【群論】交換子・交換子群・交換子群列

交換子群は多項方程式の可解性(ベキ根で解ける事)との関連性が非常に深い群です。

交換子と交換子群

Gがあって、xとyがその元であるとします。
この時、xyとyxは等しいとは限りません。

他方で、x-1-1xy という4つの元の積からなる別の元を考えてみて、
これを [x,y] と書く事にして「交換子」(commutator)と呼ぶ事にすると、
[x,y][y,x]=[y,x][x,y]=e【単位元】となります。
【[y,x]=y-1-1yxで、[x,y][y,x]=x-1-1xyy-1-1yx=e】
つまり、任意の群の交換子[x,y]と[y,x]は互いに逆元の関係にあなります。

また、次のような性質もあります。
yx[x,y]=xyであり、
xy[x,y]-1=yx 【2番目の式はxy[y,x]=yx でも同じ】
であるという関係式が成立します。
【群の逆元の演算規則により、(x-1-1xy)-1=y-1-1yxである事に注意】
つまり、右から乗じる(逆元の形も含めて)事で任意の積の順序が入れ替わる作用も持ちます。

ここで、交換子が「単位元eに等しい」という場合があり、次の事が成立します。

群の任意の元に対してx-1-1xy=eならばxy=yxです。
つまり、群の任意の交換子が単位元に等しいならば群は可換である という事です。
(逆に、群が可換であれば任意の2つの元で作る交換子は単位元に等しい。)
◆証明:
両辺にyxを左から乗じて、x-1-1xy=e ⇒ xy=yx
両辺に (yx)-1=x-1-1 を左から乗じて、xy=yx ⇒ x-1-1xy=e
∴ x-1-1xy=e ⇔ xy=yx

実際、もとから可換であれば xy=yxなので当然xye=yxという、
一般の交換子が持つ作用と同じ形の関係式が成立するわけです。

そのような交換子の形をした元から成る群(これはGの部分群になる)を交換子群と言います。
D(G)={x-1-1xy|x∈G,y∈G}です。

Gの2つの部分群の元を使った交換子群を考える場合には括弧積 [ ] を使った書き方もします。
[A,B]={a-1-1ab|a∈A,b∈B}【A⊂G,B⊂G】

交換子群の性質

交換子群については、群Gの部分群としていくつかの性質があります。

交換子群の性質
  • 交換子群D(G)はGの正規部分群
    \(G\triangleright D(G)\)
  • 剰余群G/D(G)【D(G)が正規部分群なので定義できる】は可換
  • Gの正規部分群Nに対して剰余群G/Nが可換ならば、D(G)はNの部分集合となる。
    \(G\triangleright N \Rightarrow D(G)\subset N\)
  • 交換子群は可換な剰余群を作る正規部分群としては最小のものとなる。

正規部分群とは、Gの任意の元に対してtN=Nt【集合として同じものになる】
が成立するGの部分群Nの事であり、
剰余群とはGが正規部分群Nを持つ時に定義されるもので、Gの元に対する剰余類を元とする群です。
Nx、Nyを考えた時に、剰余群の積は(Nx)(Ny)=N(xy) 、逆元は(Nx)-1=N(x-1)と定義します。

◆交換子群の性質の証明:
tをGの任意の元とします。すると
t(x-1-1xy)t=(t-1-1t)(t-1-1t)(t-1xt)(t-1yt)
=(t-1xt)-1(t-1yt)-1(t-1xt)(t-1yt)∈D(G)
【t-1xtの形の元は交換子の形になっているため】
であり、tD(G)t-1⊂D(G)
【これはD(G)がG正規部分群であるために十分な条件。】
∴\(G\triangleright D(G)\)

次に、剰余群G/D(G)を考えると剰余類【これが剰余群の元】はD(G)x、D(G)yなどと書けますが、
G/D(G)の交換子を考えると
(D(G)x)(D(G)y)=D(G)(xy)【これが剰余群の演算の定義】
また、剰余群の逆元についても同様に考えると、
(D(G)x)-1(D(G)y)-1=(D(G)x-1)(D(G)y-1)=D(G)(x-1-1)
という事は、剰余群G/D(G)に対する「交換子」は
(D(G)x)-1(D(G)y)-1(D(G)x)(D(G)y)=D(G)(x-1-1xy)
しかしx-1-1xy∈D(G)なので、
集合としてD(G)(x-1-1xy)はD(G)に一致します。
D(G)そのものは剰余類としてはD(G)e 【eはGの単位元】であるから、
(D(G)x)-1(D(G)y)-1(D(G)x)(D(G)y)=D(G)e 【D(G)e=D(G)はG/D(G)の単位元】
∴任意の元で作った交換子が単位元に等しいのでG/D(G)は可換。

剰余群G/Hが可換であるなら剰余類【剰余群の元】について
H=He=H(x-1xy-1y)=H(x-1-1xy)【xとyはGの元】
つまり、H(x-1-1xy)は集合としてHに等しく、
Gの交換子群の任意の元はHの要素となるため、D(G)⊂H

Gの交換子群でない任意の可換な正規部分群は交換子群を含むので、交換子群よりも小さな正規部分群は他にはない。交換子群も可換な正規部分群なので、可換な正規部分群のうち最小のものという事になります。

交換子群列

交換子の理論の中でも、特に多項方程式の可解性に関わるのが交換子群列です。

Gの交換子群をD(G)とし、D(G)の交換子群をさらにD(G)とします。そしてさらにD(G)の交換子群を考えてD(G)とし、さらにD(G)の交換子群をD(G)とします。
・・・そういう感じでD(G)の交換子群をDk+1(G)という形で定義していくと、\(D_k(G)\triangleright D_{k+1}(G)\) となるような群の列ができます。その列を交換子群列と言います。

交換子群列

交換子群列とは、交換子群によって作る次のような列の事です。 $$G=D_0\supset D_1(G)\supset D_2(G)\supset D_3(G)\supset D_4(G)\cdots$$ $$D_{k+1}(G)はD_1(k)の交換子群$$

ところで、そのように交換子群列を次々に続けていった時に、無限に続くのか有限で終わるのかという話があります。これは、続けて行った時に単位元のみからなる{e}が現れた時を「終わり」という事にすると、有限で終わるものとそうでないものがあります。

(G)={e}となる自然数kが存在する時、おおもとの群Gを特に可解群と言います。
なぜそのように呼ぶのかというと、その大きな理由は「多項方程式が『ベキ根で解ける』時、解による拡大のガロア群の交換子群列は有限回で{e}で終わる(=可解群である)」という性質によります。

ところが、5次以上の多項方程式においてそのガロア群は対称群(置換群)であり【正確にはそれと同型】、
実は5次以上の対称群は可解群にならないのです。よって、一般の5次以上の多項方程式は「ベキ根で解ける(=係数とベキ根を使った解の公式が存在する)」部類の多項方程式に属さない、という命題が成立します。
一般の1~4次方程式のガロア群は可解群になります。

$$可解群:D_k(G)={e}となるようなkが存在する群G$$