掛け算の九九
覚えるのは「9の段まででいい」?

掛け算の「九九」というものを日本の小学校では「暗記」させる慣習になってます。

他方、インドでは9の段までだけではなく11の段、12の段・・も暗記させるという事が一時期話題になりました。(※)

しかし、これに関しては「9の段まででよい」のです。このページではその理由を一緒に考えてみましょう。

(※) この「インド式」の計算が日本で語られたのは、それゆえに彼らはデジタル分野に強い、などといった文脈においてでした。しかし、個人的には理由づけとしてそれは疑問です。また、インドの全ての人がそのような計算の暗記をしているのかというと、必ずしもそうではないようです。

2ケタの数字同士の掛け算

1ケタ×2ケタの数の計算
2ケタの数の掛け算を暗算でやってみる
掛け算の「筆算」の仕組み 

かけ算の暗唱

1ケタ×2ケタの数の計算

4×14といった計算は、電卓を使ってもいいですが暗算でも計算できます。 (「暗記」ではありません。)

答えは56です。

これは簡単な話で、 4×(10+4)=40+16=56のように計算します。

紙に書いて「筆算」でやってももちろん計算できますが、これくらいだったら暗算でできるという人も意外に多くいるかもしれません。

2ケタの数の掛け算を暗算でやってみる

次に、11×12という掛け算を考えてみましょう。答えは、132です。

これはどうやって計算するかというと、

  • 面倒なので電卓を使う。(あるいはソロバンを使う etc.)
  • 「筆算【ひっさん】」を書いて計算する

の、どちらかの場合が多いと思いますが、暗算でやる方法もあります。考え方は上記と同じです。

11=10+1ですから、11×12=(10+1)×12です。

10×12=120で、これはケタが増えるだけなので簡単ですね。(当然、暗記も必要ないです。)

1×12=12でそのままです。

なので、(10+1)×12=120+12=132です。

12=(10+2)と考えても同じようにできます。その場合は11×12=11×(10+2)=110+22=132で、もちろん同じ結果となります。

同様に、14×15=14×(10+5)=140+70=210などの計算ができます。

17×18などになるとちょっと面倒ですが、考え方は同じなのです。
次に述べるように、この考え方は、じつは掛け算の「筆算」の考え方そのものです。

掛け算の筆算の仕組み
紙か何かに書いて筆算を行う事で試験での間違いを減らす事はできると思いますが、
これくらいの計算であれば普通に頭の中で解答を出す事も可能になります。

掛け算の「筆算」の仕組み

さて、紙に書く「筆算」というものがありますが、「書く」事自体は数学的な本質ではなくて、1の倍数、10の倍数、100の倍数、・・ごとに分けて考える事が本質と言えるでしょう。

例えば、324という数は300+20+4です。

324×12といった計算の「筆算」は、次のような計算をしています。

324×12=(300+20+4)×(10+2)=(3000+200+40)+(600+40+8)=3240+648=3888

掛け算の筆算というものは、この計算で各項の計算結果を忘れないように「紙に書く」のと、ケタが多い時に0を書くのが面倒なので「横にずらす」事でそれを簡略化しているという、それだけの技法です。

筆算の時は基本的に縦方向に書くのも、ケタを揃えて見やすくするというだけの理由でやってるものであり、本質的には横に書いても同じ事です。(小学校のテストで間違わないためには、算数の授業で教わってる通り縦書きで書いたほうがいいとは思います。)

中学・高校数学の「式の展開」とのつながり

「式の展開」と見比べてみよう
日本式かインド式か?

「式の展開」と見比べてみよう

さて、上記のような掛け算の計算自体は小学校でやる内容ですが、本質的には中学以降で教わる「式の展開」(その逆が因数分解)と同じ事と言えます。

式の展開とは、例えば

(x+y)(2a+b)=2ax+2ay+bx+by

と、いった計算です。

324×12=(300+20+4)×(10+2)という計算と、同じですね。

足し算・引き算・掛け算・割り算の加減乗除の四則演算は数学的にはこのような計算が可能な種類の演算ですよ、という事を「式の展開」は言っているわけです。

式の展開の考え方は、中学や高校でやって終わりというものではなくて、大学の数学や物理等でも普通に使います。しかし別に高度な事をやってるわけではなくて、本質的には小学校の掛け算とやってる事は同じなのです。

日本式かインド式か?

よほど暗記が得意か暗記が大好きで、覚えれるなら11の段以降も覚えてもよいと思います。(日本の高校生や大学生でも、11×11=121、12×12=144など、特徴的なものを自然に覚えている人は意外と多いと思います。)

しかし上記の通り、結局9の段まで分かっているなら2ケタの数の掛け算は1の位と10の位に分けて足し算すればよいわけですから、別に「暗記しなくても計算できる」わけです。しかも、数学的には式の展開の考え方につながる事から、より本質的であるとさえ言えるとも思います。

そういうわけで、12×13といった掛け算を「暗記」する必要があるか、子供に暗記させる必要があるかというと「ない」と、個人的には明確に思います。

さらにしかし、ではインドよりも日本の学校の方が勉強の教え方が優れていると言えるか?というと、それは全く別の問題です。個人的には、日本の学校の教え方が特別優れたものと言えるかはかなり疑問です。

なぜかというと、教える教員によっても変わると思うので一概には言えない部分も確かにありますが、日本の学校では「筆算の計算は筆算の計算」「式の展開は式の展開」といった具合に別々のものとして教える傾向が強いからです。しかも、個々の計算問題の正答を書けるかという事が重要視されます。

九九の計算にしてもとにかく強引にでも暗記せよという傾向が強くて論理的とは言い難い教育法ですし、高校や大学の教員でも、計算は「体で覚える」などと平気な顔をして言う人間もいるくらいです。(さすがに、大学の教員であれば今すぐにでも改めるべきだと思います・・。)

どういう仕組みで計算をしているのか理解させる事については、一般的な日本の学校とその教員にとっては大変な「苦手科目」であるのかもしれないのです。

最低でもその事を本質的に改善しない限りは、日本の教育のほうが優れているとは一概に言えないのではないでしょうか。