの場合とn+1の場合とで第k項のk個の因数(上記で分母の階乗の項以外のk個)をそれぞれを比較すると、例えば次のような大小関係があります。

$$\left(1-\frac{1}{n}\right)<\left(1-\frac{1}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{2}{n}\right)<\left(1-\frac{2}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{3}{n}\right)<\left(1-\frac{3}{n+1}\right)$$

この大小関係は、上記式中のk+1個の因数のうち3つ目以降のそれぞれについて成立します。初めの2つは1/(k!)と1なので等しいですから、1~nのそれぞれの項についてn+1の場合のほうが大きい事になります。
そして、全体の項数としてはn+1の場合に1つ項が多くてプラスの値の項が加わるので、結局n+1の場合の方が、nの場合よりも大きい事が示されます。

$$任意の自然数nについて\hspace{5pt}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

組み合わせの取り方について混乱しやすいので注意。k個を選ぶ各項で比較し、その中で共通の階乗部分以外のk個の因数同士をさらに比較します。n+1の場合のほうが、1~nまでのそれぞれの項についてnの場合よりも大きくなり、さらに、n+1番目のプラスの項があるので単調増加である事を示せます。この時の各項の比較では、分母のnのべき乗の1つnを分子のそれぞれの因数に割り振ると大小関係の比較が分かりやすくなります。

上に有界である事の証明

次に、上に有界である事を示します。これは、等比数列の和の性質を上手に使うとうまく不等式によって示す事ができます。2項定理で展開した時の第k項について再度考察すると、k≧1のとき1/(2)という値以下に必ずなる事が分かります。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k-1}{n}\right)≦\frac{1}{k!}≦\large{\frac{1}{2^{k-1}}}$$

【分母の階乗以外のカッコ内の部分が1以下という意味で不等式で抑えています。また、例えば4!=4・3・2・1=24と「2の4乗」2=2・2・2・2=16とでは階乗のほうが大きい値となり、k!≧2という関係があります。これらが分母に来るので、大小関係は逆になっています。
尚この「2」という数自体に特別な意味はなく、あくまでこの数を使うと証明がしやすいという意味でここでは使用しています。

これが各kについて成立するという事は、全体では次の不等式が成立します。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n≦1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}$$

これの右辺は等比数列の和に1を加えたものですから直接値を計算できるのです。ここでnを無限大にする必要はありませんが、nをどれだけ大きくしてもある値以下になる事の確認は必要です。公比が1未満で、公比がプラスの値の等比数列は単調増加ですから確かに大丈夫という事になります。

$$1+\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}\right)=1+\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{n+1}}{1-\frac{1}{2}}=3-\left(\frac{1}{2}\right)^n<3$$

よって上に有界であり、単調増加である事と合わせて問題の極限値は存在するという事になります。尚、この「3より必ず小さい」という事実は、e = 2.718・・・という値になる事ともちろん調和しているのです。

$$\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}は、収束し、特にeと書きます。$$

意味と使われ方

この自然対数の底 e は、何と言っても微分および積分の性質が、数学の理論上でも物理学や工学での応用でも重要になります。「微分して得た導関数が元の関数に等しいものは存在するか?」という問いの答えは「あります」で、それが e の指数関数 ex です。(もちろんその事は自明ではなく証明が必要。)

$$微分公式:\hspace{10pt}\frac{d}{dx}e^x=e^x$$

その微分の性質は、微分方程式の解法でも直接的に関わります。例えば、線型で定数係数の常微分方程式の解法では「微分すると元の関数に戻る」性質が上手に使われていて解を構成します。

複素数の指数関数表示 eix = cos x + i sin xなども理論・応用上ともに重要です。