ベクトルって何だろう?

「べクトル」って何?

ベクトルの基本事項の説明です。

基本的には、ベクトルとは「方向」と「大きさ」の2つの合わせ持つ量として考えられます。通常の正の実数や自然数などは「大きさ」しか持ちません。
プラスとマイナスを「互いに逆の方向」とみなせば通常の実数等も「互いに逆向きの2つの方向」を持っているとも言えますが、ベクトルは平面や空間のあらゆる向きの方向を考えるわけです。

結論を先に言うと、ベクトルは原点を基準にした座標で表現します。例えば、(1, 1)という座標はベクトルでもあり、平面の直交座標において「斜め右上45°方向の大きさ \(\sqrt{2}\) 」という量を表します。
この時、ベクトルには「いくつかの数の組み合わせ」という意味と、「図形的に方向と大きさを持った量」という両方の意味を同時に持ちます。
図形的に見る場合、方向を持つ事を明確にするために、ただの線では無く「矢印」を用いるのが通例です。

ベクトルは図形的に見れば点と点をつなぐ「矢印」として表されます。ベクトルの矢印の始まりの点を「始点」、矢印の先端の点を「終点」と言います。ベクトルは、座標の成分でも表す事ができます。数学的には、座標成分で表す方法のほうが色々な計算で便利です。ただし、物理でベクトルを用いる場合は、図形的な考察も重要となる場合があります。

原点O(0,0,0)を基準にした時、点A(0,1,1)と点B(-1,-1,0)は、原点から見ると「違う向き」ですね。他方で、原点からの「距離」は等しいですね。(後述しますが、距離は、単純に三平方の定理(ピタゴラスの定理)を用いればよいのです。)

原点を基準にした時、点A(0,1,1)をベクトルと見なす場合は、$$\overrightarrow{OA}$$と書きます。OA の上に「矢印」をつけるわけです。
点Oから点Aに向かう「方向付きの線分」ですよ、というわけです。
また、原点を基準とする事が明らかである場合は、次のようにも書きます。 $$\overrightarrow{a}$$

普通は、\(\overrightarrow{OA}に対して\overrightarrow{a}、\overrightarrow{OB}に対して\overrightarrow{b}\) のようにアルファベットを対応させますが、これは分かり易くするためであって、「このベクトルをこれで表す」と断っておけば、別に対応させなくても構いません。

原点を基準とした時、平面の直交座標(x, y)で表される向きと大きさをもった量を「平面ベクトル」または「2次元ベクトル」と言い、座標を1つ増やした3次元空間の直交座標(x, y, z)で表される向きと大きさをもった量を「空間ベクトル」または「3次元ベクトル」と言います。同様に、n個の数による座標で表された (x1, x2, x3,x4,x5,・・・,xn)を、「n次元ベクトル」と呼びます。

★より数学的に正確には、これらの数の組み合わせに対して、大きさ、加減の演算、内積の定義等が定められているものをベクトルと呼びます。
★相対性理論で用いられる「4元ベクトル」は、その意味で通常の「4次元ベクトル」とは異なっています。数学的に何が違うのかと言うと、それは内積の定義等が違っているのです。
★ベクトルの成分として複素数を考える事もできますが、このページの内容ではベクトルの成分は全て実数であるとします。その事を区別する時、ベクトルの成分が実数であるものを「実ベクトル」、ベクトルの成分が複素数であるベクトルを「複素ベクトル」とも言います。

また、通常の文字に対して、「ボールド体」にする事でベクトルを表す場合もあります。この表記は、慣れてないと通常のスカラー変数なのかベクトルなのか、紛らわしいかもしれません。

  • \(F(x), x, a\) ・・スカラー関数、スカラー変数、スカラー定数(通常の変数)
  • \({\bf F(x), x, a}\) ・・ベクトル関数、ベクトル変数、ベクトル定数(定ベクトル)

★ 関数に関しては、変数はスカラーで関数はベクトルであるとか、変数がベクトル(つまり複数の成分で決まる)で関数がスカラーという場合もあり得ます。

このページでは、ベクトルは全て矢印表記で表します。(他のページで、ベクトルのボールド体表記をする場合は、最初にその事を明示します。)

ベクトルの大きさ(長さ) = 2点間の距離 !

原点を基準とした時の、
平面ベクトル\(\overrightarrow{A} = (x, y)\)  と空間ベクトル \(\overrightarrow{B} = (x, y, z)\)の大きさは、位置座標として見た時の原点からの距離であり、 絶対値記号を付けて\(|\overrightarrow{A}|, |\overrightarrow{B}|\) で表します。 $$|\overrightarrow{A}| = \sqrt{x^2+ y^2}$$ $$|\overrightarrow{B} | = \sqrt{x^2+ y^2+z^2}$$ また、一般のn次元のベクトル \(\overrightarrow{X_n} = (x_1, x_2, x_3,x_4,x_5\cdots,x_n)\) の大きさも定義されます。 $$|\overrightarrow{X_n}| = \sqrt{x_1^2+ x_2^2+x_3^2+x_4^2+x_5^2+\cdots+x_n^2}$$ この定義のもとでは、任意のn次元のベクトルに対して一般化された「三角不等式」が数学的に成立します。
(この一般のベクトルに対する大きさの定義は「距離」の定義の1つであり、別の定義の仕方も存在します。その場合、大きさの事を「ノルム」と呼ぶ事があります。)

ベクトルの大きさの定義は、三平方の定理(ピタゴラスの定理)という、初歩的な平面幾何の定理をもとになされています。図のように点Hをとると、もとの直角三角形に相似な別の三角形が「2つ」できるので、辺の長さの比を上手に計算すると、確かに三平方の定理が必ず成立する事を証明できます。
もっとも、ベクトルの成分が4つ以上の場合は三平方の定理は適用できませんから、ベクトルの大きさはあくまで「新たに定義するもの」という事になります。ベクトルの大きさの考え方も、ベクトルの微積分で用います。ベクトルを微分したあとで大きさを考える事があるためです。

原点を基準としないベクトルも考える事ができます。ただし、その場合のベクトルは、「別基準点を新しい原点とみなした場合のベクトル」に等しいものと定義します。この事を、ベクトルは「平行移動」が可能であると言います。

ベクトル同士の加算は、単に成分同士を加えればよいというものです。減算も同じようにします。例えば、(1,0,2)+( -2,1,2) = (1-2,0+1,2+2)=(-1,1,4)です。これは、図形で言うと矢印を結び合わせて、最初の始点と最後の終点を結んだ新しい矢印を考える事に相当します。物理で重要な事は、2つの方向への力同士の「合力」は、このベクトルの加算・減算によって計算すればうまく行く事が実験で確かめられているという事です。運動方程式により加速度は力に比例しますから、加速度の加減乗除もベクトルで行う事ができます。(また、速度に関しても同じようにベクトルで考えて良い事になります。)

ベクトルの内積

ベクトルのもうひとつ重要な計算規則として、「内積」があります。これは各成分同士の積を加え合わせるというもので、数学的には何次元のベクトルでも定義する事ができます。

この内積の計算も、物理で使います。 しかも理論的に結構重要です。 具体的には、仕事とエネルギーという、物理や工学の基礎となる理論の形成に用います。ベクトルの微積分にも直接関わるので、このページで後述します。

ベクトルの内積の定義 2つのベクトルの「『各成分の積』の和」を内積と言います。記号は、「・(ドット)」を用いて、\(\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}\) のように書きます。 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2 $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3 $$ $$n次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3+a_4b_4+\cdots+a_nb_n $$ $$=\sum_{j=1}^n a_jb_j$$ ★ ベクトルの内積は、スカラー量です。つまり通常の実数などの値になります。
★ ベクトルの内積は、必ず2つのベクトルについて計算されるもので、3つ以上のベクトルの内積というのは考えません。
★ 数学的には、じつは内積はもっと抽象的ないくつかの演算条件を満たす計算であると定義されますが、このページの内容にはあまり関係ないので記載は省略します。

内積の計算を行う事を、習慣的に「内積をとる」という表現で表す事も多いです。
内積は必ず2つのベクトルに対して考えるものですが、内積自体は「スカラー量」であるという事は、理論が色々と複雑になってくる時に重要になってきます。

ベクトルの内積の表し方は2つの方法がありますが、物理で使う時は両方の表し方が重要です。平面や空間での図形的な考察をする時は余弦 cosθ を用いる表し方が重要であり、式変形や計算を進める時は成分による表し方を用いる事が多いです。このページでは、後半で「仕事とエネルギー」の関係が、内積とベクトルの微積分によって導出される過程を詳しく見ます。

2次元の平面ベクトルや3次元の空間ベクトルの場合、余弦定理を使う事によって内積は図形的な意味も持つようになります。物理では、こちらの内積の表現も結構重要です。
具体的には、内積が2つのベクトルの大きさと「なす角の余弦」の積に必ず等しくなります。平面や空間において、物理で内積が重要になるのは、この図形的な意味によるところが大きい場合が多いのです。

ベクトルの内積の別の表現 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ ★ n次元の場合でも新たに「角度」とその余弦を(半ば無理やりに)定義すれば同じ事が言えますが、その事は必ずしも重要ではないのでここでは記さないでおきます。

内積の成分による表し方と、余弦を使った表し方が「同じ値」になるという事は、もちろん自明ではありません。証明は難しくないので、記しておきます。余弦定理を用いて余弦を成分で表現すれば証明できます。
(余弦定理は、鋭角・鈍角三角形の辺の長さの関係を三平方の定理によって表現する事で得ます。)

証明:内積の2つの表し方は同じものである

\(|\overrightarrow{A}-\overrightarrow{B}|=c\)とします。
これは2つのベクトルが作る三角形の斜辺です。
余弦定理(任意の角度で成立)により、
$$c^2=|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-2|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta$$ $$\Leftrightarrow |\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta=\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ ですので、余弦をつかったほうの内積は次のように表せるわけです。 $$\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B} =|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta =\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ $$=\frac{1}{2}\left\{(a_1^2+a_2^2+a_3^2)+(b_1^2+b_2^2+b_3^2)-(a_1-b_1)^2-(a_2-b_2)^2-(a_3-b_3)^2\right\}$$ $$=\frac{1}{2}(2a_1b_1+2a_2b_2+2a_3b_3)=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3【証明終】$$ 途中で成分がたくさん出てきますが、2乗の項は+-を差し引いて全て消えてしまうので、成分同士を乗じたものの和になるという結果が得られるわけです。

また、3次元ベクトルの独特な計算規則として、「外積」があります。この計算は、数学の解析学の理論的な観点よりも、むしろ物理での応用のほうが重要とも言えるかもしれないですね。角運動量を論じる時や電磁気学で用いたりします。3次元的な直交する方向同士の関係を適切に表すために有効な計算方法です。

ベクトルの外積について、定義だけ簡単に記します。
2つのベクトル\(\overrightarrow{A},\overrightarrow{B}\) の外積 \(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B}\) は、次のような3次元空間のベクトルとして定義されます。

  • 大きさは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) が作る「平行四辺形の面積」
  • 向きは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) の両方に垂直で、\(\overrightarrow{A}から\overrightarrow{B}\)に(180°以下の角度の方向に)向かって右ねじを回した時に、ねじ回しが向いている方向

外積の「向き」については、文章だとちょっと分かりにくいと思いますが、要は、1つの平面に対して垂直な向きは2方向考えられるのですが、そのうちの1方向だけを必ず指定できるようにするためにこのような定義をしています。
この外積の考え方は、このページの以下の内容では使いませんので、そういうものがあるという事だけ見ていただければじゅうぶんです。

尚、「ベクトルを『学ぶ意味』は何ですか?」という話になった時には、大学の範囲の勉強を考えないと、答えは出ません。物理学等で、運動などのモデルを作る時に有用であるというのが1つの答えです。