外積ベクトル(ベクトル積、クロス積)【定義と公式】

3次元ベクトルに対しては、「外積」と呼ばれるベクトルが定義されます。
ベクトル積」「クロス積」とも呼ばれます。

◆「微分形式」という数学分野の演算でも「外積代数」という用語を使います。その3次元版では確かに「外積ベクトル」との共通性がありますが、一般には区別されており、微分形式の外積代数で使う記号【∧】による演算を「ウェッジ積」と呼び、
3次元ベクトルに対して外積ベクトルを作る時の記号【×】による演算は「クロス積」もしくは「べクトル積」と呼ぶ事もあります。
(英語の場合、3次元ベクトルの外積ベクトルを指す語としては、「べクトル積」に該当する vector product という表現を使う事が多いです。)

高校では数学でも物理でも外積を直接計算する事はほとんどないと思いますが、力と磁場と電流の向きの関係などで間接的に関わっています。そういった関係を、数学的にもう少し詳しく定式化したものが外積ベクトルになります。

定義と考え方

外積ベクトルは、3次元空間内の2つのベクトルから作られる別のもう1つのベクトルの事で、次のような定義のもとで使用します。

外積ベクトルの定義

3次元の空間ベクトル \(\overrightarrow{a}と\overrightarrow{b}\) とから作られる外積ベクトル(あるいは単に「外積」)は、次のように$$\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}$$と書き、向きと大きさを次のように定義します:

  • 大きさ:\(\overrightarrow{a}と\overrightarrow{b}\) が作る平行四辺形の面積に等しいとする
  • 向き:\(\overrightarrow{a}と\overrightarrow{b}\) が作る平面に対して垂直
    【\(\overrightarrow{a}から\overrightarrow{b}\)に向けてより小さい角度で「右ねじ」を締める時のネジ回しの先端の方向】
外積(ベクトル積、クロス積)の定義

通常のスカラー値やスカラー関数の場合、掛け算の記号はA×B、A・B、ABのいずれでも同じ計算を表すと約束しますが、ベクトルの場合には、「\(\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}\)は必ず内積」「\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)は必ず外積」を表すものと定義します。

外積ベクトルの大きさに関しては、2つのベクトルが作る平行四辺形の面積ですから、ベクトルの成分さえ分かれば一応計算できる事になります。

外積ベクトルの「向き」については、2ベクトルが作る平面(平行四辺形も含めて)に「垂直」という定義ですが、この時に表側の方向への垂直なのか、裏側の方向への垂直なのか2パターン存在します。
そのどちらかに必ず1つに決めるための基準が「右ネジを回す方向」というわけです。(これは少し直感的な説明の仕方ではあるのですが、物理学でもよくなされます。)

ネジを締める時に、時計回りにネジ回しを回せば締まっていくタイプのネジを考えます。
(反時計回りに回すと締まる「逆ネジ」も存在しますが、それは考えない。)
普通は上から見下ろしてネジを回しますが、仮に天井に向けてネジを回して締める時には「下から見れば時計回り」ですが、「上から見ると反時計回り」に見える事に注意します。

右ねじと外積ベクトルの向き①

外積ベクトル\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)の始めに書かれているほう(ここでは\(\overrightarrow{a}\)のほう)から、「時計回りに回せば『より小さい角度で』もう1つのベクトルに辿り着く」視線の方向を考えます。2つベクトルが作る平面の「表」から見るか、「裏」から見るかという事です。z軸のプラスマイナスを基準として上側(プラス方向)から見るか、下側(マイナス方向)から見るかの違いとも言えます。

z軸を基準にした時に上から見た時に、\(\overrightarrow{a}\)から時計回りに(ネジを締める方向に)回して「より小さい角度」で\(\overrightarrow{b}\)に至る状況だったとしましょう。この時は、外積ベクトル\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)の向きは、斜めになりながらもz軸の上から下に向かう方向に向いています。(実際、外積ベクトルのz成分の符号はマイナスになります。)

右ねじと外積ベクトルの向き②
画面や紙面に対して「奥→手前」「手前→奥」を表す記号は、
弓矢の「矢」の矢先が眼前に飛んでくるイメージで「丸に点・」の記号で「奥→手前」を表し、
矢の後部についている「羽」が後ろから見えているイメージで「丸にバツ×」の記号で「手前→奥」の向きを表します。

演算と基本公式

外積ベクトルに関しては、幾つかの簡単な公式が成立します。

公式
  • \(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{a}=0\) 【一応「ゼロベクトル」。平行四辺形が潰れてしまうので】
  • 2つのベクトルが平行であれば\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=0\) 
  • 2つのベクトルが直角であれば \(|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\) 【平行四辺形が長方形となるためです。】
  • k を実数として、\((k\overrightarrow{a})×\overrightarrow{b}=\overrightarrow{a}×(k\overrightarrow{b})=k(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})\) 【ベクトルの定数倍に対する扱い】
  • \(\overrightarrow{a}×(\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c})=\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}+\overrightarrow{a}×\overrightarrow{c}\) 【分配則】
  • \(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}\) 【交代性。可換でない(交換則が成立しない)事に注意】

これらのうちの交代性と分配則については、もう少し詳しく述べます。

外積ベクトルの交代性

外積ベクトル\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\) に対して、外積を構成するベクトルの配置は全く同じで式の中の順番だけ入れ替えた\(\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}\) という外積を考えると考えるとどうなるでしょうか?

この場合は、下から見て時計回りにネジを締めようとする事で条件を満たすので、向きは\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)と同一直線にあって「逆向き」になります。

言い換えると、ベクトルの外積は、演算に使う2つのベクトルの順番を変えると符号が逆転します。【内積は2つのベクトルの順序はどちらでもよい事に注意。】

公式:外積ベクトルの交代性

$$\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}$$

この時に外積ベクトルの成分も各々符号が反転します。
例えば簡単な例で言うと、\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)=(1,-2,5)であったとしたら、
\(\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}\)=-\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)=(-1,2,-5)になるという事です。

外積ベクトルの分配則【証明】

分配則については、一見「当たり前」のようですが、外積ベクトルの定義が多少込み入ったものである事や、可換性については成立していない(代わりに交代性が成立)事から、実はそれほど自明な事ではないとも言えます。

証明は、空間の幾何を考える方法があります。

まず、\(\overrightarrow{b}と\overrightarrow{c}と(\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c})\) の3つのベクトルで作られる三角形を考えます。そして、その三角形の各点から\(\overrightarrow{a}\) が伸びているような図を考えます。

次に、\(\overrightarrow{b}の始点から伸びる\overrightarrow{a}\)に対して\(\overrightarrow{b}\) の終点から垂線を引き、その足となる点をHとします。
同様に、\(\overrightarrow{c}の終点から伸びる\overrightarrow{a}\)に対して\(\overrightarrow{b}\) の終点(\(\overrightarrow{c}\) の始点)から垂線を引き、
その足となる点をHとします。
また、\(\overrightarrow{b}\) の終点であり\(\overrightarrow{c}\) の始点でもある点をAと置きます。

外積ベクトルの分配則

この時、AH、AH、Hはそれぞれ平行四辺形の高さになっています。
は\((\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c})と\overrightarrow{a}\)が作る平行四辺形の高さです。
(\(\overrightarrow{AH_B}と\overrightarrow{AH_C}がともに\overrightarrow{a}\)に垂直なので辺Hも\(\overrightarrow{a}\)に垂直です。内積を考えると少し分かりやすい。)

そこで、3つの外積ベクトルの「大きさ」をそれらの辺の長さで表す事ができます。
(単純に「平行四辺形の面積=底辺×高さ」で計算します。)

  • \(|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|=|\overrightarrow{a}||AH_B|\)
  • \(|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{c}|=|\overrightarrow{a}||AH_C|\)
  • \(|\overrightarrow{a}×(\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c})|=|\overrightarrow{a}||H_BH_C|\)

ここで、これら3つの外積ベクトルがぴったり「三角形」を作れるかが実は自明ではありません。
しかしこの計算結果から、3つの外積ベクトルの大きさの比は、三角形AHの辺の比に全く等しい事になります。つまりそれらは互いに相似な三角形になっている事を意味し、従って3つの外積ベクトルはきちんと「三角形」を形成する事になります。
さらに、\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)と\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{c}\)の2つのベクトルに対する斜辺は\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}+\overrightarrow{a}×\overrightarrow{c}\)と(常に)表せるので、\(\overrightarrow{a}×(\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c})=\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}+\overrightarrow{a}×\overrightarrow{c}\) という事になります。【証明終り】

成分表示の方法(外積ベクトルの成分と射影面積の関係)

外積ベクトルはベクトルですので【内積はスカラー】、通常のベクトルと同様にx、y、z座標の成分を持ちます。そして2つの空間ベクトル\(\overrightarrow{a}と\overrightarrow{b}\) の成分が分かっていれば、外積ベクトル\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}\)の成分も一意的に決定します。

まず結論は、次のようになります。

外積ベクトルの成分表示

$$\overrightarrow{a}=(a_1,a_2,a_3),\hspace{10pt}\overrightarrow{b}=(b_1,b_2,b_3)である時$$ $$\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=(a_2b_3-b_2a_3,\hspace{5pt}a_3b_1-a_1b_3,\hspace{5pt}a_1b_2-b_1a_2)$$ ここで、
第1成分の絶対値は平行四辺形のyz平面への射影面積、
第2成分の絶対値は平行四辺形のxz平面への射影面積、
第3成分の絶対値は平行四辺形のxy平面への射影面積
になります。
(※絶対値が「面積」に必ず等しいという事であり、外積ベクトルの各成分の符号はプラスの場合もマイナスの場合もある事には注意。各成分の符号が外積ベクトルの向きも決定します。)

外積ベクトルの成分と射影面積の関係について、空間上の平行四辺形の各平面への射影もまた「平行四辺形」になっている事は、ベクトルによる平行四辺形の面積公式の形から分かります。
例えば外積ベクトルのz成分 a-aは、xy平面上の平面ベクトルが作る平行四辺形の面積公式の形そのものです。

平行四辺形の射影面積

外積ベクトルの交代制から、外積を構成するベクトルの順序を入れ替えると(ベクトルの配置自体は同じ)、次のような差の順番が入れ替わったような形の成分表示になります。$$\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}=(b_2a_3-a_2b_3,a_1b_3-a_3b_1,a_2b_1-b_2a_1)$$

成分表示についての証明

このように成分表示できる事の証明は、単位ベクトルによるベクトル表記と分配則を使うと意外と簡単に済みます。

$$\overrightarrow{e_1}=(1,0,0),\hspace{5pt}\overrightarrow{e_2}=(0,1,0),\hspace{5pt}\overrightarrow{e_3}=(0,0,1)\hspace{5pt}のもとで$$

$$\overrightarrow{a}=a_1\overrightarrow{e_1}+a_2\overrightarrow{e_2}+a_3\overrightarrow{e_3},\hspace{10pt}\overrightarrow{b}=b_1\overrightarrow{e_1}+b_2\overrightarrow{e_2}+b_3\overrightarrow{e_3}\hspace{10pt}と書けます。$$

このような表された形のもとで外積の公式を使いながら計算して整理すると、外積ベクトルの成分表示が確かに得られます。

使う公式と性質は次の通りです。

  • 「分配則」を使って、通常の展開式のように計算していきます。
    添え字の順番を変えると外積の符号が変わってしまうので注意。
  • 「同じベクトル同士の外積は0」つまり\(\overrightarrow{e_1}×\overrightarrow{e_1}=0\) のようになる事を使うと幾つかの項が0になって消えます。
  • 分配則に従って展開した後で、「交代性」\(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a}\)も使用して式を整理します。
  • 異なる単位ベクトル同士は、成す角度が直角であり、作る平行四辺形は正方形であって大きさは1です。さらに単位ベクトル同士の位置関係にも注意して、
    \(\overrightarrow{e_1}×\overrightarrow{e_2}=\overrightarrow{e_3}\)
    \(\overrightarrow{e_2}×\overrightarrow{e_3}=\overrightarrow{e_1}\)
    \(\overrightarrow{e_3}×\overrightarrow{e_1}=\overrightarrow{e_1}\hspace{5pt}\) となる事を最後に使います。
単位ベクトルの外積
通常使われる直交座標の「座標軸の向き」は、外積ベクトルの向きの決まり方を把握するうえでも意外と便利です。3つの単位ベクトルの1つ1つは他の2つの単位ベクトルの外積として表せます。

$$\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=(a_1\overrightarrow{e_1}+a_2\overrightarrow{e_2}+a_3\overrightarrow{e_3})×\overrightarrow{b}=b_1\overrightarrow{e_1}+b_2\overrightarrow{e_2}+b_3\overrightarrow{e_3}$$

$$=a_1b_2(\overrightarrow{e_1}×\overrightarrow{e_2})+a_1b_3(\overrightarrow{e_1}×\overrightarrow{e_3})+a_2b_1(\overrightarrow{e_2}×\overrightarrow{e_1})+a_2b_3(\overrightarrow{e_2}×\overrightarrow{e_3})+a_3b_1(\overrightarrow{e_3}×\overrightarrow{e_1})+a_3b_2(\overrightarrow{e_3}×\overrightarrow{e_2})$$

$$=(a_2b_3-a_3b_2)(\overrightarrow{e_2}×\overrightarrow{e_3})+(a_3b_1-a_1b_3)(\overrightarrow{e_3}×\overrightarrow{e_1})+(a_1b_2-a_2b_1)(\overrightarrow{e_1}×\overrightarrow{e_2})$$

$$=(a_2b_3-a_3b_2)\overrightarrow{e_1}+(a_3b_1-a_1b_3)\overrightarrow{e_2}+(a_1b_2-a_2b_1)\overrightarrow{e_3}$$

$$=
(a_2b_3-b_2a_3,\hspace{5pt}a_3b_1-a_1b_3,\hspace{5pt}a_1b_2-b_1a_2)【証明終り】$$

外積ベクトルの成分表示は、次のように証明する事もできます。
外積ベクトルの成分を(X,Y,Z)とおいて計算してみます。これらの未知数を算出する計算になります。 まず、次のように置いておきます。$$a_2b_3-a_3b_2=S_1,\hspace{5pt}a_3b_1-a_1b_3=S_2,\hspace{5pt}a_1b_2-a_2b_1=S_3$$ 外積ベクトルの定義から、構成する2つのベクトルとの直交性(内積の値が0)と、3次元の場合の平行四辺形の面積公式の3式を書きます。 $$①\overrightarrow{a}との直交性:a_1X+a_2Y+a_3Z=0$$ $$②\overrightarrow{b}との直交性:b_1X+b_2Y+b_3Z=0$$ $$③面積【2乗を計算】:X^2+Y^2+Z^2=(a_2b_3-b_2a_3)^2+(a_3b_1-a_1b_3)^2+(a_1b_2-a_2b_1)^2$$ $$\Leftrightarrow X^2+Y^2+Z^2=S_1\hspace{1pt}^2+S_2\hspace{1pt}^2+S_3\hspace{1pt}^2$$ ①式に\(b_1\)、②式に\(b_1\) を掛けて2つの式を引き算すると、
\((a_1b_2-a_2b_1)Y=(a_3b_1-a_1b_3)Z \Leftrightarrow S_3Y=S_2Z\) となります。
同じ手順で1つの変数を消去する方法を使うと、
\(S_1Y=S_2X\)および\(S_3X=S_1Z\) となります。
ここで、面積のほうの式③の両辺に\(S_1\hspace{1pt}^2\) を掛けると、次のようになります。 $$S_1\hspace{1pt}^2X^2+S_1\hspace{1pt}^2Y^2+S_1\hspace{1pt}^2Z^2=S_1\hspace{1pt}^2(S_1\hspace{1pt}^2+S_2\hspace{1pt}^2+S_3\hspace{1pt}^2)$$ $$\Leftrightarrow S_1\hspace{1pt}^2X^2+S_2\hspace{1pt}^2X^2+S_3\hspace{1pt}^2X^2=S_1\hspace{1pt}^2(S_1\hspace{1pt}^2+S_2\hspace{1pt}^2+S_3\hspace{1pt}^2)$$ $$\Leftrightarrow (S_1\hspace{1pt}^2+S_2\hspace{1pt}^2+S_3\hspace{1pt}^2)X^2=S_1\hspace{1pt}^2(S_1\hspace{1pt}^2+S_2\hspace{1pt}^2+S_3\hspace{1pt}^2)\Leftrightarrow X^2=S_1\hspace{1pt}^2$$ 同様に計算すると、\(Y^2=S_2\hspace{1pt}^2およびZ^2=S_3\hspace{1pt}^2\)となります。
X、Y、Zの値としてそれぞれプラスとマイナスの2つ候補が出てきますが、既に得られているX、Y、Zの関係式と、外積ベクトルの向きの定義に合う組み合わせから、ここでの計算の場合では「全てプラス符号」です。(具体的な値を代入して試してみると分かりやすいです。)
それにより、\(X=S_1=a_2b_3-b_2a_3,\hspace{5pt}Y=S_2=a_3b_1-a_1b_3,\hspace{5pt}Z=S_3=a_1b_2-a_2b_1\) となります。

ベクトル三重積

外積はベクトルなので、
「あるベクトルと、別の外積ベクトルとの『外積』」というのも計算としてはあり得ます。

つまり、\(\overrightarrow{A}\)×(\(\overrightarrow{B}\)×\(\overrightarrow{C}\)) のような計算も可能であるわけです。
このタイプの計算を「ベクトル三重積」と呼ぶ事があります。次の形の計算が可能です。

(公式)ベクトル三重積の計算

$$\overrightarrow{A}×(\overrightarrow{B}×\overrightarrow{C})=(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{B}-(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B})\overrightarrow{C}$$ また、外積ベクトルを作る順番を変えると計算結果も変わり、次式になります。 $$(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B})×\overrightarrow{C}=-(\overrightarrow{B}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{A}+(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{B}$$

この公式中で、内積はスカラーなので、\((\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{B}\) などは例えば\(3\overrightarrow{B}\) のようなベクトルの定数倍のようなものを表します。(スカラー関数倍という場合もあり得ます。)

◆ベクトルの「内積」の場合は、ベクトルとベクトルからスカラーを作る演算なので、3つ以上のベクトルに対する内積の演算は存在しないわけです。

ベクトル三重積の公式を証明するには、外積ベクトルの成分表示を使うと比較的簡単です。(少しの計算は必要ですが。)

まず、\(\overrightarrow{A}\)×(\(\overrightarrow{B}\)×\(\overrightarrow{C}\)) のx成分から計算すると次のようになります。

$$x成分:a_2(b_1c_2-c_1b_2)-a_3(b_3c_1-c_3b_1)=b_1(a_2c_2+a_3c_3)-c_1(a_2b_2+a_3b_3)$$

$$=b_1(a_1c_1+a_2c_2+a_3c_3)-c_1(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3)=(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})b_1-(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B})c_1$$

途中の計算で、a111-a111(=0)を式に加えています。

同様の計算で、y成分とz成分は次のようになります。

$$y成分:(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})b_2-(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B})c_2\hspace{10pt}z成分:(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})b_3-(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B})c_3$$

よって、全て合わせると公式の形になるわけです。

ベクトル三重積の括弧の順番を変えたものは、前述の交代性の性質により証明できます。まず、括弧の部分と次の部分を入れ替えてしまいます。すると、既に得られている結果を使えます。

$$(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B})×\overrightarrow{C}=-\overrightarrow{C}×(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B})=-\{(\overrightarrow{C}\cdot\overrightarrow{B})\overrightarrow{A}-(\overrightarrow{C}\cdot\overrightarrow{A})\overrightarrow{B}\}$$

$$=-(\overrightarrow{B}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{A}+(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{C})\overrightarrow{B}$$

ここで、内積の順序に関しては可換なので、書く文字の順番の入れ替えをしただけです。外積の順序の入れ替えをする時には符号が入れ替わります。

外積ベクトルに対する微分

外積ベクトルを微分すると、通常のスカラー関数の積に対する微分公式と似た形の式が成立します。この微分操作は、物理学などでの「時間微分」として使われる事があります。

(公式)外積ベクトルに対する微分演算

$$\frac{d}{dt}(\overrightarrow{A}×\overrightarrow{B})=\frac{d\overrightarrow{A}}{dt}×\overrightarrow{B}+\overrightarrow{A}×\frac{d\overrightarrow{B}}{dt}$$ 外積ベクトルの部分の順番に注意。逆にすると符号が変わってしまいます。
足し算の部分は逆にしても大丈夫。

この式は自明ではないので(スカラー関数の積の微分公式を知っていたとしても)、証明が必要になります。

この公式も、外積ベクトルの成分表示を使う事で示すことができます。ベクトルの微分は、各々の成分に対する微分として定義されます。ここでは、ベクトルの成分は全てスカラー関数であるとします。計算としては通常の積の微分公式を使用します。

$$x成分の微分:\frac{d}{dt}(a_2b_3-a_3b_2)=\left(\frac{da_2}{dt}b_3+\frac{db_3}{dt}a_2\right)-\left(\frac{da_3}{dt}b_2+\frac{db_2}{dt}a_3\right)$$

$$=\left(\frac{da_2}{dt}b_3-\frac{da_3}{dt}b_2\right)+\left(\frac{db_3}{dt}a_2-\frac{db_2}{dt}a_3\right)=\left(\frac{da_2}{dt}b_3-\frac{da_3}{dt}b_2\right)+\left(a_2\frac{db_3}{dt}-a_3\frac{db_2}{dt}\right)$$

これは確かに公式の外積ベクトルの和の形になっています。最後の変形は、外積ベクトルの成分となる事を明確にするために積の部分の順番を入れ替えただけです。(この式中に出てくるのは全てスカラー量なので、積の順序に関して可換です。)

同様にして、y成分とz成分についても示せます。

$$y成分の微分:\frac{d}{dt}(a_3b_1-a_1b_3)=\left(\frac{da_3}{dt}b_1-\frac{da_1}{dt}b_3\right)+\left(a_3\frac{db_1}{dt}-a_1\frac{db_3}{dt}\right)$$

$$z成分の微分:\frac{d}{dt}(a_1b_2-a_2b_1)=\left(\frac{da_1}{dt}b_2-\frac{da_2}{dt}b_1\right)+\left(a_1\frac{db_2}{dt}-a_2\frac{db_1}{dt}\right)$$

このようにして証明ができるわけです。

法線面積分の定義と性質

ベクトル解析電磁気学の分野で使用する「法線面積分」は、閉曲面に分布するベクトル場に対して定義されるものです。ベクトル場とは、すなわちベクトルの3成分のいずれもがx、y、zのスカラー関数になっているベクトルです。

閉曲面と閉曲線
閉曲面とは、例えば球や楕円体などの、「閉じた」曲面です。(ドーナツ型・うきわ型の「トーラス」なども含みます。)また、閉曲線とは、円や楕円のように、ぐるっと一周つながった曲線を言います。

★書籍の紙面ではベクトルを表す表記として文字をボールド体にする方法が多く使われますが、このページではベクトルは一貫して文字の上に矢印を添える表記方法を採用します。
スカラー関数に対する「面積分」は似ていますが別物なので注意。具体的な計算方法も異なります。

ベクトルの内積の考え方を使用します。

法線面積分を表す式には幾つかの表記方法がありますが、次のようになります。いずれも等号で結ぶ事ができ、計算すれば同じ値になります。

「法線面積分」の定義

$$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S (F_1 ds_1 + F_2 ds_2 + F_3 ds_3)=\int_SF_1 ds_1+\int_SF_2 ds_2+\int_SF_3 ds_3$$ $$\overrightarrow{F}=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))$$ $$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}を、\int_S \overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{n}dsとも書きます。$$ 積分記号に添えてあるSは、surface(表面)からの記号として一般的に使われる記号です。
特定の閉曲面の表面全体(表側あるいは裏側のいずれかの全体)を表します。

また、二重積分で表して計算する事も可能です。その場合、各項の具体的な計算をする時には2方向の積分区間をきちんと指定します。 $$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int\int_S (F_1 dydz + F_2 dzdx + F_3 dxdy)$$ $$=\int_{Y1}^{Y2}\int_{Z1}^{Z2}F_1 dydz+\int_{Z1}^{Z2}\int_{X1}^{X2}F_2 dzdx+\int_{X1}^{X2}\int_{Y1}^{Y2}F_3 dxdy$$

\(\overrightarrow{n}\) は、曲面の各点に対する単位法線ベクトルを表し、長さは1で曲面に対し垂直な向きのものです。また、\(d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}\) になります。詳しくは次のようになります。

法線ベクトル

$$ d\overrightarrow{s}=( ds_1 , ds_2 , ds_3 ) $$ $$|\overrightarrow{n}|=1,\hspace{10pt}|d\overrightarrow{s}|=ds=\sqrt{ds_1^2 + ds_2^2 + ds_3^2},\hspace{10pt}d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}$$ \(d\overrightarrow{s}\) および単位法線ベクトル\(d\overrightarrow{n}\) は、閉曲面上の各点から曲面の「裏側→表側」に向かう向きに伸びると約束します。
各成分は、微小面積の平面への「射影」になっています。

  • \(|ds_1| \)=「yz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_2| \)=「xz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_3| \) =「xy平面」への射影領域の面積
証明:微小面積として三角形を考えた場合、\(d\overrightarrow{s}\) は2辺を成すベクトルで作られる外積ベクトルの半分として表されます。
外積ベクトルの成分の大きさ(絶対値)はyz平面、xz平面、xy平面への三角形の射影の面積に等しくなりますから、\(d\overrightarrow{s}=( ds_1 , ds_2 , ds_3 )\) の各成分の大きさも、垂直な3つ平面への微小面積の射影面積に等しくなる事が示されます。

法線ベクトルの成分ds、ds、dsには通常のベクトルと同じく符号があります。
式としては、法線ベクトルと射影平面に垂直な軸がなす角の余弦の符号と同じプラスマイナスの符号を持つと定義します。例えば、dsであれば対応する射影平面がyz平面で、それに垂直な軸はx軸ですから、法線ベクトルとx軸がなす角を見ます。それが鋭角であればdsの符号は+で、鈍角であれば-の符号になります。その符号は、座標上の図に描いてみた時の向きから判定したものともちろん一致します。

図で状況を見ながら式の意味を考えると分かりやすいでしょう。
つまり、球面などの閉曲面の各点にベクトル場がぎっしり詰まっている感じです。それを曲面全体に渡って積分します。その際に、ベクトル場の「曲面の法線ベクトルの向きの成分だけ」を内積によって取り出したものを考えているわけです。

曲面に垂直な法線ベクトル(大きさは微小面積)を考え、ベクトル場との内積を考えます。法線ベクトルのうち、長さを1としたものを「単位法線ベクトル」と言います。

微小面積を大きさに持つ法線ベクトル\(d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}\)と微小面積の射影面積との関係も、図に描いて外積ベクトルとして捉えると見通しがよいです。

法線ベクトルと外積の関係
平行四辺形で考えても本質は同じです。外積を使うと少見通しはよくなります。内積がスカラーであるのに対し、外積はベクトルである事に注意。微小な三角形の面積を外積ベクトルの大きさで表すと、そのベクトルの各成分は微小三角形のyz、xz、xy平面への射影面積になります。

法線ベクトル\(d\overrightarrow{s}\)の成分の符号については、個々の法線ベクトルについて例えば(-1,2,1)といった成分表示となる事からプラスマイナスの符号を持ちます。各成分の「大きさ」については、微小面積のyz平面、xz平面、xy平面への射影面積に等しくなるという事です。

法線ベクトルの成分の符号
法線ベクトルの向きは「閉曲面の裏から表に向かう方向」にとります。その成分は法線ベクトルの具体的な向きによって+か―の符号があります。式で書く場合は、法線ベクトルと軸とのなす角の余弦によって符号を判定します。

積分内の内積の部分については、余弦を使ったほうの内積の定義として書く場合もあります。

$$\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=|\overrightarrow{F}||\overrightarrow{s}|\cos \theta$$

ただし、電磁気学などで法線面積分を考える場合では、特別な形のモデルで最初から考える場合も多いのです。例えば、ベクトル場が曲面に全て垂直であれば公式を使わなくても角度は0とすぐに判断できて、余弦は1になります。

慣性の法則

慣性の法則とは、古典力学で考えられている運動の3法則の1つです。
一般的には第1番目の前提条件となる法則として挙げられています。

運動の3法則の第1法則

慣性の法則とは?

物体に力が働いていない場合、次のいずれかになる:

  1. 物体は静止し続ける
  2. 等速『直線』運動をする

この事が成立する座標系が存在する事を「慣性の法則」と呼びます。

慣性とは例えば氷の上を滑るような時は、何か「力」が働いて動いているというよりは惰性で動いていると捉えようという意味です。そして、何かの「力」が働いている事とそうでない事の区別は定量的に「『速度の変化』があるかないか」で考えようというのが力学の理論で、その事は特に運動方程式で表現されています。「速度の変化がない」場合とは物体が止まっている場合も含みますし、滑る場合のように惰性で動いてる場合も両方含んでいます。

慣性の法則は3法則の2番目の運動方程式が成立する「前提条件」となります。
力学では、慣性の法則が成立していなければ運動方程式も成立しないという考え方をします。

運動方程式とは正確にはベクトルを使用した式ですが、
1直線上の運動(1次元の運動)を考える時は次の1式で表されます。$$F=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}$$

その前提のもとで、運動方程式からも慣性の法則についての記述を得る事もできます。

※「慣性の法則」自体が運動方程式から証明されるわけではなく、運動方程式によっても慣性の法則の内容が「矛盾なく表現できる」という事であり、理論としての一貫性を持つという事です。

物体が静止または等速運動する事の表現

運動方程式で力がゼロという場合を考えてみましょう。

そうであれば、「加速度もゼロ」という事になります。この時 m は1kgや2kgといった物体の質量で、これは特別な条件を課さない限りは一定値です。

それを踏まえて、微分方程式を所定の計算で解きます。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\Leftrightarrow \frac{d^2x(t)}{dt^2}=0\Leftrightarrow \frac{d}{dt}\left(\frac{dx}{dt}\right)=0から、$$

$$\frac{dx}{dt}=C【定数】$$

これは1階微分=0という形の微分方程式で、考え方自体はじつに単純です。一直線上でも物体の速さは、確かに「力が働いていない」時には一定であるという結果になっています。必ずしも速さがゼロ(静止している場合)だけでなく、等速で動いている場合もあり得るという事が数学的な微分方程式の解ともきちんと対応しているので理論としての一貫性を持つという事です。

上記のように定量的な立場で考えてみる時は、氷の上かそうでないかというよりは「速度の変化があるかないか」が重要な要素という事になります。普通の地面や床の上では物を押してもすぐ止まってしまいますが、これも速度の変化と捉えて「摩擦力」を定量的な意味で導入し考察します。
これは物体が接する表面の状態に大きさが依存する力で、氷の場合には摩擦力がごく少ない値でしか発生しないと考えます。

「力が働いていない」という時には、本当に何も力が存在してないと場合と、逆方向に働く力がつり合っている(正確には力ベクトルの補合計がゼロベクトルになる)場合の両方を含みます。もっとも、物理学では何か物体の質量が存在すれば微小であっても力が働くと考えますから、物体の速度が変化しないという場合は厳密にはほとんどの場合後者という事になります。しかしどちらの場合でも、運動方程式上では力が働いていないという事は共通してゼロベクトルで表せます。

直線運動をする事の表現

さて「1階微分=0」という微分方程式として運動方程式を考えた場合、確かに「等速」になるという事の表現はできたわけですが、「軌道の形」についてはまだ何も表していません。
「直線運動」であるかという事については「2階微分=0」のタイプの微分方程式を解く必要があります。

式自体は先ほどと同じです。しかし先ほどは、速さを表すdx/dt=Cという形のままで計算を止めていました。これをさらにx=x(t)で表す事で時間ごとの位置を知る事ができ、物体の「軌跡」を計算できます。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\Leftrightarrow \frac{dx}{dt}=Cから、$$

$$x=Ct+B$$

ここでCとBというのは何らかの定数です。この具体的な値を知るには、ある時刻での物体の具体的な位置と速度を知る必要があります(多くの場合t=0の時を考えるのでそれらを「初期値条件」とも言います。)
尚、定数関数も何回微分してもゼロになるので解ですが、これは1次関数で C = 0 の場合と見なせるので、定数 C の値に制限を設けなければ定数関数の場合も1次関数に含める事ができます。

1次関数が得られたのでいかにも「直線」っぽいですが、この段階ではそもそも一次元の「直線上」の運動しか考えていないので、これではまだ示した事にはなりません。

そこでどうするかというと、少なくとも平面上の運動として考えて、微分方程式をx軸方向とy軸方向の2方向について立てる必要があります。空間内の運動なら3方向です。このとき、xやyという直交座標成分は x(t) と y(t)という時間についての関数になります。

$$F_{\Large{x}}=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{y}}=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{z}}=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

空間での運動を考える時は、正確には運動方程式を3つ作って分析を行うという事です。力が働いていない時は、「2階微分=ゼロ」という式が、3つできます。変数はそれぞれ時間 t であり、x,y, z がそれぞれ関数 x(t), y(t), z(t) である事に注意。

3つも微分方程式があるといかにも面倒そうですが(実際、一般論としては厄介です)、
ここでは「力が働いていない」場合を考えるだけなので3式とも力の部分に0を入れるだけです。
つまり次のように、3つの「2階微分=0」という式を考えるだけで済みます。
しかもこれら3式は全く同じ形で文字を変えてるだけなのでまとめて解く事ができるわけです。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

$$ \Leftrightarrow \hspace{10pt} 0=\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

これらを(まとめて)解く事で、次の3つの通常の連立方程式を得ます。

$$x(t) = b_1t+c_1,\hspace{10pt} y(t) = b_2t+c_2 ,\hspace{10pt} z(t) = b_3t+c_3 $$

3式ともtに関する1次式ですから、通常の連立1次方程式と同じく
「tを消去するか、あるいは代入する」方法で、座標成分同士の関係式を作れます。

例えば x と y の関係式は、b1≠0の条件のもとで次のようになります。$$b_2x-b_1y=c_1b_2-c_2b_1\Leftrightarrow y=\frac{b_2}{b_1}x+\frac{c_2b_1-c_1b_2}{b_1}$$
もっとも、あまり具体的な関係式を出す事よりも、ここでは y = Ax + B のような
「1次関数(グラフで言うと直線)」の関係になっているかを見ればじゅうぶんです。
ここではまず、xy平面で物体の軌道は確かに「直線」になる事が示された事になります。

すると全く同じ要領で考えて、
x と z 、y と z の関係も同様にお互いに1次関数の関係にある事が分かります。
また、z = Ax + By + C の形の「3次元での直線」を表す関係式も成立する事も分かります。
(※例えば x + y を考えたうえで t を x, y で表し z の式の t に代入。)

いずれにしても、x, y, z 同士の関係を直交座標(=現実の空間のモデル)上のグラフに描けば直線という事になり、「軌道は直線である」事を意味します。
逆に、もし物体の運動の軌道が曲がっているとすれば、軌道を直線からそらすような何らかの力が働いているという事も意味するという理屈になります。

※物体が「静止」している場合、もちろん軌道は直線にはなりませんが、これは微分方程式の解から考察すると、例えば x 座標成分について x = bt + c で b = 0 の場合、x = c となり、任意の時刻でその位置という事ですから、少なくとも x 軸方向には一切動いていない事を示しています。
y と z についても同様に時間に対して定数であるとすると、結局物体の位置座標は任意の時刻で必ず1点にある=「静止している」という事になります。そのような場合を除くと、物体の位置座標同士の間で必ず1次式の関係を作る事ができ、直線軌道ができるという事です。
つまり、物体に力が働いていなければ物体は静止したままか、「等速」で「直線」運動するという事が運動方程式からも確かに式で表せるという事になります。

まとめ:解法の手順 運動方程式を作るまで

運動方程式を「2階」の微分方程式として扱える事から始まり、結論を得る流れを見ましょう。

  1. 「速度の(1階の)時間微分=加速度」$$\frac{d}{dt}v(t)=a(t)【加速度】$$
  2. 「位置の(1階の)時間微分=速度」(※位置とはx 座標、y 座標等の事)$$\frac{d}{dt}x(t)=v(t)【速度】$$
  3. これら2つを合わせると: 「位置の時間による2階微分=加速度」$$\frac{d^2}{dt^2}x(t)=a(t)$$
  4. 一次元運動の場合、(1直線上の)座標を x(t) とすると
    「物体に働く力は、物体の質量と加速度に比例する」という運動方程式は、
    $$F=ma(t)\hspace{5pt}\Leftrightarrow \hspace{5pt}F=m\frac{d^2x(t)}{dt^2} と書ける$$
  5. 平面運動の場合は x(t)、y(t) ごとに、
    空間運動の場合、同じく直交座標成分 x(t)、y(t)、z(t) ごとに運動方程式を立てます。
    座標成分ごとに3つ作ります。$$F_{\Large{x}}=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{y}}=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{z}}=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$
  6. 力が働いていない場合は、力の各成分に0を代入する:
    $$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$ 質量mは、両辺で割る事により消去できます。(解に影響を与えないという事です。)
手順の後半 微分方程式の解を出した後の処理
  1. という事は、「『2階微分=0』という式が3つできる」
    → 時間変数の1次関数が解になる式が3つできる
    式で書くなら:\(x(t) = b_1t+c_1,\hspace{10pt} y(t) = b_2t+c_2 ,\hspace{10pt} z(t) = b_3t+c_3\)
    t を変数とする1次関数が3つできます
  2. 連立方程式を解く要領で「t を消去」して「x と y」「x と z」「z と x と y」などの関係式を作る。
    →すると、x, y, z のそれぞれ同士の関係も「1次関数」になる。
    y = Ax + B, z = Ax + By + C のような形になります。これらは「直線」の関係です。
    (簡単な計算作業で示せます。)
  3. すると結局次の事が癒えます。

    → 「力が働いていない(ゼロ)」という条件のもとで運動方程式を解き、
     物体の位置座標(x, y, z)を空間に描くと、その軌道は「直線になる」
    →「静止してない物体に力が働かない時、物体は等速の『直線』運動をする」
    という慣性の法則の内容がこの段階で、確かに表現される。

    • 「等速である」事については、加速度を「速度の1階微分」と考えて「1階微分=0」の微分方程式の解から出せます。それを各成分について考えても同じ事で、空間の中の軌道を等速で運動している事になります。
    • 等速の「直線運動」とは逆に、軌道が少しでも「曲がっていたら」、それは何らかの力が働いている事も意味します。
      力は、多くの場合は物体の速さを変えますが、中には「速さはそのままで『軌道を、直線形からそらす』」というものもあるのです(等速円運動の中心力など)。

このように運動方程式からも「慣性の法則」の内容がきちんと表現できるわけです。

「1階微分=0」「2階微分=0」という微分方程式は数学的にはとても簡単な微分方程式に属するのは間違いありませんが、物理で使う場合に物理的な意味を考えると、考察する事が意外と多くあります。(逆のパターンもあります。物理的に重要ではないけれど、数学的に考察する余地が多くある場合です。)

仕事と運動エネルギーとの関係

このページでは古典力学での「仕事」と、運動エネルギーとの関係について述べます。
数学的には、ベクトルの微積分の応用であり、ベクトルの内積の応用でもあります。

内積と「仕事」

平面や空間での物体の運動を考える時、力のベクトルの向きと、現に運動している物体の運動の方向・・・つまり速度ベクトルの方向は、互いに異なるという事も普通にあります。

例えば、床に置かれた重い物に紐を付けて斜めに引っ張ったところ床に対して引きずるように水平に動いたとすれば、力ベクトルは斜め上方向、速度ベクトルは水平方向という事になります。

このような時に力ベクトルと速度ベクトルとの「内積」を考えます。
そしてそこから、「仕事」という量を積分を使って定義します。

☆詳しくは、ここで使う積分は接線線積分と呼ばれるものです。

\(\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{dx}(または \overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{\Delta x})\) を、物理学では「仕事」と呼びます。
これを経路に沿って合計した量(積分値)を「仕事量」と呼ぶ事があります。

◆仕事はベクトルの内積ですので、
\(\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{dx}=|\overrightarrow{F}|\hspace{2pt} |\overrightarrow{dx}|\cos\theta\) のようにも書く事ができます。
マイナスの値になる事もあり、その場合にも物理的な意味を持ち、角度とその余弦も力と物体の運動に対応したものになります。

この「仕事」を考える事により、じつは「『力』と『物体の運動』と『エネルギー』」を数式的に関連付ける事ができるのです。

運動方程式が成立しているとすれば、その事は数学的に導出できます。結論の関係式は次のようになります。

仕事とエネルギーの関係

関係式は次のようなものです。 $$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow{F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt=\frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$ 左辺の積分は仕事量、右辺は時間の区間の始まりと終わりでの運動エネルギーの差です。
左辺と右辺とで物理学的な単位は等しく、ともに[J](ジュール)です。

意味としては、なされた「仕事」の量と運動エネルギーの増減の量は等しいという事です。

この関係式の数学的な導出には、微分の基本公式とベクトルの微積分が直接的に関係しています。

仕事と運動エネルギー
運動エネルギーの増減は仕事の合計(積分値であり、「仕事量」と言います)で計算されます。そして仕事とは、内積によって表せる量です。物体の移動方向に対して働いている力ベクトルの向きがななめ方向である場合には、物体が移動する向きに対する力ベクトルの成分だけが運動エネルギーの増減に寄与するという事を言っています。

仕事と運動エネルギーの関係式の導出

まず運動方程式をベクトルの形で書いて、両辺に対して速度ベクトルとの内積を考えます。

$$【運動方程式】 \overrightarrow {F}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2} $$ $$【速度ベクトルとの内積】 \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}$$

運動方程式の加速度を含む側について、加速度は位置座標を表すベクトルの時間による2階微分である事に注意します。この部分と、速度ベクトルの内積を考えると、「2階微分と1階微分の積」という、一見わけの分からないものが出てきます。これは一体何でしょう?

それについての数式的な解釈は次のように行います。
合成関数に対する微分公式を用いると、「関数の2乗」を微分すると1階微分が積の形でくっついてくる事が分かります。
すると、「1階微分の2乗」を(1回)微分すると、 「2階微分と1階微分の積」 が出てくるのです。この時、2という係数も出てきますから1/2を乗じて係数調整を行います。

計算を進めると、じつは次のように変形できます。

$$ \overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$

計算

具体的な数式を見てみましょう。
まず、ベクトルではなくてtを変数とする1変数関数x=x(t) について考えてみます。 $$\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2} などは、異なる導関数同士の「積」です。$$ $$\frac{d}{dt}\left\{\frac{m}{2}\left(\frac{dx}{dt}\right)^2\right\}=2\cdot\frac{m}{2}\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x}{dt^2}$$ 2乗の部分の微分については、合成関数の微分公式を使っています。
質量mは定数扱いです。
これがベクトルの各成分\(x_1, x_2, x_3\) (それぞれ時間tの関数)について言えます。
そこで、次のように内積を考えるのです。 $$m\frac{d^2\overrightarrow{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_1}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_2}{dt^2}+m\frac{dx}{dt}\frac{d^2x_3}{dt^2}$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2$$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left\{ \left(\frac{dx_1}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_2}{dt}\right)^2+\left(\frac{dx_3}{dt}\right)^2 \right\} $$ $$=\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2$$ 最後のところは、$$\frac{d\overrightarrow{x}}{dt}=\left(\frac{dx_1}{dt},\frac{dx_2}{dt},\frac{dx_3}{dt} \right) というベクトルの「大きさの2乗」$$を考えているのです。物理的な意味としては、これは物体の速度ベクトルの大きさの2乗、つまり「速さ」の2乗を意味します。内積の計算によって各成分を含む項の和が出てきて、うまい具合に「速さ」になっている事に注意してみてください。

「速度ベクトルのx成分の2乗」を時間tで微分すると、
「速度ベクトルのx成分の2乗」の2倍と、「加速度ベクトルのx成分」との積になります。
数学の合成関数の微分公式を使用しています。

変形して得られた式の両辺をてきとうな時間 \(t_1,t_2\) で定積分したものを考える事で、仕事量と運動エネルギーの関係式が得られます。

$$\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow {F}\cdot \frac{d\overrightarrow{x}}{dt}dt= \int_{t_1}^{t_2}\frac{d}{dt}\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2dt= \frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2$$

運動エネルギー」は次式で定義します。記号は、Tを使う事が多いです。

$$T=\frac{1}{2}mv^2\left(=\frac{m}{2}\left|\frac{d\overrightarrow{x}}{dt} \right|^2\right)$$

この量は正の仕事がなされれば増加し、負の仕事がなされれば減少します。また、仕事がなされなければ運動エネルギーは変化しない、という事も意味します。
(※数学的な定義においても内積は正の値だけでなくゼロや負の値も取り得るものであり、図形的な意味も持つわけです。)

この運動エネルギーに加えて、さらに「位置エネルギー」というものを考え、両者の和を「力学的エネルギー」と呼びます。重力等の「保存力」のみが働いている場合、力学的エネルギーの保存則が成立します。

また、実験・観測から定量的(※)な意味でのエネルギーの等価性が確認されています。運動エネルギーは量としては熱エネルギーや電気エネルギーに変換されると見なす事ができて、物理学だけでなく種々の工学等での理論計算に用いられています。

(※)「定量的に」と言うのは、例えば「力学的エネルギーの『入力』が電気エネルギーと熱エネルギーの『出力』に等しい」といった計算ができるという意味になります。発生する熱エネルギーに関しては、望んでいるものでなければ「損失」と呼ぶ事も多いです。

熱なども含めて考えると、一般的にエネルギー全体についての保存則が成立します。
例えば摩擦によって物体が停止すれば当然ですが運動エネルギーはゼロになりますが、この時にエネルギーの量自体はどこかに消えたというよりは、同じ量の熱エネルギーに変換されたと考えて考察が行われます。

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偏微分の応用の例:位置エネルギーと保存力の関係

合成関数に関する偏微分の公式の物理での使用例を、ここでは1つ述べます。

★ このページではベクトル解析で使用する「勾配」という考え方を使用します。
これは、多変数関数(多変数のスカラー関数)に対する偏微分によって表されるものです。

参考(サイト内リンク):接線線積分の定義と考え方

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

先に結論の式を書きますと、力が「保存力」である場合に、位置エネルギーのxでの偏微分をx成分、yでの偏微分をy成分、zでの偏微分をz成分に持つベクトルは、保存力の力ベクトルに等しいという関係式があります。【※保存力で無い場合は成立しませんので注意。】

保存力の力ベクトルは、位置エネルギーの勾配ベクトルで表せる

まず、「位置エネルギー」(あるいはポテンシャルエネルギー)U(x,y,z) を次のように定義します。これはベクトルでは無く、スカラー関数です。 $$\large U(x,y,z)=-\int_{\overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}}\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot d\overrightarrow{r}$$ $$\large \mathrm{grad} U(x,y,z)=\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y},\frac{\partial U}{\partial z}\right)$$ 力ベクトル F(x,y,z) が保存力である場合、次式が成立します:$$\large -\mathrm{grad} U(x,y,z)=\overrightarrow{F}(x,y,z) $$

★ プラスマイナスの符号の関係が、ちょっとごちゃごちゃするので注意。

「勾配」grad (または∇「ナブラ」)については、詳しくはベクトル解析という分野で説明されます。

この関係式は、古典力学の理論としては仕事とエネルギーの関係の話の延長線上にあります。

これは要するに数学的には、
接線線積分の形の多変数関数の勾配ベクトルは、もとのベクトル関数と同じ形になる」
という事を言っています。通常の不定積分(あるいは積分区間に変数が入った定積分)は、通常の微分を考える事で元の関数に戻るという「微積分学の基本定理」がありました。それと似た形の式という事になります。

この関係式の証明のポイントは、合成関数の偏微分公式です。
ベクトルの内積の計算も直接的に関わります。

\(-\mathrm{gradU(x,y,z)}= \overrightarrow{F}(x,y,z)\) の証明

まず通常の微積分学の基本定理を用いたうえで、ベクトルの内積と合成関数の偏微分の公式をうまくかみ合わせます。

位置座標は全て「物体の位置」であるとして、位置座標に対応する時間成分tを考えます。
力ベクトルの成分についても同様に tの関数であると考えます。

$$\large \overrightarrow{F}(t)=(F_X(t),F_Y(t),F_Z(t))$$

$$\large 点\overrightarrow{R} での時刻をt、点\overrightarrow{R_O} での時刻を t_O とします。$$

最初のステップ $$\large -U(x,y,z)=\int_{ \overrightarrow{R_O}}^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot d\overrightarrow{r}=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$ $$\large =\int_{t_O}^{t}F_X(\tau) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y(\tau) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z(\tau) \frac{dz}{d \tau } d \tau $$ $$★ 時間についての積分変数の表記はt → \tau (タウ)に変えています。$$

Uの定義(力学での定義です)にマイナス符号があるので、
ここでは最初から「-U」を考えて、積分での表記をプラス符号で考えています。

★ 後述しますが、力が「保存力」であるという条件がないと、じつはまずこの式変形ができません。なぜかというと一般の接線線積分は、2つの端点だけでなく、その2点を結ぶ経路によって値が変わってしまうからです。力が保存力であるという条件は、この値が経路によらず一定の値であるとしてよいという条件です。

★ 古典力学の理論の中では、もともとは一般の力に対して時間で表したほうの式が先にあって、次に「保存力」という位置座標のみで決定するものを考えます。

★ 積分区間にベクトルが入っている部分は、次の意味になります。 $$\large \int_{ \overrightarrow{R_O} }^{\overrightarrow{R}} \overrightarrow {F} (x,y,z) \cdot{d\overrightarrow{r}} $$ $$\large =\int_{x_O}^{x}F_X(x,y,z)dx+ \int_{y_O}^{y}F_Y(x,y,z)dy+ \int_{z_O}^{z}F_Z(x,y,z)dz $$ $$\large \overrightarrow {F}=(F_X,F_Y,F_Z),\hspace{10pt}\overrightarrow{R_O}=(x_O,y_O,z_O),\hspace{10pt}\overrightarrow{R}=(x,y,z)$$ dx の部分は x に関してだけ積分し、yやzは定数同様に扱います。つまり、偏微分と同じような考え方をするわけです。この場合の微積分学の基本定理は、積分と「偏微分」との関係になります。

次に、時間成分tで U(x,y,z) = U(x(t), y(t), z(t)) を微分します。
内積計算で3つの項の和にした部分は共通の積分変数tでの積分になっているので、通常の微積分学の基本定理がそのまま使えます。

この時、積分する対象として $$\large F_X(t) \frac{dx}{dt}$$ を1つの関数と捉える事がポイントです。
積分中の表記では$$\large {F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau}}$$ にしています。

成立する式:その①

$$\large\frac{dU}{dt}= \frac{d}{dt}\left(\int_{t_O}^{t}F_X( \tau ) \frac{dx}{d\tau} d \tau + \int_{t_O}^{t}F_Y( \tau ) \frac{dy}{d \tau } d \tau + \int_{t_O}^{t} F_Z( \tau ) \frac{dz}{d \tau } d \tau \right)$$

$$\large = F_X(t) \frac{dx}{dt} + F_Y(t) \frac{dy}{dt} + F_Z(t) \frac{dz}{dt}=\overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

他方で、合成関数の偏微分公式を使うと U の時間微分の計算を別途に表現できるのです。
この場合、多変数 x、y、z が1つだけの変数tの合成関数になっているという事なので、表記としては$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}です。$$

ただし、もとの関数が U(x,y,z) という多変数関数なので、偏微分のほうの合成関数の微分公式を使う点に注意しましょう。

成立する式:その②

$$\large \frac{\partial U}{\partial t}=\frac{dU}{dt}= \frac{\partial U}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial t}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial t} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{\partial z}{\partial t} $$ $$\large = \frac{\partial U}{\partial x} \frac{dx}{dt}+ \frac{\partial U}{\partial y} \frac{dy}{dt} + \frac{\partial U}{\partial z} \frac{dz}{dt} =(\mathrm{gradU})\cdot \left( \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt}\right) $$

最後の結果は「Uの勾配ベクトル」と「速度ベクトル」との内積です。
内積はスカラーであり、勾配はスカラー関数をベクトルの関数変換する演算である事を意識すると分かりやすいと思います。

同じものを2通りの数式で表せる事になるので、等号で結ぶ事ができます。
これによって、次の関係式が成立する事になります。

$$\large – \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} $$

$$これは、\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} という関係になっています。 $$

これが証明の根拠になるわけですが、数学的には
\(\overrightarrow{A}\cdot \overrightarrow {C} = \overrightarrow{B}\cdot \overrightarrow {C} \) から直ちに\(\overrightarrow{A}= \overrightarrow{B}\) とは言えない事には注意しましょう。
そうならない場合もあるのです。
しかし、この場合は \(\overrightarrow {R}\) が特定の座標点では無くて「任意の座標点」です
特定の点だけではなく、どんな座標の点を考えたとしてもこの関係式は成り立つ、という意味です。
ですから、\(\overrightarrow {R}\) に対して内積をとると等しい値になる2つのベクトル\(– \overrightarrow{F}(x,y,z)と\mathrm{gradU(x,y,z)}\) は、全く同じ関数でなければならないのです。

$$ つまり 、- \overrightarrow{F}(x,y,z)\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} = \mathrm{gradU}\cdot \frac{ d\overrightarrow {R}}{dt} かつ 「\overrightarrow {R} は任意の(実)ベクトル」なので、$$

$$-\overrightarrow{F}(x,y,z)=\mathrm{gradU}(x,y,z)\Leftrightarrow -\mathrm{gradU}(x,y,z)= \overrightarrow{F}(x,y,z) という事です。【証明終り】$$

「保存力」の物理的な意味

保存力とは力がなす仕事が経路に依存せず、始点と終点の位置だけに依存する力を言います。これは結構強い条件が課されている事になりますが、万有引力、重力(地表面での万有引力を近似したもの)、ばねの力、クーロン力などは保存力になるので、物理の理論の中では結構使い物になります。

逆に、保存力でない力の簡単な例は摩擦力などです。

一般の力ベクトルに対しては、少しだけ上述でも触れましたが、
次の形の時間変数による積分が先にあります。

$$\large T(t)-T(t_O)=\int_{t_O}^{t} \overrightarrow {F} (\tau) \cdot \frac{d \overrightarrow{r} }{d\tau}d\tau$$

ここで、1変数の通常の積分であれば積分変数をtからxに変換できます。

しかし、この場合は「接線線積分」なので、経路は1通りでは無く様々なものがあるのです。

経路によって値が異なりますから、同じ値の定積分になるという意味での積分変数の変換は無条件にはできない・・という事です。

ベクトルに対する一般の接線線積分の場合、値が始点と終点だけでは決定しないので次のように表記します:

$$一般の接線線積分の表記:\int_C \overrightarrow {F} \cdot d \overrightarrow {r}\hspace{10pt}Cは特定の関数で表される経路 $$

ここで、経路によらず「経路の始点と終点だけをしていれば値が定まる」という条件をつけると、もちろん数学的な扱いは簡単になります。
そのような条件がつけられた種類の力が保存力であり、上記のように具体的に当てはまる力も存在するというわけです。

保存力がなす仕事の値(仕事量)は始点と終点の位置だけで決まります。これを「位置エネルギー」あるいは「ポテンシャルエネルギー」などと呼びます。
これは運動エネルギーに対する用語です。位置エネルギーと運動エネルギーの合計を、力学的エネルギーと呼びます。
尚、保存力ではない摩擦力などの力に対しては、位置エネルギーは考えないのです。

これを数学的に取り扱った場合、上述いたしましたように、合成関数に対する偏微分の公式などが重要な役割を担っているというわけです。

ベクトル解析と勾配・回転・発散・・grad, rot, div

このページでは、電磁気学などで使われる「ベクトル解析」という数学の分野について説明します。
その中でも特に、勾配・発散・回転と呼ばれるものについての説明を行います。

これは「ベクトルの微積分・力学での応用」の延長線上にある理論です。純粋数学よりも、応用数学の色彩の濃い微積分学の分野になります。(もちろん、純粋数学的・解析学的に考察する事も可能です。)

スカラー関数の変数が特に位置座標である事を強調する場合には「スカラー場」と言う事もあります。このページではスカラー場という名称を使います。

はじめに:「場」という考え方とベクトル解析

勾配(grad)、発散(div)、回転(rot)は「スカラー場」や「ベクトル場」というものに対して考えます。それらはいずれもスカラーやベクトルの仲間なのですが、特にどのようなスカラーやベクトルをそのように呼ぶのかを最初に述べておきます。

ベクトル場
スカラー場
電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例 

ベクトル場

てきとうな電荷があって、まわりに別の電荷を持ってくると、電荷同士に力が働きます。この時に、後から持ってきたほうの電荷を置く場所によって働く力が変わってきます。これは数式で表すと、電荷が受ける力が座標上の点ごとに異なると考える事もできて、力を座標変数の関数で表されたベクトルで表せます。このように表されるベクトルを、「ベクトル場」と呼びます。ベクトル場の各成分は、座標成分による多変数関数になっています。(必要に応じて時間変化もするとして時間成分も加えます。)

このようなベクトル場の微積分を扱う数学の分野をベクトル解析と呼んだりします。後述するスカラー場の微積分も合わせて考えます(スカラーをベクトルに変換する操作などが含まれます) 。

★ ベクトル場の事を「ベクトル界」と言う事もあります。ベクトル界という呼び方は工学系で使われる事が多いとも言われます。
どちらが正しいかの基準はありませんが、このサイトでは、「ベクトル場」の呼び方を使用します。
「場(field)」という語は、「遠隔力」という考え方に対する概念として物理学で単独でも使う事があります。他方、『界』という語は単独では普通は使わない事が多いので、用語としては「場」という語でこのサイトでは統一します。

「ベクトル場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように各成分が x, y, z の関数として表される空間ベクトルを「ベクトル場」と呼びます: $$\overrightarrow {F}(x,y,z)=(\hspace{3pt}F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z)\hspace{3pt})$$ $$ベクトルの各成分\hspace{3pt}F_1(x,y,z)などは、x,y,z の多変数関数(スカラー関数)$$ 平面ベクトルで考えたとしても、成分が1つ減るだけで同様にベクトル場を考える事ができます。4成分以上の場合も理論的には考える事は可能ですが、普通はあまり考えません。ここでは基本的に3成分の空間ベクトルのベクトル場を考えます。

ベクトル場自体は多変数関数を成分とする「ベクトル」とも言えるので、上記の形が「ベクトル場の『定義』」であるというよりは、ベクトルのうち「このような形で表されるものを特にベクトル場と呼ぶ」という感じだと言えます。

物体の軌道をベクトルで表す時に、物体の位置座標を「時間の関数」として表す方法があったわけですが、それとの違いは、成分となる関数の変数に「座標成分が含まれている」という事です。

$$\overrightarrow {X}(t)=(x(t),y(t),z(t)) といったベクトルとは少し区別されるのです。$$

2つの電荷プラス同士であれば反発し、プラスとマイナスであれば引き合います。
向きは2つの電荷を結ぶ直線に沿い、遠くに離れるほど力の大きさは弱くなります。
「電荷に働く力を「場」として見る場合は「電場」と呼びます。

スカラー場

もう1つ、ベクトル解析では「スカラー場」というものも考えて、ベクトル場との使い分けを上手に行う事が理解のポイントになっていきます。

スカラー場とは、数式的には座標成分 x, y, z を変数とする多変数関数の事です。意味としては何ら難しくないのですが、電磁気学等の理論ではベクトル場と入り乱れる形で使われるので、物理の理論の中では慣れないと少し難しく感じると思います。

「スカラー場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように x, y, z の関数として表される多変数関数を「スカラー場」と呼びます: $$\phi= \phi (x,y,z)$$ 記号はここでは「\(\phi\)ファイ」を用いていますが、別に何でも構いません。 これは数学的に見れば通常の多変数関数であって、これをスカラー場と呼ぶのは基本的には x, y, z が空間上の直交座標の成分である事が明確であって物理等で用いられる場合、特にベクトル場と区別する場合です。

電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例

+1[C] の電荷をある場所に置いたときに、その電荷が受ける力ベクトルを位置座標の関数で表したものはベクトル場であり、特に電場と呼びます。電気だけでなく磁気についても同じ考え方ができます。磁気の場合は単独の「磁荷」は存在しないと言われていますが、仮想的に単独の「磁荷」を考えて、磁荷が受ける力のベクトル場の事を磁場と呼びます。

電磁気学では、これを総称して電磁場と呼んだりもします。磁場は電流によって作られ、電流を生じさせる電圧(起電力)は磁場の変化によって作られるという関係が知られています。電磁気学は、観測によって得られたそれらの関係を定量的に表せるように数式で整理する物理学の分野です。

ベクトル場の具体例として、+1[C] の電荷のまわりの電場は次のように表せます(その付近に、別の+1[C] の電荷を持ってくると考えます。k は比例定数です。 ):

$$\overrightarrow {E}(x,y,z)=\left(\frac{kx}{r^3}, \frac{ky}{r^3}, \frac{kz}{r^3} \right)= \left (\frac{kx}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{ky}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{kz}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}} \right )$$

$$r= \sqrt{x^2+y^2+z^2} = (x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2}}の関係で処理しています。 \frac{kx}{r^3} =\frac{k}{r^2}\cdot \frac{x}{r}という事です。 $$

$$詳細は別途に記しますが、ここでの電場の「大きさ」は| \overrightarrow {E} |=\frac{k}{r^2}になります。$$

ただし、このように具体的な座標成分で記すと計算が面倒なので、大枠となる理論ではベクトル場という事だけ踏まえて数式的な処理を加えていく事が行われます。個々の具体的な事例の考察では具体的な関数にして考えたりします。

このようなベクトル場である電場に対して、ある位置での+1[C]の電荷が持つ事になる位置エネルギー(または「ポテンシャル」)を電位と言います。これは日常でもよく耳にすると思われる電圧と本質的には同じものです。電位は、ベクトルでは無く、スカラー場になります。つまり、x, y, z という3つの変数によって決まる1つの値が決まるという3変数関数になります。

$$「電位」V(x,y,z) はべクトル場ではなく、スカラー場です。$$

これらのベクトル場やスカラー場の微積分を考えられる時に使われるのが、次に記す「勾配」「発散」「回転」というものです。

ベクトル場の発散(div)と回転(rot)、スカラー場の勾配(grad)

ではここで、ベクトル解析で重要な 勾配、発散、回転 と呼ばれるものの説明をします。

div, rot, grad ・・定義と考え方
図形的にはどのような意味を持つ?

※ここでの「発散」は、「無限大に発散」という意味ではなく、また別のものです。少々分かりにくいかもしれませんが、同じ用語を使う習慣があります。
※「回転」は「循環」と呼ばれる場合もあります。

勾配、発散、回転の定義には偏微分を用います。
ベクトル場、スカラー場ともに多変数関数である事が直接的に関わっています。

div, rot, grad ・・定義と考え方

あるベクトル場 \(\overrightarrow {F}\) があったとき、それに対する発散、回転を考える事になります。(成分が x, y, z の関数になっていない通常の「ベクトル」に対しては基本的に考えないので注意。)

他方、勾配についてはスカラー場に対して定義します。

$$ベクトル場\overrightarrow {F}(x,y,z)に対して、発散:\mathrm{div} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} 回転:\mathrm{rot} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} を定義します。$$

$$また、スカラー場\phi (x,y,z)に対して、 勾配:\mathrm{grad} \phi ,\hspace{10pt} を定義します。$$

定義
勾配(gradient)【グレディエント】
  • スカラー場 \(\phi (x,y,z)\)に対して次のベクトル(関数)を勾配(勾配ベクトル)と呼びます。
    $$\mathrm{grad} \phi=\left(\frac{\partial \phi}{\partial x},\frac{\partial \phi}{\partial y},\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)$$
  • \(\mathrm{grad}\phiの代わりに\nabla \phi とも書きます。\)
発散(divergence)【ダイヴァージェンス】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のスカラー(関数)を発散と呼びます。
    $$\mathrm{div} \overrightarrow {F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}$$
  • \(\mathrm{div}\overrightarrow {A}の代わりに\nabla \cdot \overrightarrow {A} とも書きます。\)
    \((F_1,F_2,F_3)=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))\) です。
回転(rotation,curl)【ローテイション、カール】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のベクトル(関数)を回転と呼びます。$$\mathrm{rot} \overrightarrow {A}=\left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z}, \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x}, \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$
  • \(\mathrm{rot}\overrightarrow {A}の代わりに\mathrm{curl}\overrightarrow {A}、あるいは\nabla × \overrightarrow {A} とも書きます。\)

★ 見ての通り、いずれも偏微分を用いて定義されます。
偏微分とは、1つの変数だけに着目し、他の変数は定数扱いにして微分操作を行う演算です。
★ \(\nabla \cdot \overrightarrow {A},\nabla × \overrightarrow {A}\) という表記について:これらの定義による式の形が、ベクトルの内積や外積の計算規則と似ている事からそのようにも書く習慣があります。この逆三角形の記号∇は「ナブラ」と呼ばれます。
★ 勾配・発散・回転自体も x, y, z を変数とするベクトルや実関数ですからベクトル場とスカラー場という事になりますが、勾配・発散・回転自体に対してはあまり「場」とは言わない事が多いです。

このように定義した時、
勾配と回転はベクトルであり、発散はスカラーである事に、少し注意してみてください。

同時に、勾配を考える対象はスカラー場であり、
発散と回転を考える対象はベクトル場であるわけです。少し整理しましょう。

対象の関数 勾配・発散・回転 ベクトル・スカラーの区別
スカラー場\(\phi (x,y,z)\) \(\mathrm{grad}\phi \) 勾配:ベクトル(成分は関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{div}\overrightarrow {F}\) 発散:スカラー(関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{rot}\overrightarrow {F}\) 回転:ベクトル(成分は関数)

★ 尚、発散と回転については、上記で定義した数式を「積分した形」を発散および回転と呼ぶ場合もありますが、このサイトでは一貫して上記の形の定義を用いる事にします。

図形的にはどのような意味を持つ?

こういった色々見慣れない記号をなぜ考えるのか?という話にもなるかと思いますが、これらに関しては基本的に「3次元の空間」の中のベクトルの理論ですので、図形的を持っている事が理解の1つのポイントです。

まず勾配については、偏微分を考えている事に注目すると、あるスカラー場が x方向、y方向、z方向に対して、その向きだけの変化率をベクトルで表したものになります。

次に、ベクトル場の発散についてです。これは位置が微小変化した時に、特定の量が全体として「周りからどれだけ出入りするか」の変化率を表します。単位体積から出入りする流量(※1)を表すとも言えます。
ベクトル場の発散に体積要素(dv = dxdydz)を掛け算すると、微小な領域に出入りする流量を表します。発散を面積分と重積分(※2) を結びつける公式(発散定理、ガウスの定理)もあり、それも物理で重要です。

(※1)もう少し詳しく言いますと、電磁気学の理論の一部は、流体力学の理論とのアナロジー(類似性)から類推して組み立てられています。「流量」とは流体力学で使われる用語であり、ある断面を1秒間あたりに通過する流体の体積を表します。
(※2)この場合、dv = dxdydz を考えるので体積積分とも言います)

回転については、定義式からは少し分かり辛いと思いますが、じつはこれを積分(「法線面積分」という種類の積分)をした時に文字通りの意味を表します。公式(「ストークスの定理」)を用いる事で、あるベクトル場の回転の面積分は、そのベクトル場に対して閉曲線を1周するように接線線積分したものに等しくなるのです。ベクトル場の回転は流体力学では「渦」を表現するのに使い、電磁気学などの領域でも使用します。

これらの図形的な意味を捉える時は、積分を考える必要がある場合もあります。

勾配・発散・回転に関するいくつかの公式

最後に、いくつかの公式について紹介をしておきましょう。

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式
勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式 

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式

ベクトル場の勾配・発散・回転を使ってどういう理論が展開されるのかを軽く見るために、いくつかの公式を挙げてみます。これらは、一般的には暗記するほど重要ではないと思いますが、簡単なものや特徴的なものは知っておくと物理学全般を学ぶ時に便利です。

勾配・発散・回転のいくつかの公式

\(\phi\) などはスカラー場、\(\overrightarrow {F}\) などはベクトル場であるとします。

  1. \(\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)\)
  2. \(\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\mathrm{div}(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi)+\phi\mathrm{div}\overrightarrow {F}\)
  3. \(\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)=0\)
  4. \(\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=0\)
  5. \(\mathrm{rot}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=\mathrm{grad}(\mathrm{div}\overrightarrow {F})-\left(\frac{\partial ^2F_1}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 F_2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 F_3}{\partial z^2}\right)\)

\(\phi_1\phi_2\) は2つのスカラー場の積(普通の掛け算)であり、\(\phi\overrightarrow {F}\) はベクトル場の各成分に(同一の)スカラー場を掛け算したものです。\(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi\) は、内積です。
電磁気学の理論では、3番目と4番目の関係は特に重要です。
5番目の形の式は、回転はベクトル場から別のベクトル(場)を作る操作であるために考える事ができる点に注意。(勾配や発散では同じような事はできません。)

これらの公式の証明は、基本的には定義に直接当てはめて、積の微分公式などの基本公式を使って丁寧に計算する事で得られます。例えば、1番目の公式は各成分ごとに積の微分公式を使うだけです。
(偏微分の場合も通常の微分の場合と同じ形の積の微分公式が成立します。)

$$\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\left(\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial x},\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial y},\frac{\partial \ (\phi_1\phi_2) }{\partial z}\right)$$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}\right) + \left(\phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y}, \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)【1番目の公式の証明終り】$$

2番目の公式も、積の微分公式を用いるだけです。

$$\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\frac{\partial (\phi F_1)}{\partial x}+\frac{\partial (\phi F_2)}{\partial y}+\frac{\partial (\phi F_3)}{\partial z} $$

$$ = \left( \phi \frac{\partial F_1}{\partial x}+ F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_2}{\partial y}+ F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_3}{\partial z} +F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} \right) $$

$$ = \phi \left( \frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+ \frac{\partial F_3}{\partial z}\right) + F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} + F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} + F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} $$

$$= \phi \mathrm{div} \overrightarrow {F}+ \overrightarrow {F} \cdot \mathrm{grad}\phi 【2番目の公式の証明終り】 $$

3番目と4番目の式は、2つの変数で続けて偏微分を行う時には偏微分の順番は関係なく同じ結果になる(※)という事を使って示します。【※解析学的に厳密に言うと条件がありますが、通常の連続関数であれば基本的に問題ありません。】

3成分のそれぞれについて0になる事を示す必要がありますが、変数が入れ替わるだけで同じ形・同じ計算ですので、第1成分(x成分)についてのみ記します。

$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)の第1成分=\frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)- \frac{\partial}{\partial z} \left (\frac{\partial \phi}{\partial y} \right) = \frac{\partial^2 \phi}{\partial z \partial y }- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y \partial z }=0 $$

$$【3番目の公式(第1成分)証明終り】 $$

$$\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})の第1成分= \mathrm{div} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z},
\frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x},
\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$

$$= \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial z} \left( \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right) $$

$$= \left( \frac{\partial^2 F_3 }{\partial x \partial y }- \frac{\partial^2 F_3 }{\partial y \partial x } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_1 }{\partial y \partial z }- \frac{\partial^2 F_1 }{\partial z \partial y } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_2 }{\partial z \partial x }- \frac{\partial^2 F_2 }{\partial x \partial z } \right) =0 $$

$$【4番目の公式(第1成分)証明終り】(最後の式では消える項ごとにまとめました。) $$

5番目の公式に関しては少々計算が面倒ですが、定義に当てはめて丁寧に計算する事で結果が得られます。特別な定理や計算技巧は必要ありません。

この他にも、勾配・発散・回転の組み合わせによる色々な公式が存在します。

勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式

勾配・発散・回転のいずれも微分(偏微分)を使って定義されるものであるわけですが、発散と回転に関してはそれらに対する積分を考える事で独特な形の公式が成立します。しかも、それらは物理の理論の中でも重要です。

2つの公式を、ごく簡単にですが挙げておきます。上記でも少し触れた「発散定理(ガウスの定理)」と「ストークスの定理」です。これらは積分を含む公式であり、通常の積分ではなく「法線面積分」「接線線積分」「体積積分」という種類の積分が含まれます。

$$発散定理:\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$ストークスの定理:\int_S \mathrm{rot}\overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{s} = \int_C \overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{r}$$

ここでは、C:閉曲線、S:閉曲面の表面、V:閉曲面内の領域 を表しています。

接線線積分については力学でも使う考え方ですが、法線面積分については初歩的な運動の解析にはあまり使わないかもしれません。基本的な考え方は共通していて、微小な領域において内積の計算をしてから積分をする(合計する)というものです。

体積積分は重積分で表す事もでき、法線面積分も内積の処理をした後に重積分として表す事もできます。(しかも、その事が証明で重要です。)

閉曲線上の接線線積分の積分方向は、xy平面などの平面上で考える場合には反時計回り(曲線の内部が左側に来る向きであり、閉曲線の「正方向」とも言います)として考えます。
空間上に閉曲線がある場合には、閉曲線を外周とする曲面の表側を決めたうえで、接線線積分の積分方向を定めます。

このベクトル解析の領域は、物理の電磁気学や流体力学と合わせて学んでみる事がおすすめです。数学的に詳しい考察が必要な部分と、応用で重要になる部分との関連がよく分かるようになると思います。

ベクトルの微積分(力学での例)

ベクトルに対する微分と積分について、古典力学での使われ方を例に具体的に見て行きます。

ベクトルの基本事項(高校数学)や、逆にこのページの内容の発展事項であるベクトル解析については別途に述べています。

物理で重要な事は、2つの方向への力同士の「合力」は、ベクトルの加算・減算によって計算すればうまく行く事が「実験で」確かめられているという事です。運動方程式により加速度は力に比例しますから、加速度の加算・減算もベクトルで行う事ができます。(また、速度に関しても同じようにベクトルで考えてよい事になります。)

ベクトルの微分と積分の定義

では、ベクトルの微分の定義を説明いたします。定義自体は、簡単です。
それぞれの成分を微分したものを考えるという、それだけです。

表記に慣れなかったりするかもしれませんが、「考え方はシンプルで簡単」という事が、このページで一番知っていただきたい事です。ベクトルの微分や積分は、要するに計算の方法としては「成分ごとに計算すると」いうものです。ですので、1つ1つ丁寧に整理して計算すれば済む話であるわけです。

位置座標を表すベクトルの各成分をある1つの変数で微分したものを、ベクトルの微分と呼び、ベクトルに対して微分操作の記号をつけた \(\frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)\) という表記を行います。 \(\frac{d \overrightarrow{X}(t) }{dt}\) などと書いても同じです。

ベクトルの微分の定義(1つの共通変数による微分)

3次元の空間ベクトルの場合を記しますが、何次元ベクトルでも同じです。 $$\frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)=\left(\frac{dx}{dt},\frac{dy}{dt},\frac{dz}{dt}\right)$$ $$x,y,z はtの関数:x=x(t), y=y(t), z=z(t)$$ この共通の変数の事を、数学的には「パラメータ」または「媒介変数」と言います。

ベクトルの微分などと言うと一見わけがわからないように思えるかもしれませんが、このように意味と定義を丁寧に見ると、それほど難しくはないのではないでしょうか?表記については確かに慣れないと扱いにくさを感じるかもしれませんが、少しずつ触れていけば慣れると思います。

ただし、何で微分するかには少しだけ注意すべきで、力学などで物体の「位置」と時間の関係を分析する場合は、時間tで微分します。この時、各成分は時間の関数で表すものとします。(そうでなければ、当然tでの微分はできません。)

具体的な微分の考え方

ベクトルの微積分を1つの変数tで行う時は、
ベクトル(x, y, z)の各成分 x, y, z が「tの関数」x(t), y(t), z(t) である場合を考えます。
例えば、\(x(t)=2t, y(t)=3t, z(t)=t^2\) などです。
この成分を持つベクトルをtで微分するのであれば、
それぞれの成分をtで微分すればそれでよいというわけです。

例えば、運動する物体の位置座標を(x, y , z)とした時、この座標が時間ごとに変化するので x, y, z は「時間tの関数で表せるはず」と考えるわけです。しかも、物体は連続的に動くはずなので、その時間変数 t で「微分も可能である」と考えるわけです。物体の位置座標を表すベクトルの時間微分を、物理では特に速度ベクトルと呼びます。

ベクトルの高階微分についても考え方は同じで、各成分を2階微分したものを、そのベクトルの2階微分として表記します。位置座標を表すベクトルの時間変数tによる2階微分は、加速度ベクトルと呼ばれます。

微分が可能であるという事は、積分も可能です。

ベクトルに対する積分も基本的に同じ考えであり、ベクトルの各成分を同じ変数で積分したものを、1つのベクトルに対する積分として表示します。

ベクトルの積分(1つの共通変数による積分)

不定積分で記しますが、定積分でも同じです。 $$\int \overrightarrow{X}(t)dt=\left(\int x(t)dt,\int y(t)dt,\int z(t)dt \right)$$ また、微分されたベクトルを積分すれば、「各成分の微分」の積分ですから、もとのベクトルに戻ります。つまり表記上、ベクトルに関しても「微積分学の基本定理」が成立します。 $$\int \frac{d}{dt}\overrightarrow{X}(t)dt=\left(\int \frac{d}{dt}x(t)dt,\int \frac{d}{dt}y(t)dt,\int \frac{d}{dt}z(t)dt \right) $$ $$=\left(x(t)+C_1,y(t)+C_2,z(t)+C_3 \right)= \left(x(t),y(t),z(t) \right)+(C_1,C_2,C_3)=\overrightarrow{X}(t)+\overrightarrow{C}$$ $$\overrightarrow{C}は定ベクトルで、\overrightarrow{C}=(C_1,C_2,C_3)$$

ベクトルの積分に関しては、後述しますように、「内積の計算をしてから積分する」というものもあります。これは接線線積分や面積分の考え方であり、物理への応用で重要な考え方になります。

応用例:ベクトルの微分による等速円運動の考察

力学の基本的な例の1つとして、等速円運動というものがあります。これは、その名の通り、同じ「速さ」で円運動を延々とぐるぐるしている運動を言います。

ここで「等速円運動」とは「速さ」が同じである運動を指していて、「速度」は各位置ごとに異なります。なぜかというと、円運動なので向きが常に変化しているためです。
ベクトルで言うと速度ベクトルの「大きさ」だけが一定で、向きは各位置ごとに常に変化するという運動である事を指します。

そのように物体が等速円運動をしている時、「いったいどのような力が物体に働けば、そのような運動が生じるだろう?」という問題があります。

これは、結論を先に言うと「円の中心に向かって同じ大きさの力が働けばよい」というのが答えです。これを数学的にどのように導出するのか?と言うと、まず運動方程式を考える必要があります。それと、べクトルを考える事がポイントです。以下、具体的に見ていきましょう。

三角関数は別名「円関数」とも言います。座標またはベクトルの考え方を用いれば、円運動の分析に用いる事もできるわけです。微分する時には、合成関数の微分法を用いる事にだけ注意しましょう。

少し数学的に込み入る話ですが、
座標成分自体を極座標に変換して運動方程式を考える事もできます。
すなわち、速度ベクトル、加速度ベクトル、力ベクトルの成分を「x成分」と「y成分」ではなく「r成分」と「θ成分」で表す方法です。
ただしここではその考え方をする必要は無く、ベクトル自体の成分は直交座標系のx,y,zの成分で考えれば良い事になります。

空間上の運動に対して運動方程式を作る時は、ベクトルのそれぞれの成分に対して運動方程式を作ります。つまり、1つの運動に対して運動方程式は「3つ」できるのです。その3式を解く事で、運動の分析ができるというのが、初歩的な力学での一般論です。

運動方程式

$$\overrightarrow{F}=m\frac{d^2 \overrightarrow{X}}{dt^2}$$ $$\overrightarrow{F}=(F_x,F_y,F_z),\hspace{5pt}\overrightarrow{X}=(x(t),y(t),z(t))$$ つまり(最大で)3つの微分方程式ができます。 $$①F_x=m\frac{d^2x}{dt^2},\hspace{10pt}②F_y=m\frac{d^2y}{dt^2},\hspace{10pt}③F_z=m\frac{d^2z}{dt^2}$$ (初歩的な微分方程式の解き方については以前の記事で詳しく記しています。)

ただし、この等速円運動の分析の場合では、じつは式は「2つ」でよいのです。その理由は次の通りです。

同じ円運動といっても、空間上であらゆる角度に傾いた平面上の円運動が考えられます。しかし、物理ではこのような時、「座標系のほうを物体の運動に合わせてあげる」ということをやります。実際に物体が運動している平面に、xy平面を合わせてあげるのです。

すると、z軸方向には物体は運動しておらず、どんな時刻でも位置座標のz成分は0ですから、あってもなくても同じ事であって、考察の対象から除外します。こういう事は、物理でよくやります。

ですので、運動方程式をベクトルの各成分に対して作る時も、
z成分については\(F_z=m\cdot 0=0[N]\) 「力は一切働いてません」という、数式で考察するまでもない結果が出るだけなので、「考えなくてよい」とするわけです。

というわけで、平面ベクトルで表される運動として、分析をします。

この時、極座標を使うと話は単純になり、計算も楽です。等速でぐるぐる回っているという条件から、一定の角速度\(\omega\)[rad/s]【rad:ラジアン(これは省略する事もできます)s:秒】で運動していると捉えます。

すると、物体の位置座標はどのように表せるかというと、三角関数を用いればよいのです。円の半径をR[m] 【m:メートル】とすると、x座標は R cos(ω t)、y座標はR sin (ω t) になります。

ベクトルで書くなら、\(\overrightarrow{X}=(R \cos (\omega t),R \sin (\omega t))\)

この場合は、位置座標の成分が時間の関数として明確になっているので、これを時間tで2階微分して加速度にして、質量mを掛け算すれば「力」になります。ですから、ここでは微分方程式を解く必要はありません。

x = R cos(ω t) と y = R sin (ω t) を、tで2階微分しましょう。これは、合成関数の微分になっているので1回の微分ごとに ω が掛け算される事に注意する以外は、初歩的な微分計算ですので結果はすぐに出ます。結論は次の通りです。

$$\frac{d^2x}{dt^2}=-R\omega^2 \cos (ω t) ,\hspace{10pt} \frac{d^2y}{dt^2}=-R\omega^2 \sin (ω t) $$

$$ \overrightarrow{F} =m\frac{d^2 \overrightarrow{X}}{dt^2}=( -R\omega^2 \cos (ω t) , -R\omega^2 \sin (ω t) )=-mR\omega^2( \cos(ω t), \sin(ω t) )= -mR\omega^2 \overrightarrow{X} $$

この結果から、考察できる事はいくつかあります。

計算結果から考察できる事
  1. 力の「向き」は常に中心方向を向いている:
    結果を見ると、元の位置座標の定数倍で、しかもマイナスがついています。これは、物体から見ると、力のベクトルが原点を向いている事を意味するのです。
    (★位置座標のベクトルは原点から物体に向かう向きのベクトルである事に注意。)
  2. 力の大きさは、時間によらず定数:
    力の大きさは、「力ベクトルの『大きさ』」を計算すればよいのです。
    この時、\(\cos^2(ω t)+\sin^2(ω t)=1 \) である事に注意します。時間を含む部分は、1になって「消えてしまう」わけです。
    すると、\(|\overrightarrow{F}|=mR\omega^2\) となります。
  3. 力の大きさの計算から、
    力の大きさは質量、半径、「角速度の2乗」のそれぞれに比例する事が分かります。

等速円運動のように、力ベクトルが常に中心方向を向いているとき、
物理ではそのような力を「中心力」と呼びます。

さらなる学習・ベクトル解析に向けて

今回はこれで終わりますが、ベクトルの微積分の話自体は、じつはまだ続きます。
今回主に扱ったのは、ベクトルの3つの成分が共通の変数の関数、時間tで表される場合でした。
これに対して、物理ではさらに、「位置によって力等が変化する」場合を考えます。 力の種類で言うと、重力や電磁力が該当します。
その場合、ベクトルの各成分が位置座標x、y、zの関数であると考えるのです。
このようなベクトルを「ベクトル場」と言い、それについての種々の微積分を考える領域を、「ベクトル解析」と言います。(このページで扱った内容や、ベクトルの初歩の内容も含めてベクトル解析と呼ぶ事もあります。)
このベクトル解析の考え方は、電磁気学や流体力学で使う他に、物理学一般でも使います。
このベクトル解析の領域は、初見だと多分かなり分かりづらいかと思います。しかし基本的には、今回のページで述べたような、ベクトルを成分ごとに分けて丁寧に考える事、内積の定義に従って丁寧な計算を進める事によって理解できるような体系になっています。