スカラー場に対する線積分【定義と積分の仕方】

線積分という言葉は、ベクトル場に対する接線線積分と、スカラー場に対する線積分の両方に対して使われます。ここでは、スカラー場に対する線積分についての定義と積分の考え方について説明します。

接線線積分と同様に、スカラー場に対する線積分も電磁気学等での理論計算に使われます。

接線線積分の内積計算を行う過程で、
座標変数であるx、y、zを積分変数とする線積分を考える事もあります。

基本的な考え方

スカラー場 f(x, y, z) に対する「線積分」の基本的な考え方は、次のようになります。

基本的な考え方:スカラー場に対する「線積分」
  • 積分の対象となる関数がスカラー場(座標成分を変数とするスカラー関数)
  • 積分範囲が平面上または空間内の曲線上の経路

積分経路の表記は、ベクトル場に対する接線線積分と同じで、曲線上の2点PとQを決めてPQと書いたり、経路をCなどの名称で表したりします。(その書き方は、積分変数が座標変数が弧長の場合でも座標変数の場合でも、どちらでも同じです。) $$積分変数が弧長の場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$ $$積分変数がxの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$ $$積分変数がyの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dy$$ $$積分変数がzの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dz$$

積分変数となる変数は弧長(曲線の長さ)であるとする場合と、
x,y,zの座標成分である場合があります。
どちらの場合でも線積分という語が使われる事が一般的です。
ただし、後述しますように両者で積分方向と積分の符号に関する規定に相違点があります。

積分対象の関数がスカラー場の場合には、
積分変数が弧長の場合と、座標変数x,y,zの場合の両方に対して「線積分」が定義できます。

積分変数が弧長の場合

積分変数が弧長である場合には、積分経路が曲線上の点Pから点Qまでの経路である時に、点Pにおいて弧長が0、点Qにおいてある長さLであるとして積分を行います。

弧長とは「曲線の長さ」の事です。基本的に、折れ線で近似した時の極限値を指しています。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x,y,z)dl$$

ただし、右辺のように表して具体的に原始関数を探して計算するといった場合には、後述するようにスカラー場は \(l\) の関数の形になっている必要があります。

弧長を表す文字としては、sやtが使われる事もあります。

弧長(曲線の長さ)を積分変数として線積分を考える事ができます。
折れ線で近似をして合計し、極限を考えて積分するという考え方です。

この時に弧長は点Pから測って決めているので、
同じスカラー場に対して点Pからではなくて
「点Qから線積分を行う場合」には、積分全体の符号が変わります。
積分の向きと積分全体の符号の関係の考え方は、接線線積分の場合と同様になっています。

$$\int_{QP}f(x,y,z)dl=\int_L^0A(x,y,z)dl=-\int_0^Lf(x,y,z)dl=-\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$

このように書けるわけですが、
線積分を具体的な定積分として計算する場合にはx、y、zが弧長を変数とした関数で表されている事が必要な場合が多いです。
すなわち、指定された曲線上の経路では特定の点からの弧長によって点が一意に確定するわけですから、具体的に容易に書けるかは別問題として、理論上は座標変数を弧長の1変数関数として表せるはずであるという事です。

$$x=x(l), \hspace{5pt}y=y(l),\hspace{5pt}z=z(l)\hspace{5pt}であれば$$

$$f(x,y,z)=f(x(l),y(l),z(l))となり、$$

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x(l),y(l),z(l))dlとして計算可能になる場合もあります。$$

積分変数が座標変数の場合

積分変数が座標変数x、y、zの場合でも、曲線を経路とする積分を指して「線積分」と呼びます。
この場合には、弧長を変数とする場合やベクトル場に対する接線線積分とは少し考え方が変わります。

まず、積分変数がxの場合を考えてみます。yやzに対しても考え方は同じです。

積分の元々の和としての定義を考えてみると、積分変数をxとするという事は「対象となる関数の値と分割された区間の長さΔxとの積」を合計して極限値をとるはずであり、実際その場合の線積分もそのように定義されるのです。

つまり、曲線上の各点において「曲線の分割された(微小な)経路分のx軸への射影」を考えてスカラー場との積を合計して積分するといった形になります。

$$積分変数がxの場合の線積分の表記:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$

ただし、具体的にxに関する原始関数を探して定積分したい場合には、yとzがxだけの関数で表されている必要があります。

$$具体的な計算をするには、y=y(x),\hspace{5pt}z=z(x)\hspace{5pt}として表されて、$$

$$\int_{PQ}f(x,y(x),z(x))dxの形にする必要があります。$$

◆特定の曲線上の点という条件がある事によって、このようなxだけで表されるy=y(x),z=z(x)のような関数は必ず、存在はします。ただし、そのような関数が簡単な形で書けるかどうかは別の問題になります。特定の曲線上の点を考えるという条件のもとで、x、y、zは独立な変数ではなく、互いに従属の関係にあります。

この時に、曲線の形状によっては単純に1つの積分区間でのxによる定積分としては書けない場合があり、積分をいくつかに分割する必要がある場合があります。

例えば円等の閉曲線では、ある所まではxが増加するように曲線が進んでいき、あるところで逆にxが減少する方向に曲がる事になります。xが減少する方向に積分していく場合には積分の符号も逆向きになりますが、それは通常の1変数の定積分の考え方で符号を考えればよい事になります。

その場合には例えばPQの間にいくつかの適切な点、
例えばAやBを決めて次のように積分を分割します。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PA}f(x,y,z)dx+\int_{AB}f(x,y,z)dx+\int_{BQ}f(x,y,z)dx$$

この時に、例えばP→Aまではxが増加する方向で、A→Bはxが減少する方向、B→Qで再びxが増加する方向であるなら、yとzがxの関数として表されている前提で、各点のx座標を使って線積分は次のようにも書けます。

積分変数をx、y、z等の座標変数とする場合で具体的な定積分をしようとする時には、
積分する向きと符号に気を付ける必要がある場合もあります。

具体例としてPのx座標が0、Aのx座標が3、Bのx座標が1、Qのx座標が5である場合で線積分を書いてみます。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_0^3f(x,y,z)dx+\int_3^1f(x,y,z)dx+\int_1^5f(x,y,z)dx$$

この例の右辺の2項目の定積分は、通常のxが増える方向へのx=1からx=3までの定積分とは符号が逆向きになっているわけです。

$$\int_3^1f(x)dx=-\int_1^3f(x)dx\hspace{5pt}です。$$

これらの符号の扱いについては、分割された区間の(微小な)長さΔxについて、プラスとマイナスの符号を持っていると解釈して定義しておく方法も存在します。

弧長と座標成分の、余弦を使った積分変数の変換

曲線上で積分する方向(弧長が0から何かの値Lまで伸びる方向)を決めたうえで、
「曲線上の各点の接線ベクトルと座標軸のなす角\(\theta\)」の余弦を考えると、
弧長と座標変数との関係を余弦で結ぶ事ができます。

$$角度を\theta として、例えばdx=ds\cos\theta$$

考えているこの角度\(\theta\)は一般的に当然一定値ではなくて曲線上の位置によって異なりますから、
それを明確にするなら例えば \(\theta (l)\) のように書くことになります。

このような考え方は、
積分変数を「座標成分から弧長に変換する」ような場合に使う事になります。

$$例えば、\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PQ}f(x,y,z)\cos(\theta (l))ds$$

この時に、xで線積分するのであれば、曲線の形状によっては
通常のxが増加する向きでの積分に対して符号を入れ替える必要も出てくるわけですが、
弧長を積分変数とする場合には、
点P→点Qに向かう経路である限り一貫して弧長が増加していく方向で積分が行われます。
そこで、上記の余弦を乗じる事によって符号も一致するように調整されるという事になるわけです。

x、y、zを積分変数とするスカラー場に対する線積分は、ベクトル場に対する接線線積分のように内積を計算する事はありませんが、弧長を変数とする場合のスカラー場の線積分からの変換と考える場合には分割した積分の符号の扱いに関しては内積の符号の扱いと同じ考え方をしています。

接線ベクトルと軸のなす角を使った余弦 cos Θによって、
積分変数としての弧長と座標変数の関係を考える事もできます。
この時の余弦の取り方は、内積の計算に似ています。
この考え方のもとでスカラー場に対する2つの線積分の定義の、積分の符号の考え方の整合性が取れます。

ベクトル場に対する接線線積分の定義

接線線積分は曲線を積分経路とする積分で、
ベクトル場(座標成分を変数とするベクトル関数)に対して定義されます。

☆接線線積分の事を、ベクトル場に対する「線積分」と呼ぶ事もあります。 これに対して、スカラー場(座標変数を変数とするスカラー関数)に対する「線積分」の定義も別途に存在します。
その場合には積分の仕方および積分の方向に対する定義の仕方が、ベクトルに対する接線線積分とは少し異なります。

「ベクトル場に対する接線線積分」と「スカラー場に対する線積分」のいずれも、積分経路を平面または空間内の曲線とする定積分という事は共通します。また、後述しますように、両者は座標成分による内積計算によって関連し合っています。

☆サイト内リンク:参考・より初歩的な内容

接線線積分の英名は、 curvilinear integral と表記される事が多いです。
(「線積分」は line integral 。ただし英名表記でもこの語が接線線積分を指す事もあります。)

ベクトル場に対する接線線積分は、曲線が開曲線である場合と、閉曲線である場合とで、基本的な考え方は同じですが表記方法や積分方向に関する定義が微妙に異なります。

開曲線(open curve)と閉曲線(closed curve)とで、接線線積分の積分の方向に関して定義が微妙に変わります。基本的・本質的な考え方自体は両者で同じです。

開曲線に対する接線線積分
【定義・考え方・表記方法】

まず、積分経路が閉じていない曲線(開曲線)の場合を考えます。
開曲線とは、図形的には単純に両端がどこにも結び付けられていない曲線の事で、例えば2次関数のグラフのような曲線です。(曲線と言いますが直線も含みます。)

そこで、ベクトル場を\(\overrightarrow{F}\)として、
ある曲線の点Pから点Qまでの接線線積分を考えるとします。
また、各点での接線ベクトル\(d\overrightarrow{l}\)を考えます。
接線ベクトルの大きさは、曲線上の微小な弧状の区間の長さであるとします。
(※各点での接線ベクトル自体は互いに逆向きの2方向がありますが、
PからQに向かう方向を考えます。)

経路における孤状の各区間についてベクトル場と接線ベクトルとの内積を考え、その総和を考えます。経路の分割を増やしていった時の極限値が接線線積分です。

接線線積分の定義と表記法

曲線上の各点でのベクトル場と接線ベクトルの内積とその合計を考え、
経路の分割を増やした極限値を曲線に沿った点PからQまでの
ベクトル場\(\overrightarrow{F}\)の接線線積分と呼びます。 $$曲線上のPからQまでの接線線積分$$ $$\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

あるいは、PやQは点(位置としてのベクトルと考えても同じ)という事をことわったうえで、通常の積分のように積分記号の上下に積分範囲の端点を分けて記す場合もあります。
また、曲線の範囲を指定して名前をつけて(例えばL)、
それを積分経路の範囲として記す事もあります。 $$P,Qを点として\int_P^Q\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書く場合もあります。$$ $$端点をベクトルとした場合:\int_{\overrightarrow{P}}^\overrightarrow{Q}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$ $$L を曲線上の特定の部分として\int_L\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書く場合もあります。$$

接線ベクトルに使う文字自体は何でもよく、
l(エル)ではなくr,s,t等を使う事もあります。

また、接線単位ベクトル(大きさが1の接線ベクトル。\(\overrightarrow{l}\)とします。)と
微小な弧長(\(ds\)とします)を分けて、次のように書く事もあります。 $$接線線積分の別表記:\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{l}ds$$

ここで、各微小区間の弧において考えている内積は通常のベクトルに対して考えるものと同じであり、それぞれのベクトルの大きさと、なす角の余弦との積を考えます。

曲線上に沿ったベクトル場の接線線積分は、微小区間での内積を考えて合計した定積分です。

尚、曲線上の各点を結んだ折れ線が、点の数を無限に増やした時に極限値を持つ事は三角不等式を使って確かめる事ができます。基本的には円周率の値を極限値として図形的に計算するやり方と考え方は同じです。

通常はそのままの形では接線線積分の具体的な値は計算できない事が多いので、余弦の値が確定するようなモデルを考えるか、積分を変形して計算できる形にして考える場合があります。

開曲線に対する接線線積分の基本となる考え方をまとめると次のようになります。

  • 積分経路となる曲線の端点を決める(例えば点Pと点Q)
  • 積分の方向を決める(例えばP→Q,あるいはQ→P)
  • 曲線上の接線ベクトルは、積分の方向を向くと約束する
    【曲線上のある点での接線は、
    ある1つの方向とその逆向きの2方向があり得る → 片方に定める。】
  • 曲線を、微小な区間で構成される折れ線であると考える
  • 各区間で、ベクトル場と「微小区間の長さを大きさとする接線ベクトル」との内積を考え、積分経路全体での合計を接線線積分と定義

後述しますように、接線線積分の内積の部分を座標成分によって計算して、全体としてはスカラー関数の線積分として計算を進める方法もあります。

閉曲線に対する接線線積分

曲線が閉曲線(例えば円や楕円など)の場合にも、基本的な積分の方法は開曲線の場合と同じです。
ただし、積分方向に関する約束が開曲線の場合と異なるのです。

接線線積分の積分経路が閉曲線全体の場合、積分の「方向」が問題になります。

問題となるのは閉曲線に対して1周回転する形で接線線積分を行う場合であり、2通り存在する向きを1通りに確定させるための定義の仕方が存在します。

閉曲線全体が積分区間の場合には、ある点Pから積分を始めて同じ点Pに戻ってくる時に向きが2通りあり得ます。そのため閉曲線上の接線線積分を考える時には、積分の方向を約束して1通りに確定させておく必要があるわけです。

☆なお、閉曲線上であっても積分区間が閉曲線全体ではなく部分的な弧である場合には積分区間を開曲線とみなせばよいので、向きに関する約束は必要なく2点PとQに対してP→QなのかQ→Pなのかを決めておけば良い事になります。

周回積分と組み合わせた表記法

積分区間となる曲線が閉曲線(長方形や多角形も含みます)の全経路である場合、周回積分の記号と組み合わせて次のように接線線積分を書く表記法があります。

閉曲線に対する接線線積分の表記

閉曲線をCとして、1周まわる形でC全体を経路として接線線積分を行う場合は、
次の表記をする事があります。 $$\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}あるいは\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{l}ds$$

閉曲線上を積分する向きは、次のように約束します。

  • 平面上の場合:接線線積分の向きは、反時計回りと約束。
  • 空間内の場合:接線線積分の向きは、
    「閉曲線で構成される面の法線ベクトルのプラス方向側(どちらがその方向か決めておく)から閉曲線を見た時に、『閉曲線の内側が左に来る向き』」と約束。

閉曲線を表す記号としてCを使う事が多いですが、これは英名 closed curve 等の頭文字を意味する事が多いと思われます。

周回積分である事を表す記号は省略される事もありますが、その場合でも閉曲線全体の接線線積分を考えているのであれば、積分の方向に関する約束は同様に適用されます。

接線積分の方向の約束①:平面上の閉曲線の場合

平面上だけで周回積分として接線線積分を考える時には、
積分する向きは反時計回りとして約束します。
この場合の「平面上」とは、
例えば、数学上のxy平面を考えて、そこでの閉曲線を考える場合などです。

$$周回積分の記号を省略して\int_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書いても向きに関する約束は同じ$$

平面上で閉曲線全体を積分する場合には、積分の向きは反時計回りとして約束し、ベクトル場と接線ベクトルとの内積を考えます。

平面上で閉曲線を考える場合のこの考え方は、図形が描かれている画面を見ている構図で考えると、空間内の場合での約束の仕方を理解する時に便利です。

接線積分の方向の約束②:空間内の閉曲線の場合

空間内での閉曲線を考える場合、閉曲線で構成される面の表側から見るか裏側から見るかによって、時計回りか反時計回りなのかが逆になってしまいます。

そのため、その場合にはまず、閉曲線で構成される面の「表側」(法線面積分において法線ベクトルがプラスになる側の面)を決めておきます。

そして、
「曲面の表側から曲面を見て、曲線上をたどった時に『閉曲線の内側が左側になる』向き」
を、接線線積分の積分方向であると約束します。

その方向を閉曲線Cの「正方向」とも言います。

この考え方のもとで、平面だけで考える場合の閉曲線上の積分方向は、
「図が描かれた画面を面の表側であると考えた場合」であると言う事もできます。

接線線積分の積分方向を考えるうえでの曲面は、閉曲面を考えずに開いた形の曲面を必ず考えます。

「右ねじ」の考え方

上記の、閉曲線に対する接線線積分の積分方向の約束は、より直感的な理解の方法もあります。

それは工具の「ねじまわし(ドライバー)」を使った考え方です。

まず、曲面の表面から出るベクトル(例えば法線ベクトル)の矢印の先を「一般的なねじまわしの先端」と考えます。そして、「『ねじを締める方向』が接線線積分の積分する向き」であると捉えると、これは前述の定義の仕方と一致するのです。

ねじ回しを上に向けて締める場合に上から見ると反時計回りで、
逆にねじ回しを下に向けて締める場合に上から見ると時計回りであり、
空間内の任意の閉曲線に対してこの考え方は適用できます。
これは一種の例えによる表現ですが、物理学で多く使われます。「右ねじの方向」「右ねじをまわす方向」など、いくつか呼び方があります。

一般的なネジは、ネジまわしを時計回りに回す事で締まるように作られています。
その事を、回転の向きを表すものとして比ゆ的ですが数学や物理学でも使用する場合があります。

接線線積分の座標成分による内積計算
【スカラー場に対する線積分との関係】

さて、接線線積分の表記の中における内積で表されている部分については座標成分によって表す事もできます。これは、法線面積分における考え方と似ています。
この時に、ベクトル場の個々の座標成分はスカラー関数ですから、そのように表記した時には接線線積分は、「x,y,zを変数とするスカラー関数に対する線積分」に変化します。

まず、接線ベクトルを座標成分で次のように書きます。

$$d\overrightarrow{l}=(dx,dy,dz)$$

そこで、ベクトル場に対する内積の計算をすると次のようになります。

$$\large{A_1=A_1(x,y,z),\hspace{5pt}A_2=A_2(x,y,z),\hspace{5pt}A_3=A_3(x,y,z)\hspace{5pt}}のもとで$$

$$\overrightarrow{A}=\large{(A_1,A_2,A_3)}\hspace{5pt}である時、$$

$$\large{\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{dl}=A_1dx+A_2dy+A_3dz}$$

さてしかし、じつはこのように表記した時には積分をする時に、
どういった積分変数で積分を行うのかといった問題が起こる事があります。
この段階ではベクトル場の成分はx,y,zに関する多変数関数であるという前提があります。
そのため、それらをそのままの形で、例えばx単独で積分してしまうと問題が発生するのです。

また、この内積の計算は、曲線上の各点における接線ベクトルごとに行っています。
従って、積分変数を単独のx,y,zとしようとする時に、もともとの積分経路が閉曲線である場合や、開曲線であっても例えば曲がりくねって1つのx座標に対して対応するy座標が2つ以上ある場合には、全体の積分経路を個々の積分変数ごとに1つの積分区間で表せないという問題もあります。

この段階では、ベクトル場のx成分、y成分、z成分はそれぞれ、
x,y,zに関する多変数のスカラー関数として考えています。
従って、これらをx,y,zで積分しようとする時には注意が必要になります。

そこで、次のように考えます。
曲線という積分経路が指定されている場合には適切に経路を区切る事によって、その区切られた経路の範囲においては1つの変数の値を定めると1つの曲線上の点が定まる事を利用します。
その区切られた経路ごとにA,A2,Aのそれぞれを、
xのみ、yのみ、zのみの関数として表します。

$$適切に区切った経路ごとに次の形で表現:\large{A_1=A_x(x),\hspace{5pt}A_2=A_y(y),\hspace{5pt}A_3=A_z(z)\hspace{5pt}}$$

※特に空間においての場合は、曲線上の特定の経路間という条件のもとで、スカラー場の関数を1変数のみで表す事ができます。

これによって、経路の区切り方に注意したうえで接線線積分をx,y,zそれぞれの1変数関数の積分の合計として表す事が可能になります。もちろん、具体的な値を1変数の定積分の合計値として計算するには、具体的な関数の形が明らかである事が必要です。

例として、平面上で接線線積分の積分経路が原点を中心とした半径1の円である場合に、内積を計算してから積分する事を考えてみましょう。

この例では、積分経路を区切って分割したうえで、2つの経路のそれぞれについて、
ベクトル場のx成分を「xのみの変数で表した関数」として考えて積分を行っています。
この場合、y成分について同様の事を考える場合には、別の区切り方が必要になります。

この時に、x方向の通常の定積分をしようとすると [-1,1] という1つの積分区間だけでは、元々の全体の積分経路である円周の半分についてしか内積のx成分についての項の合計を表せません。
そこで、xに関する定積分を2つに分けます。
まず点(1,0)から始めて(※)、
「x=1からx=-1に向かう」積分区間について、xを積分変数とする定積分をします。
この区間は、ここで考えている円の上半分に該当します。

※どこの点から積分を行っても、最終的に積分経路の全体に渡って積分を行っているなら同じ結果を得ます。

$$式で書くと\large{\int_1^{-1}A_xdx}を計算します。$$

そして次に、今度は(-1,0)から始めて(1,0)に戻る積分区間 [-1,1] の積分をします。この区間は、ここで考えている円の下半分に該当します。
同じ経路をたどって戻るのではなく、別の経路をたどって戻っています。

$$式で書くと\large{\int_{-1}^1A^{\prime}_xdx}を計算します。$$

ここで、元々の接線線積分の積分対象となっているベクトル場は円の上半分と下半分の経路上で一般的には異なるベクトルになっていますから、
その座標成分も一般的に異なるスカラー関数で構成されているわけです。
そのために、上記の積分の中ではAx とA’ xという形で、異なるスカラー関数である事を強調して書いています。(ここでは後者は微分という意味ではありません。)
xに関して「1→+1」の積分区間と「-1→+1」の積分区間の積分は、xに関して陽に表される関数(y=f(x)の形で表される関数。陽関数とも言います)としては異なるものに対する積分です。

ここでの例では具体的には、
\(\large{A_x}=\sqrt{1-x^2}\)
\(\large{A^{\prime}_x}=-\sqrt{1-x^2}\) として表せます。

y成分についても同じように考えます。

このように、接線線積分を内積計算によって「スカラー場に対する線積分」の計算にする時には、場合によっては積分する範囲等について注意が必要となります。ただしその事は、スカラー場に対する線積分の定義に組み込まれているものになります。

積分する範囲ごとの関数の形の混同を避けるために、スカラー場に対する線積分においても、接線線積分における積分経路をPQのように端点で表す表記方法もあります。

例えば上記の例の円において、(1,0)を点Aとして、(-1,0)を点Bとしたときに、ベクトル場の成分であるスカラー関数は共通のAおよびAyで表して、線積分を次のように書く事もできます。

$$\large{\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_{AB}A_xdx+\int_{BA}A_xdx+\int_{AB}A_ydy+\int_{BA}A_ydy}$$

この場合には、平面上の閉曲線(ここでは円)を反時計回りに回る約束で積分をする時に
A→BとB→Aの経路は異なる曲線(異なる2つの開曲線)と考えられるので、
「同一の1変数関数を同じ積分区間で行って戻って積分して合計は0 ??」・・・といった事には、一般的にはならない事を表現できるわけです。

接線線積分に関する定理とその応用

応用例として、ベクトル場に対する接線線積分は物理学の力学や電磁気学で使われます。特に、数学上成立する定理で応用でも重要なものとして、ストークスの定理と呼ばれる関係式が存在します。

応用例①:積分経路が開曲線の場合…仕事と位置エネルギー

力学における「仕事量」は、接線線積分として定義されます。積分の対象となる関数は力ベクトルです。接線線積分による定義と計算から、別途に運動エネルギー、力学的エネルギーなどの概念が理論的に定義されます。

$$力\overrightarrow{F}によるPからQまでの「仕事量」:W=\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

(「仕事」\(\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}\) の合計が「仕事量」)

◆補足:Fという記号は、数学では function(関数) の頭文字という意味合いで使う事が多いですが、力学では force(力)の頭文字という意味合いにする事が多いです。

この場合の積分経路は基本的には任意ですが、特に必要がなければ開曲線として考える場合が多いのです。これは、単純に「位置Pから位置Qまで物体が移動したとき」といった場合をモデルとして考えるためです。

力ベクトルの向きと物体の変位ベクトルとの向きは異なる事を踏まえ、内積を考えます。それを(微小な)各区間で考えて合計した接線線積分が仕事量になります。

力のうち、保存力がなす事が可能な「仕事」は、特に位置エネルギーポテンシャルエネルギー)とも呼ばれます。これも「仕事」ですから、数式的には接線線積分を考えるわけです。

静電場(時間変動の無い電場)による位置エネルギーは特に電位とも呼ばれ、これは「仕事」ですから力学におけるものと同じく接線線積分で表されるのです。ただし、位置エネルギーの積分範囲は基本的には「『無限遠』からある点まで」とする事が多いです。

$$静電場\overrightarrow{E}による点Pにおける「電位」:V_P=-\int_{\infty}^P\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}$$

それに対して、無限遠でない特定の2点間PとQの電位の差(QからPまで単位電荷を運ぶのに必要な電場の仕事量)を電位差あるいは電圧と言い、こちらは2点間の接線線積分として書かれます。

$$静電場\overrightarrow{E}による点Pと点Q間の「電圧」:V_{PQ}=\int_P^Q\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}\left(=-\int_Q^P\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}\right)$$

この「電圧」という語は、電線や電池、発電機等に対して使われる「電圧」と同じものです。
ただし、接線線積分で表される電圧の式は「電場をもとに計算する場合の式」ですから、別の要素によって電圧を決定できるか、あるいはそのように決定できるように状況を整えた場合には積分計算は不要になります。後述で簡単に触れている電磁誘導の法則はその例です。

応用例②:積分経路が閉曲線の場合…電磁気学、流体力学におけるストークスの定理

閉曲線に対する接線線積分に関する数学上の定理で、物理学・工学への応用上も重要なものとしてはストークスの定理があり、流体力学や電磁気学の理論計算で使われます。

ストークスの定理は、閉曲線に対する接線線積分と法線面積分を結びつける事ができる定理として知られています。ベクトル場の「回転」(記号では rot あるいは curl)を使用し、その回転という名称をつけている由来にも関係します。

ストークスの定理

閉曲線をCとし、Cで囲まれるS(閉曲面では無い)に対して次の関係が必ず成立します。 $$\oint_C \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ 左辺は接線線積分、右辺は法線面積分です。 ※空間内の任意の閉曲線Cに対して、
「それぞれのCに対して定まる任意の『閉曲面では無い』曲面S」についてこの式が成立する
という事です。

つまり、閉曲線自身と閉曲線で囲まれる面を考えると、数学上定義される「ベクトル場の『回転』」の法線面積分の値は、面の縁に相当する閉曲線を文字通り「回転」するように接線線積分した値に必ず等しくなる、という事です。

ストークスの定理は、例えばアンペールの法則の積分形(「アンペールの周回積分の法則」とも。電流によって発生する環状の磁場を記述)を微分形に変換できる数学的な根拠となります。
逆に、アンペールの法則の微分形を積分形に変換できる事もストークスの定理により証明できます。

また、同様に電磁誘導の法則の微分形と積分形の変換もストークスの定理によって証明できます。電磁誘導の法則の積分形は、前述の「電圧」を発生させる状況を記述するものになります(※)。

(※)補足:電磁誘導の法則の積分形は電場の仕事量を接線線積分で計算するという形をとりますが、それは「磁場の時間変化によって決定できる」というのが法則の内容です。
従って、工学等で応用する場合には磁場の変化から計算するほうが簡単で電場から計算する必要は無い場合もあるわけです。

ストークスの定理は、もちろん自明に成立しているとは言えません。その証明方法はガウスの発散定理の証明に似ていて、関数をその偏微分の定積分とみなす事で証明を行います。定理の内容はベクトルの成分に関する3式の組み合わせになりますが、それら3式のそれぞれについて個別でも成立するという点でも似ています。

ガウスの法則【電場と磁場の数学】

ガウスの発散定理およびガウスの積分と直接的な関わりを持つ物理学での応用例としては、
電磁気学における「ガウスの法則」が存在します。
ここでは特に、
数学と電磁気学との、ベクトル解析・微積分的な関わりの観点からの法則の説明をします。

◆関連:法線面積分の定義

◆ガウスの法則には「電場に関するもの」と「磁場に関するもの」の2つがあり、
数式的には積分の形で書いたもの(積分形)と、微分の形で書いたもの(微分形)の2つの形があります。積分形と微分形は同等の式です。

ベクトルの基本的な考え方も使用します。

ガウスの法則とは?電場と磁場に関する法則

4つの「マクスウェル方程式」のうちの2つを指す
電場に関するガウスの法則 ◆磁場に関するガウスの法則
クーロンの法則の一般形という解釈

マクスウェル方程式
(電場と磁場に関するのガウスの法則・電磁誘導・アンペールの法則)
Eは電場、Bは磁場(「磁束密度」とする考え方も)です。
ρ:電荷密度 j:電流密度 t:時間 
ε:誘電率 μ:透磁率 添え字の0は「真空の」の意味でここでは使っています。
div:ベクトル場の「発散」 rot(curl):ベクトル場の「回転」  ∂:偏微分の記号
∇(ナブラ)記号と内積・外積の記号を組み合わせて div は「∇・」 rot は「∇×」のように書く事もあります。

4つの「マクスウェル方程式」のうちの2つを指す

電磁気学における「ガウスの法則」とは、
電磁気学の基本式である4つの「マクスウェル(Maxwell)方程式」のうち2つを指しており、
静電場(時間変動しない電場)と静磁場(時間変動しない磁場)に関する記述を行う式です。

★ただし時間変動がある場合にも、「ある瞬間について電場や磁場を考察した場合」には、任意の時刻についてガウスの法則が電場と磁場の両方に対して成立します。
他方で、電場や磁場の時間変動そのもの、つまり数式的に言えば電場や磁場の「時間微分」に関しては、マクスウェル方程式の残り2つの式によって考察を行う事になるのです。

4つのマクスウェル方程式

2つのガウスの法則がこの記事内での話です。

ガウスの法則は、微分方程式でも積分方程式でも、どちらの形でも書かれます。(積分方程式とは、積分を含んだ形で書かれる方程式。)
どちらの形でも互いに変形が可能な、数学的に同等な式になります。

微分方程式で書かれた場合を微分形、積分方程式で書かれた場合を積分形とも言います。
数学の「ガウスの積分」との直接的な関わりがすぐに分かるのは積分形です。

電場に関するガウスの法則

電場に関するガウスの法則を式で書くと次のようになります。数学の定理と区別される「法則」なので、変数や定数は何でもよいわけではなく、電気と磁気に関連する量になります。

\(\overrightarrow{E}\) は電場(+1[C]の電荷が他の電荷から受ける電気力。ベクトルです)、
Qは点電荷の電気量、ρは電荷が連続的に分布している場合の電荷密度です。

ガウスの法則(静電場、積分形)

$$点電荷に対して:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{\epsilon_0}}$$ $$電荷密度に対して:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv$$ ※左辺は、法線面積分です。Sは閉曲面、Vは閉曲面内の空間領域です。
※補足:電荷密度を使った式の右辺の積分は、電荷の電気量を合計しているという意味です。
閉曲面Sは、電荷あるいは電荷分布を囲む領域とします。
電荷密度は、空間の各位置によって大きさが定まるスカラー関数として考えています。
電磁気学では \(\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}\) を「電気力束」と呼ぶ事があります。

ガウスの法則(静電場、微分形)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$ ※div はベクトル解析における「発散」です。
ガウスの法則の微分形は、基本的に電荷密度に対する式になります。
電荷が分布しない位置(ρ=0)では電場の発散はゼロ(クーロン電場は直接計算でも同じ)、
つまり物理的には「湧き出しが無い」事を表します。

ナブラ記号を使って書けば電場に関するガウスの法則の微分形は次のようになります。

$$\nabla\cdot\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$

補足:ガウスの法則と数学上の「ガウスの発散定理」の違いについて、電場に関するガウスの法則の積分形は「法線面積分」の形で書かれていますがその事が重要です。ガウスの発散定理によればこれは「電場の発散\(\mathrm{div}\overrightarrow{E}\)」の体積分で表現できますが、点電荷を原点とする時に電場が定義できませんから(あるいはデルタ関数という超関数で定義する必要がある)、点電荷を囲む「任意の閉曲面」を考える事はいくらでもできるけれども、閉曲面内の空間「全体」の体積積分を通常の意味での積分として実行はできないわけです。電場の発散を考える時はガウスの法則は必ず微分形で考える必要があり、積分形の場合は電場の法線面積分を必ず考えないといけないわけです。
電場に関するガウスの法則を積分形で考える場合には法線面積分を「発散による体積積分として書き換えて積分領域を閉曲面S内『全域』とする事はできない」(微分不可能である点を除いた領域であれば可)のです。

◆電場に関するガウスの法則の積分方程式あるいは微分方程式としての「解き方」については、
「具体的な電荷の分布の状況や閉曲面」を設定して、電場ベクトルの向きも最初から決定できるような状況のもとで解くというのが1つの例です。
閉曲面は、球、円柱、立方体など、対称性のある図形や分かりやすい図形で考察する事が多いと言えます。(※球面のような任意の点で滑らかな閉曲面だけでなく、円柱などへの適用も可能です。)

電場に関するガウスの法則(積分形)
電磁気学・静電場に関するガウスの法則(積分形):点電荷あるいは電荷が分布する領域を閉曲面で囲った時、その閉曲面の形状に関わらず法線面積分の値は、じつは閉曲面内部の電気量(の総和)に必ず比例するというものです。
静磁場に関しても似た形のガウスの法則が存在します。

微分形で書いた場合には、マクスウェル方程式全体に言える事ですが、電場の2式と磁場の2式のそれぞれについて、「発散(div)」の式と「回転(rot)」の式に分類する事もできます。【回転は curl とも書きます。】

点電荷で考えた場合、原点に関する整合性はデルタ関数を使って表現する事もあります。電荷が複数ある時は単独の点電荷の重ね合わせ(積分音結果の単純なスカラー和)を考えて、連続文武の時は電荷密度による積分で電気量を合わせます。

磁場に関するガウスの法則

静磁場の場合にも、電場の場合と似た形の式が成立し、
それも同じくガウスの法則と呼ばれる事が多いです。

ただし、磁場に場合には電場の場合と異なって、「単独の『磁荷』」(「磁気単極子」)が存在しない(磁石で言うと、N極やS極が必ずセットになっていて単独で取り出せない)という事自体が1つの基本法則であると考えられています。

その事に由来して、
「電場の場合の式の右辺に相当する部分がゼロになっている形」が、磁場の場合のガウスの法則になります。

ガウスの法則(静磁場、積分形)

$$\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$ \(\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}\) は「磁束」と呼ばれる事があります。
\(\overrightarrow{B}\) は「磁束密度」と呼ばれる事があり、そこから別途に「磁場」\(\overrightarrow{H}\) を定義する事もありますが、\(\overrightarrow{B}\) を「磁場」と呼んでしまう事もあります。細かく言うと、それらの違いは「場」を力によって定義するかどうかという事によって生じます。

ガウスの法則(静磁場、微分形)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{B}=0$$ 電場の時と同様に、ナブラを使って書くなら次のようになります。 $$\nabla\cdot\overrightarrow{B}=0$$

静磁場は一定の量の電流の周りに対し、同心円(一定の半径の円)の周上に一定の大きさで発生します(向きは各場所で異なりますが)。
静磁場が同じ大きさで、磁力線がループを作る形で必ず閉じているわけで、この事から「磁場の発散 div\(B\) は必ずゼロになる」つまりガウスの法則の微分形が成立する」という事が実は言えます。
(ベクトル場の「発散」は、ベクトル場の各成分の成分座標による偏微分の合計で、図形的にはある点に流入・流出する何かの量を表します。そのため電磁気学だけではなく流体力学の理論などでも使われるものです。)

具体的な数式変形は後述しますが、数学的には、ガウスの法則の積分形の式を数学上の「ガウスの発散定理」を使って変形する事でガウスの法則の微分形が得られるという関係があります。

クーロンの法則の一般形という解釈

静電場を表す式としてはいわゆるクーロンの法則というものもあり、それは静電気による力と電気量との定量的な関係を表す式です。
ここで「静電気」とは、冬場などでパチパチとしたり、紙片やビニールがくっついたりしてしまう、あの静電気の事です。

ガウスの法則は、クーロンの法則を一般化した形であるという解釈も成立します。
その事を数式的に説明するには数学公式である「ガウスの積分」を使います。

ガウスの法則の1段階前の式とも言えるクーロンの法則の比例定数kは、
一見すると奇怪な形で書かれる事があります。
それは、比例定数が分母に円周率を伴った形で書かれるというものです。

$$k=\large{\frac{1}{4\pi\epsilon_0}}\hspace{10pt}\left(≒8.988×10^9\right)$$

ここでさらに\(\epsilon\)0 という比例定数が登場していますが、
これは電磁気に関する別の現象を表す時にも使う「真空の誘電率」です。

$$\large{\epsilon_0=8.8543×10^{-12}≒ \frac{1}{36\pi}×10^{-9}}$$

さてここで、なぜ円周率が出てくるのか?という話ですが、
これは数学公式のガウスの積分との直接的な関係があるのです。
数式によって後述しますが、実はガウスの法則をクーロンの法則から導出する方法を見る事で理由が分かるのです。

また、ガウスの積分は図形の「球」との直接的な関係がありますから、
上記の「円周率」は、最終的には図形の球に由来するものであるとも言えます。

クーロンの法則

r[m]離れた2つの物体があり、q[C]、q[C]の電気量を持っているという。この時に2つの物体間に働く力の大きさは、実験によれば次のようになります。 $$力の大きさ:F=\large{\frac{kq_1q_2}{r^2}}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}}$$ $$ベクトルの場合:\overrightarrow{F}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}}\cdot\frac{\overrightarrow{r}}{r}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^3}}\overrightarrow{r}$$

クーロンの法則の比例定数をなぜか「円周率」を使って表す事があります。
その意味は、ガウスの積分を使ってクーロンの法則からガウスの法則を数学的に導出して考察してみると分かりやすいものになります。4という数字に関しては球の表面積の公式が間接的に関わっています。

導出:微分形と積分形の数式変換

電場の場合 ■ 磁場の場合

ガウスの法則の積分形と微分形の式は、数学的にはガウスの発散定理によって変換できます。

ガウスの発散定理

任意のベクトル場\(F\)について【※これは電場でなくともよく、数学的な任意の連続的なベクトル場に関して成立します。】 $$\int_S\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F}dv$$ ◆この定理で言う空間領域Vは「閉曲面内の空間領域」です。ただし、微分不可能である点が含まれている場合にはそこを除外して考える必要があるので注意。

これを使用して、積分形から微分形、および微分形から積分形への変換を数式で行う事ができます。

ガウスの法則の積分形と微分形
数学的には、ガウスの発散定理によってガウスの法則の積分形と微分形の変形を行う事ができます。
法則として、より物理的な解釈も可網です。※点電荷に対して電荷分布がない位置で電場の発散を計算すると必ず0ですが、ガウスの法則の微分形でも「電荷密度が0の場所では電場の発散は0」であるという結果ですから一致しています。

電場の場合

ガウスの法則の積分形の左辺は、発散定理の左辺の形をしています。ここで、電荷密度を考えた場合の式を見ると、領域内を体積分した形が右辺にあります。
(※補足:細かい事を言うと、ここで領域Vは個々の点電荷の周囲の微小領域を除いたものを考えます。電荷密度の積分は閉曲面内の「電荷の電気量の合計」の意味ですが現に点電荷が存在した時にまさにその位置では計算上微分不可能な点であるためです。)

$$電荷密度に対するガウスの法則:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv$$

$$ガウスの発散定理により\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv$$

左辺が同一ですから、右辺同士を等号で結びます。

$$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dv$$

$$\Leftrightarrow \int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dv$$

計算の結果を見ると
「2つの関数について、領域Vで体積分すると同じ値」という式になっています。

ここで、「定積分した値が同じ」であるからといって、積分対象になっている関数が同一のものとは限らない事に注意は必要です。簡単な例を挙げると、y=xと、y=-x+1は、xについて0から1まで積分すれば同じ1/2という値ですが、当然積分の中身の関数は別物ですね。

しかしここでの場合は、積分する領域Vが、特定のVではなくて空間上の「任意の領域」です。
1変数関数の積分で言うと「任意の積分区間で」という事になります。
グラフを考えてみると分かりやすいかと思いますが、2つの異なる関数についてある積分区間で偶然定積分の値が等しくなったとしても、区間を変えればすぐに値は変わってしまいます。あらゆる区間で例外なく積分値が同じになるには、そもそも同一の関数でなければならないのです。
その理由により、上記の体積分の関係式についても積分する対象が等しくなければならないのです。

整理しますと次のようになります。

$$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dvであり、「積分領域Vは任意であるから」\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$

と言える事になります。
これは電場に関するガウスの法則の微分形に他なりません。【導出終わり】

逆に微分形から積分形を導出するには、微分形の両辺を領域Vで体積分し、
ガウスの発散定理によって法線面積分と結びつければよい事になります。

ガウスの法則の積分形から微分形を数式的に導出する時の、最後の段階の箇所。
任意の領域Vで成立している事が結論を数学的に導出できる根拠になります。

微分形と積分形の変換の方法は他にも幾つかあります。例えば、より物理学的な手法の1つとして、辺の長さが dx, dy, dz の微小な直方体を考えてガウスの法則の積分形を適用する方法があります。
この方法では dv=dxdydz として、その直方体内では電荷密度ρは「ほぼ一定」と考えます。
直方体の面は座標軸に平行であるとし、原点に一番近い頂点を基準として、面における電場ベクトルと法線ベクトル(大きさは微小面積)との内積を成分で考えます。
直方体の向き合う2つの面について、
法線ベクトルの向きは互いに逆向き(領域の外側を向く)事にも注意すると
例えばx軸に垂直な面の面積としてds=dydzを考えると、次のようになります。$$\large{\left(E_x+\frac{\partial E_x}{\partial x}dx\right)dydz-E_xdydz=E_xdxdydz=E_xdv}$$【Exは原点に最も近い頂点での電場ベクトルのx成分。この考え方では、微分および偏微分は「関数の近似一次式の傾き」という解釈を使っています。】
電場ベクトルと面の法線ベクトルとの内積計算を成分で具体的にすると、
例えば $$\large{(E_x, E_y, E_z)\cdot (-dydz, 0, 0 )=-E_x dydz}$$
残り4面(2組)についても同様の式を立て、合計します。
そして「ほぼ一定」とみなしたρを使って体積分の値は ρdvであると考えて、電場に関するガウスの法則の積分形に適用すると微分形が得られる――という考え方もあったりします。

ガウスの法則の微分形を、より物理学的な考察で導出する方法の1つ。微分係数および偏微分係数は関数の近似一次式の比例定数とみなせるとの解釈を使用します。
直方体の互いに向き合う面において法線面積分で使用する法線ベクトル(外側を向く)を内積の具体的な成分計算で使う時には符号がプラスマイナスで互いに逆になります。【例えば単位法線ベクトルなら(1,0,0)と(-1, 0, 0)、法線ベクトルの大きさを面積元素とすれば(dydz, 0, 0)と(-dydz, 0 ,0)】
直方体は微小であり、1つの面での電場ベクトルは1つに代表させています。

磁場の場合

磁場の場合もやり方は同じです。

$$ガウスの発散定理により\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{B}$$

$$\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=0 より、\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{B}=0$$

この場合も、「任意の積分領域Vに対して」積分するとゼロという式なので、
積分する前からの話として div\(\overrightarrow{B}\)=0 でなければそれは起こり得ない事になります。
(※磁場が恒等的にゼロなのではなくて、「静磁場としてあり得る任意の形に対して、ベクトル場の発散を考えると必ずゼロになる」という意味です。)

ガウスの法則をクーロンの法則から導出する(電場の場合)

ガウスの積分と発散定理からの導出 
逆にガウスの法則からクーロンの法則は導出可能?の問題 
磁場の場合にもガウスの法則を導出可能?の問題

ガウスの積分と発散定理からの導出

電場とは「+1[C]の電荷が他の電荷から受ける力」と定義して定めた量ですので、クーロンの法則で片方の電荷の電気量を1としたものとして式で表せます。

$$電場の大きさ:E=\large{\frac{kQ}{r^2}}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^2}}$$

$$ベクトルの場合:\overrightarrow{E}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^2}}\cdot\frac{\overrightarrow{r}}{r}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^3}}\overrightarrow{r}$$

さてこれを見ると、「距離の逆2乗に比例するベクトル場」ですから、
法線面積分を考えれば「ガウスの積分」の公式を使用できます。

ここでの場合、電荷を囲む閉曲面を考えますから、公式で言うと「原点が閉曲面の内側にある場合」です。この時にガウスの積分の値は、極限値として\(4\pi\) になります。

ところで、上記の電場ベクトルでは、Q/(\(4\pi \epsilon\)0) という部分は比例定数です。そこで、残りの部分がガウスの積分におけるベクトル場と同じ形という事になります。

という事は、上記の電場ベクトルを電荷を囲む閉曲面で法線面積分すると、次の計算結果になります。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}}\cdot 4\pi=\large{\frac{Q}{\epsilon_0}}$$

つまり、電場に関するガウスの法則の積分形になります。【導出終わり】

尚、閉曲面の外に電荷があるような場合を考えたとして、同じように法線面積分を考えたとすると、ガウスの積分の公式により、法線面積分の値は0になります。
ただしその場合にはむしろ、物理的には「閉曲面内に電荷は存在しない」という解釈になるでしょう。

★ガウスの積分の公式においては「基準とする原点で関数を定義できない」という事で極限値を考えるわけですが、これはどちらかというと数学的な捉え方であり、
物理学では敢えてそのようには考えずに「デルタ関数」という特殊な関数を使う事で、
原点における電場の扱いの理論的整合性をとるという考え方をする場合もあります。

★「立体角」を使って電場に関するガウスの法則を説明・導出する方法もあります。ただし立体角の数学的な定義は、ガウスの発散定理の成立を前提にしています。その点には注意が必要です。

ガウスの積分の値を計算する公式の証明では、ベクトル場の発散の具体的な計算と、球の表面積の公式を使用します。

逆にガウスの法則からクーロンの法則は理論的に導出可能?の問題

上記の説明は電場に関して「クーロンの法則が成立→ガウスの法則が成立」という事が数学的には導出可能である事を述べたものですが、
物理学的にも数学的にも、もう少しだけ詳しく言うとクーロンの法則は理論的には、
①電場に関するガウスの法則
②静電場の渦無しの法則(電場の「回転」が0、数式だと rot\(\overrightarrow{E}\)=0)
③無限遠でベクトル場の大きさが距離の逆2乗の程度の収束の速さで0に近づく
という3条件が全て成立している事と等価である式になります。

つまり、逆に「ガウスの法則が成立するならクーロンの法則も直ちに成立すると理論的に言えるか?」という問題に関しては、「渦無しの法則と、無限遠での条件を課せばそうである」という事になります。

※静電場に関する渦無しの法則の形は、磁場の時間変動がある場合には電場の回転はゼロ以外の値になるという式に変わります。それは発電機で電気を発生させる原理である電磁誘導の法則であり、マクスウェル方程式の1つになります。$$磁場の時間変動がある場合(電磁誘導):\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}$$この式で静磁場の場合(時間による偏微分がゼロ)であれば、静電場の渦無しの法則と同じ式です。

磁場の場合にもガウスの法則を導出可能?の問題

では磁場の場合はどうでしょうか。
実は磁場に関しても、その大きさが距離の逆2乗に比例するという実験結果があります(それもクーロンの法則とも呼ばれます)。

しかし磁場の場合には実は話が少し変わってきて、
静電場におけるクーロンの法則に対応するものは、ビオ・サバールの法則と言って外積(クロス積)を使って表された形をしており、接線線積分で書かれます(あるいは微小部分に対する形式でも書かれます)。
これは磁石ではなく電流により発生する磁場を記述したものです。(別途にアンペールの法則というものもあります。)
磁場に関するガウスの法則の積分形は、「ビオ・サバールの法則から導出できる」というのが磁場の場合の一般的な理論になっています。

上記でも少し触れましたが、電流により発生する磁場は軸対称(ここで言う軸とは電流の向きを表す直線)で同心円上にて等しい値になる事から、磁場の発散 div\(\overrightarrow{B}\) がゼロになる事、つまり磁場に関するガウスの法則の微分形のほうを先に述べるという事もあります。
磁場の大きさが電流の向きに対して軸対称になる事を使うのは、ビオ・サバールの法則を基本に考える場合も実は同じです。

磁石による磁場を考える場合には、単独の電荷に相当する「磁荷」を実験的に見出せず、
N極とS極の対(「磁気双極子」)が必ず現れるというのが基本認識になっています。
ところで、その磁気双極子が板状の磁石に一様に分布していると仮定すると、
実は「磁石が作る磁場も(微小な)環状電流が作る磁場と同じ形になる」という事を理論的に示せるのです。そこで、磁石が作る磁場に関しても同様に、
磁場に関するガウスの法則が成立する、という理論的な流れがあります。

磁石に関しては、物質の磁性の観点から理論的に話を突き詰めようとすると実は話が結構面倒で、電磁気学だけでなく量子力学の理論もどうしても必要になるというのが物理学の理論の現在の見解になっています。

ガウスの法則が成立する由来に関する、数式的な考察。
理論的には、電場の場合と磁場の場合とでは少しだけ話が違ってくると考えられています。
磁場のほうに関して、この図で、i:電流 l(エル):電線の長さ ×:外積(ベクトル積)の記号
静磁場を囲む閉曲面での法線面積分がゼロになるのは「磁気単極子は単独で存在せず、必ず磁気双極子の形で現れる」という事を表すとも解釈できます。

真空の誘電率に関わる円周率とガウスの法則との関係

さて、最後にクーロンの法則の比例定数を円周率を含んだ形で表す事がある事について、ガウスの法則との関連からの理由を考察してみましょう。

前述の「クーロンの法則からガウスの法則を導出する方法」を見ると、
途中で使っている「ガウスの積分」の公式には球の表面積由来の円周率が含まれていますが、
結果のガウスの法則の式には円周率は含まれていません。

これはもちろん、クーロンの法則のほうの比例定数を「円周率の逆数と別の比例定数の積」の形で表していたので、式の中で円周率が分子と分母で約分されて「1になって消えた」ためです。

逆に、もしクーロンの法則の比例定数を一括でkで表した場合には、ガウスの法則には見かけ上、円周率がくっついて来るわけです。(もちろん、定数の数値的な値自体はどちらの場合でも同じです。)

◆比例定数に円周率を含まなかった場合のガウスの法則の形

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S\large{\frac{kQ\overrightarrow{r}}{r^3}}\cdot d\overrightarrow{s}=kQ\cdot 4\pi=4\pi kQ$$ 尚、この結果の状態でk=1/(4\(\pi\epsilon_0\)) を代入しても、もちろん一般的なガウスの法則の形になります。

つまり、敢えて「円周率を含んだ比例定数」を考える事により、クーロンの法則からガウスの法則を導出した時に、逆に「円周率を定数として含まない形で記述できる」という、ちょっとした数式上のカラクリがあるわけです。
図形的な球や球面に由来して、円周率が隠れた形で物理学の理論に関わってくる例の1つになります。

ガウスの積分【閉曲面に対する立体角の積分表示】

位置ベクトル\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)をベクトルの大きさrで割る事により
単位ベクトル(大きさが1のベクトルを言います)にすると\(\overrightarrow{r}\)/rというベクトルとして書けます。

ベクトル\(\overrightarrow{r}\)/rをさらにrで割ったベクトルを考えると
\(\overrightarrow{r}\)/(r)というベクトルになり、
このベクトルに対する閉曲面上の法線面積分の事をガウスの積分と呼ぶ事があります。
この積分は、閉曲面の形状によらずに閉曲面に対する原点の位置によって3種類の値だけをとります。
また、ガウスの積分は閉曲面に対する立体角の積分表示ともなっています。

ガウスの積分の被積分関数に入っている「距離の3乗」は、見かけ上のものであり、本質的には「距離の2乗」に大きさが反比例するベクトルである事が重要となっています。ただし、具体的な計算では「3乗」の部分が結果に影響してくる部分はあります。

■関連サイト内記事:

立体角の積分表示および球面との関係

立体角は平面角に対応する語で3次元空間的な広がりを表す量で、球の表面積を使って定義されますがその積分の形がガウスの積分と同じものになります。(ただし、ガウスの積分は閉曲面に対する積分を指し、立体角の積分表示は同じ被積分関数に対して開曲面にでも定義されます。)

ではガウスの積分も球の表面積に関連するものなのかというと実際そうであり、
後述するようにガウスの積分が取り得る値は0,2π,4πだけとなっています。
つまり積分の結果は円周率の定数倍の値だけをとるという結果です。
これらの結果は偶然にもそうなるというだけでなく、
円や球に由来して2πや4πといった数値が結果として導出されます。

その結果は物理的な考察にも使用される事があります。
ガウスの積分の被積分関数は\(\overrightarrow{r}\)/(r)ですが、これは大きさが「rに半比例する」ベクトルであり、向きは原点からある点までの向きそのものとなっています。そのようなベクトルは物理的な力や場を表すものとして存在し、具体的には静電気力や万有引力、一部の磁気力などが挙げられます。代表的なものは電場に関するガウスの法則であると言えます。

そして物理での考察で使用する時にも「球面」は重要な要素となります。

立体角とガウスの積分の関係。当サイト記事「立体角の定義と使われ方」より

ガウスの積分の内容

ガウスの積分とは具体的には次のようなものです。

ガウスの積分

\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\)および
\(r=|\overrightarrow{r}|=\sqrt{x^2+y^2+z^2}\) のもとで、
閉曲面Sに対する次の法線面積分をガウスの積分と呼びます。 $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

この時に閉曲面Sは任意の形状ですが、
どのような閉曲面に対してでも、ガウスの積分が取り得る値は3つしかない
事が知られています。

(公式)ガウスの積分の3種類の値

原点と閉曲面の位置関係によって結果が分かれます。

  1. 原点が閉曲面Sの「外側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$
  2. 原点が閉曲面Sの「曲面上」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$
  3. 原点が閉曲面Sの「内側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

2番目(閉曲面上)の式は極限値として考える必要があり、
3番目の式もそのように考える事もできます。

物理学では値が無限大になってしまう点を特別扱いできるデルタ関数を使ってガウスの積分により表現される内容を表す事もあります。
あるいはガウスの積分は閉曲面に対しての立体角と同一視できるので立体角の文脈で話を進める事もあります。

ガウスの積分の計算および証明

次の3つの場合分けがあります。

この証明にはガウスの発散定理の結果と、ベクトル場に関する発散(div)の計算を使います。

ここで言う「発散」とは極限における「収束と無限大への発散」の意味ではなく、物理的には「湧き出し」の意味を持ち数式的には偏微分で定義されるスカラー量を作る演算およびその結果を指します。

①原点が閉曲面の「外側」にある場合

対象のベクトル場の発散 \(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)を直接計算すると、
実は必ず0になるという結果が得られます。

$$公式:\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{ r^3}\right)=0$$

この式は、より一般的な公式である\(\mathrm{div}\left(r^n\overrightarrow{r}\right)=(n+3)r^n\) の結果でもあります。
すなわち、n=3の時は結果が0となるわけで、div\(\overrightarrow{r}\)/(r)を表しています。

次に、ガウスの発散定理によればベクトル場の法線面積分は
ベクトル場の発散を被積分関数とした体積積分」によって表せます。
ここで\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)の体積積分を考えるとすれば
被積分関数が定数関数でしかも値は0」なので、考えている領域での積分の結果も0です。

ただし、\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できない関数である事に注意する必要もあります。

しかしまずは「原点が閉曲面の外側にある場合」を考えているので、
この場合には閉曲面の領域に定義できない点は含まれません。

そのため、発散定理により次のように書けます。

$$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv【∵ガウスの発散定理】$$

$$=\int_V\hspace{3pt}0\hspace{3pt}dv=0$$

参考:公式の導出計算

②原点が閉曲面の「曲面上」にある場合

原点が閉曲面上にある場合でも、
ベクトル場の発散 div \(\overrightarrow{r}\)/(r)を計算すると0になるという事は同じです。

しかし\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できず、かつ原点が考えている閉曲面上にある場合には
積分したい領域内で被積分関数が定義できない点を含む
という事を意味します。

従って法線面積分を考える閉曲面Sについて、通常の閉曲面とは違うものを考える必要があります。

具体的には、閉曲面から原点を除いたものを領域として考える必要があります。
ただし、1点だけを除くという考え方だと積分の計算がうまくいかないので、もとの閉曲面から原点付近のわずかな領域を除いた部分を改めて閉曲面Sとします。
さらにこの場合では、原点を含む「面だけ除く」事もできないので
体積を持った領域ごと除く事になります。

そして、除く領域の形状は「半球」とする必要があります。これには理由が2つあります。

取り除く領域を「球状」にする理由
  1. 球面であれば曲面に対する法線とベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の方向が平行になるので、法線面積分を直接計算できる利点があります。
  2. 発散定理により領域内でベクトル場の発散が0であれば「1つの閉曲面を構成する2つの開曲面の法線面積分はそれぞれ等しい事」が示されます。そのため、一番計算しやすい領域で計算すれば十分という事になるので球面を考えます。

上手にきれいな半球を繰り抜けるかどうかは、閉曲面を多面体に近似することで可能になります。法線面積分が成立するの十分細かい分割の多面体で考えた時に、平面状の微小領域よりも半径が小さい球を考えればそこで半球状にくり抜く事ができます。

原点を中心とする微小な半径ρの半球Sを考えて、Sは外縁となっている円周部分(球を2つに割った所の部分)を閉曲面Sと共有するとします。
また、閉曲面S上から半球Sで囲まれる領域を除いた部分をSとします。この時に曲面Sは開曲面であり、閉曲面Sに「穴」が開いて形状をしています。

ここで半球Sと開曲面Sを合わせた領域は「原点が外部にある閉曲面」となっています。(もとの閉曲面Sと同一ではありません。)そこで半球Sと開曲面Sを合わせた閉曲面をS∪ Sとおきます。【「∪」は和集合の記号です。】
この時に、原点を除いて\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)であり、S∪ Sは原点を含まない事から発散定理を適用すると法線面積分の値は0です。S∪ Sの内部の領域をVとして、次の計算ができます。

$$\int_{S1\hspace{1pt}U\hspace{1pt}S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{V1}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

つまり半球Sの法線面積分と開曲面Sの法線面積分の値は一致します。
そして結論から言うと半球S0のほうの積分の値は具体的に計算できます。

半球Sは原点を中心とした半径ρの半球なので、
S上でベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の大きさはどこの点でも等しく1/(ρ)です。
方向については各点で球面に垂直で外側向きなので法線との内積は1となり、
法線面積分は定数関数に対する面積分となります。

この時には面積要素を分割して合計して定数倍を考える事になりますが、面積要素を十分細かい分割のもとで合計した極限値は「表面積」に他ならないので面積分は表面積の計算を意味します。

すると考えている領域が半球なので、その表面積は\(2\pi\rho^2\)です。
これによって法線面積分の結果を出せる事になります。

$$\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{1}{\rho^2}\int_{S0}ds=\frac{1}{\rho^2}\cdot 2\pi\rho^2=2\pi$$

結果を見ると「半径ρ」が消えているので、
実は半径の大きさに関わらず積分の値は一定であるという事になります。

そのため、穴の開いた開曲面Sの法線面積分は
半球S0の法線面積分に等しいという事だったので次のように表せます。

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

半球Sの法線面積分の値は半径ρによらず同じなので、
上式はρ→0の極限でも成立して次のように書けます。

の法線面線積分の符号を変えているのは
「原点を中心に半球を単独で考察した時」と閉曲面Sを構成する時とで
考えた時の「外側への向き」が逆になるためです。
結果的に引き算する形となります。

$$\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

他方でもとの閉曲面Sに対する法線面積分を
穴が開いた曲面Sの法線面積分に対して半球Sの半径が0になる極限値で表すもの
とすると次のようになります。

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

よって、原点が閉曲面上にある場合のガウス積分値は2πであるという事が言えます。

考えてきた閉曲面を整理すると次のようになります。

曲面原点との位置関係積分計算での意味
S閉曲面
原点が閉曲面上にある
被蹟分関数が定義できない点を含むので
積分はそこを除外して極限値として計算
S開曲面で、原点を内部に含む。
(中心が原点で半径ρ)
法線面積分の値は2πで、
半径ρに関わらず同一の値
S開曲面で穴が開いているSからSの内部を除いた領域
Sの法線面積分はSの半径ρ→0の極限で
Sの法線面積分になると考える

③原点が閉曲面の「内側」にある場合

閉曲面の内部に原点がある場合にも、閉曲面上に原点がある場合と同じ問題が発生します。ただしこの場合は閉曲面内部で体積積分を行う時に除いて考えるべき点が生じる事になります。

閉曲面Sの内部から「原点を囲む微小な球をくり抜いて除いた」領域を考えます。

ガウスの積分において原点で領域を定義できないので、
原点を含む領域を球状に除いて、球の半径を0に近づけた時の極限値として
ガウスの積分の値を計算します。

原点が閉曲面上にある時と類似の計算により、
閉曲面の内部から除いた球面上での法線面積分は球の半径ρにかかわらず一定値になります。
球の表面積4πρをρで割る計算となり、結果は\(4\pi\)です。

より具体的には閉曲面Sと、その内部で原点を中心とする小さい半径ρの球S0を考えてSとSを接続するてきとうな曲面を考えます。(その曲面上では法線面積分は表と裏の両方で計算する事になり、プラスとマイナスの値が打ち消して0になります。)そのようにしてできる全体の閉曲面をSUとします。

この閉曲面SUは原点を含まない閉曲面であり、
内部の領域VUにおける任意の点で\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)なので発散定理により法線面積分の値は0です。

よって表と裏の関係による符号に注意して、
閉曲面Sと球S0の法線面積分の値は同じです。この場合は球Sの半径ρ→0の極限を考えなくても結果の式が出ますが極限を考えても値は同じになります。(内部の領域まで元の領域に近付けるなら極限を考える必要があります。)

$$\int_{SU}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{VU}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

$$(任意の\rho で)\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi なので、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

球面Sの法線面積分は球の外側を表としていて、それは閉曲面SUから見ると裏側になるので閉曲面SUの法線面積分の構成要素としては球面Sの法線面積分はマイナス符号をつける事になります。

計算の導出過程を見ると、原点が「閉曲面内にある時」と「閉曲面上にある時」のガウスの積分の値の2倍の差は「球」と「半球」の表面積の違いを意味しているという考察もできます。

原点と閉曲面の位置関係ガウスの積分の値くり抜いて除外する領域の形状
閉曲面の外側特に無し
閉曲面上\(2\pi\)半球
閉曲面の内側\(4\pi\)

【証明】ガウスの発散定理

電磁気学などでよく使う「ガウスの発散定理」(「発散定理」「ガウスの定理」とも)の証明をします。
ベクトル解析の分野の中の基礎的で重要な定理の1つになります。

電磁気学の「ガウスの法則」は、「ガウスの発散定理」と関係が深いですが、あくまで静電場に関して成立する事実関係としての「法則」を表すものとして用語の使い分けがなされるのが一般的です。

関連事項(内部リンク)

定理の内容

$$以下、ベクトル場を\overrightarrow{F}=(F_1,\hspace{2pt}F_2,\hspace{2pt}F_3)=(F_1(x,y,z),\hspace{2pt}F_2(x,y,z),\hspace{2pt}F_3(x,y,z))\hspace{2pt}とします。$$

ガウスの発散定理とは次のようなものです。

ガウスの発散定理

ある閉曲面内の体積分と法線面積分について、次の関係式が成立します。 $$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$あるいは、\int\int\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dxdydz = \int\int_S F_1 dzdy + \int\int_S F_2 dzdx+ \int\int_S F_3 dydx$$ $$S:閉曲面 V:閉曲面で囲まれた空間領域 $$ $$d\overrightarrow{s}=(ds_x,ds_y,ds_z)【成分には正負の符号がある事に注意】$$ 法線面積分を考えた時に使う面積要素 dxdy 等は、dsx 等と同じく、符号を持つので注意。曲面に表と裏を必ず決め、「裏→表」の向きに面積要素のベクトル\(d\overrightarrow{s}\) を立てて向きと成分の符号を考えます。

特に、次の3式が同時に成立し、加え合わせる事で定理全体が成立する事になります。$$\int\int\int_V\frac{\partial F_1}{\partial x}dxdydz=\int\int_S F_1 dydz$$ $$\int\int\int_V\frac{\partial F_2}{\partial y}dxdydz=\int\int_S F_2 dzdx$$ $$\int\int\int_V\frac{\partial F_3}{\partial z}dxdydz=\int\int_S F_3 dydx$$

積分の表記の仕方としては、次のように記す事もあります。これらは書き方を変えているだけで、全く同じ積分を表すという意味です。dxdyなどの表記の場合に積分記号を2つ重ねる表記にするのは、具体的な計算をする時には重積分の形になる事によります。$$\int_SF_1ds_x=\int\int_SF_1dydz$$ $$\int_SF_2ds_y=\int\int_SF_2dzdx$$ $$\int_SF_3ds_y=\int\int_SF_3dxdy$$

基本的な考え方は、複素関数論におけるグリーンの公式に似ています。要するに、ある多変数のスカラー関数について、変数が2つの特定の値の時に差をとったものは「その関数の偏微分の定積分」に等しいはず・・という発想を使います。

「スカラー関数の偏微分」を「微分する変数で定積分」する事により、特定の値のスカラー関数の差を作る事ができます。重積分の中でこの考え方を使う時は、偏微分に対する定積分の積分区間の端は一般には「関数の形」になります(yで積分するなら例えばy1=y1(x)というxの関数)。

発想自体は実はすごくシンプルなのですが、幾つか知っておかないとならない定義や公式がある事が「難しい」要因になります。特に必要になる事項を4つほど簡単に整理しておきます。

使う定義と公式の整理
①ベクトル場の「発散」の定義

ベクトル場\(\overrightarrow{F}\) に対する「発散」は次のようなスカラー関数です。 $$\mathrm{div}\overrightarrow{F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y} +\frac{\partial F_3}{\partial z}$$

②法線面積分の定義

法線面積分は、次のように計算できるものとして定義されます。 $$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S (F_1 ds_z + F_2 ds_y + F_3 ds_z)=\int_SF_1 ds_x+\int_SF_2 ds_y+\int_SF_3 ds_z$$積分記号に添えてあるSは、「特定の閉曲面S」の表面の全域(あるいはそれに対応する領域)に渡って積分をするという意味です。dsz および dxdy 等を面積要素とも言います。(dsz および dxdy は共にxy平面上の領域の面積要素。)

③ \(d\overrightarrow{s} \)の座標成分と射影面積の関係

$$ d\overrightarrow{s}=( ds_x , ds_y , ds_z ) $$

  • \(|ds_x| \):微小領域の「yz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_y| \):微小領域の「xz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_z| \) :微小領域の「xy平面」への射影領域の面積

特に三角形の微小領域を考えると、外積ベクトルの性質によりこれらの関係が明確になります。

④体積分と重積分の関係

体積分は、特定の空間領域の全域に渡ってスカラー関数を積分するものです $$\int_V G(x,y,z) dv=\int\int\int_V G(x,y,z) dxdydz$$。dv =dxdydz を体積要素とも呼びます。
特別な場合では体積要素 dv のまま具体的な計算もできますが、通常は体積要素を dxdydz の形にして重積分にしないと計算は難しい事が多いです。
具体的な関数があって積分の値を計算する時は、次のように、通常の重積分と同じく累次積分を行います。 $$\int\int\int_V G(x,y,z) dxdydz=\int_{Z1}^{Z2}\int_{Y1}^{Y2}\int_{X1}^{X2} G(x,y,z) dxdydz$$ この時に積分する変数の順番は変えられますが、積分する領域の形状によっては、初めに積分する2つの積分区間は定数ではなくて関数になります。ここでの例だと X1=X1(y,z), Y1=Y1(z) 等です。

発散定理(ガウスの定理)の考え方②

発散定理における閉曲面の扱い

積分する範囲が「閉曲面」である事は定理の性質・証明において重要です。

閉曲面とは球や楕円体などの閉じられた曲面の事です。
(ただし直方体等の「角ばった箇所」がある閉じられた立体においても、定理は成立します。証明の過程を見ると、その事は分かりやすいかと思います。)

閉曲面は、凹んだような箇所がある曲面である場合もあります。
しかし、発散定理の証明においては実は「凹みがない」球のような曲面で成立する事を示せば十分です。それは、面積分に関して曲面は分割するできるからです。

例えば閉曲面を平面で真っ二つにした場合には、切断面の部分(2つに分かれた閉曲面の共有部分)では2つの積分の値が絶対値は同じで逆符号になります。それを加え合わせるとゼロになります。これは、共有される切断面においては「ベクトル場は同じ」で分割された2つの閉曲面同士で「法線ベクトルが絶対値は同じで逆符号」である事に起因します。

そのため、凹みのある閉曲面は出っ張ったところで切断して2つ以上の閉曲面に分けてしまう事により、法線面積分も2つの「凹みのない」閉曲面での法線面積分の和にできるのです。
(体積分に関しても、閉曲面を分割すると分割した領域での体積分を加えれば全体になります。)

つまり、発散定理の証明は「凹みのない」閉曲面で示されれば、凹みのある閉曲面で成立する事も示されるという事です。

発散定理(ガウスの定理)における閉曲面の扱い

証明

まず、次式から証明します。閉曲面は凹みがないものとします。

$$\int\int\int_V\frac{\partial F_1}{\partial x}dxdydz=\int\int_S F_1 dydz$$

これ1つが証明できれば、他の2式も同じ形なので全く同様に証明できます。
最後に3式を加え合わせれば発散定理の形になります。

積分する前の段階で微小領域を考えると、\(d\overrightarrow{s}=( ds_x , ds_y , ds_z )\)の第1成分dsの絶対値は微小領域のyz平面への射影面積になります。

ところで、yz平面への「同じ射影の領域」を持つ閉曲面の微小領域は必ず2つ存在し、それらの第1成分は必ず符号のプラスマイナスが異なります。同じ射影の領域を持ちますから\(d\overrightarrow{s}\)の第1成分は「同じ大きさで異符号」です。

しかも、その組み合わせの合計で閉曲面は全て覆える事になります。ベクトル場の第1成分Fとdsの積を合計したものはyz平面上の積分になります。【Fは関数F(x,y,z) である事に注意。】
ただし、yz平面上で積分をすると、対応する閉曲面の領域は2つありますから、dsの符号がプラスになる部分とマイナスになる部分に分けられます。

射影領域と閉曲面の関係
凹みのない閉曲面ではxy平面への同一の射影領域を持つ部分が2つ存在し、それらの微小領域に対する法線ベクトルのz成分は互いに異符号になります。yz平面、xz平面への射影についても全く同様に考える事ができます。

ここで、閉曲面Sのyz平面への射影領域であり、yz平面での積分範囲でもある領域をSyzと置きます。
この平面領域Syzは、「表と裏」に関して次の約束事をしておきます:

◆約束事:平面領域Syz
x方向のプラス方向に面した部分が「表」でx方向のマイナス方向に面した部分が「裏」
と決めます。
つまりこの領域Syz上での面積要素のベクトルは\(d\overrightarrow{s}=(ds_x,0,0)\) であり「ds およびdydzの符号は、必ずプラス符号として考える」という事です。
発散定理(ガウスの定理)の証明
ベクトル場の第3成分とxy平面(の射影)での積分を考えた場合はこの図のようになります。図の下側の領域では「もとの閉曲面Sでの面積要素」の符号が全てマイナスなので、「面積要素がプラス符号の平面領域(図のSxy)」での積分として表記する場合には積分全体に対してマイナス符号をつける形になります。

またyとzの関数X(y,z)とX(y,z)を考えて、
それらは各々「yz平面への同じ射影領域を持つ」2つの微小領域でのx座標であるとします。
(領域を2分割して考える時に「x座標の『yとzによる関数』の形」が違うためにそのように考えます。)
すると、閉曲面全体のベクトル場の第1成分Fのyz平面上の領域Syzでの積分は、
次のように差の形で表せる事になります。

$$\int_SF_1ds_x=\int\int_{Syz}F_1(X_B,y,z)dydz-\int\int_{Syz}F_1(X_A,y,z)dydz$$

第1項目はもとの閉曲面で面積要素のベクトルの成分dsがプラス符号である領域の積分です。
第2項目はもとの閉曲面で面積要素のベクトルの成分dsがマイナス符号である領域の積分であり、
領域Syzでの積分では面積要素はプラス符号で扱うと約束しているので「マイナス」は積分全体につける形をとっているわけです。

ここで、差の形になっている部分を、「x方向の『偏微分の定積分』」として考える事ができます。

$$\int\int_{Syz}F_1(X_B,y,z)dydz-\int\int_{Syz}F_1(X_A,y,z)dydz=\int\int_{Syz}\left(\int_{\large{X_B}}^{\large{X_A}}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial x}dx\right)dydz$$

領域Syzでの積分についてもy方向とz方向の積分区間を書くと次のようになります。

$$\int\int_{Syz}\left(\int_{\large{X_B}}^{\large{X_A}}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial x}dx\right)dydz=\int_{\large{Z_B}}^{\large{Z_A}}\int_{\large{Y_B}}^{\large{Y_A}}\int_{\large{X_B}}^{\large{X_A}}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial x}dxdydz$$

$$=\int\int\int_V\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial x}dxdydz$$

ここで重積分の形にした箇所のdx、dy、dzは全てプラス符号です。つまり「積分変数自体の符号は気にしない」で計算可能な、通常の積分として考えてよい事になります。(体積要素としてdxdydzをdvと置き、1つの塊として見た時も符号はプラスだけで考えます。)

重積分を累次積分する時の積分の順番は入れ替え可能ですが、積分区間は最後に積分するところを除いて一般には関数になります。
例えば上記の場合の重積分の箇所においてx→y→zの順で累次積分をする場合、積分区間に入っているXとXはyとzの関数【定数である事もあり得る】であり、YとYはzの関数、ZとZは何らかの定数という事になります。
累次積分の順番を変えるとどの積分区間が何の変数のどういう関数形になっているかは変わりますが、同じ関数を同じ領域で積分すれば同じ値を得ます。

これで証明の大体の部分は完了しています。

ところで一番最初の積分については、dsをdydzの形で表記する事もできます。(dxdyの形にする時は、積分記号は重積分のように2つ重ねる表記にします。)

$$\int_SF_1ds_x=\int\int_SF_1dydz$$

これらの結果を等号で結ぶと、証明すべき式になります。

$$\int\int\int_V\frac{\partial F_1}{\partial x}dxdydz=\int\int_SF_1dydz【証明終り】$$

同様に、Fについてはxz平面上の積分を考えて、差の形をyでの偏微分の定積分で表します。Fについてはxy平面上の積分を考えて、差の形をxでの偏微分の定積分で表します。

$$\int\int\int_V\frac{\partial F_2}{\partial y}dxdydz=\int\int_SF_2dzdx$$

$$\int\int\int_V\frac{\partial F_3}{\partial z}dxdydz=\int\int_SF_3dxdy$$

3式を加え合わせると次のようになります。

$$\int\int\int_V\left(\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}\right)dxdydz=\int\int_S(F_1dydz+F_2dzdx+F_3dxdy)$$

$$\Leftrightarrow \int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}【発散定理の形】$$

上記の発散定理における閉曲面の扱いで記したように、閉曲面に凹みがある場合でも領域を切断して分割する事で定理が成立します。

法線面積分の定義と性質

ベクトル解析電磁気学の分野で使用する「法線面積分」は、閉曲面に分布するベクトル場に対して定義されるものです。ベクトル場とは、すなわちベクトルの3成分のいずれもがx、y、zのスカラー関数になっているベクトルです。

閉曲面と閉曲線
閉曲面とは、例えば球や楕円体などの、「閉じた」曲面です。(ドーナツ型・うきわ型の「トーラス」なども含みます。)また、閉曲線とは、円や楕円のように、ぐるっと一周つながった曲線を言います。

★書籍の紙面ではベクトルを表す表記として文字をボールド体にする方法が多く使われますが、このページではベクトルは一貫して文字の上に矢印を添える表記方法を採用します。
スカラー関数に対する「面積分」は似ていますが別物なので注意。具体的な計算方法も異なります。

ベクトルの内積の考え方を使用します。

法線面積分を表す式には幾つかの表記方法がありますが、次のようになります。いずれも等号で結ぶ事ができ、計算すれば同じ値になります。

「法線面積分」の定義

$$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S (F_1 ds_1 + F_2 ds_2 + F_3 ds_3)=\int_SF_1 ds_1+\int_SF_2 ds_2+\int_SF_3 ds_3$$ $$\overrightarrow{F}=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))$$ $$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}を、\int_S \overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{n}dsとも書きます。$$ 積分記号に添えてあるSは、surface(表面)からの記号として一般的に使われる記号です。
特定の閉曲面の表面全体(表側あるいは裏側のいずれかの全体)を表します。

また、二重積分で表して計算する事も可能です。その場合、各項の具体的な計算をする時には2方向の積分区間をきちんと指定します。 $$\int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int\int_S (F_1 dydz + F_2 dzdx + F_3 dxdy)$$ $$=\int_{Y1}^{Y2}\int_{Z1}^{Z2}F_1 dydz+\int_{Z1}^{Z2}\int_{X1}^{X2}F_2 dzdx+\int_{X1}^{X2}\int_{Y1}^{Y2}F_3 dxdy$$

\(\overrightarrow{n}\) は、曲面の各点に対する単位法線ベクトルを表し、長さは1で曲面に対し垂直な向きのものです。また、\(d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}\) になります。詳しくは次のようになります。

法線ベクトル

$$ d\overrightarrow{s}=( ds_1 , ds_2 , ds_3 ) $$ $$|\overrightarrow{n}|=1,\hspace{10pt}|d\overrightarrow{s}|=ds=\sqrt{ds_1^2 + ds_2^2 + ds_3^2},\hspace{10pt}d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}$$ \(d\overrightarrow{s}\) および単位法線ベクトル\(d\overrightarrow{n}\) は、閉曲面上の各点から曲面の「裏側→表側」に向かう向きに伸びると約束します。
各成分は、微小面積の平面への「射影」になっています。

  • \(|ds_1| \)=「yz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_2| \)=「xz平面」への射影領域の面積
  • \(|ds_3| \) =「xy平面」への射影領域の面積
証明:微小面積として三角形を考えた場合、\(d\overrightarrow{s}\) は2辺を成すベクトルで作られる外積ベクトルの半分として表されます。
外積ベクトルの成分の大きさ(絶対値)はyz平面、xz平面、xy平面への三角形の射影の面積に等しくなりますから、\(d\overrightarrow{s}=( ds_1 , ds_2 , ds_3 )\) の各成分の大きさも、垂直な3つ平面への微小面積の射影面積に等しくなる事が示されます。

法線ベクトルの成分ds、ds、dsには通常のベクトルと同じく符号があります。
式としては、法線ベクトルと射影平面に垂直な軸がなす角の余弦の符号と同じプラスマイナスの符号を持つと定義します。例えば、dsであれば対応する射影平面がyz平面で、それに垂直な軸はx軸ですから、法線ベクトルとx軸がなす角を見ます。それが鋭角であればdsの符号は+で、鈍角であれば-の符号になります。その符号は、座標上の図に描いてみた時の向きから判定したものともちろん一致します。

図で状況を見ながら式の意味を考えると分かりやすいでしょう。
つまり、球面などの閉曲面の各点にベクトル場がぎっしり詰まっている感じです。それを曲面全体に渡って積分します。その際に、ベクトル場の「曲面の法線ベクトルの向きの成分だけ」を内積によって取り出したものを考えているわけです。

曲面に垂直な法線ベクトル(大きさは微小面積)を考え、ベクトル場との内積を考えます。法線ベクトルのうち、長さを1としたものを「単位法線ベクトル」と言います。

微小面積を大きさに持つ法線ベクトル\(d\overrightarrow{s}=ds\overrightarrow{n}\)と微小面積の射影面積との関係も、図に描いて外積ベクトルとして捉えると見通しがよいです。

法線ベクトルと外積の関係
平行四辺形で考えても本質は同じです。外積を使うと少見通しはよくなります。内積がスカラーであるのに対し、外積はベクトルである事に注意。微小な三角形の面積を外積ベクトルの大きさで表すと、そのベクトルの各成分は微小三角形のyz、xz、xy平面への射影面積になります。

法線ベクトル\(d\overrightarrow{s}\)の成分の符号については、個々の法線ベクトルについて例えば(-1,2,1)といった成分表示となる事からプラスマイナスの符号を持ちます。各成分の「大きさ」については、微小面積のyz平面、xz平面、xy平面への射影面積に等しくなるという事です。

法線ベクトルの成分の符号
法線ベクトルの向きは「閉曲面の裏から表に向かう方向」にとります。その成分は法線ベクトルの具体的な向きによって+か―の符号があります。式で書く場合は、法線ベクトルと軸とのなす角の余弦によって符号を判定します。

積分内の内積の部分については、余弦を使ったほうの内積の定義として書く場合もあります。

$$\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=|\overrightarrow{F}||\overrightarrow{s}|\cos \theta$$

ただし、電磁気学などで法線面積分を考える場合では、特別な形のモデルで最初から考える場合も多いのです。例えば、ベクトル場が曲面に全て垂直であれば公式を使わなくても角度は0とすぐに判断できて、余弦は1になります。

ベクトル解析と勾配・回転・発散・・grad, rot, div

このページでは、電磁気学などで使われる「ベクトル解析」という数学の分野について説明します。
その中でも特に、勾配・発散・回転と呼ばれるものについての説明を行います。

これは「ベクトルの微積分・力学での応用」の延長線上にある理論です。純粋数学よりも、応用数学の色彩の濃い微積分学の分野になります。(もちろん、純粋数学的・解析学的に考察する事も可能です。)

スカラー関数の変数が特に位置座標である事を強調する場合には「スカラー場」と言う事もあります。このページではスカラー場という名称を使います。

はじめに:「場」という考え方とベクトル解析

勾配(grad)、発散(div)、回転(rot)は「スカラー場」や「ベクトル場」というものに対して考えます。それらはいずれもスカラーやベクトルの仲間なのですが、特にどのようなスカラーやベクトルをそのように呼ぶのかを最初に述べておきます。

ベクトル場
スカラー場
電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例 

ベクトル場

てきとうな電荷があって、まわりに別の電荷を持ってくると、電荷同士に力が働きます。この時に、後から持ってきたほうの電荷を置く場所によって働く力が変わってきます。これは数式で表すと、電荷が受ける力が座標上の点ごとに異なると考える事もできて、力を座標変数の関数で表されたベクトルで表せます。このように表されるベクトルを、「ベクトル場」と呼びます。ベクトル場の各成分は、座標成分による多変数関数になっています。(必要に応じて時間変化もするとして時間成分も加えます。)

このようなベクトル場の微積分を扱う数学の分野をベクトル解析と呼んだりします。後述するスカラー場の微積分も合わせて考えます(スカラーをベクトルに変換する操作などが含まれます) 。

★ ベクトル場の事を「ベクトル界」と言う事もあります。ベクトル界という呼び方は工学系で使われる事が多いとも言われます。
どちらが正しいかの基準はありませんが、このサイトでは、「ベクトル場」の呼び方を使用します。
「場(field)」という語は、「遠隔力」という考え方に対する概念として物理学で単独でも使う事があります。他方、『界』という語は単独では普通は使わない事が多いので、用語としては「場」という語でこのサイトでは統一します。

「ベクトル場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように各成分が x, y, z の関数として表される空間ベクトルを「ベクトル場」と呼びます: $$\overrightarrow {F}(x,y,z)=(\hspace{3pt}F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z)\hspace{3pt})$$ $$ベクトルの各成分\hspace{3pt}F_1(x,y,z)などは、x,y,z の多変数関数(スカラー関数)$$ 平面ベクトルで考えたとしても、成分が1つ減るだけで同様にベクトル場を考える事ができます。4成分以上の場合も理論的には考える事は可能ですが、普通はあまり考えません。ここでは基本的に3成分の空間ベクトルのベクトル場を考えます。

ベクトル場自体は多変数関数を成分とする「ベクトル」とも言えるので、上記の形が「ベクトル場の『定義』」であるというよりは、ベクトルのうち「このような形で表されるものを特にベクトル場と呼ぶ」という感じだと言えます。

物体の軌道をベクトルで表す時に、物体の位置座標を「時間の関数」として表す方法があったわけですが、それとの違いは、成分となる関数の変数に「座標成分が含まれている」という事です。

$$\overrightarrow {X}(t)=(x(t),y(t),z(t)) といったベクトルとは少し区別されるのです。$$

2つの電荷プラス同士であれば反発し、プラスとマイナスであれば引き合います。
向きは2つの電荷を結ぶ直線に沿い、遠くに離れるほど力の大きさは弱くなります。
「電荷に働く力を「場」として見る場合は「電場」と呼びます。

スカラー場

もう1つ、ベクトル解析では「スカラー場」というものも考えて、ベクトル場との使い分けを上手に行う事が理解のポイントになっていきます。

スカラー場とは、数式的には座標成分 x, y, z を変数とする多変数関数の事です。意味としては何ら難しくないのですが、電磁気学等の理論ではベクトル場と入り乱れる形で使われるので、物理の理論の中では慣れないと少し難しく感じると思います。

「スカラー場」の意味

x, y, z の直交座標上で、
次のように x, y, z の関数として表される多変数関数を「スカラー場」と呼びます: $$\phi= \phi (x,y,z)$$ 記号はここでは「\(\phi\)ファイ」を用いていますが、別に何でも構いません。 これは数学的に見れば通常の多変数関数であって、これをスカラー場と呼ぶのは基本的には x, y, z が空間上の直交座標の成分である事が明確であって物理等で用いられる場合、特にベクトル場と区別する場合です。

電磁気学でのベクトル場とスカラー場の例

+1[C] の電荷をある場所に置いたときに、その電荷が受ける力ベクトルを位置座標の関数で表したものはベクトル場であり、特に電場と呼びます。電気だけでなく磁気についても同じ考え方ができます。磁気の場合は単独の「磁荷」は存在しないと言われていますが、仮想的に単独の「磁荷」を考えて、磁荷が受ける力のベクトル場の事を磁場と呼びます。

電磁気学では、これを総称して電磁場と呼んだりもします。磁場は電流によって作られ、電流を生じさせる電圧(起電力)は磁場の変化によって作られるという関係が知られています。電磁気学は、観測によって得られたそれらの関係を定量的に表せるように数式で整理する物理学の分野です。

ベクトル場の具体例として、+1[C] の電荷のまわりの電場は次のように表せます(その付近に、別の+1[C] の電荷を持ってくると考えます。k は比例定数です。 ):

$$\overrightarrow {E}(x,y,z)=\left(\frac{kx}{r^3}, \frac{ky}{r^3}, \frac{kz}{r^3} \right)= \left (\frac{kx}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{ky}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}, \frac{kz}{(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}} \right )$$

$$r= \sqrt{x^2+y^2+z^2} = (x^2+y^2+z^2)^{\frac{1}{2}}の関係で処理しています。 \frac{kx}{r^3} =\frac{k}{r^2}\cdot \frac{x}{r}という事です。 $$

$$詳細は別途に記しますが、ここでの電場の「大きさ」は| \overrightarrow {E} |=\frac{k}{r^2}になります。$$

ただし、このように具体的な座標成分で記すと計算が面倒なので、大枠となる理論ではベクトル場という事だけ踏まえて数式的な処理を加えていく事が行われます。個々の具体的な事例の考察では具体的な関数にして考えたりします。

このようなベクトル場である電場に対して、ある位置での+1[C]の電荷が持つ事になる位置エネルギー(または「ポテンシャル」)を電位と言います。これは日常でもよく耳にすると思われる電圧と本質的には同じものです。電位は、ベクトルでは無く、スカラー場になります。つまり、x, y, z という3つの変数によって決まる1つの値が決まるという3変数関数になります。

$$「電位」V(x,y,z) はべクトル場ではなく、スカラー場です。$$

これらのベクトル場やスカラー場の微積分を考えられる時に使われるのが、次に記す「勾配」「発散」「回転」というものです。

ベクトル場の発散(div)と回転(rot)、スカラー場の勾配(grad)

ではここで、ベクトル解析で重要な 勾配、発散、回転 と呼ばれるものの説明をします。

div, rot, grad ・・定義と考え方
図形的にはどのような意味を持つ?

※ここでの「発散」は、「無限大に発散」という意味ではなく、また別のものです。少々分かりにくいかもしれませんが、同じ用語を使う習慣があります。
※「回転」は「循環」と呼ばれる場合もあります。

勾配、発散、回転の定義には偏微分を用います。
ベクトル場、スカラー場ともに多変数関数である事が直接的に関わっています。

div, rot, grad ・・定義と考え方

あるベクトル場 \(\overrightarrow {F}\) があったとき、それに対する発散、回転を考える事になります。(成分が x, y, z の関数になっていない通常の「ベクトル」に対しては基本的に考えないので注意。)

他方、勾配についてはスカラー場に対して定義します。

$$ベクトル場\overrightarrow {F}(x,y,z)に対して、発散:\mathrm{div} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} 回転:\mathrm{rot} \overrightarrow {F},\hspace{10pt} を定義します。$$

$$また、スカラー場\phi (x,y,z)に対して、 勾配:\mathrm{grad} \phi ,\hspace{10pt} を定義します。$$

定義
勾配(gradient)【グレディエント】
  • スカラー場 \(\phi (x,y,z)\)に対して次のベクトル(関数)を勾配(勾配ベクトル)と呼びます。
    $$\mathrm{grad} \phi=\left(\frac{\partial \phi}{\partial x},\frac{\partial \phi}{\partial y},\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)$$
  • \(\mathrm{grad}\phiの代わりに\nabla \phi とも書きます。\)
発散(divergence)【ダイヴァージェンス】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のスカラー(関数)を発散と呼びます。
    $$\mathrm{div} \overrightarrow {F}=\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+\frac{\partial F_3}{\partial z}$$
  • \(\mathrm{div}\overrightarrow {A}の代わりに\nabla \cdot \overrightarrow {A} とも書きます。\)
    \((F_1,F_2,F_3)=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))\) です。
回転(rotation,curl)【ローテイション、カール】
  • ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)=(F_1,F_2,F_3)\) に対する次のベクトル(関数)を回転と呼びます。$$\mathrm{rot} \overrightarrow {A}=\left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z}, \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x}, \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$
  • \(\mathrm{rot}\overrightarrow {A}の代わりに\mathrm{curl}\overrightarrow {A}、あるいは\nabla × \overrightarrow {A} とも書きます。\)

★ 見ての通り、いずれも偏微分を用いて定義されます。
偏微分とは、1つの変数だけに着目し、他の変数は定数扱いにして微分操作を行う演算です。
★ \(\nabla \cdot \overrightarrow {A},\nabla × \overrightarrow {A}\) という表記について:これらの定義による式の形が、ベクトルの内積や外積の計算規則と似ている事からそのようにも書く習慣があります。この逆三角形の記号∇は「ナブラ」と呼ばれます。
★ 勾配・発散・回転自体も x, y, z を変数とするベクトルや実関数ですからベクトル場とスカラー場という事になりますが、勾配・発散・回転自体に対してはあまり「場」とは言わない事が多いです。

このように定義した時、
勾配と回転はベクトルであり、発散はスカラーである事に、少し注意してみてください。

同時に、勾配を考える対象はスカラー場であり、
発散と回転を考える対象はベクトル場であるわけです。少し整理しましょう。

対象の関数 勾配・発散・回転 ベクトル・スカラーの区別
スカラー場\(\phi (x,y,z)\) \(\mathrm{grad}\phi \) 勾配:ベクトル(成分は関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{div}\overrightarrow {F}\) 発散:スカラー(関数)
ベクトル場 \(\overrightarrow {F}(x,y,z)\) \(\mathrm{rot}\overrightarrow {F}\) 回転:ベクトル(成分は関数)

★ 尚、発散と回転については、上記で定義した数式を「積分した形」を発散および回転と呼ぶ場合もありますが、このサイトでは一貫して上記の形の定義を用いる事にします。

図形的にはどのような意味を持つ?

こういった色々見慣れない記号をなぜ考えるのか?という話にもなるかと思いますが、これらに関しては基本的に「3次元の空間」の中のベクトルの理論ですので、図形的を持っている事が理解の1つのポイントです。

まず勾配については、偏微分を考えている事に注目すると、あるスカラー場が x方向、y方向、z方向に対して、その向きだけの変化率をベクトルで表したものになります。

次に、ベクトル場の発散についてです。これは位置が微小変化した時に、特定の量が全体として「周りからどれだけ出入りするか」の変化率を表します。単位体積から出入りする流量(※1)を表すとも言えます。
ベクトル場の発散に体積要素(dv = dxdydz)を掛け算すると、微小な領域に出入りする流量を表します。発散を面積分と重積分(※2) を結びつける公式(発散定理、ガウスの定理)もあり、それも物理で重要です。

(※1)もう少し詳しく言いますと、電磁気学の理論の一部は、流体力学の理論とのアナロジー(類似性)から類推して組み立てられています。「流量」とは流体力学で使われる用語であり、ある断面を1秒間あたりに通過する流体の体積を表します。
(※2)この場合、dv = dxdydz を考えるので体積積分とも言います)

回転については、定義式からは少し分かり辛いと思いますが、じつはこれを積分(「法線面積分」という種類の積分)をした時に文字通りの意味を表します。公式(「ストークスの定理」)を用いる事で、あるベクトル場の回転の面積分は、そのベクトル場に対して閉曲線を1周するように接線線積分したものに等しくなるのです。ベクトル場の回転は流体力学では「渦」を表現するのに使い、電磁気学などの領域でも使用します。

これらの図形的な意味を捉える時は、積分を考える必要がある場合もあります。

勾配・発散・回転に関するいくつかの公式

最後に、いくつかの公式について紹介をしておきましょう。

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式
勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式 

勾配・発散・回転の公式①:色々な組み合わせによる関係式

ベクトル場の勾配・発散・回転を使ってどういう理論が展開されるのかを軽く見るために、いくつかの公式を挙げてみます。これらは、一般的には暗記するほど重要ではないと思いますが、簡単なものや特徴的なものは知っておくと物理学全般を学ぶ時に便利です。

勾配・発散・回転のいくつかの公式

\(\phi\) などはスカラー場、\(\overrightarrow {F}\) などはベクトル場であるとします。

  1. \(\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)\)
  2. \(\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\mathrm{div}(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi)+\phi\mathrm{div}\overrightarrow {F}\)
  3. \(\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)=0\)
  4. \(\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=0\)
  5. \(\mathrm{rot}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})=\mathrm{grad}(\mathrm{div}\overrightarrow {F})-\left(\frac{\partial ^2F_1}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 F_2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 F_3}{\partial z^2}\right)\)

\(\phi_1\phi_2\) は2つのスカラー場の積(普通の掛け算)であり、\(\phi\overrightarrow {F}\) はベクトル場の各成分に(同一の)スカラー場を掛け算したものです。\(\overrightarrow {F}\cdot \mathrm{grad}\phi\) は、内積です。
電磁気学の理論では、3番目と4番目の関係は特に重要です。
5番目の形の式は、回転はベクトル場から別のベクトル(場)を作る操作であるために考える事ができる点に注意。(勾配や発散では同じような事はできません。)

これらの公式の証明は、基本的には定義に直接当てはめて、積の微分公式などの基本公式を使って丁寧に計算する事で得られます。例えば、1番目の公式は各成分ごとに積の微分公式を使うだけです。
(偏微分の場合も通常の微分の場合と同じ形の積の微分公式が成立します。)

$$\mathrm{grad}(\phi_1\phi_2)=\left(\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial x},\frac{\partial (\phi_1\phi_2) }{\partial y},\frac{\partial \ (\phi_1\phi_2) }{\partial z}\right)$$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}+ \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$= \left( \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial x} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2}{\partial y} , \phi_1 \frac{\partial \phi_2 }{\partial z}\right) + \left(\phi_2 \frac{\partial \phi_1}{\partial x} , \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial y}, \phi_2 \frac{\partial \phi_1 }{\partial z} \right) $$

$$=\phi_1(\mathrm{grad}\phi_2)+\phi_2(\mathrm{grad}\phi_1)【1番目の公式の証明終り】$$

2番目の公式も、積の微分公式を用いるだけです。

$$\mathrm{div}(\phi\overrightarrow {F})=\frac{\partial (\phi F_1)}{\partial x}+\frac{\partial (\phi F_2)}{\partial y}+\frac{\partial (\phi F_3)}{\partial z} $$

$$ = \left( \phi \frac{\partial F_1}{\partial x}+ F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_2}{\partial y}+ F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} \right) + \left( \phi \frac{\partial F_3}{\partial z} +F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} \right) $$

$$ = \phi \left( \frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}+ \frac{\partial F_3}{\partial z}\right) + F_1 \frac{\partial \phi }{\partial x} + F_2 \frac{\partial \phi }{\partial y} + F_3 \frac{\partial \phi }{\partial z} $$

$$= \phi \mathrm{div} \overrightarrow {F}+ \overrightarrow {F} \cdot \mathrm{grad}\phi 【2番目の公式の証明終り】 $$

3番目と4番目の式は、2つの変数で続けて偏微分を行う時には偏微分の順番は関係なく同じ結果になる(※)という事を使って示します。【※解析学的に厳密に言うと条件がありますが、通常の連続関数であれば基本的に問題ありません。】

3成分のそれぞれについて0になる事を示す必要がありますが、変数が入れ替わるだけで同じ形・同じ計算ですので、第1成分(x成分)についてのみ記します。

$$\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\phi)の第1成分=\frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{\partial \phi}{\partial z}\right)- \frac{\partial}{\partial z} \left (\frac{\partial \phi}{\partial y} \right) = \frac{\partial^2 \phi}{\partial z \partial y }- \frac{\partial^2 \phi}{\partial y \partial z }=0 $$

$$【3番目の公式(第1成分)証明終り】 $$

$$\mathrm{div}(\mathrm{rot}\overrightarrow {F})の第1成分= \mathrm{div} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z},
\frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x},
\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right)$$

$$= \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial z} \left( \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y}\right) $$

$$= \left( \frac{\partial^2 F_3 }{\partial x \partial y }- \frac{\partial^2 F_3 }{\partial y \partial x } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_1 }{\partial y \partial z }- \frac{\partial^2 F_1 }{\partial z \partial y } \right) + \left( \frac{\partial^2 F_2 }{\partial z \partial x }- \frac{\partial^2 F_2 }{\partial x \partial z } \right) =0 $$

$$【4番目の公式(第1成分)証明終り】(最後の式では消える項ごとにまとめました。) $$

5番目の公式に関しては少々計算が面倒ですが、定義に当てはめて丁寧に計算する事で結果が得られます。特別な定理や計算技巧は必要ありません。

この他にも、勾配・発散・回転の組み合わせによる色々な公式が存在します。

勾配・発散・回転の公式②:積分を含む公式

勾配・発散・回転のいずれも微分(偏微分)を使って定義されるものであるわけですが、発散と回転に関してはそれらに対する積分を考える事で独特な形の公式が成立します。しかも、それらは物理の理論の中でも重要です。

2つの公式を、ごく簡単にですが挙げておきます。上記でも少し触れた「発散定理(ガウスの定理)」と「ストークスの定理」です。これらは積分を含む公式であり、通常の積分ではなく「法線面積分」「接線線積分」「体積積分」という種類の積分が含まれます。

$$発散定理:\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F} dv = \int_S \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ $$ストークスの定理:\int_S \mathrm{rot}\overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{s} = \int_C \overrightarrow{A}\cdot d\overrightarrow{r}$$

ここでは、C:閉曲線、S:閉曲面の表面、V:閉曲面内の領域 を表しています。

接線線積分については力学でも使う考え方ですが、法線面積分については初歩的な運動の解析にはあまり使わないかもしれません。基本的な考え方は共通していて、微小な領域において内積の計算をしてから積分をする(合計する)というものです。

体積積分は重積分で表す事もでき、法線面積分も内積の処理をした後に重積分として表す事もできます。(しかも、その事が証明で重要です。)

閉曲線上の接線線積分の積分方向は、xy平面などの平面上で考える場合には反時計回り(曲線の内部が左側に来る向きであり、閉曲線の「正方向」とも言います)として考えます。
空間上に閉曲線がある場合には、閉曲線を外周とする曲面の表側を決めたうえで、接線線積分の積分方向を定めます。

このベクトル解析の領域は、物理の電磁気学や流体力学と合わせて学んでみる事がおすすめです。数学的に詳しい考察が必要な部分と、応用で重要になる部分との関連がよく分かるようになると思います。