円を表す式【直交座標】

直交座標上で円を表す式について説明します。

基本となるのは図形としての円の定義と、三平方の定理(2点の距離)です。

1点からの距離が等しい点の集合:円

y=2xなどの1次関数は直交座標上で「直線」になり、y=xなどの2次関数は「放物線」になります。

では具体的に他の特定の図形、
例えば「円」の形になるように直交座標上での式を考えるとしたらどのようになるでしょうか。

結論を言うと次のようにします:

直交座標上で円を表す式

点(a,b)を中心とする半径rの円は、
(x-a)+(y-b)=r で表される。

これは何を言ってるのかというと「点(a,b)から点(x,y)までの距離がrですよ」という事です。これを満たす点(x,y)は点(a,b)を中心とする半径rの「円周上」に必ずありますよ、という意味です。

平面幾何での円の定義を思い出してみると、円とは「1点からの距離が等しい点の集まりで構成される図形」でしたから、これは適切という事になります。

そして2点間の距離は三平方の定理を使って出せばよいので、上記のような2乗を含んだ式になるわけです。特に原点を中心とする場合はx+y=rという形になります。

この時、(x-1)+(y-2)=4のような形で、右辺が2乗の形として明示しなくても円の式を表します。この場合には4=2のように書けるので、(1,2)を中心とする半径「2」の円という事です。

理屈自体は以上で終わりで、意味さえ理解すれば難しいものではないと思います。

そのうえで、高校数学でさらに問われる内容をいくつか挙げます。

まず1つは、関数y=f(x)の形で円を表すとどうなるかという事です。

上記のx+y=rのような形も、一応関数の仲間ですがこのようなF(x,y)=0の形の式を「陰関数表現」と言ったり、その中のyを「陰関数」と言ったりします。逆にy=f(x)の形になっている事は「陽」に表わされていると言う事があります。

円の式の場合は、式を変形してy=f(x)の形にする事は比較的容易です。次のようになります。

$$原点中心の場合:x^2+y^2=r^2\Leftrightarrow y=\pm \sqrt{r^2-x^2}$$

$$一般の場合:(x-a)^2+(y-b)^2=r^2\Leftrightarrow y-b=\pm \sqrt{r^2-(x-a)^2}\Leftrightarrow y=\pm \sqrt{r^2-(x-a)^2}+b$$

プラスマイナスの符号は、原点中心の円であればx軸を境にした円の上側か下側かであるかを言っています。積分で円の面積を計算する場合などは、この形の式を使います。

ただし、図形同士の交点を調べる場合などは、無理にy=・・の形にしないで2乗の形のままで計算したほうが楽である場合も多いです。

円と図形との交点問題

円x+y=2と直線y=x+1の交点の数を調べる場合、円の式のyに直接y=x+1を代入して2次方程式の形にして実数解がいくつあるか調べるといった形になります。

グラフを描くと「明らか」である場合もありますが、式で示すなら次のようになります。
+y=2にy=x+1を代入して、
+(x+1)=4
⇔2x+2x-3=0

ここで2次関数2x+2x-3はx軸と2交点を持つので(x=0で負の値なので)2次方程式の解は実解が2つあり、円と直線の交点は2つというわけです。もし2次方程式が重解を持てば円と直線は「接する」という事になります。この計算をよく見ると、計算方法自体は放物線の時とほぼ同じという事も分かります。

さて、では円同士の交点の場合はどうなるでしょうか。

この場合、直線と放物線との関係の場合と異なり、y=・・の形を代入しようとするとかなり面倒です。そのため、結論を言うと2乗を含んだままの形でまず処理し、1次式の形にする工夫をします。
具体例で見てみましょう。

■問い:2つの円(x+1)+(y-1)=3と(xー1)+(y+1)=7があるという。
これら2つの円の交点はいくつありますか。

この場合、どちらの式にもx、yの項とx、yの項がともにあります。
これらをどう処理すればよいかという話です。

まず、片方の円の式からx+y=・・の形にします。

(x+1)+(y-1)=3
⇔ x+2x+1+y-2y+1=3
⇔ x+y=2y-2x+1

これを、もう片方の式に代入します。
まず2乗部分を計算して、x+yの部分にまとめて代入するという事です。

(x-1)+(y+1)=7
⇔ x+y-2x+1+2y+1=7
これにx+y=2y-2x+1を代入して、
(2y-2x+1)-2x+1+2y+1=7
⇔ 4y-4x+3=7
⇔ y=x+1

ここで得られたyとxの1次式の関係は何を意味するかというと、特に「2交点を持つ場合」にはその2点を通る直線になります。このy=xの関係を、2つの円のどちらにでもいいので代入します。ここでは最初のほうの円に代入します。

(x+1)+(y-1)=3にy=x+1を代入して、
(x+1)+x=3
⇔ 2x+2x-2=0 ⇔ x+x-1=0
この2次方程式は異なる2実解を持つので、
2つの円は異なる2つの交点を持ちます。【解答】

尚、ここでもし交点を持たない(最後の2次方程式の形で実解を持たない)場合には、途中で得られる1次式の関係はもちろん2交点を結ぶという意味は持ちません。

また2交点を持つと分かった時の具体的な座標は、xが分かった時点でy=xの1次式のほうにxを代入すればyが分かるのですが、xをもしも円のほうに代入してyを出そうとするとさらに2つの解が出てくる場合があります。これは、直交座標上の円には端っこの2点を除いて、1つのx座標に対応する点が必ず2つ存在するからです。その時には片方の点だけが2交点の1つになります(2交点を結ぶ直線がx軸に垂直の場合を除きます。)

特定の点を通る円

少し面倒くさいタイプの高校数学の問題として、「ある1点を通る円」「ある2点を通る円」などが扱われる場合があります。

特定の点(A,B)を通る半径Rの円の場合、
中心の座標を(r,r)とすると (r-A)+(r-B)=Rという関係式ができますから、中心の座標を動かせるとすれば「軌跡は (A,B)を中心とした『半径R』の円」という事が言えます。

では「ある2点を通る円」ではどうなるかというと、半径が一定であれば図を描くとおそらく「2パターン」しかあり得ない事が予想できますが、実際そうなるのです。
(A,B)と(C,D)の2点を通り、半径がR、中心の座標を(r,r)とすると
(r-A)+(r-B)=R および
(r-C)+(r-D)=Rの2式ができます。

そこから先の計算は、まずr+r=・・の形の式に変形して、もう片方に代入します。すると、rとrの1次式の関係を作れます。これは、(A,B)と(C,D)の2点を通る直線の式です。要するに、円同士の交点を調べる時の計算と同じです。

さらにr=・・の形を円のどちらか片方の式に代入すれば2次方程式になりますから、半径一定のもとで実数解は多くても2つ、つまり中心の座標は2パターンだけで他はあり得ないという事が式でも示されます。
(ここで、半径が小さすぎてそもそも所定の2点を通りようがない場合には実解がない結果になります。また、重解になる場合は2点のちょうど中点に円の中心が来る場合です。)

この場合に途中の計算で出てくるxとyの1次式は、(A,B)と(C,D)を結ぶ線分に垂直で、線分の中点を通る直線になります。

定点を通る円

では、「3点を通る場合」はどうでしょう?この場合、中心と3点の関係を表す式が3つできます。いずれも、中心を動かせるとすると「円の式」の形になります。この時、まず1つを使ってr+rを残り2式のそれぞれに代入し、2乗を消して1次式の関係にします。

ところが、この場合は1次式の関係が2つできて「連立一次方程式」になってしまいますから、
とrが満たす解があるとすれば1つという事になります。

この時、異なる2点を通る場合と違うのは、rとrの値を計算する時に円の半径は必要ないという事です。異なる2点を通る場合には、最後の2次方程式に半径が必要です。

それに対して異なる3点を通る場合には半径が「消えた」状態でrとrの連立一次方程式が出てきます。

式で書くと、まず(r,r)と3点までの距離が等しいという3式を考えます。
(r-A)+(r-B)=R
(r-C)+(r-D)=R
(r-E)+(r-F)=R

第1式から
+r=2Ar-A+2Br-B+R であり、
これを第2式と第3式の両方に代入します。

すると、
2(A-C)r-A+C+2(B-D)r-B+D=0
2(A-E)r-A+E+2(B-F)r-B+F=0
という2つの式になりますが、この時点でRは消えているわけです。
これは最初の3式でともに「等しい距離R」を使ったためです。
(一見ごちゃごちゃした式ですが、rとrに関して見れば1次式です。)

そこで連立1次方程式からrとrを確定させると、もとの式に代入すると半径であるRもそれによって決まらないとおかしい話になります。つまりこの場合は、中心座標が1つに決まる事に加え、半径も1つに決まるという事です。

ここでじつはもう1つ細かい注意点があって、
それは連立1次方程式は「解を持たない」場合があるという事です。

「そんな場合ありましたっけ。」と思われるかもしれませんが、単純な話で、
x+y=2 かつ
x+y=3
のような場合の事です。
これは、ここでは異なる3点が「同一直線上」にある場合に発生します。ですので、その場合に限っては最後の連立1次方程式の解がないので、3式を満たすrとrは「存在しない」という事になります。

まとめると、「『同一直線上にない』異なる3点」を通る円はただ1つしかなく、しかも半径も1つに確定するという事になります。また、同一直線上にある異なる3点を通る円は存在しないという事にもなります。

行列式の基本公式

行列式について成立する基本公式をまとめてます。
一般のn次の行列式の定義だけでも大変面倒であるわけですが、ここで述べる公式によって特定の条件のもとでの行列式の値を計算するのが容易になる、行列式を含む理論計算が簡易になる等の利点があります。

行列式については、次のような基本性質が成立します。扱う行列は全て正方行列とします。

  1. 列ベクトルに対する線型性
    1. 1つの列ベクトルが和・差の形の行列の行列式は和・差の形に分解できる。
    2. 行列式の1つの列に定数を乗じたものは全体にその定数を乗じた値に等しい。
    3. 2つ以上の列における和・差・定数倍に関しても所定の規則で行列式を分割できる。
  2. 列の置換に関する性質
    1. 列を置換した行列の行列式は、もとの行列式にその置換の符号を乗じたものに等しい。
    2. 行列式の中に全く同じ要素が並ぶ列が2つあれば行列式は0になる。
  3. 積に関する性質
    1. 行列の積に対する行列式は、個々の行列の行列式の積になる。
    2. 逆行列の行列式と、もとの行列の行列式の積は1に等しい。

(これらのうち、列に関する性質は行についても同様に成立します。)

尚、高校数学の範囲や、行列の理論を限定的にのみ使う工学等の分野で2次の正方行列や3次の正方行列のみを扱う場合には、上記の公式は全て行列の成分の直接計算で示す事ができます。(2次の場合は計算は簡単ですが、一般性は分かりにくいでしょう。)

よく使われる行列の簡易表記として、行列の列の部分を一括して「列ベクトル」とみなすやり方があります。例えば3次の正方行列であれば次のように表す感じです。

$$\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) =(\overrightarrow{a_1},\overrightarrow{a_2},\overrightarrow{a_3})$$

$$\overrightarrow{a_1}=\left(\begin{array}{ccc} a_{11} \\ a_{21}\\ a_{31} \end{array}\right),\hspace{10pt} \overrightarrow{a_2}=\left(\begin{array}{ccc} a_{12} \\ a_{22}\\ a_{32} \end{array}\right),\hspace{10pt}\overrightarrow{a_3}=\left(\begin{array}{ccc} a_{13} \\ a_{23}\\ a_{33} \end{array}\right)$$

以下、証明も含めて詳しく見てみきましょう。

列ベクトルに対する線型性

式による表現(1つの列の場合) ■ 証明 ■ 一般の列ベクトルに対する線型性 

式による表現(1つの列の場合)

次のように、行列式の「列ベクトルに関する線型性」が成立します。c は定数(実数、複素数)とします。

$$A=(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots\overrightarrow{a_n})\hspace{5pt}のとき、$$

行列式の列ベクトルに対する線型性
  1. 列ベクトルが和・差の形の行列の行列式は和・差の形に分解できる。$$\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k}+\overrightarrow{b_k},\cdots\overrightarrow{a_n})=\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots ,\overrightarrow{a_n})+\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{b_k},\cdots ,\overrightarrow{a_n})$$
  2. 行列式の1つの列に定数を乗じたものは全体にその定数を乗じた値に等しい。$$\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,c\overrightarrow{a_k},\cdots ,\overrightarrow{a_n})=c\hspace{3pt}\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots ,\overrightarrow{a_n})=c\hspace{3pt}\mathrm{det}A$$

和と差に関する性質のところは、「もとの行列と『1つの列だけ』別の列ベクトルに入れ替えた行列」の
行列式の和や差になるという事です。

列ごとの和になっているとか列ごと定数倍になっているとかいうのは、具体的には3次の正方行列で言うと次のような事です。

$$\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{11}+1 & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} +3 & a_{22}& a_{23} \\ a_{31}-2 & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) =\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) +\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} 1 & a_{12} & a_{13}\\ 3 & a_{22} & a_{23} \\ -2 & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) $$

$$\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & 4a_{12} & a_{13}\\ a_{21}& 4a_{22}& a_{23} \\ a_{31} & 4a_{32} & a_{33}\end{array}\right) =4\hspace{3pt}\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) $$

証明

列ベクトルに関する線型性は、要するに行列式を構成する各項には1つの列の要素が必ず入っている事に起因します。

$$\mathrm{det}A = \sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{i=1}^na_{\sigma(i)i}\right) $$

行列式は行列の成分を使うとこのように表せるので、式で示す場合には次のようになります。

まず和・差のほうから見ると、あるk列目のそれぞれの行の成分に何らかの数が加えられている状況なので、積になっている部分のk番目のところだけを和の形にすればよい事になります。
すると全体を2つの和に分けて、それぞれ行列式の形になるというわけです。

$$\sum_{\sigma}\left\{\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots (a_{\sigma(k)k}+b_{\sigma(k)k})\cdots a_{\sigma(n)n}\right\}$$

$$=\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots a_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)+\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots b_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)$$

結果の式では、積のk番目のところだけが別々になって2つの和になっています。
(積の部分は、積の記号\(\Pi\)を使用せずに直接各項を書き下す形にしています。省略部分「・・・」のところは掛け算が続きます。)

定数倍のほうも同じで、積のk番目のところがc倍で、これは和全体に乗じられる定数倍とみなせます。

$$\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots ca_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)=c \sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots a_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)$$

一般の列ベクトルに対する線型性

1箇所の列ベクトルについて和や定数倍の項が増えた時には線型性の式を繰り返し使って、
シグマ記号を使って1つにまとめる事もできます。
これは、1つの列のところについて \(c_1\overrightarrow{a}+c_2\overrightarrow{b}+c_3\overrightarrow{d}\) のようになっている場合です。

2箇所以上の列ベクトルで和や差の形になっている場合は少し注意が必要です。1箇所だけのときの証明のやり方を見てもらうと分かりやすいと思うのですが、2箇所ある場合には行列式は2項に分かれるのではなく、2×2=4項に分かれます。n箇所に2項ずつある場合には2項に分かれます。これを直接書くのは大変面倒ですが、シグマ記号を使うとより簡潔に表せます。

行列式の線型性・一般の場合
  1. 1つの列ベクトルにおける一般の場合:$$\mathrm{det}\left( \overrightarrow{a_1},\cdots ,\sum_{j=1}^m(c_j\overrightarrow{b_j}),\cdots\overrightarrow{a_n} \right)=\sum_{j=1}^mc_j \mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{b_j}\cdots ,\overrightarrow{a_n})$$
  2. 2つ以上の列ベクトルにおける一般の場合 $$\mathrm{det} \left( \overrightarrow{a_1},\cdots ,\sum_{i=1}^{m1}(c_{pi}\overrightarrow{b_{pi}}),\cdots ,\sum_{j=1}^{m2}(c_{sj}\overrightarrow{b_{sj}}),\cdots ,\sum_{k=1}^{m3}(c_{tk}\overrightarrow{b_{tk}}),\cdots\overrightarrow{a_n} \right)$$ $$=\sum_{i,j,k \cdots =1}^{m1,m2,m3,\cdots}c_{ki}c_{pj}c_{tk} \mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{b_{pi}},\cdots ,\overrightarrow{b_{sj}},\cdots,\overrightarrow{b_{tk}},\cdots,\overrightarrow{a_n})$$

2番目のほうの式の和の記号のところは、i,j,k,・・のそれぞれについて、
1~m、1~m、1~m、・・まで動かすという意味です。
そのため、和の項数は合計でそれぞれを掛け合わせたm・・個 になります。

一般的に手計算では手に負えない事は見て明白だと思うので、「形」を把握しましょう。

例として、2箇所の列ベクトルについて2項ずつの和になっている時は、要するに行列式を表す積の中の2箇所で (a+b)(a+c)=a+ab+ac+bcの形になるので4つに分割されるという事です。
もし3箇所の列ベクトルについて2項の和になっているのであれば2=8つに分割されます。

2箇所の場合について証明の式を具体的に書くと次のようになります。
途中で「・・・」で略してる部分は全て掛け算が続いています。

$$\sum_{\sigma}\left\{\mathrm{sgn(\sigma)}\cdot a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\cdots (a_{\sigma(k)k}+b_{\sigma(k)k})\cdots(a_{\sigma(m)m}+d_{\sigma(m)m})\cdots a_{\sigma(n)n}\right\}$$

$$=\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)} a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(m)m}\cdots a_{\sigma(n)n}\right) +\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)} a_{\sigma(1)1}\cdots b_{\sigma(k)k}\cdots a_{\sigma(m)m}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)$$

$$+\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)} a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(k)k}\cdots d_{\sigma(m)m}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)+\sum_{\sigma}\left(\mathrm{sgn(\sigma)} a_{\sigma(1)1}\cdots b_{\sigma(k)k}\cdots d_{\sigma(m)m}\cdots a_{\sigma(n)n}\right)$$

このように、4つに分割されるわけです。

列の置換に対する性質

式による表現 ■ 証明(列の置換) ■ 証明(同一の列が2つ以上の時) 

式による表現

行列の特定の列と別の要素を入れ替えたり、列の順番を並び替えたした行列の行列式は、もとの行列の行列式と絶対値は必ず同じであり符号だけが異なるという結論になります。

その性質の派生物として、行列内の2つの列ベクトルの要素の値が全く等しい場合には行列式の値は必ずゼロになるという結果も示せます。

列の置換に関連する行列式の性質
  1. 列を置換 \(\tau\) によって並び替えた行列の行列式は、
    もとの行列式にその置換の符号 \(\mathrm{sgn}(\tau )\) を乗じたものに等しい。 $$\mathrm{det}(\overrightarrow{a}_{\large{\tau (1)}},\cdots ,\overrightarrow{a}_{\large{\tau (k)}},\cdots\overrightarrow{a}_{\large{\tau (n)}}) =\mathrm{sgn}(\tau) \mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots ,\overrightarrow{a_n})$$
  2. 正方行列の異なる2つの列ベクトルについて \(\overrightarrow{a_k}=\overrightarrow{a_m}\) となるk、mが存在するならば
    その行列式の値は必ず0になる。 $$A=(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots ,\overrightarrow{a_m},\cdots,\overrightarrow{a_n})で、\overrightarrow{a_k}=\overrightarrow{a_m}となる時$$ $$\mathrm{det}=0$$

これは理屈としては難しくないのですが、式による証明では少々込み入ります。ここで挙げている行列式の公式の証明の中では最も難しく、しかし重要(積に関する性質の証明に必要なため)という厄介な箇所です。

例えば、1列目と2列目を入れ替えた場合、互換の符号はマイナスなので行列式は「もとの行列式にマイナス符号をつけたもの」になります。

$$\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{12} & a_{11} & a_{13}\\ a_{22} & a_{21} & a_{23} \\ a_{32} & a_{31} & a_{33}\end{array}\right) =-\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{array}\right) $$

2つの列の要素が全く同じ場合とは、2つの列について1行目の値が互いに同じ、2行目の値も互いに同じ、・・・以下、何行目であっても全部互いに等しいという事です。この時、行列式の値はゼロになります。証明を見ると分かる通り、じつはこの性質は列ベクトルの置換に関係します。

$$\mathrm{det}\left(\begin{array}{ccc} 2 & 2 & a_{13}\\ 5 & 5 & a_{23} \\ 1 &1 & a_{33}\end{array}\right)=0 $$

証明(列の置換)

置換 \(\tau\) によって列ベクトルの要素が並び替えされている時、逆置換(より一般的には逆写像)に相当する \(\tau\)-1 を考える事が1つの重要ポイントです。
これは、例えば(1→2, 2→3, 3→1)という置換を逆にたどった(2→1, 3→2, 1→3)の事です。

【1つの例】
\(\tau\) :1→2, 2→3, 3→1
\(\tau\)-1:2→1, 3→2, 1→3

さてしかし、そんなものをなぜ唐突に考えるのかというと、もちろん理由はあります。

まず、\(\tau\) によって列の配列が変わっている行列A’ の成分をbijとおきます。
この置き換えの文字を使うと、行列式はとりあえず通常の形で表せます。
この段階では置換\(\tau\) はまだ式の中には出てきません。

$$\mathrm{det}A^{\prime} = \sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{j=1}^nb_{\sigma (j)j}\right)$$

ここで、列だけ入れ替えて行はいじっていないという設定なので、行列成分bijの添え字の列部分だけを 置換\(\tau\) で変化させるともとの行列成分の形に直す事が可能で、次のように表せます。

$$\large{b_{\sigma (j)j}=a_{\sigma (j)\tau (j)}}$$

これは例えば1列目と2列目が入れ替わっていて、入れ替えたあとの2行1列目を考える時、そこにある要素をbijで表すとb21ですがもとのaijで表すなら列が入れ替わってますからa12になるという意味です。今の例ではb21=a12 であり、\(\tau\)(1)=2です。

式で表すとかなり分かりにくいかと思いますが、bijの積をaijで表した時に、
「列の順番が左から1,2,3・・になるように」書き換える事ができます。
例えば、a223113という積はa312213と書いても同じ値であるという意味です。

つまり、\(\large{b_{\sigma (j)j}=a_{\sigma (j)\tau (j)}}\) において、
「積の並び替え」をする事で \(\tau (j)\) の部分はjに書き換える事が可能である「はず」です。

列を順序通りに「並び替え」するという事は「列の番号の置換」を行うと見なす事もできます。
しかもここでは「置換\(\tau\)」によって配列が変わったものを「もとに戻しているという」操作に相当するので、
積の順序並び替えに相当する置換は列に関しては \(\tau\) の逆置換である \(\tau\)-1になるのです。

しかしその場合、行の番号はどう表すのかという話になります。これは、次のようにします。

ijの列の番号から\(\tau\)-1でbijの列の番号をたどり、そこに\(\sigma\)を作用させて行の番号を得ます。
ijで見た時の列の番号がkのとき、これのもとになっていたbijの列の番号は\(\tau\)-1(k) ですが、
行の番号はそれをさらに置換 \(\sigma\) で変えて \(\sigma\)( \(\tau\)-1(k) ) = \(\sigma\) \(\tau\)-1(k) となるという事です。

少し分かりにくいパズルかもしれませんが、\(\large{b_{\sigma (j)j}}\) の行部分は、列の番号を基準にして何に置き換わったかを指しています。例えばb22に対してb32のようなものを考えるわけです。

つまり、bijの列の番号が分かればi= \(\sigma\)(j) という具合に行の番号が判明します。
ijとbijとでは列の置換だけがなされて行はいじっていないのでbijのほうの行の番号が分かればそれがaijの行の番号に一致する、という事です。

そこで、行列式は次のように変形できるという事になります。

$$\mathrm{det}A^{\prime} = \sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{j=1}^nb_{\sigma (j)j}\right)=\sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{j=1}^na_{\sigma \tau ^{-1}(j)j}\right)$$

ここで、sgn(\(\sigma\))=sgn(\(\sigma \tau ^{-1}\tau\))=sgn(\(\sigma \tau ^{-1}\))sgn(\(\tau\)) と変形できる事に注意します。

また、\(\sigma \tau ^{-1}\) という写像も置換であり(\(\sigma \) を動かす事で)n次の置換の要素全てに対応しています。
という事は、次のようにもとの行列Aの行列式を含んだ形に式を変形できるという事です。

$$\mathrm{det}A^{\prime} =\sum_{\sigma}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{j=1}^nb_{\large{\sigma \tau ^{-1}(j)j}}\right)=\sum_{\large{\sigma \tau ^{-1}}}\mathrm{sgn(\sigma)}\left(\prod_{j=1}^na_{\large{\sigma \tau ^{-1}(j)j}}\right)$$

$$=\sum_{\large{\sigma \tau ^{-1}}}\mathrm{sgn}(\sigma \tau ^{-1})\mathrm{sgn}(\tau)\left(\prod_{j=1}^na_{\large{\sigma \tau ^{-1}(j)j}}\right)$$

$$=\mathrm{sgn}(\tau)\sum_{\large{\sigma \tau ^{-1}}}\mathrm{sgn}(\sigma \tau ^{-1})\left(\prod_{j=1}^na_{\large{\sigma \tau ^{-1}(j)j}}\right)$$

$$=\mathrm{sgn}(\tau)\mathrm{det}A$$

和の記号の中で\(\sigma\) は置換全体を動かしますが、\(\tau\) はある特定の「1つの置換」です。
(例えば前述の例のように\(\tau\):1→2, 2→3, 3→1)
そのため、sgn(\(\tau\) ) はシグマ記号に乗じる形にできて、残った部分は(合計で)Aの行列式に等しくなります。

証明(同一の列が2つ以上の時)

上記の関係式が成立するのであれば、もしも互いに一致する列ベクトルが2つ以上あった場合には行列式の値が0になる事を示せます。

k列目とm列目が等しくなる時、この2列だけを入れ替えた行列式は、もとの行列式にマイナス符号をつけたものになります。(互換の符号はマイナス。)

$$すると、\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots \overrightarrow{a_m},\cdots\overrightarrow{a_n})=-\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_m},\cdots \overrightarrow{a_k},\cdots\overrightarrow{a_n})より、$$

$$\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots \overrightarrow{a_k},\cdots\overrightarrow{a_n})=-\mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots \overrightarrow{a_k},\cdots\overrightarrow{a_n})$$

$$\Leftrightarrow \mathrm{det}(\overrightarrow{a_1},\cdots ,\overrightarrow{a_k},\cdots \overrightarrow{a_k},\cdots\overrightarrow{a_n})=0$$

ここで使っているのは、実数(あるいは複素数でも)について符号がプラスでもマイナスでも同じ値になる数、「x=-x」が成立する数は0だけであるという事を使っています。

積に関する性質

式による表現 ■ 証明(行列の積に対する行列式) ■ 証明(逆行列の行列式) 

式による表現

2つの行列AとBの積ABに対して、行列式 det(AB) はどのような値になるでしょう?普通に考えるといかにも収拾のつかない複雑な式になりそうですが(実際、直接計算すると手に負えません)、これはAの行列式とBの行列式の積になるのです。

その結論の派生物の1つとして、『逆行列の行列式』=1/『もとの行列式』という公式を導出できます。また、逆行列の存在の可否と行列式の値の関係の一部についても分かります。

積に関する行列式の性質
  1. 行列の積に対する行列式は、個々の行列の行列式の積になる。 $$\mathrm{det}(AB)=(\mathrm{det}A)\hspace{3pt}(\mathrm{det}B)$$
  2. 逆行列の行列式と、もとの行列の行列式の積は1に等しい。 $$\mathrm{det}A\hspace{3pt}\mathrm{det}(A^{-1})=1$$

2番目のほうの性質は「Aの逆行列が存在するならば」という前提です。
(最後に触れますが、そもそも逆行列が存在しない場合があり得るためです。)

結果自体はシンプルですが、証明はやや込み入ります。
ただし、前述の列ベクトルの線型性や、置換に関して成立する関係式を使うと証明可能です。

証明(行列の積に対する行列式)

「行列の積に対する行列式」の状況を調べる時、定義通りに要素の計算をすると一般のn次の正方行列に対しては非常に面倒な式になってしまうので工夫が必要です。

ABの1行1列目の要素はa1111+a1221+a1331+・・・+a1nn1 で、2行1列目の要素はa2111+a2221+a2331+・・・+a2nn1のようになりますが、同一の列で見た場合、Bの要素の1列目は共通して使い回されています。これを利用して、まずABの要素を列ごとに整理します。

ABの1列目の要素を列ベクトルで表す事ができて、次のようになります。

$$b_{11}\left(\begin{array}{ccc} a_{11} \\ a_{21}\\\cdots\\ a_{n1} \end{array}\right)+b_{21}\left(\begin{array}{ccc} a_{12} \\ a_{22}\\\cdots\\ a_{n2} \end{array}\right)+\cdots +b_{n1}\left(\begin{array}{ccc} a_{1n} \\ a_{2n}\\\cdots\\ a_{nn} \end{array}\right) =b_{11}\overrightarrow{a_1}+b_{21}\overrightarrow{a_2}+\cdots +b_{n1}\overrightarrow{a_3}=\sum_{j=1}^{n}(b_{j1}\overrightarrow{a_j})$$

そこで、AB全体を列ベクトル表記すると次のようになります。
省略している「・・・」の部分にもシグマ記号で表された各列ベクトルがあります。

$$AB=\left(\sum_{j=1}^{n}(b_{j1}\overrightarrow{a_j}),\hspace{5pt}\sum_{k=1}^{n}(b_{k2}\overrightarrow{a_k}),\cdots,\hspace{5pt}\sum_{z=1}^{n}(b_{zn}\overrightarrow{a_z})\right)$$

これの行列式を、一般の場合の列ベクトルの線型性によって分割します。

この場合には、各列に関して「全く同じ要素を持つ列」になる項が含まれます。
例えば、上記でj=1のときとk=1のときでは全く同じ形の \(\overrightarrow{a_1}\) の形が1列目と2列目に生じます。
(定数倍は行列式全体に掛ける形になるので、この件に関して影響を与えません。)
すると、その部分の行列式の項は0になります。
そのため、和の記号のj, k, ・・・,zの部分は、必ずそれぞれ違う番号を代入した項だけが残るわけです。
j, k, ・・・,zのそれぞれは1~nの範囲を動く事は共通しており、
j, k, ・・・,zの個数自体もn個ある事に注意します。
すると、j, k, ・・・,zの中身は、1~nの番号を置換したものになるのです。
これは、和をとるときに各々1~nではなく、
j, k, ・・・,z全体で「1~nの番号の『置換』」に渡って動くと捉えてよい事を意味します。

具体的に、n=4の場合、各列のシグマ記号の変数について例えば(i,j,k,z)=(2,3,4,1) のような組み合わせの項だけが残ります。(i,j,k,z)=(3,3,4,1)のようになる場合は、その行列式の項は0になるので考えなくていいという事です。

すると、上式の行列式は次のように書けるのです。

$$\mathrm{det}(AB)=\large{ \sum_{j,k,\cdots z=1}^{それぞれnまで} \left\{ b_{j1}b_{k2}\cdots b_{zn}\mathrm{det}(\overrightarrow{a_j},\overrightarrow{a_k},\cdots,\overrightarrow{a_z}) \right\} }$$

$$=\large{ \sum_{\sigma} \left\{ \left(\prod_i^n b_{\sigma (i)i}\right) \mathrm{det} (\overrightarrow{a}_{\sigma (1)} , \overrightarrow{a}_{\sigma (2)} , \overrightarrow{a}_{\sigma (3)} , \cdots , \overrightarrow{a}_{\sigma (n)}) \right\} } $$

$$=\large{ \sum_{\sigma} \left\{ \left(\prod_i^n b_{\sigma (i)i}\right) \mathrm{sgn}(\sigma) \mathrm{det} (\overrightarrow{a}_1 , \overrightarrow{a}_2 , \overrightarrow{a}_3 , \cdots , \overrightarrow{a}_n) \right\} }$$

$$=\large{ \sum_{\sigma} \left\{ \left(\prod_i^n b_{\sigma (i)i}\right) \mathrm{sgn}(\sigma) \mathrm{det}A \right\} }$$

$$=\large{ (\mathrm{det}A) \sum_{\sigma} \left\{ \mathrm{sgn}(\sigma) \left( \prod_i^n b_{\sigma (i)i} \right) \right\} }$$

$$=\large{ (\mathrm{det}A)( \mathrm{det}B) }$$

このようにして det(AB)=(detA) (detB) が確かに成立する事になります。

証明(逆行列の行列式)

上記の性質を単位行列に適用する事で、逆行列に関する行列式の関係式も分かります。

すなわち、単位行列IはI=A(A-1)と表せて、単位行列の行列式の値は1になるので detI=det{A(A-1)}= det A det A-1 ⇔ 1=det A det A-1

このとき、もちろん行列式が0でないという前提はあります。
あるいはむしろ、
ある行列が可逆(逆行列が存在する)ならば、
I=A(A-1) ⇔ 1=det A det A-1
となるので必ず det A≠0である、と言う事もできます。
「正方行列Aが可逆である(逆行列が存在する) ⇒ det A≠0」という事です。
その対偶命題をとると、
「detA=0ならば行列Aは可逆でない(逆行列は存在しない)」という事も分かります。

では「detA≠0ならばAは可逆で逆行列が存在する」という命題はどうかというと、結論から言うとこれも成立しますがこれまでの議論ではここまではまだ示せません。(もう一工夫必要で、余因子行列というものと行列式の関係を調べる事で証明できます。)

逆行列と可逆性の関係

結論を言うと次の同値関係が成立します。
「detA≠0 ⇔ 正方行列Aは可逆で、逆行列A-1が存在する。」
(detA=0ならばAは可逆でなく、逆行列は存在しない。)

数学の勉強方法【入試対策】

「学校での数学の勉強方法は、一体どうしたらよいか?」「数学の成績を伸ばすにはどうしたらよいか?」
こういった事はよく聞かれるので、中学や高校での実践的な勉強法について紹介します。

実践的な勉強法を知り、身に付けよう

よく耳にする「勉強方法」としては、授業の予習復習を欠かさない・1日1時間でも30分でも勉強時間をとる・塾に通う・・等々というものです。これらについて私が聞いていて思うのは、科目の内容には直接的に言及しない一般論が極めて多いという事です。

それらの一般論は間違っているわけではありませんが、よい勉強方法というよりは「成績が良い子の特徴」を拾って列挙しているという面が結構強いのではないかと思います。もっと言うと、数学をあまり知らない人でも、成績優秀者にアンケート調査すれば分かる事を列挙しているようにも聞こえるのです。

よくある一般論的な「勉強方法」
  • 毎日の勉強時間の確保(例えば1時間でも30分でも)
  • 授業をただ受けるのではなく予習と復習を必ずする
  • 塾や予備校に通う
  • 将来の夢を明確にする事で勉強への意欲を高める 等

→ 正しい事も言っているが「現に成績が良い子」の特徴の列挙にとどまっている面もあり、成績改善のための根本的な指南にはなりにくい。指摘の範囲が広すぎて具体性を欠いている事も否定できない。

それらの一般論が間違っているわけではなく、時に重要性もある事は強調したうえで、ここではより実践的で実際の数学にも踏み込んだ形でのおすすめできる「勉強方法」について紹介したいと思います。

ここで述べる事は、数学が得意でない人が成績を伸ばすために役立つ事でありますが、すでにある程度得意な人が成績に伸び悩み行き詰った時や、さらに上を目指したい場合にも役立つ方法です。(上記のような一般論だと、予習や復習はしているけれど成績が伸び悩んでいる人などは対処のしようがなくなってしまいます。)

実際に中学校や高校に通っていると勉強や進路に関して難しい事もあろうかと思いますが、まずは学校の数学の授業で教わっている内容が一体何なのかを把握しましょう。それが正直よく分かっていない状態で、「試験があるので公式だけは暗記する」・・というのは一番危険な勉強法です。これは中学でも高校でも、数学の勉強に関して共通に言える事なのです。

数学公式を覚えるために「語呂合わせ」(社会科だと『いい国【1192】作ろう鎌倉幕府』などが有名)を使う事を勧める人もたまにいらっしゃいますが、それを絶対否定はしませんが、その方法はどうしてもどうやっても覚えられない時の最終手段だと思う事をここでは勧めます。そうではない方法についてここでは述べます。

数学の成績を伸ばす手段の1つとして「多くの練習問題を解いてみる」という事は有効な方法です。ただし、それは基礎事項がある程度分かっている(完璧でなくても)時に先に進む手段として効力を発揮するもので、解き方の原理が全く分かっていない状態で練習問題に取り組んでも効果が薄いのです。

従って、数学があまり得意でない場合には、まず基礎事項を把握する事から始めるのが第一歩です。この時、公式だけを見て暗記しようとするのではなく、その公式の意味の説明や解説をよく読み、最初は自分で解かなくてもいいのでどういった計算例などがあるのかをよく見るようにしましょう。

完璧に理解してなくてもいいので、何となくでも分かったら、簡単なものからでよいので練習問題を解いてみてください。そして計算の方法などが分かってきたら、入試問題の過去問題を解いてみるなどしてレベルを上げて行きます。

中学・高校ともに共通する勉強法として大事な事は、わけもわからずに漫然と問題に手をつける事を繰り返すのではなく、基礎事項を理解したうえで問題を多く解くという事です。それによって、基礎事項の理解もより深まるのです。

個々の具体的な基礎事項を勉強する時には教科書や参考書を見てもいいですし、このサイトでは数学の基礎・重要事項についてイラストや図式も使いながら詳しく分かりやすく解説しています。

それらの押さえておくべき基礎事項を分野ごとに具体的に把握し、整理しておく事も重要です。これについては、中学数学・高校数学等に分けて次に具体的に記していきましょう。

★「基礎」とは必ずしも「簡単」という意味では無く、土台になる部分という事です。ただし中学校や高校の範囲では、基礎事項とは「まずは簡単な事項・初歩的な事項」というふうに捉えても差し支えありません。

中学校での勉強法

中学校の数学であれば、まずはマイナスを含んだ式の計算、文字式の展開、文字式の因数分解といったものを教わり、試験にも出題されます。(この試験とは期末試験などの校内のものも、高校入試も含みます。)

中学校の場合、公立の高校入試であれば(どの都道府県でも)おおよそ出題範囲は決まっており、おおよそ次のようなものです。

中学校の数学で扱う基礎・重要事項
  • マイナス符号の扱い(マイナス同士の掛け算など)
  • 文字式の展開と因数分解
  • 平方根の扱い(分母の有理化など)
  • 方程式(1次方程式、1次の連立方程式、2次方程式
  • 2次関数と1次関数のグラフ問題(交点など)
  • 図形問題(作図、相似や合同の証明、辺の比・面積計算)【証明問題の勉強法については後述】
  • 初歩的な確率の問題(サイコロを2回ふるなど)
  • 統計(最頻値・中央値などの用語を把握したうえでのグラフの読み取り)
  • 立体に関する計算問題(展開図や平面での切り口)
  • 一部、自然数・整数に関する問題(約数、倍数、素数、個数の数え上げなど)

具体的な問題は、例えば次のようなものです。
「-2+5はいくらか」「(-2)×(-3)+1はいくらか」
「(x-2)(x-5) を展開しなさい」
「x-7x+10を因数分解しなさい」
などのような問題が解ければ、身もふたもない事ですが「数学の成績が上がる」わけです。
※公立高校の入試の場合、多くの都道府県で求められるのはこういうレベルの計算です。ただし学校によっては入試でそれが「正確に」(速く)解ける事が求められます。

ここで、個々の生徒の人によって、問題を見て思う事が違うでしょう。
「暗算レベルですぐに答えられる」
「紙に書いて落ち着いて計算すれば解答を出せる」
「やり方は一応分かっているけれど計算間違いをよくしてしまう」
「そもそも何をどうすればよいのか分からない」

計算は人によって得意不得意あるので解けないからといって悪い事は何もないのですが、成績を上げるにはどうすればよいかという観点からは、まずは当人がどのような理解度にあるのかを把握する事が第一歩です。

これは、本人が自分で気づけば一番良いですが、それができない場合には大人が指摘してあげる事も大事なのです。実際、塾や家庭教師、通信教育の中には、そういった適切な指摘をしながら問題演習を通じて成績向上に導いていくという手法をとっている場合もあります。がむしゃらに問題を解かせるというのも成績向上の手法として否定はしませんが、それは前述のように、あらかじめ一定の理解度のある生徒にとってさらに成績を伸ばすために有効な方法です。

先ほどの問題ですが、-2+5=3ですが、これは結局5-2と同じで、
「足し算と引き算は本質的に順序を入れ替えてもよい」「引き算は『マイナスの数を加える』とみなしてよい」といった事が分かっている前提があるわけです。

次に (-2)×(-3)+1=7ですが、
これは「マイナス同士の掛け算はプラスになる」事と、
「掛け算と割り算は、足し算・引き算よりも優先して行う」という規則を知っているかを問うているわけです。つまり(-2)×(-3)を先に計算して6にする必要があるわけで、-3とその右隣の1を先に掛けたりしてはいけないわけです。【(-2)×(-3+1)の場合には-3+1を先に計算します。】

因数分解の問題の場合には、まずはその逆である式の展開について分かっていて計算もできる事が重要です。x-7x+10=(x-2)(x-5) ですが、これをすぐに計算できるようにするためには因数分解とは逆の
(x-2)(x-5)=x-7x+10 という式の展開計算が問題なくできるという前提があります。
そういった点を見落とさず、整理する事が基礎事項を押さえるという事の1つの具体例です。

大事なのは、まずは生徒である本人がそういった計算における「ルール」を正確に知っているかどうかです。知っているのであれば、あとはひたすら問題を多く解いて計算の精度と速さを上げていくという勉強方法は確かに成績向上につながります。しかし正直よく分かっていない状態で、なかば当てずっぽう的に問題を解く事を繰り返している状況になっている場合には一度立ち止まる事も必要です。

結果的に言えば、成績の良い子は多くの公式を暗記してるはずだと思います。しかしそれは、公式の意味や使い方は把握しているうえで、練習問題を通して慣れる事によって記憶を定着させている事が普通なのです。

あやふやな点がある・正直よく分かっていないところがあるという場合は、問題は解かなくていいので基礎にもどりましょう。そこで内容の理解に努めてから、簡単な問題からでいいので練習してみて、分かってきたら問題集や過去問によって速く・正確に解けるように繰り返し解いてみましょう。【速く解ける事は、見直しの時間を確保したり、多少手間がかかる出題があった時に落ち着いて考える時間を確保する事に役立ちます。】

高校入試の場合、公立高校やそれに準じるレベルの私立高校の場合は「難問・奇問」は出さず、基礎事項さえ正確に把握していれば確実に解けるレベルの出題をしている場合が大半です。一部の「難関私立校」を受験したいと思う場合でも、基本問題は確実に速く解けるという事はまず必要であり、そこからさらにやや難しい問題を解く練習を積む事が勧められます。

次に、中学校の数学の中でも「証明問題」に対する勉強はどのように考えたらよいのかについて、少し述べておきます。

証明問題に対する勉強法

中学校に入ると「証明」問題というものが出てきます。これは確かに、一見すると小学校の算数との大きな違いです。

中学校で証明問題というと大抵は図形問題かと思います。これを得意にするためには、基礎となる定理や条件を整理して理解したうえで、入試の過去問題や練習問題を繰り返し解いて練習してみる事が有効です。
ですから基本的には他の計算問題と勉強法は同じというわけです。

大事な事は、問題を一気に解決してくれるような裏テク的な「特別な定理」を探そうとしない事です。
最も基礎になる定理だけをまず理解して整理し、具体的な問題に使う時はどうすればよいのかを問題を解きながら理解し慣れていく事が大事です。

押さえておくべき基礎的な定理や図形の性質は、具体的には次のようなものです。

中学校の図形問題の証明で必要な事項

覚える事項をこういった基礎事項に絞ったうえで、練習問題や過去問題によって使い方を練習していくのが勧められる勉強法です。問題はいくらでも異なるものがありますが、大抵の場合はパターンが限られています。

一部の私立高校の入試などで他に事項が必要と思われる時のみ、過去問題を精査したうえで特別な定理を覚えればよいでしょう。もちろん、入試の受験などを抜きにして、平面幾何の分野に興味を持った場合に教科書に載っていない色々な定理を調べてみるという事は何ら悪い事ではありません。

証明問題について、「論述」をする必要があるという事で苦手意識を持つ人もいるかもしれません。しかし、数学の証明は国語の作文や小論文とは根本的に異なるものです。そのため普段の勉強においても、数学の証明は国語の問題や試験とは全く違うものである事をまずおさえておく必要があります。
数学の証明問題は、読み手を説得させる文章を書く事が目的ではなく、
「数学的に論理的に正しい関係をつなげて(決まった)結論を出す」というだけのものです。
ここで、「論理的に正しい」という事には文学的な意味も哲学的な意味もなく、要するに正しい計算をしているか・正しい定理の内容を書いているか・図形問題であれば正しい辺と角度の関係を書いているかという事なのです。

高校での勉強法

高校数学の場合、難関の国立大・私大の入試で「奇抜」な問題が出題される事があるのでその事に目を奪われがちかもしれませんが、中学校の場合と同じく基礎事項を整理し把握したうえで練習問題・過去問題を使って練習する事が最も勧められる勉強法です。高校の学内の期末試験等の対策も同じになります。

大学入試の場合には個々の大学によって出題傾向や難易度の差が激しい場合もあるので、確かにひとくくりにできない面はあります。しかし、基礎事項を正確に把握している事はどこの大学の入試でも求められます。したがって、普段の勉強でも特殊な問題や「難問」を無理に解く訓練をするのではなくて、まずは基礎事項を組み合わせて解ける問題を確実に解けるようにする事が勧められる勉強法です。つまり基本姿勢は中学校の時と同じでよいのです。

数学科目で高校が中学校と異なる点は、勉強する範囲が広いのでいきなり全ての対策を一度にはできない事です。範囲が広いので、場当たり的に勉強してしまうとつい学習が不足している部分が出てきやすいのです。分かりやすいところからでいいので、1つ1つの分野を確実に把握していく事が重要と言えるでしょう。

高校数学の微積分以外の分野で知っておくべき基礎・重要事項は次のようになります。

高校数学の基礎・重要事項
  • 直交座標上の図形と式(1次関数2次関数、円、軌跡)【3次関数は主に微分の分野】
  • 数列(等差数列、等比数列、漸化式、階差数列、数学的帰納法)
  • 三角比三角関数(基本公式、弧度法余弦定理加法定理、極座標)
  • ベクトル(基本事項、内積、座標上の平行四辺形の面積など)
  • 集合と論理(包含関係、必要・十分条件、対偶証明法、背理法など)
  • 指数関数と対数関数
  • 場合の数と確率(順列組み合わせ、条件付き確率、期待値、分散など)
  • 統計(中学よりも範囲が少し広い)
  • その他小さい事(絶対値記号、和の記号(Σ)、二項定理、解と係数の関係、部分分数、中間値の定理など)
  • 行列(基本的に2次の正方行列に関する出題が多い)
  • 2次曲線(楕円、双曲線、一般の放物線)

★高校の場合、立体に関する問題は積分で体積を計算させる出題が比較的多いです。
★様々な分野がありますが、最終的には全く別々の切り離されたものではなくて互いに関係しているという事を意識する事も重要かと思います。

高校数学では数学を授業科目として3~6つに分類する事が多いですが、学習時にはあまりこういう分類にはこだわらずに「微積分」と「それ以外」くらいの分類の認識でもよいかもしれません。微積分の問題を解く場合にはそれ以外の事項の基礎知識が欠かせない場合も多いので、まずは「微積分以外」の分野をしっかり勉強しておく事が重要とも言えます。

高校数学では、どうしても「問題が解けない(解答にたどりつかない)」という場合が中学の場合と比べて多く発生すると思います。そういう時には、勉強の1つのコツとして、問題の「解答」を先に見てしまってください。

すると、じつは意外に簡単で基本的な基礎事項をいくつか組み合わせるだけの問題であったりします。それを知ったうえで、再度問題を解いたり他の問題にも手をつけてみて、そういったレベルのものであれば確実に解けるように練習を積んでみる事が勧められます。解答を見ても基礎事項の組み合わせで済むとは到底思えない「難問」の場合は、普段の勉強においても後回しにして放置して大丈夫です。
まずは、基礎事項とその組み合わせからなる問題を確実に・正確に・速く解けるようにしましょう

基礎事項がよく把握できていない場合は、落ち着いて分からない部分について一度基礎事項を整理し、内容の把握に努めましょう。この時、公式や定理だけを見て暗記しようとしない事が中学校の時以上に重要です。例えば三角関数の分野1つだけとってみても非常に多くの「公式」があり、無理に暗記しようとしても中学の時以上に相当厳しいものがあると思います。

暗記しないでどのように覚えるのかと言われるかもしれませんが、例えば三角関数で言えば正弦と余弦の公式を把握していれば正接の公式は計算で出せますし(その関係自体、重要事項です)、
sinθ+cosθ=1という基本公式は本質的には「三平方の定理」である事を理解していれば「暗記」の負担は相当に減るでしょう。余弦定理の場合、角度が直角である場合は三平方の定理に他ならない事を知っておけば、定理の内容の大半は全く新規のものではなく既に知っているという事になります。
このように、全ての定理や公式を全く別物と捉えるのではなくて、数学的な関連付けをする事で結果的に暗記する項目を減らせるのです。

そういった「整理された基礎事項の知識」を練習問題や入試問題を解く中でアウトプットしていく事を積み重ねていくと、数学の知識は定着し成績は伸びていきやすいかと思います。

高校数学の場合には「基礎」を正確に押さえる段階に至るまでが、中学の時と比べて労力を要するという面があるかもしれません。その事をあらかじめ踏まえて普段の勉強に取り組むと効率よい学習が可能でしょう。

高校数学の学習で特に気を付けるべき点
  • 高校数学では教わる内容の範囲が広い。(それぞれ無関係ではなく関連はある。)
  • 公式や定理の数も多く、相互の分野の関連付けをしないと基礎知識の整理が難しい場合もある。

微積分が出題範囲の時

大学の理系の学部の入試では微積分まで問われる事が多いと思います。

微積分の範囲まで学習する場合には、微分の場合には関数の極大・極小を調べてグラフを描く問題、積分の場合には面積・体積を計算する問題が比較的多く、合成関数や積の微分公式、置換積分・部分積分の公式なども合わせて使う場合もあります。また一部、特定の関数の極限を計算させる出題などもあります。

勉強法としては微積分以外の分野と同じように考えます。

ただし微積分に関しては、まず基本になるのが微分のほうで、その計算に慣れてきたら積分のほうに移れるという性格が強いです。(これは積分は微分の逆演算であるという性質によります。)また三角関数や指数関数の知識など、微積分以外の分野の正確な理解が必要な事も多いです。そのため、それらの理解がまだじゅうぶんでない場合には一度戻ってみる事も有効な手段かもしれません。

まとめと結び

こういった勉強法は、中学や高校だけでなく、資格取得などの時にも有効なものです。まず必要な基礎事項を詳しく整理・把握・理解し【それは「公式」の暗記ではありません】、演習問題・試験の過去問題を使って練習を積むというものです。

数学の成績を伸ばすために勧められる勉強法について以上の事を整理しておきます。

まとめ
  • 数学を勉強する時には、まずは基礎知識を大事にしよう
  • 出題範囲を整理して、勉強不足の分野がないようにしよう
  • 公式や定理を無理に暗記するのは避け、内容の理解に努めよう
  • 基礎知識がある程度理解できたら、その知識が完璧でなくてもいいので練習問題や入試の過去問題を解いてみるようにする。それによって知識が定着する。
  • 理解が不足している場合にはもう一度基礎知識の整理に戻る
  • 出題範囲が広い・公式の数が多いといった時には相互の数学的な関連を理解する等の、何らかの工夫が必要がある場合もある
  • 高校数学でどうしても解答が出せない場合は解答を見てしまうのも1つの手。基礎知識の組み合わせで解ける事も多く、それを知る事自体が勉強になる。それを踏まえて改めて問題を解くようにする。

大学数学の場合は、必ずしも問題を解く事が学ぶ目的ではないのですが、大学によって試験で高得点をとる事・問題を解く事を重視する方針であるというのであれば、やる事は高校までの勉強法と同じです。
(個人的には、問題を解くという事に関しては多くの人が高校までにじゅうぶんやってきていると思うので、大学ではもう少し学問や研究をするという意味での勉強に重点を置いたほうがよいのではないかという気はいたします。)

組み合わせの総数【場合の数】

組み合わせの総数について説明します。順列と同じく「場合の数」の分野に属する個数の数え方です。これは確率でも使用しますし、2項定理を始めとして種々の計算にも使われる事が特徴です。
(英:組み合わせ【数学の用語として】 selection, combination)

考え方・・順番を区別せずに選ぶ

順列が並び方を区別するのに対して、
組み合わせは本当に「何を選んだか」だけを問題にして順番は無視するというものです。

例えば、4つのものを並べる順列の総数は4!通りですが、
4つのものから4つを選ぶ組み合わせは1通りだけです。

順列:{A,B,C,D}{A,B,D,C}{A,C,D,B}{A,D,C,B},・・他 24通り
組み合わせ:{A,B,C,D}の1通り

4つのものから3つを並べる順列の総数は4・3・2=24通りですが、組み合わせの場合はどうなるでしょう。具体的に書きだしてみると、{A,B,C}{A,B,D}{A,C,D}{B,C,D}の4通りだけという事になります。これを記号では=4のように書きます。

尚、4つのものから3つを選ぶという事は実際のところ「残る余りの『1つ』」の選び方と同じなので、ただちに「4通り」と言う事もできます。これは次に触れるように、公式のような形で定式化する事もできます。

「組み合わせ」を考える時には順序を考えません。

「並び方を区別しないのだから組み合わせのほうが簡単か?」というと、「その総数」が組み合わせの場合のほうが少なくなるのは正しいです。
ただし、考え方としては多分順列のほうが簡単で、順列を理解してから組み合わせを考える方が学習の手順としては便利です。

結論の式と公式

公式にすると、結論は次のようになります。

組み合わせの総数を表す式

n個の中からm個を選ぶ「組み合わせ」の総数をの記号で表し、次式のように計算できます。$$_nC_m=\frac{_nP_m}{m!}=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots (n-m+1)}{m!}=\frac{n!}{(n-m)!m!}$$ここで、等号で結ばれてる部分は式変形しているだけで、どの方法で計算しても良いという事です。は順番を区別した「順列の総数」を表します。

成り立つ関係式

特に、m=n、m=1の場合や、n-m個を選ぶ場合には次式が成立します。$$_nC_n=1\hspace{20pt}_nC_1=n\hspace{20pt}_nC_{n-m}=_nC_m$$

この組み合わせの記号2項係数と呼ぶ事もあります。(名称が違うだけで中身は全く同じです。)
その名称の由来は冒頭で触れましたように、2項定理で係数として表される事によります。

考え方としては次のようにします。

まず、n個からm個を選び「並び替える」場合は通りです。この時、「n個からm個を選ぶ」という操作はじつはすでにやってしまっているんですね。

ただし順列の場合は、その「選んだm個の並び替え」も実行して、総数にカウントしているわけです。言い換えると、順番を区別していない「組み合わせ」のそれぞれを「m個を並び替変えの総数:m!通り」倍しているわけです。

例えば、5つから3つを選んで{A,C,D}であったとしましょう。これは、順番を区別していないものです。つまり、{C,A,D}と書いても同じものとします。

ここで、順列の場合は、{A,C,D}の並び替えもカウントするので、この組み合わせに対して3!=6通りあるわけです。

これは他の組み合わせ{B,C,E}などに対しても並び替えれば3!=6通り発生するわけで、他の組み合わせも個体の数が同じですから同様に並び替えで3!=6通りずつ発生します。

結局、次のようになります:
「組み合わせの総数【】」×「選ぶ個数【m】に対する順列の総数【m!】」
=「n個からm個選んで並び替える順列の総数【】」
という事になります。これを式で書くと次のようになります。

$$(_nC_m)\cdot (m!)=_nP_m\hspace{5pt}\Leftrightarrow \hspace{5pt}_nC_m=\frac{_nP_m}{m!}$$

これが、組み合わせの総数を表す公式の意味です。

この式の続きは、単なる分母と分子の約分の計算になります。順列を階乗だけで表す形にすれば組み合わせの式もnとmを使った階乗で表される形になります。

この式を使えば、例えば7個から3つ選ぶ場合の組み合わせの総数は、次のようになります。

$$_7C_3=\frac{7\cdot 6\cdot 5}{3!}=\frac{7\cdot 6\cdot 5}{3\cdot2\cdot1}=35$$

このように「35通り」という結果が比較的簡単に分かるわけです。尚、これが順列であれば6倍の210通りですから、並び替えずに組み合わせにすると大きな数に比較的なりにくい傾向がある事も分かります。

ここで、同じ組み合わせを階乗だけの形で書くと、

$$_7C_3=\frac{7!}{(7-3)!3!}
=\frac{7!}{4!3!}$$

他方、7つから4つ選ぶ組み合わせの総数は、

$$_7C_4=\frac{7!}{(7-4)!4!}
=\frac{7!}{3!4!}$$

であり、これらは同じ数ですね。7個から3つ選ぶ場合も4つ選ぶ場合も、同じく35通りです。これは、3つ選んだら残り4つも必然的に決まるのだから同じ総数になって当然であると考えてもよいですし、一般のnとmに対する式変形で示す事も可能です。

式で示す場合、n個から(n-m)個を選ぶ組み合わせの式を作ってみればよいのです。

$$_nC_{n-m}=\frac{n!}{\{n-(n-m)\}!(n-m)!}=\frac{n!}{m!(n-m)!}= _nC_m$$

分母のところの掛け算が順番を入れ替えても同じになる事から、この関係が成り立ちます。つまり、7個から2個選ぶ組み合わせの総数が分かったら、7個から5個選ぶ組み合わせの総数も同じであるので計算不要という事です。(順列の場合は、そのようにする事はできません。)

必ず自然数になる?

さてここで、言われると確かにそのように納得できるかもしれないが、順列の総数を「m!」で割る時に「自然数になる」保証はあるのか?と思うかもしれません。

これは「理解」する方法としては、「組み合わせの総数が1.5通りとか2/3通りになる事はあり得ないので、必ず自然数であるに決まっている」・・と、捉えても支障はありません。
実際、どうやっても自然数にしかならないからです。

他方で、順列とか組み合わせとかを離れて、単に自然数nとmを持ってきて次式が自然数になるか否かという問題が提示された時に「組み合わせだから自然数」と言うのは数学的な証明には、もちろんなりません。

次の式は必ず自然数になる?

n、mを自然数(n≧m)として $$\frac{n!}{(n-m)!m!}=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots (n-m+1)}{m!}$$ (これが「組み合わせの総数」を表す前提はないものとして)

結論は、この式は必ず自然数になります。分子は分母で必ず割り切れて余りはでないという事です。

そのようになる事に対する一番簡単な証明は、「順番にn個並んだ自然数の中には、nの倍数が少なくとも1つ必ず含まれている」という事を根拠にするものです。

例えば、順番ずつ3つ並んだ自然数の中には、3の倍数が少なくとも必ず含まれています。これは、どんなでたらめな自然数を持ってきても、それに+1、+2する形(あるいは-1、-2)する形で並べてあげると3の倍数が必ず含まれるという事です。

214というてきとうな自然数をもってきて、{214、215、216}と並べれば、この場合は真ん中の数が3の倍数ですね。この理屈の意味自体は簡単で、1,2,3,4,5,6,7,8,9,・・・と、並べたとき、どこでもいいから数が3つ含まれるように区切ると、どうやっても3の倍数は1個以上含まれるという事です。

3でなくても、5でも6でも7でも、任意の自然数でそのようになります。
もう少し一般的に言うと、例えば3の倍数なら、任意の自然数は3n, 3n+1, 3n+2 のいずれかで表されるので1を加えていくか引いていく形で3個並べれば、その必ず3nの形のものが存在するという事です。

$$_nC_m=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots (n-m+1)}{m!}$$

の形で見るのが一番分かりやすいかと思いますが、式の分子の(積の)項数はm個です。他方、分母はm!=m(m-1)(m-2)・・・3・2・1ですから、m以下の自然数しか含まれません。そのため、分子に含まれる任意の自然数の倍数は、必ず分母に存在するという事です。これが基本的な考え方です。

話が少しややこしくなるのは、組み合わせの式の場合では分子に複数の自然数があるためです。仮に自然数pとqの倍数が共通する数として分母に含まれていたら、必ず割り切って全体として自然数になるかが怪しくなる可能性もあるとも言えるわけです。

しかし実際はそのような事は起きないので大丈夫であるというのが結論です。

まずnは固定したうえで、mまでは確かに割り切れて全体が自然数になるとしましょう。

次のm+1が素数であったら、mまでの数のいずれでもないし倍数でもないので、分子のm+1個の中にm+1の倍数が存在し、割り切れる事になります。

m+1が素数でない場合で、m以下の自然数pの倍数になっている時であっても、例えばpq個の中には、pの倍数が少なくとも「q個」含まれています。これは、p個の塊で区切れるところがq個あるためです。
そのうえで、pqの倍数も1個以上あるので、分母の1つのpの倍数を既に割って使ってしまったあとでも別のpの倍数が必ず残っています。それで、m+1=pqの倍数も分母に必ずあるので、再び全体として割り切って自然数になるというわけです。

具体例では、=8・7・6/(3・2・1) は確かに自然数になりますが、続いてを考えた時に、=8・7・6・5/(4・3・2・1)の分母に新たに入った4=2について、すでに分母にある2については、分母の項数が4つなので、2の倍数は2個以上あります。(この場合、見れば分かる通り6と8です。)分母の4項の中で、4の倍数は必ず1個以上ある事は確定しています。

A,B,C,Dと並べたところの1つが4の倍数だと考えると分かりやすいかと思いますが、例えばBの位置にあったとき、C、Dは使用しませんが、2の倍数は2個ずつ区切ったA,BとC,Dのどちらにも1個ずつ含まれます。このようにして、分母にすでに2がある事で4で割り切れなくなってしまう心配はないという事です。

4つの続く自然数には2の倍数と4の倍数がどちらも必ず含まれ、同様に8つの続く自然数には2の倍数、4の倍数、8の倍数がそれぞれ必ず含まれます。
9個の続く自然数には3の倍数と9の倍数がどちらも必ず含まれます。

少しややこしい理屈である事は間違いありませんが、基本的な考え方は一般のnとmに対しても同じ事です。

このようにして、組み合わせの総数を表す式はきちんと「割り切れて」自然数になる事が式の形からも保証されます。

別の方法はある?

「組み合わせを順列を使って表せるのは分かったが、別の方法はないのか」

あります。場合の数を考える時には考え方は1つとは限らず、複数の考え方で同じ結論になる事はよくあります。ただし、組み合わせに関して言えば順列を階乗で割る表し方が一番簡単ではないかと思います。

別のやり方としては、1つの例として次のように組み合わせを考える事もできます。

A,B,C,D,E,F,Gの7つから4つ選ぶ場合、まず「Aを含む場合」、残り3つを6つから選びます。次に、Aを含まずBを含む場合、A,Bを含まない5つから3つを選びます。
こういう具合に考えても組み合わせの総数を表す事ができて、次の関係が成立します。

$$_nC_m=_{n-1}C_{m-1}+_{n-2}C_{m-1}+_{n-3}C_{m-1}+\cdots +_{m}C_{m-1}+_{m-1}C_{m-1}$$

6つから3つを選ぶ組み合わせは、さらに5つから2つを選ぶ場合・4つから2つを選ぶ場合・・に分割できます。数が少なくなれば「明らかに」分かる組み合わせの場合にたどり着きます。
7つから4つ選ぶ時に実際にこれが正しいのかを見てみると、

$$_7C_4=_{6}C_{3}+_{5}C_{3}+_{4}C_{3}+_{3}C_{3}=20+10+4+1=35$$

通常の組み合わせの公式で計算すると、

$$_7C_4=\frac{7\cdot 6\cdot 5\cdot 4}{4\cdot 3 \cdot 2 \cdot 1}=35$$

この通り一致するわけですが、これは次の理由になります。
まず分母の7を(4+3)の形に書きます。

$$_7C_4=\frac{(4+3)\cdot 6\cdot 5\cdot 4}{4!}=\frac{4\cdot 6\cdot 5\cdot 4+3\cdot 6\cdot 5\cdot 4}{4!}=\frac{6\cdot 5\cdot 4}{3!}+\frac{3\cdot 6\cdot 5\cdot 4}{4!}$$

$$=_6C_3+\frac{3\cdot (4+2)\cdot 5\cdot 4}{4!}=_6C_3+\frac{4\cdot 5\cdot 4\cdot 3+2\cdot 5\cdot 4\cdot 3}{4!}=_6C_3+_5C_3+\frac{2\cdot 5\cdot 4\cdot 3}{4!}$$

$$=_6C_3+_5C_3+\frac{2\cdot (4+1)\cdot 4\cdot 3}{4!}=_6C_3+_5C_3+_4C_3+\frac{ 3\cdot 2\cdot 1}{3!}=_6C_3+_5C_3+_4C_3+_3C_3$$

一般のnとmの場合も同じで、分母の一番大きい項を(m+p)の形にして分離していくとこの形になります。

しかし言い換えると、この考え方でやったとしても結果は同じでnCm=(nm)/(m!) と同じ式になるのです。

順列とは?

順列とは、N個のものを並び替える方法を言います。
(英:permutation 順列を「置換」とも言います。)ここでは、その方法が何通りあるかという「場合の数」について説明します。高校数学で扱うのはその事項です。

結論を先に言うと、N個のものを並び替える順列の総数は次式で表されます。

N個のものを並び替える順列の総数

$$_NP_N=N!$$ $$=N(N-1)(N-2)\cdots 3\cdot 2\cdot 1$$ という表記は、N個のうちN個全てを並び替えるという意味です。
びっくりマークは「階乗」を表します。自然数を1ずつ下げてNから1まで掛けて積の形にする事を指します。例えば5!=5・4・3・2・1=120です。

また、N個のもののうち、M個を並び替え方の総数は次の通りです。

N個のもののうちM個を並び替える順列の総数 $$_NP_M=\frac{N!}{(N-M)!}$$

このようになるわけですが、これらを「暗記」するのはやめましょう。確かに公式の中には暗記してしまったほうが早いものもありますが、この順列の総数に関する式は「理解」できるものです。

N個のものを並び替える方法

初めに、少ない数から具体的に見てみましょう。

2個のものがあったとき、これを並び替える方法は「2通り」です。{A,B} {B,A} の2通りです。他の文字・・例えば {甲,乙}{乙,甲}の2通りと考えても、何でも構いません。
要するに、順番を区別して数えるという事なのです。
これが「2つのものを並び替える順列の総数」=2の意味です。この場合はとても簡単ですね。

では、A,B、Cあるいは甲、乙、丙などの3つを並び替えるにはどうすればよいでしょう?

これを具体的に書くと、
{丙、乙、甲}{丙、甲、乙}{乙、丙、甲}{乙、甲、丙}{甲、丙、乙}{甲、乙、丙}
の6通りあります。

実際これしか順番に並べる方法はないのですが、どのようにしてこれらを書きだしたかを説明します。まず、最初に来る文字が甲、乙、丙の3人のパターンがあります。そしてそれぞれの場合について、続く2人の順番が2通りあります。丙を一番左に置いたとき、続く順番は{乙,甲}と{甲,乙}の2パターンであるという事です。そして次に乙が最初に来る場合を考えて、同様に書きだして上記の6パターンの並びを得ています。

つまり3人それぞれを特定の場所、例えば一番左に置く場合につき2通りあるので3×2=6通りの並び替えの方法があるというわけです。これが=3!=6の意味です。

では4人を並び替える場合はどうするかというと、1つの位置(例えば一番左)に誰かをおくと、そのパターンにつき「3人を並び替える方法がある」事に気付くと分かりやすいかと思います。

誰かが一番左にいるごとに残りの3人を並べる方法が6通りあります。一番左に誰が来るかについては全部で4人いるわけですから4通りになります。よって4人を並び替える方法は全部で4×6=24通りです。

ここで、3人を並び替える方法が3×2=6通りであった事を考えると、4人を並び替える方法は4×3×2=24通りであるとも言えます。これが=4!=24の意味です。

では5人になった場合はどうかというと、考え方は同じです。

まず5人のそれぞれをどこか固定した位置に置きます。例えば上の例と同じく一番左に置きます。すると、残りの4人の並び替えは24通り(4!=4×3×2通り)である事が分かっているので、5人のそれぞれに対して24通りですから5×24=120通りの並び替えの方法があります。これをまとめて5!通りと書く事もできて、これが=5!=120の意味です。わずか5人で、並び替えの方法は意外に多いという事が分かります。

6人の場合も同じで、6×5!=6×120=720通りになります。これもこれまでと同様に6!=720通りとも書けます。非常に数が増えて、1つ1つ手で紙に具体的に書きだすのは困難である事が分かります。

7人の場合は7!=7×6!=7×720=5040通りになります。以降、人数を増やしていくと並べ方の総数は莫大に増えていく一方です。

以下、何人いても考え方は同じで、N人いた場合にはまずN人を選びます。のこりN-1人についてみるとこれは(N-1)×「N-2人の場合」ですから、結局N×(N-1)×(N-2)×・・・×3×2=N!通りという事になるわけです。
=N×N-1N-1=N×(N-1)!=N!のようにも書けます。考え方はある程度自由です。】

これが「N個のものを並び替える順列の総数は=N!である」という事の意味です。

N個のうちM個を並び替える場合

次に、N個のものの中からM個選んで並び替える方法の総数についてです。
これは順列の記号ではと書きます。

公式だけ見ると一見わけがわからない式に見えるかもしれませんが、意味はじつに簡単です。

5人いて、3人を選んで並び替える方法を考えてみましょう。

5人全員を並び替える場合には5!=5×4×3×2通りであったわけですが、意味を考えると3人だけを選ぶ場合には、最後の「2倍」がいらないわけです。誰か3人が並んだ時点で、選ばなかった2人も確定しますからそれで終了というわけです。

結果的には話は単純で、最初に5人のうちの1人を選び、次に残った4人の中から1人、続いて残った3人の中から1人を選びそこで打ち切るという事です。
【この方法でN個全てを並び替える場合を理解しても支障ありません。】

式で書くと=5×4×3=60という事です。

5人中2人だけを選び並び替えるなら=5×4=20通り、5人中1人だけなら=5通りです。

この通り、考え方は単純なのですが一般のNに対して式を書くと多少煩雑になる面があります。

N個のうち3個を並び替えるという場合にはN(N-1)(N-2)通りなどと上から順に3項の積を考えて済みますが、N個のうちM個を並び替える場合にはどう書くのかという話になります。

=N(N-1)(N-2)の場合を見てみると、N-3以降の項がないわけですから、N!を(N-3)!で割るとちょうどうまい具合に同じ数になります。

つまり、(N-M)!を考えて、それでN!を割ればうまく式でも表現できるわけです。これがを表す公式の意味です。

$$_N\mathrm{P}_M=\frac{N!}{(N-M)!}$$

尚、M=N-1を考えると、N-M=N-(N-1)=1ですから、それでN!を割ってもN!のままです。N-1という事になります。これは5人全員を並び替える時、最後の一人については空いている位置に入れるだけなので結局「5人中4人を選んで並び替える」場合と同じである事に対応しています。

順列の考え方は、具体的な人や物の並べ方を考える時だけでなく、種々の理論の中でN個の項を並び替える何らかの操作をする時にその総数を表すために使用されます。

例えば(高校数学の範囲外ですが)線型代数で行列式の定義をする時にはN個の項の積をとって並び替えたものを全て考えるという事をやるので、項数は順列の総数という事になります。(N!という形が出てくる式全てが順列に関係するとは限りません。例えば、単項式に対する微分操作を繰り返す事でN!が出てくるパターンもあります。)

また、順列の他に重要な「組み合わせ」の数え方も順列での考え方を基礎としています。方法の総数を数え上げる事は、確率の理論でも重要です。

行列式の項数を表すn!はn個の番号を並び替える順列の総数です。

逆関数の微分公式【計算例と証明】

逆関数の微分公式の内容、具体例、証明について述べます。

y = 2x のとき、両辺を2で割って x = y / 2 とも書けます。
このように、y = y(x) のとき、逆に x = x(y) と書けるとき、x(y) を y(x) の逆関数と呼びます。
【この時の関数の記号はfでもFでも何であっても問題ありません。】

高校数学の中で重要な例としては、指数関数と対数関数を挙げる事ができます。
これらは、互いに逆関数同士の関係にあるのです。

y=x2 のような場合に逆関数を考えると x=\(\pm \sqrt{y}\)のように x を y で表した関数が2つ出てきてしまうので、「1つの変数に対して1つの値が定まる」という関数の定義に反し、ちょっとした面倒事が起きます。
こういう場合には x の定義域と y の値域を特定の区間に定めれば逆関数を書けるという形になります。
逆関数の定義に関するそういった細かい事は多くあるのですが、ここでは本質ではないので略します。

高校数学で覚える必要はありませんが三角関数の逆関数を「逆三角関数」と言い、
sin x に対して arcsin x(「アークサイン x」)と書きます。
この逆三角関数は一見使いづらい関数なのですが、
その微分の性質から、一部の微積分の計算(例えばテイラー展開や不定積分の計算)で有用な働きをする事があります。この逆三角関数を微分する時には、逆関数の微分公式を使用します。

公式の内容

逆関数を考えた時、もとの関数を微分して得られる導関数と、逆関数を微分して得られる導関数の間にはある関係式が必ず成立するというのが、逆関数の微分公式です。内容は、次のようになります。

逆関数の微分公式

y=y(x)の時にx=x(y)と表せる時、次の関係式が成立します。 $$\frac{dy}{dx}={\large\frac{1}{\frac{dx}{dy}}}$$ ここで左辺はxの関数で、具体的な計算においては右辺はyの関数ですが、yはxで表せるという前提なので右辺もxだけの関数として表す事ができます。(※ただし後述するように具体的な計算ではyをxに直す作業が面倒である事があります。)
もちろん、分母は0になってはいけないという前提はあります。

ちょっと一見よく分からない公式だと思うかもしれませんが、xをyで表した時に「xをyで微分して得られる導関数」の逆数が、もとのyをxで微分して得られる導関数に必ず等しくなるという関係式です。

式としては単純で互いに逆数であるという関係ですから、dx/dy=・・の形として見ても公式は成立します。つまり基本的には公式を次のように書き換える事もできます。

$$\frac{dx}{dy}={\large\frac{1}{\frac{dy}{dx}}}$$

これは、具体例で見たほうが分かりやすいと思います。

逆関数
このような逆関数の導関数を考える時、もとの関数の導関数との間に常に成り立つ関係式があります。

具体例と計算例

具体的に公式を使うための手順は次のようになります。
もとの関数y=y(x)の導関数を計算したい場合であるとします。

  1. 関数と逆関数を、y=y(x), x=x(y) の形で出しておく。
  2. 逆関数のほうについて、導関数を計算する。【※これが簡単にできる場合でないと、公式を使う意味があまりない事になります。】$$\frac{dx}{dy}を計算$$
  3. 得られた逆関数の導関数(yの関数)を、逆関数の微分公式に代入します。$$\frac{dy}{dx}={\large \frac{1}{\frac{dx}{dy}}}\hspace{5pt}に\hspace{5pt}\frac{dx}{dy}\hspace{5pt}を入れる$$
  4. この段階で得られる計算結果は「y の関数」の形になっているので、y=y(x)を代入して x の関数にすれば、
    それが y に対して x で微分したdy/dxの正しい形になっています。 $$式の変数をxだけにすれば\hspace{5pt}\frac{dy}{dx}\hspace{5pt}の結果になる$$
微分公式
指数関数と対数関数の微分は逆関数の微分公式で結ぶ事ができます。

※合成関数でもこの「y を x の関数の形に戻す」作業がありますが、一般には y = f(x) を代入すればよいというものでした。しかし、逆関数の微分の場合は、この作業について少し工夫がいる場合があります。

具体的な計算例を次に記します。
ここでは参考までに、逆三角関数の微分の計算も記してあります【高校では不要】。

逆関数の微分の具体例

逆関数の微分公式は、通常の微分計算で多く使うというよりは、特定の微分公式を導出するために使われる事が多いように思います。

  • 1次関数の例:y=2, x=y/2 の時、 $$\frac{dx}{dy}=\frac{1}{2}\hspace{5pt}により、$$ $$\frac{dy}{dx}={\large\frac{1}{\frac{dx}{dy}}}={\large\frac{1}{\frac{1}{2}}}=2$$ この場合には直接微分しても、あるいはグラフを見ても分かる結果ではありますが、逆関数の微分公式も確かに成立しているという事です。
  • 2次関数の例:x>0かつ y=\(\sqrt{x}\), x=y2 の時、 $$\frac{dx}{dy}=2y\hspace{5pt}により、$$ $$\frac{dy}{dx}={\large\frac{1}{\frac{dx}{dy}}}= \frac{1}{2y} =\frac{1}{2\sqrt{x}}$$ ここでは平方根のほうの導関数を計算するために、2次関数を逆関数とみなしています。
    もちろん、この計算はyを直接xで微分しても同じ結果です。
  • 指数関数と対数関数の例:y=ex, x=ln y の時、 $$\frac{d}{dx}e^x={\large\frac{1}{\frac{d}{dy}\ln y}}={\large\frac{1}{\frac{1}{y}}}=y=e^x$$ 指数関数と対数関数の微分公式は一見全く異なる形であるようにも見えますが、じつはこうしたつながりもあるというわけです。
  • 逆三角関数と三角関数の例:y= arcsin x, x= sin y の時、$$\frac{d}{dx}\arcsin x={\large\frac{1}{\frac{d}{dy}\sin y}}=\frac{1}{\cos y}=\frac{1}{\sqrt{1-\sin^2y}}=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$ ここでは「逆三角関数の導関数」を知るために、通常の三角関数を逆関数とみなしています。
    計算過程では sin2x+cos2x=1 の関係を使用しています。
  • 余弦の逆三角関数の例:y=arccos x, x=cos y の時、$$\frac{d}{dx}\arccos x={\large\frac{1}{\frac{d}{dy}\cos y}}=\frac{1}{-\sin y}=\frac{-1}{\sqrt{1-\cos^2y}}=\frac{-1}{\sqrt{1-x^2}}$$
  • 正接の逆三角関数の例:y=arctan x, x=tan y の時、 $$\frac{d}{dy}\tan y==\frac{1}{\LARGE{\frac{1}{\cos^2y}}}\hspace{5pt}により、$$ $$\frac{d}{dx}\arctan x={\large\frac{1}{\frac{d}{dy}\tan y}}=\cos^2y=\frac{1}{1+\tan^2y}=\frac{1}{1+x^2}$$

高校数学では、指数関数と対数関数の関係あたりを逆関数の関係で結べる事を理解していれば、基本的にはじゅうぶんかと思います。

逆三角関数の微分
【逆関数の微分公式:arcsin x の導関数の導出の例:】arcsin xの微分を、「sin xの微分公式」と「逆関数の微分公式」から導出する手順です。x = sin y の時に「y を変数とする形」で逆関数の微分を出すのは、じつはかなり簡単です。(公式により y で微分し分母に入れるのみ。)
ただ、そのあとで y を x の関数の形にうまく戻すために、工夫が必要な事があるのです。
※逆三角関数の別の表記方法

あくまで表記方法の問題なのですが、逆三角関数を sin-1xとも書きます。
もちろんその場合は(sin x)-1=1/(sin x) とは全く異なる関数・・なのです。
個人的にこれは紛らわしい表記だとも思うので、このサイトでは arcsin x などの表記を使用します。

公式の証明

y=Y(x), x=X(y) として、まず Δx = X(y+k)-X(y) とすると
k → 0 の時に Δx → 0 となります。(その逆である「Δx→ 0 の時 k → 0 」も成立)

X(y+k)-X(y) について Δx という文字でおいたのは、ここでは X(y+k)-X(y) というものが「xの変化」に等しいという事を見やすくするためです。別に他の文字でも支障はありません。

これを上手に利用すると、同じ極限が2通りの方法で表せます。その2通りの方法による結果がdy/dxと1/(dx/dy)であり、それゆえに両者を等号で結べるというのが証明の内容です。
その点で、合成関数の微分公式のように1本の式だけで証明できない点が少しだけ異なります。

ここで、微分の定義の式を書きます。

$$\frac{dy}{dx}={\large\lim_{\Delta x \to 0}\frac{Y(x+\Delta x)-Y(x)}{\Delta x}}$$
これは定義通りの式です。しかし、極限をとる変数としてΔxを使っているところに計算上の工夫があります。ここの極限をとる変数は、h でなくとも何でも成立します。

上記の微分を表す微分を計算すると、次のようにも表せます。

$$ {\large\lim_{\Delta x \to 0}\frac{Y(x+\Delta x)-Y(x)}{\Delta x} } =\lim_{k \to 0}{\large\frac{Y(X(y)+X(y+k)-X(y))-Y(X(y))}{\Delta x}}$$
$$ ={\large\lim_{k \to 0}\frac{Y(X(y+k))-Y(X(y))} {\Delta x}} ={\large\lim_{k \to 0}{\large\frac{y+k-y}{\Delta x} }} ={\large\lim_{k \to 0}\frac{k}{\Delta x} }={\large\lim_{k \to 0}\frac{1}{\frac{\Delta x}{k}} }$$
$$ ={\large\lim_{k \to 0}\frac{1}{\frac{X(y+k)-X(y)}{k}} } ={\Large\frac{1} {\frac{dX(y)}{dy}}}={\Large\frac{1}{\frac{dx}{dy}} }$$

最初の変形では、分子のところだけΔxをもとの形Δx = X(y+k)-X(y)に直してしまい、
xをx=X(y)で書く事により、x+Δx=X(y+k)としています。

次に、関数を y 変数になるように整理し、Δx→0 の時 k→0 なので k の極限にしています。

そのあとで、少しややこしいのですが逆関数の重要な性質「Y(X(y))=Y(x)=y 」(X(y)=xに注意)を使って、X(Y(y+k)) = y + k としています。
その後の計算は、例えば2/3=1÷(3/2)=1/(3/2)などと、同じ計算です。

これらの結果から、
$$\lim_{\Delta x \to 0}{\large\frac{Y(x+\Delta x)-Y(x)}{\Delta x}}=\frac{dy}{dx}={\Large\frac{1}{\frac{dx}{dy}} }【証明終り】$$

逆関数の性質
X(y)=x に y=Y(x) を代入して X(Y(x))=x としても同じです。
サイト内関連記事【高校数学の微積分】

積の微分公式と商の微分公式

積の微分公式と、それの変形版である商の微分公式の内容、具体例、証明について述べます。
(英:product rule, quotient rule)
これは関数同士の「掛け算」「割り算」の形になっている関数を微分する時に成立する公式です。

積と商の形の関数は統一的に捉える事ができるので同時に記します。
詳しくは後述していますが、商の場合にはf(x)と1/g(x)の「積」と捉えればよいので基本的には同じ形の公式なのです。

公式の内容

y=xe といった関数同士の「積」の形になったものを微分する時には積の微分公式が使えます。
また、正弦関数を「x で割った」(sin x)/x などには商の微分公式が使えます。

関数f(x)とg(x)の積f(x)g(x)、商f(x)/g(x) を微分した時には次の公式が成立します。
ここで、f(x)とg(x)をf、gと記しています。

積と商の微分公式

$$積の微分公式:(fg)^{\prime}=f^{\prime}g+fg^{\prime} \hspace{20pt}商の積分公式\left(\frac{f}{g}\right)^{\prime}=\frac{f^{\prime}g-fg^{\prime}}{g^2}$$ これらは本質的には全く異なる公式ではなく、同種類のものであると捉えたほうがよいでしょう。

商の微分については、分母にあるのは「『微分してない g(x)』の2乗」です。

積の微分公式については、2つの項は足し算なので順番はどっちでもよいのですが、
「f’g +fg’」の順番にしたほうが、商の微分公式との関係で「覚えやすい」かとは思います。

計算の具体例

公式を使って計算する手順としては、f(x) と g(x) のそれぞれについて「x で微分した関数」と、「微分してない(もともとの)関数」をパーツとして用意し、公式に当てはめて丁寧に計算するというものになります。

まず、積の微分公式の具体的な計算の例をいくつか見てみます。

積の微分公式を使った計算例
  • y=sinx cosx 【2つの三角関数の積】の微分は次のようになります。$$\frac{d}{dx}\{(\sin x)(\cos x)\} =(\sin x)^{\prime}(\cos x)+(\sin x)(\cos x)^{\prime} =\cos^2x-\sin^2x$$
    加法定理を考えると、この結果はcos 2x に等しくなります。sin x cos x=(sin 2x)/2 として、xで微分した時の結果と一致します。(この時、合成関数の微分公式を使用しているので注意。)
  • y=sinx の微分を考えます。
    これに積の微分公式を適用する場合にはy=(sin x)・(sin x)と考えるわけです。$$\frac{d}{dx}\{(\sin x)(\sin x)\} =(\sin x)^{\prime}(\sin x)+(\sin x)(\sin x)^{\prime} =2\cos x\sin x$$
    これは sin 2x と表す事もできます。
    また、sin2x を合成関数の微分公式で微分した結果と一致します。
    さらに、加法定理・半角の公式でsinx=(1-cos2x)/2と変形してからxで微分しても同じ結果です。
  • y=xe【xと指数関数の積、eは自然対数の底】を微分すると次のようになります。 $$\frac{d}{dx}(xe^x)=(x)^{\prime}e^x+x(e^x)^{\prime}=e^x+xe^x=e^x(1+x)$$ 微分公式 (e)’ = e を使っています。
  • y=xlnx【xと、eを底とする対数関数の積】の微分を考えます。 $$\frac{d}{dx}x\ln x=(x)^{\prime}\ln x + x(\ln x)^{\prime}=1\cdot \ln x + x\cdot \frac{1}{x}= \ln x + 1$$ これを変形して両辺を積分すると、対数関数についての積分のほうの公式が得られます。$$\ln x = \left(\frac{d}{dx}x\ln x \right) – 1 なので、$$ $$\int \ln x dx=x\ln x -x+C が得られます。$$
  • 積分のほうの「部分積分」の公式は、積の微分公式を変形して
    $$f^{\prime}g=(fg)^{\prime}-fg^{\prime}$$の両辺を積分したものです。
  • f(x)・{g(x)}-1を、合成関数の微分公式も使って積の微分公式に適用すると商の微分公式が得られます。これについてはこのページで後述する証明の箇所でより詳しく説明します。

2番目の例のように微分の計算方法がいくつかあって、積の微分公式を使う事はその方法の1つであるというパターンもあります。計算結果が合っていればどの方法でも構いません。(入試を受験する場合にはなるべく効率のよい計算方法を考えたり、複数の方法で微分する事で計算結果のチェックをするようにしたほうがいいと思います。)

これらの中で、具体的な関数の微分計算も大事である場合もあるのですが、特に積分のほうの部分積分の公式を得るために使われるという事は覚えておくと便利かもしれません。

続いて、商の微分公式の具体的な計算例です。

商の微分公式を使った計算例
  • y=(sin x)/x を微分すると次のようになります。 $${\large\frac{d}{dx}\frac{\sin x}{x} =\frac{ (\sin x)^{\prime}x-(x)^{\prime}(\sin x) }{x^2} =\frac{x\cos x-\sin x}{x^2} }$$
  • y=(ln x)/x を微分すると次のようになります。 $${\large\frac{d}{dx}\frac{\ln x}{x} =\frac{(\ln x)^{\prime}x-(x)^{\prime}\ln x}{x^2} =\frac{x\frac{1}{x}-\ln x}{x^2}=\frac{1-\ln x}{x^2} }$$
  • 正接関数 tan x の微分公式は、じつは商の微分公式により導出されます。$$\tan x=\frac{\sin x}{\cos x}なので、$$ $$\frac{d}{dx}\tan x=\frac{(\sin x)^{\prime}(\cos x)-(\sin x)(\cos x)^{\prime}}{\cos^2x}=\frac{\cos^2x +\sin^2x}{\cos^2x}=\frac{1}{\cos^2x} $$sin x と cos x の微分公式を用いて丁寧に計算すれば証明できます。
    三角比の公式 sinx+cosx=1を使用しています。
  • 三角関数のマイナー組である余接 (cos x)/(sin x)、正割 1/(cos x)、余割 1/(sin x) 【高校ではこれらを覚える必要なし】の微分公式も、商の微分公式を用いれば証明できます。
    具体的な計算例として、余接関数を微分すると次のようになります。$$\frac{d}{dx}\cot x=\frac{d}{dx}\frac{\cos x}{\sin x}=\frac{(\cos x)^{\prime}\sin x-\cos x(\sin x)^{\prime}}{\sin^2x}=\frac{\sin^2 x+\cos^2 x}{\sin^2x}=\frac{1}{\sin^2x}$$
    正割のように 1/g(x) の形の場合、f(x) = 1 ですから、f'(x) = 0 であり、公式の項が1つ消えるので計算は簡単になります。
    一般的に、 1/g(x) の形の関数の微分は次のようになります。 $$\left(\frac{1}{g}\right)^{\prime}=\frac{0\cdot g-1\cdot g^{\prime}}{g^2}=\frac{g^{\prime}}{g^2}$$これは公式として新たに暗記する必要はありません。
    むしろ、商の微分公式でこのような式もすぐに導出できるようにしておくとよいでしょう。

これらの具体例を見てみると積と商の微分公式は、初等関数の微積分という範囲に限って見ると割と重要な公式である事が、何となくつかめるのではないかと思います。

公式の証明

証明の方法は合成関数の微分公式や逆関数の証明方法と大体考え方は似ています。積や商の微分公式の場合、証明は合成関数や逆関数と比較すると比較的容易です。

結論を言うと「隠れている『0』」を加えたりしてあげる事で証明できます。

積の微分公式の証明 ■ 商の微分公式の証明
片方の公式からもう片方の公式を導出するやり方

積の微分公式の証明

積の微分公式の場合、 f(x+h)g(x) - f(x+h)g(x) という「隠れている項」を考える事で、2つの導関数の和の形を作れます。 この考え方自体は、数学の他のところ(大学数学も含め)でも、割とよく使われます。

$$\frac{d}{dx}(f(x)g(x))={\large \lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)}{h}}$$
$$={\large\lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)g(x+h)-f(x+h)g(x)+f(x+h)g(x)-f(x)g(x)}{h} }$$
$$ ={\large\lim_{h \to 0}f(x+h)\frac{g(x+h)-g(x)}{h} }+\lim_{h \to 0}g(x){\large\frac{f(x+h)-f(x)g(x)}{h} }$$
$$ =f(x){\large\frac{dg}{dx} }+g(x){\large\frac{df}{dx}}=f(x)g^{\prime}(x)+f^{\prime}(x)g(x) =f^{\prime}g+fg^{\prime}【証明終り】$$


証明の最後のところは、f(x)をf と略して和の順番を変えて整理しただけになります。

「隠れている『0』」の項を分子の部分に加えてあげる事で証明できます。積の微分公式の場合、
f(x+h)g(x) - f(x+h)g(x) =0という項を加える事で「2つの導関数の和」の形を必ず作る事が可能です。

商の微分公式の証明

商の微分公式も同様の方法で証明できます。

まず分母のg(x+h)とg(x)を通分します。
その後で「-f(x)g(x)+f(x)g(x) (=0)」を分子に加えるという、積の微分公式同様の考え方をします。

$$\frac{d}{dx}\frac{f(x)}{g(x)}={\large\lim_{h \to 0}\left(\frac{f(x+h)}{g(x+h)}-\frac{f(x)}{g(x)}\right)\cdot\frac{1}{h}}$$

$$={\large\lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)g(x)-f(x)g(x+h)}{h\cdot g(x)g(x+h)} }$$

$$ ={\large\lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)g(x)-f(x)g(x)+f(x)g(x)-f(x)g(x+h)}{h\cdot g(x)g(x+h)} }$$
$$ ={\large\lim_{h \to 0}g(x)\frac{f(x+h)-f(x)}{h\cdot g(x)g(x+h)}}-{\large\lim_{h \to 0}f(x)\frac{g(x+h)-g(x)}{h\cdot g(x)g(x+h)} }$$


$$ ={\largeg(x)\frac{df}{dx}\frac{1}{(g(x))^2}-f(x)\frac{dg}{dx}\frac{1}{(g(x))^2}}$$

$$= {\large\left(\frac{df}{dx}g(x)-f(x)\frac{dg}{dx}\right)\frac{1}{(g(x))^2} = \frac{f^{\prime}g-fg^{\prime}}{g^2}}【証明終り】$$

計算の途中にある分母のところにあるg(x+h)は、h→0でg(x)になるので、これともう1つのg(x)と合わせて公式の分母の2乗を作るわけです。

片方の公式からもう片方の公式を導出するやり方

さて、このように積の微分公式と商の微分公式は、独立に証明できるわけです。

では、片方の公式からもう片方を導出できるでしょうか?

積の公式のほうに1/g(x)としてみると、これは(g(x))-1と考える事ができますから、合成関数のほうの微分公式を使えるのです。計算してみると次のようになります。

$$\frac{d}{dx}\frac{1}{g(x)}=\frac{d}{dx}(g(x))^{-1}=-\frac{dg}{dx}\cdot\frac{1}{(g(x))^2}$$

「g(x)の2乗」というものとマイナス符号が合成関数の微分のほうから出てくるわけで、これを積の微分公式に当てはめると商の微分公式になります。

商の微分公式の第1項はg(x)を「約分」する事もできるわけですが、こちらの証明方法の観点だともともとの1/g(x)の形に由来するというわけです。

他方、商の微分公式のほうが先に証明されているとしましょう。この時に、簡単に前述しましたが 1/g(x)の導関数が今度は合成関数の考え方を使わずに、商の微分公式から導出できるわけです。もちろん結果は同じです。

そのうえで、商の微分公式の中のg(x)を、1/g(x)に置き換えます。ちょっとややこしいですが、微分の部分も含めて丁寧に代入して整理すると積の微分公式になるのです。

商の微分公式が分かっている状況で積の微分公式を導出するにはこのようにします。

つまり積の微分公式と商の微分公式は、独立に証明もできるし、互いに片方の公式からもう片方を導出する事も可能であるわけです。

こういった、証明の方法が複数あるという事については別に知らなくても支障はないし、大学入試の受験という観点からも証明自体が出題される頻度はかなり低いと思いますが、いくつかの方法で試してみる事は計算の練習にはなると思います。

サイト内関連記事【高校数学の微積分】

合成関数の微分公式【計算例と証明】

合成関数の微分公式の内容、具体例、証明について記します。
(英:chain rule)

微分の定義と公式は別途に詳しくまとめています。

公式の内容

合成関数の微分公式は、f(x)=f(y(x))の形、つまり合成関数の形である時に次のように表されます。

合成関数の微分公式

$$\frac{df}{dx}=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}$$ 形としてはあたかも「dy」が分母分子で「約分される」かのような形となっている事が特徴です。これは覚えるコツでもありますが、数学的にも間接的に意味のある形(例えば証明の仕方との関連)になっています。

これはどういう事かというと、次のような手順を踏めば微分ができるという事です。

  1. f(x)=f(y(x)) で y=y(x)とおき、
    f(x)=f(y(x)) =f(y)のように、yが変数であるかのような形にする。
  2. f(y) をyが変数であるとみなしyで微分する。これがdf/dy
  3. y=y(x)を微分する。これがdy/dx
  4. df/dyとdy/dxを掛け算する。
    (この段階では見かけ上の変数としてxとyが混在しています。)
  5. y=y(x)を代入して式の変数をxだけにする。これがf(x)=f((y(x))をxによって微分して得る導関数に一致する。

合成関数とは、例えばf(x) = (2x+3)のような形の関数の事で、y(x)=2x+3のようにおいてf(y(x)) =(y(x))という構造になっています。

これを微分する時に、f(x) = (2x+3)であれば式を展開してから普通にxで微分する事もできますが、y(x)=2x+3のxによる微分と組み合わせて計算できる事もできるというのが合成関数の微分公式です。しかも、その組み合わせ方は「掛け算」するだけでよいというのがこの公式の意味です。

★y=y(x)と実際におくのは丁寧に計算する場合で、この置き換えが簡単な式である場合には頭の中で計算をしてしまう事もできます。
例えばf(x) = (2x+3)のような関数であれば、
yという文字を使わずに「(2x+3)という塊とその2乗」で考えるという事です。

下図のように f(x) = cos(ωx) 【例えば cos 2x】のように表される関数の他に、$$e^{2x},\hspace{10pt}\sin^2x(=(\sin x)^2)\hspace{10pt}\frac{1}{1-x},\hspace{10pt}\sqrt{1-x^2}\hspace{10pt}$$なども、みな合成関数の仲間達です。
これらを微分する時には、普通の微分公式をそのままでは適用できない場合があります。そのようなものについては「合成関数の微分公式」で微分をして導関数を計算します。

【合成関数の微分公式】この図では、cos(ωx) という形の「合成関数」を例にして考えています。余弦関数の cos の中に、ωxという別の関数が入っていて「合成」されているので、このような形の関数を合成関数と言います。見ての通り、微分をすると、cos が -sin になるだけでなく、ωというオマケがくっついてきます。この形の関数は、物理でもよく使いますので重要だと思います。物理では、「時間(秒)」を変数として、角速度ω[rad/s]を用いて cos(ωt), sin(ωt)といった関数を考えたりします。

具体的な計算例

この微分公式を使った計算は理論・応用ともに重要なのですが初見では計算の仕方が紛らわしく理解しにくい面もあるので、ここでは具体例についてかなり詳しく挙げておきます。

f(x) = (2x+3)の微分を合成関数の微分公式で計算する場合は次のようにします。

y(x)=2x+3とおき、yをxで微分して得る導関数dy/dx=2と、yを変数とみなしたf(y)=yをyで微分して得る導関数df/dy=2y=2(2x+3)を用意します。これらを掛け算します。

すると、df/dx=(df/dy)・(dy/dx)=2・2(2x+3)=8x+12です。

f(x) = (2x+3)=4x+12x+9のように式展開して直接xで微分すると、df/dx=8x+12となります。この結果は、合成関数の微分公式を使った場合の結果と確かに一致しています。

他の合成関数の場合の微分についても見てみましょう。特に重要度が高いのは(大学入試だけでなくその後についても)、三角関数(および三角比)や指数関数が合成関数の形になっている場合です。

三角関数の合成関数:f(x) = cos(2x)

cos(ωx) という形の関数の、さらにより具体的な関数として、
f(x) = cos(2x)という「2x」という形が余弦関数に入っている場合の微分計算を、例として手順を追って見てみましょう。
f(x) = cos(2x) = sin y の「x による微分」は、合成関数の微分公式を利用して計算できるのです。

  1. cos(2x)の 2x を y とおき、cos y を「y で」微分します。
    公式により、これは -sin y になります。
    $$\frac{d}{dy}\cos y=-\sin y$$
  2. 次に、y = 2x を x で微分します。
    これは、一次関数x の微分「1」に定数 2 をかければよいので 2 になります。
    $$\frac{d}{dy}(2x)=2$$
  3. df/dyとdy/dxの積をつくります。
    これは、本当に「掛け算するだけ」の計算です。
    $$\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=(-\sin y)\cdot 2 =-2\sin y$$
  4. ・・最後に、y に y = 2x を代入し、x だけの式にします。それがf(x)を x で微分して得られる導関数に等しいわけです。
    $$\frac{df}{dx}=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=-2\sin y=-2\sin (2x)$$

このタイプの微分は、イラストでも触れていますように、じつは物理でもよく使う微分計算です。
慣れてくると、cos(2x) のような形である時点で微積分する時には「2」を忘れてはいけないという事にすぐに気付くようになるでしょう。

次に、指数関数が合成関数になっている場合です。考え方は上記と同じになります。
ここでは特に自然対数の底の指数関数を扱います。理論上も応用上もその場合が特に重要です。

指数関数の合成関数:f(x) = e(2x)

f(x) = e(2x)は、指数関数の変数が「2x」などになった形の合成関数です。
このタイプも、微分方程式の解法などを含めて物理学で比較的よく使う微分計算だと思います。

2x = y とおきます。
元の関数をyで表すと、f(x)=e2x=ey(=f(y))です。

  1. y を x で微分します。$$\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}(2x)=2$$※少し慣れれば、このへんは暗算でやってしまうくらいになると思います。
  2. f(y)を y で微分します。$$\frac{df}{dy}=\frac{d}{dy}e^y=e^y$$これは、e の指数関数の微分公式そのままですね。
  3. 合成関数の微分公式を適用します。
    ここでは、y を x の形に直すところまで一緒にやってしまいます。 $$\frac{d}{dx}e^{2x}=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=2\cdot e^y=2e^{2x}$$

この計算方法を見ると、一般に次のように、 $$「定数 a に対して、\frac{d}{dx}e^{ax}=ae^{ax}」$$ という事が言える事も、分かるかと思います。
f(x) = e2x の 2x が、3x でもあっても ax であっても、計算方法は同じだからです。
もっとも、これを新しく公式として「暗記」する必要は、ありません。
必要なのはあくまで普通の指数関数の微分公式と、合成関数の微分公式なのです。

注意点としては、y=y(x)の置き換えをした時には、最後に y を x の形に直す必要がある(場合が多い)という事だと思いますが、忘れさえしなければ数学でも物理でも、難しい計算は少ないと思います。

前述の通り、簡単な合成関数であれば置き換えは頭の中だけでやってしまっても支障ありません。

三角関数の合成関数で、少し紛らわしいタイプのものを挙げておきます。

三角関数の合成関数:f(x) = sin2x

三角関数を「2乗した」sin2x などの場合です。
この場合は、 sin x = y と考えて、元の関数が \(f(y)=y^2\)であると考えるのです。
従いまして、微分の計算は次のようになります。

  1. まず合成関数の微分公式に必要な材料を計算します。
    $$\frac{df}{dy}=\frac{d}{dy}y^2=2y,\hspace{10pt}\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}\sin x=\frac{dy}{dx}\cos x $$
  2. 2つの材料を、掛け合わせてできあがりです。
    $$\frac{d}{dx}\sin^2x=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=2y\cos x=2\sin x \cos x = \sin 2x$$

(ここで sin 2x は、sin(2x) の事です。)
他方、sin 2x の微分は 2cos(2x) になります。(上の例のcos 2x と同様の手順です。)
sin2 x の微分とは、少々違った結果になる事が分かるかと思います。
一見、「似てるっぽい?」かもしれませんが、計算方法を間違えないようにしたい例のひとつであるわけです。
尚、最後の結果が「x の半角」の正弦の形になる事は、三角関数の半角の公式を導出する手順で使う式(加法定理由来)を使って$$\sin^2 x=\frac{1-\cos 2x}{2}である事から、$$ $$\frac{d}{dx}\frac{1-\cos 2x}{2}=\frac{2\sin 2x}{2}=\sin 2x$$となる事と調和しています。
また、この例の微分は積の形の微分公式で計算する事も可能で、同じ結果を得ます。

他に、うっかりすると合成関数である事を見落としがちなタイプのものを挙げます。

合成関数になっている反比例関数:f(x) = 1/(1-x)

$$続いて、f(x)=\frac{1}{1-x}という関数の微分を考えてみましょう。$$ これも、合成関数として微分する必要があるのです。
「これのどこが合成関数?」かと思われるかもしれませんが、分母の 1-x を y と考えて合成関数と見る必要があるのです。この y = 1 – x の微分においては、定数の「1」は微分すると0になって消えます。

  1. 再び、材料作りです。
    $$\frac{df}{dy}=\frac{d}{dy}\frac{1}{y}=\frac{d}{dy}y^{-1}=-y^{-2},\hspace{10pt}\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}(1-x)=-1 $$
  2. 合成関数なので掛け合わせます。
    $$\frac{d}{dx}\frac{1}{1-x}=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=(-1)(-y^{-2})=y^{-2}=\frac{1}{(1-x)^2}$$
この例の微分計算は単項式の微分公式さえ知っていれば難しくはありませんが、
「うっかり合成関数である事を見落とすと」符号を間違えてしまう例と言えます。
「マイナス1乗」の微分で1つマイナス符号がつきますが、この例では合成関数の部分に―xの項があるのでさらにもう1つマイナスがつき、結果はプラスになるわけです。
似たような関数でも、$$\frac{d}{dx}\frac{1}{1+x} の場合だと$$ $$\frac{d}{dx}(1+x)=1ですから、$$ $$\frac{d}{dx}\frac{1}{1+x}=-(1+x)^{-2}=-\frac{1}{(1+x)^2}$$となり、こちらはマイナスの符号がつくわけです。符号の違いは、xの増加に対して関数が増加するか減少するかに対応しています。

平方根がかかっている形の関数も、「1/2乗」という事ですから合成関数の形になります。

平方根を含む合成関数:\(f(x)=\sqrt{1-x^2}\)

例として、$$f(x)=\sqrt{1-x^2}$$という関数の場合は、1-x2 = y として微分計算をします。
この関数は、図形で言うと原点を中心とした半径1の円の「第1象限」の部分を関数として表したものです。

  1. 前の例と同じように材料をまず作りますが、今回再び丁寧に、2つに分けます。
    まず、かんたんなほうからです。
    $$\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}(1-x^2)=-2x$$
  2. 同じく材料として、「y の平方根」の形の関数の微分を計算します。
    これは単項式の微分公式で「a=1/2」の場合を使えばいいのですが、少し分かりにくいかもしれません。
    $$\frac{df}{dy}=\frac{d}{dy}\sqrt{y}=\frac{d}{dy}y^{\frac{1}{2}}=\frac{1}{2}y^{-\frac{1}{2}}=\frac{1}{2}\frac{1}{\sqrt{y}}$$
  3. 2つの材料がそろえば、あとは掛け合わせて、yを x の関数の形に戻すだけです。
    $$\frac{d}{dx}\sqrt{1-x^2}=\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}=(-2x)\frac{1}{2}y^{-\frac{1}{2}}=\frac{-x}{\sqrt{y}}=\frac{-x}{\sqrt{1-x^2}}$$

この例で用いている「平方根の微分」は慣れないと、とっつきにくい場合も多いかと思います。
ただ、このタイプの関数の微分は物理でもよく使いますので、知っておくと便利です。

物理や工学等の理論でこれらの関数の微積分を使用するには「これは合成関数の形だから・・」という説明は省略して結果だけ書く事が普通ですので、その意味でも計算の仕方に慣れておく事は大事かと思います。計算に慣れれば簡単な合成関数であれば「公式」としての形を特に暗記しようと努めなくても自然に計算できるようになります。

公式の証明

合成関数の微分公式の証明は次のようにします。

f(x) = f(y(x)) 、 y = y(x) である時、まず次のように考えます。

  • f(y(x))の導関数を、定義の極限を含む形で書きます。
  • fの中の変数部分y(x+h)について、y(x+h)=y(x+h)-y(x)+y(x)と変形します。


$$\frac{d}{dx}f(x)=\lim_{h \to 0}\frac{f(y(x+h))-f(y(x))}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{f(y(x+h)-y(x)+y(x))-f(y(x))}{h} $$

次に、y(x+h)-y(x)という項を「掛けて割る」操作をします。これは値としては「1」を掛ける操作なので自由に行ってよいのです。

$$ \frac{d}{dx}f(x)=\lim_{h \to 0}\frac{f(y(x+h)-y(x)+y(x))-f(y(x))}{h}\cdot \frac{y(x+h)-y(x)}{y(x+h)-y(x)}$$

$$=\lim_{h \to 0}\frac{f(y(x+h)-y(x)+y(x))-f(y(x))}{y(x+h)-y(x)}\cdot\frac{y(x+h)-y(x)}{h}$$

ここで、z=y(x+h)-y(x)とおきます。そのようにおかなくても証明できますが、見やすくするという意味です。zに置き換わる部分は3つあり、df/dxは次のような形になります。

$$\frac{d}{dx}f(x)=\lim_{h \to 0}\frac{f(z+y(x))-f(y(x))}{z}\cdot\frac{z}{h}$$

ここで、h→0のとき、limh→0z=limh→0(y(x+h)-y(x))=y(x)-y(x)
=0ですから、hとzの両方を0に近づけるという意味で 「limh,z→0 」と書く事ができます。このときに、

$$\lim_{h \to 0}\frac{z}{h}=\lim_{h \to 0}\frac{y(x+h)-y(x)}{h}=\frac{dy}{dx}$$

である事に注意し、y=y(x) を変数とみなしてyと書くと次のようになります。

$$\frac{d}{dx}f(x)=\lim_{h,z \to 0}\frac{f(z+y)-f(y)}{z}\cdot\frac{z}{h} =\frac{df}{dy}\frac{dy}{dx}【証明終り】$$

このように、1つの導関数を別の導関数の積で表せるという結果になるのです。

2項定理

2項定理(あるいは「2項展開」)とは、
(x+y)の形の式を展開した時にどのようになるかを表した式です。

指数の部分aは自然数である事も多いですが、一般の実数で同じ形に展開できます。(ただしaが自然数でない場合は有限の数の項で終わらず無限級数になる場合があります。)

指数が自然数の場合

まず、簡単なのはnを自然数として、(x+y)の形の式を展開した場合です。
ただし簡単とは言っても、任意の自然数nについてどのようなものになるかを知るには順列と組み合わせの知識が必要です。

n=2の場合、(x+y)=x+2xy+y であり、

n=3の場合、(x+y)=x+3xy+3xy+y です。

nが小さい場合は直接に計算もできますが、じつは公式として書けるというのが2項定理です。

2項定理(指数が自然数の時)

$$(x + y)^n=x^n+n\mathrm{C} _1x^{n-1}y+{}_n \mathrm{C} _2x^{n-2}y^2+{}_n \mathrm{C} _3x^{n-3}y^3+\cdots+{}_n \mathrm{C} _{n-1}xh^{n-1}+y^n$$ $$ =x^n +nx^{n-1}y+\frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}y^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{3!}x^{n-3}y^3+\cdots+nxy^{n-1}+y^n$$

順列組み合わせを学ぶと必ず出てくるものですが、びっくりマークが「!」ついている「3!」は「3の『階乗』」で、3!= 3・2・1 = 6 を表します。4 の階乗なら、4!=4・3・2・1 = 24。ここではあまり関係ないですが「ゼロの階乗」は0!= 1 と「定義」します。

このようになる理由自体は単純で、直接の式の展開を考えてみるのです。

x とy を何個選ぶかの「組み合わせ」を考えます。

2項定理と組み合わせ
3つの場所の中からxを1つ選ぶと、残り2つはyで決定するので係数は「組み合わせ」の数として決定します。

n=2やn=3の場合を考えてみると分かりやすいと思いますが、xyやxyの項の係数は結局どういう理由で決まるのかというと、式展開した時にそれらの項が「何個」あるかで決まっています。

n=3のときのxyの項については「3つの項の中からxを2個、yを1個選ぶ方法」の数に等しいのです。これは、組み合わせで表現できます。

少し分かりにくい場合は、3つの場所①②③を考えて、2つ選ぶという場合を考えてみてください。その2つの場所からxをぶという考え方でも組み合わせの総数になります。

3つの中から3個ともx、3個ともyを選べばxとyの場合であり、そのような組み合わせは1通りだけで実際それらの項の係数は1になります。

つまり、(x+y)のxn-mの項の係数がになるというのが2項定理の内容です。
組み合わせの性質により、n-mになります。3乗の展開式において係数が1、3,3、1の順で並ぶのはそのためです。

4乗の場合の展開式を計算してみると、=4、=6であるので、(x+y)=x+4xy+6x+4xy+y です。
これは、3乗の展開式に(x+y)をかけてみても同じ結果になります。

指数が実数の場合(一般2項定理)

上記の指数が自然数の場合の形の式と全く同じ形が、指数が実数一般の場合でも成立する事を特に指して一般2項定理(もしくは一般2項展開)と言います。

この場合はどうやって示すのかというと、結論を言うとマクローリン展開を使います。マクローリン展開とは微積分を利用した関数の無限級数展開の1つで、高校では教えない場合も多いので高校生であれば覚える必要はありません。(テイラー展開の特別な場合がマクローリン展開です。)

参考までに述べておくと一般2項定理の証明は次のようになります。

一般2項定理の証明

a が自然数でない時、\((1+x)^a\hspace{5pt}(|x|<1)\)に対して適用して、マクローリン展開を適用すると、 $$(1+x)^a=1+ax+\frac{a(a-1)}{2}x^2+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}x^3+\frac{a(a-1)(a-2)(a-3)}{4!}x^4+\cdots$$ r < s および s ≠ 0 の任意の実数 r と s の組に対して |x|<1 の範囲に x = r/s となる x が存在するので、 $$\left(1+\frac{r}{s}\right)^a=1+a\frac{r}{s}+\frac{a(a-1)}{2}\frac{r^2}{s^2}+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}\frac{r^3}{s^3}+\cdots$$ $$\left(1+\frac{r}{s}\right)^a=\left(\frac{s+r}{s}\right)^a=\frac{(s+r)^a}{s^a}に注意して、$$ 上式の両辺にs(これは有限の値)をかけます。 $$(s+r)^a=s^a+ars^{a-1}+\frac{a(a-1)}{2}r^2s^{a-2}+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}r^3s^{a-3}+\cdots$$ というわけで、a が自然数の場合とも合わせて、一般2項定理が成立する事を意味します。(証明終)
この証明でややこしくて面倒なのは、\((1+x)^a\)のマクローリン展開が可能な x の範囲が |x|<1 という形で限定されているため、最初からマクローリン展開で直接に一般2項定理を示そうとすると話がこじれるところでしょう。

冒頭でも少し触れましたが、このように形としては指数が自然数でもそうでなくても同じ関係式が成立しますが、指数が負の数などの場合では項が延々とずっと続き無限級数になります。(単なる式の展開が無限級数とか微積分との関連もあるというのは、少し意外に思う人もいるかもしれません。)

2項定理が成立するとすると、単項式の微分公式が (x)’ =nxa-1となる理由が分かりやすくなるという利点があります。(ただしaが実数の場合には、一般2項定理は微分公式の証明にはなりません。指数が実数の場合の単項式の微分公式の証明は、普通は対数関数の微分公式を利用します。)

必要・十分条件の考え方

必要条件、十分条件、必要十分条件の意味・覚え方・使い方などについて説明します。
必要条件と十分条件は対になっている考え方であり、ともに成立する場合には必要十分条件と言います。
(英:必要条件 necessary condition 十分条件 sufficient condition
 必要十分条件 necessary and sufficient condition)

ここでは高校数学で必要な知識を説明します。

★必要条件や十分条件そのものについて問う出題は高校数学特有のものですが、用語や考え方自体は大学数学でも使います。ただし、物理や工学などでは基本的には使用しません。

考え方と内容

「PならばQ」という関係(「論理式」)が成立する時、PはQの十分条件であると言います。
また、QはPの必要条件であると言います。
記号では矢印記号「⇒」を使って「ならば」の部分を表し、 P ⇒ Qと書きます。

例えば「『ある実数が偶数である』ならば『その実数は自然数である』」といった感じです。
一般の定理などはそのような形をとっています。例えば三平方の定理は「『ある三角形が直角三角形である』ならば『斜辺と残り2辺の長さをそれぞれc、a、bとしてc=a+bである』」という形です。
【※後述しますが三平方の定理に関してはこの逆も成立し、必要十分条件になります。】

この「PならばQ」とは、「Pが成立するなら、必ずQも成立している」という意味です。「必ず」というところがポイントで、例外は1つでもあってはいけないというのが数学での表現上のルールです。

「PならばQ」P ⇒ Q と「QならばP」Q ⇒ P が両方とも成立する時、PはQの必要十分条件であると言います。(この時、QのほうもPの必要十分条件であると言います。)記号は、両方向に向いた矢印の「⇔」を使い、P ⇔ Q と書きます。

十分条件、必要条件、必要十分条件

数学において「PならばQ」 P⇒Q の関係が成立する時、次の呼び方をします。

  1. PはQの「十分条件」
  2. QはPの「必要条件」
  3. P ⇒ Q かつ Q ⇒ Pのとき、
    PはQの「必要十分条件」(QはPの必要十分条件)

★「必要条件」のほうの名称の由来ですが、P ⇒ Q の関係が成立する時、「Qが偽であるならばPも偽である」という関係が成立するためと思われます。つまりPが真であるためには少なくともQは真でなければならず、Qが偽でPが真である場合はあり得ないという事です。(他方P ⇒ Q の時に、Qが真でもPが真である事は確定しません。Qが真でPが偽の場合はあるのです。そこが十分条件と異なります。)
この関係は、後述する図によるイメージで理解が進むかと思います。

論理式の説明

P ⇒ Q の関係が成立する時、「Qが成立するためには、Pが成立すれば十分である」といった表現をする事もあります。また、必要条件のほうに着目して「Pが成立するためには、Qが成立する事が必要である」と言う事もあります。

また文章の表現として、P ⇒ Q の関係について「QはPが成立するために『必要ではあるが十分ではない』」という表現がなされる場合もあります。これは、特に Q ⇒ P は成立しない事が判明している場合に使われる事が多いです。(後にも触れますが、P ⇒ Qが判明しているけれどQ ⇒ Pかどうかはまだ不明であるという場合もあり得ます。)

★このときのPやQは数学的に意味のあるものを考えます。
「今朝は晴れだった」とか「この理論は美しい」とかそういう文章の類は入れないわけです。

もう1つ例を挙げてみます。
Xが自然数の時、「Xが4の倍数である事」は「Xが偶数である事」の十分条件です。

これは、「Xが4の倍数」であれば必ず「Xは偶数」であるからです。
「Xが4の倍数である」 ⇒「Xは偶数である」 は、成立しています。

他方、Xが偶数であっても「必ず」4の倍数とは言えません。これは、例えば偶数であっても2や6といった数は4の倍数ではないからです。このように出てきてしまう「例外」の具体例の事を、数学の用語として反例と言います。

「Xが6の倍数である」事も「Xが偶数である」事の十分条件の1つです。
6の倍数6,12,18,24、・・・は例外なく、必ず偶数であるからです。
つまり「Xが6の倍数である」 ⇒「Xは偶数である」 も成立しています。

このように、十分条件というものは複数あり得ます。

必要条件についても同様で、1つではなく複数あり得ます。
例えばここでの例で「Xが偶数である」を「Xが2以上の自然数である」といったものに変えても同様に
「Xが4の倍数の自然数である」 ⇒「Xは2以上の自然数である」 
は成立するので、Xが自然数の時に「Xが2以上の自然数である」事も「Xが4の倍数である」事の必要条件になります。

【図での覚え方】論理式と集合との関係

これら十分条件と必要条件の上手な捉え方として、ある変数が集合の元(要素)である事に関する論理式を考え、さらに図に描くという方法があります。この方法は、論理式の構造の理解のために大変便利です。

例えば「『xが集合Bに属する(Bの元である)』ならば『そのxは集合Aに属する』」という事が正しいとしましょう。この時、集合Aと集合Bの包含関係は「AがBを含む(A⊃B)」という事になります。これは、この関係が成り立つという事は「xがBに属するのであれば『必ず』そのxはAに属してもいる」という意味であるからです。

これらの集合が例えば平面上の領域(点の集まり)であれば、これは図形に描けます。絵としては、穴などがない領域Aの中に完全に領域Bが含まれてしまっている場合です。この時に、領域Aに完全に含まれてしまっている領域Bが、「十分条件」のイメージです。

逆に、相手方である領域Bを含んでいる大きなほうの領域Aが、「必要条件」のイメージです。

★ここで、もしもx∊B ⇒ x∊A という情報だけがあって領域AとBの実際の様子は分からない場合には、論理式の逆の「x∊A⇒x∊B」が成立するかはその段階では「不明」という事になります。
ただし、その場合でも領域Aが領域Bを含んでいる事は確定しています。しかし、A⊃Bであると同時にB⊃Aでもある可能性、つまり領域AとBが完全に一致している場合も考えられるわけです。

図による説明
P ⇒ Q という事は、「Qがもし偽であればPも偽である」という事で、図で言うと領域Aに含まれていない点(つまり領域Aの外にある点)は領域Bにも含まれていないという意味になります。このような事も図で見ると理解しやすくなるかと思います。

領域ではなくて数直線上の区間で考えても同じで、
例えば実数xが閉区間 [0,1/2] に含まれるならば、xは閉区間 [-1,1]に含まれています。
記号で書くとx∊ [0,1/2] ⇒ x∊ [-1,1] という事であり、
x∊ [0,1/2] は x∊ [-1,1] であるための「十分条件」であり、
x∊ [-1,1]はx∊ [0,1/2]であるための「必要条件」です。
閉区間同士の包含関係については、[-1,1] が [0,1/2] を含んでおり [-1,1] ⊃ [0,1/2] です。

証明問題・計算での使い方

三平方の定理を証明する時は、まずは前提となる「直角三角形である」という条件が正しいとして、その時に必ず3辺の関係がc=a+bとなる事を示すわけです。

すると、その証明によって
『三角形が直角三角形である』⇒『斜辺と残り2辺の長さをc、a、bとしてc=a+bである』
という論理式が真であるという事になるわけです。

しかし逆に、
『三角形の辺の関係式c=a+bが成立する』⇒『三角形が直角三角形である』
という事が正しいかはこの時点では分かりません。
この段階ではこの逆の形の論理式が「真か偽かも分からない」という事です。

★P ⇒ Q が成立している時に矢印の先のほうのQを必要条件と呼ぶわけですが、この時に Q ⇒ P が成立するかどうかが判明しているとは限りません。
一般には特別な条件が明示されていない限りは、P ⇒ Qの成立からQ ⇒ Pの真偽を直ちに判定する事はできないので、その真偽を明確にするために「証明」という作業を行います。

従って、それが真か偽かもまた証明によって調べる必要があります。
今度は辺の長さの関係を前提として(正しいものとして)証明を行うわけです。

結論を言うと三平方の定理の「逆」である
『三角形の辺の関係式c=a+bが成立する』⇒『三角形が直角三角形である』
も、確かに成立します。証明できるという事です。
という事はP ⇒ Q の形に対してQ ⇒ Pの形も成立しているので、三平方の定理は「必要十分条件」である P ⇔ Q の形となるわけです。

このように「必要十分条件である事を証明せよ」という問題の場合(入試問題以外でも)、
まず P ⇒ Q を証明し、次に Q ⇒ P も証明して P ⇔ Q であると結論付けるのが一般的手法です。

このような形で三平方の定理の逆も成立する事を証明できます。

通常の実数や文字式等の計算での式の変形も、じつは細かく言うと「必要十分条件」の関係です。

x-y=0の時、x=yであるわけですが、
細かい事を言うとx-y=0⇒x=yかつx=y⇒x-y=0であり、
x-y=0⇔x=yというわけです。
そのため、式変形をする時に必要十分条件の記号⇔を使う事があります。

注意が必要な例として、平方根と2乗の関係があります。次の関係を見ましょう。xは実数とします。

$$x=\sqrt{2}\Rightarrow x^2=2$$

この論理式は成立します、しかし注意が必要なのは、この場合には「必要十分条件」で結ぶ事はできないという事です。それをやってしまうと、論理式は「偽」になってしまいます。理由は簡単で、2乗して2になる数(実数)は、\(\sqrt{2}\)は確かに当てはまるのですが、もう1つ負の数のほうの\(-\sqrt{2}\)があるためです。

$$特に条件が無い場合、x^2=2\Rightarrow x=\pm\sqrt{2}$$

この関係の逆は成立します。そのため、必要十分条件で結ぶのであれば次のようにする必要があります。

$$x^2=2\Leftrightarrow x=\pm\sqrt{2}$$

これを確実に見るには、x=2 ⇔ (x+\(\sqrt{2}\))(x-\(\sqrt{2}\))=0という因数分解された形にするとよいでしょう。【この「因数分解の形にする」という式変形は、必要十分条件で結ばれます。】

少し話が込み入りますが、もしも「xは正の数」という条件があるのであれば、上記の右方向だけの \(x=\sqrt{2}\Rightarrow x^2=2\) は必要十分条件で結んでも間違いではありません。これは「x>0かつ\(x^2=2\)」という具合に、条件自体が変わるためです。

このように、一般の実数等での式変形であれば必ず必要十分条件になるわけではなく、時々片側にのみ
「ならば」記号の矢印⇒が成立する場合もあります。その点だけは少しだけ注意が必要になります。