複素数の極形式(極表示)と偏角

複素数の極形式(あるいは「極表示」)の定義と計算方法を説明します。これは三角関数と複素数の密接な関係を表すもので、複素数を平面図形的に扱える根拠ともなっています。

考え方の基本は、複素数の定義と、xy平面上の極座標の考え方を組み合わせるというものになります。それによって、複素数の乗法と除法(掛け算と割り算)には、独特の性質を持つ事が分かるようになります。

BGM:MUSMUS CV:CeVIOさとうささら

複素数の極形式とは?三角関数と複素数の密接な関係

複素数を三角関数で表現したものを複素数の極形式あるいは極表示と呼びます。じつはこれは、複素関数論や物理学等で、複素数を使う場合に本質的に重要になるのです。

複素数を次のように、三角関数を使った形で表したものを複素数の極形式と言います。

複素数の「極形式」

$$z=a+biの「極形式」:z=|z|(\cos \theta + i\sin \theta)$$ $$\cos \theta=\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\hspace{15pt}\sin \theta=\frac{b}{|z|}=\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}$$

$$複素数の絶対値 |z| を r で表して、z=r(\cos \theta + i\sin \theta)の形式でもよく書かれます。$$

式だけ見ると唐突で複雑に見えるかもしれませんが、
じつはこれは図形的に理解してから式の意味を整理すると分かりやすいのです。

複素数の実部を直交座標のxy平面のx座標とみなし、
複素数の虚部(の実数係数部分)をy座標とみなす考え方があります。
そのように考えた仮想的な平面を複素平面と言い、
その時のx軸に相当する軸を「実軸」、y軸に相当する軸を「虚軸」と呼んだりします。
そのように考えると複素数を図形的に捉える事ができるようになり、考察をさらに進めると複素数の極形式の考え方が出てくるのです。

複素平面と実軸・虚軸
複素数の実部をx座標、虚部の係数をy座標にプロットします。このような「複素平面」において、複素数の絶対値は「原点から複素数を表す点までの距離」という図形的意味を持ちます。

複素平面において、まず「絶対値を原点から複素数までの距離」と考えます。すると、通常のxy平面における極座標の考え方を使えば、複素数の実部と虚部を三角関数を使って表せるはず・・・と考察したものが、上記の複素数の極形式の形なのです。

尚、絶対値を平方根で敢えて書いている部分 \(\cos \theta=\Large{\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)は、
図で表している部分を式で書いた表現になります。
単純に、直角三角形の1つの辺を斜辺で割った値として余弦や正弦を考えています。
(a や b はマイナスの値もとるので、角度は三角関数に対する一般角を考えている事になります。)

三角関数とみなしている項の部分\(\Large{\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)と\(\Large{\frac{b}{|z|}=\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)は、
値が必ず -1 以上 +1 以下です。(2乗してみるとすぐに分かります。)
さらに、これらを2乗して互いを加え合わせたものは1に等しくなります。

$$\left(\frac{a}{|z|}\right)^2+\left(\frac{b}{|z|}\right)^2=\left(\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)^2+\left(\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)^2$$

$$=\frac{a^2}{a^2+b^2}+\frac{b^2}{a^2+b^2}=\frac{a^2+b^2}{a^2+b^2}=1$$

これらの事が三角関数の定義と調和しており、
そのために、三角関数としてみなせるという事なのです。

この時に、三角関数として表すからには「対応する角度が必ず存在する」はずですが、
それは実際に考える事ができるのです。しかもその仮想的な角度は、とりあえず数学上の辻褄合わせで考えておくというだけでなく、複素数の計算理論において重要な量なのです。

複素数に対して新たに導入した三角関数の角度部分として、新たに設定した実数 θ を、
その複素数の偏角と言います。複素数 z に対して arg z と表記する事もあります。
(英語では偏角の事を argument と言います。)

このように、複素数を「複素平面」に図示して考える時もあります。
この時、複素数同士の積は「複素平面上の『回転』」を表します。
複素数の極形式は、複素数の指数関数表示とも直接的に関わります。

複素数の乗法と除法、ド・モアブルの定理

複素数を極形式で表した時に成立する重要公式があり、それは
「2つの複素数の積は、『絶対値の積』と『偏角の和』で計算できる」というものです。

複素数の乗法・積に関して成立する公式

$$u=|u|(\cos \theta + i\sin \theta),\hspace{10pt}w=|w|(\cos \phi + i\sin \phi)のとき、$$ $$uw=|u||w|\{\cos (\theta+\phi)+i\sin (\theta+\phi)\}$$

この公式において絶対値が1で u = w の時、すなわち絶対値が1の複素数のベキ乗(「n乗」の事)を考えた場合の式は特にド・モアブルの定理と呼ばれる事が多いです。

$$ド・モアブルの定理:(\cos\theta+i\sin)^n=\cos(n\theta)+i\sin(n\theta)$$

他方で除法(割り算)の場合には、絶対値の部分を割り算し、割るほうの複素数の偏角にマイナス符号をつけて掛け算します。つまり、除法の場合は偏角部分を引き算する計算になるのです。

複素数の除法・商に関して成立する公式

$$u=|u|(\cos \theta + i\sin \theta),\hspace{10pt}w=|w|(\cos \phi + i\sin \phi)のとき、$$ $$\frac{u}{w}=\frac{|u|}{|w|}\{\cos (\theta-\phi)+i\sin (\theta-\phi)\}$$

この除法に関するほうの公式は、乗法の場合において片方の偏角 φ の符号を入れ替えて -φ に置き換えたものとみなす事もできます。
マイナスの角度というのは、
「平面上で通常の角度の向き(反時計回り方向)に対して『逆の方向(時計回り方向)』」に向けての角度と考える事ができますから、複素平面上の図形的な捉え方においても乗法の場合の公式で統一的に捉える事が可能です。

除法のほうの公式を考えてみると、ド・モアブルの定理においてべき乗の指数であるnは自然数だけではなく、マイナスの整数であってもよい事が分かります。
実数の1は「絶対値が1で偏角が0の複素数」と同じものである事に注意します。

$$例えば、(\cos \theta + i\sin \theta)^{-2}=\frac{1}{(\cos \theta + i\sin \theta)^2}=\frac{1}{\cos(2\theta) + i\sin(2\theta)}$$

$$=\cos (0-2\theta)+i\sin (0-2\theta)=\cos (-2\theta)+i\sin (-2\theta)$$

※さらに考察すると、任意の実数 x に対して (cos Θ + i sinΘ)x=cos (xΘ) + i sin(xΘ) です。

公式の証明

複素数の乗法および除法、ド・モアブルの定理の成立根拠は三角関数の加法定理です。

まず、極形式で表した2つの複素数の積をそのまま計算してみましょう。
すると、実部には余弦に関する加法定理、虚部には正弦に関する加法定理の形が現れるので、加法定理によって変形するとそれがそのまま公式の証明になるのです。

$$uw=|u|(\cos \theta + i\sin \theta)|w|(\cos \phi + i\sin \phi)$$

$$=|u||w|\{ \cos \theta \cos \phi – \sin \theta \sin \phi +i(\sin \phi \cos \theta + \sin \theta \cos \phi )\}$$

$$=|u||w|\{\cos (\theta+\phi)+i\sin (\theta+\phi)\}【証明終り】$$

割り算のほうの公式は、偏角に関しては前述の考え方と同じで片方の符号を入れ替えて、
絶対値部分については |w|=1/|w| の場合を考えればよいことになります。

あるいは、分母の複素数の共役複素数を分母と分子に掛けて直接証明してもよく、
偏角が θ である複素数の共役複素数の偏角は -θ になりますから、掛け算のほうの公式を使えばよい事になります。

$$乗法の公式で\phiを-\phiに置き換えてもいいし、次のようにしても結果は同じです。$$

$$\frac{u}{w}=\frac{u\overline{w}}{w\overline{w}}=\frac{|u||w|(\cos \theta + i\sin \theta)(\cos \phi – i\sin \phi)}{|w|^2}=\frac{|u|}{|w|}\{\cos (\theta-\phi)+i\sin (\theta-\phi)\}$$

さらなる考察

この極形式の観点から言うと、虚数単位 i は

$$i = \cos \frac{\pi}{2}+i\sin \frac{\pi}{2}$$

とも書ける事は重要です。
複素数の乗法に関する公式とも合わせて考えると、ある複素数に対して虚数単位 i を掛ける操作は、
「複素平面上では『90°回転』を意味する」という事が分かります。
物理学や一部の工学では、その分だけ「『位相』を進める」といった表現がされる事もあります。

式で書くと次のようになります。

$$i(\cos\theta+i\sin\theta)=\left(\cos \frac{\pi}{2}+i\sin \frac{\pi}{2}\right)(\cos\theta+i\sin\theta)=\cos\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)+i\sin\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)$$

公式の証明の箇所でも触れましたが、
ある複素数の共役複素数は、偏角の符号を入れ替えたものになります。
その事は図形的に見て確認する事もできますが、
虚部の符号を入れ替える事と、cos(-Θ)=cos および sin(-Θ)=-sinΘ の関係から見る事もできます。

$$z=\cos\theta +i\sin\thetaに対して、\overline{z}=\cos\theta -i\sin\theta=\cos(-\theta) +i\sin(-\theta)$$

また、極形式で書いた場合でも「ある複素数と共役複素数の積は、絶対値の2乗になる」という事が確かに成立する事が分かります。ある複素数とその共役複素数は、絶対値は同じである事に注意すると次のような計算になります。

$$z\overline{z}=|z|(\cos\theta+i\sin\theta)\cdot|z|\{\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\}$$

$$=|z|^2\{\cos(\theta-\theta)+i\sin(\theta-\theta)\}=|z|^2(\cos 0+i\sin 0)=|z|^2$$

偏角と回転・反転
虚数単位 i を2乗すると-1になるという計算や、虚部の符号を入れ替えた共役複素数についても、極形式の偏角の観点から複素平面上での図形的に解釈が可能です。

さらに、複素数の極形式を表す別の表記方法として複素数の「指数関数表示」というものがあります。これは「オイラーの式」と呼ばれる事もあります。

$$複素数の指数関数表示:e^{ix}=\cos x +i\sin x$$

e は自然対数の底(ネイピア定数)です。このような複素数が混じった指数関数においても、微積分を含めて通常の指数関数と同様の計算が成立します。複素数の乗法と除法の公式を考えると、指数関数の極形式における乗法や除法の計算と実は調和しています。

例えば指数関数の計算規則に従うと複素数の積は次のようになります。

$$e^{ix}e^{iy}=e^{i(x+y)}$$

これをよく見ると、複素数の極形式における乗法の計算と調和しているのです。

$$(\cos x + i\sin x)(\cos y + i\sin y)=\cos (x+y)+i\sin (x+y) $$

複素数の指数関数表示【オイラーの式】

複素数の指数関数表示について説明します。

これは「オイラーの公式」とか「オイラーの式」とも呼ばれますが、じつは同じ名前・似た名前で全く別の公式や定理が複数存在します。大変紛らわしく、使用する都度に「複素数に関する・・」「実関数の解析学における・・」「幾何学での・・」このように断り書きをつけるのは大変不便なので、
このサイトではeiθを表す語としては「複素数の指数関数表示」という表現を採用します。

複素数の指数関数表示とは次のようなものです。

複素数の指数関数表示

複素数の極形式表示を指数関数の形で書く事ができ、次のように定義します。 $$e^{i\theta}=\cos\theta +i\sin\theta$$ このeは自然対数の底です。eiθを exp(iθ)と書く事もあります。これは実数範囲の指数関数での表現と同じです。(exponential の略)

こういう形なので、eiθの絶対値は1になります。

$$|e^{i\theta}|=|\cos\theta +i\sin\theta|=1$$

さて、このように「指数関数」で書くからには指数関数としての規則を満たしているのかというと、きちんと満たしています。これらの性質、特に微分の演算は表記を簡易にするので便利です。

成立する演算
  1. 積の演算:eiθiω=ei(θ+ω)
    iθiω=(cosθ+isinθ)(cosω+isinω)
    =cos(θ+ω)+isin(θ+ω) 【ドモアブルの定理より】
    =ei(θ+ω)
  2. 微分:(d/dθ)eiθ=ieiθ 【合成関数の微分使用】
    (d/dθ)eiθ=(d/dθ)(cosθ+isinθ)
    =-sinθ+icosθ=i(cosθ+isinθ)
    =ieiθ

見ての通り、この指数関数表示は三角関数の性質に直接的に関わるものです。
(ドモアブルの定理の成立根拠は三角関数の加法定理。)

実際、一見唐突にも見えるこの「指数関数の定義域の拡張」は三角関数をもとに考えられたものです。

「三角関数と指数関数では全然違うではないか?」という話ですが、それらをテイラー展開すると似た形をしているのです。(微分の性質も似ている事に注意:eの指数関数は微分に関して1回周期、三角関数は4回周期でもとの関数に戻ります。さらに正弦関数と余弦関数は微分により符号を変えながら互いに互いの導関数に変化します。)

特にマクローリン展開(x=0でのテイラー展開)の形にすると形は似てきます。

$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots$$

$$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots$$

$$\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots$$

ここで、正弦関数の場合は「偶数項」が抜けていますが、余弦関数を見るとちょうどそれを補うように項が並んでいるのです。(正弦関数を微分すると余弦関数になる事に対応します。)これを合わせると、ちょうど指数関数のほうで使っている項が並ぶ事になります。

しかしそれでも符号が変わっている箇所は対応しないという話になりますが、ここで指数関数eに「ix」を「形式的に」代入してみるという工夫をしてみます。

$$e^{ix}=1+ix-\frac{x^2}{2!}-i\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+i\frac{x^5}{5!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots$$

これをよく注意して見ると、次の規則があります。

  • 虚数単位iは奇数項にのみつき、偶数項にはつかない。
  • 奇数項と偶数項に分けてみると、それぞれが1項ごとにプラスマイナスの符号が反転する。

そこで、奇数項と偶数項に分けて式を整理すると次のようになります。

$$e^{ix}=\left(1+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots\right)+i\left(x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots\right)$$

$$=\cos x +i\sin x $$

このように「導出」できるわけですが、基本的には複素数の指数関数表示は上記のように「定義」するものになります。複素数の範囲に定義域を拡張する時には上記のようにすると定義するわけです。

しかしそういう事を言うと、定義域の拡張の際に「別のやり方」もあるのではないかという問題も起きます。上記のように定義する必然性がないのではないか、という事にもなります。

この件について複素関数論においては、「正則関数」になるように定義域を拡張する場合には上記のようにeiθ=cosθ+isinθ のようにするしかない、という位置付けになります。(その際にも重要になるのはじつはテイラー展開です。)

複素数の積分

複素数の微分に続いて、このページでは複素数の積分について述べます。
これは学校での授業としては大学数学の範囲になります。

定義と考え方

積分をどのように定義する?
複素関数の定積分には「積分経路」が必要
複素数の積分・・何に使う? 

積分をどのように定義する?

複素関数の微分は比較的分かりやすいかと思いますが、
では複素関数のの積分は一体どのように定義するのかという話になります。

考え方は、実数関数の積分と同じく、「和」を考えます。

z=x+ i yのときに、dz=dx+ i dyを考えるのです。

そして、複素関数f(z)に対してf(z)dz=f(z)dx+i f(z)dyを考え、加え合わせます。
これが複素関数の積分です。

複素関数の積分(定積分)

$$\int_Cf(z)dz=\int_Cf(z)(dx+idy)=\int_C(u+iv)(dx+idy)=\int_C(udx-vdy)+i\int_C(vdx+udy)$$

f(z)=u(x,y)+iv(x,y)です。
積分記号に添えられているCとは、後述する「積分経路」です。

微小な領域の幅に相当するものを関数に乗じて加え合わせて極限を取るという考えが得方は実関数の積分の場合と同じなのです

xとyが媒介変数t(実数)で結ばれる時は、このtによって複素変数zが定まるので、tによる積分と考える事もできます。

これら2つの複素関数の積分の定義は同等なものとなります。

媒介変数を使った複素関数の積分(定積分)

$$\int_Cf(z)dz=\int_a^bf(z(t))\frac{dz}{dt}$$

この場合、媒介変数tは実数です。
tの積分区間 [a, b] において、あたかも通常の実関数であるかのように定積分を行う事になります。
積分経路が円の時は、媒介変数として弧度法の角度θを使う事が多いです。

複素関数の定積分には「積分経路」が必要

さて、実数関数の場合の定積分には「積分区間」がありました。複素関数の場合にもそれに相当するものがありますが、じつは積分の区間ではなく「経路」が必要になります。

単純にxを動かして次にyを動かした場合、それは多くある積分経路の1つです。

積分経路は、直線であったり、曲線であったり、円のような閉曲線でもあり得ます。

このような積分経路が定められた時、z=x+ i yのxとyには従属関係があります。

$$例えば直線であればy=2x,円であればx^2+y^2=1といった関係です。$$

このような時には媒介変数tでxとyを結ぶ事ができます。円の場合には、媒介変数は角度で考える事が普通です。

積分経路上の1つ1つの点に対して、複素関数f(z)の値が存在する形になります。

積分経路が閉曲線の場合、基本的には「反時計回り」が正の方向です。もう少し詳しく言うと「経路を進む方向に対して領域が常に左側に来るように」正の向きをとります。

この向きの取り方は閉曲線の中に別の閉曲線による「穴が」あるような場合の正の向きの考察に役立ちます。(そのような場合も一番外側の閉曲線を「反時計回り」で考える事で正しく向きを処理する事も可能です。)

どの向きをプラスにとるのかについて、反時計回りに考える方法と「左手側に領域が来るように」という方法は本質的に同じものです。領域内に穴があるような場合には、定積分が打ち消してゼロになる補助線を引いて考えます。

複素数の積分・・何に使う?

複素数の積分は間接的に物理等の理論に関わり、数学上も時折使う事のあるツールの1つとしてところどころで顔を出します。

まず1つは、特定の実数関数の定積分(多くの場合積分区間を無限大にする「広義積分」ですが)の値を出すのに、複素積分を使う事があります。あるいは、そのような手順を踏まないと手計算では値を出せないと言ったほうがよいでしょう。そういった種類の定積分があるわけです。

もう1つは、分母に変数があり、その変数が0になってしまう場合(「極」と言います)の処理のために複素積分の考え方をうまく使える場合があります。これについては「コーシーの積分公式」との関連が深いです。

数学の理論の中では「代数学の基本定理」について、複素数の積分の理論の一部を適用する事によって証明が可能です。(他の方法でも証明はできます。証明の方法は多いです。)

複素数の微分【複素関数論】

このページでは複素数微分について述べます。
大学数学では複素関数論(あるいは単に「関数論」)と呼ばれる領域です。

数学上の理論でも応用でも重要なのはむしろ複素数の「積分」のほうですが、面倒なのも積分のほうです。

まず基本的な考え方として微分のほうをここでは説明します。

複素数の微分・・実数の時と何が違う?

まず、具体的な初等関数を微分するレベルにおいては実数の時とほとんど同じです。

定義域が複素数の初等関数の微分・・実数の時とほぼ同じ
テイラー展開・マクローリン展開も同様に可能
複素関数論に特有の議論はあるの? 

複素関数の微分
複素関数論(複素数の微積分)・・実数の時と同じように考えてよいところと、
別の数学的考察が必要になる部分のポイントをこのページでは説明します。

定義域が複素数の初等関数の微分・・実数の時とほぼ同じ

複素数を定義域 (変数の範囲)および値域(関数の値の範囲) に持つ関数を複素関数といます。複素関数の微積分を扱う数学の領域を複素関数論(あるいは略して「関数論」)とも言います。複素関数に対して、通常の実数の範囲の関数を「実関数」と呼ぶ事もあります。慣習で、複素関数の変数は x ではなく z で表す事が多いです。ただし、定義域が複素数範囲である事を明示すれば本質的に何の文字を使おうが間違いではありません。

結論を先に言うと、初等関数の定義域を複素数に拡張したものを微分してできる導関数は、定義域が実数の時と同じです。

複素関数の微分公式【実関数と同じ】

初等関数に関しては、実関数の時と同じ形の次の公式が成立します。 $$\frac{d}{dz}z^r=rz^{r-1}$$ $$\frac{d}{dz}e^z=e^z$$ $$\frac{d}{dz}\cos z =-\sin z$$ $$\frac{d}{dz}\sin z = \cos z$$ $$f(z)g(z)=\frac{df}{dz}g(z)+\frac{dg}{dz}f(z)$$ その他、実関数に関する公式は大体そのまま成立します。
また、微分の記号も全く同じものを使用します。

★じつのところ、理論として高校数学から直ちに飛びつけない部分は、例えば指数関数や三角関数の場合に「複素数が変数の時にはどういう値をとるのか・・?」という事です。
例えば、cos(2i) などは、ちょっと何の値になるのか(何の値にすべきなのか)分かりませんね。
これについては「複素数の指数関数表示」が大いに関わります。このページでは、個々の関数の定義域の拡張方法についてはとりあえず置いておき、複素関数の微分の全体像について解説します。

テイラー展開・マクローリン展開も同様に可能

初等関数に対して微分が実関数の時と同じ演算で可能という事は、高階微分も同じ計算になるはずで、実際そうなります。そして、初等関数の定義域を複素数に拡張した時も、実関数の時と同様にテイラー展開やマクローリン展開が可能なのです。

例えば、定義域が複素数であっても、三角関数や自然対数の底の指数関数は次のようにマクローリン展開ができます。

$$\sin z=z-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}-\cdots$$

$$e^z=1+z+\frac{z^2}{2}+\frac{z^3}{3!}+\cdots$$

※解析学的に、極限の事を厳密に考えていくと実関数との違いは考察として必要になります。その基礎の1つについては後述します。

複素関数論に特有の議論はあるの?

さてこれらの「結論」を見ると、結局複素数の微分というのは定義域を複素数にまで伸ばせばいいだけの話で、数学的にあまり考察する意味はないのでは・・?と、思われるかもしれません。

とりわけ、数学の応用を考える場合はそう思うかもしれませんね。

そこで次に、複素関数の微分において、実関数と違う考察が必要な点を次に述べましょう。これは、複素数の積分のほうを考える時に必要な知識の1つにもなります。

具体的には偏微分を使った考察を行う事になります。実数関数の場合には2変数以上を扱う時に限り偏微分についての考察も必要だったわけですが、複素数を扱う時にはx+yiという形で常に2変数扱うとみなす事もできるので、偏微分も(および全微分も)初歩的な段階から考察対象になるのです。

ただし前述のように、常に2変数と偏微分等を考えないといけないという事ではありません。複素数zを1かたまりとみて1つの変数扱いにできる場合も確かにあるわけです。そこの使い分けが、確かに実数関数の場合と比べて少しトリッキーです。

複素関数の微分の数学的な考え方の詳細

まず微分以前の話として、複素関数というものは実部と虚部という2つの実数部分から、別の複素数の実部と虚部ができるという多変数の関数の一種として考える必要が本来はあります。その考え方をもとに、複素数の微分を改めて捉えてみましょう。

複素関数の実部と虚部はともに2変数関数
複素関数で成立する偏微分の公式(コーシー・リーマンの式)
「正則」という考え方 

複素関数の実部と虚部はともに2変数関数

ある複素数 z = a + bi を2乗するという関数を考えてみると、

$$z^2=(a+bi)^2=a^2-b^2+2abi$$

ここで、結果の式の実部を u、虚部の実数部分を v とすると、u は a と b の関数、v も a と b の関数になります。まず、この考え方が重要です。

つまり、一般の複素関数については次のように考えます。

$$z=x+yi\hspace{3pt}に対して \hspace{3pt}F(z)=u(x,y)+iv(x,y)$$

もとの複素数が変数の時、それが2つの実変数から構成されていて、それらから2つの別の2変数関数が構成されて新しい複素数を作るというわけです。

複素関数
この図で、x と y は変数、u と v は関数(実関数)です。
u, v ともに、x と y による2変数関数 u(x,y) , v(x,y) になります。
z は複素数(変数)、F(z) は「複素関数」です。

多変数関数(ここでは必ず2変数ですが)が出てくるところが、
次に述べる複素関数論での偏微分の使用との大きな関わりがあります。

複素関数で成立する偏微分の公式(コーシー・リーマンの式)

実関数の場合の微分のもともとの考え方は、dy = (dy/dx)dx という、近似の「一次式」を新たに設定する事でした。では、これが複素関数の時はどうなるでしょう?

次のように考えます。

まず、導関数および微分係数も複素数で表されると考える事が重要です。

$$\frac{dF}{dz} =\alpha +i\beta \hspace{10pt}【\alpha と\beta は実数(関数)】$$

$$z = x + iy ,\hspace{5pt} dz = dx + idy, \hspace{5pt} F(z) = u + iv $$

$$dF=\frac{dF}{dz}dz=( \alpha +i\beta ) ( dx + idy) =(\alpha dx -\beta dy)+i(\beta dx + \alpha dy)$$

計算は、複素数の四則演算をしているだけです。実部と虚部に分けます。

次に、

$$F = u +i v = u(x,y) + i v(x,y) に対して dF = du + i dv$$

であるとすると、du と dv は次のようになるわけです:

$$du = \alpha dx -\beta dy,\hspace{10pt} dv =\beta dx + \alpha dy $$

さてここで、dF に対する du と dv は「全微分」でも表せるものとして定義します。(そういうものとして「複素関数の微分」を考えようという事です。)すると、

$$du=\frac{\partial u}{\partial x}dx+\frac {\partial u}{\partial y}dy,\hspace{10pt} dv=\frac{\partial v}{\partial x}dx+\frac {\partial v}{\partial y}dy $$

とも表せるわけです。これを見ると、\(\alpha\) と \(\beta\) は、2通りの方法で表せるはずであり、

$$ \alpha= \frac{\partial u}{\partial x} =\frac {\partial v}{\partial y} ,\hspace{10pt} \beta=-\frac {\partial u}{\partial y} = \frac{\partial v}{\partial x} $$

この偏微分に関する関係が、複素関数の微分における特徴的な性質になります。

複素関数の微分で特徴的な公式

$$ \frac{\partial u}{\partial x} = \frac {\partial v}{\partial y} ,\hspace{10pt} -\frac {\partial u}{\partial y} = \frac{\partial v}{\partial x} $$ この関係式を「コーシー・リーマンの式」と言う事もあります。
名前よりも数学上重要な事は、複素関数が「微分可能」であるとは、
これら2つの偏微分に関する等式がともに成立するという事なのです。(必要十分条件です。)

コーシー・リーマンの関係式の導出
最終的には、図の dx , dy ごとの係数(関数ですが)を比較してコーシー・リーマンの関係式を導出しています。

尚、特に積分のほうで考え方として重要なのですが、どういった「経路」に沿って微積分をするのかという事も複素関数論では考えます。
その経路とは、例えば直線であるとか円であるとかいったもので、z = x + iy において、x と y の関数で表す事ができます。(例えば直線なら y = 2x など。)
そのような場合には、x と y は完全な独立関係にある変数ではなく、従属関係になります
従ってその場合には、媒介変数tを使って x = x(t) , y = y(t) を考える事ができます。そうなると、x と y を変数とする2変数関数 u(x,y) と v(x,y) はもとの変数を tとした合成関数と考える事ができます。
そのように考えると、上記のように複素関数の微分において全微分の考え方を使って定義をする事の意味も多少分かりやすくなるかと思います。

この偏微分に関する「コーシー・リーマンの関係式」は複素関数の積分のほうでむしろ重要になる事があり、例えば複素関数についてのコーシーの積分定理を導出する際に必要になります。

「正則」という考え方

上記の偏微分に関して成立する公式の他に、複素関数の微積分では「正則」という考え方も重要になります。これは、微積分をする対象の関数に1つの条件を課す事であり、基本的に複素関数論はその条件をつけた範囲内で理論を組み立てる事が多いです。

dz = dx + idy を考える時に、じつはある点を基準に考えた時に x と y をどのように動かすのかという問題があります。じつのところ、複素関数論では「どの方向に動かしたとしても」極限が一致する事を「微分可能」であると呼びます。(初等関数の微分ではその要件を満たします。)

$$\lim_{h\to 0}\frac{F(z+h)-F(z)}{h}\left(= \lim_{dz\to 0}\frac{F(z+dz)-F(z)}{dz} \right)$$

によって微分による導関数を定義するのは実関数の時と同じですが、「hの部分も複素数」であるところがじつはポイントであるわけです。

これらの事を踏まえたうえで、「1つの点を含む領域の任意の点」で微分可能な(小さな)領域が存在する時、その複素関数はその点で「正則」であると呼びます。また、複素関数が正則である領域においてはその関数は「正則関数」であると呼ばれます。数学の複素関数論の中では、多くの場合に微積分の対象をこの正則関数に限定する事で理論を組み立てているので、用語としては重要です。

文章の表現としては定義の仕方はいくつかあるのですが、ここではその1つを記します:

複素関数論での「正則関数」の定義
  • ある複素関数 F(z) と、ある点 z = z0 について、z0 を含むある領域で、「その領域内の任意の点で微分可能であるような」ものが存在する時、F(z) は点 z0 において正則であると呼ぶ。
  • ある領域の任意の点で F(z) が正則である時、その領域内で F(z) は「正則である」あるいは「正則関数である」などと言う。

参考文献・参考資料


基礎系 数学 複素関数論I (東京大学工学教程)

虚数単位と複素数【定義と計算】

虚数単位複素数というものについての定義と基本計算を説明します。

複素数は、微分方程式の解法に使う事ができ、また平面図形的に捉える事も可能である事から物理学の一般の力学や流体力学、電磁気学、電気回路論などで使用される事があります。また、量子力学の波動関数(あるいは「状態」)は、本質的に複素数の関数(実関数も含めて)であると考えられています。

BGM:MUSMUS CV:CeVIOさとうささら

定義と基本用語

まず数学的な定義です。

2乗してマイナス1になる数」を定義してみるところから始めます。

複素数と虚数単位の定義

$$i^2=-1$$を満たす「数」を虚数単位(imaginary unit)と言い、
実数 a,b を使って 実数と虚数単位が掛け算や足し算で結びついたような量を考えて、 $$a+bi$$で表される数を複素数)(complex number)と呼びます。

※虚数単位iに対して、定数倍する時には3i,7i といった順番で書く事が多く、
文字式がある場合には同じくbiと書く方法と、意図的にibと書く場合の両方があります。
ibと書いてもbiと書いても、意味はどちらも同じです。
三角関数が虚部にある場合には「i sinΘ」のような順番で書くことが普通です。

◆実数の計算では、
プラス×プラスはプラス、
プラス×マイナスおよびマイナス×プラスはマイナス、
マイナス×マイナスはプラスですので、
これらをどう組み合わせても「2乗してマイナスになる」という場合があり得ないわけです。

複素数を表す文字は何でもいいのですが、z, u , w などが優先して使われる傾向があります。
「複素数 z = a + bi を考えるとき・・・」という具合に使うわけです。
(区別のために実数はa,b,c,・・・で表し、複素数はアルファベットの終わりのz付近のものを使うという単純な理由だと思います。)

複素数の実数だけの部分を実部と言い、虚数単位 i が掛け算されている部分を虚部と呼びます。

複素数zに対して、その実部を Re z と書き、
虚部の虚数単位に掛けられている実数を Im z と書く場合があります。
Re とは real , Im とはimaginary の略です。

$$例えば、z=2+3iに対して \mathrm{Re}\hspace{2pt}z = 2, \mathrm{Im}\hspace{2pt} z = 3 です。$$ 

また、単に「虚数」と言う場合には、
虚数単位を0以外の実数倍したものだけで構成させるbiという形のものを指す事があり、
これを特に純虚数と呼ぶ事もあります。
これは、複素数a+biにおいてa=0かつb≠0の場合を指しているという見方もできます。
あるいは、「実部が0で、かつ虚部が0でない形で単独で存在する場合を純虚数と呼ぶ事がある」とも言えます。

$$純虚数とは:b\neq 0 として、bi という虚部だけの形で表される複素数$$

虚数、あるいは純虚数という(同じものを指す)呼び方は英名の場合も同じで、
それぞれ imaginary number, purely imaginary number のように言ったりします。

複素数を変数とする関数は複素関数と呼ばれる事があり、その場合の変数となる複素数をzとする時には、そのzを構成する実部と虚部も変数である事からz=x+yiのように書く事もあります。 xとyという2つの実数の変数で決まる関数なので、複素関数は多変数の関数の1つです。

電磁気学や電気回路論では電流を i で表す事があって紛らわしいという理由で、
複素数を使う場合には虚数単位を j で表す事があります。

a + bi において b= 0 の時には複素数は通常の実数 a になるので、数学では「実数全体」という集合が「複素数全体」という集合に含まれている、と考えます。

集合の記号で書くとき、
実数全体の集合を \(\mathbb{R}\) 、複素数全体の集合を \(\mathbb{C}\) と書きます。
(これらの記号はそれぞれ、real と complex に由来します。)
複素数全体は実数全体を含みますので、次のような包含関係があります。 $$\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$$

◆補足として、
有理数全体の集合 \(\mathbb{Q}\) と整数全体の集合\(\mathbb{Z}\)、自然数全体の集合\(\mathbb{N}\)も含めて包含関係を書くと次のようになります。 $$\mathbb{N}\subset\mathbb{Z}\subset\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$$

共役複素数と複素数の絶対値

複素数 a+bi に対して、 a-bi を共役(「きょうやく」)な複素数、あるいは共役複素数と呼びます。

共役複素数の定義

$$z=a+bi に対する「共役複素数」\bar{z}=a-bi$$ 文字の上に横線を引きます。

この「共役」という用語は、一般的には複素数に限定されたものではなく、
代数学においてより広い意味を持ちます。

また、a+bi に対して、次の量をその複素数の絶対値と言います。
記号では、実数の絶対値記号と同じものを使います。

複素数の「絶対値」の定義

$$z=a+biの「絶対値」:|z|=|a+bi|=\sqrt{a^2+b^2}$$これは必ず正の実数です。

複素数の絶対値は r などの文字で表す事もあります。

複素数と共役複素数の積は、その複素数の絶対値の2乗に等しくなります。
複素数の絶対値は必ず実数ですから、2つの複素数から実数を確実に作る方法の1つになります。
この性質は結構重要で、式で書くと次のようになります。

$$任意の複素数 z に対して、z\bar{z}=|z|^2$$

この式の証明は、後述する複素数の計算規則を使いますが簡単に行えます。

$$(証明)z=a+biとして、z\bar{z}=(a+bi)(a-bi)=a^2-abi+abi-bi^2=a^2+b^2=|z|^2$$

この簡易的な証明を見ても分かる通り、\(z\bar{z}=|z|^2\) という関係式は、複素数が実数である場合や純虚数である場合にも成立します。

複素数の絶対値の考え方は、複素平面というものを考えるとじつは見やすくて、「実部を底辺、虚部を高さとする直角三角形」の斜辺の長さ、あるいは2点間の距離として捉えらる事ができるのです。
つまり、複素数の絶対値の定義式の「2乗して加えたものの平方根」とは一体何なのかというと、イメージとしては三平方の定理なのです。これは偶然似ているというだけではなくて、割と本質的なものであり理論的にも重要です。

尚、虚部が0の時には複素数は実数になるわけですが、
その時の「複素数の絶対値記号」は実数の絶対値記号としてもきちんと機能するのです。そのために同じ「絶対値」という用語を使い、記号も同じであると考えてもよいでしょう。

複素数の計算方法

2つの複素数 u と w は、
実部同士が等しく、かつ虚部の実数同士が等しい時に限って、
2つの複素数は等しいと呼んで u = w であると書きます。

$$u=a+bi, \hspace{5pt}w=c+di\hspace{5pt}のとき、a=cかつb=dの時、u=w \hspace{5pt} です。$$

★「2つの複素数が等しい」ためにの条件は、じつは定義としなくても計算で「導出」する事が可能です。後述します。

複素数は、実数と同様に加減乗除の計算の中に組み込む事ができて、
式の展開や因数分解などもできます。

複素数の計算をする時には、次の事を踏まえたうえで実数の時と同じように計算します。

  • 足し算と引き算の計算では、実部同士だけ、虚部同士だけで必ず行う。
    (混ぜ合わせないようにします。)
  • 掛け算と割り算の計算では、虚数単位 i は実数にくっついた係数であるようにして扱う。
  • 計算の際に i の2乗が現れたらそこは -1 に置き換える。 (それによって、計算途中で実部と虚部が入れ替わる事もあります。)

いくつか簡単な計算の具体例を記すと、次のような感じです。

$$加算(足し算):(1+i)+(2+3i)=3+4i$$

$$減算(引き算):(1+i)-(2-3i)=1-2+i(1+3)=-1+4i$$

$$乗算(掛け算):(1+i)(2+3i)=2+3i+2i+3i^2=2+3i+2i-3=-1+5i$$

$$除算(割り算):\frac{2+3i}{1+i}=\frac{(2+3i)(1-i)}{(1+i)(1-i)}=\frac{2-2i+3i-3i^2}{1-i^2}=\frac{2-2i+3i+3}{1+1}=\frac{5+i}{2}$$

4番目の割り算のところはうまく分母と分子に (1-i) を掛けて、分母を実数だけにしています。「複素数と共役複素数の積はその複素数の絶対値の2乗に等しい」という性質を使って、数式上「分母の虚数単位iを消す」という事をしています。この手法は、複素数の微積分を論じる時などにもよく使われます。

ところで、これらの計算を使って、
「2つの複素数が等しいための条件は『実部同士が等しく、かつ虚部同士も等しい』事である」
という命題の「証明」を、次のように行う事ができます。

$$a+bi=c+di$$

であるとすると、

$$a-c=i(d-b)$$

両辺を2乗すると、

$$(a-c)^2=-(d-b)^2\Leftrightarrow(a-c)^2+(d-b)^2=0$$

これを満たすためには a = c かつ b = d という事になります。