立体角の定義と使われ方

立体角(solid angle)は、平面上の角度を空間的な広がりに拡張したものであり、球の表面積を利用して表されます。通常の平面の角度の事は、この記事では主に「平面角」と表記します。

立体角の単位は無単位とする事もありますが【sr】(steradian) という単位も一応あります。この記事では平面角のラジアン【rad】と区別する目的で、立体角に対して単位を付けて表記している事があります。

平面角はθで表される事が多いのに対して立体角はΩあるいはω(いずれも「オメガ」)で表記される事が多く、この記事でもその文字を使用します。Ωという文字は、電気抵抗の単位でも使われてその時は「オーム」と読みますが、ここではその意味ではなく文字の1つである「オメガ」として使用します。

立体角の定義と「錐面」

あまり聞き慣れない語かもしれませんが立体角の定義には錐面(「すいめん」)という言葉を使うと表現的に便利です。(使わなくても定義はできますがここでは使用する事にします。)

立体角は1つの点を基準として球面(範囲は任意)に対して錐面が囲む領域の表面積でとして定義されます。「錐面」とは円錐や三角錐などをより一般的に表した立体的な図形の側面の部分を表します。

錐面(「すいめん」)とは

錐面とは空間内の「1点」から伸びて1つの閉曲線を通過する直線の集まりによって形成される曲面を指します。(三角錐の側面のように平面状である物も含みます。)
1点を通過する直線の集まりとしても考えられますが、立体角を考える」場合には普通は半直線の集まりとしての錐面を考えます。
錐面を形成する閉曲線が円であればそれが「底面」を成して全体を構成する立体(錐体) は円錐であり、三角形であれば三角錐、四角形であれば四角錐となるといった具合になります。
立体角を考える時には模式的に円錐状の広がりを考える事も多いですが(分かりやすいので)、考える錐面は理論上は色々なものがあってよい事になります。

平面では三角形の一部に対して通常の角度(平面角)を考えますが、空間では円錐などの錐体を一般化したものの側面である錐面によって空間的な広がり(立体角)を考える事ができます。この図では円錐などの「底面」を敢えて上側に持ってきて描いています。
立体角の定義

立体角Ω【sr】はある1点Oからの3次元空間的な広がりを定量的に表します。
Oを中心とする半径rの球面において
「Oを頂点とした錐面で囲まれる領域」の面積をSωとした時に、次式で表されます。 $$\Omega=\frac{S_{\omega}}{r^2}$$ ところで球の表面積は \(4\pi r^2\) で表されるので、実はこの式は
考えている球の半径の具体的な値に関わらず立体角は同じ値になる定義となっています。
そこで、錐面で囲まれる球面上の領域の面積を「球面全体の面積のK倍」とすると次式で考える事もできます。 $$S_{\omega}=4\pi r^2Kと置く時、$$ $$\Omega=\frac{S_{\omega}}{r^2}=4\pi K$$ つまり立体角は4πの倍数(任意の実数倍ですが普通は1以下の有理数)で表され、
半球全体の広がり(空間全体の2分割)を表す立体角は2π【sr】です。(K=1/2)

次に見て行くように立体角は考えている球面(あるいは任意の曲面)がプラスとマイナスの符号の違いがあり、さらに任意の実数の値を考える事ができます。

球の表面積を表す記号としてはSでもAでも他の文字でも何でもよいのですが、ここでは一般の閉曲面の表面積も考えていくので球面上の領域の面積には添え字を付して区別しています。

平面で通常の角度である平面角θを考える時も実は同じような考え方がなされています。
原点から伸びる2直線と、原点を中心とするてきとうな半径rの円との交点を考えて、その円弧の長さLを半径rで割った値が弧度法での角度θであると言えます。つまりθ=L/r【rad】と考えていて、L=2πrkとおくならθ=2πk【rad】であり、すなわち
「2πの何倍か」によって平面上の1点から伸びる2直線の広がりを角度θで表している
というわけです。
ただし平面角の場合、その倍率であるkは任意の実数値ですが普通は敢えて無理数では考えずに有理数を使う事が多いわけです。
90°であれば2π/4=π/2【rad】
60°であれば2π/6=π/3【rad】
45°であれば2π/8=π/4【rad】のようにしている事の
拡張が立体角の考え方であると言えます。
ただし立体角の場合は、同じ立体角の値となる広がりの錐面の形状は一般的に1つとは限らず様々な形状があり得ます。

立体角の大きさの範囲

立体角を0【sr】から2π【sr】に増加させると、広がりとしては半球の大きさ分になります。
図形的に見るとそこから先も半球分に立体角を加えていく事は可能に見えるわけで、実際そこからさらに立体角を増やす事は可能です。

立体角が2π【sr】を超える時には図形的には錐面は球面の反対側の領域を切りとっていく事になるはずです。この時に錐面と球面の交わりで作られる閉曲線の「内側」と「外側」の関係を統一的に考えて、0【sr】から始めて「閉曲線の内側」と考えていた向きを2π【sr】から先も保つとします。

すると、錐面が切り取る球面上の領域の表面積は2π【sr】にさらに値が追加されていく事になります。それを続けると立体角は「球の内側から見た球面全体に対する広がり」(すなわち「空間全体」に対する広がりと同じ)を表す4π【sr】まで増加します。

つまり通常の3次元空間での立体的な広がりを表すには、立体角の「大きさ」は0≦Ω≦4πの範囲で考えれば十分という事になります。球全体の表面積に対する倍率では0≦K≦1を考えています。
ただし後述するように、曲面に対する表裏の関係で立体角を符号も含めて考える時は
マイナスの値も含まれるようになって範囲が-4π≦Ω≦4πとなります。(さらにその範囲外の場合も立体角は定義されますが、ここでは原則として除いて考える事にします。)

後述するように、あるいは図形的に考えて閉曲面内に立体角を考える点を設置して閉曲面全域に対して立体角を考える場合にはその立体角のは符号も含めて4π【sr】です。逆に閉曲面の外側から閉曲面全域についての立体角を考えると、その立体角は0【sr】になります。(閉曲面の外側から閉曲面全域の立体角を考える場合、閉曲面を2に分割して同じ大きさのプラスマイナスの符号だけ異なる立体角を合計する事で0になります。)

動く点から1つの曲面に対して立体角を考える場合には
点が曲面の外を通って1周した後に曲面を通過してもとの位置に戻る時に、
曲面通過時に立体角が4π【sr】または-4π【sr】変化するという事が起こります。
ただし通常の図形的な考察ではその場合を考えなくてもよいので、
以下ではその場合を除いて考えていきます。

立体角が負の数である時の定義

立体角Ωが0≦Ω≦4πの範囲の時、
立体角を考える基準の点は球面(半径に関わらず)の内側にあります。

そこで、空間内のてきとうな位置から何かの曲面に対して立体角を考える時には
曲面に表と裏がある時には次のように立体角の符号を決める定義をします。

立体角のプラスとマイナスの符号の定義
  • 基準点が曲面の裏側にある時:立体角の値の符号はプラス+
  • 基準点が曲面の表側にある時:立体角の値の符号はマイナス-

ここでの曲面の表裏の関係は、法線面積分等を考える時の意味での曲面の表裏と同じです。
符号の関係をここでの場合とは逆にしても定義は可能ですが、ここでは混乱を避けるためにこの定義のもとで話を進めます。

ここでの「表側」「裏側」という事をより具体的に言えば、
曲面の外縁となっている閉曲線の各点から基準点に向けての錐面を構成する線分が曲面の表面側から出る方向を向いているか、裏面側から出る方向を向いてるかの違いになります。

この定義とは逆の方法で、立体角の符号を逆に考える定義もあります、ただし以下ではこの図の位置関係での定義として立体角の符号を考えます。

法線面積分およびガウスの積分との関係式

立体角は前述の符号も含めた関係の定義のもとで、
てきとうな曲面Sがあった時にその曲面上の法線面積分で表す事ができます。

さらに立体角を法線面積分で表す時、被積分関数はガウスの積分【位置ベクトル(x,y,z)を距離の3乗で割ったものに対する「閉曲面」上の法線面積分】での被積分関数になります。
そのため、特にSが閉曲面の時には立体角は-4π≦Ω≦4πの範囲においてガウスの積分として値が3通りに決まります。

法線面積分による立体角を表す式

原点をOとして\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\) として、その大きさはrで書きます。
ある曲面Sの外縁となっている閉曲線の各点から原点に直線を引いて錐面を作った時、 原点Oから見た立体角は次のように符号も含めて法線面積分で表されます。 $$\Omega=\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ■右辺を勾配で表した時 $$\Omega=-\int_S\left\{\mathrm{grad}\left(\frac{1}{r}\right)\right\}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ■特に曲面Sが閉曲面である時
上記の積分はガウスの積分であり、
値は原点OとSの位置関係によって次の値になります。

原点Oの位置立体角Ωの値(およびガウスの積分の値)
閉曲面Sの内部\(\Omega =4\pi\)
閉曲面Sの外部\(\Omega =0\)
閉曲面S上\(\Omega =2\pi\)

閉曲面を考える場合には閉曲面に対して立体角を考える点が
「内部にあれば裏側」「外部にあれば表側」という事が確定するので、
-4π≦Ω≦4πの範囲で立体角が符号も含めてこれらの3通りに決まります。
ある点から曲面あるいは閉曲線に向けての立体角を考える時、その立体角を曲面等から点に向けて「張る」立体角であると表現される事もあります。

立体角を法線面積分で表す関係式を導出する方法としては、
曲面を細かい平面に分割して角度(平面角)の関係から微小面積に対する関係式を考えるか、もしくは最初から積分で考えてみてガウスの発散定理を適用する方法があります。

曲面が閉曲面の時にはガウスの積分そのままの計算であり、値の導出の計算にはガウスの発散定理を使うと導出する事ができます。

立体角の定義から考えると、外縁となる閉曲線を共有する複数の開曲面に対して錐面の延長をはみ出さない限りは「立体角は1つだけの値として決まるはず」です。
その事は、立体角を考える点から見て「曲面の表裏の関係が同じであれば」成立します。

【積分の表記の場合でもガウスの発散定理を使う事でそれが成立する事を確認できます。下記の2番目の方法でも触れるように、\(\overrightarrow{r}\)/(r)の発散は0である事を使用します。】

この場合、錐面から曲面がはみでている場合でもはみ出た部分によって閉曲面を考えると、その部分の符号も含めた立体角はガウスの積分で表せることから0となって消えるので立体角の大きさに影響しない事になります。

他方で、立体角を考えている点Oに向けて閉曲線から曲面を引っ張ってきたような場合には話が変わってきます。例えばそれで1つの曲面が点Oに重なる場合には積分の表記で考えると実は2つの曲面に対する立体角には2πの差ができます。さらに、閉曲線を共有する1つの曲面ともう1つの曲面が1つの閉曲面として点Oを内部に含むようになると、2つの曲面に対する立体角には4πの差が生じます。【その時に2つの立体角についてΩ=Ω+4πという関係になります。立体角は4πを超える事もありますが、ここでの場合に限定して言うと片方の曲面の表裏の関係を保ったまま動かしているのでΩ2はマイナスの値の立体角となり、Ω<4πとなります。】

微小面積で考える場合の導出

立体角を考える基準点の原点Оは開曲面Sの裏側のほうに位置しているとします。

まず球面の領域の表面積から立体角を考える定義のもとで1つの立体角は球面の領域を分割して考える事ができて、さらに考える球面の半径は任意でよい事から分割した微小領域ごとに立体角を考えるための球の半径を自由に設定できます。

ここで球面を微小な平面領域で近似する場合には一般的に半径が大きい球のほうが細かい分割が必要なので、大きい半径を考える時ほどさらに細かく分割を行うものとします。

分割は球面上および曲面上の3点をつないで三角形領域で行うとして、
曲面Sの分割領域の頂点から原点Оに向けて直線を引き、球面に対しても微小領域の頂点がその直線上にあるように分割を行います。必要に応じて分割はより細かくします。

\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\)を考えて、球面の微小領域がその点を含むように位置で球の半径を調整します。(積分をする時にはS上の微小領域上にベクトルを平行移動させるとして考えます。)
\(\overrightarrow{r}\)は原点から(x,y,z)に向かうベクトルであり、原点を中心とする球の球面に対して垂直です。

次に微小領域同士がなす角度θ(平面角の意味)は、
図の位置関係から\(\overrightarrow{r}\)と曲面S上の面積要素ベクトル\(d\overrightarrow{s}\)のなす角に等しくなります。
(面積要素ベクトルは曲面上の微小領域に垂直です。)

曲面S上の微小領域の面積を\(|d\overrightarrow{s}|\) =dsとして
球面上の微小領域の面積をdAとおくと、dA=dscosθです。

他方で\(\overrightarrow{r}\)と\(d\overrightarrow{s}\)の内積を計算すると\(\overrightarrow{r}\cdot d\overrightarrow{s}\)=r ds cosθ=r(ds cosθ)=rdAです。
そのため、今考えている微小領域に対する立体角の微小量をdΩの定義式から計算すると次のようになります。【途中で分子に対してr(ds cosθ)の形を作る変形をしています。】

$$d\Omega =\frac{dA}{r^2}=\frac{rdA}{r^3}=\frac{rds\cos\theta}{r^3}=\frac{\overrightarrow{r}\cdot d\overrightarrow{s}}{r^3}$$

そこで、曲面Sの領域全体に対して微小領域を合計して分割の極限をとる事で法線面積分の形になります。(dΩを同じ領域で積分すると、曲面S上の分割と球面上の分割は1つ1つ対応させているので全体の立体角Ωとなります。)

$$\Omega=\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

\(\overrightarrow{r}\)/(r)は、-1/rに対する勾配ベクトルを使って-grad(1/r)とも書けます。

閉曲面の場合には開曲面を2つ考えてつなぎ合わせる事により、
表と裏の関係による符号にだけ注意すれば同じように関係式が成立します。

微小面積に対する立体角の式

同時に、ここでの導出での途中式で得られている関係式も
物理的な考察に使える事があります。 $$d\Omega =\frac{dA}{r^2}=\frac{ds\cos\theta}{r^2}$$ 導出ではこれを内積として考えて法線面積分ができる形にしていますが、
これをそのまま使える場合というのもあります。

発散定理から考える方法

曲面Sの外縁の閉曲線の各点から原点Оに向かって直線を引いて錐面を作り、原点は曲面Sの裏側のほうに位置しているとします。球面は原点を中心とします。原点と曲面の間のてきとうなところで球面を考えて、「開曲面Sと錐面と球面上領域S」で構成される閉曲面Sを考えます。

すると原点から向かう位置ベクトル\(\overrightarrow{r}\)は、その閉曲面上では曲面S上で表側を向き、球面上では裏側を向きます。つまり同じ被積分関数\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する法線面積分は符号が互いに逆になります。

原点を中心とする球面上では球面に対して\(\overrightarrow{r}\)は垂直なので各微小領域で\(\overrightarrow{r}\)/(r)と面積要素ベクトルとの内積は1/(r)とdsの積です。球面上で1/(r)は一定値である事に注意すると、法線面積分は定数をS=0から「表面積の値」まで積分したものになります。
そこで球面上領域Sの面積を4πrkとおくと、S上の法線面積分は、閉曲面Sでは裏側で行う事にも注意して-4πk(=-Ω)となります。

$$\int_{Sc}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{Sc}\left|\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right|ds=\int_{Sc}\frac{1}{r^2}ds=\frac{1}{r^2}\int_{Sc}ds【S_c 上でrは一定値なので】$$

$$=-4\pi r^2k\cdot\frac{1}{r^2}=-4\pi k$$

また錐面は\(\overrightarrow{r}\)の定数倍の線分で構成される微小平面の集まりなので、各微小領域で面積要素ベクトルは\(\overrightarrow{r}\)に垂直です。よって、錐面での\(\overrightarrow{r}\)/(r)の法線面積分は0になります。

ここで、ガウスの発散定理を使うために
\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する発散(無限大の発散ではなく div のほう)を考えると次の公式がつかえます。

使用している公式

ベクトル場に対する発散 div の直接計算により次式が成立します。 $$\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)=0$$ ベクトル場の発散 div\(\overrightarrow{F}\) はスカラー量です。

そこで、ガウスの発散定理を使うと次式が成立します。

$$\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0【発散定理より】$$

$$他方で、\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-4\pi k$$

$$よって、\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-4\pi k=0\Leftrightarrow\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi k=\Omega$$

Sを閉曲面として考える場合には原点ОからSに向かって引いた直線でSに接するものを考えます。接点で構成される閉曲線によりSを2分割して錐面と球面上の領域を含めた全体の領域を考えれば、その内部にある開曲面上の法線面積分は表と裏で合計するとプラスマイナスが打ち消して0になるので上記と同じく開曲面Sに対しての考察で関係式を導出できます。

\(\overrightarrow{r}\)/(r)に対する発散の計算は上図のようになります。当サイト他記事より内容を引用。

円錐の半頂角と立体角の関係式

円錐があった時に、円錐の頂点から見た時の円錐の広がりを表す立体角はどれほどになるでしょうか。これは「底面の中心を含む円錐の断面に等しい三角形を考えた時に、斜辺を半径として円錐の頂点を原点とする球が円錐の底面の周によって切り取られる領域の表面積はいくらですか」という問題です。

円錐の場合には立体角以外にも半頂角(これは平面角)を使う事でも広がりを表現できます。
半頂角とは、
「円錐の頂点と底面の中心を含む断面の三角形における円錐の頂点を含む角度の半分」です。
半頂角の大きさを弧度法で表してφ【rad】であるとして、立体角との関係式を作る事ができます。

円錐の半頂角と円錐の頂点から見た立体角の関係

底面の中心を含む円錐の断面に等しい三角形を考えた時に、
斜辺の長さをrとして、半頂角の大きさをφ【rad】とすると
円錐の頂点から見た立体角は次のように表されます。 $$\Omega=2\pi (1-\cos\varphi)【sr】$$ rは円錐の底面の円周上の点から頂点までの距離でもあり、また円錐の頂点から見た立体角を考える時の球の半径としても特に扱います。(立体角を考える球の半径は任意ですが、一番計算しやすい半径としてここでのrを使います。)
この式でφ=π/2(これは半頂角の値で、2倍するとπです)とおくと
半球分の表面積をrで割った値となり、半球分の立体角を表します。

この式は図形的な考察と積分(1変数の)によって導出します。

底面の中心から球面上に直線を引き、円錐の高さとなっている線分とのなす平面角をθとします。底面の中心から球面上までの長さを保ったまま直線を回転させると球面上に円ができます。この時に円錐の頂点と底面の中心を含む断面ではθの値は同じです。円錐の頂点からその円までの範囲の面積をSとするとそれはθの1変数関数S(θ)です。円錐が作る立体角はΩ=S(φ)/(r)です。

ΔS=S(θ+Δθ)-S(θ)とすると、
図形的な考察によりΔS≒(rΔθ)・(2πrsinθ)であり、
ΔS/ΔθはΔθ→0の極限でr・(2πrsinθ)=2πrsinθと表せます。
そこで、逆に2πrsinθを積分すればS(θ)が得られるはずで、
定積分すればS(φ)が得られるはずであるという流れです。
【より詳しくは (rΔθ)・2πrsinθ ≦ ΔS(θ) ≦ (rΔθ)・2πrsin(θ+Δθ) となり、
変形すると2πrsinθ ≦ ΔS(θ)/Δθ ≦2πrsin(θ+Δθ) となるのでΔθ→0として、
sin(θ+Δθ)→sinθとなる事に注意して導関数(微分)がdS/dθ=2πrsinθのように表せると考えます。すなわち、1変数の定積分および微積分学の基本定理の考え方です。】
rΔθは円弧の長さ(直線状の線分の長さに近似)を計算していて、
ΔSの面積の部分の「幅」でもあります。
2πrsinθはS(θ)の表面積の領域の外周である円周の長さです。

この時にはθを積分変数として区間を[0,φ]のもとで積分をすると表面積に等しくなります。(この場合はこの計算で球の表面積の一部分を表せるという事であり、一般の曲面の表面積はより複雑です。)この積分でθの関数になっているのはsinθの部分だけになります。

$$S(\varphi)=\int_0^{\varphi}2\pi r^2\sin\theta d\theta=-2\pi r^2\large{[\cos\theta]_0^{\varphi}}=2\pi r^2(1-\cos\varphi)$$

立体角はS(φ)/(r)なので式からはrが消えて次式になります。
(Ωはrに依存しないはずなので、その事とも合っています。)

$$\Omega=\frac{S(\varphi)}{r^2}=\frac{2\pi r^2(1-\cos\varphi)}{r^2}=2\pi (1-\cos\varphi)$$

例1:立体角による電場に関するガウスの法則の理解

電場に関するガウスの法則(ガウスの発散定理とは関係はあるけれども別物)は、電荷が作る電場の大きさが距離の2乗に反比例する事に由来して数式的にはガウスの積分の形をしています。さらに法線面積分を考える対象が閉曲面であり、電荷が閉曲面の内部に含まれる考え方としては「立体角は4πになるので」という事で直ちに法則の結果を得るというわけです。

電場に関するガウスの法則の立体角による説明

Q【C】の電荷を囲む閉曲面Sに対して、電荷が作る電場に関して次の法則が成立します。
(εは真空の誘電率) $$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{\epsilon_0}$$ この式は「法則」なので(定理ではなく)そのまま受け取ればいいのですが、
この法則の場合は数式的に左辺が右辺に等しい事を見るために考察ができます。
電場ベクトルは大きさがQ/(4πε)【1/(4πε)はクーロン力の比例定数】であり、
向きは電荷の位置を原点とした時の単位位置ベクトル\(\overrightarrow{r}/r\)です。
【\(\overrightarrow{r}/r\)は、ベクトル(x.y,z)をrで割って大きさを1としたもの】
それをもとに書き直すと、法則の左辺は立体角に対する定数倍の形で表せます。

具体的に法則の左辺をQやrの形にすると次のようになります。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

つまりガウスの積分の定数倍という事になりますが、前述の考察によりそれは閉曲面に対する立体角と同一視する事もできるわけです。

そしてここでは電荷の位置(原点)は閉曲面の内部にあるので「積分の値は4π」であると考えれば、定数であるQ/(4πε)に乗じる事で法則の右辺の形Q/εを直ちに得れるという見方もできます。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon}\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\cdot4\pi=\frac{Q}{\epsilon_0}$$

これは計算としてはガウスの積分を使った場合と同じになります。

例2:電気二重層が作る電位

薄い導体板の片側に一様プラスの静電荷が一様な大きさで分布していて、その裏側ではマイナスの静電荷が一様な大きさで分布している電気二重層が作る電位は立体角を使って表現できます。

電気二重層が作る電位

導体板の厚さがb【m】で、板の表側の表面電荷密度がσ【C/m】(>0)であり
裏側の表面電荷密度が-σ【C/m】であるとして、
導体板内には電荷は存在せず、真空の誘電率はεとします。
この時に板から離れた点(板の厚さに比べて十分離れた位置)Pから板に向けて考えた立体角をΩとすると、点Pでの電位は次のように表されます。 $$V=\frac{b\hspace{1pt}\sigma\hspace{1pt}\Omega }{4\pi\epsilon_0}【V】$$ この式で、より具体的にはΩは別途に計算される必要があります。
考え方としては板磁石や、環状電流が作る磁場で電流が作る磁場の渦が十分弱いとみなせる位置において便宜的な量である「磁位」の計算する事にも使えます。

この関係式は板の表と裏に電気双極子(互いにわずかに離れた位置にある同じ大きさの電気量で存在するプラスとマイナスの電荷)が分布していると考えて、板の微小な部分が作る電位を計算すると点Pから見た微小面積に対する立体角の定数倍となる事から導出されます。

電気双極子が作る電位

互いにb【m】離れている+Q【C】と-Q【C】があり、 電荷の中点からr【m】離れていて2つの電荷を通る直線とのなす平面角がθの 位置Pでの電位を考えると、bに比べてrが大きければ次の近似式が成立します。 $$V=\frac{b\hspace{1pt}Q\hspace{1pt}\cos\theta}{4\pi\epsilon_0r^2}【V】$$ 単独の点電荷が作る電位はrに反比例するという結果なので、電気双極子の場合にはrの2乗に反比例するという結果が得られる所が異なります。
この式は単独の電荷が作る電位を合計して(差の形になりますが)、rがbに比べて十分大きいという近似のもとで平方根を一般二項定理により展開する事で得られます。

板の微小面積がdsの部分による点Pに作る電位dVを、電気双極子が作る電位とみなして計算します。プラスとマイナスの電荷の大きさはσdsで、電荷の距離は板の幅でdです。

$$dV=\frac{b\hspace{1pt}\sigma \hspace{1pt}ds\cos\theta}{4\pi\epsilon_0r^2}=\frac{b\hspace{1pt}\sigma}{4\pi\epsilon_0}\cdot\frac{ds\cos\theta}{r^2}=\frac{b\hspace{1pt}\sigma}{4\pi\epsilon_0}d\Omega$$

ここで行ったのは定数となる部分と立体角の微小部分dscosθ/(r)を見やすくするために分けた事と、前述の考察による微小面積部分におけるdΩ=dscosθ/(r)を代入した事になります。

ところで分割を十分細かくとったうえでdΩの合計をとると立体角Ωとなるわけですが、ここで考えている電位はスカラー量であり単純に加える事で合計の電位となるのでdV=kdΩの形の量を十分細かい分割のもとで合計すればVが得られます。すると板全体では、ここでは実はV=kΩを意味します。

$$分割を十分細かくした極限で合計してV=\frac{b\hspace{1pt}\sigma\hspace{1pt}\Omega}{4\pi\epsilon_0}$$

ただし先ほど触れた通り、より具体的に計算をするには板の形状などを指定したうえでΩの具体的な値の計算が必要です。

直交曲線座標系の成分にベクトルを変換する方法

物理学などでは、微分方程式を座標変換して考える時があります。
例えば極座標における運動方程式や波動方程式を考えてみるといった事です。

そのような場合で特にベクトルを含む微分方程式を考える時には、
x=rcosθ等の関係の代入だけでなくベクトルの基本ベクトルを変更する事まで行う事があります。
普通はベクトルを成分で表す時には(x座標,y座標,z座標)で考えるわけですが、
それを(r座標,θ座標,φ座標)で表す事を意味します。
例えば運動方程式であれば加速度ベクトルや力ベクトルをそのように扱うという事です。

以下、微分も使いながら具体的な変換の方法などを詳しく説明します。

■この記事に特に関連が深い数学的な事項は方向余弦に関する内容と、極座標および球面座標に関する内容です。その他、記事の後半では微分に関する基本公式のいくつかを使用しています。ベクトルと三角関数に関する基本的な事項も使います。

基本ベクトルの変更をする必要がある場合と無い場合

極座標変換等をする場合の微分方程式については、
基本ベクトルを変更する必要がある場合と無い場合があります。

まず、変更の必要が無い場合を見てみましょう。

例えば「等速円運動をしている物体には常に中心力が働いている」という事を
運動方程式を使って示そうとするような場合です。
この時には物体の座標に対して極座標変換を行ってから時間微分を2回行って、
普通に運動方程式に当てはめて力ベクトルを計算する事には何の問題もありません。
このような場合は、極座標変換を使っていても基本ベクトルの変更が必要ない場合です。

少しややこしいようですがそのような場合には、
x=rcos(ωt) のような極座標変換は確かに行ってはいるけれども、
ベクトルの座標成分としては直交座標によるものを考えている
」のです。
ですので極座標による値によって計算をするとしても、
その結果は「xyz直交座標系のx軸で測った値」を出しているわけです。

もう少し詳しく見ると、そのような場合には極座標変換を使用していますがベクトルとして考えている加速度ベクトルや力ベクトルは成分を「x成分」「y成分」「z成分」として考えています。図的にはx軸、y軸、z軸に平行なベクトルの合計として1つの加速度ベクトルや力ベクトルを構成します。

では、加速度や力のベクトルを直交座標ではない成分表示で「r成分」「θ成分」「φ成分」のように表して、図的にも「ある点での曲線の接線方向」を向いたベクトルの合計として1つの加速度ベクトルや力ベクトルを構成できるのか?
という事を考えると、結論を言うと「それは可能である」という事になるのです。

そのような場合の運動方程式は「力が質量と加速度に比例する」という関係は直交座標の時と同じですが、成分ごとに見るとある曲線の接線方向の加速度成分と力の成分を考える事になるわけです。

そのように考える時の具体的なベクトルの成分の変換方法を以下述べていきますが、
一般の曲線座標系への変換は話が複雑過ぎるので、物理学等で使われる事があって数学的にも比較的話が穏やかで済む直交曲線座標系への変換に限定して話を進めていきます。
(と言っても、それでも多少複雑になります。)

直交曲線座標とは、聞き慣れない事も多いかと思いますが
具体的には極座標や球面座標、円柱座標のようなものを指します。
これらの座標系では、座標軸に相当する「座標曲線」が任意の点で直交します。
通常のxyzの直交座標系も、直交曲線座標系の特別な場合であるという見方もできます。

他方で、物理の法則を数式で表す時に座標系ごとに形を変換しないといけないというのでは一般論として議論する時に不便であるという考え方があります。
その考え方のもとで、変分原理による計算で導出する「座標系に依存しない運動方程式等の形」というものも存在します。(ラグランジュ型の運動方程式などとも呼ばれます。)
力学の分野である「解析力学」では、そのような考察を計算によって行います。

基本ベクトルと成分の直交曲線座標系への変換方法

ベクトルを含む微分方程式を座標系ごとの形に変換する時に、まず第一に重要となるのがベクトルを構成する基本ベクトルに対する成分の変換方法です。ここではその具体的な方法について説明します。

直交座標上のベクトルは、
(1,0,0)と(0,1,0)と(0,0,1)という
3つの基本ベクトルの線形結合で表す事ができます。
それらをそれぞれ\(\overrightarrow{e_x}\),\(\overrightarrow{e_y}\),\(\overrightarrow{e_z}\) と表す事にすると
任意のベクトルは実数a,b,cを使って\(\overrightarrow{A}=a\overrightarrow{e_x}+b\overrightarrow{e_y}+c\overrightarrow{e_z}\)と書けます。
そして、ここで使った実数a,b,cはそれぞれベクトルの成分であるわけです。
(数学の理論上はこれらの成分は複素数を使っても可です。)

曲線座標でも実は同じような考え方ができて、直交座標からの変換を考える時は基本ベクトルは「向きが座標曲線の勾配ベクトルである単位ベクトル」であり、ここで言う勾配ベクトルはx,y,zで考えたものを指しています。
【■参考:ベクトル解析の概論の記事(勾配ベクトルの微分による定義など)】

より具体的には1つの座標曲線をxyz直交座標でu=F(x,y,z)で表せるとして grad u により表されますが、実際に直交曲線座標で考える時には「r方向」「θ方向」「φ方向」といった形で図形的に把握していればよい事も多いと言えます。そこで、曲線座標における基本ベクトル \(\overrightarrow{e_r}\),\(\overrightarrow{e_\theta}\),\(\overrightarrow{e_{φ}}\) は分かっているものとして次に成分のほうを考えます。

直交座標系曲線座標系
$$\large{\overrightarrow{A}=A_x\overrightarrow{e_x}+A_y\overrightarrow{e_y}+A_z\overrightarrow{e_z}}$$$$\large{\overrightarrow{A}=A_r\overrightarrow{e_r}+A_{\theta}\overrightarrow{e_\theta}+A_{φ}\overrightarrow{e_φ}}$$

ここで、曲線座標系が直交曲線座標であるならば
ベクトルの成分の変換は局所的には方向余弦を使った線形結合の形で表す事ができます。

方向余弦とはその名の通り三角関数の cosθの形で表される量ですが、ここでは角度の値はあまり重要でないのでCの文字と添え字を使って表す事にします。
直交曲線座標系の3つの各基本ベクトルからの、直交座標系のx軸、y軸、z軸への9つの方向余弦を次のようにここでは表記します。

ここでの方向余弦の
記号の表
x軸に対してy軸に対してz軸に対する
r曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_r}\)から
CrxCryCrz
θ曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_\theta}\)から
CθxCθyCθz
φ曲線の基本ベクトル
\(\overrightarrow{e_{φ}}\)から
CφxCφyCφz

これらの方向余弦を使う事で、各点における基本ベクトルと個々のベクトルの成分を直交曲線座標系のものに変換できます。

方向余弦を使ったベクトル成分の変換公式

上記の9つの方向余弦と、xyz直交座標系での成分を使う事で
直交曲線座標系でのベクトルの3つの成分は次のように表されます。 $$\large{A_r=C_{rx}A_x+C_{ry}A_y+C_{rz}A_z}$$ $$\large{A_{\theta} =C_{\theta x}A_x+C_{\theta y}A_y+C_{\theta z}A_z}$$ $$\large{A_φ=C_{φx}A_x+C_{φy}A_y+C_{φz}A_z}$$ この式は、元々は「原点を共有する2つの直交座標におけるベクトルの成分の変換公式」です。
ただし直交曲線座標では基本ベクトルとなる3つのベクトルが互いに直交するので、
各点での方向余弦を関数として表すという前提のもと、同じ変換公式を適用できます。

そこで次は、これらの方向余弦は具体的にどのような数式で表されるのかが問題になります。
それが分れば一般の変換公式を作れるわけです。

変換で使う「方向余弦」を微分により表す公式

方向余弦とは基本的には「余弦」なので「底辺/斜辺」の関係を使います。ただし基本ベクトルは座標曲線の接線ベクトルとして考えていますから方向余弦も微分偏微分で考える必要があります。また、直交曲線座標系の基本ベクトルからxyz直交座標系の軸への方向余弦の表し方は実は2つあって、どちらを使っても同じ結果を得ます。

直交曲線座標系におけるxyz軸への方向余弦の2つの表現方法

座標曲線をu,v,wとして、u=u(x,y,z)に対する
j軸(x,y,z軸のいずれか)の方向余弦は、 u の弧長をl(u)とした時に
次の2通りの表し方があります。
■勾配ベクトル(xyz直交座標系で表したもの)を使う方法
勾配ベクトルは grad u=(∂u/∂x,∂u/∂y,∂u/∂z)で表されるベクトルであり
(ナブラ記号を使うと grad u=∇u)、gradj uは勾配ベクトルのj成分で∂u/∂jの事です。
直交曲線座標系で成立する|gradu|=du/dlの関係式も使っています(証明と説明は後述)。lはu曲線の弧長で、「u増加する向き」にlが増える方向で考えます。(その時du/dl≧0) $$ C_{uj}=\frac{\mathrm{grad}_ju}{|\mathrm{grad}u|}=\frac{dl}{du}\frac{\partial u }{\partial j} $$ ■弧長を斜辺とする方法
(u曲線上では、他の座標曲線の変数は一定でdv/dl=0およびdw/dl=0) $$ C_{uj}=\frac{dj}{dl}=\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}+\frac{\partial j}{\partial v}\frac{dv}{dl}+\frac{\partial j}{\partial w}\frac{dw}{dl}$$ $$ =\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}$$ 弧長に対するuによる微分での導関数dl/duは次のように表されます。 $$\frac{dl}{du}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}$$ また、dl/duは1変数の導関数なのでdu/dlを次のように表せます。
逆関数の微分公式によります。) $$\frac{du}{dl}=\frac{1}{\Large{\frac{dl}{du}}}=\frac{1}{\large{\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}}}$$

極座標や球面座標への基本ベクトルおよび成分の変換を行う時には
具体的にはx=rcosθなどと表す事から∂x/∂θなどが計算しやすい場合が多くあります。その時には上記の「弧長を斜辺とする方法」を使ったほうが比較的分かりやすくなります。(この記事の後半でもそちらの形の公式を使用。)

dl/dθ や dθ/dlを表す事になる弧長の式については、次に見て行くように球面座標であればr,θ,φの3つ分計算しておく必要があります。平面の極座標であればrとθの2つ分です。

勾配を使った表す方は、直交曲線座標系で成立する |grad θ|=dθ/dlの関係を使ってさらに変形できます。ただし、
曲線の弧長を表す式の元の形

曲線の弧長については元々は定積分で次のように書く事ができて、
上記ではそれを微分した導関数を使用しています。$$l(u)=\int_0^u\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial u}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial u}\right)^2}dt$$ 微分は、ここでの変数で言うとuで行います。 この式は曲線を折れ線に近似して図的に見る事でも理解可能ですが、解析学的に証明もできる式です。

同じ方向余弦の表し方が2つ存在する事と、
|grad u|=du/dlの関係式についての証明と説明

勾配ベクトルについて一般的に成立するのは、スカラー場の値が一定値となっている「等位面」に対して必ず垂直であるというものです。(以下、等位面に含まれる曲線を「等位線」と呼んでおきます。)
極座標のθ曲線である「原点を中心とする同心円」の円周上では
半径が一定であり同心円は「rが一定値である等位線」を構成しています。
球面座標ではrが一定値の球面が等位面として存在します。
スカラー関数F(x,y,z)と弧長がlで表される曲線があるとして、曲線上の座標を成分とするベクトルを\(\overrightarrow{r}=(x(l),y(l),z(l))\)とします。
曲線上でdF/dlを計算すると次式になります。(合成関数に対する偏微分の公式を使用。)$$\frac{dF}{dl}=\frac{\partial F}{\partial x}\frac{dx}{dl}+\frac{\partial F}{\partial y}\frac{dy}{dl}+\frac{\partial F}{\partial z}\frac{dz}{dl}=(\mathrm{grad}F)\cdot\frac{d\overrightarrow{r}}{dl}$$ $$ここでもし\frac{dF}{dl}=0であるなら、(\mathrm{grad}F)\cdot\frac{d\overrightarrow{r}}{dl}=0$$ つまり「Fの値が変化しない曲線」=「Fの等位線」においては
「Fの勾配ベクトルは曲線の接線ベクトルに常に垂直」という事になります。
ところで、直交曲線座標においては1つの座標曲線上では他の変数の値が一定であり、r曲線とφ曲線上でθは一定値です。
また、θ曲線上の任意の点ではr曲線およびφ曲線との交点が存在します。
【より詳しく言えばこれらの曲線は「曲面」を構成しています。】
ところで直交曲線座標系であればr曲線およびφ曲線はθ曲線との交点で直交します。
これは具体的には任意の点での「曲線の接線ベクトル」同士が直交するという意味です。
先ほどの考察から、勾配ベクトル gradθ は
「θが一定値であるφ曲線およびθ曲線上の任意の点」での接線ベクトルに直交します。
よって、gradθ はu曲線上の任意の点において、その点でu曲線と交わるφ曲線およびθ曲線に直交しています。
そして、u曲線自体もφ曲線およびθ曲線に直交しているのでした。 という事はその点においてu曲線の接線ベクトルとgradθは平行なベクトルである事になり、それはすなわちgradθがその点におけるθ曲線の接するベクトルの1つである事を示しています。
先ほどのdF/dlの式においてFの代わりにθを考えると $$\frac{d\theta}{dl}=\frac{\partial \theta}{\partial x}\frac{dx}{dl}+\frac{\partial \theta}{\partial y}\frac{dy}{dl}+\frac{\partial \theta}{\partial z}\frac{dz}{dl}=(\mathrm{grad}\theta)\cdot\left(\frac{dx}{dl},\hspace{2pt}\frac{dy}{dl},\hspace{2pt}\frac{dz}{dl}\right)$$ と表せるわけですが
dx/dl等は、大きさがΔlであるベクトル(Δx,Δy,Δz)における
方向余弦 であるΔx/ΔlのΔl→0の極限値でもあります。
すると、方向余弦についての関係式により、
θ曲線の接線ベクトル(dx/dl,dy/dl.dz/dl)方向の
gradθの成分はdθ/dlである事になります。
よって、何らかの余弦cosω()を使って|gradθ|cosω=dθ/dlと表せる事になりますが、
θ曲線の接線ベクトルと gradθは同じ点でθ曲線に接するのでcosωの値は1か-1です。
上式でF=u(x,y,z)で表す場合【より正確にはこれは曲面を表します】には、弧長であるlは「u増加する向きにlが増えて行く方向」で考えます。
そのためdu/dl ≧0であるので、
cosω=1であり(-1ではなく、という意味)|gradθ|=dθ/dl
するとgradθとθ曲線の接線ベクトルは同じ向きのベクトルであるのでx軸,y軸,z軸への方向余弦は「直角三角形の底辺/斜辺」=「直交座標系でのベクトルの成分/ベクトルの大きさ」として同じ値を持ちます。
(向きは同じでも、ベクトルの大きさは異なります。|gradθ|=dθ/dlですがこれは接線ベクトルの大きさとは一般的に異なります。)
以上の事は直交曲線座標系の任意のu曲線で成立します。

補足として、ベクトルの「方向余弦」自体は余弦 cosθ であるので、軸に対する向きが同じであれば大きさはどのようなベクトルであっても底辺/斜辺の関係で方向余弦を表す事ができます。
つまり数学的には1つの方向余弦の表し方は無限にあるわけですが、ここでの一般的な変換に使えるような微分による方向余弦の表し方の方法としては上記の2通りがあるという事になります。

変換の具体例1(平面の極座標変換の場合)

ベクトルの基本ベクトルと成分に対して具体的に平面での極座標変換をしてみます。平面なので必要な方向余弦は4つで、それを表すために偏微分が4つと弧長の式が2つ必要になります。

まず、xとyに対するrとθの偏微分です。

極座標変換の時∂/∂r∂/∂θ
x=rcosθcosθ-rsinθ
y=rsinθsinθ rcosθ

次に弧長の計算です。∂x/∂rなどを計算してあるので、公式に代入します。
dr/dlなどを使う事になりますが、まずはdl/drの形で記しておきます。

$$\frac{dl}{dr}=\sqrt{(\cos\theta)^2+(\sin\theta)^2}=1$$

$$\frac{dl}{d\theta}=\sqrt{(-r\sin\theta)^2+(-\cos\theta)^2}=\sqrt{r^2}=r$$

このように意外と簡単な式になります。
さらに、θのほうの弧長の式で出てきたrは∂x/∂θの式にあるrと打ち消して方向余弦の値には含まれなくなります。(そのように計算が簡単になる事は一般的に保証されるわけではありませんが、球面座標の場合でも同じ事が起こります。)

方向余弦はCrx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ のように計算します。
θについては例えばCθx=(∂x/∂θ)・(dr/dl)=(-rsinθ)・(1/r)=-sinθです。
先ほど述べたようにrは打ち消して式から無くなるわけです。

4つの方向余弦は具体的には次のような形になります。

  • Crx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ
  • Cry=(∂x/∂r)・(dr/dl)=sinθ
  • Cθx=(∂x/∂r)・(dr/dl)=-sinθ
  • Cθy=(∂x/∂r)・(dr/dl)=cosθ

よってrθ極座標系での基本ベクトルでの\(\overrightarrow{A}\)の成分は
=CrxA+Cry=Acosθ-Asinθ
θ=CθxA+Cθy=Asinθ+Acosθ であり、

\(\overrightarrow{A}\)=(Acosθ-AsinθAθ ,Asinθ+Acosθ)となります。

ところでこれらについて運動方程式等に適用するために微分を考える場合などはどうなるのか?という事については後述します。時間微分に関しては得られた変換の結果の式をそのままtで微分すればよいのですが、元の座標系の値であるAに関する処理が必要となります。

極座標による基本ベクトルと成分の変換公式

xy直交座標系からrθ極座標系に基本ベクトルと成分を変換する式は次のようになります。 $$A_r=\hspace{7pt}A_x\cos\theta+A_y\sin\theta$$ $$A_{\theta}=-A_x\sin\theta+A_y\cos\theta$$ 平面極座標への変換の場合には、直交座標を原点回りに回転させる形で
各点での局所的な変換を行うものとして図から導出する事もできます。

変換の具体例2(球面座標変換の場合)

次に球面座標の場合を見てみます。角度のとりかたはθとφの2箇所がありますが、ここでは平面極座標との関連を見やすくするためにθをxy平面での角度にとり、Φをr曲線(と言っても直線ですが)とz軸のなす角にとって考えます。

9つの偏微分と3つの弧長をまとめると次の通りです。

球面座標変換の時∂/∂r∂/∂θ∂/∂φ
x=rsinφcosθsinφcosθ-rsinφsinθrcosφcosθ
y=rsinφsinθsinφsinθrsinφcosθrcosφsinθ
z=rcosφcosφ-rsinφ
弧長逆数(dr/dlなど)
dl/dr
dl/dθrsinφ1/(rsinφ)
dl/dΦ1/r

弧長の式に関する具体的な計算は次のようになります。 $$\frac{dl}{dr}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial r}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial r}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial r}\right)^2}=\sqrt{(\sin φ\cos\theta)^2+(\sinφ\sin\theta)^2+(\cos φ)^2}$$ $$=\sqrt{\sin^2φ(\cos^2\theta+\sin^2\theta)+\cos^2φ}=\sqrt{\sin^2φ+\cos^2φ}=1\hspace{60pt}$$ $$\frac{dl}{d\theta}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial \theta}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial \theta}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial \theta}\right)^2} =\sqrt{(r\sin φ\sin\theta)^2+(r\sinφ\cos\theta)^2+0^2}\hspace{15pt}$$ $$=\sqrt{r^2\sin^2φ(\sin^2\theta+\cos^2\theta)}=\sqrt{r^2\sin^2φ}=r\sin φ\hspace{105pt}$$ $$\frac{dl}{dφ}=\sqrt{\left(\frac{\partial x}{\partial φ}\right)^2+\left(\frac{\partial y}{\partial φ}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial φ}\right)^2}\hspace{200pt}$$ $$ =\sqrt{(r\cos φ\cos\theta)^2+(r\cosφ\sin\theta)^2+(r\sin φ)^2}\hspace{115pt}$$ $$=\sqrt{r^2\cos^2φ(\cos^2\theta+\sin^2\theta)+r^2\sin^2 φ}=\sqrt{r^2(\cos^2φ+\sin^2φ)}=\sqrt{r^2}=r\hspace{0pt}$$ dl/dθの計算では、角度φは正弦sinφが0以上の値をとる範囲で考えるとします。それは0≦φ≦πの範囲になりますが、図的に見てもその範囲だけで考えても十分である事になります。それは球面座標においてはθの変化もあるからです。

以下、上記の結果と公式を適用して計算をしていく事で
基本ベクトルを直交座標から球面座標に変換した時のベクトルの変換の公式を得ます。

$$
方向余弦の式\hspace{5pt}C_{uj}=\frac{\partial j}{\partial u}\frac{du}{dl}\hspace{5pt}【u=r,\theta,φ\hspace{3pt}j=x,y,z】$$ $$(具体例)C_{\theta y}=\frac{\partial y}{\partial \theta}\frac{d\theta}{dl}=(r\sinφ\cos\theta)\cdot\frac{1}{r\sinφ}=r\cos\theta$$

方向余弦x軸y軸z軸
r 曲線Crx=sinφcosθCry=sinφsinθCrz=cosφ
θ 曲線Cθx=-sinθCθy=cosθCθz=0
φ 曲線Cφx=cosφcosθCφy=cosφsinθCφz=-sinφ
球面座標による基本ベクトルと成分の変換公式
r 成分 ACrxAx+CryAy+CrzAz= Axsinφcosθ+Aysinφsinθ+Azcosφ
θ 成分 AθCθxAx+CθyAy+CθzAz=-Axsinθ+Aycosθ
φ 成分 AφCφxAx+CφyAy+CφzAz= Axcosφcosθ+Aycosφsinθ-Azsinφ
θはxy平面での角度、φはz軸とr曲線のなす角です。

φ=π/2の時、すなわちr曲線が常にxy平面にある時には
sinφ=1および cosφ=0を代入し、
さらにもとの直交座標でz成分A=0とすれば平面極座標の時の変換公式になります。
(θ成分への変換式はφもAも含んでおらず、実は極座標の時と同じ式です。)

これらの式は
「xy平面での角度をΦとしてz軸とr曲線のなす角をθとした場合」には、
θとφを入れ換える事になります。

「xy平面での角度をΦ、z軸とr曲線のなす角をθとした場合」の変換公式
r 成分 A CrxAx+CryAy+CrzAz = Axsinθcosφ +Aysinθsinφ +Azcosθ
φ 成分 Aφ CφxAx+CφyAy+CφzAz =-Axsinφ+Aycosφ
θ 成分  AθCθxAx+CθyAy+CθzAz = Axcosθcosφ+Aycosθsinφ-Azsinθ

これらの式は単なるθとφの文字の置き換えをしただけであり、
何か新しい変換を行ったという事ではありません。

球面座標の特別な場合として平面の極座標を考える時に、運動方程式におけるような場合では
図のφ=π/2と合わせて「ベクトルのφ成分の時間微分が0である」という条件も考えると一般論としての球面座標から移行を考える事ができます。

運動方程式の球面座標系での成分表示の導出

各成分に対する時間微分を考える時には、直交座標での「ベクトルの時間微分」を1つのベクトルと考えて上記の変換公式を適用します。考え方は、1階の微分でも2階の微分でも同じになります。

  1. 直交座標の成分に対する時間微分dA/dtなどを計算します。
    (2階微分をする時はd/dtを計算します。)
    ただし、計算結果は変換後の変数であるrやθで表す必要があります。
  2. ベクトルの時間微分(d/dt)\(\overrightarrow{A}\) は1つのベクトルであるので、変換の公式を適用して基本ベクトルの変換を行います。
  3. 変換の式に含まれる「直交座標で考えた時の成分」に、直交座標で考えた時間微分dA/dtなどを代入します。

一番簡単な例(と言っても多少複雑ですが)で、
尚且つ重要なベクトルは物体の位置を表す\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)です。
何の断り書きもなければ直交座標の成分で表されています。

次に、\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)に対する
1階の時間微分を表す速度ベクトル\({\overrightarrow{v}=\Large\frac{d\overrightarrow{r}}{dt}}\)=(v,v,v)と、
2階の時間微分である加速度ベクトル\(\overrightarrow{a}=\Large{\frac{d^2\overrightarrow{r}}{dt^2}}\)=(a,a,a)について
基本ベクトルを球面座標系に変化した場合の成分はどうなるかを見てみます。
(その特別な場合として平面極座標への変換も分かります。)

=dx/dt,v=dy/dt,v=dz/dtおよび
a=dx/dt,a=dy/dt,a=dz/dt
r,θ,φの時間微分については2階微分のほうの式が少し複雑なので「ドット」で表すのがここでは便利です。ドットが2つ付いていたら2階での時間微分を意味します。
dr/dt=\(\dot{r}\)dθ/dt=\(\dot{\theta}\)dφ/dt=\(\dot{\varphi}\)
r/dt=\(\ddot{r}\)θ/dt=\(\ddot{\theta}\)φ/dt=\(\ddot{\varphi}\)
の表記で式を整理します。

xとyについては積の微分公式を2回使う形で計算をします。
また、θやφをtの関数として考えているので
合成関数の微分公式も同時に使っていく事になります。
例えば sinθやcosφなどの項の時間微分は
(d/dt)sinθ=(dθ/dt)cosθ=\(\dot{\theta}\cos\theta\)
(d/dt)cosφ=-(dφ/dt)sinφ=\(-\dot{\varphi}\sin\varphi\) のようになります。

等速円運動の時のようにx=Rcos(ωt)などとする例ではr=Rは定数であり、θ=ωtの時間微分だけを考えれば良い事になります。(また、平面運動なのでφは式に含まれません。)
しかしここではr,θ,φがいずれもtの関数であるとして一般的な式の形を書きます。

\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)d/dt
x=rsinφcosθ\(\dot{r}\sin\varphi\cos\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\cos\theta-\dot{\theta}r\sin\varphi\sin\theta\)
y=rsinφsinθ\(\dot{r}\sin\varphi\sin\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\sin\theta+\dot{\theta}r\sin\varphi\cos\theta\)
z=rcosφ\(\dot{r}\cos\varphi-\dot{\varphi}r\sin\varphi\)

次に、理論的には1階微分をさらに時間微分する形で2階微分を計算して変換の公式に当てはめれば良い事になりますが、その直接計算は実はかなり面倒です。

具体的な計算式は補足・参考用の資料として記事の最後に載せるとして、計算結果の式は次のようになります。

基本ベクトルを球面座標系に変更した時の加速度ベクトル

2階の時間微分を計算後、
加速度ベクトルに変更の公式を適用するとr,θ,φ成分は次のようになります。 $$a_r=\ddot{r}-\dot{\varphi}^2r-\dot{\theta}^2r\sin^2\varphi$$ $$a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2r\dot{\varphi}\dot{\theta}\cos\varphi+r\ddot{\theta}\sin\varphi$$ $$a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+r\ddot{\varphi}-r\dot{\theta}^2\sin\varphi\cos\varphi$$ また、θ成分に関しては次のようにも書けます。 $$a_{\theta}=\frac{1}{r\sin\varphi}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\sin^2\varphi\right)$$ ここではxy平面の角度をθとしているので、
もしその角度をφとおくなら上式はθとφの文字を入れ替えた形になります。

上式でφ=π/2とおき、時間によるφの変化はないなら平面の極座標での変換を表します。
φ成分がなくなり、r成分とθ成分の式中でsinφ=1となるので式は比較的簡単になります。

平面の極座標の場合

球面座標系への加速度ベクトルの変換の式においてφ=π/2かつdφ/dt=0であれば
平面における極座標での加速度ベクトルの変換の式になります。 $$a_r=\ddot{r}-\dot{\theta}^2r$$ $$a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}+r\ddot{\theta}=\frac{1}{r}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\right)$$ ここではxy平面の角度をθとしているので、
もしその角度をφとおくなら上式はθとφの文字を入れ替えた形になります。

これらの結果から、球面座標系での運動方程式を作る事ができます。

運動方程式は「力ベクトル=加速度ベクトルと質量の積」という形です。そこで、成分に分けた時に加速度ベクトルの成分として上記の式を使えばよいわけです。それらの成分とはx成分やy成分ではなく、r成分やθ成分であるわけです。

球面座標系における運動方程式の成分表示

球面座標系で運動方程式はr成分、θ成分、φ成分ごとに次のように表されます。 加速度ベクトルに変更の公式を適用するとr,θ,φ成分は次のようになります。 $$F_r=m\left(\ddot{r}-\dot{\varphi}^2r-\dot{\theta}^2r\sin^2\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_r)$$ $$F_{\theta}=m\left(2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2r\dot{\varphi}\dot{\theta}\cos\varphi+r\ddot{\theta}\sin\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_\theta)$$ $$F_{\varphi}=m\left(a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+r\ddot{\varphi}-r\dot{\theta}^2\sin\varphi\cos\varphi\right)\hspace{5pt}(=ma_\theta)$$ 平面の極座標においては次のようになります。 $$F_r=m\left(\ddot{r}-\dot{\theta}^2r\right)$$ $$F_{\theta}=m\left(2\dot{r}\dot{\theta}+r\ddot{\theta}\right)=\frac{m}{r}\frac{d}{dt}\left(r^2\dot{\theta}\right)$$ このように運動方程式を書く時には、
力ベクトルの成分も加速度ベクトル同様にr成分、θ成分、φ成分として表されます。
「力」は任意の方向にベクトルと同じ規則で分解できるので(実験で示されます)、
自由な方向での成分を考える事ができます。

これを見ると、一応そのように表せるといっても結構複雑です。直交曲線座標の中では比較的構造が単純で分かりやすい球面座標系であっても、加速度ベクトルや運動方程式をその座標系で考えるとなると直交座標系からの基本ベクトルと成分の変換はそれほど容易でない事が分かります。

平面上の極座標で見れば比較的形は簡単にはなりますが、直交座標での形と比べるとやはり複雑さは増しています。運動方程式の極座標系での成分表示は、回転を伴う運動の一部の解析では有効に機能します(例えば万有引力だけが働く物体の軌道を調べる時など)。

参考:球面座標に変換後の加速度ベクトルの成分計算

参考資料として、非常に地味ですが
速度ベクトルの加速度ベクトルの各成分を直接計算した場合の式を記します。

ここでの計算では、積の微分の規則から式全体は \(\ddot{r}\)の項や\(\dot{r}\dot{\theta}\)の項に分けて、変換の公式を適用までした値を1つずつ計算して最後に合計値を出します。それら自体は単なる微分と三角関数の計算問題なので、「確かに結果の式が直接計算でも得られる」という事を見るための参考用資料です。

(再掲)球面座標における基本ベクトルと成分の変換
r 成分 ACrxAx+CryAy+CrzAz= Axsinφcosθ+Aysinφsinθ+Azcosφ
θ 成分 AθCθxAx+CθyAy+CθzAz=-Axsinθ+Aycosθ
φ 成分 AφCφxAx+CφyAy+CφzAz= Axcosφcosθ+Aycosφsinθ-Azsinφ
θはxy平面での角度、φはz軸とr曲線のなす角
\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)d/dt(1階微分)
x=rsinφcosθ\(\dot{r}\sin\varphi\cos\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\cos\theta-\dot{\theta}r\sin\varphi\sin\theta\)
y=rsinφsinθ\(\dot{r}\sin\varphi\sin\theta+\dot{\varphi}r\cos\varphi\sin\theta+\dot{\theta}r\sin\varphi\cos\theta\)
z=rcosφ\(\dot{r}\cos\varphi-\dot{\varphi}r\sin\varphi\)

具体的なr,θ,φ成分の計算

tによる2階導関数(2階微分)はr,θ,φ成分のいずれにも共通して使えます。
異なるのは変換公式における方向余弦になります。
この表は、例えば式中の\(\ddot{r}\)の項の係数は
2階微分を行った時点の変換前でxにおいては\(\ddot{r}\)sinφcosθであり、
r成分への変換用の方向余弦sinφcosθを乗じるとsinφcosθとなっている事を記しています。
yとzについても同様に計算し、例として\(\ddot{r}\)の項については合計すると係数の値は1になります。

sinθ+cosθ=1の関係などで三角関数の大部分は式から消えて、
プラスマイナスで打ち消して無くなる項も多くあるために
最終的な結果で残る項は比較的少なくなります。

\(\ddot{r}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来sinφcosθsinφcosθ-sinφsinθcosθsinφcosφcosθ
y由来sinφsinθsinφsinθsinφsinθcosθsinφcosφsinθ
z由来cosφcosφ-sinφcosφ
合計・・・
\(\dot{r}\dot{\theta}\)係数r成分θ成分φ成分
x由来-2sinφsinθ-2sinφsinθcosθ-2sinφsinθ-2sinφcosφ
sinθcosθ
y由来2sinφcosθ2sinφsinθcosθ2sinφcosθ2sinφcosφ
sinθcosθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・2sinφ
\(\dot{r}\dot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来2cosφcosθ2cosφsinφcosθ-2cosφcosθsinθ2cosφcosθ
y由来2cosφsinθ2cosφsinφsinθ2cosφcosθsinθ2cosφsinθ
z由来-2sinφ-2cosφsinφ2sinφ
合計・・・
\(\ddot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来rcosφcosθrsinφcosφcosθ-rcosφcosθsinθrcosφcosθ
y由来rcosφsinθrsinφcosφsinθrcosφcosθsinθrcosφsinθ
z由来-rsinφ-rsinφcosφrsinφ
合計・・・
\(\dot{\varphi}^2\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφcosθ-rsinφcosθrsinφcosθsinθ-rcosφsinφcosθ
y由来-rsinφsinθ-sinφsinθ-rsinφcosθsinθ-rcosφsinφsinθ
z由来rcosφ-rcosφrcosφsinφ
合計・・・-r
\(\ddot{\theta}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφsinθ-rsinφcosθsinφrsinφsinθ-rcosφsinφ
cosθsinθ
y由来rsinφcosθrsinφcosθsinφrsinφcosθrcosφsinφ
cosθsinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・rsinφ
\(\dot{\theta}^2\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-rsinφcosθ-rsinφcosθrsinφcosθsinθ-rcosφsinφ
cosθ
y由来-rsinφsinθ-rsinφsinθ-rsinφcosθsinθ-rcosφsinφ
sinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・-rsinφ-rcosφsinφ
\(\dot{\theta}\dot{\varphi}\)変換前r成分θ成分φ成分
x由来-2rcosφsinθ-2cosφsinφcosθsinθ2rcosφsinθ-2rcosφ
cosθsinθ
y由来2rcosφcosθ2cosφsinφosθsinθ2rcosφcosθ2rcosφ
cosθsinθ
z由来なしなしなしなし
合計・・・2rcosφ

成分ごとに合計すると、加速度ベクトルの変換後の各成分は
\(a_r=\dot{r}-\dot{\varphi}^2r-\ddot{\theta}^2r\sin^2\varphi\)
\(a_{\theta}=2\dot{r}\dot{\theta}\sin\varphi+2\dot{\theta}\dot{\varphi}r\cos\varphi+\ddot{\theta}r\sin\varphi\)
\(a_{\varphi}=2\dot{r}\dot{\varphi}+\ddot{\varphi}r-\dot{\theta}^2r\cos\varphi\)
になります。

他の計算の仕方としては、変換の公式を先に使って例えばv=vxsinφcosθ+vysinφsinθ+vzcosφの形で表して、その式の時間微分をするという方法もあります。その場合でも計算式は多少長くなります。

方向余弦の定義と公式

方向余弦(direction cosine)とはベクトルに対して考えられる補助的な量で、ベクトルの大きさに乗じる事で各成分の値になるような余弦(コーサイン、cos)を指します。(空間ベクトルの平面への射影を考える時の余弦とは一般的に異なるものです。)

この方向余弦の応用として特に重要であるの直交座標同士の座標変換です。
(局所的には直交座標から直交曲線座標への変換もできます。)

■関連記事:ベクトルの内積

■応用例:直交曲線座標系の成分にベクトルを変換する方法

「方向余弦」の定義

方向余弦とは、ベクトルと座標軸とのなす角に対して考える余弦であり、xyzの空間での直交座標なら1つのベクトルに対して3つ定義されます。平面であれば2つです。

方向余弦の定義

大きさが0でないベクトル\(\overrightarrow{A}\) =(A,A,A)に対して
\(\left|\overrightarrow{A}\right|=A\) ( >0)とおくとして、
\(A\cos\theta_x=A_1\),  \(A\cos\theta_y=A_2\),  \(A\cos\theta_z=A_3\) である時、
余弦 cosθ,cosθ,cosθ を特に「方向余弦」と呼ぶことがあります。
本質的に関数としては普通の余弦 cosθと同じものではありますが、
ベクトルに関する性質と組み合わせる事で特有の関係式がいくつか成立するものになります。

「おおきさが0でないベクトル」という条件を付しているのは、ゼロベクトルに対して方向余弦の定義を適用するとベクトルの大きさも0ですが、成分も全て0なので方向余弦は「任意の角度の余弦」であってもよい事になってしまうからです。
そのため、定義自体をできないわけではありませんがゼロベクトルに対する方向余弦は
「あまり意味のないもの」になってしまうので、ここでは除外して考えるという事です。

方向余弦をベクトルの大きさに乗じる事で、ベクトルの成分が計算されます。
具体的で簡単な数値で考えてみると、例えば(1,1,1)のようなベクトルなら
ベクトルの大きさは\(\sqrt{3}\)なので、各軸に対する方向余弦は3つとも等しく1/\(\sqrt{3}\)になります。
\(\sqrt{3}\cdot\frac{1}{\large{\sqrt{3}}}=1\)であり、大きさ×方向余弦=成分となっています。

この時に、具体的な角度の値は必ずしも分かっていなくてもよい事も多くあります。
cosθ=1/\(\sqrt{3}\)に対しては角度は約54.7°、弧度法で0.955≒0.3πとも書けますが、
角度の値よりも「余弦の値」のほうが重要である場合も少なからずあります。
(特にこの記事で見て行く方向余弦の公式や諸性質・応用ではその傾向があります。)

このように方向余弦の定義自体は比較的簡単なものですが、
注意すべき点があるとすれば方向余弦は3次元の空間の場合には一般的に
「ベクトルをxy平面やxz平面に射影する余弦とは異なる」という事です。
平面であれば、方向余弦はx軸あるいはy軸に対してベクトルを射影する余弦でもあります。
空間の場合でも確かに「軸に対する射影」を行うベクトルであるとは言えますが、それはxy平面等の「平面に対する射影」とは異なるのです。

図で見ると、一般的に3次元空間でのベクトルの方向余弦はxy平面等に対して「斜めになった平面」における直角三角形の1つの角に対する余弦となります。

公式1:方向余弦の2乗和に対する公式

方向余弦は普通の余弦と同じく三角比や三角関数の公式が使えますが、特に方向余弦に対して成立する公式として「3つの方向余弦(平面であれば2つ)の2乗の和は1になる」というものがあります。

方向余弦の2乗和に対して成立する公式

3次元空間における3つの方向余弦に対しては次式が成立します。 $$\large{\cos^2\theta_x+\cos^2\theta_y+\cos^2\theta_z=1}$$ 平面では次式です。
(空間で1つの方向余弦だけが0と考えても同じ。) $$\large{\cos^2\theta_x+\cos^2\theta_y=1}$$ この公式は「方向余弦」について成立するものであり、
一般の余弦 cosθで成り立つものではありません。
平面の場合では図を見ると実質的には sinθ+cosθ=1 と同じである事も分かるでしょう。

この公式は式で考えても導出できますし、図による平面幾何的な導出も可能です。
(式で考えたほうが、実はやや簡単かもしれません。)

証明

式で見る場合には、ベクトルの大きさ(の2乗)を成分で敢えて表してみると公式がすぐに出ます。(同じベクトルでの内積で考えても同じです。)

ベクトルの大きさをAとすると方向余弦を使った成分は
(A cosθ,A cosθ,A cosθです。ここでA>0であるとします。
成分を使って敢えて大きさの2乗を計算すると
A cosθ+A cosθ+A cosθです。
しかし考えているベクトルの大きさは A なのですから、その式の値はAです。
A cosθ+A cosθ+A cosθ=A
A>0なので
cosθ+cosθ+ cosθ=1となり、公式が導出されます。

図で見る場合は、平面だと分かりやすくて式で見る場合と同じように三平方の定理で斜辺の長さを見れば数式だけで考えた時と同じ式を得ます。

また、同じ角度で三角比の意味での余弦を2回考えるという方法も可能です。
すなわち長さ A の斜辺に対して A cosθ を考えて、さらにそこを斜辺とする線分を探します。
するとベクトルが作る直角三角形において直角の頂点から斜辺に垂線を下ろした時に、
そこを境にA cosθの長さの部分とA cosθの長さに分かれる部分となる事が分かります。

空間の場合も似た考察ができますが、平面と比べるとどうしても単純さが失われる傾向があります。

三平方の定理を使うのが一番早く、式で考える場合と結局同じになります。
それ以外の方法だと、かえって複雑です。
図形的にはベクトルの辺はA cosθ+A cosθの部分とA cosθの部分に分かれます。

いずれにしても、方向余弦に関しての性質を調べる時には平面の場合は図形的な考察は比較的容易でも、空間の場合では式で取り扱ったほうが見やすい事を示唆しています。

平面の場合は、2つの方向余弦のうち1つはもう片方の角度から見た正弦と実質的には同じです。
平面の場合は図で見ても比較的分かりやすいですが、空間の場合だとやや複雑になる傾向があります。後述していく方向余弦の関係式や公式の証明では基本的に内積などの式による計算を使っています。

公式2:ベクトルの直線に対する射影についての関係式

ベクトル\(\overrightarrow{A}\) =(A,A,Aと始点のみを共有する直線があるとして、
始点からの長さが「その直線への\(\overrightarrow{A}\)の射影に等しい」ベクトルを\(\overrightarrow{B}\) とします。
どちらのベクトルもゼロベクトルではないとします。
その他、次のように設定を考えます。

  • \(\overrightarrow{B}\) =(B,B,Bとします。
  • \(\overrightarrow{A}\)と\(\overrightarrow{B}\) とのなす角をφとします。
  • \(\overrightarrow{A}\)の方向余弦の角度をθ,θ,θとします。
  • \(\overrightarrow{B}\)の方向余弦の角度をω,ω,ωとします。
  • ベクトルの大きさについては\(\left|\overrightarrow{A}\right|=A\)( >0)および \(\left|\overrightarrow{B}\right|=B\)( >0) とおきます。

この時、B=A cosφ ですが、他にも次の公式が成立します。

ベクトルの直線への射影と方向余弦の関係式

上記の設定のもとで、次式が成立します。 $$\large{\cosφ=\cos\theta_x\cos\omega_x+\cos\theta_y\cos\omega_y+\cos\theta_z\cos\omega_z}$$ $$\large{B=A_x\cos\omega_x+A_y\cos\omega_y+A_z\cos\omega_z}$$ これらの式が一体何を言っているのかというと、
最初の式は2つのベクトルのなす角の余弦を互いの方向余弦の積の和で表せる事、
2式目は1つのベクトルの大きさを3つの方向余弦と
「射影のもとになっている別のベクトルの成分」で表せるという事です。
また、1式目は2式目を導出するのに使う式でもあります。

複数の方向余弦が取り扱われる時にはl,m,nなどの文字によって方向余弦が書かれる事もありますが、ここでは普通の余弦として表記しています。

証明

第1式の証明は内積を使います。また、第1式から第2式を証明できます。

ベクトルの成分表示を方向余弦を使って書き、内積をとります。

\(\overrightarrow{A}\) =(A,A,A)=A (cosθ,cosθ,cosθ)
\(\overrightarrow{B}\) =(B,B,B)=B (cosω,cosω,cosω)
\(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\)=AB (cosθcosω+cosθcosω+cosθcosω)

他方で\(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\)=AB cosφ なので、
AB cosφ=AB (cosθcosω+cosθcosω+cosθcosω)
A>0かつB>0よりAB>0なので
cosφ=cosθcosω+cosθcosω+cosθcosω

次に2式目については、Acosφ=B の関係式に1式目の結果を代入します。
A cosθ=A等の関係を使って途中の変形を行います。

B=Acosφ
=A (cosθcosω+cosθcosω+cosθcosω)
=(A cosθ) cosω+(A cosθ) cosω+(A cosθ) cosω
=Acosω+ A cosω+Acosω

この2式目のほうの式は、次に見て行くように2つの直交座標においてベクトルの成分の変換公式を導出するのに必要です。(直交座標から直交曲線座標への変換も局所的には可です。)

公式3:2つの直交座標系でのベクトル成分の変換公式

原点を共有する2つの異なる直交座標を考えます。1つの直交座標に対して、もう片方の直交座標が原点を共有した状態で回転したような位置関係です。
この時のベクトルの成分に対する座標変換に対して、方向余弦を使う事ができます。

ここで言う「ベクトルの成分に対する座標変換」とは、
1つの直交座標における成分で表されたベクトルが、空間での大きさと向きは同じにしたままで
「別の直交座標から見た時」にはどのような成分で書けるだろうか?という問題です。

得られる公式は形が規則的ではあるのですが、3軸の3軸に対する方向余弦を考える必要があるので合計9個の方向余弦を必要とします。
それらは1~3の番号の組み合わせを使うと処理をしやすい場合もありますが
(線形変換的な式なので、特に行列などを使う場合など)、
ここではx,y,zとX,Y,Zの文字で区別を行う事にします。

原点を共有する2つの直交座標間の変換公式

原点を共有するxyz系とXYZ系の2つの直交座標軸があり、
片方はもう片方に対して原点回りに回転したような位置配置となっているとします。
この時にx,y,zの軸上のベクトルからX,Y,Zの軸への方向余弦を考えます。
x軸上のベクトルに対するY軸への方向余弦を cosθxYのように書く事にすると、
xyz座標系で成分を考えたベクトル\(\overrightarrow{A}\) =(A,A,A)(\(\neq\overrightarrow{0}\))を
XYZ座標系の成分(AX,AY,AX)で書く時の変換の式は次のようになります。

  • AX=AcosθXx +AcosθXy +AcosθXz
  • AY=AcosθYx +AcosθYy +AcosθYz
  • AZ=AcosθZx +AcosθZy +AcosθZz

また、逆にXYZ座標系の成分で書かれた(AX,AY,AX)を
xyz座標系の成分(A,A,A)で書くには次のような変換をします。

  • A=AXcosθXx +AYcosθYx +AZcosθZx
  • A=AXcosθXy +AYcosθYy +AZcosθZy
  • A=AXcosθXz +AYcosθYz +AZcosθZz

後述しますが、2つの異なるベクトルに対してこの変換を適用した時に
2つのベクトルの内積は変換前と変換後で値は同じ(=不変)になります。
(そこから前提である2つのベクトルの大きさも変換の前後で値は同じという事も見れます。)

ここでも考えているベクトルはゼロベクトルを除いていますが、考えている2つの直交座標系は原点を共有しているという設定なので、原点におけるゼロベクトルはそもそも変換の必要はなくどちらの座標系でも同じ成分(0,0,0)として共有されている事になります。

上記の変換の3式は線形結合の形なので、次のように行列の積で表現する事もできます。
また、方向余弦の添え字が一定の規則性を持つので行と列に上手く対応させる事ができます。 $$ \left(\begin{array}{c} A_X\\ A_Y\\ A_Z\end{array}\right) = \left(\begin{array}{lcr} \cos\theta_{Xx} &\cos\theta_{Xy}&\cos\theta_{Xz}\\ \cos\theta_{Yx} &\cos\theta_{Yy}&\cos\theta_{Zy}\\ \cos\theta_{Zx} &\cos\theta_{Yz}&\cos\theta_{Zz}\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} A_x\\ A_y\\ A_z\end{array}\right) $$ 3行3列程度ならわざわざ行列にするよりも普通に式で書く方が早いし分かりやすいと見るか、
行列で見たほうが規則性が明らかで書く手間も少し減ると見るかは人それぞれと思われます。

9つの方向余弦の位置関係を表にして整理すると次のようになります。

方向余弦X軸からY軸からZ軸から
x軸へcosθXxcosθYxcosθZx
y軸へcosθXycosθYycosθZy
z軸へcosθXzcosθYzcosθZz
方向余弦の添え字が規則的で、式が線形結合の形なので行列の積で関係式を書く事もできます。また、ここでのアルファベットの添え字を番号に変えると行列の行と列の番号に対応させる事もできます。

余弦が角度のプラスマイナスで同じ値になる事を考えると、これらの方向余弦は「xyz系の軸からXYZ系の軸への方向余弦」を考えた時と同じ値になります。つまり例えば「z軸からY軸への方向余弦」は「Z軸からy軸への方向余弦cosθZy」と同じものを使ってよいという事です。
ただしxyz系の軸からXYZ系変換への公式は導出過程に由来して、
単純にx,y,zとX,Y,Zの置き換えをすればよいわけではなく
「x軸から考えた場合の3つの方向余弦」を使う必要があります。
表で言うと、
XYZ系への変換では1つの変換につき「縦」の3つを使うのに対して、
xyz系への変換では1つの変換につき「横」の3つを使う事になります。

ここで具体的な角度よりも「余弦の値」自体のほうが基本的に重要となる事を考えて、
方向余弦を cosθXy=CXyのように略記すると次のように書けます。

方向余弦X軸からY軸からZ軸から
x軸へCXxCYxCZx
y軸へCXyCYyCZy
z軸へCXzCYzCZz

さらに、添え字をアルファベットではなく1~3の番号だけで書くと次のようになります。

方向余弦X軸からY軸からZ軸から
x軸へC11C12C13
y軸へC21C22C23
z軸へC31C32C33

変換後の式が線形変換の形になっている事に由来して方向余弦の配列を行列として扱う時には、添え字の組み合わせと行・列の番号が一致するので便利な事もあります。また、和をシグマ記号で表したい時も添え字がアルファベットではなく番号になっているほうが便利です。
ただし2種類の添え字を同じ1~3の番号で表すと、どの軸からどの軸への方向余弦を考えているかといった図的な位置関係は少し見えにくくなります。そのため、この記事では番号ではなくアルファベットによる添え字を使用しています。いずれの表示方法でも表現する事自体は同じです。

この公式の変換は原点を始点として考えていますが、任意の点を始点とする場合でもそこを基準に考えるかベクトルを原点に平行移動して考える事によって変換公式を適用する事ができます。直交座標系ではベクトルの向き(および大きさ)を保ったまま平行移動を行っても軸とのなす角は同じ値に保たれます。つまり方向余弦の値も同じものが使えるので、上記の変換公式を適用できます。

証明

変換公式の証明には前述の「ベクトルの直線への射影と方向余弦の関係式」を使います。本質的には、意味を把握しているならその関係式に当てはめる事で変換の式はそのまま導出できます。

(再掲)ベクトルの直線への射影と方向余弦の関係式

前述の公式を書くと次の通りです。
ここでは射影ベクトルの始点からの距離を表すほうの式だけを使います。 $$\large{B=A_x\cos\omega_x+A_y\cos\omega_y+A_z\cos\omega_z}$$ 変換公式の証明用に変数を対応させると次のようになります。 $$\large{A_X=A_x\cos\theta_{Xx}+A_y\cos\theta_{Xy}+A_z\cos\theta_{Xz}}$$ 実はこれで変換公式の証明に既になってしまっているのですが、
以下もう少し詳しく説明を加えます。

まず、xyz系からXYZ系への変換を考えたいので
「AをA,A,Aと方向余弦で表す」事を考えます。
そこで、ベクトル\(\overrightarrow{A}\)のXYZ系の各軸への射影を1つずつ考えます。
すると、ベクトルの終点から軸に下ろした垂線の足と始点までの距離は、
実はそれがそのまま「XYZ系における座標成分」になっています。

すると「X軸からのx軸」「X軸からのy軸」「X軸からのz軸」への方向余弦を考えて、公式に当てはめればXYZ系でのベクトル\(\overrightarrow{A}\)の「X成分」が得られるという流れです。
それが AX=AcosθXx +AcosθXy +AzcosθXzの式になります。

Y軸についても同様に「Y軸からのx軸」「Y軸からのy軸」「Y軸からのz軸」への方向余弦を考え、
Z軸についても同様に「Z軸からのx軸」「Z軸からのy軸」「Z軸からのz軸」への方向余弦を考えて
AY=AcosθYx +AcosθYy +AcosθYz および
AZ=AcosθZx +AcosθZy +AcosθZz の式を得ます。

逆変換の式の場合

同じ考え方で、XYZ系の成分で表されたベクトルをxyz系の成分で表す逆変換の式も作れます。
ただし「考え方」が同じでも使う方向余弦が違ってくるので注意も必要です。【余弦の値自体はx軸からY軸の方向余弦はY軸からx軸への方向余弦と同じものを使えます。cosθ=cos(-θ)であるため。】

xyz系からの変換を考える時には、使う方向余弦は次のようになります。

Aを表すために使う方向余弦Aを表すために使う方向余弦Aを表すために使う方向余弦
「x軸からX軸」cosθXx
「x軸からY軸」cosθYx
「x軸からZ軸」cosθZx
「y軸からX軸」cosθXy
「y軸からY軸」cosθYy
「y軸からZ軸」cosθZy
「z軸からX軸」cosθXz
「z軸からY軸」cosθYz
「z軸からZ軸」cosθZz

XYZ系からの変換の時とは微妙に違っていて、各変換の式で使用する方向余弦のうち1つは共通していて残り2つは異なっています。(行列表示で言えばcosθXxなどの対角成分は共通していて、残り2つが違うものになっています。)

式で使うベクトル\(\overrightarrow{A}\)の成分についてはXYZ系での成分であるA,A,Aを使用します。
これらによって、xyz系での成分であるA,A,Aを表す式を得るわけです。

すなわち
A=AXcosθXx +AYcosθYx +AZcosθZx
A=AXcosθXy +AYcosθYy +AZcosθZy
A=AXcosθXz +AYcosθYz +AZcosθZz の3式が導出されます。

局所的には直交曲線座標への変換にも適用可能である件

上記の方向余弦による直交座標間のベクトルの変換公式は、
局所的には極座標や球面座標などの「直交曲線座標」にも適用可能です。
その事についてもここで簡単に触れておきます。

ここで「局所的に」というのは、直交曲線座標においては1つ1つの点において2つまたは3つの座標曲線(極座標だと同心円と放射状に伸びる直線)の接線ベクトルが互いに直交するので、そこに限定して見れば「直交座標とみなせる」という事を指します。

ただし直交曲線座標では一般的に、そのような局所的には直交座標の軸とみなせる接線ベクトルも位置を変えれば向きが変わってしまいます。ですので直交曲線座標においては「向きが異なる局所的な直交座標」が至るところに存在するという感じです。

そのため、直交曲線座標に対して上記の変換公式を使う時には方向余弦を微分や偏微分を使って表します。そのようにする事で、変換の式が座標変数による関数として表せるので、結果的に領域全体での変換を表す事が可能になります。これは微分方程式に対して基本ベクトルを変更する形での極座標変換を行う時などに重要になります。

基本ベクトルを変更しない形での微分方程式の極座法変換もあり、その場合には方向余弦を使った公式は不要になります。
方向余弦を使った変換公式を適用する必要があるのは力ベクトルなども含めたベクトル場の成分をx,y,zではなくr,θ,φで表し、rやθによる変化を考えたい場合です。

直交座標から直交曲線座標へのベクトルの成分の変換を行う時には方向余弦を微分や偏微分によって表す事になります。微積分・ベクトル解析的な考察は多少必要ですが、方向余弦による変換の公式自体は直交座標同士の変換の場合と同じ形で考える事ができます。図で、方向余弦はCの文字と添え字によって略記しています。
直交曲線座標への変換での方向余弦の具体的な関数形は表し方が2通りあり、いずれも微分・偏微分によって表されます。

公式4:直交座標変換における方向余弦の関係式

上記は9つの方向余弦を使った「成分についての座標変換の公式」でしたが、
9つの方向余弦自体に対して成立する関係式も公式として存在します。

直交座標の変換における方向余弦同士の関係式

■ J,K =X,Y,Z のそれぞれ(J≠K)に対して次式が成立します。
$$\large{ \cos\theta_{Jx}\cos\theta_{Kx}+\cos\theta_{Jy}\cos\theta_{Ky}+\cos\theta_{Jz}\cos\theta_{Kz}=0 }$$ ■ j=x,y,z のそれぞれに対して次式が成立します。 $$\large{ \cos^2\theta_{Xj}+\cos^2\theta_{Yj}+\cos^2\theta_{Zj}=1 }$$ ■ j, k = x,y,z のそれぞれ(j≠k)に対して次式が成立します。
【j=kの時は第2式になります。】 $$\large{ \cos\theta_{Xj}\cos\theta_{Xk}+\cos\theta_{Yj}\cos\theta_{Yk}+\cos\theta_{Zj}\cos\theta_{Zk}=0 }$$ ■J=X,Y,Z のそれぞれに対して次式が成立します。
(第1式の左辺でJ=Kとした時に相当。) $$\large{ \cos^2\theta_{Jx}+\cos^2\theta_{Jy}+\cos^2\theta_{Jz}=1 }$$ J≠Kおよびj≠kのもとで
第1式の意味は「XYZ系の2つの軸からのxyz系の1つの軸への方向余弦の積の和は0になる」
第2式の意味は「xyz系の1つの軸からのXYZ系の各軸への方向余弦の2乗和は1になる」
第3式の意味は「xyz系の2つの軸からのXYZ系の1つの軸への方向余弦の積の和は0になる」
という事になります。
第3式でj=kとした場合が第2式、
第1式でJ=Kとした場合が第4式であり、値が変わる事になります。
(j=kとj≠kおよびJ=KとJ≠Kの場合分けで全体を2式にまとめる事もできます。)
第2式と第4式は、空間内の直交座標系の任意のベクトルに対して「各軸への方向余弦の2乗和は1になる」という公式と実は同じものであるという見方もできます。

これらの公式は「暗記」するようなものではなく、このような規則的な関係が成立するという認識のもと、もし必要であれば適宜参照すればよいと考えるべきでしょう。後述する「原点を共有する直交座標間の変換の前後でベクトルの内積は不変である」事の証明ではこれらの関係式の一部を使います。

この図での各方向余弦は、略記で記しています。公式が表す結果で考えると、要するに和を考えると0になる関係式と1になる関係式がそれぞれ2つずつ、計4つ存在します。xyz系の軸とXYK系の軸の対応関係から整理すると比較的見やすいかもしれません。

$$ \left(\begin{array}{c} A_X\\ A_Y\\ A_Z\end{array}\right) = \left(\begin{array}{lcr} \cos\theta_{Xx} &\cos\theta_{Xy}&\cos\theta_{Xz}\\ \cos\theta_{Yx} &\cos\theta_{Yy}&\cos\theta_{Zy}\\ \cos\theta_{Zx} &\cos\theta_{Yz}&\cos\theta_{Zz}\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} A_x\\ A_y\\ A_z\end{array}\right) =\left(\begin{array}{lcr} C_{11} &C_{12}&C_{13}\\ C_{21} &C_{22}&C_{23}\\ C_{31} &C_{32}&C_{33}\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} A_x\\ A_y\\ A_z\end{array}\right)$$ のように方向余弦を略記して、さらに行列の要素に対応する番号で表す時には
上記の公式は次のようにも書けます。 $$\sum_{n=1}^3C_{Jn}C_{Kn}=0\hspace{5pt}(J\neq K)$$ $$\sum_{n=1}^3(C_{nj})^2=1$$ $$\sum_{N=1}^3C_{Nj}C_{Nk}=0\hspace{5pt}(j\neq k)$$ $$\sum_{n=1}^3(C_{Jn})^2=1$$ (J,K=1,2,3は、ここでは行の番号です。j,k=1,2,3はここでは列の番号。)

公式行列要素での表記
 cosθJxcosθKx
+cosθJycosθKy
+cosθJzcosθKz=0
(J≠Kの時)
 cosθXxcosθZx
+cosθXycosθZy
+cosθXzcosθZz=0
【X,Z軸からの方向余弦の積の和】
$$\sum_{n=1}^3C_{Jn}C_{Kn}=0\hspace{5pt}(J\neq K)$$
 cosθXj
+cosθYj
+cosθZj=1

(第3式でj=kの時)
 cosθXy
+cosθYy
+cosθZy=1

【y軸への方向余弦の2乗和】
$$\sum_{n=1}^3(C_{nj})^2=1$$
 cosθXjcosθXk
+cosθYjcosθYk
+cosθZjcosθZk=0

(j≠kの時)
 cosθXxcosθXz
+cosθYxcosθYz
+cosθZxcosθZz=0

【x,z軸への方向余弦の積の和】
$$\sum_{N=1}^3C_{Nj}C_{Nk}=0\hspace{5pt}(j\neq k)$$
 cosθJx
+cosθJy
+cosθJz=0
(第1式でJ=Kの時)
 cosθZx
+cosθZy
+cosθZz=0

【Z軸からの方向余弦の2乗和】
$$\sum_{n=1}^3(C_{Jn})^2=1$$

証明

証明はいずれも内積計算を使いますが、2乗和の形の式はそれ以外の方法でもできます。
ここで考えるベクトルは任意のベクトルではなく「始点と終点が軸上にあるベクトル」です。
以下、そのようなベクトルを「軸に重なるベクトル」と呼ぶ事にします。
1つの座標系における軸に重なるベクトルであっても、別の座標系から見た成分で書くと通常のベクトルとして扱われる事になり、その事をここでの証明でも使います。

第1式

第1式については、X,Y,Z軸の異なる2つの軸は直交しますから、それらの軸上のベクトル同士の内積は0です。そこで、ベクトルの成分で内積を計算して0に等しいとする事で証明されます。(同じ1つの軸同士【公式でJ=K】であれば当然直交はせず、内積は大きさの2乗になります。それは第4式の証明です。)

J≠Kの時に J 軸と K 軸(例えばX軸とZ軸)は直交するので、
大きさが P(>0)のJ軸上のベクトル\(\overrightarrow{P}\)について成分はxyz系での座標で書ける事に注意すると
\(\overrightarrow{P}\)= P (cosθJx,cosθJy,cosθJz)
同じように大きさがQ(>0)であるK軸に重なるベクトル\(\overrightarrow{Q}\) は次のように書けます。
\(\overrightarrow{Q}\)= Q (cosθKx,cosθKy,cosθKz)
2つのベクトルは直交するので内積は0であり、
\(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{Q}\)=PQ(cosθJxcosθKx+cosθJycosθKy+cosθJzcosθKz)=0
PQ≠0なので J≠K であれば
cosθJxcosθKx+cosθJycosθKy+cosθJzcosθKz=0

第2式

第2式については、xyz系の軸に重なるベクトルから見て考えます。
xyz系のj軸(例えばy軸)に重なる大きさ(p>0)のベクトル\(\overrightarrow{p}\)を考えて、
成分をXYZ系の座標として書きます。
方向余弦はXYZ系からxyz系へのものを選んで使う事ができ、
k軸からX,Y,Zに向かうものを選ぶ事に注意すると次のように書けます。
\(\overrightarrow{p}\)= p (cosθXj,cosθYj,cosθZj)
同じベクトル同士の内積\(\overrightarrow{p}\cdot\overrightarrow{p}\)を考えるか、
成分で計算したベクトルの大きさ=pと考える事で結果の式を得ます。
\(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{P}\)=p(cosθXj+cosθYj+cosθZj)=p
p>0なので
cosθXk+cosθYk+cosθZk=1

この式は第3式でj=kとして考えた場合でもあります。

第3式

第3式はxyz系から見て、第1式の時と同じように考えます。
j,k=x,y,zでj≠kのもとで、p>0およびq>0が大きさである
j軸とk軸に重なる2つのベクトルを考えると、2つのベクトルは直交します。
両者をXYZ系の座標で書き、内積を成分で計算して0になるとおくと結果の式を得ます。
\(\overrightarrow{p}\)= p(cosθXj,cosθYj,cosθZj)
\(\overrightarrow{q}\)= q (cosθXk,cosθYk,cosθZk)
\(\overrightarrow{p}\cdot\overrightarrow{q}\)=pq(cosθXjcosθXk+cosθYjcosθYk+cosθZjcosθZk)=0

p>0かつq>0なのでj≠kであれば
cosθXjcosθXk+cosθYjcosθYk+cosθZjcosθZk=0

第4式

第4式は、第1式において大きさがP (>0)の1つのベクトル同士の内積か大きさを成分で計算する事で結果の式を得ます。
\(\overrightarrow{P}\cdot\overrightarrow{P}\)=P(cosθJx+cosθJy+cosθJz)=P
P>0なので
cosθJx+cosθJy+cosθJz=1

第2式と第3式はxyz系から見て計算を考えましたが、得られた方向余弦の関係式はXYZ系をxyz系に変換する場合でも成立しているので必要があれば使ってもよい事になります。
また、第2式と第4式に関しては成分を考えている座標系だけから見れば「ある1つのベクトル」を考えている事になります。そのため、前述の「方向余弦の2乗和は1になる」という公式と実は同じものであるという見方もできます。

方向余弦を使った直交座標の変換の前後において内積は不変である事の証明

座標変換をした時に値が変わらない量(「不変量」)についての考察は数学的に重要で、扱う対象によっては物理学でも重要となる場合もあります。

ところで前述の原点を「共有する直交座標同士のベクトルの成分の変換」は、ベクトル自体はいじっていないはずなので変換前と変換後で大きさは「同じはず」です。もしも、現に計算したらベクトルの大きさの値が変わってしまうなどという結果が出たら整合性がとれず困った事になります。
しかし実際は計算をしてもベクトルの大きさは同じ値に保たれる事が数式でも分かります。
そして実は、変換前と変換後ではベクトルの大きさだけでなく内積が同じ値に保たれているのです。

方向余弦を使った座標変換の前後における内積

2つのベクトルの成分を、原点を共有する2つの直交座標間で変換するとします。
\(\overrightarrow{A}\) =(A,A,A)および\(\overrightarrow{B}\) =(B,B,B)を考えて、
変換後の座標はそれぞれ
(AX,AY,AZ)および(BX,BY,BZ)であるとします。
この時に2つのベクトルの内積\(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\) の値は、変換前のxyz系の座標成分で計算しても、
変換後の座標成分で計算しても同じ値になります。 $$\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}=A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z=A_XB_X+A_YB_Y+A_ZB_Z$$ 同じベクトル同士の内積を考える事により、
変換の前後でベクトルの大きさも同じ値に保たれる事も確認される事になりす。
(外積ベクトルについては変換によって異なるベクトルに変化してしまいます。)

証明

変換後の成分で内積を計算し、変換前の内積の値に等しくなる事を示します。

2つのベクトルの変換について、使用する方向余弦は「座標軸から座標軸へのもの」なので共通して使う事ができます。

  • AX=AcosθXx +AcosθXy +AcosθXz
  • AY=AcosθYx +AcosθYy +AcosθYz
  • AZ=AcosθZx +AcosθZy +AcosθZz
  • BX=BcosθXx +BcosθXy +BcosθXz
  • BY=BcosθYx +BcosθYy +BcosθYz
  • BZ=BcosθZx +BcosθZy +BcosθZz

さて、これの内積を計算するとなるとX成分だけで見ても9つの項ができる事になりますが
規則性があるので全体としても3項の和の塊が9つという形です。
さらに前述の座標変換時の方向余弦に関する関係式を使うと、実は多くの部分が0になるのです。

  1. ABcosθXx+ABcosθYx+ABcosθZx=AB
    【∵cosθXx+cosθYx+cosθZx=1】
  2. ABcosθXxcosθXy+ABcosθYxcosθYy+ABcosθZxcosθZy=0
    【∵cosθXxcosθXy+cosθYxcosθYy+cosθZxcosθZy=0】
  3. ABcosθXxcosθXz+ABcosθYxcosθYz+ABcosθZxcosθZz=0
    【∵cosθXxcosθXz+cosθYxcosθYz+cosθZxcosθZz=0】
  4. ABcosθXy+ABcosθYy+ABcosθZy=AB
    【∵cosθXy+cosθYy+cosθZy=1】
  5. ABcosθXycosθXx+ABcosθYycosθYx+ABcosθZycosθZx
    【∵cosθXxcosθXy+cosθYxcosθYy+cosθZxcosθZy=0(2番目の計算と同じ)】
  6. ABcosθXycosθXz+ABcosθYycosθYz+ABcosθZycosθZz=0
    【∵cosθXycosθXz+cosθYycosθYz+cosθZycosθZz=0】
  7. ABcosθXzcosθXx+ABcosθYzcosθYx+ABcosθZzcosθZx=0
    【∵cosθXxcosθXz+cosθYxcosθYz+cosθZxcosθZz=0(3番目の計算と同じ)】
  8. ABcosθXzcosθXy+ABcosθYzcosθYy+ABcosθZzcosθZy=0
    【∵cosθXycosθXz+cosθYycosθYz+cosθZycosθZz=0(6番目の計算と同じ)】
  9. ABcosθXz+ABcosθYz+ABcosθZz=AB
    【∵cosθXz+cosθYz+cosθZz=1】

ここでは一応全部記してみましたが、
「2番目と5番目」「3番目と7番目」「6番目と8番目」は
掛け合わせる方向余弦の順番が違うだけで実質的に同じ計算であり、しかも値が0になります。
つまり6式については実は3組のほぼ同じ計算の式で、しかも0になって消えるわけです。
残るのは他の3つだけで、それらは方向余弦の部分が上手い具合に1になります。
よって、XYZ系に成分を変換後の内積の値は
AB+AB+ABとなり、
これは変換前の内積の値に一致するわけです。

シグマ記号で計算する場合、1~3の番号を使った処理も可能です。

XYZ系からxyz系への逆変換の式でも、内積の不変性は同様に証明も同様に可能です。

乗じる項の順番が異なるだけで実質的に同じ計算になる2組の箇所が3つあったのはあながち偶然ではなくて、実は行列の非対角部分でC12とC21のような転置の配置にある要素の組がそれらに該当します。
また、計算結果が0にならなかった部分は対角部分の3つです。
ここでの変換の場合に方向余弦が行列の要素に対応するような結果の式であったので、そのような規則性が見れるわけです。

上記の証明について、シグマ記号を使った証明も記します。
番号を使ってやる事も可能ですが、ここではアルファベットのままやる方法を書きます。
方向余弦はcosθXz=CXzのような略記号を使います。$$\large{\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}=\sum_{J=X,Y,Z}A_JB_J}$$ $$\large{=\sum_{J=X,Y,Z}\left\{\left(\sum_{j=x,y,z}C_{Jj}A_j\right)\left(\sum_{k=x,y,z}C_{Jk}B_k\right)\right\}}$$ $$\large{=\sum_{J=X,Y,Z}\left(\sum_{j,k=x,y,z}C_{Jj}C_{Jk}A_jB_k\right)}$$ $$\large{=\sum_{j,k=x,y,z}\left\{A_jB_k\left(\sum_{J=X,Y,Z}C_{Jj}C_{Jk}\right)\right\}}$$ この式をよく見ると、1つのJを決めてj,k=x,y,zについて加え合わせた時に、
前述の公式によりj=kの場合以外は0になる事が分かります。 $$j\neq kの時、\large{ \cos\theta_{Xj}\cos\theta_{Xk}+\cos\theta_{Yj}\cos\theta_{Yk}+\cos\theta_{Zj}\cos\theta_{Zk}=0なので、 }$$ $$j\neq kの時、\large{A_jB_k\left(\sum_{J=X,Y,Z}C_{Jj}C_{Jk}\right)=0}$$ よって内積はk=jの項だけ考えればよい事になりますが、
k=jの時は同じ形の式が1になるので結局、方向余弦は全て式から無くなります。
整理すると、次のようになります。 $$ \large{\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}=\sum_{j=x,y,z}\left\{A_jB_j\left(\sum_{J=X,Y,Z}C_{Jj}C_{Jj}\right)\right\}} $$ $$\large{=\sum_{j=x,y,z}\left(A_jB_j\right)}$$ これによってXYZ系の成分による内積の結果と、
xyz系の成分による内積の結果が等しい事が示されます。

ナブラ記号の使い方

ベクトル解析などで使う grad, div, rot (または curl) の代わりに∇(「ナブラ」nabla, del)という記号を演算子として使って表記する方法があります。

この記事ではそれらの書き換えの方法と、ナブラ記号を使って作られる別の2つの演算子について詳しく説明します。

■サイト内参考記事(主に応用・ナブラを使う例など)
物理学全般で使用され、例として電磁気学で使う事ができます。

ナブラを使う利点は何か?

grad, div, rot の代わりにナブラ記号を使う利点は、特に式が複雑になる時などです。記述する文字数が少なくなるので比較的見やすくるといった事などの利点があります。

また数式の記述に統一性が出るために意味で好んで使われる場合もあるのです。後述していくように、grad, div, rot などの計算はベクトルの演算に類似性が見られるのでそれをナブラ記号によって統一的に整理する事も可能になるからです。

ただし grad, div, rot の置き換えとしての使用ではあくまで記号の「書き換え」なので数学的な意味が変わってしまうという事ではありません。

ナブラ記号を使わない grad, div, rot の表記法ではイメージ的な意味がつかみやすいという利点があります。言い換えると、一度イメージがつかめたのであれば数式的な形の簡便さや統一性を重視してナブラ記号での表記を行うという考え方もあると言えるでしょう。

尚「ナブラ」という言葉自体は元々楽器の「竪琴」の意味らしく、逆三角形の記号の形∇として見立てたというのが通説のようです。

ナブラを使うと、記述量が減るという利点の他に計算方法の統一性を見れるという利点もあります。他方で図形的なイメージはあらかじめ知っておかないと捉えにくいものとなります。

勾配(grad)の書き換え

まずスカラー場に対して「勾配」を表す grad の書き換えです。

スカラー関数f(x,y,z)に対して gradfの代わりに∇fと書いても同じ意味を表す約束になっています。

gradf=∇fはベクトルなので成分を持ちますが、個々の成分を表す時には下に添え字を付けて表記する時があります。すなわち、∇fのx成分は∇f,y成分は∇f,z成分は∇fのように書いたりします。

$$\large{\mathrm{grad}f(x,y,z) =\nabla f=(\nabla_x f,\nabla_y f,\nabla_z f)}$$

例としては、ベクトル場がポテンシャル(スカラーポテンシャル、位置エネルギー)の勾配で表される式を書く時には記号として grad の代わりに∇を使えるわけです。

$$\overrightarrow{F}=-\mathrm{grad}\phiの代わりに\overrightarrow{F}=-\nabla\phiとも書けます。$$

この意味で使うナブラ記号はハミルトン演算子と呼ばれる時もあり、
形式的には「ベクトルとスカラーの積」として捉えられます。
※これは量子力学におけるハミルトン演算子もしくはハミルトニアンとは別物です。

あくまで形としての話ですが∇を数式上ベクトルとみなし(ベクトルそのものではない)、スカラー場との「積」のように考えるわけです。この考え方は、次に見るように発散や回転の書き換え時には「内積」や「外積」との数式上な類似性に着目する事との統一性を持っています。

$$形式的に、\nabla=\left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)ともみなせます。$$

あるいは
xyz直交座標における基本ベクトル(軸方向の単位ベクトル)である
\(\overrightarrow{e_x}\)=(1,0,0)
\(\overrightarrow{e_y}\)=(0,1,0)
\(\overrightarrow{e_z}\)=(0,0,1)
を使う事によって、 $$\nabla=\overrightarrow{e_x}\frac{\partial}{\partial x}+ \overrightarrow{e_y}\frac{\partial}{\partial y}+ \overrightarrow{e_z}\frac{\partial}{\partial z}$$と書く事もできます。
この場合においてもナブラはあくまで「演算子」であるという考え方になります。

発散(div)の書き換え

次に、ハミルトン演算子としてのナブラ記号を使ってベクトル場の「発散」div を書き換える方法を見ます。(※極限における「無限大への発散」は別物です。)

この場合には、発散 div がハミルトン演算子とベクトル場との「内積」のような形をとる事に着目します。そこで形式上の「∇とベクトル場の内積」を考えてベクトル場の発散を表すものと約束します。

$$\mathrm{div}\overrightarrow{F}の代わりに\nabla\cdot\overrightarrow{F}とも書けます。$$

$$\mathrm{div}\overrightarrow{F}=\nabla\cdot\overrightarrow{F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}$$

形式上という事は強調されるべきですが
勾配 grad は「スカラー場からベクトル場を作る」操作であり、
発散は逆に「ベクトル場からスカラー量を作る」操作である事を考えると
「ベクトルとスカラーの積はベクトル」であり
「ベクトルとベクトルの内積はスカラー」という、ベクトルの基本演算との類似性や統一性を見れるわけです。

例としてはガウスの発散定理は次のように書いてもよいわけです。

$$\int_V\nabla\cdot\overrightarrow{F}dv=\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$

ここで、左辺の積分の中身は\(\mathrm{div}\overrightarrow{F}\)であり、それに対して右辺の内積記号は図形的にも内積を考えますので数式的な形は同じでも意味が異なるわけです。この事に対して意味的に紛らわしいと見るか、数式上の統一性があって好ましいと見るかは人それぞれの考え方によるでしょう。

規則性に類似点は見られるとはいえ勾配と発散は異なる数学的な操作を表しますから、単独のナブラ「∇」とドットがついた「∇・」はそれぞれ意味としては別々の操作を表す事になります。

また、後述しますが少し紛らわしい表記として「∇・」ではなくナブラ記号とベクトル場の「内積の順序を変えたもの」は別の意味を表す演算子とみなす場合があります。通常のベクトルの場合は内積は順序を変えても同じスカラーになりますが、ナブラ記号を演算子として考えた場合には「∇・」の順番で書いて「発散 div」の意味になります。

$$\nabla\cdot\overrightarrow{F}=\mathrm{div}\overrightarrow{F}ですが、\overrightarrow{F}\cdot\nablaは別の演算子です。$$

回転(rot, curl)の書き換え

ベクトル場の回転をハミルトン演算子としてのナブラ記号で書き換える場合には3次元ベクトルの外積(クロス積、ベクトル積)の記号を使います。
つまり\(\nabla\times\overrightarrow{F}\)のように書くわけです。

$$\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=\nabla\times\overrightarrow{F}$$

3次元ベクトルの外積はまた1つの3次元ベクトルですが、ベクトル場の回転もまた別のベクトル場ですから記述上の統一性があります。

通常のベクトルの場合、外積あるいはクロス積の成分での計算は次のようになります。

$$\overrightarrow{E}\times\overrightarrow{F}=(E_2F_3-E_3F_2,\hspace{5pt}E_3F_2-E_2F_3,\hspace{5pt}E_1F_2-E_2F_1)$$

この外積における最初のベクトル\(\left(\overrightarrow{E}のほう\right)\)をハミルトン演算子としてのナブラ記号で置き換えると、数式の形としてはベクトル場の回転になるわけです。

$$\nabla=\left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)のもとで$$

$$\nabla\times\overrightarrow{F}=\left( \frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y} \right)$$

見た目としては、∇を先に書いて偏微分する変数が「下側」に書かれますので順番を間違えないように注意。「偏微分の演算子」をベクトル場の各成分に付けると考えたほうが順番的には通常のクロス積との見た目の整合性が取れます。

$$\frac{\partial }{\partial y}F_3=\frac{\partial F_3}{\partial y}に注意して$$

$$\nabla\times\overrightarrow{F}の第1成分は\frac{\partial }{\partial y}F_3-\frac{\partial }{\partial z}F_2と考えます。$$

使用例としてストークスの定理をナブラ記号で書くと次のようになります。

$$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\left(\nabla\times\overrightarrow{F}\right)\cdot d\overrightarrow{s}$$

この式の右辺のように、ベクトル場の回転に「内積」が続くような場合には括弧をつけて\(\left(\nabla\times\overrightarrow{F}\right)\) のように書く事が多いです。そのまとまりで1つのベクトルである事を強調するわけです。括弧を付けないで内積を書く事もありますが、意味としては「ベクトル場の回転」と別のベクトルとの内積です。式の形から紛らわしい場合には括弧を付けておいたほうが無難かとは思われます。

「外積」という用語やその計算規則についてはベクトル場の回転を含む事項(例えばストークスの定理)を純粋に数学の解析学的に取り扱う場合にも重要になってきます。

2階の偏微分を扱う「ラプラス演算子」

以上の3例の他に「3変数の各々により2階の偏微分を行い加え合わせる」という操作が行われる時があります。つまり、ベクトル場の発散を1階ではなく2階の偏微分で行うような場合です。これは、スカラー場に対して行う場合とベクトル場に対して行う2つの場合があるので区別して説明します。

いずれの場合もナブラ記号を使って書く方法があります。
あるいは∇・∇と書いて1つの演算子としてみなし、「ナブラ2乗」と読むかラプラス演算子と呼びます。∇φのようにスカラー場やベクトル場に作用させて使います。

スカラー場に対する場合の例は次のようなものです。

$$\nabla^2\phi=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}のような量を考えます。$$

ラプラス演算子の表記上の注意点

ラプラス演算子について∇という記号の代わりに、単独の三角形の記号「△」を使う事もあるので注意する必要があります。つまり、ナブラ記号を使わず、grad, div のような名称を元にした記号とも異なった、全く別の記号が改めて使われる事もあるという事です。

$$例:\nabla^2\phi=△\phi=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}$$

さらにはラプラス演算子としての△記号は、書籍によっては微小量を表す「デルタ」Δ(これはギリシャ文字の1つ)との表記上の区別もつけられない場合もあります。そのため、書籍によっては記号の意味をきちんと押さえていないと数式の読み取りが非常に難しくなる場合があります。

デルタとラプラス演算子の記号が区別されない表記方法の場合、基本的にデルタはΔx(デルタエックス)などのように「変数」に付ける事が多く、ラプラス演算子は3変数の関数に付ける事からおおよその区別は可能です。つまり微小量の議論の文脈が無い箇所で唐突に3変数関数に対して△φなどと式に書かれたらそれは普通はラプラス演算子による計算を表します。

スカラー場に対するラプラス演算子

スカラー場の各成分に対して「2階の偏微分を行って加え合わせる」量は、スカラー場から始めて発散と勾配を組み合わせて作る事ができます。すなわち、あるスカラー場φに対してgradφを考え、その発散をとればよい事になります。

$$\mathrm{div}(\mathrm{grad}\phi)=\mathrm{div}\left(\frac{\partial\phi}{\partial x},\frac{\partial\phi}{\partial y},\frac{\partial\phi}{\partial z}\right)=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}$$

この事自体をナブラ記号で書く事もできるのです。

$$\nabla\cdot(\nabla\phi)=\nabla\cdot\left(\frac{\partial\phi}{\partial x},\frac{\partial\phi}{\partial y},\frac{\partial\phi}{\partial z}\right)=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}$$

そこで、ナブラ記号による演算の組み合わせである∇・∇を考えます。注意点として、これは∇・(∇φ)のナブラをくっつけてしまうというよりは、ハミルトン演算子同士の形式上の「内積」を考えて、それをスカラーのように考えてスカラー場φに乗じるという考え方に近いものです。(後述するスカラー演算子と同じ考え方です。)

また、そのように考えた∇・∇を∇と書く事もあります。いずれにしてもこれを1つの演算子とみなしてラプラス演算子と呼ぶわけです。

$$\nabla=\left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)同士の形式上の「内積」を考えます。$$

$$\nabla\cdot\nabla=\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}$$

$$あるいは\nabla\cdot\nablaを\nabla^2と表記して\nabla^2=\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}$$

∇・∇と∇を同じ意味で使う事に関しては、普通のベクトル同士の内積をとる時にはそれは「自乗」とはみなしませんので注意は必要です。(ベクトル同士の内積は「ベクトルの絶対値」の2乗にはなります。また、細かい点ではありますが曲線座標をもし考える場合には∇・∇と∇は同一視しません。)

このスカラー的な演算子(内積はスカラーである事にも注意)をスカラー場φに乗じるように作用させる事で∇・(∇φ)と同じ結果を得るというわけです。

$$\nabla^2\phi=\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)\phi=\frac{\partial^2\phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2\phi}{\partial z^2}$$

スカラー場に対してラプラス演算子を作用させる例としては微分方程式としての波動方程式があります。(解が周期関数のような「波動」になる。)また、演算子の部分だけをとって波動演算子と呼ぶ事もあり、そこにラプラス演算子が使われるというパターンもあります。

$$例:\left(\nabla^2-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} \right)\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}$$

$$\left(\Leftrightarrow \nabla^2\phi-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2\phi}{\partial t^2} =-\frac{\rho}{\epsilon_0}\right)$$

この例は、電場に関するガウスの法則で電場の代わりにスカラーポテンシャル(これはスカラー場)を使って変形したものです。c は光の速さでtは時間、右辺の記号は電荷密度と真空の誘電率。
ポテンシャルを使わず電場のままでも同様の式を導出できますが項などが増えて少しばかり複雑さが増します。同じ型の式を磁場についても導出できて、合わせて電磁波の式を導出できます。

ベクトル場に対するラプラス演算子

ラプラス演算子∇は、スカラー場だけでなくベクトル場にも作用させる事ができます。勾配はスカラー場に対して、発散と回転はベクトル場に対して必ず作用させるものである事と比較すると少し特殊であるとは言えます。しかし、通常の微分や偏微分の操作を演算子として考えると同じくスカラー場にもベクトル場にも作用させる事ができますからそれほど不思議な考え方ではないとも言えます。

そして、考え方自体はラプラス演算子をスカラー場に作用させる時と同じなのです。つまり、∇あるいは∇・∇はスカラー的な演算子と言えるからベクトル場にも作用できると考えるのです。そのため、ラプラス演算子をベクトル場に作用させたものもまたベクトル場になります。演算子がスカラー量の乗法のように「ベクトルの各成分に対して作用する」と考えるためです。

計算上は演算子の作用により一度3つのベクトルができて、合計して結果的に1つのベクトルになると考える事も可能です。いずれにしても最終的にはベクトル場の成分に対して作用する計算です。具体的には次のようになります。

$$\nabla^2\overrightarrow{F}=\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)\overrightarrow{F}=\frac{\partial^2}{\partial x^2}\overrightarrow{F}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}\overrightarrow{F}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\overrightarrow{F}$$

$$=\small{\left( \frac{\partial^2F_1}{\partial x^2}+\frac{\partial^2F_1}{\partial y^2}+\frac{\partial^2F_1}{\partial z^2},\hspace{5pt} \frac{\partial^2F_2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2F_2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2F_2}{\partial z^2},\hspace{5pt} \frac{\partial^2F_3}{\partial x^2}+\frac{\partial^2F_3}{\partial y^2}+\frac{\partial^2F_3}{\partial z^2} \right)}$$

$$=\left(\nabla^2F_1,\hspace{5pt}\nabla^2F_2,\nabla^2F_3\hspace{5pt}\right)$$

ここで最後の式の各成分については∇Fなどはスカラー場に対してラプラス演算子が作用する形をとっています。

ベクトル場に対してラプラス演算子を作用させる場合には注意点もあります。
=∇・∇と考える事には問題ありませんが、
例えば\(\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{F}\right)\neq(\nabla\cdot\nabla)\overrightarrow{F}\)です。

ベクトル場の発散はスカラー場になりますから、それに対してハミルトン演算子を作用させると結果は再びベクトル場になります。
しかし結果は、\(\nabla\left(\nabla\cdot\overrightarrow{F}\right)\)の例えば第1成分には「Fをxとyで偏微分した関数」が生じるのです。これは∇\(\overrightarrow{F}\) の結果とは異なるものになっています。

この事はスカラー場に対するラプラス演算子の作用の考察において結果的には
「∇=∇・(∇φ)」として扱うけれども単純に括弧を外してナブラをくっつけるのとは違うと考えられる事に関連しています。

通常のベクトルの場合でも、3つのベクトル対して
\(\overrightarrow{C}\left(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\right)と\left(\overrightarrow{C}\cdot\overrightarrow{A}\right)\overrightarrow{B}\) は一般的に異なるベクトルです。
そのように、演算の結果同士で等号で結べるものとそうでないものがある事には注意が必要となります。

ナブラで作る「スカラー演算子」

最後に、ナブラ記号を使って発散を表した時の「内積の順番」を入れ換えた形の演算子についても触れておきます。これはスカラー演算子などと呼ばれる事もあります。あるベクトル場とナブラ記号が結び付いて「1つの演算子」として機能します。

$$スカラー演算子:\overrightarrow{A}\cdot\nabla(これでまとめて演算子扱い。)$$

$$\left(\nabla\cdot\overrightarrow{A}であれば\mathrm{div}\overrightarrow{A}の事\right)$$

スカラー演算子はラプラス演算子と似ていてスカラー場とベクトル場の両方に作用させる事ができます。(ラプラス演算子はスカラー演算子の1つであるという見方をする場合もあります。)

より具体的には、ハミルトン演算子(スカラー場に作用する単独の∇)との内積的な計算はしますが偏微分の操作自体はいじらず、3つの偏微分に対して1つのベクトル場の対応する成分が乗じられているというものです。例えば次のようになります。

$$\overrightarrow{A}\cdot\nabla=A_1\frac{\partial}{\partial x}+A_2\frac{\partial}{\partial y}+A_3\frac{\partial}{\partial z}$$

これをスカラー場に演算子として作用させると、別のスカラー場になります。次のようになります。

$$\left(\overrightarrow{A}\cdot\nabla\right)\phi=A_1\frac{\partial\phi}{\partial x}+A_2\frac{\partial\phi}{\partial y}+A_3\frac{\partial\phi}{\partial z}$$

ベクトル場に作用させる場合にはラプラス演算子と考え方は同じで、それぞれの成分に対して演算子が作用するという計算になります。計算結果はベクトルのままです。

$$\left(\overrightarrow{A}\cdot\nabla\right)\overrightarrow{B}=\left(A_1\frac{\partial\phi}{\partial x}+A_2\frac{\partial\phi}{\partial y}+A_3\frac{\partial\phi}{\partial z}\right)\overrightarrow{B}$$

$$=\small{\left( \frac{\partial B_1}{\partial x}+\frac{\partial B_1}{\partial y}+\frac{\partial B_1}{\partial z},\hspace{5pt} \frac{\partial B_2}{\partial x}+\frac{\partial B_2}{\partial y}+\frac{\partial B_2}{\partial z},\hspace{5pt} \frac{\partial B_3}{\partial x}+\frac{\partial B_3}{\partial y}+\frac{\partial B_3}{\partial z} \right)}$$

ラプラス演算子の時と同様に、まず3つのベクトル場ができてから合わさるという考えでも、ベクトル場の各成分にスカラー演算子が作用すると考えても結果は同じです。

このようなスカラー演算子を作用させる例としては、実は3変数関数(スカラー場としてみなせる)に対する全微分がその形を作っています。(2変数の全微分でも考え方自体は同じです。)

スカラー場を3変数のそれぞれによって偏微分し、各項にはdx,dy,dzが乗じられている形ですから(dx,dy,dz)というベクトルとナブラ記号を組み合わせたスカラー演算子を考えれば全微分の形になるわけです。

$$\overrightarrow{R}=(dx,dy,dz)によるスカラー演算子\overrightarrow{R}\cdot\nablaを考えると$$

$$\overrightarrow{R}\cdot\nabla=dx\frac{\partial}{\partial x}+dy\frac{\partial}{\partial y}+dz\frac{\partial}{\partial z}であり、$$

$$スカラー場の全微分d\phi=dx\frac{\partial\phi}{\partial x}+dy\frac{\partial\phi}{\partial y}+dz\frac{\partial\phi}{\partial z}=\left(\overrightarrow{R}\cdot\nabla\right)\phi$$

スカラー場に対して全微分を作る演算子をベクトル場に対して作用させた場合には各成分が全微分の形になり、これをベクトルの全微分と呼ぶ事があります。

$$同じく\overrightarrow{R}=(dx,dy,dz)によるスカラー演算子\overrightarrow{R}\cdot\nablaを考えて$$

$$ベクトル場の全微分d\overrightarrow{F}=(dF_1, dF_2,dF_3)=\left(\overrightarrow{R}\cdot\nabla\right)\overrightarrow{F}$$

$$第1成分だけ記すとdF_1=dx\frac{\partial F_1}{\partial x}+dy\frac{\partial F_1}{\partial y}+dz\frac{\partial F_1}{\partial z}$$

ストークスの定理【内容と証明】

電磁気学や流体力学、数学のベクトル解析の分野で、ガウスの発散定理と並んで重要な定理とも言えるストークスの定理について、その内容・使い方・証明を詳しく説明します。

ストークスの定理はベクトル場に対する数学上の定理です。
スートクスの公式と呼ばれる事もあります。

ストークスの定理とは?内容とイメージ

ストークスの定理は、ベクトル場の接線線積分と、ベクトル場の回転に対する法線面積分を等式で結びつける事ができるという数学上の定理です。その内容と証明について詳しく説明します。

定理の内容と表記

ベクトル場の変数x、y、zは独立変数で、ベクトル場の回転の計算(偏微分含む)もまずその条件下で行われます。次に、対象となる関数を積分する時点で曲面上あるいは曲線上という制約がつく…すなわちz=z(x,y)といった形の式が一部の変数に代入されて互いに独立ではなくなるとします。

$$ベクトル場は\overrightarrow{F}=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))であるとします。$$

$$曲面S上でz=z(x,y)という制約がつく時は$$

$$F_1(x,y,z)=F_1(x,y,z(x,y))のように記す事にします。$$

ストークスの定理

空間内の閉曲線 C に対して、
そのCを外周として共有する任意の開曲面 S に対して
ベクトル場の接線線積分と法線面積分についての次の式が成立します。 $$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ただし右辺のベクトル場の回転の計算はx、y、zが独立変数であるという条件下で行われ、
法線面積分を考えた時点で「\(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\)」という関数全体に対して曲面S上という制約がつきます。
接線線積分を考える C は閉曲線ですが、曲面 S は閉曲面ではなく開曲面を考えます。 開曲面Sの表裏は、接線線積分の積分方向に合わせて決まります。

\(d\overrightarrow{s}\) =(ds,ds,ds)のもとで、
曲面Sのyz平面、xz平面、xy平面への射影をそれぞれSyz, Sxz, Sxy とします。
上式の左辺のベクトル場に対する接線線積分をスカラー場(ここではベクトル場の成分)に対する線積分に分解した場合には、次の3式が成立します。
【左辺はそれぞれxのみの関数、yのみの関数、zのみの関数とします。】 $$\int_C F_1(x)dx=\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z $$ $$\int_C F_2(y)dy=\int_{Sxy}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial x}ds_z-\int_{Syz}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial z}ds_x $$ $$\int_C F_3(z)dz=\int_{Syz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial x}ds_x-\int_{Sxz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial z}ds_y $$ これらスカラー関数の線積分に関する3式の右辺は、
ベクトル場の回転のx成分そのものではなくて、「ベクトル場の回転の各成分に含まれる項を組み合わせた式」です。
例えばxに関する偏微分はベクトル場の回転の第2成分と第3成分に含まれていて、そこから取ってきて組み合わせています。
また、これら3式の両辺を加え合わせると、もとのベクトル場の接線線積分に対するストークスの定理の形になります。

ベクトル場の回転 rot (あるいは curl)とは?

「ベクトル場の回転」はベクトルです。次のように偏微分を使って表されます。
「ベクトル場の発散」はスカラーである事との違いに少し注意。$$\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=\left( \frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y} \right)$$ ストークスの定理を適用する事で、ベクトル場の回転は「閉曲線の接線線積分」という文字通りの「回転」するイメージの図形的な意味を持つと解釈する事が可能になります。

のちの証明での計算のための注意点を挙げますと、ベクトル場の「回転」における偏微分は3変数x,y,zを独立変数として扱って計算をするものです。つまり、xで偏微分するならyとzは単純に定数扱いするという意味です。

それに対して、「曲面上のベクトル場」「曲線上のベクトル場」という条件が付くと3変数は独立では無く、曲面上であれば2変数だけが独立、曲線上であれば3変数とも従属関係という事になります。これが証明の1つにおける計算では重要になります。

積分の表記方法についての注記

ストークスの定理は、ガウスの発散定理と比較すると数学的な内容は少し込み入っています。

積分の表記方法は書籍などによって異なる事がありますが、この記事では数式の表現を明確にするために1つの表記方法に統一をします。

この記事では、紛らわしさを避けるために「プライスマイナスの符号がついた面積要素」を考える面積分(法線面積分およびその成分によるスカラー関数の積分)を表すときには積分記号は1つだけつけて、二重積分として累次積分(1変数の場合の定積分計算の繰り返し)によって計算してよい事を表すときには積分記号を2つ付けています。積分する領域全体を表すSなどの記号はどちらの場合でも適宜使用しています。$$面積分(面積要素に符号がある):\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$ $$二重積分(累次積分が可能):\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ この例ではSは曲面上の領域で、Sxzはxz平面上の領域です。
面積要素を積分変数とする場合には、曲面の場所によってプラスマイナスの符号が入れ替わる事があります。そのため、法線ベクトルの成分を積分変数とする時でも領域は曲面であると記すようにしています。
二重積分を累次積分で計算できる形で書いた時には、平面上の点に対応するスカラー関数の積分を行えばよいという事で領域を平面と考えて問題ない事になります。

書籍によっては面積分に対しても積分記号を2つ付けている事もあり、表記方法は一定していませんがこの記事では混同を避けるために表記方法を統一するという事です。

面積分の積分変数のプラスマイナスの符号の扱いについても表記方法をここで明確にしておきます。面積分の場合は表面と裏面とで面積要素ベクトルの向きが逆であり、つまり「プラスマイナスの符号が異なる」事になります。

累次積分(1変数の定積分計算を続けて行う)として二重積分を計算する場合には、
最終的な積分の結果が領域の分割の方法には依存しない事から
|ds|=|dydz|
|ds|=|dxdz|
|ds|=|dxdy|
と考えて、積分の中で置き換える事ができます。
ここで絶対値記号をつけているのは、状況によって符号の違いがある事を表しています。
曲面の表側と裏側の設定等により、例えばds=dxdyで計算できる場合と、
ds=-dxdyとする必要がある場合があります。$$ds_y=dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ $$ds_y=-dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=-\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$

図形的なイメージ

ストークスの定理の図形的なイメージは次のような感じです。


まずループ状に閉じた閉曲線 C があります。
その内側に膜が張ってあって、「閉曲面にはしない」という条件で任意の曲面の形に変形させる事ができるとします。
その時に「どんな形の曲面 S についてもストークスの定理の形の式が成立する」・・という事です。

では、開曲面Sには穴のような破れがあった場合はどうでしょうか。

実はその場合でもストークスの定理は成立します。穴を作る閉曲線と元の閉曲線を1本の線で結ぶと大きな1つの閉曲線が作られるためです。付け足してしまった線については、その線を向きだけが異なる2つの線が重なっていると考えるとその線上での接線線積分の合計は「プラスマイナスが打ち消して」ゼロになって積分の値に影響しません。

ただし、そのような場合には「穴」を構成する部分について接線線積分の向きを全体の接線線積分の向きに合わせる必要があります。例えば「穴」が1つだけある場合には元々の外側の接線線積分の向きが1つの方向から見て反時計回りであれば、内側の「穴」を作る閉曲線では逆向きの時計回りで考えないとストークスの定理は成立しません。

また「穴」がある場合の考察から、ストークスの定理は1つの閉曲線に対して任意の「分割」を行える事も理解できます。

曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなる?

ストークスの定理において曲面は「開曲面」を考えます。

では、曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなるのでしょうか?閉曲面とは球面のような閉じた曲面です。(トーラスのような図形も含めます。)

閉曲線Cを境にして2つの開曲面に分割すると、その両方に対してストークスの定理が成立します。簡単な図形的考察と計算によって、もし曲面の表側を閉曲面に対して一貫して「内側から外側に向かう向き」と決めるなら、「閉曲面全体を積分領域とした時の、ベクトル場の回転の法線面積分の値は必ず0になる」という別の公式が得られます。

証明その1:積分と偏微分の計算を直接進める方法

ストークスの定理を数学の解析学的に「厳密に」証明する方法もありますが、考え方が非常に複雑で物理学等への応用とのつながりも見えにくいものです。そこで、ここでは比較的シンプルに考える2つの証明方法を説明します。

証明時の偏微分の計算の扱い方

ストークスの定理の証明を考える時には偏微分の扱いに特に注意する必要があります。
例えば、「偏微分をしてできた偏導関数」を積分する場合には、x、y、zが独立変数であるという条件下で計算した偏導関数がまずあります。
ベクトル場の各成分であるスカラー関数についての偏微分です。
もしyで偏微分するなら、xとzは定数扱いになります。 $$F_1(x,y,z)に対して\frac{\partial F_1}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F_1(x,y,z)=\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}$$ そのような偏導関数があるなかで、
特定の曲面S上での法線面積分を考える時に初めてz=z(x,y)という従属関係ができます。
つまり、計算としては「偏微分を行った後の関数に対して、積分をする時点でz=z(x,y)を代入する」といった形になります。

変数をどのように考えるのかを敢えて強調して書くなら、積分時には次のようになります。 $$偏導関数\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z)に対してz=z(x,y)を代入して\hspace{5pt}\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z(x,y))$$

他方、F(x,y,z)に対して
「曲面S上にあるという条件」を初めから課すとします。
具体的には1つの変数がz=z(x,y)という関数の形になり、
スカラー関数全体は F(x,y,z(x,y))のように書けます。
そこで例えばyによる偏微分を行うとどうなるでしょうか?
この場合には、先ほどの場合とは計算結果が変わるのです。
偏導関数は異なる形になるのです。
その場合には、yの変化によるFの第3成分(z成分)の変化も生じ、
それによるF全体の変化も変わってしまうという事です。
しかし、実はその事がまさにストークスの定理の数式的な意味の1つになっています。

分かりやすくするために、具体的なスカラー関数をてきとうに考えてみます。

例えばF(x,y,z) =x+y+zであったとしましょう。3変数が互いに独立なら、これを例えばyで偏微分すれば偏導関数は2yになります。xとzは定数扱いです。

それに対して、同じ関数に対してz=3yという条件がついたとしましょう。この時にはF(x,y,z) =F(x,y,z(y))=x+y+(3y)=x+10yですから、yで偏微分すれば偏導関数は20yになりますから全く異なる結果です。その違いが生じるのは、z=3yという条件によりyを変化させるとzも変化するためです。その違いが計算結果に現れます。

合成関数の偏微分公式で考えても同じになります。
z=3yという条件下ではF(x,y,z)を偏微分すると次のようになります。

$$\frac{\partial F}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F(x,y,z(y))$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(y)}{\partial y}$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial }{\partial y}(3y)$$

$$=2y+2z\cdot 3=2y+2\cdot 3y\cdot 3y=2y+18y=20y$$

この式で、F(x, y, z) と書いた部分は3変数が互いに独立である場合の関数という意味です。その部分においては、yで偏微分するならxとzは定数扱いになるという事です。

スカラー関数の線積分の計算

ベクトル場の第1成分(x成分)であるF(x,y,z)を考えます。これはスカラー関数で、スカラー場とみなせます。まず、接線線積分において内積をとってスカラー場の線積分の形にした積分についてまず考えます。

閉曲線Cは凹凸のない形状を考え、閉曲面Sはxy平面上の1点に対してz座標が1つ決まるような形状で、表側の面からの法線ベクトルはz軸のプラス方向の向きに対して鋭角になるものとします。

次に曲面の「xy平面への射影」を考えます。これは積分領域の射影を考えるのであって、ベクトル場の射影(つまりz成分を無視する)では無い事に注意。

ベクトル場に関しては、zに対して「積分領域の曲面の式」であるz=z(x,y)を代入する事で見かけ上zを消去します。のちに偏微分の計算をする時にはこのzの式は重要になってきます。

具体的な定積分(1変数の定積分)を考えようとする時、全体の射影された積分の経路に対してxについての異なる形の2つの関数が必ず存在します。これは、元々の曲線として必ず「閉曲線」を考えるためです。

xy平面で考えると、「上半分」と「下半分」に分かれる事になります。

ここでは経路を表す曲線を表す関数に対して、
xy平面上で見た閉曲線の上半分を表す場合には添え字のU、
下半分を表す場合には添え字のLをつける事にします。
また、射影されたxy平面上の閉曲線をCxy(ベクトル場の第1成分 F1 を F1xy(x,y,z(xy)) とします。)
その上半分の経路をCxU(そこではF1 を F1xyU(x,y,z(xy)) とします)
下半分の経路をCxL(そこではF1 を F1xyL(x,y,z(xy)) とします)
という名前にしておきます。
積分変数xの積分区間は [a, b] (=CxP)であるとして、線積分を行う時には反時計回りに回るようにして「行き」と「帰り」があるので往復を考えた便宜的な長方形状の経路をCxPRとしてます。

  • Cxy:閉曲線 C をxy平面上に射影してできた閉曲線上 F1 =F1xy
  • CxU:閉曲線Cxyの「上半分」(積分の方向は b→a)F1 =F1xyU
  • CxL:閉曲線Cxyの「下半分」(積分の方向は a→b)F1 =F1xyL
  • CxP:xに関する積分区間 [a, b] (閉曲線Cxyのx軸への射影)

ストークスの定理においては「閉曲線内」も計算上考えますが、その場合も平面(例えばxとy)の位置における「閉曲面上」のベクトル場だけを考えます。そのため、元々のベクトル場F1(x,y,z)において互いに独立になり得る変数は1つだけです。最初に想定した曲面の形では例えばxy平面上の点を指定すればzの値も定まるので、曲面上の値を考える時にはF1=F1(x,y,z(z,y))の形になっています。
偏微分の計算上、3変数を独立したものとして扱う場合にはF1=F1(x,y,z)と書く事にします。

現在考えている条件下では、xy平面を上から見て反時計回りに回る方向が接線線積分の向きです。
そのため、閉曲線Cをxy平面に射影した曲線の下側が「xが増加する向きで積分する部分」であり、
上半分側が「xが減少する向きで積分する部分」になります。

まずはxy平面で考えるわけですが、1変数による線積分を行う場合に限っていえば積分変数がxであればxz平面への射影でも同じ事になります。つまり3次元空間内に閉曲線がある時、積分経路としては元の閉曲線が指定されていれば1変数の線積分の積分区間は確定します。そのため、1変数の線積分の積分経路に関しては統一的に元の閉曲線Cで表記する事にします。

$$\int_{Cxy} F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx=\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

次に、開曲面Sに対して、xy平面上でz=(x,y)と考えます。
さらにx軸上の区間では曲線の「上半分」と「下半分」に分ければそれぞれに対してy=y(x)の関係を考える事はできますからベクトル場の第1成分Fはxだけの式で表現できる事になります。

「上半分」と「下半分」でy=y(x)の式の形も違いますから
それを強調してここでは上半分に関してはy=yU(x)などと書き、
下半分に関してはy=yL(x)のように書く事にします。

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx+\int_b^aF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx-\int_a^bF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))\right)dx$$

積分区間をa→bの向きに統一して1つの積分記号に収めて、次の計算のために「上半分」のほうが前に来るように順序を変えています。

閉曲線としてまとめて積分経路を考えている時(ここで言えばCxyなど)には積分の方向が変わる時点でxの関数としての形も変わるものとして考えています。

「偏導関数の定積分」を考える

次に積分の中身で差の形になっている部分を、引き算の形である事に注目して
yに関する偏微分を使った「偏導関数の定積分」で表す事を考えます。
(※「偏微分の定積分」と言っても同じ意味になりますが、ここでは関数である事を強調して「偏導関数の…」と表現しています。)

発想的にはガウスの発散定理での証明と同じになります。

数式の意味が分かっていれば省略可能ですが「xだけの関数」と「互いに独立であるxとyが変数の関数」である事を区別するために、ここでは前者の場合のアルファベットをキャピタルで、後者を小文字で書く事にします。
つまりF1xyU(x,y(x),z(x))=f1xyU(x,y,z(x,y))であり、F1xyL(x,y(x),z(x))=f1xyL(x,y,z(x,y)) であるとします。

さきほど計算を進めた積分の中身だけで考えると次のようになります。積分区間はそれぞれのxによって定まる2つのyなので、便宜的にY1(x)からY2(x)までであるとします。yが閉曲線の内部を動く事になり、そこではF=F1xyS(x,y,z(x,y))と書く事にします。

$$【前述の式の積分の中身】F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}\left\{f_{1xyU}(x,y,z_U(x,y))-f_{1xyL}(x,y,z_L(x,y))\right\}dy$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z_(x,y))dy$$

※ここでのyによる積分の計算は、閉曲線上ではなく「閉曲線の内側」を横断する形です。
(ただしベクトル場は曲面上にあります。)
yの値によって変化するFを積分するので。xとyは従属では無く独立の関係です。xによって定まるのは「yによる積分区間の端点」だけになります。積分変数はあくまでyですから、定積分の値を直接計算するならxとzを定数扱いにしてyで偏微分したのちzにz=z(x,y)を代入して計算し、定積分の値の結果は「xだけの関数」という事になります。

これを、既に導出している線積分の計算式に当てはめます。最初の式から考えて書き直し計算を進めると、次のようになります。偏微分の計算および面積要素の変換公式を使用します。
【偏微分については、ここではF1(x,y,z)のように書かれていたら3変数を独立変数的に扱うものと考えます。つまりyで偏微分するなら残りの変数は定数扱いという意味での計算式になります。】

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z(x,y))dy)\right)dx$$

$$=-\int_a^b\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)dxdy$$

$$=-\int_{Sxy}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z -\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y【∵面積要素の変換公式】$$

ここで使った面積要素の変換公式はあまり使う機会のない公式ですが次のような形のものです。【※重積分の変数変換の公式とは別物なので注意。】

$$面積要素の変換公式:ds_y=-\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

xy平面とxz平面の面積要素がこの式に従って1対1に対応するので積分領域もxy平面からxz平面に移る事になります。

まとめると次のようになります。

$$\int_C F_1(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$

これは、接線線積分の側から見た時の内積の項の1つを表す式になっています。同様の手順でyとzによる線積分からも同様の結果が得られ、全て加え合わせる事でここでの閉曲面の設定におけるストークスの定理が導出されます。

(示すべき式の再掲)

証明の計算の流れのまとめを図示すると次のようになります。

zに関して変数を省略している部分はz=z(x,y)の関係があるものです。

この証明では積分の領域は開曲面Sに依存するのではなく、閉曲線Cに依存するものとなっています。しかも、より正確には閉曲線Cのxy平面等への「射影」の領域に依存しています。つまり定理において開曲面Sの形状は任意でよい事も示せています。

曲面が変化すればその曲面上のベクトル場の具体的な関数形は当然一般的には変化しますが、式の形自体は閉曲線Cの形状に縛られず自由であるという事になります。(最初は変数に従属関係があったのが、最後はあたかも独立変数として扱う計算となったのはこの事に関係があります。)

もちろんここではまだ特定のタイプの曲面に限っての話です。次に、開曲面がここで考察したもの以外の別の形状でも成立する事を見ます。

曲面の形状が変わった時

では、閉曲面Sが最初に設定したもの以外の場合はどうでしょうか。

まず、「開曲面Sの表裏が入れ替わった場合」です。

その場合、まず接線線積分の積分方向が逆回りになるので、内積で分解した時の線積分も計算結果の符号が入れ替わったものになります。

他方でその場合には例えばxy平面への射影を考える時に、元々は曲面Sの1つの方向から出る法線ベクトルが逆向きになります。つまり、元々がds=+dxdyであれば、曲面の裏表を入れ替えた時にはds=-dxdyという変換になります。

すると前述の証明と比較した場合、証明の過程で符号の反転が2回起こるので、「結果は同じになる」という事になります。

また、先に「穴がある場合」でも定理が成立する事は既に見ましたが、そこで考察した分割の方法によって、曲面が任意の形状であっても既に証明済みのタイプに細かく分割して積分値を合計する事で定理が成立する事を示せます。

じゅうたんを折り畳んだような複雑な曲面によって、面積要素ベクトルが他の場所と符号が変わる場合も定理は成立します。この場合には面積要素ベクトルは依然として「表」から出ている事にはなりますが、分割をすると裏表を変えた時のように接線線積分の向きが逆になる事が分かります。従って、裏表を変えた時と同様に定理は成立します。

折れ曲がるような複雑な形状であっても裏表が逆転する場合と同様に符号の入れ替えが2階起こり、ストークスの定理の式の形は保たれます。

証明その2:微小長方形領域で回転を計算する方法

別の証明方法として、ベクトル場の「回転」をより図形的な回転のイメージに合わせたやり方があります。

この方法では閉曲線のxy平面等への射影領域を、軸に平行な線でメッシュのように「細かい長方形に分割する事」で証明を行います。ただし、それは斜めの線を長方形に強引に近似できるという意味ではありません。そうではなくて、接線線積分や法線面積分の内積を利用した計算によって「結果的に長方形領域の組み合わせで計算ができる」という事です。

まず最初に、少し奇妙に思えるかもしれませんが閉曲線のxy平面を最初にメッシュ状に細かく分割してしまって、それから1つの微小な長方形領域ΔCに対してベクトル場との「接線線積分を行うかのような和」を考えます。つまり、積分の方向を決めたうえで各辺をベクトルと考えた時のベクトル場との内積をとり、合計するという事です。ただし、微小領域なので1つの辺につきベクトル場の値は1つだけで代表できると考えます。

この時に、ベクトル場は3成分ともx,y,zのプラスの方向を向いている条件であるとします。すると、長方形領域ΔCはxy平面上の図形であるわけですからz成分は0です。さらには軸に平行な線で作られた長方形ですから辺をベクトルとみなせば成分はx成分のみかy成分のみという事になります。

長方形領域ΔC辺の長さをdxとdyとすると、
4つの「接線ベクトル」はz成分を省略してそれぞれ
(dx,0),(0,dy),(-dx,0),(0,-dy)です。
長方形の左端にベクトル場があって、微小の長さを進んで偏微分を使った一次近似の量だけ増えるものとします。少し奇妙なようですが、ベクトル場との内積をとって合計すると次のようになります。

$$\oint_{\Delta C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=F_1dx+\left(F_2+\frac{\partial F_2}{\partial x}dx\right)dy-\left(F_1+\frac{\partial F_1}{\partial x}dy\right)-F_2dy$$

$$=\left(\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial x}\right)dxdy=\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3dxdy$$

$$\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3はベクトル場の回転の第3成分$$

つまり、回転するように「接線線積分もどき」のようなものを考えると、「ベクトル場の回転」の成分(ここでは第3成分)に面積要素を乗じた量になったわけです。このように最初から「回転のイメージ」が現れるところが先ほどの証明方法と異なる点です。

xとyについて積分すれば、ベクトル場の回転の法線面積分の第3成分を得ます。同様の方法で残りの成分も得る事ができます。それで、ストークスの定理の法線面積分側の式ができあがるわけです。

$$3成分について積分して合計すると\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}を得る。$$

さてそれでは接線線積分側はどうでしょうか。

メッシュ状に細かく分割した長方形に対してさきほどの式を合計すると、隣り合う辺においては値が打ち消し合って消えます。領域の分割の逆のパターンで、積分する領域の合成が行われるわけです。

すると、長方形を全部合成すると外部の周に相当する部分だけが残ります。これで接線線積分を内積計算した時の1変数の線積分が出てきます。

しかし、じつは単純に計算するとxy平面に対してxの線積分とyの線積分が生じて、xz平面でもxの線積分とzの線積分の両方が生じてしまい謎の「過剰な量」が出てきてしまいます。

ですが注意深く見てみると、xの線積分を行う場所は合計で4箇所できますがそのうちの2つは「同じ線分上で向きだけが異なる線積分」となるので合計すると0になります。そして残り2つで、xに関する線積分の「行き」と「帰り」を表現できているのです。

つまり、一見すると線積分の項が6つできて往復を考えると12項ができてしまいますが半分は打ち消して0になるので1変数の線積分の項が3つでそれぞれに積分区間の往復がある形になります。これで接線線積分側の式も得られてストークスの定理を導出できる事になります。

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$=\int_CF_1dx+\int_CF_2dy+\int_CF_3dz=\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}により$$

$$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$

xy平面への射影とxz平面への射影は共通辺を持ち、積分が打ち消し合う。xに関する線積分ではベクトル場の第1成分だけを積分するので、積分する辺のz座標の位置は影響しません。

設定した形状のタイプ以外の開曲面に対しても成立する事を調べるのは最初の証明と同じです。この2番目の証明では、閉曲線Cの射影となる領域だけで考えて定理を導出しています。言い換えると必要な射影を与える開曲面であれば形状は任意でも定理が成立するので1つの閉曲線を外縁とする開曲面は任意で良いという事になります。

面積要素の変換公式

積分変数としての面積要素dSと、x、y、zで積分した時に使うdx、dy、dzを偏微分を使って結びつける公式について説明します。
積分変数に関する公式ですからもちろん積分に関係しますが、ベクトルとも関連します。
この公式はやや特殊で、使われる場面はベクトル解析の分野のごく一部分に限定されるとも言えます。しかし特定の定理の証明・考察において重要である場合があるので、詳しく解説しておきます。

■より初歩的な内容(内部リンク):

面積要素とは

法線面積分においては曲面上の微小な領域に対する法線ベクトルを考えて、その法線ベクトルの大きさはその微小領域の面積であるとします。
そして、その面積にプラスマイナスの符号があると考えた量を特に面積要素(あるいは面積元素)と呼ぶ事があります。面積要素はdSなどの記号で書かれます。

面積元素dSを大きさとする法線ベクトル(面積要素ベクトル)

式で書くと次のようになります。
各成分は対象の曲面上の微小領域をyz平面、xz平面、xy平面へ射影した領域の面積です。$$d\overrightarrow{S}=(ds_x,ds_y,ds_z)$$ この法線ベクトル\(d\overrightarrow{S}\) の事を特に指して「面積要素ベクトル」と呼ぶ事もあります。
面積要素の絶対値は、このベクトルの大きさに等しいものとします。 \(|dS|=|d\overrightarrow{S}|\)

※「面積ベクトル」という用語は、曲面全体に対する単位ベクトルの法線面積分の事を指す場合があります。
また、法線面積分を考える時には「ベクトル場と単位法線ベクトルの内積を考え、それに面積要素を乗じるという形の形で書く」という形式もあります。ここで言う単位法線ベクトルとは「大きさが1」の法線ベクトルという事です。

法線面積分の計算を進める時には、内積を計算する形で成分ごとに分解した積分を考える事がありますが、その時に考える「スカラー場に対して、yz平面、xz平面、xy平面内の領域の面積要素を積分変数とする」形の積分を単に「面積分」と呼ぶ事もあります。

変換の公式

面積要素dSと、面積要素ベクトルの成分ds、ds、dsの間には実は変換の公式が存在し、それは曲面を表す関数に対する偏微分を使って表されます。

今、曲面を表す関数としてzがz=g(x,y)のような形で表されているとします。(これはベクトル場の成分を表す関数ではなくて、曲面を表す式です。)

面積要素ベクトルの成分dsx, dsy, dszと面積要素dSの変換公式

$$dS=ds_z\sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2}$$ $$ds_y=-\frac{\partial z}{\partial y}ds_z$$ $$ds_x=-\frac{\partial z}{\partial x}ds_z$$ この公式を使う時には、曲面を多面体とみなした時に微小な三角形(あるいは平行四辺形)の2辺がそれぞれxz平面上およびyz平面上にあるような分割を考えています。 (法線面積分および面積分の値は分割の仕方には依存しません。)

上記の式を組み合わせて、dsとdsについても面積要素dSとの関係式を作る事が可能です。

これらは決して使いやすい形の公式とは言えないかとは思いますが、ベクトル解析における特定の定理の証明等で使える場合もあります。

法線面積分を行う時の積分をする時の分割の仕方は任意ですが、
偏微分を使った面積要素の変換公式を考える時には
座標軸に平行な直線で区切った長方形の分割を行っています。
曲線上になっている部分は折れ線で近似して直角三角形の分割として考えます。

◆! 注意点・・・
これらの公式はあくまで
「法線面積分およびスカラー場に対する面積分における、
積分変数としての面積要素に対して成立する変換公式」であり、
通常の二重積分等での積分変数の変換(極座標変換など)では使う事はできません。
二重積分や多重積分で積分変数の変換を行う時には、関数行列式を使った変換が必要です。

また、ds/dS,ds/dS,ds/dSは図形的に余弦とみなす事ができて、方向余弦とも呼ばれます。(方向余弦は面積要素ベクトルに対してだけでなく、ベクトル一般に対して考える事ができます。)これらの面積要素ベクトルの方向余弦は、分割の方法を合わせるという前提のもとで上記の公式中の係数で表す事ができます。

余弦とは三角関数の「コーサイン」「cos」の事です。

面積要素ベクトルの方向余弦を偏微分で表す方法

角度は鋭角の場合であるとします。 $$\frac{ds_x}{dS}=\cos\alpha,\hspace{10pt}\frac{ds_y}{dS}=\cos\beta,\hspace{10pt}\frac{ds_z}{dS}=\cos\gamma \hspace{10pt}と置いた時、$$ (※これらは導関数の記号ではなく、普通の「割り算」あるいは「比」を考えています。) $$\cos\alpha=-\Large{\frac{\frac{\partial z}{\partial x}}{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} }}$$ $$\cos\beta=-\Large{ \frac{\frac{\partial z}{\partial y}}{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+ \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} } }$$ $$\cos\gamma=\frac{1}{\Large{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} }}$$ 曲面の分割は、前述の変換の公式を適用する時と同じであるとしています。
また、\(dS\cos\alpha=ds_x\), \(dS\cos\beta=ds_y\), \(dS\cos\gamma=ds_z\) でもあります。
角度が鈍角の場合にはプラスマイナスの符号が変わります。

公式の導出および証明

上記の公式の証明においてはベクトル場の事は考えず、曲面の事だけを考えます。

面積要素と、面積要素ベクトルの第3成分との関係式の証明

曲面Sの領域の分割が、xy平面への射影を考えた時に辺がx軸とy軸に平行な長方形になるように考えます。曲面の外周部分に関しては長方形を対角線で区切った直角三角形を考えます。

この時に分割された各領域は、1つの共有点を始点(原点と考えます)に持つxz平面上のベクトルと、yz平面上のベクトルを2辺として構成されていると考える事ができます。

それらの2つのベクトルを \(\overrightarrow{a}\) および \(\overrightarrow{b}\) とおきます。
(位置関係は、dxとdyの符号がともにプラスである時に外積ベクトルがz軸のプラス方向を向くようにします。その側が面の表側で、面積要素ベクトルが出る側として考えます。)
今、曲面の各点のz座標はz=g(x,y)のような関数で表せる事に注意すると、
2つのベクトルはzに対するxとyでの偏微分を使って表せます。
\(\overrightarrow{a}\) の(終点の)x座標をdxとして、\(\overrightarrow{b}\) のy座標をdyとすると、次のように書けます。

$$\overrightarrow{a}=\left(dx,0,\frac{\partial z}{\partial x}dx\right),\hspace{15pt}\overrightarrow{b}=\left(0,dy,\frac{\partial z}{\partial x}dy\right)$$

2つのベクトルはそれぞれx軸上およびy軸上にあります。
そのため、1つのベクトルはy成分が0で、もう片方のベクトルはx成分が0です。
曲面を表すz=g(x,y)に対する偏微分は、図形的には座標軸に平行な直線上での近似一次式の傾きを意味します。

この時にこれら2つのベクトルにより構成される平行四辺形の面積(|dS|に等しい)は、公式を使って次のように表されます。対角線で区切った三角形の面積ならその半分になります。

$$dS=\sqrt{|\overrightarrow{a}|^2|\overrightarrow{b}|^2-(\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b})^2}$$

$$|ds|=\sqrt{ \left\{dx^2+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2dx^2\right\} \left\{dy^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2dy^2\right\} -\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2 \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2dx^2dy^2 }$$

【平方根の中の2つの項がちょうど同じ値で引き算されて0になります。】

$$=\sqrt{dx^2dy^2+dx^2dy^2\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+dx^2dy^2\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここで、平方根の中のdxdyについて2乗した形が共通してどの項にもあるのでdxdyを平方根の外に出す事もできますが、敢えてひとまずこのままにしておきます。

面積要素ベクトルの第3成分(z成分)のdsの絶対値は、微小領域をxy平面に射影した領域の面積になります。【その証明は外積ベクトルの定義からの計算と、平面上のベクトルを使った平行四辺形の面積公式から行います。】

今、微小領域をxy平面に射影すると長方形になるように分割を考えています。
よって、|ds| = |dxdy| と書けます。【外積ベクトルのz成分を考えても同じ事です。】
すると ds = dxdy という事にもなるので、
これをさきほどの計算式に代入します。

$$|dS|=\sqrt{ds_z^2+ds_z^2\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+ds_z^2\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここで、dsはプラスとマイナスの両方の符号の場合があり得ます。これは図形的には、実は単純な話です。面積要素ベクトルがz軸のプラス方向側に向いていればそのz成分であるdsの符号もプラスで、逆に面積要素ベクトルがz軸のマイナス方向側に向いていればそのz成分であるdsの符号もマイナスという事になります。

すると、上式ではdsを平方根の外に出す事ができますが、それが式の右辺のプラスマイナスの符号を決める唯一の量になります。よって、面積要素dSの符号はdsによって決定する事になります。式で書けば次のようになります。これで証明完了です。

$$dS=ds_z\sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここでの符号の問題についてはdxとdyを基準に考える事もできます。
外積ベクトル \(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}\) が面積要素ベクトルに等しいと考えると、
そのz成分はds=dxdyー0・0=dxdyで、符号まで一致している事になります。
この時、仮にdxとdyのどちらかがマイナスになると位置関係的にも、
外積ベクトル \(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}\) はz軸のマイナス側を向く事になります。

もともと符号はプラスと考えた dx と dy の符号を入れ替えた場合の3パターン。
片側だけ符号を反転させた場合のみ、外積ベクトルの方向も反転します。
この外積ベクトルが面積要素ベクトルに等しいと考えれば、
面積要素ベクトルの第3成分とdxdyの符号が一致するようになります。

面積要素ベクトルの第1成分と第2成分についての式の証明

次に、面積要素ベクトルの第1成分(x成分)と第2成分についての式も考えます。

それらを表すには外積ベクトルとして成分を計算したほうが簡単で、次のようになります。

$$再度記すと\overrightarrow{a}=\left(dx,0,\frac{\partial z}{\partial x}dx\right),\hspace{15pt}\overrightarrow{b}=\left(0,dy,\frac{\partial z}{\partial x}dy\right)としているので、$$

$$ds_x=0\cdot\frac{\partial z}{\partial y}dy- \frac{\partial z}{\partial x}dx\cdot dy=-dxdy\frac{\partial z}{\partial x}$$

ここで使っている公式は次のものです。 $$\overrightarrow{a}=(a_1,a_2,a_3),\hspace{10pt}\overrightarrow{b}=(b_1,b_2,b_3)\hspace{10pt}のもとで$$ $$\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}=(a_2b_3-a_3b_2,\hspace{5pt}a_3b_1-a_1b_3,\hspace{5pt}a_1b_2-a_2b_1)$$ 外積ベクトルの各成分の絶対値は、2つのベクトルを2辺とする平行四辺形を
yz平面、xz平面、xy平面に射影した領域(それも平行四辺形。この記事内での例では長方形)の面積に等しくなっています。

ここで、先ほどの証明の最後で触れましたが面積要素ベクトルを外積ベクトルとして表した場合には符号まで一致してds=dxdyと表す事ができるので、それをそのまま代入する事ができます。すると次のようになって、示すべき式が得られます。

$$ds_x=-\frac{\partial z}{\partial x}ds_z$$

面積要素ベクトルの第2成分についても同様に、
外積ベクトルの成分として計算すると次のように示すべき式を得ます。

$$ds_y=\frac{\partial z}{\partial x}dx\cdot 0\hspace{3pt} – dx\cdot\frac{\partial z}{\partial y}dy=-dxdy\frac{\partial z}{\partial y}$$

$$よって、ds_y=-\frac{\partial z}{\partial y}ds_z$$

この面積要素の変換公式は、ストークスの定理に対する証明の1つの過程で使用する事ができます。

ベクトルの相等:自由ベクトルと束縛ベクトル…【2つのベクトルが等しいとはどういう事か?】

「同じ向きで同じ大きさのベクトル」を、
「始点を基準とした向き」と「大きさ」を変えずに移動させたベクトルの扱いについて説明します。

一般的に、原則的な扱い方は大体決まっているのですが、
書籍等では少し曖昧に説明されている場合もあるので詳しく説明をします。

ベクトルの相等
・・同じベクトルと異なるベクトルの違いは?

ベクトルの始点と終点を明示した表記方法では、\(\overrightarrow{AB}\) と \(\overrightarrow{BA}\) は異なるベクトルになります。

この事は図形的に見てもそのように言えて、
「大きさは同じ」で「向きが異なる(同一直線上で逆方向)」という異なる2つのベクトルなのです。

さて、ここで問題にしてみたいものがあります。

2つのベクトルが、次のような条件を両方満たす場合です。

  • 「向きと大きさの両方が同じ」
  • 「しかし、始点と終点が異なる」

例えば、平行線の関係にある異なる線上の2つのベクトルで、大きさは同じで向いている方向も同じという場合です。
それらは、異なるベクトルと考えるべきでしょうか?

図形における線分であれば、異なる端点を持つ線分ABと線分CDは、必ず異なるものとして考えます。そうでないと、図形的に正しい議論ができないのです。

ベクトルは「大きさ」と「向き」を持つ量として考えたはずですが、
それらは同じで始点と終点が異なる場合は?

では、ベクトルの場合はどうでしょうか。同様に考えるべきでしょうか?

「2つの異なるベクトルが等しい事」を指して数学ではベクトルの相等と呼ぶ事があります。
ここでは、ベクトルの相等が始点と終点の位置に関係するか?
それともそれらには無関係で向きと大きさだけに依存するものか?
という事を考えています。

実のところ、それに対する答えには2つの立場があって扱いが異なるのです。
ただし数学上の考察を含めて一般的に、何の断りもなければ原則としてどちらの立場で考える事が普通であると言う事はできます。

基本的にはベクトルは「自由ベクトル」

ベクトルの場合は、向きと大きさを持つ「量」として考えている事もあって、
実は「向きと大きさの両方が同じ」であれば、「始点と終点が異なる」場合でも同じベクトルであると考えるのです。
特に断り書きが無ければそれが基本的な考え方になります。
ただしそのように考えるベクトルである事を強調して、特に自由ベクトルと呼ぶ事もあります。

自由ベクトルは、向きと大きさを保ったまま自由に動かす事ができます。
(そのような移動を「平行移動」と言います。)

普通、数学的な考察の中で何のことわりもなく「ベクトル」と言ったらそれは自由ベクトルを指しています。つまり向きと大きさを保ったまま始点と終点を変更しても、移動前と移動後のベクトルは等号で結べるという事です。

自由ベクトルとして考える場合には、ベクトルの相等は向きと大きさにだけ依存し、始点と終点の位置には依存しないと言う事もできます。

ベクトルの相等についての基本的な考え方
  • 原則として、何も断り書きが無ければベクトルは自由ベクトルとして扱う。
  • ベクトルの相等は「向き」と「大きさ」だけで決まり、
    始点(および終点)が異なっていても同一のベクトルとみなし、等号で結ぶ事ができる。

例えば「始点が同一である」力ベクトルは合成する事ができて、数式的にはベクトルの合成(足し算と引き算)で考える事になります。すこの時に、片方のベクトルを平行移動させて平行四辺形を作って合成を考えます。つまりその時にはそのベクトルを自由ベクトルとして考えているわけです。

ベクトルの加算で片方のベクトルを平行移動して「平行四辺形」を作る図形的な考察は、ベクトルを自由ベクトルとみなしている場合の代表的な例の1つです。

ベクトルに関して数学的な一般論として考察や計算を考える時には、
基本的にはベクトルは自由ベクトルとして考えます。

始点の位置を問題にする「束縛ベクトル」

それに対して、状況によっては始点が特定の場所に固定されていると考える必要がある場合があります。つまり、始点が異なれば別のベクトルとみなす必要がある場合です。そのように考えるベクトルは、特に束縛ベクトルと呼ばれる事があります。

例えば現実に2本の綱があったとしましょう。
それらを2人の人が引けば2つの力ベクトルを考える事ができます。
しかしそれらの力ベクトルの始点(力の作用点)は異なります。
そういった場合に、仮に2つの力ベクトルを平行移動でぴたりと重ね合わせる事ができたとしても、それらを「同一の力」と評するには違和感があります。
その違和感は、ベクトルの始点が異なっている事に由来するのです。

力が作用している点が異なれば、大きさと始点からの向きが等しいベクトルであっても別々の力であり、同一の力ベクトルとは考えない事が普通です。
そのような場合でも、力ベクトルの大きさに関して F1 = F2 のように書けます。

束縛ベクトルを考える場合には、
必ずしもベクトルの始点が「同一の点」ではなくてもよい事もあります。
例えば「同一の線上」「同一の面上」であればよいとする事もあるのです。

いずれにしても、ベクトルの始点が具体的にどこにあるのか範囲が限定されているベクトルが束縛ベクトルであり、ベクトルの相等が「向き」と「大きさ」と「ベクトルの始点が存在する位置」に依存するわけです。

ただし、考察対象のベクトルが自由ベクトルであるか束縛ベクトルであるかの区別は、数学的というよりは物理的な解釈により判断する事が普通であると思われます。
例えば異なる物体に作用している複数の力ベクトルであれば、「別々の物に加わっている別々の力なのだから、その時点でベクトルを等号としては結べる事はない」と解釈しても何の支障もありません。

具体的な状況下で複数の束縛ベクトルを考えた場合でも、その時に考えている始点を基準にして限られた範囲で自由ベクトルのように考える事ができます。例えば、ある力の作用点に対して重力と摩擦力が働いている場合には、元々ベクトルの始点は同一である事は大前提にしたうえで、ベクトルを平行移動させてベクトルの「平行四辺形」を考えて力ベクトルを合成するといった計算ができます。

自由ベクトルは始点が原点である場合を基準にできる

始点を原点としてベクトルを考える場合にはベクトルは座標で表すか、終点が分かる文字で代表させる表記方法ができます。
この時には始点が皆共通ですから、向きと大きさが一致すれば終点も必ず一致します。

さてそこで、自由ベクトルとして考えているベクトルでは向きと大きさを保てば自由に移動させて構わないので、始点を原点にそろえる事もできるわけです。

この考え方のもとでは、
平面上あるいは空間内の任意のベクトルは座標を使って表す事ができる事になります。

例えば次の2つのベクトルを考えます。

  • 原点を始点とした(1,1)というベクトル
  • (2,1)を始点としてx方向とy方向にそれぞれ1ずつ進み、
    (3,2)に向かうベクトル

これらは、自由ベクトルとしては全く同一のベクトルとしてみなせるのです。

☆ベクトルの減算を使うと、
2番目のベクトルは(3,2)-(2,1)=(1,1)と計算して表す事ができ、
確かに1番目のベクトル(1,1)に一致する事を見れます。

ここでの例で、点(2,1)をAとして、点(3,2)をBとすれば
\(\overrightarrow{AB}=(1,1)\) と書く事ができます。

つまりベクトルを自由ベクトルとして考える前提のもとでは、
\(\overrightarrow{AB}\) のような始点と終点を明記した形のベクトルも、
原点を基準とした座標成分による表記方法と、数学的に等号で結べるという事を意味するのです。
この時には、平面上あるいは空間内の具体的な2点間のベクトルである事を明示しつつ、
「向きと大きさは原点を基準とした時の(1,1)というベクトルに等しい」という事を表現しているとも解釈できます。

今回のまとめ
  • 基本的にはベクトルは自由ベクトルとして考えて、
    「向き」と「大きさ」が等しければ、始点の位置によらずに同じベクトルであると考えて等号で結ぶ事ができる。
  • 特に断りが無ければ、数学的な計算や考察ではベクトルは自由ベクトルであると考える。
  • ただし物理学等での個別の考察を行っている時には、
    始点が限定された範囲内にないと、向きと大きさが等しくても同一のベクトルとはみなせない束縛ベクトルとして実質的に考える事もある。
  • ベクトルが自由ベクトルであれば、
    始点と終点を明記する表記と原点を基準にした表記は同一視する事ができ、
    等号で結ぶ事もできる。

スカラー場に対する線積分【定義と積分の仕方】

線積分という言葉は、ベクトル場に対する接線線積分と、スカラー場に対する線積分の両方に対して使われます。ここでは、スカラー場に対する線積分についての定義と積分の考え方について説明します。

接線線積分と同様に、スカラー場に対する線積分も電磁気学等での理論計算に使われます。

接線線積分の内積計算を行う過程で、
座標変数であるx、y、zを積分変数とする線積分を考える事もあります。

基本的な考え方

スカラー場 f(x, y, z) に対する「線積分」の基本的な考え方は、次のようになります。

基本的な考え方:スカラー場に対する「線積分」
  • 積分の対象となる関数がスカラー場(座標成分を変数とするスカラー関数)
  • 積分範囲が平面上または空間内の曲線上の経路

積分経路の表記は、ベクトル場に対する接線線積分と同じで、曲線上の2点PとQを決めてPQと書いたり、経路をCなどの名称で表したりします。(その書き方は、積分変数が座標変数が弧長の場合でも座標変数の場合でも、どちらでも同じです。) $$積分変数が弧長の場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$ $$積分変数がxの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$ $$積分変数がyの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dy$$ $$積分変数がzの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dz$$

積分変数となる変数は弧長(曲線の長さ)であるとする場合と、
x,y,zの座標成分である場合があります。
どちらの場合でも線積分という語が使われる事が一般的です。
ただし、後述しますように両者で積分方向と積分の符号に関する規定に相違点があります。

積分対象の関数がスカラー場の場合には、
積分変数が弧長の場合と、座標変数x,y,zの場合の両方に対して「線積分」が定義できます。

積分変数が弧長の場合

積分変数が弧長である場合には、積分経路が曲線上の点Pから点Qまでの経路である時に、点Pにおいて弧長が0、点Qにおいてある長さLであるとして積分を行います。

弧長とは「曲線の長さ」の事です。基本的に、折れ線で近似した時の極限値を指しています。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x,y,z)dl$$

ただし、右辺のように表して具体的に原始関数を探して計算するといった場合には、後述するようにスカラー場は \(l\) の関数の形になっている必要があります。

弧長を表す文字としては、sやtが使われる事もあります。

弧長(曲線の長さ)を積分変数として線積分を考える事ができます。
折れ線で近似をして合計し、極限を考えて積分するという考え方です。

この時に弧長は点Pから測って決めているので、
同じスカラー場に対して点Pからではなくて
「点Qから線積分を行う場合」には、積分全体の符号が変わります。
積分の向きと積分全体の符号の関係の考え方は、接線線積分の場合と同様になっています。

$$\int_{QP}f(x,y,z)dl=\int_L^0A(x,y,z)dl=-\int_0^Lf(x,y,z)dl=-\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$

このように書けるわけですが、
線積分を具体的な定積分として計算する場合にはx、y、zが弧長を変数とした関数で表されている事が必要な場合が多いです。
すなわち、指定された曲線上の経路では特定の点からの弧長によって点が一意に確定するわけですから、具体的に容易に書けるかは別問題として、理論上は座標変数を弧長の1変数関数として表せるはずであるという事です。

$$x=x(l), \hspace{5pt}y=y(l),\hspace{5pt}z=z(l)\hspace{5pt}であれば$$

$$f(x,y,z)=f(x(l),y(l),z(l))となり、$$

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x(l),y(l),z(l))dlとして計算可能になる場合もあります。$$

積分変数が座標変数の場合

積分変数が座標変数x、y、zの場合でも、曲線を経路とする積分を指して「線積分」と呼びます。
この場合には、弧長を変数とする場合やベクトル場に対する接線線積分とは少し考え方が変わります。

まず、積分変数がxの場合を考えてみます。yやzに対しても考え方は同じです。

積分の元々の和としての定義を考えてみると、積分変数をxとするという事は「対象となる関数の値と分割された区間の長さΔxとの積」を合計して極限値をとるはずであり、実際その場合の線積分もそのように定義されるのです。

つまり、曲線上の各点において「曲線の分割された(微小な)経路分のx軸への射影」を考えてスカラー場との積を合計して積分するといった形になります。

$$積分変数がxの場合の線積分の表記:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$

ただし、具体的にxに関する原始関数を探して定積分したい場合には、yとzがxだけの関数で表されている必要があります。

$$具体的な計算をするには、y=y(x),\hspace{5pt}z=z(x)\hspace{5pt}として表されて、$$

$$\int_{PQ}f(x,y(x),z(x))dxの形にする必要があります。$$

◆特定の曲線上の点という条件がある事によって、このようなxだけで表されるy=y(x),z=z(x)のような関数は必ず、存在はします。ただし、そのような関数が簡単な形で書けるかどうかは別の問題になります。特定の曲線上の点を考えるという条件のもとで、x、y、zは独立な変数ではなく、互いに従属の関係にあります。

この時に、曲線の形状によっては単純に1つの積分区間でのxによる定積分としては書けない場合があり、積分をいくつかに分割する必要がある場合があります。

例えば円等の閉曲線では、ある所まではxが増加するように曲線が進んでいき、あるところで逆にxが減少する方向に曲がる事になります。xが減少する方向に積分していく場合には積分の符号も逆向きになりますが、それは通常の1変数の定積分の考え方で符号を考えればよい事になります。

その場合には例えばPQの間にいくつかの適切な点、
例えばAやBを決めて次のように積分を分割します。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PA}f(x,y,z)dx+\int_{AB}f(x,y,z)dx+\int_{BQ}f(x,y,z)dx$$

この時に、例えばP→Aまではxが増加する方向で、A→Bはxが減少する方向、B→Qで再びxが増加する方向であるなら、yとzがxの関数として表されている前提で、各点のx座標を使って線積分は次のようにも書けます。

積分変数をx、y、z等の座標変数とする場合で具体的な定積分をしようとする時には、
積分する向きと符号に気を付ける必要がある場合もあります。

具体例としてPのx座標が0、Aのx座標が3、Bのx座標が1、Qのx座標が5である場合で線積分を書いてみます。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_0^3f(x,y,z)dx+\int_3^1f(x,y,z)dx+\int_1^5f(x,y,z)dx$$

この例の右辺の2項目の定積分は、通常のxが増える方向へのx=1からx=3までの定積分とは符号が逆向きになっているわけです。

$$\int_3^1f(x)dx=-\int_1^3f(x)dx\hspace{5pt}です。$$

これらの符号の扱いについては、分割された区間の(微小な)長さΔxについて、プラスとマイナスの符号を持っていると解釈して定義しておく方法も存在します。

弧長と座標成分の、余弦を使った積分変数の変換

曲線上で積分する方向(弧長が0から何かの値Lまで伸びる方向)を決めたうえで、
「曲線上の各点の接線ベクトルと座標軸のなす角\(\theta\)」の余弦を考えると、
弧長と座標変数との関係を余弦で結ぶ事ができます。

$$角度を\theta として、例えばdx=ds\cos\theta$$

考えているこの角度\(\theta\)は一般的に当然一定値ではなくて曲線上の位置によって異なりますから、
それを明確にするなら例えば \(\theta (l)\) のように書くことになります。

このような考え方は、
積分変数を「座標成分から弧長に変換する」ような場合に使う事になります。

$$例えば、\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PQ}f(x,y,z)\cos(\theta (l))ds$$

この時に、xで線積分するのであれば、曲線の形状によっては
通常のxが増加する向きでの積分に対して符号を入れ替える必要も出てくるわけですが、
弧長を積分変数とする場合には、
点P→点Qに向かう経路である限り一貫して弧長が増加していく方向で積分が行われます。
そこで、上記の余弦を乗じる事によって符号も一致するように調整されるという事になるわけです。

x、y、zを積分変数とするスカラー場に対する線積分は、ベクトル場に対する接線線積分のように内積を計算する事はありませんが、弧長を変数とする場合のスカラー場の線積分からの変換と考える場合には分割した積分の符号の扱いに関しては内積の符号の扱いと同じ考え方をしています。

接線ベクトルと軸のなす角を使った余弦 cos Θによって、
積分変数としての弧長と座標変数の関係を考える事もできます。
この時の余弦の取り方は、内積の計算に似ています。
この考え方のもとでスカラー場に対する2つの線積分の定義の、積分の符号の考え方の整合性が取れます。

ベクトルとスカラー

矢印で表される「ベクトル」と通常の数(スカラー)との違いについて説明します。

■関連サイト内記事(ベクトルに関する記事)

■物理学へのベクトルの応用
これらの他にも、力学・電磁気学等でベクトルによる考え方は多く使えます。

べクトルの考え方とイメージ

基本的には、ベクトルとは「方向」と「大きさ」の2つの合わせ持つ量として考えられます。通常の正の実数や自然数などは「大きさ」しか持ちません。

◆プラスとマイナスを「互いに逆の方向」とみなせば通常の実数等も「互いに逆向きの2つの方向」を持っているとも言えますが、ベクトルは平面や空間のあらゆる向きの方向を考えます。

イメージとしては、平面上の線分が向きを持っているという感じです。
(空間内の線分でも同じです。平面上のベクトルを特に平面ベクトル、空間内のベクトルを特に空間ベクトルと呼ぶ事もあります。数学的には、より「次元の高い」ベクトルも定義できます。)

平面に点Aと点Bを結ぶ線分があった時、その線分は長さ(大きさ)を持ちます。その線分に対して、「AからBに向かうのか」「BからAに向かうのか」という事も決めたものが「ベクトル」であるというのが基本的なイメージです。

ベクトルは図形的に見れば点と点をつなぐ「矢印」として表されます。
この図では空間ベクトルの色々な表記法・計算などを図示しています。
ベクトルの矢印の始まりの点を「始点」、矢印の先端の点を「終点」と言います。ベクトルは、座標の成分でも表す事ができます。数学的には、座標成分で表す方法のほうが色々な計算で便利です。ただし、物理でベクトルを用いる場合は、図形的な考察も重要となる場合があります。

この考え方は、例えば力学の「速度ベクトル」で使います。

例えば点Aから点Bの間で物体が移動しているという時に、
「AからBに向かっているのか」「BからAに向かっているのか」で、運動の性質は当然異なります。
それを数式としてはベクトルで表現するのです。

◆より詳細に言うと、
ベクトルとは「向きと大きさを持ち、加算、減算、定数倍、内積といった演算が定義できる」ものである事も重要です。それらの演算もまた、物理学等への応用でも使います。

動画声優担当ステ♪様 http://sute.tabigeinin.com/
BGM:音楽の卵

ベクトルの表記方法

ベクトルの表記方法はいくつかあります。

図形的に矢印で図示する方法、平面上または空間内の点を使って表す方法、原点を基準にした座標で表現する方法、などがあります。

①図形的に矢印で図示する方法
(始点と終点を明記する方法)

ベクトルは図形的に図示して表現する事ができます。この場合には、方向を持つ事を明確にするために、ただの線では無く「矢印」を用いるのが通例です。

この時には、向きが例えば「点Aから点B」の場合には矢印の先(矢の部分)を点Bの部分に書きます。

逆に、「点Bから点A」の向きであれば、
大きさは同じで逆向きのベクトルという意味で矢印の先を点Aに書くわけです。

点Aと点Bのどちらを始点に選ぶかで、異なるベクトルになります。

「点Xから点Y」に向かうベクトルがある時(この時に大きさも確定していますが)、
点Xをベクトルの始点、点Yをベクトルの終点と言う場合があります。

平面上だけでなく、空間内でも考える事ができます。

②平面上または空間内の点を使って表す方法

平面上または空間内において、原点Oから点Aへの向きと大きさを持つベクトルを、$$\overrightarrow{OA}$$と書く表記方法があります。

線分OA の上に「矢印」をつけるわけです。
点Oから点Aに向かう「方向付きの線分」ですよ、という意味合いです。

また、原点を基準とする事が明らかである場合は、次のようにも書きます。 $$\overrightarrow{a}$$
この場合には、点Pや点Qといった点の名称を使うよりは、何か適当な小文字(a, b, p, q, x, y, ・・・)を使う事が比較的多いように思います。

普通は \(\overrightarrow{OA}に対して\overrightarrow{a}、\overrightarrow{OB}に対して\overrightarrow{b}\) のようにアルファベットを対応させますが、これはあくまで分かり易くするためです。
「このベクトルをこの文字で表す」と明示しておけば、対応させなくても間違いではありません。

原点を基準としないベクトルも考える事ができます。
例えば、点Aから点Bに向かうベクトルは\(\overrightarrow{AB}\)と書くことができ、
逆に、点Bから点Aに向かうベクトルは\(\overrightarrow{BA}\)と書くことができます。

◆ベクトルに定数倍(スカラー倍)、加算、減算などの演算を定義すると、$$\overrightarrow{AB} =-\overrightarrow{BA}$$ という関係式が必ず成立します。(※厳密には、演算の定義が無いとマイナスの符号をつけるといった事自体に数学的な意味が発生しない事には注意。)この関係は、次に見る座標によるベクトルの表現を見る事でもイメージしやすくなります。

③座標を使った表記方法

直交座標上の原点(0, 0)を基準とする事を前提に、ベクトルを座標で表す方法があります。

この場合、「原点から特定の点まで」という「大きさ」と「方向」を定めているわけです。

例えば(1, 1)という座標は平面の直交座標において
「斜め右上45°方向の大きさ \(\sqrt{2}\) 」というベクトルを表す事ができるのです。

このようにベクトルを座標で表したとき、通常の座標のようにx成分、y成分といった言葉を使います。「あるベクトルのx成分、y成分はともに1」といった具合です。

原点を始点にするという前提で、ベクトルを座標で表す事ができます。

この方法でベクトルを考えると、(1,1) というベクトルと( -1, -1) というベクトルは、大きさは同じで向きは逆向きである事がわかります。(図示でも、計算でも示せます。)

一般的に(x,y)(-x,-y)という2つのベクトルは
同じ大きさで逆向き」のベクトルです。
【例外は図形的な意味では向きが無いゼロベクトル (0,0)】

「逆向き」である事を、ベクトルにおいてもマイナス符号で表現します。
例えば\(\overrightarrow{A}=(x,y)\) であるなら、\(-\overrightarrow{A}=(-x,-y)\) です。
これは、1つのベクトルに対して
-1というスカラーを乗じたと考えても同じ事です。
【この計算はゼロベクトル (0,0)に対しても統一的に行う事ができます。】

なお、ベクトルの大きさを計算する方法は座標上の2点間距離を計算する方法と同じであり、三平方の定理を使います。

ベクトルを、始点と終点を明記して矢印で表す表記と、原点を基準にして座標で表す表記は、実は原則としては「向き」と「大きさ」を表現する方法としては同一視できるものです。ただし、ベクトルをどういうものとして考えるかの前提が必要にもなります。
■参考サイト内記事:ベクトルの相等:自由ベクトルと束縛ベクトル

④ボールド体表記(主に書籍等で使用)

通常の文字 a, b, x 等に対して、それらを「ボールド体」a, b, x 表記にする事でベクトルを表す場合もあります。

この表記は書籍では多用されますが、慣れてないと通常のスカラー変数なのかベクトルなのか、紛らわしいかもしれません。
ウェブ上だとさらに分かりにくい事があるので、
当サイトでは敢えてベクトルは全て「矢印」の表記にしています。

  • 矢印表記:\(\overrightarrow{a} \)
  • ボールド体表記 a・・これでベクトルを表す (通常の表記 a )
    ボールド体表記は、当サイトではベクトルの表記としては使用しません。

スカラーとは?ベクトルとの違い

ある量がベクトルであるか通常の数であるのか区別が必要な時には、
ベクトルに対して通常の数(実数など)をスカラーと呼びます。
(※言葉としては「ベクトル量」「スカラー量」といった言い方もします。それぞれ、「ベクトル」「スカラー」と同じです。)

また、対象が関数である場合にはベクトル関数スカラー関数と呼んで区別もします。変数、定数といった語にも同様にベクトル・スカラーの名称をつけて呼ぶ事があります。

\(F(x), x, a\)スカラー関数
スカラー変数
スカラー定数
\(\overrightarrow{F}(x),\overrightarrow{x},\overrightarrow{a}\)ベクトル関数
ベクトル変数
ベクトル定数(定ベクトル
ベクトル関数のうち、座標変数x,y,zを変数とするスカラー関数を
「成分として」持つものを特に「ベクトル場」と呼ぶ事もあります。

ベクトル変数については、例えばスカラー関数をf\((\overrightarrow{x})\) のように表す事もあります。これはx,y,zの座標によって関数の値が定まるという意味なので3変数のスカラー関数f(x,y,z)として扱っても同じものを表します。

定ベクトルのうち、(0,0)を表すベクトルは
特にゼロベクトルと呼んで\(\overrightarrow{0}\)と表記する事もあります。
ただしこのサイトでは表記の簡略化のため、
ゼロベクトルはスカラー同様に0として表記をします

ゼロベクトルは、図形上は向きがどこに向いているというわけでもなく、大きさも0であるベクトルという事になります。

ベクトル関数については座標成分で表す表記が分かりやすいかと思われます。
例えば変数xに対するてきとうな(x+1, x2)といったベクトルを考えると、このベクトルはxの値によってただ1つ定まります。そのようなベクトルをベクトル関数と呼ぶわけです。

いずれの場合も、「スカラー」という語を使う時には
「ベクトルではなくスカラー」という意味合いが強いです。
言い換えると、ベクトルを使わない議論をしている時にスカラーという語を敢えて使う事は少ないと言えます。

ベクトルには通常の数つまりスカラーを掛け算する事ができ、それは図形的にはベクトルの大きさだけを変化させる操作です。その事をベクトルの定数倍、あるいはスカラー倍とも言います。

$$ベクトルのスカラー倍:例えば\hspace{5pt}2\overrightarrow{AB},\hspace{5pt}-4\overrightarrow{AB},\hspace{5pt}\sqrt{3}\overrightarrow{AB}$$

関数の場合、「多変数のスカラー関数」と、ベクトル関数の違いに注意。
ベクトル関数にも1変数のもの、多変数のものがあります。
関数と区別する場合、成分が定数で構成されるベクトルを特に「定ベクトル」と呼ぶ事があります。

物理学等への応用も含めて、ベクトルに関して成立する定理、スカラー関数に関して言及している関係式などがあります。演算を組み合わせてベクトルとスカラーの関係が混じる事もあります。そういった時に、問題にしている対象がベクトルなのか「通常の実数等=スカラー」なのかが数学的な議論の際に重要となるのです。

例として、ベクトルに対して「内積」という演算をすると通常の数、つまりスカラーになります。

逆に、微積分も含んだ込み入った例ですが3変数のスカラー関数に対して「勾配」という演算をするとベクトル関数になります。

参考までにそのような「ベクトルなのかスカラーなのか」が特に重要になるものをいくつか整理して列挙すると次のようになります。

数学的・物理的な量表記ベクトルか
スカラーか
定義の対象
内積(スカラー積)\(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\)スカラー2つのベクトル
外積(ベクトル積)\(\overrightarrow{A}\times\overrightarrow{B}\)ベクトル2つ以上の
ベクトル
勾配
(グレーディエント)
\(\mathrm{grad}\varphi\)
\(\nabla\varphi\)
ベクトル3変数の
スカラー関数
発散
(ダイバージェンス)
\(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\)
\(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\)
スカラー1つのベクトル
※収束に対する
発散とは別物です。
回転
(ローテーション)
\(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\)
\(\nabla\times\overrightarrow{A}\)
ベクトル1つのベクトル
∇の記号はナブラと言って、表記法は内積と外積の計算規則に関連付けられています。

ガウスの積分【閉曲面に対する立体角の積分表示】

位置ベクトル\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)をベクトルの大きさrで割る事により
単位ベクトル(大きさが1のベクトルを言います)にすると\(\overrightarrow{r}\)/rというベクトルとして書けます。

ベクトル\(\overrightarrow{r}\)/rをさらにrで割ったベクトルを考えると
\(\overrightarrow{r}\)/(r)というベクトルになり、
このベクトルに対する閉曲面上の法線面積分の事をガウスの積分と呼ぶ事があります。
この積分は、閉曲面の形状によらずに閉曲面に対する原点の位置によって3種類の値だけをとります。
また、ガウスの積分は閉曲面に対する立体角の積分表示ともなっています。

ガウスの積分の被積分関数に入っている「距離の3乗」は、見かけ上のものであり、本質的には「距離の2乗」に大きさが反比例するベクトルである事が重要となっています。ただし、具体的な計算では「3乗」の部分が結果に影響してくる部分はあります。

■関連サイト内記事:

立体角の積分表示および球面との関係

立体角は平面角に対応する語で3次元空間的な広がりを表す量で、球の表面積を使って定義されますがその積分の形がガウスの積分と同じものになります。(ただし、ガウスの積分は閉曲面に対する積分を指し、立体角の積分表示は同じ被積分関数に対して開曲面にでも定義されます。)

ではガウスの積分も球の表面積に関連するものなのかというと実際そうであり、
後述するようにガウスの積分が取り得る値は0,2π,4πだけとなっています。
つまり積分の結果は円周率の定数倍の値だけをとるという結果です。
これらの結果は偶然にもそうなるというだけでなく、
円や球に由来して2πや4πといった数値が結果として導出されます。

その結果は物理的な考察にも使用される事があります。
ガウスの積分の被積分関数は\(\overrightarrow{r}\)/(r)ですが、これは大きさが「rに半比例する」ベクトルであり、向きは原点からある点までの向きそのものとなっています。そのようなベクトルは物理的な力や場を表すものとして存在し、具体的には静電気力や万有引力、一部の磁気力などが挙げられます。代表的なものは電場に関するガウスの法則であると言えます。

そして物理での考察で使用する時にも「球面」は重要な要素となります。

立体角とガウスの積分の関係。当サイト記事「立体角の定義と使われ方」より

ガウスの積分の内容

ガウスの積分とは具体的には次のようなものです。

ガウスの積分

\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\)および
\(r=|\overrightarrow{r}|=\sqrt{x^2+y^2+z^2}\) のもとで、
閉曲面Sに対する次の法線面積分をガウスの積分と呼びます。 $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

この時に閉曲面Sは任意の形状ですが、
どのような閉曲面に対してでも、ガウスの積分が取り得る値は3つしかない
事が知られています。

(公式)ガウスの積分の3種類の値

原点と閉曲面の位置関係によって結果が分かれます。

  1. 原点が閉曲面Sの「外側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$
  2. 原点が閉曲面Sの「曲面上」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$
  3. 原点が閉曲面Sの「内側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

2番目(閉曲面上)の式は極限値として考える必要があり、
3番目の式もそのように考える事もできます。

物理学では値が無限大になってしまう点を特別扱いできるデルタ関数を使ってガウスの積分により表現される内容を表す事もあります。
あるいはガウスの積分は閉曲面に対しての立体角と同一視できるので立体角の文脈で話を進める事もあります。

ガウスの積分の計算および証明

次の3つの場合分けがあります。

この証明にはガウスの発散定理の結果と、ベクトル場に関する発散(div)の計算を使います。

ここで言う「発散」とは極限における「収束と無限大への発散」の意味ではなく、物理的には「湧き出し」の意味を持ち数式的には偏微分で定義されるスカラー量を作る演算およびその結果を指します。

①原点が閉曲面の「外側」にある場合

対象のベクトル場の発散 \(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)を直接計算すると、
実は必ず0になるという結果が得られます。

$$公式:\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{ r^3}\right)=0$$

この式は、より一般的な公式である\(\mathrm{div}\left(r^n\overrightarrow{r}\right)=(n+3)r^n\) の結果でもあります。
すなわち、n=3の時は結果が0となるわけで、div\(\overrightarrow{r}\)/(r)を表しています。

次に、ガウスの発散定理によればベクトル場の法線面積分は
ベクトル場の発散を被積分関数とした体積積分」によって表せます。
ここで\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)の体積積分を考えるとすれば
被積分関数が定数関数でしかも値は0」なので、考えている領域での積分の結果も0です。

ただし、\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できない関数である事に注意する必要もあります。

しかしまずは「原点が閉曲面の外側にある場合」を考えているので、
この場合には閉曲面の領域に定義できない点は含まれません。

そのため、発散定理により次のように書けます。

$$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv【∵ガウスの発散定理】$$

$$=\int_V\hspace{3pt}0\hspace{3pt}dv=0$$

参考:公式の導出計算

②原点が閉曲面の「曲面上」にある場合

原点が閉曲面上にある場合でも、
ベクトル場の発散 div \(\overrightarrow{r}\)/(r)を計算すると0になるという事は同じです。

しかし\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できず、かつ原点が考えている閉曲面上にある場合には
積分したい領域内で被積分関数が定義できない点を含む
という事を意味します。

従って法線面積分を考える閉曲面Sについて、通常の閉曲面とは違うものを考える必要があります。

具体的には、閉曲面から原点を除いたものを領域として考える必要があります。
ただし、1点だけを除くという考え方だと積分の計算がうまくいかないので、もとの閉曲面から原点付近のわずかな領域を除いた部分を改めて閉曲面Sとします。
さらにこの場合では、原点を含む「面だけ除く」事もできないので
体積を持った領域ごと除く事になります。

そして、除く領域の形状は「半球」とする必要があります。これには理由が2つあります。

取り除く領域を「球状」にする理由
  1. 球面であれば曲面に対する法線とベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の方向が平行になるので、法線面積分を直接計算できる利点があります。
  2. 発散定理により領域内でベクトル場の発散が0であれば「1つの閉曲面を構成する2つの開曲面の法線面積分はそれぞれ等しい事」が示されます。そのため、一番計算しやすい領域で計算すれば十分という事になるので球面を考えます。

上手にきれいな半球を繰り抜けるかどうかは、閉曲面を多面体に近似することで可能になります。法線面積分が成立するの十分細かい分割の多面体で考えた時に、平面状の微小領域よりも半径が小さい球を考えればそこで半球状にくり抜く事ができます。

原点を中心とする微小な半径ρの半球Sを考えて、Sは外縁となっている円周部分(球を2つに割った所の部分)を閉曲面Sと共有するとします。
また、閉曲面S上から半球Sで囲まれる領域を除いた部分をSとします。この時に曲面Sは開曲面であり、閉曲面Sに「穴」が開いて形状をしています。

ここで半球Sと開曲面Sを合わせた領域は「原点が外部にある閉曲面」となっています。(もとの閉曲面Sと同一ではありません。)そこで半球Sと開曲面Sを合わせた閉曲面をS∪ Sとおきます。【「∪」は和集合の記号です。】
この時に、原点を除いて\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)であり、S∪ Sは原点を含まない事から発散定理を適用すると法線面積分の値は0です。S∪ Sの内部の領域をVとして、次の計算ができます。

$$\int_{S1\hspace{1pt}U\hspace{1pt}S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{V1}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

つまり半球Sの法線面積分と開曲面Sの法線面積分の値は一致します。
そして結論から言うと半球S0のほうの積分の値は具体的に計算できます。

半球Sは原点を中心とした半径ρの半球なので、
S上でベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の大きさはどこの点でも等しく1/(ρ)です。
方向については各点で球面に垂直で外側向きなので法線との内積は1となり、
法線面積分は定数関数に対する面積分となります。

この時には面積要素を分割して合計して定数倍を考える事になりますが、面積要素を十分細かい分割のもとで合計した極限値は「表面積」に他ならないので面積分は表面積の計算を意味します。

すると考えている領域が半球なので、その表面積は\(2\pi\rho^2\)です。
これによって法線面積分の結果を出せる事になります。

$$\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{1}{\rho^2}\int_{S0}ds=\frac{1}{\rho^2}\cdot 2\pi\rho^2=2\pi$$

結果を見ると「半径ρ」が消えているので、
実は半径の大きさに関わらず積分の値は一定であるという事になります。

そのため、穴の開いた開曲面Sの法線面積分は
半球S0の法線面積分に等しいという事だったので次のように表せます。

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

半球Sの法線面積分の値は半径ρによらず同じなので、
上式はρ→0の極限でも成立して次のように書けます。

の法線面線積分の符号を変えているのは
「原点を中心に半球を単独で考察した時」と閉曲面Sを構成する時とで
考えた時の「外側への向き」が逆になるためです。
結果的に引き算する形となります。

$$\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

他方でもとの閉曲面Sに対する法線面積分を
穴が開いた曲面Sの法線面積分に対して半球Sの半径が0になる極限値で表すもの
とすると次のようになります。

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

よって、原点が閉曲面上にある場合のガウス積分値は2πであるという事が言えます。

考えてきた閉曲面を整理すると次のようになります。

曲面原点との位置関係積分計算での意味
S閉曲面
原点が閉曲面上にある
被蹟分関数が定義できない点を含むので
積分はそこを除外して極限値として計算
S開曲面で、原点を内部に含む。
(中心が原点で半径ρ)
法線面積分の値は2πで、
半径ρに関わらず同一の値
S開曲面で穴が開いているSからSの内部を除いた領域
Sの法線面積分はSの半径ρ→0の極限で
Sの法線面積分になると考える

③原点が閉曲面の「内側」にある場合

閉曲面の内部に原点がある場合にも、閉曲面上に原点がある場合と同じ問題が発生します。ただしこの場合は閉曲面内部で体積積分を行う時に除いて考えるべき点が生じる事になります。

閉曲面Sの内部から「原点を囲む微小な球をくり抜いて除いた」領域を考えます。

ガウスの積分において原点で領域を定義できないので、
原点を含む領域を球状に除いて、球の半径を0に近づけた時の極限値として
ガウスの積分の値を計算します。

原点が閉曲面上にある時と類似の計算により、
閉曲面の内部から除いた球面上での法線面積分は球の半径ρにかかわらず一定値になります。
球の表面積4πρをρで割る計算となり、結果は\(4\pi\)です。

より具体的には閉曲面Sと、その内部で原点を中心とする小さい半径ρの球S0を考えてSとSを接続するてきとうな曲面を考えます。(その曲面上では法線面積分は表と裏の両方で計算する事になり、プラスとマイナスの値が打ち消して0になります。)そのようにしてできる全体の閉曲面をSUとします。

この閉曲面SUは原点を含まない閉曲面であり、
内部の領域VUにおける任意の点で\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)なので発散定理により法線面積分の値は0です。

よって表と裏の関係による符号に注意して、
閉曲面Sと球S0の法線面積分の値は同じです。この場合は球Sの半径ρ→0の極限を考えなくても結果の式が出ますが極限を考えても値は同じになります。(内部の領域まで元の領域に近付けるなら極限を考える必要があります。)

$$\int_{SU}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{VU}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

$$(任意の\rho で)\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi なので、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

球面Sの法線面積分は球の外側を表としていて、それは閉曲面SUから見ると裏側になるので閉曲面SUの法線面積分の構成要素としては球面Sの法線面積分はマイナス符号をつける事になります。

計算の導出過程を見ると、原点が「閉曲面内にある時」と「閉曲面上にある時」のガウスの積分の値の2倍の差は「球」と「半球」の表面積の違いを意味しているという考察もできます。

原点と閉曲面の位置関係ガウスの積分の値くり抜いて除外する領域の形状
閉曲面の外側特に無し
閉曲面上\(2\pi\)半球
閉曲面の内側\(4\pi\)