数列の和の公式

数列などについて成立する和の公式についてまとめました。

nの1乗、2乗、3乗に関する和

1+2+3+4+5+6+7=28です。
これは直接足し算をしてもよいのですが、じつは7×8÷2=28のようにも計算できます。
これは偶然ではなくて必然であるというのが、数列の和に関する公式です。
1から100までの自然数の和も、100×101÷2=5050のように計算できます。

同様に1からnまでの自然数の「2乗」や「3乗」を全て加えた時に成立する公式があります。

数列の和に関する公式
  1. 1~nまでの自然数の和 $$\sum_{j=1}^nj=\frac{n(n+1)}{2}$$
  2. 1~nまでの自然数のそれぞれの「2乗」の和 $$\sum_{j=1}^nj^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}$$
  3. 1~nまでの自然数のそれぞれの「3乗」の和$$\sum_{j=1}^nj^3=\frac{n^2(n+1)^2}{4}$$

4乗の和以降の公式も理論的には作れますが、複雑になるので公式として使われる事は基本的にはありません。Σ(シグマ)は和を表す記号です。

これらのうち、特に1+2+3+・・+nを表す公式は何かの個数の数え上げの際に(突然)使う時があるので、知っておくと便利な公式です。

ここで、もし1から「n-1」まで加えるといった場合には、単純に上記公式でnのところをn-1に置き換えれば計算可能です。例えば1~n-1までの和は次のようになります。

$$\sum_{j=1}^{n-1}j=\frac{n(n-1)}{2}$$

n→n-1と、n+1→(n-1)+1=n の置き換えで、
結果的にn(n-1)のように書けるという事です。

証明については高校で「証明せよ」という形で問われる事はほとんどないと思いますが、一応どういう根拠であるのかを知っておき、また計算問題の練習としてやってみるのもよいと思います。

図を使う方法も含めて複数の証明方法がありますが、例えば次のように考えます。

1+2+3+4+・・・+n-1+n=Sとした時、
全く同じ式を「和の順番だけ入れ替えた」ものを考えます。

つまり、n+(n-1)+(n-2)+(n-3)+(n-4)+・・・+2+1=Sを考えます。

2つ並べて、左辺と右辺をそれぞれについて加えます。

1+2+3+4+・・・+n-1+n=S
n+(n-1)+(n-2)+(n-3)+(n-4)+・・・+2+1=S

この時、左辺については左から見て何番目の項であるかを合わせて加えます。
例えば、左から3番目にある項は3とn-2なのでこれらを足し合わせる形にします。
すると、次のようになります。
(1+n)+(1+n)+(1+n)+・・・+(1+n)=2s

(1+n)という項はn個ある事に注意すると、
n×(1+n)=2S ⇔ S=n(n+1)/2となり、和の公式を得ます。

ここでどの項も必ず(1+n)になるという事は、
左からm番目の項についてm+(n-m+1)=n+1となるので保証されるというわけです。
【例えばn=3なら3+(n-3+1)=3+(nー2)=n+1です。】

では、2乗の和についてはどうでしょう。考え方は似ているのですが、少し工夫が必要です。

まず、1+2+3+・・・+nを考えます。
この時、最初から2乗を考えずに1乗を考えるところがポイントです。

これについては公式が得られているので1+2+3+・・・+n=n(1+n)/2

続いて、2+3+・・+nを考えます。
これは全体から1を引いただけなので2+3+・・+n=n(1+n)/2-1です。

さらに、3+4+5+・・・+nなどを考えていきます。

1+2+3+4+5+・・・+n=n(1+n)/2
2+3+4+5+・・・+n=n(1+n)/2-1
3+4+5+・・・+n=n(1+n)/2-1-2
4+5+・・・+n=n(1+n)/2-1-2-3
5+・・・+n=n(1+n)/2-1-2-3-4
・・・
n=n(1+n)/2-1-2-3-4-・・・-(n-1)
を考えます。

これらn個の式の両辺を全部加えて等号でつなぐと、
左辺については1が1個、2が2個、3が3個、4が4個、・・・nがn個ある事が分かります。
3が3個という事は3×3=3ですから、これで「2乗」の和ができるわけです。
右辺については、まずn(1+n)/2がn個ですからn(1+n)/2という項があります。(これが公式で「nの3乗」がある理由です。)
続いて引き算の部分は、1乗の和で表されるものをさらに1~n-1について和をとる事になります。
1~n-1までの和としてΣ{j(1+j)/2}を考えるという事です。
この時に「2乗の和」が発生しますが、これは左辺にもありますので移項できます。
ただし、右辺で生じるのは「1からn-1までの」2乗の和なので、「1からnまでの2乗の和」からnを引いたものになります。

+2+3+4+・・・+n=Sとして、

$$S=n\cdot\frac{n(n+1)}{2}-\sum_{j=1}^{n-1}\frac{j(j+1)}{2}=\frac{n^2(n+1)}{2}-\frac{(S-n^2)}{2}-\frac{n(n-1)}{4}$$

⇔3S/2=n(n+1)/2+n/2-n(n-1)/4
=(2n+3n+n)/4
=n(n+1)(2n+1)/4 【うまい具合に因数分解できます。】
⇔S=n(n+1)(2n+1)/6

3乗の和の公式も同じようにできて、今度は2乗の和から1つずつ項を引いたn個の式を加えます。

1+2+3+4+5+・・・+n=n(n+1)(2n+1)/6
+3+4+5+・・・+n=n(n+1)(2n+1)/6-1
+4+5+・・・+n=n(n+1)(2n+1)/6-1-2
+5+・・・+n=n(n+1)(2n+1)/6-1-2-3
+・・・+n=n(n+1)(2n+1)/6-1-2-3-4
・・・
n=n(n+1)(2n+1)/6-1-2-3-4-・・・-(n-1)

が3個あれば3×3=3、mがm個あればm×m=mですから、
左辺の合計は3乗の和になります。
右辺は、n(n+1)(2n+1)/6がn個と、「2乗の和」の形の数列をさらに1~n-1まで和をとったものを引いたものになります。j(j+1)(2j+1)/6=(2j+3j+1)/6なので、これについて1~n-1まで和をとり、引き算するという事です。
少し長ったらしいですが式を整理すると次のようになります。

1+2+3+4+・・・+n=Sとして、

$$S=\frac{n^2(n+1)(2n+1)}{6}-\frac{S-n^3}{3}-\frac{n(n-1)(2n-1)}{12}-\frac{n(n-1)}{12}$$

$$\Leftrightarrow \frac{4S}{3}=\frac{4n^4+8n^3+4n^2}{12}=\frac{n^2(n+1)^2}{3}$$

$$\Leftrightarrow S=\frac{n^2(n+1)^2}{4}$$

等比数列の和

何かと重要になるのは「等比数列の和」です。これは次のようにします。

S=a+ar+ar+ar+・・・+arn-1

これの両辺にrを掛けます。

rS=ar+ar+ar+・・・+arn-1+ar

SとrSは、項数は同じで、途中のar+ar+ar+・・・+arn-1が共通しています。
共通する項は差し引けばもちろん0になるので、
S-rS=a+ar ⇔ S(1-r)=a+ar

r=1の時は単にn個のaの和なのでS=naで、r≠1のときはS=(a+ar)/(1-r)です。

等比数列の和 $$r\neq 1のとき、\sum_{j=1}^nar^{j-1}=\frac{a-ar^n}{1-r}$$ $$r=1のとき、\sum_{j=1}^nar^{j-1}=\sum_{j=1}^na=na$$

これは、r=1/2のときなど、n→∞のときにr→0となる場合が特に重要です。そのように項数を無限個にした場合の等比数列の和は、等比級数あるいは幾何級数と言います。

階差数列の和

n+1=an+1-aのような形の数列(「階差数列」)の和を考えるとき、
n+2=an+2-an+1のようになりますから、
n+2+bn+1=an+2-aになります。
中間の項がプラスマイナスでちょうど消えるという事です。

さらにbn+3=an+3-an+2を加えれば、
n+2が消えてbn+3+bn+2+bn+1=an+3-aになります。

このような形で、階差数列の和を計算する事ができます。具体的に書きだすと、多少分かりやすいでしょう。

=a-a,
=a-a,
=a-a,
n-1=an-2-an-3,
=an-1-an-2

=aとすると、
+b+b+・・・+b
=a
+(a-a)
+(a-a)
+(a-a)
+(a-a)
+・・・
+(an-2-an-3)
+(an-1-an-2)
=an-1

階差数列および類似の形の数列には色々なパターンがあるので、公式を覚えるというよりは、和をとる事で度の項が消えてどの項が残るのかを個々の計算ごとに把握するとよいでしょう。

一般の和について成立する公式

特定の形の数列に限らず、一般に和に関して成立する公式というか関係式には次のようなものがあります。

公式
  1. 「和」の定数倍 $$\sum_{\large{j=1}}^n(ca_n)=c\sum_{\large{j=1}}^na_n$$
  2. 「和」同士の和と差 $$\sum_{\large{j=1}}^n(a_n\pm b_n)=\left(\sum_{\large{j=1}}^na_n\right)\pm \left(\sum_{\large{j=1}}^nb_n\right)$$
  3. 「和」同士の「積」に関する性質$$\sum_{\large{i,j=1}}^{n}\large{(a_ib_j)}=\left(\sum_{\large{i=1}}^n\large{a_i}\right)\left(\sum_{\large{j=1}}^n\large{b_j}\right)$$ $$= (a_1+a_2+\cdots +a_n)(b_1+b_2+\cdots +b_n) $$ $$\sum_{\large{i=1}}^{n}\sum_{\large{j=1}}^{m}\large{(a_ib_j)}=\left(\sum_{\large{i=1}}^n\large{a_i}\right)\left(\sum_{\large{j=1}}^m\large{b_j}\right)$$ $$=(a_1+a_2+\cdots +a_n)(b_1+b_2+\cdots +b_m)$$ ここで、\(\large{a_ib_j}\)は\(\large{a_iとb_j}\)との積です。数列の変数が2つ以上ある場合のシグマ記号を使っています。

これらのうち、最初の2つは通常の足し算の性質を式の形で書いてあるだけなのであまり公式としては認識する必要はないですが、3番目の式は注意する必要があり、しかも重要です。

「和同士の積」の計算の場合は、nとmのうちまずnだけ全部足してmは変数扱いにしておき、
その後でさらにmを動かして全体の合計の和を計算してもよいという事です。

これは、次の計算を考えると式の展開の計算通りにすると(n,m)=(1,1), (1,2), (1,3), (2,1), (2,2), (2,3),・・・の全ての組が\(\large{a_ib_j}\)の項の中に出てくる事によります。

$$(a_1+a_2+a_3+\cdots +a_n)(b_1+b_2+b_3+\cdots +b_n)$$

$$=a_1b_1+a_1b_2+a_1b_3+\cdots+a_2b_1+a_2b_2+a_2b_3+\cdots +a_3b_1+a_3b_2+a_3b_3+\cdots$$

高校数学ではほとんど扱いませんが、変数が複数ある時にシグマ記号をやたらと多く組み合わせる場合には、この「和同士の積」に関する性質を把握しておく事は結構重要になります。

幾何級数(等比級数)

等比数列の和を無限個で考えたものを、「等比級数」または「幾何級数」と言います。
【有限の項数の和のものを同じ名称で呼ぶ事もありますが、ここでは無限級数の場合を扱います。】

収束・発散の条件と計算の仕方

等比数列の和を考え、項数を無限大にしたものはどのようになるかをまとめると次のようになります。

幾何級数あるいは等比級数とは?

次の形の無限級数を「幾何級数」あるいは「等比級数」と言います。 $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=a\lim_{n\to \infty}(1+x+x^2+x^3+x^4+x^5+\cdots+x^n)$$ $$=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}\hspace{20pt}(r\neq 1)$$ これの収束・発散は次のようになります。

  1. 公比の絶対値が1未満【|x|<1】のとき収束する $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}=\frac{a}{1-x}$$
  2. 公比の絶対値が1以上【|x|≧1】のとき無限大に発散する
    (r=1のとき、nまでの和はna → ∞) $$\sum_{n=1}^{\infty}ax^{n-1}=\lim_{n\to \infty}\frac{a-ax^n}{1-x}=\infty$$

この「等比数列の和のn→無限大の極限をとったもの」を「等比級数」と言い、
幾何級数(geometric series)」という呼び方をする時もあります。
【高校ではこの幾何級数という呼び名はあまり使わないのですが、物理などでは使用する場合もあります。】

具体的に、a=(1/2)n-1で表されるような等比数列の和はn→∞の時に収束し、
=3で表される等比数列の和はn→∞の時に無限大に発散します。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}=\frac{1}{1-\large{\frac{1}{2}}}=2$$

$$\sum_{n=1}^{\infty}3^n=+\infty$$

この時に指数の部分がn-1ではなくnで表されている場合には注意が必要で、例えばc=(1/3)などと表されている時には計算にn=1の時の「初項」が必要ですので、c=(1/3)・(1/3)n-1のように考える必要があります。(あるいは、初項c=1/3である事をきちんと把握して計算します。)

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{3}\right)^{n}=\frac{\large{\frac{1}{3}}}{1-\large{\frac{1}{3}}}=\frac{1}{3-1}=\frac{1}{2}$$

シグマ記号を使って表す場合には、n=1ではなくてn=0から始めて表記する事も可能なので、
その場合にはn=0を代入したものが初項になります。式の形そのものだけを暗記するというよりは、「初項」と「公比」は何なのかを把握する事が大事になります。$$\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{3}\right)^{n}=\frac{1}{1-\large{\frac{1}{3}}}=\frac{3}{3-1}=\frac{3}{2}$$n=0から始まっているので初項は1であり、c’=(1/3)n-1に対する幾何級数の場合と同じ値に収束します。

公比が負の数である場合にも、公比の絶対値が1未満であれば同じ公式を使えます。
例えば公比が-1/2などの場合にも和を無限大にとったものは収束します。各項はプラスとマイナスが次々と入れ替わりますが、全体の和は一定値に近づいていくという事です。この場合、上記公式の公比の部分にマイナス符号の公比をそのまま代入します。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left(-\frac{1}{2}\right)^{n-1}=\frac{1}{1+\large{\frac{1}{2}}}=\frac{1}{\large{\frac{3}{2}}}=\frac{2}{3}$$

ところで、これらの無限級数を「幾何級数」とも呼ぶと上述しましたが、「幾何」に何か関係あるのかという話になります。一応、式に平面幾何的な意味を持たせる事は可能です。

適当な図形・・例えば長方形を考えた時に、図形の面積の1/2倍、そのさらに1/2倍、
そしてそのさらに1/2倍、・・の図形を加えていくと、全体の面積は無限には大きくならずに一定の範囲内で収まる事を確認できます。

=(1/2)n-1の各項はa=1,a=1/2,a=1/4,a=1/8,a=1/16,・・
のようになりますが、これらの項の和は平面図形で言うと、1つの長方形などの面積に対しておおもとの面積の1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍、・・を加え合わせていく事に対応します。
この時、項数を増やしても全体の面積は必ず「2未満」におさまり、無限個に増やした場合は収束値である「2」に限りなく近づく事になります。

他方、a’=(1/2)に対する幾何級数を考えた時は収束値は1になる事は上述しましたが、これは平面図形ではa=(1/2)n-1に対する幾何級数の収束値2から1を引いた場合に等しく、平面図形では図形の面積の1倍を除いた部分に相当します。

無限小数の級数としての扱い

循環小数を和で表すと?

1÷9=0.111111111・・・や、1÷3=0.33333333・・・などの
無限循環小数は、幾何級数により表す事ができます。

0.1とは1/10の事であり、0.01とは1/100の事、
そして0.11とは0.1+0.01である事を考えると分かりやすいと思います。

循環小数は幾何級数で表せる

小数0.99999999・・・・などは、0.9+0.09+0.009+0.0009+・・・のように考える事で、$$a+ar+ar^2+ar^3+ar^4+ar^5+\cdots$$ の形、つまり幾何級数の形をしています。
等比数列で言うと、初項が0.9、公比が0.1であるものの幾何級数になっているという事です。
公比の絶対値が1未満なので、これは無限級数として収束します。

無限循環小数には、0.123123123123・・・のように、「123」のような複数の番号の組み合わせが繰り返されるものも含まれるわけですが、このようなものも同様に考える事ができます。

0.123123123=0.123+0.123×0.001+0.123×(0.001)
のようになるので、この場合は公比を0.001と考えればよいわけです。このようにして、小数が循環する限りは、無限小数は幾何級数とみなす事が可能です。

無理数のように循環しない無限小数は、小数点ごとに項を分けて無限級数で表す事は可能ですが幾何級数として表す事はできません。

0.999999・・・は、「1に等しい」?

「無限級数展開」が意外と身近にある例として、ちょっとしたクイズを考えてみます。

クイズ:「無限小数0.99999999・・・・は『1に等しい』ですか?」

もしかすると、意見が割れるかも・・しれませんね。結論を先に言いますと、答えは「1に等しい」、です。

・・すると、「いや、1ではないやろ!???」と、怒られるかもしれません。
では、同じ質問を、表現だけ変えてみます:

$$「無限級数 0.9+0.09+0.009+0.0009+・・・=\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.9)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}は『1に等しい』ですか」 $$

これだと、幾何級数ですね。
これは、明確に答えは「1」なのです。

どういう事かというと、「1に『収束する』」「『極限値と』して1に等しい」という意味において等しくなるという事です。0.99999999・・・は、1に限りなく近づくという意味です。

0.99999999・・・が1に等しいか・等しくないかで意見が割れてしまうのは、小学校でも教わる無限小数が数学的にはどのような意味を持つかが曖昧な形で教えられている事によります。
前述のように無限小数は正確には無限級数であり、無限循環小数であれば公比の絶対値が1未満の幾何級数になるので1つの値に収束する事になります。

ところで、では例えば1/3=1÷3=0.333333・・・・について、この左辺の分数・割り算の形は本当に幾何級数の公式を使って出てくるでしょうか?試してみると次のようになります。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.3)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}=\frac{0.3}{1-\large{\frac{1}{10}}}=\frac{3}{10-1}=\frac{3}{9}=\frac{1}{3}$$

このように、無事に1/3(=1÷3)に収束する結果となります。

1÷9=0.1111111・・・についてもやってみると次のようになります。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\left\{(0.1)\cdot\left(\frac{1}{10}\right)^{n-1}\right\}=\frac{0.1}{1-\large{\frac{1}{10}}}=\frac{1}{10-1}=\frac{1}{9}$$

無限級数展開としての位置付け

幾何級数は、数学的には1/(x-1)という関数のマクローリン展開と、本質的に同じ無限級数です。
(|x|<1の範囲でのみ収束するという点まで、本質的に同じです。)

|x|<1の公比、初項が1の幾何級数を考えると、

$$\lim_{n\to\infty}(1+x+x^2+x^3+\cdots+x^n)=\frac{1}{1-x}$$

これを逆手にとるというか、逆に1/(1-x)という関数を|x|<1の範囲に限定するという条件付きで無限級数として表すのが、「幾何級数展開」です。本質的には幾何級数の計算と全く同じもので、使い方による名称の違いです。

$$\frac{1}{1-x}=\lim_{n\to\infty}(1+x+x^2+x^3+\cdots+x^n)$$

$$無限大まで和をとる事を前提に、\frac{1}{1-x}=1+x+x^2+x^3+\cdotsと書く事も多いです。$$

これは無限級数展開の中では非常に簡単に理解できるものの1つです。にもかかわらず、大学範囲の数学や物理でも要所で使用します。知っておくと、学習がスムーズになり便利です。

幾何級数展開は、数学の複素関数論で用いられたり、物理では黒体放射の理論で「エネルギーが離散的な値をとること」(つまり量子的である事)の根拠のひとつとして用いられたりもします。他にも、使われ方は色々あります。割と重要なところで突然出てくるのが特徴かもしれません。

ただしそれらは教科書等の中では「幾何級数」「等比級数」である事の説明なしに、唐突に「1/(1-x)=1+x+x+x+x+・・・と『展開』すると・・」などと書かれる事が結構多くあるので、その点だけ注意しましょう。

幾何級数は、|x|<1のもとで1/(1-x)という特定の関数のマクローリン展開に一致し、本質的に同じ無限級数です。

シグマ記号の使い方(和を表す記号)

和(足し算)を表すのに使うシグマ記号について説明します。

$$英:\sum_{j=1}^n \hspace{10pt}\mathrm{summation\hspace{3pt}notation}$$

記号の意味と使い方

数学で、いくつかの項の和(足し算、合計)を表す時に次の記号を使う事があります。

$$\Large{\Sigma}$$

これはギリシャ文字の「シグマ」の大文字で、英語のアルファベットのSに相当します。
【ギリシャ語だと実際に「s」の発音らしいです。】
和を表す語(英語だと sum)の頭文字として使っていると言われます。

シグマ記号というものは、数学の教科書や本の中でも使われますが、
表計算ソフトの Excel で見た事がある人もいるかもしれません。
使い方はまさしく指定した範囲の数の「合計」の値を計算するというものです。

数学でこの記号を使う時には、もう少しごちゃごちゃと書いてある事が多いです。

$$\sum_{\large{n=1}}^5\frac{1}{n}$$

これは、記号の次に書かれた1/nに「n=1,2,3,4,5を代入して全部足しますよ」という意味です。
各項の和を具体的に書き下すと次のようになります。

$$\sum_{\large{n=1}}^5\frac{1}{n}=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}$$

変数部分はnの代わりにi、j、kなどのてきとうな別の文字を使っても表記できます。
(iを使う場合、虚数という事では無くてあくまで変数の番号を表します。)

数列の和を表したり、何かの数のべき乗の和を表したり、様々な和を表すのに使えます。

$$\sum_{\large{i=1}}^7\large{a_i}=\large{a_1+a_2+a_3+ a_4+a_5+a_6+a_7}$$

$$\sum_{\large{j=1}}^7\large{{e^j}}=\large{e+e^2+e^3+ e^4+e^5+e^6+e^7}$$

$$\sum_{\large{m=1}}^5\frac{1}{m^2}=1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{5^2}=1+\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\frac{1}{16}+\frac{1}{25}$$

「1から始まってnまで」の和を表す時には、シグマ記号の上のところの番号のところにnと書きます。

$$\sum_{\large{i=1}}^n\large{A_i}=\large{A_1+A_2+A_3+\cdots +A_{n-2}+A_{n-1}+A_n}$$

$$\sum_{\large{j=1}}^n\large{{e^j}}=\large{e+e^2+e^3+ \cdots +e^{n-2}+e^{n-1}+e^n}$$

略記号的な書き方で、nなどのてきとうなところで区切る事を前提としてシグマ記号の上のところを略して書く場合もあります。表記が煩雑なときなどに使われます。どの番号までの和なのか明示したい場合には省略せずに上の番号も書きます。

$$\sum_jF_j(x)\hspace{10pt}\left(\sum_{j=1}^nF_j(x)の略記\right)$$

【※この略記法は一般の教科書などでよく使われますが、試験や入試では使わないほうがいいと思います。】

無限級数を考える場合にはシグマ記号の上のところに無限大の記号(∞)を書きますが、これはより正確に言えばまずてきとうな番号nまで和に対して、n→∞の極限を考えたものです。

$$\sum_{\large{n=1}}^{\infty}\frac{1}{n}=\lim_{n\to \infty}\frac{1}{n}=\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\cdots +\frac{1}{1-n}+\frac{1}{n}\right)$$

(なお、この無限級数は収束せず無限大に発散します。)

他に、最初の番号が1ではなくて、別の番号から始める事も表記できます。
その場合は、シグマ記号の下の部分で「n=1」ではなくて例えば「n=2」と書けばn=2,3,4,・・について項を加えるという意味になります。

$$\sum_{\large{n=2}}^5\frac{1}{n}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}$$

$$\sum_{\large{n=3}}^7\frac{1}{n}=\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}$$

★番号を1ではなく他の数で始める場合の表記法を使うと、例えば次のような計算もできます。$$\sum_{\large{n=1}}^{10}\frac{1}{n}-\sum_{\large{n=1}}^{5}\frac{1}{n}=\sum_{\large{n=6}}^{10}\frac{1}{n}=\frac{1}{6}+\frac{1}{7}+\frac{1}{8}+\frac{1}{9}+\frac{1}{10}$$ この例では、同じ対象の1/nについて1~5までの番号の項の和を取り去ってしまうので、6から始めた和の形として表す事も可能であるという事です。
より一般的には次のような関係が成立します。 $$n>mのとき、 \sum_{\large{j=1}}^{n}\large{a_j}- \sum_{\large{j=1}}^{m}\large{a_j}=\sum_{\large{j=n-m+1}}^{n}\large{a_j}$$

普通は番号として自然数(正の整数)を使いますが、0も含めた負の数も含めた整数の範囲にする事もあります。その場合は、例えば-2,-1,0,1,2,・・・を順番に対象の関数などに代入して加えていきます。
(数列の場合は、aといった一般的な形の場合にはnとして自然数と0を使うのが普通なので、nのようなn=・・を直接代入できる形の時に負の整数も代入する表記を使えます。また、1/nのように0を代入できないものについては番号として0を含むシグマ記号は使えません。)

$$\sum_{\large{n=0}}^5\frac{1}{n+2}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}$$

また、高校ではあまり使わないと思いますが、整数を要素とする集合の番号を足し上げるという表記も使われる事があります。例えば、説明のためのごく簡単な例としてA={2,3,7,8,10}のとき、この番号にわたって和をとる事は次のように書く場合があります。

$$\sum_{\large{n\in A}}^5\frac{1}{n}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{7}+\frac{1}{8}+\frac{1}{10}$$

代入する番号は整数であるという前提で、不等式で範囲を指定する表記法も一部あります。

$$\sum_{\large{1≦ i≦ 7}}\large{a_i}=\sum_{\large{ i=1}}^7\large{a_i}=\large{a_1+a_2+a_3+ a_4+a_5+a_6+a_7}$$

変数が複数ある時

やや複雑な例として、変数を2つ含む和を考える事もあります。

$$\sum_{\large{n,m=1}}^3\frac{m}{n}=\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{2}{1}+\frac{2}{2}+\frac{2}{3}+\frac{3}{1}+\frac{3}{2}+\frac{3}{3}$$

これは、n=1,2,3とm=1,2,3の「組」にわたって和をとるという意味になります。
つまり、(n,m)=(1,1), (1,2), (1,3), (2,1), (2,2), (2,3), (3,1), (3,2), (3,3) の9通りについて、
9項の足し算を考えるという時です。

この時に、n=mとなる場合を除いた(n,m)=(1,2), (1,3), (2,1), (2,3), (3,1), (3,2)の6通りだけの和を考えたいという場合には、シグマ記号の下のところにn≠mといった表記をして表現する事があります。

$$\sum_{\large{n\neq m\hspace{3pt}n,m=1}}^3\frac{m}{n}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{2}{1}+\frac{2}{3}+\frac{3}{1}+\frac{3}{2}$$

nとmのうちnは3まで、mは2までという場合は、
次のようにシグマ記号を2つ並べて表記する場合が多いです。$$\sum_{\large{n=1}}^{3}\sum_{\large{m=1}}^{2}\frac{m}{n}=\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{2}{1}+\frac{2}{2}+\frac{2}{3}$$この表記で、(n,m)=(1,1),(1,2), (2,1), (2,2), (3,1), (3,2)の組の和という意味です。
同様に、3変数について別々の番号までの和である場合はシグマ記号を3つ並べたりします。 $$\sum_{\large{i=1}}^{l}\sum_{\large{j=1}}^{n}\sum_{\large{k=1}}^{m}\large{a_{ijk}}$$ ※いずれの変数も同じ番号までの和をとるときも、このように複数のシグマ記号を並べて表記する場合もあります。

部分群

群【ぐん】を作る集合の部分集合で、それ自体でも群を作るものを部分群と言います。

英:部分群 subgroup 正規部分群 normal subgroup

考え方と具体例

簡単な例で言うと、加群としての整数全体の部分集合のうち「偶数である整数の全体(負の数と0含める)」もそれ自体で加法に関して群を作るので部分群であるという事になります。

これに対して、「奇数である整数の全体(負の数含む)」は整数全体の部分集合ではありますが、加法について単位元となるべき0を含まない、奇数+奇数=偶数になる等の理由により加法について群になりません。そのため、加法に関して言えば「部分群では無い」という判定になります。

また、他に重要な例としてはn次の置換全体を表す群(対称群)に対して、n次の偶置換全体を表す群(交代群)も部分群になります。

部分群の例
  • 0を除く実数全体に対して、0を除く有理数全体は乗法に関して部分群になる。
    【無理数全体は実数全体の部分集合だが部分群にならない】
  • 有理数全体に対して、整数全体は加法に関して部分群になる。
  • 整数全体に対して集合{2n | nは整数}は加法に関して部分群になる。
    【集合{2n+1|nは整数}は整数全体の部分集合だが部分群にならない】
  • n次の置換全体Sに対してn次の偶置換全体Aや、
    1文字だけ固定してn-1次の置換全体Snー1同様に考えた集合は部分群になる。
    【Sの部分群を一般に「置換群」と呼びます。】
3次の対称群は3つの番号(あるいは文字)を入れ替える方法を元とする群です。

このように具体例で見るとそれほど難しいものではないのですが、代数学の群論ではもう少し抽象的なレベルでの部分群についての性質が重要になります。

式での定義と性質

部分群である事の定義を記号で書くと次のようになります。

部分群の定義

群Gの部分集合Hが次の2条件をともに満たす時、Hを「部分群」と呼びます。

  1. a∊Hかつb∊H ⇒ ab∊H
  2. a∊H ⇒ a-1∊H

Gが群でG⊃Hですから、元同士の積が行える事や逆元の存在自体は前提になっています。
群Gに対してG自身や単位元だけからなる集合{e}も部分群になります。それらを除いた部分群を特に「真部分群」と言う事もあります。

部分群に関する重要な最初の性質として、
「部分群Hが存在する時、Gの単位元は必ずHに含まれている」という事が言えます。

単位元と部分群に関する性質 群Gの部分群Hが存在する時、群Gの単位元はHの元となる。
「eが群Gの単位元」⇔「eは部分群Hの単位元」
(GとHとで別々の単位元を持つ事はなく、共通の単位元を必ず持つ。)

【証明】定義の2番目の条件により「a∊H ⇒ a-1∊H」であり、
定義の1番目の条件により「a∊Hかつb∊H ⇒ ab∊H」なので
「a∊Hかつa-1∊H」であるから「aa-1=∊H ⇔ e∊H」と言える事によります。
逆にeがHの単位元であれば、そのeがGの単位元ではないとするとHの外にGの単位元e’ がある事になりますが、先に示した事からそのe’ は部分群Hの単位元でなくてはなりません。しかしこれは、任意の群の単位元は一意性と矛盾します。よってeがHの単位元であればGの単位元でもあります。

さらに、定義から少し計算をすると「部分群である事」を次のように言い換える事もできます。

部分群であるための必要十分条件

次の関係が成立します。
「群Gの部分集合HがGの部分群である」⇔「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」
【証明の中で示されるように、「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」が成立するならa-1∊Hとb-1∊Hも成立します。ただ、例えばある部分集合が部分群になっている事を示すには「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」であるかを調べれば十分という事です。】

この必要十分条件の関係は自明ではないので証明が必要です。ただ、理屈自体は非常に単純です。

まず、「群Gの部分集合HがGの部分群である」ならば、
定義から「『a∊Hかつb∊H ⇒ ab∊H』かつ『a∊H ⇒ a-1∊H』」ですから、
b∊Hよりb-1∊Hであり、「a∊Hかつb-1∊H」であるから 「ab-1∊H」となります。
この時「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」の関係が確かに成立しており、
「群Gの部分集合HがGの部分群である」⇒「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」が成立します。

次に、「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」であるとすると、
「a∊Hかつa∊H」【b=aの時に相当】は常に成立するので、aa-1∊H ⇔ e∊Hであり、
「e∊Hかつa∊H」であるからea-1∊H ⇔ a-1∊H となるので、
この時「a∊H ⇒ a-1∊H」が確かに成立しています。
なおかつ、e∊Hが示されているので「e∊Hかつb∊H」も成立し、
aの場合と同様にeb-1∊H ⇔ b-1∊Hとなり、
「a∊Hかつb-1∊H」も成立するのでa(b-1)-1∊H ⇔ ab∊Hも成立します。
つまり「a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H」⇒「群Gの部分集合HがGの部分群である」が成立しています。

これらの証明は「確かにそうなるという事の保証」のようなもので、結果のほうが重要です。

部分群についての他の基本的性質としては、次のようなものがあります。

部分群の性質
  1. 群Gに対して2つの異なる部分群HとKがある時、
    その共通部分H∩Kも1つの部分群になる。
    【Gの単位元はH∩Kに含まれる事になります。】
  2. 群Gに属するが部分群Hに属しない元c対して、
    部分群Hに属する元aとの積acはGに含まれHには含まれない。$$【Gが群、Hがその部分群の時、c\in Gかつc\notin H かつ a\in H\Rightarrow ac\notin H】$$
  3. 群Gに属するが部分群Hに属しない2つの元bとc対して、
    積bcはHに含まれる場合・含まれない場合両方ともあり得る。

【証明】
■1番目の性質:a∊H∩Kかつb∊H∩Kとすると、
a∊Hかつb∊Hなので ab-1∊Hであり、
a∊Kかつb∊Kなので ab-1∊Kであるから、
ab-1はHの元でもあり、同時にKの元でもある、
つまりab-1∊H∩Kとなるので、 部分群であるための必要十分条件により示されます。

■2番目の性質:\(c\in Gかつc\notin H かつ a\in H\) のとき、ac∊Hとすると、
-1∊Hなのでa-1ac∊H ⇔ c∊H
しかしcはHに含まれないはずだったので、これは矛盾です。
あるいは、c∊Gとa∊Hに対してa-1(ac)=c\(\notin\)Hなので、
c\(\notin\)Hならa-1∊Hであるからac\(\notin\)Hとなる、とも言えます。

ここでの3番目の性質は一体何を言っているのかというと、加群で考えると比較的分かりやすいでしょう。
整数全体に対して3の倍数(0と負の数含む)を考えます。この時に、3n+1や3n+2で表されるものはもちろん3の倍数になりませんが、その和(群論一般で言うとこれが「積」に該当)は3n+3=3(n+1)ですから3の倍数になります。
他方、3n+1で表されるもの同士の和は3n+2の形ですから、3の倍数にはなりません。おおもとの群の元であって部分群の外にあるもの同士の積(加群だと「和」)は、部分群の元になる時もあるし、そうでない事も両方あり得るという事です。

このため、部分群Hの元aとその外にあるおおもとの群Gの元cの積acはHに含まれませんが、さらにその積同士を考えると部分群の中に戻る事もあります。例えばa∊Hのもとでacとc-1aがともにHに含まれない場合でも、その積はacc-1a=aaですからこれはHの元になります。

巡回部分群

群Gがあるとき、a∊Gに対して実数等との時の感覚でaa=a、aaa=a、a-1-1=a-2、a-1-1-1=a-3、・・のように書きます。実数等との時と全く同じ感覚でこれらをaの「べき」とか「べき乗」と言います。

この時、次の部分集合H={a|a∊G, nは整数}を考えます。
何かてきとうなGの元に対して、そのべき乗を集めるという事です。
例えばGが0以外の実数・演算は乗法であるとして、てきとうに「3」を選んでH={1,3,3,3,3,・・・,3-1,3-2,3-3,3-4,・・・}を考えるという事です。【3=1, 3=3】

この時、Gが群であれば、H={a|a∊G, nは整数}は必ず部分群になります。これは、定義から示してもよいですが前述の「部分群であるための必要十分条件」を考えるとより簡単であり、a∊Hかつa∊Hのもとでa-m=an-m∊Hとなるので確かに部分であるという事になります。a=a(=an+m)なので、これは可換群です。このような部分群Hを、特に「巡回部分群」と呼び、H=<a>と書く事があります。この場合にaを「Hの生成元」と言う事もあります。

巡回部分群

Gが群の時、H={a|a∊G, nは整数}を「巡回部分群」と呼びます。

  • H=<a>とも書く
  • aを「生成元」とも言う
  • 可換群である

加群の場合には、特に<a>={na|a∊G, nは整数}と書けます。

【★ 似た用語として、置換の1つの種類として「巡回置換」がありますが区別する必要があります。】

G自体が{a|a∊G, nは整数}として表される時にはGを「巡回群」と呼びます。

正規部分群

群Gに対して部分群Sがあったとき、t∊G【Sに含まれていてもそうでなくてもよい】とs∊Sを組み合わせたt-1stという積を考えます。これを元とする集合も部分群になり「Sに共役な部分群」と言います。

「共役な部分群」

Gが群、SがGの部分群でt∊G, s∊Sのとき、次の集合を「Sに共役な部分群」と言います。
-1St={t-1st |t∊G, s∊S }

これが本当に部分群になるかは、再び
「『群Gの部分集合HがGの部分群である』⇔『a∊Hかつb∊H ⇒ ab-1∊H』」
の、部分群であるための必要十分条件の関係から見るとすぐに示せます。

s∊Sかつu∊Sのもとで、
(t-1st)(t-1ut)-1=(t-1st)(t-1-1t)=t-1stt-1-1t=t-1(su-1)t∊S
よって、集合{t-1st |t∊G, s∊S }はGの部分群です。
【Sは部分群なので、u∊H ⇒ u―1∊H(上記で証明済です)なのでsu―1∊Sです。
また、群の元に関する公式 (ab)-1=b-1-1の関係に注意。】

さて、群Gに対して部分群Nがあれば「Nに共役な部分群」も必ずある事になりますが、この「Nに共役な部分群」がN自身であり、しかもN自身以外にはありえない時はNをGの「正規部分群」と呼びます。

「正規部分群」 Gが群、NがGの部分群でt∊G, n∊Nのとき、
「『Nに共役な部分群』(必ず存在)がN自身しかない」 時、NをGの「正規部分群」と呼びます。
式で書くと、任意のt∊Gに対し{-1nt|n∊N}=N,
もしくは-1Nt=N
もしくはtN=Ntなどと表されます。
ここでt-1Nt=NもしくはtN=Ntとは、左辺と右辺が集合として等しくなるという意味で、必ずしもNが可換であるという事ではありません。【tn=ntという意味でもないので注意。】

tがGの要素でNの要素でない時、n∊Nに対してt-1n\(\notin\)Nかつnt\(\notin\)Nです。
しかしそれらとtやt-1の積の(t-1n)t=t-1(nt)=t-1ntはNの元になり得ます。
Nが群Gの正規部分群である時は、t-1ntがNの元であり、かつnをNの中全体に渡って動かした時にNの中の全ての元になっている事を意味します。

少し理屈が込み入るようですが、この「正規部分群」とは具体例を探すと割と多くあるもので、
例えば「可換群の部分群」は全て正規部分群です。
【∵任意のn∊Nに対してt-1nt=nt-1t=nより、t-1Nt=N】
群Gに対するG自身や単位元だけの群{e}も正規部分群に該当し、「自明な正規部分群」と言います。
Gの正規部分群がこの「自明な正規部分群」しか存在しない時、Gを「単純群」と呼ぶ事があります。

「では非可換な群の部分群で、うまい具合にt-1Nt=Nなどという関係になるものがあるのか?」

結論を言うと、あります。非可換な群で重要なものとして置換全体から成る群がありますが、n次(n個の番号が対象)の置換全体に対して「n次の偶置換(操作回数が偶数回)全体の群」は正規部分群です。
また、4次の置換全体に対してはそれとは別の1つの正規部分群が存在します。
その他に、群Gの元a、bに対してa-1-1abを考え、これを元とする「交換子群」も正規部分群になります(Gが可換か非可換かに関わらず)。

この正規部分群というのは群論の基礎理論のなかで重要な役割を持っています。

慣性の法則

慣性の法則とは、古典力学で考えられている運動の3法則の1つです。
一般的には第1番目の前提条件となる法則として挙げられています。

運動の3法則の第1法則

慣性の法則とは?

物体に力が働いていない場合、次のいずれかになる:

  1. 物体は静止し続ける
  2. 等速『直線』運動をする

この事が成立する座標系が存在する事を「慣性の法則」と呼びます。

慣性とは例えば氷の上を滑るような時は、何か「力」が働いて動いているというよりは惰性で動いていると捉えようという意味です。そして、何かの「力」が働いている事とそうでない事の区別は定量的に「『速度の変化』があるかないか」で考えようというのが力学の理論で、その事は特に運動方程式で表現されています。「速度の変化がない」場合とは物体が止まっている場合も含みますし、滑る場合のように惰性で動いてる場合も両方含んでいます。

慣性の法則は3法則の2番目の運動方程式が成立する「前提条件」となります。
力学では、慣性の法則が成立していなければ運動方程式も成立しないという考え方をします。

運動方程式とは正確にはベクトルを使用した式ですが、
1直線上の運動(1次元の運動)を考える時は次の1式で表されます。$$F=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}$$

その前提のもとで、運動方程式からも慣性の法則についての記述を得る事もできます。

※「慣性の法則」自体が運動方程式から証明されるわけではなく、運動方程式によっても慣性の法則の内容が「矛盾なく表現できる」という事であり、理論としての一貫性を持つという事です。

物体が静止または等速運動する事の表現

運動方程式で力がゼロという場合を考えてみましょう。

そうであれば、「加速度もゼロ」という事になります。この時 m は1kgや2kgといった物体の質量で、これは特別な条件を課さない限りは一定値です。

それを踏まえて、微分方程式を所定の計算で解きます。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\Leftrightarrow \frac{d^2x(t)}{dt^2}=0\Leftrightarrow \frac{d}{dt}\left(\frac{dx}{dt}\right)=0から、$$

$$\frac{dx}{dt}=C【定数】$$

これは1階微分=0という形の微分方程式で、考え方自体はじつに単純です。一直線上でも物体の速さは、確かに「力が働いていない」時には一定であるという結果になっています。必ずしも速さがゼロ(静止している場合)だけでなく、等速で動いている場合もあり得るという事が数学的な微分方程式の解ともきちんと対応しているので理論としての一貫性を持つという事です。

上記のように定量的な立場で考えてみる時は、氷の上かそうでないかというよりは「速度の変化があるかないか」が重要な要素という事になります。普通の地面や床の上では物を押してもすぐ止まってしまいますが、これも速度の変化と捉えて「摩擦力」を定量的な意味で導入し考察します。
これは物体が接する表面の状態に大きさが依存する力で、氷の場合には摩擦力がごく少ない値でしか発生しないと考えます。

「力が働いていない」という時には、本当に何も力が存在してないと場合と、逆方向に働く力がつり合っている(正確には力ベクトルの補合計がゼロベクトルになる)場合の両方を含みます。もっとも、物理学では何か物体の質量が存在すれば微小であっても力が働くと考えますから、物体の速度が変化しないという場合は厳密にはほとんどの場合後者という事になります。しかしどちらの場合でも、運動方程式上では力が働いていないという事は共通してゼロベクトルで表せます。

直線運動をする事の表現

さて「1階微分=0」という微分方程式として運動方程式を考えた場合、確かに「等速」になるという事の表現はできたわけですが、「軌道の形」についてはまだ何も表していません。
「直線運動」であるかという事については「2階微分=0」のタイプの微分方程式を解く必要があります。

式自体は先ほどと同じです。しかし先ほどは、速さを表すdx/dt=Cという形のままで計算を止めていました。これをさらにx=x(t)で表す事で時間ごとの位置を知る事ができ、物体の「軌跡」を計算できます。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\Leftrightarrow \frac{dx}{dt}=Cから、$$

$$x=Ct+B$$

ここでCとBというのは何らかの定数です。この具体的な値を知るには、ある時刻での物体の具体的な位置と速度を知る必要があります(多くの場合t=0の時を考えるのでそれらを「初期値条件」とも言います。)
尚、定数関数も何回微分してもゼロになるので解ですが、これは1次関数で C = 0 の場合と見なせるので、定数 C の値に制限を設けなければ定数関数の場合も1次関数に含める事ができます。

1次関数が得られたのでいかにも「直線」っぽいですが、この段階ではそもそも一次元の「直線上」の運動しか考えていないので、これではまだ示した事にはなりません。

そこでどうするかというと、少なくとも平面上の運動として考えて、微分方程式をx軸方向とy軸方向の2方向について立てる必要があります。空間内の運動なら3方向です。このとき、xやyという直交座標成分は x(t) と y(t)という時間についての関数になります。

$$F_{\Large{x}}=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{y}}=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{z}}=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

空間での運動を考える時は、正確には運動方程式を3つ作って分析を行うという事です。力が働いていない時は、「2階微分=ゼロ」という式が、3つできます。変数はそれぞれ時間 t であり、x,y, z がそれぞれ関数 x(t), y(t), z(t) である事に注意。

3つも微分方程式があるといかにも面倒そうですが(実際、一般論としては厄介です)、
ここでは「力が働いていない」場合を考えるだけなので3式とも力の部分に0を入れるだけです。
つまり次のように、3つの「2階微分=0」という式を考えるだけで済みます。
しかもこれら3式は全く同じ形で文字を変えてるだけなのでまとめて解く事ができるわけです。

$$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

$$ \Leftrightarrow \hspace{10pt} 0=\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$

これらを(まとめて)解く事で、次の3つの通常の連立方程式を得ます。

$$x(t) = b_1t+c_1,\hspace{10pt} y(t) = b_2t+c_2 ,\hspace{10pt} z(t) = b_3t+c_3 $$

3式ともtに関する1次式ですから、通常の連立1次方程式と同じく
「tを消去するか、あるいは代入する」方法で、座標成分同士の関係式を作れます。

例えば x と y の関係式は、b1≠0の条件のもとで次のようになります。$$b_2x-b_1y=c_1b_2-c_2b_1\Leftrightarrow y=\frac{b_2}{b_1}x+\frac{c_2b_1-c_1b_2}{b_1}$$
もっとも、あまり具体的な関係式を出す事よりも、ここでは y = Ax + B のような
「1次関数(グラフで言うと直線)」の関係になっているかを見ればじゅうぶんです。
ここではまず、xy平面で物体の軌道は確かに「直線」になる事が示された事になります。

すると全く同じ要領で考えて、
x と z 、y と z の関係も同様にお互いに1次関数の関係にある事が分かります。
また、z = Ax + By + C の形の「3次元での直線」を表す関係式も成立する事も分かります。
(※例えば x + y を考えたうえで t を x, y で表し z の式の t に代入。)

いずれにしても、x, y, z 同士の関係を直交座標(=現実の空間のモデル)上のグラフに描けば直線という事になり、「軌道は直線である」事を意味します。
逆に、もし物体の運動の軌道が曲がっているとすれば、軌道を直線からそらすような何らかの力が働いているという事も意味するという理屈になります。

※物体が「静止」している場合、もちろん軌道は直線にはなりませんが、これは微分方程式の解から考察すると、例えば x 座標成分について x = bt + c で b = 0 の場合、x = c となり、任意の時刻でその位置という事ですから、少なくとも x 軸方向には一切動いていない事を示しています。
y と z についても同様に時間に対して定数であるとすると、結局物体の位置座標は任意の時刻で必ず1点にある=「静止している」という事になります。そのような場合を除くと、物体の位置座標同士の間で必ず1次式の関係を作る事ができ、直線軌道ができるという事です。
つまり、物体に力が働いていなければ物体は静止したままか、「等速」で「直線」運動するという事が運動方程式からも確かに式で表せるという事になります。

まとめ:解法の手順 運動方程式を作るまで

運動方程式を「2階」の微分方程式として扱える事から始まり、結論を得る流れを見ましょう。

  1. 「速度の(1階の)時間微分=加速度」$$\frac{d}{dt}v(t)=a(t)【加速度】$$
  2. 「位置の(1階の)時間微分=速度」(※位置とはx 座標、y 座標等の事)$$\frac{d}{dt}x(t)=v(t)【速度】$$
  3. これら2つを合わせると: 「位置の時間による2階微分=加速度」$$\frac{d^2}{dt^2}x(t)=a(t)$$
  4. 一次元運動の場合、(1直線上の)座標を x(t) とすると
    「物体に働く力は、物体の質量と加速度に比例する」という運動方程式は、
    $$F=ma(t)\hspace{5pt}\Leftrightarrow \hspace{5pt}F=m\frac{d^2x(t)}{dt^2} と書ける$$
  5. 平面運動の場合は x(t)、y(t) ごとに、
    空間運動の場合、同じく直交座標成分 x(t)、y(t)、z(t) ごとに運動方程式を立てます。
    座標成分ごとに3つ作ります。$$F_{\Large{x}}=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{y}}=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}F_{\Large{z}}=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$
  6. 力が働いていない場合は、力の各成分に0を代入する:
    $$0=m\frac{d^2x(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2y(t)}{dt^2}\hspace{10pt}0=m\frac{d^2z(t)}{dt^2}$$ 質量mは、両辺で割る事により消去できます。(解に影響を与えないという事です。)
手順の後半 微分方程式の解を出した後の処理
  1. という事は、「『2階微分=0』という式が3つできる」
    → 時間変数の1次関数が解になる式が3つできる
    式で書くなら:\(x(t) = b_1t+c_1,\hspace{10pt} y(t) = b_2t+c_2 ,\hspace{10pt} z(t) = b_3t+c_3\)
    t を変数とする1次関数が3つできます
  2. 連立方程式を解く要領で「t を消去」して「x と y」「x と z」「z と x と y」などの関係式を作る。
    →すると、x, y, z のそれぞれ同士の関係も「1次関数」になる。
    y = Ax + B, z = Ax + By + C のような形になります。これらは「直線」の関係です。
    (簡単な計算作業で示せます。)
  3. すると結局次の事が癒えます。

    → 「力が働いていない(ゼロ)」という条件のもとで運動方程式を解き、
     物体の位置座標(x, y, z)を空間に描くと、その軌道は「直線になる」
    →「静止してない物体に力が働かない時、物体は等速の『直線』運動をする」
    という慣性の法則の内容がこの段階で、確かに表現される。

    • 「等速である」事については、加速度を「速度の1階微分」と考えて「1階微分=0」の微分方程式の解から出せます。それを各成分について考えても同じ事で、空間の中の軌道を等速で運動している事になります。
    • 等速の「直線運動」とは逆に、軌道が少しでも「曲がっていたら」、それは何らかの力が働いている事も意味します。
      力は、多くの場合は物体の速さを変えますが、中には「速さはそのままで『軌道を、直線形からそらす』」というものもあるのです(等速円運動の中心力など)。

このように運動方程式からも「慣性の法則」の内容がきちんと表現できるわけです。

「1階微分=0」「2階微分=0」という微分方程式は数学的にはとても簡単な微分方程式に属するのは間違いありませんが、物理で使う場合に物理的な意味を考えると、考察する事が意外と多くあります。(逆のパターンもあります。物理的に重要ではないけれど、数学的に考察する余地が多くある場合です。)

平方根って何だろう

平方根の考え方と基本計算について説明します。

英:平方根 square root

定義と記号の書き方

まずは定義と記号からです。

平方根とはどういうもの?

「2乗するとnになる数」の事をnの平方根と言います。
n>0の時、平方根はプラスものとマイナスのものの2つがあります。
この時、「nの平方根でプラス符号のもの」を特に「ルートn」と呼んで次の記号で書きます。
【root:植物の「根」。数学では「こん」と呼ぶ】$$\sqrt{n}\hspace{20pt}\sqrt{2}\hspace{20pt}\sqrt{3}$$ 「2乗すると2になる数」であれば「2の平方根」であり、
プラス符号のものを \(\sqrt{2}\) と書き「ルート2」と読みます。
これらを使って、マイナス符号の平方根は次のように表します。 $$-\sqrt{n}\hspace{20pt}-\sqrt{2}\hspace{20pt}-\sqrt{3}$$ マイナス1の2乗はプラス1なので、
これらを2乗しても確かにn、2、3といった数になります。

「平方」とは要するに「2乗」の事で、「平方根」の事を「2乗根」とも言います。
=2×2=4、3=3×3=9の「2乗」の事です。
長さの単位で、1平方センチメートル1cmというのがありますね。
あれに使われている「平方」です。

このとき、文字式を組み合わせた式の「平方根」を考える事もできます。
(これは一部、中学校の数学でも扱います。)$$\sqrt{x^2+y^2}\hspace{20pt}\sqrt{b^2-4ac}\hspace{20pt}\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}$$尚、これらの例は1つめが図形問題で三平方の定理を使う時に出てくるような式、
2番目は2次方程式の解の公式に出てくる項、
3番目は相対性理論で重要になる量の1つです。(cは光の速さ、vは物体の速さ)
平方根の考え方は中学数学だけでなく、数学全般や数理科学で普通に使うものですので基礎事項をしっかり理解しておくと後々便利です。
これらの基本的な考え方は\(\sqrt{2}\) や \(\sqrt{3}\)と同じで、2乗すると「平方根が消える」ような計算になります。$$\left(\sqrt{x+y}\right)^2=x+y\hspace{20pt}\left(\sqrt{b^2-4ac}\right)^2=b^2-4ac\hspace{20pt}\left(\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}\right)^2=1-\frac{v^2}{c^2}$$

平方根の整数倍、例えば2倍、3倍などは \(2\sqrt{2}\) , \(3\sqrt{2}\) のように書きます。
文字式のaの2倍や3倍を2a、3aと書く感覚です。

平方根を何倍かした時の書き方

整数倍の時は次のようにします。 $$2×\sqrt{2}\hspace{3pt}=\hspace{3pt}2\sqrt{2}\hspace{15pt}-3×\sqrt{2}\hspace{3pt}=\hspace{3pt}-3\sqrt{2}のように書きます。$$ 一般的には、平方根を分数倍した時には分子に平方根を一緒に書く事が多いです。 $$\frac{1}{3}×\sqrt{2}=\frac{\sqrt{2}}{3}\hspace{15pt}\frac{2}{3}×\sqrt{2}=\frac{2\sqrt{2}}{3}$$ 文字式と平方根を組み合わせる時には、2a、3bと書く感覚で平方根を文字式の前に書きます。
そこにさらに整数倍がある時は、整数・平方根・文字式の順番にする事が多いです。 $$a×\sqrt{2}\hspace{3pt}=\hspace{3pt}\sqrt{2}a\hspace{15pt}2b×\sqrt{2}=2\sqrt{2}b$$

負の数に対しても平方根を考える事ができて、例えば-2の平方根は次の2つです。 $$\sqrt{-2}\hspace{3pt}=\hspace{3pt}i\sqrt{2}\hspace{20pt}-\sqrt{-2}\hspace{3pt}=\hspace{3pt}-i\sqrt{2}$$ これらは複素数というものに属します。実数の範囲では、2乗して負の数になる数は存在しません。

小数で表すとどのような大きさ?

「2乗すると2になる数」である \(\sqrt{2}\) とは具体的にはどのような大きさの数でしょう?

\(\sqrt{2}\) の大きさは小数で表すと約1.4142135・・・になります。
この小数点は無限に循環しない形で続き、\(\sqrt{2}\) は無理数になります。

てきとうなところで小数点を四捨五入したもの、例えば「1.414」として2乗してみると
1.414 × 1.414=1.999396 であり確かに2に近い数になります。

いくつか例を挙げてみると次のようになります。

  • \(\sqrt{2}\)=1.4142135・・・
  • \(\sqrt{3}\)=1.7320508・・・
  • \(\sqrt{4}\)=2
  • \(\sqrt{5}\)=2.2360679・・・
  • \(\sqrt{6}\)=2.4494897・・・
  • \(\sqrt{7}\)=2.6457513・・・
  • \(\sqrt{8}\)=2.8284271・・・
  • \(\sqrt{9}\)=3
  • \(\sqrt{10}\)=3.162276・・・

これらのうち、2=2×2=4、3=3×3=9ですから、
4の平方根と9の平方根を考えた時にはぴったりと整数の値になります。

自然数の平方根の多くは無理数になりますが、
数直線上に有理数と合わせて大小関係を比べる事ができます。

これら平方根の小数の値は、\(\sqrt{2}\) や \(\sqrt{3}\) に関しては「1.414」「1.732」といった数値を覚えておくと便利な事もありますが、他のものはそれほど覚える必要はありません。
(ましてや、延々と続く小数を覚える必要はありません。)

それよりも重要なのは、平方根の値がどれくらいの大きさなのかを見積もる方法です。

例えば \(\sqrt{7}\) の大きさを知りたい時に「2以上3以下」といった事を知るのはじつは簡単で、
<7<3という不等式によってその事を知れるのです。
もちろんこれは4<7<9という事です。
この不等式の各値の平方根(のプラスの値)を考えると2<\(\sqrt{7}\)<3となるので、
\(\sqrt{7}\) を小数で表した時の1以上の部分の値は2になると判定できるというわけです。
(実際の値は\(\sqrt{7}\)=2.6457513・・・)

そう考えると、\(\sqrt{5}\), \(\sqrt{6}\), \(\sqrt{7}\), \(\sqrt{8}\) の小数での値がいずれも 2.23・・などの、
「2より大きく3より小さい」値になるのは偶然ではなく必然という事になります。
5、6、7、8はいずれも4より大きく9より小さいからです。

この考え方は、何かてきとうな自然数の平方根に対して一般的に適用できます。
\(\sqrt{17}\) の大きさを見積もる時には
16<17<25、つまり4<17<5ですから
4<\(\sqrt{17}\)<5といった感じになります。(実際の値は\(\sqrt{17}\)=4.1231・・)

また、てきとうな\(\sqrt{151}\) といった数の大きさを見積もる時には
144<151<169、つまり12<151<13により、12<\(\sqrt{151}\)<13なので
\(\sqrt{151}\)=12.・・・・といった数になる事が分かります。(実際は12.2882・・)

この不等式の作り方・使い方に関しては高校入試でも問われる可能性はあります。

平方根に関する計算・公式

\(\sqrt{2}\) と \(\sqrt{8}\) の小数での値を比較すると、じつはちょうど2倍の関係になっています。

  • \(\sqrt{2}\)=1.4142135・・・
  • \(\sqrt{8}\)=2.8284271・・・=2×1.4142135・・・=\(2\sqrt{2}\)

これは偶然ではなく、8=2×2という関係があるのでそうなるのです。
\(2\sqrt{2}\) を2乗すると、確かに2×2=8になります。

一般的に、平方根の中に「何かの数の2乗」がある場合にこのような計算ができます。

平方根の中にある数の2乗が含まれる場合の計算 $$a>0として、\sqrt{a^2b}=a\sqrt{b}が成立します。$$

いくつか具体例を挙げると次のような感じです。

  • \(\sqrt{8}\) = \(2\sqrt{2}\)
  • \(\sqrt{12}\) = \(2\sqrt{3}\)
  • \(\sqrt{18}\) = \(3\sqrt{2}\)
  • \(\sqrt{24}\) = \(2\sqrt{6}\)
  • \(\sqrt{27}\) = \(3\sqrt{3}\)
  • \(\sqrt{32}\) = \(4\sqrt{2}\)
  • \(\sqrt{4x}\) = \(2\sqrt{x}\)

掛け算に慣れていないと少し分かりにくいかもしれませんが、
例えば32なら32=16×2=4×2のように考えるのです。それで\(\sqrt{32}\) = \(4\sqrt{2}\)になります。
(※入試対策としては、これを頭の中でできるようにするのが望ましいです。)

次に、「分母の有理化」という計算も重要です。
これは、分母に平方根がある場合には、分子と分母の両方にその平方根を掛ける事で
「分母を有理数にできる」という計算です。

分母の有理化 単独の平方根が分母にある時と、分母が平方根の和や差になっている時の2パターンがあります。 $$\frac{1}{\sqrt{a}}=\frac{\sqrt{a}}{\sqrt{a}×\sqrt{a}}=\frac{\sqrt{a}}{a}$$ $$\frac{1}{\sqrt{a}+\sqrt{b}}=\frac{\sqrt{a}-\sqrt{b}}{(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})}=\frac{\sqrt{a}-\sqrt{b}}{a-b}$$

1つめの式は、\(a=\sqrt{a}×\sqrt{a}\) を式変形して考えても同じです。

2つめの式は(a+b)(a-b)=a-bの関係を使っています。
同じ関係を使って、分母が平方根の差の場合には次のようにできます。$$\frac{1}{\sqrt{a}-\sqrt{b}}=\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}}{(\sqrt{a}-\sqrt{b})(\sqrt{a}+\sqrt{b})}=\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}}{a-b}$$

具体例では、例えば次のようになります。

$$\frac{1}{\sqrt{2}}=\frac{\sqrt{2}}{2}\hspace{20pt}\frac{1}{\sqrt{3}}=\frac{\sqrt{3}}{3}\hspace{20pt}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}=\frac{\sqrt{1-x^2}}{1-x^2}$$

$$\frac{1}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}=\frac{\sqrt{3}-\sqrt{2}}{(\sqrt{3}+\sqrt{2})(\sqrt{3}-\sqrt{2})}=\frac{\sqrt{3}-\sqrt{2}}{3-2}=\frac{\sqrt{3}-\sqrt{2}}{1}=\sqrt{3}-\sqrt{2}$$

$$\frac{1}{\sqrt{2}-1}=\frac{\sqrt{2}+1}{(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}=\frac{\sqrt{2}+1}{2-1}=\frac{\sqrt{2}+1}{1}=\sqrt{2}+1$$

この具体例のように「分母の有理化」を行う事で分母が1になり実質的に「分母が消える」場合もあります。
慣れてくると、途中の計算は暗算でできるようにもなると思います。

平方根同士の掛け算・割り算と足し算・引き算については次のような規則が成立します。

平方根の四則演算
  1. 掛け算と割り算:
    平方根の中身同士の掛け算・割り算をして計算で可能。$$\sqrt{a}×\sqrt{b}=\sqrt{ab}\hspace{15pt}\frac{\sqrt{b}}{\sqrt{a}}=\sqrt{\frac{b}{a}}$$
  2. 足し算と引き算:
    基本的に同じ数の平方根同士で足し算・引き算を行い、そこからさらに計算したいなら小数で近似して数値的に加え合わせるなどする。 $$a\sqrt{c}+b\sqrt{c}=(a+b)\sqrt{c}\hspace{15pt}a\sqrt{c}-b\sqrt{c}=(a-b)\sqrt{c}$$ $$\sqrt{2}+\sqrt{3}のような式は、このままだとこれ以上計算できない。$$ $$(小数に近似すれば\sqrt{2}+\sqrt{3}≒1.414+1.732=3.146のようにできる)$$

平方根の掛け算については、(\(\sqrt{a}×\sqrt{b}\))=\(\sqrt{a}×\sqrt{a}×\sqrt{b}×\sqrt{b}=ab\) なので、
\(\sqrt{a}×\sqrt{b}=\sqrt{ab}\) としてよいという事です。

割り算のほうについては「分母の有理化」もできますが、分子と分母の両方に単独の平方根がある場合には先に割り算をして平方根をとる事も可能である、という意味です。

$$\sqrt{2}×\sqrt{3}=\sqrt{2×3}=\sqrt{6}\hspace{15pt}\frac{\sqrt{6}}{\sqrt{3}}=\sqrt{\frac{6}{3}}=\sqrt{2}$$

分母と分子にある平方根が単独ではなく和や差の形になっている場合には、項を分ける・分母の有理化をするなどの計算が必要になります。

$$\frac{2\sqrt{2}+\sqrt{6}}{\sqrt{2}}=\frac{2\sqrt{2}}{\sqrt{2}}+\frac{\sqrt{6}}{\sqrt{2}}=2+\sqrt{3}$$

$$\frac{\sqrt{6}}{\sqrt{3}-\sqrt{2}}=\frac{\sqrt{6}(\sqrt{3}+\sqrt{2})}{(\sqrt{3}-\sqrt{2})(\sqrt{3}+\sqrt{2})}=\sqrt{6}(\sqrt{3}+\sqrt{2})=\sqrt{18}+\sqrt{12}=3\sqrt{2}+2\sqrt{3}$$

平方根の足し算や引き算は、基本的には文字式の足し算引き算のように考えるという事です。
例えば、文字式の場合には 2a+3a+b=5a+bのようにして、aとbの具体的な値が分からない限りはそこで計算はストップしますが、それと同じように考えるという事です。$$2\sqrt{2}+3\sqrt{2}+\sqrt{3}=5\sqrt{2}+\sqrt{3}【この先は平方根を含んだままの形では計算しない】$$

各平方根を有限の小数に近似する(つまり有理数に近似する)のであれば、さらに計算をする事が可能です。

積分の考え方と基本計算

微分が「傾き」を表すのに対し、積分は「面積」を表すというのが基本的な考え方です。
(使い方は色々あって、「体積」を表す事もできます。また、後述するように通常の図形問題で言う面積との相違点もあります。)

英:積分 integral 定積分 definite integral

考え方と計算方法

関数y=f(x)の微分係数はxの各点ごとに1つ、傾きの値として決まります。これに対して、積分の場合にはxの2点を指定するごとに面積の値として決まります。この2点で挟まれる閉区間は積分区間と呼ばれます。この面積は、f(x)を表す曲線とx軸、指定した2点を通りx軸に垂直な直線で囲まれる面積です。

積分の計算には微分演算の逆算を使用します。そのため、基本計算でも微分の知識が必要です。

この面積の計算が積分で、このように定まった積分区間内の面積の値は特に「定積分」と呼ばれます。
積分区間 [a,b] における関数y=f(x)に対する定積分は、記号では次のように書きます。

定積分の記号の書き方と意味

「定積分」を次のように書きます。この計算をする事を「積分する」とも言います。$$\large{\int_a^bf(x)dx}$$

  • \(\int\) の記号はSの文字由来と言われる。(「和」「合計」を表す語の頭文字)
  • 上下に添えられた文字は積分区間 [a,b] の事
  • dxは対象の関数の変数がxである事を表す。
    【dxと書く由来は微小な区間の幅dxをf(x)に乗じて合計し面積を近似しているため】

定積分の値は1であるとか2であるとか、何らかの「値」になります。
(f(x)が負であれば定積分の値は負の数になる事もあり、0でもあり得ます。)

f(x)に具体的な関数を入れて、特定の積分区間の定積分を考えます。$$\int_{-1}^1x^2dx\hspace{15pt}\int_{0}^2e^xdx\hspace{15pt}\int_{0}^{\large{\pi}}\cos xdx\hspace{15pt}\int_{1}^{\large{e}}\ln xdx$$

次に、具体的にどういう計算をすればよいかという話になります。
結論を先に言うと次の手順で定積分は計算できます。

定積分の計算の手順
  1. 微分すると「対象の関数f(x)になる」別の関数F(x) を探す。
    【例えば f(x)=x であればF(x)=x/3, f(x)=cosxであればF(x)=sinx】
  2. 積分区間 [a,b] のa、bをF(x)に代入したものを用意する。
    【例えば積分区間 [0,1]で F(x)=x/3 であればF(0)=0とF(1)=1/3を用意】
  3. F(b)-F(a)を計算する。これが積分区間 [a,b] でのf(x)の定積分の値になる。
    【例えばF(1)-F(0)=1/3-0=1/3になる。】 $$\left(この計算の時に、F(b)-F(a)を\left[F(x)\right]_a^bとよく書きます。\right)$$

「微分するとf(x)になる」別の関数F(x)の事を、原始関数とも言います。
このように計算できる事は、微積分学の基本定理がもとになっています。

基本的な考え方としては、x軸とy軸、x軸上の1点 (x,0) に垂直な直線とy=f(x) の曲線で囲まれる面積をS(x)として、微分の定義式に当てはめるとS(x)を微分して得られる導関数(d/dx)S(x)=f(x) となるというものです。これはy軸、すなわちx=0から始めているので、S(b)からS(a)を差し引けば閉区間 [a,b] における面積となるという事です。

ある点での微分操作により導関数を計算する時には関数自体はどこから始まってもよく、図の面積S(x)も微分する計算を考えるだけならどこから始まってる面積でもよい事になります。しかしそれでは実際の値としての面積を計算できないので、定積分を微分操作からの逆算で計算する時にはS(x)-S(a)のように考えて値を出します。

この時、微分方程式を解く時の注意点にも共通しますが、ある関数F(x)を微分してf(x)になる時、定数cを加えたF(x)+cという関数も同様に「微分するとf(x)になる」関数になります。定積分を計算する時にF(b)-F(a)という引き算を考えるのは、その不定の定数を除去して面積の値を確定させるという工夫です。

具体的な計算例

y=xの積分区間 [-1,1] での定積分は次のように計算します。

$$\int_{-1}^1x^2dx=\left[\frac{1}{3}x^3\right]_{-1}^1=\frac{1}{3}-\frac{-1}{3}=\frac{2}{3}$$

この計算では、1/3という係数がくっつけて【xを微分すると3xなので3で割る】、最後の引き算を考える時に―1をx/3に代入し、それをさらに「引き算する」ので符号はプラスになり、結果的に2つの正の数の値を加える形になっています。

$$\int_{0}^2e^xdx=\left[\large{e^x}\right]_0^2=e^2-1$$

$$\int_{0}^{\large{2\pi}}\sin xdx=-\left[\large{\cos x}\right]_0^{\large{2\pi}}=-(1-1)=0$$

微分すると sinxになる関数は-cosxですが、ここでは符号の煩雑さを避けるために積分区間の端点(\(2\pi\) と0)を代入するところでカッコの外にマイナス符号を出しています。このような操作は、符号も含めて定数倍に関しては一般的に行う事ができる操作です。

なお、この定積分の計算を1次関数(図形的には直線)に適用すると、きちんと「三角形の面積公式」で計算した時と同じ結果を得ます。

$$\int_0^3xdx=\frac{1}{2}[3x^2]_0^1=\frac{3}{2}(1-0)=\frac{3}{2}$$

$$底辺×高さ÷2で計算して\hspace{5pt}\frac{1\cdot 3}{2}=\frac{3}{2}\hspace{5pt}でも同じ$$

グラフがある点を境にy軸に関して対称であったり、点対称になっている場合には図形的な性質を利用して計算を簡単にできる場合もあります。

個々の関数に関してどのように定積分を計算するかは結局のところ微分の問題になる事も多く、合成関数の微分などを使用する事もあります。三角関数の場合には加法定理などを使って工夫してから定積分を計算すると分かりやすい事もあります。

$$\int_0^1e^{2x}=\left[\frac{1}{2}e^{2x}\right]_0^1=\frac{1}{2}\left(e^2-1\right)$$

$$\int_0^{\pi}(\cos x\sin x)dx=\frac{1}{2}\int_0^{\pi}\sin (2x)dx=-\frac{1}{4}\left[\cos (2x)\right]_0^{\pi}=-\frac{1}{4}(1-1)=0$$

$$\int_{1}^{\large{e}}\ln xdx=\int_{1}^{\large{e}}\left[x\ln x-x\right]_{1}^{\large{e}}=(e\ln e-e)-(1\cdot 0-1)=(e-e)-(-1)=1 $$

【(d/dx)(xlnx-x)=lnx+x/x-1=lnx+1-1=lnx 積の微分公式使用】

y軸に関して対称な関数(偶関数)の定積分を [-a,a] で考える時は[0,a]での定積分の2倍の値を考えればよく、原点に対して点対称な関数(奇関数)の定積分を [-a,a] で考える場合は値は必ず0になります。
上記の例でも、積分区間が[-a,a]の形であれば偶関数・奇関数の性質を使って計算できるものもあります。

定積分は「負の値」やゼロの事もある

関数が負の値になる時も、定積分はそのまま計算するルールになっています。

y=-xのような関数を積分区間 [-1,1] で積分する時は、定積分の結果は負の値になります。

$$\int_{-1}^1(-x^2)dx=\left[-\frac{1}{3}x^3\right]_{-1}^1=-\frac{1}{3}-\left(-\frac{-1}{3}\right)=-\frac{2}{3}$$

こういうとき、マイナス符号の扱いが煩雑になりがちなので、計算しやすいように工夫したほうがよい事もあります。例えばこの場合には「y=xの同じ積分区間での定積分にマイナス符号をつければよい」事になるので、次のようにも書けます。

$$\int_{-1}^1(-x^2)dx=-\int_{-1}^1x^2dx=-\left[\frac{1}{3}x^3\right]_{-1}^1=-\left(\frac{1}{3}-\frac{-1}{3}\right)=-\frac{2}{3}$$

y=sinxの[0,\(2\pi\)] での定積分は0ですが、これは 0から\(\pi\)までの定積分の値がプラスで、そこから定積分はマイナスに転じます。それで、差し引きゼロになってしまうという事です。

$$\int_{0}^{\large{\pi} }\sin xdx=-\left[\large{\cos x}\right]_0^{\large{\pi}}=-(-1-1)=2\hspace{15pt}\int_{\large{\pi}}^{\large{2\pi} }\sin xdx=-\left[\large{\cos x}\right]_{\large{\pi}}^{\large{2\pi} }=-(1+1)=-2\hspace{15pt}$$

半周期の範囲で正弦関数とx軸で囲まれる面積がぴったりと整数になるのは意外かもしれませんが、とりあえず積分の計算によるとそういう結果になるという事です。

プラスとマイナスの両方の値を取り得るという意味では、定積分の計算は平面幾何での図形の「面積」と少し違っている事になります。
もし平面幾何の意味での「面積」の総和を出す必要があるなら、確実に計算するのであればy=f(x)が合った時には絶対値記号をつけて|y|=|f(x)|の定積分を計算します。つまり、負の部分は全てx軸に関してひっくり返して計算する事になります。
他に、関数の2乗を考える場合など、関数の値が確実にプラスである事が確定している時には定積分の計算結果は引かれている部分が無い「面積」の総和になります。

分数とは?

分数について初歩的な事項から説明します。

分数の考え方は、小学校だけでなく、中学・高校・大学と続けて使います。

基本的な考え方:半分の事を1/2と書く

分数【ぶんすう】とは、割合を2つの整数(1,2,3など)で表したものを言います。
例えば、「半分」の事を、「2つ分のうちの1つ」という意味で1/2【にぶんのいち】と書きます。
この1/2が、「分数」で表された数という事です。
「3等分したものの1つ」であれば1/3のように書きます。

同じ数になるように分ける事・分割する事を「等分」【とうぶん】すると言います。
この表現を使うと、半分に分ける事を「2等分する」と言う事もできます。

分数は、次のように書いても同じものを表します。
教科書ではこのように書いてある事が多く、答案に書く時もこのようにする事を指導されるのが一般的です。

$$「2等分の1つ」\frac{1}{2}\hspace{20pt}「3等分の1つ」\frac{1}{3}\hspace{20pt}「4等分の1つ」\frac{1}{4}$$

1/2の、等分している数「2」を「分母」【ぶんぼ】と言います。
また、1/2の「1」を「分子」【ぶんし】と言います。
3等分したものを2つ集めると、2/3のような分数になります。2/3の分母は3、分子は2です。

1/2を3つ集めた3/2のような分数を考える事もできます。
1/2を「2ぶんの1」と読むのと同じように、3/2は「2ぶんの3」と読みます。
(2/3が「3ぶんの2」である事との区別に注意。)

半分が2つあれば、もちろん1になります。3等分したものを3つ集めれば1個に戻ります。これを式で書くと、1/2+1/2=1 あるいは (1/2)×2=1という形になります。

$$\frac{1}{2}+\frac{1}{2}=\frac{1}{2}×2=1\hspace{20pt}\frac{1}{3}+\frac{1}{3}+\frac{1}{3}=\frac{1}{3}×3=1$$

分数の足し算は次のようにも書きます。

$$\frac{1+1}{2}=1\hspace{20pt}\frac{1+1+1}{3}=1$$

このように、「分母が同じ」分数は、分子だけで足し算や引き算を計算できます。

$$\frac{2}{5}+\frac{1}{5}=\frac{2+1}{5}=\frac{3}{5}\hspace{20pt}\frac{1}{4}+\frac{3}{4}=\frac{1+3}{4}=\frac{4}{4}=1$$

分数は本質的に「わり算」と同じ

「半分が2つ」あるとおおもとの1個に戻るので、もし「半分が4つ」あればおおもとの2個分になります。
「半分が6つ」あればおおもとの3個になります。
分子が「分母の数の倍数(2倍、3倍、4倍、・・)」であると、分数は整数に等しくなります。

$$\frac{2}{2}=1\hspace{20pt}\frac{4}{2}=2\hspace{20pt}\frac{6}{2}=3\hspace{20pt}\frac{8}{2}=4$$

$$\frac{3}{3}=1\hspace{20pt}\frac{6}{3}=2\hspace{20pt}\frac{9}{3}=3\hspace{20pt}\frac{12}{3}=4$$

これをよく見ると、分数とは「わり算」と同じ計算をしている事が分かります。
9÷3=3、12÷3=4ですが、これを分数で9/3=3、12/3=4と書いても同じ計算であるという事です。割り算で「あまり」がでる場合も含めて分数で表せるとも、言えます。5÷3=「1あまり2」ですが、これを分数で書くと5/3と書けます。5/3=3/3+2/3と書く事もできて、「3等分」を基準にした時に確かに2個分のあまりが出る事が分かります。

1/2という分数をさらに2で割ると、「半分の半分」、つまり1/4になります。1/2という分数をさらに3で割ると「半分の3等分」が2つできるので、つまりおおもとの1に対して6等分(=2×3)された数になります。このように、分数を割る時は「分母同士」をかける計算になります。

$$\frac{1}{2}÷2=\frac{1}{2}×\frac{1}{2}=\frac{1}{4}\hspace{20pt}\frac{1}{2}÷3=\frac{1}{2}×\frac{1}{3}=\frac{1}{12}$$

分数を分数でわる計算については「分子と分母を入れ替えてかける」という操作をします。この計算はつまづきやすい所かと思いますが、別途に詳しく説明しています。

8等分して1/8を考える事は、1÷8という計算をする事と同じです。

「通分」の計算

1/3+1/3=2/3と計算できますが、1/2+1/3という足し算はそのままではどのような数になるのかよく分かりません。この時、分母の2と3について、2の倍数でもあり3の倍数である数を考えます。
6は2の倍数でもあり3の倍数でもあるので、6を使って1/2=3/6, 1/3=2/6と考えて
1/2+1/3=3/6+2/6=5/6のように計算します。
この「分母を同じ数にそろえる」作業を「通分」【つうぶん】と言う事があります。

$$\frac{1}{2}+\frac{1}{3}=\frac{3}{6}+\frac{2}{6}=\frac{5}{6}\hspace{20pt}\frac{1}{4}+\frac{1}{3}=\frac{3}{12}+\frac{4}{12}=\frac{7}{12}$$

3/7+2/3のような計算も同じようにします。これを通分すると分母は21になります。(3×7=21で見つけます。)この場合、分母に対する数と同じものを分子の数にもかけます。3/7の分母を21にする時、分母を3倍しているので分子も3倍にします。

$$\frac{3}{7}+\frac{2}{3}=\frac{3×3}{21}+\frac{2×7}{21}=\frac{9+14}{21}=\frac{13}{21}$$

1/2+1/3の計算で、2の倍数でもあり3の倍数でもある数は6だけでなく12や18もそうです。これらの数を使って「通分」して計算をしても同じ結果になります。(同じ結果になるので、普通は両方の分母の数の倍数であるもののうち「一番小さい数」を使います。)

$$\frac{1}{2}+\frac{1}{3}=\frac{6}{12}+\frac{4}{12}=\frac{10}{12}=\frac{5}{6}\hspace{20pt}\frac{1}{2}+\frac{1}{3}=\frac{12}{24}+\frac{8}{24}=\frac{20}{24}=\frac{5}{6}$$

「約分」の計算

10/12=5/6という計算では10=2×5、12=2×6なので、
2を基準にした時に1/6の5個分である5/6と同じになるという事を言意味します。
5/6に2をかけて2でわるともちろん5/6のままなので、
5/6=(5/6)×2÷2=10/12と考える事もできます。

$$\frac{5}{6}=\frac{5}{6}×2÷2=\frac{5}{6}×2×\frac{1}{2}=\frac{10}{12}$$

10/12のように、一般的に分母の分子に共通の倍数(「約数」【やくすう】)があるとき、その数で分母と分子の両方をわる事ができます。この操作を約分【やくぶん】と言います。
10と12は、どちらも2の倍数である(「2を『約数』に持つ」)ので、分母と分子にあるときは2で割ってよいという計算になります。21/27のような場合、分子と分母を3で割って7/9になります。

$$\frac{6}{8}=\frac{3}{4}\hspace{20pt}\frac{12}{15}=\frac{4}{5}\hspace{20pt}\frac{21}{27}=\frac{7}{9}\hspace{20pt}\frac{10}{100}=\frac{1}{10}$$

6/8と3/4は同じ値を表します。

中学校以降で扱う分数では、一般に実数a,bを使ってa/bと分数を表してよい事になります。ただしこの時、b≠0という条件が課されます(特に高校数学以降では注意。)この時、aやbは負の数であってもよいし、2の平方根や円周率のような無理数であっても構いません。
計算規則は全て通常の分数と同じです。 $$任意の実数aと「0以外の任意の実数」bに対して\frac{a}{b}を考える事ができる。$$ $$例:\hspace{10pt}\frac{1}{\sqrt{2}}\hspace{20pt}\frac{-1}{2}\hspace{5pt}\left(= -\frac{1}{2}\right)\hspace{20pt}\frac{\pi}{3}$$

対数関数

対数【たいすう】関数 y= logx について説明します。
関数ではなく、何か1つの値logbについて考えた時は単に「対数」と呼びます。

英:対数関数・・logarithmic function  
対数・・logarithm【「比」と「数」を意味するギリシャ語から作った造語と言われる】

定義と表記

対数関数とは、ある正の数aを「何乗したら」xになるのかを、xの関数として表したものです。
logxと表記し、対数関数と呼びます。これは、指数関数の逆関数になります。

対数関数の定義

指数関数の逆関数、すなわち「ある正の数a【≠1】をy乗したらxになる」という意味になる関数を
対数関数と言い、y=logxと書きます。 $$a>0\hspace{3pt}かつ\hspace{3pt}a≠1のもとで$$ $$\large{x=a^y\Leftrightarrow y=\log _a x}$$ この時、1でない正の数aの事を「」【てい】と言います。
y=logx の定義域はx>0です。
特定の数bに対する対数 logbを考える時には「aを底としてbの対数を取る」という表現をする事があります。また、logbにおけるbを「真数」【しんすう】と呼ぶ事もあります。

例として「10という数を何乗したらxになるか」を考えた時、
その値が 「10を底とする対数関数」であり、log10xと書きます。10が対数関数の底【てい】です。

数学の応用や、理論の多くの場合でも「底」として使われる数は大体決まっている事が多く、
それは10とe(≒2.718・・) と2です。
(もちろん必要があれば他の値を底として考える事ができます。)

これらのうち、10を底とする対数を常用対数 (common logarithm)と言い、
log10xを略記して logxと書く事があります。桁数がやたらと大きい場合に使われる事が多いようです。

また、eを底とする対数を自然対数(natural logarithm)と言い、
logxを略記して lnxと書く事があります。(「ログ・ナチュラル」と読む事があります。)
これはeの指数関数とともに微積分の理論で重要です。

他方、情報理論などでは2を底とする対数を使う事があります。
これは、0と1の2進数を扱う事と関連があります。

logxという略表記はじつは意味が一貫してないところがあり、常用対数を表す事が多いのですが、人によって自然対数を表したり、2を底とする対数として表す事もあります。
そのため「以下、log10x= logxと表記する」といったように、普通は断り書きをつけて使われます。

logax の底aは「正の数」で「1ではない」値を考えるというルールがあります。
もし底が1の場合には、1を何乗しても1になってしまうためで、0の場合も同様です。
またもし底が負の数の場合を考えると、ところどころで「穴」が生じます。
例えば-2の2乗は4ですが、3乗すると-8になります。
という事は実数の範囲で考えれば(-2)=8になるyは存在しないという事になり、関数として見た時にx=8のところが存在しない事になってしまいます。
そのため、負の数のxが取り得る範囲からは除外するという考え方をします。

少しややこしいですが、次に具体例でも示すように対数関数自体の値は0や負の数もとり得ます。y=logxについてx>0で、yは実数全域の値をとり得るという事です。

対数関数における値の範囲の整理

y=logxの、a, x, y のとり得る値の範囲を整理すると次のようになります。

  • a:特定の数で、1以外の正の実数。a>0かつa≠1
  • x:変数で、0より大きい数。x>0
  • y:対数関数の値。範囲は実数全域。0や負の数も含め、任意の実数であり得る。

具体例とグラフ

2を底とした時、
x=2は「2の1乗」
x=4は「2の2乗」x=8は「2の3乗」
x=1は「2の0乗」
x=1/2は「2の『-1乗』」
x=1/4は「2の『-2乗』」

これら「○乗」の部分が対数関数の値となり、logxの表記で書くと次のようになります。

log2=1
log4=2
log8=3
log1=0
log(1/2)=log(2-1)=-1
log(1/4)=log(2-2)=-2

点を座標上にプロットしてy=logxのグラフを描くと次のようになります。

特に断りがない時は、対数関数の定義域はx>0であり、値域(yの範囲)は実数全域です。

この時、2は正の数ですから、x=0やx=-1のような場合、2を何乗してもそれらの値にならないので、x≦0については考えない・・対数関数の定義域から除外するという考え方をします。

10を底にして考えた時は
x=10は「10の1乗」
x=100は「10の2乗」
x=1000は「10の3乗」
x=1は「10の0乗」
x=0.1(=1/10)は「10の『-1乗』」
x=0.01(=1/100)は「10の『-2乗』」
x=\(\sqrt{10}\)(≒3.162)は「10の『1/2乗』」

これらを log10xの表記を使って書くと、次のように表現できます。

log1010=1
log10100=2
log101000=3
log1010000=4
log101=0
log100.1=-1
log100.01=-2
log10\(\sqrt{10}\)=1/2

基本公式

対数関数に関して成立する基本公式には次のようなものがあります。

対数と対数関数の公式
  1. logax+logaz=loga(xz) 
  2. loga(1/x)=-loga
  3. logax-logaz=loga(x/z)
  4. logab=bloga
  5. 底の変換公式:$$\log _bx=\frac{\log \large{_a}x}{\log \large{_a}b}$$ 

①対数の和に関する公式:
=x, a=zとすると、xz=a=au+wなので、log(xz)=u+wで、
=x ⇔ logx=u, a=z ⇔ logz=w なので
log(xz)=u+w=logx+logzとなります。
もっと直感的には、例えば2×2=2となるので底を2としたときには
log(2・2)=log+log=3+4=7と計算してよいという事です。

②逆数に関する対数の公式:
y=log(1/x) とすると、a=1/x
⇔ 1/(a)=x ⇔ a-y=x ⇔ logax=-y=-log(1/x)
もっと直感的には、2の3乗は8で、2の「-3乗」は1/8なので
log(1/8)=-log8=-3と計算してよいという事です。

③対数の差に関する公式:
上記2つの公式を組み合わせると、
logx-logz=logx+log(1/z)=log(x/z)となります。

④ベキ乗に対する対数の公式:
y=logx, z=log(x) とすると、a=x, a=x=(a)yb なので
z=yb つまりlog(x)=blogxです。
ここで(2)=4=2のような計算をしています。
log{(2)}=3log(2)=3・2=6のようになるという事です。

⑤「底の変換公式」:
これが最も分かりにくいかもしれませんが、使用頻度は少ないかもしれません。
理屈としては、次のように考えます。
logx=y, logx=zとすると、a=x, b=x,
よってa=bで、a>0, b>0なのでb=ay/zです。
これは「aのy/z乗がbになる」という事になり
logb=y/z=(logx)/(logx)
⇔ logx=(logx)/(logb) という底の変換公式になります。
例えば、log5=(log5)/(log3)という計算が可能であるという意味です。

途中の式でa=bz/yと考えると、logx=(logx)(loga)という関係式になります。
これら2式の両辺の比を考えると、(logb)(loga)=1という関係も得られます。
logb=yつまりaのy乗がbである時、
bのy乗根(のうち正の数)がaなのでbを1/y乗すればaになる・・
つまりloga=1/yとなるという事です。
具体的には、log8=3, log82=1/3より、(log8)(log82)=1といった計算です。

複素数の指数関数表示【オイラーの式】

複素数の指数関数表示について説明します。

これは「オイラーの公式」とか「オイラーの式」とも呼ばれますが、じつは同じ名前・似た名前で全く別の公式や定理が複数存在します。大変紛らわしく、使用する都度に「複素数に関する・・」「実関数の解析学における・・」「幾何学での・・」このように断り書きをつけるのは大変不便なので、
このサイトではeiθを表す語としては「複素数の指数関数表示」という表現を採用します。

複素数の指数関数表示とは次のようなものです。

複素数の指数関数表示

複素数の極形式表示を指数関数の形で書く事ができ、次のように定義します。 $$e^{i\theta}=\cos\theta +i\sin\theta$$ このeは自然対数の底です。eiθを exp(iθ)と書く事もあります。これは実数範囲の指数関数での表現と同じです。(exponential の略)

こういう形なので、eiθの絶対値は1になります。

$$|e^{i\theta}|=|\cos\theta +i\sin\theta|=1$$

さて、このように「指数関数」で書くからには指数関数としての規則を満たしているのかというと、きちんと満たしています。これらの性質、特に微分の演算は表記を簡易にするので便利です。

成立する演算
  1. 積の演算:eiθiω=ei(θ+ω)
    iθiω=(cosθ+isinθ)(cosω+isinω)
    =cos(θ+ω)+isin(θ+ω) 【ドモアブルの定理より】
    =ei(θ+ω)
  2. 微分:(d/dθ)eiθ=ieiθ 【合成関数の微分使用】
    (d/dθ)eiθ=(d/dθ)(cosθ+isinθ)
    =-sinθ+icosθ=i(cosθ+isinθ)
    =ieiθ

見ての通り、この指数関数表示は三角関数の性質に直接的に関わるものです。
(ドモアブルの定理の成立根拠は三角関数の加法定理。)

実際、一見唐突にも見えるこの「指数関数の定義域の拡張」は三角関数をもとに考えられたものです。

「三角関数と指数関数では全然違うではないか?」という話ですが、それらをテイラー展開すると似た形をしているのです。(微分の性質も似ている事に注意:eの指数関数は微分に関して1回周期、三角関数は4回周期でもとの関数に戻ります。さらに正弦関数と余弦関数は微分により符号を変えながら互いに互いの導関数に変化します。)

特にマクローリン展開(x=0でのテイラー展開)の形にすると形は似てきます。

$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots$$

$$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots$$

$$\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots$$

ここで、正弦関数の場合は「偶数項」が抜けていますが、余弦関数を見るとちょうどそれを補うように項が並んでいるのです。(正弦関数を微分すると余弦関数になる事に対応します。)これを合わせると、ちょうど指数関数のほうで使っている項が並ぶ事になります。

しかしそれでも符号が変わっている箇所は対応しないという話になりますが、ここで指数関数eに「ix」を「形式的に」代入してみるという工夫をしてみます。

$$e^{ix}=1+ix-\frac{x^2}{2!}-i\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+i\frac{x^5}{5!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots$$

これをよく注意して見ると、次の規則があります。

  • 虚数単位iは奇数項にのみつき、偶数項にはつかない。
  • 奇数項と偶数項に分けてみると、それぞれが1項ごとにプラスマイナスの符号が反転する。

そこで、奇数項と偶数項に分けて式を整理すると次のようになります。

$$e^{ix}=\left(1+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots\right)+i\left(x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots\right)$$

$$=\cos x +i\sin x $$

このように「導出」できるわけですが、基本的には複素数の指数関数表示は上記のように「定義」するものになります。複素数の範囲に定義域を拡張する時には上記のようにすると定義するわけです。

しかしそういう事を言うと、定義域の拡張の際に「別のやり方」もあるのではないかという問題も起きます。上記のように定義する必然性がないのではないか、という事にもなります。

この件について複素関数論においては、「正則関数」になるように定義域を拡張する場合には上記のようにeiθ=cosθ+isinθ のようにするしかない、という位置付けになります。(その際にも重要になるのはじつはテイラー展開です。)