掛け算の九九
覚えるのは「9の段まででいい」?

掛け算の「九九」というものを日本の小学校では「暗記」させる慣習になってます。

他方、インドでは9の段までだけではなく11の段、12の段・・も暗記させるという事が一時期話題になりました。(※)

しかし、これに関しては「9の段まででよい」のです。このページではその理由を一緒に考えてみましょう。

(※) この「インド式」の計算が日本で語られたのは、それゆえに彼らはデジタル分野に強い、などといった文脈においてでした。しかし、個人的には理由づけとしてそれは疑問です。また、インドの全ての人がそのような計算の暗記をしているのかというと、必ずしもそうではないようです。

2ケタの数字同士の掛け算

1ケタ×2ケタの数の計算
2ケタの数の掛け算を暗算でやってみる
掛け算の「筆算」の仕組み 

かけ算の暗唱

1ケタ×2ケタの数の計算

4×14といった計算は、電卓を使ってもいいですが暗算でも計算できます。 (「暗記」ではありません。)

答えは56です。

これは簡単な話で、 4×(10+4)=40+16=56のように計算します。

紙に書いて「筆算」でやってももちろん計算できますが、これくらいだったら暗算でできるという人も意外に多くいるかもしれません。

2ケタの数の掛け算を暗算でやってみる

次に、11×12という掛け算を考えてみましょう。答えは、132です。

これはどうやって計算するかというと、

  • 面倒なので電卓を使う。(あるいはソロバンを使う etc.)
  • 「筆算【ひっさん】」を書いて計算する

の、どちらかの場合が多いと思いますが、暗算でやる方法もあります。考え方は上記と同じです。

11=10+1ですから、11×12=(10+1)×12です。

10×12=120で、これはケタが増えるだけなので簡単ですね。(当然、暗記も必要ないです。)

1×12=12でそのままです。

なので、(10+1)×12=120+12=132です。

12=(10+2)と考えても同じようにできます。その場合は11×12=11×(10+2)=110+22=132で、もちろん同じ結果となります。

同様に、14×15=14×(10+5)=140+70=210などの計算ができます。

17×18などになるとちょっと面倒ですが、考え方は同じなのです。
次に述べるように、この考え方は、じつは掛け算の「筆算」の考え方そのものです。

掛け算の筆算の仕組み
紙か何かに書いて筆算を行う事で試験での間違いを減らす事はできると思いますが、
これくらいの計算であれば普通に頭の中で解答を出す事も可能になります。

掛け算の「筆算」の仕組み

さて、紙に書く「筆算」というものがありますが、「書く」事自体は数学的な本質ではなくて、1の倍数、10の倍数、100の倍数、・・ごとに分けて考える事が本質と言えるでしょう。

例えば、324という数は300+20+4です。

324×12といった計算の「筆算」は、次のような計算をしています。

324×12=(300+20+4)×(10+2)=(3000+200+40)+(600+40+8)=3240+648=3888

掛け算の筆算というものは、この計算で各項の計算結果を忘れないように「紙に書く」のと、ケタが多い時に0を書くのが面倒なので「横にずらす」事でそれを簡略化しているという、それだけの技法です。

筆算の時は基本的に縦方向に書くのも、ケタを揃えて見やすくするというだけの理由でやってるものであり、本質的には横に書いても同じ事です。(小学校のテストで間違わないためには、算数の授業で教わってる通り縦書きで書いたほうがいいとは思います。)

中学・高校数学の「式の展開」とのつながり

「式の展開」と見比べてみよう
日本式かインド式か?

「式の展開」と見比べてみよう

さて、上記のような掛け算の計算自体は小学校でやる内容ですが、本質的には中学以降で教わる「式の展開」(その逆が因数分解)と同じ事と言えます。

式の展開とは、例えば

(x+y)(2a+b)=2ax+2ay+bx+by

と、いった計算です。

324×12=(300+20+4)×(10+2)という計算と、同じですね。

足し算・引き算・掛け算・割り算の加減乗除の四則演算は数学的にはこのような計算が可能な種類の演算ですよ、という事を「式の展開」は言っているわけです。

式の展開の考え方は、中学や高校でやって終わりというものではなくて、大学の数学や物理等でも普通に使います。しかし別に高度な事をやってるわけではなくて、本質的には小学校の掛け算とやってる事は同じなのです。

日本式かインド式か?

よほど暗記が得意か暗記が大好きで、覚えれるなら11の段以降も覚えてもよいと思います。(日本の高校生や大学生でも、11×11=121、12×12=144など、特徴的なものを自然に覚えている人は意外と多いと思います。)

しかし上記の通り、結局9の段まで分かっているなら2ケタの数の掛け算は1の位と10の位に分けて足し算すればよいわけですから、別に「暗記しなくても計算できる」わけです。しかも、数学的には式の展開の考え方につながる事から、より本質的であるとさえ言えるとも思います。

そういうわけで、12×13といった掛け算を「暗記」する必要があるか、子供に暗記させる必要があるかというと「ない」と、個人的には明確に思います。

さらにしかし、ではインドよりも日本の学校の方が勉強の教え方が優れていると言えるか?というと、それは全く別の問題です。個人的には、日本の学校の教え方が特別優れたものと言えるかはかなり疑問です。

なぜかというと、教える教員によっても変わると思うので一概には言えない部分も確かにありますが、日本の学校では「筆算の計算は筆算の計算」「式の展開は式の展開」といった具合に別々のものとして教える傾向が強いからです。しかも、個々の計算問題の正答を書けるかという事が重要視されます。

九九の計算にしてもとにかく強引にでも暗記せよという傾向が強くて論理的とは言い難い教育法ですし、高校や大学の教員でも、計算は「体で覚える」などと平気な顔をして言う人間もいるくらいです。(さすがに、大学の教員であれば今すぐにでも改めるべきだと思います・・。)

どういう仕組みで計算をしているのか理解させる事については、一般的な日本の学校とその教員にとっては大変な「苦手科目」であるのかもしれないのです。

最低でもその事を本質的に改善しない限りは、日本の教育のほうが優れているとは一概に言えないのではないでしょうか。

分数の割り算はなぜ分母分子を「ひっくり返して掛け算」になる?

このページでは分数の割り算について述べます。
内容としては小学校でやる算数ですが、計算の仕方の『理由』について分かりやすく述べます。

分数の割り算の計算方法

分数の割り算:ひっくり返して掛け算しよう
ある映画の場面:計算の理由を問いただす少女と、怒りだす姉

分数の割り算:ひっくり返して掛け算しよう

分数の割り算をする時は、分母と分子を入れ替えて掛け算をします。

例えば次のようにします。

$$1 ÷ \frac{1}{3}=1 ×\frac{3}{1}=3$$

$$2 ÷ \frac{2}{3}=2 × \frac{3}{2}=3$$

ある映画の場面:計算の理由を問いただす少女と、怒りだす姉

分数の割り算を質問したら怒られた
分数の割り算を質問したら突然怒られた?

昔、こんなアニメ映画の場面がありました。

小学生の女の子が、姉から算数の勉強を家で教わるのですが、女の子が「分数の割り算は『なぜ』ひっくり返して掛け算になるのか」と問いただし始めます。

その場面で姉の返答はどういうものであったかというと、机を叩き

「ひっくり返して掛け算するって決まってるのよ!!」

その場面は、それで終わりです。ある女性が子供の頃を回想する場面だったと思いますが、結局『なぜ』に対する答えは語られる事のないまま終わります。

ここでは、『なぜ』に対する答えを考えてみましょう。

理由はじつに簡単なもので、駄々をこねた女の子が悪かったのかというとそうではなくて、おそらく女の子も姉も両方とも、あまり良い形で算数や数学を学校で教えてもらっていなかったと解釈できるかもしれません。

考え方①:「1個の中に半分個はいくつありますか。」

1÷1/2 の型の計算
1÷2/3の型の計算

\(1÷\frac{1}{2}\) の型の計算

一番簡単だと思われる考え方は次の通りです。

1個の中に、半分個はいくつあるでしょう。もちろん2個ですね。

これが、1÷(1/2)=2であるという事です。

では、1個の中に3等分した(1/3)個はいくつあるでしょう?もちろん、3個あるのです。
これが 1÷(1/3)=3であるという事です。

もうお分かりかと思いますが、数がいくつでも同じ事であって、例えば1個の中に(1/100)は100個あります。

数がもっと大きくても、中途半端な数でも同じです。

$$1÷\frac{1}{721}=1×721=721$$

つまり、次のように計算してよいわけです:

$$1÷\frac{1}{N}=1×N=N$$

また、1『個』でなくとも、1kgでも1メートルでも、何でも同じ事ですね。

2や3を1/2などの分数で割る時は、例えば 2÷(1/2)については1個の中には半分個が2つあり、それが2個あるのですから 2÷(1/2) =2×2 =4であるわけです。

$$A÷\frac{1}{N}=A×N$$

\(1÷\frac{2}{3}\) の型の計算

では、1を2/3で割る場合はどうでしょうか。

この場合も、計算の工夫をするだけで、考え方は同じなのです。

まず、1を3等分します。すると、1/3は3個あります。これは、前述の1÷(1/3)=3の計算に該当します。

次に、3の中に、2はいくつあるかというと、3/2です。小数で表すならこれは1.5です。

つまり、

$$1÷\frac{2}{3}=1×3÷2=1×\frac{3}{2}= \frac{3}{2} $$

と、いう事です。

計算の途中で、確かに「ひっくり返して掛け算」になっていますね?

ようするに、1÷(2/3)は、「1/3の2倍」が1の中に何個あるかを調べる計算であり、手順としてはまず分母を掛け算し、次に分子で割ればよいという事なのです。

整理すると、次のような形です。

  1. 分母の数で等分する事で、小さいパーツを分母の数だけ作る、→ つまり分母倍する
  2. 分母の数で等分したパーツにそろえているので、それを分子の数で割ればそのまま答えになる。 → 分子で割る
  3. 結果的に、計算は「分母を掛けて」「分子で割る」事で行える → つまり、分母と分子をひっくり返して掛け算すればよい。

割る対象が1ではなくて2や3や他の数でも同じ事で、従って次のように言えるわけです:

$$A÷\frac{M}{N}=A×N÷M= A×\frac{N}{M}$$

割られる数のほうの A も分数や少数であっても構いません。考え方は同じ事です。

考え方②:掛け算と割り算は「逆演算」の関係にある

掛け算と割り算は互いに逆演算の関係
中学・高校的な考え方 

掛け算と割り算は互いに逆演算の関係

別の考え方もあります。こちらのほうが、より「数学」でよくやる考え方です。

分数とは、そもそも割り算であるという事にまず注目します。つまり、例えば1/3を掛けるという事は、3で割る事に他ならないわけです。

分数2/3などを掛ける場合は、3で割って2倍する(2を掛ける)と解釈できます。つまり次のように書けるわけです。

$$1×\frac{2}{3}=1÷3×2$$

ここで、掛け算と割り算は、計算の順番を入れ替えても結果は同じという事は重要です。たとえば、12を2で割って3倍すると18ですが、順番を入れ替えて12を3倍してから2で割っても同じ18になるのです。

$$1×\frac{2}{3}=1÷3×2=1×2÷3$$

さて、分数の割り算ではなくて普通の割り算の時に、?÷3=2という問題で「?」の部分を出すには、3で割って2になる数を見つけるわけです。それは6ですが、これは2を3倍してあげる事で見つける事ができるのです。つまりこのような問題では、割り算の部分を掛け算にする事で「?」の部分の答えが見つかります。

また、今度は掛け算の2×?=6という問題で「?」の部分を見つけるには6を2で割って3であると計算できます。「2を掛けると6になる数を見つける」事と、「6を2で割る」事は計算としては同じ事であるわけです。

次に、分数の割り算 「1を2/3で割る」を考えましょう。 この答えを仮にPとおきましょう。

$$ 1÷\frac{2}{3}=1 ÷( 2÷3)=P$$

すると、 ?÷3=2 という問題で「逆算」して掛け算で「?」の部分を見つけたのと同じ要領で

$$1=P×\frac {2}{3} =P×(2÷3)= P×2÷3 $$

となるのです。これをよく見てみると、1 = P × 2 ÷ 3 という関係になっています。という事は、「?÷3=2」や「 2×?=6」の問題と同じ形です。もう一度逆算してあげると、P の値を表せます。

  1. 1 = P × 2 ÷ 3
  2. 1 × 3 = P × 2
  3. 1 × 3 ÷ 2 = P

つまり、

$$P=1 × 3 ÷ 2 =1×\frac{3}{2}$$

であるという事ですが、もともとは

$$P=1÷\frac{2}{3}$$

だったのですから、

$$1÷\frac{2}{3}= 1×\frac{3}{2} $$

という事です。

掛け算と割り算が逆の演算である関係からは、必然的に「分数による割り算」は「分子と分母を入れ替えた掛け算」になる事を意味しています。

中学・高校的な考え方

やる事は本質的に上記と同じですが、等号で結んだ関係を同じ数で掛けたり割ったりしても等号関係は保たれる事を利用する方法もあります。

$$1÷\frac{2}{3} =P$$

式の左と右の両方の側(両辺)に「2/3」を掛けます。この時、式の左側(左辺)では、 「2/3」 で割って 「2/3」 で割るのですから、その部分は何もしない(1を掛ける)のと同じ事になります。

$$1÷\frac{2}{3}× \frac{2}{3} =P × \frac{2}{3} $$

$$ 1=P × \frac{2}{3} $$

この両辺に、今度は「3/2」を掛けます。

$$ 1×\frac{3}{2}=P × \frac{2}{3} ×\frac{3}{2} =P$$

つまり結果は同じで、分数の割り算は分母分子を入れ替えた掛け算になります。

$$ 1÷\frac{2}{3} = 1×\frac{3}{2} $$

この両辺にさらに、同じ分数を掛け算する形の計算により、一般に次のように言えます。

$$\frac{A}{B}÷\frac{M}{N}= \frac{A}{B} × \frac{N}{M}=\frac{A × N}{B × M} $$

まとめ

逆演算という考え方は、数学的には非常に広い範囲で使われるので考え方としては知っておくと便利です。より一般的には、2を掛けて2で割るといったように、ある演算と逆演算の「積」は1(恒等)、つまり何もしないのと同じになるという考え方をして話を進める事があります。

しかし、単純に普通の分数の計算で「割り算はなぜひっくり返して掛け算なのか」という素朴な疑問に対する答えは前述の「1個の中に半分個は2個ある」の考え方でも良いと思います。どちらにせよ、計算結果は同じになるからです。

もう1つ、そもそもそのように計算を『定義』してしまって、その定義のもとで話を進めているのだとする考え方もあります。特に数学者という人達は具体的な『モノ』を使って説明する事を嫌う傾向にあるので、「なぜですか」と聞かれたら「定義だ」と答える事が多いでしょう。

数学という学問の中での考え方としてはそれは間違っていないのですが、『説明』としては女の子の質問に対して怒りだして暗記を強要する姉とほぼ同じである事には注意が必要かとは思います。

確かに基本的には、計算の結果が合っていれば「説明できる」必要は必ずしもないのです。計算というのは、要するに答えが合っていればよいという考え方もあるからです。しかし、子供が何か疑問に感じた場合にはきちんとそれに答えるという事も算数・数学教育では大事な事だと思います。特に、生徒からの質問に対しては、大人は誠実な気持ちで適切に対応する必要があるでしょう。

マイナス×マイナスがプラスになる理由【負の数の掛け算】

「マイナスとマイナスをかけるとプラスになる」事の理由と意味について説明します。
(この記事内では「証明」と言わずに「説明」という語を使っています。)

負の数の乗法

負の数を含む掛け算(積、乗法)の符号の決まり方は次の通りです。

  • (+1)×(-1)=-1
  • (-1)×(+1)=-1
  • (-1)×(-1)=+1

尚、正の数同士の掛け算はもちろん(+1)×(+1)=+1 です。

簡単な引き算による説明

マイナス2かけるマイナス2は、プラス4になります。
これはなぜかというと、「『そのようになるように』計算を定義しているから」なのですが、
なぜそのように定義しているのかを考えてみましょう。

2つの数の引き算を考えます。
5ひく3は、2です。
5-3=2という、小学校で教わるか、あるいは教わらなくても説明されればすぐに分かる計算ですね。

ここで、3という数を2プラス1と考えて、
5から「2プラス1」を引いても、もちろん2という同じ計算結果になります。

■ 5-(2+1)=2 
-(2+1)の部分は(-1)×(2+1)=-2-1=-3
文字式であれば -(A+B)= -A-B の計算です。

では、3という数を「4マイナス1」と考えた場合はどうなるでしょう。
その時には
5-3=5-(4-1)と考える事ができます。
ここで-(4-1)の部分を、-(2+1)と同じ計算の仕方で「展開」するとすると、
-(4-1)=(-1)×(4-1)
-4+(-1)×(-1)という「負の数同士の掛け算」が現れるわけです。

マイナス同士の掛け算②

じつは、5から「4マイナス1」を引くという計算をした時に、
「5ひく3」と同じ結果を得るために必要なのが、「マイナス同士をかけるとプラスになる」という計算の定義です。

5から4を引いたら1ですから、5から3を引いた場合よりも「1だけ多く引き過ぎ」なのです。正しい計算結果に補正するために、5から4を引いて1を加えると、5引く3と同じ結果です。

この補正のために加えている分が、マイナス同士のかけ算でプラスになる部分です。

マイナス同士の掛け算③

★ 5-3=2ですから、5-3=5-(4-1)=2です。
ここで、負の数を含んだカッコ内を上記の考えで『展開』できるとすると、
5-(4-1)= 5-4+(-1)×(-1)=1+ (-1)×(-1) ですから、
1+(-1)×(-1) =2 ⇔(-1)×(-1) =1 となるわけです。
別の例でやってみると、
例えば6-2=4
6-(4-2)=4
2+(-1)×(-2)=4
(-1)×(-2)=+2 
のようになります。

あるいは、次のような図で考えてみる事もできるでしょう。
考え方は1つではありません。

例として7-(5-2)の計算を考える時、仮に7から5を引いたら結果は2ですが、これはもちろん7-3と比較したら「引き過ぎ」ですね。では、多く引き過ぎている部分はどこかというと、マイナス3に対して、「マイナス2が余分」であるわけです。

したがって、7-5は7-3に対して「2を多く引き過ぎている」のですから、「2を加えてあげれば」、7-3と同じ結果になるわけです。式で書くなら、7-5+2=7-3で、左辺が意味するものは「7-(5-2)」であるという解釈もできるでしょう。これはつまり、「-(5-2)=-5+2と考えるべきである」、すなわち、マイナスとマイナスの掛け算はプラスになるべきという説明になります。

★ A-(A-B)=B ⇔ A-A+(-1)×(-1)×B=B
⇔ (-1)×(-1)×B=B ⇔ (-1)×(-1)=+1 のように考える事もできます。
これは、全体Aから何かを引いたらBになる時、その「何か」とは当然「AーB」であるという考え方ですね。
具体的には例えば7-(7-5)=5といった「当然の計算結果」です。

物理から考えてみる説明

高校数学等で学ぶベクトルは、マイナス符号をつけると(つまりマイナス1を掛け算すると)「逆向き」になるという規則があります。

では、もし「逆向きのさらに逆向き」を考えるとどうなるでしょうか?
それはもちろん、もとの向きに戻るのです。
ですから、その事が「マイナスとマイナスを掛けるとプラスになる」という計算規則と調和するのです。

このように負の数の乗法は物理などでの応用でも意味を持っています。

その考え方のもとでは、マイナス同士の掛け算は次のように説明する事もできます。

まず、1+(-1)=0です。

次に、この両辺に「-(-1)」を加えると考えましょう。
(あるいは両辺から「-1」を引く)

すると、
1+(-1)-(-1)=-(-1)で、
(-1)-(-1)=0と考えるなら、
1=-(-1) 

このようにして、「マイナス1にマイナス符号をつけるとプラス1である」と説明する事もできます。

ベクトルで書くなら次のような形です。

$$-(-\overrightarrow{a})=\overrightarrow{a}$$

一般的に物理や工学では、マイナスの符号は「逆向き」の意味で使われます。
マイナス1をかける事によって、速度、力、電流などの向きが、特定の方向とは逆向きである事が表現されるのです。

※この場合には基本的に数学的な考え方が最初にあって物理に当てはめていると考える事ができます。しかし、もし物理法則を説明するために既存の数学体系では不足するものがあった場合には、必要な数学的規則を新たに考えてもよいとも言えます。それは滅多に無い事ではありますが、強調されてよい事であるとも思われます。

マイナス同士の掛け算⑤
南北や東西など、逆向きの方向である事を数式で表す時にマイナスの符号を使えます。
電流の場合。電子の流れと考えてもよいですが、発生する磁場の向きによって電流の向きを考える事もできます。
これらの応用でマイナス符号を使う時も、マイナス同士の掛け算はプラスになるという計算規則をそのまま使う事ができます。

あるいは、温度計などで、冬場に「気温はマイナス3度」といった表現は聞いた事があると思います。そのように、基準点であるゼロを突き抜けて下がる量がある時にもマイナスの考え方は便利です。ただしこのような使い方の場合はマイナスの「掛け算」はあまり使いませんね。用途や使用目的に応じて特定の計算を使うか使わないかは変わってきます。

デジタルでの使い方

デジタルで絵を描いたり、ゲームを作ったりという時にもプログラムのレベルにおいて(-1)×(-1)の演算が使われる事があります。一般的なプログラミング言語では乗法の演算として(-1)×(-1)=+1という通常の数学での実数の演算と同じ規則が採用されています。【多くの場合、プログラミングでは乗法の演算の記号としては *(アスタリスク)が使われます。】

普通、デジタルで画像を画面に表示させる時には座標の指定が行われています。この時に画像の表示位置画像の倍率指定においてマイナス符号を「反転」の意味を表すように紐づける事が可能で、さらに負の数同士の乗法も上手に活用する事ができます。

例えば倍率に対しては(-1)を1回乗じると向きの反転が行われ、もう一度(-1)を乗じると元の向きに戻るという演算として使えるわけです。+1を乗じた時には数値が変化しない事から、「何も変化なし」を意味します。

座標の反転に関しては、x座標だけでなくy座標も同時に符号を反転させれば「原点に対して対称」である位置への移動を考える事ができます。
倍率の指定での使い方に関しては、例えば「-2」を乗じる事で「反転して2倍に拡大する」といったように反転と大きさの倍率を統一的に扱う事ができます。

市販されているソフトウェアを使う時には数学的な演算を自分でやらなくてもよい(やらなくてもよいように設計されている)事は多いですが、自分でもプログラミングをやる場合は知っておくと便利です。また、自分ではプログラミングをやらなくても教養的な知識として知っておいてもよい事ではないかと思います。

考え方としてはベクトルに対しての応用と全く同じで、(-1)×(-1)=+1を上手に使っているわけです。

写真素材:pixabay.com より

より数学的な考察と数学教育上の問題

最初の例のように
5-(4-1)=5-4+(-1) × (-1) という計算が
5-(4-1)=3に等しいと考える説明は、
もう少し詳しい数学の用語で言うと「分配則(あるいは分配法則)が成立する」という条件での説明を述べています。分配則は式の展開のような計算規則を指します。

ち a(b+c) = ab + ac が成立するというのが分配則の内容です。それが負の数に対しても成立すると考える(そのような集合を考える)事によって負の数同士の乗法も考える事になります。

言い換えると、もし「負の数に対する分配則」を認めない(認めない集合を考える)のであればその時点で「負の数同士の乗法」に対して理由の説明も証明も何も無い事になるとも言えるわけです。

これは前述の具体例での説明での7-(5-3)のような計算で「マイナスの数についても式の展開を考えるなら」という点を強調している理由でもあります。
もしもその分配側を使った計算自体があり得ないと考えるのであれば、マイナス同士の掛け算という計算自体があり得ないためです。

であるから、もし中学生の人が「マイナスに対して掛け算を考える事自体がそもそもおかしい!認めない」と言うなら、必ずしも誤りとは言えません。考えている対象の数学的集合が異なれば、そういった話の食い違いが生じます。

従って当該反対意見には「それはもっともな事であるが、ここではそのような性質を持つような数学的集合を定義して、考えてみよう」と言うのが正しい回答(「解答」ではありません)かもしれません。

さらに言えば「優先して学ぶべき数学的対象は何か」という意味ではさらに説明が必要となるとも言えます。

同じ「計算を多く行う」学問でも例えば商学(簿記や会計などを扱う学問)であれば負の数同士の乗法や除法はあまり重要ではないし、それ以前に実数に対する深い考察自体がそれほど重要ではないと言えます。
しかし対象の学問が理学・工学系であると話が変わってくるわけです。

純粋数学の研究を特に行うわけではない中学や高校の授業や講義では、やはり「数学はどのように使われるのか」という事まで含めて考えるべきなのかもしれません。負の数を考えなくてもよい場面もあるし、前述のように逆に考えたほうがよい場面も存在するからです。その事まで含めて説明をする必要がある可能性は大いにあるのではないでしょうか。

負の数同士の乗法で非常に特徴的な利点としては何かの向きを変えた時に、さらにもう一度向きを反転させると「もとの向きに戻る」という事の表現に使える事であると言えます。

これは数学の応用という観点からだけでなく、純粋数学的に数学の考察をしていくうえでももちろん重要な事項となります。例えば三角関数の微分を繰り返すともとの関数に戻りますが、これは(-1)×(-1)=+1の演算がなければ成立しません。当該演算は、微積分も含めて実数や複素数とその関数を数学的に調べていくうえでも重要な基礎となっている関係式であると言えます。

■動画の声優御担当:ステ♪ 様 http://sute.tabigeinin.com/
BGM:音楽の卵