偏微分の応用の例:位置エネルギーと保存力の関係

合成関数に関する偏微分の公式の物理での使用例を、ここでは1つ述べます。

★ このページではベクトル解析で使用する「勾配」という考え方を使用します。
これは、多変数関数(多変数のスカラー関数)に対する偏微分によって表されるものです。

参考(サイト内リンク):接線線積分の定義と考え方

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

先に結論の式を書きますと、力が「保存力」である場合に、位置エネルギーのxでの偏微分をx成分、yでの偏微分をy成分、zでの偏微分をz成分に持つベクトルは、保存力の力ベクトルに等しいという関係式があります。【※保存力で無い場合は成立しませんので注意。】

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

まず、「位置エネルギー」(あるいはポテンシャルエネルギー)U(x,y,z) を次のように定義します。これはベクトルでは無く、スカラー関数です。 $$\large U(x,y,z)=-\int_{\overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}}\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot d\overrightarrow{r}$$ $$\large \mathrm{grad} U(x,y,z)=\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y},\frac{\partial U}{\partial z}\right)$$ 力ベクトル F(x,y,z) が保存力である場合、次式が成立します:$$\large -\mathrm{grad} U(x,y,z)=\overrightarrow{F}(x,y,z) $$

★ プラスマイナスの符号の関係が、ちょっとごちゃごちゃするので注意。

「勾配」grad (または∇「ナブラ」)については、詳しくはベクトル解析という分野で説明されます。

この関係式は、古典力学の理論としては仕事とエネルギーの関係の話の延長線上にあります。

これは要するに数学的には、
接線線積分の形の多変数関数の勾配ベクトルは、もとのベクトル関数と同じ形になる」
という事を言っています。通常の不定積分(あるいは積分区間に変数が入った定積分)は、通常の微分を考える事で元の関数に戻るという「微積分学の基本定理」がありました。それと似た形の式という事になります。

この関係式の証明のポイントは、合成関数の偏微分公式です。
ベクトルの内積の計算も直接的に関わります。

\(-\mathrm{gradU(x,y,z)}= \overrightarrow{F}(x,y,z)\) の証明

まず通常の微積分学の基本定理を用いたうえで、ベクトルの内積と合成関数の偏微分の公式をうまくかみ合わせます。

位置座標は全て「物体の位置」であるとして、位置座標に対応する時間成分tを考えます。
力ベクトルの成分についても同様に tの関数であると考えます。

$$\large \overrightarrow{F}(t)=(F_X(t),F_Y(t),F_Z(t))$$

$$\large 点\overrightarrow{R} での時刻をt、点\overrightarrow{R_O} での時刻を t_O とします。$$

最初のステップ $$\large -U(x,y,z)=\int_{ \overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot d\overrightarrow{r}=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$ $$\large =\int_{t_O}^{t}F_X(\tau) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y(\tau) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z(\tau) \frac{dz}{d \tau } d \tau $$ $$★ 時間についての積分変数の表記はt → \tau (タウ)に変えています。$$

Uの定義(力学での定義です)にマイナス符号があるので、
ここでは最初から「-U」を考えて、積分での表記をプラス符号で考えています。

★ 後述しますが、力が「保存力」であるという条件がないと、じつはまずこの式変形ができません。なぜかというと一般の接線線積分は、2つの端点だけでなく、その2点を結ぶ経路によって値が変わってしまうからです。力が保存力であるという条件は、この値が経路によらず一定の値であるとしてよいという条件です。

★ 古典力学の理論の中では、もともとは一般の力に対して時間で表したほうの式が先にあって、次に「保存力」という位置座標のみで決定するものを考えます。

★ 積分区間にベクトルが入っている部分は、次の意味になります。 $$\large \int_{ \overrightarrow{R_O} }^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot{d\overrightarrow{r}} $$ $$\large =\int_{x_O}^{x}F_X(x,y,z)dx+ \int_{y_O}^{y}F_Y(x,y,z)dy+ \int_{z_O}^{z}F_Z(x,y,z)dz $$ $$\large \overrightarrow {F}=(F_X,F_Y,F_Z),\hspace{10pt}\overrightarrow{R_O}=(x_O,y_O,z_O),\hspace{10pt}\overrightarrow{R}=(x,y,z)$$ dx の部分は x に関してだけ積分し、yやzは定数同様に扱います。つまり、偏微分と同じような考え方をするわけです。この場合の微積分学の基本定理は、積分と「偏微分」との関係になります。

次に、時間成分tで U(x,y,z) = U(x(t), y(t), z(t)) を微分します。
内積計算で3つの項の和にした部分は共通の積分変数tでの積分になっているので、通常の微積分学の基本定理がそのまま使えます。

この時、積分する対象として $$\large F_X(t) \frac{dx}{dt}$$ を1つの関数と捉える事がポイントです。
積分中の表記では$$\large {F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau}}$$ にしています。

成立する式:その①

$$\large\frac{dU}{dt}= \frac{d}{dt}\left(\int_{t_O}^{t}F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y( \tau ) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z( \tau ) \frac{dz}{d \tau } d \tau \right)$$

$$\large = F_X(t) \frac{dx}{dt} + F_Y(t) \frac{dy}{dt} + F_Z(t) \frac{dz}{dt}=\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

他方で、合成関数の偏微分公式を使うと U の時間微分の計算を別途に表現できるのです。
この場合、多変数 x、y、z が1つだけの変数tの合成関数になっているという事なので、表記としては$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}です。$$

ただし、もとの関数が U(x,y,z) という多変数関数なので、偏微分のほうの合成関数の微分公式を使う点に注意しましょう。

成立する式:その②

$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}= \frac{\partial U}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial t}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial t} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{\partial z}{\partial t} $$ $$\large = \frac{\partial U}{\partial x} \frac{dx}{dt}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{dy}{dt} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{dz}{dt} =(\mathrm{gradU})\cdot \left( \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt}\right) $$

最後の結果は「Uの勾配ベクトル」と「速度ベクトル」との内積です。
内積はスカラーであり、勾配はスカラー関数をベクトルの関数変換する演算である事を意識すると分かりやすいと思います。

同じものを2通りの数式で表せる事になるので、等号で結ぶ事ができます。
これによって、次の関係式が成立する事になります。

$$\large – \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

$$これは、\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} という関係になっています。 $$

これが証明の根拠になるわけですが、数学的には
\(\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} \) から直ちに\(\overrightarrow{A}= \overrightarrow{B}\) とは言えない事には注意しましょう。
そうならない場合もあるのです。
しかし、この場合は \(\overrightarrow {R}\) が特定の座標点では無くて「任意の座標点」です
特定の点だけではなく、どんな座標の点を考えたとしてもこの関係式は成り立つ、という意味です。
ですから、\(\overrightarrow {R}\) に対して内積をとると等しい値になる2つのベクトル\(– \overrightarrow{F}(x,y,z)と\mathrm{gradU(x,y,z)}\) は、全く同じ関数でなければならないのです。

$$ つまり 、- \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} かつ 「\overrightarrow {R} は任意の(実)ベクトル」なので、$$

$$-\overrightarrow{F}(x,y,z)=\mathrm{gradU}(x,y,z)\Leftrightarrow -\mathrm{gradU}(x,y,z)= \overrightarrow{F}(x,y,z) という事です。【証明終り】$$

「保存力」の物理的な意味

保存力とは力がなす仕事が経路に依存せず、始点と終点の位置だけに依存する力を言います。これは結構強い条件が課されている事になりますが、万有引力、重力(地表面での万有引力を近似したもの)、ばねの力、クーロン力などは保存力になるので、物理の理論の中では結構使い物になります。

逆に、保存力でない力の簡単な例は摩擦力などです。

一般の力ベクトルに対しては、少しだけ上述でも触れましたが、
次の形の時間変数による積分が先にあります。

$$\large T(t)-T(t_O)=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$

ここで、1変数の通常の積分であれば積分変数をtからxに変換できます。

しかし、この場合は「接線線積分」なので、経路は1通りでは無く様々なものがあるのです。

経路によって値が異なりますから、同じ値の定積分になるという意味での積分変数の変換は無条件にはできない・・という事です。

ベクトルに対する一般の接線線積分の場合、値が始点と終点だけでは決定しないので次のように表記します:

$$一般の接線線積分の表記:\int_C \overrightarrow {F} \cdot d \overrightarrow {r}\hspace{10pt}Cは特定の関数で表される経路 $$

ここで、経路によらず「経路の始点と終点だけをしていれば値が定まる」という条件をつけると、もちろん数学的な扱いは簡単になります。
そのような条件がつけられた種類の力が保存力であり、上記のように具体的に当てはまる力も存在するというわけです。

保存力がなす仕事の値(仕事量)は始点と終点の位置だけで決まります。これを「位置エネルギー」あるいは「ポテンシャルエネルギー」などと呼びます。
これは運動エネルギーに対する用語です。位置エネルギーと運動エネルギーの合計を、力学的エネルギーと呼びます。
尚、保存力ではない摩擦力などの力に対しては、位置エネルギーは考えないのです。

これを数学的に取り扱った場合、上述いたしましたように、合成関数に対する偏微分の公式などが重要な役割を担っているというわけです。

微積分学の基本定理の理論

このページでは、高校で教わる範囲の積分公式についての、
やや理論的な一般的性質と式表現の一部について詳しく説明します。
(英:微積分学の基本定理 fundamental theorem of calculus)

積分は微分の逆演算という関係

■ ここでは、合わせて原始関数についての説明も続けてしています。

微積分学の基本定理

微積分学の基本定理の数式表現

「微分操作の逆演算は積分操作」というのが微積分学の基本定理の内容です。表現の方法はいくつかありますが、てきとうな定数を c として$$\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)$$という表現をするのが、1つの形です。(※変数の表記方法に注意してください。関数としての変数は、あくまで x です。)「ある関数の積分を微分すると元の関数」という事実の表現という事です。$$\int_c^xf(t)dt$$ という表現は、「定積分で積分区間の片方の端の値を変数と考えた場合」の事を言っているのですが、
分かりにくい場合、$$S(x)=\int_c^xf(t)d$$ とおくと、少し見やすくなるかもしれません。
積分区間の片方の端の値 a は固定して、右側の値をずずずっと変化させると「面積」の値も変わります。変化させる「右側の端の値」を変数 x として、面積である定積分を関数 S(x) として考えているわけです。

後述する「不定積分」の形で微積分学の基本定理を表す事もできます。
その場合の表記は、$$\frac{d}{dx}\int f(x)dx=f(x)$$ です。
微積分学の基本定理の証明(このページ内リンク)・・考え方としては、かなり平易です。

原始関数

「原始関数」とは?

\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\) とおく時、微積分学の基本定理は\(\frac{d}{dx}S(x)=f(x)\)とも書けて、
S(x) は「微分すると f(x) になる関数」と見る事もできます。

このように\(\frac{d}{dx}G(x)=f(x)\)を満たす G(x) を f(x) の「原始関数」と言い、
\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\)は、f(x)の「原始関数の『1つ』」です。
この時、任意の定数 C を用いて S(x) + C もf(x)の原始関数なのです。(※定数を微分しても0なので。)
この任意の定数 C は「任意定数」「積分定数」などと呼ばれます。

定積分は原始関数で表せる

さて、この\(S(x)=\int_c^xf(t)dt\)に具体的な値 x = a, b を代入する事を考えます。
\(S(a)=\int_c^af(x)dx,\hspace{10pt}S(b)=\int_c^bf(x)dx\) であるわけですが、
(※積分区間に変数 x を含んでいないので dt ではなくdx 表記にしています。また、積分区間の端点が定数であれば、定積分は x の関数ではなく、あくまで何らかの「定数」になる事にも注意が必要です。)

積分する方向と符号との関係、および積分区間の合算の事を考えますと、$${\small S(b)-S(a)=\int_c^bf(x)dx-\int_c^af(x)dx=\int_c^bf(x)dx+\int_a^cf(x)dx=\int_a^cf(x)dx+\int_c^bf(x)dx}=\int_a^bf(x)dx$$
となり、[a, b] 上で関数を積分する定積分が 「S(b)-S(a)」で表される事を意味するのです。(c というてきとうな定数は、中間点にあるものと考えて、定積分の値には影響しないというわけです。)

そして微積分学の基本定理によれば、S(x) は「f(x) の原始関数(の1つ)」
です。
原始関数同士の引き算を考える場合、(S(b) + C) – (S(a) + C) = S(b)-S(a) となり任意定数は必ず消える事に注意すると、

[a, b] 上で f(x) を積分して得られる定積分は、
原始関数(=微分するとf(x)になる関数) S(x) を用いて次のように表せます:
$$\int_a^bf(x)dx=S(b)-S(a)$$
そして、このS(b)-S(a)の事を通常、次のように書くのです。
$$S(b)-S(a)=\left[S(x)\right]_a^b $$

この記号を用いると、
$$定積分は\int_a^bf(x)dx=\left[S(x)\right]_a^b と表されます。$$
この表現方法が、数学の理論でも物理でも、通常用いられる定積分の計算になります。この意味で、面積としての積分の考え方も重要なのですが、同じく重要なのが「微分と関連付けされた積分演算」というわけです。

積分の変数を dx ではなく dt などに変えるのはどんな場合?

上記の微積分学の基本定理の形では、積分区間(積分する閉区間)に x という変数が入っていて、その x を微分をしています。このような時、f(x)dx については数学では一般的に、f(t)dt などのように、文字を変える決まりになっています。

物理の本などでは「\(\int_a^x f(x)dx\)」のような表記がしてある事もありますが、一応数学的にはあまり良くないので、このサイトでは一般的な数学の決まりに従って積分区間に変数がある時は\(\int_a^x f(t)dt\)のように記します。(記号として t を用いると「時間」と紛らわしい場合は、適宜ギリシャ文字の τ で代用するなどして対応します。)

導関数(関数の微分)を積分すると?・・もとの関数に戻る!

微積分学の基本定理を、ある関数の導関数(ある関数の微分)に適用すると、
「微分したものを積分すると元の関数になる」事が言えるので、微分と積分の関係がより明確になるかと思います。この関係は、微分方程式論で重要です。

$$\frac{d}{dx}\int_c^xf^{\prime}(t)dt=f^{\prime}(x)\hspace{10pt}しかしf^{\prime}(x) の原始関数は f(x) + C に他ならないので $$
$$\int_c^xf^{\prime}(t)dt=f(x) + C$$

微分方程式論においては、任意定数 C というオマケを、任意ではなく「特定の」値に決定するための処理をします。
これは、例えば具体的な f(0) = 0 などと言った値が(1つでも)決まれば C の値も決まるので、積分操作によって関数が1つにきちんと定まるというものです。


原始関数の例

例えば、sin x の原始関数は – cos x + C です。定数を微分するとゼロになるので、原始関数としては任意の定数として積分定数がオマケとしてくっついてくるわけです。cos x の微分は -sin x なので、「マイナス符号を消す」ために -cos x を考えている事に注意してください。

また、\(x^2\) の原始関数は、\(\frac{1}{3}x^3+C\) です。
3次の単項式を微分すると2次の単項式にはなりますが、3 という係数もくっついてくるので、それを「消す」ために 1/3 が原始関数としては必要になるわけです。
このへんが、微分と比べて積分の計算が面倒な点ですが、微分の公式さえあればパズル感覚でも行けるのではないかとも、思います。

微積分学の基本定理から、原始関数を使って定積分を計算する手順
  1. f(x)の原始関数を、任意定数に関しては何でもいいから探す。普通は、任意定数がゼロのものを考えます。(それが一番簡単なため。)
    例:\(e^x の原始関数で加える定数を0としたものは e^x\)
  2. 積分する閉区間の端点を代入し、大きい値を代入したものから小さい値を代入したものを引きます。
    例えば e の指数関数を x = 0 から 1 まで積分すると、次のようになるのです。
    \(\int_0^1e^xdx=\left[e^x\right]_0^1=e^1-e^0=e-1 (=1.718・・)\)

「不定積分」とは?・・任意定数が含まれる形の積分

定積分に対して、「不定積分」という言葉も微積分学ではよく使われますので、少し説明いたします。
「不定」という表現には、ある関数の原始関数は
「制限をかけなければ任意定数がおまけとして必ずくっついてくるので『1つには定まらない』」
・・という事と、大いに関係があります。

不定積分

この「不定積分」という用語の数式としての定義は人によって少し違う事もあるので、2つ述べておきます。意味するものは、どちらも大体同じです。

「不定積分」の表し方①・・原始関数全体

まず1つの表し方は、ある関数の原始関数全体を「不定積分」と呼ぶものです。
つまり、何か適当な原始関数 F(x) と、それに任意定数 C を加えたものを不定積分と呼び、次の記号で表します。
$$関数 f(x) の「不定積分」\hspace{10pt}\int f(x)dx=F(x)+C$$
記号としては、定積分の「区間を表す部分」を取り去った記号を使います。
(確かに、原始関数という観点からは、具体的な積分区間については形式的なものであり、明記する意味がそれほどないのも事実かもしれません。)
このサイトでは、特に理由が無い場合は不定積分と言ったらこちらの意味で使わせていただきます。

この不定積分の表記を用いて微積分学の基本定理を表現する事もできます。
F(x)+C を微分すれば f(x) ですから、同じ意味の数式を表せます。
$$不定積分を用いた「微積分学の基本定理」\hspace{10pt}\frac{d}{dx}\int f(x)dx=f(x)$$

「不定積分」の表し方②・・積分で表された原始関数の1つ

他方で、微積分学の基本定理\(\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)\)で用いられている、
\(\int_c^xf(t)dt\)の事を「不定積分」と呼ぶ場合もあります。
この場合は、不定積分とはあくまで、f(x)の「原始関数の1つ」という位置付けになります。また、積分区間に変数を含まない定積分が何らかの「定数」であるのに対して、不定積分は「x の関数」である事が、この後者の表現では明確になるという指摘もできます。
どちらを「不定積分」と呼んでも、他の理論にはそれほど影響はないと思われます。
※この後者のほうの表現は、これを不定積分と呼ぶか呼ばないかに関わらず微積分の理論でよく使用します。

定積分の公式・・置換積分と部分積分

定積分に関しての公式で、大学数学や物理でも知っておくと便利なのは3つほどに厳選できるかと思います。その他、符号や積分区間に関する定積分の基本的な規則などについても合わせてこの表でまとめておきます。

知っておくと便利な公式の1つは、前述の微積分学の基本定理です(不定積分の公式としても表せます)。
2つ目は置換積分の公式で、これは合成関数の微分に関係する積分公式です。
3つ目は部分積分という公式で、こちらは積の微分公式に関係します(これも、不定積分版の公式があります)。
つまり、これらの公式はいずれも微分とつながっています。

定積分の公式 公式の内容 証明・導出法の概略
置換積分 \(x=x(u), a=x(p), b=x(q)の時、\)
\({\large\int_a^b f(x) dx=\int_p^q f(u) \frac{dx}{du}du}\)
合成関数の微分をもとに示します。詳細
部分積分 \({\large\int_a^b f^{\prime}g dx=[fg]_a^b-\int_a^b fg^{\prime}dx}\)
※不定積分として、次のようにも書けます:
\({\large\int f^{\prime}g dx=fg-\int fg^{\prime}dx}\)
積の微分公式を変形して示します。詳細
積分区間の合成 \({\large\int_a^bf(x)dx+\int_b^cf(x)dx=\int_a^cf(x)dx}\) これらは、定積分の定義から分かります。
定積分と面積の関係から、図で理解してもよいと思います。
積分する方向と
定積分の符号
\({\large\int_a^bf(x)dx=-\int_b^af(x)dx}\)
1点だけの区間
の定積分は0
\({\large\int_a^af(x)dx=0}\)
定積分の線形性
(定数倍など)
\(c を定数とすると {\large\int_a^b(cf(x))dx=c\int_a^bf(x) dx}\)

\({\large\int_a^b(f(x)+g(x))dx=\int_a^bf(x) dx + \int_a^bg(x) dx}\)
微積分学の基本定理 \({\large\frac{d}{dx}\int_c^xf(t)dt=f(x)}\)
※不定積分として、次のようにも書けます:
\({\large\frac{d}{dx}\int f(t)dt=f(x)}\)
積分の定義から、
S(x+h) = S(x) + S(h) となる事を使い、微分の定義式に当てはめます。詳細

置換積分は、例えば直交座標上で表された関数を「極座標」で表して積分したい時に使います。 例えば、x = cosθ と変換して積分も行う場合です。この時、次の2点を忘れないようにしないと、積分の結果が変になるので注意が必要です。

  • 変換した変数での微分:\(\frac{dx}{d\theta}=\frac{d}{d\theta}\cos \theta =-\sin \theta\)
  • 積分区間の端点の変換:例えば x について [0, 1] で積分するなら、θ については\(\left[\frac{\pi}{2}, 0\right]\)で積分
    ※一見積分する区間が変になるようですが、この区間での積分で正しい結果が出るのです。

部分積分は、原始関数が分かりにくい関数について適用します。
例えば、ln x の原始関数は、微分の公式集を見ると見当たりません。(※このページの前半の「積の微分公式」のところに記載があります。)
そこで、ln x に「『1次の単項式 x の微分(=1)』が隠された形で掛けられている」・・と見て、部分積分を適用すると、うまく積分ができるのです。
$$\int \ln x dx= \int (x)^{\prime}\ln x dx=x\ln x – \int x(\ln x)^{\prime}dx=x\ln x – \int x\frac{1}{x}^{\prime}dx=x\ln x – \int 1 dx=x\ln x – x + C$$
また物理では、無限遠(じゅうぶん遠くと見なせる範囲)で関数がゼロになるときに、部分積分を利用した式変形を行う時があります。その場合は、原始関数を知りたいわけではなくて利用しやすいように式の形を変える事に利用しているわけです。

不定積分と原始関数の一覧表

次に、主要な初等関数の不定積分、原始関数の一覧の表を記します。もちろん、積分区間の端点の値を代入する事で、これらは全て定積分に使う事もできます。
基本的には「微分の逆演算」をやるだけですので、微分と別途に「積分の公式」を覚える必要は、それほどない・・とは、思います。一応、頻繁に使うものに関しては色をつけてあります。

微分の公式と比べると、一見簡単な関数の原始関数がやたらと複雑になる場合がある事にも、注意してみてください。

対象の関数 原始関数(不定積分の計算) 証明・導出法の概略
①定数(定数関数) \(\int c dx=cx+C\) 単項式の1次関数の微分より
②-1 単項式\(x^a\)【a≠-1】 \(\int x^a dx=\frac{x^{a+1}}{a+1}+C\) 微分公式と係数を消すために分母調整
次に記すように1/xの時だけは注意
②-2 \(\frac{1}{x}=x^{-1}\) \(\int\frac{1}{x}dx=\int x^{-1}dx=\ln |x|+C\) 自然対数関数の微分公式より。
絶対値がつくのは、x<0 の時でもln|x|の微分が1/x になるため
③ e の指数関数\(e^x\) \(\int e^xdx=e^x+C\) \(\frac{d}{dx}e^x=e^x\)によります。
④-1 自然対数関数 \(\int \ln x dx=x\ln x -x+C\) 積の微分公式から逆算するか、部分積分により。
④-2 対数関数系\(\frac{\ln x}{x}\)
\(a^x\ln a\)など
\(\int \frac{\ln x}{x}dx=\frac{1}{2}(\ln x)^2+C\)
\(\int a^x\ln a=a^x + C\)
合成関数の微分公式により、\(\frac{d}{dx}\frac{1}{2}(\ln x)^2=\frac{1}{2}(2\ln x)\frac{1}{x}=\frac{\ln x}{x}\)
後者は指数関数の微分公式より。
⑤-1 三角関数
(正弦、余弦、正接)
\(\int \sin xdx=-\cos x+C\)
\(\int \cos xdx=\sin x+C\)
\(\int \tan xdx=-\ln|\cos x|+C\)
正弦と余弦の微分公式より。
正接は、合成関数の微分公式より、
\(\frac{d}{dx}(-\ln |\cos x|)=-\frac{(\cos x)^{\prime}}{\cos x}=\frac{\sin x}{\cos x}\)
⑤-2 三角関数
(その他系)
\(\int \cot xdx=\ln|\sin x|+C\)
\(\int \mathrm{cosec}^2 xdx=
-\ln|\cot x|+C\)
\(\int \sec^2 xdx=\ln|\tan x|+C\)
\(\int \sec xdx
=\ln|\sec x +\tan x|+C\)
\(\cot x=\frac{\cos x}{\sin x}\hspace{10pt}\sec x=\frac{1}{\cos x}\)
\(\mathrm{cosec}x=\frac{1}{\sin x}\)
微分により「分母」を作るために、対数関数を利用しています。
⑤-3 三角関数
(合成関数)
\(\sin (nx),\hspace{10pt}\sin^2x\)等
\(\int \sin (nx)dx=-\frac{1}{n}\cos (nx)+C\)
\(\int \sin^2 xdx=\frac{2x-\sin (2x)}{4}+C\)
\(\int \sin x\cos xdx=\frac{-\cos(2x)}{4}+C\)
sin(nx)は合成関数の微分、
\(\sin^2x\)は加法定理でcos(2x)の形に直して考えます。
⑥ \(\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}系\)
(結果に逆三角関数が現れる事があるタイプ)
\(\int \frac{1}{1+x^2}dx=\arctan x+C\)
|x|<1の時、
\(\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=\arcsin x+C\)
|x|>1の時、
\(\int \frac{1}{\sqrt{x^2-1}}dx=\ln |x+\sqrt{x^2-1}| +C\)
\(\int \frac{1}{\sqrt{1+x^2}}dx=\ln |x+\sqrt{x^2+1}| +C\)
逆正接と逆正弦関数については、微分公式から。
残りのものは、合成関数の微分を丁寧に適用すると確かに原始関数となります。
⑦ \(\sqrt{1-x^2}系\) \(\int \sqrt{1+x^2}dx\)
\(
=\frac{x\sqrt{1+x^2}+\ln |x+\sqrt{1+x^2}|}{2}+C\)
|x|<1の時、
\(\int \sqrt{1-x^2}dx\)
\(=\frac{x\sqrt{1-x^2}+\arcsin x}{2}+C\)

|x|>1の時、
\(\int \sqrt{x^2-1}dx\)
\(=\frac{x\sqrt{x^2-1}-
\ln |x+\sqrt{x^2-1}|}{2}+C\)

とても面倒くさい(でも一応表せる)・・という事だけ分かればいいと思います。
もちろん、関数を微分する事で確かに原始関数である事を確かめる事ができます。
部分積分 \({\large\int f^{\prime}g dx=fg-\int fg^{\prime}dx}\) 定積分の公式としても上記に記してあります。
証明は、積の微分公式から。詳細

定積分に関する公式の証明

微積分学の基本定理、置換積分の公式、部分積分の公式についての証明をここでは述べます。

(証明)定積分の公式

(証明)微積分学の基本定理

閉区間 [a,x] 上の変数を含んだ形の定積分\(\int_a^xf(t) dt\) を x の関数 S(x) として考え、和の形の定義で表したものについて、微分の定義を当てはめます。
[x,x+h]の閉区間の長さは h で、これをゼロに近づける時は[x,x+h]の分割はこの区間自体だけでじゅうぶんである事に注意すると、
$$\lim_{h \to 0}\frac{S(x+h)-S(x)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{S(x)+S(h)-S(x)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{S(h)}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{hf(k)}{h}=\lim_{h \to 0} f(k)=f(x)$$
【最後の所は、x < k < x+h なので、\(\lim_{h \to 0}k=x\)】(証明終)

(証明)置換積分の公式

x=x(u),f(x)=f(x(u)) だとします。【例えば x = sin u, f(u)=\(\sin^2u=x^2\)】
x についての積分区間 [a,b] に対応する u についての積分区間は [p,q] であるとし,
a = x(p), b = x(q)であるとします。
$$F(x)=\int_a^x f(t)dt=\int_{x(p)}^{x(u)} f(g(s))ds$$
$$合成関数の微分により、\frac{d}{du}F(x(u))=\frac{F(x)}{dx}\frac{dx(u)}{du}=f(x)\frac{dx(u)}{du}【∵F(x) は f(x) の原始関数】$$
・・ということは、変数 u に関して F(x) は\(f(x)\frac{dx(u)}{du}=f(x(u))\frac{dx(u)}{du}\)の原始関数のひとつなので、
(※ F(x(u)) を u で微分したら \(f(x(u))\frac{dx(u)}{du}\) になったわけですから。)
$$\int_p^q f(x(u))\frac{dx(u)}{du}du=\left[F(x(u))\right]_p^q=F(x(q))-F(x(p))=F(b)-F(a)=F(b)=\int_a^b f(x)dx $$
(証明終)
【※\(F(b)=\int_a^b f(t)dt,\hspace{10pt}F(a)=\int_a^a f(t)dt=0\)に注意】

(証明)部分積分の公式

積の形の関数に対する微分公式より、
$$(fg)^{\prime}=f^{\prime}g+fg^{\prime} \Leftrightarrow f^{\prime}g=(fg)^{\prime}-fg^{\prime}$$
ということは、f'(x)g(x) の形の関数の不定積分と定積分は
$$不定積分:\int f^{\prime}g dx=\int (fg)^{\prime} dx-\int fg^{\prime}dx=fg-\int fg^{\prime}dx$$
$$定積分:\int_a^b f^{\prime}g dx=\int_a^b (fg)^{\prime}dx-\int_a^b fg^{\prime}dx=[fg]_a^b – \int_a^b fg^{\prime}dx (証明終)$$

※部分積分の証明に関する注:

  • 不定積分のほうについては、右辺に不定積分が残る形なので、任意定数 C は残った不定積分に含めると考えて書いていないわけです。
  • 上記の微積分学の基本定理と原始関数の箇所でも触れていますが、
    \(\int F^{\prime}(x)dx=F(x) + C\) が成立します。

参考:特殊な定積分について

「微分と積分は逆演算」という観点からは計算しにくい定積分の例をいくつか参考として、ここでも挙げておきます。原始関数が初等関数の形で簡単に計算できないものは、じつは多いのです。

そのような場合、定積分を主に面積的に捉えてコンピューターによる「数値計算」を行う事は有用な手段の一つですが、積分区間を「無限大」にする時(そのような種類の積分を「広義積分」と言います)には、敢えて重積分や複素積分を考える事により定積分(の極限値)が簡単な値として導出できる場合があります。そのような例の中には、物理の理論で用いられるものもあります。

  • \({\large\int_{-\infty}^{+\infty} e^{-a^2x^2} dx=\frac{\sqrt{\pi}}{a}} \)
    証明には敢えて「重積分を使用」します。量子力学などでたまに使う積分です。
  • \({\large\int_{-\infty}^{+\infty} e^{-a^2x^2+bx} dx=\frac{\sqrt{\pi}}{a}e^{\frac{b^2}{4a^2}} }\)
    同じく、量子力学で使う事がある系の積分です。
  • \({\large\int_0^{+\infty}\frac{\sin x}{x} dx=\frac{\pi}{2}}\)
    こちらは、敢えて「複素積分」を考える事で、実数範囲の積分(の極限値)が計算できるという例です。この手のものは、結構多くあります。
  • \({\large\int_0^{+\infty} \frac{1}{1+x^4} dx=\frac{\pi}{2\sqrt{2}}}\)
    これも、敢えて複素関数の範囲で考えるとうまく行く例です。

このページでは述べていない公式や、まだしていない考察も大学数学の微積分学には多く含まれます。このページで述べている基本事項をもとにして、ぜひそれらについても探求してみましょう。必要があれば、このページにも戻ってきてみてください。

参考文献 ・学習に役立つサイトなど

微積分の基本的な公式につきましては高校の教科書などにももちろん載っていますし、大学の微積分の教科書にも載っています。また、多くの外部サイトでも微積分の基本を述べているものは多いので、必要に応じて参照していただければよいと思います。

参考サイト(外部リンク)

マイナス×マイナスがプラスになる理由【負の数の掛け算】

「マイナスとマイナスをかけるとプラスになる」事の理由と意味について説明します。
(この記事内では「証明」と言わずに「説明」という語を使っています。)

負の数の乗法

負の数を含む掛け算(積、乗法)の符号の決まり方は次の通りです。

  • (+1)×(-1)=-1
  • (-1)×(+1)=-1
  • (-1)×(-1)=+1

尚、正の数同士の掛け算はもちろん(+1)×(+1)=+1 です。

簡単な引き算による説明

マイナス2かけるマイナス2は、プラス4になります。
これはなぜかというと、「『そのようになるように』計算を定義しているから」なのですが、
なぜそのように定義しているのかを考えてみましょう。

2つの数の引き算を考えます。
5ひく3は、2です。
5-3=2という、小学校で教わるか、あるいは教わらなくても説明されればすぐに分かる計算ですね。

ここで、3という数を2プラス1と考えて、
5から「2プラス1」を引いても、もちろん2という同じ計算結果になります。

■ 5-(2+1)=2 
-(2+1)の部分は(-1)×(2+1)=-2-1=-3
文字式であれば -(A+B)= -A-B の計算です。

では、3という数を「4マイナス1」と考えた場合はどうなるでしょう。
その時には
5-3=5-(4-1)と考える事ができます。
ここで-(4-1)の部分を、-(2+1)と同じ計算の仕方で「展開」するとすると、
-(4-1)=(-1)×(4-1)
-4+(-1)×(-1)という「負の数同士の掛け算」が現れるわけです。

マイナス同士の掛け算②

じつは、5から「4マイナス1」を引くという計算をした時に、
「5ひく3」と同じ結果を得るために必要なのが、「マイナス同士をかけるとプラスになる」という計算の定義です。

5から4を引いたら1ですから、5から3を引いた場合よりも「1だけ多く引き過ぎ」なのです。正しい計算結果に補正するために、5から4を引いて1を加えると、5引く3と同じ結果です。

この補正のために加えている分が、マイナス同士のかけ算でプラスになる部分です。

マイナス同士の掛け算③

★ 5-3=2ですから、5-3=5-(4-1)=2です。
ここで、負の数を含んだカッコ内を上記の考えで『展開』できるとすると、
5-(4-1)= 5-4+(-1)×(-1)=1+ (-1)×(-1) ですから、
1+(-1)×(-1) =2 ⇔(-1)×(-1) =1 となるわけです。
別の例でやってみると、
例えば6-2=4
6-(4-2)=4
2+(-1)×(-2)=4
(-1)×(-2)=+2 
のようになります。

あるいは、次のような図で考えてみる事もできるでしょう。
考え方は1つではありません。

例として7-(5-2)の計算を考える時、仮に7から5を引いたら結果は2ですが、これはもちろん7-3と比較したら「引き過ぎ」ですね。では、多く引き過ぎている部分はどこかというと、マイナス3に対して、「マイナス2が余分」であるわけです。

したがって、7-5は7-3に対して「2を多く引き過ぎている」のですから、「2を加えてあげれば」、7-3と同じ結果になるわけです。式で書くなら、7-5+2=7-3で、左辺が意味するものは「7-(5-2)」であるという解釈もできるでしょう。これはつまり、「-(5-2)=-5+2と考えるべきである」、すなわち、マイナスとマイナスの掛け算はプラスになるべきという説明になります。

★ A-(A-B)=B ⇔ A-A+(-1)×(-1)×B=B
⇔ (-1)×(-1)×B=B ⇔ (-1)×(-1)=+1 のように考える事もできます。
これは、全体Aから何かを引いたらBになる時、その「何か」とは当然「AーB」であるという考え方ですね。
具体的には例えば7-(7-5)=5といった「当然の計算結果」です。

物理から考えてみる説明

高校数学等で学ぶベクトルは、マイナス符号をつけると(つまりマイナス1を掛け算すると)「逆向き」になるという規則があります。

では、もし「逆向きのさらに逆向き」を考えるとどうなるでしょうか?
それはもちろん、もとの向きに戻るのです。
ですから、その事が「マイナスとマイナスを掛けるとプラスになる」という計算規則と調和するのです。

このように負の数の乗法は物理などでの応用でも意味を持っています。

その考え方のもとでは、マイナス同士の掛け算は次のように説明する事もできます。

まず、1+(-1)=0です。

次に、この両辺に「-(-1)」を加えると考えましょう。
(あるいは両辺から「-1」を引く)

すると、
1+(-1)-(-1)=-(-1)で、
(-1)-(-1)=0と考えるなら、
1=-(-1) 

このようにして、「マイナス1にマイナス符号をつけるとプラス1である」と説明する事もできます。

ベクトルで書くなら次のような形です。

$$-(-\overrightarrow{a})=\overrightarrow{a}$$

一般的に物理や工学では、マイナスの符号は「逆向き」の意味で使われます。
マイナス1をかける事によって、速度、力、電流などの向きが、特定の方向とは逆向きである事が表現されるのです。

※この場合には基本的に数学的な考え方が最初にあって物理に当てはめていると考える事ができます。しかし、もし物理法則を説明するために既存の数学体系では不足するものがあった場合には、必要な数学的規則を新たに考えてもよいとも言えます。それは滅多に無い事ではありますが、強調されてよい事であるとも思われます。

マイナス同士の掛け算⑤
南北や東西など、逆向きの方向である事を数式で表す時にマイナスの符号を使えます。
電流の場合。電子の流れと考えてもよいですが、発生する磁場の向きによって電流の向きを考える事もできます。
これらの応用でマイナス符号を使う時も、マイナス同士の掛け算はプラスになるという計算規則をそのまま使う事ができます。

あるいは、温度計などで、冬場に「気温はマイナス3度」といった表現は聞いた事があると思います。そのように、基準点であるゼロを突き抜けて下がる量がある時にもマイナスの考え方は便利です。ただしこのような使い方の場合はマイナスの「掛け算」はあまり使いませんね。用途や使用目的に応じて特定の計算を使うか使わないかは変わってきます。

デジタルでの使い方

デジタルで絵を描いたり、ゲームを作ったりという時にもプログラムのレベルにおいて(-1)×(-1)の演算が使われる事があります。一般的なプログラミング言語では乗法の演算として(-1)×(-1)=+1という通常の数学での実数の演算と同じ規則が採用されています。【多くの場合、プログラミングでは乗法の演算の記号としては *(アスタリスク)が使われます。】

普通、デジタルで画像を画面に表示させる時には座標の指定が行われています。この時に画像の表示位置画像の倍率指定においてマイナス符号を「反転」の意味を表すように紐づける事が可能で、さらに負の数同士の乗法も上手に活用する事ができます。

例えば倍率に対しては(-1)を1回乗じると向きの反転が行われ、もう一度(-1)を乗じると元の向きに戻るという演算として使えるわけです。+1を乗じた時には数値が変化しない事から、「何も変化なし」を意味します。

座標の反転に関しては、x座標だけでなくy座標も同時に符号を反転させれば「原点に対して対称」である位置への移動を考える事ができます。
倍率の指定での使い方に関しては、例えば「-2」を乗じる事で「反転して2倍に拡大する」といったように反転と大きさの倍率を統一的に扱う事ができます。

市販されているソフトウェアを使う時には数学的な演算を自分でやらなくてもよい(やらなくてもよいように設計されている)事は多いですが、自分でもプログラミングをやる場合は知っておくと便利です。また、自分ではプログラミングをやらなくても教養的な知識として知っておいてもよい事ではないかと思います。

考え方としてはベクトルに対しての応用と全く同じで、(-1)×(-1)=+1を上手に使っているわけです。

写真素材:pixabay.com より

より数学的な考察と数学教育上の問題

最初の例のように
5-(4-1)=5-4+(-1) × (-1) という計算が
5-(4-1)=3に等しいと考える説明は、
もう少し詳しい数学の用語で言うと「分配則(あるいは分配法則)が成立する」という条件での説明を述べています。分配則は式の展開のような計算規則を指します。

ち a(b+c) = ab + ac が成立するというのが分配則の内容です。それが負の数に対しても成立すると考える(そのような集合を考える)事によって負の数同士の乗法も考える事になります。

言い換えると、もし「負の数に対する分配則」を認めない(認めない集合を考える)のであればその時点で「負の数同士の乗法」に対して理由の説明も証明も何も無い事になるとも言えるわけです。

これは前述の具体例での説明での7-(5-3)のような計算で「マイナスの数についても式の展開を考えるなら」という点を強調している理由でもあります。
もしもその分配側を使った計算自体があり得ないと考えるのであれば、マイナス同士の掛け算という計算自体があり得ないためです。

であるから、もし中学生の人が「マイナスに対して掛け算を考える事自体がそもそもおかしい!認めない」と言うなら、必ずしも誤りとは言えません。考えている対象の数学的集合が異なれば、そういった話の食い違いが生じます。

従って当該反対意見には「それはもっともな事であるが、ここではそのような性質を持つような数学的集合を定義して、考えてみよう」と言うのが正しい回答(「解答」ではありません)かもしれません。

さらに言えば「優先して学ぶべき数学的対象は何か」という意味ではさらに説明が必要となるとも言えます。

同じ「計算を多く行う」学問でも例えば商学(簿記や会計などを扱う学問)であれば負の数同士の乗法や除法はあまり重要ではないし、それ以前に実数に対する深い考察自体がそれほど重要ではないと言えます。
しかし対象の学問が理学・工学系であると話が変わってくるわけです。

純粋数学の研究を特に行うわけではない中学や高校の授業や講義では、やはり「数学はどのように使われるのか」という事まで含めて考えるべきなのかもしれません。負の数を考えなくてもよい場面もあるし、前述のように逆に考えたほうがよい場面も存在するからです。その事まで含めて説明をする必要がある可能性は大いにあるのではないでしょうか。

負の数同士の乗法で非常に特徴的な利点としては何かの向きを変えた時に、さらにもう一度向きを反転させると「もとの向きに戻る」という事の表現に使える事であると言えます。

これは数学の応用という観点からだけでなく、純粋数学的に数学の考察をしていくうえでももちろん重要な事項となります。例えば三角関数の微分を繰り返すともとの関数に戻りますが、これは(-1)×(-1)=+1の演算がなければ成立しません。当該演算は、微積分も含めて実数や複素数とその関数を数学的に調べていくうえでも重要な基礎となっている関係式であると言えます。

■動画の声優御担当:ステ♪ 様 http://sute.tabigeinin.com/
BGM:音楽の卵

ベクトル解析と勾配・回転・発散・・grad, rot, div

このページでは、電磁気学などで使われる「ベクトル解析」という数学の分野について説明します。
その中でも特に、勾配・発散・回転と呼ばれるものについての説明を行います。

これは「ベクトルの微積分・力学での応用」の延長線上にある理論です。純粋数学よりも、応用数学の色彩の濃い微積分学の分野になります。(もちろん、純粋数学的・解析学的に考察する事も可能です。)

スカラー関数の変数が特に位置座標である事を強調する場合には「スカラー場」と言う事もあります。このページではスカラー場という名称を使います。

はじめに:「場」という考え方とベクトル解析

勾配(grad)、発散(div)、回転(rot)は「スカラー場」や「ベクトル場」というものに対して考えます。それらはいずれもスカラーやベクトルの仲間なのですが、特にどのようなスカラーやベクトルをそのように呼ぶのかを最初に述べておきます。

ベクトル場
スカラー場
電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例 

ベクトル場

てきとうな電荷があって、まわりに別の電荷を持ってくると、電荷同士に力が働きます。この時に、後から持ってきたほうの電荷を置く場所によって働く力が変わってきます。これは数式で表すと、電荷が受ける力が座標上の点ごとに異なると考える事もできて、力を座標変数の関数で表されたベクトルで表せます。このように表されるベクトルを、「ベクトル場」と呼びます。ベクトル場の各成分は、座標成分による多変数関数になっています。(必要に応じて時間変化もするとして時間成分も加えます。)

このようなベクトル場の微積分を扱う数学の分野をベクトル解析と呼んだりします。後述するスカラー場の微積分も合わせて考えます(スカラーをベクトルに変換する操作などが含まれます) 。

★ ベクトル場の事を「ベクトル界」と言う事もあります。ベクトル界という呼び方は工学系で使われる事が多いとも言われます。
どちらが正しいかの基準はありませんが、このサイトでは、「ベクトル場」の呼び方を使用します。
「場(field)」という語は、「遠隔力」という考え方に対する概念として物理学で単独でも使う事があります。他方、『界』という語は単独では普通は使わない事が多いので、用語としては「場」という語でこのサイトでは統一します。

「ベクトル場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように各成分が x, y, z の関数として表される空間ベクトルを「ベクトル場」と呼びます: $$\overrightarrow {F}(x,y,z)=(\hspace{3pt}F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z)\hspace{3pt})$$ $$ベクトルの各成分\hspace{3pt}F_1(x,y,z)などは、x,y,z の多変数関数(スカラー関数)$$ 平面ベクトルで考えたとしても、成分が1つ減るだけで同様にベクトル場を考える事ができます。4成分以上の場合も理論的には考える事は可能ですが、普通はあまり考えません。ここでは基本的に3成分の空間ベクトルのベクトル場を考えます。

ベクトル場自体は多変数関数を成分とする「ベクトル」とも言えるので、上記の形が「ベクトル場の『定義』」であるというよりは、ベクトルのうち「このような形で表されるものを特にベクトル場と呼ぶ」という感じだと言えます。

物体の軌道をベクトルで表す時に、物体の位置座標を「時間の関数」として表す方法があったわけですが、それとの違いは、成分となる関数の変数に「座標成分が含まれている」という事です。

$$\overrightarrow {X}(t)=(x(t),y(t),z(t)) といったベクトルとは少し区別されるのです。$$

2つの電荷プラス同士であれば反発し、プラスとマイナスであれば引き合います。
向きは2つの電荷を結ぶ直線に沿い、遠くに離れるほど力の大きさは弱くなります。
「電荷に働く力を「場」として見る場合は「電場」と呼びます。

スカラー場

もう1つ、ベクトル解析では「スカラー場」というものも考えて、ベクトル場との使い分けを上手に行う事が理解のポイントになっていきます。

スカラー場とは、数式的には座標成分 x, y, z を変数とする多変数関数の事です。意味としては何ら難しくないのですが、電磁気学等の理論ではベクトル場と入り乱れる形で使われるので、物理の理論の中では慣れないと少し難しく感じると思います。

「スカラー場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように x, y, z の関数として表される多変数関数を「スカラー場」と呼びます: $$\phi= \phi (x,y,z)$$ 記号はここでは「\(\phi\)ファイ」を用いていますが、別に何でも構いません。 これは数学的に見れば通常の多変数関数であって、これをスカラー場と呼ぶのは基本的には x, y, z が空間上の直交座標の成分である事が明確であって物理等で用いられる場合、特にベクトル場と区別する場合です。

電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例

+1[C] の電荷をある場所に置いたときに、その電荷が受ける力ベクトルを位置座標の関数で表したものはベクトル場であり、特に電場と呼びます。電気だけでなく磁気についても同じ考え方ができます。磁気の場合は単独の「磁荷」は存在しないと言われていますが、仮想的に単独の「磁荷」を考えて、磁荷が受ける力のベクトル場の事を磁場と呼びます。

電磁気学では、これを総称して電磁場と呼んだりもします。磁場は電流によって作られ、電流を生じさせる電圧(起電力)は磁場の変化によって作られるという関係が知られています。電磁気学は、観測によって得られたそれらの関係を定量的に表せるように数式で整理する物理学の分野です。

ベクトル場の具体例として、+1[C] の電荷のまわりの電場は次のように表せます(その付近に、別の+1[C] の電荷を持ってくると考えます。k は比例定数です。 ):

$$\overrightarrow {E}(x,y,z)=\left(\frac{kx}{r^3}, \frac{ky}{r^3}, \frac{kz}{r^3} \right)= \left (\frac{kx}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{ky}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{kz}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}} \right )$$

$$r= \sqrt{x^2+y^2+z^2} = (x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2}}の関係で処理しています。 \frac{kx}{r^3} =\frac{k}{r^2}\cdot \frac{x}{r}という事です。 $$

$$詳細は別途に記しますが、ここでの電場の「大きさ」は| \overrightarrow {E} |=\frac{k}{r^2}になります。$$

ただし、このように具体的な座標成分で記すと計算が面倒なので、大枠となる理論ではベクトル場という事だけ踏まえて数式的な処理を加えていく事が行われます。個々の具体的な事例の考察では具体的な関数にして考えたりします。

このようなベクトル場である電場に対して、ある位置での+1[C]の電荷が持つ事になる位置エネルギー(または「ポテンシャル」)を電位と言います。これは日常でもよく耳にすると思われる電圧と本質的には同じものです。電位は、ベクトルでは無く、スカラー場になります。つまり、x, y, z という3つの変数によって決まる1つの値が決まるという3変数関数になります。

$$「電位」V(x,y,z) はべクトル場ではなく、スカラー場です。$$

これらのベクトル場やスカラー場の微積分を考えられる時に使われるのが、次に記す「勾配」「発散」「回転」というものです。

ベクトル場の発散(div)と回転(rot)、スカラー場の勾配(grad)

ではここで、ベクトル解析で重要な 勾配、発散、回転 と呼ばれるものの説明をします。

div, rot, grad ・・定義と考え方
図形的にはどのような意味を持つ?

※ここでの「発散」は、「無限大に発散」という意味ではなく、また別のものです。少々分かりにくいかもしれませんが、同じ用語を使う習慣があります。
※「回転」は「循環」と呼ばれる場合もあります。

勾配、発散、回転の定義には偏微分を用います。
ベクトル場、スカラー場ともに多変数関数である事が直接的に関わっています。

div, rot, grad ・・定義と考え方

あるベクトル場 \(\overrightarrow {F}\) があったとき、それに対する発散、回転を考える事になります。(成分が x, y, z の関数になっていない通常の「ベクトル」に対しては基本的に考えないので注意。)

他方、勾配についてはスカラー場に対して定義します。

$$ベクトル場\overrightarrow {F}(x,y,z)に対して、発散:\mathrm{div} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} 回転:\mathrm{rot} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} を定義します。$$

$$また、スカラー場\phi (x,y,z)に対して、 勾配:\mathrm{grad} \phi ,\hspace{10pt} を定義します。$$

定義
勾配(gradient)【グレディエント】
  • スカラー場 \(\phi (x,y,z)\)に対して次のベクトル(関数)を勾配(勾配ベクトル)と呼びます。
    $$\mathrm{grad} \phi=\left(\frac{\partial \phi}{\partial x},\frac{\partial \phi}{\partial y},\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)$$
  • \(\mathrm{grad}\phiの代わりに\nabla \phi とも書きます。\)
発散(divergence)【ダイヴァージェンス】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のスカラー(関数)を発散と呼びます。
    $$\mathrm{div} \overrightarrow {F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}$$
  • \(\mathrm{div}\overrightarrow {A}の代わりに\nabla \cdot \overrightarrow {A} とも書きます。\)
    \((F_1,F_2,F_3)=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))\) です。
回転(rotation,curl)【ローテイション、カール】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のベクトル(関数)を回転と呼びます。$$\mathrm{rot} \overrightarrow {A}=\left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z}, \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x}, \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$
  • \(\mathrm{rot}\overrightarrow {A}の代わりに\mathrm{curl}\overrightarrow {A}、あるいは\nabla × \overrightarrow {A} とも書きます。\)

★ 見ての通り、いずれも偏微分を用いて定義されます。
偏微分とは、1つの変数だけに着目し、他の変数は定数扱いにして微分操作を行う演算です。
★ \(\nabla \cdot \overrightarrow {A},\nabla × \overrightarrow {A}\) という表記について:これらの定義による式の形が、ベクトルの内積や外積の計算規則と似ている事からそのようにも書く習慣があります。この逆三角形の記号∇は「ナブラ」と呼ばれます。
★ 勾配・発散・回転自体も x, y, z を変数とするベクトルや実関数ですからベクトル場とスカラー場という事になりますが、勾配・発散・回転自体に対してはあまり「場」とは言わない事が多いです。

このように定義した時、
勾配と回転はベクトルであり、発散はスカラーである事に、少し注意してみてください。

同時に、勾配を考える対象はスカラー場であり、
発散と回転を考える対象はベクトル場であるわけです。少し整理しましょう。

対象の関数 勾配・発散・回転 ベクトル・スカラーの区別
スカラー場\(\phi (x,y,z)\) \(\mathrm{grad}\phi \) 勾配:ベクトル(成分は関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{div}\overrightarrow {F}\) 発散:スカラー(関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{rot}\overrightarrow {F}\) 回転:ベクトル(成分は関数)

★ 尚、発散と回転については、上記で定義した数式を「積分した形」を発散および回転と呼ぶ場合もありますが、このサイトでは一貫して上記の形の定義を用いる事にします。

図形的にはどのような意味を持つ?

こういった色々見慣れない記号をなぜ考えるのか?という話にもなるかと思いますが、これらに関しては基本的に「3次元の空間」の中のベクトルの理論ですので、図形的を持っている事が理解の1つのポイントです。

まず勾配については、偏微分を考えている事に注目すると、あるスカラー場が x方向、y方向、z方向に対して、その向きだけの変化率をベクトルで表したものになります。

次に、ベクトル場の発散についてです。これは位置が微小変化した時に、特定の量が全体として「周りからどれだけ出入りするか」の変化率を表します。単位体積から出入りする流量(※1)を表すとも言えます。
ベクトル場の発散に体積要素(dv = dxdydz)を掛け算すると、微小な領域に出入りする流量を表します。発散を面積分と重積分(※2) を結びつける公式(発散定理、ガウスの定理)もあり、それも物理で重要です。

(※1)もう少し詳しく言いますと、電磁気学の理論の一部は、流体力学の理論とのアナロジー(類似性)から類推して組み立てられています。「流量」とは流体力学で使われる用語であり、ある断面を1秒間あたりに通過する流体の体積を表します。
(※2)この場合、dv = dxdydz を考えるので体積積分とも言います)

回転については、定義式からは少し分かり辛いと思いますが、じつはこれを積分(「法線面積分」という種類の積分)をした時に文字通りの意味を表します。公式(「ストークスの定理」)を用いる事で、あるベクトル場の回転の面積分は、そのベクトル場に対して閉曲線を1周するように接線線積分したものに等しくなるのです。ベクトル場の回転は流体力学では「渦」を表現するのに使い、電磁気学などの領域でも使用します。

これらの図形的な意味を捉える時は、積分を考える必要がある場合もあります。

勾配・発散・回転に関するいくつかの公式

最後に、いくつかの公式について紹介をしておきましょう。

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式
勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式 

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式

ベクトル場の勾配・発散・回転を使ってどういう理論が展開されるのかを軽く見るために、いくつかの公式を挙げてみます。これらは、一般的には暗記するほど重要ではないと思いますが、簡単なものや特徴的なものは知っておくと物理学全般を学ぶ時に便利です。

勾配・発散・回転のいくつかの公式

\(\phi\) などはスカラー場、\(\overrightarrow {F}\) などはベクトル場であるとします。

  1. \(\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)\)
  2. \(\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\mathrm{div}(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi)+\phi\mathrm{div}\overrightarrow {F}\)
  3. \(\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)=0\)
  4. \(\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=0\)
  5. \(\mathrm{rot}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=\mathrm{grad}(\mathrm{div}\overrightarrow {F})-\left(\frac{\partial ^2F_1}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 F_2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 F_3}{\partial z^2}\right)\)

\(\phi_1\phi_2\) は2つのスカラー場の積(普通の掛け算)であり、\(\phi\overrightarrow {F}\) はベクトル場の各成分に(同一の)スカラー場を掛け算したものです。\(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi\) は、内積です。
電磁気学の理論では、3番目と4番目の関係は特に重要です。
5番目の形の式は、回転はベクトル場から別のベクトル(場)を作る操作であるために考える事ができる点に注意。(勾配や発散では同じような事はできません。)

これらの公式の証明は、基本的には定義に直接当てはめて、積の微分公式などの基本公式を使って丁寧に計算する事で得られます。例えば、1番目の公式は各成分ごとに積の微分公式を使うだけです。
(偏微分の場合も通常の微分の場合と同じ形の積の微分公式が成立します。)

$$\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\left(\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial x},\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial y},\frac{\partial \ (\phi_1\phi_2) }{\partial z}\right)$$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}\right) + \left(\phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y}, \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)【1番目の公式の証明終り】$$

2番目の公式も、積の微分公式を用いるだけです。

$$\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\frac{\partial (\phi F_1)}{\partial x}+\frac{\partial (\phi F_2)}{\partial y}+\frac{\partial (\phi F_3)}{\partial z} $$

$$ = \left( \phi \frac{\partial F_1}{\partial x}+ F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_2}{\partial y}+ F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_3}{\partial z} +F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} \right) $$

$$ = \phi \left( \frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+ \frac{\partial F_3}{\partial z}\right) + F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} + F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} + F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} $$

$$= \phi \mathrm{div} \overrightarrow {F}+ \overrightarrow {F} \cdot \mathrm{grad}\phi 【2番目の公式の証明終り】 $$

3番目と4番目の式は、2つの変数で続けて偏微分を行う時には偏微分の順番は関係なく同じ結果になる(※)という事を使って示します。【※解析学的に厳密に言うと条件がありますが、通常の連続関数であれば基本的に問題ありません。】

3成分のそれぞれについて0になる事を示す必要がありますが、変数が入れ替わるだけで同じ形・同じ計算ですので、第1成分(x成分)についてのみ記します。

$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)の第1成分=\frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)- \frac{\partial}{\partial z} \left (\frac{\partial \phi}{\partial y} \right) = \frac{\partial^2 \phi}{\partial z \partial y }- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y \partial z }=0 $$

$$【3番目の公式(第1成分)証明終り】 $$

$$\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})の第1成分= \mathrm{div} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z},
\frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x},
\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$

$$= \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial z} \left( \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right) $$

$$= \left( \frac{\partial^2 F_3 }{\partial x \partial y }- \frac{\partial^2 F_3 }{\partial y \partial x } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_1 }{\partial y \partial z }- \frac{\partial^2 F_1 }{\partial z \partial y } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_2 }{\partial z \partial x }- \frac{\partial^2 F_2 }{\partial x \partial z } \right) =0 $$

$$【4番目の公式(第1成分)証明終り】(最後の式では消える項ごとにまとめました。) $$

5番目の公式に関しては少々計算が面倒ですが、定義に当てはめて丁寧に計算する事で結果が得られます。特別な定理や計算技巧は必要ありません。

この他にも、勾配・発散・回転の組み合わせによる色々な公式が存在します。

勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式

勾配・発散・回転のいずれも微分(偏微分)を使って定義されるものであるわけですが、発散と回転に関してはそれらに対する積分を考える事で独特な形の公式が成立します。しかも、それらは物理の理論の中でも重要です。

2つの公式を、ごく簡単にですが挙げておきます。上記でも少し触れた「発散定理(ガウスの定理)」と「ストークスの定理」です。これらは積分を含む公式であり、通常の積分ではなく「法線面積分」「接線線積分」「体積積分」という種類の積分が含まれます。

$$発散定理:\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$ストークスの定理:\int_S \mathrm{rot}\overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{s} = \int_C \overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{r}$$

ここでは、C:閉曲線、S:閉曲面の表面、V:閉曲面内の領域 を表しています。

接線線積分については力学でも使う考え方ですが、法線面積分については初歩的な運動の解析にはあまり使わないかもしれません。基本的な考え方は共通していて、微小な領域において内積の計算をしてから積分をする(合計する)というものです。

体積積分は重積分で表す事もでき、法線面積分も内積の処理をした後に重積分として表す事もできます。(しかも、その事が証明で重要です。)

閉曲線上の接線線積分の積分方向は、xy平面などの平面上で考える場合には反時計回り(曲線の内部が左側に来る向きであり、閉曲線の「正方向」とも言います)として考えます。
空間上に閉曲線がある場合には、閉曲線を外周とする曲面の表側を決めたうえで、接線線積分の積分方向を定めます。

このベクトル解析の領域は、物理の電磁気学や流体力学と合わせて学んでみる事がおすすめです。数学的に詳しい考察が必要な部分と、応用で重要になる部分との関連がよく分かるようになると思います。

特性方程式による微分方程式の解法

今回は「特性方程式」という多項方程式を解く事で、
特定の種類の微分方程式の解を得る手法について述べます。

この方法で解けるのは「定数係数」で「線型」の「常微分」の微分方程式です。
「1階微分=ゼロ」「2階微分」=ゼロ」といった簡単に解ける微分方程式はその仲間です。それらの解法の延長線上・発展事項として今回の内容があります。n階の定数係数の線型常微分方程式の数学的な一般的解法を、この記事では詳しく見ていく事になります。

式が少し込み入る計算も含みますが、今回の内容で必要な公式は微積分の基本公式だけです。一部、複素関数論や代数学の話も含まれますが、そこは参考までに眺めるだけでも差し支えない箇所です。

「定数係数の線型常微分方程式」・・というのは名称が長いので、今回の記事の内容に限っては「常微分」であることや「線型」である事は前提として、単に「微分方程式」と記す事もあります。

今回扱うのは、一般のn階の「定数係数」の「線型」常微分方程式です。 (その中でもさらに「斉次」 のものです。ただし、非斉次のものも変形して斉次として扱える場合があります。)

「特性方程式」とは?

n階の定数係数の線型常微分方程式について、それぞれの階数の微分の部分に定数係数がくっついているわけですが、この時に次の対応を考えます:

$$n階微分の項に対する定数係数c_n \hspace{10pt} → \hspace{10pt} c_nx^n【定数項はそのまま定数項に対応】$$

この対応で作る多項方程式を、 定数係数の線型常微分方程式の特性方程式と言います。

具体的な3次の例で見てみますと、次のようになります。

$$微分方程式:y^{\prime \prime \prime }+3y^{ \prime \prime }-2y^{\prime }+1=0$$

$$対応する特性方程式:x^3+3x^2-2x+1=0$$

一般のn次の特性方程式は次のようになります。

n次の特性方程式

次のような
$$\frac{d^n}{dx^n}f(x)+c_{n-1}\frac{d^{n-1}}{dx^{n-1}}f(x)+\cdots+c_2\frac{d^2}{dx^2}f(x)+c_1\frac{d}{dx}f(x)+c_0f(x)=0$$
というn階の定数係数の線形常微分方程式に対して、
微分方程式で使われている定数係数\(c_1,c_2,\cdots\)を用いたn次方程式

$$x^n+c_{n-1}x^{n-1}+c_{n-2}x^{n-2}+\cdots+c_3x^3+c_2x^2+c_1x+c_0=0$$
の事を、その微分方程式に対する特性方程式(characteristic equation)と言います。
特性方程式の解の事を「特性根」と言う事もあります。

このように具体例で見たほうが分かりやすいかもしれませんね。

このように、作り方自体は簡単です。じつは特性方程式の「解」が、微分方程式のほうの解に直接関係します。根底にあるのは、自然対数の底 e の指数関数の微分演算です。微分して得る導関数が元の関数と同じであり、合成関数の微分を利用すると「元の関数×定数倍」という形を作れます。このパーツを上手に利用する事で、一般的には特性方程式とその解を計算すればよい、という理論になるのです。

用いる微積分の基本公式は、自然対数の底 e の指数関数と合成関数の微分公式です。それと積の微分公式も使用します。

対象の関数微分公式微分方程式の解法での役割
自然対数の底 e の指数関数\({\large \frac{d}{dx}e^x=e^x}\)微分すると元の関数に戻る
合成関数の微分\({\large \frac{df(y)}{dx}=\frac{df(y)}{dy}\frac{dy(x)}{dx}}\)微分方程式内の定数倍などを調整
積の形の微分\({\large \frac{d}{dx}(fg)=\frac{df}{dx}g+\frac{dg}{dx}f\frac{dy(x)}{dx}}\)このページで解説する証明で使ったりします。
  • 微分してない、もとの関数:\(e^{\alpha x}\)
  • 微分1回目:\(\frac{d}{dx}e^{\alpha x}=\alpha e^{\alpha x}\)
  • 微分2回目:\(\frac{d^2}{dx^2}e^{\alpha x}=\alpha^2 e^{\alpha x}\)

2階の場合の定数係数の微分方程式と、2次の特性方程式の関係が一般のn次の場合の解法の基本になりますので次に詳しく解法を見ます。

これは2次の特性方程式(多項方程式としては2次方程式)が異なる2つの実数解を持つ場合ですね。ただし、特性方程式が重解や複素数解を持つ場合でも、e の指数関数が重要である点には変わりありません。

2次の特性方程式が複素数解を持つ場合

2次の特性方程式が「異なる2つの実解」を持つ場合は、自然対数の底 e の指数関数を用いればよい事を、
以前の記事で詳しく述べてあります。

「じゃあ、そうでない場合はどうするのですか。」

まず、解が複素数解(虚数単位 i を含む解)である場合を述べます。この場合のほうがじつは比較的簡単です。解の表現としては虚数単位 i を含む形と、含まない形の両方で表現可能です。任意定数として複素数も許容されるとする事によって、定数をてきとうに調整すれば両者は同等になります。2つの形を両方記しておきましょう。

2次の特性方程式が複素数解である場合の微分方程式の解 2次の特性方程式の解が \(x=A+Bi\) である時、
対応する微分方程式の解 y は次のように表されます: $$①虚数単位iを含む形で表す場合:y=C_1e^{\alpha x}+C_2e^{\beta x}$$ $$②実数でのみで表す場合:y=C_1e^{Ax}\cos (Bx)+C_2e^{Ax}\sin (Bx)$$ $$C_1とC_2は任意定数【特に①の場合、複素数も含めた任意定数です。】$$

①の形は、特性方程式の解が異なる2つの実数解である場合と同じ形です。①と②の2つの形が同等である事の詳細は後述しますが、複素数も含めた任意定数を上手に調整する事で示します。実数のみで表す事も可能である事から、物理の古典力学の範囲でも普通に意味を持つ事が見えるかと思います。

複素数を r(cosθ+i sinθ) という「極形式」で表したうえで、 r(cos(θx)+i sin(θx)) という関数を考えてみます 。【このように複素数を含んだ関数を、数学上は複素関数とも言います。】

この形の関数は、じつは微分した時に、e の指数関数と同じ性質を持っています。
r と θ は定数としたうえで、試しにxで微分してみると:

$$\frac{d}{dx} r(\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) = r\theta (-\sin ( \theta x) +i\hspace{5pt}\cos ( \theta x) )=i \theta r (\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) $$

$$微分した後の式変形では、i^2=-1という関係を使っています。$$

【r等も変数ならxで偏微分という事になりますが、ここではr等は定数としてxでの「常微分」です。】

この結果を注意して見ていただくと、 xについてのもとの関数を「iθ 倍」したものと同じです。これは e の指数関数と同じ性質であり、指数関数の変数として複素数も考えるとするとじつは次のように書けます:

ポイントとなる1つの関係式

$$re^{i\theta x}= r(\cos( \theta x)+i \sin( \theta x)) $$ $$(おおもとの形:e^{i\theta}=\cos \theta +i\sin \theta)$$

この関係式は、ある条件(※)をつける事によって、変数が複素数範囲の場合は本質的にこの形として表してよいというものです。【(※):複素関数が「正則関数」であるという条件です。】

形式的には、e の指数関数のマクローリン展開(x=0でのテイラー展開)に、xの代わりに「 ix を代入してみて」、そこに正弦と余弦のマクローリン展開を「代入」する事で複素数の「指数関数表示」を得ます。ただし、より正確には複素数変数の指数関数を新たに定義するか、正則関数としての指数関数の複素数領域への拡張はただ1通りしかないという論法で指数関数表示を考察します。

この事を踏まえて、微分方程式 y”+ay’+by = 0 の解を考察します。
ここで、特性方程式の複素数解について、極形式ではなくて A + Bi の形のほうを考える事がポイントです。その形を、指数関数に適用してみましょう。

$$e^{\alpha x}=e^{(A+Bi)x}=e^{Ax}e^{Bi}x$$

これを、xで微分してみましょう。

$$\frac{d}{dx} e^{\alpha x}= \frac{d}{dx} ( e^{Ax}e^{iBx})=Ae^{Ax} e^{iBx} +iB e^{Ax} e^{iBx} =(A+Bi) e^{Ax} e^{iBx} = (A+Bi) e^{\alpha x}=\alpha e^{\alpha x} $$

このように、積の微分公式を使って丁寧に計算すると、微分の演算は実数係数の場合と全く同じ形になる事が分かります。 これは結局のところ、指数関数の部分が係数が乗じられる以外には形が変化しない事に起因しています。

と、なると解が異なる2つの実数ではなくて複素数であったとしても、

$$解は y=C_1e^{\alpha x}+C_2 e^{\beta x}の形で表せるという事です。 $$

微分方程式のほうの解を実数だけで表す方法

さて、前述のようにじつはこれを実数だけで表す事も可能です。

$$さきほどのe^{\alpha x}=e^{(A+Bi)x}=e^{Ax}e^{Bi}xという関係を使いましょう。ここで\beta=A-Biである事は重要です。$$

$$y= C_1 e^{Ax}e^{Bi}x +C_2 e^{Ax}e^{-Bi}x = C_1 e^{Ax} (\cos (Bx)+i\sin (Bx))+ C_2 e^{Ax} (\cos (Bx)-i\sin (Bx)) $$

$$= (C_1+C_2) e^{Ax} \cos (Bx) +i e^{Ax}\sin(Bx)(C_1-C_2)$$

$$C_1+C_2=C_3, C_1-C_2=iC_4 とすると、【そのようにおいてもよい事に注意】$$

$$y= C_3 e^{Ax} \cos (Bx) +C_4e^{Ax}\sin(Bx) $$

このように、任意定数も複素数であってよい事から「i を消せる」のです。特性方程式の2つの解が(必ず)共役複素数である事により、このように計算できます。
ここで、新しく作った2つの任意定数も複素数範囲で成立しますが、その中で実数に限定すれば実数範囲の任意定数による一般解として表せるわけです。

特性方程式の解(特性根)が異なる実数解の場合と複素数解の場合とでは、同じ形として微分方程式のほうの解を表す事が可能です。

2次の特性方程式が重解を持つ場合

次に、2次の特性方程式が重解(必ず実数)を持つ場合です。
証明に関してはこの場合がじつは一番面倒で、一般解は次のようになります。

2次の特性方程式が重根を持つ場合

特性方程式の解(重解)を \(\alpha\) とすると
微分方程式 \(y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0\) の解は次のようになります:

$$y=C_1e^{\alpha x}+C_2xe^{\alpha x}=e^{\alpha x}(C_1+C_2x)$$ 「x が指数関数に乗じられる」という形の項が、オマケでくっついてくるわけです。
\(e^{\alpha x} \) にxの1次関数が乗じられていると考える事もできます。

この解は、実際に微分してみると確かに微分方程式を満たす事は割と簡単に分かりますが、パっと見では2番目の項も含まれる事は、なかなか気づかないと思います。そこで、この解の詳しい導出について見ておきましょう。

$$演算子として\hat{D}=\left(\frac{d}{dx}-\alpha\right) を定義しておきます。 \hat{D} y= \frac{dy}{dx}-\alpha yです。$$

$$ \hat{D}^2=\hat{D} (\hat{D}) と定義すると \hat{D}^2= \left(\frac{d^2}{dx^2}-2\alpha \frac{d}{dx} +\alpha ^2\right) です。$$

$$\hat{D}^2y= \frac{d^2y}{dx^2}-2\alpha \frac{dy}{dx} +\alpha ^2y $$

この記号は別に定義しなくても証明はできますが、計算が結構煩雑なので過程を詳しく見るのに役立ちます。これはあくまで、ここでの計算だけに適用する便宜上の記号です。
(「演算子」という言葉と考え方自体は、物理でも良く使います。特に量子力学などにおいてです。)

特性方程式が重解を持つという設定ですから

$$x^2+Ax+B=(x-\alpha)^2= x^2-2\alpha x +\alpha^2より、 A=-2\alpha,B=\alpha^2$$

$$よって、y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By= y^{\prime\prime} -2\alpha y^{\prime}+ \alpha^2 y= \hat{D}^2y$$

$$特性方程式が重解を持つならば、 y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0 \Leftrightarrow \hat{D}^2y =0 という事です。$$

$$ここで、\hspace{5pt}e^{-\alpha x}y \hspace{5pt} という関数を考えると話がうまく進みます。$$

これの1階微分は、単純に積の微分公式を用いて計算を進められます。

$$\frac{d}{dx}(e^{-\alpha x}y)=-\alpha e^{-\alpha x}y+e^{-\alpha x}(y^{\prime})=e^{-\alpha x} \left (\frac{d}{dx}-\alpha \right)y$$

2階微分も積の微分公式を用いて計算を進められます。

$$\frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=\frac{d}{dx}\left\{e^{-\alpha x}\left(\frac{d}{dx}-\alpha \right )y\right\}=-\alpha e^{-\alpha x} \left (\frac{d}{dx}-\alpha \right )y+e^{-\alpha x}\frac{d}{dx}{\left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)y}$$

$$= e^{-\alpha x} \left \{ -\alpha (\hat{D}y) + \frac{d}{dx}(\hat{D}y)\right \}= e^{-\alpha x} \left\{\left(\frac{d}{dx}-\alpha \right ) (\hat{D}y)\right\} = e^{-\alpha x} \hat{D}^2y $$

$$※ \left(\frac{d}{dx}-\alpha \frac{d}{dx} \right )y=\hat{D}y が1つの塊であり、 e^{-\alpha x} とのつながりは「通常の掛け算」である事に注意。$$

$$すると、 \hat{D}^2y =0 ならば e^{-\alpha x} \hat{D}^2y つまり \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0です。$$

$$ \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0 という形は、「2階微分=0」という形の微分方程式です。$$

「2階微分=0」という形の微分方程式の解は1次関数です。
つまり、次の事が言えるわけです:

$$「特性方程式が重解を持つ」 \Rightarrow y^{\prime\prime}+Ay^{\prime}+By=0 \Leftrightarrow \hat{D}^2y =0 \Rightarrow \frac{d^2}{dx^2}(e^{-\alpha x}y)=0 $$

$$ \Rightarrow e^{-\alpha x}y =C_1x+C_2 \Leftrightarrow y= e^{\alpha x}(C_1x+C_2)[証明終り]$$

最後の式変形は、両辺に\(e^{\alpha x}\)を掛けただけです。
2次の特性方程式が重解を持つという条件があると、必然的に指数関数に「1次式」を乗じた形の関数が解になってしまうという事です。

n階の定数係数の線型常微分方程式の解法

さて、以上で2階の場合の考察を見てみましたが、3階以上の場合も基本的な考え方は同じです。ただし、3次以上の場合の特性方程式は実数解と複素数解が両方含まれている事もあり、実数解の場合は重解かそうでないかにも分かれます。

特性方程式が「解けた」という前提のもとで話を進めるとすると、その解を用いて微分方程式のほうの係数を表せます。表記を簡単にするため、4階のものを例に考えます。上記で、特性方程式の解が重解の場合に用いたような演算をここでも行います。

$$\frac{d^4y}{dx^4}+A_3 \frac{d^3y}{dx^3} +A_2 \frac{d^2y}{dx^2} +A_1 \frac{dy}{dx} + A_0y=\left(\frac{d}{dx}-\alpha_1\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_2\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_3\right) \left(\frac{d}{dx}-\alpha_4\right)y $$

$$A_3=\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3+\alpha_4, A_0=\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3 \alpha_4 等が成り立っています。 $$

1つ1つの解が「異なる実数解」や複素数解であれば2階の時と考え方は全く同じで、それらの解と e の指数関数を組み合わせ、任意定数とも合わせて加え合わせる(これを「線型結合」と呼びます)事を考えればよいのです。

$$つまり、C_1e^{\alpha_1 x}+ C_2e^{\alpha_2 x} + C_3e^{\alpha_3 x} + C_4e^{\alpha_4 x} などが解になります。$$

複素数解の部分は、2階の時と同じく実数だけで表す事もできます。共役になってる2解を用いて、指数関数と三角関数の積で表せます。(n次方程式の場合も、複素数解がある場合は必ず共役なもの同士が2つ1組になっています。)

$$例えば\alpha_1 と\alpha_2が共役な複素数解なら、\alpha_1=A+Bi, \alpha_2=A-Bi として$$

$$C_1e^{\alpha_1 x}+ C_2e^{\alpha_2 x}の部分をe^{Ax}(C_a\cos (Bx)+C_b\sin (Bx) )に変えても同じです。$$

「では、重解が含まれていたらどうなるのですか?」

n階の場合も、面倒なのは重解を持つ場合です。この場合、3重解4重解・・などを持つ事もあり得るので、考え方は2階の時と似ていますが別の補題を証明する必要があります。

補題 $$任意の自然数nに対して、 \frac{d^n}{dx^n}(e^{\alpha x}y)=e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}$$ $$ここで、\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^nは\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^2=\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)=\left(\frac{d^2}{dx^2}+2\frac{d}{dx}\alpha+\alpha^2\right) 等の事。$$

これは、数学的帰納法を用いて丁寧に計算すると証明できます。

まず、n=1の場合は積の微分公式を用いてるだけで、これは成立します。

あるnで成立するとして、n+1の場合を考えます。

$$\frac{d^{n+1}}{dx^{n+1}}(e^{\alpha x}y)=\frac{d}{dx}\left\{\frac{d^n}{dx^n}(e^{\alpha x}y)\right\}= \frac{d}{dx}\left[ e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}\right]$$

$$=\alpha e^{\alpha x}\left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\} + e^{\alpha x} \frac{d}{dx}\left[ \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\}\right] $$

$$= e^{\alpha x} \left( \frac{d}{dx} +\alpha\right) \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^ny\right\} = e^{\alpha x} \left\{\left(\frac{d}{dx}+\alpha\right)^{n+1}y\right\} $$

よって、n+1の時も成立しますので任意の自然数nで成立します。【補題の証明終り】
式が少々ごちゃごちゃしますが、使っているのは積の微分公式だけです。

さて、この補題を使ってどのように微分方程式のほうの解を考えるかと言いますと、次のようになります:

$$例えば N 重解になる部分について微分方程式を \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 と表せますから、 $$

$$ \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 \Rightarrow e^{-\alpha x} \left(\frac{d}{dx}-\alpha\right)^ny=0 \Rightarrow \frac{d^n}{dx^n}( e^{-\alpha x}y)=0$$

【※プラスマイナスの符号が上記補題と入れ替わるので注意してください。\(\alpha\) を \(-\alpha\) に置き換えます。】

$$つまり「e^{-\alpha x}yという関数をn回微分すると0になる」という式になります。$$

1回微分して0になる関数は定数関数、2回微分して0になる関数は1次関数であるわけですが、n回微分して0になる関数は(n-1)次関数です。

$$よって、 e^{-\alpha x}y =x^{n-1}+C_{n-2}x^{n-2}+\cdots+C_2x^2+C_1x+C_0$$

$$\Leftrightarrow y= e^{\alpha x}( x^{n-1}+C_{n-2}x^{n-2}+\cdots+C_2x^2+C_1x+C_0 )という事になります。$$

指数関数に(n-1)次関数を乗じた形の解になります。2次の特性方程式が重解を持つ時には指数関数に1次式を乗じた形の解であったわけですが、それもこのn次の場合の解の形に含まれるわけです。

$$特性方程式の解が3重根であれば、微分方程式のほうの解はy= e^{\alpha x}( C_2x^2+C_1x+C_0 ) になります。$$

この特性方程式の重解の部分に対する微分方程式のほうの解を、異なる実数解や複素数解に対応する微分方程式の解に加え合わせて、全体の一般解になるわけです。

参考:n次方程式について

複素数係数のn次方程式は、m重解の部分をm個の解と数えると約束するうえで、n個の複素数解(実数解を含めて)を必ず持ちます。これは代数学の基本定理と呼ばれます。(代数学の「基本」となる定理なのかは別問題ですが・・。)
また、2次方程式には「解の公式」がありますが、多項方程式の係数の加減乗除とベキ根(2乗根、3乗根など)の組み合わせで解を一般的に表せるのは4次方程式までで、5次方程式以降は一般的にはその手法では解けない事が知られています。つまり、5次方程式以降は、解は確かに存在するけれど、2次方程式同様の「解の公式」によって手計算で一般的に解く事はできないという事です。(係数のベキ根によって解けるものもありますが、解けないものもあるという事です。)
しかしそうなると、定数係数の線型常微分方程式についても、n次方程式が解ければ微分方程式の解も分かるわけですが、肝心のn次方程式の解のほうが、高次の場合には手計算では一般的には解けない事になるのです。・・そのため、この微分方程式の理論は、ちょっと肝心なところが抜けているという感もあるかもしれません。あくまで、理論的にはこのように言えるという事を踏まえる必要があるかと思います。
代数学の基本定理は代数学の手法で証明する事もできますが、解析学的に証明する方法もあります。ベキ根による「解の公式」の存在(可解性などと言います)については、より代数学的な話なります。

特性方程式による、常微分方程式の解法についての考察

以前考察した簡単な微分方程式の解法について、特性方程式の観点からまとめと考察をしてみます。

解法のまとめと一覧表 ■ 解法の考察(特性方程式の観点から)

解法のまとめ・・一覧表

1階と2階の定数係数の線型常微分方程式を例にして、5つのタイプの微分方程式をまとめてみます。

微分方程式 使用する微分公式
① \(y^{\prime}=0\)  \(f(x)=C\) 定数関数の微分
② \(y^{\prime\prime}=0\) \(f(x)=bx+C\) 単項式の微分
③ \(y^{\prime\prime}-b=0\) \(f(x)=\frac{b}{2}x^2+Ax+C\) 単項式の微分
④ \(y^{\prime\prime}+b^2y=0\) \(f(x)=A\cos (bx+C)\) 三角関数と合成関数の微分
⑤ \(y^{\prime\prime}+by^{\prime}+cy=0\) 1.特性根\(\alpha,\beta\)が重解でない:
\(f(x)=Ae^{\alpha x}+Be^{\beta x}\)
2.特性根\(\alpha\)が重解である:
\(f(x)=e^{\alpha x}(Ax+B)\)
これがこのページで特に扱った内容です。特性根が重解で無い場合は、実数解と複素数解の場合をまとめています。

特性根」とは、「特性方程式の解」の事です。

解法の考察・・特性方程式の観点から見ると?

上記の5つの種類の解は、5番目のタイプで「特性方程式の解」が重解である場合と複素数解である場合を含めると、③タイプを除いて「数学的にまとめる」事も可能なのです。

どういう事かと言いますと、まず④の三角関数タイプは、じつは特性方程式の観点から言うと「特性根として複素数解」を持つ場合なのです。その場合、e の指数関数は複素数と三角関数の関係により表され、任意定数(複素数も可)を上手に選ぶと「実数範囲の三角関数」を解として得る事ができます。特性方程式が複素数解を持つ場合には、解を複素数でも実数でも表せる事を上記で述べましたが、その事です。

①②の、定数関数と1次関数が解のパターンは、ちょっと意外かもしれませんが、特性方程式の観点からは、じつは「特性根が重解」パターンの仲間なのです。(上記では最も面倒だったパターンですね。)ただ、「2階微分=0」のような場合には特性方程式の重解は 0 ですので、指数関数部分は1となって見えなくなるので、定数の場合も含めて1次関数の部分だけが残ります。そのような見方も数学的には可能という事です。

上の表の中でじつは仲間外れなのは③の2次関数タイプで、定数係数の常微分方程式の中で、これだけが「非斉次」タイプで、残り①②④⑤は「斉次」タイプなのです。このページで扱った内容(表の中では⑤)は、全て「斉次」のものです。そのために、③の解だけは⑤の枠組みとは少し違ったものになっている、という見方もできるわけです。(※ただし、非斉次であっても一工夫して斉次の形に変形をしたうえで解く事は可能です。)