4次方程式の「解の公式」の導出方法を説明します。
公式の導出の流れ
3次方程式同様に公式自体は複雑で、理論の中ですらあまり計算の役に立ちません。そのため覚える事は一般に不要ですが、4解を必ず「係数のベキ根で表せる」という事が数学的な事実として重要な位置付けなのです。「4次」までは方程式の係数を使った解の公式が存在するという事です。
解法の手順は多少3次方程式の場合に似ていて、いくつかのステップを経て下位の次数の方程式に変形できる事が、公式を導出できる根拠になります。
- 方程式の各項を左右の辺に分けて平方の形を作る事を考える
- 方程式の解とは別の未知数yを考え、加える事で「平方=平方」の形になるyの条件を考える
- 結果:yは3次方程式の解になり、もとの方程式の係数のベキ根の組み合わせで書く事ができる。よって、もとの方程式の解xを表す「公式」を得る。
公式の導出
4次と3次の項と、その他の項を両辺に分けます。
$$x^4+ax^3+bx^2+cx+d=0$$
$$\Leftrightarrow x^4+ax^3=-(bx^2+cx+d)$$
左辺を平方の形にする事を考えます。そのために、両辺に2次の項を加えるのです。
$$両辺に\frac{ax^2}{4}を加えます。$$
$$x^4+ax^3+\frac{ax^2}{4}=-(bx^2+cx+d)+\frac{ax^2}{4}$$
$$\Leftrightarrow \left(x^2+\frac{ax}{2}\right)^2=\left(\frac{ax^2}{4}-b\right)x^2-cx-d$$
右辺は2次式なので、何かの項を加えれば強引に平方の形にできます。
しかし、ここでは左辺も平方の形である事を保ちたいのです。そのため、少々工夫をします。
今のこの状態で左辺は平方の形である事がポイントで、ある別の未知数yを使った次の項を両辺に加えます。
$$\left(x^2+\frac{ax}{2}\right)y+\frac{y^2}{4}を両辺に加えます。$$
$$\left(x^2+\frac{ax}{2}\right)^2+\left(x^2+\frac{ax}{2}\right)y+\frac{y^2}{4}=\left(\frac{ax^2}{4}-b\right)x^2-cx-d+\left(x^2+\frac{ax}{2}\right)y+\frac{y^2}{4}$$
$$\Leftrightarrow \left(x^2+\frac{ax}{2}+\frac{y}{2}\right)^2=\left(\frac{ax^2}{4}-b+y\right)x^2+\left(\frac{ay}{2}-c\right)x+\frac{y^2}{4}-d$$
左辺は再び平方の形であり、右辺はyという未知数を含んだ2次式です。
yという数を加える前との違いは、それを加える前の各係数は所定の(任意の)係数ですので値を自由にいじれませんが、yというのは変数であるこの段階では任意ですので調整がきくという事です。次に問題となっていくのは、右辺を平方の形するためのyを、「もとの方程式の係数a、b、cで表せるか?」という事です。
この段階で、右辺を平方の形にする事を考えましょう。これは、一般の2次関数をそのような形にするのと全く同じ要領です。式の形だけが多少込み入るので、右辺の式の係数をそれぞれA,B、Cと置いておきます。
$$右辺=Ax^2+Bx+Cと置きます。$$
$$Ax^2+Bx+C=A\left(x+\frac{B}{2A}\right)^2-\frac{B^2}{4A}+C=0$$
$$よって、-\frac{B^2}{4A}+C=0\Leftrightarrow B^2-4AC=0となればよい。$$
この計算自体は、2次関数や2次方程式をいじくる時のものと全く同じですね。ここで、A,B、Cをもとの形に戻して必要な条件を眺めてみましょう。
$$B^2-4AC=0\Leftrightarrow \left(\frac{ay}{2}-c\right)^2-4\left(\frac{ax^2}{4}-b+y\right)\left(\frac{y^2}{4}-d\right)=0$$
これが成立すればよいのですが、これを満たすyが存在するかという話です。式をよく見ると、これはyに関する3次方程式で、しかも係数はもとの4次方程式の係数a、b、cの組み合わせで構成されている事がポイントです。3次方程式ですから、これは「解の公式」が存在しますからyに関して解く事ができて、しかももとの4次方程式の係数a、b、cで表す事ができるのです。
その条件をyが満たすものとすると、もとの4次方程式は「平方=平方」の形になりますから、これは2乗の形をはずす事ができます。その時に、もちろん正負の2つの外し方があります。
$$\left(x^2+\frac{ax}{2}+\frac{y}{2}\right)^2=A\left(x+\frac{B}{2A}\right)^2$$
$$\Leftrightarrow x^2+\frac{ax}{2}+\frac{y}{2}=\pm \sqrt{A}\left(x+\frac{B}{2A}\right)$$
$$A=\frac{ax^2}{4}-b+y,\hspace{5pt}B=\frac{ay}{2}-c$$
つまり、xに関する「2つの2次方程式」ができます。もちろん、これはxについてさらに解く事ができるのです。また、解の個数は最高で2×2=4個という事も分かります。すなわち、4次方程式の「解の公式」も方程式の係数を使って表す事ができるという事が示された事を意味します。
ただしこれまでの経緯を見て分かる通り、まずyに関して3次方程式を解き、その解を係数として組み合わせた2次方程式をさら解くという作業があります。ですので、「4次方程式の解の公式」というのは少なくとも手計算では「使いたくない公式」である事はよく分かるかと思います。
2次方程式の解の公式も決してきれいな形ではないですが、あれはまだ一応手計算で「使える」公式であるという事が対比して分かると言えるかもしれません。
代数学の中での位置付け
さて問題は続き、「では公式の複雑さは度外視して、5次方程式も同じように『解の公式』を出せるのか」という話になります。結論は次の通りです:
- 1~4次方程式と同じ要領で、同じ意味での5次以上の方程式の「解の公式」を構成する事はできない。(それが数学的に正しい答えである)
- その事を数学的に証明するには、視点を変えたより抽象的な考察が必要である。
言ってみれば、3次方程式や4次方程式の解の公式の導出は、多少計算が複雑だったり工夫が必要だったりするものの、やる事自体は「高校数学」の範囲で理解可能であるものなのです。
他方で、「視点を変えてみた抽象的な考察」というのが、大学以上の授業で言う「代数学」の分野の内容だと捉えればよいと思います。数学史的には、19世紀以降に西欧で考察されるようになった数学の分野です。
言い換えるとそれは西欧でもその時期になって初めて本格的に研究されるようになった事案であって、言われなければ普通は気付かないし、言われずに気付いたとしても分かりやすい理論として即座にまとめるのは至難の業である事が反映されているように思えます。しかし簡単な事項から少しずつ整理すれば、もちろん誰にでも理解する事は可能です。