ストークスの定理【内容と証明】

電磁気学や流体力学、数学のベクトル解析の分野で、ガウスの発散定理と並んで重要な定理とも言えるストークスの定理について、その内容・使い方・証明を詳しく説明します。

ストークスの定理はベクトル場に対する数学上の定理です。
スートクスの公式と呼ばれる事もあります。

ストークスの定理とは?内容とイメージ

ストークスの定理は、ベクトル場の接線線積分と、ベクトル場の回転に対する法線面積分を等式で結びつける事ができるという数学上の定理です。その内容と証明について詳しく説明します。

定理の内容と表記

ベクトル場の変数x、y、zは独立変数で、ベクトル場の回転の計算(偏微分含む)もまずその条件下で行われます。次に、対象となる関数を積分する時点で曲面上あるいは曲線上という制約がつく…すなわちz=z(x,y)といった形の式が一部の変数に代入されて互いに独立ではなくなるとします。

$$ベクトル場は\overrightarrow{F}=(F_1(x,y,z),F_2(x,y,z),F_3(x,y,z))であるとします。$$

$$曲面S上でz=z(x,y)という制約がつく時は$$

$$F_1(x,y,z)=F_1(x,y,z(x,y))のように記す事にします。$$

ストークスの定理

空間内の閉曲線 C に対して、
そのCを外周として共有する任意の開曲面 S に対して
ベクトル場の接線線積分と法線面積分についての次の式が成立します。 $$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ ただし右辺のベクトル場の回転の計算はx、y、zが独立変数であるという条件下で行われ、
法線面積分を考えた時点で「\(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\)」という関数全体に対して曲面S上という制約がつきます。
接線線積分を考える C は閉曲線ですが、曲面 S は閉曲面ではなく開曲面を考えます。 開曲面Sの表裏は、接線線積分の積分方向に合わせて決まります。

\(d\overrightarrow{s}\) =(ds,ds,ds)のもとで、
曲面Sのyz平面、xz平面、xy平面への射影をそれぞれSyz, Sxz, Sxy とします。
上式の左辺のベクトル場に対する接線線積分をスカラー場(ここではベクトル場の成分)に対する線積分に分解した場合には、次の3式が成立します。
【左辺はそれぞれxのみの関数、yのみの関数、zのみの関数とします。】 $$\int_C F_1(x)dx=\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z $$ $$\int_C F_2(y)dy=\int_{Sxy}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial x}ds_z-\int_{Syz}\frac{\partial F_2(x,y,z)}{\partial z}ds_x $$ $$\int_C F_3(z)dz=\int_{Syz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial x}ds_x-\int_{Sxz}\frac{\partial F_3(x,y,z)}{\partial z}ds_y $$ これらスカラー関数の線積分に関する3式の右辺は、
ベクトル場の回転のx成分そのものではなくて、「ベクトル場の回転の各成分に含まれる項を組み合わせた式」です。
例えばxに関する偏微分はベクトル場の回転の第2成分と第3成分に含まれていて、そこから取ってきて組み合わせています。
また、これら3式の両辺を加え合わせると、もとのベクトル場の接線線積分に対するストークスの定理の形になります。

ベクトル場の回転 rot (あるいは curl)とは?

「ベクトル場の回転」はベクトルです。次のように偏微分を使って表されます。
「ベクトル場の発散」はスカラーである事との違いに少し注意。$$\mathrm{rot}\overrightarrow{F}=\left( \frac{\partial F_3}{\partial y}-\frac{\partial F_2}{\partial z} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_1}{\partial z}-\frac{\partial F_3}{\partial x} ,\hspace{5pt} \frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial y} \right)$$ ストークスの定理を適用する事で、ベクトル場の回転は「閉曲線の接線線積分」という文字通りの「回転」するイメージの図形的な意味を持つと解釈する事が可能になります。

のちの証明での計算のための注意点を挙げますと、ベクトル場の「回転」における偏微分は3変数x,y,zを独立変数として扱って計算をするものです。つまり、xで偏微分するならyとzは単純に定数扱いするという意味です。

それに対して、「曲面上のベクトル場」「曲線上のベクトル場」という条件が付くと3変数は独立では無く、曲面上であれば2変数だけが独立、曲線上であれば3変数とも従属関係という事になります。これが証明の1つにおける計算では重要になります。

積分の表記方法についての注記

ストークスの定理は、ガウスの発散定理と比較すると数学的な内容は少し込み入っています。

積分の表記方法は書籍などによって異なる事がありますが、この記事では数式の表現を明確にするために1つの表記方法に統一をします。

この記事では、紛らわしさを避けるために「プライスマイナスの符号がついた面積要素」を考える面積分(法線面積分およびその成分によるスカラー関数の積分)を表すときには積分記号は1つだけつけて、二重積分として累次積分(1変数の場合の定積分計算の繰り返し)によって計算してよい事を表すときには積分記号を2つ付けています。積分する領域全体を表すSなどの記号はどちらの場合でも適宜使用しています。$$面積分(面積要素に符号がある):\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$ $$二重積分(累次積分が可能):\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ この例ではSは曲面上の領域で、Sxzはxz平面上の領域です。
面積要素を積分変数とする場合には、曲面の場所によってプラスマイナスの符号が入れ替わる事があります。そのため、法線ベクトルの成分を積分変数とする時でも領域は曲面であると記すようにしています。
二重積分を累次積分で計算できる形で書いた時には、平面上の点に対応するスカラー関数の積分を行えばよいという事で領域を平面と考えて問題ない事になります。

書籍によっては面積分に対しても積分記号を2つ付けている事もあり、表記方法は一定していませんがこの記事では混同を避けるために表記方法を統一するという事です。

面積分の積分変数のプラスマイナスの符号の扱いについても表記方法をここで明確にしておきます。面積分の場合は表面と裏面とで面積要素ベクトルの向きが逆であり、つまり「プラスマイナスの符号が異なる」事になります。

累次積分(1変数の定積分計算を続けて行う)として二重積分を計算する場合には、
最終的な積分の結果が領域の分割の方法には依存しない事から
|ds|=|dydz|
|ds|=|dxdz|
|ds|=|dxdy|
と考えて、積分の中で置き換える事ができます。
ここで絶対値記号をつけているのは、状況によって符号の違いがある事を表しています。
曲面の表側と裏側の設定等により、例えばds=dxdyで計算できる場合と、
ds=-dxdyとする必要がある場合があります。$$ds_y=dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$ $$ds_y=-dxdzの場合:$$ $$\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y=-\int\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}dxdz$$

図形的なイメージ

ストークスの定理の図形的なイメージは次のような感じです。


まずループ状に閉じた閉曲線 C があります。
その内側に膜が張ってあって、「閉曲面にはしない」という条件で任意の曲面の形に変形させる事ができるとします。
その時に「どんな形の曲面 S についてもストークスの定理の形の式が成立する」・・という事です。

では、開曲面Sには穴のような破れがあった場合はどうでしょうか。

実はその場合でもストークスの定理は成立します。穴を作る閉曲線と元の閉曲線を1本の線で結ぶと大きな1つの閉曲線が作られるためです。付け足してしまった線については、その線を向きだけが異なる2つの線が重なっていると考えるとその線上での接線線積分の合計は「プラスマイナスが打ち消して」ゼロになって積分の値に影響しません。

ただし、そのような場合には「穴」を構成する部分について接線線積分の向きを全体の接線線積分の向きに合わせる必要があります。例えば「穴」が1つだけある場合には元々の外側の接線線積分の向きが1つの方向から見て反時計回りであれば、内側の「穴」を作る閉曲線では逆向きの時計回りで考えないとストークスの定理は成立しません。

また「穴」がある場合の考察から、ストークスの定理は1つの閉曲線に対して任意の「分割」を行える事も理解できます。

曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなる?

ストークスの定理において曲面は「開曲面」を考えます。

では、曲面として「閉曲面」を考えてしまうとどうなるのでしょうか?閉曲面とは球面のような閉じた曲面です。(トーラスのような図形も含めます。)

閉曲線Cを境にして2つの開曲面に分割すると、その両方に対してストークスの定理が成立します。簡単な図形的考察と計算によって、もし曲面の表側を閉曲面に対して一貫して「内側から外側に向かう向き」と決めるなら、「閉曲面全体を積分領域とした時の、ベクトル場の回転の法線面積分の値は必ず0になる」という別の公式が得られます。

証明その1:積分と偏微分の計算を直接進める方法

ストークスの定理を数学の解析学的に「厳密に」証明する方法もありますが、考え方が非常に複雑で物理学等への応用とのつながりも見えにくいものです。そこで、ここでは比較的シンプルに考える2つの証明方法を説明します。

証明時の偏微分の計算の扱い方

ストークスの定理の証明を考える時には偏微分の扱いに特に注意する必要があります。
例えば、「偏微分をしてできた偏導関数」を積分する場合には、x、y、zが独立変数であるという条件下で計算した偏導関数がまずあります。
ベクトル場の各成分であるスカラー関数についての偏微分です。
もしyで偏微分するなら、xとzは定数扱いになります。 $$F_1(x,y,z)に対して\frac{\partial F_1}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F_1(x,y,z)=\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}$$ そのような偏導関数があるなかで、
特定の曲面S上での法線面積分を考える時に初めてz=z(x,y)という従属関係ができます。
つまり、計算としては「偏微分を行った後の関数に対して、積分をする時点でz=z(x,y)を代入する」といった形になります。

変数をどのように考えるのかを敢えて強調して書くなら、積分時には次のようになります。 $$偏導関数\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z)に対してz=z(x,y)を代入して\hspace{5pt}\frac{\partial F_1}{\partial z}(x,y,z(x,y))$$

他方、F(x,y,z)に対して
「曲面S上にあるという条件」を初めから課すとします。
具体的には1つの変数がz=z(x,y)という関数の形になり、
スカラー関数全体は F(x,y,z(x,y))のように書けます。
そこで例えばyによる偏微分を行うとどうなるでしょうか?
この場合には、先ほどの場合とは計算結果が変わるのです。
偏導関数は異なる形になるのです。
その場合には、yの変化によるFの第3成分(z成分)の変化も生じ、
それによるF全体の変化も変わってしまうという事です。
しかし、実はその事がまさにストークスの定理の数式的な意味の1つになっています。

分かりやすくするために、具体的なスカラー関数をてきとうに考えてみます。

例えばF(x,y,z) =x+y+zであったとしましょう。3変数が互いに独立なら、これを例えばyで偏微分すれば偏導関数は2yになります。xとzは定数扱いです。

それに対して、同じ関数に対してz=3yという条件がついたとしましょう。この時にはF(x,y,z) =F(x,y,z(y))=x+y+(3y)=x+10yですから、yで偏微分すれば偏導関数は20yになりますから全く異なる結果です。その違いが生じるのは、z=3yという条件によりyを変化させるとzも変化するためです。その違いが計算結果に現れます。

合成関数の偏微分公式で考えても同じになります。
z=3yという条件下ではF(x,y,z)を偏微分すると次のようになります。

$$\frac{\partial F}{\partial y}=\frac{\partial }{\partial y}F(x,y,z(y))$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(y)}{\partial y}$$

$$=\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial }{\partial y}(3y)$$

$$=2y+2z\cdot 3=2y+2\cdot 3y\cdot 3y=2y+18y=20y$$

この式で、F(x, y, z) と書いた部分は3変数が互いに独立である場合の関数という意味です。その部分においては、yで偏微分するならxとzは定数扱いになるという事です。

スカラー関数の線積分の計算

ベクトル場の第1成分(x成分)であるF(x,y,z)を考えます。これはスカラー関数で、スカラー場とみなせます。まず、接線線積分において内積をとってスカラー場の線積分の形にした積分についてまず考えます。

閉曲線Cは凹凸のない形状を考え、閉曲面Sはxy平面上の1点に対してz座標が1つ決まるような形状で、表側の面からの法線ベクトルはz軸のプラス方向の向きに対して鋭角になるものとします。

次に曲面の「xy平面への射影」を考えます。これは積分領域の射影を考えるのであって、ベクトル場の射影(つまりz成分を無視する)では無い事に注意。

ベクトル場に関しては、zに対して「積分領域の曲面の式」であるz=z(x,y)を代入する事で見かけ上zを消去します。のちに偏微分の計算をする時にはこのzの式は重要になってきます。

具体的な定積分(1変数の定積分)を考えようとする時、全体の射影された積分の経路に対してxについての異なる形の2つの関数が必ず存在します。これは、元々の曲線として必ず「閉曲線」を考えるためです。

xy平面で考えると、「上半分」と「下半分」に分かれる事になります。

ここでは経路を表す曲線を表す関数に対して、
xy平面上で見た閉曲線の上半分を表す場合には添え字のU、
下半分を表す場合には添え字のLをつける事にします。
また、射影されたxy平面上の閉曲線をCxy(ベクトル場の第1成分 F1 を F1xy(x,y,z(xy)) とします。)
その上半分の経路をCxU(そこではF1 を F1xyU(x,y,z(xy)) とします)
下半分の経路をCxL(そこではF1 を F1xyL(x,y,z(xy)) とします)
という名前にしておきます。
積分変数xの積分区間は [a, b] (=CxP)であるとして、線積分を行う時には反時計回りに回るようにして「行き」と「帰り」があるので往復を考えた便宜的な長方形状の経路をCxPRとしてます。

  • Cxy:閉曲線 C をxy平面上に射影してできた閉曲線上 F1 =F1xy
  • CxU:閉曲線Cxyの「上半分」(積分の方向は b→a)F1 =F1xyU
  • CxL:閉曲線Cxyの「下半分」(積分の方向は a→b)F1 =F1xyL
  • CxP:xに関する積分区間 [a, b] (閉曲線Cxyのx軸への射影)

ストークスの定理においては「閉曲線内」も計算上考えますが、その場合も平面(例えばxとy)の位置における「閉曲面上」のベクトル場だけを考えます。そのため、元々のベクトル場F1(x,y,z)において互いに独立になり得る変数は1つだけです。最初に想定した曲面の形では例えばxy平面上の点を指定すればzの値も定まるので、曲面上の値を考える時にはF1=F1(x,y,z(z,y))の形になっています。
偏微分の計算上、3変数を独立したものとして扱う場合にはF1=F1(x,y,z)と書く事にします。

現在考えている条件下では、xy平面を上から見て反時計回りに回る方向が接線線積分の向きです。
そのため、閉曲線Cをxy平面に射影した曲線の下側が「xが増加する向きで積分する部分」であり、
上半分側が「xが減少する向きで積分する部分」になります。

まずはxy平面で考えるわけですが、1変数による線積分を行う場合に限っていえば積分変数がxであればxz平面への射影でも同じ事になります。つまり3次元空間内に閉曲線がある時、積分経路としては元の閉曲線が指定されていれば1変数の線積分の積分区間は確定します。そのため、1変数の線積分の積分経路に関しては統一的に元の閉曲線Cで表記する事にします。

$$\int_{Cxy} F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx=\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

次に、開曲面Sに対して、xy平面上でz=(x,y)と考えます。
さらにx軸上の区間では曲線の「上半分」と「下半分」に分ければそれぞれに対してy=y(x)の関係を考える事はできますからベクトル場の第1成分Fはxだけの式で表現できる事になります。

「上半分」と「下半分」でy=y(x)の式の形も違いますから
それを強調してここでは上半分に関してはy=yU(x)などと書き、
下半分に関してはy=yL(x)のように書く事にします。

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x,y))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx+\int_b^aF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=\int_a^bF_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))dx-\int_a^bF_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))\right)dx$$

積分区間をa→bの向きに統一して1つの積分記号に収めて、次の計算のために「上半分」のほうが前に来るように順序を変えています。

閉曲線としてまとめて積分経路を考えている時(ここで言えばCxyなど)には積分の方向が変わる時点でxの関数としての形も変わるものとして考えています。

「偏導関数の定積分」を考える

次に積分の中身で差の形になっている部分を、引き算の形である事に注目して
yに関する偏微分を使った「偏導関数の定積分」で表す事を考えます。
(※「偏微分の定積分」と言っても同じ意味になりますが、ここでは関数である事を強調して「偏導関数の…」と表現しています。)

発想的にはガウスの発散定理での証明と同じになります。

数式の意味が分かっていれば省略可能ですが「xだけの関数」と「互いに独立であるxとyが変数の関数」である事を区別するために、ここでは前者の場合のアルファベットをキャピタルで、後者を小文字で書く事にします。
つまりF1xyU(x,y(x),z(x))=f1xyU(x,y,z(x,y))であり、F1xyL(x,y(x),z(x))=f1xyL(x,y,z(x,y)) であるとします。

さきほど計算を進めた積分の中身だけで考えると次のようになります。積分区間はそれぞれのxによって定まる2つのyなので、便宜的にY1(x)からY2(x)までであるとします。yが閉曲線の内部を動く事になり、そこではF=F1xyS(x,y,z(x,y))と書く事にします。

$$【前述の式の積分の中身】F_{1xyU}(x,y_U(x),z_U(x))-F_{1xyL}(x,y_L(x),z_L(x))$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}\left\{f_{1xyU}(x,y,z_U(x,y))-f_{1xyL}(x,y,z_L(x,y))\right\}dy$$

$$=\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z_(x,y))dy$$

※ここでのyによる積分の計算は、閉曲線上ではなく「閉曲線の内側」を横断する形です。
(ただしベクトル場は曲面上にあります。)
yの値によって変化するFを積分するので。xとyは従属では無く独立の関係です。xによって定まるのは「yによる積分区間の端点」だけになります。積分変数はあくまでyですから、定積分の値を直接計算するならxとzを定数扱いにしてyで偏微分したのちzにz=z(x,y)を代入して計算し、定積分の値の結果は「xだけの関数」という事になります。

これを、既に導出している線積分の計算式に当てはめます。最初の式から考えて書き直し計算を進めると、次のようになります。偏微分の計算および面積要素の変換公式を使用します。
【偏微分については、ここではF1(x,y,z)のように書かれていたら3変数を独立変数的に扱うものと考えます。つまりyで偏微分するなら残りの変数は定数扱いという意味での計算式になります。】

$$\int_C F_{1xy}(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_a^b\left(\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\frac{\partial}{\partial y}F_1(x,y,z(x,y))dy)\right)dx$$

$$=-\int_a^b\int_{Y2(x)}^{Y1(x)}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)dxdy$$

$$=-\int_{Sxy}\left(\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}+\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}\right)ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z -\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxz}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y【∵面積要素の変換公式】$$

ここで使った面積要素の変換公式はあまり使う機会のない公式ですが次のような形のものです。【※重積分の変数変換の公式とは別物なので注意。】

$$面積要素の変換公式:ds_y=-\frac{\partial z(x,y)}{\partial y}ds_z$$

xy平面とxz平面の面積要素がこの式に従って1対1に対応するので積分領域もxy平面からxz平面に移る事になります。

まとめると次のようになります。

$$\int_C F_1(x,y(x),z(x))dx$$

$$=-\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial y}ds_z +\int_{Sxy}\frac{\partial F_1(x,y,z)}{\partial z}ds_y$$

これは、接線線積分の側から見た時の内積の項の1つを表す式になっています。同様の手順でyとzによる線積分からも同様の結果が得られ、全て加え合わせる事でここでの閉曲面の設定におけるストークスの定理が導出されます。

(示すべき式の再掲)

証明の計算の流れのまとめを図示すると次のようになります。

zに関して変数を省略している部分はz=z(x,y)の関係があるものです。

この証明では積分の領域は開曲面Sに依存するのではなく、閉曲線Cに依存するものとなっています。しかも、より正確には閉曲線Cのxy平面等への「射影」の領域に依存しています。つまり定理において開曲面Sの形状は任意でよい事も示せています。

曲面が変化すればその曲面上のベクトル場の具体的な関数形は当然一般的には変化しますが、式の形自体は閉曲線Cの形状に縛られず自由であるという事になります。(最初は変数に従属関係があったのが、最後はあたかも独立変数として扱う計算となったのはこの事に関係があります。)

もちろんここではまだ特定のタイプの曲面に限っての話です。次に、開曲面がここで考察したもの以外の別の形状でも成立する事を見ます。

曲面の形状が変わった時

では、閉曲面Sが最初に設定したもの以外の場合はどうでしょうか。

まず、「開曲面Sの表裏が入れ替わった場合」です。

その場合、まず接線線積分の積分方向が逆回りになるので、内積で分解した時の線積分も計算結果の符号が入れ替わったものになります。

他方でその場合には例えばxy平面への射影を考える時に、元々は曲面Sの1つの方向から出る法線ベクトルが逆向きになります。つまり、元々がds=+dxdyであれば、曲面の裏表を入れ替えた時にはds=-dxdyという変換になります。

すると前述の証明と比較した場合、証明の過程で符号の反転が2回起こるので、「結果は同じになる」という事になります。

また、先に「穴がある場合」でも定理が成立する事は既に見ましたが、そこで考察した分割の方法によって、曲面が任意の形状であっても既に証明済みのタイプに細かく分割して積分値を合計する事で定理が成立する事を示せます。

じゅうたんを折り畳んだような複雑な曲面によって、面積要素ベクトルが他の場所と符号が変わる場合も定理は成立します。この場合には面積要素ベクトルは依然として「表」から出ている事にはなりますが、分割をすると裏表を変えた時のように接線線積分の向きが逆になる事が分かります。従って、裏表を変えた時と同様に定理は成立します。

折れ曲がるような複雑な形状であっても裏表が逆転する場合と同様に符号の入れ替えが2階起こり、ストークスの定理の式の形は保たれます。

証明その2:微小長方形領域で回転を計算する方法

別の証明方法として、ベクトル場の「回転」をより図形的な回転のイメージに合わせたやり方があります。

この方法では閉曲線のxy平面等への射影領域を、軸に平行な線でメッシュのように「細かい長方形に分割する事」で証明を行います。ただし、それは斜めの線を長方形に強引に近似できるという意味ではありません。そうではなくて、接線線積分や法線面積分の内積を利用した計算によって「結果的に長方形領域の組み合わせで計算ができる」という事です。

まず最初に、少し奇妙に思えるかもしれませんが閉曲線のxy平面を最初にメッシュ状に細かく分割してしまって、それから1つの微小な長方形領域ΔCに対してベクトル場との「接線線積分を行うかのような和」を考えます。つまり、積分の方向を決めたうえで各辺をベクトルと考えた時のベクトル場との内積をとり、合計するという事です。ただし、微小領域なので1つの辺につきベクトル場の値は1つだけで代表できると考えます。

この時に、ベクトル場は3成分ともx,y,zのプラスの方向を向いている条件であるとします。すると、長方形領域ΔCはxy平面上の図形であるわけですからz成分は0です。さらには軸に平行な線で作られた長方形ですから辺をベクトルとみなせば成分はx成分のみかy成分のみという事になります。

長方形領域ΔC辺の長さをdxとdyとすると、
4つの「接線ベクトル」はz成分を省略してそれぞれ
(dx,0),(0,dy),(-dx,0),(0,-dy)です。
長方形の左端にベクトル場があって、微小の長さを進んで偏微分を使った一次近似の量だけ増えるものとします。少し奇妙なようですが、ベクトル場との内積をとって合計すると次のようになります。

$$\oint_{\Delta C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=F_1dx+\left(F_2+\frac{\partial F_2}{\partial x}dx\right)dy-\left(F_1+\frac{\partial F_1}{\partial x}dy\right)-F_2dy$$

$$=\left(\frac{\partial F_2}{\partial x}-\frac{\partial F_1}{\partial x}\right)dxdy=\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3dxdy$$

$$\left(\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\right)_3はベクトル場の回転の第3成分$$

つまり、回転するように「接線線積分もどき」のようなものを考えると、「ベクトル場の回転」の成分(ここでは第3成分)に面積要素を乗じた量になったわけです。このように最初から「回転のイメージ」が現れるところが先ほどの証明方法と異なる点です。

xとyについて積分すれば、ベクトル場の回転の法線面積分の第3成分を得ます。同様の方法で残りの成分も得る事ができます。それで、ストークスの定理の法線面積分側の式ができあがるわけです。

$$3成分について積分して合計すると\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}を得る。$$

さてそれでは接線線積分側はどうでしょうか。

メッシュ状に細かく分割した長方形に対してさきほどの式を合計すると、隣り合う辺においては値が打ち消し合って消えます。領域の分割の逆のパターンで、積分する領域の合成が行われるわけです。

すると、長方形を全部合成すると外部の周に相当する部分だけが残ります。これで接線線積分を内積計算した時の1変数の線積分が出てきます。

しかし、じつは単純に計算するとxy平面に対してxの線積分とyの線積分が生じて、xz平面でもxの線積分とzの線積分の両方が生じてしまい謎の「過剰な量」が出てきてしまいます。

ですが注意深く見てみると、xの線積分を行う場所は合計で4箇所できますがそのうちの2つは「同じ線分上で向きだけが異なる線積分」となるので合計すると0になります。そして残り2つで、xに関する線積分の「行き」と「帰り」を表現できているのです。

つまり、一見すると線積分の項が6つできて往復を考えると12項ができてしまいますが半分は打ち消して0になるので1変数の線積分の項が3つでそれぞれに積分区間の往復がある形になります。これで接線線積分側の式も得られてストークスの定理を導出できる事になります。

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$=\int_CF_1dx+\int_CF_2dy+\int_CF_3dz=\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

$$\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxz}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}+\oint_{Cxy}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}により$$

$$\oint_C\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$

xy平面への射影とxz平面への射影は共通辺を持ち、積分が打ち消し合う。xに関する線積分ではベクトル場の第1成分だけを積分するので、積分する辺のz座標の位置は影響しません。

設定した形状のタイプ以外の開曲面に対しても成立する事を調べるのは最初の証明と同じです。この2番目の証明では、閉曲線Cの射影となる領域だけで考えて定理を導出しています。言い換えると必要な射影を与える開曲面であれば形状は任意でも定理が成立するので1つの閉曲線を外縁とする開曲面は任意で良いという事になります。

面積要素の変換公式

積分変数としての面積要素dSと、x、y、zで積分した時に使うdx、dy、dzを偏微分を使って結びつける公式について説明します。
積分変数に関する公式ですからもちろん積分に関係しますが、ベクトルとも関連します。
この公式はやや特殊で、使われる場面はベクトル解析の分野のごく一部分に限定されるとも言えます。しかし特定の定理の証明・考察において重要である場合があるので、詳しく解説しておきます。

■より初歩的な内容(内部リンク):

面積要素とは

法線面積分においては曲面上の微小な領域に対する法線ベクトルを考えて、その法線ベクトルの大きさはその微小領域の面積であるとします。
そして、その面積にプラスマイナスの符号があると考えた量を特に面積要素(あるいは面積元素)と呼ぶ事があります。面積要素はdSなどの記号で書かれます。

面積元素dSを大きさとする法線ベクトル(面積要素ベクトル)

式で書くと次のようになります。
各成分は対象の曲面上の微小領域をyz平面、xz平面、xy平面へ射影した領域の面積です。$$d\overrightarrow{S}=(ds_x,ds_y,ds_z)$$ この法線ベクトル\(d\overrightarrow{S}\) の事を特に指して「面積要素ベクトル」と呼ぶ事もあります。
面積要素の絶対値は、このベクトルの大きさに等しいものとします。 \(|dS|=|d\overrightarrow{S}|\)

※「面積ベクトル」という用語は、曲面全体に対する単位ベクトルの法線面積分の事を指す場合があります。
また、法線面積分を考える時には「ベクトル場と単位法線ベクトルの内積を考え、それに面積要素を乗じるという形の形で書く」という形式もあります。ここで言う単位法線ベクトルとは「大きさが1」の法線ベクトルという事です。

法線面積分の計算を進める時には、内積を計算する形で成分ごとに分解した積分を考える事がありますが、その時に考える「スカラー場に対して、yz平面、xz平面、xy平面内の領域の面積要素を積分変数とする」形の積分を単に「面積分」と呼ぶ事もあります。

変換の公式

面積要素dSと、面積要素ベクトルの成分ds、ds、dsの間には実は変換の公式が存在し、それは曲面を表す関数に対する偏微分を使って表されます。

今、曲面を表す関数としてzがz=g(x,y)のような形で表されているとします。(これはベクトル場の成分を表す関数ではなくて、曲面を表す式です。)

面積要素ベクトルの成分dsx, dsy, dszと面積要素dSの変換公式

$$dS=ds_z\sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2}$$ $$ds_y=-\frac{\partial z}{\partial y}ds_z$$ $$ds_x=-\frac{\partial z}{\partial x}ds_z$$ この公式を使う時には、曲面を多面体とみなした時に微小な三角形(あるいは平行四辺形)の2辺がそれぞれxz平面上およびyz平面上にあるような分割を考えています。 (法線面積分および面積分の値は分割の仕方には依存しません。)

上記の式を組み合わせて、dsとdsについても面積要素dSとの関係式を作る事が可能です。

これらは決して使いやすい形の公式とは言えないかとは思いますが、ベクトル解析における特定の定理の証明等で使える場合もあります。

法線面積分を行う時の積分をする時の分割の仕方は任意ですが、
偏微分を使った面積要素の変換公式を考える時には
座標軸に平行な直線で区切った長方形の分割を行っています。
曲線上になっている部分は折れ線で近似して直角三角形の分割として考えます。

◆! 注意点・・・
これらの公式はあくまで
「法線面積分およびスカラー場に対する面積分における、
積分変数としての面積要素に対して成立する変換公式」であり、
通常の二重積分等での積分変数の変換(極座標変換など)では使う事はできません。
二重積分や多重積分で積分変数の変換を行う時には、関数行列式を使った変換が必要です。

また、ds/dS,ds/dS,ds/dSは図形的に余弦とみなす事ができて、方向余弦とも呼ばれます。(方向余弦は面積要素ベクトルに対してだけでなく、ベクトル一般に対して考える事ができます。)これらの面積要素ベクトルの方向余弦は、分割の方法を合わせるという前提のもとで上記の公式中の係数で表す事ができます。

余弦とは三角関数の「コーサイン」「cos」の事です。

面積要素ベクトルの方向余弦を偏微分で表す方法

角度は鋭角の場合であるとします。 $$\frac{ds_x}{dS}=\cos\alpha,\hspace{10pt}\frac{ds_y}{dS}=\cos\beta,\hspace{10pt}\frac{ds_z}{dS}=\cos\gamma \hspace{10pt}と置いた時、$$ (※これらは導関数の記号ではなく、普通の「割り算」あるいは「比」を考えています。) $$\cos\alpha=-\Large{\frac{\frac{\partial z}{\partial x}}{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} }}$$ $$\cos\beta=-\Large{ \frac{\frac{\partial z}{\partial y}}{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+ \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} } }$$ $$\cos\gamma=\frac{1}{\Large{ \sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2} }}$$ 曲面の分割は、前述の変換の公式を適用する時と同じであるとしています。
また、\(dS\cos\alpha=ds_x\), \(dS\cos\beta=ds_y\), \(dS\cos\gamma=ds_z\) でもあります。
角度が鈍角の場合にはプラスマイナスの符号が変わります。

公式の導出および証明

上記の公式の証明においてはベクトル場の事は考えず、曲面の事だけを考えます。

面積要素と、面積要素ベクトルの第3成分との関係式の証明

曲面Sの領域の分割が、xy平面への射影を考えた時に辺がx軸とy軸に平行な長方形になるように考えます。曲面の外周部分に関しては長方形を対角線で区切った直角三角形を考えます。

この時に分割された各領域は、1つの共有点を始点(原点と考えます)に持つxz平面上のベクトルと、yz平面上のベクトルを2辺として構成されていると考える事ができます。

それらの2つのベクトルを \(\overrightarrow{a}\) および \(\overrightarrow{b}\) とおきます。
(位置関係は、dxとdyの符号がともにプラスである時に外積ベクトルがz軸のプラス方向を向くようにします。その側が面の表側で、面積要素ベクトルが出る側として考えます。)
今、曲面の各点のz座標はz=g(x,y)のような関数で表せる事に注意すると、
2つのベクトルはzに対するxとyでの偏微分を使って表せます。
\(\overrightarrow{a}\) の(終点の)x座標をdxとして、\(\overrightarrow{b}\) のy座標をdyとすると、次のように書けます。

$$\overrightarrow{a}=\left(dx,0,\frac{\partial z}{\partial x}dx\right),\hspace{15pt}\overrightarrow{b}=\left(0,dy,\frac{\partial z}{\partial x}dy\right)$$

2つのベクトルはそれぞれx軸上およびy軸上にあります。
そのため、1つのベクトルはy成分が0で、もう片方のベクトルはx成分が0です。
曲面を表すz=g(x,y)に対する偏微分は、図形的には座標軸に平行な直線上での近似一次式の傾きを意味します。

この時にこれら2つのベクトルにより構成される平行四辺形の面積(|dS|に等しい)は、公式を使って次のように表されます。対角線で区切った三角形の面積ならその半分になります。

$$dS=\sqrt{|\overrightarrow{a}|^2|\overrightarrow{b}|^2-(\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b})^2}$$

$$|ds|=\sqrt{ \left\{dx^2+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2dx^2\right\} \left\{dy^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2dy^2\right\} -\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2 \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2dx^2dy^2 }$$

【平方根の中の2つの項がちょうど同じ値で引き算されて0になります。】

$$=\sqrt{dx^2dy^2+dx^2dy^2\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+dx^2dy^2\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここで、平方根の中のdxdyについて2乗した形が共通してどの項にもあるのでdxdyを平方根の外に出す事もできますが、敢えてひとまずこのままにしておきます。

面積要素ベクトルの第3成分(z成分)のdsの絶対値は、微小領域をxy平面に射影した領域の面積になります。【その証明は外積ベクトルの定義からの計算と、平面上のベクトルを使った平行四辺形の面積公式から行います。】

今、微小領域をxy平面に射影すると長方形になるように分割を考えています。
よって、|ds| = |dxdy| と書けます。【外積ベクトルのz成分を考えても同じ事です。】
すると ds = dxdy という事にもなるので、
これをさきほどの計算式に代入します。

$$|dS|=\sqrt{ds_z^2+ds_z^2\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+ds_z^2\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここで、dsはプラスとマイナスの両方の符号の場合があり得ます。これは図形的には、実は単純な話です。面積要素ベクトルがz軸のプラス方向側に向いていればそのz成分であるdsの符号もプラスで、逆に面積要素ベクトルがz軸のマイナス方向側に向いていればそのz成分であるdsの符号もマイナスという事になります。

すると、上式ではdsを平方根の外に出す事ができますが、それが式の右辺のプラスマイナスの符号を決める唯一の量になります。よって、面積要素dSの符号はdsによって決定する事になります。式で書けば次のようになります。これで証明完了です。

$$dS=ds_z\sqrt{1+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2}$$

ここでの符号の問題についてはdxとdyを基準に考える事もできます。
外積ベクトル \(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}\) が面積要素ベクトルに等しいと考えると、
そのz成分はds=dxdyー0・0=dxdyで、符号まで一致している事になります。
この時、仮にdxとdyのどちらかがマイナスになると位置関係的にも、
外積ベクトル \(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}\) はz軸のマイナス側を向く事になります。

もともと符号はプラスと考えた dx と dy の符号を入れ替えた場合の3パターン。
片側だけ符号を反転させた場合のみ、外積ベクトルの方向も反転します。
この外積ベクトルが面積要素ベクトルに等しいと考えれば、
面積要素ベクトルの第3成分とdxdyの符号が一致するようになります。

面積要素ベクトルの第1成分と第2成分についての式の証明

次に、面積要素ベクトルの第1成分(x成分)と第2成分についての式も考えます。

それらを表すには外積ベクトルとして成分を計算したほうが簡単で、次のようになります。

$$再度記すと\overrightarrow{a}=\left(dx,0,\frac{\partial z}{\partial x}dx\right),\hspace{15pt}\overrightarrow{b}=\left(0,dy,\frac{\partial z}{\partial x}dy\right)としているので、$$

$$ds_x=0\cdot\frac{\partial z}{\partial y}dy- \frac{\partial z}{\partial x}dx\cdot dy=-dxdy\frac{\partial z}{\partial x}$$

ここで使っている公式は次のものです。 $$\overrightarrow{a}=(a_1,a_2,a_3),\hspace{10pt}\overrightarrow{b}=(b_1,b_2,b_3)\hspace{10pt}のもとで$$ $$\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b}=(a_2b_3-a_3b_2,\hspace{5pt}a_3b_1-a_1b_3,\hspace{5pt}a_1b_2-a_2b_1)$$ 外積ベクトルの各成分の絶対値は、2つのベクトルを2辺とする平行四辺形を
yz平面、xz平面、xy平面に射影した領域(それも平行四辺形。この記事内での例では長方形)の面積に等しくなっています。

ここで、先ほどの証明の最後で触れましたが面積要素ベクトルを外積ベクトルとして表した場合には符号まで一致してds=dxdyと表す事ができるので、それをそのまま代入する事ができます。すると次のようになって、示すべき式が得られます。

$$ds_x=-\frac{\partial z}{\partial x}ds_z$$

面積要素ベクトルの第2成分についても同様に、
外積ベクトルの成分として計算すると次のように示すべき式を得ます。

$$ds_y=\frac{\partial z}{\partial x}dx\cdot 0\hspace{3pt} – dx\cdot\frac{\partial z}{\partial y}dy=-dxdy\frac{\partial z}{\partial y}$$

$$よって、ds_y=-\frac{\partial z}{\partial y}ds_z$$

この面積要素の変換公式は、ストークスの定理に対する証明の1つの過程で使用する事ができます。

ベクトルの相等:自由ベクトルと束縛ベクトル…【2つのベクトルが等しいとはどういう事か?】

「同じ向きで同じ大きさのベクトル」を、
「始点を基準とした向き」と「大きさ」を変えずに移動させたベクトルの扱いについて説明します。

一般的に、原則的な扱い方は大体決まっているのですが、
書籍等では少し曖昧に説明されている場合もあるので詳しく説明をします。

ベクトルの相等
・・同じベクトルと異なるベクトルの違いは?

ベクトルの始点と終点を明示した表記方法では、\(\overrightarrow{AB}\) と \(\overrightarrow{BA}\) は異なるベクトルになります。

この事は図形的に見てもそのように言えて、
「大きさは同じ」で「向きが異なる(同一直線上で逆方向)」という異なる2つのベクトルなのです。

さて、ここで問題にしてみたいものがあります。

2つのベクトルが、次のような条件を両方満たす場合です。

  • 「向きと大きさの両方が同じ」
  • 「しかし、始点と終点が異なる」

例えば、平行線の関係にある異なる線上の2つのベクトルで、大きさは同じで向いている方向も同じという場合です。
それらは、異なるベクトルと考えるべきでしょうか?

図形における線分であれば、異なる端点を持つ線分ABと線分CDは、必ず異なるものとして考えます。そうでないと、図形的に正しい議論ができないのです。

ベクトルは「大きさ」と「向き」を持つ量として考えたはずですが、
それらは同じで始点と終点が異なる場合は?

では、ベクトルの場合はどうでしょうか。同様に考えるべきでしょうか?

「2つの異なるベクトルが等しい事」を指して数学ではベクトルの相等と呼ぶ事があります。
ここでは、ベクトルの相等が始点と終点の位置に関係するか?
それともそれらには無関係で向きと大きさだけに依存するものか?
という事を考えています。

実のところ、それに対する答えには2つの立場があって扱いが異なるのです。
ただし数学上の考察を含めて一般的に、何の断りもなければ原則としてどちらの立場で考える事が普通であると言う事はできます。

基本的にはベクトルは「自由ベクトル」

ベクトルの場合は、向きと大きさを持つ「量」として考えている事もあって、
実は「向きと大きさの両方が同じ」であれば、「始点と終点が異なる」場合でも同じベクトルであると考えるのです。
特に断り書きが無ければそれが基本的な考え方になります。
ただしそのように考えるベクトルである事を強調して、特に自由ベクトルと呼ぶ事もあります。

自由ベクトルは、向きと大きさを保ったまま自由に動かす事ができます。
(そのような移動を「平行移動」と言います。)

普通、数学的な考察の中で何のことわりもなく「ベクトル」と言ったらそれは自由ベクトルを指しています。つまり向きと大きさを保ったまま始点と終点を変更しても、移動前と移動後のベクトルは等号で結べるという事です。

自由ベクトルとして考える場合には、ベクトルの相等は向きと大きさにだけ依存し、始点と終点の位置には依存しないと言う事もできます。

ベクトルの相等についての基本的な考え方
  • 原則として、何も断り書きが無ければベクトルは自由ベクトルとして扱う。
  • ベクトルの相等は「向き」と「大きさ」だけで決まり、
    始点(および終点)が異なっていても同一のベクトルとみなし、等号で結ぶ事ができる。

例えば「始点が同一である」力ベクトルは合成する事ができて、数式的にはベクトルの合成(足し算と引き算)で考える事になります。すこの時に、片方のベクトルを平行移動させて平行四辺形を作って合成を考えます。つまりその時にはそのベクトルを自由ベクトルとして考えているわけです。

ベクトルの加算で片方のベクトルを平行移動して「平行四辺形」を作る図形的な考察は、ベクトルを自由ベクトルとみなしている場合の代表的な例の1つです。

ベクトルに関して数学的な一般論として考察や計算を考える時には、
基本的にはベクトルは自由ベクトルとして考えます。

始点の位置を問題にする「束縛ベクトル」

それに対して、状況によっては始点が特定の場所に固定されていると考える必要がある場合があります。つまり、始点が異なれば別のベクトルとみなす必要がある場合です。そのように考えるベクトルは、特に束縛ベクトルと呼ばれる事があります。

例えば現実に2本の綱があったとしましょう。
それらを2人の人が引けば2つの力ベクトルを考える事ができます。
しかしそれらの力ベクトルの始点(力の作用点)は異なります。
そういった場合に、仮に2つの力ベクトルを平行移動でぴたりと重ね合わせる事ができたとしても、それらを「同一の力」と評するには違和感があります。
その違和感は、ベクトルの始点が異なっている事に由来するのです。

力が作用している点が異なれば、大きさと始点からの向きが等しいベクトルであっても別々の力であり、同一の力ベクトルとは考えない事が普通です。
そのような場合でも、力ベクトルの大きさに関して F1 = F2 のように書けます。

束縛ベクトルを考える場合には、
必ずしもベクトルの始点が「同一の点」ではなくてもよい事もあります。
例えば「同一の線上」「同一の面上」であればよいとする事もあるのです。

いずれにしても、ベクトルの始点が具体的にどこにあるのか範囲が限定されているベクトルが束縛ベクトルであり、ベクトルの相等が「向き」と「大きさ」と「ベクトルの始点が存在する位置」に依存するわけです。

ただし、考察対象のベクトルが自由ベクトルであるか束縛ベクトルであるかの区別は、数学的というよりは物理的な解釈により判断する事が普通であると思われます。
例えば異なる物体に作用している複数の力ベクトルであれば、「別々の物に加わっている別々の力なのだから、その時点でベクトルを等号としては結べる事はない」と解釈しても何の支障もありません。

具体的な状況下で複数の束縛ベクトルを考えた場合でも、その時に考えている始点を基準にして限られた範囲で自由ベクトルのように考える事ができます。例えば、ある力の作用点に対して重力と摩擦力が働いている場合には、元々ベクトルの始点は同一である事は大前提にしたうえで、ベクトルを平行移動させてベクトルの「平行四辺形」を考えて力ベクトルを合成するといった計算ができます。

自由ベクトルは始点が原点である場合を基準にできる

始点を原点としてベクトルを考える場合にはベクトルは座標で表すか、終点が分かる文字で代表させる表記方法ができます。
この時には始点が皆共通ですから、向きと大きさが一致すれば終点も必ず一致します。

さてそこで、自由ベクトルとして考えているベクトルでは向きと大きさを保てば自由に移動させて構わないので、始点を原点にそろえる事もできるわけです。

この考え方のもとでは、
平面上あるいは空間内の任意のベクトルは座標を使って表す事ができる事になります。

例えば次の2つのベクトルを考えます。

  • 原点を始点とした(1,1)というベクトル
  • (2,1)を始点としてx方向とy方向にそれぞれ1ずつ進み、
    (3,2)に向かうベクトル

これらは、自由ベクトルとしては全く同一のベクトルとしてみなせるのです。

☆ベクトルの減算を使うと、
2番目のベクトルは(3,2)-(2,1)=(1,1)と計算して表す事ができ、
確かに1番目のベクトル(1,1)に一致する事を見れます。

ここでの例で、点(2,1)をAとして、点(3,2)をBとすれば
\(\overrightarrow{AB}=(1,1)\) と書く事ができます。

つまりベクトルを自由ベクトルとして考える前提のもとでは、
\(\overrightarrow{AB}\) のような始点と終点を明記した形のベクトルも、
原点を基準とした座標成分による表記方法と、数学的に等号で結べるという事を意味するのです。
この時には、平面上あるいは空間内の具体的な2点間のベクトルである事を明示しつつ、
「向きと大きさは原点を基準とした時の(1,1)というベクトルに等しい」という事を表現しているとも解釈できます。

今回のまとめ
  • 基本的にはベクトルは自由ベクトルとして考えて、
    「向き」と「大きさ」が等しければ、始点の位置によらずに同じベクトルであると考えて等号で結ぶ事ができる。
  • 特に断りが無ければ、数学的な計算や考察ではベクトルは自由ベクトルであると考える。
  • ただし物理学等での個別の考察を行っている時には、
    始点が限定された範囲内にないと、向きと大きさが等しくても同一のベクトルとはみなせない束縛ベクトルとして実質的に考える事もある。
  • ベクトルが自由ベクトルであれば、
    始点と終点を明記する表記と原点を基準にした表記は同一視する事ができ、
    等号で結ぶ事もできる。

スカラー場に対する線積分【定義と積分の仕方】

線積分という言葉は、ベクトル場に対する接線線積分と、スカラー場に対する線積分の両方に対して使われます。ここでは、スカラー場に対する線積分についての定義と積分の考え方について説明します。

接線線積分と同様に、スカラー場に対する線積分も電磁気学等での理論計算に使われます。

接線線積分の内積計算を行う過程で、
座標変数であるx、y、zを積分変数とする線積分を考える事もあります。

基本的な考え方

スカラー場 f(x, y, z) に対する「線積分」の基本的な考え方は、次のようになります。

基本的な考え方:スカラー場に対する「線積分」
  • 積分の対象となる関数がスカラー場(座標成分を変数とするスカラー関数)
  • 積分範囲が平面上または空間内の曲線上の経路

積分経路の表記は、ベクトル場に対する接線線積分と同じで、曲線上の2点PとQを決めてPQと書いたり、経路をCなどの名称で表したりします。(その書き方は、積分変数が座標変数が弧長の場合でも座標変数の場合でも、どちらでも同じです。) $$積分変数が弧長の場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$ $$積分変数がxの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$ $$積分変数がyの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dy$$ $$積分変数がzの場合:\int_{PQ}f(x,y,z)dz$$

積分変数となる変数は弧長(曲線の長さ)であるとする場合と、
x,y,zの座標成分である場合があります。
どちらの場合でも線積分という語が使われる事が一般的です。
ただし、後述しますように両者で積分方向と積分の符号に関する規定に相違点があります。

積分対象の関数がスカラー場の場合には、
積分変数が弧長の場合と、座標変数x,y,zの場合の両方に対して「線積分」が定義できます。

積分変数が弧長の場合

積分変数が弧長である場合には、積分経路が曲線上の点Pから点Qまでの経路である時に、点Pにおいて弧長が0、点Qにおいてある長さLであるとして積分を行います。

弧長とは「曲線の長さ」の事です。基本的に、折れ線で近似した時の極限値を指しています。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x,y,z)dl$$

ただし、右辺のように表して具体的に原始関数を探して計算するといった場合には、後述するようにスカラー場は \(l\) の関数の形になっている必要があります。

弧長を表す文字としては、sやtが使われる事もあります。

弧長(曲線の長さ)を積分変数として線積分を考える事ができます。
折れ線で近似をして合計し、極限を考えて積分するという考え方です。

この時に弧長は点Pから測って決めているので、
同じスカラー場に対して点Pからではなくて
「点Qから線積分を行う場合」には、積分全体の符号が変わります。
積分の向きと積分全体の符号の関係の考え方は、接線線積分の場合と同様になっています。

$$\int_{QP}f(x,y,z)dl=\int_L^0A(x,y,z)dl=-\int_0^Lf(x,y,z)dl=-\int_{PQ}f(x,y,z)dl$$

このように書けるわけですが、
線積分を具体的な定積分として計算する場合にはx、y、zが弧長を変数とした関数で表されている事が必要な場合が多いです。
すなわち、指定された曲線上の経路では特定の点からの弧長によって点が一意に確定するわけですから、具体的に容易に書けるかは別問題として、理論上は座標変数を弧長の1変数関数として表せるはずであるという事です。

$$x=x(l), \hspace{5pt}y=y(l),\hspace{5pt}z=z(l)\hspace{5pt}であれば$$

$$f(x,y,z)=f(x(l),y(l),z(l))となり、$$

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dl=\int_0^Lf(x(l),y(l),z(l))dlとして計算可能になる場合もあります。$$

積分変数が座標変数の場合

積分変数が座標変数x、y、zの場合でも、曲線を経路とする積分を指して「線積分」と呼びます。
この場合には、弧長を変数とする場合やベクトル場に対する接線線積分とは少し考え方が変わります。

まず、積分変数がxの場合を考えてみます。yやzに対しても考え方は同じです。

積分の元々の和としての定義を考えてみると、積分変数をxとするという事は「対象となる関数の値と分割された区間の長さΔxとの積」を合計して極限値をとるはずであり、実際その場合の線積分もそのように定義されるのです。

つまり、曲線上の各点において「曲線の分割された(微小な)経路分のx軸への射影」を考えてスカラー場との積を合計して積分するといった形になります。

$$積分変数がxの場合の線積分の表記:\int_{PQ}f(x,y,z)dx$$

ただし、具体的にxに関する原始関数を探して定積分したい場合には、yとzがxだけの関数で表されている必要があります。

$$具体的な計算をするには、y=y(x),\hspace{5pt}z=z(x)\hspace{5pt}として表されて、$$

$$\int_{PQ}f(x,y(x),z(x))dxの形にする必要があります。$$

◆特定の曲線上の点という条件がある事によって、このようなxだけで表されるy=y(x),z=z(x)のような関数は必ず、存在はします。ただし、そのような関数が簡単な形で書けるかどうかは別の問題になります。特定の曲線上の点を考えるという条件のもとで、x、y、zは独立な変数ではなく、互いに従属の関係にあります。

この時に、曲線の形状によっては単純に1つの積分区間でのxによる定積分としては書けない場合があり、積分をいくつかに分割する必要がある場合があります。

例えば円等の閉曲線では、ある所まではxが増加するように曲線が進んでいき、あるところで逆にxが減少する方向に曲がる事になります。xが減少する方向に積分していく場合には積分の符号も逆向きになりますが、それは通常の1変数の定積分の考え方で符号を考えればよい事になります。

その場合には例えばPQの間にいくつかの適切な点、
例えばAやBを決めて次のように積分を分割します。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PA}f(x,y,z)dx+\int_{AB}f(x,y,z)dx+\int_{BQ}f(x,y,z)dx$$

この時に、例えばP→Aまではxが増加する方向で、A→Bはxが減少する方向、B→Qで再びxが増加する方向であるなら、yとzがxの関数として表されている前提で、各点のx座標を使って線積分は次のようにも書けます。

積分変数をx、y、z等の座標変数とする場合で具体的な定積分をしようとする時には、
積分する向きと符号に気を付ける必要がある場合もあります。

具体例としてPのx座標が0、Aのx座標が3、Bのx座標が1、Qのx座標が5である場合で線積分を書いてみます。

$$\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_0^3f(x,y,z)dx+\int_3^1f(x,y,z)dx+\int_1^5f(x,y,z)dx$$

この例の右辺の2項目の定積分は、通常のxが増える方向へのx=1からx=3までの定積分とは符号が逆向きになっているわけです。

$$\int_3^1f(x)dx=-\int_1^3f(x)dx\hspace{5pt}です。$$

これらの符号の扱いについては、分割された区間の(微小な)長さΔxについて、プラスとマイナスの符号を持っていると解釈して定義しておく方法も存在します。

弧長と座標成分の、余弦を使った積分変数の変換

曲線上で積分する方向(弧長が0から何かの値Lまで伸びる方向)を決めたうえで、
「曲線上の各点の接線ベクトルと座標軸のなす角\(\theta\)」の余弦を考えると、
弧長と座標変数との関係を余弦で結ぶ事ができます。

$$角度を\theta として、例えばdx=ds\cos\theta$$

考えているこの角度\(\theta\)は一般的に当然一定値ではなくて曲線上の位置によって異なりますから、
それを明確にするなら例えば \(\theta (l)\) のように書くことになります。

このような考え方は、
積分変数を「座標成分から弧長に変換する」ような場合に使う事になります。

$$例えば、\int_{PQ}f(x,y,z)dx=\int_{PQ}f(x,y,z)\cos(\theta (l))ds$$

この時に、xで線積分するのであれば、曲線の形状によっては
通常のxが増加する向きでの積分に対して符号を入れ替える必要も出てくるわけですが、
弧長を積分変数とする場合には、
点P→点Qに向かう経路である限り一貫して弧長が増加していく方向で積分が行われます。
そこで、上記の余弦を乗じる事によって符号も一致するように調整されるという事になるわけです。

x、y、zを積分変数とするスカラー場に対する線積分は、ベクトル場に対する接線線積分のように内積を計算する事はありませんが、弧長を変数とする場合のスカラー場の線積分からの変換と考える場合には分割した積分の符号の扱いに関しては内積の符号の扱いと同じ考え方をしています。

接線ベクトルと軸のなす角を使った余弦 cos Θによって、
積分変数としての弧長と座標変数の関係を考える事もできます。
この時の余弦の取り方は、内積の計算に似ています。
この考え方のもとでスカラー場に対する2つの線積分の定義の、積分の符号の考え方の整合性が取れます。

複素数の極形式(極表示)と偏角

複素数の極形式(あるいは「極表示」)の定義と計算方法を説明します。これは三角関数と複素数の密接な関係を表すもので、複素数を平面図形的に扱える根拠ともなっています。

考え方の基本は、複素数の定義と、xy平面上の極座標の考え方を組み合わせるというものになります。それによって、複素数の乗法と除法(掛け算と割り算)には、独特の性質を持つ事が分かるようになります。

BGM:MUSMUS CV:CeVIOさとうささら

複素数の極形式とは?三角関数と複素数の密接な関係

複素数を三角関数で表現したものを複素数の極形式あるいは極表示と呼びます。じつはこれは、複素関数論や物理学等で、複素数を使う場合に本質的に重要になるのです。

複素数を次のように、三角関数を使った形で表したものを複素数の極形式と言います。

複素数の「極形式」

$$z=a+biの「極形式」:z=|z|(\cos \theta + i\sin \theta)$$ $$\cos \theta=\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\hspace{15pt}\sin \theta=\frac{b}{|z|}=\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}$$

$$複素数の絶対値 |z| を r で表して、z=r(\cos \theta + i\sin \theta)の形式でもよく書かれます。$$

式だけ見ると唐突で複雑に見えるかもしれませんが、
じつはこれは図形的に理解してから式の意味を整理すると分かりやすいのです。

複素数の実部を直交座標のxy平面のx座標とみなし、
複素数の虚部(の実数係数部分)をy座標とみなす考え方があります。
そのように考えた仮想的な平面を複素平面と言い、
その時のx軸に相当する軸を「実軸」、y軸に相当する軸を「虚軸」と呼んだりします。
そのように考えると複素数を図形的に捉える事ができるようになり、考察をさらに進めると複素数の極形式の考え方が出てくるのです。

複素平面と実軸・虚軸
複素数の実部をx座標、虚部の係数をy座標にプロットします。このような「複素平面」において、複素数の絶対値は「原点から複素数を表す点までの距離」という図形的意味を持ちます。

複素平面において、まず「絶対値を原点から複素数までの距離」と考えます。すると、通常のxy平面における極座標の考え方を使えば、複素数の実部と虚部を三角関数を使って表せるはず・・・と考察したものが、上記の複素数の極形式の形なのです。

尚、絶対値を平方根で敢えて書いている部分 \(\cos \theta=\Large{\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)は、
図で表している部分を式で書いた表現になります。
単純に、直角三角形の1つの辺を斜辺で割った値として余弦や正弦を考えています。
(a や b はマイナスの値もとるので、角度は三角関数に対する一般角を考えている事になります。)

三角関数とみなしている項の部分\(\Large{\frac{a}{|z|}=\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)と\(\Large{\frac{b}{|z|}=\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}}\)は、
値が必ず -1 以上 +1 以下です。(2乗してみるとすぐに分かります。)
さらに、これらを2乗して互いを加え合わせたものは1に等しくなります。

$$\left(\frac{a}{|z|}\right)^2+\left(\frac{b}{|z|}\right)^2=\left(\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)^2+\left(\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)^2$$

$$=\frac{a^2}{a^2+b^2}+\frac{b^2}{a^2+b^2}=\frac{a^2+b^2}{a^2+b^2}=1$$

これらの事が三角関数の定義と調和しており、
そのために、三角関数としてみなせるという事なのです。

この時に、三角関数として表すからには「対応する角度が必ず存在する」はずですが、
それは実際に考える事ができるのです。しかもその仮想的な角度は、とりあえず数学上の辻褄合わせで考えておくというだけでなく、複素数の計算理論において重要な量なのです。

複素数に対して新たに導入した三角関数の角度部分として、新たに設定した実数 θ を、
その複素数の偏角と言います。複素数 z に対して arg z と表記する事もあります。
(英語では偏角の事を argument と言います。)

このように、複素数を「複素平面」に図示して考える時もあります。
この時、複素数同士の積は「複素平面上の『回転』」を表します。
複素数の極形式は、複素数の指数関数表示とも直接的に関わります。

複素数の乗法と除法、ド・モアブルの定理

複素数を極形式で表した時に成立する重要公式があり、それは
「2つの複素数の積は、『絶対値の積』と『偏角の和』で計算できる」というものです。

複素数の乗法・積に関して成立する公式

$$u=|u|(\cos \theta + i\sin \theta),\hspace{10pt}w=|w|(\cos \phi + i\sin \phi)のとき、$$ $$uw=|u||w|\{\cos (\theta+\phi)+i\sin (\theta+\phi)\}$$

この公式において絶対値が1で u = w の時、すなわち絶対値が1の複素数のベキ乗(「n乗」の事)を考えた場合の式は特にド・モアブルの定理と呼ばれる事が多いです。

$$ド・モアブルの定理:(\cos\theta+i\sin)^n=\cos(n\theta)+i\sin(n\theta)$$

他方で除法(割り算)の場合には、絶対値の部分を割り算し、割るほうの複素数の偏角にマイナス符号をつけて掛け算します。つまり、除法の場合は偏角部分を引き算する計算になるのです。

複素数の除法・商に関して成立する公式

$$u=|u|(\cos \theta + i\sin \theta),\hspace{10pt}w=|w|(\cos \phi + i\sin \phi)のとき、$$ $$\frac{u}{w}=\frac{|u|}{|w|}\{\cos (\theta-\phi)+i\sin (\theta-\phi)\}$$

この除法に関するほうの公式は、乗法の場合において片方の偏角 φ の符号を入れ替えて -φ に置き換えたものとみなす事もできます。
マイナスの角度というのは、
「平面上で通常の角度の向き(反時計回り方向)に対して『逆の方向(時計回り方向)』」に向けての角度と考える事ができますから、複素平面上の図形的な捉え方においても乗法の場合の公式で統一的に捉える事が可能です。

除法のほうの公式を考えてみると、ド・モアブルの定理においてべき乗の指数であるnは自然数だけではなく、マイナスの整数であってもよい事が分かります。
実数の1は「絶対値が1で偏角が0の複素数」と同じものである事に注意します。

$$例えば、(\cos \theta + i\sin \theta)^{-2}=\frac{1}{(\cos \theta + i\sin \theta)^2}=\frac{1}{\cos(2\theta) + i\sin(2\theta)}$$

$$=\cos (0-2\theta)+i\sin (0-2\theta)=\cos (-2\theta)+i\sin (-2\theta)$$

※さらに考察すると、任意の実数 x に対して (cos Θ + i sinΘ)x=cos (xΘ) + i sin(xΘ) です。

公式の証明

複素数の乗法および除法、ド・モアブルの定理の成立根拠は三角関数の加法定理です。

まず、極形式で表した2つの複素数の積をそのまま計算してみましょう。
すると、実部には余弦に関する加法定理、虚部には正弦に関する加法定理の形が現れるので、加法定理によって変形するとそれがそのまま公式の証明になるのです。

$$uw=|u|(\cos \theta + i\sin \theta)|w|(\cos \phi + i\sin \phi)$$

$$=|u||w|\{ \cos \theta \cos \phi – \sin \theta \sin \phi +i(\sin \phi \cos \theta + \sin \theta \cos \phi )\}$$

$$=|u||w|\{\cos (\theta+\phi)+i\sin (\theta+\phi)\}【証明終り】$$

割り算のほうの公式は、偏角に関しては前述の考え方と同じで片方の符号を入れ替えて、
絶対値部分については |w|=1/|w| の場合を考えればよいことになります。

あるいは、分母の複素数の共役複素数を分母と分子に掛けて直接証明してもよく、
偏角が θ である複素数の共役複素数の偏角は -θ になりますから、掛け算のほうの公式を使えばよい事になります。

$$乗法の公式で\phiを-\phiに置き換えてもいいし、次のようにしても結果は同じです。$$

$$\frac{u}{w}=\frac{u\overline{w}}{w\overline{w}}=\frac{|u||w|(\cos \theta + i\sin \theta)(\cos \phi – i\sin \phi)}{|w|^2}=\frac{|u|}{|w|}\{\cos (\theta-\phi)+i\sin (\theta-\phi)\}$$

さらなる考察

この極形式の観点から言うと、虚数単位 i は

$$i = \cos \frac{\pi}{2}+i\sin \frac{\pi}{2}$$

とも書ける事は重要です。
複素数の乗法に関する公式とも合わせて考えると、ある複素数に対して虚数単位 i を掛ける操作は、
「複素平面上では『90°回転』を意味する」という事が分かります。
物理学や一部の工学では、その分だけ「『位相』を進める」といった表現がされる事もあります。

式で書くと次のようになります。

$$i(\cos\theta+i\sin\theta)=\left(\cos \frac{\pi}{2}+i\sin \frac{\pi}{2}\right)(\cos\theta+i\sin\theta)=\cos\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)+i\sin\left(\frac{\pi}{2}+\theta\right)$$

公式の証明の箇所でも触れましたが、
ある複素数の共役複素数は、偏角の符号を入れ替えたものになります。
その事は図形的に見て確認する事もできますが、
虚部の符号を入れ替える事と、cos(-Θ)=cos および sin(-Θ)=-sinΘ の関係から見る事もできます。

$$z=\cos\theta +i\sin\thetaに対して、\overline{z}=\cos\theta -i\sin\theta=\cos(-\theta) +i\sin(-\theta)$$

また、極形式で書いた場合でも「ある複素数と共役複素数の積は、絶対値の2乗になる」という事が確かに成立する事が分かります。ある複素数とその共役複素数は、絶対値は同じである事に注意すると次のような計算になります。

$$z\overline{z}=|z|(\cos\theta+i\sin\theta)\cdot|z|\{\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\}$$

$$=|z|^2\{\cos(\theta-\theta)+i\sin(\theta-\theta)\}=|z|^2(\cos 0+i\sin 0)=|z|^2$$

偏角と回転・反転
虚数単位 i を2乗すると-1になるという計算や、虚部の符号を入れ替えた共役複素数についても、極形式の偏角の観点から複素平面上での図形的に解釈が可能です。

さらに、複素数の極形式を表す別の表記方法として複素数の「指数関数表示」というものがあります。これは「オイラーの式」と呼ばれる事もあります。

$$複素数の指数関数表示:e^{ix}=\cos x +i\sin x$$

e は自然対数の底(ネイピア定数)です。このような複素数が混じった指数関数においても、微積分を含めて通常の指数関数と同様の計算が成立します。複素数の乗法と除法の公式を考えると、指数関数の極形式における乗法や除法の計算と実は調和しています。

例えば指数関数の計算規則に従うと複素数の積は次のようになります。

$$e^{ix}e^{iy}=e^{i(x+y)}$$

これをよく見ると、複素数の極形式における乗法の計算と調和しているのです。

$$(\cos x + i\sin x)(\cos y + i\sin y)=\cos (x+y)+i\sin (x+y) $$

中学数学で特に重要な定理や公式は何か

試験というものを度外視して、中学校を卒業した後も(勉強を続けるなら)必要になるという意味で、中学数学において特に重要な公式等を3つ厳選してみたいと思います。

もちろん、それ以外のものは一切知らなくてもよいという意味ではありません。
ここでは、「特に重要なものを敢えて挙げるとしたら?」という事で挙げてみます。

また、「重要か・重要でないか」という事はどうしても主観的な面があります。「重要な公式」を集めたものは、じつは「数学的な意味での集合」ではない(!)という事が実は言えます。何が重要で何が重要でないかは人によって意味が異なる場合があり、正しいか正しくないかという事を絶対的に決められないからです。ここでは、高校や大学に進学して学習を続けた場合に欠かせないという意味での重要さを考えてみたいと思います。

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中学数学で特に重要な公式等を3つ挙げるとしたら?

①三平方の定理(ピタゴラスの定理)

三平方の定理は直角三角形の辺の長さに対して成立する公式で、内容的にはそれほど複雑ではないので比較的分かりやすい公式かと思います。

$$直角三角形の斜辺cと、残り2辺a,bに対してa^2+b^2=c^2$$

基本的には図形に対して成立する公式であるわけですが、三角関数を考えるうえでの基本となる公式であり、直交座標上の2点間の距離を算出するのにも使う公式でもあります。複素数の極形式やベクトルの大きさの定義にも直結している公式であり、数学だけでなく物理学等でも頻繁に使う式になります。

三平方の定理が直接的に関わる事項
  • 三角比 および 三角関数の定義と公式
  • 直交座標上の2点間距離の算出(平面、空間の両方)
  • 極座標の式
  • 複素数の極形式(→微分方程式の解法として重要な場合あり)
  • ベクトルの大きさの算出(→力ベクトル、速度ベクトルなど、物理学で使用)

また、間接的に関わる事項として「平方根」の考え方も、三平方の定理を使って2点間の距離を算出するうえで特に必要になるものとなります。数学的にも、「無理数」に属する実数のうち初歩的なものとして2や3などの平方根を挙げる事ができます。

直角三角形と三平方の定理は、三角比と三角関数の考え方のおおもとになっています。
直交座標上の2点間の距離は三平方の定理によって算出します。
直交座標上の円の式なども三平方の定理を適用しています、

②因数分解と式の展開

2番目に挙げたいのは、もしかすると最も「役に立たないもの」として挙げられる事も多いかもしれない因数分解と、その逆の操作である式の展開です。

$$因数分解(例):x^2 – x=x(x-1)$$

$$式の展開(例):x(x+1)=x^2+x$$

因数分解とは要するに数や式を積(掛け算)の形に直すというだけのものですが、「実数(および複素数)に掛け算して0になる数は『0しかない』」という性質を使って方程式を解く基本的な方法として使われます。また、一見複雑な式を整理するためにも使いますので、数学の理論でも、物理学や工学の理論で数式を扱う際にも、因数分解と式の展開は計算の手法として必須です。

$$方程式の解法(例):x^3-3x^2+2x=0\Leftrightarrow x(x-2)(x-1)=0 \Leftrightarrow x=0,1,2$$

また、物理学等への数学の応用では微積分が重要ですが、微分および積分の初歩的な理論でも因数分解と式の展開は計算を進めるうえで必ず必要になります。

微積分を学ぶうえでも因数分解と式の展開の考え方は必要になります。

もちろん、因数分解の計算ができる事以上に重要な事として、ここで挙げたいずれの例においても「因数分解の計算」自体は目的ではないのが基本です。数学自体の理論でも、数学を応用する理論でも、基本的に因数分解や式の展開はあくまで計算の手段の1つです。従って、学習の目的を忘れてひたすら「因数分解の計算問題を解く」という事に没頭してしまうと(あるいは没頭させてしまうと)、「役に立たない」という事に繋がってしまうというのは確かに事実でしょう。

③マイナス×マイナス=プラス

3つ目として、因数分解等にも関連しますが、「マイナスとマイナスを掛け算するとプラスになる」という関係式を挙げておきたいと思います。

$$(-1)×(-1)=+1$$

$$計算例:(x-1)(x-2)=x^2-x-2x+2=x^2-3x+2\hspace{10pt}【(-1)×(-2)=+2】$$

この計算は、プラスの値の範囲の計算(例えば個数や金額の計算)ではそれほど重要ではないと言えます。しかし「向き」が関わる計算では重要である場合があり、とりわけ物理学では重要です。

あるベクトルの向きが逆向きである事を表すためにもマイナス符号は使われ、「2回反転させるともとの向きに戻る」といった事も、「マイナスとマイナスを掛け算するとプラスになる」という計算規則と調和するわけです。

また、複素数を構成する虚数単位はi=-1を満たす「数」として定義されますが、(-1)=1という計算のもとで、虚数単位iは1とー1以外の数で「4乗すると1になる数」という見方もできるわけです。この事は、より一般的な形で複素数の掛け算についての規則としてまとめられています(「ド・モアブルの定理」)。

そういった理論の考察をする基礎となる事から、(-1)×(-1)=+1という関係式は一見すると奇怪に思う人も多いかと思いますが、特に重要なものとしてここで挙げておきたいと思います。

直感的な説明の一例:7-3=4という引き算を、敢えて7-(5-2)=4と書いてみましょう。
この時、7から5を引いたら2で、元々の7-3=4から見ると多く「引き過ぎ」です。そこで、引き過ぎている分である2を加える、つまりプラスの値として加算すると正しい計算結果になります。
式と計算規則に対して、このような意味付けをする事は可能です。
この他に、マイナスの符号をプラス符号の「逆向き」として捉える例などもあります。

ベクトル場に対する接線線積分の定義

接線線積分は曲線を積分経路とする積分で、
ベクトル場(座標成分を変数とするベクトル関数)に対して定義されます。

☆接線線積分の事を、ベクトル場に対する「線積分」と呼ぶ事もあります。 これに対して、スカラー場(座標変数を変数とするスカラー関数)に対する「線積分」の定義も別途に存在します。
その場合には積分の仕方および積分の方向に対する定義の仕方が、ベクトルに対する接線線積分とは少し異なります。

「ベクトル場に対する接線線積分」と「スカラー場に対する線積分」のいずれも、積分経路を平面または空間内の曲線とする定積分という事は共通します。また、後述しますように、両者は座標成分による内積計算によって関連し合っています。

☆サイト内リンク:参考・より初歩的な内容

接線線積分の英名は、 curvilinear integral と表記される事が多いです。
(「線積分」は line integral 。ただし英名表記でもこの語が接線線積分を指す事もあります。)

ベクトル場に対する接線線積分は、曲線が開曲線である場合と、閉曲線である場合とで、基本的な考え方は同じですが表記方法や積分方向に関する定義が微妙に異なります。

開曲線(open curve)と閉曲線(closed curve)とで、接線線積分の積分の方向に関して定義が微妙に変わります。基本的・本質的な考え方自体は両者で同じです。

開曲線に対する接線線積分
【定義・考え方・表記方法】

まず、積分経路が閉じていない曲線(開曲線)の場合を考えます。
開曲線とは、図形的には単純に両端がどこにも結び付けられていない曲線の事で、例えば2次関数のグラフのような曲線です。(曲線と言いますが直線も含みます。)

そこで、ベクトル場を\(\overrightarrow{F}\)として、
ある曲線の点Pから点Qまでの接線線積分を考えるとします。
また、各点での接線ベクトル\(d\overrightarrow{l}\)を考えます。
接線ベクトルの大きさは、曲線上の微小な弧状の区間の長さであるとします。
(※各点での接線ベクトル自体は互いに逆向きの2方向がありますが、
PからQに向かう方向を考えます。)

経路における孤状の各区間についてベクトル場と接線ベクトルとの内積を考え、その総和を考えます。経路の分割を増やしていった時の極限値が接線線積分です。

接線線積分の定義と表記法

曲線上の各点でのベクトル場と接線ベクトルの内積とその合計を考え、
経路の分割を増やした極限値を曲線に沿った点PからQまでの
ベクトル場\(\overrightarrow{F}\)の接線線積分と呼びます。 $$曲線上のPからQまでの接線線積分$$ $$\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

あるいは、PやQは点(位置としてのベクトルと考えても同じ)という事をことわったうえで、通常の積分のように積分記号の上下に積分範囲の端点を分けて記す場合もあります。
また、曲線の範囲を指定して名前をつけて(例えばL)、
それを積分経路の範囲として記す事もあります。 $$P,Qを点として\int_P^Q\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書く場合もあります。$$ $$端点をベクトルとした場合:\int_{\overrightarrow{P}}^\overrightarrow{Q}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$ $$L を曲線上の特定の部分として\int_L\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書く場合もあります。$$

接線ベクトルに使う文字自体は何でもよく、
l(エル)ではなくr,s,t等を使う事もあります。

また、接線単位ベクトル(大きさが1の接線ベクトル。\(\overrightarrow{l}\)とします。)と
微小な弧長(\(ds\)とします)を分けて、次のように書く事もあります。 $$接線線積分の別表記:\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{l}ds$$

ここで、各微小区間の弧において考えている内積は通常のベクトルに対して考えるものと同じであり、それぞれのベクトルの大きさと、なす角の余弦との積を考えます。

曲線上に沿ったベクトル場の接線線積分は、微小区間での内積を考えて合計した定積分です。

尚、曲線上の各点を結んだ折れ線が、点の数を無限に増やした時に極限値を持つ事は三角不等式を使って確かめる事ができます。基本的には円周率の値を極限値として図形的に計算するやり方と考え方は同じです。

通常はそのままの形では接線線積分の具体的な値は計算できない事が多いので、余弦の値が確定するようなモデルを考えるか、積分を変形して計算できる形にして考える場合があります。

開曲線に対する接線線積分の基本となる考え方をまとめると次のようになります。

  • 積分経路となる曲線の端点を決める(例えば点Pと点Q)
  • 積分の方向を決める(例えばP→Q,あるいはQ→P)
  • 曲線上の接線ベクトルは、積分の方向を向くと約束する
    【曲線上のある点での接線は、
    ある1つの方向とその逆向きの2方向があり得る → 片方に定める。】
  • 曲線を、微小な区間で構成される折れ線であると考える
  • 各区間で、ベクトル場と「微小区間の長さを大きさとする接線ベクトル」との内積を考え、積分経路全体での合計を接線線積分と定義

後述しますように、接線線積分の内積の部分を座標成分によって計算して、全体としてはスカラー関数の線積分として計算を進める方法もあります。

閉曲線に対する接線線積分

曲線が閉曲線(例えば円や楕円など)の場合にも、基本的な積分の方法は開曲線の場合と同じです。
ただし、積分方向に関する約束が開曲線の場合と異なるのです。

接線線積分の積分経路が閉曲線全体の場合、積分の「方向」が問題になります。

問題となるのは閉曲線に対して1周回転する形で接線線積分を行う場合であり、2通り存在する向きを1通りに確定させるための定義の仕方が存在します。

閉曲線全体が積分区間の場合には、ある点Pから積分を始めて同じ点Pに戻ってくる時に向きが2通りあり得ます。そのため閉曲線上の接線線積分を考える時には、積分の方向を約束して1通りに確定させておく必要があるわけです。

☆なお、閉曲線上であっても積分区間が閉曲線全体ではなく部分的な弧である場合には積分区間を開曲線とみなせばよいので、向きに関する約束は必要なく2点PとQに対してP→QなのかQ→Pなのかを決めておけば良い事になります。

周回積分と組み合わせた表記法

積分区間となる曲線が閉曲線(長方形や多角形も含みます)の全経路である場合、周回積分の記号と組み合わせて次のように接線線積分を書く表記法があります。

閉曲線に対する接線線積分の表記

閉曲線をCとして、1周まわる形でC全体を経路として接線線積分を行う場合は、
次の表記をする事があります。 $$\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}あるいは\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot \overrightarrow{l}ds$$

閉曲線上を積分する向きは、次のように約束します。

  • 平面上の場合:接線線積分の向きは、反時計回りと約束。
  • 空間内の場合:接線線積分の向きは、
    「閉曲線で構成される面の法線ベクトルのプラス方向側(どちらがその方向か決めておく)から閉曲線を見た時に、『閉曲線の内側が左に来る向き』」と約束。

閉曲線を表す記号としてCを使う事が多いですが、これは英名 closed curve 等の頭文字を意味する事が多いと思われます。

周回積分である事を表す記号は省略される事もありますが、その場合でも閉曲線全体の接線線積分を考えているのであれば、積分の方向に関する約束は同様に適用されます。

接線積分の方向の約束①:平面上の閉曲線の場合

平面上だけで周回積分として接線線積分を考える時には、
積分する向きは反時計回りとして約束します。
この場合の「平面上」とは、
例えば、数学上のxy平面を考えて、そこでの閉曲線を考える場合などです。

$$周回積分の記号を省略して\int_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}と書いても向きに関する約束は同じ$$

平面上で閉曲線全体を積分する場合には、積分の向きは反時計回りとして約束し、ベクトル場と接線ベクトルとの内積を考えます。

平面上で閉曲線を考える場合のこの考え方は、図形が描かれている画面を見ている構図で考えると、空間内の場合での約束の仕方を理解する時に便利です。

接線積分の方向の約束②:空間内の閉曲線の場合

空間内での閉曲線を考える場合、閉曲線で構成される面の表側から見るか裏側から見るかによって、時計回りか反時計回りなのかが逆になってしまいます。

そのため、その場合にはまず、閉曲線で構成される面の「表側」(法線面積分において法線ベクトルがプラスになる側の面)を決めておきます。

そして、
「曲面の表側から曲面を見て、曲線上をたどった時に『閉曲線の内側が左側になる』向き」
を、接線線積分の積分方向であると約束します。

その方向を閉曲線Cの「正方向」とも言います。

この考え方のもとで、平面だけで考える場合の閉曲線上の積分方向は、
「図が描かれた画面を面の表側であると考えた場合」であると言う事もできます。

接線線積分の積分方向を考えるうえでの曲面は、閉曲面を考えずに開いた形の曲面を必ず考えます。

「右ねじ」の考え方

上記の、閉曲線に対する接線線積分の積分方向の約束は、より直感的な理解の方法もあります。

それは工具の「ねじまわし(ドライバー)」を使った考え方です。

まず、曲面の表面から出るベクトル(例えば法線ベクトル)の矢印の先を「一般的なねじまわしの先端」と考えます。そして、「『ねじを締める方向』が接線線積分の積分する向き」であると捉えると、これは前述の定義の仕方と一致するのです。

ねじ回しを上に向けて締める場合に上から見ると反時計回りで、
逆にねじ回しを下に向けて締める場合に上から見ると時計回りであり、
空間内の任意の閉曲線に対してこの考え方は適用できます。
これは一種の例えによる表現ですが、物理学で多く使われます。「右ねじの方向」「右ねじをまわす方向」など、いくつか呼び方があります。

一般的なネジは、ネジまわしを時計回りに回す事で締まるように作られています。
その事を、回転の向きを表すものとして比ゆ的ですが数学や物理学でも使用する場合があります。

接線線積分の座標成分による内積計算
【スカラー場に対する線積分との関係】

さて、接線線積分の表記の中における内積で表されている部分については座標成分によって表す事もできます。これは、法線面積分における考え方と似ています。
この時に、ベクトル場の個々の座標成分はスカラー関数ですから、そのように表記した時には接線線積分は、「x,y,zを変数とするスカラー関数に対する線積分」に変化します。

まず、接線ベクトルを座標成分で次のように書きます。

$$d\overrightarrow{l}=(dx,dy,dz)$$

そこで、ベクトル場に対する内積の計算をすると次のようになります。

$$\large{A_1=A_1(x,y,z),\hspace{5pt}A_2=A_2(x,y,z),\hspace{5pt}A_3=A_3(x,y,z)\hspace{5pt}}のもとで$$

$$\overrightarrow{A}=\large{(A_1,A_2,A_3)}\hspace{5pt}である時、$$

$$\large{\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{dl}=A_1dx+A_2dy+A_3dz}$$

さてしかし、じつはこのように表記した時には積分をする時に、
どういった積分変数で積分を行うのかといった問題が起こる事があります。
この段階ではベクトル場の成分はx,y,zに関する多変数関数であるという前提があります。
そのため、それらをそのままの形で、例えばx単独で積分してしまうと問題が発生するのです。

また、この内積の計算は、曲線上の各点における接線ベクトルごとに行っています。
従って、積分変数を単独のx,y,zとしようとする時に、もともとの積分経路が閉曲線である場合や、開曲線であっても例えば曲がりくねって1つのx座標に対して対応するy座標が2つ以上ある場合には、全体の積分経路を個々の積分変数ごとに1つの積分区間で表せないという問題もあります。

この段階では、ベクトル場のx成分、y成分、z成分はそれぞれ、
x,y,zに関する多変数のスカラー関数として考えています。
従って、これらをx,y,zで積分しようとする時には注意が必要になります。

そこで、次のように考えます。
曲線という積分経路が指定されている場合には適切に経路を区切る事によって、その区切られた経路の範囲においては1つの変数の値を定めると1つの曲線上の点が定まる事を利用します。
その区切られた経路ごとにA,A2,Aのそれぞれを、
xのみ、yのみ、zのみの関数として表します。

$$適切に区切った経路ごとに次の形で表現:\large{A_1=A_x(x),\hspace{5pt}A_2=A_y(y),\hspace{5pt}A_3=A_z(z)\hspace{5pt}}$$

※特に空間においての場合は、曲線上の特定の経路間という条件のもとで、スカラー場の関数を1変数のみで表す事ができます。

これによって、経路の区切り方に注意したうえで接線線積分をx,y,zそれぞれの1変数関数の積分の合計として表す事が可能になります。もちろん、具体的な値を1変数の定積分の合計値として計算するには、具体的な関数の形が明らかである事が必要です。

例として、平面上で接線線積分の積分経路が原点を中心とした半径1の円である場合に、内積を計算してから積分する事を考えてみましょう。

この例では、積分経路を区切って分割したうえで、2つの経路のそれぞれについて、
ベクトル場のx成分を「xのみの変数で表した関数」として考えて積分を行っています。
この場合、y成分について同様の事を考える場合には、別の区切り方が必要になります。

この時に、x方向の通常の定積分をしようとすると [-1,1] という1つの積分区間だけでは、元々の全体の積分経路である円周の半分についてしか内積のx成分についての項の合計を表せません。
そこで、xに関する定積分を2つに分けます。
まず点(1,0)から始めて(※)、
「x=1からx=-1に向かう」積分区間について、xを積分変数とする定積分をします。
この区間は、ここで考えている円の上半分に該当します。

※どこの点から積分を行っても、最終的に積分経路の全体に渡って積分を行っているなら同じ結果を得ます。

$$式で書くと\large{\int_1^{-1}A_xdx}を計算します。$$

そして次に、今度は(-1,0)から始めて(1,0)に戻る積分区間 [-1,1] の積分をします。この区間は、ここで考えている円の下半分に該当します。
同じ経路をたどって戻るのではなく、別の経路をたどって戻っています。

$$式で書くと\large{\int_{-1}^1A^{\prime}_xdx}を計算します。$$

ここで、元々の接線線積分の積分対象となっているベクトル場は円の上半分と下半分の経路上で一般的には異なるベクトルになっていますから、
その座標成分も一般的に異なるスカラー関数で構成されているわけです。
そのために、上記の積分の中ではAx とA’ xという形で、異なるスカラー関数である事を強調して書いています。(ここでは後者は微分という意味ではありません。)
xに関して「1→+1」の積分区間と「-1→+1」の積分区間の積分は、xに関して陽に表される関数(y=f(x)の形で表される関数。陽関数とも言います)としては異なるものに対する積分です。

ここでの例では具体的には、
\(\large{A_x}=\sqrt{1-x^2}\)
\(\large{A^{\prime}_x}=-\sqrt{1-x^2}\) として表せます。

y成分についても同じように考えます。

このように、接線線積分を内積計算によって「スカラー場に対する線積分」の計算にする時には、場合によっては積分する範囲等について注意が必要となります。ただしその事は、スカラー場に対する線積分の定義に組み込まれているものになります。

積分する範囲ごとの関数の形の混同を避けるために、スカラー場に対する線積分においても、接線線積分における積分経路をPQのように端点で表す表記方法もあります。

例えば上記の例の円において、(1,0)を点Aとして、(-1,0)を点Bとしたときに、ベクトル場の成分であるスカラー関数は共通のAおよびAyで表して、線積分を次のように書く事もできます。

$$\large{\oint_{C}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_{AB}A_xdx+\int_{BA}A_xdx+\int_{AB}A_ydy+\int_{BA}A_ydy}$$

この場合には、平面上の閉曲線(ここでは円)を反時計回りに回る約束で積分をする時に
A→BとB→Aの経路は異なる曲線(異なる2つの開曲線)と考えられるので、
「同一の1変数関数を同じ積分区間で行って戻って積分して合計は0 ??」・・・といった事には、一般的にはならない事を表現できるわけです。

接線線積分に関する定理とその応用

応用例として、ベクトル場に対する接線線積分は物理学の力学や電磁気学で使われます。特に、数学上成立する定理で応用でも重要なものとして、ストークスの定理と呼ばれる関係式が存在します。

応用例①:積分経路が開曲線の場合…仕事と位置エネルギー

力学における「仕事量」は、接線線積分として定義されます。積分の対象となる関数は力ベクトルです。接線線積分による定義と計算から、別途に運動エネルギー、力学的エネルギーなどの概念が理論的に定義されます。

$$力\overrightarrow{F}によるPからQまでの「仕事量」:W=\int_{PQ}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}$$

(「仕事」\(\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}\) の合計が「仕事量」)

◆補足:Fという記号は、数学では function(関数) の頭文字という意味合いで使う事が多いですが、力学では force(力)の頭文字という意味合いにする事が多いです。

この場合の積分経路は基本的には任意ですが、特に必要がなければ開曲線として考える場合が多いのです。これは、単純に「位置Pから位置Qまで物体が移動したとき」といった場合をモデルとして考えるためです。

力ベクトルの向きと物体の変位ベクトルとの向きは異なる事を踏まえ、内積を考えます。それを(微小な)各区間で考えて合計した接線線積分が仕事量になります。

力のうち、保存力がなす事が可能な「仕事」は、特に位置エネルギーポテンシャルエネルギー)とも呼ばれます。これも「仕事」ですから、数式的には接線線積分を考えるわけです。

静電場(時間変動の無い電場)による位置エネルギーは特に電位とも呼ばれ、これは「仕事」ですから力学におけるものと同じく接線線積分で表されるのです。ただし、位置エネルギーの積分範囲は基本的には「『無限遠』からある点まで」とする事が多いです。

$$静電場\overrightarrow{E}による点Pにおける「電位」:V_P=-\int_{\infty}^P\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}$$

それに対して、無限遠でない特定の2点間PとQの電位の差(QからPまで単位電荷を運ぶのに必要な電場の仕事量)を電位差あるいは電圧と言い、こちらは2点間の接線線積分として書かれます。

$$静電場\overrightarrow{E}による点Pと点Q間の「電圧」:V_{PQ}=\int_P^Q\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}\left(=-\int_Q^P\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{l}\right)$$

この「電圧」という語は、電線や電池、発電機等に対して使われる「電圧」と同じものです。
ただし、接線線積分で表される電圧の式は「電場をもとに計算する場合の式」ですから、別の要素によって電圧を決定できるか、あるいはそのように決定できるように状況を整えた場合には積分計算は不要になります。後述で簡単に触れている電磁誘導の法則はその例です。

応用例②:積分経路が閉曲線の場合…電磁気学、流体力学におけるストークスの定理

閉曲線に対する接線線積分に関する数学上の定理で、物理学・工学への応用上も重要なものとしてはストークスの定理があり、流体力学や電磁気学の理論計算で使われます。

ストークスの定理は、閉曲線に対する接線線積分と法線面積分を結びつける事ができる定理として知られています。ベクトル場の「回転」(記号では rot あるいは curl)を使用し、その回転という名称をつけている由来にも関係します。

ストークスの定理

閉曲線をCとし、Cで囲まれるS(閉曲面では無い)に対して次の関係が必ず成立します。 $$\oint_C \overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{l}=\int_S\mathrm{rot}\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}$$ 左辺は接線線積分、右辺は法線面積分です。 ※空間内の任意の閉曲線Cに対して、
「それぞれのCに対して定まる任意の『閉曲面では無い』曲面S」についてこの式が成立する
という事です。

つまり、閉曲線自身と閉曲線で囲まれる面を考えると、数学上定義される「ベクトル場の『回転』」の法線面積分の値は、面の縁に相当する閉曲線を文字通り「回転」するように接線線積分した値に必ず等しくなる、という事です。

ストークスの定理は、例えばアンペールの法則の積分形(「アンペールの周回積分の法則」とも。電流によって発生する環状の磁場を記述)を微分形に変換できる数学的な根拠となります。
逆に、アンペールの法則の微分形を積分形に変換できる事もストークスの定理により証明できます。

また、同様に電磁誘導の法則の微分形と積分形の変換もストークスの定理によって証明できます。電磁誘導の法則の積分形は、前述の「電圧」を発生させる状況を記述するものになります(※)。

(※)補足:電磁誘導の法則の積分形は電場の仕事量を接線線積分で計算するという形をとりますが、それは「磁場の時間変化によって決定できる」というのが法則の内容です。
従って、工学等で応用する場合には磁場の変化から計算するほうが簡単で電場から計算する必要は無い場合もあるわけです。

ストークスの定理は、もちろん自明に成立しているとは言えません。その証明方法はガウスの発散定理の証明に似ていて、関数をその偏微分の定積分とみなす事で証明を行います。定理の内容はベクトルの成分に関する3式の組み合わせになりますが、それら3式のそれぞれについて個別でも成立するという点でも似ています。

ベクトルとスカラー

矢印で表される「ベクトル」と通常の数(スカラー)との違いについて説明します。

■関連サイト内記事(ベクトルに関する記事)

■物理学へのベクトルの応用
これらの他にも、力学・電磁気学等でベクトルによる考え方は多く使えます。

べクトルの考え方とイメージ

基本的には、ベクトルとは「方向」と「大きさ」の2つの合わせ持つ量として考えられます。通常の正の実数や自然数などは「大きさ」しか持ちません。

◆プラスとマイナスを「互いに逆の方向」とみなせば通常の実数等も「互いに逆向きの2つの方向」を持っているとも言えますが、ベクトルは平面や空間のあらゆる向きの方向を考えます。

イメージとしては、平面上の線分が向きを持っているという感じです。
(空間内の線分でも同じです。平面上のベクトルを特に平面ベクトル、空間内のベクトルを特に空間ベクトルと呼ぶ事もあります。数学的には、より「次元の高い」ベクトルも定義できます。)

平面に点Aと点Bを結ぶ線分があった時、その線分は長さ(大きさ)を持ちます。その線分に対して、「AからBに向かうのか」「BからAに向かうのか」という事も決めたものが「ベクトル」であるというのが基本的なイメージです。

ベクトルは図形的に見れば点と点をつなぐ「矢印」として表されます。
この図では空間ベクトルの色々な表記法・計算などを図示しています。
ベクトルの矢印の始まりの点を「始点」、矢印の先端の点を「終点」と言います。ベクトルは、座標の成分でも表す事ができます。数学的には、座標成分で表す方法のほうが色々な計算で便利です。ただし、物理でベクトルを用いる場合は、図形的な考察も重要となる場合があります。

この考え方は、例えば力学の「速度ベクトル」で使います。

例えば点Aから点Bの間で物体が移動しているという時に、
「AからBに向かっているのか」「BからAに向かっているのか」で、運動の性質は当然異なります。
それを数式としてはベクトルで表現するのです。

◆より詳細に言うと、
ベクトルとは「向きと大きさを持ち、加算、減算、定数倍、内積といった演算が定義できる」ものである事も重要です。それらの演算もまた、物理学等への応用でも使います。

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ベクトルの表記方法

ベクトルの表記方法はいくつかあります。

図形的に矢印で図示する方法、平面上または空間内の点を使って表す方法、原点を基準にした座標で表現する方法、などがあります。

①図形的に矢印で図示する方法
(始点と終点を明記する方法)

ベクトルは図形的に図示して表現する事ができます。この場合には、方向を持つ事を明確にするために、ただの線では無く「矢印」を用いるのが通例です。

この時には、向きが例えば「点Aから点B」の場合には矢印の先(矢の部分)を点Bの部分に書きます。

逆に、「点Bから点A」の向きであれば、
大きさは同じで逆向きのベクトルという意味で矢印の先を点Aに書くわけです。

点Aと点Bのどちらを始点に選ぶかで、異なるベクトルになります。

「点Xから点Y」に向かうベクトルがある時(この時に大きさも確定していますが)、
点Xをベクトルの始点、点Yをベクトルの終点と言う場合があります。

平面上だけでなく、空間内でも考える事ができます。

②平面上または空間内の点を使って表す方法

平面上または空間内において、原点Oから点Aへの向きと大きさを持つベクトルを、$$\overrightarrow{OA}$$と書く表記方法があります。

線分OA の上に「矢印」をつけるわけです。
点Oから点Aに向かう「方向付きの線分」ですよ、という意味合いです。

また、原点を基準とする事が明らかである場合は、次のようにも書きます。 $$\overrightarrow{a}$$
この場合には、点Pや点Qといった点の名称を使うよりは、何か適当な小文字(a, b, p, q, x, y, ・・・)を使う事が比較的多いように思います。

普通は \(\overrightarrow{OA}に対して\overrightarrow{a}、\overrightarrow{OB}に対して\overrightarrow{b}\) のようにアルファベットを対応させますが、これはあくまで分かり易くするためです。
「このベクトルをこの文字で表す」と明示しておけば、対応させなくても間違いではありません。

原点を基準としないベクトルも考える事ができます。
例えば、点Aから点Bに向かうベクトルは\(\overrightarrow{AB}\)と書くことができ、
逆に、点Bから点Aに向かうベクトルは\(\overrightarrow{BA}\)と書くことができます。

◆ベクトルに定数倍(スカラー倍)、加算、減算などの演算を定義すると、$$\overrightarrow{AB} =-\overrightarrow{BA}$$ という関係式が必ず成立します。(※厳密には、演算の定義が無いとマイナスの符号をつけるといった事自体に数学的な意味が発生しない事には注意。)この関係は、次に見る座標によるベクトルの表現を見る事でもイメージしやすくなります。

③座標を使った表記方法

直交座標上の原点(0, 0)を基準とする事を前提に、ベクトルを座標で表す方法があります。

この場合、「原点から特定の点まで」という「大きさ」と「方向」を定めているわけです。

例えば(1, 1)という座標は平面の直交座標において
「斜め右上45°方向の大きさ \(\sqrt{2}\) 」というベクトルを表す事ができるのです。

このようにベクトルを座標で表したとき、通常の座標のようにx成分、y成分といった言葉を使います。「あるベクトルのx成分、y成分はともに1」といった具合です。

原点を始点にするという前提で、ベクトルを座標で表す事ができます。

この方法でベクトルを考えると、(1,1) というベクトルと( -1, -1) というベクトルは、大きさは同じで向きは逆向きである事がわかります。(図示でも、計算でも示せます。)

一般的に(x,y)(-x,-y)という2つのベクトルは
同じ大きさで逆向き」のベクトルです。
【例外は図形的な意味では向きが無いゼロベクトル (0,0)】

「逆向き」である事を、ベクトルにおいてもマイナス符号で表現します。
例えば\(\overrightarrow{A}=(x,y)\) であるなら、\(-\overrightarrow{A}=(-x,-y)\) です。
これは、1つのベクトルに対して
-1というスカラーを乗じたと考えても同じ事です。
【この計算はゼロベクトル (0,0)に対しても統一的に行う事ができます。】

なお、ベクトルの大きさを計算する方法は座標上の2点間距離を計算する方法と同じであり、三平方の定理を使います。

ベクトルを、始点と終点を明記して矢印で表す表記と、原点を基準にして座標で表す表記は、実は原則としては「向き」と「大きさ」を表現する方法としては同一視できるものです。ただし、ベクトルをどういうものとして考えるかの前提が必要にもなります。
■参考サイト内記事:ベクトルの相等:自由ベクトルと束縛ベクトル

④ボールド体表記(主に書籍等で使用)

通常の文字 a, b, x 等に対して、それらを「ボールド体」a, b, x 表記にする事でベクトルを表す場合もあります。

この表記は書籍では多用されますが、慣れてないと通常のスカラー変数なのかベクトルなのか、紛らわしいかもしれません。
ウェブ上だとさらに分かりにくい事があるので、
当サイトでは敢えてベクトルは全て「矢印」の表記にしています。

  • 矢印表記:\(\overrightarrow{a} \)
  • ボールド体表記 a・・これでベクトルを表す (通常の表記 a )
    ボールド体表記は、当サイトではベクトルの表記としては使用しません。

スカラーとは?ベクトルとの違い

ある量がベクトルであるか通常の数であるのか区別が必要な時には、
ベクトルに対して通常の数(実数など)をスカラーと呼びます。
(※言葉としては「ベクトル量」「スカラー量」といった言い方もします。それぞれ、「ベクトル」「スカラー」と同じです。)

また、対象が関数である場合にはベクトル関数スカラー関数と呼んで区別もします。変数、定数といった語にも同様にベクトル・スカラーの名称をつけて呼ぶ事があります。

\(F(x), x, a\)スカラー関数
スカラー変数
スカラー定数
\(\overrightarrow{F}(x),\overrightarrow{x},\overrightarrow{a}\)ベクトル関数
ベクトル変数
ベクトル定数(定ベクトル
ベクトル関数のうち、座標変数x,y,zを変数とするスカラー関数を
「成分として」持つものを特に「ベクトル場」と呼ぶ事もあります。

ベクトル変数については、例えばスカラー関数をf\((\overrightarrow{x})\) のように表す事もあります。これはx,y,zの座標によって関数の値が定まるという意味なので3変数のスカラー関数f(x,y,z)として扱っても同じものを表します。

定ベクトルのうち、(0,0)を表すベクトルは
特にゼロベクトルと呼んで\(\overrightarrow{0}\)と表記する事もあります。
ただしこのサイトでは表記の簡略化のため、
ゼロベクトルはスカラー同様に0として表記をします

ゼロベクトルは、図形上は向きがどこに向いているというわけでもなく、大きさも0であるベクトルという事になります。

ベクトル関数については座標成分で表す表記が分かりやすいかと思われます。
例えば変数xに対するてきとうな(x+1, x2)といったベクトルを考えると、このベクトルはxの値によってただ1つ定まります。そのようなベクトルをベクトル関数と呼ぶわけです。

いずれの場合も、「スカラー」という語を使う時には
「ベクトルではなくスカラー」という意味合いが強いです。
言い換えると、ベクトルを使わない議論をしている時にスカラーという語を敢えて使う事は少ないと言えます。

ベクトルには通常の数つまりスカラーを掛け算する事ができ、それは図形的にはベクトルの大きさだけを変化させる操作です。その事をベクトルの定数倍、あるいはスカラー倍とも言います。

$$ベクトルのスカラー倍:例えば\hspace{5pt}2\overrightarrow{AB},\hspace{5pt}-4\overrightarrow{AB},\hspace{5pt}\sqrt{3}\overrightarrow{AB}$$

関数の場合、「多変数のスカラー関数」と、ベクトル関数の違いに注意。
ベクトル関数にも1変数のもの、多変数のものがあります。
関数と区別する場合、成分が定数で構成されるベクトルを特に「定ベクトル」と呼ぶ事があります。

物理学等への応用も含めて、ベクトルに関して成立する定理、スカラー関数に関して言及している関係式などがあります。演算を組み合わせてベクトルとスカラーの関係が混じる事もあります。そういった時に、問題にしている対象がベクトルなのか「通常の実数等=スカラー」なのかが数学的な議論の際に重要となるのです。

例として、ベクトルに対して「内積」という演算をすると通常の数、つまりスカラーになります。

逆に、微積分も含んだ込み入った例ですが3変数のスカラー関数に対して「勾配」という演算をするとベクトル関数になります。

参考までにそのような「ベクトルなのかスカラーなのか」が特に重要になるものをいくつか整理して列挙すると次のようになります。

数学的・物理的な量表記ベクトルか
スカラーか
定義の対象
内積(スカラー積)\(\overrightarrow{A}\cdot\overrightarrow{B}\)スカラー2つのベクトル
外積(ベクトル積)\(\overrightarrow{A}\times\overrightarrow{B}\)ベクトル2つ以上の
ベクトル
勾配
(グレーディエント)
\(\mathrm{grad}\varphi\)
\(\nabla\varphi\)
ベクトル3変数の
スカラー関数
発散
(ダイバージェンス)
\(\mathrm{div}\overrightarrow{A}\)
\(\nabla\cdot\overrightarrow{A}\)
スカラー1つのベクトル
※収束に対する
発散とは別物です。
回転
(ローテーション)
\(\mathrm{rot}\overrightarrow{A}\)
\(\nabla\times\overrightarrow{A}\)
ベクトル1つのベクトル
∇の記号はナブラと言って、表記法は内積と外積の計算規則に関連付けられています。

ガウスの法則【電場と磁場の数学】

ガウスの発散定理およびガウスの積分と直接的な関わりを持つ物理学での応用例としては、
電磁気学における「ガウスの法則」が存在します。
ここでは特に、
数学と電磁気学との、ベクトル解析・微積分的な関わりの観点からの法則の説明をします。

◆関連:法線面積分の定義

◆ガウスの法則には「電場に関するもの」と「磁場に関するもの」の2つがあり、
数式的には積分の形で書いたもの(積分形)と、微分の形で書いたもの(微分形)の2つの形があります。積分形と微分形は同等の式です。

ベクトルの基本的な考え方も使用します。

ガウスの法則とは?電場と磁場に関する法則

4つの「マクスウェル方程式」のうちの2つを指す
電場に関するガウスの法則 ◆磁場に関するガウスの法則
クーロンの法則の一般形という解釈

マクスウェル方程式
(電場と磁場に関するのガウスの法則・電磁誘導・アンペールの法則)
Eは電場、Bは磁場(「磁束密度」とする考え方も)です。
ρ:電荷密度 j:電流密度 t:時間 
ε:誘電率 μ:透磁率 添え字の0は「真空の」の意味でここでは使っています。
div:ベクトル場の「発散」 rot(curl):ベクトル場の「回転」  ∂:偏微分の記号
∇(ナブラ)記号と内積・外積の記号を組み合わせて div は「∇・」 rot は「∇×」のように書く事もあります。

4つの「マクスウェル方程式」のうちの2つを指す

電磁気学における「ガウスの法則」とは、
電磁気学の基本式である4つの「マクスウェル(Maxwell)方程式」のうち2つを指しており、
静電場(時間変動しない電場)と静磁場(時間変動しない磁場)に関する記述を行う式です。

★ただし時間変動がある場合にも、「ある瞬間について電場や磁場を考察した場合」には、任意の時刻についてガウスの法則が電場と磁場の両方に対して成立します。
他方で、電場や磁場の時間変動そのもの、つまり数式的に言えば電場や磁場の「時間微分」に関しては、マクスウェル方程式の残り2つの式によって考察を行う事になるのです。

4つのマクスウェル方程式

2つのガウスの法則がこの記事内での話です。

ガウスの法則は、微分方程式でも積分方程式でも、どちらの形でも書かれます。(積分方程式とは、積分を含んだ形で書かれる方程式。)
どちらの形でも互いに変形が可能な、数学的に同等な式になります。

微分方程式で書かれた場合を微分形、積分方程式で書かれた場合を積分形とも言います。
数学の「ガウスの積分」との直接的な関わりがすぐに分かるのは積分形です。

電場に関するガウスの法則

電場に関するガウスの法則を式で書くと次のようになります。数学の定理と区別される「法則」なので、変数や定数は何でもよいわけではなく、電気と磁気に関連する量になります。

\(\overrightarrow{E}\) は電場(+1[C]の電荷が他の電荷から受ける電気力。ベクトルです)、
Qは点電荷の電気量、ρは電荷が連続的に分布している場合の電荷密度です。

ガウスの法則(静電場、積分形)

$$点電荷に対して:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{\epsilon_0}}$$ $$電荷密度に対して:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv$$ ※左辺は、法線面積分です。Sは閉曲面、Vは閉曲面内の空間領域です。
※補足:電荷密度を使った式の右辺の積分は、電荷の電気量を合計しているという意味です。
閉曲面Sは、電荷あるいは電荷分布を囲む領域とします。
電荷密度は、空間の各位置によって大きさが定まるスカラー関数として考えています。
電磁気学では \(\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}\) を「電気力束」と呼ぶ事があります。

ガウスの法則(静電場、微分形)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$ ※div はベクトル解析における「発散」です。
ガウスの法則の微分形は、基本的に電荷密度に対する式になります。
電荷が分布しない位置(ρ=0)では電場の発散はゼロ(クーロン電場は直接計算でも同じ)、
つまり物理的には「湧き出しが無い」事を表します。

ナブラ記号を使って書けば電場に関するガウスの法則の微分形は次のようになります。

$$\nabla\cdot\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$

補足:ガウスの法則と数学上の「ガウスの発散定理」の違いについて、電場に関するガウスの法則の積分形は「法線面積分」の形で書かれていますがその事が重要です。ガウスの発散定理によればこれは「電場の発散\(\mathrm{div}\overrightarrow{E}\)」の体積分で表現できますが、点電荷を原点とする時に電場が定義できませんから(あるいはデルタ関数という超関数で定義する必要がある)、点電荷を囲む「任意の閉曲面」を考える事はいくらでもできるけれども、閉曲面内の空間「全体」の体積積分を通常の意味での積分として実行はできないわけです。電場の発散を考える時はガウスの法則は必ず微分形で考える必要があり、積分形の場合は電場の法線面積分を必ず考えないといけないわけです。
電場に関するガウスの法則を積分形で考える場合には法線面積分を「発散による体積積分として書き換えて積分領域を閉曲面S内『全域』とする事はできない」(微分不可能である点を除いた領域であれば可)のです。

◆電場に関するガウスの法則の積分方程式あるいは微分方程式としての「解き方」については、
「具体的な電荷の分布の状況や閉曲面」を設定して、電場ベクトルの向きも最初から決定できるような状況のもとで解くというのが1つの例です。
閉曲面は、球、円柱、立方体など、対称性のある図形や分かりやすい図形で考察する事が多いと言えます。(※球面のような任意の点で滑らかな閉曲面だけでなく、円柱などへの適用も可能です。)

電場に関するガウスの法則(積分形)
電磁気学・静電場に関するガウスの法則(積分形):点電荷あるいは電荷が分布する領域を閉曲面で囲った時、その閉曲面の形状に関わらず法線面積分の値は、じつは閉曲面内部の電気量(の総和)に必ず比例するというものです。
静磁場に関しても似た形のガウスの法則が存在します。

微分形で書いた場合には、マクスウェル方程式全体に言える事ですが、電場の2式と磁場の2式のそれぞれについて、「発散(div)」の式と「回転(rot)」の式に分類する事もできます。【回転は curl とも書きます。】

点電荷で考えた場合、原点に関する整合性はデルタ関数を使って表現する事もあります。電荷が複数ある時は単独の点電荷の重ね合わせ(積分音結果の単純なスカラー和)を考えて、連続文武の時は電荷密度による積分で電気量を合わせます。

磁場に関するガウスの法則

静磁場の場合にも、電場の場合と似た形の式が成立し、
それも同じくガウスの法則と呼ばれる事が多いです。

ただし、磁場に場合には電場の場合と異なって、「単独の『磁荷』」(「磁気単極子」)が存在しない(磁石で言うと、N極やS極が必ずセットになっていて単独で取り出せない)という事自体が1つの基本法則であると考えられています。

その事に由来して、
「電場の場合の式の右辺に相当する部分がゼロになっている形」が、磁場の場合のガウスの法則になります。

ガウスの法則(静磁場、積分形)

$$\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$ \(\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}\) は「磁束」と呼ばれる事があります。
\(\overrightarrow{B}\) は「磁束密度」と呼ばれる事があり、そこから別途に「磁場」\(\overrightarrow{H}\) を定義する事もありますが、\(\overrightarrow{B}\) を「磁場」と呼んでしまう事もあります。細かく言うと、それらの違いは「場」を力によって定義するかどうかという事によって生じます。

ガウスの法則(静磁場、微分形)

$$\mathrm{div}\overrightarrow{B}=0$$ 電場の時と同様に、ナブラを使って書くなら次のようになります。 $$\nabla\cdot\overrightarrow{B}=0$$

静磁場は一定の量の電流の周りに対し、同心円(一定の半径の円)の周上に一定の大きさで発生します(向きは各場所で異なりますが)。
静磁場が同じ大きさで、磁力線がループを作る形で必ず閉じているわけで、この事から「磁場の発散 div\(B\) は必ずゼロになる」つまりガウスの法則の微分形が成立する」という事が実は言えます。
(ベクトル場の「発散」は、ベクトル場の各成分の成分座標による偏微分の合計で、図形的にはある点に流入・流出する何かの量を表します。そのため電磁気学だけではなく流体力学の理論などでも使われるものです。)

具体的な数式変形は後述しますが、数学的には、ガウスの法則の積分形の式を数学上の「ガウスの発散定理」を使って変形する事でガウスの法則の微分形が得られるという関係があります。

クーロンの法則の一般形という解釈

静電場を表す式としてはいわゆるクーロンの法則というものもあり、それは静電気による力と電気量との定量的な関係を表す式です。
ここで「静電気」とは、冬場などでパチパチとしたり、紙片やビニールがくっついたりしてしまう、あの静電気の事です。

ガウスの法則は、クーロンの法則を一般化した形であるという解釈も成立します。
その事を数式的に説明するには数学公式である「ガウスの積分」を使います。

ガウスの法則の1段階前の式とも言えるクーロンの法則の比例定数kは、
一見すると奇怪な形で書かれる事があります。
それは、比例定数が分母に円周率を伴った形で書かれるというものです。

$$k=\large{\frac{1}{4\pi\epsilon_0}}\hspace{10pt}\left(≒8.988×10^9\right)$$

ここでさらに\(\epsilon\)0 という比例定数が登場していますが、
これは電磁気に関する別の現象を表す時にも使う「真空の誘電率」です。

$$\large{\epsilon_0=8.8543×10^{-12}≒ \frac{1}{36\pi}×10^{-9}}$$

さてここで、なぜ円周率が出てくるのか?という話ですが、
これは数学公式のガウスの積分との直接的な関係があるのです。
数式によって後述しますが、実はガウスの法則をクーロンの法則から導出する方法を見る事で理由が分かるのです。

また、ガウスの積分は図形の「球」との直接的な関係がありますから、
上記の「円周率」は、最終的には図形の球に由来するものであるとも言えます。

クーロンの法則

r[m]離れた2つの物体があり、q[C]、q[C]の電気量を持っているという。この時に2つの物体間に働く力の大きさは、実験によれば次のようになります。 $$力の大きさ:F=\large{\frac{kq_1q_2}{r^2}}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}}$$ $$ベクトルの場合:\overrightarrow{F}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}}\cdot\frac{\overrightarrow{r}}{r}=\large{\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^3}}\overrightarrow{r}$$

クーロンの法則の比例定数をなぜか「円周率」を使って表す事があります。
その意味は、ガウスの積分を使ってクーロンの法則からガウスの法則を数学的に導出して考察してみると分かりやすいものになります。4という数字に関しては球の表面積の公式が間接的に関わっています。

導出:微分形と積分形の数式変換

電場の場合 ■ 磁場の場合

ガウスの法則の積分形と微分形の式は、数学的にはガウスの発散定理によって変換できます。

ガウスの発散定理

任意のベクトル場\(F\)について【※これは電場でなくともよく、数学的な任意の連続的なベクトル場に関して成立します。】 $$\int_S\overrightarrow{F}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{F}dv$$ ◆この定理で言う空間領域Vは「閉曲面内の空間領域」です。ただし、微分不可能である点が含まれている場合にはそこを除外して考える必要があるので注意。

これを使用して、積分形から微分形、および微分形から積分形への変換を数式で行う事ができます。

ガウスの法則の積分形と微分形
数学的には、ガウスの発散定理によってガウスの法則の積分形と微分形の変形を行う事ができます。
法則として、より物理的な解釈も可網です。※点電荷に対して電荷分布がない位置で電場の発散を計算すると必ず0ですが、ガウスの法則の微分形でも「電荷密度が0の場所では電場の発散は0」であるという結果ですから一致しています。

電場の場合

ガウスの法則の積分形の左辺は、発散定理の左辺の形をしています。ここで、電荷密度を考えた場合の式を見ると、領域内を体積分した形が右辺にあります。
(※補足:細かい事を言うと、ここで領域Vは個々の点電荷の周囲の微小領域を除いたものを考えます。電荷密度の積分は閉曲面内の「電荷の電気量の合計」の意味ですが現に点電荷が存在した時にまさにその位置では計算上微分不可能な点であるためです。)

$$電荷密度に対するガウスの法則:\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv$$

$$ガウスの発散定理により\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv$$

左辺が同一ですから、右辺同士を等号で結びます。

$$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv=\large{\frac{1}{\epsilon_0}}\int_V\rho dv=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dv$$

$$\Leftrightarrow \int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}dv=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dv$$

計算の結果を見ると
「2つの関数について、領域Vで体積分すると同じ値」という式になっています。

ここで、「定積分した値が同じ」であるからといって、積分対象になっている関数が同一のものとは限らない事に注意は必要です。簡単な例を挙げると、y=xと、y=-x+1は、xについて0から1まで積分すれば同じ1/2という値ですが、当然積分の中身の関数は別物ですね。

しかしここでの場合は、積分する領域Vが、特定のVではなくて空間上の「任意の領域」です。
1変数関数の積分で言うと「任意の積分区間で」という事になります。
グラフを考えてみると分かりやすいかと思いますが、2つの異なる関数についてある積分区間で偶然定積分の値が等しくなったとしても、区間を変えればすぐに値は変わってしまいます。あらゆる区間で例外なく積分値が同じになるには、そもそも同一の関数でなければならないのです。
その理由により、上記の体積分の関係式についても積分する対象が等しくなければならないのです。

整理しますと次のようになります。

$$\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{E}=\int_V \large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}dvであり、「積分領域Vは任意であるから」\mathrm{div}\overrightarrow{E}=\large{\frac{\rho}{\epsilon_0}}$$

と言える事になります。
これは電場に関するガウスの法則の微分形に他なりません。【導出終わり】

逆に微分形から積分形を導出するには、微分形の両辺を領域Vで体積分し、
ガウスの発散定理によって法線面積分と結びつければよい事になります。

ガウスの法則の積分形から微分形を数式的に導出する時の、最後の段階の箇所。
任意の領域Vで成立している事が結論を数学的に導出できる根拠になります。

微分形と積分形の変換の方法は他にも幾つかあります。例えば、より物理学的な手法の1つとして、辺の長さが dx, dy, dz の微小な直方体を考えてガウスの法則の積分形を適用する方法があります。
この方法では dv=dxdydz として、その直方体内では電荷密度ρは「ほぼ一定」と考えます。
直方体の面は座標軸に平行であるとし、原点に一番近い頂点を基準として、面における電場ベクトルと法線ベクトル(大きさは微小面積)との内積を成分で考えます。
直方体の向き合う2つの面について、
法線ベクトルの向きは互いに逆向き(領域の外側を向く)事にも注意すると
例えばx軸に垂直な面の面積としてds=dydzを考えると、次のようになります。$$\large{\left(E_x+\frac{\partial E_x}{\partial x}dx\right)dydz-E_xdydz=E_xdxdydz=E_xdv}$$【Exは原点に最も近い頂点での電場ベクトルのx成分。この考え方では、微分および偏微分は「関数の近似一次式の傾き」という解釈を使っています。】
電場ベクトルと面の法線ベクトルとの内積計算を成分で具体的にすると、
例えば $$\large{(E_x, E_y, E_z)\cdot (-dydz, 0, 0 )=-E_x dydz}$$
残り4面(2組)についても同様の式を立て、合計します。
そして「ほぼ一定」とみなしたρを使って体積分の値は ρdvであると考えて、電場に関するガウスの法則の積分形に適用すると微分形が得られる――という考え方もあったりします。

ガウスの法則の微分形を、より物理学的な考察で導出する方法の1つ。微分係数および偏微分係数は関数の近似一次式の比例定数とみなせるとの解釈を使用します。
直方体の互いに向き合う面において法線面積分で使用する法線ベクトル(外側を向く)を内積の具体的な成分計算で使う時には符号がプラスマイナスで互いに逆になります。【例えば単位法線ベクトルなら(1,0,0)と(-1, 0, 0)、法線ベクトルの大きさを面積元素とすれば(dydz, 0, 0)と(-dydz, 0 ,0)】
直方体は微小であり、1つの面での電場ベクトルは1つに代表させています。

磁場の場合

磁場の場合もやり方は同じです。

$$ガウスの発散定理により\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{B}$$

$$\int_S\overrightarrow{B}\cdot d\overrightarrow{s}=0 より、\int_V \mathrm{div}\overrightarrow{B}=0$$

この場合も、「任意の積分領域Vに対して」積分するとゼロという式なので、
積分する前からの話として div\(\overrightarrow{B}\)=0 でなければそれは起こり得ない事になります。
(※磁場が恒等的にゼロなのではなくて、「静磁場としてあり得る任意の形に対して、ベクトル場の発散を考えると必ずゼロになる」という意味です。)

ガウスの法則をクーロンの法則から導出する(電場の場合)

ガウスの積分と発散定理からの導出 
逆にガウスの法則からクーロンの法則は導出可能?の問題 
磁場の場合にもガウスの法則を導出可能?の問題

ガウスの積分と発散定理からの導出

電場とは「+1[C]の電荷が他の電荷から受ける力」と定義して定めた量ですので、クーロンの法則で片方の電荷の電気量を1としたものとして式で表せます。

$$電場の大きさ:E=\large{\frac{kQ}{r^2}}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^2}}$$

$$ベクトルの場合:\overrightarrow{E}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^2}}\cdot\frac{\overrightarrow{r}}{r}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r^3}}\overrightarrow{r}$$

さてこれを見ると、「距離の逆2乗に比例するベクトル場」ですから、
法線面積分を考えれば「ガウスの積分」の公式を使用できます。

ここでの場合、電荷を囲む閉曲面を考えますから、公式で言うと「原点が閉曲面の内側にある場合」です。この時にガウスの積分の値は、極限値として\(4\pi\) になります。

ところで、上記の電場ベクトルでは、Q/(\(4\pi \epsilon\)0) という部分は比例定数です。そこで、残りの部分がガウスの積分におけるベクトル場と同じ形という事になります。

という事は、上記の電場ベクトルを電荷を囲む閉曲面で法線面積分すると、次の計算結果になります。

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}}\cdot d\overrightarrow{s}=\large{\frac{Q}{4\pi\epsilon_0}}\cdot 4\pi=\large{\frac{Q}{\epsilon_0}}$$

つまり、電場に関するガウスの法則の積分形になります。【導出終わり】

尚、閉曲面の外に電荷があるような場合を考えたとして、同じように法線面積分を考えたとすると、ガウスの積分の公式により、法線面積分の値は0になります。
ただしその場合にはむしろ、物理的には「閉曲面内に電荷は存在しない」という解釈になるでしょう。

★ガウスの積分の公式においては「基準とする原点で関数を定義できない」という事で極限値を考えるわけですが、これはどちらかというと数学的な捉え方であり、
物理学では敢えてそのようには考えずに「デルタ関数」という特殊な関数を使う事で、
原点における電場の扱いの理論的整合性をとるという考え方をする場合もあります。

★「立体角」を使って電場に関するガウスの法則を説明・導出する方法もあります。ただし立体角の数学的な定義は、ガウスの発散定理の成立を前提にしています。その点には注意が必要です。

ガウスの積分の値を計算する公式の証明では、ベクトル場の発散の具体的な計算と、球の表面積の公式を使用します。

逆にガウスの法則からクーロンの法則は理論的に導出可能?の問題

上記の説明は電場に関して「クーロンの法則が成立→ガウスの法則が成立」という事が数学的には導出可能である事を述べたものですが、
物理学的にも数学的にも、もう少しだけ詳しく言うとクーロンの法則は理論的には、
①電場に関するガウスの法則
②静電場の渦無しの法則(電場の「回転」が0、数式だと rot\(\overrightarrow{E}\)=0)
③無限遠でベクトル場の大きさが距離の逆2乗の程度の収束の速さで0に近づく
という3条件が全て成立している事と等価である式になります。

つまり、逆に「ガウスの法則が成立するならクーロンの法則も直ちに成立すると理論的に言えるか?」という問題に関しては、「渦無しの法則と、無限遠での条件を課せばそうである」という事になります。

※静電場に関する渦無しの法則の形は、磁場の時間変動がある場合には電場の回転はゼロ以外の値になるという式に変わります。それは発電機で電気を発生させる原理である電磁誘導の法則であり、マクスウェル方程式の1つになります。$$磁場の時間変動がある場合(電磁誘導):\mathrm{rot}\overrightarrow{E}=-\frac{\partial \overrightarrow{B}}{\partial t}$$この式で静磁場の場合(時間による偏微分がゼロ)であれば、静電場の渦無しの法則と同じ式です。

磁場の場合にもガウスの法則を導出可能?の問題

では磁場の場合はどうでしょうか。
実は磁場に関しても、その大きさが距離の逆2乗に比例するという実験結果があります(それもクーロンの法則とも呼ばれます)。

しかし磁場の場合には実は話が少し変わってきて、
静電場におけるクーロンの法則に対応するものは、ビオ・サバールの法則と言って外積(クロス積)を使って表された形をしており、接線線積分で書かれます(あるいは微小部分に対する形式でも書かれます)。
これは磁石ではなく電流により発生する磁場を記述したものです。(別途にアンペールの法則というものもあります。)
磁場に関するガウスの法則の積分形は、「ビオ・サバールの法則から導出できる」というのが磁場の場合の一般的な理論になっています。

上記でも少し触れましたが、電流により発生する磁場は軸対称(ここで言う軸とは電流の向きを表す直線)で同心円上にて等しい値になる事から、磁場の発散 div\(\overrightarrow{B}\) がゼロになる事、つまり磁場に関するガウスの法則の微分形のほうを先に述べるという事もあります。
磁場の大きさが電流の向きに対して軸対称になる事を使うのは、ビオ・サバールの法則を基本に考える場合も実は同じです。

磁石による磁場を考える場合には、単独の電荷に相当する「磁荷」を実験的に見出せず、
N極とS極の対(「磁気双極子」)が必ず現れるというのが基本認識になっています。
ところで、その磁気双極子が板状の磁石に一様に分布していると仮定すると、
実は「磁石が作る磁場も(微小な)環状電流が作る磁場と同じ形になる」という事を理論的に示せるのです。そこで、磁石が作る磁場に関しても同様に、
磁場に関するガウスの法則が成立する、という理論的な流れがあります。

磁石に関しては、物質の磁性の観点から理論的に話を突き詰めようとすると実は話が結構面倒で、電磁気学だけでなく量子力学の理論もどうしても必要になるというのが物理学の理論の現在の見解になっています。

ガウスの法則が成立する由来に関する、数式的な考察。
理論的には、電場の場合と磁場の場合とでは少しだけ話が違ってくると考えられています。
磁場のほうに関して、この図で、i:電流 l(エル):電線の長さ ×:外積(ベクトル積)の記号
静磁場を囲む閉曲面での法線面積分がゼロになるのは「磁気単極子は単独で存在せず、必ず磁気双極子の形で現れる」という事を表すとも解釈できます。

真空の誘電率に関わる円周率とガウスの法則との関係

さて、最後にクーロンの法則の比例定数を円周率を含んだ形で表す事がある事について、ガウスの法則との関連からの理由を考察してみましょう。

前述の「クーロンの法則からガウスの法則を導出する方法」を見ると、
途中で使っている「ガウスの積分」の公式には球の表面積由来の円周率が含まれていますが、
結果のガウスの法則の式には円周率は含まれていません。

これはもちろん、クーロンの法則のほうの比例定数を「円周率の逆数と別の比例定数の積」の形で表していたので、式の中で円周率が分子と分母で約分されて「1になって消えた」ためです。

逆に、もしクーロンの法則の比例定数を一括でkで表した場合には、ガウスの法則には見かけ上、円周率がくっついて来るわけです。(もちろん、定数の数値的な値自体はどちらの場合でも同じです。)

◆比例定数に円周率を含まなかった場合のガウスの法則の形

$$\int_S\overrightarrow{E}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_S\large{\frac{kQ\overrightarrow{r}}{r^3}}\cdot d\overrightarrow{s}=kQ\cdot 4\pi=4\pi kQ$$ 尚、この結果の状態でk=1/(4\(\pi\epsilon_0\)) を代入しても、もちろん一般的なガウスの法則の形になります。

つまり、敢えて「円周率を含んだ比例定数」を考える事により、クーロンの法則からガウスの法則を導出した時に、逆に「円周率を定数として含まない形で記述できる」という、ちょっとした数式上のカラクリがあるわけです。
図形的な球や球面に由来して、円周率が隠れた形で物理学の理論に関わってくる例の1つになります。

ガウスの積分【閉曲面に対する立体角の積分表示】

位置ベクトル\(\overrightarrow{r}\)=(x,y,z)をベクトルの大きさrで割る事により
単位ベクトル(大きさが1のベクトルを言います)にすると\(\overrightarrow{r}\)/rというベクトルとして書けます。

ベクトル\(\overrightarrow{r}\)/rをさらにrで割ったベクトルを考えると
\(\overrightarrow{r}\)/(r)というベクトルになり、
このベクトルに対する閉曲面上の法線面積分の事をガウスの積分と呼ぶ事があります。
この積分は、閉曲面の形状によらずに閉曲面に対する原点の位置によって3種類の値だけをとります。
また、ガウスの積分は閉曲面に対する立体角の積分表示ともなっています。

ガウスの積分の被積分関数に入っている「距離の3乗」は、見かけ上のものであり、本質的には「距離の2乗」に大きさが反比例するベクトルである事が重要となっています。ただし、具体的な計算では「3乗」の部分が結果に影響してくる部分はあります。

■関連サイト内記事:

立体角の積分表示および球面との関係

立体角は平面角に対応する語で3次元空間的な広がりを表す量で、球の表面積を使って定義されますがその積分の形がガウスの積分と同じものになります。(ただし、ガウスの積分は閉曲面に対する積分を指し、立体角の積分表示は同じ被積分関数に対して開曲面にでも定義されます。)

ではガウスの積分も球の表面積に関連するものなのかというと実際そうであり、
後述するようにガウスの積分が取り得る値は0,2π,4πだけとなっています。
つまり積分の結果は円周率の定数倍の値だけをとるという結果です。
これらの結果は偶然にもそうなるというだけでなく、
円や球に由来して2πや4πといった数値が結果として導出されます。

その結果は物理的な考察にも使用される事があります。
ガウスの積分の被積分関数は\(\overrightarrow{r}\)/(r)ですが、これは大きさが「rに半比例する」ベクトルであり、向きは原点からある点までの向きそのものとなっています。そのようなベクトルは物理的な力や場を表すものとして存在し、具体的には静電気力や万有引力、一部の磁気力などが挙げられます。代表的なものは電場に関するガウスの法則であると言えます。

そして物理での考察で使用する時にも「球面」は重要な要素となります。

立体角とガウスの積分の関係。当サイト記事「立体角の定義と使われ方」より

ガウスの積分の内容

ガウスの積分とは具体的には次のようなものです。

ガウスの積分

\(\overrightarrow{r}=(x,y,z)\)および
\(r=|\overrightarrow{r}|=\sqrt{x^2+y^2+z^2}\) のもとで、
閉曲面Sに対する次の法線面積分をガウスの積分と呼びます。 $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

この時に閉曲面Sは任意の形状ですが、
どのような閉曲面に対してでも、ガウスの積分が取り得る値は3つしかない
事が知られています。

(公式)ガウスの積分の3種類の値

原点と閉曲面の位置関係によって結果が分かれます。

  1. 原点が閉曲面Sの「外側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0$$
  2. 原点が閉曲面Sの「曲面上」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$
  3. 原点が閉曲面Sの「内側」にある場合: $$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

2番目(閉曲面上)の式は極限値として考える必要があり、
3番目の式もそのように考える事もできます。

物理学では値が無限大になってしまう点を特別扱いできるデルタ関数を使ってガウスの積分により表現される内容を表す事もあります。
あるいはガウスの積分は閉曲面に対しての立体角と同一視できるので立体角の文脈で話を進める事もあります。

ガウスの積分の計算および証明

次の3つの場合分けがあります。

この証明にはガウスの発散定理の結果と、ベクトル場に関する発散(div)の計算を使います。

ここで言う「発散」とは極限における「収束と無限大への発散」の意味ではなく、物理的には「湧き出し」の意味を持ち数式的には偏微分で定義されるスカラー量を作る演算およびその結果を指します。

①原点が閉曲面の「外側」にある場合

対象のベクトル場の発散 \(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)を直接計算すると、
実は必ず0になるという結果が得られます。

$$公式:\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{ r^3}\right)=0$$

この式は、より一般的な公式である\(\mathrm{div}\left(r^n\overrightarrow{r}\right)=(n+3)r^n\) の結果でもあります。
すなわち、n=3の時は結果が0となるわけで、div\(\overrightarrow{r}\)/(r)を表しています。

次に、ガウスの発散定理によればベクトル場の法線面積分は
ベクトル場の発散を被積分関数とした体積積分」によって表せます。
ここで\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}\)の体積積分を考えるとすれば
被積分関数が定数関数でしかも値は0」なので、考えている領域での積分の結果も0です。

ただし、\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できない関数である事に注意する必要もあります。

しかしまずは「原点が閉曲面の外側にある場合」を考えているので、
この場合には閉曲面の領域に定義できない点は含まれません。

そのため、発散定理により次のように書けます。

$$\int_S\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_V\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv【∵ガウスの発散定理】$$

$$=\int_V\hspace{3pt}0\hspace{3pt}dv=0$$

参考:公式の導出計算

②原点が閉曲面の「曲面上」にある場合

原点が閉曲面上にある場合でも、
ベクトル場の発散 div \(\overrightarrow{r}\)/(r)を計算すると0になるという事は同じです。

しかし\(\overrightarrow{r}\)/(r)は原点で定義できず、かつ原点が考えている閉曲面上にある場合には
積分したい領域内で被積分関数が定義できない点を含む
という事を意味します。

従って法線面積分を考える閉曲面Sについて、通常の閉曲面とは違うものを考える必要があります。

具体的には、閉曲面から原点を除いたものを領域として考える必要があります。
ただし、1点だけを除くという考え方だと積分の計算がうまくいかないので、もとの閉曲面から原点付近のわずかな領域を除いた部分を改めて閉曲面Sとします。
さらにこの場合では、原点を含む「面だけ除く」事もできないので
体積を持った領域ごと除く事になります。

そして、除く領域の形状は「半球」とする必要があります。これには理由が2つあります。

取り除く領域を「球状」にする理由
  1. 球面であれば曲面に対する法線とベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の方向が平行になるので、法線面積分を直接計算できる利点があります。
  2. 発散定理により領域内でベクトル場の発散が0であれば「1つの閉曲面を構成する2つの開曲面の法線面積分はそれぞれ等しい事」が示されます。そのため、一番計算しやすい領域で計算すれば十分という事になるので球面を考えます。

上手にきれいな半球を繰り抜けるかどうかは、閉曲面を多面体に近似することで可能になります。法線面積分が成立するの十分細かい分割の多面体で考えた時に、平面状の微小領域よりも半径が小さい球を考えればそこで半球状にくり抜く事ができます。

原点を中心とする微小な半径ρの半球Sを考えて、Sは外縁となっている円周部分(球を2つに割った所の部分)を閉曲面Sと共有するとします。
また、閉曲面S上から半球Sで囲まれる領域を除いた部分をSとします。この時に曲面Sは開曲面であり、閉曲面Sに「穴」が開いて形状をしています。

ここで半球Sと開曲面Sを合わせた領域は「原点が外部にある閉曲面」となっています。(もとの閉曲面Sと同一ではありません。)そこで半球Sと開曲面Sを合わせた閉曲面をS∪ Sとおきます。【「∪」は和集合の記号です。】
この時に、原点を除いて\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)であり、S∪ Sは原点を含まない事から発散定理を適用すると法線面積分の値は0です。S∪ Sの内部の領域をVとして、次の計算ができます。

$$\int_{S1\hspace{1pt}U\hspace{1pt}S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{V1}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

つまり半球Sの法線面積分と開曲面Sの法線面積分の値は一致します。
そして結論から言うと半球S0のほうの積分の値は具体的に計算できます。

半球Sは原点を中心とした半径ρの半球なので、
S上でベクトル場\(\overrightarrow{r}\)/(r)の大きさはどこの点でも等しく1/(ρ)です。
方向については各点で球面に垂直で外側向きなので法線との内積は1となり、
法線面積分は定数関数に対する面積分となります。

この時には面積要素を分割して合計して定数倍を考える事になりますが、面積要素を十分細かい分割のもとで合計した極限値は「表面積」に他ならないので面積分は表面積の計算を意味します。

すると考えている領域が半球なので、その表面積は\(2\pi\rho^2\)です。
これによって法線面積分の結果を出せる事になります。

$$\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\frac{1}{\rho^2}\int_{S0}ds=\frac{1}{\rho^2}\cdot 2\pi\rho^2=2\pi$$

結果を見ると「半径ρ」が消えているので、
実は半径の大きさに関わらず積分の値は一定であるという事になります。

そのため、穴の開いた開曲面Sの法線面積分は
半球S0の法線面積分に等しいという事だったので次のように表せます。

$$\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

半球Sの法線面積分の値は半径ρによらず同じなので、
上式はρ→0の極限でも成立して次のように書けます。

の法線面線積分の符号を変えているのは
「原点を中心に半球を単独で考察した時」と閉曲面Sを構成する時とで
考えた時の「外側への向き」が逆になるためです。
結果的に引き算する形となります。

$$\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

他方でもとの閉曲面Sに対する法線面積分を
穴が開いた曲面Sの法線面積分に対して半球Sの半径が0になる極限値で表すもの
とすると次のようになります。

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\lim_{\rho\to 0}\int_{S1}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=2\pi$$

よって、原点が閉曲面上にある場合のガウス積分値は2πであるという事が言えます。

考えてきた閉曲面を整理すると次のようになります。

曲面原点との位置関係積分計算での意味
S閉曲面
原点が閉曲面上にある
被蹟分関数が定義できない点を含むので
積分はそこを除外して極限値として計算
S開曲面で、原点を内部に含む。
(中心が原点で半径ρ)
法線面積分の値は2πで、
半径ρに関わらず同一の値
S開曲面で穴が開いているSからSの内部を除いた領域
Sの法線面積分はSの半径ρ→0の極限で
Sの法線面積分になると考える

③原点が閉曲面の「内側」にある場合

閉曲面の内部に原点がある場合にも、閉曲面上に原点がある場合と同じ問題が発生します。ただしこの場合は閉曲面内部で体積積分を行う時に除いて考えるべき点が生じる事になります。

閉曲面Sの内部から「原点を囲む微小な球をくり抜いて除いた」領域を考えます。

ガウスの積分において原点で領域を定義できないので、
原点を含む領域を球状に除いて、球の半径を0に近づけた時の極限値として
ガウスの積分の値を計算します。

原点が閉曲面上にある時と類似の計算により、
閉曲面の内部から除いた球面上での法線面積分は球の半径ρにかかわらず一定値になります。
球の表面積4πρをρで割る計算となり、結果は\(4\pi\)です。

より具体的には閉曲面Sと、その内部で原点を中心とする小さい半径ρの球S0を考えてSとSを接続するてきとうな曲面を考えます。(その曲面上では法線面積分は表と裏の両方で計算する事になり、プラスとマイナスの値が打ち消して0になります。)そのようにしてできる全体の閉曲面をSUとします。

この閉曲面SUは原点を含まない閉曲面であり、
内部の領域VUにおける任意の点で\(\mathrm{div}\frac{\Large \overrightarrow{r}}{\Large r^3}=0\)なので発散定理により法線面積分の値は0です。

よって表と裏の関係による符号に注意して、
閉曲面Sと球S0の法線面積分の値は同じです。この場合は球Sの半径ρ→0の極限を考えなくても結果の式が出ますが極限を考えても値は同じになります。(内部の領域まで元の領域に近付けるなら極限を考える必要があります。)

$$\int_{SU}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{VU}\mathrm{div}\left(\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\right)dv=0により、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}-\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=0\Leftrightarrow\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}$$

$$(任意の\rho で)\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi なので、$$

$$\int_{S}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=\int_{S0}\frac{\overrightarrow{r}}{r^3}\cdot d\overrightarrow{s}=4\pi$$

球面Sの法線面積分は球の外側を表としていて、それは閉曲面SUから見ると裏側になるので閉曲面SUの法線面積分の構成要素としては球面Sの法線面積分はマイナス符号をつける事になります。

計算の導出過程を見ると、原点が「閉曲面内にある時」と「閉曲面上にある時」のガウスの積分の値の2倍の差は「球」と「半球」の表面積の違いを意味しているという考察もできます。

原点と閉曲面の位置関係ガウスの積分の値くり抜いて除外する領域の形状
閉曲面の外側特に無し
閉曲面上\(2\pi\)半球
閉曲面の内側\(4\pi\)