ベクトルの微積分と力学での応用

今回は、「ベクトルの微積分」について紹介します。これは物理への応用で重要になる考え方です。

ベクトルを「何のために学ぶのか」という事はよく言われますが、ここでは物理学で使用する観点から、
なぜ・どのように使われるのかを説明します。
ベクトル単独では無く、「ベクトルの微積分」の考え方が重要になります。

「べクトル」って何?

ベクトルの基本事項を、忘れてしまった・教わっていないという場合は、この場で説明いたします。

基本的には、ベクトルとは「方向」と「大きさ」の2つの合わせ持つ量として考えられます。通常の正の実数や自然数などは「大きさ」しか持ちません。
プラスとマイナスを「互いに逆の方向」とみなせば通常の実数等も「互いに逆向きの2つの方向」を持っているとも言えますが、ベクトルは平面や空間のあらゆる向きの方向を考えるわけです。

結論を先に言うと、ベクトルは原点を基準にした座標で表現します。例えば、(1, 1)という座標はベクトルでもあり、平面の直交座標において「斜め右上45°方向の大きさ \(\sqrt{2}\) 」という量を表します。
この時、ベクトルには「いくつかの数の組み合わせ」という意味と、「図形的に方向と大きさを持った量」という両方の意味を同時に持ちます。
図形的に見る場合、方向を持つ事を明確にするために、ただの線では無く「矢印」を用いるのが通例です。

ベクトルは図形的に見れば点と点をつなぐ「矢印」として表されます。ベクトルの矢印の始まりの点を「始点」、矢印の先端の点を「終点」と言います。ベクトルは、座標の成分でも表す事ができます。数学的には、座標成分で表す方法のほうが色々な計算で便利です。ただし、物理でベクトルを用いる場合は、図形的な考察も重要となる場合があります。

原点O(0,0,0)を基準にした時、点A(0,1,1)と点B(-1,-1,0)は、原点から見ると「違う向き」ですね。他方で、原点からの「距離」は等しいですね。(後述しますが、距離は、単純に三平方の定理(ピタゴラスの定理)を用いればよいのです。)

原点を基準にした時、点A(0,1,1)をベクトルと見なす場合は、$$\overrightarrow{OA}$$と書きます。OA の上に「矢印」をつけるわけです。
点Oから点Aに向かう「方向付きの線分」ですよ、というわけです。
また、原点を基準とする事が明らかである場合は、次のようにも書きます。 $$\overrightarrow{a}$$

普通は、\(\overrightarrow{OA}に対して\overrightarrow{a}、\overrightarrow{OB}に対して\overrightarrow{b}\) のようにアルファベットを対応させますが、これは分かり易くするためであって、「このベクトルをこれで表す」と断っておけば、別に対応させなくても構いません。

原点を基準とした時、平面の直交座標(x, y)で表される向きと大きさをもった量を「平面ベクトル」または「2次元ベクトル」と言い、座標を1つ増やした3次元空間の直交座標(x, y, z)で表される向きと大きさをもった量を「空間ベクトル」または「3次元ベクトル」と言います。同様に、n個の数による座標で表された (x1, x2, x3,x4,x5,・・・,xn)を、「n次元ベクトル」と呼びます。

★より数学的に正確には、これらの数の組み合わせに対して、大きさ、加減の演算、内積の定義等が定められているものをベクトルと呼びます。
★相対性理論で用いられる「4元ベクトル」は、その意味で通常の「4次元ベクトル」とは異なっています。数学的に何が違うのかと言うと、それは内積の定義等が違っているのです。
★ベクトルの成分として複素数を考える事もできますが、このページの内容ではベクトルの成分は全て実数であるとします。その事を区別する時、ベクトルの成分が実数であるものを「実ベクトル」、ベクトルの成分が複素数であるベクトルを「複素ベクトル」とも言います。

また、通常の文字に対して、「ボールド体」にする事でベクトルを表す場合もあります。この表記は、慣れてないと通常のスカラー変数なのかベクトルなのか、紛らわしいかもしれません。

  • \(F(x), x, a\) ・・スカラー関数、スカラー変数、スカラー定数(通常の変数)
  • \({\bf F(x), x, a}\) ・・ベクトル関数、ベクトル変数、ベクトル定数(定ベクトル)

★ 関数に関しては、変数はスカラーで関数はベクトルであるとか、変数がベクトル(つまり複数の成分で決まる)で関数がスカラーという場合もあり得ます。

このページでは、ベクトルは全て矢印表記で表します。(他のページで、ベクトルのボールド体表記をする場合は、最初にその事を明示します。)

ベクトルの大きさ(長さ) = 2点間の距離 !

原点を基準とした時の、
平面ベクトル\(\overrightarrow{A} = (x, y)\)  と空間ベクトル \(\overrightarrow{B} = (x, y, z)\)の大きさは、位置座標として見た時の原点からの距離であり、 絶対値記号を付けて\(|\overrightarrow{A}|, |\overrightarrow{B}|\) で表します。 $$|\overrightarrow{A}| = \sqrt{x^2+ y^2}$$ $$|\overrightarrow{B} | = \sqrt{x^2+ y^2+z^2}$$ また、一般のn次元のベクトル \(\overrightarrow{X_n} = (x_1, x_2, x_3,x_4,x_5\cdots,x_n)\) の大きさも定義されます。 $$|\overrightarrow{X_n}| = \sqrt{x_1^2+ x_2^2+x_3^2+x_4^2+x_5^2+\cdots+x_n^2}$$ この定義のもとでは、任意のn次元のベクトルに対して一般化された「三角不等式」が数学的に成立します。
(この一般のベクトルに対する大きさの定義は「距離」の定義の1つであり、別の定義の仕方も存在します。その場合、大きさの事を「ノルム」と呼ぶ事があります。)

ベクトルの大きさの定義は、三平方の定理(ピタゴラスの定理)という、初歩的な平面幾何の定理をもとになされています。図のように点Hをとると、もとの直角三角形に相似な別の三角形が「2つ」できるので、辺の長さの比を上手に計算すると、確かに三平方の定理が必ず成立する事を証明できます。
もっとも、ベクトルの成分が4つ以上の場合は三平方の定理は適用できませんから、ベクトルの大きさはあくまで「新たに定義するもの」という事になります。ベクトルの大きさの考え方も、ベクトルの微積分で用います。ベクトルを微分したあとで大きさを考える事があるためです。

原点を基準としないベクトルも考える事ができます。ただし、その場合のベクトルは、「別基準点を新しい原点とみなした場合のベクトル」に等しいものと定義します。この事を、ベクトルは「平行移動」が可能であると言います。

ベクトル同士の加算は、単に成分同士を加えればよいというものです。減算も同じようにします。例えば、(1,0,2)+( -2,1,2) = (1-2,0+1,2+2)=(-1,1,4)です。これは、図形で言うと矢印を結び合わせて、最初の始点と最後の終点を結んだ新しい矢印を考える事に相当します。物理で重要な事は、2つの方向への力同士の「合力」は、このベクトルの加算・減算によって計算すればうまく行く事が実験で確かめられているという事です。運動方程式により加速度は力に比例しますから、加速度の加減乗除もベクトルで行う事ができます。(また、速度に関しても同じようにベクトルで考えて良い事になります。)

ベクトルの内積

ベクトルのもうひとつ重要な計算規則として、「内積」があります。これは各成分同士の積を加え合わせるというもので、数学的には何次元のベクトルでも定義する事ができます。

この内積の計算も、物理で使います。 しかも理論的に結構重要です。 具体的には、仕事とエネルギーという、物理や工学の基礎となる理論の形成に用います。ベクトルの微積分にも直接関わるので、このページで後述します。

ベクトルの内積の定義 2つのベクトルの「『各成分の積』の和」を内積と言います。記号は、「・(ドット)」を用いて、\(\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}\) のように書きます。 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2 $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3 $$ $$n次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3+a_4b_4+\cdots+a_nb_n $$ $$=\sum_{j=1}^n a_jb_j$$ ★ ベクトルの内積は、スカラー量です。つまり通常の実数などの値になります。
★ ベクトルの内積は、必ず2つのベクトルについて計算されるもので、3つ以上のベクトルの内積というのは考えません。
★ 数学的には、じつは内積はもっと抽象的ないくつかの演算条件を満たす計算であると定義されますが、このページの内容にはあまり関係ないので記載は省略します。

内積の計算を行う事を、習慣的に「内積をとる」という表現で表す事も多いです。
内積は必ず2つのベクトルに対して考えるものですが、内積自体は「スカラー量」であるという事は、理論が色々と複雑になってくる時に重要になってきます。

ベクトルの内積の表し方は2つの方法がありますが、物理で使う時は両方の表し方が重要です。平面や空間での図形的な考察をする時は余弦 cosθ を用いる表し方が重要であり、式変形や計算を進める時は成分による表し方を用いる事が多いです。このページでは、後半で「仕事とエネルギー」の関係が、内積とベクトルの微積分によって導出される過程を詳しく見ます。

2次元の平面ベクトルや3次元の空間ベクトルの場合、余弦定理を使う事によって内積は図形的な意味も持つようになります。物理では、こちらの内積の表現も結構重要です。
具体的には、内積が2つのベクトルの大きさと「なす角の余弦」の積に必ず等しくなります。平面や空間において、物理で内積が重要になるのは、この図形的な意味によるところが大きい場合が多いのです。

ベクトルの内積の別の表現 $$2次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ $$3次元:\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta $$ ★ n次元の場合でも新たに「角度」とその余弦を(半ば無理やりに)定義すれば同じ事が言えますが、その事は必ずしも重要ではないのでここでは記さないでおきます。

内積の成分による表し方と、余弦を使った表し方が「同じ値」になるという事は、もちろん自明ではありません。証明は難しくないので、記しておきます。余弦定理を用いて余弦を成分で表現すれば証明できます。
(余弦定理は、鋭角・鈍角三角形の辺の長さの関係を三平方の定理によって表現する事で得ます。)

証明:内積の2つの表し方は同じものである

\(|\overrightarrow{A}-\overrightarrow{B}|=c\)とします。
これは2つのベクトルが作る三角形の斜辺です。
余弦定理(任意の角度で成立)により、
$$c^2=|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-2|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta$$ $$\Leftrightarrow |\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta=\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ ですので、余弦をつかったほうの内積は次のように表せるわけです。 $$\overrightarrow{A}・\overrightarrow{B} =|\overrightarrow{A}||\overrightarrow{B}|\cos \theta =\frac{1}{2}(|\overrightarrow{A}|^2+|\overrightarrow{B}|^2-c^2)$$ $$=\frac{1}{2}\left\{(a_1^2+a_2^2+a_3^2)+(b_1^2+b_2^2+b_3^2)-(a_1-b_1)^2-(a_2-b_2)^2-(a_3-b_3)^2\right\}$$ $$=\frac{1}{2}(2a_1b_1+2a_2b_2+2a_3b_3)=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3【証明終】$$ 途中で成分がたくさん出てきますが、2乗の項は+-を差し引いて全て消えてしまうので、成分同士を乗じたものの和になるという結果が得られるわけです。

また、3次元ベクトルの独特な計算規則として、「外積」があります。この計算は、数学の解析学の理論的な観点よりも、むしろ物理での応用のほうが重要とも言えるかもしれないですね。角運動量を論じる時や電磁気学で用いたりします。3次元的な直交する方向同士の関係を適切に表すために有効な計算方法です。

ベクトルの外積について、定義だけ簡単に記します。
2つのベクトル\(\overrightarrow{A},\overrightarrow{B}\) の外積 \(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B}\) は、次のような3次元空間のベクトルとして定義されます。

  • 大きさは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) が作る「平行四辺形の面積」
  • 向きは、\(\overrightarrow{A}と\overrightarrow{B}\) の両方に垂直で、\(\overrightarrow{A}から\overrightarrow{B}\)に(180°以下の角度の方向に)向かって右ねじを回した時に、ねじ回しが向いている方向

外積の「向き」については、文章だとちょっと分かりにくいと思いますが、要は、1つの平面に対して垂直な向きは2方向考えられるのですが、そのうちの1方向だけを必ず指定できるようにするためにこのような定義をしています。
この外積の考え方は、このページの以下の内容では使いませんので、そういうものがあるという事だけ見ていただければじゅうぶんです。

ベクトルの微分と積分の定義!

では、ベクトルの微分の定義を説明いたします。定義自体は、簡単です。
それぞれの成分を微分したものを考えるという、それだけです。

表記に慣れなかったりするかもしれませんが、「考え方はシンプルで簡単」という事が、このページで一番知っていただきたい事です。ベクトルの微分や積分は、要するに計算の方法としては「成分ごとに計算すると」いうものです。ですので、1つ1つ丁寧に整理して計算すれば済む話であるわけです。

位置座標を表すベクトルの各成分をある1つの変数で微分したものを、ベクトルの微分と呼び、ベクトルに対して微分操作の記号をつけた \(\frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)\) という表記を行います。 \(\frac{d \overrightarrow{X}(t) }{dt}\) などと書いても同じです。

ベクトルの微分の定義(1つの共通変数による微分)

3次元の空間ベクトルの場合を記しますが、何次元ベクトルでも同じです。 $$\frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)=\left(\frac{dx}{dt},\frac{dy}{dt},\frac{dz}{dt}\right)$$ $$x,y,z はtの関数:x=x(t), y=y(t), z=z(t)$$ この共通の変数の事を、数学的には「パラメータ」と言いますが、このサイトではあまり使わないかもしれません。

ベクトルの微分などと言うと一見わけがわからないように思えるかもしれませんが、このように意味と定義を丁寧に見ると、それほど難しくはないのではないでしょうか?表記については確かに慣れないと扱いにくさを感じるかもしれませんが、少しずつ触れていけば慣れると思います。

ただし、何で微分するかには少しだけ注意すべきで、力学などで物体の「位置」と時間の関係を分析する場合は、時間tで微分します。この時、各成分は時間の関数で表すものとします。(そうでなければ、当然tでの微分はできません。)

Point

ベクトルの微積分を1つの変数tで行う時は、
ベクトル(x, y, z)の各成分 x, y, z が「tの関数」x(t), y(t), z(t) である場合を考えます。
例えば、\(x(t)=2t, y(t)=3t, z(t)=t^2\) などです。
この成分を持つベクトルをtで微分するのであれば、
それぞれの成分をtで微分すればそれでよいというわけです。

例えば、運動する物体の位置座標を(x, y , z)とした時、この座標が時間ごとに変化するので x, y, z は「時間tの関数で表せるはず」と考えるわけです。しかも、物体は連続的に動くはずなので、その時間変数 t で「微分も可能である」と考えるわけです。物体の位置座標を表すベクトルの時間微分を、物理では特に速度ベクトルと呼びます。

ベクトルの高階微分についても考え方は同じで、各成分を2階微分したものを、そのベクトルの2階微分として表記します。位置座標を表すベクトルの時間変数tによる2階微分は、加速度ベクトルと呼ばれます。

微分が可能であるという事は、積分も可能です。

ベクトルに対する積分も基本的に同じ考えであり、ベクトルの各成分を同じ変数で積分したものを、1つのベクトルに対する積分として表示します。

ベクトルの積分(1つの共通変数による積分)

不定積分で記しますが、定積分でも同じです。 $$\int \overrightarrow{X}(t)dt=\left(\int x(t)dt,\int y(t)dt,\int z(t)dt \right)$$ また、微分されたベクトルを積分すれば、「各成分の微分」の積分ですから、もとのベクトルに戻ります。つまり表記上、ベクトルに関しても「微積分学の基本定理」が成立します。 $$\int \frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)dt=\left(\int \frac{d}{dt}x(t)dt,\int \frac{d}{dt}y(t)dt,\int \frac{d}{dt}z(t)dt \right) $$ $$=\left(x(t)+C_1,y(t)+C_2,z(t)+C_3 \right)= \left(x(t),y(t),z(t) \right)+(C_1,C_2,C_3)=\overrightarrow{X}(t)+\overrightarrow{C}$$ $$\overrightarrow{C}は定ベクトルで、\overrightarrow{C}=(C_1,C_2,C_3)$$

ベクトルの積分に関しては、後述しますように、「内積の計算をしてから積分する」というものもあります。これは接線線積分や面積分の考え方であり、物理への応用で重要な考え方になります。

応用例①:ベクトルによる等速円運動の考察

さて、ではベクトルの微積分を物理で「どう使うのか」を、簡単な具体例を使って、見てまいりましょう。

力学の基本的な例の1つとして、等速円運動というものがあります。これは、その名の通り、同じ「速さ」で円運動を延々とぐるぐるしている運動を言います。

★ここで、「等速円運動」とは「速さ」が同じであって、「速度」は各位置ごとに異なる事に注意してください。
ベクトルで言うと、速度ベクトルの「大きさ」だけが一定で、向きは各位置ごとに常に変化するという運動である、という事です。

そのように物体が等速円運動をしている時、「いったいどのような力が物体に働けば、そのような運動が生じるだろう?」という問題があります。

これは、結論を先に言うと「円の中心に向かって同じ大きさの力が働けばよい」というのが答えです。これを数学的にどのように導出するのか?と言うと、まず運動方程式を考える必要があります。それと、べクトルを考える事がポイントです。以下、具体的に見ていきましょう。

三角関数は別名「円関数」とも言います。座標またはベクトルの考え方を用いれば、円運動の分析に用いる事もできるわけです。微分する時には、合成関数の微分法を用いる事にだけ注意しましょう。

空間上の運動に対して運動方程式を作る時は、ベクトルのそれぞれの成分に対して運動方程式を作ります。つまり、1つの運動に対して運動方程式は「3つ」できるのです。その3式を解く事で、運動の分析ができるというのが、初歩的な力学での一般論です。

運動方程式

$$\overrightarrow{F}=m\frac{d^2 \overrightarrow{X}}{dt^2}$$ $$\overrightarrow{F}=(F_x,F_y,F_z),\hspace{5pt}\overrightarrow{X}=(x(t),y(t),z(t))$$ つまり(最大で)3つの微分方程式ができます。 $$①F_x=m\frac{d^2x}{dt^2},\hspace{10pt}②F_y=m\frac{d^2y}{dt^2},\hspace{10pt}③F_z=m\frac{d^2z}{dt^2}$$ (初歩的な微分方程式の解き方については以前の記事で詳しく記しています。)

ただし、この等速円運動の分析の場合では、じつは式は「2つ」でよいのです。その理由は次の通りです。

同じ円運動といっても、空間上であらゆる角度に傾いた平面上の円運動が考えられます。しかし、物理ではこのような時、「座標系のほうを物体の運動に合わせてあげる」ということをやります。実際に物体が運動している平面に、xy平面を合わせてあげるのです。

すると、z軸方向には物体は運動しておらず、どんな時刻でも位置座標のz成分は0ですから、あってもなくても同じ事であって、考察の対象から除外します。こういう事は、物理でよくやります。

ですので、運動方程式をベクトルの各成分に対して作る時も、
z成分については\(F_z=m\cdot 0=0[N]\) 「力は一切働いてません」という、数式で考察するまでもない結果が出るだけなので、「考えなくてよい」とするわけです。

というわけで、平面ベクトルで表される運動として、分析をします。

この時、極座標を使うと話は単純になり、計算も楽です。等速でぐるぐる回っているという条件から、一定の角速度\(\omega\)[rad/s]【rad:ラジアン(これは省略する事もできます)s:秒】で運動していると捉えます。

すると、物体の位置座標はどのように表せるかというと、三角関数を用いればよいのです。円の半径をR[m] 【m:メートル】とすると、x座標は R cos(ω t)、y座標はR sin (ω t) になります。

ベクトルで書くなら、\(\overrightarrow{X}=(R \cos (\omega t),R \sin (\omega t))\)

この場合は、位置座標の成分が時間の関数として明確になっているので、これを時間tで2階微分して加速度にして、質量mを掛け算すれば「力」になります。ですから、ここでは微分方程式を解く必要はありません。

x = R cos(ω t) と y = R sin (ω t) を、tで2階微分しましょう。これは、合成関数の微分になっているので1回の微分ごとに ω が掛け算される事に注意する以外は、初歩的な微分計算ですので結果はすぐに出ます。結論は次の通りです。

$$\frac{d^2x}{dt^2}=-R\omega^2 \cos (ω t) ,\hspace{10pt} \frac{d^2y}{dt^2}=-R\omega^2 \sin (ω t) $$

$$ \overrightarrow{F} =m\frac{d^2 \overrightarrow{X}}{dt^2}=( -R\omega^2 \cos (ω t) , -R\omega^2 \sin (ω t) )=-mR\omega^2( \cos(ω t), \sin(ω t) )= -mR\omega^2 \overrightarrow{X} $$

この結果から、考察できる事はいくつかあります。

計算結果から考察できる事
  1. 力の「向き」は常に中心方向を向いている:
    結果を見ると、元の位置座標の定数倍で、しかもマイナスがついています。これは、物体から見ると、力のベクトルが原点を向いている事を意味するのです。
    (★位置座標のベクトルは原点から物体に向かう向きのベクトルである事に注意。)
  2. 力の大きさは、時間によらず定数:
    力の大きさは、「力ベクトルの『大きさ』」を計算すればよいのです。
    この時、\(\cos^2(ω t)+\sin^2(ω t)=1 \) である事に注意します。時間を含む部分は、1になって「消えてしまう」わけです。
    すると、\(|\overrightarrow{F}|=mR\omega^2\) となります。
  3. 力の大きさの計算から、
    力の大きさは質量、半径、「角速度の2乗」のそれぞれに比例する事が分かります。

等速円運動のように、力ベクトルが常に中心方向を向いているとき、
物理ではそのような力を「中心力」と呼びます。

この等速円運動の分析は、様々な運動のうち、「計算がかなり簡単で理論がうまく使えるもの」の1つの例です。どのような運動でもこのように計算が簡単に済むわけではなくて、むしろもっと面倒くさい分析が必要な運動のほうが多い事にも注意は必要です【※全てを容易に分析できるという意味での「万能」な手法ではないという事です】。しかしベクトルの微積分を物理で具体的にどのように使うのかを知るには、簡単でよい例かと思います。

応用例②:運動方程式とエネルギー

平面や空間での物体の運動を考える時、力のベクトルの向きと、現に運動している物体の運動の方向、つまり速度ベクトルの方向は異なるという事も普通にあり得るわけです。

結論を先に言うと、このような時に「内積」を考えます。それによって、「『力』と『物体の運動』と『エネルギー』」を数式的に関連付けられるのです。これは運動方程式が成立しているとすれば、数学的に導出できます。

ベクトルの内積の別の表現

結論の関係式は次のようなものです。 $$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow{F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt=\frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$ 左辺の積分は仕事量、右辺は時間の区間の始まりと終わりでの運動エネルギーの差です。
左辺と右辺とで物理学的な単位は等しく、ともに[J](ジュール)です。

運動エネルギーの増減は仕事の合計(積分値であり、「仕事量」と言います)で計算されます。そして仕事とは、内積によって表せる量です。物体の移動方向に対して働いている力ベクトルの向きがななめ方向である場合には、物体が移動する向きに対する力ベクトルの成分だけが運動エネルギーの増減に寄与するという事を言っています。

このような仕事と運動エネルギーの関係がどのようにして理論的に裏付けられているのか、数式によって見ていきましょう。ベクトルの微積分が、直接的に関係します。

仕事と運動エネルギーの関係式の導出

まず、運動方程式をベクトルの形で書いて、両辺に対して速度ベクトルとの内積を考えるのです。内積の図形的なほうの意味を考えると、力ベクトルと速度ベクトルの内積は、「力ベクトルの速度方向への射影成分の大きさ」と、「物体の変位(距離)」との積の、時間変化率という事になります。

この時、時間変化率ではなく「微小時間での変化」を考えた\(\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{dx}(または \overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{\Delta x})\) を、物理学では「仕事」と呼びます。(これは、考え方としてはいわゆるニュートン力学だけでなく熱力学等でも使うので重要です。)

運動方程式の加速度を含む側について、加速度は位置座標を表すベクトルの時間による2階微分である事に注意します。この部分と、速度ベクトルの内積を考えると、「2階微分と1階微分の積」という、一見わけの分からないものが出てきます。これは一体何でしょう?

これについての解釈は次のように行います。
合成関数に対する微分公式を用いると、「関数の2乗」を微分すると1階微分が積の形でくっついてくる事が分かります。すると、「1階微分の2乗」を(1回)微分すると、 「2階微分と1階微分の積」 が出てくるのです。この時、2という係数も出てきますから1/2を乗じて係数調整を行います。

計算

具体的な数式を見てみましょう。\(\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}\) などは、異なる導関数同士の「積」である事に注意してください。 $$\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx}{dt}\right)^2=2\frac{m}{2}\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}$$ 2乗の部分の微分について、合成関数の微積分公式を使いました。
これがベクトルの各成分\(x_1, x_2, x_3\) (それぞれ時間tの関数)について言えるので・・、 $$m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_1}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_2}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_3}{dt^2}$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left\{ \left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2 \right\} $$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$ 最後のところは、\(\frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\left(\frac{dx_1}{dt},\frac{dx_2}{dt},\frac{dx_3}{dt} \right)\) というベクトルの「大きさの2乗」に等しい、という事です。物理的な意味としては、これは物体の速度ベクトルの大きさの2乗、つまり「速さ」の2乗を意味します。内積の計算によって各成分を含む項の和が出てきて、うまい具合に「速さ」になっている事に注意してみてください。

さて他方で、運動方程式の両辺と速度ベクトルの内積をとったものは次のようになります。

$$ \overrightarrow {F}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2} $$ $$\Rightarrow \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}$$

これの右辺の方に対して、上記の考察での計算を当てはめればよいわけです。

$$\Leftrightarrow \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$

このようになるので、変形して得られた式の両辺をてきとうな時間 \(t_1,t_2\) で定積分したものを考える事で、仕事量と運動エネルギーの関係式が得られます。

$$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt= \int_{t_1}^{t_2}\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2dt= \frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$

\(\frac{1}{2}mv^2(=\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2)\) で定義する「運動エネルギー」は、正の仕事がなされれば増加し、負の仕事がなされれば減少する事を意味しています。また、仕事がなされなければ運動エネルギーは変化しない、という事も意味します。
(※数学的な定義を見てみても、内積は正の値だけでなくゼロや負の値も取り得るものであり、図形的な意味も持つわけです。)

この運動エネルギーに加えて、さらに「位置エネルギー」というものを考え、両者の和を「力学的エネルギー」と呼びます。重力等の「保存力」のみが働いている場合、力学的エネルギーの保存則が成立します。

また、実験・観測からエネルギーの定量的(※)な意味での等価性が確認されており、運動エネルギーは量としては熱エネルギーや電気エネルギーに変換されると見なす事ができて、物理学だけでなく種々の工学等での理論計算に用いられています。

(※)「定量的に」と言うのは、例えば力学的エネルギーの「入力」が電気エネルギーと熱エネルギーの「出力」に等しいという「計算ができる」、という意味です。(発生する熱エネルギーに関しては、望んでいるものでなければ「損失」と呼ぶ事も多いです。)物理学的な意味としては、計算ができなければ、運動や熱や電気のエネルギーが「等価」であると主張しても意味を持たない事には、注意してください。

ここでは、微積分学の入門としては、ベクトルの微積分や内積が「例えばこういう具合に応用される」という事だけ見て納得していただければじゅうぶんだと思います。

さらなる学習・ベクトル解析に向けて

今回はこれで終わりますが、ベクトルの微積分の話自体は、じつはまだ続きます。
今回主に扱ったのは、ベクトルの3つの成分が共通の変数の関数、時間tで表される場合でした。
これに対して、物理ではさらに、「位置によって力等が変化する」場合を考えます。 力の種類で言うと、重力や電磁力が該当します。
その場合、ベクトルの各成分が位置座標x、y、zの関数であると考えるのです。
このようなベクトルを「ベクトル場」と言い、それについての種々の微積分を考える領域を、「ベクトル解析」と言います。(このページで扱った内容や、ベクトルの初歩の内容も含めてベクトル解析と呼ぶ事もあります。)
このベクトル解析の考え方は、電磁気学や流体力学で使う他に、物理学一般でも使います。
このベクトル解析の領域は、初見だと多分かなり分かりづらいかと思います。しかし基本的には、今回のページで述べたような、ベクトルを成分ごとに分けて丁寧に考える事、内積の定義に従って丁寧な計算を進める事によって理解できるような体系になっています。

参考文献・参考資料

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