2項定理

2項定理(あるいは「2項展開」)とは、
(x+y)の形の式を展開した時にどのようになるかを表した式です。

指数の部分aは自然数である事も多いですが、一般の実数で同じ形に展開できます。(ただしaが自然数でない場合は有限の数の項で終わらず無限級数になる場合があります。)

指数が自然数の場合

まず、簡単なのはnを自然数として、(x+y)の形の式を展開した場合です。
ただし簡単とは言っても、任意の自然数nについてどのようなものになるかを知るには順列と組み合わせの知識が必要です。

n=2の場合、(x+y)=x+2xy+y であり、

n=3の場合、(x+y)=x+3xy+3xy+y です。

nが小さい場合は直接に計算もできますが、じつは公式として書けるというのが2項定理です。

2項定理(指数が自然数の時)

$$(x + y)^n=x^n+n\mathrm{C} _1x^{n-1}y+{}_n \mathrm{C} _2x^{n-2}y^2+{}_n \mathrm{C} _3x^{n-3}y^3+\cdots+{}_n \mathrm{C} _{n-1}xh^{n-1}+y^n$$ $$ =x^n +nx^{n-1}y+\frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}y^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{3!}x^{n-3}y^3+\cdots+nxy^{n-1}+y^n$$

順列組み合わせを学ぶと必ず出てくるものですが、びっくりマークが「!」ついている「3!」は「3の『階乗』」で、3!= 3・2・1 = 6 を表します。4 の階乗なら、4!=4・3・2・1 = 24。ここではあまり関係ないですが「ゼロの階乗」は0!= 1 と「定義」します。

このようになる理由自体は単純で、直接の式の展開を考えてみるのです。

x とy を何個選ぶかの「組み合わせ」を考えます。

2項定理と組み合わせ
3つの場所の中からxを1つ選ぶと、残り2つはyで決定するので係数は「組み合わせ」の数として決定します。

n=2やn=3の場合を考えてみると分かりやすいと思いますが、xyやxyの項の係数は結局どういう理由で決まるのかというと、式展開した時にそれらの項が「何個」あるかで決まっています。

n=3のときのxyの項については「3つの項の中からxを2個、yを1個選ぶ方法」の数に等しいのです。これは、組み合わせで表現できます。

少し分かりにくい場合は、3つの場所①②③を考えて、2つ選ぶという場合を考えてみてください。その2つの場所からxをぶという考え方でも組み合わせの総数になります。

3つの中から3個ともx、3個ともyを選べばxとyの場合であり、そのような組み合わせは1通りだけで実際それらの項の係数は1になります。

つまり、(x+y)のxn-mの項の係数がになるというのが2項定理の内容です。
組み合わせの性質により、n-mになります。3乗の展開式において係数が1、3,3、1の順で並ぶのはそのためです。

4乗の場合の展開式を計算してみると、=4、=6であるので、(x+y)=x+4xy+6x+4xy+y です。
これは、3乗の展開式に(x+y)をかけてみても同じ結果になります。

指数が実数の場合(一般2項定理)

上記の指数が自然数の場合の形の式と全く同じ形が、指数が実数一般の場合でも成立する事を特に指して一般2項定理(もしくは一般2項展開)と言います。

この場合はどうやって示すのかというと、結論を言うとマクローリン展開を使います。マクローリン展開とは微積分を利用した関数の無限級数展開の1つで、高校では教えない場合も多いので高校生であれば覚える必要はありません。(テイラー展開の特別な場合がマクローリン展開です。)

参考までに述べておくと一般2項定理の証明は次のようになります。

一般2項定理の証明

a が自然数でない時、\((1+x)^a\hspace{5pt}(|x|<1)\)に対して適用して、マクローリン展開を適用すると、 $$(1+x)^a=1+ax+\frac{a(a-1)}{2}x^2+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}x^3+\frac{a(a-1)(a-2)(a-3)}{4!}x^4+\cdots$$ r < s および s ≠ 0 の任意の実数 r と s の組に対して |x|<1 の範囲に x = r/s となる x が存在するので、 $$\left(1+\frac{r}{s}\right)^a=1+a\frac{r}{s}+\frac{a(a-1)}{2}\frac{r^2}{s^2}+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}\frac{r^3}{s^3}+\cdots$$ $$\left(1+\frac{r}{s}\right)^a=\left(\frac{s+r}{s}\right)^a=\frac{(s+r)^a}{s^a}に注意して、$$ 上式の両辺にs(これは有限の値)をかけます。 $$(s+r)^a=s^a+ars^{a-1}+\frac{a(a-1)}{2}r^2s^{a-2}+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}r^3s^{a-3}+\cdots$$ というわけで、a が自然数の場合とも合わせて、一般2項定理が成立する事を意味します。(証明終)
この証明でややこしくて面倒なのは、\((1+x)^a\)のマクローリン展開が可能な x の範囲が |x|<1 という形で限定されているため、最初からマクローリン展開で直接に一般2項定理を示そうとすると話がこじれるところでしょう。

冒頭でも少し触れましたが、このように形としては指数が自然数でもそうでなくても同じ関係式が成立しますが、指数が負の数などの場合では項が延々とずっと続き無限級数になります。(単なる式の展開が無限級数とか微積分との関連もあるというのは、少し意外に思う人もいるかもしれません。)

2項定理が成立するとすると、単項式の微分公式が (x)’ =nxa-1となる理由が分かりやすくなるという利点があります。(ただしaが実数の場合には、一般2項定理は微分公式の証明にはなりません。指数が実数の場合の単項式の微分公式の証明は、普通は対数関数の微分公式を利用します。)