【証明】自然対数の底 e は無理数である

自然対数の底 e(ネイピア定数)が無理数である事の証明を述べます。マクローリン展開を使うと、背理法によって比較的平易に証明できます。

まず、e の指数関数 ex のマクローリン展開は次のような無限級数になります。

$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots$$

これは任意の実数xで成立する事に少しだけ注意して(収束半径は∞)、x=1の時を考えれば e という定数そのものを表す式になります。

$$e=1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\frac{1}{4!}+\cdots$$

尚、e = 2.718・・・という具体的な数値はこの式で計算すれば手計算ですぐに得られます。(第6項まで計算すれば2.718を得ます。)

さて、これが有理数なのかというと「結論は違う」わけですが、背理法で示すには敢えてこれを有理数と置く事によって矛盾が生じる事を見ます。

ただ、その前にその「仮定」なしで成立する式変形をする必要があるので先にそれを見るほうが見通しがよくなります。

まず e を無限級数展開で表示し、途中の項まで引いたものを考えます。これを上手く変形して「0を超えて1未満」の実数になるようにします。(図中で、ゼロの階乗は1と定義されます。)

e の無限級数表示の「途中の項から無限大まで」の形の無限級数を考えます。つまり次式です:

$$\frac{1}{(s+1)!}+\frac{1}{(s+2)!}+\frac{1}{(s+3)!}+\frac{1}{(s+4)!}+\cdots$$

これは e から、その無限級数表示の1~s項までの和(有理数)を引いたものです。

$$e-\left(1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots+\frac{1}{s!}\right)=\frac{1}{(s+1)!}+\frac{1}{(s+2)!}+\frac{1}{(s+3)!}+\frac{1}{(s+4)!}+\cdots$$

この式の両辺に 自然数sを使ってs!という量を掛けます。それによって1つの不等式を作れます。

この時に、右辺のほうは各項について約分ができます。
さらに、各項について1/2のベキ乗よりも小さい事が証明のポイントです。
例えば1/(3・4・5)<1/(2)という具合です$$\frac{s!}{(s+n)!}=\frac{1}{(s+1)(s+2)(s+3)\cdots(s+n)}<\left(\frac{1}{2}\right)^n$$

$$s!e-s!\left(1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots+\frac{1}{s!}\right)=s!\left(\frac{1}{(s+1)!}+\frac{1}{(s+2)!}+\frac{1}{(s+3)!}+\frac{1}{(s+4)!}+\cdots\right)$$

$$=\frac{1}{s+1}+\frac{1}{(s+1)(s+2)}+\frac{1}{(s+1)(s+2)(s+3)}+\frac{1}{(s+1)(s+2)(s+3)(s+4)}+\cdots$$

$$<\frac{1}{2}+\left(\frac{1}{2}\right)^2+\left(\frac{1}{2}\right)^3+\cdots+\left(\frac{1}{2}\right)^n=\frac{\large{\frac{1}{2}}}{\large{1-\frac{1}{2}}}=1$$

不等式で抑え込んだ後の計算は幾何級数(等比級数)の計算によります。

つまり、右辺が1未満でプラスの実数ですから自然数ではありません。すると当然、左辺にもそのような性質があります。ここまでは、矛盾は一切ありません。

ここで左辺のほうを計算してみると、第2項は自然数になります。

$$s!e-s!\left(1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots+\frac{1}{(s-1)!}+\frac{1}{s!}\right)$$

$$=s!e-\{s!+s!+(3\cdot4\cdot5\cdots s)+(4\cdot5\cdots s)+\cdots + (s-2)(s-1)s+(s-1)s+s+1\}$$

ここで、e が無理数であればこの左辺の全体も有理数ではなく、
従って自然数ではあり得ないのでやはり矛盾はありません。

しかし、ここで e が有理数であると仮定(これが誤り)してみましょう。

つまり、e = N/M と置いてみます。NとMは自然数です。(e の定義から、プラスの数である事は確定しています。)さらに、前出のs!に使っているsという自然数は特に数を特定したものではなく任意ですから、例えばMでもよいわけです。

すると、s!e=M!N/M=(M-1)N!ですから、さきほどの計算結果は次のように書けます:

$$(M-1)!N+{s!+s!+(3\cdot4\cdot5\cdots s)+(4\cdot5\cdots s)+\cdots +(s-1)s+s+1}<1$$

ところが、左辺は自然数(つまり1以上)のはずですが、それが1未満であるという事になるので矛盾であるわけです。

よって、e が有理数である事はあり得ず、無理数である事になるのです。【証明終】

尚、証明はこの背理法の手順でよいわけですが、

$$任意の自然数 sに対して\hspace{5pt}s!e-s!\left(1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots+\frac{1}{s!}\right)<1$$

を示せた時点で、不等式の左辺の式は「0を超え1未満」であるから自然数ではあり得ず、従って左辺が「e が有理数である事はあり得ない」と言う事もできます。

この証明方法は円周率が無理数である事の証明と似ていて、ある実数が無理数である事や超越数である事を示す時によく使われる手段です。
同じ考え方で、e の有理数乗、例えば e, e, e(1/2) , ・・・なども全て無理数である事を証明できます。(式計算にはもう少し工夫が必要でやや長いものとなります。)

極限値としての自然対数の底 e の定義

「自然対数の底」eの定義の詳しい説明を述べます。(この定数はネイピア定数ネピア定数とも言い、数式中では単に「イー」と読む事が多いようです。)これは、ある数列のn→∞での極限値として定義されます。もちろん、発散してしまうのであれば定数として定義する意味はないのでその数列は収束します。その証明をします。(※高校数学の範囲だけだと証明できません。ただし、証明で肝心になる1つの事項を除くと、使う計算や定理は高校数学のもので足ります。)

$$e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}$$

nを無限大にする極限と、1/nを0にする極限の2つの表し方がありますが、どちらも同じ値 e に収束します。
具体的な値としては約2.718・・・という無理数に収束します。
(※具体的な値を知る方法も、無理数である事の証明にも、 マクローリン展開を使用します。exという指数関数に対する微分公式の性質もそこで本質的に重要です。)

これらの極限が発散せずに収束する事を示すには「nを無限大にする」極限を考えたほうが簡単です。

証明

2項定理を使って直接展開し、全体を数列として見た時に単調増加で上に有界である事を示します。
「上に有界である」とは「数列の全ての1つ1つの項が、例外なくある値以下になる」という意味です。

  1. 2項定理でn乗を直接的に展開して形を調べる。
  2. 数列として「単調増加で上に有界」である事を示す。
    証明過程で等比数列の和の極限(幾何級数)の公式の考え方を使用します。

※「単調増加で上に有界な数列は収束列である」事の証明は、一般には大学数学の初めに教えられます。自明な事とは言えないので証明が必要です。高校では教えない事が多いです。

極限の式が収束する事を示すには、この場合においては単純に2項定理を使って1つ1つの項に展開します。次に、式全体を数列と見なした時に、単調増加数列である事を証明するのです。

単調増加である事の証明

まず、極限の中身のn乗の形の式に対して2項定理を使います。次のように展開できます。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=1+_nC_1\frac{1}{n}+_nC_2\left(\frac{1}{n}\right)^2+\cdots+_nC_n\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

$$=1+\frac{1}{n}+\frac{n(n-1)}{2}\left(\frac{1}{n}\right)^2+\frac{n(n-1)(n-2)}{3!}\left(\frac{1}{n}\right)^3+\cdots+\left(\frac{1}{n}\right)^n$$

第k項だけを取り出すと次のような形になっています。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+2)(n-k+1)}{k!}\left(\frac{1}{n}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k+1}{n}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n}\right)$$

1≦k≦nなので、これはプラスの値です。
(元々、プラスの値をn乗しているものなので予想はつくものですが。)

少し分かりにくければ、具体的な番号の項に着目し、書き出してみるとよいでしょう。
例えば第4項は次のようになります。

$$_nC_4\left(\frac{1}{n}\right)^4=\frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{4!n^4}$$

$$=\frac{1}{4!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdot\frac{n-3}{n}\right)=\frac{1}{4!}\frac{n}{n}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\left(1-\frac{3}{n}\right)$$

単調増加であるかを調べるには、nをn+1に置き換えた時の状況を調べます。
つまり次の形の数列を同様に2項展開するわけです。

$$\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

その場合の第k項は次のような形になります。【n+1個からk個を選ぶ組み合わせを使う事に注意】

$$_{n+1}C_k\left(\frac{1}{n+1}\right)^k=\frac{(n+1)n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+3)(n-k+2)}{k!}\left(\frac{1}{n+1}\right)^k$$

$$=\frac{1}{k!}\left(\frac{n+1}{n+1}\cdot\frac{n}{n+1}\cdot\frac{n-1}{n+1}\cdot\frac{n-2}{n+1}\cdots\frac{n-k+3}{n+1}\cdot\frac{n-k+2}{n+1}\right)$$

$$=\frac{1}{k!}\frac{n+1}{n+1}\left(1-\frac{1}{n+1}\right)\left(1-\frac{2}{n+1}\right)\left(1-\frac{3}{n+1}\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n+1}\right)$$

ここで、「4/5は5/6よりも小さい」…といった具体的な関係からも分かる通り、
一般に有理数に関して、 m/n ≦ (m+1)/(n+1) という不等式が成立します。

nの場合とn+1の場合とで第k項のk個の因数(上記で分母の階乗の項以外のk個)をそれぞれを比較すると、例えば次のような大小関係があります。

$$\left(1-\frac{1}{n}\right)<\left(1-\frac{1}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{2}{n}\right)<\left(1-\frac{2}{n+1}\right),\hspace{15pt}\left(1-\frac{3}{n}\right)<\left(1-\frac{3}{n+1}\right)$$

この大小関係は、上記式中のk+1個の因数のうち3つ目以降のそれぞれについて成立します。初めの2つは1/(k!)と1なので等しいですから、1~nのそれぞれの項についてn+1の場合のほうが大きい事になります。
そして、全体の項数としてはn+1の場合に1つ項が多くてプラスの値の項が加わるので、結局n+1の場合の方が、nの場合よりも大きい事が示されます。

$$任意の自然数nについて\hspace{5pt}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$$

組み合わせの取り方について混乱しやすいので注意。k個を選ぶ各項で比較し、その中で共通の階乗部分以外のk個の因数同士をさらに比較します。n+1の場合のほうが、1~nまでのそれぞれの項についてnの場合よりも大きくなり、さらに、n+1番目のプラスの項があるので単調増加である事を示せます。この時の各項の比較では、分母のnのべき乗の1つnを分子のそれぞれの因数に割り振ると大小関係の比較が分かりやすくなります。

上に有界である事の証明

次に、上に有界である事を示します。これは、等比数列の和の性質を上手に使うとうまく不等式によって示す事ができます。2項定理で展開した時の第k項について再度考察すると、k≧1のとき1/(2)という値以下に必ずなる事が分かります。

$$_nC_k\left(\frac{1}{n}\right)^k=\frac{1}{k!}\left(\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-k+2}{n}\cdot\frac{n-k-1}{n}\right)≦\frac{1}{k!}≦\large{\frac{1}{2^{k-1}}}$$

【分母の階乗以外のカッコ内の部分が1以下という意味で不等式で抑えています。また、例えば4!=4・3・2・1=24と「2の4乗」2=2・2・2・2=16とでは階乗のほうが大きい値となり、k!≧2という関係があります。これらが分母に来るので、大小関係は逆になっています。
尚この「2」という数自体に特別な意味はなく、あくまでこの数を使うと証明がしやすいという意味でここでは使用しています。

これが各kについて成立するという事は、全体では次の不等式が成立します。

$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n≦1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}$$

これの右辺は等比数列の和に1を加えたものですから直接値を計算できるのです。ここでnを無限大にする必要はありませんが、nをどれだけ大きくしてもある値以下になる事の確認は必要です。公比が1未満で、公比がプラスの値の等比数列は単調増加ですから確かに大丈夫という事になります。

$$1+\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+\frac{1}{2^n}\right)=1+\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{n+1}}{1-\frac{1}{2}}=3-\left(\frac{1}{2}\right)^n<3$$

よって上に有界であり、単調増加である事と合わせて問題の極限値は存在するという事になります。尚、この「3より必ず小さい」という事実は、e = 2.718・・・という値になる事ともちろん調和しているのです。

$$\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to0}\left(1+n\right)^{\large{\frac{1}{n}}}は、収束し、特にeと書きます。$$

意味と使われ方

この自然対数の底 e は、何と言っても微分および積分の性質が、数学の理論上でも物理学や工学での応用でも重要になります。「微分して得た導関数が元の関数に等しいものは存在するか?」という問いの答えは「あります」で、それが e の指数関数 ex です。(もちろんその事は自明ではなく証明が必要。)

$$微分公式:\hspace{10pt}\frac{d}{dx}e^x=e^x$$

その微分の性質は、微分方程式の解法でも直接的に関わります。例えば、線型で定数係数の常微分方程式の解法では「微分すると元の関数に戻る」性質が上手に使われていて解を構成します。

複素数の指数関数表示 eix = cos x + i sin xなども理論・応用上ともに重要です。

円周率は無理数である【証明】

円周率は無理数です。つまり、整数の比(分数)では表せない実数であるという事です。

その証明方法は1つではありませんが、一般的な2つの方法は次の通りです。

2通りの証明の方法
  1. 背理法と部分積分で示す方法:円周率が有理数であると仮定すると矛盾が生じる。
  2. 連分数とライプニッツ級数を使う方法:円周率が無限連分数となる事を示す。

2番目の方法は計算自体は比較的簡単ですが、まず「ライプニッツ級数」「無限連分数」といったものが何なのかという話にもなるので、その意味では分かりにくいかもしれません。
そのため、背理法のほうを先に述べます。背理法での一般的な証明では計算は少しごちゃごちゃしますが、使うものは高校数学の知識で済むのです。

背理法と部分積分による証明

この背理法による証明は、円周率は「有理数ではないでしょう」という予想はあらかじめつけたうえで、矛盾が生じてしまうような関数を敢えて探してくるという方法になります。

まず、円周率そのものを式でどう表すかという問題があります。これには、ライプニッツ級数やマチンの公式をはじめ様々なものがありますが、背理法で示す場合にはむしろ三角関数を使ったほうが比較的簡単である事が知られています。

f(x)sinxで表される関数の定積分の、部分積分を考えます。

$$\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx\hspace{10pt}の部分積分を考えます。$$

$$\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx=-\left[f(x)\cos x\right]_0^{\pi}+\int_0^{\pi}f^{\prime}(x)\cos xdx$$

$$=-\left[f(x)\cos x\right]_0^{\pi}+\left[f^{\prime}(x)\sin x\right]_0^{\pi}-\int_0^{\pi}f^{\prime\prime}(x)\sin xdx$$

$$=-\left[f(x)\cos x\right]_0^{\pi}+\left[f^{\prime}(x)\sin x\right]_0^{\pi}+\left[f^{\prime\prime}(x)\cos x\right]_0^{\pi}-\int_0^{\pi}f^{\prime\prime\prime}(x)\cos xdx=\cdots$$

という感じで、これは延々と続いていくタイプの部分積分です。ここで、sinxに0と円周率を代入する箇所はゼロになる事に注意し、f(n)(\(\pi\))+f(n)(0)=Cとおきます。【f(n)(x)はf(x)のn階導関数です。】

$$-\left[f^{(2n)}(x)\cos x\right]_0^{\pi}=f^{(2n)}(\pi)+f^{(2n)}(0)=C_{2n}$$

$$\left[f^{(2n+1)}(x)\sin x\right]_0^{\pi}=0$$

すると、上記部分積分はてきとうなところで部分積分を止めて次のように表せます:

$$\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx=C_0-C_2+C_4-C_6+\cdots\pm\int_0^{\pi}f^{(n)}(x)\sin xdx$$

今、f(x)の形は特に指定しておらず、円周率がどんな値であるかに関わらずこの式は成立します。

背理法を使う証明

ここで、f(x)がn次の多項式の形で定数項が特定の値のもの、例えばf(x)=axなどといったものであれば、有限回の微分操作で0になり、しかも上記の部分積分の途中の項で円周率が直接式に出てきます。
f(x)がそのような条件を満たす多項式であるとして、まず、有限回の微分操作でf(n+1)(x)=0になるので、
上記の部分積分では最後の積分の形の項が消えて次のように有限項の和として書けます。

$$\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx=C_0-C_2+C_4-C_6+\cdots\pm C_{2n}$$

このCは、上でも定義したようにf(n)(\(\pi\))+f(n)(0)=Cとおいたものです。

ここで、各項はC=f(m)(\(\pi\))+f(m)(0)=a\(\pi\)のように表されるので、円周率のベキ乗に係数を掛けたものの和になっています。さらに、aをてきとうな有理数に選べば、円周率が有理数であると仮定した時に【これが誤りであるわけですが】もとの定積分が整数となるようにできます。
例えばf(x)=axとして、pとqを自然数として\(\pi\)=p/qとおいた時に、aをqの倍数にとってa=mqのようにすれば\(\pi\)a=mpとなり、整数となるわけです。
【※円周率は3.14・・・という正の数である事は確定しているとしています。】
後述しますがそのようにするためのaの値はもっと小さい有理数でもよく、それが証明の根拠になります。

ところでもとの定積分は、正弦関数の絶対値が1以下なので、積分区間でf(x)が正の数であれば次の不等式が成立します。

$$0<\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx≦\int_0^{\pi}f(x)dx$$

という事は、もし何らかの関数f(x)でこの定積分の値が「1未満」になるものが存在すれば、もとの定積分は0より大きく1未満という事になって自然数ではあり得ないという事になります。
この事との「矛盾」がこの背理法での証明で使われます。
【こちら側の事実は円周率が有理数・無理数であるかに関わらず常に成立する正しい関係式です。】

問題の定積分をC-C+C-・・・±C2nの形で表すところに戻って、
f(x)としてできるだけ「小さい値」をとるような関数が何かないかと考えます。
【多分あるはずだという予測のもとでそう考えるわけです。】
結論を言いますと、x=0とx=\(\pi\) でゼロの値をとるような2n次の多項式f(x)=ax(\(\pi\)-x)を考えるとうまくいきます。このようなf(x)について、f(0)=0かつf(\(\pi\))=0です。
定義域を [0,\(\pi\)]とすると、a>0であればこの関数f(x)はプラスの値です。

ここでf(x)のk階導関数について、1≦k≦n-1のとき、積の微分公式を考えれば、f(k)(x)はx(\(\pi\)-x)を因数に持つ事が分かります。【因数分解できるという事です。】
という事は、その時にはf(k)(0)=0かつf(k)(\(\pi\))=0という事になります。
について言えば、C=f(k)(\(\pi\))+f(k)(0)でしたから、C=C=C=・・・=Cn-2=0となるという事です。次に、n≦k≦2nの時はどうかというと、この時にはx(\(\pi\)-x)の形の項で全体を因数分解はできません。しかし、ax(\(\pi\)-x)の形の関数をn回以上微分しているので式全体がn!を因数に持ちます。
何らかのn次以下の多項式で、全体がn!を因数に持つという事になります。

よってこの時、
-C+C-・・・±C2n=±(C2m-C2m+2+C2m+4-・・・±C2n)=n!ag(\(\pi\))という形になり
ここでのg(\(\pi\))の部分は、n次以下の整数係数の多項式に円周率を代入した形です。
【n=2mとおいています。符号が入り乱れますがここであまり本質的ではありません。】

$$g(\pi)=b_n\pi^n+b_{n-1}\pi^{n-1}+\cdots+b_2\pi^2+b_1\pi+b_0\hspace{10pt}【係数b_jは全て整数】$$

$$n!ag(\pi)=n!a(b_n\pi^n+b_{n-1}\pi^{n-1}+\cdots+b_2\pi^2+b_1\pi+b_0)$$

さて、とすると、f(x)=ax(\(\pi\)-x)において、
自然数pとqを使って \(\pi\)=p/q で表せるという(誤った)仮定」をすると、
-C+C-・・・±C2n全体を整数にするためには、aをq/n!のようにした場合でも可能です。
この時の分母のn!の階乗がなくてもそれは成立しますが、できるだけ小さい値の関数を考える時に、少なくともここまで小さい物を考える事が確かに可能だという事です。

ところが、f(x)=(q/n!)x(\(\pi\)-x) であるとすると、0≦x≦\(\pi\)においてはx(\(\pi\)-x)≦\(\pi\)・\(\pi\)=\(\pi\)2nとなるのでf(x)≦\(\pi\)2n/n!

という事は、問題の定積分の不等式に再度戻ると次のようになります。

$$0<\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx≦\int_0^{\pi}f(x)dx≦\int_0^{\pi}\frac{\pi^{2n}q^n}{n!}dx=\frac{\pi^{2n+1}q^n}{n!}$$

この最後のところの式は、テイラー展開の剰余項問題のところでも出てくるような形の式ですが、nをじゅうぶん大きくすると極限値を0にできるものであり、1未満になるようなnも確かに存在できます。
【ここでのqがどのような自然数でも、\(\pi\)2n/n!<1になるような自然数nが存在するという事です。また、ここでのnは、てきとうなところで部分積分を打ち切った自然数であり任意にとれるので「じゅうぶん大きいn」を考えてよいという事です。】

つまり結果は次式です。

$$0<\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx≦\int_0^{\pi}f(x)dx≦\int_0^{\pi}\frac{\pi^{2n}q^n}{n!}dx=\frac{\pi^{2n+1}q^n}{n!}<1となる自然数nが存在$$

$$かつ、\int_0^{\pi}f(x)\sin xdx=C_0-C_2+C_4-C_6+\cdots\pm C_{2n}\in \mathbb{Z}【整数】$$

これは「矛盾」なので、円周率は有理数ではあり得ない、という事です。

★この「0より大きく1より小さい整数は存在しない」という事を利用する証明方法は、ある数が無理数である事や超越数である事を示す時によく使われるものです。また、問題となっている数と整数を関連付けるために微積分(特に微分)を使うのも比較的よくある手法です。

一体どこがおかしくて矛盾が出たのかというと、\(\pi\)=p/q とした時に「pとqは自然数」としたところがおかしい事になります。その仮定を設けずに単に\(\pi\)=p/q とおいてf(x)=(q/n!)x(\(\pi\)-x)とする事【そのようなf(x)を考える事】自体には問題はありません。
そのf(x)のもとで問題の定積分を部分積分したものについてC-C+C-・・・±C2n<1となる【そのようになるようなf(x)が存在する】という事自体も正しい式で、「そのような制限が必ず付くので、円周率を有理数とする事はできない」というようにも言えます。

証明において、どこからどこまでが「もともと正しい関係式」であって、どこからが「誤った仮定により導出される間違った式」なのかを整理すると見通しはよくなるでしょう。

ここでは説明のために長く文章も書きましたが、やり方をふまえて式だけ書いていくと、やっている事自体は結構簡単である事が分かると思います。
一番難しいのは、「問題の定積分が0より大きく1未満になり、かつ誤った仮定をするとその定積分が整数になってしまうという関数」を「(自力で)見つける」事だと思います。しかし一般的には、事実としてこうなる事を知っておけばそれでじゅうぶんでしょう。

連分数とライプニッツ級数による証明

もう1つの証明方法は、円周率を連分数で表すと、有限の連分数にならず、無限連分数になってしまう事から「無理数である」と判定するものです。

しかし、まず「連分数」とは何かという話になります。ここでごく簡単に述べると、次のように分母の中に「整数+分数【有理数】」の形を作っていき数を表示するものです。

$$ b_0+ \frac{a_1} {b_1+\Large{\frac{a_2} {b_2+\frac{a_3} {b_3+\frac{a_4} {\Large{\frac{\cdots}{b_{n-1}+\frac{a_n}{b_n}}} } } } }} $$

これは見慣れない人も多いと思います。実際、物理などへの応用では基本的には使わず、数学に特有のものでしかも数学の中でも限られた分野でたまに使うというものです。
特定の有理数を連分数で表す時、その中の数列{a}と{b}は有限で終わります。他方、無理数であると無限に続いてしまうというのが証明の考え方です。
考え方としては「ある実数が有理数」⇒「連分数が有限で終わる」が正しいので、「ある実数を表す連分数が有限で終わらない」⇒「その実数は有理数ではない(=無理数である)」というものです。
【※ある連分数が無理数に収束するための条件は、じつのところもう少し複雑です。】

次に、円周率を何らかの形で分数として表す手段が必要です。ここでの証明では、ライプニッツ級数を使うと比較的簡単です。しかしこの公式がどのように出てくるのかという問題もありますが、ここでは結果のみを使います。
【ライプニッツ級数は、扇形の面積を少し工夫した積分で出す方法や、逆正接関数のマクローリン展開などによって導出できます。】

$$\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\cdots$$

これを連分数にしてみようというわけです。有限の数列の和を連分数にするにはじつは公式があって、結論を数列の隣り合う項の比を考えるとうまくいきます。

簡単のため、まず3項目までやってみて、次に一般の場合を記します。

$$1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}=\frac{1}{1+\Large{\frac{\frac{1}{3}}{\frac{2}{3}+\frac{3}{5}\cdot\frac{5}{2}}}}=\frac{1}{1+\Large{\frac{1}{2+\frac{3^2}{2}}}}$$

これは、じつは次のように数列を計算しているのです。
=1【初項】,b=1【必ず1】,
=-(-1/3)/1=1/3【-第2項/第1項】,
=1-a=2/3,
=-(1/5)/(-1/3)=3/5【-第3項/第2項】,
=1-a=2/5

同じ具合に計算して、分母を上手に整理すると、第n項までの結果は次のようになります。

$$ \frac{1} {1+\Large{\frac{1} {2+\frac{3^2} {2+\frac{5^2} {\Large{\frac{\cdots}{2+\frac{(2n-3)^2}{2}}} } } } }} $$

このようになるのは、次のように計算できるためです。
=-{-1/(2m-1)}/{1/(2m-3)}=(2m-3)/(2m-1)
【もしくは-{1/(2m-1)}{-1/(2m-3)}=(2m-3)/(2m-1)】
=1-a=2/(2m-1)となり、
m≧2の時、
+am+1/(・・・)=2/(2m-1)+(2m-1)/{(2m-3)(・・・)}
=2+(2m-1)/{(2m-3)(2m-1)(・・・)}

すると、nを増やしていくとこの連分数は無限に続いていく事になります。そのため、円周率は無理数であると判定されるという具合です。

連分数を使う方法

このように、連分数が「規則正しく」続いていくと、かえってnを増やすごとに延々と続いて終わらないので特定の収束する無限級数が「無理数」であるという事を意味するわけです。
円周率だけでなく、2の平方根や自然対数の底eなどが無理数である事を見るのにも、じつはこの連分数の方法を使う事が可能です。

ここで使っているものは、分数計算とちょっとした数列の計算だけなので、計算自体は前述の背理法の場合よりもずっと簡単だと思います。しかしいかんせん、この連分数というものの表記も理屈も、結構分かりにくいものだと思います。また、ライプニッツ級数で円周率を表せる事を前提にしていますから、その事が確かに成立する事を納得していないと、ここでの証明も少々「腑に落ちない」ものだと思います。

いずれにしても、これらのような形で円周率は確かに「無理数である」という事が言えるという事です。

積分による立体の体積計算

高校数学での範囲での積分による体積計算の方法について説明します。

積分と体積の関係

1変数の関数の積分が基本的にはグラフ上の面積を表すのに対し、2変数関数の2重積分は体積に対応します。(座標上のスカラー関数を体積積分する場合などは3重積分。)【※高校数学の微積分の範囲外。】

他方で、2重積分の最初の積分、「面積」に該当するところが積分以外の方法でS(x)という形の関数で表せるのであれば、これについての1変数の積分として体積を計算する事も可能な場合があります。錐体の体積や球の体積など、基本的な立体図形の体積公式はこの考え方でも導出できます。

例えば、断面の形が三角形、四角形、円などの規則的で容易に面積を計算できる図形であれば断面積を積分によらずに出せるので、それを1変数関数で表し積分すれば体積になるというわけです。

積分による体積計算【高校】

立体の断面がS(x)で表され、変数xの軸が断面に垂直である時、体積Vは次のように表されます:$$V=\int_a^bS(x)dx\hspace{15pt}(a,b\hspace{3pt}はてきとうな定数)$$

三角錐の体積【積分】

計算の注意点としては、明確に「体積」なるものを計算したい場合には、きちんと断面に対する「高さ」に対応するように軸の向きをとる必要があるという事です。そうしないと計算しても変な値になってしまい、正しく体積を計算できません。
積分で体積を計算できる根拠は、「薄い錐体」(三角柱、四角柱、円柱など)を加え合わせ極限をとるという操作を体積計算とみなしているためだからです。

例えばある立体の断面をもとに体積を考えたいときには、基本的に軸はその断面に垂直になるようにとって積分を計算する必要があります。
【※じつは軸は必ずしも直線でなくてもいいのですが、その場合でも断面に垂直である必要があります。】

積分の記号「∫f(x)dx」はこれ全体で1つの意味を表すと捉えるべきですが、もともとの考え方から言うとf(x)と(微小な)区間の幅dxの積を加えて区間の数→無限、dx→0という極限を考えたものでもあります。従って、断面積を関数として積分している時点で、「断面積×微小な高さ」という、微小な柱体の体積を考えている事になります。
しかしそこで本来「高さ」にはならないものを軸にして変数を考えてしまうと、積分の結果もおかしくなってしまい実際の体積を正しく表せない・・という事です。

錐体の体積公式【積分による導出】

三角錐、四角錐、円錐の体積公式:「体積=底面×高さ÷3」は、積分で導出できます。
【※それとは反対に、積分を使わなくても導出は一応可能です。】

一番下の底面に平行な平面による錐体の断面を考えてみましょう。最も基本的なのは三角錐なので、まずそれで考えます。

断面によってできる側面の線は、底面に平行になります。このとき、もとの側面の三角形と相似な三角形が作れて、相似比はどの側面でも同じ事に注意します。すると、断面の三角形は底面の三角形に相似であって、面積比は相似比の2乗になります【相似比と面積比の関係】。

この相似比はどこの高さで断面を考えているかによって決まります。そこで、高さの範囲を [0,h]とします。hは三角錐全体の高さです。ある高さxでの断面の三角形の1辺は、底面の1辺の1-x/h倍です。例えば3/hの高さであれば2/3倍という事です。4/hの高さなら3/4倍です。

相似比が1-x/hなので、面積比は(1-x/h)です。

底面積をS(定数)とすれば、断面積はS(1-x/h)という事になり、これを0~hで積分すれば体積を得るという仕組みです。

柱体の体積を積分で考える事も可能で、その場合は断面積が一定(定数関数)であるとして0~hで積分すれば「体積=底面積×高さ」を得ます。

$$\int_0^hS\left(1-\frac{x}{h}\right)^2dx=\left[-\frac{h}{3}\cdot\left(1-\frac{x}{h}\right)^3\right]_0^h=\frac{Sh}{3}$$

この通り、結果は「底面積」×「(底面から測った立体的な)高さ」÷3になります。

原始関数を出すところが多少込み入りますが、原始関数を微分すると合成関数の微分で-3/hが掛けられます。そこから逆算して-h/3を係数としてつけているわけです。
代入するところの計算は、hを代入すると1-x/h=0で, 0を代入すると1-x/h=1になる事により結果の式を出しています。【このため、結果の式では「3乗」というものがあった事は見えなくなり、1/3という係数だけが痕跡として残っているような形になります。】

ところでこの計算を見ると、底面積はSという一般的な形をしていて三角形に限っていません。問題は、高さxでの相似比と面積比という事になりますが、これは任意の多角形で成立する性質です【多角形は三角形に分割できるため】。
そのため、この積分計算は多角錐でも適用できる事になります。
また、円錐の場合でも適用できます。円を多角形の近似と考えてもいいですし、三角形の相似から半径が1-x/h倍になり、円の面積は半径の2乗に比例するからと考えても結果は同じです。
そのようにして、三角錐に限らず、他の多角錐や円錐でも体積公式は同じであるという結果を得るのです。

回転体の体積

高校の微積分では、一般的に「関数を軸周りに回転させてできる図形(回転体)の体積」を計算させる問題が多く問われます。

事の本質は「断面積をxの関数で表し、断面に垂直な方向に積分すれば体積」という事です。

軸の周りに回転させるという事は、断面は必ず円になります。y=f(x)で表されている時、これそのものを変数xにおける「半径」と考えて、断面積をxで表すというわけです。

回転体の体積計算【高校】

$$S(x)=\{f(x)\}^2として積分\hspace{20pt}V=\int_a^b\pi{f(x)}^2dx$$

これは、公式を暗記するのではなくて、意味を覚えて普通に計算する方が断然楽である部類の積分の計算の1つです。「要するに断面積を変数で表す事が必要」という事だけ覚えて、あとは図形的に判断すれば計算が可能です。

回転体の体積【積分】

この「回転体の体積」を積分で計算する事の応用例で重要なのは球の体積公式です。この場合は、円の式x+y=rからy=・・の形に直して2乗し、積分するという事になります。

ただ、高校数学の微積分の問題だと、応用上の重要度というのは度外視して、よく分からない関数を回転させて体積計算させるという問題も少なからず見かけます。
高校数学での出題では、あくまで積分の基本計算を正確にできるかを問うていると捉えるべきでしょう。
大学入試の場合には2つのグラフで囲まれる部分を回転させるといった出題もあります。この場合、グラフ同士の交点を出さないと積分区間が分からないので、積分単独ではなく複合的な形の問題になっています。

立体の体積

体積の意味と考え方、柱体や錐体などの立体の体積の計算の仕方などについて説明します。

このページでは、「高さ」と言ったら断りのない限りは、底面から見た「立体的な意味での高さ」の事を意味しています。

立方体と柱体の体積

基本的には、1辺の長さが1の立方体の体積を1として、これが何個分あるかで立体の体積とします。それが2個分あれば体積は2、半分であれば1/2という具合です。面積が「広さ」を表す量であるのに対し、体積は大きさを表します。この時、1つの辺の長さが何倍かになれば、同じ割合で体積も増加します。

体積とは? ■ 体積の単位 ■ 柱体の体積の考え方 

体積とは?

その意味で、1辺の長さがaの立方体の体積は、a3になります。例えば1辺が2であれば2×2×2=8が体積で、「1辺が1の立方体」の8個分の大きさであるという事です。

また、直方体の体積は互いに垂直な方向に伸びた3つの辺の長さの積になります。底面が辺の長さaとbの長方形で、立体的な高さがcである直方体の体積はa×b×c(=abc)となります。

体積の単位

3つの辺の長さが掛けられるので、その意味で辺の長さに単位がついている場合には、例えばセンチメートルcmに対しては体積の単位はcmと書き、「立方センチメートル」と読みます。
単位がメートルであれば体積の単位はmと書き「立方メートル」と読みます。

この時の単位の換算は、1m=(100cm)と考えて、1m=1000000cm(=10cm)というふうにします。1立方メートルの体積は、100万立方センチメートルの体積に等しいという事です。これは、計算上の見かけはそうなるという事ではなくて、実際に立方メートルの体積の箱には1立方センチメートルのサイコロが100万個入る大きさであるという事です。

「え、そんなにたくさん入りますか・・?」

数字だけ見ると、確かにそんなに数が大きくなるだろうか?と、思ってしまいますね。しかし、100が100個あれば1万で、1万が100個あれば100万ですから、確かにそのような事になるのです。1cmのサイコロを1mの中に並べると、100個です。1mの長さの正方形には、それが100列ありますから1万個入ります。1mの長さの立方体には、それが100段ですから100万個になるという事です。身近な例で、計算してみると「意外と」大きくなるという例かもしれません。箱などの入れ物の体積を、特に「容積」と呼ぶ場合もありますが、数値として扱う時には体積と全く同じ単位や計算法を使います。

実用上の体積の単位として、「リットル」があります。記号ではℓ(「エル」の筆記体)を使います。【Lやl(小文字の「エル」)なども使われます。】これは牛乳などにも書いてある事もあるのでなじみがある人も多いかと思います。

実際、これは基本的には液体の体積を表すのに使われる事が多いものです。1リットルは、1000cmに等しい体積です。液体の体積や、液体を入れる容器の体積を特に「容量」と言う場合もあります。

化学などでは「ミリリットル」という単位もよく使います。記号は、mℓもしくはmlのように書きます。この「ミリ」は、「1ミリメートル【mm】」のミリと同じで、千分の1という意味です。【10mmは1cmですが、本来は1m=1000mmという換算です。】

つまり、1000mℓ=1ℓですが、1ℓ=1000cmでしたから、じつのところ1mℓと1cmは、体積としては全く同じです。ただ、ミリリットルのほうは液体の容量を指す事が多いという点が実用上の違いです。

柱体の体積の考え方

面積の場合、三角形の面積は
三角形→平行四辺形→長方形→「正方形が何個分詰まっている広さか」
という考え方のもとで計算していました。立体の体積も、基本的に同じ考え方です。

まず、三角柱を考えると、これは2個合わせれば底面が平行四辺形である四角柱になります。その四角柱は、出っ張っている部分を切り取って反対側にくっつければ、直方体になります。

つまり、底面の三角形の面積を出して、立体的な意味での高さを掛ければ、体積1の立方体が何個分あるかという意味での体積に等しくなります。

さらに、任意の多角柱は、三角柱に分割できます。という事は、角柱の場合には
「底面の図形の面積(=底面積)」×「立体的な意味での高さ」
によって体積が計算できるという事を意味します。

円柱や、さらには任意の閉曲面を底面とする柱体でも考え方は同じで、無数の細かい三角柱の体積の和の極限を考えます。一般に柱体の体積は「底面積」×「立体的な意味での高さ」で計算します。

平行6面体のような立体の体積も、「底面×立体的な意味での高さ」で計算できます。底面に平行な平面で各高さの断面を見ると平行四辺形である事によります。【そのような薄い四角柱の合計の極限・積分として考えると導出は楽です。】

錐体の体積

三角錐、多角錐、円錐の体積の場合は、底面積×高さ÷3で計算します。(これを使った計算は、中学校の数学や高校入試の問題でも問われる事があります。)

角錐や円錐の体積の公式

体積=底面積×高さ÷3

この「÷3」あるいは「×1/3」は一体どこから出てくるのかというと、一番簡単な導出方法は積分を使う方法ですが、それを使わないでも導出は可能です。

まず、三角錐からです。三角柱を考えて、これを体積が等しくなるように3分割する方法を考えます。この時に三角柱を、ちょうど体積が等しい三角錐3つで分割できます。三角柱の体積は「底面積×立体的な高さ」ですから、それを3で割って三角錐の体積になるというわけです。あるいは、三角錐を基準に考えるのであれば、「底面を共有し高さが等しく、かつ3倍の体積を持つ三角柱」を必ず考える事ができるので3で割ればよいというわけです。

三角錐の体積については、底面積と立体的な意味の高さが分かっていれば、三角錐である限りどんな形状であっても公式を使えます。また、三角錐には4つの面がありますが、どの面を底面としても、そこから高さを測れば体積の公式を使えます。

四角錐以上の多角錐は、全て底面を三角形の和として考える事ができます。そのため、多角錐の体積も同じく「底面積×立体的な高さ÷3」で計算できます。円も多角形で近似できるので、円錐の体積も同様になります。

柱体の時と同じ考え方で、多角錐と円錐についても同じく底面を三角形に分割して考えます。ただし四角錐以上の場合は、公式を使う時にどの面を底面として考えてもよいわけではなく、四角錐であれば四角形の面を、円錐であれば円の面を底面として、そこから高さを測ります。

球の体積については、図形だけから考えるのはかなり難しいので、積分によって体積の公式を出すのが普通です。結果は、半径をRとして(4/3)×R×円周率になります。

立体の図形【空間図形】

球・立方体・三角柱・三角錐などの立体的な図形です。
基本的な「立体」(りったい)の図形の名称や、用語について説明します。

平面図形をいくつか立体的に組み合わせる事で、箱やボールのような、高さや奥行きのある図形を作れます。平面図形では線が図形を構成しますが、立体では線で構成される「面」によって全体が構成される形になります。立体の図形では面が平面状になっているものだけでなく、曲がった「曲面」である事もあり得ます。

柱体と錐体

三角形の各頂点に、柱を立てるように「平面に対して垂直に」3本の線を引いて、下の三角形(「底面」)と平行になるように同じ三角形を屋根のようにおいたものを「三角柱」(さんかくちゅう)と言います。
壁のようになってる面(「側面」)は長方形または正方形になります。底面が正三角形の場合、「正三角柱」のように呼ぶ場合もあります。

同様に四角形に対して柱状に底面に垂直に線を引き、底面に平行になるように四角形の屋根をつけたものは四角柱とも言いますが、底面と側面のいずれかが長方形(正方形であってもいい)のものを特に「直方体」と呼び、サイコロのように全ての面が正方形であるものを「立方体」と呼ぶ事が多いです。

底面が5角形、6角形、・・の場合は5角柱、6角柱、n角柱のように呼びますが、それらは実際問題としてはそれほど多く使う語ではないかもしれません。
これらの、多角形を底面とする柱状の立体は「角柱」という名称で分類される事もあります。それらの底面が正多角形の場合は、三角柱の場合と同様に「正n角柱」「正多角柱」のように呼ぶ場合もあります。

底面が円の場合は、筒のような立体で「円柱」と呼ばれます。

角柱と角錐、円柱、円錐
いわゆるピラミッド型の立体は四角錐です。真上から見ると四角形になります。
1~6の目が出るサイコロは立方体です。

角柱のようにまっすぐ立っていなくて底面から斜めに向かって線分が伸びている図形も、もちろん一般的にはありえます。それらのうち、向かい合う面が1つの方向に平行であるものを特に「平行n面体」と呼ぶ事があります。角柱も平行n面体の特別な場合という事になります。特定の分野でたまに扱われるものとしては、平行6面体があります。

他方で底面の図形の各頂点から、立体的な意味で上下の方向に向かって1点に線が引かれて尖った立体になる場合は、底面の図形の種類によって「三角錐」(さんかくすい)「四角錐」「五角錐」「六角錐」「n角錐」「円錐」のように呼びます。これらはまとめて「錐体」と呼ばれる部類の立体です。そのうち底面が多角形のものは「角錐」として分類される事もあります。
「錐」という漢字は「すい」と呼ぶほかに「きり」とも呼んで、これは工具類の穴を開けるキリの事です。

角錐の底面が正多角形である場合で、底面の各頂点から1点に向かう線分の長さが全て等しい場合、角柱の時と同じように「正三角錐」「正四角錐」「正5角錐」・・・などと呼ぶ事もあります。

これらの三角柱や四角錐などの立体を、「面」の数に着目して呼ぶ言い方もあります。例えば、三角錐は底面1つと側面が3つで4つの面があるので「四面体」になります。三角柱であれば5つ面があるので「五面体」、直方体や立方体は6つの面があるので「六面体」になります。

この時、全ての面が同一の正多角形で構成されている立体を「正多面体」と言い、面の数に応じて「正n面体」のように呼びます。例えば、正三角形だけで構成されている三角錐は「正四面体」であり、正三角錐の特別な場合です。立方体は「正六面体」です。しかし、平面上の正多角形や、空間での正多角錐・正多角柱ではn≧3に対してあらゆるものを考える事ができるのに対して、正多面体としてあり得るものは、じつは立体的な構造により有限個に制限されます。
そのあり得る個数は意外と少なく、正多面体には正4面体・正6面体・正8面体・正12面体・正20面体だけがあります。これはじつは、角度が満たす関係から比較的容易に証明ができます。

立体の断面がどのような平面図形になるかという事も、立体の幾何学としてよく扱われるものです。

断面

曲面からなる立体・図形

算数や中学校では問題としてはあまり扱わないと思いますが、もっとまるまった形の「曲面」で構成される立体もあります。(上記の錐体の中でも、円錐は曲面を持つ立体です。)

ボールのような立体は数学では「」(きゅう)と呼びます。球の断面は円になります。

球に関しては、3次元の空間上で「中心からの距離が一定である点の集まり」として定義もされます。これは、平面で円を定義する時と全く同じ考え方です。

他方で、楕円を立体にしたような立体(断面は楕円)は、「扁球」(へんきゅう)あるいは「楕円体」などと呼ばれます。

また、浮き輪のような真ん中に穴があいた立体を「トーラス」と呼ぶ事もあります。このように、曲線・曲面で構成された立体というものも多く考える事ができます。球、楕円体、トーラスのように全体が包まれるようになっている空間上の立体を一般的に「閉曲面」と総称する事もあります。

球・楕円体・トーラス

高校で扱うもので多いのは「軸を中心に曲線を回転させたような立体」で、主に積分で体積計算の一例として扱われます。そういったものは「回転体」とも呼ばれます。球、楕円体、円柱、円錐などもその部類の立体として見る事もできます。

特殊なものとして、曲面がねじれて厳密には裏も表もない「メビウスの輪」のような図形も考えれます。これは、帯のような曲面を考えて(平面上ではなく空間上で)、1つの端の「表」をもう片方の端の「裏」にくっつける事で簡単に紙で工作もできる図形です。最初「表」と思われる箇所からたどって1周すると、端を「裏」に接着していましたから最初の位置の裏に来てしまうというものです。もちろん、2周すればもとの位置に戻るという事になります。

閉曲面、回転体、メビウスの輪

色々な平面図形

算数や数学ではいろいろな図形について学びます。

算数や数学という「数」を扱う勉強でなぜ「図形」の事を学ぶのかと疑問に思う人もいるかもしれませんが、基本的には算数や数学で扱うのは「図形の長さ」「広さ」「角度」・・といった、数量の計算として扱える部分です。

つまり図形に関して、長いとか短い、広いとか狭い、角ばっている、丸まっているなどといった特徴を数の大小として扱ったり計算したりする事を、算数や数学において学びます。あるいは、高校数学以降で教えられる内容ですが、例えば円と楕円の違いは何かといった事を数量によって特徴づけるという事をしたりします。

平面の図形を構成するもの

「形」あるいは「図形」には、丸(「円」【えん】)、三角形、四角形、六角形、楕円など色々なものがあります。これらは紙の上に描けるような平面図形です。あるいは、放物線や双曲線などのように、平面上で一定の形を持ちながらも延々と果てしなく続くものも図形と呼ぶのが普通です。

平面図形を構成するパーツとして、「」と「」があります。
「線」の中には「直線」と「曲線」があります。
いくつかの線や1つの曲線で囲まれる(「閉じている」)部分は「領域」と言ったりします。

平面図形を構成する部品
  1. 点・・1つだけポチっと平面上に打たれる「点」。長さがゼロ。
  2. 線・・無数の点の集まりで、長さを持ち、面積はゼロのもの
    • 直線・・まっすぐな線。【平面上で2点間が最短距離になる】
      直線上の2点間だけで構成される部分を特に「線分」(せんぶん)と言います。
    • 曲線・・曲がった線。無数の細かい直線の集まりともみなせる。
  3. 領域・・平面上で面積を持つ部分。線で区切られる・囲まれる場合が多い。
    無数の点・線の集まりともみなせる。
    ※領域の面積は必ずしも有限ではなく無限大でも可です。例えば平面全体、直線で区切られた平面の半分などを領域として考える事もできます。

これらは平面だけでなく、空間の図形を構成する部品でもあります。

直線で作られる平面図形

平行でない3本以上の直線を用意すると、領域を持つ図形を作れます。これが三角形、四角形、五角形、六角形、n角形・・などと呼ばれるもので、一般に「多角形」とも言います。
【3本以上の直線を用意しても、それらが「同じ1点で交わってしまう」場合には多角形はできません。】

多角形の、角ばっているところに対応する点(2直線が交わっている点)を「頂点」と言い、頂点同士を結ぶ線分を「」と言います。

図形ですから、図で見たほうが早いでしょう。
ただし、何かを計算したり証明したりする時には言葉で説明・表現できる事も重要である場合もあります。

正六角形は平面にすき間なく、しき詰める事ができます。

辺の長さが全て等しく、それぞれの内側の角度(内角)の大きさも等しい多角形を、特に「正三角形」「正四角形(=正方形)」「正五角形」「正六角形」「正n角形」・・のように呼び、これらを一般的にまとめた「正多角形」という表現も使います。

■多角形を考える時には、基本的に「へこんでる部分」がないように考えます。これは、辺同士のなす角のうち図形の内側にあるもの(「内角」)の大きさが180°未満であるとも表現できます。
ですから例えば星形の「☆」の図形などは、辺同士の交点が10個ありますが、これは10角形とは呼ばない事にするという決まりにしています。へこんでいる部分を含むためです。
へこんでいる事を凹(おう)、角ばっている事を凸(とつ)の漢字で表す事もあります。この凹・凸というのは数学独自の記号ではなく、一般にも一応使われる漢字です。

■三角形については辺の長さが等しいという時点で角度も全て等しくなります。しかし、四角形の場合だと辺の長さは等しく、角度は全て同じわけではないという場合(ひし形)があり得ます。同様に他の多角形でも、各辺の長さは全て等しいけれど内角の大きさが異なる場合はあり得ます。

三角形と四角形に関しては、特別な性質を持つものに別途名前をつけています。

三角形の名前 △
  • 正三角形・・3辺の長さが全て等しい三角形
  • 二等辺三角形・・2辺の長さが等しい三角形
    【その意味で正三角形も二等辺三角形に含まれます。】
  • 直角三角形・・1つの角度の大きさが直角(90°)である三角形
  • 鋭角三角形・・3つの角度の大きさ全てが、それぞれ90°未満である三角形
    【鋭角は「えいかく」と読みます。】
  • 鈍角三角形・・1つの角度の大きさが90°を超える三角形
    【鈍角は「どんかく」と読みます。】
  • 直角二等辺三角形・・二等辺三角形のうち、1つの角度の大きさが直角である三角形
四角形の名前 □
  • 正方形・・「正四角形」の通称。4つの辺の長さが全て等しく、内角の大きさが直角。
  • 長方形・・向かい合う辺(対辺)の長さが等しく、内角の大きさが直角である四角形
    正方形も長方形に含まれます。
  • 平行四辺形・・向かい合う辺が互いに平行である(この時、長さも等しくなる)四角形。
    正方形、長方形も平行四辺形に含まれます。
  • ひしがた【菱形】・・平行四辺形のうち、辺の長さが全て等しいもの。
    (※内角は等しくなくても可。ただし、対角は必ず等しくなる。)
    正方形は、ひし形に含まれます。
「辺の長さがそれぞれ等しいが、内角の大きさは必ずしも等しくない」多角形についての補足図です。
ひし形については、4つの合同な直角三角形で構成できる事から、平行四辺形でもある事や、対角線が直交する事などが分かります。
五角形については正方形に正三角形をつなぎ合わせたもの、六角形については三角形を軸対称に反転させながら作ったものなどが例として挙げられます。

三角形については多くの平面幾何の性質があります。

曲線による平面図形

曲線で作られる図形については、一番簡単なものが「円」です。円は「中心からの距離が等しくなる」図形(点の集まり)で、何かを固定してその周りを回転させると得られるものなので身の回りにもボール・何か巻いてある芯の断面、車輪や水車などで広く見られる形です。

他方、円を1つ以上の方向にだけ引き延ばす、あるいは縮小した「楕円」もあります。(定義は「2定点からの距離の和が等しい点の集まり」です。これは中学校では数学としては扱いません。)

身の回りで楕円が見られる簡単な例としては、円状の物を真正面からではなく斜めから見た時に見られる見かけ上の形です。当然ながら円を斜めから見れば1つの方向につぶれて細長く見えるわけですが、もとが円であればそれが楕円の形になります。

これは、正方形を斜めから見ると長方形にも見える、長方形を特定の斜めから見ると平行四辺形に見えるというのと同じ理屈です。

1つの平面の真上から見て図形の影を見るようにして作る図形を、数学の用語ではその図形の「射影」と言います。

円や楕円のように平面上で曲線が丸まって「閉じた」領域を持つ図形は一般的には「閉曲線」と呼ばれます。

これに対して、放物線や双曲線のように閉曲線ではない曲線もあります(「開曲線」とも言います)。

◆参考:接線線積分の定義と考え方(微積分を含みますが、曲線を対象とする積分理論の1つの例です。)

開曲線・閉曲線という考え方は、微積分の理論や物理学への応用の理論において重要となります。

関数で言うと、2次関数y=xは放物線、
反比例の関数y=1/x(とy=-1/x)は双曲線に該当します。

円に関しては平面幾何上の種々の性質や、円周・面積に関する種々の性質が成立します。

体の拡大

代数学での「体」【たい】の拡大という考え方について説明します。

英:拡大体 extension field 部分体 subfield
【体:field 日本語訳は、おそらくドイツ語での名称から。 】

「体」の拡大とは?

実数に対してi=-1となるiを導入して複素数a+biを考える事や、
有理数に対して平方根などを使ってp+q\(\sqrt{2}\) を考える事を、「拡大」と言います。
実数や有理数は「体」(たい)という構造の集合に分類され、拡大を行う事で別の体である「拡大体」という集合ができると解釈します。逆に、拡大した体の側から見た時、もとの体は「部分体」であると言います。

より一般的には、2つの体KとLがあるとしてLがKの拡大体である時、その「拡大」自体の事を記号でL/Kと書きます。この表記を使うと、例えば実数から複素数への拡大は\(\mathbb{C}\)/\(\mathbb{R}\)と表されるわけです。
もちろんこの記号は、対象のKとLが体である時に限って体の拡大としての意味を持ちます。
【通常の数や関数についてはx/yは割り算で、対象が群ならG/Hは剰余群、環であれば剰余環、特に指定のない集合に対しては差集合を表します。】

体の「拡大」
  • \(\mathbb{C}\)は\(\mathbb{R}\)の「拡大体」
  • \(\mathbb{R}\)は\(\mathbb{C}\)の「部分体」
  • 記号では、実数体→複素数体への「拡大」を \(\mathbb{C}\)/\(\mathbb{R}\) と書く。

複素数に関しては複素関数論などでも詳しく扱われるので、ここでは有理数に対するp+q\(\sqrt{2}\)の形の数を元に持つ集合\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)\)などについて具体例として詳しく見てみます。

平方根の計算を行う時、例えば$$(1+2\sqrt{2}+\sqrt{3})+(2-\sqrt{2}+3\sqrt{3})$$ $$=(1+2)+(2-1)\sqrt{2}+(3+1)\sqrt{3}$$ $$=3+\sqrt{2}+4\sqrt{3} $$のように、「有理数だけの項」「2の平方根の項」「3の平方根の項」ごとに分けて加算や減算を行います。平方根でなくても3乗根でも4乗根でもよく、要するに無理数があれば同じように計算します。

このような時、有理数全体\(\mathbb{Q}\)の元に対して、何か有理数でない別の元を組み合わせて計算を行っているわけです。2+3\(\sqrt{2}\) のような数は「実数」の元であると言うのはもちろん正しい表現ですが、この形の元に限ったものだけを集めて「体」の構造を保つようにしたものは有理数の「拡大体」と見なすことができ、\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)\) のように書きます。実数に対する複素数と同様に考えるという事です。

$$\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\{p+q\sqrt{2}|p,q\in\mathbb{Q}\}$$

このようなものを考える時は、3の平方根などの他の無理数は考えずにp+q\(\sqrt{2}\) の形の数同士の加減乗除の計算を考えます。この時、q=0とすれば通常の有理数になるので、集合として、\(\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)\) のような包含関係になります。2の平方根を添加した拡大体のほうが、もとの有理数全体よりも大きい集合です。

この場合の加減乗除の計算自体は通常の平方根を含む計算と全く同じですが、複素数の計算との類似性に注意すると共通点が見えてくるかと思います。

$$(p_1 +q_1\sqrt{2})\pm (p_2 +q_2\sqrt{2})=(p_1\pm p_2)+(q_1\pm q_2)\sqrt{2}\in\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)$$

$$(p_1 +q_1\sqrt{2})(p_2 +q_2\sqrt{2})=(p_1p_2+2q_1q_2)+(p_1q_2+p_2q_1)\sqrt{2}\in\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)$$

$$\frac{1}{p +q\sqrt{2}}=\frac{p -q\sqrt{2}}{(p +q\sqrt{2})(p -q\sqrt{2})}=\frac{p -q\sqrt{2}}{p^2 -2q^2}\in\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)$$

商のところに関しては、1を割ったものだけ考えれば一般の商はそれとの積と考えられるので分子を1としています。このように、加減乗除の計算の計算結果後も\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)\)の集合に属するので、このような時に体\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}\right)\)は加減乗除の計算に関して「閉じている」と言います。

\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{3}\right)\) や \(\mathbb{Q}\left(\sqrt{5}\right)\)のような拡大体でも事情は同じで、加減乗除の計算に関して閉じています。

ここで、p+q\(\sqrt{2}\) +r\(\sqrt{3}\) のような形の場合には拡大体として見る場合には注意が必要で、記号としては\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3}\right)\) のように書きますが、実際のところは \(\sqrt{6}\) も含まれます。これは、積や商の計算で\(\sqrt{2}×\sqrt{3}=\sqrt{6}\) が発生するためです。つまり実質的には、この拡大体は次のような形をしています。

$$\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3}\right)=\{p+q\sqrt{2}+r\sqrt{3}+s\sqrt{6}|p,q,r,s\in\mathbb{Q}\}$$

$$例えば、1+3\sqrt{2}+\frac{\sqrt{3}}{2}+2\sqrt{6}\in \mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3}\right)$$

この場合、(\(\sqrt{6}\))=6、\(\sqrt{2}×\sqrt{6}=2\sqrt{3}\)、\(\sqrt{3}×\sqrt{6}=3\sqrt{2}\) となるので2、3,6以外の平方根は加減乗除の計算で発生しません。

同じような注意点は、3乗根による有理数体の拡大を考える時にも発生します。

一見違うように見える拡大体が、実際は同一の集合である場合もあります。
\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3}\right)\) と少し似た\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\) という拡大を考えると、一見別の体になる?ようにも見えますが、
じつは\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3}\right)\)=\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\)です。

$$p+q(\sqrt{2}+\sqrt{3})$$

$$(\sqrt{2}+\sqrt{3})^2=5+2\sqrt{6},(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3=2\sqrt{2}+6\sqrt
{3}+9\sqrt{2}+3\sqrt{3}=11\sqrt{2}+9\sqrt{3}$$

2乗のほうの形に注目すると、まず\(\sqrt{6}\)単独を\(\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\)で表す事ができ、
3乗のほうの形に注目すると\(\sqrt{2}\)や\(\sqrt{3}\)単独を、\(\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\)の加減乗除で表せます。

$$(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3-9(\sqrt{2}+\sqrt{3})=2\sqrt{2},\hspace{15pt}(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3-11(\sqrt{2}+\sqrt{3})=-2\sqrt{3}$$

$$p+q\sqrt{2}+r\sqrt{3}+s\sqrt{6}=p+q\frac{(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3-9(\sqrt{2}+\sqrt{3})}{2}-r\frac{(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3-11(\sqrt{2}+\sqrt{3})}{3}+\sqrt{6}$$

$$=p-\frac{5}{2}+\left(\frac{11r}{3}-\frac{9q}{2}\right)(\sqrt{2}+\sqrt{3})+\frac{s}{2}(\sqrt{2}+\sqrt{3})^2+\left(\frac{q}{2}-\frac{r}{3}\right)(\sqrt{2}+\sqrt{3})^3$$

\(\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\)を4乗すると再び2、3,6の平方根が出てくるので4以上のベキ乗を考える必要はなく、有理数全体を動く独立変数が4つありますので、少々汚い形ですがこれは\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)\)と同じ集合になります。

この例はちょっとめんどくさい計算でしたが、より簡単な例では実数体→複素数体の拡大の中にも見られます。実数を複素数に拡大する時はi=-1となるiを考えました。では、\(\alpha\)=-1となるような「別の実数で無い数?」を考えると別の拡大が可能でしょうか?

じつのところ、\(\alpha\)=-1となる\(\alpha\)は、複素数で表せてしまいます。理屈は簡単で、ドモアブルの定理を使えばcos(\(\pi\)/3)+isin(\(\pi\)/3), cos(2\(\pi\)/3)+isin(2\(\pi\)/3), -1の3つが該当します。(よく考えてみると当然ですが、これらの1つは実数です。)同様に、\(\alpha\)=-1を満たす\(\alpha\)を使って実数体の拡大を考えても、全て集合としては「複素数」と同じになってしまうわけです。
【ただし、それらの拡大を実数体ではなく有理数体の拡大として考えると話は変わってきます。】

では、実数については複素数以外の拡大はあり得ないのかというと、結論は「あります」。例えば複素数体の拡大として「四元数体」と呼ばれるものが該当します。さらに八元数と呼ばれるものを考える事も可能ですが、これは積の結合法則が成立しないものなので「体」には含まれません。

多項方程式の解による体の拡大【用語の整理】

体論の基本的な理論の中で重要な拡大の1つは、多項方程式の解による拡大です。キーワードはいくつかあるので整理しましょう。1つ1つの意味は大した事ないのですが、これらをごちゃごちゃに文章の中で使われると結構混乱する人も多いと思います。

「既約」 ■ 「モニック」 ■ 「体上の多項式」 ■ 「最小多項式」 ■ 「共役」 

「既約」

多項式が既約であるとは、簡単に言うとそれ以上「因数分解できない」という意味です。

これは「どの体で考えているか」によってどの式が既約かそうでないかが変わってくる事に注意が必要です。

例えば、x-2は、実数の範囲では因数分解可能ですが、有理数に限定した場合はそうではありません。そのためこの式は「有理数体上で既約である」あるいは「\(\mathbb{Q}\)上で既約である」と、代数学では表現します。

同様に、x+2は複素数の範囲では因数分解可能ですが実数の範囲では因数分解できないので、「\(\mathbb{R}\)上で既約」であり、\(\mathbb{C}\)上では既約ではないと表現します。

「モニック」

「モニック」とは、多項式の最大の次数(ベキ乗の数)の項の係数が1であるという事です。
これは、意味自体は簡単な事で、大げさな事ではありません。
【「モノ」とは単一とか1を表す語で「モノクロ」とか「モノラル」等の「モノ」です。】

-2x+1, x+x, x+1, x+3x+2などの多項式はみな「モニック」です。

2x-2x+1, 3x+1, -x+3x+2などの多項式はモニックではありません。

「体上の多項式」

係数は全て体Kの元である多項式を「K上の多項式」と言います。
例えば、x-2x+1などの実数係数の多項式は「\(\mathbb{R}\)上の多項式」の1つです。x-2ix+1などは、実数で表せないiが係数に入っていますので「\(\mathbb{C}\)上の多項式」(のうち\(\mathbb{R}\)上の多項式を含まないもの)の1つです。

「最小多項式」

\(\alpha\)∊Lと、ある体KがあってK上の多項式でf(\(\alpha\))=0となるもののうち「既約」で「モニック」で「次数が最小のもの」を特に「最小多項式」と言います。

例えば、x+1はi∊\(\mathbb{C}\)の\(\mathbb{R}\)上の最小多項式です。
-2は\(\sqrt{2}\)∊\(\mathbb{R}\)の\(\mathbb{Q}\)上の最小多項式です。
ここで、もし\(\sqrt{2}\)∊\(\mathbb{R}\)に対して\(\mathbb{R}\)上の最小多項式を考えるなら、それは1次式x-\(\sqrt{2}\)になります。

ちょっと整理すると次のようになります。

「\(\alpha\)∊LのK上の『最小多項式』」とは:

LはKの拡大体であるとして、
体Kの元を係数とする多項式、つまり「K上の多項式」のうち、
次のものを\(\alpha\)∊LのK上の最小多項式と言います。

  • \(\alpha\)∊Lを代入すると0になる【f(\(\alpha\))=0となる】
  • そのうち次数(xのn)が最小のもの
  • 既約である
  • モニックである

具体的な数に対する最小多項式を導出する時には計算の工夫が必要な場合もあります。
例えば \(\alpha=\sqrt{2}+\sqrt{3}\) の「\(\mathbb{Q}\)上の最小多項式」が具体的にどんなものかを知りたい場合には、
まず式を変形してから \(\alpha -\sqrt{2}=\sqrt{3}\) の両辺を2乗します。$$\alpha^2-2\sqrt{2}\alpha+2=3$$$$\Leftrightarrow \alpha^2-1=2\sqrt{2}\alpha$$2乗した後にさらに変形した後の式の両辺を、さらに2乗します。$$\alpha^4-2\alpha^2+1=8\alpha^2\Leftrightarrow \alpha^4-10\alpha^2+1=0$$ このように、2段階に分けて平方根の部分を有理数にしています。
\(\alpha=\sqrt{2}+\sqrt{3}の\mathbb{Q}\)上の最小多項式はx-10x+1です。【係数は確かに有理数。】

「共役」

複素数で「共役複素数」というものがありますが、これはより一般的に言うと、L上のある元\(\alpha\)に対するK上の最小多項式f(x)に対して、\(\alpha\)以外でf(x)の根になる【f(x)=0の解になる】\(\alpha\)以外の他のLの元の事を指します。

複素数で言うと、1+iの共役複素数1-iはともにx+2x+2=0の解ですが、この左辺の多項式は「1+iの\(\mathbb{R}\)上の最小多項式」です。1-iは1+iの「\(\mathbb{R}\)上の共役」であると言います。

この意味では、共役というものは1つだけではなくもっと多くある事もあり得ます。x-2は\(\sqrt{2}\)∊\(\mathbb{R}\)の\(\mathbb{Q}\)上の最小多項式ですが、\(\sqrt{2}\)∊\(\mathbb{C}\)と考えると、x-2=0を満たす別の2解が存在します。それらが\(\sqrt{2}\)∊\(\mathbb{C}\)の\(\mathbb{Q}\)上の共役になります。

「代数拡大」

変数は複素数範囲、係数は実数である多項方程式(\(\mathbb{R}\)上の多項式)があったとしましょう。
【上記の通り、係数が全て体Kの元である多項式が「K上の多項式」です。】

任意の複素数xに対して、そのxが解となる実数係数の多項式は存在し、
そのような時に実数から複素数への拡大\(\mathbb{C}\) /\(\mathbb{R}\)は「代数拡大」と呼ばれます。

例えばてきとうな実数係数の多項式 x+x+\(\sqrt{2}\)x-x+1=0 などを考えると、
これを満たすx∊\(\mathbb{C}\)は必ず存在します【代数学の基本定理】。
現にこの多項方程式の解となるx=\(\alpha\) に対して、「\(\alpha\)∊\(\mathbb{C}\)は \(\mathbb{R}\) 上『代数的』である」という表現をします。

この「代数的」という語を使う時には、必ずL/Kという拡大があって、
「拡大体Lのほうの元」に対して、「K上」代数的であると言います。

これを一般の体K、Lについて置き換えると、\(\alpha\)∊Lに対して係数a~a∊Kが存在して
\(\alpha\)+a\(\alpha\)n-1+・・・+an-1\(\alpha\)+a=0となる時、\(\alpha\)∊L はK上で「代数的である」と言い、
任意のx∊LについてxがK上代数的である時、KからLへの拡大L/Kは「代数拡大」であると言います。

任意のx∊Lについて表現する用語なので、L/Kは「K上の代数拡大」という具合に言えばよい事になります。\(\mathbb{C}\)/\(\mathbb{R}\)は「\(\mathbb{R}\)上の代数拡大」である(単に拡大である事に加えて)という表現の仕方になります。

特に、K上の任意の多項式f(x)に対してf(\(\alpha\))=0となるような\(\alpha\)∊Kが存在する時、
Kは「代数閉体」であると言います。複素数体は代数閉体であり、実数体や有理数体は代数閉体ではありません。【例えばf(x)=x+1などを考えれば、これをゼロにするxはx=+i,-iなので。】

ここで、体の拡大L/Kがあって拡大体Lのほうが代数閉体である時には「LはKの『代数閉包』である」と言います。

この手の数学の分野は、上記のように様々な用語が出てきてややこしい事は間違いないのですが、意味や具体例を考えながら整理していくと意外と面白いかもしれない分野です。

微積分の問題の例【高校・大学入試】

高校・大学入試レベルの微積分の問題例です。その中ではやや易しめで、その代わりなるべく「速く・正確に」解けるとよいでしょう。

問題の特徴
  1. 対象となる関数は2次関数か3次関数。
    1つの大問の中に微分と積分がどちらもある事が多い。
  2. 変数以外にaとかbとかの未知の定数がある問題が多い。
  3. 定積分は基本的に面積計算が多い。2つ以上の関数が関わる事が多い。

「問題を解く事自体」は最終的には計算の作業になるので、重要な事は問題を解くのに使う公式や定理を覚えているかどうかという事と、それらの公式や定理の意味を知っているかどうか、具体的に数値を当てはめる計算ではどのように使えばいいのかがある程度分かっているかどうかという事であると言えます。

微積分の問題で言うと、次の事が重要です。

  • 微分と積分は逆演算の関係にある事
  • 微分係数は図形的には「接線の傾き」である事
  • 定積分は図形的には「面積」を表す事
  • 微分係数が0になる点では、その点の前後で微分係数の符号が入れ替わるなら関数は極大値か極小値をとり(これは必ず)、それが最大値あるいは最小値である事もある(これは必ずではありません)

また、グラフ上での直線が直交する条件であるとか(傾きの積が-1になる)、グラフを平行移動をした時の関数の形(xのプラス方向なら f(x)→f(x-c))など、知っておくべき事項もいくつか出てくるでしょう。

次の模擬問題のように、言ってる事自体はじつは何ら難しくないのですが、
ちょっと面倒なものを「手早く」解く必要に迫られるタイプの問題などがあります。

■模擬問題①

2つの放物線f(x)=ax-4axとg(x)=-ax+4axとがあり、aは正の実数、
f(x)とg(x)のそれぞれの原点における接線は直交しているという。
この時に、y=f(x)の原点における接線とy=g(x)とで囲まれた部分の面積はいくらですか。

まず、微分します。
fのほう:2ax-4a →原点で-4a【x=0】
gのほう:-2ax+4a →原点で4a
直交するので傾きの積が-1】 ∴-16a=-1 【a>0に注意して】∴a=1/2
fの原点での接線:y=-4ax=-x
g(x)の式:g=-x/4+x 【条件の式にa=1/2を代入】
【交点が必要なので】g=-xとおいて、-x/4+x=-x
⇔x-8x=x(x-8)=0 ∴交点はx=0と8
【g(x)が原点を通る事は計算しなくても分かりますが】

【面積がほしいので定積分します。放物線のほうが上です。一応概形だけさっと描くとよいでしょう。】
積分:-x/4+2x【-x/4+x-(-x)】を0から8まで

$$\left[-\frac{x^3}{12}+x^2\right]_0^8 =-\frac{8^3}{12}+64=\frac{-128+192}{3}=\frac{64}{3}【解答】$$

このように解答があまりきれいに約分できない場合というのは結構多くあります。
実際の試験では、例えば途中の交点の計算が小問として穴埋めになっていたりします。

実際の試験ではあまり丁寧に図を描く時間はないと思うので、なるべく必要な箇所だけ手早く描く事も大事です。しかしあまり雑に描き過ぎてもかえってミスにつながるので、加減が難しいところです。

★積分の計算のところで、記述式であればきちんと定積分の記号から書かないとまずいですが、穴埋め形式でしかもほぼ2次関数・3次関数のみ扱われる事を考慮し、ここでは「対象の関数」→「定積分の計算は不定積分に値を代入」という感じで敢えて計算を記しています。
また、ここで記した解答の中で【直交するので掛けて-1】のような部分も、記述式であればきちんと書いたほうがよいですが、穴埋め問題であれば頭の中だけで考えて(考えれるようにして)計算だけ紙に書けば時間短縮になります。

グラフ上の適当な点のx座標をaなどとおいて、そこでの接線の方程式を計算させるタイプの問題も多く見られます。次の例を見てみましょう。

■模擬問題②

■放物線y=x上に点P(a,a) があり、0≦a≦2であるという。
この時にaを動かせるとすると、
点Pにおける接線、x軸、直線x=2、y=xで囲まれる面積の最大値と最小値はいくらですか。

【微分します。】2x → 2a【点Pでの接線の傾き】
Pでの接線:y=2a(x-a)+a=2ax-a
【特定の点を通る1次関数の式です。y-aをx-aで割ったものが「傾き」2aという式です。】
0=2ax-aとおくとx=a/2【接線とx軸の交点。次の面積計算で使います。】

【次に面積計算に移ります。このとき、必要な面積は2つの部分に分けたほうが簡単です。
0からaまでは、「放物線-x軸」面積から「a/2~aと接線」の三角形面積を引くのが簡単です。
aから2までは放物線から接線を引いた部分の普通の定積分です。図を簡易的に描くとよいでしょう。】

積分区間を[0,a/2]、[a/2,a]、[a,2]の3箇所に区切っても計算できますが、なるべく簡単に計算する方法を見つけるように普段から練習しておくとよいと思います。

【面積】
①:0からaまで 【放物線・x軸の面積から三角形を引き算】

$$\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^a-\frac{1}{2}\cdot\frac{a}{2}\cdot a^2=\frac{a^3}{3}-\frac{a^3}{4}=\frac{a^3}{12}$$

②:x-2ax+aを積分:aから2まで 【放物線から接線を引いて積分。a≦2の条件にも注意】

$$\left[\frac{x^3}{3}-ax^2+ax\right]_a^2=\frac{8}{3}-4a+2a^2-\frac{a^3}{3}+a^3-a^3=\frac{8}{3}-4a+2a^2-\frac{a^3}{3}$$

$$合計:\frac{8}{3}-4a+2a^2-\frac{a^3}{3}+a^3-a^3=\frac{8}{3}-4a+2a^2-\frac{a^3}{4}$$

この問題ではまだここで終わらず、面積の「最大・最小」の計算が続きます。
aで微分:-4+4a-3a/4=-(3a-16a+16)/4=-(3a-4)(a-4)/4
【aに関して3次関数なので微分して極大・極小を調べます。】

符号に注意して、a=4/3の時に最小【極小でもあります。2次関数のグラフで考えると多少簡単。】

$$最小値:\frac{8}{3}-\frac{16}{3}+\frac{32}{9}-\frac{16}{27}=-\frac{8}{3}+\frac{32}{9}-\frac{16}{27}=\frac{-72+96-16}{27}=\frac{8}{27}【解答1】$$
【こういった分数計算は時間がない中では少し面倒ですが、丁寧・確実に計算する必要があります。】

【最大値も問われてるので調べます。】
aが4まで動ければそこが極大値になりそう? →しかし0以上2以下という条件がある
→ 端点である0と2の値を比べて最大値を見つけます。
【a=4/3で極小という事により、そこから0と2のどちらの方向に向けても増大するので。】

a=0だと8/3、
a=2だと8/3-8+8-2=2/3【これはa=0の時の8/3より小さいので最大値にならず】

∴a=0の時最大、値は8/3【解答2】

この問いは微積の大問と大体同じ分量があるので、10分程度で解答できるとうれしいという感じです。

微分した後の導関数が2次関数の形なら、グラフを描いたほうが導関数の符号を把握しやすい場合もあります。

数列って何だろう

数列(「すうれつ」)とは、自然数や整数を代入する事で決定する種類の関数の事です。

考え方:関数と数列

普通の関数y=xなどを考えて、変数の値を自然数に限定しy=nと考えると、
n=1,2,3,4,・・に対してy=1,4,9,16,・・と決定していきます。これが数列の例です。

要するに考え方は1次関数や2次関数などの普通の関数と同じで、変数を自然数や整数に限定したものを特に「数列」と呼びます。

この時に番号nに対して決まる関数の値(数列の値)のことを、
てきとうな文字と番号を組み合わせてyのように書きます。これはy=f(x)と書くのと同じような使い方です。添えてある番号を式に代入しますよ、という意味です。

例えばy=nを数列と考えてyと書いたときには
「y=nにおいてn=2とした場合」の事を意味し、y=2=4のようになります。

一般の関数と区別して「数列」である事を明示するために数列を{y}のようにも表記します。文章の中での表記のされ方としては「自然数nに対して数列{y}があり、y=nである」といった具合です。

一般的には、数列を表す文字はa、b、c・・を使ったa、b、cなどを優先して使う事が多いですが、本質的には番号を下に添えてあればどんな文字でも数列として表記できます。

数列{a}があったときに、一番最初の値を「初項」(しょこう)と言います。
nが自然数であれば、aが初項として該当します。a=1/nであれば、初項はa=1/1=1です。2番目の値は「第2項」のように言います。この時、ものによっては番号を0から始める場合もあり、その時には初項はaです。あくまで、一番最初の項を初項と呼ぶという事です。

漸化式と初歩的な数列

数列を扱う時の一般の関数との違いは、「漸化式」(ぜんかしき)というものを考える事が多いという点です。これは、an+1=2+aのように、n+1番目とn番目などの数列の項の間に成立する関係式を指します。

★「漸」(ぜん)とは、「次第に進む」とか「徐々に進む」といった意味の漢字です。

この場合、例えばa=2+aで、
さらにa=2+aなのでa=2+a=2+(2+a)=4+aのようにもなります。
n+1=2+aのような関係であれば、a=2+an-1としてもよいという事です。この考え方は漸化式を扱ううえで重要です。(番号が1から始まっているような場合には、この漸化式a=2+an-1を適用できるのはaまでであり、aには適用不可です。)

漸化式の性質 $$a_{n+1}=f(a_n)のとき、a_{n}=f(a_{n-1})でもある。$$ $$例えばa_{n+1}=3a_nなら、n≧2に対してa_{n}=3a_{n-1}でもある。$$

より一般的には漸化式とは数列の項同士のかなり広い関係全般を差します。
例えばan+1=aとか、複数の項を考えたan+3=an+2+an+1+aなども漸化式です。
「n+1とn」のように数列の異なる2項についての漸化式を特に言う場合は「2項間漸化式」、「n+2とn+1とn」のように異なる3項についての漸化式を特に言う場合は「3項間漸化式」と言う事もあります。より一般的には「m項間漸化式」も考えれるという事です。
番号が1つではなく2つ飛んでいる場合もあり得ます。例えばan+2=2+aなどです。
このようにあらゆるものが当てはまりますが、普通は漸化式の関係から具体的な数列の形を導出したり、あるいは和や極限を計算するために漸化式を使うので、実際問題として理論で扱われる漸化式はある程度の扱いやすい規則性を持つものに限られます。

高校数学では、特に3つの初歩的な数列を扱います。これらは意味としては簡単なものですが、いずれも漸化式によって特徴付けられます。

高校数学で特に扱う数列
  1. 等差数列
    n+1=c+a で表されます。
    cは定数で、「公差」(こうさ)と言います。
    =a+c(n-1) とも直接的に表せます。
  2. 等比数列
    n+1=ar で表され ます。
    rは定数で、「公比」(こうひ)と言います。
    =an-1 とも直接的に表せます。
  3. 階差数列
    =a-an-1 で表されます。
    -an-1を数列{a}の「階差」(かいさ)と言います。
    =a-an-1は「{a}の階差数列」であるとも言います。
漸化式、等差数列。等比数列、階差数列

等差数列とは、1つの項に決まった定数を加える(あるいは減じる)事で次の項が確定するというタイプの数列です。例えばan+1=3+aを考え、a=2とします。この時、a=3+a=3+2=5、a=3+a=3+5=8、a=3+a=3+8=11、・・・のように次々と計算できます。
これを繰り返して一般的に、a=3+2(n-1)とも表せます。例えばa=3+2(4-1)=11と計算してもいいわけです。

等比数列とは、1つの項に決まった定数を掛ける(あるいは割る)事で次の項が確定するというタイプの数列です。例えばan+1=3aでa=2であるとき、a=3a=3×2=6、a=3a=3×6=18、a=3×a=54、・・・といった感じです。これを繰り返して、a=an-1とも書けます。

等比数列に関しては、和を計算する公式が重要です。

階差数列とは、上記の通りb=a-an-1といった形の漸化式で表される数列です。これの具体的な形は、階差数列の和を考えてみる事で計算できるという特徴があります。

特定の{a}について階差数列bを考える時には例えば次のようにします。a=nのとき、「階差」を計算するとn-(n-1)=2n-1なのでb=2n-1と書けます。
この時、nが整数ならこの形で整合性がとれますが、もし{a}のnが自然数といった制限を課しているならbについては別途に「b=-1とする」などとする必要があります。

いろいろな数列

関数には様々なものが想定できるのと同じように、数列も非常に幅広いものを指します。

例えば、数列{a}の和を考えてa+a+a+・・・+a=Sとして、
それ自体を数列{S}と考える事ができます。
尚、この時Snー1=a+a+a+・・・+an-1ですから、{S}の階差はS-Snー1=aです。この関係自体は、当然といえば当然のものですが結構よく使います。

微積分学で重要な「自然対数の底」eは、ある数列を考えて、そのn→∞における極限値として定義されます。そのように、数列は極限と合わせて考えられる事も多いのです。

$$e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n\hspace{10pt}として定義されます。$$

また、極限値として円周率が存在する事を式で証明する時にも、図形上の辺の関係を漸化式で表しています。この場合に考えるのは、正n角形と正2n角形を考えてa2nとaの関係を出すという、少し特殊な漸化式です。

その他に、高校ではあまり扱いませんが「関数列」というものもあります。
これは、nによって関数自体の形が決まる数列{f(x)}を考えるという意味です。1つ1つのf(x)は定義域内のxによる関数であるという事です。
例を考えると意味としては難しくなくて、例えばf(x)=xやg(x)=sin(nx)などを数列として考える場合には関数列であるということになります。
数列として見る場合、x,x,x,・・,xのようにn個の関数があると見るわけです。

ベクトルなどでも、n次元に対してn+1次元を考えるというふうにすると諸量を数列的に見る事もできます。そのようにすると、何かの証明を行う際に数列的な計算が使えるので利点があったりします。