ベクトルの内積

ベクトルの内積についての説明をします。

内積の定義には2通りの方法がありますが、
計算によって2つの定義は同等のものである事を証明できます。

☆参考:ベクトルとスカラー(初歩的なベクトルの考え方や表記方法など)

ベクトルは大きさと向きを持った量であり、加算、減算、定数倍、内積
の演算が定義されます。

内積の定義①:成分を使う定義

ベクトルに対して定義される重要な計算規則として、「内積」があります。

これは「2つのベクトルの各成分同士の積を加え合わせる」という演算です。
数学的には何次元のベクトルでも定義する事ができます。

ベクトルの成分はスカラーですから、成分同士の積を合計するともちろんスカラーです。
つまり、ベクトルの内積の計算結果は必ずスカラーになります。

この内積の計算は物理学への応用で重要です。 具体的には、仕事とエネルギーという、物理や工学の基礎となる理論の形成に用います。ベクトルの微積分にも直接関係します。また、電磁気学等でも使う接線線積分、法線面積分の定義にも直接的に関わるものになります。

ベクトルの内積の定義 2つのベクトルの「『各成分の積』の和」を内積と言います。
記号は、「・(ドット)」を用いて、\(\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}\) のように書きます。 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2 $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3 $$ $$n次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3+a_4b_4+\cdots+a_nb_n $$ $$=\sum_{j=1}^n a_jb_j$$ ★ 上述の通り、ベクトルの内積は、スカラー量です。つまり通常の実数などの値になります。
★ ベクトルの内積は、必ず2つのベクトルについて計算されるもので、3つ以上のベクトルの内積というのは考えません。
★ 数学的には、じつは内積はもっと抽象的ないくつかの演算条件を満たす計算であると定義されますが、このページの内容にはあまり関係ないので記載は省略します。
内積は、「2つ」のベクトルに対して定義される演算です。
3つ以上のベクトルに対する内積といものは定義されません。
その理由は、2つのベクトルの内積はスカラーである事にもよります。

内積の計算を行う事を、習慣的に「内積をとる」という表現で表す事も多いです。

内積は必ず2つのベクトルに対して考えるものですが、内積自体は「スカラー量」であるという事は、理論が色々と複雑になってくる時に重要になってきます。

内積の定義②:余弦(cosΘ)を使う定義

さて2次元の平面ベクトルや3次元の空間ベクトルの場合、
じつは余弦定理を使う事によって内積は図形的な意味も持つようになります。
物理では、こちらの形式での内積の表現も結構重要です。

具体的には、2つのベクトルの内積は「2つのベクトルの大きさと『なす角の余弦(cosΘ)』の積」に必ず等しくなります。
こちらのほうを内積の定義とする場合もあります。

平面や空間において、物理で内積が重要になるのは、この図形的な意味によるところが大きい場合が多いのです。

ベクトルの内積の別の表現 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ ★ n次元の場合でも新たに「角度」とその余弦を(半ば無理やりに)定義すれば数学的には一応同じ事が言えます。
ベクトルの内積の表し方は2つの方法がありますが、物理で使う時は両方の表し方が重要です。平面や空間での図形的な考察をする時は余弦 cosθ を用いる表し方が重要であり、式変形や計算を進める時は成分による表し方を用いる事が多いです。
力学における「仕事とエネルギー」の関係は、内積とベクトルの微積分によって導出されます。

2つの定義が同等である事の証明

ベクトルの内積の定義には上述のように2通りあるわけですが、これらは数学的に同等のものです。すなわち、どちらで計算したとしても全く同じ値になります。
(ただし次元の数が4以上の場合は、余弦を改めて定義しなければいけません。)

2つの定義が同等のものであるという事は、もちろん自明ではありません。
証明が必要です。

しかしその証明は難しくなく、
余弦定理を使って余弦を成分で表し、丁寧に計算すると示せます。

☆余弦定理は、鋭角・鈍角三角形の辺の長さの関係を三平方の定理によって表現する事で得ます。
参考:直角三角形の辺の比の関係・・・余弦 cosΘについての初歩的な解説があります。

\(|\overrightarrow{A}-\overrightarrow{B}|=c\)とします。
これは2つのベクトルが作る三角形の斜辺です。
余弦定理(任意の角度で成立)により、
$$c^2=|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-2|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta$$ $$\Leftrightarrow |\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta=\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ ですので、余弦を使った定義による内積は次のように表せるわけです。 $$\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B} =|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta =\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ $$=\frac{1}{2}\left\{(a_1^2+a_2^2+a_3^2)+(b_1^2+b_2^2+b_3^2)-(a_1-b_1)^2-(a_2-b_2)^2-(a_3-b_3)^2\right\}$$ $$=\frac{1}{2}(2a_1b_1+2a_2b_2+2a_3b_3)=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3【証明終わり】$$ 途中で成分がたくさん出てきますが、2乗の項は+-を差し引いて全て消えてしまうので、成分同士を乗じたものの和になるという結果が得られるわけです。

補足:内積に対して「外積」とは?

補足として、ベクトルの外積についてここで定義だけ簡単に記します。

内積と同様に、ベクトル同士に対して定義される計算規則ですが、外積は3次元の空間ベクトルのみに対して定義されます。そこが内積と異なる点です。ベクトル積、クロス積などとも言います。

外積は物理での応用で重要です。角運動量を論じる時や、電磁気学などで用いたりします。3次元的な直交する方向同士の関係を適切に表すために有効な計算方法です。

2つのベクトル\(\overrightarrow{A},\overrightarrow{B}\) の外積 \(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B}\) は、次のような3次元空間のベクトルとして定義されます。

  • 大きさは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) が作る「平行四辺形の面積」 (※平行四辺形の面積をベクトルで表す公式があり、内積の計算も関係します。)
  • 向きは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) の両方に垂直で、\(\overrightarrow{A}から\overrightarrow{B}\)に(180°以下の角度の方向に)向かって右ねじを回した時に、ねじ回しが向いている方向

外積の「向き」については、文章だとちょっと分かりにくいと思いますが、要は、1つの平面に対して垂直な向きは2方向考えられるのですが、そのうちの1方向だけを必ず指定できるようにするためにこのような定義をしています。


この外積の考え方は、基本的に高校では使わないと思います。また、物理学を学ぶ時にはベクトルの外積は非常に重要ですが、他の工学等を学ぶ場合にはそれほど重要でないという場合もあります。
これはなぜかというと、物理学で外積を使う主な理由は角運動量や電磁気力の位置関係を3次元的に捉えるのに有効な計算方法であるためで、言い換えるとそれらを扱わない場合にはそれほど多く使う計算ではないとも言えるからです。