数学的帰納法とは?証明が簡単になる場合

数学的帰納法(「すうがくてききのうほう」)は数学の命題や定理の証明を行う手段の1つで、整数や数列的な内容が含まれる命題や定理を証明する時に使える場合があります。

「帰納」とはどのような意味?

数学的「帰納」法と言いますが、
実は帰納という言葉自体は元々数学用語ではなくもっと一般的な語です。

「帰納」は「演繹(演繹)」と対になる語です。

  • 帰納:個々の具体的事実から一般的・普遍的な法則や命題を導く事
  • 演繹:一般的・普遍的な法則等から、より具体的な結論を導く事

ですので、例えばA=nであるという事からA=1,A=4,A=9といった計算をする事は一般的に言うなら「演繹」に該当します。(ただし数学や理学系の学問ではその言葉は基本的に使用しません。)

では逆に、A=1,A=4,A=9,A4=16であれば「自然数nに対してA=n」と言えるでしょうか?

数学ではそのように「予想」するところまではOKで、
「証明」として断定する事はNGになります。

1,4,9,16という数が続いていたら「次は25かな」という事は「予想」できるわけで、これは具体例からnという一般的な式を予想している事に他なりません。
実際、「nが自然数でn≦4の範囲」ではその予想は実際に正しいので「証明」にもなります。

しかし、nの範囲が1以上の全ての自然数であるなら、もしn=1からn=4まで「A=n」が正しくても、n=5以降においてはそれが正しい事は無条件には保証されないと数学では考えます。

例えば数学では極端な話「n≦4の時はA=nでn≧5の時はA=n」などという数列を考えても構わないのです。つまり何の条件もなくて1,4,9,16という数が続いているだけなら
「n=1からn=4まではA=nとなり、n≧5以降はそれが成立しない数列」は無限に多く考える事ができます。

そこで「数学的帰納法」ではそういった「予想」をもう少し発展させた考え方をして、命題について任意の自然数nに対して確かに成立する事を「証明」する方法と手順を明確にしています。

数学的帰納法による証明の手順

自然数を含む命題において、n=1,2,3・・・の全ての番号において命題が成立する事、つまり任意の自然数において命題が成立する事を数学的帰納法で証明する場合には次の事を行います。

数学的帰納法で証明を行う時の手順

数学的帰納法で命題の証明を行う時には次の事を行います。

  1. n=1において命題が成立する事を具体的な計算などで示す。
  2. n=kの時に命題が成立すると仮定して、
    n=k+1の時も同様に命題が成立する事を示す。
  3. そこまでできたら「任意の自然数に対して命題が成立する事が証明された」と言ってよい。

数列の番号に0が含まれる場合や自然数ではなく整数である場合も考え方は同じです。初項の番号が0であればまずその場合を示してから上記の2番目の手順「n=kの時・・」に移ります。番号が0以下に減少していく場合は、「n=kの時命題が成立すると仮定して、n=k-1の時も正しい事を示す」という形になります。

「n=kの時に命題が成立すると仮定してn=k+1の時も成立する事を示す」というのは一体何をする作業なのかというと、「n=1の時に成立 ⇒ n=2の時も成立 ⇒ n=3の時も成立 ⇒n=4のときも・・・」という連鎖的な論理式をまとめて作る事に該当します。【⇒ は数学的な記号で「ならば」と読みます。参考:十分条件と必要条件

文章表現としては「n=kの時に命題が正しいと仮定すると」「n=kの時に命題が真であると仮定すると」「n=kの時に・・である(命題の内容)と仮定すると」など、その一般的な番号で命題が正しい事を仮定するという意味が分かれば何でも構いません。

もう少し詳しく見ると任意の自然数kに対して「n=kで命題が成立する⇒n=k+1で命題が成立する」という「命題」を示して、もう1つ「n=1で命題が成立する」という事も示す事でn=1で命題が成立する⇒n=2で命題が成立する⇒n=3で命題が成立する⇒・・・つまり「任意の自然数nにおいて命題が成立する」と言えて証明が完結する事になるわけです。

数学的帰納法を使ったほうがよい場合とは?

数学的帰納法は便利な証明方法ですが、数列的な式が含まれる命題なら何にでも使えばよいというわけではありません。例えば次の命題は数学的帰納法を使わずに直接証明をする事ができます。(これは自然対数の底 e の存在を証明する時に使う命題です。)

$$A_n=\left(1+\frac{1}{n}\right)^nとする時、任意の自然数nに対してA_n<3であり数列\{A_n\}は単調増加数列$$

この式の単調増加性を調べる時には数列の番号がn+1の時の場合を考えますが、それは数学的帰納法における「n=kで正しいとしてn=k+1でも正しい事を示す」事とは異なるのです。
この命題の単調増加性をもし数学的帰納法で証明するならA-A1>0を示してから
「Ak+1-A>0を仮定した時にAk+2-Ak+1>0となる事を示す」というようになります。(それをしなくても実際はAn+1-Aを直接計算すればAn+1-A>0を示せます。)

では、数学的帰納法を使用したほうが明らかによいと言える命題はどのようなタイプのものなのでしょうか。それは一概に方法論としては決められるものではないのですが、例えば次のような命題は数学的帰納法を使用したほうが良いと言えます。

$$f(x)=\mathrm{ln}xにおいて任意の自然数nに対して\frac{d^nf}{dx^n}=(-1)^{n-1}\frac{(n-1)!}{x^n}$$

つまり「n階導関数」(微分をn回行った時の関数)が提示されている式である事を示すという命題です。lnxは自然対数関数であり、 log e x の事です。
また、式中の「!」記号は「階乗」の意味で、数を1ずつ減らして1になるまで掛け算し続ける操作を指します。例えば5!=5×4×3×2×1=120です。

このような命題の場合、具体的な微分を仮に頑張って数十回手計算で行ったとしても提示された式の形になると「予想」しかできません。考えている自然数nが微分という操作を行う「回数」であるために一般性を直接的に持たせにくいわけです。

そこで数学的帰納法を使うとこの手の命題は証明がしやすくなります。

まずn=1の時はd/dx(ln)=1/xであり、これ自体が自明な式ではなく証明が必要ですがそれはできているものとします。(微分の公式・対数関数の微分

提示されている式に対してn=1を代入してみて正しい事を確認します。

$$n=1の時、(-1)^{n-1}\frac{(n-1)!}{x^n}=\frac{1}{x}なので正しい。(0!=1という定義)$$

次に、n=kの時に正しいと仮定します。そのもとでn=k+1の時にも正しい事をどのように言えばよいのでしょうか。ここでの場合はnは微分を行う回数です。つまり、n=kの時の導関数を「もう1回微分」すればよいのです。

$$n=kの時命題が成立すると仮定すると\frac{d^kf}{dx^k}=(-1)^{k-1}\frac{(k-1)!}{x^k}$$

$$両辺をxで微分すると\frac{d}{dx}\left(\frac{d^kf}{dx^k}\right)=(-k)\cdot(-1)^{k-1}\frac{(k-1)!}{x^{k+1}}=(-1)^k\frac{k!}{x^{k+1}}$$

$$同時に\frac{d}{dx}\left(\frac{d^kf}{dx^k}\right)=\frac{d^{k+1}f}{dx^{k+1}}であるから、$$

$$\frac{d^{k+1}f}{dx^{k+1}}=(-1)^k\frac{k!}{x^{k+1}}=(-1)^{(k+1)-1}\frac{(k+1-1)!}{x^{k+1}}$$

よって、n=k+1の時も命題は成立しているので、任意の自然数nに対して命題は成立します。証明終わり、とするわけです。

本質的には前述のように「n=1の時に命題が成立」⇒「n=2の時に命題が成立」⇒「n=3の時に命題が成立」⇒・・という連鎖的な論理式が任意の自然数について成立する事が数学的に保証される事を証明したという事です。

この「自然対数関数の高階微分の公式」の証明の計算の説明をすると、簡単に言うと
最初の微分で1/xという形の導関数が得られるので、
それ以降は 1回微分するごとに
「1/x(=x-n)」の微分に由来する係数である次の2つ
①マイナス1と
②指数(nの部分)に等しい自然数
が掛け算され、それが1回ごとに増えて行くという事です。
同じような命題で、話が簡単であればそういった「1回の操作ごとに付け加わる結果」を繰り返す事で結論を得るという事を証明の代わりにする事は可能です。
しかしそれを「具体的に式で表してより明確にする方法」として数学的帰納法があるわけです。
「1回微分するごとに」という部分は
「n=kとした時に実際に微分してみる」
という形で式としてより明確にできます。
係数が乗じられて項として付け加わっていくという事も、数学的帰納法の中でn=kの時に実際に微分してみる事で式で表せて、その次の番号のn=k+1の時も確かに命題が成立するという事を確実に表現できるという利点があるわけです。

必要・十分条件の考え方

必要条件、十分条件、必要十分条件の意味・覚え方・使い方などについて説明します。
必要条件と十分条件は対になっている考え方であり、ともに成立する場合には必要十分条件と言います。
(英:必要条件 necessary condition 十分条件 sufficient condition
 必要十分条件 necessary and sufficient condition)

ここでは高校数学で必要な知識を説明します。

★必要条件や十分条件そのものについて問う出題は高校数学特有のものですが、用語や考え方自体は大学数学でも使います。ただし、物理や工学などでは基本的には使用しません。

考え方と内容

「PならばQ」という関係(「論理式」)が成立する時、PはQの十分条件であると言います。
また、QはPの必要条件であると言います。
記号では矢印記号「⇒」を使って「ならば」の部分を表し、 P ⇒ Qと書きます。

例えば「『ある実数が偶数である』ならば『その実数は自然数である』」といった感じです。
一般の定理などはそのような形をとっています。例えば三平方の定理は「『ある三角形が直角三角形である』ならば『斜辺と残り2辺の長さをそれぞれc、a、bとしてc=a+bである』」という形です。
【※後述しますが三平方の定理に関してはこの逆も成立し、必要十分条件になります。】

この「PならばQ」とは、「Pが成立するなら、必ずQも成立している」という意味です。「必ず」というところがポイントで、例外は1つでもあってはいけないというのが数学での表現上のルールです。

「PならばQ」P ⇒ Q と「QならばP」Q ⇒ P が両方とも成立する時、PはQの必要十分条件であると言います。(この時、QのほうもPの必要十分条件であると言います。)記号は、両方向に向いた矢印の「⇔」を使い、P ⇔ Q と書きます。

十分条件、必要条件、必要十分条件

数学において「PならばQ」 P⇒Q の関係が成立する時、次の呼び方をします。

  1. PはQの「十分条件」
  2. QはPの「必要条件」
  3. P ⇒ Q かつ Q ⇒ Pのとき、
    PはQの「必要十分条件」(QはPの必要十分条件)

★「必要条件」のほうの名称の由来ですが、P ⇒ Q の関係が成立する時、「Qが偽であるならばPも偽である」という関係が成立するためと思われます。つまりPが真であるためには少なくともQは真でなければならず、Qが偽でPが真である場合はあり得ないという事です。(他方P ⇒ Q の時に、Qが真でもPが真である事は確定しません。Qが真でPが偽の場合はあるのです。そこが十分条件と異なります。)
この関係は、後述する図によるイメージで理解が進むかと思います。

論理式の説明

P ⇒ Q の関係が成立する時、「Qが成立するためには、Pが成立すれば十分である」といった表現をする事もあります。また、必要条件のほうに着目して「Pが成立するためには、Qが成立する事が必要である」と言う事もあります。

また文章の表現として、P ⇒ Q の関係について「QはPが成立するために『必要ではあるが十分ではない』」という表現がなされる場合もあります。これは、特に Q ⇒ P は成立しない事が判明している場合に使われる事が多いです。(後にも触れますが、P ⇒ Qが判明しているけれどQ ⇒ Pかどうかはまだ不明であるという場合もあり得ます。)

★このときのPやQは数学的に意味のあるものを考えます。
「今朝は晴れだった」とか「この理論は美しい」とかそういう文章の類は入れないわけです。

もう1つ例を挙げてみます。
Xが自然数の時、「Xが4の倍数である事」は「Xが偶数である事」の十分条件です。

これは、「Xが4の倍数」であれば必ず「Xは偶数」であるからです。
「Xが4の倍数である」 ⇒「Xは偶数である」 は、成立しています。

他方、Xが偶数であっても「必ず」4の倍数とは言えません。これは、例えば偶数であっても2や6といった数は4の倍数ではないからです。このように出てきてしまう「例外」の具体例の事を、数学の用語として反例と言います。

「Xが6の倍数である」事も「Xが偶数である」事の十分条件の1つです。
6の倍数6,12,18,24、・・・は例外なく、必ず偶数であるからです。
つまり「Xが6の倍数である」 ⇒「Xは偶数である」 も成立しています。

このように、十分条件というものは複数あり得ます。

必要条件についても同様で、1つではなく複数あり得ます。
例えばここでの例で「Xが偶数である」を「Xが2以上の自然数である」といったものに変えても同様に
「Xが4の倍数の自然数である」 ⇒「Xは2以上の自然数である」 
は成立するので、Xが自然数の時に「Xが2以上の自然数である」事も「Xが4の倍数である」事の必要条件になります。

【図での覚え方】論理式と集合との関係

これら十分条件と必要条件の上手な捉え方として、ある変数が集合の元(要素)である事に関する論理式を考え、さらに図に描くという方法があります。この方法は、論理式の構造の理解のために大変便利です。

例えば「『xが集合Bに属する(Bの元である)』ならば『そのxは集合Aに属する』」という事が正しいとしましょう。この時、集合Aと集合Bの包含関係は「AがBを含む(A⊃B)」という事になります。これは、この関係が成り立つという事は「xがBに属するのであれば『必ず』そのxはAに属してもいる」という意味であるからです。

これらの集合が例えば平面上の領域(点の集まり)であれば、これは図形に描けます。絵としては、穴などがない領域Aの中に完全に領域Bが含まれてしまっている場合です。この時に、領域Aに完全に含まれてしまっている領域Bが、「十分条件」のイメージです。

逆に、相手方である領域Bを含んでいる大きなほうの領域Aが、「必要条件」のイメージです。

★ここで、もしもx∊B ⇒ x∊A という情報だけがあって領域AとBの実際の様子は分からない場合には、論理式の逆の「x∊A⇒x∊B」が成立するかはその段階では「不明」という事になります。
ただし、その場合でも領域Aが領域Bを含んでいる事は確定しています。しかし、A⊃Bであると同時にB⊃Aでもある可能性、つまり領域AとBが完全に一致している場合も考えられるわけです。

図による説明
P ⇒ Q という事は、「Qがもし偽であればPも偽である」という事で、図で言うと領域Aに含まれていない点(つまり領域Aの外にある点)は領域Bにも含まれていないという意味になります。このような事も図で見ると理解しやすくなるかと思います。

領域ではなくて数直線上の区間で考えても同じで、
例えば実数xが閉区間 [0,1/2] に含まれるならば、xは閉区間 [-1,1]に含まれています。
記号で書くとx∊ [0,1/2] ⇒ x∊ [-1,1] という事であり、
x∊ [0,1/2] は x∊ [-1,1] であるための「十分条件」であり、
x∊ [-1,1]はx∊ [0,1/2]であるための「必要条件」です。
閉区間同士の包含関係については、[-1,1] が [0,1/2] を含んでおり [-1,1] ⊃ [0,1/2] です。

証明問題・計算での使い方

三平方の定理を証明する時は、まずは前提となる「直角三角形である」という条件が正しいとして、その時に必ず3辺の関係がc=a+bとなる事を示すわけです。

すると、その証明によって
『三角形が直角三角形である』⇒『斜辺と残り2辺の長さをc、a、bとしてc=a+bである』
という論理式が真であるという事になるわけです。

しかし逆に、
『三角形の辺の関係式c=a+bが成立する』⇒『三角形が直角三角形である』
という事が正しいかはこの時点では分かりません。
この段階ではこの逆の形の論理式が「真か偽かも分からない」という事です。

★P ⇒ Q が成立している時に矢印の先のほうのQを必要条件と呼ぶわけですが、この時に Q ⇒ P が成立するかどうかが判明しているとは限りません。
一般には特別な条件が明示されていない限りは、P ⇒ Qの成立からQ ⇒ Pの真偽を直ちに判定する事はできないので、その真偽を明確にするために「証明」という作業を行います。

従って、それが真か偽かもまた証明によって調べる必要があります。
今度は辺の長さの関係を前提として(正しいものとして)証明を行うわけです。

結論を言うと三平方の定理の「逆」である
『三角形の辺の関係式c=a+bが成立する』⇒『三角形が直角三角形である』
も、確かに成立します。証明できるという事です。
という事はP ⇒ Q の形に対してQ ⇒ Pの形も成立しているので、三平方の定理は「必要十分条件」である P ⇔ Q の形となるわけです。

このように「必要十分条件である事を証明せよ」という問題の場合(入試問題以外でも)、
まず P ⇒ Q を証明し、次に Q ⇒ P も証明して P ⇔ Q であると結論付けるのが一般的手法です。

このような形で三平方の定理の逆も成立する事を証明できます。

通常の実数や文字式等の計算での式の変形も、じつは細かく言うと「必要十分条件」の関係です。

x-y=0の時、x=yであるわけですが、
細かい事を言うとx-y=0⇒x=yかつx=y⇒x-y=0であり、
x-y=0⇔x=yというわけです。
そのため、式変形をする時に必要十分条件の記号⇔を使う事があります。

注意が必要な例として、平方根と2乗の関係があります。次の関係を見ましょう。xは実数とします。

$$x=\sqrt{2}\Rightarrow x^2=2$$

この論理式は成立します、しかし注意が必要なのは、この場合には「必要十分条件」で結ぶ事はできないという事です。それをやってしまうと、論理式は「偽」になってしまいます。理由は簡単で、2乗して2になる数(実数)は、\(\sqrt{2}\)は確かに当てはまるのですが、もう1つ負の数のほうの\(-\sqrt{2}\)があるためです。

$$特に条件が無い場合、x^2=2\Rightarrow x=\pm\sqrt{2}$$

この関係の逆は成立します。そのため、必要十分条件で結ぶのであれば次のようにする必要があります。

$$x^2=2\Leftrightarrow x=\pm\sqrt{2}$$

これを確実に見るには、x=2 ⇔ (x+\(\sqrt{2}\))(x-\(\sqrt{2}\))=0という因数分解された形にするとよいでしょう。【この「因数分解の形にする」という式変形は、必要十分条件で結ばれます。】

少し話が込み入りますが、もしも「xは正の数」という条件があるのであれば、上記の右方向だけの \(x=\sqrt{2}\Rightarrow x^2=2\) は必要十分条件で結んでも間違いではありません。これは「x>0かつ\(x^2=2\)」という具合に、条件自体が変わるためです。

このように、一般の実数等での式変形であれば必ず必要十分条件になるわけではなく、時々片側にのみ
「ならば」記号の矢印⇒が成立する場合もあります。その点だけは少しだけ注意が必要になります。

三角形の合同

2つの三角形が合同であるとは、形も大きさも全く同じである事を言います。
形も大きさも同じという事は、面積も等しくなります。

合同な三角形であっても、向きなどが別々の方向を向いていて「見た目」が異なってる場合もあります。2つの三角形が合同であるかを調べるには次の3つの条件を満たしているかを調べます:

三角形の合同条件

次のいずれか1つを満たせば2つの三角形は合同です。

  1. 3辺の長さがそれぞれ等しい
  2. 2辺の長さとそのはさむ角の大きさが等しい
  3. 1辺の長さと両端の角の大きさがそれぞれ等しい

2つの三角形が合同である事は「3本線」の記号を使って△ABC≡△DEFのように書きます。この時、角度が等しい頂点が対応するようにします。例えば△ABC≡△DEFと書いている場合には∠BCA=∠EFDである事も表しています。

合同である三角形は、この3つの条件全てを満たします。つまり、1つの条件を満たせば他の2つの条件も同時に満たされるという事です。合同である事を証明するには1つの条件が満たされている事を示せば十分という事になります。

三角形の合同条件
2つの三角形が合同である事の証明においては例えば「2辺とそのはさむ角」の条件を使う場合には、①AC=A’C’ ②BC=B’C’ ③∠ACB=∠A’C’B’ の3つを明らかにする事で△ABCと△A’B’C’ は合同である事を証明できます。

図を見ると分かりやすいと思うのですが、ある三角形に対して合同な別の三角形とは、1つの三角形を回転や反転させたものであると言う事もできます。イメージとしてそのように捉えるとよいでしょう。
回転や反転は角度や辺の長さを「不変」に保つ操作であるとも言えます。

合同の関係と似ているものとして、相似の関係があります。相似とは「形だけが同じで大きさは違う」というものです。

形も大きさも同じである場合が合同の関係であり、2つの三角形が合同である場合は相似である条件も満たしています。つまり、合同と相似は無関係なものではなくて、形も大きさも等しくなるためのやや厳しい条件が課されるのが合同で、形だけが等しい緩い条件だけが課されているのが相似というわけです。

一見すると合同にはみえないけれどよく見ると合同であるという例は、例えば三平方の定理の証明の1つで見られます。この例では形も大きさも全く同じ三角形が存在するのですが、向いている方向が全く異なるうえに他の様々な線が入り乱れているので気付きにくいのです。

合同な三角形の例
右側の図には互いに合同な三角形が2つあります。

しかし、丁寧に辺の長さや角度を調べると確かに合同である事を示せます。この場合では「2辺とその挟む角が等しい」という条件を使っています。

図の3つの四角形は「正方形」であるという条件があるので、
AC=AC’ AB=AB’ という長さの関係がまずあります。
次に、∠BAC=∠CAB+∠CAC’=∠CAB+90°ですが、
他方で∠B’AC’=∠CAB+∠B’AB=∠CAB+90°なので
∠BAC=∠B’AC’になります。
ゆえに、△ABC≡△AB’C’ である、と証明されます。

こういう具合に、合同である事を示すわけです。
尚、この例の場合では、「合同ゆえに面積も等しい」と話が続いていきます。

このように「見ただけでは分かりにくい」場合であっても、辺の長さや角度を調べて合同である事を確かに示せる場合があるわけです。数学的に論証するという事を学ぶ1つの意味がここにあります。単に論理的な思考をするというだけでなくて、事実関係の検証をする1つのツールとしての意味があるという事です。

3辺が全て等しいという条件を使う場合も、たまにあります。例えば、円に外接する三角形の頂点と円の中心で構成される2つの三角形です。

合同な三角形の例②
右側の図の小さな三角形2つは互いに合同です。

上図において、△AOCと△BOCに注目します。
まず、同じ円の半径なのでOA=OBです。
また、辺OCは共有されているのでもちろん長さは2つの三角形で等しいのです。
さらにここで、∠OAC=∠OBC=90°なので、三平方の定理によりAC=BCになります。
よって2つの三角形の3つの辺の長さはそれぞれ等しく、確かに△AOC≡△BOCというわけです。

☆この場合について細かい事を言うと、∠OAC=∠OBCであっても、90°でなければ、この部分の角の大きさが等しいというだけで合同とは言えないのです。
これは、式で示すのであれば余弦定理を使います。すると、90°以外でこの部分の角の大きさが等しい場合には、ACの長さとして「2つ」の解が得られる事があります。つまり、合同である場合とそうでない場合が生じ得るのです。
そのため、2辺の長さと「どれでもいいから1つの角」が等しいというだけでは、それだけで必ず合同であるとは断定できないのです。他方、その角度が90°であれば余弦定理において解は1つだけなので合同であると言えます。もちろん、直角三角形において余弦定理は三平方の定理そのものです。
詳しく言うと、「2つの三角形が合同である」⇒『2辺の長さとどれか1つの角が互いに等しい』
という関係式は正しいのですが、その逆は言えないという事です。『2辺の長さとどれか1つの角が互いに等しい』という事は、2つの三角形が合同である事の必要条件ではあるけれども十分条件ではない、という事です。(この考え方は中学校では必要ありません。)

合同条件に関する注意点
2辺とその「はさむ角」がそれぞれ等しい場合に2つの三角形は合同になりますが、2辺が「はさんでいるわけではない」角度が等しい場合はどうなるのかを図で説明しています。

逆に、見た感じ同じ形・大きさに見えるけれどもきちんと調べるとじつは合同ではないというパターンもあり得ます。描かれた図ではいかにもそれらしく見えるけれども、条件を整理すると合同の3条件のいずれにも当てはまらず「じつは形も大きさも違う」という事が判明する場合もあります。

ここでは、あくまで図形問題に限定してという話ではありますが、「見た目」で判断するのではなく論拠を備えて検証するという事が三角形の合同条件や相似条件の学習において重要なポイントの1つです。これは試験問題を解くという話の中でも重要なので、おさえておきたいところです。

三角形の相似

三角形の相似条件は高校入試を始めとして中学数学では重要事項の1つです。

図形問題を解くために必要という事でもありますが、三平方の定理などの重要な定理が成立するための根拠の1つになっている事なども重要と言えるでしょう。

平面において2つの三角形が「相似【そうじ】」であるとは、
ごく簡単に言うと「大きさは違うが形は同じ」であるという事です。

★これに対して、「大きさも形も同じ」なのが三角形の合同です。
意味する事と、成立する条件の違いに注意しましょう。
合同と相似は一見似ていますが扱い方が違うものなので、気を付けましょう。
「2つの三角形が互いに合同」ならば「2つの三角形は互いに相似でもある」と、確かに言えます。 しかしこの逆は成り立ちません。「相似であるから合同でもある」と言ったら、それは間違いです。
【※中学数学の範囲外になりますが詳しくは必要条件と十分条件の関係から把握する事になります。合同である事は相似である事を含んでいるという包含関係になります。】
そのため、合同と相似をごっちゃにしてはならず、関係を意識しながらも丁寧に別々に整理する事が必要であり、重要でもあるのです。

2つの三角形が合同であるならば、相似でもあるとは言えます。相似であっても合同ではない場合があります。

もっとも、単に見た目が似ているというだけでは相似であるとは言わず、きちんと数学的な条件があります。

相似条件と証明での使い方

次の3つの条件の「いずれか」を満たす2つの三角形は互いに相似であると言います。「いずれか」という事は、「1つでも当てはまればよい」という事です。

2つの三角形が相似であるための条件

次のいずれか1つが成立するならば2つの三角形は互いに相似です。

  1. 2組の角の大きさがそれぞれ等しい
  2. 2組の辺の長さの比と、その挟む角の大きさがそれぞれ等しい
  3. 3組の辺の長さの比がそれぞれ等しい

この時「△ABCと△DEFは(互いに)相似である」などと言い、△ABC∽△DEFとも書きます。(無限大の記号に似てますが別物です。)この時、「同じ形」として対応する角が順番通りになるように書きます。
相似な2つの三角形の互いの「辺の長さの比」を相似比と言います。例えば1:2とか1:3という関係が成立します。場合によっては整数比とは限らず、1:\(\sqrt{2}\) とか2:\(\sqrt{3}\) などの相似比もあり得ます。

三角形同士が相似である事がひとたび判明すれば、これら3つの条件は全て成立します。つまり、例えば2組の角度が等しいという条件が成立すれば、3組の辺の長さの比もそれぞれ等しいという事です。

ただし、相似である事を証明するためにはどれか1つだけ判明していればよいという事です。

★比較する2つの三角形が直角三角形であれば、その時点で「対応する1つの角がそれぞれ等しい(90°で等しい)」事は言えているので、もう1つだけ等しい角度を見つければよいといった作業になります。

繰り返しますが合同条件と似ていますが違うもの(相似条件のほうが制約が緩い)なので注意しましょう。
例えば、辺の長さが分からないけれど角度だけで比較できるのは相似条件のほうであって、合同条件にはそのような条件はないのです。(暗記するのではなく意味を考えてみると分かりやすいと思います。角度だけが分かっている場合、形は同じであっても辺の長さは伸び縮み可能なのです。)

合同である場合は「相似比」が1:1であると言う事もできます。それが「大きさも同じ」という意味であって、大きさが異なる場合には相似比が1:2とか2:3とかになるわけでそのような場合も含めた「形は同じだが大きさは異なる」関係を相似と呼ぶわけです。

2つの三角形が相似である事を正確に見るには、「証明」が必要です。これは、見た感じ「同じ形」に見えるけれど実際は違う(辺の比が一定にならない、角度が異なる)という事があるからです。

高校入試の出題として多いのは「2組の角の大きさがそれぞれ等しい」事を使うパターンです。これは、同じ大きさの角度である部分が2つ見つかればよいという事です。
より具体的には、対頂角の関係、平行線の同位角・錯角の関係、円周角の定理などを使って「角度の大きさが等しい」事を示します。また、共有する角がある場合にはもちろんその角度は2つの三角形で等しいのです。

証明のパターン
中学数学・高校入試で問われるパターンはこういったものが多いです。あらかじめ直角三角形という条件が与えられる事で残り1つの角の大きさだけを調べればよい場合もあります。

残りの2条件は証明の時に使う事もありますが、むしろ相似である事が証明された後に辺の比や面積比を計算させる問いで使われる事が多いように思います。

相似な三角形の面積比

三角形の相似比(辺の長さの比)が1:nの場合、面積比は1:nになります。
これは、例えば1つの三角についての底辺がn倍、高さについてもn倍になるためです。

高校入試ではよく問われる事項です。

相似な2つの三角形の面積比

辺の長さの比が1:nの相似な三角形の面積比は1:nになります。
(辺の長さの比がa:bなら、面積比はa:b

例えば底辺が2、高さが3の三角形の面積は2×3÷2=3ですが、
各辺の長さが2倍になったとすると、高さも2倍になる事に注意して
面積は(2×2)×(3×2)÷2=12
つまり2×2=4倍になるという事です。

これは公式として関係式を暗記するのではなく、図に描いてイメージしながら練習してみたほうがよいと思います。

この図の場合、相似な三角形の辺の長さの比は1:3です。相似比が整数のようにきれいな値の場合は図に描いてみて何倍になるのかというイメージをつかむのもよいと思います。平行線の補助線を引く事で図の大きな三角形を9分割できます。三角形の高さも確かに相似比倍になる事については、垂線を補助線として描けば直角三角形についても相似関係が成立する事から分かります。

辺の長さの比が1:3ではなく2:3のような場合は面積比は2:3=4:9です。

$$辺の長さの比が2:3であれば大きい三角形の面積は小さい三角形の\left(\frac{3}{2}\right)^2=\frac{9}{4}倍$$

辺の比に関する補足説明

相似な三角形の辺の比に関して、補足的な説明をします。

三角形同士が相似である場合に「対応する辺同士の比」は等しくこれを相似比と言うのは前述の通りです。

他方で「同じ三角形の中の辺同士の比」も、相似な2つの三角形で等しくなるのです。これは1つの三角形の中で3通りの比がありますからもちろん一定ではなく、一般的に相似比とも異なる値になります。

しかし、例えば△ABCでAB:BC=1:3であったとすると、それに相似な三角形△DEFがあったときにDE:EF=1:3という事も同じく言えるという意味です。
この時、AC:AB=2:5であれば同様にDF:DE=2:5という事です。
(※この場合、この条件だけから具体的な相似比は分からない事には注意。互いの対応する辺の長さの比に関して、相似比という一定の比がある事だけ分かります。)

式で書くと、△ABC∽△DEFであれば、
AB/DE=AC/DFという比の関係(この一定の比が相似比)に加えて
AB/AC=DE/DF という関係も成り立つという事です。

これは、じつは結構単純な話です。
AB/DE=AC/DF の両辺をACで割り、両辺にDEをかける事で得られます。
式変形をしなくても相似関係にあるという事は同じ形で大きさだけが異なると意味を考えれば分かりやすいかと思います。

「形は同じでサイズだけが違う」というイメージをつかむと難しさが消えるでしょう。
辺の長さの関係を丁寧に整理する必要がある場合もある事にだけ注意。

証明問題も含めて、図形問題が得意になるコツはあまり難しく考えない事です。
意味を考えながら図を描いてみましょう。

他に図形問題として関連が深いのは角の二等分線と三角形の辺の比の関係などで、これは三角形の相似を根拠として成立します。三角形の相似についてじゅうぶん理解していれば、関係式を暗記せずにその場で導出する事も可能なのです。

「形」さえ同じであれば、三角形の中の2辺の「比」が一定であるという事は、三角比の考え方の基礎となっています。これは、直角三角形に限定して、特定の角度に対しては2つの辺の長さは一定になる事を利用して決められるものです。高校数学で教えられるものですが、考え方としては三角形の相似の考え方が分かっていれば理解できる内容になります。